特許第6181517号(P6181517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181517ガスセンサ素子、ガスセンサおよびガスセンサ素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181517
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ガスセンサ素子、ガスセンサおよびガスセンサ素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20170807BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   G01N27/409 100
   G01N27/419 327H
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2013-224285(P2013-224285)
(22)【出願日】2013年10月29日
(65)【公開番号】特開2015-87161(P2015-87161A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岩野 亨
(72)【発明者】
【氏名】温川 正樹
(72)【発明者】
【氏名】村岡 達彦
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 俊
(72)【発明者】
【氏名】大塚 茂弘
(72)【発明者】
【氏名】水谷 正樹
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−168030(JP,A)
【文献】 特開平07−043339(JP,A)
【文献】 特開2012−247293(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0297861(US,A1)
【文献】 特開2006−250537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/406−27/419
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも前記検知部を覆うように、前記素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子であって、
当該ガスセンサ素子は、前記素子本体部の前記側面上における前記保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、前記素子本体部と前記保護層とが離間するように形成された少なくとも1つの空間部を備えており、
前記空間部は、前記素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点を構成する前記素子本体部の3つの面のそれぞれに延びるように、当該1つの頂点上に設けられており、
前記保護層は、前記先端面の少なくとも一部に接すると共に、前記先端側領域における4つの前記側面の少なくとも一部に接すること、
を特徴とするガスセンサ素子。
【請求項2】
前記保護層は、前記先端側領域における4つの前記側面のそれぞれの少なくとも一部と接すること、
を特徴とする請求項1に記載のガスセンサ素子。
【請求項3】
前記素子本体部は、自身の前記先端側領域における前記先端面及び前記側面の表面積のうち半分以上が前記保護層と接触すること、
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のガスセンサ素子。
【請求項4】
1つの前記空間部は、1つの前記頂点上のみに設けられること、
を特徴とする請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項5】
前記空間部は、複数備えられること、
を特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項6】
前記空間部は、前記素子本体部の前記先端における4つの前記頂点のうち対角に位置する2つの頂点のそれぞれに少なくとも設けられること、
を特徴とする請求項5に記載のガスセンサ素子。
【請求項7】
前記空間部は、前記頂点から前記素子本体部の幅方向に向かう最大幅寸法が、前記素子本体部の幅寸法の半分未満であること、
を特徴とする請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項8】
前記空間部は、前記頂点から前記素子本体部の厚さ方向に向かう最大厚さ寸法が、前記素子本体部の厚さ寸法の半分未満であること、
を特徴とする請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子。
【請求項9】
測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサであって、
前記ガスセンサ素子として、請求項1から請求項8のうちいずれか1項に記載のガスセンサ素子を備えること、
を特徴とするガスセンサ。
【請求項10】
長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも前記検知部を覆うように、前記素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子の製造方法であって、
前記ガスセンサ素子は、前記素子本体部の前記側面上における前記保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、前記素子本体部と前記保護層とが離間するように形成された少なくとも1つの空間部を備えており、
前記空間部は、前記素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点を構成する前記素子本体部の3つの面のそれぞれに延びるように、当該1つの頂点上に設けられており、
前記保護層は、前記先端面の少なくとも一部に接すると共に、前記先端側領域における4つの前記側面の少なくとも一部に接し、
前記素子本体部の外表面のうち前記空間部の形成領域に対して揮発性溶剤を配置する溶剤配置工程と、
前記揮発性溶剤が残存する前記素子本体部に対して、少なくとも前記検知部を覆うように焼成後に前記保護層となる未焼成保護層を形成する保護層形成工程と、
前記未焼成保護層が形成された前記素子本体部に熱処理を行い、前記保護層を形成する熱処理工程と、
を有し、
前記溶剤配置工程の開始時から前記熱処理工程の終了時までの間に、前記揮発性溶剤を揮発させて前記空間部を形成することを特徴とするガスセンサ素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子、およびそのようなガスセンサ素子を備えるガスセンサ、ならびにガスセンサ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサの一例としては、内燃機関の排気管等の排気流路に設置されて、排気ガス中の酸素濃度を検出して内燃機関の燃焼制御に利用される酸素センサが知られている。この酸素センサは、例えば、筒状の主体金具と、その主体金具に保持された板状のガスセンサ素子を有している。
【0003】
ガスセンサ素子は、長手方向に延びる板形状の素子本体部と、素子本体部の表面に設けられる多孔質材料からなる保護層と、を備えている。素子本体部は、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を長手方向の先端側に備えており、保護層は、少なくとも検知部を覆うように、素子本体部の長手方向の先端側に設けられている。
【0004】
保護層は、素子本体部を保護するために備えられている。つまり、凝縮水などが素子本体部に直接付着すると、加熱された素子本体部が熱衝撃によって破損するおそれがある。これに対して、保護層を設けて凝縮水などが素子本体部に直接付着するのを抑制することで、素子本体部の破損を抑制することができる。なお、保護層は、付着した凝縮水が素子本体部に到達する前に蒸発するように、一定の厚さ寸法で形成される。
【0005】
このようなガスセンサ素子における保護層の形成方法として、セラミック粉末、水、気孔化剤(カーボン粉末など)を混合してなるスラリーに対して素子本体部の先端を浸漬するディップ法が知られている(特許文献1)。素子本体部に塗布されたスラリーは、熱処理が加えられることで、保護層となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−322632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のディップ法では、保護層の特定の部位(特に、素子本体部の先端における4つの頂点付近など)によっては厚さ寸法が小さくなるため、そのような特定の部位における保護層の厚さ寸法を十分に確保するために、浸漬作業を複数回行う場合がある。
【0008】
このとき、1回の浸漬作業で厚さ寸法が十分に確保できる部位については、複数回の浸漬作業を行うことで厚さ寸法がより大きくなり、保護層全体としての体積が大きくなり熱容量が大きくなるため、ヒータ消費電力の無駄が大きくなることや、センサ素子活性化に要する所要時間が長くなる等の問題が生じる。
【0009】
これに対して、1回の浸漬作業でスラリーを塗布した後、厚さ寸法が小さくなる特定の部位に対して、スプレー(霧吹き)を用いて素子本体部の表面にスラリー液を吹き付けるスプレー法を利用する対策が考えられる。
【0010】
しかし、このスプレー法は、スラリー液を霧状にして吹き付けるため、素子本体部に塗布されずに落下するスラリー液の無駄が生じやすい。また、スプレー法は、単位時間あたりの吹きつけ量が小さく作業時間が長くなるため、保護層の形成工程が繁雑になるという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層を備えるガスセンサ素子を提供すること、そのようなガスセンサ素子を備えるガスセンサを提供すること、およびそのようなガスセンサ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも検知部を覆うように、素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子である。
【0013】
このガスセンサ素子は、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、素子本体部と保護層とが離間するように形成された少なくとも1つの空間部を備える。
【0014】
さらに、空間部は、素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点を構成する素子本体部の3つの面のそれぞれに延びるように、当該1つの頂点上に設けられており、保護層は、先端面の少なくとも一部に接すると共に、先端側領域における4つの側面の少なくとも一部に接する。
【0015】
このように構成されたガスセンサ素子は、保護層の厚さ寸法が小さくなり易い素子本体部の先端における頂点上に、この頂点を構成する素子本体部の3つの面のそれぞれに延びるようにして、素子本体部と保護層とが離間するように空間部を備えている。これにより、頂点付近における保護層の厚さ寸法が小さくても、被水による熱衝撃で素子本体部の先端の頂点が破損することを抑制できる。これは、頂点上に空間部を設けることで保護層に付着した凝縮水が、空間部を避けて保護層内を浸透するため、頂点に凝縮水が到達することを抑制できるからである。
【0016】
つまり、このガスセンサ素子の保護層は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも厚さ寸法を小さくでき、その結果、従来の保護層よりも熱容量を小さくすることができる。
【0017】
また、空間部は、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに設けられている。これにより、空間部により頂点に凝縮水が到達することを抑制できると共に、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも後端側の後端側領域において、保護層と素子本体部との密着性が低下することを抑制できる。
【0018】
そのうえ、保護層は、素子本体部のうち先端面の少なくとも一部に接すると共に、先端側領域における4つの側面の少なくとも一部に接することから、素子本体部と保護層とを離間するように形成した空間部が先端側領域に設けられているとしても、この先端側領域においても保護層と素子本体部との密着性が低下することを抑制できる。
【0019】
よって、本発明によれば、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層を備えるガスセンサ素子を実現できる。
本発明における「略直方体形状の素子本体部」とは、直方体形状の素子本体部はもちろんのこと、直方体形状の各辺に面取り部を設けた素子本体部も含む。また、面取り部を設けた素子本体部の場合、「素子本体部の先端における4つの頂点」は、面取り部と先端面との稜線を指す。
【0020】
また、空間部は、素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点上に設けられていればよく、1つの頂点上に空間部が設けられていても良いし、4つの頂点上全部に空間部が設けられていても良い。さらに、1つの空間部が1つの頂点上に対応して設けられていても良いし、1つの空間部が複数の頂点上にまたがって設けられていてもよい。
【0021】
また、保護層は、素子本体部のうち先端面の少なくとも一部に接すればよく、先端面の一部に保護層が接していても良いし、空間部を除く先端面全体に保護層が接していても良い。
【0022】
さらに、保護層は、先端側領域における4つの側面の少なくとも一部に接すればよく、先端側領域における1つの側面に保護層が接していても良いし、先端側領域における4つの側面それぞれに保護層が接していても良い。
【0023】
上記のガスセンサ素子においては、保護層は、先端側領域における4つの側面のそれぞれの少なくとも一部と接する、という構成を採ることができる。
このように、保護層が先端側領域における4つの側面のそれぞれの少なくとも一部と接することで、先端側領域において保護層は素子本体部の側面との密着が低下することをより抑制でき、素子本体部からの保護層の剥離が生じがたくなる。
【0024】
上記のガスセンサ素子においては、素子本体部は、自身の先端側領域における先端面及び側面の表面積のうち半分以上が保護層と接触する、という構成を採ることができる。
このような構成であれば、先端側領域において素子本体部と保護層との接触部分を十分に確保できるので、素子本体部からの保護層の剥離がより生じがたくなる。
【0025】
上記のガスセンサ素子においては、1つの空間部は、1つの頂点上のみに設けられる、という構成を採ることができる。
つまり、このガスセンサ素子においては、1つの空間部が1つの頂点上のみに設けられるため、1つの空間部が複数の頂点にまたがることが無い。このため、素子本体部の先端側領域の外表面における空間部の占有領域が過大となるのを避けることができ、素子本体部と保護層との接触面積を十分に確保できる。
【0026】
よって、このガスセンサ素子によれば、素子本体部と保護層との接触面積を大きく確保できるため、素子本体部から保護層が剥離するのを十分に抑制できる。
上記のガスセンサ素子においては、空間部は、複数備えられる、という構成を採ることができる。
【0027】
このように、空間部を複数備えることで、素子本体部の複数の頂点に凝縮水が到達することを抑制でき、被水に伴う熱衝撃による素子本体部の破損を抑制できる。
なお、上記のガスセンサ素子においては、空間部は、素子本体部の先端における4つの頂点のうち対角に位置する2つの頂点のそれぞれに少なくとも設けられる、という構成を採ることができる。
【0028】
上記のガスセンサ素子においては、空間部は、頂点から素子本体部の幅方向に向かう最大幅寸法が、素子本体部の幅寸法の半分未満である、という構成を採ることができる。
このように、空間部の最大幅寸法が素子本体部の幅寸法の半分未満である構成であれば、素子本体部の先端側領域の外表面における空間部の占有領域が過大となるのを避けることができ、素子本体部の外表面における保護層との接触部分を十分に確保できる。
【0029】
上記のガスセンサ素子においては、空間部は、頂点から素子本体部の厚さ方向に向かう最大厚さ寸法が、素子本体部の厚さ寸法の半分未満である、という構成を採ることができる。
【0030】
このように、空間部の最大厚さ寸法が素子本体部の厚さ寸法の半分未満である構成であれば、素子本体部の先端側領域の外表面における空間部の占有領域が過大となるのを避けることができ、素子本体部の外表面における保護層との接触部分を十分に確保できる。
【0031】
次に、本発明は、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出するガスセンサ素子を備えるガスセンサであって、ガスセンサ素子として、上述のガスセンサ素子を備える。
このように、上述のいずれかのガスセンサ素子を備えるガスセンサは、被水による熱衝撃で素子本体部の先端の頂点が破損することを抑制できるガスセンサ素子を備えている。また、このガスセンサ素子の保護層は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも厚さ寸法を小さくできるとともに、従来の保護層よりも熱容量が小さくなる。
【0032】
よって、本発明のガスセンサによれば、従来よりも熱容量が小さい保護層を有するガスセンサ素子を備えた構成を実現できる。
次に、本発明方法は、長手方向に延び、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部を自身の先端側に有する略直方体形状の素子本体部と、少なくとも検知部を覆うように、素子本体部の先端面及び側面上に設けられる多孔質の保護層と、を備えるガスセンサ素子の製造方法である。
【0033】
この製造方法で製造されるガスセンサ素子は、素子本体部の側面上における保護層の最大厚さを有する部位よりも先端側の先端側領域のみに、素子本体部と保護層とが離間するように形成された少なくとも1つの空間部を備え、空間部は素子本体部の先端における4つの頂点のうち少なくとも1つの頂点を構成する素子本体部の3つの面のそれぞれに延びるように、当該1つの頂点上に設けられており、保護層は、先端面の少なくとも一部に接すると共に、先端側領域における4つの側面の少なくとも一部に接する。
【0034】
このガスセンサ素子の製造方法では、素子本体部の外表面のうち空間部の形成領域に対して揮発性溶剤を配置する溶剤配置工程と、揮発性溶剤が残存する素子本体部に対して、少なくとも検知部を覆うように熱処理後に保護層となる未焼成保護層を形成する保護層形成工程と、未焼成保護層が形成された素子本体部に熱処理を行い、前記保護層を形成する熱処理工程と、を有し、溶剤配置工程の開始時から熱処理工程の終了時までの間に、揮発性溶剤を揮発させて空間部を形成する。
【0035】
つまり、素子本体部の外表面のうち空間部の形成領域に対して揮発性溶剤を配置し、揮発性溶剤が残存する素子本体部に対して未焼成保護層を形成し、未焼成保護層が形成された素子本体部に熱処理を行い、保護層を形成する一連の工程の途中に、揮発性溶剤が揮発して素子本体部と保護層との間に空間部を形成することができる。
【0036】
このような揮発性溶剤を用いると共に、溶剤配置工程,保護層形成工程,熱処理工程を有するガスセンサ素子の製造方法によれば、素子本体部と保護層との間に容易に空間部を備えるガスセンサ素子を製造できる。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ディップ法で形成された従来の保護層よりも熱容量が小さい保護層を備えるガスセンサ素子を実現できる。
また、本発明のガスセンサによれば、従来よりも熱容量が小さい保護層を有するガスセンサ素子を備えた構成を実現できる。
【0038】
さらに、本発明方法のガスセンサ素子の製造方法によれば、素子本体部と保護層との間に空間部を備えるガスセンサ素子を製造でき、このガスセンサ素子は従来よりも熱容量が小さい保護層を有することが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施形態の空燃比センサを軸方向に沿って破断した状態を示す断面図である。
図2】ガスセンサ素子を示す斜視図である。
図3】ガスセンサ素子を分解して示す斜視図である。
図4】ガスセンサ素子の図2におけるA−A視端面を表す端面図である。
図5】ガスセンサ素子の図4におけるB−B視端面を表す端面図である。
図6】ガスセンサ素子の成形体の製造方法に関する説明図である。
図7】ガスセンサ素子の製造途中段階を示す説明図である。
図8】未焼成保護層の形成工程における各段階の状態を表した説明図である。
図9】面取り加工が施されていない素子本体部を有するガスセンサ素子の端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、以下に示す実施形態では、ガスセンサの一種である酸素センサのうち全領域空燃比センサ(以下単に、空燃比センサともいう)を例に挙げる。具体的には、自動車や各種内燃機関における空燃比フィードバック制御に使用するために、測定対象となる排ガス中の特定ガス(酸素)を検出するガスセンサ素子(検出素子)が組み付けられるとともに、内燃機関の排気管に装着される空燃比センサを例に挙げて説明する。
【0041】
[1.第1実施形態]
[1−1.全体構成]
本実施形態のガスセンサ素子が使用される空燃比センサの全体の構成について、図1に基づいて説明する。図1は、空燃比センサの内部構成を表す断面図である。
【0042】
図1に示す様に、本実施形態における空燃比センサ1は、排気管に固定するためのネジ部3が外表面に形成された筒状の主体金具5と、軸線方向(空燃比センサ1の長手方向:図1の上下方向)に延びる板状形状のガスセンサ素子7と、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ9と、軸線方向に貫通する挿通孔11の内壁面がガスセンサ素子7の後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材13(セパレータ13)と、ガスセンサ素子7とセパレータ13との間に配置される5個(図1には2個のみ図示)の接続端子15と、を備えている。
【0043】
ガスセンサ素子7は、後に詳述する様に、長手方向に伸びる直方体形状の素子本体部70と、素子本体部70の先端側を覆う多孔質の保護層17と、を備える。素子本体部70は、その先端側に、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部90を備える。また、ガスセンサ素子7は、後端側(図1の上方:長手方向後端部)の外表面のうち表裏の位置関係となる第1主面21および第2主面23に、電極パッド25,27,29,31,33(詳細は、図2図3参照)が形成されている。
【0044】
接続端子15は、ガスセンサ素子7の電極パッド25,27,29,31,33にそれぞれ電気的に接続されるとともに、外部からセンサの内部に配設されるリード線35にも電気的に接続されており、リード線35が接続される外部機器と電極パッド25,27,29,31,33との間に流れる電流の電流経路を形成する。
【0045】
主体金具5は、軸線方向に貫通する貫通孔37を有し、貫通孔37の径方向内側に突出する棚部39を有する略筒状形状に構成されている。この主体金具5は、検知部90を貫通孔37の先端よりも先端側に配置し、電極パッド25,27,29,31,33を貫通孔37の後端よりも後端側に配置する状態で、貫通孔37に挿通されたガスセンサ素子7を保持するよう構成されている。
【0046】
また、主体金具5の貫通孔37の内部には、ガスセンサ素子7の径方向周囲を取り囲む状態で、環状形状のセラミックホルダ41、滑石リング43、滑石リング45、及び上述のセラミックスリーブ9が、この順に先端側から後端側にかけて積層されている。
【0047】
このセラミックスリーブ9と主体金具5の後端部47との間には、加締パッキン49が配置され、一方、セラミックホルダ41と主体金具5の棚部39との間には、滑石リング43やセラミックホルダ41を保持するための金属ホルダ51が配置されている。なお、主体金具5の後端部47は、加締パッキン49を介してセラミックスリーブ9を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0048】
更に、主体金具5の先端部53の外周には、ガスセンサ素子7の突出部分を覆う金属製(例えば、ステンレスなど)の二重構造とされたプロテクタ55が溶接等によって取り付けられている。
【0049】
一方、主体金具5の後端側外周には、外筒57が固定されている。また、外筒57の後端側の開口部には、各電極パッド25,27,29,31,33とそれぞれ電気的に接続される5本のリード線35(図1では3本が図示)が挿通されるリード線挿通孔59が形成されたグロメット61が配置されている。
【0050】
なお、セパレータ13の外周には、鍔部63が形成されており、鍔部63は、保持部材65を介して外筒57に固定されている。
[1−2.ガスセンサ素子の構成]
次に、本実施形態の要部であるガスセンサ素子7の構成について、図2図5に基づいて詳細に説明する。
【0051】
図2は、ガスセンサ素子7の外観を表す斜視図である。
図2に示す様に、ガスセンサ素子7は、長手方向(Y軸方向)に延びる長尺の板材である。なお、図2において、長手方向がガスセンサの軸線方向に沿う形態となる。また図2のZ軸方向は、長手方向に垂直な厚さ方向であり、X軸方向は、長手方向及び厚さ方向に垂直な幅方向である。
【0052】
ガスセンサ素子7は、長手方向に伸びる直方体形状の素子本体部70と、素子本体部70の先端側(図2における下側)を覆う多孔質の保護層17と、を備える。素子本体部70は、長手方向に伸びる板状の素子部71と、同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、が積層されている。素子本体部70は、その先端側に、測定対象ガスに含まれる特定ガスを検出する検知部90を備える。保護層17は、少なくとも検知部90を覆うように、素子本体部70の先端面127及び側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)上に設けられる。
【0053】
図3に、ガスセンサ素子7を分解した斜視図を示す。なお、図3では、保護層17、および後述する第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124の図示を省略している。
【0054】
ガスセンサ素子7の素子本体部70は、図3に分解して示す様に、積層方向の一方の側(図3の上側)に配置されて、長手方向に伸びる板状の素子部71と、素子部71の反対側(裏側)に配置されて、同じく長手方向に延びる板状のヒータ73と、を備える。
【0055】
このうち、素子部71は、固体電解質体75の両側に多孔質電極77、79を形成した酸素濃淡電池セル81と、同じく固体電解質体83の両側に多孔質電極85、87を形成した酸素ポンプセル89と、これらの両セル81、89の間に積層され、中空のガス測定室91を形成するための絶縁スペーサ93と、を備えて構成される。なお、固体電解質体75,83は、イットリアを安定化剤として固溶させたジルコニアから形成され、多孔質電極77,79,85,87は、Ptを主体に形成される。
【0056】
また、ガス測定室91を形成する絶縁スペーサ93は、アルミナを主体に構成されており、中空のガス測定室91の内側には、酸素濃淡電池セル81の一方の多孔質電極77と、酸素ポンプセル89の一方の多孔質電極87が露出するように配置されている。
【0057】
素子部71の側面(絶縁スペーサ93の側面)には、排ガス(測定対象ガス)の取り込み口となる2つのガス導入部94が形成されており、ガス導入部94は、ガス測定室91に連通している。2つのガス導入部94からガス測定室91までの各経路には、拡散律速部95が形成されている。拡散律速部95は、例えば、アルミナ等からなる多孔質体で構成されており、測定対象ガスがガス測定室91へ流入する際の律速を行う。拡散律速部95は、その一部がガス導入部94から露出する状態で備えられている。
【0058】
つまり、このガスセンサ素子7においては、ガス導入部94は、素子本体部70の最外面において異なる2方向に向けて形成されており、拡散律速部95は、異なる2方向に向けて露出している。
【0059】
更に、素子部71の第1主面21側(図3上方)にはアルミナを主体とする絶縁基板97が積層されており、この絶縁基板97には、拡散律速部95と同様に、多孔質体で構成された通気部99が埋設されている。この通気部99は、酸素ポンプセル89の多孔質電極85を測定対象ガスに晒している。
【0060】
なお、ガス測定室91は、素子本体部70(詳細には、素子部71)のうち先端側(図3における左側)に位置するように形成されている。素子部71の長手方向のうち、ガス測定室91の形成領域およびガス測定室91よりも先端側となる領域は、酸素を検知するための検知部90として備えられる。
【0061】
一方、ヒータ73は、アルミナを主体とする絶縁基板101、103の間に、Ptを主体とする発熱抵抗体パターン105が挟み込まれて形成されている。
このようなガスセンサ素子7では、第1主面21の後端側(図3における右側)に3個の電極パッド25,27,29が形成され、第2主面23の後端側に2個の電極パッド31、33が形成されている。
【0062】
このうち、第1主面21の1つの電極パッド29(図2の右側電極パッド)は、図3に示すように、絶縁基板97に設けられるスルーホール161、固体電解質体83に設けられるスルーホール165、絶縁スペーサ93に設けられるスルーホール171を介して、ガス測定室91の内側に露出する酸素濃淡電池セル81の一方の多孔質電極77に電気的に接続される。また、この電極パッド29は、絶縁基板97に設けられるスルーホール161、固体電解質体83に設けられるスルーホール165を介して、ガス測定室91の内側に露出する酸素ポンプセル89の一方の多孔質電極87にも電気的に接続される。よって、多孔質電極77と多孔質電極87とは、同電位で電気的に接続される。
【0063】
また、他の電極パッド27(図2の中央電極パッド)は、図3に示すように、絶縁基板97に設けられるスルーホール162、固体電解質体83に設けられるスルーホール166、絶縁スペーサ93に設けられるスルーホール172、固体電解質体75に設けられるスルーホール176を介して、酸素濃淡電池セル81の他方の多孔質電極79と電気的に接続される。更に他の電極パッド25(図2の左側電極パッド)は、図3に示すように、絶縁基板97に設けられるスルーホール163を介して、酸素ポンプセル89の他方の多孔質電極85と電気的に接続されている。
【0064】
また、電極パッド31、33は、図3に示すように、絶縁基板103に設けられたスルーホール181,182を介して、発熱抵抗体パターン105の両端に、各々電気的に接続されている。
【0065】
図2に戻り、上述した構成のガスセンサ素子7は、長尺の略直方体形状の板材であるので、その径方向の外周側の角部には、その長手方向(図2のY方向)に沿って伸びる4つの辺(長手稜線)H1、H2、H3、H4を備えている。
【0066】
詳しくは、ガスセンサ素子7は、ガスセンサ素子7の長手方向に沿って延びる4つの外周壁として、第1主面21および第2主面23と、第1主面21および第2主面23に連接された第1側面111および第2側面113と、を備えている。また、第1主面21と第1側面111との間の稜線である第1辺H1と、第1主面21と第2側面113との間の稜線である第2辺H2と、第2主面23と第2側面113との間の稜線である第3辺H3と、第2主面23と第1側面111との間の稜線である第4辺H4とを備えている。
【0067】
第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4には、それぞれC面取り量0.2mmのC面取りが施されて形成された第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123(図4参照),第4長辺面取り部124(図4参照)が設けられている。なお、図2では、第3長辺面取り部123および第4長辺面取り部124が現れないため、これらについての符号による図示は省略している。
【0068】
ガスセンサ素子7の後端側(図2の上方)は、その中央に(長手方向と垂直な)後端面129を残す様にして、後端面129の周囲の四方の稜線に対してC面取りを施すことで、後端側C面取り部131が形成されている。
【0069】
次に、ガスセンサ素子7のうち素子本体部70と保護層17との間に形成される空間部18について説明する。
図4に、ガスセンサ素子7の図2におけるA−A視端面を表す端面図を示す。図5に、ガスセンサ素子7の図4におけるB−B視端面を表す端面図を示す。
【0070】
保護層17は、多孔質状のアルミナで構成されており、素子本体部70のうち少なくとも検知部90を覆うように形成されている。また、保護層17と素子本体部70との間には、保護層17と素子本体部70とを離間するように空間部18が形成されている。
【0071】
空間部18は、素子本体部70の先端面127における4つの頂点74のそれぞれに対応するように、少なくとも4つ形成されている。1つの空間部18は、1つの頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれに延びるように、1つの頂点74上に設けられている。例えば、図4に図示された4つの空間部18のうち、左上に位置する空間部18は、素子本体部70のうち、第1主面21,先端面127,第1側面111の3つの面のそれぞれに延びるように、1つの頂点74上に設けられている。
【0072】
なお、本実施形態の素子本体部70においては、第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124が設けられているため、4つの頂点74は、それぞれ第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124のそれぞれと、先端面127との稜線として備えられている。
【0073】
また、図5に示すように、空間部18は、素子本体部70の側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)のうち部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに設けられる。なお、素子本体部70の部位19は、素子本体部70の側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)のうち保護層17が最大厚さDmaxとなる部位である。
【0074】
このガスセンサ素子7は、保護層17の厚さ寸法が小さくなり易い素子本体部70の先端面127における頂点74上に、この頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれに延びるようにして、素子本体部70と保護層17とが離間するように空間部18を備えている。これより、頂点74付近における保護層17の厚さ寸法L1〜L4が小さくても、被水による熱衝撃で素子本体部70の先端の頂点74が破損することを抑制できる。これは、頂点74上に空間部18を設けることで保護層17に付着した凝縮水が、空間部18を避けて保護層17内を浸透するため、頂点74に凝縮水が到達することを抑制できるからである。
【0075】
また、空間部18は、素子本体部70の4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)上における保護層17の最大厚さDmaxを有する部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに設けられている。これにより、空間部18により頂点74に凝縮水が到達することを抑制できると共に、部位19よりも後端側の後端側領域E2において、保護層17と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。
【0076】
そのうえ、保護層17は、先端面127の少なくとも一部に接すると共に、先端側領域E1における4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)の少なくとも一部に接する。これにより、素子本体部70と保護層17とを離間するように形成した空間部18が先端側領域E1に設けられているとしても、この先端側領域E1においても保護層17と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。特に、保護層17が素子本体部70のうち先端側領域E1における4つの側面の少なくとも一部に接しているため、先端側領域E1において、保護層17と素子本体部70との密着性が低下することをより抑制できる。
【0077】
また、素子本体部70は、自身の先端側領域E1における先端面127および側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)の表面積のうち半分以上が保護層17と接触する。これにより、先端側領域E1において素子本体部70と保護層17との接触部分を十分に確保できるので、素子本体部70からの保護層17の剥離がより生じがたくなる。
【0078】
図4に示すように、空間部18は、頂点74から素子本体部70の幅方向に向かう最大幅寸法W1が、素子本体部70の幅寸法W2の半分未満となるように構成されている。なお、頂点74が点ではなく面取り部の一辺として形成されている場合、面取りする前段階での頂点から、空間部18の端部のうち素子本体部70の幅方向中央位置に最も近い端部までの距離を、最大幅寸法W1とする。また、図4のように、空間部18が複数設けられている場合、そのすべての空間部18の最大幅寸法W1が、素子本体部70の幅寸法W2の半分未満となるように構成されていることが好ましい。
【0079】
このように、空間部18の最大幅寸法W1が素子本体部70の幅寸法W2の半分未満である構成であれば、素子本体部70の先端側領域E1の外表面における空間部18の占有領域が過大となるのを避けることができ、素子本体部70と保護層17との接触面積を十分に確保できる。
【0080】
また、図4に示すように、空間部18は、頂点74から素子本体部70の厚さ方向に向かう最大厚さ寸法T1が、素子本体部70の厚さ寸法T2の半分未満となるように構成されている。なお、頂点74が点ではなく面取り部の一辺として形成されている場合、面取りする前段階での頂点から、空間部18の端部のうち素子本体部70の厚さ方向中央位置に最も近い端部までの距離を、最大厚さ寸法T1とする。また、図4のように、空間部18が複数設けられている場合、そのすべての空間部18の最大厚さ寸法T1が、素子本体部70の厚さ寸法T2の半分未満となるように構成されていることが好ましい。
【0081】
このように、空間部18の最大厚さ寸法T1が素子本体部70の厚さ寸法T2の半分未満である構成であれば、素子本体部70の先端側領域E1の外表面における空間部18の占有領域が過大となるのを避けることができ、素子本体部70と保護層17との接触面積を十分に確保できる。
【0082】
[1−3.ガスセンサの製造方法]
本実施形態の空燃比センサ1の製造方法について、図6図7に基づいて説明する。
図6は、ガスセンサ素子の成形体141の製造方法に関する説明図であり、図7は、ガスセンサ素子の製造途中段階を示す説明図である。
【0083】
ガスセンサ素子7を製造する場合、まず、公知のガスセンサ素子7の材料となる各種積層材料、即ち、素子部71の固体電解質体75、83となる未焼成固体電解質シートや、ヒータ73などの絶縁基板97、101、103となる未焼成絶縁シートなどを積層状態とし、未圧着積層体を得る。なお、この未圧着積層体には、電極パッド25,27,29,31,33となる未焼成電極パッドなどが形成されている。
【0084】
これらのうち、例えば、未焼成固体電解質シートを形成する場合、まず、ジルコニアを主体とするセラミック粉末に対して、アルミナ粉末やブチラール樹脂などを加えて、さらに混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、スラリーを生成する。そして、このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成固体電解質シートが作製される。
【0085】
また、未焼成絶縁シートを形成する場合、まず、アルミナを主体とするセラミック粉末に対して、ブチラール樹脂とジブチルフタレートとを加えて、更に混合溶媒(トルエン及びメチルエチルケトン)を混合して、スラリーを生成する。そして、このスラリーをドクターブレード法によりシート状とし、混合溶媒を揮発させることで未焼成絶縁シートが作製される。
【0086】
さらに、未焼成の拡散律速部を形成する場合、まず、アルミナ粉末100質量%及び可塑剤を湿式混合により分散したスラリーを生成する。可塑剤はブチラール樹脂及びDBPを有する。このスラリーを用い、焼成後に拡散律速部95や通気部99となる部位に、未焼成の拡散律速部を形成する。
【0087】
そして、この未圧着積層体を1MPaで加圧することにより、図6に示す様な圧着された成形体141を得る。なお、加圧前の未圧着積層体を得るまでの製造方法については、公知のガスセンサ素子の製造方法と同様であるため詳細な説明は省略する。
【0088】
そして、加圧により得られた成形体141を、所定の大きさで切断することにより、ガスセンサ素子7の素子部71およびヒータ73と大きさが略一致する複数(例えば10個)の未焼成積層体を得る。
【0089】
その後、この未焼成積層体を樹脂抜きし、さらに焼成温度1500℃にて、1時間で本焼成して、図7に示す様な焼成積層体143を得る。
次に、この焼成積層体143の長手方向に伸びる4辺(第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4)に対して面取りを行い、第1長辺面取り部121,第2長辺面取り部122,第3長辺面取り部123,第4長辺面取り部124を形成する(図2図4参照)。具体的には、焼成積層体143の長手方向に伸びる4辺(第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4)を回転砥石に当接して、周知のC面取りを行う。これにより、素子本体部70を得る。
【0090】
このようにして素子本体部70を得た後、この素子本体部70の先端側の周囲に、焼成後に空間部18を有する保護層17(図2図4図5参照)となる未焼成保護層を形成する。
【0091】
図8に、素子本体部70に対して未焼成保護層117を形成し、未焼成保護層117に熱処理を行って保護層17を得るまでの各工程の状態を表した説明図を示す。
なお、未焼成保護層117の形成を行う前段階では、素子本体部70は揮発性溶剤118や未焼成保護層117を有さない状態である。
【0092】
まず、第1工程では、素子本体部70の先端面127における4つの頂点74のそれぞれについて、揮発性溶剤118(例えば、エタノール、プロピレングリコール、ブチルカルビトールなど)を塗布する。このとき、頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれに延びるように、揮発性溶剤118を塗布する。つまり、第1工程では、焼成後に空間部18となる部位に対して、揮発性溶剤118を塗布する。
【0093】
次の第2工程では、揮発性溶剤118が残留している状態で、素子本体部70の先端側を保護層用スラリーが満たされたスラリー容器にディップすることで、少なくとも検知部90を覆うように素子本体部70に対して未焼成保護層117を塗布する。
【0094】
続く第3工程では、素子本体部70の先端側を再度スラリー容器にディップすることで、未焼成保護層117の重ね塗りを行う。このあと、ディップを所定回数実行することで、所定の厚さ寸法となる未焼成保護層117の形成が完了する。
【0095】
続く第4工程では、未焼成保護層117の熱処理を行う。具体的には、未焼成保護層117が形成された素子本体部70を、熱処理温度1000℃、熱処理時間3時間で熱処理を行い、空間部18を有する保護層17が形成されたガスセンサ素子7を得る。なお、未焼成保護層117が焼成されて保護層17となり、揮発性溶剤118の形成領域が空間部18となる。
【0096】
なお、第1工程にて揮発性溶剤118を塗布してから、第4工程で未焼成保護層117の熱処理を行うまでの間に、揮発性溶剤118が緩やかに揮発して素子本体部70と保護層17との間に空間部18を形成している。
【0097】
このようにしてガスセンサ素子7を得た後、ガスセンサ素子7を主体金具5に組み付ける組付工程を行う。
即ち、この工程では、上記製造方法で作製されたガスセンサ素子7を金属ホルダ51に挿入し、さらにガスセンサ素子7をセラミックホルダ41、滑石リング43で固定し、組み立て体を作製する。その後、この組み立て体を主体金具5に固定し、ガスセンサ素子7の軸線方向後端部側を滑石リング45、セラミックスリーブ9に挿通させつつ、これらを主体金具5に挿入する。
【0098】
そして、主体金具5の後端部47にてセラミックスリーブ9を加締め、下部組立体を作製する。なお、下部組立体には、あらかじめプロテクタ55が取付けられている。
一方、外筒57、セパレータ13、グロメット61などを組みつけ、上部組立体を作製する。そして、下部組立体と上部組立体とを接合し、空燃比センサ1を得る。
【0099】
[1−4.比較試験]
本発明のガスセンサ素子における耐被水性能を確認するための被水試験の試験結果について説明する。
【0100】
本試験では、ガスセンサ素子7の保護層17に対して所定量の水を付着させて、素子本体部70が破損したか否かを確認した。このとき、ガスセンサ素子7から出力されるセンサ信号Ipをモニタし、被水前のセンサ信号Ipの値を基準として、センサ信号Ipの変化量が1%以上である場合に素子本体部70が破損したと判定し、センサ信号Ipの変化量が1%未満である場合に、素子本体部70が破損していないと判定した。
【0101】
また、本試験では、比較例として、保護層と素子本体部との間に空間部を有しないガスセンサ素子についても被水試験を実施した。なお、本発明の実施例として、先端側角部の保護層厚さ寸法が異なる2つの試料(実施例1,2)について被水試験を実施すると共に、比較例として、先端側角部の保護層厚さ寸法が異なる2つの試料(比較例1,2)について被水試験を実施した。
【0102】
また、被水量は5段階(1μL、2μL、5μL、7μL、10μL)であり、少ない量から増量する順に試験を行い、素子本体部に破損が生じた試料については、その水量で試験を中止した。
【0103】
試験結果を[表1]に示す。なお、[表1]では、被水試験結果の欄において、素子本体部が破損していない場合に「○」を記載し、素子本体部が破損した場合に「×」を記載した。
【0104】
【表1】
【0105】
試験結果によれば、実施例1および実施例2はいずれも、全ての被水量(1〜10[μL])で素子本体部70が破損していない。比較例1は、被水量が2[μL]で素子本体部が破損しており、比較例2は、被水量が5[μL]で素子本体部が破損している。
【0106】
よって、本発明のガスセンサ素子7は、空間部を有さない構成のガスセンサ素子に比べて、被水の熱衝撃による素子本体部の破損が生じがたくなり、耐被水性能に優れる。
[1−5.効果]
以上説明したように、本実施形態の空燃比センサ1におけるガスセンサ素子7は、保護層17と素子本体部70との間に空間部18を備えている。
【0107】
空間部18は、素子本体部70の先端における4つの頂点74のそれぞれに対応するように少なくとも4つ形成されている。1つの空間部18は、1つの頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれに延びるように、1つの頂点74上に設けられている。また、空間部18は、素子本体部70の側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)上における部位19(保護層17が最大厚さDmaxを有する部位)よりも先端側の先端側領域E1に設けられる。
【0108】
このガスセンサ素子7は、保護層17の厚さ寸法が小さくなり易い素子本体部70の先端における頂点74上に、この頂点74を構成する素子本体部70の3つの面のそれぞれに延びるようにして、素子本体部70と保護層17とが離間するように空間部18を備えている。これより、頂点74付近における保護層17の厚さ寸法L1〜L4が小さくても、被水による熱衝撃で素子本体部70の先端の頂点74が破損することを抑制できる。
【0109】
つまり、このガスセンサ素子7の保護層17は、ディップ法で形成された従来の保護層よりも厚さ寸法を小さくでき、その結果、従来の保護層よりも熱容量を小さくすることができる。
【0110】
また、空間部18は、素子本体部70の側面上における保護層17の最大厚さDmaxを有する部位19よりも先端側の先端側領域E1のみに設けられている。これにより、空間部18により頂点74に凝縮水が到達することを抑制できると共に、部位19よりも後端側の後端側領域E2において、保護層17と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。
【0111】
そのうえ、保護層17は、素子本体部70のうち先端面127の少なくとも一部に接すると共に、先端側領域E1における4つの側面(第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113)の少なくとも一部に接する。これにより、素子本体部70と保護層17とを離間するように形成した空間部18が先端側領域E1に設けられているとしても、この先端側領域E1においても保護層17と素子本体部70との密着性が低下することを抑制できる。
【0112】
[1−6.特許請求の範囲との対応関係]
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
第1主面21,第2主面23,第1側面111、第2側面113がそれぞれ素子本体部の側面の一例に相当し、空燃比センサ1がガスセンサの一例に相当する。
【0113】
第1工程が溶剤配置工程の一例に相当し、第2工程および第3工程が保護層形成工程の一例に相当し、第4工程が熱処理工程の一例に相当する。
[2.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、様々な態様にて実施することが可能である。
【0114】
例えば、ガスセンサ素子の素子本体部については、第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4のそれぞれにC面取り加工が施されたものに限られることはなく、第1辺H1,第2辺H2,第3辺H3,第4辺H4のいずれも面取り加工が施されていない構成を採ることができる。
【0115】
図9は、面取り加工が施されていない第2素子本体部270を有する第2ガスセンサ素子207のうち、第2素子本体部270の先端面127における端面図である。このような構成の第2ガスセンサ素子207においては、頂点74が面取り部の稜線ではなく1点で形成されており、空間部18の最大幅寸法W1や最大厚さ寸法T1が、図9に示すような位置となる。
【0116】
次に、空間部は、第1実施形態のように素子本体部の先端面における4つの頂点の全てに設けられる形態に限られることはない。例えば、空間部は、4つの頂点のうち3箇所以下に設けられる構成でも良い。なお、ガスセンサ素子の用途などによっては、1個の空間部で被水に伴う熱衝撃を抑制できる場合もあるため、そのような場合には、空間部が1カ所のみに設けられる構成としてもよい。また、2個以上の空間部を頂点上に設ける場合には、4つの頂点のうち対角に位置する2つの頂点のそれぞれに少なくとも設けてもよい。
【0117】
さらに、1つの空間部は、1つの頂点上のみに設けられる構成に限られることはなく、2つの頂点にまたがる形態であってもよい。
なお、空間部を多数設ける場合や空間部を大きく形成する場合、保護層が素子本体部から剥離し難くなるように、保護層と素子本体部との接触面積を十分に確保するとよい。例えば、素子本体部の先端側領域E1における先端面及び側面の表面積のうち半分以上が保護層と接触することで、素子本体部からの保護層の剥離が生じがたいガスセンサ素子を実現できる。
【符号の説明】
【0118】
1…空燃比センサ、5…主体金具、7…ガスセンサ素子、9…セラミックスリーブ、11…挿通孔、17…保護層、18…空間部、19…部位、21…第1主面、23…第2主面、70…素子本体部、74…頂点、81…酸素濃淡電池セル、89…酸素ポンプセル、90…検知部、91…ガス測定室、94…ガス導入部、95…拡散律速部、105…発熱抵抗体パターン、111…第1側面、113…第2側面、117…未焼成保護層、118…揮発性溶剤、127…先端面、143…焼成積層体、207…第2ガスセンサ素子、270…第2素子本体部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9