(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定面に取り付けられ、劣化診断対象である構造物に設置されたセンサヘッドから出力される前記構造物の加速度情報に基づいて、前記構造物の取付状態が正常か否かを診断するセンサコントローラを備えた構造物劣化診断システムにおいて、前記センサコントローラにより実行される構造物劣化診断システムにおいて、
前記センサヘッドから取得した前記加速度情報に基づく特徴量として、前記構造物の傾き情報および固有振動数情報の少なくとも一方の情報を抽出する特徴量抽出手段と、
前記特徴量抽出手段により抽出された前記特徴量に関して、正常状態における基準用確率密度分布と、劣化診断時における診断用確率密度分布を算出する確率密度分布算出手段と、
を備えた構造物劣化診断システムであって、
前記特徴量抽出手段により抽出された前記特徴量に対して、前記センサヘッドの取り付け方向のキャリブレーションデータと、前記センサヘッドから取得した前記加速度情報に基づく特徴量のそれぞれを行列演算することで、センサヘッドの座標軸を基準となる座標軸に一致させるように、取り付け方向の誤差を修正するキャリブレーション処理を行う誤差修正手段
をさらに備え、
前記確率密度分布算出手段は、前記誤差修正手段により前記キャリブレーション処理が施された後の特徴量に関して、前記基準用確率密度分布および診断用確率密度分布を算出する
構造物劣化診断システム。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構造物劣化診断システムの好適な実施の形態につき、図面を用いて説明する。
本発明は、劣化診断対象である構造物に取り付けられたセンサから得られる加速度情報に基づいて、構造物の傾きあるいは固有振動数に関する特徴量の確率密度分布を求め、正常時における確率密度分布と劣化診断時における確率密度分布との間に有意差がある場合には、取付状態に何らかの劣化が発生していると判断することを技術的特徴としている。
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1における構造物劣化診断システムの構成図である。本実施の形態1における構造物劣化診断システムは、センサコントローラ10、およびN個(Nは、2以上の整数)のセンサヘッド20(1)〜20(N)を備えて構成されている。
【0013】
なお、本実施の形態1における構造物劣化診断システムでは、最低限、1個のセンサヘッド20を設けておけば、劣化診断を実施することが可能である。また、複数用いる場合のN個のセンサヘッドのそれぞれの機能は、全て共通である。そこで、以下の説明では、それぞれのセンサヘッドを区別する必要がない場合には、(1)〜(N)の添字を用いずに、単にセンサヘッド20と記載する。
【0014】
N個のセンサヘッド20のそれぞれは、センサ部21と、加速度情報出力部22を有しており、劣化診断対象である構造物の異なる位置に設置されている。ここで、構造物の具体例としては、トンネル内の吊り下げ構造物、あるいは張り出し構造物が挙げられ、本発明の構造物劣化診断システムによって、長期にわたって構造物の取付状態の劣化診断が行われることとなる。
【0015】
このような構造物としては、トンネル内に設置されるジェットファン、情報板、標識等が対象とされ、トンネルを形成する躯体のコンクリートから吊り下げまたは張り出される重量物が挙げられる。そして、構造物に対してセンサヘッド20が好ましくは2個設置され、各々を構造物に対して両端となる部分に設置することで、構造物の変位をいずれかが大きく捕らえることとなる。
【0016】
そのため、N個のセンサヘッド20は、構造物の変位を大きく捕らえるために、設置面の方向に対して、各々が離れる位置に設置される。さらに、センサヘッド20は、交換を容易にするため、2個等の複数個を2組としてもよく、1組ごとで交換することにより、監視状態を継続することができる。
【0017】
センサ部21は、例えば、薄膜の水晶振動子を用い、応答性に優れ、測定範囲がDC〜数十Hz程度の加速度を測定可能な3軸加速度センサである。このように、加速度センサに3軸のセンサを用いることにより、水平出しが不要となり、傾きや振動の方向に関わらず、センサ出力を行うことができる。したがって、水平出しを行うなど、傾きの方向などが特定できる場合には、2軸や1軸であってもよい。
【0018】
また、加速度情報出力部22は、センサヘッドの設置箇所における構造物の3軸の加速度に関するアナログ信号を、所定のサンプリングレート(例えば、50Hzのサンプリングレート)でデジタル信号に変換し、加速度情報としてセンサコントローラ10へ送信する。なお、加速度情報出力部22は、一例として、CANやRS232C等の通信I/Fを介して、デジタル信号である加速度情報をセンサコントローラ10に送信することができる。
【0019】
また、センサコントローラ10は、構造物近傍のN個のセンサヘッド20に配線が届く位置に設置され、N個のセンサヘッド20のそれぞれから取得した加速度情報に基づいて、構造物の取付状態が正常か否かを判断する。具体的には、センサコントローラ10は、加速度情報に基づいて、傾き情報を第1の特徴量として抽出し、構造物の取付状態の劣化診断を行う第1の劣化診断部11と、加速度情報に基づいて、固有振動数情報を第2の特徴量として抽出し、構造物の取付状態の劣化診断を行う第2の劣化診断部12を有している。
【0020】
また、センサコントローラ10は、診断結果、あるいは診断に用いたデータ等を、図示しない制御装置に送信できるようにするために、例えば、イーサネット(登録商標)等の大容量通信I/Fを備えることができる。
【0021】
構造物としてジェットファン等が設けられるトンネル設備の場合、詳細に示さないが、トンネル内の情報は、トンネル近傍に設けられた、いわゆる電気室内に設置される制御装置に集約され、さらに、監視者の居る遠方監視制御装置に移報されて、双方で情報が共有される。後述する劣化診断の処理に従い、劣化が生じていると判定された結果が、上記各制御装置に表示や警報音等で報知される。このような判定結果は、別途劣化診断システムの設備業者や点検業者のセンタ装置に送られてもよく、異常発生時に迅速な対応を可能にできる。
【0022】
また、劣化を判定するレベルを次のように細分し、そのレベルに応じて対応を変えてもよい。例えば、劣化の判定レベルは、
レベル1:「定期点検等で詳細に点検する必要有り(確認レベル)」
レベル2:「現場を確認し、今後の改良計画等を検討する必要あり(計画レベル)」
レベル3:「速やかに改善を必要とする事態で、至急現場へ急行する必要有り(改善レベル)」
レベル4:「崩落を含む緊急事態(緊急レベル)」
とレベル分けし、レベル1、2は、各制御装置の盤面で簡単に表示するだけとし、レベル3、4の段階になって、詳細な警報表示や警報音鳴動等を行うようにしてもよい。
【0023】
さらに、業者のセンタ装置で常時判定に用いるデータを収集し、別途、多面的に分析を行い、例えば、レベル3に達するまでの時期予測などを行ってもよい。トンネルは、遠方監視制御装置によって、常時監視員に監視されていることが多いが、そうでない場合もあり、日常の管理設備が十分でない場合は、業者のセンタ装置を介して、緊急時の一次対応として現場を確認し、状況を報告する対応を、業者の係員に行わせることも可能である。
【0024】
そして、第1の劣化診断部11および第2の劣化診断部12は、いずれも、監視対象である構造物の正常時における確率密度分布と、劣化診断時における確率密度分布とを比較し、有意差が生じたことで構造物の劣化を検出する点では共通している。ただし、傾き情報を特徴量として劣化診断を行う第1の劣化診断部11と、固有振動数情報を特徴量として劣化診断を行う第2の劣化診断部12とでは、具体的な信号処理方法が異なっており、以下において、詳細に説明する。
【0025】
(1)第1の劣化診断部11による傾き情報に基づく劣化診断の処理の流れについて
図2は、本発明の実施の形態1における第1の劣化診断部11による劣化診断処理の流れを示すフローチャートである。この
図2のフローチャートに基づいて、傾き情報に基づいた第1の劣化診断部11による具体的な劣化診断処理について説明する。
【0026】
まず始めに、ステップS201において、第1の劣化診断部11は、センサヘッド20内の加速度情報出力部22から取得した加速度情報に基づいて、傾き情報の抽出を行う。具体的には、第1の劣化診断部11は、例えば、50HzのサンプリングレートでX、Y、Z軸の加速度情報を取得する。そして、第1の劣化診断部11は、この加速度情報を用いて、各軸毎にディジタルフィルタによるローパスフィルタ処理を行う。ローパスフィルタのカットオフ周波数は、例えば、0.1Hz程度とする。
【0027】
ここで、DC成分を含む3軸加速度の低周波成分は、傾き情報と等価である。そして、ローパスフィルタ処理された傾き情報は、急速に変化する高周波成分を含まない。このため、劣化検出のための傾きデータのサンプリングレートを遅くしても、情報は欠損しない。具体的には、カットオフ周波数の2倍程度のサンプリングレートがあれば、標本化定理を満たすことができ、0.1Hzのカットオフ周波数に対しては0.2Hzのサンプリング周波数、すなわち、5秒間隔のサンプリングでよい。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態1における3軸分の傾き情報の収集に関する具体例を示した図である。
図3に示すように、第1の劣化診断部11は、サンプリング間隔ΔTごとに、3軸分の傾き情報を収集することとなる。
【0029】
次に、第1の劣化診断部11は、ステップS202において、センサヘッド20の取り付け方向の修正を行う。具体的には、第1の劣化診断部11は、センサヘッド20の取り付け方向のキャリブレーションデータ(アフィン変換の行列の要素)と、先のステップS201で得られたサンプリングデータを行列演算することで、それぞれのセンサヘッド20の座標軸を一致させるように、取り付け方向の誤差修正を行う。
【0030】
このステップS202は、センサヘッド20の取付方向に依存せず座標軸を揃えることが目的であり、センサヘッド20が3軸で方向に関わらず傾きや振動を検出できることから、センサ出力をそのまま用いる場合には、なくてもよい。
【0031】
次に、第1の劣化診断部11は、ステップS203において、センサヘッド20の取り付け方向の誤差修正後の傾き情報に対して、対数化処理(デシベル化)を行う。微小な傾き情報の計測のために、例えば、1/100万[G]単位の分解能を元にして、後述する確率密度分布を得ようとすれば、そのために必要となる記憶領域は、膨大となる。そこで、本実施の形態1の第1の劣化診断部11は、加速度を対数化(デシベル化)し、デシベルデータに基づいた分類により確率密度分布を求めることで、効率のよい量子化を行っている。
【0032】
次に、第1の劣化診断部11は、ステップS204において、傾き情報に基づく劣化診断を行うために、確率密度分布の生成処理を行う。第1の劣化診断部11は、例えば、先のステップS203でデシベル化された傾き情報を用いて、0.5デシベル単位で累積度数分布を作成し、これに局所平滑化処理を施すことで、確率密度分布を生成する。なお、平滑化処理としては、例えば、ガウス関数を適用することができる。
【0033】
なお、設置時の初期学習データとしての確率密度分布は、例えば、1ケ月程度のデータを用いて生成される。一方、劣化診断時の現在のデータとして作成する確率密度分布のデータ数は、例えば、過去3時間〜24時間程度のデータに基づいて生成される。
【0034】
また、基準データとなる正常時における学習データとしては、必ずしも設置時に取得したデータを継続して使用する必要はない。長期にわたって劣化診断を行うため、劣化診断を行う過程で、継続的に学習データを更新することも可能である。そして、劣化監視時に継続学習データとして採用する確率密度分布は、例えば、過去数時間〜数週間程度のデータに基づいて生成される。
【0035】
図4は、本発明の実施の形態1における3軸分の傾き情報に関する確率密度分布の具体例を示した図である。各軸の1次元の確率密度分布は、傾きなしの中点に対して、正方向の傾きおよび負方向の傾きが大きくなるに従って、中点から両側に広がるような分布として表される。
【0036】
次に、第1の劣化診断部11は、ステップS205において、劣化診断時に求めた各軸の確率密度分布(診断時データに相当)を、学習時に求めた各軸の確率密度分布(基準データに相当)で割ることで、両者の比率を計算し、それぞれの軸について確率密度比の分布データを生成する。なお、基準データとしては、初期設定時のデータ以外に、継続学習データにより更新された学習データを採用することもできる。
【0037】
図5は、本発明の実施の形態1における、ある1軸の傾き情報に関する確率密度分布、確率密度比、および評価値の具体例を示した図である。
図5(a)、(b)に示すように、確率密度分布のピークがずれた際には、そのずれたピーク位置を中心に、1よりも大きな確率密度比の分布が発生することとなる。
【0038】
さらに、第1の劣化診断部11は、各軸について算出された傾きに関する確率密度比をベクトルに見立てて、ベクトル長を計算する。具体的には、第1の劣化診断部11は、
図5(c)に示すように、3軸の確率密度比のユークリッド距離としてベクトル長を求め、劣化診断のための評価値とする。
【0039】
そして、最後に、ステップS206において、第1の劣化診断部11は、確率密度比のベクトル長が、劣化判定の基準値未満であるならば正常とし、基準値を超える分布データが存在する場合には、劣化が生じていると判定する。
【0040】
以上の内容を整理すると、傾き情報に関する確率密度分布を利用して、構造物の取付状態の劣化診断を実施するに当たっては、以下の処理を行うことを特徴としている。
[特徴1]加速度情報の低周波成分を抽出することで、傾き情報を取得する。
[特徴2]傾き情報のサンプリングレートは、情報が欠損しない程度に遅くでき、例えば、5秒間隔でデータ収集を行うことができる。
[特徴3]取り付け方向の修正がなされた傾きデータをデシベル化することで、記憶容量を削減した上で、効率的な量子化を行っている。
[特徴4]所定のデシベル単位に基づいて、学習時および劣化診断時の確率密度分布を算出し、3軸の確率密度比のユークリッド距離としてベクトル長を求め、劣化診断のための評価値としている。
[特徴5]基準値を超える評価値がある場合には、センサヘッド20が設置された部分で、構造物の傾きが許容できないレベルに達していると判断し、劣化状態を定量的に判断する。
【0041】
(2)第2の劣化診断部12による固有振動数情報に基づく劣化診断の処理の流れについて
次に、第2の劣化診断部12による具体的な処理内容を説明する。
図6は、本発明の実施の形態1における第2の劣化診断部12による劣化診断処理の流れを示すフローチャートである。この
図6のフローチャートに基づいて、固有振動数情報に基づいた第2の劣化診断部12による具体的な劣化診断処理について説明する。
【0042】
まず始めに、ステップS601において、第2の劣化診断部12は、センサヘッド20内の加速度情報出力部22から取得した加速度情報に基づいて、振動数情報の抽出を行う。センサヘッド20からは、例えば、50HzのサンプリングレートでX、Y、Z軸の加速度情報が出力されている。しかしながら、常に大きな振動が発生している訳ではない。一方、周波数解析を行うに当たっては、高いサンプリングレートが必要であり、常時、データを取得するためには、膨大な記憶領域を要する。
【0043】
そこで、本実施の形態1における第2の劣化診断部12は、取得した3軸の加速度情報のうち、少なくとも1軸において、あらかじめ設定した基準レベルを超えた加速度が得られた場合には、過去から未来に亘るデータを2nの一定数(例えば512個)取得している。
【0044】
図7は、本発明の実施の形態1における3軸分の振動数情報の収集に関する具体例を示した図である。
図7においては、X軸において測定された加速度データが、基準レベルを超えた際に、その時点をイベントトリガとして、3軸分それぞれに過去データと未来データからなる一定数のデータを記憶する場合を例示している。
【0045】
次に、第2の劣化診断部12は、ステップS602において、センサヘッド20の取り付け方向の修正を行う。具体的には、第2の劣化診断部12は、センサヘッド20の取り付け方向のキャリブレーションデータ(アフィン変換の行列の要素)と、先のステップS601で得られた一定数のデータのそれぞれを行列演算することで、それぞれのセンサヘッド20の座標軸を一致させるように、取り付け方向の誤差修正を行う。
【0046】
次に、第2の劣化診断部12は、ステップS603において、誤差修正された3軸データに対し、FFT処理によりパワースペクトルを算出し、固有振動数を求める。
図8は、本発明の実施の形態1における3軸分のパワースペクトルの算出結果を示した図である。加速度データには、直流成分(傾き成分)が含まれる。そこで、第2の劣化診断部12は、パワースペクトルから低周波成分を取り除き、残ったスペクトルの中から最大の極大値(
図8中のf
1x、f
1y、f
1zに相当)、および第2の極大値(
図8中のf
2x、f
2y、f
2zに相当)を求め、これをそれぞれ、各軸の第1固有振動数、第2固有振動数とする。
【0047】
次に、第2の劣化診断部12は、ステップS604において、第1固有振動数と第2固有振動数をそれぞれ直交軸として、2次元の累積度数分布を作成し、これに局所平滑化処理を施すことで、2次元の確率密度分布を生成する。具体的には、第2の劣化診断部12は、例えば、先のステップS601でのイベントトリガごとに、先のステップS603で得られた第1固有振動数および第2固有振動数で規定される2次元の累積度数分布を作成し、この累積度数分布に局所平滑化処理を施すことで、確率密度分布を生成する。なお、平滑化処理としては、例えば、ガウス関数を適用することができる。
【0048】
なお、設置時の初期学習データとしての確率密度分布は、例えば、1ケ月程度のデータを用いて生成される。一方、劣化診断時の現在のデータとして作成する確率密度分布のデータ数は、例えば、過去3時間〜24時間程度のデータに基づいて生成される。
【0049】
また、基準データとなる正常時における学習データとしては、必ずしも設置時に取得したデータを継続して使用する必要はない。長期にわたって劣化診断を行うため、劣化診断を行う過程で、継続的に学習データを更新することも可能である。劣化監視時に継続学習データとして採用する確率密度分布は、例えば、過去数時間〜数週間程度のデータに基づいて生成される。
【0050】
次に、第2の劣化診断部12は、ステップS605において、劣化診断時に求めた各軸の2次元確率密度分布(診断時データに相当)を、学習時に求めた各軸の2次元確率密度分布(基準データに相当)で割ることで、両者の比率を計算し、それぞれの軸について確率密度比の2次元分布データを生成する。なお、基準データとしては、初期設定時のデータ以外に、継続学習データにより更新された学習データを採用することもできる。
【0051】
図9は、本発明の実施の形態1における、ある1軸としてX軸について算出された学習時の2次元確率密度分布、劣化診断時の2次元確率密度分布、および両者の比である2次元の確率密度比の具体例を示した図である。
図9に示したように、固有振動数に関する確率密度分布は、第1固有振動数および第2固有振動数で規定される2次元のデータとして生成されるが、確率密度比の考え方は、第1の劣化診断部11による傾きデータに関する1次元の確率密度比の考え方と同じである。第2の劣化診断部12は、各軸について算出された2つの固有振動数に関する2次元の確率密度比を、劣化診断のための評価値とする。
【0052】
そして、最後に、ステップS606において、第2の劣化診断部12は、3軸の確率密度比が、ともに劣化判定の基準値未満であるならば正常とし、いずれか1つでも基準値を超える確率密度比の2次元分布が存在する場合には、劣化が生じていると判定する。
【0053】
以上の内容を整理すると、固有振動数情報に関する確率密度分布を利用して、構造物の取付状態の劣化診断を実施するに当たっては、以下の処理を行うことを特徴としている。
[特徴1]加速度情報に関して、いずれかの軸で基準レベルを越えた加速度データが得られた時点を含む一定数の加速度データを抽出することで、固有振動数情報を取得する。
[特徴2]固有振動数情報は、その後の周波数解析に用いられるため、センサヘッド20からの出力レートをダウンサンプリングすることは、適切でない。そこで、いずれかの軸で基準レベルを越えた加速度データが得られた時点をイベントトリガとして、過去データと未来データからなる一定数の加速度データを抽出して固有振動数情報を記憶させることで、記憶容量の低減を図っている。
[特徴3]取り付け方向の修正がなされた固有振動数情報について周波数解析を行ってパワースペクトルを算出し、パワースペクトルから低周波成分を取り除いた残りのスペクトルの中から、最大の極大値および第2の極大値を求めることで、各軸の第1固有振動数、第2固有振動数を算出する。
[特徴4]イベントトリガごとに算出された第1固有振動数、第2固有振動数による2次元の直交座標として作成した各軸の累積度数分布から、学習時および劣化診断時の2次元の確率密度分布を算出し、3軸の確率密度比を、劣化診断のための評価値とする。
[特徴5]基準値を超える評価値がある場合には、センサヘッド20が設置された部分で、構造物の振動が許容できないレベルに達していると判断し、劣化状態を定量的に判断する。
【0054】
以上のように、実施の形態1によれば、劣化診断対象の構造物から得られた加速度情報に基づいて、傾きに関する第1の特徴量および固有振動数に関する第2の特徴量を抽出している。そして、それぞれの特徴量に関して、正常時の基準データに相当する学習時の確率密度分布と、劣化診断時の測定結果に基づく確率密度分布との比較により、有意差が検出された場合には、劣化が発生していると判断している。この結果、構造物の取付状態の劣化診断を、長期にわたって定量的に実施することを可能としている。
【0055】
なお、上述した実施の形態1では、傾きに関する第1の特徴量に基づく劣化診断と、固有振動数に関する第2の特徴量に基づく劣化診断について説明したが、これら2つの診断は、いずれか1つのみを行うことによっても、劣化診断を長期にわたって定量的に実施することが可能である。
【0056】
また、上述した実施の形態1による劣化診断は、最小限の構成として、センサヘッドを1個用いた場合にも、劣化診断が可能である。ただし、センサヘッドを設置した箇所では劣化が発生していなくても、他の場所で劣化が発生しているおそれはある。そこで、センサヘッドを複数箇所に設置し、いずれかのセンサヘッドで劣化状態が検出されたときに、構造物の取付劣化が発生したと判断することで、検出精度の向上が期待できる。
【0057】
さらに、2つのセンサヘッドのデータを活用できる場合には、個々の診断結果に加え、傾きに関しては、2つのセンサヘッドの傾きの差として、振動数に関しては、2つのセンサヘッドの振動の位相差として、確率密度分布に基づく劣化診断を行うことができ、さらなる検出精度の向上が期待できる。なお、振動数に関しては、位相差として行うだけでなく、振幅差として同様に劣化診断を行うこともできる。
【0058】
また、上述した実施の形態1においては、トンネル内の吊り下げ構造物、あるいは張り出し構造物を劣化診断対象の一例として挙げたが、本発明は、これに限定されない。固定面に取り付けられ、経年的に取付状態が変化してしまうおそれのある構造物であれば、長期にわたって定量的に劣化診断を行うことができる。また、既存の構造物に対して、センサヘッドを後付けすることによっても、センサヘッドの設置以降において、構造物の取付状態の経年的変化を、定量的に診断することができる。
【0059】
また、上述した実施の形態1においては、正常時の基準データとして、初期段階で学習する場合と、劣化診断時における学習により更新する場合について説明したが、本発明は、これに限定されない。正常であることを判断するための確率密度分布は、唯一である必要はなく、例えば、時間帯毎に個別の基準データを設ける、あるいは構造物に発生する事象毎に別個の基準データを設けることもできる。さらに、経年変化を考慮して、初期段階での確率密度分布と、劣化診断時の学習により得られた新たな確率密度分布を併用することも可能である。