【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
<回分試験>
[実施例1]
図1に示す構成からなる固定床型接触担体水処理装置を建設した。生物処理槽18の容量は520L、中和槽3の容量は24Lである。生物処理槽18の容量1m
3あたり表面積が60m
2となるように波形の塩化ビニル製の担体9を投入した。
【0025】
処理装置の組立て後、装置に還元性硫黄化合物を含む製鉄所の工場排水を通水した。排水の水質を表1に示す。通水後、生物処理槽18に生物処理の種菌として、ハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を10
7cfu/mLとなるように添加した。
【0026】
【0027】
種菌投入後、曝気処理を開始し、生物処理槽18のpHが6〜7となるように制御して運転した。排水処理の過程で担体9には硫黄酸化細菌および無機物が徐々に付着し、生物膜が形成された。
排水処理の開始後、定期的に処理水のCODを測定し、本発明の排水処理方法の有効性を評価した。CODの経時変化を
図2中に実線で示す。排水処理の開始後、処理水のCODは下がり続け、処理開始から約24時間で10mg/L程度に下がり、定常状態となった。
【0028】
[比較例1]
種菌としてハロチオバチルス属のSAB−1株の代わりに都市下水の下水処理場の活性汚泥混合液を使用し、活性汚泥濃度が1000mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例1と同様にして、排水処理を行った。処理水のCODの経時変化を
図2中に破線で示す。
COD濃度の低下は、実施例1と比べて遅く、実施例1と比べて約1.5倍の36時間後に定常状態に達した。
【0029】
以上の結果より生物処理槽に担体を設置し、種菌としてハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を使用することにより、担体に種菌が定着し、還元性硫黄を含有する排水を効率的に浄化できることが明らかとなった。
【0030】
<通水試験>
[実施例2]
上記実施例1で48時間の回分試験を行った後、次いで、通水試験を行った。排水としては、表2に示す組成の還元性硫黄化合物を含む製鉄所の工場排水を用いた。生物処理槽18に対する排水の水理学的滞留時間(HRT)をまず12時間とし、次いで、1日ごとに、6時間、4時間、2時間、1.5時間と短縮し、その後、HRT1.5時間で1週間通水した。処理水のCOD濃度の測定結果を
図3に実線で示す。
滞留時間を1.5時間とした5日後以降も、COD濃度は11mg/L以下で推移し、安定して水処理をすることができた。
【0031】
【0032】
[比較例2]
上記比較例1で48時間の回分試験を行った後、次いで、実施例2と同様の手順で通水試験を行った。処理水のCOD濃度の測定結果を
図3に破線で示す。
滞留時間を1.5時間とした5日後からはCODが上昇し、18〜19mg/Lで推移した。
【0033】
上記の通水試験の結果より、本発明の排水処理方法を使用することにより、還元性硫黄化合物を含む排水を安定的に処理できることが明らかとなった。特に、生物処理槽の種菌として、ハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を用いた場合には、HRTが1.5時間と短い場合であっても、安定して浄化処理ができることが示された。
【0034】
<担体の材質の検討>
[実施例3]
図1に示す固定床型接触担体水処理装置の生物処理槽18に、該生物処理槽の容量1m
3あたり担体の表面積が60m
2となるように波形の塩化ビニル製の担体(比表面積100m
2/m
3)を設置した。生物処理槽の種菌として、ハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を10
7cfu/mLとなるように添加した。
【0035】
中和槽3で排水のpHが10となるように調整し、生物処理槽18のpHが6〜7で維持されるように調整しつつ、ORPが100mV以上となるまで曝気処理を行った。その後、通水(排水タンク1からの原水の導入と放水口22からの処理水の排出)を開始した。この際、生物処理槽18中のORPが100mV以上となるように、中和後の排水の流入量を制御しながら、HRTが2時間になるまで、排水供給量を徐々に増加させた。この間、担体9には硫黄酸化細菌およびカルシウムに由来する無機物が徐々に付着し、生物膜を形成した。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは9mg/Lであった。
【0036】
実験開始1週間後からHRTを4時間として2ヶ月間通水した後担体を回収し、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を
図4に示す。
また、担体の生物膜から微生物を単離し、16S RNA解析を行ったところ、主にハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株が存在していることが確認された。
【0037】
[実施例4]
生物処理槽18に設置する担体として、波形のポリプロピレン製の担体(比表面積80m
2/m
3)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして排水処理を行い、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を
図4に示す。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは12mg/Lであった。
【0038】
[実施例5]
生物処理槽18に設置する担体として、波形のポリエチレン製の担体(比表面積75m
2/m
3)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして排水処理を行い、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を
図4に示す。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは14mg/Lであった。
【0039】
[比較例3]
生物処理槽18に設置する担体として、中空円筒形のセラミック製の担体(比表面積120m
2/m
3)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして排水処理を行い、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を
図4に示す。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは13mg/Lであった。
【0040】
上記の担体の材質評価の結果から、担体の材質により付着するSSの量が大きく異なること、および、付着するSS量の相違は、主として無機成分の量に起因することが明らかとなった。
具体的には、セラミック製担体を使用した場合、プラスチック製(塩化ビニル、ポリプロピレンまたはポリエチレン)の担体を使用した場合と比べ、無機成分由来のSS量が多かった。このことから、セラミック製担体には無機成分由来のSSが大量に付着し、これが担体への硫黄酸化細菌の定着を妨げていると考えられる。
また、塩化ビニル製の担体を使用した場合、最も有機成分由来のSS量が多かった。このため、塩化ビニル製の担体を使用した場合には、硫黄酸化細菌の付着が最も多くなり、その結果CODを最も安定に処理することができ、SSの総量が最小になったと考えられる。