特許第6181490号(P6181490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6181490-消火設備 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181490
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】消火設備
(51)【国際特許分類】
   A62C 37/08 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   A62C37/08
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-194728(P2013-194728)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-58232(P2015-58232A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003403
【氏名又は名称】ホーチキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】外村 賢昭
【審査官】 首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5187880(JP,B2)
【文献】 特開2009−142601(JP,A)
【文献】 特開2013−128547(JP,A)
【文献】 特開2007−063759(JP,A)
【文献】 特開2010−233849(JP,A)
【文献】 特開昭56−160519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62C 35/60
A62C 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の防護区画毎に設置された流水検知装置の二次側から閉鎖型のスプリンクラーヘッドまで加圧水充水され、前記流水検知装置の各々の一次側又は二次側に設けられた緊急遮断弁を、前記スプリンクラーヘッドが作動した場合に、当該スプリンクラーヘッドが設置された防護区画の火災感知器が作動して出力した火災信号を受信していれば開放状態を維持し、当該火災信号を受信していなければ閉止する消火設備に於いて、
前記防護区画に設けられ、当該防護区画における消火設備の耐震強度に応じて設定された震度以上で作動して地震信号を出力する感震器と、
前記感震器から地震信号を受信した場合に、当該感震器が設けられた防護区画の火災感知器からの火災信号を受信していなければ、当該防護区画の緊急遮断弁を閉止制御する制御部と、
備え、前記防護区画毎の消火設備の耐震強度に応じて前記緊急遮断弁の選択的な閉止制御が可能であることを特徴とする消火設備。
【請求項2】
複数の防護区画毎に設置された流水検知装置の二次側から閉鎖型のスプリンクラーヘッドまで加圧水が充水され、前記流水検知装置の各々の一次側又は二次側に設けられた緊急遮断弁を、前記スプリンクラーヘッドが作動した場合に、当該スプリンクラーヘッドが設置された防護区画の火災感知器が作動して出力した火災信号を受信していれば開放状態を維持し、当該火災信号を受信していなければ閉止する消火設備に於いて、
前記防護区画毎に設けられ、所定以上の震度で作動して地震信号を出力する感震器と、
前記感震器からの地震信号を受信した場合に、当該感震器が設けられた防護区画の火災感知器からの火災信号を受信していなければ、当該防護区画の緊急遮断弁を閉止制御する制御部と、
緊急地震速報を受信した場合に地震信号を出力する受信装置と、
備え、
前記制御部は、前記受信装置から地震信号を受信した場合に、前記防護区画毎に、当該防護区画の火災感知器からの火災信号を受信していなければ、当該防護区画の緊急遮断弁を閉止制御することを特徴とする消火設備。
【請求項3】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記緊急遮断弁の閉止制御中又は閉止制御した後に、前記火災信号を受信した場合、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項4】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記緊急遮断弁を閉止制御してから所定時間を経過した場合に、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項5】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記緊急遮断弁の閉止制御中又は閉止制御した後に、前記感震器からの地震信号の受信がなくなった場合に、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項6】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記緊急遮断弁を閉止制御してから所定時間を経過した場合に、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させ、前記所定時間を経過する前に前記感震器からの地震信号の受信がなくなった場合にも、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項7】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記火災感知器作動した場合に自火報受信機を経由して前記火災信号として受信し、前記緊急遮断弁を閉止制御中又は閉止制御した後に、前記受信機が前記火災信号を送信できない障害を検出した場合、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項8】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記緊急遮断弁を閉止制御中又は閉止制御した後に、復旧スイッチによる復旧操作の受付けを検出した場合に、前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項9】
請求項1又は2記載の消火設備に於いて、前記制御部は、前記緊急遮断弁を閉止制御中又は閉止制御した後に、前記火災信号の受信、所定時間の経過、前記地震信号の停止、又は復旧スイッチによる復旧操作の受付け検出を含む所定の復旧条件を検出した場合、所定の遅延時間経過後に前記緊急遮断弁を開放制御して復旧させることを特徴とする消火設備。
【請求項10】
自動火災警報受信機と、
スプリンクラー制御盤と、
複数の防護区画毎に1又は複数が設置され、当該防護区画の火災を検知したときに、火災信号を前記自動火災警報受信機を介して前記スプリンクラー制御盤に出力する火災感知器と、
給水本管から分岐して前記防護区画毎に敷設された分岐管と、
前記分岐管毎に設置され、当該分岐管の流水を検知する流水検知装置と、
前記防護区画毎に1又は複数が設置され、前記流水検知装置の二次側に接続されて加圧水が充水された閉鎖型のスプリンクラーヘッドと、
前記流水検知装置の一次側又は二次側に設置され、前記スプリンクラー制御盤に開閉制御されて通常時には開放状態を維持する緊急遮断弁と、
所定以上の震度で作動して地震信号を出力する感震器、又は緊急地震速報を受信したときに地震信号を出力する受信装置と、
を備えた消火設備であって、
前記流水検知装置は、前記スプリンクラーヘッドの作動に伴う流水を検知したときに、流水検知信号を前記スプリンクラー制御盤に出力し、
前記スプリンクラー制御盤は、
前記流水検知信号を受信したときに、
当該流水検知信号を出力した防護区画から前記火災信号を受信している場合、当該防護区画については、前記緊急遮断弁の開放状態を維持し、
当該流水検知信号を出力した防護区画から前記火災信号を受信していない場合、当該防護区画については、前記緊急遮断弁を閉止制御し、
前記地震信号を受信したときに、
前記複数の防護区画のうち、前記火災信号を出力している防護区画については、前記緊急遮断弁の開放状態を維持し、
前記複数の防護区画のうち、前記火災信号を出力していない防護区画については、前記緊急遮断弁を閉止制御する、
ことを特徴とする消火設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火災が発生した場合にスプリンクラーヘッドの作動で放水させる消火設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般ビル向けの消火設備として、湿式スプリンクラー消火設備が知られている。湿式スプリンクラー消火設備は、水による初期消火を目的として、火災感知から消火まで全て自動で行う消火設備である。一般ビル向けの湿式スプリンクラー消火設備は、閉鎖型スプリンクラーヘッドを用い、全配管内に加圧水を充満させており、火災の場合、スプリンクラーヘッドが自動的に作動して流水検知装置を開き、毎分80リットル以上の水を連続散水して消火する。
【0003】
スプリンクラー消火設備に設けた閉鎖型のスプリンクラーヘッドは、火災による熱気流を受けて開放するものであるが、大きな地震が発生して強い衝撃が加わった場合に破損すると、開放して水が漏れるという事故が起こす。
【0004】
この問題を解決するため、緊急地震速報を受信したときに、一次側配管に設けられた止水弁を閉じるように制御すると共に、二次側配管内に接続された排水弁を開放して、二次側配管内の加圧水を排水するように構成した消火設備が提案され、地震発生時における、スプリンクラーヘッドの破損による水漏れを防止できるようにしている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−29192号公報
【特許文献2】特許第5187880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、緊急地震速報が出されるような大きな地震の発生に対する建物の耐震対策は、人的物的被害の防止にあり、地震時の損壊防止と地震後の機能確保を図る必要があり、建物に設置したスプリンクラー消火設備を含む消防用設備についても、地震時の損壊防止に加え地震後に機能確保を図ることが重要な課題となる。
【0007】
地震動により建物の消防用設備が受けた被害状況の調査報告によれば、消防用設備が受けた被害の内の20%以上をスプリンクラー消火設備が占め、その内訳は、配管被害が約37%、スプリンクラーヘッドが約32%、水槽が約20%、加圧送水装置が約11%であったとしている。この内の約70%を占める配管とスプリンクラーヘッドの被害は、配管とスプリンクラーヘッドを吊り天井構造で設置していることに主な原因があることも報告されている。
【0008】
更に、機能停止が許されない用途や、地域社会に生じた被害を早期に復旧するための中枢施設となる官庁施設、病院などでは建物機能を地震後にも継続して確保する必要があり、建築的・設備的に積極的な機能確保策を図る必要がある。
【0009】
このような観点からみると、従来の緊急地震速報を受信して水漏れを防止するようにした消火設備にあっては、次の問題がある。
【0010】
まず、緊急地震速報を受信した場合に、一次側配管の止水弁を閉制御して設備の給水機能を強制的に停止しているため、複数の防護区画のいずれかで火災が発生してスプリンクーヘッドが作動している場合にも、止水弁を閉鎖することで、スプリンクラーヘッドからの放水が停止し、消火機能が停止する問題がある。この火災発生に対する対処として、地震発生後に、防災センターの要員が火災を確認したら給水停止機能を解除するとしているが、火災によるスプリンクラーヘッドの作動中に緊急地震速報を受信した場合に対応できない。
【0011】
また、緊急地震速報を受信した場合に、一次側配管の止水弁を閉制御することに加え、二次側配管内に接続された排水弁を開放して二次側配管内の加圧水を排水するようにしているため、地震発生後に火災が発生してスプリンクラーヘッドが開放した場合、二次側配管内には加圧水がないため散水ができず、監視センターの要員が火災を確認して停止解除をおこなっても、ポンプ起動により加圧水が供給されるまでに時間がかかり、初期消火できずに火災が拡大してしまう可能性が高い。
【0012】
また、受信装置で緊急地震速報を受信して止水弁を閉じると共に排水弁を開いて給水機能を停止しているが、緊急地震速報が誤って出された場合にも動作することから復旧が大変であり、また、緊急地震速報が出されなくとも大きな地震動を受ける場合もあり、また、同じ建物であっても、例えば下層階と上層階では揺れの度合いが異なり、揺れの少ない防護区画については、給水機能の停止は不必要な制御であり、消火設備の機能確保を損なうことになる。
【0013】
本発明は、震災が発生した場合に、消火機能を損なうことなく、スプリンクラーヘッドやその配管からの水漏れを抑制して水損防止により財産保護や不要な廃棄物の発生を防ぐことを可能とする消火設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(消火設備
本発明は、複数の防護区画毎に設置された流水検知装置の二次側から閉鎖型のスプリンクラーヘッドまで加圧水充水され、流水検知装置の各々の一次側又は二次側に設けられた緊急遮断弁を、スプリンクラーヘッドが作動した場合に、当該スプリンクラーヘッドが設置された防護区画の火災感知器が作動して出力した火災信号を受信していれば開放状態を維持し、当該火災信号を受信していなければ閉止する消火設備に於いて、
防護区画に設けられ、当該防護区画における消火設備の耐震強度に応じて設定された震度以上で作動して地震信号を出力する感震器と、
感震器から地震信号を受信した場合に、当該感震器が設けられた防護区画の火災感知器からの火災信号を受信していなければ、当該防護区画の緊急遮断弁を閉止制御する制御部と、
備え、防護区画毎の消火設備の耐震強度に応じて緊急遮断弁の選択的な閉止制御が可能であることを特徴とする。
【0015】
(消火設備2)
本発明は、複数の防護区画毎に設置された流水検知装置の二次側から閉鎖型スプリンクラーヘッドまで加圧水が充水され、流水検知装置の各々の一次側又は二次側に設けられた緊急遮断弁を、スプリンクラーヘッドが作動した場合に、当該スプリンクラーヘッドが設置された防護区画の火災感知器が作動して出力した火災信号を受信していれば開放状態を維持し、当該火災信号を受信していなければ閉止する消火設備に於いて、
防護区画に設けられ、所定以上の震度で作動して地震信号を出力する感震器と、
感震器からの地震信号を受信した場合に、当該感震器が設けられた防護区画の火災感知器からの火災信号を受信していなければ、当該防護区画の緊急遮断弁を閉止制御する制御部と、
緊急地震速報を受信した場合に地震信号を出力する受信装置と、
を備え、
制御部は、受信装置からの地震信号を受信した場合に、防護区画毎に、当該防護区画の火災感知器からの火災信号を受信していなければ、当該防護区画の緊急遮断弁を閉止制御することを特徴とする。
【0016】
(閉止制御中の火災信号受信)
制御部は、緊急遮断弁の閉止制御中又は閉止制御した後に、火災信号を受信した場合、緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0017】
(タイマ復旧)
制御部は、緊急遮断弁を閉止制御してから所定時間を経過した場合に、緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0018】
(地震信号の停止による復旧)
制御部は、緊急遮断弁の閉止制御中又は閉止制御した後に、感震器からの地震信号の受信がなくなった場合に、緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0019】
(タイマ復旧と地震信号停止による復旧)
制御部は、緊急遮断弁を閉止制御してから所定時間を経過した場合に、記緊急遮断弁を開放制御して復旧させ、所定時間を経過する前に感震器からの地震信号の受信がなくなった場合にも、緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0020】
(自火報受信機の障害による復旧)
制御部は、火災感知器作動した場合に自火報受信機を経由して火災信号として受信し、緊急遮断弁を閉止制御中又は閉止制御した後に、自火報受信機か火災信号を送信できない障害を検出した場合、緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0021】
(手動復旧)
制御部は、緊急遮断弁を閉止制御中又は閉止制御した後に、復旧スイッチによる復旧操作の受付けを検出した場合に、緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0022】
(遅延復旧)
制御部は、緊急遮断弁を閉止制御中又は閉止制御した後に、火災信号の受信、所定時間の経過、地震信号の停止、又は復旧スイッチによる復旧操作の受付け検出を含む所定の復旧条件を検出した場合、所定の遅延時間経過後に緊急遮断弁を開放制御して復旧させる。
【0023】
(消火設備3)
本発明は、自動火災警報受信機と、
スプリンクラー制御盤と、
複数の防護区画毎に1又は複数が設置され、当該防護区画の火災を検知したときに、火災信号を自動火災警報受信機を介してスプリンクラー制御盤に出力する火災感知器と、
給水本管から分岐して防護区画毎に敷設された分岐管と、
分岐管毎に設置され、当該分岐管の流水を検知する流水検知装置と、
防護区画毎に1又は複数が設置され、流水検知装置の二次側に接続されて加圧水が充水された閉鎖型のスプリンクラーヘッドと、
流水検知装置の一次側又は二次側に設置され、スプリンクラー制御盤に開閉制御されて通常時には開放状態を維持する緊急遮断弁と、
所定以上の震度で作動して地震信号を出力する感震器、又は緊急地震速報を受信したときに地震信号を出力する受信装置と、
を備えた消火設備であって、
流水検知装置は、スプリンクラーヘッドの作動に伴う流水を検知したときに、流水検知信号をスプリンクラー制御盤に出力し、
スプリンクラー制御盤は、
流水検知信号を受信したときに、
当該流水検知信号を出力した防護区画から火災信号を受信している場合、当該防護区画については、緊急遮断弁の開放状態を維持し、
当該流水検知信号を出力した防護区画から火災信号を受信していない場合、当該防護区画については、緊急遮断弁を閉止制御し、
地震信号を受信したときに、
複数の防護区画のうち、火災信号を出力している防護区画については、緊急遮断弁の開放状態を維持し、
複数の防護区画のうち、火災信号を出力していない防護区画については、緊急遮断弁を閉止制御する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
(基本的な効果)
本発明の消火設備によれば、流水検知装置の二次側から防護区画に設置した閉鎖型のスプリンクラーヘッドまで加圧水を充水し、流水検知装置の一次側に設けた緊急遮断弁を、スプリンクラーヘッドが作動した場合に防護区画の火災感知器が作動していれば開放状態を維持し、火災感知器が作動していれば閉止する消火設備について、感震器から地震信号受信した場合に、防護区画の火災感知器が作動していなければ、緊急遮断弁を閉止制御するようにしたため、感震器が作動して地震信号を受信した場合に、火災が発生してスプリンクーヘッドが作動している防護区画については、緊急遮断弁の閉止制御を行わず散水を継続して確実に初期消火し、一方、火災感知器が作動していない防護区画については緊急遮断弁を閉止制御し、地震により開放したスプリンクラーヘッド及び又は二次側配管からの漏水を二次側配管の充水量に抑え、水損被害を抑制可能とする。
【0026】
(感震器の震度設定による効果)
感震器が作動する所定の震度を、当該感震器を設置する防護区画の状況に合わせて異なる震度を設定するようにしたため、建物の階別などの防護区画は、場所によって耐えうる震度が異なる場合があり、これに合わせて感震器が作動する震度を設定することで、防護区画の地震に対する強度に応じて緊急遮断弁の選択的な閉止制御を可能とする。
【0027】
(緊急遮断の復旧による効果)
緊急遮断弁の閉止制御中又は閉止制御した後に、火災信号の受信、所定時間の経過、地震信号の停止、又は復旧スイッチによる復旧操作の受付といった所定の復旧条件の成立を検出した場合、緊急遮断弁を開放制御して復旧させるようにしたため、通常監視状態と同様に消火機能を回復し、火災が発生した場合に加圧水を散水して初期消火を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】スプリンクラー消火設備の概略を示した説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
[スプリンクラー設備の概要]
図1は本発明の消火設備として湿式スプリンクラー消火設備の概要を示した説明図である。図1に示すように、建物の地下階などのポンプ室には消火ポンプ10を設置し、モータ12により駆動する。モータ12はポンプ制御盤14により起動・停止の運転制御を受ける。モータ12により駆動された消火ポンプ10は水源水槽15からの消火用水を吸入し、建物の高さ方向に配置した給水本管16に加圧した消火用水を供給する。
【0030】
消火ポンプ10に対してはポンプ起動用の圧力スイッチ20を備えた圧力タンク18を設け、圧力スイッチ20は給水本管16の管内圧力が規定圧力以下に低下したことを検出してポンプ制御盤14に圧力低下検出信号を出力し、これによってモータ12を起動して消火ポンプ10を起動する。
【0031】
給水本管16からは建物の例えば階別の防護区画毎に分岐管22を引き出している。分岐管22の分岐部分には流水検知装置24を設け、一次側に制御弁としても機能する緊急遮断弁40を設け、2次側の分岐管22には閉鎖型のスプリンクラーヘッド26を設けている。緊急遮断弁40はモータ駆動により開閉制御可能な電動弁を使用する。また、緊急遮断弁40としては予作動式スプリンクラー消火設備に設けている予作動弁を使用することもできる。
【0032】
分岐管22の末端側には末端試験弁28を設け、その2次側を、オリフィス30を介して排水管32に接続している。
【0033】
消火ポンプ10、給水本管16及びスプリンクラーヘッド26に至る配管内には所定圧力の加圧水を充満している。制御弁として機能する緊急遮断弁40は常時開放している。流水検知装置24は通常の監視状態で弁体を閉じており、火災によりスプリンクラーヘッド26が開放作動して消火用水を散水すると、散水に伴う水流により弁体を開き、弁体の動きに連動して流水検知スイッチをオンし、制御部として機能するスプリンクラー制御盤38に流水検知信号を送信して作動表示又は火災表示を行う。
【0034】
またスプリンクラーヘッド26を設置した防護区画には、自火報受信機34から引き出された感知器回線に接続した火災感知器36を設置している。
【0035】
[震災対策の設備機器]
図1に示したスプリンクラー消火設備における震災対策の設備機器として、防護区画に感震器42を設けると共に、更に、スプリンクラー制御盤38に、震災対策に対応した制御部としての機能を設けている。なお、必要に応じて、緊急地震速報を受信した場合に地震信号を出力する受信装置44を設けてもよい。
【0036】
[感震器の構成]
感震器42は、例えば防護区画毎に設置し、所定以上の震度で作動して地震信号E1をスプリンクラー制御盤38に出力する。感震器42が作動して地震信号E1を出力する震度は、防護区画の耐震強度や消火設備の耐震強度に応じて定め、例えば震度5以上で作動するように設定する。感震器42は例えば地震に伴う横揺れ及び縦揺れを検知する加速度センサや、移動する内蔵の球体でスイッチ接点をオンして検知する機械式の地震センサ等を使用する。
【0037】
[スプリンクラー制御盤の制御機能]
(通常監視状態での制御)
制御部として機能するスプリンクラー制御盤38は、通常監視状態で緊急遮断弁40を開放制御して開放状態としており、流水検知装置24の一次側に加圧水を充水している。
【0038】
火災の熱気流を受けて防護区画に設置しているスプリンクラーヘッド26が作動すると、配管内に充水している加圧水を散水し、これに伴い配管内の圧力が低下し、圧力タンク18に設けた圧力スイッチ20が作動して圧力低下検出信号をポンプ制御盤14に出力し、消火ポンプ10を起動し、水源水槽15からくみ上げた水を加圧してスプリンクラーヘッド26へ供給して散水させる。このとき流水検知装置24はスプリンクラーヘッド26からの放水に伴う流水で弁体を作動して流水検知スイッチを作動し、流水検知信号E4をスプリンクラー制御盤38に出力して作動表示する。
【0039】
一方、火災以外の原因、例えば防護区画での工事作業などによりスプリンクラーヘッド26に物が当って誤放水した場合には、スプリンクラー制御盤38は、流水検知信号を受信してから所定時間内に火災感知器36の作動による火災信号E2を自火報受信機34の移報により受信しない場合は、緊急遮断弁40に閉止制御信号を出力して閉止し、スプリンクラーヘッド26からの放水を停止して水損を防止する。ここで、スプリンクラー制御盤38は、流水検知装置24の状態によらず、緊急遮断弁40に対する制御を行う。
【0040】
(地震が発生した場合の制御)
制御部として機能するスプリンクラー制御盤38は、地震発生により感震器42から地震信号E1を受信した場合に、防護区画の火災感知器36が作動していなければ、即ち、自火報受信機34から移報される火災信号E2を受信していなければ、緊急遮断弁40に閉止制御信号を出力して閉止制御する。
【0041】
このように地震信号E1を受信した場合に、火災感知器36で防護区画の火災を検出していないことを条件に、スプリンクラー制御盤38は緊急遮断弁40を閉止制御し、地震によりスプリンクラーヘッド26が破損して開放したり、その配管が破損した場合であっても、緊急遮断弁40による閉止制御で1次側からの給水を停止し、最大でも2次側配管に充水している消火用水の漏水に留め、漏水による水損被害を抑制可能とする。
【0042】
また、スプリンクラー制御盤38は、感震器42から地震信号E1を受信した場合に、火災感知器36で防護区画の火災を検出していれば、緊急遮断弁40の閉止制御を行わずに開放状態を維持し、火災により作動しているスプリンクラーヘッド26からの散水を継続し、散水停止により消火不能となる事態を回避する。
【0043】
(復旧制御)
スプリンクラー制御盤38による復旧制御は、緊急遮断弁40の閉止制御中または閉止制御を行った後に、所定の復旧条件を検出した場合、緊急遮断弁40に開放制御信号を出力して開放制御し、通常監視状態に復旧させる。このため地震後に火災が発生した場合、通常監視状態と同様に、消火設備は、自動的に、ポンプ起動による加圧水を作動したスプリンクラーヘッド26から散水して初期消火可能とする。
【0044】
復旧制御の詳細は次のようになる。まず、スプリンクラー制御盤38は、緊急遮断弁40の閉止制御中または閉止制御を行った後に、火災信号E2を受信した場合、緊急遮断弁40に開放制御信号を出力して開放制御し、通常監視状態に復旧させる。
【0045】
また、スプリンクラー制御盤38は、緊急遮断弁の停止制御中または閉止制御した後に、感震器42からの地震信号E1を受信しなくなった場合に、緊急遮断弁40に開放制御信号を出力して開放制御し、通常監視状態に復旧させる。
【0046】
また、スプリンクラー制御盤38は、緊急遮断弁40を閉止制御中又は閉止制御した後に、操作部に設けた復旧スイッチによる復旧操作の受付けを検出した場合に、緊急遮断弁40を開放制御して復旧させる。
【0047】
また、スプリンクラー制御盤38は、感震器42からの地震信号E1を受信した場合にタイマを起動して経過時間を計測し、経過時間が所定時間に達したとき、即ち所定時間を経過したときに、緊急遮断弁40を開放制御して復旧させるようにしても良い。この場合、スプリンクラー制御盤38は、タイマによる経過時間の計測中、即ち、所定時間を経過する前に感震器42から地震信号E1を受信がなくなった場合にも、緊急遮断弁40を開放制御して復旧させる。
【0048】
また、スプリンクラー制御盤38は、自火報受信機34が火災信号E2を出力できない障害を示す障害信号等を受信した場合には、火災感知器36が作動しても火災信号E2を正常に受信できないことから、この場合には、火災検出の有無に係らず、感震器42から地震信号E1を受信した場合に、緊急遮断弁40を閉止制御する。また、スプリンクラー制御盤38は、緊急遮断弁40を閉止制御中又は閉止制御した後に、自火報受信機34が火災信号E2を出力できない障害を示す障害信号を受信した場合には、緊急遮断弁40を開放制御して復旧させる。
【0049】
ここで、自火報受信機34が火災信号E2を出力できない障害としては、例えば、自火報受信機34の連動停止、移報停止、電源断、点検中などを示す信号がある。
【0050】
また、スプリンクラー制御盤38は、緊急遮断弁40を閉止制御中又は閉止制御した後に、火災信号E2の受信、所定時間の経過、地震信号E1の停止、又は復旧スイッチによる復旧操作受付けを含む所定の復旧条件を検出した場合、直ぐに復旧制御を行わず、所定の遅延時間経過後に緊急遮断弁40を開放制御して復旧させるようにしても良い。この遅延復旧により、復旧条件が誤動作などにより一時的に発生した場合の誤った復旧制御を防止可能とする。
【0051】
[受信装置による緊急地震速報の受信]
図1の実施形態は、防護区画に設置した感震器42で地震を検出して地震信号E1をスプリンクラー制御盤38に出力しているが、必要に応じて、更に、緊急地震速報を受信した場合に地震信号E3を出力する受信装置44を設けてもよい。
【0052】
受信装置44は、テレビ放送、FM放送又はAM放送の受信機能を備え、気象庁から発表される緊急地震速報(EEW:Earthquake Early Warning)を受信した場合に、地震信号E1をスプリンクラー制御盤38へ出力する。受信装置44が受信する緊急地震速報は、一般向けの場合、推定最大震度5弱以上で気象庁から発表される警報であり、強い揺れが予想される地域に対し、地震動により重大な災害が起こるおそれのある旨を警告する放送である。
【0053】
緊急地震速報は例えば「(チャイム音2回)緊急地震速報です。強い揺れに警戒してください。・・・・・」といった放送を繰り返す。受信装置44は、緊急地震速報のチャイム音を判別して地震信号E3を出力する。また、受信装置44による緊急地震速報の受信は、放送受信以外に、携帯電話網、無線LANを経由したインターネット配信などによる緊急地震速報を受信して地震信号E1を出力しても良い。
【0054】
スプリンクラー制御盤38は、受信装置44から地震信号E3を受信した場合にも、防護区画の火災感知器36が作動していなければ、緊急遮断弁40に閉止制御信号を出力して閉止制御するようにしても良い。これにより感震器42が正常に作動しなかった場合に緊急遮断弁40を閉止制御することでフェイルセーフ性を確保可能とする。

【0055】
[本発明の変形例]
(緊急遮断弁)
上記の実施形態は、緊急遮断弁を流水検知装置の一次側に設けているが、流水検知装置の二次側に設けるようにしても良い。
(感震器のみによる制御)
上記の実施形態は、受信装置で緊急地震速報を受信した場合にも急遮断装置で緊急遮断弁を閉止制御しているが、受信装置を設けず、感震器のみとしても良い。
【0056】
(他のスプリンクラー消火設備)
上記の実施形態は、湿式のスプリンクラー消火設備を例にとっているが、乾式のスプリンクラー消火設備、湿式又は乾式の予作動式スプリンクラー消火設備についても同様に使用できる。
【0057】
(加圧送水装置)
上記の実施形態は、加圧送水装置として消火ポンプ設備を例にとるものであったが、これ以外に、高架水槽の落差を利用して送水するための圧力をえる高架水槽方式、加圧した水槽により給水する圧力水槽方式を使用してもよい。
【0058】
(その他)
また本発明はその目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【符号の説明】
【0059】
10:消火ポンプ
14:ポンプ制御盤
16:給水本管
18:圧力タンク
20:圧力スイッチ
22:分岐管
24:流水検知装置
26:スプリンクラーヘッド
34:自火報受信機
36:火災感知器
38:スプリンクラー制御盤
40:緊急遮断弁
42:感震器
44:受信装置
図1