(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
この種の冷凍回路用の圧縮機は作動流体としての冷媒を圧縮し、この冷媒には通常、潤滑油が含まれている。この冷媒中の潤滑油は圧縮機内の摺動面や軸受等の潤滑のみならず、摺動面のシールとしての機能を有する。しかしながら、この潤滑油が冷凍回路内を循環する場合には、油膜が熱交換を阻害し、且つ圧力損失をも生じるため、冷凍・空調装置の冷房能力を低下させる要因となる。
【0003】
このため、この種の圧縮機には潤滑油分離装置が内蔵されることがある。この潤滑油分離装置は圧縮機内にて圧縮された冷媒が吐出室から吐出口に導かれるまでの過程にて、圧縮冷媒から潤滑油を分離する。より詳しくは、潤滑油分離装置は、吐出室と吐出口との間に配置された分離室を有し、噴出孔を介して分離室に吐出室内の圧縮冷媒を導入して圧縮冷媒から潤滑油を分離する。そして、分離された潤滑油は分離室の下方の貯油室に蓄えられるようになっている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この圧縮機はスクロール型圧縮機であって、ハウジング内には圧縮ユニットとしてのスクロールユニットが収容されている。このスクロールユニットは互いに噛み合う可動スクロール及び固定スクロールから構成されている。これらスクロールの噛み合いはその内部に上記圧縮室を形成し、この圧縮室の容積が固定スクロールに対する可動スクロールの旋回運動に伴い増減される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の圧縮機では、ハウジング及び固定スクロールの背面にそれぞれ凹部を鋳造成型することにより断面略円柱状の分離室を形成している。また、分離室への冷媒の噴出孔、及び分離室で分離した後に貯油室に導入する潤滑油の導入孔はハウジング及び固定スクロールの背面の双方を切り欠くことで形成されている。また、分離室内には分離管が設けられている。この構造では、分離室と分離室に連通される冷媒の吐出室及び貯油室とが固定スクロールの背面に設けられた吐出弁を取り囲む配置とせざるを得ないため、吐出弁の形状の設計上の自由度が阻害される。
【0007】
詳しくは、疲労強度も考慮した吐出弁の形状とするには、吐出弁を圧縮機の胴径を拡大するか、或いは、分離室等が吐出弁と干渉しないように、固定スクロールの背面と代替となってハウジングと係合する中間板を設け、ハウジングと中間板とに挟まれた空間に吐出弁を配置する他ない。前者の場合には圧縮機が駆動軸の径方向に大型になり、後者の場合には圧縮機が駆動軸の軸線方向に大型になり、ハウジングの形状も複雑になるため、例えば車両に要求される圧縮機搭載に関する寸法規定を満たすことができないという問題がある。
【0008】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下を抑制しながら、圧縮機の製造コストの低減化、及び圧縮機の小型化を図ることができる圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、請求項1記載の圧縮機は、潤滑油を含む作動流体の圧縮室を形成する圧縮ユニットと、圧縮ユニットとの間に作動流体の吸入室を形成するとともに、吸入室、圧縮ユニット、圧縮室を経て順次連なる作動流体の吐出室及び吐出口を備えるハウジングと、作動流体の流れ方向でみて吐出室よりも下流で且つ吐出口よりも上流に設けられ、圧縮ユニットの背面に凹設された第1凹部を有し
、作動流体から潤滑油を分離する分離室と、背面と吐出口との間に位置付けられ、吐出室と外気とをシールし、且つ、第1凹部
の一部を塞いで分離室を画定するガスケットとを具備し
、ガスケットは、分離室と吐出口とを連通する作動流体の噴出孔を備え、第1凹部は、雌テーパ面を有する円錐台形状に形成され、第1凹部の一部をガスケットの噴出孔を含む平坦面で塞いで分離室を形成し、分離室は、雌テーパ面に沿った作動流体の旋回による遠心力により作動流体から潤滑油を分離することを特徴としている。
請求項2記載の発明では、潤滑油を含む作動流体の圧縮室を形成する圧縮ユニットと、圧縮ユニットとの間に作動流体の吸入室を形成するとともに、吸入室、圧縮ユニット、圧縮室を経て順次連なる作動流体の吐出室及び吐出口を備えるハウジングと、作動流体の流れ方向でみて吐出室よりも下流で且つ吐出口よりも上流に設けられ、圧縮ユニットの背面に凹設された第1凹部を有し、作動流体から潤滑油を分離する分離室と、背面と吐出口との間に位置付けられ、吐出室と外気とをシールし、且つ、第1凹部の一部を塞いで分離室を画定するガスケットとを具備し、ガスケットは、分離室と吐出口とを連通する作動流体の噴出孔と、噴出孔を含む面を底部として第1凹部に向けて開口した第2凹部とを有し、第2凹部により第1凹部の一部を塞いで分離室を画定することを特徴としている。
請求項3記載の発明では、請求項2の場合において、第1凹部及び第2凹部は、それぞれ雌テーパ面を有する円錐台形状に形成され、分離室は、第1凹部及び第2凹部の円錐台形状を形成する大径端同士を合わせた形状を有する。
【0010】
請求項
4記載の発明では、背面に第1凹部から吐出室側に向けて凹設された第1溝部を有し、第1溝部をガスケットにより閉塞することで吐出室と分離室とを連通するように画定される作動流体の噴出路を備える。
請求項
5記載の発明では、ガスケットは、分離室と吐出口とを連通する作動流体の噴出孔を備える。
【0011】
請求項
6記載の発明では、ハウジング内にて作動流体から分離された潤滑油を貯える貯油室と、背面に第1凹部から貯油室側に向けて凹設された第2溝部を有し、第2溝部をガスケットにより閉塞することで貯油室と分離室とを連通するように画定される潤滑油の導入路とを備える。
請求項
7記載の発明では、ガスケットは、吐出口と導入路とを連通する潤滑油の導入孔を備える。
【0012】
請求項
8記載の発明では、噴出路は、分離室の外周接線に沿い且つ水平よりも上向きに分離室に開口されている。
請求項
9記載の発明では、導入路は、分離室内の作動流体の旋回流に対向し且つ水平よりも上向きに分離室に開口されている。
請求項8記載の発明では、導入路は、分離室の外周接線に沿い且つ水平よりも上向きに延設された複数の突起部を有する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の本発明の圧縮機によれば、ガスケットが圧縮ユニットの背面に凹設された第1凹部
の一部を塞いで作動流体からの潤滑油の分離室を画定する。
ガスケットは、分離室と吐出口とを連通する作動流体の噴出孔を備え、第1凹部は、雌テーパ面を有する円錐台形状に形成され、第1凹部の一部をガスケットの噴出孔を含む平坦面で塞いで分離室を形成し、分離室は、雌テーパ面に沿った作動流体の旋回による遠心力により作動流体から潤滑油を分離する。これにより、ハウジングに凹部を形成して分離室を形成する場合に比して、ハウジング、ひいては圧縮機を駆動軸の軸線方向に短く、径方向に小さく、ハウジングの形状を簡素化して形成することができる。従って、車両に要求される圧縮機搭載に関する寸法規定を満たしながら、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下を抑制しつつ、分離管や中間板を必要としないことにより圧縮機の製造コストの低減化、及び圧縮機の小型化を図ることができる。
しかも、ガスケットが分離室と吐出口とを連通する作動流体の噴出孔を備える。これにより、ハウジングを加工して噴出孔を形成する場合に比して、圧縮機を軸線方向に短く、径方向に小さく、ハウジングの形状を簡素化して形成することができ、圧縮機の製造コストの更なる低減化、及び圧縮機の更なる小型化を図ることができる。
請求項2記載の発明によれば、ガスケットは、噴出孔を含む面を底部として第1凹部に向けて開口した第2凹部を有し、第2凹部により第1凹部を閉塞して分離室を画定する。これにより、第1凹部のみで分離室を形成する場合に比して、圧縮機を軸線方向を短く、、径方向に小さく、ハウジングの形状を簡素化して形成し、更に分離室の容量を大きくすることができる。従って、潤滑油の回収効率を更に高めることができ、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下をより効果的に抑制することができる。
しかも、ガスケットが分離室と吐出口とを連通する作動流体の噴出孔を備える。これにより、ハウジングを加工して噴出孔を形成する場合に比して、圧縮機を軸線方向に短く、径方向に小さく、ハウジングの形状を簡素化して形成することができ、圧縮機の製造コストの更なる低減化、及び圧縮機の更なる小型化を図ることができる。
請求項3記載の発明によれば、分離室が第1凹部及び第2凹部の円錐台形状を形成する大径端同士を合わせた形状を有する。これにより、作動流体が噴出路から分離室に流入して各雌テーパ面に沿って螺旋状に流動する。この際に作動流体に作用する遠心力によって作動流体よりも比重の重い潤滑油が各雌テーパ面に付着し、潤滑油を効率的に分離、回収することができる。従って、潤滑油の回収効率を更に高めることができ、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下をより一層効果的に抑制することができる。
【0015】
請求項
4記載の発明によれば、背面に第1凹部から吐出室側に向けて凹設された第1溝部をガスケットにより閉塞することで吐出室と分離室とを連通する作動流体の噴出路を画定する。これにより、ハウジングに凹部を形成して噴出路を画定する場合に比して、圧縮機を軸線方向に短く、径方向に小さく、ハウジングの形状を簡素化して形成することができ、圧縮機の製造コストの更なる低減化、及び圧縮機の更なる小型化を図ることができる。
【0017】
請求項
5記載の発明によれば、背面に第1凹部から貯油室側に向けて凹設された第2溝部をガスケットにより閉塞することで貯油室と分離室とを連通する潤滑油の導入路を画定する。これにより、ハウジングに凹部を形成して導入路を画定する場合に比して、圧縮機を軸線方向に短く、径方向に小さく、ハウジングの形状を簡素化して形成することができ、圧縮機の製造コストの更なる低減化、及び圧縮機の更なる小型化を図ることができる。
【0018】
請求項
6記載の発明によれば、ガスケットが吐出口と導入路とを連通する潤滑油の導入孔を備える。これにより、分離室で分離しきれずにハウジングに衝突して作動流体から分離した潤滑油を吐出口の手前で回収して導入路を経て貯油室に回収することができる。従って、潤滑油の回収効率を更に高めることができ、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下をより効果的に抑制することができる。
【0019】
請求項
7記載の発明によれば、噴出路は、分離室の外周接線に沿い且つ水平よりも上向きに分離室に開口されている。これにより、冷媒の流速を減じることなく分離室に沿った冷媒の旋回流を円滑に形成することができる。
請求項
8記載の発明によれば、導入路は、前記分離室内の作動流体の旋回流に対向し且つ水平よりも上向きに前記分離室に開口されている。これにより、分離室に沿って形成される作動流体の旋回流の遠心力と重力との相乗作用により冷媒からの潤滑油分離が更に促進される。
【0020】
請求項
9記載の発明によれば、導入路は、前記分離室の外周接線に沿い且つ水平よりも上向きに延設された複数の突起部を有する。これにより、冷媒の流速を減じることなく分離室に沿った冷媒の旋回流を円滑に形成することができるとともに、分離室に沿って形成される冷媒の遠心力と重力との相乗作用により冷媒からの潤滑油分離が更に促進される
。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面により本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る圧縮機を示す。当該圧縮機1は横置きタイプのスクロール型圧縮機であって、車両の空調システムの冷凍回路に組み込まれている。そして、圧縮機1はその作動流体である冷媒の冷媒循環経路の復路から冷媒を吸入し、この冷媒を圧縮して循環経路の往路に向けて吐出する。冷媒は潤滑油を含み、この冷媒中の潤滑油は圧縮機1内の軸受や種々の摺動面を潤滑する他、摺動面のシールする機能をも発揮する。
【0024】
図2及び
図3に示すように、上記圧縮機1はリアハウジング2及びフロントハウジング4を備え、リアハウジング2とフロントハウジング4との間にはスクロールユニット(圧縮ユニット)6が配置されている。フロントハウジング4内には駆動軸8が水平配置され、この駆動軸8は軸受を介してフロントハウジング4に回転自在に支持されている。なお、
図2及び
図3に示す矢印方向が水平方向である。
【0025】
駆動軸8の突出端には電磁クラッチ10を内蔵した駆動プーリ12が取付けられており、この駆動プーリ12は軸受を介してフロントハウジング4に回転自在に支持されている。駆動プーリ12には車両のエンジンの動力が図示しない駆動ベルトを介して伝達され、駆動プーリ12の回転は電磁クラッチ10を介して駆動軸8に伝達可能である。従って、エンジンの駆動中、電磁クラッチ10がオン作動されると、駆動軸8は駆動プーリ12と一体的に回転する。
【0026】
一方、スクロールユニット6は、リアハウジング2及びフロントハウジング4に挟持された固定スクロール14と、この固定スクロール14に対して噛み合うように組付けられた可動スクロール16とから構成されている。これら固定スクロール14及び可動スクロール16の噛み合いはその内部に圧縮室18を形成し、この圧縮室18の容積が固定スクロール14に対する可動スクロール16の公転旋回運動に伴い増減される。
【0027】
前述した可動スクロール16に公転旋回運動を付与するため、可動スクロール16と駆動軸8とは、図示しないクランク機構を介して互いに連結され、可動スクロール16の自転が図示しない自転阻止機構により阻止されている。
固定スクロール14はリアハウジング2に6つの固定ボルト20を介して固定されている。また、固定スクロール14とリアハウジング2の端壁22との間には吐出室24が形成されている。なお、吐出室24はガスケット26を隔てた1つの空間として区画されている。また、リアハウジング2には、吐出室24の上方に仕切壁28によって冷媒の吐出流路30が区画され、吐出室24の下方に仕切壁32によって潤滑油の貯油室34が区画されている。
【0028】
固定スクロール14には、圧縮室18と吐出室24とを互いに連通させる吐出孔36が駆動軸8の軸線方向に穿孔されている。吐出室24には吐出孔36を開閉する吐出弁38が配置され、この吐出弁38はストッパプレート40によってその開度が規制されている。そして、吐出弁38及びストッパプレート40はねじ穴42に螺合された取付けねじ44を介して固定スクロール14の背面14aに取付けられている。
【0029】
一方、フロントハウジング4の内周壁と可動スクロール16との間は図示しない吸入室として確保され、この吸入室はフロントハウジング4の外周壁に凸設された吸入ポート46を介して前述した冷媒循環経路の復路に連通されている。
また、リアハウジング2の端壁22には吐出ポート(吐出口)48が凸設され、この吐出ポート48は冷媒循環経路の往路に連通される一方、吐出流路30及び冷媒の分離室50を介して吐出室24に連通されている。分離室50は、吐出室24と吐出ポート48との間に位置付けられ、吐出室24に吐出された冷媒から潤滑油を分離し、潤滑油が分離された後の冷媒は吐出流路30、吐出ポート48を順に流れる。
【0030】
詳しくは、固定スクロール14の背面14aには、吐出室24の一部、第1凹部52、第1溝部54、及び第2溝部56が凹設されている。第1凹部52は、冷媒の流れ方向でみて吐出室24よりも下流で且つ吐出ポート48よりも上流に設けられ、吐出室24の上方において雌テーパ面58を有する円錐台形状に凹設され、円錐台形状の小径端となる底部60と、円錐台形状の大径端となる開口縁62とを有している。
【0031】
第1溝部54の上端は、分離室50の外周接線、すなわち開口縁62,74に沿い且つ水平よりも上向きに分離室50に開口され、詳しくは第1凹部52の右上半部近傍の開口縁62から連続するように開口縁62の接線に沿って第1凹部52に開口され、斜め右下方向に傾斜して吐出室24に相当する領域に至る位置まで略直線状に延設されている。そして、固定スクロール14にガスケット26及びリアハウジング2を組み付けたとき、第1溝部54の下端は吐出室24に開口される。
【0032】
第2溝部56の上端は、分離室50内の冷媒の旋回流に対向し且つ水平よりも上向きに分離室50に開口され、詳しくは第1凹部52の左下半部近傍の開口縁62から連続するように開口縁62の接線に沿って第1凹部52に開口されている。そして、第2溝部56は斜め左下方向に傾斜して貯油室34に相当する領域に至る位置まで背面14aの外周に沿って円弧状に延設されている。また、第2溝部56には分離室50の外周接線、すなわち開口縁62,74に沿い且つ水平よりも上向きに複数の突起部63が分離室50内に至らない程度に櫛状に延設されている。
【0033】
そして、固定スクロール14にガスケット26及びリアハウジング2を組み付けたとき、第2溝部56の下端は、貯油室34に開口される。また、第2溝部56の下端を含む領域には固定スクロール14及びガスケット26を一貫して吸入室に連通する潤滑油のリターン経路64が開口されており、このリターン経路64には図示しないオリフィスが介挿されている。
【0034】
一方、ガスケット26は、背面14aと吐出流路30及び吐出ポート48との間に位置付けられ、背面14aとリアハウジング2とに気密に嵌合されることにより、吐出室24と外気とをシールし、且つ、第1凹部52を閉塞して分離室50を画定している。
詳しくは、ガスケット26は背面14aと同様の外形をなして形成され、第2凹部66、冷媒噴出孔(噴出孔)68、及び油導入孔(導入孔)70を備えている。第2凹部66は雌テーパ面72を有し、第1凹部52と反対方向に凹となる円錐台形状に形成され、この円錐台形状の小径端に冷媒噴出孔68が開口され、円錐台形状の大径端に開口縁74を有している。
【0035】
第2凹部66は冷媒噴出孔68を含む面を底部76として第1凹部52に向けて開口され、固定スクロール14にガスケット26を組み付けたとき、開口縁62に開口縁74が合致されて第2凹部66により第1凹部52が閉塞され、第1凹部52及び第2凹部66の円錐台形状の大径端同士を合わせた、いわゆる算盤玉形状の分離室50が画定される。
図4に示すように、固定スクロール14にガスケット26を組み付けたときに、第1溝部54はガスケット26により閉塞され、背面14a及びガスケット26によって、吐出室24を通過した冷媒を分離室50に噴出させる冷媒噴出路(噴出路)78が画定される。また、第2溝部56もガスケット26により閉塞され、背面14a及びガスケット26により、分離室50において分離された潤滑油を貯油室34に流出させる油導入路(導入路)80が画定される。
【0036】
油導入孔70は、ガスケット26において、固定スクロール14にガスケット26及びリアハウジング2を組み付けたときの油導入路80の形成位置であって、且つ、吐出流路30の下端壁において開口されている。
また、
図2及び
図3に示すように、ガスケット26には吐出室対向孔82、吐出流路対向孔84、及び貯油室対向孔86が開口されている。吐出室対向孔82は、吐出室24とほぼ同形状を有して形成され、固定スクロール14にガスケット26及びリアハウジング2を組み付けたときに吐出室24の周囲を囲む領域に相当する位置に位置付けられ、吐出室24が画定される。
【0037】
また、吐出流路対向孔84は、吐出流路30の一部とほぼ同形状を有して形成され、固定スクロール14にガスケット26及びリアハウジング2を組み付けたときに吐出流路30の一部の周囲を囲む領域に相当する位置に位置付けられ、吐出流路30が画定される。また、貯油室対向孔86は、貯油室34とほぼ同形状を有して形成され、固定スクロール14にガスケット26及びリアハウジング2を組み付けたときに第2溝部56の油導入路80を除いた周囲を囲む領域に相当する位置に位置付けられ、貯油室34が画定される。
【0038】
このように、リアハウジング2にガスケット26を組み付けることにより、前述した吐出流路30、吐出室24、及び貯油室34が画定され、一方、固定スクロール14にガスケット26を組み付けることにより、前述した分離室50、吐出室24、冷媒噴出路78、及び油導入路80が画定される。
前述した圧縮機1によれば、駆動軸8の回転に伴い、可動スクロール16が自転することなく公転旋回運動する。このような可動スクロール16の旋回運動は、冷媒の吸入室から圧縮室18内への冷媒の吸入工程や、吸入した冷媒の圧縮及び吐出工程をもたらし、この結果、高圧の冷媒が圧縮室18から吐出孔36を通じて吐出室24内に吐出される。ここで、冷媒には潤滑油が含まれているので、冷媒中の潤滑油はフロントハウジング4内の軸受やスクロールユニット6内の摺動面等を潤滑し、また、圧縮室18のシールにも寄与する。
【0039】
図4中に一点鎖線で示すように、吐出室24内の圧縮冷媒は、冷媒噴出路78を通過して分離室50に流入し、分離室50内にて雌テーパ面58,72に沿って旋回しながら冷媒噴出孔68に導かれる。この過程にて、圧縮冷媒中の潤滑油は遠心分離の原理に基づいて冷媒から分離され、雌テーパ面58,72に付着する。この後、圧縮冷媒は冷媒噴出孔68を通じて吐出流路30、ひいては吐出ポート48に至り、この吐出ポート48から冷媒循環経路の往路に向けて送出される。
【0040】
一方、
図4中に二点鎖線で示すように、分離室50にて圧縮冷媒から分離された潤滑油は雌テーパ面58,72を伝い、油導入路80を通じて重力により流下し、貯油室34に蓄えられる。また、圧縮冷媒の一部が吐出流路30の壁に衝突することにより冷媒から分離された潤滑油は、油導入孔70を通じて油導入路80に合流され、貯油室34に蓄えられる。
【0041】
貯油室34は分離室50と常時連通した状態にあり、その内圧は冷媒の吸入室の圧力よりも高い。それ故、この貯油室34内の潤滑油は吸入室との間の圧力差に基づき、リターン経路64及びこれに介挿されたオリフィスを通じて吸入室に向けて戻される。吸入室に戻された潤滑油は、前述したクランク機構及び自転阻止機構や、可動スクロール16を旋回可能に支持する軸受の潤滑を行う。
以上のように、本実施形態では、固定スクロール14の背面14aに凹設された第1凹部52をガスケット26の第2凹部66により閉塞して潤滑油の分離室50を画定する。これにより、リアハウジング2に凹部を形成して分離室50を画定する場合に比して、リアハウジング2、ひいては圧縮機1を駆動軸8の軸線方向に短く且つ径方向に小さく形成することができるとともに、リアハウジング2の形状を簡素化することができる。従って、車両に要求される圧縮機搭載に関する寸法規定を満たしながら、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下を抑制しつつ、分離管や中間板を要しないため、圧縮機1の製造コストの低減化、及び圧縮機1の小型化を図ることができる。
【0042】
特に、本実施形態では、第2凹部66により第1凹部52を閉塞して分離室50を画定することにより、第1凹部52のみで分離室50を形成する場合に比して、圧縮機1を軸線方向に短く、径方向に小さく、リアハウジング2の形状を簡素化したままで、分離室50の容量を大きくすることができる。従って、潤滑油の回収効率を更に高めることができ、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下をより効果的に抑制することができる。
【0043】
しかも、分離室50が第1凹部52及び第2凹部66による算盤玉形状をなすことにより、冷媒が冷媒噴出路78から分離室50に流入して各雌テーパ面58,72に沿って螺旋状に旋回して旋回流を形成する。この際に冷媒に作用する遠心力によって冷媒よりも比重の重い潤滑油が各雌テーパ面58,72に付着し、重力により油導入路80を流下し、潤滑油を効率的に分離、回収することができる。従って、潤滑油の回収効率を更に高めることができ、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下をより一層効果的に抑制することができる。
【0044】
また、第1溝部54、第2溝部56をガスケット26により閉塞し、それぞれ冷媒噴出路78、油導入路80を画定することにより、リアハウジング2に凹部を形成して冷媒噴出路78及び油導入路80を画定する場合に比して、圧縮機1を軸線方向に短く、径方向に小さく、リアハウジング2の形状を簡素化することができ、圧縮機の製造コストの更なる低減化、及び圧縮機の更なる小型化を図ることができる。
【0045】
特に、第1溝部54、すなわち冷媒噴出路78が分離室50の外周接線に沿い且つ水平よりも上向きに分離室50に開口されることにより、冷媒の流速を減じることなく分離室50の各雌テーパ面58,72に沿った冷媒の旋回流を円滑に形成することができる。
更には、第2溝部56、すなわち油導入路80が分離室50内の冷媒の旋回流に対向し且つ水平よりも上向きに分離室50に開口されることにより、分離室50の各雌テーパ面58,72に沿って形成される冷媒の遠心力と重力との相乗作用により冷媒からの潤滑油分離が更に促進される。
【0046】
また、ガスケット26が冷媒噴出孔68を備えることにより、リアハウジング2を加工して冷媒噴出孔68を形成する場合に比して、圧縮機1を軸線方向に短く、径方向に小さく、リアハウジング2の形状を簡素化することができ、圧縮機の製造コストの更なる低減化、及び圧縮機の更なる小型化を図ることができる。
また、ガスケット26が油導入孔70を備えることにより、分離室50で分離しきれずに吐出流路30においてリアハウジング2の端壁22に衝突して冷媒から分離した潤滑油を吐出ポート48の手前で回収して油導入路80を経て貯油室34に回収することができる。従って、潤滑油の回収効率を更に高めることができ、潤滑油が冷凍回路を循環することによる冷房能力の低下をより効果的に抑制することができる。
【0047】
また、第2溝部56、すなわち油導入路80に分離室50の外周接線に沿い且つ水平よりも上向きに複数の突起部63が延設されていることにより、冷媒の流速を減じることなく分離室50の各雌テーパ面58,72に沿った冷媒の旋回流を円滑に形成することができるとともに、分離室50の各雌テーパ面58,72に沿って形成される冷媒の遠心力と重力との相乗作用により冷媒からの潤滑油分離が更に促進される。
【0048】
具体的には、分離室50内において冷媒の旋回流によって分離され、各雌テーパ面58,72に付着した潤滑油は、冷媒旋回流の遠心力と重力とにより、水平よりも上向きに形成された突起部63間の溝を冷媒流路として効果的に捕集され、潤滑油分離効果が向上することが実験により判明している。ただし、貯油室34に気体が充満している場合には、潤滑油の捕集が困難となるため、突起部63間の溝を潤滑油の捕集路と交互して貯油室34の気体の放出路として利用するために、突起部63間の溝のうちの少なくとも1つは冷媒旋回流の動圧によって負圧となる位置に設け、貯油室34の容積が充満した気体により結果的に目減りしてしまうことを防止するのが好ましい。
【0049】
以上で本発明の一実施形態についての説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができるものである。
具体的には、第1凹部52をガスケット26の平坦面で閉塞するだけの分離室50を形成しても良い。この場合には、分離室50は円錐台形状をなし、少なくとも雌テーパ面58によって冷媒に作用する遠心力及び重力を利用することで潤滑油を冷媒から効率的に分離可能であるとともに、ガスケット26の形状を簡素化することができる。
【0050】
また、分離室50の形状は上記実施形態に限らず種々の形状が考えられ、第1及び第2凹部52,66は円錐台形状に限らず凹所であれば、少なくとも分離室50を確保しながら、圧縮機1を軸線方向に短く、径方向に小さく、リアハウジング2の形状を簡素化可能である。
また、本発明はスクロール型圧縮機に限定されるものではなく、往復ピストン型圧縮機やロータリー圧縮機等にも当然に適用可能である。