(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
電子顕微鏡観察(3000倍〜10000倍)した際、主枝から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元或いは三次元的に成長した形状を呈する銀粉粒子が、観察対象である全銀粉粒子の50個数%以上を占めるデンドライト状銀粉であって、
レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて、分散剤添加済の水中へ前記銀粉を投入し、300wattsの超音波を3分間かけて測定した体積累積粒径D50(「D50D」と称する)が1.0〜15.0μmであり、
前記D50Dに対する、銀粉を分散剤添加済の水中へ投入し、超音波をかけないでD50Dと同条件で測定した体積累積粒径D50(「D50N」と称する)の割合(D50N/D50D)が1.0〜10.0であることを特徴とするデンドライト状銀粉。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0012】
(銀粉粒子形状)
本実施形態に係る銀粉(以下「本銀粉」という)は、電子顕微鏡観察(3000倍〜10000倍)した際、主枝から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元或いは三次元的に成長した形状を呈する銀粉粒子(「特殊デンドライト状銀粉粒子」と称する)を、主成分粒子として含有する銀粉である。
【0013】
デンドライト状と呼ばれるものの中には、幅広の葉が伸びてなる樹葉状のものや、多数の針状部が放射状に伸長してなる形状のものもある。しかし、特殊デンドライト状銀粉粒子は、デンドライト状を呈する銀粉粒子の中でも、主枝から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元或いは三次元的に成長した形状を呈するものである。
【0014】
本銀粉は、特殊デンドライト状銀粉粒子のみ(100個数%)からなる粉体でなくてもよく、他の形状の銀粉粒子を含んでいても、本銀粉の作用効果を妨げない範囲であれば構わない。その意味で、本銀粉は、観察対象である全銀粉粒子の50個数%以上を特殊デンドライト状銀粉粒子が占めるものであるのが好ましく、中でも60個数%以上、その中でも70個数%以上、その中でも80個数%以上、その中でも特に90個数%以上(100個数%を含む)を占めるものであるのがさらに好ましい。
【0015】
(D50)
本銀粉の中心粒径(D50)、すなわちレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて、分散剤添加済の水中へ本銀粉を投入し、300wattsの超音波を3分間かけて測定した体積累積粒径D50Dは、1.0μm〜15.0μmであることが好ましい。
当該D50Dが1.0μm〜15.0μmであれば、本銀粉を合成樹脂と混合して作製したフィルムを伸長させた時に、フィルムの膜厚が変化しても、ペースト中の導電粒子のネットワークが保持され、導電性能を維持することができる。
よって、かかる観点から、本銀粉のD50Dは、1.0μm〜15.0μmであることが好ましく、中でも2.0μm以上或いは12.0μm以下、その中でも3.0μm以上或いは11.0μm以下であるのが特に好ましい。
【0016】
なお、本銀粉のD50Dを調整するには、例えばD50Dを小さくするには、例えば電解時間を短くする、すなわち短時間のうちに電極板に析出した銀粉を掻き落とすようにするのが好ましい。但し、このような方法に限定するものではない。
【0017】
(D50N/D50D)
本銀粉は、次のD50N/D50Dが1.0〜10.0であることが好ましい。
すなわち、本銀粉を水中へ投入し、300wattsの超音波を3分間かけて測定した体積累積粒径D50(「D50D」と称する)に対する、超音波をかけないで前者と同条件で測定した体積累積粒径D50(「D50N」と称する)の割合(D50N/D50D)が1.0〜10.0であるのが好ましい。
本銀粉に関し、D50N/D50Dが1.0〜10.0であれば、本銀粉を合成樹脂と混合した際に、本銀粉が合成樹脂中に均一に分散し、導電性を十分に維持することができる。
かかる観点から、本銀粉に関しては、上記D50N/D50Dが1.0〜10.0であるのが好ましく、中でも1.2以上、その中でも1.5以上或いは9.0以下、その中でも2.0以上或いは8.0以下であるのがさらに好ましい。
【0018】
本銀粉に関し、上記D50N/D50Dを上記範囲に調整するには、後述するように、例えば、後述するような電解法において、電解で採取した銀粉を、少なくとも40℃以下に制御しながら乾燥することが好ましい。また、乾燥後に分級しても、D50N/D50Dを調整することができる。但し、これらの方法に限定するものではない。
【0019】
(比表面積)
本銀粉のBET一点法で測定される比表面積は、0.2〜5.0m
2/gであるのが好ましい。
本銀粉の比表面積が0.2m
2/g以上であれば、デンドライトの枝が十分に発達しているから、粒子同士のネットワークが形成され導電性が十分に確保できるから好ましい。他方、5.0m
2/g以下であれば、デンドライトの枝が細くなり過ぎず、ペーストとした際などにデンドライトの枝を折らないで分散させることができ、導電性を十分に確保することができるから好ましい。
かかる観点から、本銀粉の当該比表面積は、0.2〜5.0m
2/gであるのが好ましく、中でも0.3m
2/g以上或いは4.0m
2/g以下、その中でも0.4m
2/g以上或いは3.0m
2/g以下であるのがさらに好ましい。
【0020】
(結晶子径)
本銀粉の結晶子径は、500Å〜3000Åであるのが好ましい。
本銀粉の結晶子径が500Å以上であれば、デンドライトの枝が細くなり過ぎず、ペーストとした際などにデンドライトの枝が折らないで分散させることができ導電性を十分に確保することができるから好ましい。他方、3000Å以下であれば、銀粉粒子が粗粒になり過ぎず、所望の膜厚のフィルムを作製することができるから好ましい。
かかる観点から、本銀粉の結晶子径は、500Å〜3000Åであるのが好ましく、中でも600Å以上或いは2500Å以下、その中でも700Å以上或いは2000Å以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
本銀粉の結晶子径を上記範囲に調整する際には、例えば後述するように、後述するような電解法において銀濃度を5g/L以上50g/L以下にするのが好ましい。但し、かかる方法に限定するものではない。
【0022】
(用途)
本銀粉の主成分粒子は、特殊デンドライト状銀粉粒子であるから、その形状異方性ゆえに導電性に優れている。よって、本銀粉は、一般的な導電性ペーストの導電性フィラーとしても使用することは可能であり、特に、合成樹脂と混合して、導電性を備えたフィルムを作製するのに特に好適である。
【0023】
<製造方法>
本銀粉は、例えば次のようにして製造することができる。但し、次に説明する製造方法に限定されるものではない。
【0024】
本実施形態では、弱酸を添加してなる銀塩水溶液を電解液として電解し、採取した銀粉を、少なくとも40℃以下に制御しながら乾燥して、銀粉を得る製造方法について説明する。
【0025】
なお、本発明における「電解」とは、DSE電極を用いた電解採取、銀電極を用いた電解精製のどちらも包含するものである。
また、本発明で「弱酸」とは、硝酸より銀の溶解性が低く、且つ、硝酸イオンよりも銀イオンとの錯形成能が高いアニオンを持つ酸を意味し、有機酸、無機酸のいずれであってもよい。
【0026】
(電解)
電解液として、硝酸の銀電解液を使用すると微粒な銀粒子は通常得られないが、銀イオンと錯形成可能なアニオンを有し、且つ析出した銀粒子を溶解しない程度の強さを持つ酸を硝酸に添加することにより、例えば硝酸のみの場合に比べて銀粒子の粒径を顕著に小さくすることができる。
【0027】
電解液に添加し得る有機酸としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、メルカプト酢酸などの脂肪族モノカルボン酸、安息香酸などの芳香族モノカルボン酸、又は、グリコール酸、乳酸、サリチル酸などのオキシモノカルボン酸、又は、コハク酸、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、又は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、又は、リンゴ酸、酒石酸等のオキシジカルボン酸、又は、トリカルボン酸、又は、芳香族トリカルボン酸、又は、クエン酸、イソクエン酸などのオキシトリカルボン酸、又は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などのオキシ多価カルボン酸、又は、芳香族多価カルボン酸、そのほか、オキソカルボン酸、アミノ酸、アスコルビン酸など、カルボキシル基を有する化合物を挙げることができる。
中でも、カルボキシル基を2つ以上含有するカルボン酸、その中でもカルボキシル基を2つ以上含有するオキシカルボン酸、例えばリンゴ酸、クエン酸、酒石酸などが好ましく、中でも特に、カルボキシル基を3つ以上含有するオキシカルボン酸、或いはカルボキシル基を2つ以上含有し且つヒドロキシ基を2つ以上含有するオキシカルボン酸、例えばクエン酸や酒石酸などがより好ましい。
なお、上記の2種類以上を組合わせて電解液に添加することも可能である。
【0028】
他方、電解液に添加し得る無機酸としては、ホウ酸、炭酸、亜硫酸、リン酸などを挙げることができ、これらの2種類以上を組合わせて電解液に添加することも可能である。
【0029】
以上のような弱酸を電解液に添加することにより、電解によって得られる銀粉粒子の粒度を小さくできる。この要因は、弱酸が銀イオンを錯体化しているか、或いは、カルボキシル基或いはヒドロキシ基のOH-などが銀イオンに吸着するかして、銀粒子の成長を抑制しているものと推察することができる。
【0030】
弱酸の添加量は、電解液の0.01g/L〜100g/Lとなるように調整するのがよく、好ましくは0.05g/L〜50g/L、さらに好ましくは0.1g/L〜20g/Lとなるように調整するのがよい。0.01g/L未満では、カルボキシル基を2つ以上含有するカルボン酸を用いたとしても、キレート効果或いは吸着効果を十分に得ることが難しくなるために微粒化を図ることが困難となる。他方、100g/Lを超えると、カルボキシル基を2つ以上含有するカルボン酸を用いたとしても不経済でもある。
【0031】
銀塩水溶液としては、銀イオンが溶解してなる溶液であれば特に制限なく、例えば硝酸銀溶液などを用いることができる。
銀塩水溶液のイオン伝導度を高めるため、支持電解質、特に硝酸塩などの電解液との反応に無関係な塩などを加えるのが好ましい。
【0032】
電解液のpHは0〜7、中でも1以上或いは6以下、その中でも特に2以上或いは5以下に調整するのが好ましい。pHが0よりも低いと錯形成能も小さくなってしまう。他方、pHが7を超える場合には、銀が酸化銀として沈殿し易くなってしまう。
【0033】
電解液中の銀濃度は、0.1g/L〜50g/L、中でも0.5g/L以上或いは30g/L以下、その中でも1.0g/L以上或いは20g/L以下に調整するのが好ましい。0.1g/L未満になると、銀の析出速度が遅くなり、効率的に銀粉を得ることが難しくなる。また、50g/Lより多くなると粉体が析出し難くなる。
【0034】
電解液中の弱酸/Ag
+は、モル比で0.01〜10が好ましく、中でも0.05〜5が特に好ましい。0.01未満であると吸着及び錯形成が不十分となり、銀粒子が粗大化するようになる。また、10より大きくなると不経済である。
【0035】
電解条件としては、電流密度は10〜2000A/m
2が好ましく、より好ましくは30〜1500A/m
2であり、さらに好ましくは50〜1000A/m
2である。電流密度が10A/m
2未満であると、銀の析出速度が遅くなり、粒子が粗大化するか、或いは電極上にメッキされるようになる。また2000A/m
2より高くなると、溶液の温度が上昇し、銀粉の形状が安定しない。また、ランニングコストも嵩むため不経済でもある。
【0036】
電解液の溶液温度は、80℃以下、特に60℃以下、中でも特に40℃以下であるのが好ましい。80℃より高いと粒子が溶解する傾向がある。
【0037】
極板上に析出した銀粉は適宜時間おきに掻き落し、極板から掻き落したものを、濾過し、洗浄し、乾燥することにより、銀粉を得ることができる。この際、濾過、洗浄および乾燥の方法は特に限定するものではなく、一般的な方法を採用すればよい。
また、回転ドラムを用いて、回転ドラム表面に析出した銀粉をスクレーパなどで連続的に掻き落すこともできる。
【0038】
銀粉粒子の形状は、弱酸の添加量及び電解条件等によって制御可能であり、例えば弱酸の添加量を多くすればデンドライト状から球状に近づく傾向があり、他方、銀濃度を増加させたり、電流密度を低下させたり、電解液の温度を高めたりすると、球状からデンドライト状に近づく傾向がある。
【0039】
さらに、上記電解液に水溶性有機高分子を加えて上記のように電解することによって、上記のデンドライト状銀粉をさらに微粒化することができる。
水溶性有機高分子としては、例えばゼラチン、ポリビニルアルコール、水溶性でんぷん、にかわ、水溶性カルボン酸塩などを挙げることができ、中でもゼラチンが好ましい。
この際、水溶性有機高分子は、電解液に対して0.05g/L〜5g/Lとなるように添加するのが好ましい。0.05g/L未満であると十分な効果が得られず、5g/Lより多くなると粒子形状が安定しなくなるため好ましくない。
【0040】
(水洗)
上記のように電解採取した銀粉は、水で洗浄して残留している電解液を十分に洗い流し、さらにアルコールで洗浄し十分に水とアルコールを置換するのが好ましい。
【0041】
(乾燥)
上記のようにアルコールで洗浄した銀粉は、乾燥雰囲気の温度を少なくとも40℃以下に調整し、風を当てながら乾燥するのが好ましい。
乾燥雰囲気温度は、40℃以下に調整するのが好ましく、中でも30℃以下、その中でも室温で乾燥するのが好ましい。
乾燥方法としては、棚段乾燥、真空乾燥、凍結乾燥などを挙げることができ、その中でも、ファンの付いた棚段乾燥器、言い換えれば強制対流式棚段型乾燥器が特に好ましい。
【0042】
(分級)
上記乾燥後、必要に応じて、分級するようにしてもよい。
この際、分級方法としては、遠心分級のほか、振動篩いや面内篩いのように一定の大きさの網目を通過させる方法や、気流により分離する方法のいずれを採用してもよい。
なお、上記乾燥によって得られた乾燥品を分級することより、凝集がほぐれる効果を期待することができる。
【0043】
(表面処理)
上記のようにして得られた銀粉に対して有機表面処理を施してもよい。銀粒子に有機表面処理を施すことにより、凝集性を抑制することができる。また、有機表面処理剤を適宜選択することにより、他材料との親和性をコントロールすることも可能となる。
なお、表面処理は、乾燥品に対して実施してもよいし、また、乾燥前の銀粉に対して実施してもよい。
【0044】
この際、有機表面処理としては、例えば飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びシランカップリング剤等からなる皮膜を銀粒子表面を形成するようにすればよい。中でも、上記有機化合物のうち、窒素含有有機化合物を用いて行なうのが好ましい。皮膜形成方法としては、例えば乾式法、湿式法等、公知の方法を採用すればよい。
【0045】
<語句の説明>
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「好ましくYより小さい」の意を包含する。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<粒子形状の観察>
実施例・比較例で得た銀粉(サンプル)について、走査型電子顕微鏡(5000倍)にて任意の50個の粒子の形状を観察し、全銀粉粒子のうち50個数%以上を占める銀粉粒子の形状を表1に示した。
なお、粒子形状の観察の際、粒子同士が重ならないように、カーボンテープ上に少量の銀粉(サンプル)を付けて観察を行った。
【0048】
この際、デンドライト状を呈するか否かは、主枝から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元或いは三次元的に成長した形状を呈するか否かにより判断した。
【0049】
<粒度測定>
実施例・比較例で得た銀粉(サンプル)を少量、具体的には0.2gビーカーに取り、トリトンX−100(関東化学製)を0.07g添加し、粉末になじませてから、分散剤添加済水(分散剤:0.3%SN−PW−43溶液(サンノプコ製)40mLに投入し、その後、超音波分散器US−300AT(日本精機製作所製)を用いて300wattsの超音波を3分間かけて分散処理して測定用サンプルを調製した。そして、この測定用サンプルを、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3300II(日機装製)を用いて体積累積粒径D50Dを測定した。この際の測定は、試料循環器内及び流路内を分散剤添加済水(分散剤:0.3%SN−PW−43溶液(サンノプコ製)で洗浄後、分散剤添加水を循環させながら、オートゼロの校正を実施した後、循環器内の200mLのセルに測定用サンプルを濃度が測定可能範囲内であると表示されるまで添加し、濃度が測定可能範囲内で安定していることを確認後、測定を開始した。
他方、上記と同じ銀粉を用いて、超音波をかけない以外、上記と同様に測定用サンプルを調製し、上記と同条件で体積累積粒径D50Nを測定した。
【0050】
<比表面積の測定>
比表面積は、ユアサアイオニクス社製モノソーブにて、BET一点法で測定した。
【0051】
<結晶子径>
株式会社リガク製UltimaIVX線回折装置を用い、Scherrer法(X線回折による結晶子径測定法)により測定した。
【0052】
<シート抵抗の評価>
実施例・比較例で得た銀粉(サンプル)42.3gと、バインダとしてシリコーン樹脂(旭化学工業製 MRX−2269)99gと、増粘剤としてアクリル系増粘剤(TT−615 ダウケミカル社製)1gとを混合してペーストを作製した。
次いで、バーコーターで幅200mm、ギャップが50μmとなるように、シリコーンゴムシート上に、前記ペーストを塗工した後、大気熱風乾燥炉にて90℃60分で乾燥させ、厚さ40μmの塗膜を得た。
得られた塗膜を、抵抗率測定器(三菱化学MCP−T600)を用いて、4探針法によりシート抵抗値を測定した。
【0053】
なお、実施例1〜4で得られた銀粉に関しては、粉同士が十分に接触して抵抗値を測定することができたが、比較例1で得られた銅粉に関しては、抵抗値が高すぎてオーバーレンジとなり測定できなかった(表には「測定不可」と示した)。
【0054】
<膜厚が変化した場合の導電性の変化率の評価>
実施例・比較例で得た銅粉(サンプル)42.3gと、バインダとしてシリコーン樹脂(旭化学工業製 MRX−2269)99gと、増粘剤としてアクリル系増粘剤(TT−615 ダウケミカル社製)1gとを混合してペーストを作製した。
次いで、バーコーターで幅200mm、ギャップが50μmとなるように、シリコーンゴムシート上に、前記ペーストを塗工した後、大気熱風乾燥炉にて90℃60分で乾燥させ、厚さ40μmの塗膜を得た。得た塗膜を幅2cm、長さ15cmの短冊状に切り評価用フィルムを得た。
次いで、フィルムの片側を固定し、もう片側を長さ15cmから19.5cmに引っ張った状態で固定して、抵抗率測定器(三菱化学MCP−T600)を用いて、4探針法によりデンドライト状銀粉を合成樹脂と混合して作製したフィルムを伸長させた時に、フィルムの膜厚が変化した場合のシート抵抗値を測定した。
【0055】
<実施例1>
アノードにはDSE電極を使用し、カソードにはSUS316製ドラムを使用し、電極間距離を5cmとした。電解液としての硝酸銀溶液を300mL/minで循環させながら電解した。この際、電解液の液温は25℃、銀濃度は20g/L、硝酸濃度は10g/L、クエン酸濃度は0.5g/Lであり、電解液30Lとし、pHは2.0とし、且つ、電流密度を750A/m
2に調整して60分間電解を実施した。
そして、カソード表面に析出した銀を、スクレーパを用いて連続的に掻き落として銀粉を採取し、採取した銀粉は電解終了まで純水中に保持した。
電解終了後、ヌッチェを使用して洗浄・表面処理・ろ過を行った。先ず、純水5Lを用いて洗浄し、次にベンゾトリアゾール2.0gで表面処理を行った後、アルコールで再度洗浄した。
その後、ステンレス製のバットに銀粉を移し、ファンの付いた棚段乾燥器を用いて、室温で15時間、大気雰囲気中に保持して乾燥させた。乾燥後、目開き75μmの篩いを使用して分級を行い、篩下を回収して銀粉(サンプル)を得た。
【0056】
<実施例2>
銀濃度は20g/L、クエン酸濃度は0.5g/L、を銀濃度は10g/L、クエン酸濃度は0.1g/L、に変更した以外、実施例1と同様に銀粉(サンプル)を得た。
【0057】
<実施例3>
銀濃度は20g/L、硝酸濃度は10g/L、クエン酸濃度は0.5g/L、pHは2.0、電流密度は750A/m
2を銀濃度は30g/L、硝酸濃度は5g/L、pHは2.5、電流密度を1000A/m
2に変更した以外、実施例1と同様に銀粉(サンプル)を得た。
【0058】
<実施例4>
銀濃度は20g/L、クエン酸濃度は0.5g/L、電流密度は750A/m
2を銀濃度は30g/L、電流密度を1500A/m
2に変更した以外、実施例1と同様に銀粉(サンプル)を得た。
【0059】
<比較例1>
0.8Lの純水に硝酸銀12.6gを溶解し、25%アンモニア水を24mL、さらに硫酸アンモニウムを40g添加し、銀アンミン錯塩水溶液を調製した(銀濃度10g/L、NH
3/Ag+モル比12、20℃、pH9.4)。
この銀アンミン錯塩水溶液を電解液とし、陽極、陰極共にDSE極板を使用し、電流密度200A/m
2、溶液温度20℃で電解し、適当な間隔をおいてスクレーパにより電析した銀粉粒子を極板から掻き落し、1時間電解した。
その後、掻き落して得られた銀粉粒子を含むスラリーをヌッチェでろ過し、純水、さらにアルコール洗浄を行い、70℃×12時間、大気雰囲気下で乾燥させ、銀粉(サンプル)を得た。
【0060】
<比較例2>
アノードにはDSE電極を使用し、カソードにはSUS316の板を使用した。電極間距離は5cmとした。電解液としての硝酸銀溶液を使用し、電解液の液温は25℃とし、銀濃度は20g/L、硝酸濃度は10g/L、クエン酸濃度は0.5g/Lとした。電解液は3.0Lとし、pHは2.0とし、且つ、電流密度を750A/m
2に調整して電解を行った。そして、適当な間隔をおいてスクレーパにより、カソード表面に電析した銀粉粒子を掻き落し、60分間電解した。
電解終了後、ヌッチェを使用して洗浄・表面処理・ろ過を行った。先ず、純水5Lを用いて洗浄し、次にベンゾトリアゾール2.0gで表面処理を行った後、アルコールで再度洗浄した。その後、ファンの付いた棚段乾燥器を用いて、60℃×8時間、大気雰囲気下で乾燥させ、銀粉(サンプル)を得た。
【0061】
【表1】
【0062】
(考察)
実施例1〜4、比較例1及び2で得られた銀粉(サンプル)はいずれも、電子顕微鏡観察(5000倍)した際、主枝から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元或いは三次元的に成長した形状を呈する銀粉粒子が、観察対象である全銀粉粒子の50個数%以上を占めるデンドライト状銀粉であった。
【0063】
上記実施例の結果及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果を総合すると、少なくともD50Dが1.0〜15.0μmであるデンドライト状銀粉においては、上記D50N/D50Dの割合を所定範囲に規定することで、たとえ合成樹脂と混合して、導電性を備えたフィルムを作製した場合でも、導電性が十分であり、且つ、デンドライト状銀粉を合成樹脂と混合して作製したフィルムを伸長させた時に、フィルムの膜厚が変化しても、フィルムの導電性を維持することができることが分かった。
デンドライト状銀粉に関し、合成樹脂と混合して、導電性を備えたフィルムを作製した場合でも、導電性が十分であり、且つ、デンドライト状銀粉を合成樹脂と混合して作製したフィルムの膜厚が変化しても、フィルムの導電性を維持することができる、新たなデンドライト状銀粉を提供する。
電子顕微鏡観察(3000倍〜10000倍)した際、主枝から複数の枝が垂直若しくは斜めに分岐して、二次元或いは三次元的に成長した形状を呈する銀粉粒子(「特殊デンドライト状銀粉粒子」と称する)が、観察対象である全銀粉粒子の50個数%以上を占めるデンドライト状銀粉であって、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置によって、前記銀粉を分散剤添加済の水中へ投入し、300wattsの超音波を3分間かけて測定した体積累積粒径D50(「D50D」と称する)が1.0〜15.0μmであり、前記D50Dに対し、銀粉を分散剤添加済の水中へ投入し、超音波をかけないでD50Dと同条件で測定した体積累積粒径D50(「D50N」と称する)の割合(D50N/D50D)が1.0〜10.0であることを特徴とするデンドライト状銀粉を提案する。