(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
可動式の疑似路面上にて水膜を形成する台上ウェット路面形成装置であって、前記水膜の厚みを計測する水膜厚み計測手段と、前記疑似路面の移動速度を制御する疑似路面速度制御手段とを含み、前記疑似路面速度制御手段が、前記水膜厚み計測手段が逐次的に計測した水膜厚みの計測値の標準偏差である水膜厚みの乱れ度と、前記水膜厚み計測手段の逐次的な計測の全回数のうちの水膜厚みの計測値が許容可能な範囲でなかった時の回数の比率である棄却率とを参照して、前記乱れ度又は前記棄却率が最小となるように前記疑似路面の移動速度を調節する装置。
請求項1による装置であって、平板状のノズル上板とノズル下板とを有し該ノズル上板と該ノズル下板との間の隙間を通して水を前記疑似路面上に噴出する噴出ノズルを含み、前記ノズル上板及び前記ノズル下板の板厚が、それぞれ、前記隙間内の内圧と、前記ノズル上板及び前記ノズル下板の前記隙間の水の流通方向のそれぞれの長さと、前記ノズル上板又は前記ノズル下板のそれぞれの前記隙間の水の流通方向と垂直な方向の幅と、前記ノズル上板又は前記ノズル下板のそれぞれのヤング率と、前記ノズル上板又は前記ノズル下板のそれぞれの許容可能な撓みとに基づいて決定される装置。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0020】
台上ウェット路面形成装置の構成
図1(A)を参照して、本発明による台上ウェット路面形成装置は、台上タイヤ試験装置1の一部として実現される。図示の例では、台上タイヤ試験装置1は、一対のローラ2の間にて平坦な面(紙面に垂直な方向に延在する平面)を有する無端ベルト3を架け渡し、ローラ2が矢印aの方向に回転することによって、ベルト3が矢印bの方向に回転させられ、その上面が可動式の疑似路面3aとなる。そして、疑似路面3a上には、図示していない被検査タイヤが載置され、タイヤの状態や特性が検査される。なお、疑似路面は、図示の如き無端ベルト式ではなく、上記の特許文献2等に例示されている別の形式のものであってもよい。そして、上記のタイヤ試験装置に於いて、更に、水に濡れた路面上でのタイヤの試験を実行するべく、台上ウェット路面形成装置として、無端ベルト3の上面の疑似路面上に水膜を形成するための水供給と水膜厚み監視のための機構が設けられる。図示の例の台上ウェット路面形成装置に於いては、まず、疑似路面3aの移動方向の上流側に水噴出ノズル4が設けられ、その噴出口4aから、水Wbが噴出され、噴出された水は、疑似路面3a上にて疑似路面3aの移動方向とは逆の方向へ流れる水流Wsとなり、水膜Wmを形成する。そして、疑似路面3a上を通過した水流Wsは、疑似路面3aの下流側にて水槽へ落下し(Wf)、排水される(Wo)。また、タイヤの状態や特性は、水膜Wmの厚みによっても変化するので、水膜Wmの厚みDが制御できることが好ましい。そこで、上記の装置に於いては、光学式の水深センサ6が設けられ、センサ6の検出値によって水膜Wmの厚みDの監視が為される。水深センサ6は、典型的には、水滴防止カバー7に覆われており、水滴防止カバー7の底部に設けられた孔(窓)から入射する光を参照して水膜Wmの厚みDを検出する手段であってよい。そして、水滴防止カバー7の窓に付着した水滴等を除去すべく、該窓に向けて空気を噴射するエア噴射ノズル8が設けられていてよい。更に、水膜Wmの厚みDは、水の噴出速度及び水量に依存するので、噴出口4aから噴出された水Wbの噴出速度を監視するために、流速計5が設けられる。
【0021】
上記の疑似路面3a上に形成される水膜Wmについて、タイヤの状態や特性の検査を安定的に実行するためには、水膜Wmの厚みDの変動が少ないことが望ましい。しかしながら、実際の装置に於いては、水膜Wmの変動が比較的大きく、また、水膜Wmの変動による水膜内の光学的な乱れ(水の淀み)や、噴出口4aから噴出された水Wbが疑似路面3aの表面SPに衝突して反発することにより生ずる水の飛沫等に起因して、水深センサ6が精度又は確度よく水膜Wmの厚みDを検出できない状態(計測不能状態)となる場合がある。
【0022】
上記の水膜Wmの厚みの乱れ及び計測不能状態の発生の要因としては、「発明が解決しようとする課題」の欄にて説明された種々の事項が挙げられ、それらを解消するために、装置の各部の調整、例えば、疑似路面3aの移動速度の微調整、センサ6の位置及び/又は窓幅の調整、ノズル位置の調整等が行われる。しかしながら、これらの装置の各部の調整は、従前では、装置の使用者又は試験の実行者の自らの経験に基づく試行錯誤によって為されていたため、時間、労力及び装置の使用者又は試験の実行者の熟練技術を要することとなっていた。そこで、本発明では、試行錯誤によらずに、各部の調整が達成できるよう装置の構成の改良が為される。
【0023】
なお、本発明の装置では、
図1(B)に例示されている如く、調整制御装置が、各部の調整を実行するアクチュエータへ制御指令を与えることによって、各部の調整が達成されてよい。調整制御装置は、水深センサ6、流速計5の計測値を受容し、下記に述べる一連の水膜厚み計測処理、各部の調整の選定処理及び選定された目標値に各部の調整する処理を実行し、そのための制御指令を各部のアクチュエータに送信する。調整制御装置は、通常の形式のコンピュータであってよく、CPUおよびメモリを備え、CPUが各種演算処理を実行することにより、本発明の手順を実行する。本実施形態で説明される処理の全て或いは一部は、それらの処理を実現するプログラムを従ってコンピュータにより実行されてよい。
【0024】
水膜厚みの計測と乱れ度及び棄却率の算定
既に述べた如く、水膜は、液体であるので、その厚みは、或る同一の設定条件下に於いても時々刻々に変動する。従って、装置の各部の調整に於いては、基本的には、水膜の厚みを逐次的に複数回に亘って計測しながら、厚みの検出値の変動が最も少なくなるように各部の条件が調整される。その際、本発明では、特に、水膜厚みの変動の程度を数値的に把握するべく、その指標値として、複数回の計測に於ける水膜厚みの検出値の標準偏差を、「乱れ度」として参照する。また、既に触れた如く、水膜の厚みの複数回に亘る計測に於いては、水の淀みや飛沫の影響によって計測不能状態となる場合が発生し(この場合、検出値が異常な値を示すこととなる。)、そのような計測不能状態では、やはり、水膜厚みの変動が激しく、水膜の状態も整流化の程度が著しく低いと考えられ、計測不能状態の発生頻度が高いほど、水膜の状態の擾乱の程度が大きいということができる。そこで、本発明では、更に、計測不能な状態の発生頻度の程度を数値的に把握すべく、その指標値として、全計測回数に対する計測不能な状態となった回数の割合を「棄却率」として参照する。そして、装置の各部の調整に於いては、調整されるべき部位を或る目標とする状態に設定した後、その近傍にて部位の設定条件を少しずつ変更しつつ、水膜厚みの計測と乱れ度及び/又は棄却率の算定とを繰り返し行い、乱れ度及び/又は棄却率が最小となる状態の探索が為される。
【0025】
図2は、或る調整条件に於ける水膜厚みの計測処理と乱れ度及び/又は棄却率の算定処理をフローチャートの形式にて表した図である。同図を参照して、かかる処理に於いては、まず、水膜厚みの計測処理を実行する総時間Tと、計測を実行する間隔(サンプリング時間)Δtとを設定した後(ステップ10)、Δt毎に水膜厚みDjの計測を、計測開始からの経過時間tが総時間Tを超えるまで、繰り返し実行する(ステップ20〜ステップ60)。その際、水膜厚みDjの計測値は、毎回、エラー値を越えているか否か、即ち、水膜厚みDjの計測値が許容範囲内であるか否かが判定される(ステップ30)。そして、Djがエラー値より大きいときには、計測不能状態だったと判定し、その回数jがカウントされる(ステップ40)。かくして、経過時間tが総時間Tを超えると、それまでの計測値の標準偏差が
乱れ度σ={Σ(Dj−Dave)
2/(T/Δt)}
1/2 …(1)
として算定される(ステップ80)。なお、Daveは、計測値の平均値である(ステップ80)。また、全計測回数(T/Δt+1)に対する、それまでの計測不能状態だった回数jの割合が、
棄却率P=j/(T/Δt+1) …(2)
として算定される(ステップ70)。
【0026】
なお、
図2の処理に於いて、乱れ度σのみを算定する場合には、ステップ30、40、70は、実行されなくてよい。また、下記に例示する典型的な実施形態に於いては、乱れ度σの算定のためのセンサと、棄却率Pの算定のためのセンサとしては、別々のセンサが用いられる。即ち、上記の装置1に於いては、二つのセンサが装備されてよい。そして、通常、棄却率Pの算定のためのセンサとして、より感度の高いセンサが使用されるので、後に述べる如く、典型的には、或る部位の調整に於いては、初めに、部位の設定条件を変更しながら、水膜厚みの計測と乱れ度σの算定を行い、最小の乱れ度σを与える条件を探索した後、探索された最小の乱れ度σを与える条件の近傍にて、更に細かい分解能にて、部位の設定条件を変更しながら、水膜厚みの計測と棄却率Pの算定を行い、最小の棄却率Pを与える条件の探索が実行されてよい。
【0027】
ベルト速度(疑似路面速度)Vbの選定
水膜の厚みとその変動の程度は、水噴射速度とベルト速度Vb、即ち、疑似路面の移動速度とに依存する。特に、水膜厚みの変動の態様に於いては、ベルト速度Vbがわずかに変化しただけで変化する場合がある。そこで、本発明では、或る水噴射速度とベルト速度Vbをそれぞれ目標値に設定した場合には、更に、ベルト速度Vbを設定された目標値からその近傍にて変化させながら、水膜厚みの計測と乱れ度σの算定及び棄却率Pの算定を実行して、乱れ度σ又は棄却率Pが最小となる条件を探索し、水膜の厚みの変動が最小となり、安定な水膜形成が得られる条件の選定が実行される。かかる本発明によるベルト速度Vbの微調整のための具体的な処理に於いては、
図3を参照して、まず、目標噴流速度Vxと目標ベルト速度Vbo(初期値)とを設定した後(ステップ110)、その状態にて、
図2に例示した水膜厚みの計測と乱れ度σの算定及び棄却率Pの算定が実行される(ステップ120)。図示していないが、この状態で棄却率P又は乱れ度σが著しく大きい場合には、微調整を実行しても、十分に安定な水膜の形成は望めないので、目標値の変更が為されてよい。
【0028】
しかる後、初期状態に於ける棄却率P
0及び乱れ度σ
0が、著しく大きくない場合には、第一のベルト速度Vbの微調整幅(刻み速度)ΔVsを設定し(ステップ130)、ベルト速度Vbを刻み速度ΔVsずつ増大又は低減させながら、
図2に例示した水膜厚みの計測と乱れ度σの算定を実行し(ステップ135〜200)、最小の乱れ度σを与えるベルト速度Vbの探索が実行される。なお、図示の例では、ステップ135〜160に於いて、ベルト速度Vbの初期値からΔVsずつ増大させながら(ステップ140)、
図2に例示した水膜厚みの計測と乱れ度σの算定(ステップ150)を繰り返し、最小の乱れ度σを与えるベルト速度Vbの探索(ステップ160)が為され、ステップ165〜190に於いて、ベルト速度Vbの初期値からΔVsずつ低減させながら(ステップ170)、
図2に例示した水膜厚みの計測と乱れ度σの算定(ステップ180)を繰り返し、最小の乱れ度σを与えるベルト速度Vbの探索(ステップ190)が為される。しかる後、ベルト速度Vbの初期値Vb0の近傍で最小の乱れ度σを与えるベルト速度Vbminがベルト速度Vbの初期値Vb0に設定し直され(ステップ200)、第一の刻み速度ΔVsよりも小さい第二の刻み速度ΔVpを設定した後(ステップ210)、新たな初期値Vb0の近傍で、刻み速度ΔVpずつ増大又は低減させながら、
図2に例示した水膜厚みの計測と棄却率Pの算定を実行し(ステップ215〜270)、最小の棄却率Pを与えるベルト速度Vbの探索が実行される。ステップ215〜270の処理は、棄却率Pの算定を実行し、その最小値を与えるベルト速度Vbを決定することを除いて、ステップ135〜200と同様であってよい。
【0029】
かくして、最小の乱れ度σを与えるベルト速度Vbの近傍のうちで、更に最小の棄却率Pを与えるベルト速度Vbが、目標噴流速度Vxに対するベルト速度Vbとして選定される(ステップ280)。かかる構成によれば、目標ベルト速度Vbo(初期値)の近傍で水膜の乱れが最小に抑制され、又、水膜厚みの計測が最も確実に実行可能であるベルト速度Vbが決定できることとなる。また、上記の処理は、水膜厚みの変動の程度を乱れ度σや棄却率Pといった数値的な指標を用いるので、ベルト速度Vbの微調整に於いて試行錯誤の依存は大幅に低減され、効率よく、ベルト速度Vbの微調整が達成可能となる。また、水膜厚みを変更すべく、目標噴流速度Vx及び/又はベルト速度Vbを変更した場合にも、安定な水膜を形成するためのベルト速度Vbの微調整が速やかに達成できる点で有利である。なお、上記の処理は、典型的には、調整制御装置のコンピュータの作動により自動的に実行される。
【0030】
水噴流ノズルの角度の調整
上記の如く、疑似路面上に水噴射ノズル4から水を噴射して水膜Wmを形成する際、噴出口4aから噴出された水Wbが疑似路面3aの表面SPに対して強く衝突し反発すると、水膜の厚みの変動の程度と水の飛沫量とが増大する。そして、水Wbの表面SPに対する衝突及び反発の強さは、ノズルの角度θによって変化する。従って、本発明では、水膜の厚みの変動ができるだけ抑制されるように、ノズルの角度θの調節も乱れ度σ又は棄却率Pを利用して為されてよい。
図4(A)は、本発明による水噴出ノズルのノズル角度θの選定処理をフローチャートの形式にて表した図である。同図を参照して、ノズル角度θの選定処理は、
図3のベルト速度の選定処理と同様であってよく、ノズル角度θを徐々に変化させながら、
図2に例示した水膜厚みの計測と乱れ度σの算定を反復実行して、最小の乱れ度σを与える角度θの探索が実行される。なお、図示していないが、棄却率Pを用いて最小の棄却率Pを与える角度θの探索が実行されてもよい。特に、図示の例では、初期値として、角度θ=0°を設定して、徐々に角度を増大しながら、最小の乱れ度σを与える角度θの探索を実行するよう記載されているが、これに限定されない。
図4(B)は、ノズル角度θを変更しながら得られた乱れ度σの変化の例を示している。同図の例の場合には、約5°で乱れ度σが最小となるので、その角度がタイヤ試験に使用される角度θとして選定されてよい。かかる角度調整は、要求される水膜厚み、ベルト速度、水噴射速度、ノズルの高さhの条件が変更される度に実行されてよい。また、上記の処理も、水膜厚みの変動の程度を乱れ度σ(や棄却率P)といった数値的な指標を用いて達成可能であるので、試行錯誤によらず、噴出口4aから噴出された水Wbの疑似路面3aの表面SPに対する衝突及び反発の影響を低減し、安定な水膜を形成するためのノズル角度θの調整が速やかに達成できる点で有利である。なお、上記の処理は、典型的には、調整制御装置のコンピュータの作動により自動的に実行される。
【0031】
水噴流ノズルのノズル長の選定
安定な水膜を形成するためには、ノズルから噴射される水流が整流化されていることが重要となる。かかる水流の整流化の程度は、
図1(A)の装置の水噴出ノズル4の如く、上下の平板の隙間から水を噴射させる形式(スリットノズル)の場合、水の流通方向に於ける平板の隙間の距離(ノズル長)Lによって影響される。そこで、本発明の発明者等は、種々のノズル長Lを用いて、
図2に例示した水膜厚みの計測と乱れ度σの算定及び棄却率Pの算定を実行して乱れ度σと棄却率Pとが低く抑えられるノズル長Lの条件を探索した。
図5は、その結果の例を示すグラフ図であり、図示の例では、ノズル長Lが200mm以上になると、乱れ度σが許容範囲に収束し、その際の棄却率P(図示せず)も十分に低い値となった。かくして、乱れ度σと棄却率Pを参照することによって、試験のための安定的な水膜の形成を達成するノズル長Lの選定が可能であることが示された。
【0032】
光学水深センサの調整
既に触れた如く、台上ウェット路面形成装置に於いて、水の飛沫等の影響によって、光学水深センサ6による水膜厚みの計測ができない状態となる場合がある。かかる計測不能状態の頻度は、光学水深センサ6の位置或いは水滴防止カバー7の底部に設けられた窓の大きさによっても変化し、また、水膜の形成条件に依存して、水の飛沫量が変化するので、計測不能状態の頻度も変化する。従って、台上ウェット路面形成装置に於いては、任意の水膜形成の条件毎に、光学水深センサ6の位置や窓の大きさも調整できることが望ましい。そこで、本発明の装置では、
図1(C)に例示されている如く、光学水深センサ6の窓の大きさWやベルト面3からの高さHが、水膜厚みの計測に於ける棄却率Pを参照して、選定できるようになっていてよい。なお、本発明の装置で採用される光学水深センサ6に於いては、静的な水膜(水の飛沫や厚み変動のない水膜)に対しては、窓幅Wが広いほど、計測不能状態の頻度は低減する。しかしながら、本発明の装置で採用される場合には、水膜の厚みが動的に変動するとともに、水膜と窓の間に於いては、水の飛沫が浮遊する場合が多く、従って、窓幅Wが広いほど、水の飛沫が窓表面に付着しやすくなることなどにより、計測不能状態の頻度が増大する。そこで、本実施形態では、初めに、窓幅Wを計測が可能な最小値Wmin(棄却率が100%ではない最小値)を設定し、窓幅Wを徐々に大きくしながら、水膜厚みの計測処理と棄却率Pの算定が繰り返し実行される。そうすると、棄却率Pが徐々に低減していくところ、或る程度の窓幅Wになったところで、棄却率Pが殆ど変化しなくなることが期待されるので、そのときの窓幅W、即ち、窓幅Wをそれ以上増大しても棄却率Pが殆ど変化しなくなる状態での最小幅が最適値として選定される。
【0033】
図6は、光学水深センサ6の窓幅Wの選定処理の過程をフローチャートの形式にて示したものである。同図を参照して、まず、水滴防止カバー底面の光学水深センサ6の窓の高さHoが任意に設定され、更に、窓幅Wは、計測が可能な最小値Wminに設定される(ステップ310)。そして、この状態で、
図2に例示した水膜厚みの計測と棄却率Pの算定が実行される(ステップ320)。ここで、棄却率Pが所定の閾値Pth1よりも大きいときには(ステップ330)、窓に水滴等が付着している可能性が高いため、エア噴射ノズル8から窓表面に向けて空気の噴射が為され、水滴等の除去が図られるようになっていてよい。しかる後、窓幅WをΔWずつ増大しながら(ステップ340)、
図2に例示した水膜厚みの計測と棄却率Pの算定(ステップ350)と窓幅Wの増大の前と後との棄却率Pの比較(ステップ370)とが繰り返し実行される。既に述べた如く、通常、窓幅Wの増大後の棄却率Piは、窓幅Wの増大前の棄却率Pi−1よりも低いはずなので、その場合には、更に棄却率Pを低減すべく、窓幅WのΔWずつの増大(ステップ340)が繰り返される。そして、この操作を繰り返し、窓幅Wの増大後の棄却率Piが窓幅Wの増大前の棄却率Pi−1に等しいか或いは高くなったときには、窓幅Wを更に増大しても棄却率Pの低減は望めないこととなるので、その時点の窓幅Wmaxが試験に於いて使用される窓幅として選定される(ステップ380)。
【0034】
上記の処理に於いて、棄却率Pが所定の閾値Pth1よりも大きいときには(ステップ360)、窓に水滴等が付着している可能性が高いため、エア噴射ノズル8から窓表面に向けて空気の噴射が為され、水滴等の除去が適宜図られるようになっていてよい。また、その後の任意に実行される水膜厚みの計測と棄却率Pの算定(ステップ390)に於いても、棄却率Pが所定の閾値Pth2よりも大きいときには(ステップ395)、窓に水滴等が付着している可能性が高いため、エア噴射ノズル8から窓表面に向けて空気の噴射が為され、水滴等の除去が図られるようになっていてよい。閾値Pth1と閾値Pth2とは、実験的に任意に設定されてよい(閾値Pth1と閾値Pth2とは、同一であっても異なる値であってもよい。)。
【0035】
なお、図示していないが、水滴防止カバー底面の光学水深センサ6の窓の高さHについても、
図4の処理と同様の処理にて、窓の高さを変化させながら、棄却率Pを参照して、試験に於いて使用される高さに選定する処理が実行されてよい。高さの場合には、高いほど、棄却率が増大する一方、水膜に近すぎると、窓に水滴等が付着しやすくなるので、例えば、窓の高さの初期値をベルト面近傍に設定し、徐々に高さを増大し、棄却率が増大し始める高さの最低値を試験に於いて使用される高さに選定するようになっていてよい。
【0036】
上記の構成によれば、水滴防止カバー底面の光学水深センサ6の窓に水の飛沫が付着するなどして、計測不能状態となる発生頻度をできるだけ低く抑えられることが期待される。また、上記の処理は、棄却率Pといった数値的な指標を用いるので、光学水深センサ6の窓の調整に於いて試行錯誤の依存は大幅に低減され、効率のよい調整が達成可能となる。なお、上記の処理は、典型的には、調整制御装置のコンピュータの作動により自動的に実行される。
【0037】
ノズル平板板厚の設定
「発明の概要」の欄に於いて述べた如く、疑似路面上に形成される水膜に於いて、水流の幅方向の速度むらが大きいと、水膜の厚みは不安定となる。特に、
図7(A)に模式的に描かれている如き、平板状のノズル上板12uとノズル下板12lとを有する噴出ノズル4から該ノズル上板と該ノズル下板との間の隙間(スリットノズル)を通して水を疑似路面上に噴出することによって水流が供給される場合、隙間の内圧(ノズル内圧)が高圧化に伴って、ノズル上板とノズル下板の幅方向bの中央領域に応力が集中することによって撓みが発生して、噴出口4aの形状が変化すると、噴出口の幅方向の圧力損失の差が増大し、これにより、水流の幅方向の速度むらが増大することとなる。一方、ノズル上板とノズル下板の撓みの大きさは、その板の板厚によって依存する。そこで、本発明のもう一つの態様に於いては、ノズル上板とノズル下板の撓みが許容範囲内に収まる板厚dを決定し、そのような板厚を有する平板がノズル上板とノズル下板として使用されてよい。
【0038】
具体的には、まず、
図7(A)のスリットノズルに於いて、絞り部の圧力P1は、スリットノズル内の圧力P2と略等しいと考えられる。即ち、
P1=P2 …(3)
が成立する。一方、絞り部の圧力P1は、供給ポンプ10の圧力Ppと噴出口4aの流速V
∞とを用いて、
P1=Pp−(1/2)ρV
∞2(C−λ(L/d)) …(4)
にて表される。ここで、ρは、水の密度、Cは、1/(縮流係数)
2、dは、隙間の距離である。一方、ノズル上板とノズル下板が、それぞれ、
図7(B)に示されている如き、長さL、幅b、厚みzを有する平板であるとすると、平板は、ノズル内圧P2(=P1)によって等分布荷重を受ける両端支持梁であると仮定することができ、そのときの
図7(C)にて示されている撓みδを用いると、厚みzは、
z(x)=2.5P
1・L・x
3(b−x)/((E・b)/δ) …(5)
により表される。ここで、xは、幅方向の座標であり、Eは、平板のヤング率である。従って、δへ許容可能な撓みを代入することにより、想定されるノズル内圧P2に応じて、撓みが許容可能な範囲内に抑制できる厚みzが決定できることとなる。かくして、本発明の台上ウェット路面形成装置の水噴出ノズルに於いて、ノズル上板とノズル下板として、式(5)にて算定される厚みzの板を用いることによって、噴出口4aの幅方向の圧力損失の差が低減し、水噴流の速度分布がより均一化されるので、水流の幅方向の速度むらの抑制が可能となる。
【0039】
ノズル平板撓みの矯正
上記の「ノズル平板板厚の設定」の欄で説明された如く、撓みが許容可能な範囲内に収まる板厚を有する平板をノズル上板とノズル下板として使用する場合には、利用可能な平板の範囲が限定されることとなる。そこで、本発明の更に別の態様に於いては、
図7(B)及び(D)に例示されている如く、ノズル上板とノズル下板上の幅方向の複数の点(矯正圧ポイント)に対して、押圧力を及ぼすアクチュエータ(Act)を設け、平板の撓みが抑制されるようになっていてよい。なお、平板上の撓みδは、式(5)から、
δ(x)=5P
1・L・x
3(b−x)/(24EI) …(6)
により与えられる。ここで、Iは、断面二次モーメントであり、I=bz
3/12である。(ここで、zは、定数である。)従って、式(4)から絞り圧力P1が分かれば、平板上の撓みが推定できることとなる。
【0040】
図8は、目標噴流速度とポンプ吐出圧Ppがそれぞれ或る値に設定された際に、ノズルの上下板の撓みの矯正を実行する処理をフローチャートの形式で表した図である。図示の処理も調整制御装置(
図1(B))のコンピュータの作動により実現されてよい。
【0041】
同図を参照して、まず、目標噴流速度とポンプ吐出圧Ppの設定(ステップ510)が為されると、ノズル内の圧力P1が式(4)により予測されるか実測される(ステップ520)。そして、
図7(B)にて例示されている如く、ノズルの上下板のそれぞれに於ける噴出口4aの幅方向に於ける矯正圧ポイントの撓みδUi、δLiが、式(6)により予測されるか実測される(ステップ530)。なお、撓みの実測のために、各矯正圧ポイントに任意の歪みセンサが設けられ、その検出値が調整制御装置へ入力されてよい(
図1(B)参照)。しかる後、ノズルの上下板の矯正圧ポイント毎に、撓みδUi、δLiが許容範囲内であるか否か、即ち、所定の閾値δth1又はδth3より小さいか否かが判定される(ステップ540、570)。ここで、撓みδUi、δLiが所定の閾値δth1又はδth3よりも小さい場合には、アクチュエータの作動による矯正圧の付与は実行されず、次の矯正圧ポイントについて、同様の処理が為される。一方、撓みδUi、δLiが所定の閾値δth1又はδth3よりも大きい場合には、アクチュエータの作動による矯正圧の付与が実行され(ステップ550、575)、
図7(C)にて示されている如く、矯正量εUi、εLi、即ち、矯正圧の付与よる撓みの修正量が実測される(ステップ555、580)。そして、矯正後の撓み(δUi−εUi)、(δLi−εLi)が、許容範囲内であるか否か、即ち、所定の閾値δth2又はδth4より小さいか否かが判定され(ステップ560、590)、許容範囲内でない場合には、更なる矯正圧の付与は実行される。なお、ステップ550〜560、575〜590は、矯正後の撓みが許容範囲内となるまで反復されてよい。
【0042】
かくして、各ポイントの撓みを参照した矯正処理が完了すると、撓みは、全て許容範囲内に収まっていると想定されるところ、矯正処理によって、噴出口での水の流速にムラが生じてしまう場合がある。そこで、続けて、噴出口の流速分布を参照して、更なる矯正圧の付与が実行されてよい。具体的には、まず、各ポイントに対応する噴出口での水の流速Viの測定と平均流速Vaveの算定が実行される(ステップ610)。そして、各ポイント毎に、流速Viと平均流速Vaveとの差分ΔViが、所定の閾値Vthより大きいか否かが判定される。そして、もしΔViが閾値Vthより大きいときには、ΔViがVthよりも小さくなるまで、矯正圧の更なる付与が実行される(ステップ620〜630)。かくして、全てのポイントについて上記の処理が完了すると、矯正処理が終了する。
【0043】
図8に例示の矯正処理によれば、最終的に噴出口の幅方向に於ける圧力損失の差による速度ムラが低減され、従って、安定した水膜の形成が期待される。また、
図8による矯正処理を実行する場合には、ノズルの上下板として利用可能な平板の選択範囲が拡大され、より薄肉の、或いは、軽量の平板材の利用も可能となる。なお、各矯正ポイントに矯正圧を付与するアクチュエータは、電磁式又は液圧式に棒材を上下する形式の任意のアクチュエータであってよく、その動作は、調整制御装置のコンピュータの作動により制御されてよい。
【0044】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。