【文献】
J. B. C., 1991, 266(19), pp.12759-12765
【文献】
BRITTO P J,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2002年 8月 9日,V277 N32,P29018-29027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1のシステイン残基と第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基との間のジスルフィド結合形成方法であって、当該方法が:
(a)pIが8を超すアミノ酸を前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に人工的に導入するステップであって、前記アミノ酸が前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる前記第2のシステイン残基のN末端に隣接する5アミノ酸以内に人工的に導入され、前記アミノ酸が前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるステップと;
(b)前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質の前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質への付着を生じさせ、あるいは前記付着を可能にするステップと;
を具え、前記付着が前記第1のシステイン残基と前記第2のシステイン残基との間のジスルフィド結合の形成により生じ、
前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質が、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートの構成要素であり、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が、免疫グロブリン又はその機能的断片を含むことを特徴とする方法。
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法において、前記タンパク質コートの構成要素が、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の短縮変異体又は修飾変異体であり、前記短縮変異体又は修飾変異体が前記バクテリオファージ粒子の前記タンパク質コートに組み込み可能であることを特徴とする方法。
【発明を実施するための形態】
【0035】
「ジスルフィド結合」は、2個のチオール基の反応により形成される共有結合である。ジスルフィド結合は(ポリ)ペプチド及びタンパク質のフォールディング及び安定性に重要な役割を果たす。ジスルフィド結合を有する多くのタンパク質は分泌型である。多くの細胞内コンパートメントは還元性環境であり、ジスルフィド結合は一般的に細胞質ゾル中では不安定である。(ポリ)ペプチド及びタンパク質中のジスルフィド結合は通常、システイン残基のチオール基間で形成され、2つのシステイン残基が酸化されると共有結合性のジスルフィド結合が形成される。ジスルフィド結合は、分子内結合と分子間結合が可能である。原核生物では、ジスルフィド結合は、ペリプラズムの酸化性環境で好ましく形成される。真核細胞では、ジスルフィド結合は通常、小胞体の酸化性環境では形成されるが、細胞質ゾルの還元性環境では形成されない(例外は、酸化センサーとして機能するシステイン残基を有するいくつかの細胞質ゾルタンパク質)。ジスルフィド結合は主に分泌タンパク質、リソソームタンパク質、及び膜タンパク質の細胞質外ドメインに見られる。ジスルフィド結合は、ゴムの加硫においても重量な役割を果たす。
【0036】
「pI]又は「等電点」とは、分子又は表面が正味の電荷を有しないpHである。明確な等電点を有するためには、分子(又は表面)は両性、すなわち酸性官能基と塩基性官能基の両方を有しなければならない。タンパク質及びアミノ酸はこの要件を満たす分子である。20個の天然アミノ酸のpIを表1に示す。しかし、本発明の方法の実施には非天然アミノ酸を使用してもよい。
【0038】
1個のアミノ基及び1個のカルボキシル基だけを有するアミノ酸のpIは、その分子のpKaから計算することができる。リジン等のイオン化可能な基を2つ以上有するアミノ酸は、それら2つのpKaを、天然型のアミノ酸から電荷が1つ増加又は減少したpIの計算に用いる。各計算方法は当業者に公知であり、あらゆる生化学の教科書に見出すことができる(例えば、ネルソンDL(Nelson DL)、コックスMM(Cox MM)著、「レーニンジャーの新生化学(Lehninger Principles of Biochemistry)」、第4版、2004年、W.H.フリーマン(W.H.Freeman)刊)。
【0039】
タンパク質は、そのpIに従って等電点電気泳動で分離することができる。pIより低いpHでは、タンパク質は正味で正の電荷を有する。pIより高いpHでは、タンパク質は正味で負の電荷を有する。電気泳動ゲルのpHは、そのゲルに使用する緩衝剤によって決まる。緩衝剤のpHが泳動にかけるタンパク質のpIより高いと、タンパク質は正極に移動する(負電荷が正極に引き寄せられる)。緩衝液のpHが泳動にかけるタンパク質のpIより低いと、タンパク質はゲルの負極に移動する(正電荷が負極に引き寄せられる)。pIと等しい緩衝剤pHでタンパク質を泳動すると、タンパク質は全く移動しない。これは個々のアミノ酸についても同様である。
【0040】
好ましい実施形態では、本発明の第1及び/又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、pIが8超のアミノ酸を含む。別の好ましい実施形態では、前記第1及び/又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、pIが9超、10超、又は11超であるアミノ酸を含む。別の好ましい実施形態では、前記pIが8超、9超、10超、又は11超のアミノ酸は、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質中に存在する。別の好ましい実施形態では、pIが8超、9超、10超、又は11超のアミノ酸は、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質中に存在する。別の好ましい実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、リジン及びアルギニンから選択される。ある実施形態では、前記アミノ酸はリジンである。別の好ましい実施形態では、前記アミノ酸はアルギニンである。
【0041】
ある好ましい実施形態では、本発明の第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を2個以上含む。別の好ましい実施形態では、本発明の第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を2個以上含む。いくつかの実施形態では、前記第1及び/又は前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、又は少なくとも5個含む。
【0042】
更に別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸に直接隣接するアミノ酸残基はヒスチジン残基である。ある実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸のすぐN末端側のアミノ酸残基はヒスチジン残基である。別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸のすぐC末端側のアミノ酸残基はヒスチジン残基である。更に別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸のすぐN末端側のアミノ酸残基及び前記pIが8超のアミノ酸のすぐC末端側のアミノ酸残基の両方がヒスチジン残基である。前記pIが8超のアミノ酸に直接隣接する更に好ましい一続き(stretch)のポリペプチドは、pIが8超のアミノ酸(好ましくはリジン)で少なくとも1個のヒスチジン残基が置換されている長さが3、4、5、6、7、又は8のヒスチジン残基のポリペプチドである。前記pIが8超のアミノ酸に直接隣接する非常に好ましい一続きのポリペプチド部分は、pIが8超のアミノ酸(好ましくはリジン)で1、2、又は3個のヒスチジン残基が置換されている長さが6のヒスチジン残基のポリペプチドである。特に好ましいのは、前記pIが8超のアミノ酸に直接隣接する以下のポリペプチドである:HHHHHH、HHHKHH、HHHHHK、HKHKHK(全てのアミノ酸を1文字表記で表す。すなわちH=ヒスチジン、K=リジン)。ある実施形態では、前記第1及び/又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1及び/又は第2のシステイン残基は、pIが8超のアミノ酸(好ましくはリジン)で少なくとも1つのヒスチジン残基が置換されているそのような一続きのヒスチジン残基のすぐC末端側にある。
【0043】
別の実施形態では、前記第1及び/又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1及び/又は第2のシステイン残基は、3、4、5、6、7、又は8個の一続きのヒスチジン残基のすぐC末端側及びpIが8超のアミノ酸、好ましくはリジンのすぐN末端側にある。場合によっては、前記第1及び/又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1及び/又は第2のシステイン残基のすぐN末端側にあるヒスチジン残基の1個は、pIが8超のアミノ酸、好ましくはリジンで更に置換される。
【0044】
本発明で、「反応性に好影響を与える」とは、2個のチオール基が反応してジスルフィド結合を形成する反応の平衡が生成物側にシフトする状況、すなわち、例えば国際公開第01/05909号に記載されている「CysDisplay」システム等の公知のシステムと比較してより多くのジスルフィド結合が形成される状況を指す。各チオール基の反応性は、国際公開第01/05909号及び本発明に記載されているように容易に検出及び測定することができる。後述する相対的提示率又は機能的提示率が適切な試験系であり得る。本発明によれば、そのような平衡のシフトは、反応物の1つ、すなわち第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に存在するpIが8超のアミノ酸によって達成される。前記pIが8超のアミノ酸は、そのような平衡のシフトをもたらすことができるように、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1のシステイン残基又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基の近傍に空間的に位置する。
【0045】
いくつかの実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、前記第1又は前記第2のシステイン残基に直接隣接する10アミノ酸以内、好ましくは8アミノ酸以内、より好ましくは6アミノ酸以内、最も好ましくは5アミノ酸以内に位置する。ある実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、前記第1又は前記第2のシステイン残基のN末端側に存在する。別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、前記第1又は前記第2のシステイン残基のC末端側に存在する。
【0046】
別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸の位置は、前記第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1又は第2のシステイン残基から11アミノ酸以上離れているが、前記第1又は前記第2のシステイン残基に前記pIが8超のアミノ酸が空間的に近接するような3次元構造を前記第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が有する。pIが8超のアミノ酸及び前記アミノ酸の影響を受けるシステイン残基は、同じ(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれてもよく、例えば同じ(ポリ)ペプチド/タンパク質の異なるドメインに含まれてもよい。あるいは、pIが8超のアミノ酸及び前記アミノ酸の影響を受けるシステイン残基は、異なる(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれてもよく、例えばpIが8超のアミノ酸が第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれ、前記アミノ酸の影響を受けるシステイン残基が第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれてもよく、その逆であってもよい。この場合、一方の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれるpIが8超のアミノ酸が、他方の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基の反応性に好影響を与える。当業者であれば、システイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸の導入に、所与の(ポリ)ペプチド/タンパク質内のどの位置のアミノ酸を選択し得るか知ることができる。(ポリ)ペプチド/タンパク質の3次元構造を決定するための種々の技術が公知であり、例えばX線結晶学又はNMR技術がある。更に、多くの(ポリ)ペプチド/タンパク質の3次元構造が既に利用可能であり、適切なアミノ酸位置の選択を容易にしている。詳細には、種々の免疫グロブリン又はscFv断片やFab断片等の機能的断片の3次元構造が、PDB(http://www.rcsb.org/pdb/home/home.do)又はPubMed(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrez?db=Structure)等の種々のデータベースから公的に入手可能である。
【0047】
本発明において、「バクテリオファージ」とは、ファージの複製に必要な核酸を含むタンパク質コートからなるパッケージを形成する細菌ウイルスに関する。核酸はDNA又はRNAであってよく、2本鎖又は一本鎖であってよく、線上又は環状であってよい。ラムダファージ又は繊維状ファージ(M13、fd、又はf1等)等のバクテリオファージは当業者に周知である。ある実施形態では繊維状ファージが好ましい。本発明において、「バクテリオファージ粒子」とは、本発明に係る粒子、すなわちジスルフィド結合を介して(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示する粒子を指す。ある実施形態では繊維状ファージのバクテリオファージ粒子が好ましい。
【0048】
バクテリオファージの構築中、パッケージングシグナルが含まれていれば、異なる核酸配列がコートタンパク質にパッケージされてもよい。本発明において、バクテリオファージ又はバクテリオファージ粒子に含まれる「核酸配列」とは、バクテリオファージ又はバクテリオファージ粒子の構築中にバクテリオファージコートタンパク質にパッケージされ得る核酸配列又はベクターに関する。好ましくは、前記核酸配列又はベクターは、バクテリオファージの天然ゲノムに由来し、例えば、繊維状ファージの場合であれば、ファージ及びファージミドを含む。後者は、プラスミドの構成に加えてパッケージングシグナル及びファージ複製オリジンを含むプラスミドである。
【0049】
ある実施形態では、バクテリオファージ粒子の表面に前記第1又は前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が提示される。好ましい実施形態では、バクテリオファージ粒子の表面に第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が提示される。別の実施形態では、バクテリオファージ粒子の表面に第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質が提示される。繊維状バクテリオファージ粒子が好ましい。
【0050】
ある実施形態では、前記第1又は前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバーである。好ましい実施形態では、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質が、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバーである。別の実施形態では、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバーである。好ましい実施形態では、前記バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバーは、野生型コートタンパク質pIIIであるか又はそれに由来するものである。別の実施形態では、前記バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバーは、野生型コートタンパク質pIXであるか又はそれに由来するものである。
【0051】
本発明において、「由来する」とは修飾を意味し、この修飾されたタンパク質は、バクテリオファージ粒子のタンパク質コート中に組み込むことが可能である。好ましくは、修飾タンパク質中の、野生型タンパク質に対応する部分は、対応する野生型の配列と比較して約50%、約60%、約70%、好ましくは約80%、最も好ましくは約90%を超えるアミノ酸同一性を有する。
【0052】
更に別の好ましい実施形態では、本発明は、前記タンパク質コートのメンバーがバクテリオファージの野生型コートタンパク質である、方法に関する。
【0053】
「野生型コートタンパク質」とは、天然のバクテリオファージのファージコートを形成するタンパク質を指す。繊維状バクテリオファージの場合、前記野生型タンパク質は、遺伝子IIIタンパク質(pIII)、遺伝子VIタンパク質(pVI)、遺伝子VIIタンパク質(pVII)、遺伝子VIIIタンパク質(pVIII)、及び遺伝子IXタンパク質(plX)である。f1、fd、及びM13等の繊維状バクテリオファージの密接に関連するメンバー間の差を含むこれらの配列は当業者に周知である(例えばKay et al.,1996参照)。
【0054】
別の好ましい実施形態では、前記タンパク質コートのメンバーは、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体であって、前記修飾変異体はバクテリオファージ粒子のタンパク質コートに組み込むことができる。
【0055】
「修飾変異体(modified variant)」とは、前述した野生型タンパク質に由来する、野生型の配列と比較して修飾されているタンパク質を指す。そのような修飾には、野生型の配列と比較した任意のアミノ酸の置換、アミノ酸の欠失、又は更なるアミノ酸の付加が含まれ得る。「修飾変異体」には、以下に定義する「短縮変異体」も含まれる。
【0056】
本発明に係る野生型タンパク質を修飾するための方法は当業者に周知であり、標準的なクローニング及び/又は突然変異誘発技術が含まれる。本発明に係る方法で使用される野生型タンパク質の修飾変異体をコードする核酸分子の構築方法、ファージベクター及び/又はファージミドベクターの構築を初めとする前記核酸分子を含むベクターの構築方法、適切に選択された宿主細胞に前記ベクターを導入する方法、前記修飾タンパク質を発現させる方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al.,2001;Ausubel et al.,1999;Kay et al.,1996参照)。本発明に係る修飾変異体を同定するために、検出タグを変異体に融合させてもよく、変異体存在下で形成されたバクテリオファージ粒子のファージコート中に変異体が組込み可能であるか調べるためのアッセイを設計してもよい。
【0057】
別の好ましい実施形態では、前記タンパク質コートのメンバーは、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の短縮変異体であり、前記短縮変異体は、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートに前記コートタンパク質を組み込ませる前記野生型コートタンパク質の部分を少なくとも含む。
【0058】
「短縮変異体」という語は、前述した野生型タンパク質に由来する、野生型配列の少なくとも一部の欠失によって修飾されているタンパク質を指す。これには、バクテリオファージ突然変異体で発見された(Crissman & Smith,1984)又は標準的なファージディスプレイ法の途上で作製された(例えばBass et al.,1990;Krebber,1996)短縮遺伝子IIIタンパク質変異体等の変異体が含まれる。例えば、前記短縮変異体は、遺伝子IIIタンパク質のC末端ドメインからなってもよく、又はこれを含んでいてもよい。本発明に係る短縮変異体を同定するために、検出タグを変異体に融合させてもよく、変異体存在下で形成されたバクテリオファージ粒子のファージコート中に変異体が組み込まれているか調べるためのアッセイを設計してもよい。
【0059】
野生型タンパク質の一部を欠失させて野生型タンパク質を短縮することで、野生型タンパク質中においては欠失部分に含まれていた第2のシステインとジスルフィド結合を形成していたシステイン残基が、利用可能になり得る。
【0060】
「(ポリ)ペプチド」という語は、ペプチド結合で連結された複数すなわち2個以上のアミノ酸の鎖を1又は複数含む分子を指す。
【0061】
「タンパク質」という語は、(ポリ)ペプチドの少なくとも一部が、その(ポリ)ペプチド鎖内及び/又は(ポリ)ペプチド鎖間で2次、3次、又は4次構造を形成することで、規定された3次元配置を有する又はとることができる(ポリ)ペプチドを指す。この定義には、天然タンパク質又は一部人工的なタンパク質が含まれ、また、タンパク質全体の断片又はドメインも、これらの断片又はドメインが上述のように規定された3次元配置をとることができる限り、含まれる。
【0062】
1つの鎖からなる(ポリ)ペプチド/タンパク質の例としては、単鎖Fv抗体断片を挙げることができ、それより多くの鎖からなる(ポリ)ペプチド/タンパク質の例としてはFab抗体断片を挙げることができる。
【0063】
第1のシステイン残基が第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質のC末端に位置する場合、提示形態は、ファージコートタンパク質のメンバーにC末端が遺伝子的に融合された従来の提示構成に対応する。しかし、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質のN末端を用いることで、前述したCrameri & SuterのpJuFOシステム(Crameri & Suter,1993)におけるのと同じように提示形態を逆転することができる。
【0064】
「バクテリオファージ粒子の表面」とは、バクテリオファージ粒子を含んでいる溶媒に接触している、接近可能なバクテリオファージ粒子の部分を指す。この表面は、適切な宿主細胞内でのファージ産生中に構築されるファージコートの一部であるタンパク質(粒子のタンパク質コートのメンバー)によって決まる。
【0065】
「発現後」とは、バクテリオファージコートタンパク質との融合タンパク質をコードする核酸が発現される手法に対して、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が前記コートに付着する前の、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸が宿主細胞内で発現される状況を指す。前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸の発現及び付着工程は、別々の工程及び/又は環境で行ってもよい。しかし、発現及び付着工程は適切な宿主細胞内で続けて行われることが好ましい。
【0066】
「前記付着がジスルフィド結合の形成によって起こる」とは、例えばpJuFoシステム(Crameri & Suter,1993)の場合のように、付着がジスルフィド結合によるものであり、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質中に存在する第2のドメインと相互作用するための相互作用ドメインが前記タンパク質メンバーに組換え融合されていない状況を指す。
【0067】
好ましい実施形態では、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示するバクテリオファージ粒子は、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を含む。
【0068】
本発明に係る(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸分子の構築方法、前記核酸分子を含むベクターの構築方法、適切に選択された宿主細胞への前記ベクターの導入方法、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質を発現させる方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al.,2001;Ausubel et al.,1999;Ge et al.,1995参照)。更に、適切な宿主細胞内におけるバクテリオファージ又はバクテリオファージ粒子の子孫の作製に必要な遺伝材料の導入方法及び前記バクテリオファージ又はバクテリオファージ粒子の子孫の作製方法も周知である(例えば、Kay et al.,1996参照)。
【0069】
ある実施形態では、本発明は、前記第1のシステイン残基が、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中の対応するアミノ酸位置に存在するものである、方法に関する。より好ましくは、前記第1のシステイン残基は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質中の対応するアミノ酸位置に存在するものである。
【0070】
より好ましい実施形態では、前記第1のシステイン残基は、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中の対応するアミノ酸位置には存在しないものである。更により好ましくは、前記第1のシステイン残基は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の対応するアミノ酸位置には存在しないものである。
【0071】
本発明において、(ポリ)ペプチド/タンパク質の「野生型バージョン」とは、自然のアミノ酸配列を有する(ポリ)ペプチド/タンパク質を指す。
【0072】
更により好ましい実施形態では、前記第1のシステイン残基は、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質に人工的に導入されている。より好ましい実施形態では、前記第1のシステイン残基は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質に人工的に導入されている。別の実施形態では、前記第1のシステイン残基は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体に人工的に導入されている。更に別の実施形態では、前記第1のシステイン残基は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の短縮変異体に人工的に導入されている。
【0073】
ある実施形態では、本発明は、前記第2のシステイン残基が、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中の対応するアミノ酸位置に存在するものである、方法に関する。より好ましくは、前記第2のシステイン残基は、免疫グロブリン又はその機能的断片中の対応するアミノ酸位置に存在するものである。
【0074】
より好ましい実施形態では、前記第2のシステイン残基は、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中の対応するアミノ酸位置には存在しないものである。更により好ましくは、前記第2のシステイン残基は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質中の対応するアミノ酸位置には存在しないものである。
【0075】
更により好ましい実施形態では、前記第2のシステイン残基は、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に人工的に導入されている。より好ましい実施形態では、前記第2のシステイン残基は、免疫グロブリン又はその機能的断片に人工的に導入されている。好ましくは、前記機能的断片は、scFv断片又はFab断片である。
【0076】
ある実施形態では、本発明は、前記pIが8超のアミノ酸が、第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中の対応するアミノ酸位置に存在するものである、方法に関する。より好ましくは、前記pIが8超のアミノ酸は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質又は免疫グロブリン若しくはその機能的断片、好ましくはscFv断片若しくはFab断片中の対応するアミノ酸位置に存在するものである。
【0077】
より好ましい実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中の対応するアミノ酸位置には存在しないものである。別の好ましい実施形態では、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は野生型(ポリ)ペプチド/タンパク質ではなく、前記pIが8超のアミノ酸は、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中には存在しないものである。別の好ましい実施形態では、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は野生型(ポリ)ペプチド/タンパク質ではなく、前記pIが8超のアミノ酸は、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョン中には存在しないものである。更により好ましくは、前記pIが8超のアミノ酸は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質又は免疫グロブリン若しくはその機能的断片、好ましくはscFv断片若しくはFab断片中の対応するアミノ酸位置には存在しないものである。
【0078】
更により好ましい実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の野生型バージョンに人工的に導入されている。より好ましい実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質又は免疫グロブリン若しくはその機能的断片、好ましくはscFv断片若しくはFab断片に、人工的に導入されている。
【0079】
本発明において、「人工的に導入されている」とは、(ポリ)ペプチド/タンパク質が、例えば組換え手段によって、修飾されている状況を指す。本発明では、種々の(ポリ)ペプチド/タンパク質が修飾され得る。例えば、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸分子を標準的な手法で操作してシステインコドンを導入してよく、それにより、修飾された第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列が作製される。ここで、システイン残基の人工的導入は、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質中への前記システイン残基の挿入若しくは付加、又は前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質若しくは修飾タンパク質に含まれるアミノ酸残基の前記システイン残基による置換、又は前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質と前記第2のシステイン残基を含む第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質との融合、又は前記挿入、付加、置換、若しくは融合の任意の組合せにより行われる。最も好ましくは、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質又はその修飾変異体若しくは短縮変異体である。
【0080】
同様に、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸も、第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質について記載したのと同じように、標準的な手法で操作してシステインコドンを導入してよい。好ましい前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、免疫グロブリン又はその機能的断片を含む。scFv断片又はFab断片が特に好ましい。
【0081】
同様に、第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸を標準的な手法で操作して、pIが8超のアミノ酸をコードするアミノ酸コドンを導入してよい。
【0082】
第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質がバクテリオファージの野生型コートタンパク質である場合、そのような組換えによって導入されたシステインコドンを含む核酸が発現することで、システイン残基を含む野生型コートタンパク質の変異体が形成される。
【0083】
別の非常に好ましい実施形態では、前記第1のシステインは、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の短縮変異体に人工的に導入されている。
【0084】
更に別の好ましい実施形態では、前記第1のシステインは、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体に人工的に導入されている。
【0085】
本発明に係る人工的導入を達成するための方法は当業者に周知であり、標準的なクローニング及び/又は突然変異誘発技術が含まれる。本発明に係る方法で使用される野生型タンパク質の修飾変異体をコードする核酸分子の構築方法、前記核酸分子を含むベクターの構築方法、適切に選択された宿主細胞への前記ベクターの導入方法、前記融合タンパク質を発現させる方法は、当該技術分野で周知である(例えば、Sambrook et al.,2001;Ausubel et al.,1999参照)。
【0086】
別の実施形態では、本発明は、前記第1のシステイン残基が前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質のメンバーのC末端若しくはN末端又はその近傍に存在する、方法に関する。好ましい実施形態では、前記第1のシステイン残基は、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバーのC末端若しくはN末端又はその近傍に存在する。ある実施形態では、前記第1のシステイン残基はN末端システイン残基である。別の実施形態では、 前記第1のシステイン残基はC末端システイン残基である。
【0087】
別の実施形態では、本発明は、前記第2のシステイン残基が前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質のメンバーのC末端若しくはN末端又はその近傍に存在する、方法に関する。好ましい実施形態では、前記第2のシステイン残基は、免疫グロブリン又はその機能的断片、好ましくはscFv断片又はFab断片の、C末端若しくはN末端又はその近傍に存在する。ある実施形態では、前記第2のシステイン残基はN末端システイン残基である。別の実施形態では、前記第2のシステイン残基はC末端システイン残基である。
【0088】
「の近傍」とは、前記第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質のどちらの場合もN末端又はC末端から数えて15個まで、より好ましくは10個まで、更により好ましくは5個までの一続きのアミノ酸を指す。
【0089】
好ましい実施形態では、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、バクテリオファージ粒子のタンパク質コートのメンバー、好ましくはpIIIを含む。
【0090】
好ましい実施形態では、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、免疫グロブリン又はその機能的断片、好ましくはscFv断片又はFab断片を含む。
【0091】
この文脈において、「免疫グロブリン」は「抗体」の類義語として使用している。「機能的断片」とは、免疫グロブリンの抗原結合部分を保持している免疫グロブリン断片を指す。本発明に係る機能的免疫グロブリン断片は、Fv断片(Skerra & Pluckthun,1988)、scFv断片(Bird et al.,1988;Huston et al.,1988)、ジスルフィド連結されたFv断片(Glockshuber et al.,1992;Brinkmann et al.,1993)、Fab断片、F(ab’)2断片、又は当業者に周知のその他の断片であってよく、これらは、免疫グロブリン又は免疫グロブリン断片の可変領域を含む。scFv断片又はFab断片が特に好ましい。
【0092】
ある実施形態では、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質及び前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は異なる。この文脈において「異なる」とは、2個の(ポリ)ペプチド/タンパク質が完全に同一ではないことを意味する。好ましい実施形態では、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の修飾変異体又は短縮変異体ではない。非常に好ましい実施形態では、第1及び第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、異なる機能的(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードし、例えば一方の(ポリ)ペプチド/タンパク質はバクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体をコードし、他方の(ポリ)ペプチドは免疫グロブリン又はその機能的断片をコードする。別の好ましい実施形態では、第1及び第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、異なる種に由来する(例えば一方の(ポリ)ペプチド/タンパク質はバクテリオファージに由来し、他方の(ポリ)ペプチドはヒトに由来する)。
【0093】
好ましい実施形態では、本発明は、バクテリオファージ粒子の表面に第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示する方法であって、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質を発現後にタンパク質コートのメンバーに付着させる工程を含み、前記付着が、前記タンパク質コートのメンバーに含まれる第1のシステイン残基と前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基との間のジスルフィド結合の形成により起こり、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が、前記第1のシステイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を含んでいる、方法を提供する。
【0094】
別の好ましい実施形態では、前記第1及び前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、適切な宿主細胞内で発現及び構築される。
【0095】
更に別の実施形態では、本発明は、以下の工程を含む方法を提供する:
(a)第1のシステイン残基を含む第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする第1の核酸配列を含む第1の核酸配列及び第2のシステイン残基を含む第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする第2の核酸配列を含む第2の核酸配列を有する宿主細胞を提供する工程であって、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質の一方が前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を含んでいる、工程、
(b)前記第1及び前記第2の核酸配列を発現させる工程、及び
(c)前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる前記第1のシステイン残基を、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる前記第2のシステイン残基に付着させる工程。
【0096】
工程(b)及び(c)は順に続けて行われてもよく、同時に行われてもよい。
【0097】
本発明において、「発現させる(causing or allowing the expression)」とは、核酸配列が発現されるような条件下で宿主細胞を培養することを意味する。
【0098】
本発明に係る第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸分子の構築方法、前記核酸分子を含むベクターの構築方法、適切に選択された宿主細胞への前記ベクターの導入方法、(ポリ)ペプチド/タンパク質を発現させる方法は、当該技術分野で周知である(例えばSambrook et al.,2001;Ausubel et al.,1999参照)。更に、適切な宿主細胞内でバクテリオファージ又はバクテリオファージ粒子の子孫を作製するために必要な遺伝材料の導入方法、前記バクテリオファージ又はバクテリオファージ粒子の子孫の作製方法も周知である(例えばKay et al.,1996参照)。バクテリオファージ粒子を産生する工程では、例えばファージミドを利用する場合、適切なヘルパーファージの使用が必要なこともある。
【0099】
好ましい実施形態では、本発明は、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体をコードする核酸配列に関し、前記修飾変異体は、
(a)バクテリオファージの前記野生型コートタンパク質の1又は複数部分であって、前記部分の1つが、前記コートタンパク質をファージコート中に組み込ませる部分を少なくとも含む、1又は複数部分;
(b)第1のシステイン残基;及び
(c)前記第1のシステイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸
を含む又はからなる。別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基の反応性に好影響を与える。好ましい実施形態では、前記核酸配列は単離された核酸配列である。別の実施形態では、前記核酸配列は、精製及び/又は検出のための1又は複数のペプチド配列を更にコードする。
【0100】
別の好ましい実施形態では、本発明は、修飾免疫グロブリン又はその機能的断片をコードする核酸配列に関し、前記修飾免疫グロブリン又はその機能的断片は、
(a)免疫グロブリン又はその機能的断片、
(b)システイン残基、及び
(c)前記システイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸
からなる。本明細書で使用されているように、免疫グロブリン又はその機能的断片は、本発明の用語法による第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質と同じである。別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、別の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる別のシステイン残基の反応性に良い影響を与える。この別のポリ(ペプチド)/タンパク質は、本発明の用語法による第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質と同じである。好ましい実施形態では、修飾免疫グロブリンの前記機能的断片は、scFv断片又はFab断片である。好ましい実施形態では、前記核酸配列は単離された核酸配列である。別の実施形態では、 前記核酸配列は、精製及び/又は検出のための1又は複数のペプチド配列を更にコードする。
【0101】
本発明において、野生型コートタンパク質配列中のアミノ酸を前記システイン残基で置換することで得られる修飾変異体は、付加的なシステイン残基によって連結された前記野生型タンパク質の2つの部分からなる変異体とみなせる。同様に、野生型配列と比較して複数の変異を含む野生型コートタンパク質の変異体は、その変異残基で個々の部分が連結された複数の野生型部分からなっているとみなせる。しかし、前記変異体はまた、システイン残基を含む最大6個の残基が野生型コートタンパク質のC末端又はN末端に付加されたものであってもよい。
【0102】
同様に、野生型すなわち親免疫グロブリンタンパク質配列又はその機能的断片中のアミノ酸残基を置換することで得られる免疫グロブリン又はその機能的断片の修飾変異体は、付加的システイン残基で連結された免疫グロブリン又はその機能的断片の2つの部分からなる変異体とみなせる。同様に、野生型コートタンパク質の修飾変異体又は免疫グロブリン若しくはその機能的断片の修飾変異体は、前記システイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超の付加的アミノ酸によって連結された2つの部分からなる変異体とみなせる。野生型コートタンパク質の修飾変異体又は免疫グロブリン若しくはその機能的断片の修飾変異体中にシステイン残基及びpIが8超のアミノ酸の両方が導入される場合、前記タンパク質は、3つの部分からなる変異体とみなせ、あるいは前記タンパク質が更により多くの変異を含むのであれば、更により多くの部分からなる変異体とみなせる。
【0103】
いくつかの実施形態では、本発明の核酸配列は、精製及び/又は検出のための1又は複数のペプチド配列を更にコードする。本発明のある実施形態では、本発明の核酸配列は宿主細胞に含まれる。
【0104】
少なくとも5個のヒスチジン残基を含むペプチドが特に好ましく(Hochuli et al.,1988)、これは金属イオンに結合できるので、融合させたタンパク質の精製に用いることができる(Lindner et al.,1992)。一般的に使用されているc−myc及びFLAGタグ(Hopp et al.,1988;Knappik & Pluckthun.1994)、ストレップタグ(Strep−tag)(Schmidt & Skerra,1994;Schmidt et al.,1996)、又はE−タグ(GEヘルスケア社製)等の付加的部分を本発明で使用してもよい。
【0105】
本発明の第1及び第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の修飾変異体は、クローニング、発現、又はタンパク質輸送のために必要なアミノ酸残基を更に含んでもよい。クローニングに必要なアミノ酸残基としては、核酸配列を適切なベクター内にクローニングすることを可能にするために組み込まれる制限エンドヌクレアーゼの認識配列を含む核酸配列によってコードされるアミノ酸残基が含まれ得る。発現に必要なアミノ酸残基としては、(ポリ)ペプチド/タンパク質の溶解性又は安定性を増大させる残基が含まれ得る。タンパク質輸送に必要なアミノ酸残基としては、大腸菌のペリプラズムへの修飾変異体の輸送を担うシグナル配列及び/又は前記シグナル配列の効率的切断を容易にするアミノ酸残基が含まれ得る。上述のクローニング、発現、タンパク質輸送、精製及び/又は検出に必要な更なるアミノ酸残基には、当業者に周知の多数の部分がある。
【0106】
別の実施形態では、本発明は、本発明に係る核酸配列を含むベクターに関する。
【0107】
好ましい実施形態では、ベクターは、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体をコードする1又は複数の核酸配列を含み又はからなり、前記修飾変異体は、
(a)バクテリオファージの前記野生型コートタンパク質の1又は複数部分であって、前記部分の1つが、ファージコートへの前記コートタンパク質の組込みを起こす又は可能にする部分を少なくとも含む、1又は複数部分;
(b)第1のシステイン残基、及び
(c)前記第1のシステイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸
を含む又はからなる。別の実施形態では、前記ベクターは、修飾された免疫グロブリン又はその機能的断片をコードする核酸配列を更に含み、ここで前記修飾免疫グロブリン又はその機能的断片は、(a)免疫グロブリン又はその機能的断片及び(b)第2のシステイン残基からなる。
【0108】
好ましい実施形態では、ベクターは、修飾免疫グロブリン又はその機能的断片をコードする1又は複数の核酸配列を含み又はからなり、ここで前記修飾免疫グロブリン又は機能的断片は、
(a)免疫グロブリン又はその機能的断片、
(b)システイン残基、及び
(c)前記システイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸
を含む又はからなる。別の実施形態では、前記ベクターは、バクテリオファージの野生型コートタンパク質の修飾変異体をコードする核酸配列を更に含み、前記修飾変異体は、
(a)バクテリオファージの前記野生型コートタンパク質の1又は複数部分であって、前記部分の1つが、ファージコートへの前記コートタンパク質の組込みを起こす又は可能にする部分を少なくとも含む、1又は複数部分;及び
(b)別のシステイン残基
を含む又はからなる。
【0109】
本発明のある実施形態では、本発明のベクターは宿主細胞に含まれている。
【0110】
非常に好ましい実施形態では、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、免疫グロブリン又はその機能的断片を含む。
【0111】
前述した単鎖Fv抗体断片の場合、ベクターは、(ポリ)ペプチドリンカーによって連結されたVH領域及びVL領域をコードする1つの核酸配列を含み、Fab抗体断片の場合、ベクターは、VH−CH鎖及びVL−CL鎖をコードする2つの核酸配列を含む。
【0112】
別の実施形態では、本発明は、本発明に係る核酸配列又は本発明に係るベクターを含む宿主細胞に関する。本発明の第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、本発明の第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸と同じベクターに含まれる核酸配列にコードされてもよい。そのような場合、宿主細胞は、両方の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を含む1つのベクターを含み得る。あるいは、本発明の第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、本発明の第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸とは異なるベクターに含まれる核酸配列によってコードされてもよい。その場合、宿主細胞は、異なる2つのベクター、すなわち第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を含むベクター及び第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を含むベクターを含み得る。
【0113】
本発明において、「宿主細胞」とは、異種性タンパク質の産生において一般的に使用されている複数の細胞のいずれであってもよく、大腸菌(Ge et al.,1995)等の細菌、又は枯草菌(Wu et al.,1993)、酵母(Horwitz et al.,1988; Ridder et al.,1995)、糸状菌(Nyyssonen et al.,1993)等の真菌、植物細胞(Hiatt & Ma,1993; Whitelam et al.,1994)、昆虫細胞(Potter et al.,1993; Ward et al.,1995)、又は哺乳動物細胞(Trill et al.,1995)が含まれるが、これらに限定されるものではない。好ましい実施形態では、宿主細胞は真核宿主細胞、より好ましくはグラム陰性宿主細胞、最も好ましくは大腸菌である。
【0114】
更に別の好ましい実施形態では、本発明は、本発明に係る核酸配列にコードされるか、本発明に係るベクターにコードされるか、又は本発明に係る宿主細胞によって産生される、野生型バクテリオファージコートタンパク質の修飾変異体に関する。
【0115】
別の実施形態では、本発明は、表面に(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示しているバクテリオファージ粒子に関し、このバクテリオファージ粒子は、
前記(ポリ)ペプチド/タンパク質を発現後にタンパク質コートのメンバーに付着させる工程を含み、前記付着が、前記タンパク質コートのメンバーに含まれる第1のシステイン残基と前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基との間のジスルフィド結合の形成によって起こり、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質又は前記タンパク質コートのメンバーが、前記第1又は前記第2のシステイン残基の反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を含んでいる、方法によって得ることができる。ある実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質内に含まれる。別の実施形態では、前記pIが8超のアミノ酸は、前記タンパク質のメンバー内に含まれる。好ましい実施形態では、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質は、免疫グロブリン又はその機能的断片である。更に別の実施形態では、pIが8超のアミノ酸は、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質、好ましくはタンパク質コートのメンバーに含まれ、pIが8超のアミノ酸は、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質、好ましくは免疫グロブリン又はその機能的断片に含まれる。
【0116】
本発明の特に好ましい実施形態では、バクテリオファージ粒子は本発明に係るベクターを含み、前記ベクターは、第1のシステイン残基を含む第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする第1の核酸配列を含む第1の核酸配列及び第2のシステイン残基を含む第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする第2の核酸配列を含む第2の核酸配列を含み、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質の一方は、前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を含む。最も好ましくは、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、少なくとも免疫グロブリンの機能的領域を含む。
【0117】
前述した本発明の方法の好ましい実施形態は、必要な変更を加えて、本発明のバクテリオファージに適用される。
【0118】
別の実施形態では、本発明は、本発明に係るバクテリオファージ粒子の多様なコレクションに関し、前記バクテリオファージ粒子のそれぞれが、(ポリ)ペプチド/タンパク質の多様なコレクションから第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示する。
【0119】
「バクテリオファージ粒子の多様なコレクション」は、「ライブラリー」又は「複数のバクテリオファージ粒子」ともいう。そのようなライブラリーの各メンバーは、別個の(distinct)ライブラリーのメンバーを提示する。
【0120】
本発明において、「多様なコレクション」とは、その組成、特性、及び/又は配列の少なくとも一部が異なる少なくとも2つの粒子又は分子のコレクションを意味する。例えば、(ポリ)ペプチド/タンパク質の多様なコレクションは、その配列の少なくとも1個のアミノ酸位置で異なる(ポリ)ペプチド/タンパク質の集合である。そのような(ポリ)ペプチド/タンパク質の多様なコレクションは種々の方法で得ることができ、例えば、誤りの多いPCRを用いて出発点となる(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列を増幅するか又は本発明に係る方法においてミューテーター株を宿主細胞として用いることにより、出発点となる(ポリ)ペプチド/タンパク質をコードする核酸配列の少なくとも1つのコドンにランダム突然変異を誘発することで得られる。(ポリ)ペプチド/タンパク質の多様なコレクションを作製するためのこれらの方法及び更なる方法又は代替的方法は当業者に周知である。「バクテリオファージ粒子の多様なコレクション」は、ライブラリー又は複数のバクテリオファージ粒子ともいう。そのようなライブラリーの各メンバーは別個のライブラリーのメンバーを提示する。
【0121】
別の実施形態では、本発明は、
(a)本発明に係るバクテリオファージ粒子の多様なコレクションを提供する工程;及び
(b)所望の特性を有する(ポリ)ペプチド/タンパク質を提示している少なくとも1つのバクテリオファージ粒子を得るための、前記多様なコレクションのスクリーニング及び/又はセレクション工程
を含む、所望の特性を有する(ポリ)ペプチド/タンパク質を得る方法に関する。
【0122】
本発明において、「所望の特性」とは、(ポリ)ペプチド/タンパク質の多様なコレクション中の(ポリ)ペプチド/タンパク質の1つが有するべき所定の特性であって、多様なコレクションのスクリーニング及び/又はセレクションの基礎を形成するものである。そのような所望の特性としては、標的への結合、標的のブロッキング、標的が介する反応の活性化、酵素活性等の特性、及び当業者に公知の更なる特性が含まれる。所望の特性の種類に応じて、当業者はスクリーニング及び/又はセレクションを実施するための形態及び必要な工程を決定することができる。前記所望の特性が、目的の標的への結合である方法が非常に好ましい。
【0123】
前記目的の標的は、当業者に周知の種々の方法で、前記バクテリオファージ粒子の多様なコレクションに呈することができ、例えば固相バイオパニング用に表面にコーティングされるか、溶液中でのバイオパニング用に磁気ビーズ等の粒子に連結されるか、又は全細胞のバイオパニング若しくは組織切片上でのバイオパニング用に細胞の表面上に提示される。前記標的に結合したバクテリオファージ粒子は、当業者に周知の種々の方法、例えば、pH勾配若しくは塩勾配を利用した適切な緩衝剤による溶出又は可溶性標的を用いた特異的な溶出によって回収することができる。
【0124】
好ましい実施形態では、(ポリ)ペプチド/タンパク質を得る方法は、
(ba)前記バクテリオファージ粒子の多様なコレクションを目的の標的と接触させる工程、
(bb)目的の標的に結合していないバクテリオファージ粒子を溶出する工程、
(bc)工程(ba)で形成された目的の標的と目的の標的に結合しているバクテリオファージ粒子との複合体を還元条件下で処理することで、目的の標的に結合しているバクテリオファージ粒子を溶出する工程、
を更に含む。
【0125】
DTTとのインキュベート等の還元条件下ではジスルフィド結合が開裂するので、前記標的に特異的に結合した(ポリ)ペプチド/タンパク質の更なるバイオパニング及び/又は同定のために、特異的バクテリオファージ粒子を回収することができる。
【0126】
別の実施形態では、本発明は、システインディスプレイシステムの改良方法に関し、第1又は第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質にpIが8超のアミノ酸を導入することにより、そのようなpIが8超のアミノ酸が導入されていない同等なシステインディスプレイシステムと比べて、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第1のシステイン残基が第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質に含まれる第2のシステイン残基とより好ましくジスルフィド結合を形成する。
【0127】
別の実施形態では、本発明は、
(a)第1のシステイン残基を含む第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質
(b)第2のシステイン残基を含む第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質
を含む複合体であって、前記(ポリ)ペプチド/タンパク質の一方が前記システイン残基の少なくとも1つの反応性に好影響を与えるpIが8超のアミノ酸を更に含み、前記第1及び前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質が、前記システイン残基を介してジスルフィド結合を形成している、複合体に関する。好ましい実施形態では、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、複数のバクテリオファージ粒子の多様なコレクション上に提示される第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質の多様なコレクションのメンバーである。ある好ましい実施形態では、前記第1の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、ファージコートタンパク質である。別の好ましい実施形態では、前記第2の(ポリ)ペプチド/タンパク質は、免疫グロブリン又はその機能的断片、より好ましくはscFv断片又はFab断片を含む。別の実施形態では、本発明は、上記の複合体のいずれかを含む宿主細胞を提供する。
【実施例】
【0128】
実施例1:新規ベクターの構築
ベクターは、国際公開第01/05909号に記載されている公知の発現ベクターに基づいている。lacプロモーター/オペレーター領域の制御下で、ジシストロニックなファージミドからFab断片の重鎖及び軽鎖を発現させた。第1の発現カセットはシグナル配列ompA並びに軽鎖の可変領域及び定常領域を含む。第2の発現カセットは、シグナル配列phoA並びに重鎖の可変領域及び定常領域を含む。重鎖及び軽鎖はジスルフィド結合で連結されていない。同じベクター上に遺伝子IIIもコードされている。ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、pIIIのN末端及び重鎖Fd断片のC末端に位置する。典型的なCysDisplayベクターの主な構成を
図1に示す。
【0129】
pMORPH23(国際公開第04/013276号に記載)から派生したpMORPH25ベクターに基づいて、新規のディスプレイベクター変異体(pMORPH25バージョンA、B、C、及びE)を構築した。エストラジオール−BSA特異的HuCAL Fab断片を含むpMORPH23及びpMORPH25の配列及びベクターマップを
図5、6、7、及び8に示す。pMORPH23及びpMORPH25のシステインタグ配列は同一である。
【0130】
修飾されたシステインタグを有するベクター変異体を構築するために、pMORPH25をEcoRI及びHindIIIで消化し、C末端の野生型配列を除去した(pMORPH25_WTタグ)。EcoRI及びHindIIIで消化されたディスプレイベクターpMORPH25と適合する突出部を有するアニーリングされた2本鎖(ds)オリゴヌクレオチドをライゲーションすることで、バージョンA、B、C、及びEの新規のC末端タグを挿入した。
【0131】
各オリゴヌクレオチドの配列を表2にまとめた。2本鎖オリゴヌクレオチドは以下の手順に従ってアニーリングさせた。それぞれのオリゴヌクレオチドの組合せ(例えばpMORPH25バージョンAについては配列番号1及び配列番号2)各200ngを99℃で20分間インキュベートした後、室温に冷却し、相補的配列をアニーリングさせた。標準的なDNA技術(例えば、Sambrook et al.,2001; Ausubel et al.,1999; Kay et al.,1996参照)を用いて、アニーリングされたdsDNAを消化済のpMORPH25中にライゲーションし、電気的形質転換に受容性(electro−competent)のTop10F細胞(インビトロジェン社製)に形質転換した。
【0132】
【0133】
対照コンストラクトpMORPH25の重鎖断片のC末端のアミノ酸配列を表3に示す。表3では、そのような4つの派生体を「pMORPH25バージョンA」、「pMORPH25バージョンB」、「pMORPH25バージョンC」、及び「pMORPH25バージョンE」と名付けた。1つの変異体はC末端に余分にリジン残基を有する(変異体A)。変異体B及びCは、反応性システイン残基のN末端側それぞれ3個目及び1個目のアミノ酸をリジン残基に交換した。変異体Eは、反応性システインのすぐN末端側の5個のヒスチジン残基のうち3個をリジン残基に交換した。
【0134】
【0135】
実施例2:Ni−NTAプレートへのファージの結合
pMORPH25の反応性システイン残基のすぐN末端側の6ヒスチジン残基は、Ni−NTAプレートへの結合能をバクテリオファージ粒子に付与する。バージョンAでは、反応性システイン残基のC末端側にリジン残基を導入した。pMORPH25のバージョンB、C、及びEでは、この一続きの6ヒスチジン残基を、前記一続きのヘキサヒスチジンのそれぞれに少なくとも1個のリジン残基を導入することで破壊した。これにより、Fab断片を提示するバクテリオファージ粒子がNi−NTAプレートに結合する能力は消失すると考えられる。
【0136】
Fab断片を提示するバクテリオファージ粒子を標準的な技術(例えばKay et al,1996及び国際公開第01/05909号の実施例2.2参照)で作製した。Ni−NTAプレートへのバクテリオファージ粒子の結合を以下に概説するように調べた。ファージ粒子(8×10
8/ウェル)をブロッキング溶液(TBSで希釈したケミブロック(Chemiblock)、0.1%Tween20)と共に2時間プレインキュベートし、予めブロッキングされたHIS−select iLAP HCニッケルコーティングされた96ウェルプレート(シグマ−アルドリッチ社製)に添加した。PBST及びPBSで洗浄した後、抗M13−HRPコンジュゲート(アマシャムファルマシアバイオテク社製)及び可溶性BMブルー(BM blue soluble;ベーリンガーマンハイム社製)を用いて残ったファージを可視化した。結果を
図2に示す。
【0137】
図2に示すように、pMORPH25のバージョンB及びEのヒスチジンタグ破壊は効果的であった。本来のコンストラクトはまだNi−NTAに結合していた。依然としてヘキサヒスチジンタグを有しているバージョンA、及び依然としてペンタヒスチジンタグを有しているバージョンCも同様であり、バクテリオファージ粒子をNi−NTAプレートに結合可能にするのにはペンタヒスチジンタグでも十分なようである。
【0138】
実施例3:相対的提示率
種々のベクターコンストラクト(バージョンA〜E、実施例1に概説)のファージ粒子の相対的提示率を以下に記載したようにして決定した。
【0139】
標準的な手法(例えばKay et al,1996及び国際公開第01/05909号の実施例2.2参照)でファージ粒子を作製した。未知ファージ粒子溶液のファージ粒子の数及びファージ提示率を、独立した2回のELISA実験で決定した。抗pIII捕獲ELISAによりファージ標品のファージ粒子タイターを決定し、抗Fd捕獲ELISAによりファージ標品の抗体提示率を決定した。相対的提示率は、抗Fdシグナルを抗pIII捕獲ELISAシグナルで割ったものと定義される。
【0140】
Maxisorp Nuncイムノマイクロタイタープレートを、2.5μg/mlの抗pIII捕獲抗体溶液(ドイツ、ゲッティンゲンのモビテック社(MoBiTech)製)100μlでコーティングし、第2のプレートを、0.5μg/mlの抗Fd捕獲抗体溶液100μlで12時間、4℃でコーティングして、ケミブロック溶液(ケミコン・インターナショナル社(Chemichon,International)製)をTPBSで1:2に希釈して用いて室温で2時間ブロッキングした。ファージ粒子の段階希釈物をプレートに2時間添加した。TBSTで5回洗浄した後、捕獲されたファージ粒子の検出を、抗M13−HRP抗体(抗g8p特異的、アマシャム社製)、その後蛍光検出(QuantaBlue、ピアース社(Pierce)製)を用いて行った。
【0141】
ファージ粒子タイターは、既知の粒子濃度の参照用ファージ溶液の較正曲線から計算することができる。抗体断片提示率が既知の規定の参照用ファージ粒子標品から、提示率を計算した。この参照用ファージ標品の提示率は、Johansen,L.K.et al.(1995)に従って求めた。
【0142】
相対的提示率を表4にまとめる。元のpMORPH25コンストラクトの提示率を100パーセントとした。
【0143】
【0144】
見て分かるように、pMORPH25の4つの派生体は全て、pMORPH25自体と比べて高い相対的提示率を示した。最も高い提示率を示したのはpMORPH25バージョンEであり、元のコンストラクトpMORPH25よりも2.57倍高い提示率を示した。
【0145】
本実験は、正に帯電したアミノ酸リジンを導入することでヘキサヒスチジンタグを破壊するとバクテリオファージ粒子上での提示率が上昇するという驚くべき結果を示している。
【0146】
実施例4:機能的提示率
本研究で用いる特定のバインダーに特異的な抗原結合ELISAアッセイによって、機能的提示率を測定した。
【0147】
Maxisorp Nuncイムノマイクロタイタープレート上に1μgの組換えタンパク質を4℃で12時間コーティングし、5%脱脂粉乳(J.M.ガブラー・サリター・GmbH&Co KG社(J.M.Gabler Saliter GmbH & Co KG)製)を含むPBSを用いて室温で2時間ブロッキングした。種々のタグコンストラクト由来のファージ標品を、20mMのDTT存在下又は非存在下において、PBS、5%脱脂粉乳、及び0.05%Tween20中でプレインキュベートした。予めブロッキングしたバクテリオファージ粒子の段階希釈物を、コーティングされたMaxisorpウェルに添加し、2時間インキュベートした。PBST及びPBSで洗浄した後、抗M13−HRPコンジュゲート(アマシャムファルマシアバイオテク社製)及び可溶性BMブルー(ベーリンガーマンハイム社製)を用いて残ったファージを可視化した。
【0148】
第1の対照実験群では、ウェルに25mMのDTTを更に添加した。第2の対照実験群では、プレートをBSAのみでコーティングした。pMORPH25バージョンA、B、及びCの結果を
図3に、pMORPH25バージョンEの結果を
図4に示す。
【0149】
試験に用いた全てのコンストラクトで機能的バクテリオファージ粒子を同定した。pMORPH25バージョンAは、pMORPH25標準バージョンよりもわずかに良く、pMORPH25のバージョンB及びCは、pMORPH25標準バージョンより明らかに良好である。個々のウェルに少なくとも5e+08/ウェルのバクテリオファージ粒子を蒔いた時の差が最も顕著である。pMORPH25バージョンEの機能的提示率は、pMORPH25標準バージョンの約4倍も高い(
図4に矢印で示す)。全ての対照の測定、すなわち25mMのDTTを更に添加したウェル及びBSAでコーティングされたプレート中のウェルの測定で、バックグラウンド以上のシグナルは生じなかった。
【0150】
本実験は、正に帯電したアミノ酸リジンを導入してヘキサヒスチジンタグを破壊すると、バクテリオファージ粒子の提示率が上昇するだけでなく、上昇した提示率がバクテリオファージ粒子の機能的結合とも連携しているという、驚くべき結果を示している。事実、機能的提示率の上昇は、前述の実験で測定した相対的提示率の上昇よりも更に高い。
【0151】
実施例5:多様なライブラリーの提示
本実施例では、修飾されたタグバージョンによる提示率の向上(表4参照)が、特異的Fab断片に限定されず、多様なFab断片ライブラリーに一般的に適用可能であることを示す。pMORPH25バージョンE(C末端:−HKHKHKC)の重鎖断片を含むFabライブラリーの相対的提示率を元のpMORPH23ベクター(C末端:−HHHHHHC)の重鎖断片を含むFabライブラリーと比較した。比較については表3を参照されたい(pMORPH23及びpMORPH25のシステインタグ配列は同一である)。実験の設定は、実施例3と同一にした。結果を
図9に示す。
【0152】
見て分かるように、本発明に係るポリペプチドを含むほぼ全てのフレームワークで、従来のベクター(これを1とする)と比べて明らかに提示率が向上している。更に、上昇した相対的提示率は、ラムダ鎖断片及びカッパ鎖断片の両方で観察される。
【0153】
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