(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181521
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】トランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/028 20120101AFI20170807BHJP
F16H 57/021 20120101ALI20170807BHJP
【FI】
F16H57/028
F16H57/021
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-227691(P2013-227691)
(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公開番号】特開2015-86986(P2015-86986A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120514
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 雅人
(72)【発明者】
【氏名】久米 由展
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 健一
【審査官】
藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】
実開平01−046570(JP,U)
【文献】
実開平01−141328(JP,U)
【文献】
特開平03−121345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/00−57/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸および出力軸を内部に収容し、かつエンジンが接続される一端側とは反対側の端部に設けられた開口部またはその近傍に、前記入力軸および出力軸に取り付けられて互いに噛合する一対のリダクションギヤが配されているトランスミッションケースと、
このトランスミッションケース内のうち、前記一対のリダクションギヤよりも奥部側に設けられ、かつ前記入力軸および出力軸を支持するための軸受が装着される壁部と、
前記一対のリダクションギヤの下側に設けられたパーキングポールと、
前記開口部を塞ぐようにして前記トランスミッションケースに取り付けられ、かつ前記一対のリダクションギヤの少なくとも一方を支持する軸受が装着されるケースカバーと、
を備えている、トランスミッションにおいて、
前記トランスミッションケースの前記壁部には、前記一対のリダクションギヤおよび前記パーキングポールの三者に囲まれている空隙部に進入するようにして前記ケースカバー側に突出する第1の突起部が設けられ、
前記ケースカバーには、前記第1の突起部に向けて突出し、かつ前記第1の突起部と係合可能な第2の突起部が設けられていることを特徴とする、トランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造。
【請求項2】
請求項1に記載のトランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造であって、
前記空隙部は、前記一対のリダクションギヤの噛合部分の下方に位置し、かつ上側に進むほど横幅が狭くなる形状であり、
前記第1の突起部は、前記一対のリダクションギヤのそれぞれの外周に間隔を隔てて対面するように傾斜した状態で前記壁部から突出した一対の傾斜片部を有し、かつこれら一対の傾斜片部は、下部どうしが離間するとともに上部どうしが繋がった正面断面視略Λ状とされており、
前記一対の傾斜片部の突出方向の先端部には、前記一対の傾斜片部どうしの間に形成された隙間を塞ぐ係合用フランジ部が設けられており、
前記第2の突起部は、その先端部に上向きの係合用片を有しており、この上向きの係合用片は、前記第1の突起部の一対の傾斜片部どうしの隙間にその下方から進入し、かつ前記係合用フランジ部の背面部に当接するように設けられている、トランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に搭載されるトランスミッションのリダクションギヤノイズを抑制するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、自動車用のトランスミッションの一例とし、特許文献1に記載のものを先に提案している。
同文献に記載のトランスミッションは、トランスミッションケース内に収容された入力軸および出力軸の一端部に、互いに噛合する一対のリダクションギヤが取り付けられた構造を有している。トランスミッションケースのうち、前記一対のリダクションギヤが設けられている側の一端部には、開口部が設けられ、この開口部がカバーケースによって塞がれた構造とされている。
前記一対のリダクションギヤが互いに噛み合って回転する際には、振動が発生するが、これを低減するための手段として、一対のリダクションギヤをスラスト方向にフローティング支持させる手段が採用されている。このフローティング支持は、一対のリダクションギヤを入力軸および出力軸に対してスラスト方向に固定させない支持構造であるため、ギヤ歯面の振動を入力軸や出力軸に伝わり難くすることが可能である。
【0003】
しかしながら、特許文献1においては、入力軸および出力軸のうち、たとえば一方の入力軸がケースカバーに装着された軸受を利用して支持されている。このため、一対のリダクションギヤの噛み合い回転時の振動は、軸受を介してケースカバーに伝わる結果、ケースカバーが共振して膜振動を起こし、大きな放射音(ノイズ)が発生する虞がある。車両の静粛性能を高める上では、このような現象を適切に抑制することが望まれる。
【0004】
前記した不具合を解消する手段としては、たとえばケースカバーに補強用のリブを追加して設けることによりケースカバーの剛性を高め、共振を防止する手段が考えられる。また、ケースカバーのうち、膜振動の大きい中央寄り部分を、トランスミッションケースの適当な箇所にボルト止めする手段も考えられる。
ところが、前記前者の手段によれば、ケースカバーの重量の増大、製造コストの上昇を招く難点がある。一方、前記後者の手段によれば、ノイズ抑制効果を良好にし得るものの、ケースカバーによって塞がれるトランスミッションケースの開口部およびその付近には、一対のリダクションギヤに加えて、パーキングポールなどのパーキング部品類などが集約して設けられているため、ボルト締結構造を設置することは、スペース制約上、その実現が難しいのが実情である。
【0005】
従来においては、リダクションギヤの騒音を低減するための手段として、特許文献2に記載の手段もある。同文献に記載の手段においては、トランスミッションケース内に設けられたオイルレシーバの所定部位とケースカバーとの交わり部分をくさび形状とし、この部分には、オイルレシーバとケースカバーとの双方に付着する塗料を埋めている。このことにより、ケースカバーの防振低減作用が得られる。
ところが、このような手段によれば、塗料塗布などの面倒な作業が必須となる他、塗料による固着力は、機械的な連結手段と比較するとかなり小さく、防振を確実に図る観点からすると、その信頼性に乏しい。また、トランスミッション内の所定位置にオイルレシーバを設け、かつこのオイルウォーマの所定部位とケースカバーとが交わるように構成することも要件とされるために、製造コストが高くなる他、汎用性にも乏しいものとなる不利がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−74975号公報
【特許文献2】特許第3818067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記したような事情のもとで考え出されたものであり、トランスミッションの構造の複雑化を抑制して、製造の容易化を図りつつ、トランスミッションのリダクションギヤノイズの抑制効果を優れたものにすることを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0009】
本発明により提供されるトランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造は、入力軸および出力軸を内部に収容し、かつエンジンが接続される一端側とは反対側の端部に設けられた開口部またはその近傍に、前記入力軸および出力軸に取り付けられて互いに噛合する一対のリダクションギヤが配されているトランスミッションケースと、このトランスミッションケース内のうち、前記一対のリダクションギヤよりも奥部側に設けられ、かつ前記入力軸および出力軸を支持するための軸受が装着される壁部と、前記一対のリダクションギヤの下側に設けられたパーキングポールと、前記開口部を塞ぐようにして前記トランスミッションケースに取り付けられ、かつ前記一対のリダクションギヤの少なくとも一方を支持する軸受が装着されるケースカバーと、を備えている、トランスミッションにおいて、前記トランスミッションケースの前記壁部には、前記一対のリダクションギヤおよび前記パーキングポールの三者に囲まれている空隙部に進入するようにして前記ケースカバー側に突出する第1の突起部が設けられ、前記ケースカバーには、前記第1の突起部に向けて突出し、かつ前記第1の突起部と係合可能な第2の突起部が設けられていることを特徴としている。
【0010】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
トランスミッションケースの所定の壁部に設けられた第1の突起部と、ケースカバーに設けられた第2の突起部とが係合し、これらを介してケースカバーのうち、第2の突起部が設けられている箇所の固定化が図られる。したがって、リダクションギヤの振動に伴うケースカバーの共振(とくに膜振動)を抑制し、リダクションギヤノイズを効果的に低減、抑制することができる。
トランスミッションケースの開口部またはその近傍には、一対のリダクションギヤやパーキングポールなどが設けられているが、第1の突起部は、それら一対のリダクションギヤおよびパーキングポールの三者に囲まれている空隙部を有効に利用して、トランスミッションケースのうちの入力軸や出力軸を支持する軸受が装着される壁部に突設されている。一方、第2の突起部は、第1の突起部と係合可能なようにケースカバーに突設すればよい。したがって、それら第1および第2の突起部が設けられた構造は、簡易であり、比較的廉価に実現することが可能である。リダクションギヤやパーキングポールの仕様や位置を変更するなど、トランスミッション各部に大きな改良を加えるような必要もない。また、部品点数の増大も抑制することができる。したがって、製造コストを廉価することもできる。ケースカバーに、防振用の補強用リブを多数設ける必要がなくなるため、製造コストをより廉価にすることが可能であり、さらには軽量化も好適に図ることができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、前記空隙部は、前記一対のリダクションギヤの噛合部分の下方に位置し、かつ上側に進むほど横幅が狭くなる形状であり、前記第1の突起部は、前記一対のリダクションギヤのそれぞれの外周に間隔を隔てて対面するように傾斜した状
態で前記壁部から突出した一対の傾斜片部を有し、かつこれら一対の傾斜片部は、下部どうしが離間するとともに上部どうしが繋がった正面断面視略Λ状とされており、前記一対の傾斜片部の突出方向の先端部には、前記一対の傾斜片部どうしの間に形成された隙間を塞ぐ係合用フランジ部が設けられており、前記第2の突起部は、その先端部に上向きの係合用片を有しており、この上向きの係合用片は、前記第1の突起部の一対の傾斜片部どうしの隙間にその下方から進入し、かつ前記係合用フランジ部の背面部に当接するように設けられている。
【0012】
このような構成によれば、次のような効果が得られる。
第1の突起部を構成する一対の傾斜片部は、正面断面視略Λ状に繋がっているが、このような形態によれば、上側に進むほど横幅が狭くなる空隙部にスペース効率よく配置させながらも、各リダクションギヤとの不当な干渉を生じないように設定することが容易となる。また、第1の突起部の剛性を大きくし、十分な強度をもたせ得ることとなる。
第1および第2の突起部を互いに係合させる際には、第2の突起部の上向きの係合用片を、第1の突起部の一対の傾斜片部どうしの隙間にその下方から進入し、かつ第1の突起部の係合用フランジ部の背面部に当接させることとなるが、その係合作業は容易であり、組み立て作業性も良好である。
さらに、第2の突起部の上向きの係合用片は、第1の突起部の係合用フランジ部の背面部に当接する作用により、第1および第2の突起部どうしの突出方向(ケースカバーをトランスミッションケースに取り付ける方向と同方向)の位置規制を的確に図ることができる。加えて、第2の突起部の上向きの係合用片は、第1の突起部の一対の傾斜片部どうしの隙間にその下方から進入した構造とされるために、第1および第2の突起部どうしの幅方向(一対のリダクションギヤが並ぶ方向と同方向)の位置規制を図ることができる。したがって、第1および第2の突起部のそれぞれを比較的単純な形状としながらも、ケースカバーの膜振動防止用の固定連結構造をより好適に構築することができる。
その他、第1の突起部の正面断面視略Λ状に形成された一対の傾斜片部は、潤滑用オイルのガイド部材などとして利用することも可能である。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の構造の適用対象となるトランスミッションの一例を示す概略説明図である。
【
図2】
図1に示すトランスミッションの一部破断説明図である。
【
図3】(a)は、
図1に示すトランスミッションの要部平面断面図であり、(b)は、(a)のIIIb−IIIb要部断面図である。
【
図4】(a)は、本発明で用いられている第1および第2の突起部の一例を示す要部斜視図であり、(b)は、(a)のIVb−IVb要部断面図である。
【
図5】(a),(b)は、
図3(b)に示す構造を実現するための手順の一例を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明の適用対象となるトランスミッションの一例を示している。
同図に示すトランスミッションTMは、トランスミッションケース1内に、トルクコンバータ50、変速機構部6、および差動歯車機構部7が組み込まれたものである。トランスミッションケース1は、トルクコンバータ50や差動歯車機構部7の組み込みの容易化を図るために第1ケース1aと第2ケース1bに分割されているが、このトランスミッシ
ョンケース1のうち、エンジンEGが接続される一端側とは反対側の端部には開口部10が設けられて、この開口部10がケースカバー2によって塞がれている。本実施形態に係るトランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造は、前記したケースカバー2の防振性能を高め、後述するリダクションギヤ60a,60b(ドライブギヤ60a,ドリブンギヤ60b)の騒音抑制を図るものである。
【0017】
図1に示したトランスミッションTMの変速機構の基本的な構成は、特許文献1に記載されたものと同様である。このため、トランスミッションTMの変速機構については、簡単に説明する。このトランスミッションTMは、エンジンEGの出力軸51に連結されたトルクコンバータ50、クラッチC1,C2、ラビニヨウ型の遊星歯車機構65、ブレーキB1,B2、ならびに入力軸61aおよび出力軸61bに取り付けられた一対のリダクションギヤ60a,60bを備えている。遊星歯車機構65は、入力軸66aおよびクラッチC1を介してトルクコンバータ50からの回転力伝達を受けることが可能な第1サンギヤ65a、入力軸66bおよびクラッチC2を介してトルクコンバータ50からの回転力伝達を受けることが可能な第2サンギヤ65b、ロングピニオン65c、キャリア65d、およびリングギヤ65eを有しており、クラッチC1,C2、およびブレーキB1,B2の切り替え動作により、前進3速、後退1速の自動変速動作が可能である。リングギヤ65eの回転力は、一対のリダクションギヤ60a,60bおよび減速ギヤ67を介して差動歯車機構部7のリングギヤ70に伝達されてから、車軸に連結された一対の駆動軸90に出力される。
【0018】
図3に示すように、トランスミッションケース1内には、入力軸61aおよび出力軸61bを支持する軸受63a,63bが装着される壁部11が設けられている。一対のリダクションギヤ60a,60bは、壁部11よりも外側に位置するようにして入力軸61aおよび出力軸61bに取り付けられている。ケースカバー2は、複数のボルト91などを介してトランスミッションケース1の端部に取り付けられ、トランスミッションケース1の開口部10を塞いでいる。このケースカバー2には、入力軸61aの端部を支持する軸受63cが装着されている。
【0019】
図2に示すように、トランスミッションケース1内のうち、リダクションギヤ60a,60bの下側には、パーキングポール8が設けられている。リダクションギヤ60aの一側面部には、パーキングギヤ64が一体または別体で設けられており、車室内に設けられている変速操作装置のシフトレバーをパーキングの位置に設定した際には、パーキングポール8の凸状部80がパーキングギヤ64と噛み合い、入力軸61aの回転を阻止するように構成されている。パーキングポール8の動作機構は、たとえば特開平9−268826号公報に記載された機構と同様であり、その詳細については省略する。
【0020】
図3において、トランスミッションケース1の壁部11、およびケースカバー2の内壁面には、第1および第2の突起部3A,3Bが設けられている。幅W1の部分が第1の突起部3Aであり、幅W2の部分が第2の突起部3Bである。
【0021】
第1の突起部3Aは、
図2に示すように、一対のリダクションギヤ60a,60bと,パーキングポール8との三者に囲まれている空隙部19に位置するようにして、壁部11からケースカバー2側(
図2の手前側)に突出している。空隙部19は、一対のリダクションギヤの噛合部分n1の下方に位置し、かつ上側に進むほど横幅が狭くなる略三角形状(開口部10の正面視において略三角形状)である。第1の突起部3Aは、一対のリダクションギヤ60a,60bのそれぞれの外周に間隔を隔てて対面するように傾斜した状態で壁部11から突出した一対の傾斜片部30を有し、かつこれら一対の傾斜片部30は、下部どうしが離間するとともに上部どうしが繋がった正面断面視略Λ状である。
図4に示すように、一対の傾斜片部30の先端部には、これら一対の傾斜片部30どうしの間に形
成された隙間32の手前側部分を塞ぐ係合用フランジ部31が設けられている。
【0022】
これに対し、第2の突起部3Bは、ケースカバー2の内面部のうち、第1の突起部3Aに対向する箇所から第1の突起部3Aに向けて突出している。この第2の突起部3Bの先端部には、上向きの係合用片39が設けられている。
【0023】
図3(b)に示すように、第1および第2の突起部3A,3Bは互いに係合している。より具体的には、第2の突起部3Bの係合用片39は、第1の突起部3Aの一対の傾斜片部30どうしの隙間32にその下方から進入し、かつ係合用フランジ部31の背面部に当接している。
【0024】
このような係合を行なわせるには、
図5(a)に示すように、第1および第2の突起部3A,3Bが離間した状態において、第2の突起部3Bが第1の突起部3Aよりも下方に位置するように、ケースカバー2をトランスミッションケース1に接近させた後に上側にスライドさせる。この上側へのスライド時においては、
図5(b)に示すように、傾斜面33a,33bどうしが面接触する仕様とされている。同図に示す状態において、ケースカバー2を上方へ押圧すると、傾斜面33a,33bのガイド作用により、係合用片39は弾性変形を伴った状態で係合用フランジ部31の背面側にガイドされ、
図3(b)に示すような係合構造が得られる。
【0025】
この係合構造においては、係合用片39には、前記した弾性変形に伴う弾性復元力F1が生じており、この力F1によって係合用フランジ部31の背面部に圧接した状態となっている。また、係合用片39は、一対の傾斜片部30の下部の相互間に形成された隙間32に進入するため、一対の傾斜片部30の下部が離間する方向において、第1および第2の突起部3A,3Bどうしを互いに位置ずれしないように固定させることも可能である。トランスミッションケース1へのケースカバー2のボルト締結は、第1および第2の突起部3A,3Bの前記した係合操作を終了した状態で行なわれる。
【0026】
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0027】
まず、トランスミッションケース1の壁部11に突設された第1の突起部3Aと、ケースカバー2に突設された第2の突起部3Bとは、既述したように係合しており、これらを介してケースカバー2のうち、第2の突起部3Bが突設された箇所の固定化が図られている。このことにより、リダクションギヤ60a,60bの噛み合い振動に伴うケースカバー2の共振、とくに膜振動を抑制し、リダクションギヤノイズを効果的に抑制することが可能である。
【0028】
第1の突起部3Aは、一対の傾斜片部30の上部が繋がった正面断面視略Λ状であるために、リダクションギヤ60a,60bやパーキングポール8との干渉を回避し得るように、小スペースの空隙部19に適切に配置させながらも、この第1の突起部3Aの剛性を大きくすることが可能である。したがって、第1および第2の突起部3A,3Bを利用したトランスミッションケース1とケースカバー2との連結を頑丈なものとすることが可能である。第2の突起部3Bの上向きの係合用片39は、弾性復元力F1を利用して第1の突起部3Aの係合用フランジ部31に圧接しているために、第1および第2の突起部3A,3Bの相互間に不当な遊びを生じないようにすることもできる。その結果、ケースカバー2の共振を防止する上で、より好ましいものとなる。
【0029】
トランスミッションケース1の開口部10またはその近傍には、一対のリダクションギヤ60a,60bやパーキングポール8などが設けられているが、第1の突起部3Aは、それらの間に形成されている空隙部19を活用し、トランスミッションケース1の壁部1
1に突設されたものである。一方、第2の突起部3Bは、第1の突起部3Aと係合可能なようにケースカバー2の内面側に突設すればよい。したがって、それら第1および第2の突起部3A,3Bが設けられた構造自体は簡易であり、全体の製造コストを比較的廉価に抑制することが可能である。第1および第2の突起部3A,3Bを設けるにあたり、リダクションギヤ60a,60bやパーキングポール8の位置や仕様を従来と比較して大きく変更するような必要はない。また、部品点数の増大も回避または抑制することができる。さらに、ケースカバー2に、剛性を高めて防振を図るための補強用リブを多数設ける必要もなくなる。その結果、製造コストをより廉価に抑制し得ることとなる。トランスミッションTMの全体の軽量化も好適に図ることが可能となる。
【0030】
図5を参照して説明したように、第1および第2の突起部3A,3Bの係合は、簡易な操作によって行なうことが可能であり、特殊な工具を用いるような必要もない。したがって、トランスミッションTMの組み立て作業性も良い。第1の突起部3Aは、リダクションギヤ60a,60bの噛み合い部分などから流れ落ちてきた潤滑用オイルを所定部位に導くためのガイド部材として、またはそのようなガイド部材を取り付けるためのブラケットとして利用することも可能である。
【0031】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係るトランスミッションにおけるリダクションギヤノイズ抑制構造の各部の具体的な構成は、本発明の意図する範囲内において種々に設計変更自在である。
【0032】
第1の突起部は、トランスミッションケースの所定の壁部に設けられて、一対のリダクションギヤおよびパーキングポールの三者に囲まれている空隙部に進入する構造であればよく、必ずしも正面断面視略Λ状の形態である必要はない。たとえば、上述した実施形態の一対の傾斜片部30が左右に分離した形態とされていたり、あるいは下部が非開口の正面断面視略三角状、あるいはその他の形状とすることもできる。第2の突起部は、ケースカバーから第1の突起部に向けて突設されて、第1の突起部と係合可能な構造であればよい。
μm単位の膜振動をより効果的に抑制するための手段として、第1および第2の突起部の互いに係合する箇所に、耐熱性および耐油性に優れたゴムあるいは樹脂などのコーティングを施し、係合部分のガタツキをより少なくする手段を採用してもよい。
本発明の適用対象となるトランスミッションは、上述した実施形態のトランスミッションに限らず、その種別や具体的な構造は限定されない。
【符号の説明】
【0033】
TM トランスミッション
EG エンジン
1 トランスミッションケース
2 ケースカバー
3A,3B 第1および第2の突起部
8 パーキングポール
10 開口部(トランスミッションケースの)
11 壁部(トランスミッションケース内の)
19 空隙部
30 傾斜片部
31 係合用フランジ部
32 隙間
39 係合用片
60a,60b リダクションギヤ
61a 入力軸
61b 出力軸
63a〜63c 軸受