(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態を説明する。この説明において、具体的な形状及び個数は、本発明の理解を容易にするための例示であって、仕様に応じて適宜変更することができる。
【0012】
以下において複数の実施形態や、変形例などが含まれる場合、それらを適宜組み合わせて実施することができる。以下ではすべての図面において同様の要素には同一の符号を付して説明する。
【0013】
本実施形態の回転電機冷却装置10は、回転電機12と、回転電機12を冷却する冷却部50とを備える。回転電機12は、例えばハイブリッド車両を駆動するモータとして、または、発電機として、または、その両方の機能を有するモータジェネレータとして用いられる。回転電機12をモータジェネレータとして用いる場合に、特に発電機として用いられる第1モータジェネレータでも、特に走行モータとして用いられる第2モータジェネレータでも、いずれでも本実施形態の回転電機冷却装置を適用できる。回転電機12は、ハイブリッド車両以外の電気自動車または燃料電池車の走行モータとして用いることもできる。
【0014】
図1は、回転電機冷却装置10の概略断面図であり、
図2は、
図1において、一部を省略してステータ14及びロータ30を軸方向に見た図を示している。
【0015】
回転電機12は、3相交流電流で駆動する永久磁石付の同期電動機であり、モータケース13の内側に回転可能に支持された回転軸40と、回転軸40の周囲に固定されたロータ30と、ロータ30と所定の空隙をあけて外径側に対向配置され、モータケース13に固定されたステータ14とを備える。「径方向」は、ロータ30の回転中心軸Oに対し直交する放射方向である。「軸方向」は、ロータ30の回転中心軸Oに平行な方向であり、「周方向」は、ロータ30の回転中心軸Oを中心として描かれる円形に沿う方向である。
【0016】
ロータ30は、円筒状のロータコア31と、ロータコア31の周方向複数位置に配置された図示しない磁石とを含む。ロータコア31は、円板状の電磁鋼板を複数個、軸方向に積層することにより一体に構成される。ロータコア31は、磁性粉末と樹脂のバインダとを含んで加圧成形してなる圧粉コアにより形成されてもよい。
【0017】
各磁石は、ロータ30の径方向、または径方向に対し傾斜した方向に着磁された磁気特性を有する。ロータコア31の軸方向両側に図示しない一対のエンドプレートを配置して、一対のエンドプレートによりロータコア31を軸方向両側から挟んでもよい。
【0018】
ロータコア31は、内部に設けられて、冷却液である油が流通するコア側冷媒通路32を有する。コア側冷媒通路32は、ロータコア31の中心部に形成された中心孔33から放射状に形成された複数の径方向通路34と、各径方向通路34の径方向外端に接続され、ロータコア31を軸方向に貫通し、軸方向両端から油を噴出する内径側冷媒噴出部である軸方向通路35とを有する。中心孔33には回転軸40が嵌合固定される。
【0019】
回転軸40は、中心部に形成された軸方向通路42と、軸方向通路42の中間部に放射状に接続された径方向通路43とを有する軸側冷媒通路41を含む。径方向通路43は、ロータ30の径方向通路34に接続される。軸方向通路42には、後述する冷却部50から油が供給される。これによって、コア側冷媒通路32の軸方向通路35に油が供給され、ロータ30の回転時の遠心力の作用によって、軸方向通路35は軸方向両端部から径方向外側に向かって油を噴出する。これによって、油は、ステータ14に形成される後述の環状樹脂部15の内周面に向かって噴出される。例えば
図1に矢印Vで示すように、油は、軸方向通路35の両端から軸方向外側に向かって径方向外側に傾斜する方向に噴出される。冷却液として油以外、例えば冷却水を用いてもよい。
【0020】
図3は、
図2に示すステータ14の斜視図である。
図4は、モータケース13にステータ14が固定された状態を示している
図2のA−A断面対応図である。ステータ14は、ステータコア16と、ステータコア16の内周部に巻かれた複数相(より具体的にはu相、v相、w相の3相)のステータコイル17と、環状樹脂部15とを含む。ステータコア16の内周面には、径方向内側へ(ロータ30(
図1)へ向けて)突出する複数のティース18がステータ14の周方向に沿って互いに間隔をおいて配列されている。ステータコア16は、複数の電磁鋼板を積層することにより一体に構成される。ステータコア16の外周面の周方向複数位置に結合フランジ23が設けられ、ステータ14は、結合フランジ23を貫通するボルトを用いてモータケース13に固定される。ステータコア16は、磁性粉末と樹脂のバインダとを含んで加圧成形してなる圧粉コアにより形成されてもよい。
【0021】
各相のステータコイル17は、ティース18に集中巻または分布巻で巻装されている。ステータコイル17は、ステータコア16の軸方向両端から軸方向に突出する部分に設けられたコイルエンド19を含む。
【0022】
各環状樹脂部15は、コイルエンド19をモールドしてステータコア16に固定され、コイルエンド19とともに、円環状の樹脂モールドコイルエンド20を形成する。
図1では軸方向両側の樹脂モールドコイルエンド20の断面を矩形で模式的に示している。
【0023】
図2から
図4に示すように、各環状樹脂部15は、ステータ14の軸方向ステータコア16側に設けられる環状本体部15Aと、環状本体部15Aの軸方向外端面の周方向複数位置から間隔をあけて軸方向に突出する複数の島部21,22とを含んでいる。
図2では、斜格子部により複数の島部21,22を示している。
【0024】
図2に示すように、複数の島部21,22は、周方向のある範囲で周方向にほぼ均等に配置され、第1最大周方向長さL1,La1を有する複数の第1島部21と、各第1島部21の第1最大周方向長さL1、La1よりも大きい第2最大周方向長さL2を有する第2島部22とを含む。なお、本明細書において、「最大周方向長さ」とは、ステータ14の中心軸Oを中心として、第1島部21または第2島部22において、同一円周上で周方向長さが最大となる径方向位置でのその周方向長さをいう。各第1島部21の最大周方向長さL1,La1は同じとするが、異なってもよい。第2島部22は、環状樹脂部15の上側半部を含む位置に、略円弧形に形成され、後述するオイル噴出パイプ51から外周面の着地部P1,P2に供給され、着地した油を周方向に流す機能を有する。これによって、第2島部22は、油が外周面に着地するような位置に形成される。
【0025】
第1島部21は、環状本体部15Aの外周面に沿って、軸方向に突出する径方向外側面である第1島部側外周面E1を有し、環状本体部15Aの外径寄りに配置される。各第1島部21は、周方向両側面と径方向内側面との連続部に断面円弧形の曲面部を有する。
【0026】
第2島部22は、環状本体部15Aの外周面に沿って軸方向に突出する径方向外側面である第2島部側外周面E2を有する。
【0027】
外周面E1,E2と軸方向端面F1,F2との連続部には、断面円弧形の曲面部、または軸方向に対し傾斜するテーパ面が形成されてもよい。
【0028】
第2島部22の内周端の周方向中間部は、環状樹脂部15の径方向最内端にほぼ達するが、第2島部22の内周端の周方向両端部は、環状樹脂部15の径方向最内端に達しない。これによって、環状樹脂部15の軸方向端面において、第2島部22の周方向両端部の径方向内側には段差面26が形成される。段差面26は、第2島部22の内周端に内側の軸方向通路35から径方向に噴出された油を、段差面26に沿って第2島部22の周方向外側に流すように形成される。
【0029】
環状樹脂部15に複数の島部21,22が形成されることによって、各島部21,22の外周面に沿って周方向に流れた油を各島部21,22の間、例えば第2島部22と第1島部21との間に形成される油逃げ溝27を通じて流下させ、流下した油を第1島部21の側面で方向を変えながら流下させることができる。これによって、各島部21,22は、油が環状樹脂部15の表面の一部に片寄って流れるのを抑制する。
【0030】
第2島部22は、各第1島部21の第1最大周方向長さL1、La1よりも大きい第2最大周方向長さL2を有するので、各環状樹脂部15の周方向について多くの部分を油で冷却してステータコイル17の冷却性を高くできる。これについては後で説明する。
【0031】
各第1島部21の第1最大周方向長さL1,La1は、隣り合う第1島部21の間の周方向長さLb1以下とし(L1,La1≦Lb1)、より好ましくは、隣り合う第1島部21の間の最小間隔である周方向長さLb1よりも小さくする(L1,La1<Lb1)。これによって、隣り合う第1島部21の間の油逃げ溝27を通じて径方向一方側から径方向他方側に油が通過しやすくなる。
【0032】
さらに、環状樹脂部15は、外周面に設けられた外周凹溝24及び複数の第2外周凹溝25A,25Bを含む。外周凹溝24は、環状樹脂部15の上側半部において、第2島部22の第2島部側外周面E2と環状本体部15Aの外周面とに軸方向に連続するように曲面状に窪んで設けられる。外周凹溝24の軸方向一端(
図2の表側端でステータコア16と反対側の端)は、第2島部22の軸方向外端に達して開口する。外周凹溝24の軸方向他端(
図2の裏側端でステータコア16側の端)はステータコア16の軸方向外側面で塞がれる。これによって、第2島部22の外周面に着地した油が外周凹溝24に溜まった後、外周凹溝24の軸方向一端から溢れ出た油が下方に流下する。特に、
図2の2つの外周凹溝24のうち、右側の外周凹溝24の底部は外周凹溝24の周方向両端よりも低い。このため、右側の外周凹溝24で軸方向に溢れ出た油が下方に流下しやすい。また、第2島部22の外周面を周方向に流れる油の方向及び速度は外周凹溝24で急激に変化するので、油の不規則な流れを生じやすい。これによっても外周凹溝24の軸方向一端から油が下方に流下しやすい。したがって、油が第2島部22の周方向に過剰に流れることが抑制され、第2島部22の軸方向端面から流下する油の量が過度に低下することを抑制できる。
【0033】
外周凹溝24は、環状本体部15Aの外周面に設けずに、第2島部側外周面E2にのみ設けてもよい。外周凹溝24は、環状樹脂部15の外周面に1つのみ設けてもよい。
【0034】
第2外周凹溝25A,25Bは、環状本体部15Aの外周面において、周方向に隣り合う第1島部21の間と、第1島部21及び第2島部22の間とに、曲面状に窪むように軸方向に沿って設けられる。第2外周凹溝25Aは、環状本体部15Aの上側半部に設けられ、第2外周凹溝25Bは、環状本体部15Aの下側半部に設けられる。第2外周凹溝25A.25Bの軸方向一端は、環状本体部15Aの軸方向外端に達して開口し、軸方向他端はステータコア16の軸方向外側面で塞がれる。環状本体部15Aの外周面を周方向に流れる油の方向及び速度は、上側半部の第2外周凹溝25Aで急激に変化するので、油の不規則な流れを生じやすい。これによって、第2外周凹溝25Aの軸方向一端から油が下方に流下しやすい。したがって、油が環状樹脂部15の表面の一部に片寄って流れることを抑制できる。環状本体部15Aの外周面において、下側半部の第2外周凹溝25Bを省略してもよい。
【0035】
一方、軸方向一方側の環状樹脂部15の外周面に端子結合部28Aが一体に形成され、端子結合部28Aの径方向外側面から、各相端子28Bと各相のステータコイル17とを接続する動力線29が導出している。
図3では端子結合部28Aを省略している。
【0036】
図示しない電力源から動力線29を介してステータコイル17に電力が供給され、複数相のステータコイル17に複数相の交流電流が流れることによって、周方向に複数配置されたティース18が磁化し、周方向に回転する回転磁界がステータ14に生成される。ティース18に形成された回転磁界は、その先端面からロータ30に作用する。
【0037】
図1に戻って、冷却部50は、モータケース13の下部内側に設けられた油の溜まり部60に接続された上流端を有するオイル経路52と、オイル経路52に設けられたオイルポンプ53と、オイル噴出パイプ51とを含む。オイル経路52の下流端は、第1経路54と第2経路55とに分岐して、第1経路54の下流端はオイル噴出パイプ51に接続される。第2経路55の下流端は回転軸40の軸側冷媒通路41内に接続される。オイルポンプ53は、溜まり部60から油を吸引して下流側に吐出する。オイル経路52において、外部を流れる空気によって油を冷却するオイルクーラが設けられてもよい。
【0038】
図2に示すように、オイル噴出パイプ51は、ステータ14の上側において、ステータ14の中心軸Oの真上から端子結合部28A側にずれて配置される。オイル噴出パイプ51の両端部に2つの噴出孔56が形成され、各噴出孔56から矢印αで示す噴出方向に油を噴出する。これによって、オイル噴出パイプ51は、環状樹脂部15の上側から油を供給し、油は第2島部側外周面E2の着地部P1,P2に着地する。着地部P1,P2は、油の噴出方向(
図2の矢印α方向)に直線上に対向する位置としてもよい。油の噴出量によって着地部P1,P2の位置が異なる場合があるが、第2島部22の位置決定の条件となる油の噴出量は使用時の最大噴出量とする。油は第2島部側外周面E2だけでなく、第2島部22と周方向に関して同位置の環状本体部15Aの外周面にも着地するように、噴出孔56が設定されてもよい。
【0039】
なお、オイル噴出パイプ51は、ステータ14の中心軸Oの真上から環状樹脂部15に対向する位置に配置されてもよい。オイル噴出パイプ51の両端部に設けられる噴出孔56は、それぞれ1つのみとしてもよい。
【0040】
上記の回転電機冷却装置10において、冷却部50によって回転電機12を冷却する場合、オイルポンプ53を駆動することによって溜まり部60から油を吸引し第1経路54及び第2経路55の下流側に油を流す。これによって、オイル噴出パイプ51の両端部から各環状樹脂部15の第2島部側外周面E2に向けて油が噴出される。噴出された油は、
図2に破線矢印で示すように、環状樹脂部15の周方向両側と軸方向外側とに流れながら流下する。この場合、第2島部22の第2最大周方向長さL2が第1島部21の第1最大周方向長さL1、La1よりも大きいので、大きい面積を有する外周面で油を受けることができる。また、第2島部側外周面E2上で周方向に長い部分に流れた油は、第2島部22の周方向両端と第1島部21との間の油逃げ溝27に沿って流下する。この場合、油逃げ溝27を通過する油は、
図2の破線βで示すように、別の第1島部22に衝突しながら環状樹脂部15の表面に沿って流下する。これによって、環状樹脂部15の周方向について多くの部分に油を流して冷却することができる。
【0041】
また、各第1島部21の第1最大周方向長さL1,La1が小さいので、隣り合う第1島部21の間の油逃げ溝27の幅を大きくできる。この結果、ステータコイル17の冷却性を高くできる。
【0042】
また、環状樹脂部15の外周面に外周凹溝24と上側半部の第2外周凹溝25Bとが形成されているので、環状樹脂部15の表面のより多くの部分に分散して油を流すことができる。
【0043】
また、冷却部50からロータ30のコア側冷媒通路32に供給された油は、コア側冷媒通路32の複数の軸方向通路35の両端部から径方向外側、すなわち環状樹脂部15の内周面に向かって、
図2の矢印γで示す方向に噴出される。噴出された油は一点鎖線の矢印で示すように島部21,22の間を通って環状樹脂部15の外径側に回り込み、外径側から環状樹脂部15の外周面または軸方向端面に接触しながら流下する。この場合も、油の一部は、環状樹脂部15の外径側から隣り合う島部21,22の間を通って径方向内側に抜けて、別の島部21に衝突しながら、環状樹脂部15の表面に沿って流下する。このため、環状樹脂部15の表面のより多くの部分に油を流すことができるので、ステータコイル17の冷却性をさらに高くできる。
【0044】
また、軸方向通路35の両端部から環状樹脂部15の内径側に吹き付けられた油の一部は島部21,22の径方向内端に衝突するので、その島部21,22付近を効率よく冷却できる。
【0045】
図5は、本発明に係る実施形態の別例の回転電機冷却装置において、ステータ14及びロータ30を示している
図2に対応する図である。本例の場合、各環状樹脂部15において、軸方向端面の周方向複数位置に設けられる第1島部21Aは、円柱状に形成されている。また、各第1島部21Aの第1最大周方向長さLa2は、隣り合う第1島部21Aの間の周方向長さLb2以下とし(La2≦Lb2)、より好ましくは、隣り合う第1島部21Aの間の周方向長さLb2よりも小さくする(La2<Lb2)。上記構成によっても、
図1から
図4の構成と同様に、環状樹脂部15において周方向について多くの部分に油を流すことができるので、ステータコイルの冷却性を高くできる。その他の構成及び作用は、
図1から
図4の構成と同様である。
【0046】
なお、第2島部22を含んで各島部21,22,21Aの形状は
図2及び
図5に示す形状に限定せず、断面形状を矩形、多角形または楕円等としてもよい。
【0047】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。例えば、上記ではステータ14の軸方向両側に、複数の島部21,22,21Aを有する環状樹脂部15を設ける場合を説明したが、ステータ14の軸方向両側の環状樹脂部のうち、軸方向一方の環状樹脂部のみを、複数の島部21,22を有する構成としてもよい。また、各島部21,22として、環状本体部15Aの外周面に沿って軸方向に突出する外周面E1,E2を有する構成を説明したが、各島部21,22は、環状本体部15Aの外周面よりも内径側に外れた位置から軸方向に突出する外周面E1,E2を有する構成としてもよい。
【0048】
また、回転電機12において、ロータ30の軸方向両側にエンドプレートを設ける場合に、各エンドプレートに内径側冷媒噴出部としてプレート側冷媒通路を設けて、プレート側冷媒通路から各環状樹脂部15の内径側に冷却液を噴出させる構成としてもよい。また、回転軸40において、ロータ30から軸方向両側に外れた部分に内径側冷媒噴出部である径方向通路を設けて、径方向通路の外端開口から環状樹脂部15の内径側に冷却液を噴出させてもよい。回転電機12において、ロータ30側から環状樹脂部15の内周面に向かってに冷却液を噴出させる構成を備えず、環状樹脂部15の上側からのみ冷却液を吹き付ける構成としてもよい。