特許第6181382号(P6181382)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181382
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】転写用離型ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20170807BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170807BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20170807BHJP
   C08J 7/04 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B32B27/36
   B32B27/00 L
   B32B27/18 D
   C08J7/04 L
   C08J7/04 Z
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-33310(P2013-33310)
(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公開番号】特開2014-162045(P2014-162045A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】301020226
【氏名又は名称】帝人フィルムソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】羽田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】小山松 淳
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−011656(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0315465(US,A1)
【文献】 特開平09−218527(JP,A)
【文献】 特開平08−048004(JP,A)
【文献】 特開2010−090185(JP,A)
【文献】 特開2010−194905(JP,A)
【文献】 特開2012−218392(JP,A)
【文献】 特開2011−161697(JP,A)
【文献】 特表昭63−500927(JP,A)
【文献】 特開平06−041497(JP,A)
【文献】 ハイワックスTM、[online]、不明、三井化学、[2017年 1月30日検索]、インターネット<URL:http://jp.mitsuichem.com/service/packaging/coatings/hi-wax/spec.htm>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
C09J 7/00−7/04
C09K 3/00
3/20−3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に(1)軟化点60℃以上105℃以下であり、かつカルボキシル基濃度が40mmol/100g以上150mmol/100g以下であるカルボキシル基変性ワックス、(2)バインダー樹脂成分および(3)架橋成分を含有し、カルボキシル基変性ワックスの含有量が離型層の重量を基準として5重量%以上50重量%以下である離型層を有してなる離型ポリエステルフィルムであり、DICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部調製し、溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)を用いて作成した不揮発成分が30%のハードコート剤塗布液を含むハードコート剤塗布液を乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、150℃、1分間、熱風オーブンで乾燥し、不完全硬化の状態のハードコート層を作製した後、作製したハードコート層の表面に幅18mmの粘着テープ(ニチバン社製、商品名「No.405−1P」)を貼り合わせた後、金属ローラー(線圧2kg/cm)で圧着し、室温にて30分放置した後、粘着テープをハードコート層と共に剥離する際の、該離型層に対するハードコート層の剥離力が4.0mN/mm以上20mN/mm以下であることを特徴とする転写用離型ポリエステルフィルム。
【請求項2】
該離型層が二軸延伸ポリエステルフィルム上に直接設けられてなる請求項1に記載の転写用離型ポリエステルフィルム。
【請求項3】
離型層がポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布することにより形成される請求項1または2に記載の転写用離型ポリエステルフィルム。
【請求項4】
二軸配向ポリエステルフィルムの離型層と反対側の面にさらに帯電防止離型層を有する請求項1〜のいずれかに記載の転写用離型ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は転写用離型ポリエステルフィルムに関し、詳しくは射出成形等において成形と同時に転写印刷するインモールド転写に用いられる転写箔のベースフィルムとして有用な転写用離型ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インモールド用転写箔として、ポリエステルフィルムをベースフィルムとし、その上に熱硬化性の離型層を設け、この離型層の上にハードコート層、さらに印刷層を塗工し、これら順次積層したものが用いられている。
かかるインモールド用転写箔は、成形転写後に離型層面とハードコート層面との間で剥がされ、分離される。すなわち、成形転写後に印刷層は成形品の表面に接着して製品として取出され、被転写物のハードコート層はその製品の最表面となる。離型層は転写箔のベースフィルムの上に設けられた状態で製品から取り除かれる。また、インモールド転写箔用に適したフィルムとして、離型層とベースフィルムとの接着力を高めるために両層間に接着層を設けることも検討されている。
【0003】
近年、インモールド転写を用いた加工に対し高い生産性を求められており、成形速度を向上させることが試みられている。一方、インモールド転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着が発生し、生産性を落とすことがあり、例えば特許文献1では帯電防止層を有する転写箔用ポリエステルフィルムが検討されている。
また特許文献2において、インモールド用転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性を有し、かつ帯電防止層と印刷層とのはりつきがなく、転写の際に離型層とベースフィルムの剥離のないインモールド転写箔用ポリエステルフィルムとして、ポリエステルフィルムの一方の面に易接着層を有し、他方の面に離型成分を含む帯電防止層を有するフィルムが開示されている。
【0004】
一方、転写用フィルムの帯電防止層側と反対側に設けられる離型層に着目してみると、従来の離型層は各層を積層させた後、被転写物の大きさに合せて適切な幅に切断(スリット)した際、スリットの刃があたるショックによりスリットの部分でハードコート層、印刷層などの転写部分が離型層表面から剥がれる箔こぼれ現象を起こすことがあった。これはベースフィルムの上の離型層とハードコート層間において、層間剥離力が非常に低く、転写に供される部分のみでなく転写に供さない部分も剥離性に優れるために生じるものである。
【0005】
かかる箔こぼれ現象は、ハードコート層のように剥離層が厚くならざるを得ない場合、機能層が多い場合など、転写層の厚さが大きいときほど顕著に生じるものであった。そこでスリット時の箔こぼれを防止するために、ベースフィルムに離型層を設ける際、スリット箇所に当たる部分を除いた帯状のパターンに離型層を設け、その上にハードコート層、印刷層、接着層などからなる転写層を設けたものが検討されている(特許文献3)。しかしながら、かかる方法では被転写物に適した塗工パターンにしなければならないなどの課題がある。
【0006】
また特許文献4において、転写材用フィルムとして従来の熱硬化性の離型層に代えて、熱可塑性樹脂を原料として形成される常態剥離力が2000mN/cm(200mN/mm)以下の離型層を片面に有するポリエステルフィルムが提案されており、離型層を構成する成分の1つとしてフッ素含有樹脂が好ましいことが記載されている。しかしながら特許文献4では、2000mN/cm以下という幅広い剥離力の離型フィルムが開示されているものの、箔こぼれの改善については何も検討されていない。
【0007】
さらに、特許文献5には反応活性点を導入した変性ワックスが離型層の構成成分の1つであり、かかる離型層に粘着テープを貼りつけ評価した常態剥離力が1500〜3000mN/cm(150〜300mN/mm)であることが開示されている。しかし、実際の転写箔は溶剤によって塗布形成した転写層を剥離するのに対し、転写層と異なる粘着力の粘着テープを用いた剥離力評価では転写箔の実際の剥離力との相関が十分でないことがあった。また特許文献5では前述の箔こぼれの改善の検討はなされていない。
【0008】
このように、転写用の離型フィルムがこれまでも検討されているものの、パターン塗工をしなくても箔こぼれを生ずることなく転写後の剥離性を有する転写フィルムは検討されていない。
さらに、箔こぼれに着目して粘着力を高めようとすると、今度は転写箔とハードコート層との粘着が高いため、転写箔上にハードコート層、インキ(印刷)層が積層された状態で成形用樹脂を金型に射出し、金型形状に成形する際に、ハードコート層やインキ層が転写箔の変形に追従できずにクラック(ひび割れ)が生じるといった課題が新たに見出され、これらの課題の解決が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−223800号公報
【特許文献2】特開2006−187951号公報
【特許文献3】特開平11−58584号公報
【特許文献4】特開2007−111964号公報
【特許文献5】特開2009−196321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点を解消し、インモールド転写箔などの基材に用いるフィルムの少なくとも一方の面に離型層を設けるに際し、離型層として、ハードコート層を離型層上に容易に加工でき、かつ転写後はハードコート層と剥離しやすく、しかも被転写物の大きさに合わせた幅にスリット加工する際に箔こぼれ現象が生じない粘着離型特性を有するとともに、ハードコート層などを含む転写物を剥離したときにその転写物にクラック(ひび割れ)現象が発生しない、といった離型特性を有する転写用離型ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に特定の離型成分および架橋剤を含む塗布層を設け、その剥離力を従来のインモールド転写箔の離型層で具体的に検討されていなかった範囲にすることにより、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも箔屑、箔塵および転写物のクラック(ひび割れ)が抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、二軸延伸ポリエステルフィルムの少なくとも片面に(1)軟化点60℃以上105℃以下である変性ワックス、(2)バインダー樹脂成分および(3)架橋成分を含有する離型層を有してなる離型ポリエステルフィルムであり、該離型層に対するハードコート層の剥離力が4.0mN/mm以上20mN/mm以下である転写用離型ポリエステルフィルムによって達成される。
【0013】
また、本発明の転写用離型ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、前記変性ワックスがカルボキシル基変性ワックスであること、前記変性ワックスのカルボキシル基濃度が5mmol/100g以上150mmol/100g以下であること、前記変性ワックスの含有量が離型層の重量を基準として5重量%以上50重量%以下であること、該離型層が二軸延伸ポリエステルフィルム上に直接設けられてなること、離型層がポリエステルフィルムの製膜工程内で塗布することにより形成されること、二軸配向ポリエステルフィルムの離型層と反対側の面にさらに帯電防止離型層を有すること、の少なくともいずれか一つを具備するものを包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエステルフィルムは、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されると同時に剥離時の転写物のクラック(ひび割れ)が抑制されることから、例えばインモールド転写を伴う成形加工といった転写用離型ポリエステルフィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
[ポリエステルフィルム]
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、芳香族二塩基酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とから合成される線状飽和ポリエステルである。かかるポリエステルの具体例として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを例示することができる。
【0016】
ポリエステルは、ホモポリマーであっても、これらポリエステルのうちの1つを主たる成分とする共重合体であってもよく、またはブレンドしたものであってもよい。ここで「主たる成分」とは、ポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として80モル%以上である。また主たる成分の割合は、85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。また、共重合成分またはブレンド成分はポリエステルの繰り返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下であり、好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。ポリエステルとして、ポリエチレンテレフタレートが力学的物性と成形性のバランスがよいので特に好ましい。
【0017】
本発明のポリエステルフィルムは、本発明の課題を損なわない範囲内で、滑剤粒子、着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤を含有してもよい。高透明性や表面平坦性が求められる場合は、滑剤粒子は実質的に含有しないことが好ましい。
ポリエステルフィルムは、例えば次の方法で製造することができる。すなわち、ポリエステルをフィルム状に溶融押出し、キャスティングドラムで冷却固化させて非晶未延伸フィルムとし、縦方向(以下、連続製膜方向、長手方向、MD方向と称することがある)および横方向(以下、幅方向、TD方向と称することがある)に延伸する。縦方向の延伸は例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、縦方向に例えば2.0〜4.0倍、好ましくは2.5〜3.5倍に延伸する。横方向の延伸は、例えば温度60〜130℃、好ましくは90〜125℃で、横方向に例えば2.0〜4.5倍、好ましくは3.0〜4.2倍に延伸する。二軸延伸後の面積倍率は13以下とすることが好ましい。
【0018】
なお、フィルムの延伸後には熱固定処理を行うことが好ましい。熱固定処理は、最終延伸温度より高く融点以下の温度内で1〜30秒の時間内行うことが好ましい。例えばポリエチレンテレフタレートフィルムでは150〜250℃の温度、2〜30秒の時間の範囲で選択して熱固定することが好ましい。その際、20%以内の制限収縮もしくは伸長、または定長下で行い、また2段以上で行ってもよい。
ポリエステルフィルム表面の中心線表面粗さは、好ましくは1〜50nmである。ポリエステルフィルムの表面の中心線表面粗さをこの範囲とすることにより、例えばインモールド転写用途に用いた場合に塗布層の表面の中心線平均表面粗さが1〜40nmであるインモールド転写用フィルムを得ることができる。
ポリエステルフィルムの厚みは、ハンドリング性、成形性の観点から、また必要に応じてさらに透明性の点から好ましくは12〜100μm、さらに好ましくは25〜75μmである。
【0019】
[離型層]
本発明のフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に(1)軟化点60℃以上105℃以下である変性ワックス、(2)バインダー樹脂成分および(3)架橋成分を含有する離型層を有する。
本発明における変性ワックスとはワックスの置換基の一部にカルボニル基、カルボキシル基、ハロゲン基、エステル基、ヒドロキシル基(水酸基)、アミド基、アミノ基などの官能基が導入されたものをいう。
ワックスの種類として、例えばフィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスなどが属する合成炭化水素ワックス、硬化ひまし油、硬化ひまし油誘導体が属する水素化ワックス、炭素数20以上かつ50以下であるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが属する石油ワックス、植物系ワックスであるカルナバワックスや動物系ワックスである鯨ロウなどが属する天然ワックスが挙げられる。
これらのうち好ましいのは、合成炭化水素ワックスをカルボキシル基変性した変性ワックスである。変性ワックスの官能基を後述する架橋成分で架橋化することにより、塗布層に凝集力を付与することができ、耐溶剤性が高まる。
【0020】
本発明における変性ワックスの軟化点は60℃以上105℃以下である。変性ワックスの軟化点の下限値は65℃であることが好ましく、さらに好ましくは70℃である。また変性ワックスの軟化点の上限値は100℃であることが好ましく、さらに好ましくは95℃である。
変性ワックスの軟化点が下限に満たないと常温で液状となり、ポリエステルフィルムをロール形状にしたとき、フィルムの反対面に変性ワックス成分が移行し、十分な離型性能が発現せず、また後述する耐溶剤性が低下する。一方、変性ワックスの軟化点が上限を越えると、離型層が成形時のポリエステルフィルムの伸びに追従できずに凝集破壊され、離型層にクラックが発生する。
ここで、軟化点とはJIS‐K‐2207の環球法に基づき測定される軟化点を示す。
【0021】
本発明における変性ワックスは、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーション(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が10,000以下の有機化合物もしくは高分子化合物で、かつ造膜性を有するものであることが好ましい。かかる数平均分子量を有する変性ワックスを使用することにより、造膜性や耐溶剤性などの種々の特性に優れた離型層を得ることができる。
【0022】
変性ワックスの含有量は、離型層の重量を基準として5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。また変性ワックスの含有量の上限値は、より好ましくは45重量%、さらに好ましくは40重量%である。また変性ワックスの含有量の下限値は、より好ましくは10重量%、さらに好ましくは15重量%、特に好ましくは20重量%である。
変性ワックスの含有量が下限値に満たないと離型性、易滑性が発現しないことがある。一方、変性ワックスの含有量が上限値を超えると離型性が高すぎて本発明の剥離力が得られないことがある。
【0023】
変性ワックスの官能基がカルボキシル基である場合、かかるカルボキシル基濃度は変性ワックス100gに対し、カルボキシル基濃度が5mmol/100g以上150mmol/100g以下であることが好ましい。かかるカルボキシル基濃度の下限値は、より好ましくは40mmol/100g、さらに好ましくは50mmol/100g、特に好ましくは100mmol/100gであり、一方上限値は、より好ましくは140mmol/100g、さらに好ましくは130mmol/100g、特に好ましくは120mmol/100gである。
【0024】
前記カルボキシル基濃度は、はじめに酸価(変性ワックス100gに含まれるカルボキシル基を中和させるために必要な水酸化カリウムのmg数)を求め、水酸化カリウムの分子量(g/mol)で割った値で表わされる。ここで変性ワックスのカルボキシル基濃度は、塗布層を形成する前の変性ワックスのカルボキシル基濃度を表わしている。
カルボキシル基濃度が上限値を超えると造膜性が大きく低下し、塗布外観が不良となることがある。またカルボキシル基濃度が下限値に満たないと変性ワックスの架橋点が少ないため離型層の凝集力が十分でなく、ハードコート剤塗布液に対する耐溶剤性、耐薬品性に乏しくなることがあり、また該層の凝集破壊により離型性能および粘着性能が十分に発現しないことがある。
【0025】
また本発明の離型層は、該層の凝集力を向上させるために架橋剤を添加する必要がある。架橋剤を添加しない場合は離型層の凝集力が十分でなく、本発明の変性ワックスを含有していても凝集破壊が先に生じてしまい、離型性能が十分に発現しない。
架橋剤としては、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物、メチロール化合物、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、ヒドラジド化合物を例示することができ、その他一般的にカップリング剤と称される化合物を用いることもできる。取扱い易さや塗液のポットライフが長いことからエポキシ化合物、オキサゾリン化合物、イソシアネート化合物、メチロール化合物を用いることが好ましく、特に好ましくはエポキシ化合物、オキサゾリン化合物である。
【0026】
架橋剤の含有量は、変性ワックスに含まれる官能基と架橋剤の反応基とが等量であるか、あるいは架橋剤の反応基のモル比が変性ワックスの官能基を1としたとき0.6〜1.5であることが好ましく、特に好ましくは0.8〜1.2である。
架橋剤の反応基のかかるモル比(以下、当量比率と称することがある)が下限に満たないと変性ワックスに未反応の官能基が残存し、十分な耐溶剤性を有する離型層を得ることができない。また、架橋剤の反応基の当量比率が上限を超えると、架橋剤の余剰反応基が自己架橋することがあり、必要以上の架橋反応によって造膜性が低下し、離型層が脆化することがある。
本発明における架橋剤は、ポリエステルフィルム製膜中に使用するため、室温から250℃の範囲で使用できるものが好ましく、変性ワックスの官能基との反応性に応じて選ぶことができる。また必要に応じて、例示した架橋剤以外の架橋剤を併用してもよい。
【0027】
本発明における離型層は、造膜性を得るためにバインダー樹脂も含有される。かかるバインダー樹脂は、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などを用いることができるが、炭素数が3〜20個であるアルキル基を有するモノマーをグラフト重合したアクリル樹脂をバインダー樹脂として用いることが好ましい。かかるバインダー樹脂は塗布層の凝集力を向上させることができ、溶剤に対する耐性を付与することでき好ましい。さらにアルキル基をグラフトさせることにより、塗布層表面が非極性化によって離型性を向上させることができる。
【0028】
上述のグラフト重合アクリル樹脂は、マクロモノマーを乳化重合したエマルジョンであることが好ましく、重合後に高分子量のアルキル基を有するグラフトポリマーを形成することができる。マクロモノマーの重合体成分を構成する単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド類などのアクリル樹脂が挙げられる。
【0029】
本発明のアクリル樹脂において、マクロモノマーと共重合させる単量体は、水性媒体中において乳化重合可能なビニル単量体、またはビニル単量混合体であることが好ましく、常温で液体であることが好ましい。マクロモノマーと共重合可能なビニル単量体としては、アクリレート、メタクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸エステル類などが挙げられる。これらの中でもアクリレートやメタクリレートが好ましく、これらは単独で、または2種類以上併用して使用することができる。
また本発明の離型層は、界面活性剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、増粘剤、有機粒子、無機粒子、酸化防止剤、染料、紫外線吸収剤などの添加剤を含有していても良い。これらの添加剤は単独で用いても良いが、必要に応じて2種以上併用しても良い。
【0030】
[剥離力]
本発明のフィルムの離型層に対するハードコート層の剥離力は4.0mN/mm以上20.0mN/mm以下の範囲である。前記剥離力は、好ましくは5.0mN/mm以上18.0N/mm以下、さらに好ましくは5.0mN/mm以上15.0mN/mm以下、特に好ましくは5.0mN/mm以上10.0mN/mm以下である。
ここで、本発明における剥離力は、離型層上にDICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部含むハードコート組成物を塗布し、150℃、1分で熱風乾燥して熱により不完全硬化させた後の剥離力を測定した値で表わされる。
【0031】
インモールド転写用に使用されるフィルムの離型層が、ハードコート層との剥離力について上述の剥離力を満足する場合に、インモールド転写箔を作成する際にはハードコート塗工剤を離型層上に塗布抜けを生じることなく塗工でき、またハードコート層との粘着性に優れるため、インモールド転写箔を成形品の大きさに合せてスリット加工する際に不要なハードコート層部分が剥離するという箔こぼれ現象も抑制でき、しかもインモールド転写後の転写箔の剥離性にも優れるという、極めて良好な加工適正を奏する。
かかる剥離力が下限値に満たない場合は、ハードコート塗工剤を離型層上に塗工した際の塗布抜けが生じやすく、また化学的親和性に乏しいため、スリット加工時の箔こぼれが生じる。一方、かかる剥離力が上限値を超える場合、離型性に乏しく、インモールド転写後の転写箔の除去が困難となる。
【0032】
[耐溶剤性]
本発明の離型層は、上述の変性ワックスを含有し、かつ架橋剤により架橋構造を有していることにより、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤や、酢酸エチルなどのエステル系溶剤に対する耐溶剤性に優れている。前記溶剤に対する耐溶剤性に優れることにより、メチルエチルケトンなどを溶剤とするハードコート層を離型層上に形成させた際に溶剤による削れ破壊を抑制することができ、離型層とハードコート層の界面で離型層が凝集破壊されず、ハードコート層を剥離できなくなるという問題を抑制することができる。
【0033】
[耐クラック性]
本発明の離型層は上述の変性ワックスを含有し、かつ架橋剤により架橋構造を有していることにより、成型時にハードコート層およびインキ層にかかる応力を緩和し、転写されるハードコート層の耐クラック性が良好なものとなる。
本発明におけるクラックとは、ハードコート層と離型層との剥離力が重いと成形加工時に生じる現象である。詳しくはハードコート層を含む転写層を成型同時転写時に、ハードコート層と離型層との剥離力が重いと転写層の一部分に応力がかかり、その転写層の一部が剥離されず、一部分に割れやヒビが生じる現象である。その結果、微小な傷が観察されたり、白く曇ったように観察されたり、さらには割れやヒビが観察される場合もあり、転写箔の装飾性が著しく失われることがある。
かかる現象は、特にハードコート層が不完全硬化状態であるときに生じる。成形同時転写に用いられるハードコート層の硬化手法の1つとして、成形に供する前にまず熱で不完全硬化し、さらに得られた成形品に紫外線照射することにより完全に硬化する方法が挙げられる。かかる不完全硬化状態のハードコート層に対して本発明の剥離力の塗布層を有する離型フィルムを用いてインモールド転写により成型同時転写を行うことで、クラックのない転写物を得ることができる。
【0034】
[帯電防止離型層]
本発明の転写用離型ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの離型層とは反対側の面にさらに帯電防止離型層を設けることが好ましい。かかる帯電防止離型層は塗布により設けられた帯電防止離型性の塗布層であることが好ましく、また帯電防止剤、離型剤を含有することが好ましい。
帯電防止離型層は、転写用離型ポリエステルフィルムにおいて一般に設けられる層であり、帯電による転写箔同士の貼付きなどを抑えるために帯電性のみならず離型性も付与されることが多いが、かかる層上にハードコート層を設けることはなく、帯電防止性以外に求められる機能も通常はフィルム同士の貼り付き防止に必要な離型力だけで、粘着力は求められておらず、本発明の離型層とは異なる機能層である。
かかる層を有することにより、インモールド用転写箔を取り扱う際に帯電による転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃付着の発生を抑えることができる。
【0035】
帯電防止剤としては公知の種類の帯電防止剤を用いることができ、好ましくはカチオンポリマーを用いることができる。また、離型剤も公知のものを用いることができるが、シリコーン系離型剤を好ましく用いることができる。その他、帯電防止離型層の凝集力を高めるためにさらに架橋剤を用いてもよく、またフィルムへの塗工性を高めるために界面活性剤を用いてもよい。
帯電防止層の厚みは、乾燥後の厚みとして好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.08μmである。帯電防止層の厚みが下限値に満たない場合は帯電防止性が不十分となることがあり、また上限値を超えるとインモールド用転写箔とのブロッキングを起こし易くなることがある。
【0036】
[塗工方式]
本発明において、離型層はポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に設けられてなり、一方の面に設けられることが好ましい。該離型層をポリエステルフィルム上に設ける方法として、ポリエステルフィルムの製膜工程内(インラインと称することがある)で塗布することにより形成されることが好ましい。
従来はポリエステルフィルム上に易接着層を形成し、かかるフィルムをいったんロール状にした後、別工程でハードコート層の下地となる離型層をかかる易接着層上に設ける方法が用いられていたのに対し、本方法の特徴は、ポリエステルフィルムの製膜工程内で離型層をポリエステルフィルム上に直接塗設することができ、工程を簡略化できることにある。また、通常の二軸延伸法によるポリエステルフィルム製造工程における縦延伸後に塗布すれば、横延伸工程中に乾燥、熱処理が行われるため好ましい。
【0037】
塗布によりポリエステルフィルム上に離型層を積層する方法は特に限定されず、例えば、原崎勇次著、槙書店、1979年発行、「コーティング方式」に示されるような塗布方法を用いることができる。具体的には、エアドクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含漬コーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター、押出コーター、バーコーター等のような方法が挙げられる。
塗布液の塗布量は、通常3〜30g/m、好ましくは4〜20g/m、さらに好ましくは5〜10g/mである。塗布量が下限値に満たない場合は十分な離型性が得られないおそれがあり、一方、上限値を超える塗布層は外観の悪化を招くことがある。
【0038】
得られた離型層の厚みは、乾燥後の厚みとして好ましくは0.01〜0.2μm、さらに好ましくは0.01〜0.08μmである。離型層の厚みが下限値に満たない場合は離型性が不十分となることがあり、また上限値を超えると転写用離型ポリエステルフィルムが帯電防止離型層をさらに有する場合に帯電防止離型層とのブロッキングを起こし易くなることがある。
本発明において、帯電防止離型層をさらに有する場合、帯電防止層はポリエステルフィルムの離型層と反対側の面に設けられることが好ましい。また、帯電防止層は塗布により設けられることが好ましい。塗布方法は、離型層と同様の方法を用いることができる。
【0039】
[インモールド転写箔用フィルム]
本発明の転写用離型ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一方の面に特定範囲の軟化点を有する変性ワックス、バインダー樹脂成分および架橋成分を含有してなる塗布層を離型層として有することにより、インモールド成形などの成形用途に用いた場合に、インモールド転写箔作製工程から成形転写に至る間で優れた粘着離型性および加工性を有しており、ハードコート剤の塗布や該ハードコートの剥離、さらにスリット加工の際の箔こぼれ、屑、箔塵の発生、および発生した屑・箔塵の製品表面付着を抑制することができ、生産性を格段に向上させることができる。また、本発明のポリエステルフィルムを、インモールド成形などの成形用途に用いることにより、転写物を剥離したときにその転写物にクラック(ひび割れ)現象が発生しない効果を奏する。
【0040】
また従来は、フィルム製造工程でポリエステルフィルム上に易接着層を積層した後、さらに別工程で該易接着層上に有機溶剤組成の離型剤を塗布した離型層を積層する工程であったところ、本発明の離型層は工程の簡略化、環境低付加、低コスト化の効果をも奏するものである。
本発明の成形用離型ポリエステルフィルムは、離型層と反対面にさらに帯電防止成分を含有してなる離型性の塗布層を有することにより、インモールド転写を行う成形用途に用いた場合に、インモールド転写箔作成過程から成形転写に至る間で優れた帯電防止性及び離型性をも有しており、帯電やブロッキングによる転写箔同士の貼付きや転写箔表面へのゴミや埃などの付着を抑制することができ、生産性を格段に向上させることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、各種物性は下記の方法により評価した。またwt%は重量%を、部は重量部をそれぞれ表わす。
【0042】
(1)軟化点
変性ワックスの水分散体の乾固物をJIS−K−2207の環球法測定に従って軟化点を測定した。
【0043】
(2)塗布層の成分
H−NMR、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析(熱分解GC−MS)、X線光電子分光法(ESCA)測定より、塗布層の各成分の種類および成分量を特定した。
【0044】
(3)塗布層厚み
包埋樹脂でフィルムを固定して断面をミクロトームで切断し、2%オスミウム酸で60℃、2時間染色して、透過型電子顕微鏡(日本電子製JEM2010)を用いて、塗布層の厚みを測定した。
【0045】
(4)変性ワックスの酸価(カルボキシル基濃度)
変性ワックスの酸価(カルボキシル基濃度)について、JIS K0070に従い、中和滴定法を用いた測定で行った。ワックスを0.15g精秤し、ベンジルアルコール5mlを加えて加熱溶解した。これにクロロホルム10mlを混合した後、フェノールレッドを指示薬として加え、撹拌しながら0.1N−KOHベンジルアルコール溶液で中和滴定をおこない、中和に消費されたKOHのmg数を、ワックス100gあたりに換算した値を酸価(カルボキシル基濃度,mmol/100g)として求めた。
【0046】
(5)離型層に対するハードコート層剥離力の測定
ポリエステルフィルムの離型層の表面に、以下に示した熱硬化性のハードコート剤を含むハードコート剤塗布液を乾燥後の厚みが5μmとなるように塗布し、150℃、1分間、熱風オーブンで乾燥し、不完全硬化の状態のハードコート層を作製した。
作製したハードコート層の表面に幅18mmの粘着テープ(ニチバン社製、商品名「No.405−1P」)を貼り合わせた後、金属ローラー(線圧2kg/cm)で圧着した。室温にて30分放置した後、粘着テープをハードコート層と共に剥離し、その時の剥離力を測定した。測定は引張試験機を使用し、引張速度300mm/minの条件下、90°剥離の条件で行った。n=5で評価を行い、その平均値を求めてハードコート層剥離力とした。
(ハードコート剤塗布液)
ハードコート剤としてDICグラフィックス株式会社製のハードコート剤(製品名「5LC114H」)100重量部および該ハードコート剤用硬化剤を3重量部調製し、溶媒としてMEK(メチルエチルケトン)を用いて不揮発成分が30%のハードコート剤塗布液を調製した。
【0047】
(6)離型層に対する常温粘着テープ剥離力の測定
10cm×20cmの離型フィルムサンプルを切り出し、この離型層表面に25mm幅の粘着テープ(No.31B、日東電工株式会社製)を貼り、2kg×45mm幅の圧着ローラーで、1往復荷重をかける。テープを貼り合せたサンプルを25mm幅×150mm長さに切り出し、室温(23℃)にて1時間保管する。31B粘着テープ面側を50mm幅×125mmの長さのSUS板に貼りつけて固定し、引っ張り試験機に固定し、離型フィルムを180゜の角度で剥離速度300mm/分にて剥離し、その荷重を測定する。この測定を5回行い、その平均値を以って剥離力(単位:mN/mm)とした。
【0048】
(7)離型層のヘーズ
JIS K7136に準じ、日本電色工業社製のヘーズ測定器(NDH−2000)を使用して、下記式(2)より離型層のヘーズを測定した。式中、フィルムヘーズとは、ポリエステルフィルム上に離型層が形成されたフィルム全体のヘーズ値であり、離型層未塗工フィルムヘーズとは、離型層を塗工していない状態でのフィルムヘーズを指す。
離型層のヘーズ=フィルムヘーズ−離型層未塗工フィルムヘーズ ・・・(2)
A+ : 0.1%未満
A : 0.1%以上 0.4%未満
B : 0.4%以上 0.8%未満
C : 0.8%以上
この評価で、Aまでが実用性能を満足する。
【0049】
(8)耐クラック性
(5)離型層に対するハードコート層剥離力測定と同じ条件でポリエステルフィルムの離型層の表面にハードコート層を作成し、(5)と同じ条件で粘着テープをハードコート層表面に圧着させたサンプルを用い、引張試験機を使用して、引張速度300mm/minの条件下、90°剥離の条件で粘着テープをハードコート層と共に剥離した。剥離後、粘着テープに張り付いたハードコート層を(株)日立製走査型電子顕微鏡で観察を行った。
○ : 剥離したハードコート層にひび割れが観察されなかった。
△ : 剥離したハードコート層に一部ひび割れが観察された。
× : 剥離したハードコート層にひび割れが観察された。
【0050】
(9)ハードコート剥離時の箔こぼれ性
(8)耐クラック性の測定に準じてハードコート層を粘着テープで剥離した際に粘着テープに引きつられて、余計に剥離されたハードコート層の箔こぼれ発生有無を観察し、評価を行った。
○ : 粘着テープ幅と同じ幅でハードコート層が剥離
△ : 部分的に粘着テープ幅より広くハードコート層が剥離
× : 全体的にテープ幅より広くハードコート層が剥離
【0051】
(10)溶剤ラビング試験(耐溶剤性)
JIS−K5600−8の塗膜劣化評価に従い、ガーゼにメチルエチルケトンを染み込ませ、離型層上にガーゼを載せてその上に総荷重150g(治具の重量150g、追荷重0g)の荷重を負荷しながら塗布層の表面上を1往復させた後、表面に観察された塗布層の剥がれた塗膜幅、傷を観察し、下記の基準で耐溶剤性の評価をした。評価は溶剤ラビング試験を行った部分のうち、2cm×10cmの範囲で観察した。
◎ : 剥離、擦傷とも皆無 ・・・・・・ 溶剤耐性極めて良好
○ : 剥離皆無、擦傷少しあり ・・・・・・ 溶剤耐性良好
△ : 剥離少しあり、擦傷あり ・・・・・・ 溶剤耐性やや良好
× : 剥離あり、擦傷あり ・・・・・・ 溶剤耐性不良
【0052】
[実施例1]
平均粒子径が2μmの酸化ケイ素の粒子を0.01重量%を含む溶融ポリエチレンテレフタレート([η]=0.64dl/g、Tg=78℃)をダイより押出し、常法により冷却ドラムで冷却して未延伸フィルムとし、次いで縦方向に3.4倍に延伸した後、表1に示す塗布層構成成分からなる離型層用塗布液(4wt%塗布液)をフィルムの表面に6g/m(乾燥後の塗布層厚み0.04μm)、帯電防止離型層用塗布液(2.0wt%塗布液)をフィルムの裏面に6g/m(乾燥後の塗布層厚み0.02μm)になるよう、それぞれロールコーターで均一に塗布した。
次いで、この塗布フィルムを引き続いて105℃で乾燥し、140℃で横方向に3.5倍に延伸し、更に220℃で熱固定して、表1に示す塗膜を有する50μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0053】
[実施例2〜3、比較例1〜6]
塗布液の組成を表2に示されるとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、ポリエステルフィルムを得た。
【0054】
[比較例7]
塗布層を設けなかった以外は実施例1と同様にしてポリエステルフィルムを得た。
【0055】
【表1】
【0056】
(離型層組成)
・変性ワックスA :
低密度ポリエチレン420g、無水マレイン酸110g、ジ−tert−ブチルパーオキシド3g及びトルエン280gを攪拌器が取り付けられたオートクレーブ中に加え、窒素置換を約5分行った後、加熱攪拌しながら140℃で4時間反応を行った。反応終了後、反応液を大量のアセトン中に投入し樹脂を析出させた。この樹脂を更にアセトンで数回洗浄し、未反応の無水マレイン酸を除去した。これを減圧乾燥することで、酸価(カルボキシル基濃度)が105mmol/100gの無水マレイン酸変性ポリエチレンワックスを得た。攪拌機を備えたオートクレーブに、得られた無水マレイン酸変性ポリエチレンワックス200g、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル40g、イオン交換水400g、をそれぞれ仕込み、120℃に保った状態で2時間撹拌し、樹脂を十分溶解させた。この溶液を100℃に冷却後、N,N−ジメチルメタノールアミン30gを加えた。3時間攪拌後冷却することで、樹脂濃度(固形分)が30質量%変性ワックスAを得た。
・アクリル系ポリマー : アクリルエマルジョン(東亜合成株式会社製、商品名「アロンA−104」)
・架橋剤 : オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製、商品名「エポクロスWS−300」)
・界面活性剤 : ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製、商品名「ナロアクティーN−70」)
【0057】
(帯電防止層組成)
・シリコーン成分 : エポキシ基含有シリコーン(GE東芝シリコーン株式会社製 商品名TSF4730)
・カチオンポリマー :
下記式(I)に示す構造が80モル%/メチルアクリレート15モル%/N−メチロールアクリルアミド5モル%からなる共重合体を用いた。
【0058】
【化1】
(上式(I)中、R、RはそれぞれHであり、Rは炭素数が3のアルキレン基であり、R、Rはそれぞれ炭素数が1の飽和炭化水素基であり、Rは炭素数が3のヒドロキシアルキレン基であり、Yはメチルスルホネートイオンである。)
【0059】
・架橋剤 : オキサゾリン化合物(株式会社日本触媒製、商品名「エポクロスWS−300」)
・界面活性剤 : ポリオキシエチレン(n=7)ラウリルエーテル(三洋化成株式会社製、商品名「ナロアクティーN−70」)
・変性ワックスB : 低密度ポリエチレン180g、無水マレイン酸135gに変更した以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%の変性ワックスBを得た。
・変性ワックスC : 中密度ポリエチレン400g、無水マレイン酸120gに変更した以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%の変性ワックスCを得た。
・変性ワックスD : 炭素数26のカルボキシル基を有する飽和炭化水素ワックス(ベーカー・ペトロライト社製、商品名「ユニシッド350」)をN,N−ジメチルメタノールアミンを用いて中和し、乳化剤としてエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテルを用いて、樹脂濃度(固形分)が30質量%の変性ワックスDを得た。
・変性ワックスE : 中密度ポリエチレン400g、無水マレイン酸130gに変更した以外は実施例1と同様の方法により、樹脂濃度(固形分)が30質量%の変性ワックスEを得た。
・無変性ワックス : 飽和炭化水素ワックス (松本油脂株式会社製、商品名「マーポゾールPO−N」)
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリエステルフィルムは、優れたハードコート加工性および剥離性を有し、しかも適切な幅で切断(スリット)した際、箔こぼれ現象が抑制されると同時に剥離時の転写物のクラック(ひび割れ)が抑制されることから、例えばインモールド転写を伴う成形加工といった転写用離型ポリエステルフィルムとして好適に使用することができる。