特許第6181522号(P6181522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧

特許6181522スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法
<>
  • 特許6181522-スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181522
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂押出発泡体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/12 20060101AFI20170807BHJP
   B29C 44/00 20060101ALI20170807BHJP
   B29C 47/14 20060101ALI20170807BHJP
   B29K 25/00 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   C08J9/12CET
   B29C44/00 E
   B29C47/14
   B29K25:00
【請求項の数】1
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-228959(P2013-228959)
(22)【出願日】2013年11月5日
(65)【公開番号】特開2015-89892(P2015-89892A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年9月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(72)【発明者】
【氏名】菊地 武紀
(72)【発明者】
【氏名】高橋 大嗣
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩司
【審査官】 芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−221110(JP,A)
【文献】 特開2010−254780(JP,A)
【文献】 特開2011−046845(JP,A)
【文献】 特開2007−314643(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00−42
B29C 47/00−96
B29C 44/00−60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下含み、見掛け密度が25kg/m3以上35kg/m3未満であり、且つ、製造直後の平面圧縮強度Fと見掛け密度Dとが以下の式(1)を満たし、
F≦2.52×D−55.3・・・・・式(1)
熱伝導率が0.0245W/mK以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体製造方法であって、
スリットダイ出口の厚み方向開度aと得られるスチレン系樹脂押出発泡体の厚みAから計算される厚み拡大比A/aが12以下、且つ、発泡直前の金型内部の樹脂圧力が2.5MPa以上であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で断熱性に優れた、高性能且つ経済的なスチレン系樹脂押出発泡体、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂押出発泡体は、良好な施工性や断熱特性から、例えば構造物の断熱材として用いられている。スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法として、押出発泡成形が公知である。この押出発泡成形は、押出機などを用いてスチレン系樹脂組成物を加熱溶融し、ついで発泡剤を添加し、所定の樹脂温度に冷却した後、これを低圧域に押し出すことによりスチレン系樹脂押出発泡体を連続的に製造する。
【0003】
近年、炭酸ガス排出量削減の観点から、住宅、建築物などの省エネルギー化の要求が高まっていることから、従来以上に高断熱性の発泡体の技術開発が望まれており、種々の技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1〜4では、グラファイト、及び/又は、酸化チタンのような熱線輻射抑制剤を添加する技術が開示されている。
【0005】
特許文献1では、グラファイトを添加することにより断熱性が向上する方法が提案されている。さらに、特許文献2〜3では、グラファイトの多量使用による形状不安定性(日射による反り)を防ぐため、酸化チタンと併用する方法が提案されている。通常、前記スチレン系樹脂押出発泡体の断熱材は、諸物性のバランスやハンドリング性、コストパフォーマンスなどの理由から、密度は30kg/m前後のものが使用される。しかしながら、前述の方法では、熱線輻射をより効果的に抑制するためと考えられる理由で、密度が35kg/m以上と高密度であり、従来のような軽量性を維持しつつ、優れた断熱性を付与することは困難であった。
【0006】
また、特許文献4では、難燃性と断熱性を両立するために、押出発泡体の気泡膜を厚くする方法が提案されている。しかし、この方法では、気泡膜を厚くするために、押出発泡体の気泡径、密度を複雑に制御しなければならず、特に35kg/m未満の低密度域において容易な製造が困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−196907号公報
【特許文献2】特開2009−256426号公報
【特許文献3】特開2010−254780号公報
【特許文献4】特開2011−046845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このような状況の下、本発明が解決しようとする課題は、軽量、且つ、優れた断熱性を有し、高性能で経済的なスチレン系樹脂押出発泡体、及び、その製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、熱線輻射抑制剤を使用し、製造直後の平面圧縮強度と見掛け密度を所定の範囲とすることにより、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
[1]スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下含み、見掛け密度が25kg/m以上35kg/m未満であり、且つ、製造直後の平面圧縮強度Fと見掛け密度Dとが以下の式(1)を満たし、
F≦2.52×D−55.3・・・・・式(1)
熱伝導率が0.0245W/mK以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体。
[2]前記グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.5重量部以上3.0重量部以下含むことを特徴とする、[1]に記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
[3]酸化チタンをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.0重量部以下含むことを特徴とする、[1]〜[2]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
[4]前記発泡剤が少なくともイソブタンを含み、更に、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、及び、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を含むことを特徴とする、[1]〜[3]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
[5]臭素系難燃剤をスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上5.0重量部以下含むことを特徴とする、[1]〜[4]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
[6]前記スチレン系樹脂押出発泡体製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量が該押出発泡体1kgあたり0.30mol以上0.60mol以下であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のスチレン系樹脂押出発泡体。
[7]前記スチレン系樹脂押出発泡体の厚みが10〜150mmであることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかに記載の押出発泡体。
[8]スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下含み、見掛け密度が25kg/m以上35kg/m未満であり、且つ、製造直後の平面圧縮強度Fと見掛け密度Dとが以下の式(1)を満たし、
F≦2.52×D−55.3・・・・・式(1)
熱伝導率が0.0245W/mK以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法の製造方法であって、スリットダイ出口の厚み方向開度aと得られるスチレン系樹脂押出発泡体の厚みAから計算される厚み拡大比A/aが12以下、且つ、発泡直前の金型内部の樹脂圧力が2.5MPa以上であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軽量、且つ、優れた断熱性を有し、高性能で経済的なスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】見掛け密度と製造直後の平面圧縮強度
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一部にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で本実施形態を適宜変更できることは言うまでもない。
【0014】
本発明で用いられるスチレン系樹脂としては、特に限定はなく、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン等のスチレン系単量体の単独重合体または2種以上の単量体の組み合わせからなる共重合体や、前記スチレン系単量体とジビニルベンゼン、ブタジエン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの単量体の1種または2種以上とを共重合させた共重合体などが挙げられる。スチレン系単量体と共重合させるアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などの単量体は、製造されるスチレン系樹脂押出発泡体の圧縮強度等の物性を低下させない程度の量を用いることができる。また、本発明に用いるスチレン系樹脂は、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体に限られず、前記スチレン系単量体の単独重合体または共重合体と、前記他の単量体の単独重合体または共重合体とのブレンド物であってもよく、ジエン系ゴム強化ポリスチレンやアクリル系ゴム強化ポリスチレンをブレンドすることもできる。さらに、本発明のスチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下MFR)、成形加工時の溶融粘度、溶融張力などを調整する目的で、分岐構造を有するスチレン系樹脂であってもよい。
【0015】
本発明におけるスチレン系樹脂としては、MFRが0.1〜50g/10分のものを用いることが、押出発泡成形する際の成形加工性に優れ、成形加工時の吐出量、得られた熱可塑性樹脂発泡体の厚みや幅、密度または独立気泡率を所望の値に調整しやすく、発泡性(発泡体の厚みや幅、密度、独立気泡率、表面性などを所望の状況に調整しやすいほど、発泡性が良い)、外観などに優れた熱可塑性樹脂発泡体が得られると共に、圧縮強度、曲げ強度または曲げたわみ量といった機械的強度や、靱性などの特性のバランスがとれた、熱可塑性樹脂発泡体が得られる点から、好ましい。さらに、スチレン系樹脂のMFRは、成形加工性および発泡性に対する機械的強度、靱性などのバランスの点から、0.3〜30g/10分がさらに好ましく、0.5〜25g/10分が特に好ましい。なお、本発明において、MFRは、JIS K7210(1999年)のA法、試験条件Hにより測定される。
【0016】
本発明においては、前述されたスチレン系樹脂のなかでも、経済性・加工性の面からポリスチレン樹脂が特に好適に使用することができる。また、押出発泡体により高い耐熱性が要求される場合には、スチレン‐アクリロニトリル共重合体、(メタ)アクリル酸共重合ポリスチレン、無水マレイン酸変性ポリスチレンを用いることが好ましい。また、押出発泡体により高い耐衝撃性が求められる場合には、ゴム強化ポリスチレンを用いることが好ましい。これらスチレン系樹脂は、単独で使用してもよく、また、共重合成分、分子量や分子量分布、分岐構造、MFRなどの異なるスチレン系樹脂を2種以上混合して使用してもよい。
【0017】
本発明で用いられる発泡剤としては、特に限定するものではないが、炭素数3〜5の飽和炭化水素を使用することにより、優れた環境適合性を付与することができる。
【0018】
本発明で用いられる炭素数3〜5の飽和炭化水素としては、例えば、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタンなどが挙げられる。これらの炭素数3〜5の飽和炭化水素のなかでは、発泡性の点から、プロパン、n−ブタン、i−ブタン、あるいは、これらの混合物が好ましい。また、発泡体の断熱性能の点から、n−ブタン、i−ブタン(以下、「イソブタン」と呼ぶこともある)、あるいは、これらの混合物が好ましく、特に好ましくはi−ブタンである。
【0019】
ただし、目的とする発泡倍率、難燃性等の発泡体の諸特性いかんによっては、その使用量などが制限される場合があり、押出発泡成形性などが充分でない場合がある。
【0020】
本発明では、さらに、他の発泡剤を用いることにより、発泡体製造時の可塑化効果や助発泡効果が得られ、押出圧力を低減し、安定的に発泡体の製造が可能となる。
【0021】
他の発泡剤としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテル、n−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、フラン、フルフラール、2−メチルフラン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランなどのエーテル類;ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルn−プロピルケトン、メチル−n−ブチルケトン、メチル−i−ブチルケトン、メチル−n−アミルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、エチル−n−プロピルケトン、エチル−n−ブチルケトンなどのケトン類;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、t−ブチルアルコールなどの炭素数1〜4の飽和アルコール類;蟻酸メチルエステル、蟻酸エチルエステル、蟻酸プロピルエステル、蟻酸ブチルエステル、蟻酸アミルエステル、プロピオン酸メチルエステル、プロピオン酸エチルエステルなどのカルボン酸エステル類;塩化メチル、塩化エチルなどのハロゲン化アルキル、トランス−1、3、3、3−テトラフルオロプロパ−1−エンなどの有機発泡剤、水、二酸化炭素などの無機発泡剤、アゾ化合物、テトラゾールなどの化学発泡剤などを用いることができる。これら他の発泡剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
他の発泡剤の中では、発泡性、発泡体成形性などの点からは、炭素数1〜4の飽和アルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、塩化メチル、塩化エチルなどが好ましく、発泡剤の燃焼性、発泡体の難燃性あるいは後述する断熱性等の点からは、水、二酸化炭素が好ましい。これらの中では、可塑化効果の点からジメチルエーテルが、コスト、気泡径の制御による断熱性向上効果の点から水が特に好ましい。
【0023】
本発明で使用される発泡剤として、少なくともイソブタンを含み、更に、水、二酸化炭素、窒素、炭素数が2〜5のアルコール類、ジメチルエーテル、塩化メチル、及び、塩化エチルよりなる群から選ばれる少なくとも一種以上を含むことが、発泡体の断熱性能、発泡性、発泡成形性などが両立できる点で好ましい。
【0024】
発泡剤を添加または注入する際の圧力は、特に制限するものではなく、押出機などの内圧力よりも高い圧力であればよい。
【0025】
本発明における発泡剤の使用量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、2〜20重量部が好ましく、2〜10重量部がより好ましい。発泡剤の添加量が2重量部より少ないと、発泡倍率が低く、樹脂発泡体としての軽量、断熱などの特性が発揮されにくい場合があり、20重量部より多いと、過剰な発泡剤量の為、発泡体中にボイドなどの不良を生じる場合がある。
【0026】
本発明においては、スチレン系樹脂押出発泡体製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量を、所定量とすることで、JIS A9511に準じた燃焼試験法に合格し、且つ、優れた断熱性を有するスチレン系押出発泡体を得ることが出来る。スチレン系樹脂押出発泡体製造から1週間後の該押出発泡体中のイソブタンの残存量は、該押出発泡体1kgあたり0.30mol以上0.60mol以下が好ましく、0.40mol以上0.55mol以下がより好ましい。0.30mol未満では、空気より低い熱伝導率を有するイソブタンの押出発泡体中での量が少なく、押出発泡体へ優れた断熱性を付与できない。一方で、燃焼性の高いイソブタンの量が0.60molより多いとJIS A9511に準じた燃焼試験法に不合格となる場合がある。
【0027】
本発明においては、他の発泡剤として水やアルコール類を用いる場合には、安定して押出発泡成形を行うために、吸水性物質を添加することが好ましい。本発明に用いられる吸水性物質の具体例としては、ポリアクリル酸塩系重合体、澱粉−アクリル酸グラフト共重合体、ポリビニルアルコール系重合体、ビニルアルコール−アクリル酸塩系共重合体、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−ブタジエン系共重合体、ポリエチレンオキサイド系共重合体およびこれらの誘導体などの吸水性高分子の他、表面にシラノール基を有する無水シリカ(酸化ケイ素)[例えば、日本アエロジル(株)製AEROSILなどが市販されている]などのように表面に水酸基を有する粒子径1000nm以下の微粉末;スメクタイト、膨潤性フッ素雲母などの吸水性あるいは水膨潤性の層状珪酸塩並びにこれらの有機化処理品;ゼオライト、活性炭、アルミナ、シリカゲル、多孔質ガラス、活性白土、けい藻土などの多孔性物質等があげられる。
【0028】
本発明で用いられる吸水性物質の添加量は、水の添加量などによって、適宜調整されるものであるが、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部が好ましく、0.1〜3重量部がより好ましい。
【0029】
本発明では、難燃剤として臭素系難燃剤を含有することにより、得られるスチレン系樹脂発泡体に難燃性を付与することができる。
【0030】
本発明における臭素系難燃剤の具体的な例としては、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2,3−ジブロモプロピル)エーテル、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートや、臭素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマーのような脂肪族臭素含有ポリマーが挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
これらのうち、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモプロピル)エーテルからなる混合臭素系難燃剤、臭素化スチレン−ブタジエンブロックコポリマーが、押出運転が良好であり、発泡体の耐熱性に悪影響を及ぼさない等の理由から、望ましく用いられる。これらの物質はそれ単体で用いても、または混合物として用いても良い。
【0032】
本発明における臭素系難燃剤の含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上5.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上4.0重量部以下がより好ましい。臭素系難燃剤の含有量が1.0重量部未満では、難燃性などの発泡体としての良好な諸特性が得られがたい傾向があり、一方、5.0重量部を超えると、発泡体製造時の安定性、表面性などを損なう場合がある。但し、難燃剤の含有量は、JIS A9511測定方法Aに規定される難燃性が得られるように、発泡剤含有量、発泡体密度、難燃相乗効果を有する添加剤などの種類あるいは含有量などに合わせて、適宜調整されることがより好ましい。
【0033】
本発明においては、スチレン系樹脂押出発泡体の難燃性能を向上させる目的で、ラジカル発生剤を併用することができる。具体的には、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン、2,3−ジエチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、3,4−ジエチル−3,4−ジフェニルヘキサン、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジフェニル−4−エチル−1−ペンテン等が挙げられる。ジクミルパーオキサイドの様な過酸化物も用いられる。その中でも、樹脂加工温度条件にて、安定なものが好ましく、具体的には2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、及びポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼンであり、好ましい添加範囲としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、0.05〜0.5重量部である。
【0034】
更に、難燃性能を向上させる目的で、熱安定性能を損なわない範囲で、リン酸エステル及びホスフィンオキシドの様なリン系難燃剤を併用することができる。リン酸エステルとしては、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシリレニルホスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート、トリス(ブトキシエチル)ホスフェート、または縮合リン酸エステル等が挙げられ、特にトリフェニルホフェートが好ましい。又、ホスフィンオキシド型のリン系難燃剤としては、トリフェニルホスフィンオキシドが好ましい。これらリン酸エステル及びホスフィンオキシドは単独または2種以上併用しても良い。好ましい添加範囲としては、スチレン系樹脂100重量部に対して0.1〜2重量部である。
【0035】
本発明においては、必要に応じて樹脂、及び/又は、難燃剤の安定剤を使用することが出来る。特に限定されるものでは無いが、安定剤の具体的な例としては、ビスフェノールAジグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂のようなエポキシ化合物;ジペンタエリスリトールとアジピン酸との部分エステルおよび多価アルコールとの反応物のような多価アルコールエステル;トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナートであり、ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]のようなフェノール系安定剤;3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、及びテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチル−5−メチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンジホスホナイト)のようなホスファイト系安定剤;などが発泡体の難燃性能を低下させることなく、かつ、発泡体の熱安定性を向上させることから、好適に用いられる。
【0036】
本発明においては、熱線輻射抑制剤としてグラファイトを添加することにより、高い断熱性を有する発泡体が得られる。前記熱線輻射抑制剤とは、近赤外または赤外領域(例えば、800〜3000nm程度の波長域)の光を反射・散乱・吸収する特性を有する物質をいう。
【0037】
本発明で使用するグラファイトは、例えば、鱗(片)状黒鉛、土状黒鉛、球状黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。これらの中でも、熱線輻射抑制効果が高い点から、主成分が鱗(片)状黒鉛のものを用いることが好ましい。グラファイトは、固定炭素分が80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。固定炭素分を上記範囲とすることで高い断熱性を有する発泡体が得られる。
【0038】
グラファイトの分散粒子径は15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。粒径を上記範囲とすることで、グラファイトの比表面積が大きくなり、熱線輻射との衝突確率が高くなるため、熱線輻射抑制効果が高くなる。分散粒径を前記範囲とするためには、一次粒径が15μm以下のものを選択すればよい。
【0039】
なお、前記分散粒径とは、発泡板中に分散しているそれぞれの粒子の粒子径の個数基準の算術平均値であり、粒子径は発泡板断面を顕微鏡などにより拡大して計測される。前記一次粒径とは体積平均粒径(d50)を意味する。
【0040】
本発明におけるグラファイトの含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下が好ましく、1.5重量部以上3.0重量部以下がより好ましい。含有量が1.0重量部未満では、十分な熱線輻射抑制効果が得られない。含有量が3.5重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られずコストメリットが無い。
【0041】
尚、本発明におけるグラファイトの含有量は、JIS K 6226−2:2003に準じて測定することが出来る。具体的には、発泡体から約10mgの試験片を切り出し、熱分析システム:EXSTAR6000を備えた熱重量測定装置:TG/DTA 220U[エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製]を用いて、[1]200mL/分の窒素気流下で40℃から600℃まで20℃/分で昇温した後600℃で10分保持、[2]200mL/分の窒素気流下で600℃から400℃まで10℃/分で降温した後400℃で5分保持、[3]200mL/分の空気気流下で400℃から800℃まで20℃/分で昇温した後800℃で15分保持する。以下式(2)、式(3)よりグラファイトの含有量を算出できる。
炭素分=[3]での減少重量/試験片全量×100・・・(2)
グラファイト含有量=炭素分/使用したグラファイトの固定炭素分・・・(3)
本発明で使用することができる熱線輻射抑制剤としては、グラファイトの他に、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどの白色系粒子を併用することが出来る。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、線輻射抑制効果が大きい点から、酸化チタンや硫酸バリウムが好ましく、酸化チタンがより好ましい。白色系粒子の分散粒径については、特に限定されるものではないが、効果的に赤外線を反射し、また樹脂への発色性を考慮すれば、例えば、酸化チタンでは0.1μm〜10μmが好ましく、0.15μm〜5μmがより好ましい。
【0042】
本発明における白色系粒子の含有量としては、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上3.0重量部以下が好ましく、1.5重量部以上2.5重量部以下がより好ましい。白色系粒子は、グラファイトと比較して熱線輻射抑制効果が小さく、含有量が1.0重量部未満では、上記白色系粒子を含有しても熱線輻射抑制効果は殆どない。3.0重量部超では、含有量相応の熱線輻射抑制効果が得られない、一方で、押出安定性・成形性が劣ったり、発泡体の難燃性が悪化する傾向がある。
【0043】
本発明における熱線輻射抑制剤の合計含有量は、スチレン系樹脂100重量部に対して、1.0重量部以上6.0重量部以下が好ましく、2.0重量部以上5.0重量部以下がより好ましい。熱線輻射抑制剤の合計含有量が1.0重量部未満では、高い断熱性が得られず、6.0重量部超では、押出安定性・成形性が劣ったり、燃焼性が損なわれたりする傾向がある。
【0044】
本発明においては、さらに、必要に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲で種々のシリカ、ケイ酸カルシウム、ワラストナイト、カオリン、クレイ、マイカ、酸化亜鉛、酸化チタン、炭酸カルシウムなどの無機化合物、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、流動パラフィン、オレフィン系ワックス、ステアリルアミド系化合物などの加工助剤、フェノール系抗酸化剤、リン系安定剤、窒素系安定剤、イオウ系安定剤、ベンゾトリアゾール類、ヒンダードアミン類などの耐光性安定剤、前記以外の難燃剤、帯電防止剤、顔料などの着色剤などの添加剤を含有されてもよい。
【0045】
スチレン系樹脂に各種添加剤を添加する手順として、例えば、スチレン系樹脂に対して各種添加剤を添加して混合した後、押出機に供給して加熱溶融し、更に発泡剤を添加して混合する手順が挙げられるが、各種添加剤をスチレン系樹脂に添加するタイミングや混練時間は特に限定されない。
【0046】
本発明のスチレン系樹脂押出発泡体の製造方法としては、スチレン系樹脂、難燃剤、他の添加剤等を押出機等の加熱溶融手段に供給し、任意の段階で高圧条件下にて発泡剤をスチレン樹脂に添加し、流動ゲルとなし、押出発泡に適する温度に冷却した後、ダイを通して該流動ゲルを低圧領域に押出発泡して、発泡体を形成することにより製造される。
【0047】
加熱温度は、使用されるスチレン系樹脂が溶融する温度以上であればよいが、添加剤などの影響による樹脂の分子劣化ができる限り抑制される温度、例えば150〜260℃程度が好ましい。溶融混練時間は、単位時間当たりのスチレン系樹脂の押出量や溶融混練手段として用いる押出機の種類により異なるので一義的に規定することはできず、スチレン系樹脂と発泡剤や添加剤とが均一に分散混合されるに要する時間として適宜設定される。
【0048】
溶融混練手段としては、例えばスクリュー型の押出機などが挙げられるが、通常の押出発泡に用いられるものであれば特に制限されない。
【0049】
本発明の発泡成形方法は、例えば、押出成形用に使用される開口部が直線のスリット形状を有するスリットダイを通じて、高圧領域から低圧領域へ開放して得られた押出発泡体を、スリットダイと密着又は接して設置された成形金型、及び該成形金型の下流側に隣接して設置された成形ロールなどを用いて、断面積の大きい板状発泡体を成形する方法が用いられる。成形金型の流動面形状調整および金型温度調整によって、所望の発泡体の断面形状、発泡体の表面性、発泡体品質が得られる。
【0050】
本発明においては、スリットダイ出口の厚み方向開度aと得られるスチレン系樹脂押出発泡体の厚みAから計算される厚み拡大比A/aが12以下とすることで、製造直後の平面圧縮強度を所望の範囲とし、優れた断熱性を有する押出発泡体が得られる。A/aが12超の場合、製造直後の平面圧縮強度は所望の範囲とならず、断熱性が悪化する。
【0051】
本発明において、発泡直前のダイ内部の樹脂圧力(以下、「発泡圧力」と呼ぶ)を2.5MPa以上とすることで、外観美麗な押出発泡体が得られる。発泡圧力が2.5MPaより低い場合、ダイ内部での発泡が生じてしまい、表面美麗な押出発泡体が得られないばかりか、安定した押出発泡成形が出来ない。
尚、本発明における発泡直前とは、ダイ出口から300mm以内のことを指す。
【0052】
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、スチレン系樹脂及び発泡剤を用いて押出発泡して得られるスチレン系樹脂押出発泡体であって、グラファイトをスチレン系樹脂100重量部に対して1.0重量部以上3.5重量部以下含み、見掛け密度が25kg/m以上35kg/m未満であり、且つ、製造直後の平面圧縮強度Fと見掛け密度Dとが以下の式(1)を満たし、
F≦2.52×D−55.3・・・・・式(1)
熱伝導率が0.0245W/mK以下であることを特徴とする、スチレン系樹脂押出発泡体である。
【0053】
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、25年後の長期熱伝導率がJIS A 9511で規定されている0.028W/mKを満足することを考慮して、製造後1週間の熱伝導率が0.0245W/mK以下であることが好ましい。
【0054】
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、例えば建築用断熱材や保冷庫用又は保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性および、軽量性の観点から、押出発泡体の見掛け密度が25kg/m以上35kg/m未満であることが好ましく、より好ましくは28kg/m以上33kg/m未満である。
【0055】
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体は、JIS A 9511に準拠する方法にて測定した製造直後の平面圧縮強度が以下(1)式を満たすことで、優れた断熱性を発揮することが出来る。
F≦2.52×D−55.3・・・・・式(1)
※F:平面圧縮強度、D:見掛け密度
製造直後の平面圧縮強度と見掛け密度の関係が、式(1)の範囲を満たさない場合、断熱性を付与するために多量の熱線輻射抑制剤や高密度化が必要となり、本発明の求める軽量且つ高断熱のスチレン系樹脂押出発泡体が得られない。
【0056】
尚、本発明における製造直後とは、スチレン系樹脂押出発泡体が押出機のダイから出て押出発泡されてから、90分以内を指す。
【0057】
本発明に係るスチレン系樹脂押出発泡体における厚みは特に限定はないが、例えば建築用断熱材や保冷庫用又は保冷車用の断熱材として機能することを考慮した断熱性、曲げ強度及び圧縮強度の観点から、10mm以上150mm以下であることが好ましく、より好ましくは15mm以上120mm以下であり、特に好ましくは20mm以上100mm以下である。
【0058】
かくして、本発明により、軽量、且つ、優れた断熱性および難燃性を有し、高性能で経済的なスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得ることができる。
【実施例】
【0059】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明が以下の実施例に限定されないことは勿論である。また、以下の実施例および比較例においては、特に断られない限り、「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表すものとする。
【0060】
実施例および比較例において使用した原料は、次の通りである。
○基材樹脂
・スチレン系樹脂A [PSジャパン(株)製、G9401;MFR2.2g/10分]
・スチレン系樹脂B [PSジャパン(株)製、680;MFR7.0g/10分]
○熱線輻射抑制剤
・グラファイトA [(株)丸豊鋳材製作所製、M−88;鱗(片)状黒鉛、一次粒径8.5μm、固定炭素分89%]
・グラファイトB [(株)丸豊鋳材製作所製、M−885;鱗(片)状黒鉛、一次粒径5.5μm、固定炭素分89%]
・グラファイトC [伊藤黒鉛工業(株)製、X−10;鱗(片)状黒鉛、一次粒径10μm、固定炭素分98%]
・酸化チタン [堺化学工業(株)製、R−7E;一次粒径0.23nm]
○難燃剤
・テトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモプロピル)エーテル の混合臭素系難燃剤[第一工業(株)製、GR−125P]
・臭素化スチレン−ブタジエンブロックポリマー [ケムチュラ製、EMERALD INNOVATION #3000]
・ヘキサブロモシクロドデカン [アルベマール(株)製、HP900]
○難燃助剤
・トリス(トリブチルネオペンチル)ホスフェート [大八化学工業(株)製、CR−900]
・トリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]
・ポリ−1,4−ジイソプロピルベンゼン [UNITED INITIATORS製、CCPIB]
○安定剤
・ビスフェノール−A−グリシジルエーテル [(株)ADEKA製、EP−13]
・クレゾールノボラック型エポキシ樹脂 [ハンツマンジャパン製、ECN−1280]
・ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物 [味の素ファインテクノ製、プレンライザーST210]
・ペンタエリトリトールテトラキス[3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート] [ケムチュラ製、ANOX20]
・3,9−ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェノキシ)−2,4,8,10−テトラオキサ−3,9−ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン [ケムチュラ製、Ultranox626]
・トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチルー4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート [Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]
○その他添加剤
・タルク [林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]
・ステアリン酸カルシウム [堺化学工業(株)製、SC−P]
・ベントナイト [(株)ホージュン製、ベンゲルブライトK11]
・シリカ [エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS−304F]
○発泡剤
・イソブタン [三井化学(株)製]
・ジメチルエーテル [三井化学(株)製]
・水 [大阪府摂津市水道水]。
【0061】
実施例および比較例について、以下の手法に従って見掛け密度、発泡剤残存量、熱伝導率、燃焼性、平面圧縮密度を評価した。
【0062】
(1)見掛け密度(kg/m
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の重量を測定すると共に、長さ寸法、幅寸法、厚み寸法を測定した。
【0063】
測定された重量および各寸法から、以下の式に基づいて発泡体密度を求め、単位をkg/mに換算した。
見掛け密度(g/cm)=発泡体重量(g)/発泡体体積(cm
(2)製造直後の平面圧縮強度
発泡体の製造直後の平面圧縮強度は、以下に記載した条件を除いて、JIS A 9511に準拠する方法にて測定した。
得られたスチレン系樹脂押出発泡体を、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に30分以上静置した後、試験片を切削し、ノギス[(株)ミツトヨ製、M型標準ノギスN30]を用いて寸法を測定し、製造から90分以内にオートグラフ AG−20kNG[(株)島津製作所製]にて測定した。
【0064】
試験片は、幅方向片端を1点目、もう一方の端を5点目として幅方向で等間隔に5点とし(例えば、幅が910mmの製品であれば、試験片を幅方向50mm×長さ方向50mmとした場合、隣り合う試験片同士の幅方向中央部間距離が215mmとなるように)、全ての試験片の平面圧縮強度の平均値を「製造直後の平面圧縮強度」とした。
【0065】
(3)式(1)の充足性
得られたスチレン系樹脂押出発泡体の見かけ密度と製造直後の平面圧縮強度の関係を下記の基準で評価した。
○:見かけ密度と製造直後の平面圧縮強度の関係が、式(1)を満たしている。
×:見かけ密度と製造直後の平面圧縮強度の関係が、式(1)を満たしていない。
【0066】
(4)熱伝導率(W/mK)
発泡体の熱伝導率は、JIS A 9511に準拠する方法で測定した。
【0067】
発泡体の熱伝導率は、25年後の長期熱伝導率がJIS A 9511で規定されている0.028W/mKを満足することを考慮して、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から1週間後、発泡体おける熱伝導率を下記の基準で評価した。
○(合格):熱伝導率が0.0245W/mK以下。
×(不合格):熱伝導率が0.0245W/mKより大きい。
【0068】
(5)イソブタン残存量
得られたスチレン系樹脂押出発泡体をJIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から1週間後にイソブタン残存量を以下の設備、手順にて評価した。
a)使用機器;ガスクロマトグラフ GC−2014 [(株)島津製作所製]
b)使用カラム;G−Column G−950 25UM [化学物質評価研究機構製]
c)測定条件;
・注入口温度:65℃
・カラム温度:80℃
・検出器温度:100℃
・キャリーガス:高純度窒素
・キャリーガス流量:30mL/分
・検出器:TCD
・電流:120mA
約130ccの密閉可能なガラス容器(以下、「密閉容器」と言う)に、発泡体から切り出した見掛け密度により異なるが約1.2gの試験片を入れ、真空ポンプにより密閉容器内の空気抜きを行った。その後、密閉容器を170℃で10分間加熱し、発泡体中の発泡剤を密閉容器内に取り出した。密閉容器が常温に戻った後、密閉容器内にヘリウムを導入して大気圧に戻した後、マイクロシリンジにより40μLのヘリウム、イソブタン、ジメチルエーテル、空気の混合気体を取り出し、上記a)〜c)の使用機器、測定条件にて評価した。
【0069】
(6)JIS燃焼性
JIS A 9511に準じて、厚さ10mm×長さ200mm×幅25mmの試験片を用い、以下の基準で評価した。測定は、スチレン系樹脂押出発泡体の製造後、前記寸法の試験片に切削し、JIS K 7100に規定された標準温度状態3級(23℃±5℃)、及び標準湿度状態3級(50+20、−10%R.H.)の条件下に静置し、製造から1週間後に行った。
○(合格):3秒以内に炎が消えて、残じんがなく、燃焼限界指示線を超えて燃焼しないとの基準を満たす。
×(不合格):上記基準を満たさない。
【0070】
(7)成形性
押出発泡体を目視し、下記の評価基準によって評価した。
○(合格):押出発泡体の表面に、ボイド・シワ・突起物・異物が見られず、外観良好な押出発泡体である。
×(不合格):押出発泡体の表面に、ボイド・シワ・突起物・異物が顕著に存在し、外観の悪い押出発泡体である。
【0071】
(実施例1)
[樹脂混合物の作製]
スチレン系樹脂A[PSジャパン(株)製、G9401]100重量部に対して、熱線輻射抑制剤としてグラファイトB[(株)丸豊鋳材製作所製、M−885]2.5重量部、酸化チタン[堺化学工業(株)製、R−7E]1.5重量部、難燃剤として、テトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモ−2−メチルプロピル)エーテル、及びテトラブロモビスフェノールA−ビス(2、3−ジブロモプロピル)エーテル の混合臭素系難燃剤[第一工業(株)製、GR−125P]3.0重量部、難燃剤助剤としてトリフェニルホスフィンオキシド [住友商事ケミカル]1.0重量部、安定剤として、ビスフェノール−A−グリシジルエーテル[(株)ADEKA製、EP−13]0.20重量部、トリエチレングリコール−ビス−3−(3−t−ブチルー4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート[Songwon Japan(株)製、ソンノックス2450FF]0.20重量部、ジペンタエリスリトール−アジピン酸反応混合物[味の素ファインテクノ製、プレンライザーST210]0.10重量部、気泡径調整剤として、タルク[林化成(株)製、タルカンパウダーPK−Z]0.50重量部、滑剤としてステアリン酸カルシウム[堺化学工業(株)製、SC−P]0.20重量部、吸水媒体として、ベントナイト[(株)ホージュン製、ベンゲルブライトK11]0.40重量部、シリカ[エボニックデグサジャパン(株)製、カープレックスBS−304F]0.40重量部をドライブレンドした。ただし、前記グラファイト、酸化チタンは、あらかじめスチレン系樹脂のマスターバッチの形態として投入した。マスターバッチの混合濃度は、スチレン系樹脂/グラファイトを50重量%/50重量%とし、スチレン系樹脂/酸化チタンを40重量%/60重量%とした。
【0072】
[押出発泡体の作製]
得られた樹脂混合物を口径150mmの単軸押出機(第一押出機)と口径200mmの単軸押出機(第二押出機)、及び冷却機を直列に連結した押出機へ、約900kg/hrで供給した。
【0073】
第一押出機に供給した樹脂混合物を、樹脂温度240℃に加熱して溶融ないし可塑化、混練し、発泡剤(スチレン系樹脂100重量部に対して、水(水道水)0.7重量部、イソブタン3.5重量部およびジメチルエーテル2.2重量部を第一押出機の先端付近で樹脂中に圧入した。その後、第一押出機に連結された第二押出機及び冷却機中にて、樹脂温度を122℃に冷却し、冷却機先端に設けた厚さ6mm×幅400mmの長方形断面の口金(スリットダイ)より、発泡圧力3.4MPaにて大気中へ押出発泡させた後、口金に密着させて設置した成形金型とその下流側に設置した成形ロールにより、厚さ59mm×幅1000mmである断面形状の押出発泡板を得、カッターにて厚み50mm×幅910mm×長さ1820mmにカットした。得られた発泡体の評価結果を表1に示す。
【0074】
(実施例2〜20)
表1に示すように、各種配合剤の種類・添加量、及び製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。押出発泡成形安定性(成形性)および、得られた発泡体の物性を表1に示す。
【0075】
(比較例1〜4)
表2に示すように、各種配合剤の種類・添加量、及び製造条件を変更した以外は、実施例1と同様の操作により、発泡体を得た。押出発泡成形安定性(成形性)および、得られた発泡体の物性を表2に示す。
【0076】
尚、実施例1〜20、及び比較例1〜4の見掛け密度と製造直後の平面圧縮強度の関係は図1に示した。(図1中、●プロットは実施例、×プロットは比較例を示す)
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
実施例1〜20と比較例1〜4を比較して明らかなように、熱伝導率が0.0245W/mK以下と高い断熱性を保持しつつ、軽量で断熱性および難燃性に優れた、高性能且つ経済的なスチレン系樹脂押出発泡体を容易に得られることがわかる。
図1