特許第6181439号(P6181439)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181439
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】作業用走行車
(51)【国際特許分類】
   B60K 20/02 20060101AFI20170807BHJP
   B60K 20/00 20060101ALI20170807BHJP
   F16H 63/26 20060101ALI20170807BHJP
   A01C 11/02 20060101ALI20170807BHJP
   B60T 7/06 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   B60K20/02 Z
   B60K20/00 Z
   F16H63/26
   A01C11/02 330Z
   !B60T7/06 C
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-131622(P2013-131622)
(22)【出願日】2013年6月24日
(65)【公開番号】特開2015-3696(P2015-3696A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年3月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001878
【氏名又は名称】三菱マヒンドラ農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085394
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 哲夫
(74)【代理人】
【識別番号】100165456
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 佑子
(72)【発明者】
【氏名】土江 昌嗣
【審査官】 岩本 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−068978(JP,A)
【文献】 特開2012−066735(JP,A)
【文献】 特開2008−037317(JP,A)
【文献】 特開2005−306099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 20/02
A01C 11/02
B60K 20/00
F16H 63/26
B60T 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機の動力を無段変速する主変速機構と、
主変速機構を変速操作する主変速レバーと、
主変速機構の伝動下流側に設けられ、走行動力又は作業動力を変速するスライディングメッシュ式のギヤ変速機構と、
ブレーキペダルの踏み込み操作に応じて走行を制動する走行ブレーキ機構と、
ブレーキペダルを踏み込み位置で選択的に係止する駐車ブレーキ機構と、
ブレーキペダルの踏み込み操作に応じて主変速レバーを中立位置に復帰させる主変速中立復帰機構とを備える作業用走行車であって、
前記主変速中立復帰機構は、ブレーキペダルを踏み込み位置で選択的に係止した駐車ブレーキ状態であっても、所定の融通範囲で主変速レバーによる主変速機構の変速操作を許容する融通手段を備え
該融通手段による融通範囲は、駐車ブレーキ状態であっても主変速レバーが中立位置に復帰される融通操作角度であることを特徴とする作業用走行車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用田植機などの作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
静油圧式無段変速機構(HST)などの無段変速機構からなる主変速機構を備え、主変速レバーによる主変速機構の変速操作にもとづいて走行速度を無段変速可能な作業用走行車が知られている。この種の作業用走行車のなかには、走行中にブレーキペダルを踏み込み操作すると、主変速レバーを中立位置に復帰させる主変速中立復帰機構を備えるものがある。例えば、特許文献1の作業用走行車は、ブレーキペダルを踏み込み操作すると、主変速レバーの中立復帰に応じて静油圧式無段変速機構が中立状態となり、ブレーキが掛かる構造となっている。また、この種の作業用走行車は、通常、ブレーキペダルを踏み込み位置で選択的に係止する駐車ブレーキ機構を備えており、ブレーキペダルを踏み込み位置で選択的に係止した駐車ブレーキ状態では、静油圧式無段変速機構も中立状態に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−194948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種の作業用走行車では、駐車ブレーキ状態で走行動力系(例えば、副変速機構)や作業動力系(例えば、株間変速機構)の変速操作を行なう場合がある。しかしながら、これらの変速機構がスライディングメッシュ式(選択摺動式)のギヤ変速機構である場合、駆動側ギヤと従動側ギヤの噛み合い位置が合わないと、ギヤの側面同士が干渉して変速ができない可能性がある。従来、このような場合は、一度駐車ブレーキを解除するとともに、主変速レバーを操作してギヤ変速機構の上流側を回転させながら、変速操作を行なっていたが、操作が煩雑なだけでなく、駐車ブレーキ解除により変速操作中に機体が動いてしまう惧れがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、原動機の動力を無段変速する主変速機構と、主変速機構を変速操作する主変速レバーと、主変速機構の伝動下流側に設けられ、走行動力又は作業動力を変速するスライディングメッシュ式のギヤ変速機構と、ブレーキペダルの踏み込み操作に応じて走行を制動する走行ブレーキ機構と、ブレーキペダルを踏み込み位置で選択的に係止する駐車ブレーキ機構と、ブレーキペダルの踏み込み操作に応じて主変速レバーを中立位置に復帰させる主変速中立復帰機構とを備える作業用走行車であって、前記主変速中立復帰機構は、ブレーキペダルを踏み込み位置で選択的に係止した駐車ブレーキ状態であっても、所定の融通範囲で主変速レバーによる主変速機構の変速操作を許容する融通手段を備え、該融通手段による融通範囲は、駐車ブレーキ状態であっても主変速レバーが中立位置に復帰される融通操作角度であることを特徴とする作業用走行車である。
【発明の効果】
【0006】
請求項1の発明によれば、駐車ブレーキ状態であっても、所定の融通範囲で主変速レバーによる主変速機構の変速操作が許容されるので、駐車ブレーキを解除することなく、主変速レバーを操作して主変速機構の下流側を回転させつつ、ギヤ変速機構の変速操作を行なうことができ、その結果、駐車ブレーキ状態におけるギヤ変速機構の変速操作を簡略化できるだけでなく、変速操作中に機体が動いてしまうような不都合も解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】乗用田植機の左側面図である。
図2】乗用田植機の平面図である。
図3】乗用田植機の伝動図である。
図4】乗用田植機のブレーキ操作系及び主変速操作系を示す平面図である。
図5】乗用田植機のブレーキ操作系及び主変速操作系を示す正面図である。
図6】乗用田植機のブレーキ操作系及び主変速操作系を示す左側面図である。
図7】乗用田植機のブレーキ操作系及び主変速操作系を示す右側面図である。
図8】乗用田植機の主変速操作系及び主変速中立復帰機構を示す斜視図である。
図9】乗用田植機の主変速操作系及び主変速中立復帰機構を示す分解斜視図である。
図10】乗用田植機の主変速操作系及び主変速中立復帰機構を示す要部拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図面において、1は乗用田植機(作業用走行車)の走行機体であって、該走行機体1は、機体前部に搭載されるエンジン2と、エンジン動力を変速するトランスミッションケース3と、フロントアクスルケース4で支持される左右一対の前輪5と、リヤアクスルケース6で支持される左右一対の後輪7とを備える。エンジン動力は、静油圧式無段変速機構からなる主変速機構8を介してトランスミッションケース3に入力され、ここで変速された動力がフロントアクスルケース4、リヤアクスルケース6及び植付PTO軸9に出力される。
【0009】
走行機体1の後部には、昇降リンク機構10を介して植付作業部11が連結されている。植付作業部11は、昇降リンク機構10にローリング自在に連結される作業部フレーム12と、作業部フレーム12の上方に左右往復動自在に設けられる苗載台13と、作業部フレーム12から後方に延出する複数の植付伝動ケース14と、植付伝動ケース14の後端部に設けられる植付機構15と、植付伝動ケース14の下方に上下揺動自在に設けられるフロート16とを備えて構成される。
【0010】
図3に示すように、トランスミッションケース3は、主変速機構8から動力を入力する入力軸17と、入力軸17の動力を副変速機構18を介して前輪動力出力軸19及び後輪動力出力軸20に伝動する走行動力伝動経路21と、入力軸17の動力を株間変速機構22、トルクリミッタ23及び植付クラッチ機構24を介して植付PTO軸9に伝動する植付動力伝動経路25とを備える。
【0011】
副変速機構18は、走行動力を段階的に変速するスライディングメッシュ式のギヤ変速機構であり、駆動側の二つの固定ギヤ26、27と、従動側の二つのスライドギヤ28、29を備え、スライドギヤ28、29のスライド操作による選択的な噛み合いによって、中立位置を介した2段階(走行、作業)の変速が可能となる。
【0012】
株間変速機構22は、車速に対する植付機構15の相対的な動作速度を段階的に変速するスライディングメッシュ式のギヤ変速機構であり、駆動側の四つの固定ギヤ30〜33と、従動側の二つのスライドギヤ34、35を備え、スライドギヤ34、35のスライド操作による選択的な噛み合いによって、4段階の変速が可能となる。
【0013】
図1及び図2に示すように、走行機体1は、エンジン2が搭載されるエンジン搭載部36の後方に、オペレータが乗車する運転部37を備える。運転部37は、運転座席38の他に、ステアリングハンドル39、ブレーキペダル40、主変速レバー41などの各種操作具を備えて構成されている。
【0014】
図4図7に示すように、ブレーキペダル40は、オペレータの踏み込み操作に応じて、ペダル軸42を支点として上下回動するペダルアーム43を備え、該ペダルアーム43の基部には、上下に突出する一対の連結アーム44、45が一体的に設けられている。一方の連結アーム44は、リヤアクスルケース6に設けられる走行ブレーキ機構46を作動させるブレーキアーム46aに対し、ロッド47、回動プレート48及び連結プレート49を介して連結されており、ブレーキペダル40の踏み込み操作に応じて走行ブレーキ機構46を作動させる。
【0015】
また、ブレーキペダル40の近傍には、ブレーキペダル40を踏み込み位置で選択的に係止する駐車ブレーキ機構50が設けられている。本実施形態の駐車ブレーキ機構50は、ペダルアーム43から側方に突出するピン51と、ブレーキペダル40の近傍に前後回動自在に設けられ、ピン51に選択的に係合可能な駐車ブレーキフック52と、駐車ブレーキフック52を係合解除方向(前方)に付勢するバネ53とを備えており、ブレーキペダル40を踏み込み操作しながら、駐車ブレーキフック52を手前側に引き、駐車ブレーキフック52のフック溝52aをピン51に係合させることにより、ブレーキペダル40を踏み込み位置で選択的に係止し、駐車ブレーキ状態を現出させることができる。また、駐車ブレーキ状態でブレーキペダル40を踏み込み操作すると、ピン51が駐車ブレーキフック52のフック溝52aから外れ、駐車ブレーキ状態が解除される。
【0016】
図4図10に示すように、主変速レバー41は、左右を向く第一レバー支軸54を支点とする前後方向の回動操作と、前後を向く第二レバー支軸55を支点とする左右方向の回動操作が許容されており、レバーガイド56の直進変速ガイド部56aの案内で前後に操作される直進変速操作と、レバーガイド56の後進変速ガイド部56bの案内で前後に操作される後進変速操作と、レバーガイド56の中立ガイド部56cの案内で左右に操作され、前進変速操作と後進変速操作を選択的に切換える前後進切換操作とが可能となっている。
【0017】
主変速レバー41の基部には、主変速レバー41の前後方向の回動操作に応じて、一体的に前後方向に回動するアーム57及びカムプレート58が設けられている。アーム57は、ロッド59を介して主変速機構8のトラニオンアーム60に連結されており、主変速レバー41の前後方向の回動操作に応じてトラニオンアーム60を押し引きすることにより、主変速機構8を変速動作させる。
【0018】
カムプレート58は、主変速レバー41を予め設定される複数の変速操作位置(例えば、中立、前進5段、後進3段)に位置決め保持する位置保持機構61の構成部品であり、第一レバー支軸54を中心とする扇形状を有するとともに、その円弧部に複数の位置決め溝58aを備える。位置保持機構61は、カムプレート58の他に、アーム支軸62を支点として上下回動自在なローラアーム63と、ローラアーム63に設けられるローラ64と、ローラアーム63を上方に付勢するバネ65とを備えて構成され、ローラ64がバネ65の付勢力を受けつつカムプレート58の各位置決め溝58aに係合することにより、主変速レバー41が予め設定される複数の変速操作位置に位置決め保持される。
【0019】
さらに、主変速レバー41には、ブレーキペダル40の踏み込み操作に応じて主変速レバー41を中立位置に復帰させる主変速中立復帰機構66が連繋されている。本実施形態の主変速中立復帰機構66は、第一レバー支軸54の一端部に一体的に設けられ、カムプレート58に重合するプレート67と、プレート67に突設されてカムプレート58の係合孔58bに係合するピン68と、第一レバー支軸54の他端部に一体的に設けられて左右方向に突出するアーム69と、該アーム69の左右両端に突設されるピン69a、69bに対し、長孔70a、71aを介して係合する前後一対のロッド70、71と、ロッド70、71の他端部に連結されるとともに、ロッド72を介して前述の連結アーム45に連結される回動部材73とを備えて構成されている。
【0020】
ブレーキペダル40が踏み込み操作されると、連結アーム45がロッド72を後方に引くのに伴い、回動部材73が回動してロッド70、71を下方に引く。ロッド70、71は、長孔70a、71aの上端でピン69a、69bを下方に引き、アーム69を所定の角度に回動させる。アーム69が所定の角度になると、アーム69に第一レバー支軸54を介して一体的に連結されるプレート67や、プレート67にピン68及び係合孔58bを介して係合されるカムプレート58、さらには、カムプレート58と一体的に前後回動する主変速レバー41も所定の角度となる。したがって、この所定の角度を中立位置と一致するように設定することにより、ブレーキペダル40の踏み込み操作に応じて、主変速レバー41を中立位置に自動的に復帰させることが可能になる。
【0021】
主変速中立復帰機構66は、ブレーキペダル40を踏み込み位置で選択的に係止した駐車ブレーキ状態であっても、所定の融通範囲で主変速レバー41による主変速機構8の変速操作を許容する融通手段を備える。本実施形態の融通手段は、プレート67のピン68と、カムプレート58の係合孔58bとの間に設けられた隙間74であり、ブレーキペダル40を踏み込み位置で選択的に係止した駐車ブレーキ状態であっても、隙間74の範囲で主変速レバー41を前後に回動操作し、主変速機構8を変速操作することができる。したがって、スライディングメッシュ式のギヤ変速機構である副変速機構18や株間変速機構22を駐車ブレーキ状態で変速操作する場合、駐車ブレーキを解除することなく、主変速レバー41を融通手段の範囲で操作して主変速機構8の下流側を回転させつつ、副変速機構18や株間変速機構22の変速操作を行なうことが可能になり、その結果、駐車ブレーキ状態における副変速機構18や株間変速機構22の変速操作を簡略化できるだけでなく、駐車ブレーキの解除によって変速操作中に機体が動いてしまうような不都合も解消することができる。
【0022】
融通手段の融通範囲である主変速レバー41の融通操作角度αは、ローラ64がカムプレート58の中立用位置決め溝58aから逸脱する角度βよりも小さくすることが好ましい。その理由は、駐車ブレーキ状態で主変速レバー41を操作しつつ、副変速機構18や株間変速機構22を変速操作した後、主変速レバー41を中立位置に戻すことなく手を離したとしても、位置保持機構61によって主変速レバー41が自動的に中立位置に戻されるからである。このようにすると、主変速レバー41の中立位置への戻し忘れにより、駐車ブレーキ解除と同時に機体が急発進することを防止できる。
【0023】
叙述の如く構成された本実施形態によれば、エンジン2の動力を無段変速する主変速機構8と、主変速機構8を変速操作する主変速レバー41と、主変速機構8の伝動下流側に設けられ、走行動力や作業動力を変速するスライディングメッシュ式の副変速機構18や株間変速機構22と、ブレーキペダル40の踏み込み操作に応じて走行を制動する走行ブレーキ機構46と、ブレーキペダル40を踏み込み位置で選択的に係止する駐車ブレーキ機構50と、ブレーキペダル40の踏み込み操作に応じて主変速レバー41を中立位置に復帰させる主変速中立復帰機構66とを備える乗用田植機であって、主変速中立復帰機構66は、ブレーキペダル40を踏み込み位置で選択的に係止した駐車ブレーキ状態であっても、所定の融通範囲で主変速レバー41による主変速機構8の変速操作を許容する融通手段を備えるので、駐車ブレーキを解除することなく、主変速レバー41を操作して主変速機構8の下流側を回転させつつ、副変速機構18や株間変速機構22の変速操作を行なうことができ、その結果、駐車ブレーキ状態における副変速機構18や株間変速機構22の変速操作を簡略化できるだけでなく、駐車ブレーキ解除により変速操作中に機体が動いてしまうような不都合も解消することができる。
【符号の説明】
【0024】
1 走行機体
2 エンジン
3 トランスミッションケース
8 主変速機構
18 副変速機構
22 株間変速機構
40 ブレーキペダル
41 主変速レバー
46 走行ブレーキ機構
50 駐車ブレーキ機構
58 カムプレート
58b 係合孔
59 ロッド
60 トラニオンアーム
61 位置保持機構
66 主変速中立復帰機構
67 プレート
68 ピン
74 隙間(融通手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10