(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181430
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
B60C11/03 200B
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-117023(P2013-117023)
(22)【出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-234084(P2014-234084A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100096714
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124121
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100161458
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 淳郎
(74)【代理人】
【識別番号】100176566
【弁理士】
【氏名又は名称】渡耒 巧
(74)【代理人】
【識別番号】100180253
【弁理士】
【氏名又は名称】大田黒 隆
(72)【発明者】
【氏名】大西 雄介
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
特開平01−136802(JP,A)
【文献】
特開平03−031009(JP,A)
【文献】
実開昭54−037602(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
B60C 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に複数のラグブロックを備えるタイヤにおいて、
前記ラグブロックの踏込み側の壁部にのみ、タイヤ幅方向に沿う幅方向領域と、タイヤ赤道面に沿う周方向領域が設けられて、該幅方向領域と該周方向領域とからなる階段状形状が、該ラグブロックの踏込み側の壁部に対し凹状に形成されており、かつ、該ラグブロックの蹴出し側の壁部が、該幅方向領域および該周方向領域を有しない状態での該ラグブロックの延在方向における中心線と略同一角度で形成されていることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記ラグブロックの踏込み側の壁部の幅方向領域のタイヤ幅方向に対しなす角度が、0°±23°の範囲である請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記ラグブロックの踏込み側の壁部の周方向領域のタイヤ幅方向に対しなす角度が、90°±5°の範囲である請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ラグブロックの踏込み側の壁部が、前記幅方向領域と前記周方向領域とからなる階段状形状を1〜50箇所有する請求項1〜3のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【請求項5】
農業用タイヤである請求項1〜4のうちいずれか一項記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤに関し、詳しくは、圃場等において農業機械に装着して使用される農業用タイヤ、特には、農業用空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、農業用タイヤのトラクション性能に対するトレッドパターンの寄与に関しては、略タイヤ幅方向に配置されるラグブロックの形成角度の影響が大きいことが知られている。ここで、スリップ率が15%以上となるような高スリップ時におけるトラクション性能を向上させる場合には、ラグブロックの形成角度をタイヤ幅方向に近づけることが有効であることも公知である。
【0003】
農業用タイヤに関する改良技術としては、例えば、特許文献1に、湿田や軟弱地等を走行する農業機械および軽土木建設機械に装着されるラグ付き走行体であって、トレッド面から半径方向外方に突出し周方向において等間隔に設けられた複数のラグを有し、このラグが、接地側端面における周方向に対抗する2つの端縁がいずれも、2辺が直交することにより形成される鋸歯形状の部分を有し、この2つの端縁における鋸歯形状の部分を形成する各辺の平均長さが所定範囲内であるラグ付き走行体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−051300号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、農業機械は大型化される傾向にあり、これに装着される農業用タイヤについても、より大きなトラクションが求められるようになってきている。特に、圃場のように緩い土の上を走行する場合には、スリップが生じやすくなるため、高スリップ時におけるトラクション性能を向上することが求められる。
【0006】
しかしながら、前述したように、高スリップ時におけるトラクション性能を向上させるためにはラグブロックの角度をタイヤ幅方向に近づけることが有効であるものの、この場合、振動や乗り心地は悪化する方向となる。そのため、従来、高スリップ時におけるトラクションを最大限まで発生させるようなラグ溝角度の設計はなされていなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、振動や乗り心地を悪化させることなく、圃場等の走行時における高スリップ時のトラクションをより向上したタイヤ、特には農業用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討した結果、ラグブロックの、トラクションに寄与する踏込み側の壁部の形状を改良することにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、トレッド部に複数のラグブロックを備えるタイヤにおいて、前記ラグブロックの踏込み側の壁部にのみ、タイヤ幅方向に沿う幅方向領域と、タイヤ赤道面に沿う周方向領域が設けられて、該幅方向領域と該周方向領域とからなる階段状形状が、該ラグブロックの踏込み側の壁部に対し凹状に形成されており、かつ、該ラグブロックの蹴出し側の壁部が、該幅方向領域および該周方向領域を有しない状態での該ラグブロックの延在方向における中心線と略同一角度で形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上記構成としたことにより、振動や乗り心地を悪化させることなく、圃場等の走行時における高スリップ時のトラクションをより向上したタイヤ、特には農業用タイヤを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のタイヤの一例の踏面部を示す概略部分展開図である。
【
図2】ラグブロックの形成部分のみを取り出して示す概略部分展開図である。
【
図3】(a)〜(f)は、本発明におけるラグブロックの具体例を示す概略部分展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明のタイヤの一例の踏面部の概略部分展開図を示す。図示する本発明のタイヤは、トレッド部に、両接地端側からタイヤ赤道面近傍に向かい、互いにタイヤ周方向に対し逆方向の傾斜角度で、ハの字状に延びる複数のラグブロック1を備えている。図中、矢印で示すように、下方が踏込み側であり、上方が蹴り出し側である。
【0013】
本発明のタイヤにおいては、ラグブロック1の踏込み側の壁部11に、タイヤ幅方向に沿う幅方向領域11Aと、タイヤ赤道面に沿う周方向領域11Bとが設けられており、かつ、ラグブロックの蹴出し側の壁部12が、ラグブロック1の延在方向における中心線と略同一角度で形成されている点が重要である。すなわち、ラグブロックの形成角度自体を変えるのではなく、ラグブロックを形成する壁部を踏込み側(11)と蹴出し側(12)とに分けて設計し、このうちトラクションに寄与する踏込み側の壁部11にのみ、幅方向領域11Aと周方向領域11Bとからなる階段状部分を設けた形状とする。
【0014】
これにより、踏込み側の壁部11における、タイヤ幅方向に近い角度で設けられた幅方向領域11Aによってトラクション性能を確保することができるとともに、蹴出し側の壁部12についてはかかる幅方向領域を設けずラグブロックの延在方向と同等の形成角度とすることで、振動や乗り心地等の他性能についても確保することができる。よって、本発明によれば、振動や乗り心地を悪化させることなく、圃場等の走行時における高スリップ時のトラクション性能の向上効果を最大限に得ることができるものとなる。
【0015】
図2に、ラグブロック1の形成部分のみを取り出して示す概略部分展開図を示す。本発明において、上記トラクション性能を確実に確保する点からは、壁部11の幅方向領域11Aのタイヤ幅方向に対しなす角度αは、好適には0°±45°、より好適には0°±23°の範囲とする。この角度αが小さすぎると振動等の他性能に悪影響を及ぼし、また、大きすぎると高スリップ時に十分なトラクション性能が得られないおそれがあり、いずれも好ましくない。
【0016】
また、本発明において、壁部11の周方向領域11Bのタイヤ幅方向に対しなす角度βは、90°±5°、特には90°±2°の範囲であることが好ましい。この角度βが90°よりも小さすぎると土詰まりが発生し、90°よりも大きすぎるとラグブロックの踏み込み側の壁部でタイヤ幅方向へ土を押し、トラクション向上効果が小さくなるので、いずれにおいても好ましくない。
【0017】
本発明においては、ラグブロックの踏込み側の壁部に、上記幅方向領域11Aと周方向領域11Bとからなる階段状形状を、少なくとも一箇所にて設けるものであれば、所期の効果を得ることができるが、好適には、ラグブロックの踏込み側の壁部が、幅方向領域11Aと周方向領域11Bとからなる階段状形状13を、1〜50箇所、特には1〜5箇所、有するものとする。かかる階段状形状の数が多すぎると、幅方向領域11Aの長さが短くなり、土によっては効果的に土を周方向へ押せず、トラクション向上効果が得られないことが考えられるので、好ましくない。なおここで、図示するように、本発明においては、ラグブロックの壁部に上記幅方向領域および周方向領域により形成される、階段状形状13の凹部13Aおよび凸部13Bについては、断面R形状とすることが好ましい。これにより、走行時において階段状形状13の凹部13A内に土を詰まりにくくすることができる。
【0018】
図3(a)〜(f)に、本発明におけるラグブロックの具体例を示す。図中の(a)は、幅方向領域101Aのタイヤ幅方向に対しなす角度α1(=0°)で、幅方向領域101Aおよび周方向領域101Bが、接地端側からタイヤ赤道面に向かい長さが徐々に減少するよう設けられているラグブロック1aを示す。図中の(b)は、幅方向領域102Aのタイヤ幅方向に対しなす角度α2(≠0°)で、幅方向領域102Aおよび周方向領域102Bが、接地端側からタイヤ赤道面に向かい長さが徐々に減少するよう設けられているラグブロック1bを示す。図中の(c)は、幅方向領域103Aおよび周方向領域103Bが、幅方向領域103Aのタイヤ幅方向に対しなす角度を場所によりα3(=0°)またはα4(≠0°)と変えて設けられているラグブロック1cを示す。図中の(d)は、幅方向領域104Aおよび周方向領域104Bが、幅方向領域104Aのタイヤ幅方向に対しなす角度α5(=0°)で、長さを変えることなく設けられているラグブロック1dを示す。図中の(e)は、幅方向領域105Aおよび周方向領域105Bが、幅方向領域105Aのタイヤ幅方向に対しなす角度α6(≠0°)で、長さを変えることなく設けられているラグブロック1eを示す。図中の(f)は、幅方向領域106Aおよび周方向領域106Bが、幅方向領域106Aのタイヤ幅方向に対しなす角度α7(≠0°)で、1箇所のみ設けられているラグブロック1fを示す。
【0019】
一方で、本発明においては、ラグブロック1の蹴出し側の壁部12については、ラグブロック1の延在方向における中心線と略同一角度で形成する。すなわち、ラグブロック1の蹴出し側の壁部12には、踏込み側の壁部11に設けるような幅方向領域および周方向領域を設けない。これは、蹴出し側の壁部12にまで上記幅方向領域および周方向領域を設けると、走行時においてラグブロック1の蹴出し側で土嬢が崩れてしまうためである。かかるラグブロック1の延在方向における中心線の角度、すなわち、ラグブロック1自体の形成角度については、従来のラグタイヤにおけるのと同様とすることができ、特に制限されないが、前述したように、タイヤ幅方向に近づけすぎると、振動や乗り心地性が低下するので好ましくない。ラグブロック1の形成角度は、具体的には例えば、タイヤ幅方向に対し、±23°〜±60°の範囲とすることができる。
【0020】
本発明において、ラグブロック自体の高さや幅、配設ピッチ等の条件については、特に制限されるものではなく、従来のラグタイヤにおけるのと同様とすることができる。例えば、ラグブロックの高さは10〜100mmの範囲とすることができ、延在方向に直交する方向に測ったラグブロックの平均の幅は30〜100mmの範囲とすることができる。また、ラグブロックの壁部の、ラジアル方向に対してなす角度は、高スリップ時のトラクションの観点からは、0°〜23°の範囲が好適である。ラグブロックの配置ピッチ(繰返し周期)は、例えば、タイヤの全周長の1/10〜1/30とすることができる。
【0021】
本発明のタイヤは、特に、圃場等において農業機械に装着して使用される農業用タイヤとして有用である。本発明のタイヤが農業用タイヤの場合、例えば、ビード部間に延在してタイヤの骨格をなすカーカスは、1枚ないしそれ以上のスチールプライまたは有機繊維プライにより形成することができる。また、カーカスのクラウン部ラジアル方向外側には、1枚以上のベルトを配置することができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
<実施例>
図1に示すようなトレッド部に複数のラグブロックを備えるパターンを有するタイヤにおいて、ラグブロックとして
図3(d)に示すものを適用して、タイヤサイズ710/70R42にて、実施例の農業用ラジアルタイヤを製造した。このタイヤにおけるラグブロックにおいては、幅方向領域および周方向領域が、幅方向領域のタイヤ幅方向に対しなす角度0°で、幅方向領域と前記周方向領域とからなる階段状形状が10箇所となるよう、長さを変えることなく設けられていた。
【0023】
また、蹴出し側の壁部については、ラグブロックの形成角度と同じ角度であり、タイヤ幅方向に対し45°で形成されていた。さらに、周方向領域のタイヤ幅方向に対しなす角度は90°であった。さらにまた、ラグブロックの高さは72.5mmであり、延在方向に直交する方向に測ったラグブロックの平均の幅は49.3mmであり、ラグブロックの配置ピッチ(繰返し周期)は、タイヤの全周長の1/21であった。
【0024】
<従来例>
ラグブロックとして、幅方向領域と周方向領域とからなる階段状形状を設けないものを用いた以外は実施例と同様にして、従来例の農業用ラジアルタイヤを製造した。
【0025】
<ラグブロックの踏面面積>
得られた各供試タイヤのラグブロックの踏面面積を測定して、従来例の供試タイヤの値を100とする指数で示した。数値が大きいほど踏面面積が大きいことを示す。
【0026】
<トラクション性能>
得られた各供試タイヤに内圧160kPa(23psi)を充填し、荷重6710kg(14800lbs)を負荷して、標準リムにリム組みした。これを車両(ジョンディア社製,8530)に装着し、トウモロコシ畑においてトラクション力を5回測定して、その平均値を算出した。結果は、従来例の供試タイヤの値を100とする指数で示した。数値が大なるほどトラクション力が高く、良好である。
得られた結果を、下記の表中に併せて示す。
【0027】
【表1】
【0028】
上記表中に示すように、トレッド部に、踏込み側の壁部に幅方向領域と周方向領域とからなる階段状形状を有し、蹴出し側の壁部がラグブロックの延在方向における中心線と略同一角度で形成されている複数のラグブロックを設けた実施例の供試タイヤにおいては、かかる階段状形状を設けない従来例の供試タイヤと比較して、良好なトラクション性能が得られていることが確かめられた。また、実施例の供試タイヤにおいて、耐摩耗性や振動等の他性能は従来例と同等であった。
【0029】
以上より、実施例の供試タイヤにおいては、ラグブロックの幅方向領域の角度をタイヤ幅方向に近づけることにより、高スリップ時のトラクション性能の向上効果が最大限に得られていることが確かめられた。
【符号の説明】
【0030】
1,1a,1b,1c,1d,1e,1f:ラグブロック,11:踏込み側の壁部,11A,101A,102A,103A,104A,105A,106A:幅方向領域,11B,101B,102B,103B,104B,105B,106B:周方向領域,12:蹴出し側の壁部,13:階段状形状,13A:凹部,13B:凸部