(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の車両本体と前輪との間に配置された前輪側スプリングと、前記前輪側スプリングの一方の端部を支持するとともに前記前輪側スプリングの他方の端部側に移動することで前記前輪側スプリングの長さを変える前輪側支持部材と、を有する前輪側懸架装置と、
前記車両本体と後輪との間に配置された後輪側スプリングと、前記後輪側スプリングの一方の端部を支持するとともに前記後輪側スプリングの他方の端部側に移動することで前記後輪側スプリングの長さを変える後輪側支持部材と、を有する後輪側懸架装置と、
前記後輪側懸架装置の長さと前記後輪側支持部材の移動量とに基づいて前記車両に加わる重量を推定する重量推定部と、
前記車両に加わる重量が所定重量未満である場合には前記重量が重くなるほど前記後輪側支持部材の目標移動量である後輪側目標移動量が大きくなり、前記重量が前記所定重量以上である場合には前記後輪側目標移動量が上限値となるように予め定められた前記重量と前記後輪側目標移動量との相関関係に基づいて前記後輪側目標移動量を決定し、前記後輪側支持部材の実際の移動量である後輪側実移動量が前記後輪側目標移動量となるように、前記後輪側支持部材の移動量を制御するとともに、前記前輪側支持部材の移動量を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記重量の予め定められた仮の値に基づいて前記後輪側目標移動量を決定し、
前記重量推定部は、前記後輪側実移動量が前記後輪側目標移動量に到達しても前記後輪側懸架装置の実際の長さである実長さが目標長さに到達しない場合には、前記仮の値を増加させ、
前記制御部は、前記重量推定部が前記仮の値を増加させたとしても新たな前記仮の値に応じた新たな前記後輪側目標移動量が前記上限値に達している場合には、前記目標長さを減少させ、
前記重量推定部は、最終的に前記実長さが前記目標長さとなったときの前記仮の値を前記重量として推定し、
前記制御部は、前記重量推定部が推定した推定重量が前記所定重量以上の場合には、前記推定重量が大きいほど前記前輪側支持部材の移動量を小さくする
車高調整装置。
前記重量推定部は、前記後輪側長さ検出部の検出値に基づいて把握した前記後輪側懸架装置の長さが目標の長さとなったときの後輪側相対位置検出部が検出した前記後輪側支持部材の移動量に基づいて前記重量を推定する
請求項3に記載の車高調整装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る自動二輪車1の概略構成を示す図である。
自動二輪車1は、前側の車輪である前輪2と、後側の車輪である後輪3と、自動二輪車1の骨格をなす車体フレーム11、ハンドル12、エンジン13、ヘッドランプ18及びシート19などを有する車両本体10と、を備えている。
【0009】
また、自動二輪車1は、前輪2と車両本体10とを連結する前輪側懸架装置の一例としてのフロントフォーク21を有している。また、自動二輪車1は、後輪3と車両本体10とを連結する後輪側懸架装置の一例としてのリヤサスペンション22を有している。
また、自動二輪車1は、前輪2の左側に配置されたフロントフォーク21と前輪2の右側に配置されたフロントフォーク21とを保持する2つのブラケット14と、2つのブラケット14の間に配置されたシャフト15と、を備えている。シャフト15は、車体フレーム11に回転可能に支持されている。
【0010】
また、自動二輪車1は、前輪2の回転角度を検出する前輪回転検出センサ31と、後輪3の回転角度を検出する後輪回転検出センサ32と、を有している。
また、自動二輪車1は、フロントフォーク21の後述する前輪側電磁弁270及びリヤサスペンション22の後述する後輪側電磁弁170の開度を制御する制御装置50を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32などからの出力信号が入力される。制御装置50は、後述する前輪側電磁弁270及び後輪側電磁弁170の開度を制御することで自動二輪車1の車高(車両本体10の高さ)を制御する。フロントフォーク21、リヤサスペンション22、制御装置50は、自動二輪車1の車高を調整する車高調整装置の一例である。
【0011】
次に、リヤサスペンション22について詳述する。
図2は、リヤサスペンション22の断面図である。
リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車両本体の一例としての車両本体10と後輪3との間に取り付けられている。そして、リヤサスペンション22は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する後輪側スプリングの一例としての後輪側懸架スプリング110と、後輪側懸架スプリング110の振動を減衰する後輪側ダンパの一例としての後輪側ダンパ120と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、後輪側懸架スプリング110のバネ力を調整することで車両本体10と後輪3との相対的な位置である後輪側相対位置を変更可能な後輪側相対位置変更装置140と、この後輪側相対位置変更装置140に液体を供給する後輪側液体供給装置160と、を備えている。また、リヤサスペンション22は、このリヤサスペンション22を車両本体10に取り付けるための車体側取付部材184と、リヤサスペンション22を後輪3に取り付けるための車軸側取付部材185と、車軸側取付部材185に取り付けられて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の一方の端部(
図2においては下部)を支持するばね受け190と、を備えている。
【0012】
後輪側ダンパ120は、
図2に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ121と、外シリンダ121内に収容される薄肉円筒状の内シリンダ122と、円筒状の外シリンダ121の円筒の中心線方向(
図2では上下方向)の一方の端部(
図2では下部)を塞ぐ底蓋123と、内シリンダ122の中心線方向の他方の端部(
図2では上部)を塞ぐ上蓋124と、を有するシリンダ125を備えている。以下では、外シリンダ121の円筒の中心線方向を、単に「中心線方向」と称す。
【0013】
また、後輪側ダンパ120は、中心線方向に移動可能に内シリンダ122内に挿入されたピストン126と、中心線方向に延びるとともに中心線方向の他方の端部(
図2では上端部)でピストン126を支持するピストンロッド127と、を備えている。ピストン126は、内シリンダ122の内周面に接触し、シリンダ125内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン126よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室131と、ピストン126よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室132とに区分する。ピストンロッド127は、円筒状の部材であり、その内部に後述するパイプ161が挿入されている。なお、本実施の形態においてはオイルが作動油の一例として機能する。
【0014】
また、後輪側ダンパ120は、ピストンロッド127における中心線方向の他方の端部側に配置された第1減衰力発生装置128と、内シリンダ122における中心線方向の他方の端部側に配置された第2減衰力発生装置129とを備えている。第1減衰力発生装置128及び第2減衰力発生装置129は、後輪側懸架スプリング110による路面からの衝撃力の吸収に伴うシリンダ125とピストンロッド127との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生装置128は、第1油室131と第2油室132との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生装置129は、第2油室132と後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142との間の連絡路として機能するように配置されている。
【0015】
後輪側液体供給装置160は、シリンダ125に対するピストンロッド127の伸縮振動によりポンピング動作して後輪側相対位置変更装置140の後述するジャッキ室142内に液体を供給する装置である。
後輪側液体供給装置160は、後輪側ダンパ120の上蓋124に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ161を有している。パイプ161は、円筒状のピストンロッド127の内部であるポンプ室162内に同軸的に挿入されている。
【0016】
また、後輪側液体供給装置160は、シリンダ125及びパイプ161に進入する方向のピストンロッド127の移動により加圧されたポンプ室162内の液体を後述するジャッキ室142側へ吐出させる吐出用チェック弁163と、シリンダ125及びパイプ161から退出する方向のピストンロッド127の移動により負圧になるポンプ室162にシリンダ125内の液体を吸い込む吸込用チェック弁164とを有する。
【0017】
図3(a)及び
図3(b)は、後輪側液体供給装置160の作用を説明するための図である。
以上のように構成された後輪側液体供給装置160は、自動二輪車1が走行してリヤサスペンション22が路面の凹凸により力を受けると、ピストンロッド127がシリンダ125及びパイプ161に進退する伸縮振動によりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室162が加圧されると、ポンプ室162内の液体が吐出用チェック弁163を開いて後輪側相対位置変更装置140のジャッキ室142側へ吐出され(
図3(a)参照)、ポンプ室162が負圧になると、シリンダ125の第2油室132内の液体が吸込用チェック弁164を開いてポンプ室162に吸い込まれる(
図3(b)参照)。
【0018】
後輪側相対位置変更装置140は、後輪側ダンパ120のシリンダ125の外周を覆うように配置されて後輪側懸架スプリング110における中心線方向の他方の端部(
図3では上部)を支持する後輪側支持部材の一例としての支持部材141と、シリンダ125における中心線方向の他方の端部側(
図3では上側)の外周を覆うように配置されて支持部材141とともにジャッキ室142を形成する油圧ジャッキ143とを有している。作動油室の一例としてのジャッキ室142内にシリンダ125内の液体が充填されたり、ジャッキ室142内から液体が排出されたりすることで、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ143には、上部に車体側取付部材184が取り付けられており、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向に移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ力が変わり、その結果、後輪3に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0019】
また、後輪側相対位置変更装置140は、ジャッキ室142と油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aとの間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室142に供給された液体をジャッキ室142に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室142に供給された液体を、油圧ジャッキ143に形成された液体溜室143aに排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である後輪側電磁弁170を有している。後輪側電磁弁170については後で詳述する。なお、液体溜室143aに排出された液体は、シリンダ125内に戻される。
【0020】
図4(a)及び
図4(b)は、後輪側相対位置変更装置140による車高調整を説明するための図である。
後輪側電磁弁170が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、後輪側液体供給装置160によりジャッキ室142内に液体が供給されるとジャッキ室142内に液体が充填され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(
図4(a)では下側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなる(
図4(a)参照)。他方、後輪側電磁弁170が全開になると、ジャッキ室142内の液体は液体溜室143aに排出され、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の他方の端部側(
図4(b)では上側)に移動し、後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなる(
図4(b)参照)。
【0021】
支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が大きくなる。その結果、車両本体10から後輪3側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期荷重が切り替わる。かかる場合、車両本体10(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図4(a)及び
図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が短くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が小さくなることで車高が上昇する。
【0022】
他方、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて後輪側懸架スプリング110が支持部材141を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車両本体10(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図4(a)及び
図4(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、リヤサスペンション22の沈み込み量(車体側取付部材184と車軸側取付部材185との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動することで後輪側懸架スプリング110のバネ長が長くなると、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、後輪側電磁弁170の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、後輪側電磁弁170は、制御装置50によりその開閉又は開度が制御される。
また、後輪側電磁弁170が開いたときに、ジャッキ室142に供給された液体を排出する先は、シリンダ125内の第1油室131及び/又は第2油室132であってもよい。
【0023】
また、
図2に示すように、シリンダ125の外シリンダ121には、支持部材141が油圧ジャッキ143に対して中心線方向の一方の端部側(
図2では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室142内の液体をシリンダ125内まで戻す戻し路121aが形成されている。
図5は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
戻し路121aにより、後輪側電磁弁170が全閉しているときにジャッキ室142内に液体が供給され続けても、供給された液体がシリンダ125内に戻されるので油圧ジャッキ143に対する支持部材141の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0024】
なお、以下では、後輪側電磁弁170が全開となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最小(零)であるときのリヤサスペンション22の状態を最小状態、後輪側電磁弁170が全閉となり、支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量が最大となったときのリヤサスペンション22の状態を最大状態と称す。
【0025】
また、リヤサスペンション22は、後輪側相対位置検出部195(
図12参照)を有している。後輪側相対位置検出部195としては、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動量、言い換えれば車体側取付部材184に対する支持部材141の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、支持部材141の外周面にコイルを巻くとともに、油圧ジャッキ143を磁性体とし、油圧ジャッキ143に対する支持部材141の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材141の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0026】
さらに、リヤサスペンション22は、シリンダ125及びパイプ161に対するピストンロッド127の進退によるリヤサスペンション22全体の長さ(あるいは後輪側懸架スプリング110のバネ長)の変動量を検出する、後輪側長さ変動量検出部341(
図6、
図12参照)を有している。後輪側長さ変動量検出部341としては、シリンダ125に対するピストンロッド127(ピストン126)の移動量(言い換えれば、後輪側懸架スプリング110の伸縮量)を検出するものであることを例示することができる。具体的には、いわゆる既存のサスペンション・ストローク・センサを例示することができる。自動二輪車1に荷重がかかると、リヤサスペンション22の後輪側懸架スプリング110が圧縮されて、リヤサスペンション22全体の長さが短くなる。そして、リヤサスペンション22が短くなる分、自動二輪車1の車高が低くなる。すなわち、リヤサスペンション22の長さと自動二輪車1の車高とは直接的に関連している。ここで、後輪側長さ変動量検出部341の検出結果に対しては、後輪側懸架スプリング110の固有振動数よりも十分に長い時間で平均化することにより(ロー・パス・フィルタ)、路面の凹凸等に起因するリヤサスペンション22の細かい伸縮振動の影響を取り除く。
【0027】
図6は、後輪側長さ変動量検出部341として用いられるサスペンション・ストローク・センサの例を示す図である。
図6に示す後輪側長さ変動量検出部341は、2本のパイプ341a、341bを、一方のパイプ341aが他方のパイプ341bに対して摺動可能に挿入されて構成される。パイプ341aのパイプ341bに挿入されない方の端部は、リヤサスペンション22の車軸側取付部材185に接続されている。また、パイプ341bのパイプ341aが挿入されない方の端部は、リヤサスペンション22の後輪側ダンパ120に接続されている。これにより、後輪側長さ変動量検出部341は、リヤサスペンション22の伸縮(シリンダ125に対するピストンロッド127(ピストン126)の進退)に応じて、パイプ341aがパイプ341bに対して進退することにより伸縮する。
【0028】
また、後輪側長さ変動量検出部341は、パイプ341bに対するパイプ341aの進退における移動量を検出する。具体的には、パイプ341aの外周面にコイルを巻くとともに、パイプ341bを磁性体とし、パイプ341bに対するパイプ341aの移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいてパイプ341aの移動量を検出する物であることを例示することができる。なお、
図6を参照して説明した後輪側長さ変動量検出部341の構成は例示に過ぎず、図示及び上記の構成に限定されるものではない。
図6に示したようにセンサをリヤサスペンション22に併設するのではなく、リヤサスペンション22のシリンダ125に対するピストンロッド127の移動量を直接検出する構成とする等、既存の種々のサスペンション・ストローク・センサを用いてもよい。さらに、後輪側長さ変動量検出部341として、シリンダ125に対するピストンロッド127の移動量を検出可能な、既存のサスペンション・ストローク・センサとは異なる様々な構成を適用してもよい。
【0029】
次に、フロントフォーク21について詳述する。
図7は、フロントフォーク21の断面図である。
フロントフォーク21は、車両本体10と前輪2との間に取り付けられている。そして、フロントフォーク21は、自動二輪車1の車重を支えて衝撃を吸収する前輪側スプリングの一例としての前輪側懸架スプリング210と、前輪側懸架スプリング210の振動を減衰する前輪側ダンパ220と、を備えている。また、フロントフォーク21は、前輪側懸架スプリング210のバネ力を調整することで車両本体10と前輪2との相対的な位置である前輪側相対位置を変更可能な前輪側相対位置変更装置240と、この前輪側相対位置変更装置240に液体を供給する前輪側液体供給装置260と、を備えている。また、フロントフォーク21は、このフロントフォーク21を前輪2に取り付けるための車軸側取付部285と、フロントフォーク21をフォークパイプに取り付けるためのフォークパイプ側取付部(不図示)と、を備えている。
【0030】
前輪側ダンパ220は、
図7に示すように、薄肉円筒状の外シリンダ221と、円筒状の外シリンダ221の中心線方向(
図7では上下方向)の他方の端部(
図7では上部)から一方の端部(
図7では下部)が挿入された薄肉円筒状の内シリンダ222と、外シリンダ221の中心線方向の一方の端部(
図7では下部)を塞ぐ底蓋223と、内シリンダ222の中心線方向の他方の端部(
図7では上部)を塞ぐ上蓋224と、を有するシリンダ225を備えている。内シリンダ222は、外シリンダ221に対して摺動可能に挿入されている。
【0031】
また、前輪側ダンパ220は、中心線方向に延びるように底蓋223に取り付けられたピストンロッド227を備えている。ピストンロッド227は、中心線方向に延びる円筒状の円筒状部227aと、円筒状部227aにおける中心線方向の他方の端部(
図7では上部)に設けられた円板状のフランジ部227bとを有する。
また、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222における中心線方向の一方の端部側(
図7では下部側)に固定されるとともに、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周に対して摺動可能なピストン226を備えている。ピストン226は、ピストンロッド227の円筒状部227aの外周面に接触し、シリンダ225内の液体(本実施の形態においてはオイル)が封入された空間を、ピストン226よりも中心線方向の一方の端部側の第1油室231と、ピストン226よりも中心線方向の他方の端部側の第2油室232とに区分する。なお、本実施の形態においてはオイルが作動油の一例として機能する。
【0032】
また、前輪側ダンパ220は、ピストンロッド227の上方に設けられてピストンロッド227の円筒状部227aの開口を覆う覆い部材230を備えている。覆い部材230は、前輪側懸架スプリング210における中心線方向の一方の端部(
図7では下端部)を支持する。そして、前輪側ダンパ220は、内シリンダ222内における覆い部材230よりも中心線方向の他方の端部側の空間及びピストンロッド227の円筒状部227aの内部の空間に形成された油溜室233を有している。油溜室233は、常に第1油室231及び第2油室232と連通している。
【0033】
また、前輪側ダンパ220は、ピストン226に設けられた第1減衰力発生部228と、ピストンロッド227に形成された第2減衰力発生部229とを備えている。第1減衰力発生部228及び第2減衰力発生部229は、前輪側懸架スプリング210による路面からの衝撃力の吸収に伴う内シリンダ222とピストンロッド227との伸縮振動を減衰する。第1減衰力発生部228は、第1油室231と第2油室232との間の連絡路として機能するように配置されており、第2減衰力発生部229は、第1油室231、第2油室232と油溜室233との間の連絡路として機能するように形成されている。
【0034】
前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に対するピストンロッド227の伸縮振動によりポンピング動作して前輪側相対位置変更装置240の後述するジャッキ室242内に液体を供給する装置である。
前輪側液体供給装置260は、前輪側ダンパ220の覆い部材230に中心線方向に延びるように固定された円筒状のパイプ261を有している。パイプ261は、後述する前輪側相対位置変更装置240の支持部材241の下側円筒状部241aの内部であるポンプ室262内に同軸的に挿入されている。
【0035】
また、前輪側液体供給装置260は、内シリンダ222に進入する方向のピストンロッド227の移動により加圧されたポンプ室262内の液体を後述するジャッキ室242側へ吐出させる吐出用チェック弁263と、内シリンダ222から退出する方向のピストンロッド227の移動により負圧になるポンプ室262に油溜室233内の液体を吸い込む吸込用チェック弁264とを有する。
【0036】
図8(a)及び
図8(b)は、前輪側液体供給装置260の作用を説明するための図である。
以上のように構成された前輪側液体供給装置260は、自動二輪車1が走行してフロントフォーク21が路面の凹凸により力を受けて、ピストンロッド227が内シリンダ222に進退すると、パイプ261が前輪側相対位置変更装置240の支持部材241に進退することによりポンピング動作する。このポンピング動作により、ポンプ室262が加圧されると、ポンプ室262内の液体が吐出用チェック弁263を開いて前輪側相対位置変更装置240のジャッキ室242側へ吐出され(
図8(a)参照)、ポンプ室262が負圧になると、油溜室233内の液体が吸込用チェック弁264を開いてポンプ室262に吸い込まれる(
図8(b)参照)。
【0037】
前輪側相対位置変更装置240は、前輪側ダンパ220の内シリンダ222内に配置されるとともに、円板状のスプリング受け244を介して前輪側懸架スプリング210における中心線方向の他方の端部(
図8では上部)を支持する前輪側支持部材の一例としての支持部材241を備えている。支持部材241は、中心線方向の一方の端部側(
図8では下部側)において円筒状に形成された下側円筒状部241aと、中心線方向の他方の端部側(
図8では上部側)において円筒状に形成された上側円筒状部241bとを有している。下側円筒状部241aには、パイプ261が挿入される。
【0038】
また、前輪側相対位置変更装置240は、支持部材241の上側円筒状部241b内に嵌め込まれて支持部材241とともにジャッキ室242を形成する油圧ジャッキ243を有している。ジャッキ室242内にシリンダ225内の液体が充填されたり、ジャッキ室242内から液体が排出されたりすることで、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動する。そして、油圧ジャッキ243には、上部にフォークパイプ側取付部(不図示)が取り付けられており、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向に移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ力が変わり、その結果、前輪2に対するシート19の相対的な位置が変わる。
【0039】
また、前輪側相対位置変更装置240は、ジャッキ室242と油溜室233との間の流体の流通経路上に設けられて、ジャッキ室242に供給された液体をジャッキ室242に溜めるように閉弁するとともに、ジャッキ室242に供給された液体を油溜室233に排出するように開弁する電磁弁(ソレノイドバルブ)である前輪側電磁弁270を有している。前輪側電磁弁270については後で詳述する。
【0040】
図9(a)及び
図9(b)は、前輪側相対位置変更装置240による車高調整を説明するための図である。
前輪側電磁弁270が全開状態から少しでも閉じた状態のときに、前輪側液体供給装置260によりジャッキ室242内に液体が供給されるとジャッキ室242内に液体が充填され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(
図9(a)では下側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなる(
図9(a)参照)。他方、前輪側電磁弁270が全開になるとジャッキ室242内の液体は油溜室233に排出され、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の他方の端部側(
図9(b)では上側)に移動し、前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなる(
図9(b)参照)。
【0041】
支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が大きくなる。その結果、車両本体10から前輪2側へ力が作用したとしても両者の相対位置を変化させない初期荷重が切り替わる。かかる場合、車両本体10(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図9(a)及び
図9(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク21の沈み込み量(フォークパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が小さくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が短くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが上昇する(車高が高くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が小さくなることで車高が上昇する。
【0042】
他方、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて前輪側懸架スプリング210が支持部材241を押すバネ力が小さくなる。かかる場合、車両本体10(シート19)側から中心線方向の一方の端部側(
図9(a)及び
図9(b)では下側)に同じ力が作用した場合には、フロントフォーク21の沈み込み量(フォークパイプ側取付部(不図示)と車軸側取付部285との間の距離の変化)が大きくなる。それゆえ、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動することで前輪側懸架スプリング210のバネ長が長くなると、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して移動する前と比べて、シート19の高さが下降する(車高が低くなる)。つまり、前輪側電磁弁270の開度が大きくなるに応じて車高が低くなる。
なお、前輪側電磁弁270は、制御装置50によりその開閉又は開度が制御される。
また、前輪側電磁弁270が開いたときに、ジャッキ室242に供給された液体を排出する先は、第1油室231及び/又は第2油室232であってもよい。
【0043】
図10は、車高が維持されるメカニズムを示す図である。
油圧ジャッキ243の外周面には、
図10に示すように、支持部材241が油圧ジャッキ243に対して中心線方向の一方の端部側(
図9(a)及び
図9(b)では下側)に予め定められた限界位置まで移動したときに、ジャッキ室242内の液体を油溜室233内まで戻す戻し路(不図示)が形成されている。
戻し路により、前輪側電磁弁270が閉弁しているときにジャッキ室242内に液体が供給され続けても、供給された液体が油溜室233内に戻されるので油圧ジャッキ243に対する支持部材241の位置、ひいてはシート19の高さ(車高)が維持される。
【0044】
なお、以下では、前輪側電磁弁270が全開となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最小(零)であるときのフロントフォーク21の状態を最小状態、前輪側電磁弁270が全閉となり、支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量が最大となったときのフロントフォーク21の状態を最大状態と称す。
【0045】
また、フロントフォーク21は、前輪側相対位置検出部295(
図12参照)を有している。前輪側相対位置検出部295としては、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動量、言い換えればフォークパイプ側取付部に対する支持部材241の中心線方向への移動量を検出する物であることを例示することができる。具体的には、半径方向の位置では内シリンダ222の外周面であって、中心線方向の位置では支持部材241に対応する位置にコイルを巻くとともに、支持部材241を磁性体とし、油圧ジャッキ243に対する支持部材241の中心線方向への移動に応じて変化するコイルのインピーダンスに基づいて支持部材241の移動量を検出する物であることを例示することができる。
【0046】
次に、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270及び後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の構成について説明する。
図11(a)は、前輪側電磁弁270の概略構成を示す図であり、
図11(b)は、後輪側電磁弁170の概略構成を示す図である。
前輪側電磁弁270は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、
図11(a)に示すように、コイル271を巻いたボビン272と、ボビン272の中空部272aに固定された棒状の固定鉄心273と、コイル271とボビン272と固定鉄心273を支持するホルダ274と、固定鉄心273の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心273に吸引される略円板状の可動鉄心275と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、可動鉄心275の先端中央に固定された弁体276と、ホルダ274と組み合わされるボディ277と、ボディ277に形成され、弁体276が配置される弁室278と、ボディ277に形成された開口部を覆うとともにボディ277と協働して弁室278を形成する覆い部材279と、弁体276と覆い部材279との間に配置されたコイルスプリング280と、を備えている。また、前輪側電磁弁270は、ボディ277に形成され、弁体276に対応して弁室278に配置された弁座281と、ボディ277に形成され、ジャッキ室242(
図10参照)から弁室278に流体を導入する導入流路282と、ボディ277に形成され、弁室278から弁座281を経由して油溜室233の方へ流体を導出する導出流路283と、を備えている。なお、前輪側電磁弁270は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であってもよい。
【0047】
後輪側電磁弁170は、いわゆるノーマルオープンタイプの電磁弁であり、
図11(b)に示すように、コイル171を巻いたボビン172と、ボビン172の中空部172aに固定された棒状の固定鉄心173と、コイル171とボビン172と固定鉄心173を支持するホルダ174と、固定鉄心173の先端(端面)に対応して配置され、固定鉄心173に吸引される略円板状の可動鉄心175と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、可動鉄心175の先端中央に固定された弁体176と、ホルダ174と組み合わされるボディ177と、ボディ177に形成され、弁体176が配置される弁室178と、ボディ177に形成された開口部を覆うとともにボディ177と協働して弁室178を形成する覆い部材179と、弁体176と覆い部材179との間に配置されたコイルスプリング180と、を備えている。また、後輪側電磁弁170は、ボディ177に形成され、弁体176に対応して弁室178に配置された弁座181と、ボディ177に形成され、ジャッキ室142(
図5参照)から弁室178に流体を導入する導入流路182と、ボディ177に形成され、弁室178から弁座181を経由して液体溜室143aの方へ流体を導出する導出流路183と、を備えている。なお、後輪側電磁弁170は、ノーマルクローズタイプの電磁弁であってもよい。
【0048】
このように構成された前輪側電磁弁270、後輪側電磁弁170は、コイル271、171に通電されない非通電時には、コイルスプリング280、180によって可動鉄心275、175が図中下方へ付勢されるので、可動鉄心275、175の先端(端面)に固定されている弁体276、176が弁座281、181に当接しない。このため、前輪側電磁弁270及び後輪側電磁弁170は、導入流路282、182と導出流路283、183との間が連通され、弁開状態となる。一方、前輪側電磁弁270、後輪側電磁弁170は、コイル271、171に通電される通電時には、コイル271、171が通電により励磁されるときの固定鉄心273、173の吸引力とコイルスプリング280、180の付勢力との釣り合いにより可動鉄心275、175が変位する。前輪側電磁弁270及び後輪側電磁弁170は、弁座281、181に対する弁体276、176の位置、すなわち弁の開度が調整されるようになっている。この弁の開度は、コイル271、171に供給される電力(電流・電圧)を変えることにより調整される。
【0049】
次に、制御装置50について説明する。
図12は、制御装置50のブロック図である。
制御装置50は、CPUと、CPUにて実行されるプログラムや各種データ等が記憶されたROMと、CPUの作業用メモリ等として用いられるRAMと、不揮発性メモリであるEEPROMと、を備えている。制御装置50には、上述した前輪回転検出センサ31、後輪回転検出センサ32、前輪側相対位置検出部295、後輪側相対位置検出部195及び後輪側長さ変動量検出部341などからの出力信号が入力される。
【0050】
制御装置50は、前輪回転検出センサ31からの出力信号を基に前輪2の回転速度を演算する前輪回転速度演算部51と、後輪回転検出センサ32からの出力信号を基に後輪3の回転速度を演算する後輪回転速度演算部52と、を備えている。これら前輪回転速度演算部51及び後輪回転速度演算部52は、それぞれ、センサからの出力信号であるパルス信号を基に回転角度を把握し、それを経過時間で微分することで回転速度を演算する。
【0051】
制御装置50は、前輪側相対位置検出部295からの出力信号を基に前輪側相対位置変更装置240(
図9(a)及び
図9(b)参照)の支持部材241の油圧ジャッキ243に対する移動量である前輪側移動量Lfを把握する前輪側移動量把握部53を備えている。また、制御装置50は、後輪側相対位置検出部195からの出力信号を基に後輪側相対位置変更装置140の支持部材141の油圧ジャッキ143に対する移動量である後輪側移動量Lrを把握する後輪側移動量把握部54を備えている。前輪側移動量把握部53及び後輪側移動量把握部54は、例えば、予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、前輪側移動量Lf又は後輪側移動量Lrとの相関関係に基づいて、それぞれ前輪側移動量Lf、後輪側移動量Lrを把握することができる。
また、制御装置50は、後輪側長さ変動量検出部341からの出力信号を基にリヤサスペンション22全体の長さ(後輪側長さ)を把握する後輪側長さ把握部55を備えている。後輪側長さ把握部55は、例えば、予めROMに記憶された、コイルのインピーダンスと、後輪側長さとの相関関係に基づいて、後輪側長さを把握することができる。
【0052】
また、制御装置50は、前輪回転速度演算部51が演算した前輪2の回転速度及び/又は後輪回転速度演算部52が演算した後輪3の回転速度を基に自動二輪車1の移動速度である車速Vcを把握する車速把握部56を備えている。車速把握部56は、前輪回転速度Rf又は後輪回転速度Rrを用いて前輪2又は後輪3の移動速度を演算することにより車速Vcを把握する。前輪2の移動速度は、前輪回転速度Rfと前輪2のタイヤの外径とを用いて演算することができ、後輪3の移動速度は、後輪回転速度Rrと後輪3のタイヤの外径とを用いて演算することができる。そして、自動二輪車1が通常の状態で走行している場合には、車速Vcは、前輪2の移動速度及び/又は後輪3の移動速度と等しいと解することができる。また、車速把握部56は、前輪回転速度Rfと後輪回転速度Rrとの平均値を用いて前輪2と後輪3の平均の移動速度を演算することにより車速Vcを把握してもよい。
また、制御装置50は、車両の一例としての自動二輪車1に加わる重量を推定する重量推定部58を備えている。重量推定部58については後で詳述する。
【0053】
また、制御装置50は、車速把握部56が把握した車速Vcに基づいて、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270の開度及び後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170の開度を制御する電磁弁制御部57を有している。この電磁弁制御部57については、後で詳述する。
これら前輪回転速度演算部51、後輪回転速度演算部52、前輪側移動量把握部53、後輪側移動量把握部54、後輪側長さ把握部55、車速把握部56及び電磁弁制御部57は、CPUがROMなどの記憶領域に記憶されたソフトウェアを実行することにより実現される。
【0054】
次に、制御装置50の電磁弁制御部57について詳しく説明する。
図13は、本実施の形態に係る電磁弁制御部57のブロック図である。
電磁弁制御部57は、前輪側移動量Lfの目標移動量(移動量目標値)である前輪側目標移動量を決定する前輪側目標移動量決定部571と、後輪側移動量Lrの目標移動量である後輪側目標移動量を決定する後輪側目標移動量決定部572と、車両の一例としての自動二輪車1に加わる重量を推定する重量推定部58と、を有する目標移動量決定部570を備えている。また、電磁弁制御部57は、前輪側相対位置変更装置240の前輪側電磁弁270及び後輪側相対位置変更装置140の後輪側電磁弁170に供給する目標電流を決定する目標電流決定部510と、目標電流決定部510が決定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部520とを備えている。電磁弁制御部57は、前輪側移動量制御部及び後輪側移動量制御部として機能する。
【0055】
図14(a)は、重量推定部58が推定した推定重量又は設定した仮の重量と、前輪側目標移動量Lftと、後述する前輪側目標長さSftとの相関関係を示す図である。
図14(b)は、重量推定部58が推定した推定重量又は設定した仮の重量と、後輪側目標移動量Lrtと、後述する後輪側目標長さSrtとの相関関係を示す図である。
図14(a)には、前輪側目標移動量Lftの最大の目標移動量である前輪側最大目標移動量Lftxと最小の目標移動量である前輪側最小目標移動量Lftnとを記載し、
図14(b)には、後輪側目標移動量Lrtの最大の目標移動量である後輪側最大目標移動量Lrtxと最小の目標移動量である後輪側最小目標移動量Lrtnとを記載している。
図14(b)に示す相関関係においては、重量が所定重量Wp未満である場合には重量が重くなるほど後輪側目標移動量Lrtが大きくなり、重量が所定重量Wp以上である場合には後輪側目標移動量Lrtが上限値である後輪側上限移動量Lrmaxとなる。また、
図14(a)に示す相関関係においては、重量が所定重量Wp未満である場合には重量が重くなるほど前輪側目標移動量Lftが大きくなり、重量が所定重量Wp以上である場合には重量が重くなるほど前輪側目標移動量Lftが小さくなる。なお、
図14(a)及び
図14(b)においては、後輪側目標長さSrtが後述する「中」である場合の相関関係図に所定重量Wpを示しているが、所定重量Wpの具体的な値は、後輪側目標長さSrtが短くなるに従って重くなる。
【0056】
目標移動量決定部570の前輪側目標移動量決定部571は、重量推定部58が後述するように推定した推定重量又は設定した仮の重量と、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、
図14(a)に例示した関係を有するマップと、後述する車高調整スイッチ(不図示)を介してユーザが選択した目標高さに応じた前輪側目標長さSftとに基づいて前輪側最大目標移動量Lftx及び前輪側最小目標移動量Lftnを決定する。
目標移動量決定部570の後輪側目標移動量決定部572は、重量推定部58が推定した推定重量又は設定した仮の重量と、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、
図14(b)に例示した関係を有するマップと、車高調整スイッチ(不図示)を介してユーザが選択した高さに応じた後輪側目標長さSrtとに基づいて後輪側最大目標移動量Lrtx及び後輪側最小目標移動量Lrtnを決定する。
【0057】
車高調整スイッチは、ユーザに車高を選択可能にするために設けられたスイッチである。車高調整スイッチは、例えばスピードメータの近傍に設けられた、例えば所謂ダイヤル式のスイッチであり、ユーザがつまみを回転させることにより、「極低」、「低」、「中」、「高」、「極高」の5段階のいずれかの高さを目標高さとして選択可能に構成されていることを例示することができる。
図14(b)及び
図14(a)に例示したように、重量推定部58が推定した推定重量又は設定した仮の重量と、ユーザが選択した高さと、前輪側目標長さSft,後輪側目標長さSrtとの対応を示すマップは、ユーザが選択可能な5段階の高さの分、予めROMに記憶されている。前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、車高調整スイッチを介してユーザにより選択された高さが高いほど、前輪側目標長さSft,後輪側目標長さSrtが長くなるマップを用いる。例えば、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、車高調整スイッチを介して、ユーザにより極高が選択されている場合には、前輪側目標長さSft,後輪側目標長さSrtが極長である場合のマップを用い、ユーザにより極低が選択されている場合には、前輪側目標長さSft,後輪側目標長さSrtが極短である場合のマップを用いる。また、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、車高調整スイッチを介して、ユーザにより高、中、低が選択されている場合には、それぞれ、前輪側目標長さSft,後輪側目標長さSrtが長、中、短である場合のマップを用いる。
【0058】
目標移動量決定部570は、自動二輪車1が走行開始後、車速把握部56が把握した車速Vcが予め定められた上昇車速Vuよりも小さいときには最小側の目標移動量に決定し、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、目標移動量を最大側の目標移動量に決定する。以降、車速把握部56が把握した車速Vcが上昇車速Vu以上である間は、目標移動量決定部570は、最大側の目標移動量に決定する。他方、目標移動量決定部570は、自動二輪車1が上昇車速Vu以上で走行している状態から予め定められた下降車速Vd以下となった場合には目標移動量を最小側の目標移動量に決定する。なお、上昇車速Vuは10km/h、下降車速Vdは8km/hであることを例示することができる。
【0059】
例えば、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となった場合には、それぞれの目標移動量を、前輪側最大目標移動量Lftx,後輪側最大目標移動量Lrtxに決定する。他方、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、車速Vcが上昇車速Vu以上である状態から下降車速Vd以下となった場合には、それぞれの目標移動量を、前輪側最小目標移動量Lftn,後輪側最小目標移動量Lrtnに決定する。
【0060】
また、目標移動量決定部570は、車速把握部56が把握した車速Vcが下降車速Vdよりも大きい場合であっても、急ブレーキなどで自動二輪車1が急減速した場合には、目標移動量を、最小側の目標移動量に決定する。つまり、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、それぞれの目標移動量を、前輪側最小目標移動量Lftn,後輪側最小目標移動量Lrtnに決定する。自動二輪車1が急減速したかどうかは、車速把握部56が把握した車速Vcの単位時間当たりの減少量が予め定められた値以下であるか否かで把握することができる。
【0061】
目標電流決定部510は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量Lftに基づいて前輪側電磁弁270の目標電流である前輪側目標電流を決定する前輪側目標電流決定部511と、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量Lrtに基づいて後輪側電磁弁170の目標電流である後輪側目標電流を決定する後輪側目標電流決定部512と、を有している。
前輪側目標電流決定部511は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、前輪側目標移動量Lftと前輪側目標電流との対応を示すマップに、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量Lftを代入することにより前輪側目標電流を決定する。
後輪側目標電流決定部512は、例えば、予め経験則に基づいて作成しROMに記憶しておいた、後輪側目標移動量Lrtと後輪側目標電流との対応を示すマップに、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量Lrtを代入することにより後輪側目標電流を決定する。
【0062】
また、前輪側目標電流決定部511は、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量Lftに基づいて前輪側目標電流を決定する際、前輪側目標移動量決定部571が決定した前輪側目標移動量Lftと、前輪側移動量把握部53(
図12参照)が把握した実際の前輪側移動量Lf(以下、「前輪側実移動量Lfa」と称す場合がある。)との偏差に基づいてフィードバック制御を行い、前輪側目標電流を決定してもよい。同様に、後輪側目標電流決定部512は、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量Lrtに基づいて後輪側目標電流を決定する際、後輪側目標移動量決定部572が決定した後輪側目標移動量Lrtと、後輪側移動量把握部54(
図12参照)が把握した実際の後輪側移動量Lr(以下、「後輪側実移動量Lra」と称す場合がある。)との偏差に基づいてフィードバック制御を行い、後輪側目標電流を決定してもよい。
【0063】
制御部520は、前輪側電磁弁270の作動を制御する前輪側作動制御部530と、前輪側電磁弁270を駆動させる前輪側電磁弁駆動部533と、前輪側電磁弁270に実際に流れる実電流を検出する前輪側検出部534とを有している。また、制御部520は、後輪側電磁弁170の作動を制御する後輪側作動制御部540と、後輪側電磁弁170を駆動させる後輪側電磁弁駆動部543と、後輪側電磁弁170に実際に流れる実電流を検出する後輪側検出部544とを有している。
【0064】
前輪側作動制御部530は、前輪側目標電流決定部511が決定した前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した実際の電流(前輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う前輪側フィードバック(F/B)制御部531と、前輪側電磁弁270をPWM制御する前輪側PWM制御部532とを有している。
後輪側作動制御部540は、後輪側目標電流決定部512が決定した後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した実際の電流(後輪側実電流)との偏差に基づいてフィードバック制御を行う後輪側フィードバック(F/B)制御部541と、後輪側電磁弁170をPWM制御する後輪側PWM制御部542とを有している。
【0065】
前輪側フィードバック制御部531は、前輪側目標電流と、前輪側検出部534が検出した前輪側実電流との偏差を求め、その偏差が零となるようにフィードバック処理を行う。後輪側フィードバック制御部541は、後輪側目標電流と、後輪側検出部544が検出した後輪側実電流との偏差を求め、その偏差が零となるようにフィードバック処理を行う。前輪側フィードバック制御部531は、例えば、前輪側目標電流と前輪側実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。あるいは、前輪側フィードバック制御部531は、例えば、上記のように、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、さらに微分要素で微分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。同様に、後輪側フィードバック制御部541は、例えば、後輪側目標電流と後輪側実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。あるいは、後輪側フィードバック制御部541は、例えば、上記のように、目標電流と実電流との偏差に対して、比例要素で比例処理し、積分要素で積分処理し、さらに微分要素で微分処理し、加算演算部でこれらの値を加算するものであることを例示することができる。
【0066】
前輪側PWM制御部532は、一定周期(T)のパルス幅(t)のデューティ比(=t/T×100(%))を変え、前輪側電磁弁270の開度(前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、前輪側電磁弁270のコイルに印加される電圧が、デューティ比に応じたパルス状に印加される。このとき、前輪側電磁弁270のコイル271に流れる電流は、コイル271のインピーダンスにより、パルス状に印加される電圧に追従して変化することができずになまって出力され、前輪側電磁弁270のコイルを流れる電流は、デューティ比に比例して増減される。そして、前輪側PWM制御部532は、例えば、前輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、前輪側目標電流が上述した最大電流あるいは後述する第1目標電流A1である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0067】
同様に、後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変え、後輪側電磁弁170の開度(後輪側電磁弁170のコイルに印加される電圧)をPWM制御する。PWM制御が行われると、後輪側電磁弁170のコイル171に印加される電圧がデューティ比に応じたパルス状に印加され、後輪側電磁弁170のコイル171を流れる電流がデューティ比に比例して増減する。そして、後輪側PWM制御部542は、例えば、後輪側目標電流が零である場合にはデューティ比を零に設定し、後輪側目標電流が上述した最大電流あるいは後述する第2目標電流A2である場合にはデューティ比を100%に設定することを例示することができる。
【0068】
前輪側電磁弁駆動部533は、例えば、電源の正極側ラインと前輪側電磁弁270のコイルとの間に接続された、スイッチング素子としてのトランジスタ(FET)を備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、前輪側電磁弁270の駆動を制御する。後輪側電磁弁駆動部543は、例えば、電源の正極側ラインと後輪側電磁弁170のコイルとの間に接続されたトランジスタを備えている。そして、このトランジスタのゲートを駆動してこのトランジスタをスイッチング動作させることにより、後輪側電磁弁170の駆動を制御する。
前輪側検出部534は、前輪側電磁弁駆動部533に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から前輪側電磁弁270に流れる実電流の値を検出する。後輪側検出部544は、後輪側電磁弁駆動部543に接続されたシャント抵抗の両端に生じる電圧から後輪側電磁弁170に流れる実電流の値を検出する。
【0069】
以上のように構成された自動二輪車1においては、制御装置50の電磁弁制御部57が、自動二輪車1に加わる重量に応じた目標移動量に基づいて目標電流を決定し、前輪側電磁弁270及び後輪側電磁弁170に供給される実際の電流が決定した目標電流となるようにPWM制御を行う。つまり、電磁弁制御部57の前輪側PWM制御部532、後輪側PWM制御部542は、デューティ比を変更することにより前輪側電磁弁270、後輪側電磁弁170のコイル271、171に供給される電力を制御し、前輪側電磁弁270、後輪側電磁弁170を任意の開度に制御する。これにより、制御装置50は、前輪側電磁弁270、後輪側電磁弁170の開度を制御してジャッキ室242、ジャッキ室142に流入する液体(オイル)の量の上限を制御することで、目標移動量を、
図14(a)及び
図14(b)に示したような自動二輪車1に加わる重量に応じた目標移動量に変更することができる。
図14(a)及び
図14(b)に示した自動二輪車1に加わる重量と目標移動量との関係においては、重量が大きくなるに従って前輪側目標移動量Lft、後輪側目標移動量Lrtが大きくなる。ゆえに、自動二輪車1に加わる重量が大きくなるに従って前輪側懸架スプリング210、後輪側懸架スプリング110の初期荷重が大きくなる。それゆえ、自動二輪車1に加わる重量が大きい場合にはフロントフォーク21、リヤサスペンション22が沈み難くなり、他方、自動二輪車1に加わる重量が小さい場合にはフロントフォーク21、リヤサスペンション22が沈み易くなる。それゆえ、自動二輪車1に加わる重量にかかわらず車高を所望の高さにすることができる。その結果、運転者の体格にかかわらず、あるいは2人乗りする場合や荷物が重い場合にも走行時の車高を所望の高さにすることができるので、乗り心地や走行安定性を向上させることができる。
【0070】
以下、重量推定部58が自動二輪車1に加わる重量を推定する手法について説明する。
リヤサスペンション22の長さと自動二輪車1の車高とは直接的に関連しているので、上述したように、車高調整スイッチ(不図示)を介してユーザが選択した高さに対応するリヤサスペンション22の目標長さが予め設定されている。リヤサスペンション22の目標長さを「後輪側目標長さSrt」と称す。
重量推定部58は、後輪側長さ把握部55が把握した実際の後輪側長さ(以下、「後輪側実長さSra」と称する場合がある。)が後輪側目標長さSrtに到達したときの実際の後輪側移動量Lr(以下、「後輪側実移動量Lra」と称する場合がある。)に基づいて重量を推定する。
【0071】
より具体的には、先ず、重量推定部58は、仮の重量を設定する。後輪側目標移動量決定部572は、
図14(b)に例示した制御マップを用いて、重量推定部58が設定した仮の重量に応じた後輪側目標移動量Lrtを決定する。そして、自動二輪車1が走行開始後、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となったときには、後輪側移動量Lrが後輪側目標移動量Lrtとなるように後輪側電磁弁170の開度が電磁弁制御部57により制御される。重量推定部58が設定した仮の重量と実際に自動二輪車1に加わっている重量(以下、「実重量」と称す。)とが一致している場合には、実際の後輪側移動量Lr(後輪側実移動量Lra)が後輪側目標移動量Lrtに達するとともに実際の後輪側長さLs(後輪側実長さSra)が後輪側目標長さSrtに達する。かかる場合、重量推定部58は、設定した仮の重量を実重量と推定する。
【0072】
一方、例えば重量推定部58が設定した仮の重量と実重量とが一致していない場合には、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達していないのに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達する場合がある。また、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達しない場合がある。前者の場合としては、実重量が、重量推定部58が設定した仮の重量よりも軽い場合が考えられ、後者の場合としては、実重量が仮の重量よりも重い場合が考えられる。
【0073】
重量推定部58は、前者の場合、つまり、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達していないのに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達した場合には、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達したときの後輪側実移動量Lraと
図14(b)に例示した制御マップに基づいて重量を推定する。つまり、重量推定部58は、
図14(b)に例示した制御マップにおいて、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達したときの後輪側実移動量Lraに対応する重量を実重量と推定する。
【0074】
重量推定部58は、後者の場合、つまり、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達していない場合には、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達するまで仮の重量を変更する。そして、最終的に後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達したときの後輪側実移動量Lraに対応する重量を実重量と推定する。より具体的には、重量推定部58は、(1)後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達していない場合には、現在設定している仮の重量に予め定められた値αを加算した重量を新たな仮の重量として設定する。すると、後輪側目標移動量決定部572は、
図14(b)に例示した制御マップを用いて、重量推定部58が設定した新たな仮の重量に応じた後輪側目標移動量Lrtを新たに決定する。新たな仮の重量は、前の仮の重量よりもα重いので、新たに決定された後輪側目標移動量Lrtはαの分大きくなる。電磁弁制御部57は、後輪側実移動量Lraが新たに決定された後輪側目標移動量Lrtとなるよう後輪側電磁弁170の開度を制御する。これにより、後輪側実移動量Lraが大きくなる。それに従って、後輪側実長さSraが長くなる。
【0075】
(2)重量推定部58が新たに設定した仮の重量と実重量とが一致している場合には、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達するとともに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達することから、重量推定部58は、設定した仮の重量を実重量と推定する。(3)一方、重量推定部58が新たに設定した仮の重量と実重量とが一致しておらず、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達していないのに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達した場合には、重量推定部58は、上述したように、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達したときの後輪側実移動量Lraと
図14(b)に例示した制御マップに基づいて重量を推定する。他方、重量推定部58が新たに設定した仮の重量と実重量とが一致しておらず、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達していない場合には、重量推定部58は、現在設定している仮の重量にαを加算した重量を新たな仮の重量として設定する。このように、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達するまで、重量推定部58は、上記(1)〜(3)の処理を繰り返すことで、重量を推定する。
【0076】
ただし、重量推定部58が新たに設定した仮の重量と実重量とが一致しておらず、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達していない場合であって、重量推定部58が新たに設定した仮の重量が所定重量Wpを超えた場合には、後輪側実移動量Lraが後輪側上限移動量Lrmaxに達していることから後輪側実移動量Lraがあまり上昇しない。その結果、重量推定部58が新たに設定した仮の重量が所定重量Wpを超えた場合には、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達し難くなる。そこで、重量推定部58が新たに設定した仮の重量が所定重量Wpを超えた場合には、後輪側目標長さSrtを短くする。例えば、後輪側目標移動量決定部572は、車高調整スイッチを介してユーザにより「高」が選択されている場合であっても、後輪側目標長さSrtを、車高調整スイッチに対応する「長」ではなく「中」とする。そして、後輪側目標移動量決定部572は、後輪側目標長さSrtが「中」である場合のマップを用いて後輪側目標移動量Lrtを決定する。重量推定部58は、後輪側目標長さSrtを低下させた場合には、新たに設定された後輪側目標長さSrtにおいて後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxとなる重量の内、最も軽い重量を仮の重量として設定する。新たに設定された後輪側目標長さSrtが「中」である場合には、重量推定部58は、後輪側目標長さSrtが「中」における所定重量Wpを仮の重量として設定する。これにより、後輪側実移動量Lraが変化せずに後輪側目標長さSrtが低下する。そして、重量推定部58は、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達するまで後輪側目標長さSrtを低下させ、最終的に後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達したときの仮の重量を実重量として推定する。
【0077】
なお、重量推定部58は、最初に仮の重量を設定する際には、予めROMに記憶された初期重量(例えば40kg)を設定することを例示することができる。また、重量推定部58は、一度、実重量を推定した場合には、ROMに記憶された初期重量を推定重量に書き換えると共に、次回実重量を推定する際には、書き換えた重量を最初の仮の重量として設定しても良い。
また、前輪側目標移動量決定部571,後輪側目標移動量決定部572は、重量推定部58が実重量を推定した場合には、推定後車速Vcが0となるまで推定重量に基づいて、前輪側最小目標移動量Lftn,後輪側最小目標移動量Lrtn、及び前輪側最大目標移動量Lftx,後輪側最大目標移動量Lrtxを決定すると良い。
【0078】
以下、フローチャートを用いて重量推定部58が行う重量推定処理の手順について説明する。
図15は、重量推定部58が行う重量推定処理の手順を示すフローチャートである。
重量推定部58は、この重量推定処理を、自動二輪車1が走行開始後、車速Vcが上昇車速Vuより小さい状態から上昇車速Vu以上となったときに開始し、車速Vcが上昇車速Vu以上である間、例えば予め定めた期間(例えば1ミリ秒)毎に繰り返し実行する。
【0079】
重量推定部58は、先ず、後輪側移動量把握部54(
図12参照)が把握した実際の後輪側移動量Lr(後輪側実移動量Lra)を読み込み(S1501)、後輪側移動量把握部54が把握した後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに到達したか否かを判断する(S1502)。
後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに到達した場合(S1502でYes)、重量推定部58は、後輪側長さ把握部55(
図12参照)が把握した実際の後輪側長さLs(後輪側実長さSra)を読み込み(S1503)、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達したか否かを判断する(S1504)。
【0080】
後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達している場合(S1504でYes)、重量推定部58は、S1501にて読み込んだ後輪側実移動量Lraに対応する重量を自動二輪車1に加わる実重量として推定する(S1505)。言い換えれば、重量推定部58は、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達しているので、仮の重量を実重量として推定する。重量推定部58は、後輪側実移動量Lraと、例えば
図14(b)の制御マップとに基づいて実重量を推定することを例示することができる。
他方、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達していない場合(S1504でNo)、重量推定部58は、現在の仮の重量に予め定められた値αを加算した重量を新たな仮の重量として設定する(S1506)。その後、後輪側目標移動量決定部572に後述する後輪側目標移動量決定処理を実行させる(S1507)。そして、S1507の後輪側目標移動量決定処理にて後輪側目標長さSrtが低下されたか否かを判断する(S1508)。後輪側目標長さSrtが低下された場合(S1508でYes)、重量推定部58は、新たに設定された後輪側目標長さSrtにおける所定重量Wpを仮の重量として設定する(S1509)。他方、後輪側目標長さSrtが低下されていない場合(S1508でNo)、本処理の実行を終了する。
【0081】
一方、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに到達していない場合(S1502でNo)、重量推定部58は、後輪側実長さSraを読み込み(S1510)、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達したか否かを判断する(S1511)。
後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達している場合(S1511でYes)、重量推定部58は、S1501にて読み込んだ後輪側実移動量Lraに対応する重量を自動二輪車1に加わる実重量として推定する(S1512)。他方、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達していない場合(S1511でNo)、重量推定部58は、本処理の実行を終了する。
【0082】
なお、S1506にて重量推定部58が新たな仮の重量として設定することにより、後輪側目標移動量決定部572が、重量推定部58が設定した新たな仮の重量に応じた後輪側目標移動量Lrtを新たに決定する。そして、電磁弁制御部57が、後輪側実移動量Lraが新たに決定された後輪側目標移動量Lrtとなるよう後輪側電磁弁170の開度を制御する。これにより、後輪側実移動量Lraが大きくなる。それゆえ、前回の重量推定処理のS1502にて後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに到達していたとしても、今回の重量推定処理のS1502にて、後輪側実移動量Lraが新たに決定された後輪側目標移動量Lrtに到達したか否かを判断する。そして、最終的にS1504又はS1511の処理にて後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに到達したと判断し、S1505又はS1512の処理にて後輪側目標長さSrtに到達したときの後輪側実移動量Lraに基づいて重量を推定するまで重量推定処理を繰り返す。
【0083】
以下、フローチャートを用いて後輪側目標移動量決定部572が行う後輪側目標移動量決定処理の手順について説明する。
図16は、後輪側目標移動量決定部572が行う後輪側目標移動量決定処理の手順を示すフローチャートである。
後輪側目標移動量決定部572は、現在の後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxであるか否かを判断する(S1601)。現在の後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxである場合(S1601でYes)、後輪側目標長さSrtを低下させる(S1602)。本実施の形態においては、後輪側目標長さSrtを5段階に設定可能であるので、後輪側目標長さSrtを、例えば1段階低下させる。その後、後輪側目標移動量Lrtを後輪側上限移動量Lrmaxに決定する(S1603)。
他方、現在の後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxではない場合(S1601でNo)、重量推定部58が設定した仮の重量に応じた後輪側目標移動量Lrtに決定する(S1604)。
【0084】
図16に示した後輪側目標移動量決定処理のS1602にて、後輪側目標長さSrtが低下させられると、次回の重量推定部58が行う重量推定処理のS1504においては、後輪側実長さSraが、新たに設定された後輪側目標長さSrtに到達したか否かが判断される。そして、重量推定部58は、後輪側実長さSraが新たに設定された後輪側目標長さSrtに到達している場合(S1504でYes)、S1501にて読み込んだ後輪側実移動量Lraに対応する重量を自動二輪車1に加わる実重量として推定する(S1505)。後輪側目標移動量決定処理のS1602にて後輪側目標長さSrtが低下させられた後に行われる重量推定処理のS1501にて読み込まれる後輪側実移動量Lraは、前回の重量推定処理のS1502にて後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに到達したと判断され(S1502でYes)、S1601にて後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxであると判断されているので、後輪側上限移動量Lrmaxである。そして、重量推定部58は、重量推定処理のS1505にて実重量として推定するS1501にて読み込んだ後輪側実移動量Lraに対応する重量を、新たに設定された後輪側目標長さSrtにおいて後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxとなる重量の内、最も軽い重量とする。言い換えれば、重量推定部58は、重量推定処理のS1509にて仮の重量として設定した、後輪側目標長さSrtにおける所定重量Wpを実重量として推定する。
【0085】
〔実施の形態に係る制御装置の作用、効果〕
図17(a)及び
図17(b)は、本実施の形態に係る制御装置50の作用を示す図である。
図17(a)及び
図17(b)においては、後輪側目標長さSrtが「長」であり、後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxとなる前に後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達するとともに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達する場合を例示している。
例えば、
図17(a)に示すように、重量推定部58が設定した仮の重量Wdであるときに後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrt1に達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrt(=長)に達していない場合、重量推定部58は、重量推定処理のS1504で否定判定する。その後、重量推定部58は、現在の仮の重量Wdに予め定められた値αを加算した重量を新たな仮の重量(=Wd+α)として設定する(S1506)。すると、S1507にて行う後輪側目標移動量決定処理において、後輪側目標移動量決定部572は、現在の後輪側目標移動量Lrt1が後輪側上限移動量Lrmaxではないと判定し(S1601でNo)、S1506にて新たに設定した仮の重量(=Wd+α)と
図14(a)に例示したマップと後輪側目標長さSrt(=長)とにより、後輪側目標移動量Lrtを、
図17(b)に示す後輪側目標移動量Lrt2に決定する(S1604)。その後、重量推定部58が新たに設定した仮の重量Wd+αであるときに後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrt2に達するとともに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrt(=長)に達した場合(S1502及びS1504でYes)には、後輪側実移動量Lraに対応する重量、言い換えれば仮の重量Wd+αを、実重量として推定する(S1505)。
【0086】
図18(a)及び
図18(b)は、本実施の形態に係る制御装置50の作用を示す図である。
図18(a)及び
図18(b)においては、最初の後輪側目標長さSrtが「長」であり、後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxとなった後に後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達するとともに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達する場合を例示している。
例えば、重量推定部58が設定した仮の重量が、後輪側目標長さSrtが「長」である場合の所定重量Wpである長時所定重量Wpbであるときに後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrt(=長)に達していない場合、重量推定処理のS1504で否定判定する。その後、現在の仮の重量である長時所定重量Wpbに予め定められた値αを加算した重量を新たな仮の重量(=Wpb+α)として設定する(S1506)。すると、S1507にて行う後輪側目標移動量決定処理において、後輪側目標移動量決定部572は、現在の後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxであると判定し(S1601でYes)、後輪側目標長さSrtを「中」に1段階低下させる(S1602)。その後、後輪側目標移動量Lrtを後輪側上限移動量Lrmaxに決定する(S1603)。また、重量推定処理のS1508で肯定判定され、仮の重量として、新たに設定された後輪側目標長さSrtの「中」における所定重量Wpである中時所定重量Wpcを設定する(S1509)。その後、重量推定部58が行う次回の重量推定処理において、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrt(=中)に達していない場合、重量推定処理のS1504で否定判定する。その後、現在の仮の重量である中時所定重量Wpcに予め定められた値αを加算した重量を新たな仮の重量(=Wpc+α)として設定する(S1506)。すると、S1507にて行う後輪側目標移動量決定処理において、後輪側目標移動量決定部572は、現在の後輪側目標移動量Lrtが後輪側上限移動量Lrmaxであると判定し(S1601でYes)、後輪側目標長さSrtを「低」に1段階低下させる(S1602)。その後、後輪側目標移動量Lrtを後輪側上限移動量Lrmaxに決定する(S1603)。また、重量推定処理のS1508で肯定判定され、仮の重量として、新たに設定された後輪側目標長さSrtの「低」における所定重量Wpである低時所定重量Wpdを設定する(S1509)。その後、重量推定部58が行う次回の重量推定処理において、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達するとともに後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrt(=短)に達した場合(S1502及びS1504でYes)には、重量推定部58は、後輪側実移動量Lraである後輪側上限移動量Lrmaxに対応する重量、言い換えれば、仮の重量である、後輪側目標長さSrtが「短」である場合の所定重量Wpである低時所定重量Wpdを実重量として推定する。
【0087】
以上説明したように、本実施の形態においては、後輪側長さ変動量検出部341を備え、後輪側長さ把握部55が後輪側長さ変動量検出部341にて検出された値に基づいて後輪側実長さSraを把握する。そして、重量推定部58が、後輪側実移動量Lra及び後輪側長さ把握部55が把握した後輪側実長さSraに基づいて実際に自動二輪車1に加わっている重量(実重量)を推定し、電磁弁制御部57が、重量推定部58が推定した実重量に基づいて前輪側電磁弁270の開度及び後輪側電磁弁170の開度を制御する。これにより、例えば、後輪側長さ変動量検出部341に加えて、フロントフォーク21全体の長さの変動量を検出する、前輪側長さ変動量検出部をも備え、電磁弁制御部57が、後輪側長さ変動量検出部341の検出値に基づいて後輪側電磁弁170の開度を制御するとともに、前輪側長さ変動量検出部の検出値に基づいて前輪側電磁弁270の開度を制御する構成よりも装置の低廉化を実現している。前輪側長さ変動量検出部を備える必要がないからである。また、本実施の形態においては、前輪側長さ変動量検出部の検出値ではなく後輪側長さ変動量検出部341の検出値に基づいて重量推定部58が実重量を推定することで精度高く実重量を推定することができる。
図1に示すように、リヤサスペンション22における車両本体10側の端部がシート19の真下に位置しているため、リヤサスペンション22の方がフロントフォーク21よりも自動二輪車1に加わる重量の影響を受け易いからである。
【0088】
しかしながら、重量推定部58が、後輪側実移動量Lra及び後輪側実長さSraに基づいて実重量を推定する構成において、後輪側実移動量Lraが後輪側目標移動量Lrtに達しても後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達していない場合であっても、後輪側実移動量Lraが後輪側上限移動量Lrmaxに達している場合には、実重量を推定することが困難となる。後輪側実移動量Lraが後輪側上限移動量Lrmaxに達しているため、後輪側目標移動量Lrtが大きくならず、後輪側実長さSraが大きくなり難い。その結果、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達することが困難となり、重量推定部58が実重量を推定することが困難となる。
これに対して、本実施の形態に係る制御装置50においては、後輪側実移動量Lraが後輪側上限移動量Lrmaxに達した後には、後輪側目標長さSrtを小さくするので、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達し易くなる。そして、重量推定部58は、後輪側実長さSraが後輪側目標長さSrtに達したときの後輪側実移動量Lraに基づいて重量を推定することができる。
このように、本実施の形態に係る制御装置50においては、後輪側実移動量Lraが後輪側上限移動量Lrmaxに達する領域であっても確度高く自動二輪車1に加わる重量を推定することができる。
また、後輪側目標移動量決定部572は、後輪側実移動量Lraが後輪側上限移動量Lrmaxに達した後に後輪側目標長さSrtを小さくする際に後輪側目標移動量Lrtを低下させないので、車高が上昇しているときに急に低下することを抑制することができる。これにより、後輪側目標長さSrtを小さくする際に後輪側目標移動量Lrtを低下させる構成よりも操縦安定性を向上させることができる。
【0089】
ただし、重量推定部58が、後輪側実移動量Lra及び後輪側実長さSraに基づいて実重量を推定する場合、運転者の一人乗りであるのか、シート19のタンデムシートにパッセンジャが載っている又は荷台に荷物が載せられている等の運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っているのかを区別することは困難である。そして、
図14に示した制御マップにおいては、運転者の一人乗りである場合を想定して重量と後輪側目標移動量Lrtとの対応が定められている場合であって、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合には、実重量を精度高く推定することは困難である。たとえ実重量が同じであったとしても、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合には、一人乗りである場合よりもリヤサスペンション22の長さが短くなるからである。それゆえ、重量推定部58が、後輪側実移動量Lra及び後輪側実長さSraに基づいて実重量を推定する構成においては、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合には、たとえ実重量が同じであったとしても、一人乗りである場合よりも実重量が重いと判断するおそれがある。そして、前輪側目標移動量決定部571は、重量推定部58が推定した推定重量に基づいて前輪側目標移動量Lftを決定することから、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合には、一人乗りである場合よりも、前輪側目標移動量Lftを大きく決定するおそれがある。その結果、たとえ実重量が同じであるとしても、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合には、一人乗りである場合よりも実際の前輪側移動量Lf(以下、「前輪側実移動量Lfa」と称す場合がある。)が大きくなるおそれがある。その結果、実重量が同じであるとしても、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合のフロントフォーク21における車両本体10側の端部の高さ(以下、「前輪側高さ」と称す場合がある。)の方が、一人乗りである場合のフロントフォーク21における車両本体10側の端部の高さ(前輪側高さ)よりも高くなるおそれがある。一方、リヤサスペンション22における車両本体10側の端部がシート19の真下に位置しているため、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合と一人乗りである場合とで後輪側実移動量Lraに生じる差は小さく、リヤサスペンション22における車両本体10側の端部の高さ(以下、「後輪側高さ」と称す。)の差は小さいと考えられる。以上のことより、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合の後輪側高さに対する前輪側高さは、一人乗りである場合の後輪側高さに対する前輪側高さよりも大きくなり、車両の姿勢が所望の姿勢とはならずに、操縦安定性やヘッドランプ18の光軸へ悪影響が発生するおそれがある。
【0090】
図19(a)は、重量推定部58が推定した推定重量又は設定した仮の重量と前輪側目標移動量Lftとの相関関係を示す図である。
図19(b)は、重量推定部58が推定した推定重量又は設定した仮の重量と、後輪側目標移動量Lrtとの相関関係を示す図である。
図19(a)及び
図19(b)においては、車高調整スイッチを介してユーザにより「中」が選択され、前輪側目標長さSft及び後輪側目標長さSrtが中である場合の相関関係を示している。以下では、ユーザにより中が選択されている場合を例示するが、他の高さが選択されている場合も同様である。
【0091】
本実施の形態に係る制御装置50は、以上の事項に鑑み、重量推定部58が推定した推定重量が所定重量Wp以上の場合には、推定重量が大きいほど実際の前輪側移動量Lfを小さくする。所定重量Wpは、一人乗りである運転者の重量として想定される最大の重量であることを例示することができる。つまり、重量推定部58が推定した推定重量が所定重量Wp以上の場合には、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定して、推定重量が大きいほど実際の前輪側移動量Lfを小さくする。例えば、所定重量Wpはユーザにより目標高さとして「中」が選択されている場合には155(kg)であることを例示することができる。
【0092】
また、言い換えれば、所定重量Wpは、
図14(b)に示すように、後輪側目標移動量Lrtを、後輪側移動量Lrの上限値である後輪側上限移動量Lrmaxとする重量の内、最小の重量であることを例示することができる。かかる場合、重量推定部58が推定した推定重量が所定重量Wp以上である場合には、後輪側目標移動量決定部572は、後輪側目標移動量Lrtを後輪側上限移動量Lrmaxに決定する。それゆえ、実重量(推定重量)が所定重量Wp以上である場合には、後輪側実移動量Lraが所定重量Wpにて後輪側上限移動量Lrmaxに達することから、実重量が所定重量Wpよりも重くなるほど、後輪側高さが低くなると考えられる。
【0093】
そこで、実重量が所定重量Wp以上である場合には、実重量が所定重量Wpよりも重くなるほど、実際の前輪側移動量Lf(前輪側実移動量Lfa)が小さくなるように、前輪側目標移動量決定部571は、推定重量が所定重量Wpよりも重くなるほど前輪側目標移動量Lftが小さくなるように前輪側目標移動量Lftを決定する。つまり、
図14(a)に示すように、重量が所定重量Wpよりも重くなるほど前輪側目標移動量Lftが小さくなるように制御マップが作成されている。
これにより、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っているとしても、後輪側高さに対する前輪側高さが、一人乗りである場合の後輪側高さに対する前輪側高さよりも大きくなり過ぎないようにすることができる。その結果、車両の姿勢を所望の姿勢とすることができるので、後輪側実移動量Lra及び後輪側実長さSraに基づいて実重量を推定することに起因して操縦安定性やヘッドランプ18の光軸へ悪影響が発生することを抑制することができる。
【0094】
<変形例1>
運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定する手法は、上述した、重量推定部58が推定した推定重量が所定重量Wp以上の場合に限定されない。例えば各種センサを設け、センサの出力値に基づいて推定しても良い。例えば、制御装置50は、周知の加速度センサなどを用いることにより車両の前後方向の水平線に対する傾きを検知することで運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定しても良い。そして、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定した場合には、前輪側目標移動量決定部571が、運転者の後方に何も載っていない場合よりも前輪側実移動量Lfaが小さくなるように、前輪側目標移動量Lftを決定すると良い。例えば、
図14(a)に示した、重量と、前輪側目標長さSftと、前輪側目標移動量Lftとの相関関係のマップを、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合のマップと、運転者の後方に何も載っていない場合のマップとを備え、使い分けると良い。
【0095】
<変形例2>
運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定するのに用いるセンサは、タンデムシートや荷台に設けられた周知の加重センサであっても良い。制御装置50は、タンデムシート又は荷台に設けられた加重センサが加重を検知しているときは、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定し、前輪側目標移動量決定部571が、運転者の後方に何も載っていない場合よりも前輪側実移動量Lfaが小さくなるように、前輪側目標移動量Lftを決定すると良い。例えば、
図14(a)に示した、重量と、前輪側目標長さSftと、前輪側目標移動量Lftとの相関関係のマップを、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合のマップと、運転者の後方に何も載っていない場合のマップとを備え、使い分けると良い。
【0096】
<変形例3>
運転者の後方にパッセンジャが載っていると推定するのに用いるセンサは、自動二輪車1に設けられた、タンデムシートに乗車するパッセンジャの足を支持するステップの開閉を検知する開閉検知センサであっても良い。開閉検知センサは、発光素子と受光素子とを有する赤外線反射型の反射型センサや透過型センサ、ステップが閉状態の場合に圧力を受け、開状態の場合に圧力を受けなくなることを利用したセンサであることを例示することができる。制御装置50は、開閉検知センサがステップの開状態を検知しているときには、タンデムシートにパッセンジャが載っていると推定し、前輪側目標移動量決定部571が、運転者の後方に何も載っていない場合よりも前輪側実移動量Lfaが小さくなるように、前輪側目標移動量Lftを決定すると良い。例えば、
図14(a)に示した、重量と、前輪側目標長さSftと、前輪側目標移動量Lftとの相関関係のマップを、タンデムシートにパッセンジャが載っている場合のマップと、運転者の後方に何も載っていない場合のマップとを備え、使い分けると良い。
【0097】
<変形例4>
運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定する手法は、以下の態様であっても良い。すなわち、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていることをユーザが通知するための通知スイッチを自動二輪車1に設け、制御装置50は、通知スイッチに基づいて運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定しても良い。
通知スイッチは、例えばスピードメータの近傍に設けられた、例えば所謂ダイヤル式のスイッチであり、ユーザがつまみを回転させることにより、「一人乗り」、「二人乗り」、「荷物積載」を選択可能に構成されていることを例示することができる。そして、制御装置50は、通知スイッチにて「二人乗り」又は「荷物積載」が選択されている場合には運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定しても良い。
そして、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定した場合には、前輪側目標移動量決定部571が、運転者の後方に何も載っていない場合よりも前輪側実移動量Lfaが小さくなるように、前輪側目標移動量Lftを決定すると良い。例えば、
図14(a)に示した、重量と、前輪側目標長さSftと、前輪側目標移動量Lftとの相関関係のマップを、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合のマップと、運転者の後方に何も載っていない場合のマップとを備え、使い分けると良い。
【0098】
<変形例5>
変形例1〜4にて述べた手法で運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定する場合には、後輪側目標移動量決定部572は、運転者の後方に何も載っていない場合よりも後輪側実移動量Lraが大きくなるように、後輪側目標移動量Lrtを決定すると良い。例えば、
図14(b)に示した、重量と、後輪側目標長さSrtと、後輪側目標移動量Lrtとの相関関係のマップを、運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っている場合のマップと、運転者の後方に何も載っていない場合のマップとを備え使い分けると良い。また、変形例1〜4にて述べた手法で運転者の後方にパッセンジャ又は荷物が載っていると推定する場合に後輪側目標移動量Lrtを決定するのに用いるマップは、後輪側目標移動量Lrtに対して後輪側上限移動量Lrmaxを設定せずに、重量が重くなるほど後輪側目標移動量Lrtが大きくなる相関関係であっても良い。
【0099】
<変形例6>
上述した実施の形態においては、前輪側目標移動量決定部571及び後輪側目標移動量決定部572は、重量推定部58が実重量を推定する前に、重量推定部58が設定した仮の重量に基づいて決定するが、特にかかる態様に限定されない。例えば、後輪側目標移動量決定部572は、重量推定部58が実重量を推定する前に重量推定部58が設定した仮の重量に基づいて決定し、前輪側目標移動量決定部571は、重量推定部58が実重量を推定する前には決定せずに、推定した後に、推定重量に基づいて決定するようにしても良い。
【0100】
<変形例7>
重量推定部58は、最初に設定する仮の重量を、常に上述した初期重量としても良い。また、重量推定部58は、最初に設定する仮の重量を、走行開始直後、上昇車速Vuとなるまでの間における後輪側実移動量Lra及び/又は後輪側実長さSraとに基づいて最初に設定する仮の重量を設定しても良い。例えば、後輪側実長さSraが短いほど最初に設定する仮の重量を重く設定しても良い。
【0101】
<変形例8>
車高調整スイッチを介して目標高さを調整できるのは5段階に限定されない。5段階よりも多い10段階や20段階など数多くの段階であっても良いし、5段階よりも少なくても良い。調整可能な段階数が多いほど、重量推定部58は、後輪側目標長さSrtを小刻みに低下させることができるのでより精度高く重量を推定することができる。
【解決手段】前輪側懸架スプリングと、前輪側懸架スプリングの一方の端部を支持するとともに前輪側スプリングの他方の端部側に移動することで前輪側懸架スプリングの長さを変える前輪側支持部材とを有するフロントフォークと、後輪側懸架スプリングと、後輪側懸架スプリングの一方の端部を支持するとともに後輪側スプリングの他方の端部側に移動することで後輪側懸架スプリングの長さを変える後輪側支持部材とを有するリヤサスペンションと、リヤサスペンションの長さと後輪側支持部材の移動量とに基づいて車両に加わる重量を推定する重量推定部と、重量推定部が推定した推定重量が所定重量以上の場合には、推定重量が大きいほど前輪側支持部材の移動量を小さくする前輪側目標移動量決定部と、を備える。