特許第6181386号(P6181386)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181386還元性硫黄化合物含有排水の処理方法及び生物処理槽
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181386
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】還元性硫黄化合物含有排水の処理方法及び生物処理槽
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20060101AFI20170807BHJP
   C02F 3/10 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C02F3/34 Z
   C02F3/10 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-46437(P2013-46437)
(22)【出願日】2013年3月8日
(65)【公開番号】特開2014-171964(P2014-171964A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年2月22日
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-1543
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000156581
【氏名又は名称】日鉄住金環境株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】森 紀之
(72)【発明者】
【氏名】兼森 伸幸
(72)【発明者】
【氏名】山下 修示
(72)【発明者】
【氏名】大澤 輝真
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 勇摩
(72)【発明者】
【氏名】岡本 吉博
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑和子
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−029746(JP,A)
【文献】 特開平07−251195(JP,A)
【文献】 特開2010−234180(JP,A)
【文献】 特開2005−238185(JP,A)
【文献】 再公表特許第2011/148949(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00−3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
還元性硫黄化合物を含む排水を、曝気処理を行う生物処理槽で処理する排水の処理方法において、前記生物処理槽内にプラスチック製の板状の担体を沈めて使用し、かつ、前記担体の表面に、硫黄酸化細菌として、ハロチオバチルス(Halothiobacillus)属に属するSAB−1株(受託番号:NITE P−1543)を定着させたものを使用することを特徴とする還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法。
【請求項2】
前記プラスチック製の担体が、塩化ビニル製、ポリプロピレン製またはポリエチレン製のいずれかである請求項1に記載の還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法。
【請求項3】
前記担体の表面積が、前記生物処理槽の容積1m3あたり20〜200m2である請求項1または2に記載の還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法。
【請求項4】
前記生物処理槽において、該槽内の処理中のpHを6〜7に制御し、かつ、ORPを+100mV以上に維持する請求項1〜3のいずれか1項に記載の還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法。
【請求項5】
前記担体が、前記SAB−1株を106cfu/mL以上含む活性汚泥中に前記担体を置いて曝気することで、担体の表面に上記硫黄酸化細菌を含む生物膜を形成させることによって、前記SAB−1株の種菌を担体の表面に定着させたものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法に使用される曝気処理を行う生物処理槽であって、使用の際に該生物処理槽内に固定して使用されるプラスチック製の板状の担体が、その表面に、硫黄酸化細菌としてハロチオバチルス(Halothiobacillus)属に属するSAB−1株(受託番号:NITE P−1543)を含む生物膜が形成されてなる、前記SAB−1株の種菌が前記担体表面に定着してなるものであることを特徴とする生物処理槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の処理方法に関し、より詳しくは、還元性硫黄化合物を含有する排水を効率よく、かつ低コストで浄化することができる排水の生物処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
還元性硫黄化合物を含有する排水は、写真工業、石油精製工業、化学工業、金属精錬工業および鉱山などから発生するが、還元性硫黄化合物自体のCOD(化学的酸素要求量)が高いため、下水への放流前に浄化処理が必要である。
このような還元性硫黄化合物含有排水の浄化処理方法としては、次亜塩素酸ソーダや過酸化水素などの酸化剤を用いて、還元性硫黄化合物を化学的に処理する方法がある。酸化剤を使用する方法は簡便ではあるが、酸化剤は高価であることから処理費用が高コストになるという問題がある。また、近年の化学物質に対する規制強化により、排水中に残留するこれらの酸化剤の存在も問題とされている。このため、環境に対する影響の少ない、微生物を用いた排水処理方法(生物処理方法)が求められている。
【0003】
生物処理方法の例としては、まず、活性汚泥法による処理が考えられる。しかし、活性汚泥処理には沈澱槽が必要であり、その設置には広大な敷地面積を必要とすることから、場所によっては適用できない場合も多い。
そこで、排水処理設備の省スペース化のため、生物処理槽にセラミック製の担体を投入し、これに硫黄酸化細菌を定着させる排水処理方法が開発されている(特許文献1、2参照)。
しかし、硫黄酸化細菌の固定化担体を用いる場合、担体への細菌の定着が遅いと、処理の立ち上げ時に、担体に定着していない汚泥成分が生物処理槽から流出し、処理水中のSS濃度が増加してしまうという問題がある。また、都市下水由来の汚泥を種汚泥として使用する場合、汚泥中の硫黄酸化細菌数が非常に少ないことから、大量に汚泥を投入する必要があり、その運搬コストや処理装置の立ち上げに長時間を要することが問題となっている。
このため、処理の開始時に必要な種汚泥の量を低減でき、かつ、装置の立ち上げ期間を短縮できる排水処理方法が求められている。また、還元性硫黄化合物の処理に有用な細菌であって、かつ、担体への定着性に優れた細菌が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2582695号公報
【特許文献2】特許第3241565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、還元性硫黄化合物を含む排水の生物処理における上記の問題点を解消し、還元性硫黄化合物を含む排水による環境汚染を生じることなく、該排水を迅速かつ安価に浄化することができる排水処理方法を提供することにある。また、該方法を実施するための排水処理装置を提供することも、本発明の目的である。さらに、該方法への使用に適した細菌を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは、担体に硫黄酸化細菌を定着させ、その担体を用いて還元性硫黄化合物を含む排水を安定して処理できる方法について鋭意検討を行い、以下の本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、生物処理槽において硫黄酸化細菌としてハロチオバチルス(Halothiobacillus)属に属するSAB−1株(受託番号:NITE P−1543)を定着させたプラスチック製の担体を使用し、かつ、曝気処理を行うことを特徴とする還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法である。
【0007】
その好ましい形態としては、前記プラスチック製の担体が、塩化ビニル製、ポリプロピレン製またはポリエチレン製のいずれかであること;前記担体の表面積が、前記生物処理槽の容積1m3あたり20〜200m2であること;前記生物処理槽において、該槽内の処理中のpHを6〜7に制御し、かつ、ORPを+100mV以上に維持することが挙げられる。
【0008】
また、本発明は、硫黄酸化細菌としてハロチオバチルス(Halothiobacillus)属に属するSAB−1株(受託番号:NITE P−1543)を106cfu/mL以上含む活性汚泥中にプラスチック製の担体を置いて、その表面に上記硫黄酸化細菌を含む生物膜を形成させる工程、生物処理槽中に上記担体を固定する工程、次いで、上記生物処理槽中で曝気処理を行う工程を有することを特徴とする還元性硫黄化合物を含む排水の処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、還元性硫黄化合物を含む排水を、環境汚染を生じることなく浄化処理できる排水処理方法が提供される。特に、従来の生物処理方法と比べて浄化処理開始までの期間を短縮できる改善された排水処理方法が提供される。また、本発明の方法を実施するための排水処理装置は、沈澱槽を設置する必要がないため、狭い敷地面積においても排水処理を行うことができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の排水処理方法を実施するための生物処理装置の模式図である。
図2】回分試験におけるCOD濃度を示すグラフである。
図3】通水試験におけるCOD濃度を示すグラフである。
図4】担体に付着したSS量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明の排水の処理方法の基本構成について、図1を参照しながら説明する。
なお、本発明において「排水」とは、排水処理に供される水のことをいい、「処理水」とは、排水処理を施された水のことをいう。
また、本発明において「回分試験」とは、試験開始時に処理系内に排水を満たし、以後排水を系内に導入しないで行う浄化処理試験をいい、「通水試験」とは、連続的に系外から排水を導入し、系外に処理水を排出して行う浄化処理試験をいう。
【0012】
本発明の実施においては、まず、還元性硫黄化合物を含む排水を生物処理槽18に導入する。還元性硫黄化合物とは、SO2よりも還元性の高い硫黄化合物の総称であり、具体的には硫化水素(H2S)、単体硫黄(S)、チオ硫酸塩(S232-の化合物)などを挙げることができる。
還元性硫黄化合物を含む排水の例としては、製鉄所から発生する工場排水を挙げることができる。該排水は、還元性硫黄化合物の濃度が高いことに加え、Ca2+濃度も500〜1000mg/L程度と高い値を示す。また、pHが12〜13と高アルカリ性を示すことがある。排水が高アルカリ性の場合、本発明の排水処理方法を適用する前に、必要に応じて中和槽3にて塩酸などの中和剤を添加して中和処理を行うことが好ましい。中和後のpHとしては、7〜12であることが好ましく、10〜11であることがより好ましい。
【0013】
生物処理槽の容量は、処理対象である排水の量や設置スペースに応じて適宜決定すればよい。
本発明においては、生物処理槽において硫黄酸化細菌としてハロチオバチルス(Halothiobacillus)属に属するSAB−1株(独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに、2013年2月20日(寄託日)付けで受領され、受託番号:NITE P−1543が付与された)を定着させたプラスチック製の担体を使用する。
【0014】
硫黄酸化細菌とは、硫黄または無機硫黄化合物を酸化して生活する細菌の総称であるが、本発明においては、硫黄酸化細菌の中でも上記SAB−1株を使用する。この菌株を使用することにより、本発明の処理方法の立ち上げに要する時間を短縮でき、かつ、処理水の水質も向上することができる。
【0015】
本発明で使用するSAB−1株は、グラム陰性の独立栄養細菌であり、その16SrDNAについてBLAST相同性検索をした結果、ハロチオバチルス属に属する菌株であることが判明した。本発明においては、担体の表面に定着したSAB−1株が排水中の還元性硫黄化合物の処理を担い、排水中のH2S、S、S232-を最終的にSO42-に酸化する。
【0016】
本発明では、上記硫黄酸化細菌であるSAB−1株を定着させたプラスチック製の担体を使用して排水処理を行う。還元性硫黄化合物を含む排水、特に上述の製鉄所の工場排水にはカルシウムが多く含まれている。カルシウムは、曝気により供給される空気中のCO2と反応し、炭酸カルシウムを形成しやすい。炭酸カルシウムはアルカリ側のpHで形成されやすいので、炭酸カルシウムの形成を防ぐ観点からは、生物処理槽内のpHは6〜6.5であることが特に望ましい。
【0017】
プラスチック製の担体は、従来使用されているセラミックス製の担体と比べてカルシウムの沈着が少ないという利点がある。従来使用されているセラミック製の担体は、原材料中にカルシウム化合物を含有している。このため、焼成しているとはいえ、カルシウムの溶出が認められる場合があり、このことが炭酸カルシウムの沈着を促進すると考えられる。一方、プラスチック担体は、カルシウムの溶出はなく、細菌固定用の担体として優れている。さらにプラスチック製の担体は、曝気を強めることにより、沈着したカルシウムを容易に剥離できるという点でも優れている。
【0018】
担体に硫黄酸化細菌であるSAB−1株を定着させる処理の一例として、排水処理を行う前に、図1に記載するような排水処理装置において、生物処理槽18中で担体9に硫黄酸化細菌のSAB−1株を定着させる方法を挙げることができる。具体的には、硫黄酸化細菌であるSAB−1株を前培養して、該細菌を108〜1012cfu/mL含む培地を用意する。この培地を菌体の濃度が106cfu/mL以上となるように生物処理槽18に添加し、この槽内に担体9を設置して曝気処理を行うことによりSAB−1株の種菌を担体9の表面に定着させることができる。
【0019】
本発明で使用するプラスチック製の担体は、上記生物処理槽の中に沈めて使用する。該担体は浮上することがないよう、生物処理槽内に固定して使用することが好ましい。
上記プラスチック製の担体の素材は耐久性に優れたものであれば特に制限されず、例としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリ塩化ビニル、ポリアミド等が挙げられるが、素材の耐久性と沈着したカルシウムの剥離の容易さから、塩化ビニル製、ポリプロピレン製またはポリエチレン製のいずれかであることが好ましい。
【0020】
上記担体の形状には特に制限はないが、例えば波板状のものを好適に使用できる。波板状の担体の具体例としては、ピッチ(波の山から隣の山までの幅)が3.2cm、板の厚みが約4mmであるものを挙げることができる。
硫黄酸化細菌は担体の表面に生物膜を形成して定着する。担体の単位容積当たりの表面積である比表面積を増やすことにより、担体の使用量に対して定着する硫黄酸化細菌の量を増やすことができる。担体の比表面積は50〜300m2/m3の範囲とすることが好ましい。
【0021】
本発明において、排水処理を主として担うSAB−1株の存在量は、生物処理槽内における担体の表面積に依存する。このため、曝気の効率や処理速度を維持する観点から、担体の表面積は、生物処理槽の容量に対して一定範囲内にあることが好ましい。具体的には、生物処理槽の容積1m3あたり20〜200m2であることが好ましい。
【0022】
本発明に使用するハロチオバチルス属に属するSAB−1株は、生育に適したpHが3〜8であるため、生物処理槽内のpHを3〜8とすることが好ましく、処理水を公共用水域に放流することを考慮して6〜7とすることがより好ましい。排水中に含まれる還元性硫黄化合物(例えばチオ硫酸化合物)を化学的に硫酸化合物に酸化したときの酸化還元電位は、自由エネルギー変化量ΔG0より計算すると約150mVである。このため、生物処理槽内の酸化還元電位(ORP)は、+100mV以上であることが好ましく、+150mV以上であることがより好ましい。
上記生物処理槽内のpHは、例えば、pHセンサーを用いて検出し、塩酸や水酸化ナトリウムを添加することにより調整することができる。一方、生物処理槽内のORPはORPセンサーを用いて測定することができる。
【0023】
また、本発明では生物処理槽で曝気処理を行うことを必須の構成とする。生物処理槽での曝気量は30m3−air/m2−槽底面積/h以下とすることが好ましいが、曝気量が少ないと流動しにくくなり、曝気量が多すぎると担体の表面に定着した生物膜が剥離、脱落してしまうため、曝気量は5〜15m3−air/m2−槽底面積/hの範囲とすることが好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明する。
<回分試験>
[実施例1]
図1に示す構成からなる固定床型接触担体水処理装置を建設した。生物処理槽18の容量は520L、中和槽3の容量は24Lである。生物処理槽18の容量1m3あたり表面積が60m2となるように波形の塩化ビニル製の担体9を投入した。
【0025】
処理装置の組立て後、装置に還元性硫黄化合物を含む製鉄所の工場排水を通水した。排水の水質を表1に示す。通水後、生物処理槽18に生物処理の種菌として、ハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を107cfu/mLとなるように添加した。
【0026】
【0027】
種菌投入後、曝気処理を開始し、生物処理槽18のpHが6〜7となるように制御して運転した。排水処理の過程で担体9には硫黄酸化細菌および無機物が徐々に付着し、生物膜が形成された。
排水処理の開始後、定期的に処理水のCODを測定し、本発明の排水処理方法の有効性を評価した。CODの経時変化を図2中に実線で示す。排水処理の開始後、処理水のCODは下がり続け、処理開始から約24時間で10mg/L程度に下がり、定常状態となった。
【0028】
[比較例1]
種菌としてハロチオバチルス属のSAB−1株の代わりに都市下水の下水処理場の活性汚泥混合液を使用し、活性汚泥濃度が1000mg/Lとなるように添加したこと以外は実施例1と同様にして、排水処理を行った。処理水のCODの経時変化を図2中に破線で示す。
COD濃度の低下は、実施例1と比べて遅く、実施例1と比べて約1.5倍の36時間後に定常状態に達した。
【0029】
以上の結果より生物処理槽に担体を設置し、種菌としてハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を使用することにより、担体に種菌が定着し、還元性硫黄を含有する排水を効率的に浄化できることが明らかとなった。
【0030】
<通水試験>
[実施例2]
上記実施例1で48時間の回分試験を行った後、次いで、通水試験を行った。排水としては、表2に示す組成の還元性硫黄化合物を含む製鉄所の工場排水を用いた。生物処理槽18に対する排水の水理学的滞留時間(HRT)をまず12時間とし、次いで、1日ごとに、6時間、4時間、2時間、1.5時間と短縮し、その後、HRT1.5時間で1週間通水した。処理水のCOD濃度の測定結果を図3に実線で示す。
滞留時間を1.5時間とした5日後以降も、COD濃度は11mg/L以下で推移し、安定して水処理をすることができた。
【0031】
【0032】
[比較例2]
上記比較例1で48時間の回分試験を行った後、次いで、実施例2と同様の手順で通水試験を行った。処理水のCOD濃度の測定結果を図3に破線で示す。
滞留時間を1.5時間とした5日後からはCODが上昇し、18〜19mg/Lで推移した。
【0033】
上記の通水試験の結果より、本発明の排水処理方法を使用することにより、還元性硫黄化合物を含む排水を安定的に処理できることが明らかとなった。特に、生物処理槽の種菌として、ハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を用いた場合には、HRTが1.5時間と短い場合であっても、安定して浄化処理ができることが示された。
【0034】
<担体の材質の検討>
[実施例3]
図1に示す固定床型接触担体水処理装置の生物処理槽18に、該生物処理槽の容量1m3あたり担体の表面積が60m2となるように波形の塩化ビニル製の担体(比表面積100m2/m3)を設置した。生物処理槽の種菌として、ハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株を107cfu/mLとなるように添加した。
【0035】
中和槽3で排水のpHが10となるように調整し、生物処理槽18のpHが6〜7で維持されるように調整しつつ、ORPが100mV以上となるまで曝気処理を行った。その後、通水(排水タンク1からの原水の導入と放水口22からの処理水の排出)を開始した。この際、生物処理槽18中のORPが100mV以上となるように、中和後の排水の流入量を制御しながら、HRTが2時間になるまで、排水供給量を徐々に増加させた。この間、担体9には硫黄酸化細菌およびカルシウムに由来する無機物が徐々に付着し、生物膜を形成した。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは9mg/Lであった。
【0036】
実験開始1週間後からHRTを4時間として2ヶ月間通水した後担体を回収し、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を図4に示す。
また、担体の生物膜から微生物を単離し、16S RNA解析を行ったところ、主にハロチオバチルス属の菌株であるSAB−1株が存在していることが確認された。
【0037】
[実施例4]
生物処理槽18に設置する担体として、波形のポリプロピレン製の担体(比表面積80m2/m3)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして排水処理を行い、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を図4に示す。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは12mg/Lであった。
【0038】
[実施例5]
生物処理槽18に設置する担体として、波形のポリエチレン製の担体(比表面積75m2/m3)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして排水処理を行い、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を図4に示す。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは14mg/Lであった。
【0039】
[比較例3]
生物処理槽18に設置する担体として、中空円筒形のセラミック製の担体(比表面積120m2/m3)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして排水処理を行い、担体に付着したSS量、SS中の有機成分量および無機成分量を測定した。結果を図4に示す。処理開始後1日から20日までの処理水の平均CODは13mg/Lであった。
【0040】
上記の担体の材質評価の結果から、担体の材質により付着するSSの量が大きく異なること、および、付着するSS量の相違は、主として無機成分の量に起因することが明らかとなった。
具体的には、セラミック製担体を使用した場合、プラスチック製(塩化ビニル、ポリプロピレンまたはポリエチレン)の担体を使用した場合と比べ、無機成分由来のSS量が多かった。このことから、セラミック製担体には無機成分由来のSSが大量に付着し、これが担体への硫黄酸化細菌の定着を妨げていると考えられる。
また、塩化ビニル製の担体を使用した場合、最も有機成分由来のSS量が多かった。このため、塩化ビニル製の担体を使用した場合には、硫黄酸化細菌の付着が最も多くなり、その結果CODを最も安定に処理することができ、SSの総量が最小になったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、還元性硫黄化合物を含む排水を、環境汚染を生じることなく浄化処理できる排水処理方法が提供される。特に、従来の生物処理方法と比べて浄化処理開始までの期間を短縮できる改善された排水処理方法が提供される。また、本発明の方法を実施するための排水処理装置は、沈澱槽を設置する必要がないため、狭い敷地面積においても排水処理を行うことができるという利点がある。
【符号の説明】
【0042】
1:排水タンク
2:原水送液ポンプ
3:中和槽
4:攪拌機
5:pHセンサー
6:HClポンプ
7:HClタンク
8:散気管
9:担体
10:HClポンプ
11:HClタンク
12:pHセンサー
13:NaOHポンプ
14:NaOHタンク
15:ORPセンサー
16:DOセンサー
17:ブロワー
18:生物処理槽
22:放水口
【受託番号】
【0043】
NITE P−1543
図1
図2
図3
図4