(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、ビニレンカーボネート化合物とアルキン化合物とを併用することにより、初期充電の際に負極上に強固なSEI被膜を形成し得、これによって電池の耐久性(例えば、サイクル特性)を向上し得る旨が記載されている(特許文献1の段落0027、0028等)。
しかしながら、発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の電池は、内部抵抗そのもの(内部抵抗の値)を低減する効果が十分ではない場合があった。内部抵抗が高い電池は入出力特性が低下する傾向にあるため、高性能な電池を提供する観点からは、内部抵抗の低減は重要な課題の一つである。特に、高い入出力密度での充放電を繰り返す用途のリチウム二次電池(例えば、車載用途の電池のように、ハイレート充放電を繰り返す用途のリチウム二次電池)においては、高い入出力特性、即ち内部抵抗の低減が強く望まれている。
また、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載の電池では、添加する化合物の種類や量等によっては電池の耐久性が低下(例えば、サイクル特性が悪化)する場合があった。かかる耐久性の低下は、例えば車載用の電池のように厳しい条件下で使用される場合(具体的には、高温環境下で長期保管する場合や高入出力密度で充放電を繰り返す場合)に特に無視できないものである。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性と入出力特性とを高いレベルで両立可能なリチウム二次電池を提供することである。換言すれば、内部抵抗が低減され、より高いサイクル特性(例えば、高い容量維持率、抵抗増大の低減)を発揮し得るリチウム二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記電池の耐久性が低下する要因の一つとして、非水電解液中の支持塩(例えば、LiPF
6)が充放電の過程で加水分解されて生じ得るフッ素アニオン(F
−)およびフッ化水素(HF)が影響し得ることを見出した。
非水電解液中の支持塩(例えば、LiPF
6)は、電池内に含まれる微量の水分と以下のように反応(加水分解反応)し得る。
LiPF
6 + H
2O → POF
3 + LiF + 2HF (S1)
POF
3 +H
2O → PO
2F
2− + HF +H
+ (S2)
PO
2F
2− +H
2O → PO
3F
2− + HF +H
+ (S3)
PO
3F
2− +H
2O → PO
43− + HF +H
+ (S4)
LiPF
6の加水分解反応によって生じたフッ素アニオン(F
−)は負に帯電しているため、通常、電圧を印加すると正極側に引き寄せられる。そして、正極の表面(例えば正極活物質の表面)で酸化分解され、フッ化リチウム(LiF)となって正極活物質に堆積する。かかる被膜は抵抗成分となるため、内部抵抗の増大や電池の耐久性(例えば、サイクル特性)の低下等を招来し得る。また、発生したフッ化水素(HF)によって正極活物質からの構成元素(典型的には遷移金属元素、例えばマンガン元素)の溶出が加速され、内部抵抗が増大したり、正極活物質の結晶構造が崩壊することがあり得る。
【0007】
また、本発明者らは、上記内部抵抗の低減効果が不十分である要因の一つとして、充電時(特に高い入力密度での充電時)における負極活物質表面での電荷担体(即ちリチウムイオン)の不足が影響し得ることを見出した。換言すれば、負極活物質表面の電荷担体濃度(リチウムイオン濃度)を増大させることで、内部抵抗を低減させ得ることを見出した。
【0008】
そこで、本発明者らは鋭意検討を重ね、上記フッ素アニオン(F
−)およびフッ化水素(HF)の影響を抑制して耐久性を向上しつつ、上記負極活物質表面の電荷担体濃度を増大させて内部抵抗を低減させ得る手段を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明により、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液とが電池ケース内に収容されたリチウム二次電池が提供される。ここで、上記非水電解液は、下式(I)で表されるスルホン酸骨格を有するリチウム塩と、ビニレンカーボネート化合物とを含有する。
【0010】
【化1】
(ここで、R
1は、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキル基である。)
【0011】
非水電解液中に上記ビニレンカーボネート化合物を含むことで、負極活物質表面に該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜を形成し得る。上記ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜は分解や劣化が生じ難い安定な被膜であり、充放電における非水電解液の還元分解を長期に渡り好適に抑制することができる。即ち、非水電解液中にビニレンカーボネート化合物を含ませることで、高い耐久性(例えばサイクル特性)を実現し得る。
【0012】
また、非水電解液中に、上記ビニレンカーボネート化合物に加えて上記式(I)に示すスルホン酸骨格を有するリチウム塩(以下、単に「スルホン酸リチウム塩」という場合がある。)とを含むことで、初期充電後、該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に該スルホン酸リチウム塩由来の成分(当該スルホン酸リチウム塩由来の分解産物、変性産物を包含する。以下同じ。)を取り込ませることができる。上記スルホン酸リチウム塩は、分子中にリチウム元素を含むため、負極活物質表面におけるリチウム元素の存在量(負極活物質表面における電荷担体濃度)、即ちリチウム二次電池における電荷担体濃度を増大させることができる。また、かかるスルホン酸リチウム塩は、電荷の偏り(分極)が大きい分子構造(非共有電子対(ローンペア)を多く有する分子構造)をしており、該分子へのカチオン(+イオン)の接近をアシスト(促進)し得る。即ち、非水電解液中のリチウムイオン(Li
+)をビニレンカーボネート化合物由来の被膜中(即ち、負極活物質表面)に引き寄せることができる。これによっても、負極活物質表面における電荷担体濃度を増大することができる。以上の効果により、負極活物質表面での電荷担体(即ちリチウムイオン)の不足が生じることを抑制することができる。即ち、非水電解液中にビニレンカーボネート化合物とスルホン酸リチウム塩を含むことで、電池の内部抵抗の低減を実現し得る。
【0013】
さらに、非水電解液中のスルホン酸リチウム塩は、典型的に、充電時(典型的には初期充電時)において還元分解され、正極活物質表面および負極活物質表面(典型的にはビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の表面)に結合(付着)して当該SEI被膜の一部を構成し得る。かかるスルホン酸リチウム塩由来の被膜は非共有電子対(ローンペア)を多く有し、電荷の偏り(分極)が大きい分子構造をしているため、静電相互作用によって、リチウムイオンが正極および負極に接近することを促進することができる。即ち、正極活物質および負極活物質の表面にスルホン酸リチウム塩由来の被膜を備えることで、非水電解液中のリチウムイオン(即ち電荷担体)が正極および負極に接近することを促進することができる。これにより、充放電時における正負極間での電荷担体の受け渡しがスムーズに行われることとなり、電池抵抗を低減することができる。
一方で、式(I)に示すスルホン酸リチウム塩由来の被膜は非共有電子対(ローンペア)を多く有し、静電相互作用および/または立体障害によって、フッ素アニオンが正極および負極に接近することを防止することができる。これにより、上述した支持塩の加水分解によって生じ得るフッ素アニオンおよびフッ化水素の影響を抑制することができる。即ち、正極にスルホン酸リチウム塩由来の被膜を備えることで、抵抗の高いフッ化リチウムで正極活物質が被覆され難いという格別の効果を奏し得る。また、正極活物質の表面にスルホン酸リチウム塩由来の被膜を備えることで、非水電解液の酸化分解を抑制することができ、さらには正極活物質の結晶構造をより安定な状態で保持することができる。特に、硫黄原子を含む被膜は熱的安定性に優れるため、高温環境下においても分解や劣化等を生じ難く、高い耐久性(例えば、高温保存特性や高温充放電サイクル特性)を実現し得る。このため、例えば高温環境下で溶出し易いマンガンを多く含む(典型的には30mol%〜40mol%程度含む)遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた場合であっても、長期に亘り安定した性能を発揮することができる。
【0014】
以上に述べたとおり、上述の構成のリチウム二次電池は、内部抵抗が低減され、より高いサイクル特性(例えば、高い容量維持率、抵抗増大の低減)を発揮し得るリチウム二次電池である。即ち、上記構成のリチウム電池では、耐久性と入出力特性とを高いレベルで両立可能である。
【0015】
好適な一態様では、上記式(I)におけるR
1がエチル基である。即ち、ここで開示される好適な一態様のリチウム二次電池では、上記スルホン酸骨格を有するリチウム塩として、エトキシスルホン酸リチウムを含む。
エトキシスルホン酸リチウムは、負極活物質表面のビニレンカーボネート化合物由来の被膜中に取り込まれ易く、上記負極活物質表面の電荷担体濃度を増大する効果を高レベルで実現し得る。また、エトキシスルホン酸リチウムは非水電解液中の溶解性に優れているため、必要量のエトキシスルホン酸リチウムを非水電解液中に安定して溶解することができる。
【0016】
ここで開示される好適な一態様のリチウム二次電池では、上記ビニレンカーボネート化合物として、ビニレンカーボネート(C
3H
2O
3)を含む。
ビニレンカーボネートは、負極活物質上に安定で強固なSEI被膜を形成し得る。このため、高い耐久性を実現することができる。また、ビニレンカーボネート(C
3H
2O
3)は、SEI被膜形成時にスルホン酸リチウム塩を被膜中に取り込み易いため、上記負極活物質表面の電荷担体濃度を増大する効果を高レベルで実現し得る。
【0017】
ここで開示される好適な一態様のリチウム二次電池では、上記負極活物質の表面には前記ビニレンカーボネート化合物に由来する被膜が、該被膜の構成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で、該負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり27μmol以上64μmol以下の割合で形成されている。そして、上記ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中には上記スルホン酸骨格を有するリチウム塩由来の成分が含まれている。さらに、該被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量は、該被膜の構成に消費されたビニレンカーボネート化合物1mol当たり、スルホン酸基換算で0.04mol以上0.15mol以下である。
負極活物質表面のビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の構成ならびに形成量を上記範囲とすることで、強固で安定なSEI被膜形成が実現される。また、かかる被膜量を上記範囲とすることで、電荷担体の反応の場を好適に確保することができる。
また、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量(スルホン酸基換算でのモル比)を上記範囲とすることで、該スルホン酸リチウム塩による負極活物質表面での電荷担体濃度の増大効果を好適に発揮することができる。ここで、スルホン酸リチウム塩は、ビニレンカーボネート化合物が被膜を形成する重合反応には直接関与しないため、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中のスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量が多すぎると、該被膜の強度が低下する虞がある。ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中のスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量を上記の範囲とすることで、該被膜の強度を確保しつつ、負極活物質表面における電荷担体濃度の増大効果を好適に発揮することができる。
【0018】
上記「負極活物質の単位表面積当たりのビニレンカーボネート化合物由来の被膜量(μmol/m
2)」は、例えば、使用した非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の消費量、即ち分解量(μmol)を負極活物質の総表面積(m
2)で除すことによって求められる。かかるビニレンカーボネート化合物の消費量=分解量(μmol)は、電池構築時に電池ケース内に供給したビニレンカーボネート化合物の供給量(μmol)から、電池ケース内に残存するビニレンカーボネート化合物の残存量(μmol)を減算することで算出することができる。なお、上記電池ケース内に残存するビニレンカーボネート化合物の残存量(μmol)は、例えばガスクロマトグラフィー(GC:Gas Chromatography)の手法によって測定することができる。なお、かかるGCによるビニレンカーボネート化合物の測定方法については、後述する。また、上記「負極活物質の総表面積(m
2)」は、例えば負極活物質層の形成に用いた負極活物質の総質量(g)と、活物質のBET比表面積(m
2/g)の積によって求めることができる。「BET比表面積(m
2/g)」は、例えば吸着質として窒素(N
2)ガスを用いたガス吸着法(定容量式吸着法)によって測定されたガス吸着量を、BET法(例えば、BET1点法)で解析することによって求めることができる。
【0019】
上記「ビニレンカーボネート化合物に由来の被膜中に含まれるスルホン酸骨格を有するリチウム塩由来の成分の含有量(モル比)」は、例えば、負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)から負極活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)を減じて得られるスルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)を、負極活物質層の単位面積あたりのビニレンカーボネ―ト化合物由来の被膜量(μmol/m
2)で除すことによって求めることができる。
上記「負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)」は、例えば誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP‐AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)の手法によって測定することができる。なお、上記ICP‐AESを用いたビニレンカーボネート化合物中のリチウム塩量の測定方法については、後述する。
また、上記「負極活物質層の単位面積あたりのビニレンカーボネ―ト化合物由来の被膜量(μmol/m
2)」は、被膜形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)(μmol)を、負極活物質層の形成面積(m
2)で除すことによって求めることができる。「ビニレンカーボネート化合物の分解量(μmol)」は、上述の手法により求め得る。
また、上記「負極活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)」は、例えば、イオンクロマトグラフィー(IC:Ion Chromatography)の手法によって測定することができる。なお、上記ICを用いた被膜の測定方法については、後述する。
【0020】
また、ここで開示される好適な一態様のリチウム二次電池では、上記正極活物質の表面には、上記スルホン酸リチウム塩に由来する被膜が、スルホン酸基換算で、該正極活物質の単位表面積(1m
2)当たり8μmol以上18μmol以下の割合で形成されている。
正極活物質表面に形成されるスルホン酸リチウム塩に由来する成分の含有量(被膜の形成量)を上記範囲とすることで、電荷担体の反応の場を好適に確保しつつ、上記フッ素アニオンの接近抑制効果と、電荷担体の接近アシスト(促進)効果とを高レベルに発揮することができる。
【0021】
上記「活物質の単位表面積当たりのスルホン酸骨格を有するリチウム塩に由来する成分の含有量=被膜量(μmol/m
2)」は、例えば、イオンクロマトグラフィー(IC:Ion Chromatography)の手法によって測定されたスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量=被膜量(μmol/cm
2)を、単位面積当たりに含まれる活物質の表面積(m
2/cm
2)で除すことによって求めることができる。なお、上記ICを用いた被膜の測定方法については、後述する。また、上記「単位面積当たりに含まれる活物質の表面積(m
2/cm
2)」は、活物質の目付量(g/cm
2)と活物質のBET比表面積(m
2/g)の積によって求めることができる。「BET比表面積(m
2/g)」は、例えば吸着質として窒素(N
2)ガスを用いたガス吸着法(定容量式吸着法)によって測定されたガス吸着量を、BET法(例えば、BET1点法)で解析することによって求めることができる。
【0022】
なお、本明細書中にいう「ビニレンカーボネート化合物由来の被膜」あるいは、「スルホン酸骨格を有するリチウム塩に由来する被膜」は、被膜の構成要素について用いられる表現であり、初期充電後に形成されるSEI被膜中には上記ビニレンカーボネート化合物やスルホン酸リチウム塩に由来しない他の成分、例えば非水電解液を構成する他の成分(具体的には、支持塩や非水溶媒)の分解生成物等が混入し得ることは勿論であり、本明細書中にいう「ビニレンカーボネート化合物由来の被膜」あるいは、「スルホン酸骨格を有するリチウム塩に由来する被膜」は、これら他の成分の存在を許容するものである。
また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、常温(例えば25℃)において液状を呈する非水電解液(典型的には、非水溶媒中に電荷担体を含む電解液)を備えた電池であって、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンの移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0023】
また、本発明は他の側面として、ここで開示される構成のリチウム二次電池を製造する方法を提供する。即ち、ここで開示されるリチウム二次電池の製造方法は、
(1)正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液とを電池ケース内に収容して電池組立体を構築することと、(2)上記正極と上記負極との間の電圧が所定の値となるよう初期充電処理を行うことを包含する。
そして、ここで開示される製造方法では、上記非水電解液として、下式(I)で表されるスルホン酸リチウム塩と、ビニレンカーボネート化合物とを含有する非水電解液を使用することを特徴とする。
【0024】
【化2】
(ここで、R
1は、炭素原子数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキル基である。)
【0025】
初期充電(コンディショニング)時には、ビニレンカーボネート化合物が負極で還元分解され、負極活物質の表面に該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜が形成される。このとき、該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中には式(1)に示すスルホン酸リチウム塩由来の成分が取り込まれる。また、かかるスルホン酸リチウム塩の一部も、上記初期充電(コンディショニング)時に負極で還元分解され得る。かかる還元分解によって生じたR
1−SO
3基の一部は正極側へ移動し、負極活物質および正極活物質の表面にスルホン酸リチウム塩に由来の被膜(典型的にはスルホニルオキシ基を有する被膜、例えばスルホニルオキシ基とリチウム元素とを含有する被膜)となって結合(付着)する。
【0026】
ここで開示されるリチウム二次電池の製造方法の好適な一態様では、上記非水電解液として、該非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度C
a(質量%)と、該非水電解液中のスルホン酸リチウム塩の濃度C
b(質量%)との比(C
a/C
b)が0.5以上1.8以下である非水電解液を使用する。かかる(C
a/C
b)比を上記範囲とすることで、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜の強度を保ちつつ、該被膜中に好適量のスルホン酸リチウム塩由来の成分を含有するSEI被膜を負極活物質層上に形成することができる。
【0027】
ここで開示されるリチウム二次電池製造方法の好適な一態様では、上記非水電解液として、スルホン酸リチウム塩の濃度C
bが0.75質量%以上2.0質量%以下であり、且つ、ビニレンカーボネート化合物の濃度C
aが0.7質量%以上1.8質量%以下である非水電解液を使用する。ビニレンカーボネート化合物の濃度とスルホン酸リチウム塩の濃度とをいずれも上記範囲とすることで、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中に好適量のスルホン酸リチウム塩由来の成分を含ませることができる。したがって、本発明の適用効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0028】
上述の通り、ここで開示されるリチウム二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)は、内部抵抗が低減され高いサイクル特性(高い容量維持率、低い抵抗増加率等)を発揮し得ることを特徴とする。すなわち、ここで開示される電池は初期の電池特性(例えば初期の入出力特性)が高く、例えば高温環境下で長期間保存した場合や長期間の使用後であっても電池容量の低下を生じ難い。したがって、かかる特徴を活かして、高エネルギー密度や高出力密度、あるいは広範な温度域において高い耐久性が要求され得る用途(例えば車両に搭載されるモーター駆動のための動力源(駆動用電源))で特に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を説明する。本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
【0031】
本発明により、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解液と、が電池ケース内に収容された構成のリチウム二次電池が提供される。特に限定することを意図したものではないが、以下では一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成として、扁平に捲回された電極体(捲回電極体)と非水電解液とを扁平な直方体形状(箱型)の容器に収容した形態のリチウム二次電池を例として本発明を詳細に説明する。
【0032】
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の概略構成を
図1、
図2に示す。
図1は、リチウム二次電池100の外形を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1に示したリチウム二次電池100のII−II線に沿う断面構造を模式的に示す縦断面図である。
図1および
図2に示すように、リチウム二次電池100は、長尺状の正極(正極シート)50と長尺状の負極(負極シート)60とが長尺状のセパレータ(セパレータシート)70を介して扁平に捲回された形態の電極体(捲回電極体)20が、図示しない非水電解液とともに扁平な箱型形状の電池ケース30に収容された構成を有する。
【0033】
≪電池ケース30≫
電池ケース30は、上端が開放された扁平な直方体形状(箱型)の電池ケース本体32と、その開口部を塞ぐ蓋体34とを備える。電池ケース30の上面(すなわち蓋体34)には、捲回電極体20の正極と電気的に接続する外部接続用の正極端子42、および捲回電極体20の負極と電気的に接続する負極端子44が設けられている。蓋体34にはまた、従来のリチウム二次電池の電池ケースと同様に、電池ケース30の内部で発生したガスを電池ケース30の外部に排出するための安全弁36が備えられている。
電池ケース30の材質としては、アルミニウム、スチール等の金属材料;ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂材料;が例示される。なかでも、放熱性向上やエネルギー密度を高める目的から、比較的軽量な金属(例えばアルミニウムやアルミニウム合金)を好ましく採用し得る。また、該ケースの形状(容器の外形)は、例えば円形(円筒形、コイン形、ボタン形)、六面体形(直方体形、立方体形)、袋体形、およびそれらを加工し変形させた形状等であり得る。
【0034】
≪捲回電極体20≫
図3は、
図2に示す捲回電極体20の構成を示す模式図である。
図3に示すように、本実施形態に係る捲回電極体20は、組み立てる前段階において長尺状のシート構造(シート状電極体)を有している。かかる捲回電極体20は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された正極シート50と、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成された負極シート60とを、長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わせて長尺方向に捲回し、更に側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に成形されている。
【0035】
捲回電極体20の捲回軸方向における中央部分には、捲回コア部分(すなわち、正極シート50の正極活物質層54と、負極シート60の負極活物質層64と、セパレータシート70とが密に積層された部分)が形成されている。また、捲回電極体20の捲回軸方向の両端部では、正極シート50および負極シート60の電極活物質層非形成部分(52a、62a)の一部が、それぞれ捲回コア部分から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分および負極側はみ出し部分には、正極集電板42aおよび負極集電板44aがそれぞれ付設され、正極端子42(
図2)および負極端子44(
図2)とそれぞれ電気的に接続されている。
【0036】
≪正極シート50≫
正極シート50は、正極集電体52と、該正極集電体上に形成された少なくとも正極活物質を含む正極活物質層54とを備える。そして、正極活物質の表面には、スルホン酸リチウム塩に由来する被膜が形成されている。
正極集電体52には、導電性の良好な金属(例えばアルミニウム、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性部材が好適に使用され得る。
【0037】
<正極活物質層54>
正極活物質層54は、少なくとも正極活物質を含んでいる。正極活物質としては、リチウム二次電池の正極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種または2種以上を、特に限定なく採用し得る。好適例として、層状系、スピネル系等のリチウム複合金属酸化物(LiNiO
2、LiCoO
2、LiFeO
2、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4,LiCrMnO
4、LiFePO
4等)が挙げられる。なかでも、構成元素としてLi,Ni,CoおよびMnを含む、層状構造(典型的には、六方晶系に属する層状岩塩型構造)のリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えば、LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)は、熱安定性に優れ、且つ他の化合物に比べて理論エネルギー密度が高いため好ましい。一般に、遷移金属元素(特に、マンガン元素)を含む複合酸化物では、例えば支持塩の加水分解で生じたフッ酸により、構成元素の溶出が加速することがあり得る。しかしながら、ここで開示される技術によれば、正極活物質の表面に被膜を有することで構成元素の溶出が生じ難く、正極活物質の結晶構造をより安定な状態で保持することができる。このため、例えば高温環境下で溶出し易いマンガンを多く含む(典型的には30mol%〜40mol%程度含む)遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた場合であっても、長期に渡り高い性能を安定して発揮することができる。
【0038】
ここで、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物とは、Li,Ni,CoおよびMnのみを構成金属元素とする酸化物のほか、Li,Ni,CoおよびMn以外に他の少なくとも1種の金属元素(すなわち、Li,Ni,CoおよびMn以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含む酸化物をも包含する意味である。かかる金属元素は、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pb)、白金(Pt)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、スズ(Sn)、ランタン(La)、セリウム(Ce)のうちの1種または2種以上の元素であり得る。これらの金属元素の添加量(配合量、含有量)は特に限定されないが、通常0.01質量%〜5質量%(例えば0.05質量%〜2質量%、典型的には0.1質量%〜0.8質量%)であり得る。上記添加量の範囲とすることで、優れた電池特性(例えば、高エネルギー密度)を実現し得る。
【0039】
正極活物質の性状は特に限定されないが、例えば粒子状や粉末状であり得る。かかる粒子状正極活物質の平均粒径は、20μm以下(典型的には1μm〜20μm、例えば5μm〜15μm)であり得る。また、比表面積は0.1m
2/g以上(典型的には0.7m
2/g以上、例えば0.8m
2/g以上)であって、5m
2/g以下(典型的には1.3m
2/g以下、例えば1.2m
2/g以下)であり得る。上記性状のうち1つまたは2つを満たす正極活物質は、被膜が形成された状態であっても電荷担体の反応場が広く確保されているため、高い電池特性(例えば高い入出力特性)を発揮することができる。
【0040】
なお、本明細書において「平均粒径」とは一般的なレーザー回折・光散乱法に基づく粒度分布測定により測定した体積基準の粒度分布おいて、微粒子側からの累積50%に相当する粒径(D
50粒径、メジアン径ともいう。)をいう。
【0041】
正極活物質の表面には、スルホン酸リチウム塩に由来する被膜が形成されている。かかる被膜は、典型的にはS元素含有基(例えばスルホニル基やスルホニルオキシ基)を含んでいる。例えば、SO
X(ここで、X=2〜4)で表されるS元素含有基を含んでいる。具体的には、SO
22−、SO
32−、SO
42−等を含み得る。かかる被膜を備えることで、静電相互作用および/または立体障害を利用して、フッ素アニオンが正極に接近することを好適に抑制することができる。したがって、抵抗の高いフッ化リチウムが生成され難く、正極の抵抗をより低く保つことができる。特に、硫黄原子を含む被膜は熱的安定性に優れるため、高温環境下においても分解や劣化等を生じ難く、高い耐久性(例えば、高温保存特性や高温充放電サイクル特性)を実現し得る。
【0042】
正極活物質の表面に形成されたスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量は、該正極活物質の単位表面積(1m
2)当たり、スルホン酸基換算で、8μmol以上(好ましくは10μmol以上)18μmol以下(好ましくは15μmol以下)である。被膜量を8μmol以上とすることで、本願発明の効果(例えば、フッ素アニオンの接近抑制効果)を高いレベルで発揮することができる。また、被膜量を18μmol以下とすることで、電荷担体(即ち、リチウムイオン)の反応場を好適に確保することができ、抵抗を低く抑えることができる。
【0043】
上記「正極活物質の単位表面積当たりのスルホン酸リチウム塩に由来する成分の含有量=被膜量(μmol/m
2)」は、イオンクロマトグラフィー(IC)によって測定された正極活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量=被膜量(μmol/cm
2)を、単位面積当たりに含まれる正極活物質の表面積(m
2/cm
2)で除すことによって求めることができる。具体的には、先ず電池を解体して取り出した正極活物質層54を適当な溶媒(例えばEMC)に浸漬した後、適当な大きさに切り出して採取する。次に、かかる測定試料を50%アセトニトリル(CH
3CN)水溶液中に所定の時間(例えば1分〜30分程度)浸漬することで、測定対象となる被膜成分(典型的にはスルホン酸リチウム塩に由来する成分、例えば硫化物イオン)を溶媒中に抽出する。この溶液をICの測定に供し、得られた結果から測定対象のイオン(例えば、SO
22−、SO
32−、SO
42−)の含有量(μmol)を定量する。各イオンの定量値(μmol)を合計して、測定に供した正極活物質層の面積(cm
2)(典型的には、測定に供した正極活物質層の平面視における面積(cm
2))で除すことにより、測定試料中のスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/cm
2)を、スルホン酸基換算として求めることができる。そして、この値を正極活物質の目付量(g/cm
2)と正極活物質のBET比表面積(m
2/g)の積で除すことにより、上記「正極活物質の単位表面積当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/m
2)」を求めることができる。
【0044】
なお、被膜の量を測定する手法として上記にはICを用いる場合を例示したが、これに限定されず、例えば従来公知の誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP‐AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)やX線吸収微細構造解析法(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)等によっても概ね把握することができる。
【0045】
正極活物質層54には、上記正極活物質に加え、一般的なリチウム二次電池において正極活物質層54の構成成分として使用され得る1種または2種以上の材料を必要に応じて含有し得る。そのような材料の例として、導電材やバインダが挙げられる。導電材としては、例えば、種々のカーボンブラック(典型的にはアセチレンブラック、ケッチェンブラック)、コークス、活性炭、黒鉛、炭素繊維、カーボンナノチューブ等の炭素材料を好適に用いることができる。また、バインダとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂;ポリエチレンオキサイド(PEO)等のポリアルキレンオキサイド;等を好適に用いることができる。
【0046】
正極活物質層54全体に占める正極活物質の割合は、凡そ60質量%以上(典型的には60質量%〜99質量%)とすることが適当であり、通常は凡そ70質量%〜95質量%であることが好ましい。導電材を使用する場合、正極活物質層54全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2質量%〜20質量%とすることができ、通常は凡そ3質量%〜10質量%とすることが好ましい。バインダを使用する場合、正極活物質層54全体に占めるバインダの割合は、例えば凡そ0.5質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0047】
正極集電体52の単位面積当たりに設けられる正極活物質層54の質量(目付量)は、充分な電池容量を確保する観点から、正極集電体52の片面当たり3mg/cm
2以上(例えば5mg/cm
2以上、典型的には7mg/cm
2以上)とすることができる。また、電池特性(例えば入出力特性)を確保する観点から、正極集電体の片面当たり100mg/cm
2以下(例えば70mg/cm
2以下、典型的には50mg/cm
2以下)とすることができる。これにより、本発明の効果をより高いレベルで発揮し得る。なお、この実施形態のように正極集電体52の両面に正極活物質層54を有する構成では、正極集電体52の各々の面に設けられる正極活物質層54の質量は、概ね同程度とすることが好ましい。
【0048】
正極活物質層54の片面当たりの平均厚みは、例えば20μm以上(典型的には40μm以上、好ましくは50μm以上)であって、100μm以下(典型的には80μm以下)であり得る。また、正極活物質層54の密度は、例えば1g/cm
3〜4g/cm
3(例えば1.5g/cm
3〜3.5g/cm
3)であり得る。また、正極活物質層54の空隙率(空孔率)は、例えば10体積%〜50体積%(典型的には20体積%〜40体積%)であり得る。
上記性状のうち1つまたは2つ以上を満たす場合、正極活物質層54内に適度な空隙を保つことができ、非水電解液を十分に浸潤させることができる。このため、電荷担体との反応場を広く確保することができ、高い入出力特性を発揮することができる。また、正極活物質層54内の導電性を良好に保つことができ、抵抗の増大を抑制し得る。さらに、正極活物質層の機械的強度(形状保持性)を確保することができ、良好なサイクル特性を発揮することができる。このため、上記性状のうち1つまたは2つ以上を上記範囲内とすることで、優れた電池特性(例えば高エネルギー密度や入出力特性)を発揮することができる。
【0049】
なお、本明細書において「空隙率」とは、水銀ポロシメータの測定によって得られた全細孔容積(cm
3)を活物質層の見かけの体積(cm
3)で除して100を掛けた値をいう。見かけの体積は、平面視での面積(cm
2)と厚み(cm)との積によって算出することができる。具体的には、例えばまず測定対象たる正極シートを打ち抜き機やカッター等で正方形や長方形に切りだす。次に、上記切り出したサンプルの正極活物質層の平面視における面積(cm
2)と厚み(cm)とを計測し、これらの値を乗ずることにより見かけの体積を算出する。厚みは、例えばマイクロメータや厚み計(例えばロータリーキャリパー計)等により計測することができる。
【0050】
このような正極シート50を作製する方法は特に限定されないが、例えば以下のように行うことができる。まず、正極活物質と必要に応じて用いられる材料とを適当な溶媒に分散させ、ペースト状またはスラリー状の組成物(正極活物質層形成用スラリー)を調製する。そして、調製した正極活物質層形成用スラリーを長尺状の正極集電体52に付与し、該スラリーに含まれる溶媒を除去する。これにより、正極集電体52上に正極活物質層54を備えた正極シート50を作製することができる。上記溶媒としては水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えばN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることができる。また、上記スラリーを付与する操作は、例えば、グラビアコーター、スリットコーター、ダイコーター、コンマコーター、ディップコーター等の適当な塗付装置を使用して行うことができる。また、上記溶媒の除去も、従来の一般的な手段(例えば加熱乾燥や真空乾燥)により行うことができる。
【0051】
なお、上述のような正極活物質層54の性状(すなわち平均厚み、密度、空隙率)は、例えば、上記正極活物質層54の形成後に、正極シート50に対して適当なプレス処理を施すことによって調整し得る。プレス処理には、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。また、かかる処理は1回でもよく、2回以上の複数回行うこともできる。
【0052】
≪負極シート60≫
負極シート60は、負極集電体62と、該負極集電体上に形成された少なくとも負極活物質を含む負極活物質層64とを備える。そして、負極活物質の表面には、ビニレンカーボネート化合物に由来するSEI被膜が形成されている。かかるSEI被膜は、スルホン酸リチウム塩由来の成分を含んでいる。また、負極活物質の表面(典型的にはビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の表面)には、さらに、スルホン酸リチウム塩由来の被膜(S元素含有基を含む被膜)が形成されている。
負極集電体62には、導電性の良好な金属(例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等)からなる導電性材料が好適に使用され得る。
【0053】
<負極活物質層64>
負極活物質層64は、少なくとも負極活物質を含んでいる。負極活物質としては、リチウム二次電池の負極活物質として使用し得ることが知られている各種の材料の1種または2種以上を、特に限定なく使用することができる。好適例として、黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)、カーボンナノチューブ、これらを組み合わせた構造を有するもの等の少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む炭素材料が挙げられる。なかでも、高いエネルギー密度が得られることから、天然黒鉛(石墨)や人造黒鉛等の黒鉛系材料を好ましく用いることができる。通常、炭素材料を負極に備えた電池では、例えば厳しい条件で充放電を繰り返した場合等に、非水電解液に含まれる成分(例えば非水溶媒や支持塩)が徐々に分解され、エネルギー密度が低下することがあり得る。しかしながら、ここで開示される負極活物質の表面にはビニレンカーボネート化合物由来の被膜が形成されているため、低抵抗で、且つ、非水電解液の還元分解を長期に渡り好適に抑制することができる。
【0054】
負極活物質の性状は特に限定されないが、例えば粒子状や粉末状であり得る。かかる粒子状負極活物質の平均粒径は、例えば50μm以下(典型的には20μm以下、例えば1μm〜20μm、好ましくは5μm〜15μm)であり得る。また、比表面積は1m
2/g以上(典型的には2.5m
2/g以上、例えば2.8m
2/g以上)であって、10m
2/g以下(典型的には3.5m
2/g以下、例えば3.4m
2/g以下)であり得る。上記性状のうち1つまたは2つを満たす負極活物質は、被膜が形成された状態であっても電荷担体の反応場が広く確保されているため、高い電池特性(例えば高い入出力特性)を発揮することができる。
【0055】
負極活物質の表面には、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜が形成されている。かかる被膜は、典型的には、C元素含有基(例えばカルボニル基やカルボキシラト基)を含んでいる。具体的には、CO
2−、CO
22−、CO
32−等を含み得る。
上記ビニレンカーボネート化合物は、充放電に伴う負極活物質の体積変化に追随して膨張収縮し得る強固な被膜を負極活物質上に形成し得る。このため、かかる化合物由来の被膜を負極上に備えることで、高い耐久性(例えば、ハイレート充放電特性やサイクル特性等)を実現し得る。
また、ここで開示の技術によると、上記ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜は、かかる被膜中に上記スルホン酸リチウム塩由来の成分を含むため、被膜内(典型的には負極活物質表面)のリチウム濃度(即ち電荷担体の濃度)を増させることができる。また、かかるスルホン酸リチウム塩由来の成分は、電荷の偏り(分極)が大きい分子構造であるため、静電相互作用を利用してカチオンを引き寄せる特性を持つ。このため、被膜内(典型的には負極活物質表面)に非水電解液中のリチウムイオンが接近することを好適に促進することができる。即ち、かかる構成のSEI被膜を備えることで、負極活物質の表面のリチウム濃度を好適に増大させることができる。これにより、負極の抵抗を低く保つことが可能となり、高い入出力特性を実現し得る。
【0056】
負極活物質の表面に形成されたビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の量は、該負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり、該被膜の構成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で、27μmol以上(好ましくは30μmol以上)64μmol以下(好ましくは60μmol以下)が好適である。また、上記ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分のスルホン酸基換算の含有量は、該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜1mol当たり0.04mol以上(好ましくは0.07mol以上)0.15mol以下(好ましくは0.11mol以下)が好適である。
負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の被膜量を、該被膜の構成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で、27μmol/m
2以上(好ましくは30μmol/m
2以上)とすることで、負極活物質の体積変化に好適に追随して膨張収縮し得る強度の高い被膜(即ち、負極活物質の体積変化に対する耐久性の高い被膜)を形成することができる。これにより、優れた耐久性(例えば、ハイレート充放電特性やサイクル特性等)を確保することができる。また、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の被膜量を、該被膜の構成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で、64μmol/m
2以下(好ましくは60μmol/m
2以下)とすることで、電荷担体(即ち、リチウムイオン)の反応場を好適に確保することができ、抵抗を低く抑えることができる。
また、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の割合(モル比)を、上記範囲とすることで、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜の強度を好適に確保しつつ、上述した負極活物質表面の電荷担体濃度の増大効果を好適に発揮することができるため好ましい。
【0057】
上記「負極活物質の単位表面積当たりのビニレンカーボネート化合物由来の被膜の量(μmol/m
2)」は、使用した非水電解液中のビニレンカーボネート化合物のうち、被膜形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)(μmol)を、負極活物質層の形成に用いた負極活物質の表面積の総和(総表面積)(m
2)で除すことによって求めることができる。
負極活物質層の形成に用いた負極活物質の総表面積(m
2)は、負極活物質層の形成に用いた負極活物質の総質量(g)と負極活物質のBET比表面積(m
2/g)との積から算出することができる。即ち、負極活物質層の形成に用いた負極活物質の総表面積(m
2)は、負極活物質のBET比表面積(m
2/g)と負極活物質の目付量(g/cm
2)と負極活物質層の形成面積(cm
2)との積から算出することができる。
被膜形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)(μmol)は、具体的には、以下のようにして求めることができる。先ず、電池を解体して電池ケース内に貯留している非水電解液を回収する。また、電極体(典型的には電極の層間)および電池ケース内等の非水電解液が接触し得る部材の表面を適当な溶媒(例えばEMC)で洗浄し、該洗浄液を回収する。上記非水電解液と上記洗浄液とをガスクロマトグラフィー(GC:Gas Chromatography)で定量分析することによって、これらの溶液中に含まれるビニレンカーボネート化合物の量(μmol)を定量する。そして、電池の構築に用いた非水電解液中に含まれるビニレンカーボレートの量(μmol)から上記定量したビニレンカーボネート化合物の量(μmol)を減算することで、被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)を算出することができる。
【0058】
なお、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜の量を測定する手法として上記にはGCを用いる場合を例示したが、これに限定されず、例えば従来公知の誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP‐AES:Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometry)やX線吸収微細構造解析法(XAFS:X-ray Absorption Fine Structure)、等によっても概ね把握することができる。
【0059】
ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の割合(モル比)は、負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)から負極活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)を減じて得られるスルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)を、負極活物質層の単位面積あたりのビニレンカーボネート化合物由来の被膜量(μmol/m
2)で除すことによって求めることができる。
負極活物質層の単位面積あたりのビニレンカーボネ―ト化合物由来の被膜量(μmol/m
2)は、被膜形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)(μmol)を、負極活物質層の形成面積(m
2)で除すことによって、被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算として求めることができる。なお、被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)(μmol)は、上記ビニレンカーボネート化合物由来の被膜の被膜量を求める場合と同様の方法により求めることができる。
負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)は、具体的には以下のようにして求めることができる。先ず、電池を解体して取り出した負極活物質層64を適当な溶媒(例えばEMC)に浸漬した後、適当な大きさに切り出して採取する。次に、かかる測定試料を王水中に所定の時間(例えば1分〜30分程度)浸漬することで、測定対象となるスルホン酸リチウム塩由来の成分を溶媒中に抽出する。この溶液をICP−AES分析に供し、得られた結果(典型的には硫黄元素の含有量)からスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量(μmol)を定量する。かかるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量(μmol)を測定に供した負極活物質層の面積(m
2)(典型的には、測定に供した負極活物質層の平面視における面積(m
2))で除すことにより、負極活物質層の単位面積当たりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)を、スルホン酸基換算で求めることができる。
負極活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)は、例えば、上述する正極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)を求める場合と同様に、適当な大きさに切り出した負極活物質を浸漬して被膜成分を抽出した50%アセトニトリル水溶液をICの測定に供し、得られた結果から測定対象のイオン(例えば、SO
22−、SO
32−、SO
42−)の含有量(μmol)を定量する。各イオンの定量値(μmol)を合計して、測定に供した負極活物質層の面積(m
2)(典型的には、測定に供した負極活物質層の平面視における面積(m
2))で除すことにより、負極活物質層の単位面積当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)を、スルホン酸基換算で求めることができる。
【0060】
なお、負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量を測定する手法として上記にはICP−AESを用いる場合を例示したが、これに限定されず、例えば従来公知のIC、XAFS、MS等によっても概ね把握することができる。
【0061】
また、好適な一態様では負極活物質の表面(典型的には負極活物質の表面に形成されたビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の表面)には、S元素含有基(例えばスルホニル基やスルホニルオキシ基、典型的にはSO
X(ここで、X=2〜4)で表されるS元素含有基)を含む被膜(以下、かかる被膜を単に「S元素含有被膜」ともいう)が形成されている。典型的には、上記S元素含有基はスルホン酸リチウム塩の分解物であり得る。また、かかるS元素含有被膜は該S元素含有基が負極活物質表面(典型的には負極活物質の表面に形成されたビニレンカーボネート化合物由来の被膜の表面)に結合または結合(付着)した形態であり得る。換言すると、負極活物質の表面に、上記ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の他に、スルホン酸リチウム塩由来の被膜が形成された態様であり得る。典型的には、スルホン酸リチウム塩由来の成分が、負極活物質層表面に形成されるSEI被膜の一部を構成する態様であり得る。
上記S元素含有基(典型的にはSO
X(ここで、X=2〜4)で表されるS元素含有基、具体的にはSO
22−、SO
32−、SO
42−等)は、分子内の電荷の偏りが大きいため、負極表面にカチオンが接近することを好適に促進することができる。このため、負極活物質の表面(好ましくは負極活物質の最表面)に上記S元素含有被膜を備えることで、S元素含有基の静電相互作用を利用して、リチウムイオンが負極に接近することを好適に促進することができる。したがって、負極活物質の近傍のリチウムイオン濃度を増大し、負極の抵抗をより低く保つことができる。
【0062】
負極活物質の表面に形成されたスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量は、該負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり、スルホン酸基換算で、8μmol以上(好ましくは10μmol以上)23μmol以下(好ましくは20μmol以下)が好適である。
負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量を、スルホン酸基換算で、8μmol/m
2以上(好ましくは10μmol/m
2以上)とすることで、上記負極活物質表面へのリチウムイオンの接近促進効果を高いレベルで発揮することができる。また、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量を、スルホン酸基換算で、23μmol/m
2以下(好ましくは20μmol/m
2以下)とすることで、電荷担体(リチ即ち、リチウムイオン)の反応場を好適に確保することができ、抵抗を低く抑えることができる。
【0063】
上記「負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)」は、例えば、イオンクロマトグラフィー(IC)によってスルホン酸基換算として測定された負極活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/cm
2)を、単位面積当たりに含まれる負極活物質の表面積(m
2/cm
2)で除すことによって求めることができる。例えば、上述の正極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/m
2)を求める場合と同様の手法により求めることができる。
【0064】
負極活物質層64には、上記負極活物質に加え、一般的なリチウム二次電池において負極活物質層の構成成分として使用され得る1種または2種以上の材料を必要に応じて含有し得る。そのような材料の例として、バインダや各種添加剤が挙げられる。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のポリマー材料を好適に用いることができる。その他、増粘剤、分散剤、導電材等の各種添加剤を適宜使用することもでき、例えば増粘剤としてはカルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)を好適に用いることができる。
【0065】
負極活物質層64全体に占める負極活物質の割合は、凡そ50質量%以上とすることが適当であり、通常は90質量%〜99質量%(例えば95質量%〜99質量%)とすることが好ましい。バインダを使用する場合には、負極活物質層64全体に占めるバインダの割合は例えば凡そ1質量%〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1質量%〜5質量%とすることが好ましい。
【0066】
負極集電体62の単位面積当たりに設けられる負極活物質層64の質量(目付量)は、負極集電体62の片面当たり5mg/cm
2〜20mg/cm
2(典型的には7mg/cm
2〜15mg/cm
2)程度とすることができる。なお、この実施形態のように負極集電体62の両面に負極活物質層64を有する構成では、負極集電体62の各々の面に設けられる負極活物質層64の質量を概ね同程度とすることが好ましい。
【0067】
負極活物質層64の空隙率は、例えば5体積%〜50体積%(好ましくは35体積%〜50体積%)程度であり得る。また、負極活物質層64の片面当たりの厚みは、例えば40μm以上(典型的には50μm以上)であって、100μm以下(典型的には80μm以下)とすることができる。また、負極活物質層64の密度は、例えば0.5g/cm
3〜2g/cm
3(典型的には1g/cm
3〜1.5g/cm
3)程度とすることができる。負極活物質層の性状を上記範囲とすることで、非水電解液との界面を好適に保つことができ、通常使用時には耐久性(サイクル特性)と出力特性とを高いレベルで両立させることができる。また、過充電時には正極で生じた水素イオンを好適に還元し得、迅速に大量のガスを発生させることができる。なお、負極活物質層64の空隙率や厚み、密度は、上述した正極活物質層54と同様に、適当なプレス処理を施すこと等によって調整することができる。
【0068】
このような負極シート60を作製する方法は特に限定されないが、例えば以下のように行うことができる。まず、負極活物質と必要に応じて用いられる材料とを適当な溶媒に分散させ、ペースト状またはスラリー状の組成物(負極活物質層形成用スラリー)を調製する。そして、調製した負極活物質層形成用スラリーを長尺状の負極集電体62に付与し、該スラリーに含まれる溶媒を除去する。これにより、負極集電体62上に負極活物質層64を備えた負極シート60を作製することができる。上記溶媒としては、水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能であり、例えば水を用いることができる。また、上記スラリーの付与や溶媒の除去、プレス処理等は、正極シート50の場合と同様に行うことができる。
【0069】
≪セパレータシート70≫
正負極シート50、60間に介在されるセパレータシート70としては、正極活物質層54と負極活物質層64とを絶縁するとともに非水電解液の保持機能やシャットダウン機能を有するものであればよい。好適例として、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔質樹脂シート(フィルム)が挙げられる。なかでも、ポリオレフィン系の多孔質樹脂シート(例えばPEやPP)は、シャットダウン温度が80℃〜140℃(典型的には110℃〜140℃、例えば120℃〜135℃)と、電池の耐熱温度(典型的には凡そ200℃以上)よりも充分に低いため、適切なタイミングでシャットダウン機能を発揮することができる。
【0070】
セパレータシート70の性状は特に限定されないが、例えば、平均厚みは、通常、10μm以上(典型的には15μm以上、例えば17μm以上)であって、40μm以下(典型的には30μm以下、例えば25μm以下)であることが好ましい。セパレータシート70の厚みが上記範囲内にあることで、イオン透過性がより良好となり、且つ、電池内に異物が混入した場合であっても内部短絡(セパレータの破膜)がより生じにくくなる。
【0071】
セパレータシート70は、単層構造であってもよく、あるいは材質や性状(厚みや空孔率等)の異なる2種以上の多孔質樹脂シートが積層された構造であってもよい。多層構造のものとしては、例えば、ポリエチレン(PE)層の両面にポリプロピレン(PP)層が積層された三層構造(すなわちPP/PE/PPの三層構造)のセパレータシートを好適に採用し得る。また、捲回電極体20に備えられた2枚のセパレータシート70には、それぞれ材質や性状の異なるものを採用することもできる。
【0072】
セパレータシート70は、上記多孔質シートの片面または両面(典型的には片面)に多孔質の耐熱層を備えた耐熱性セパレータであってもよい。この耐熱層は、例えば、無機フィラーとバインダとを含む層であり得る。無機フィラーとしては、例えばアルミナ、ベーマイト、シリカ、チタニア、カルシア、マグネシア、ジルコニア、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等を好ましく採用し得る。耐熱層の平均厚みは、例えば1μm〜10μm程度とし得る。
【0073】
≪非水電解液≫
非水電解液は、非水溶媒中に少なくとも支持塩と、スルホン酸リチウム塩とビニレンカーボネート化合物とを含んでいる。非水電解液は常温(例えば25℃)で液状を呈し、好ましい一態様では、電池の使用環境下(例えば0℃〜60℃の温度環境下)で常に液状を呈する。
【0074】
非水溶媒としては、一般的なリチウム二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を用いることができる。具体例として、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等が例示される。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。なかでも、比誘電率の高いECや、酸化電位が高い(電位窓の広い)DMCやEMCを好適に用いることができる。例えば、非水溶媒として1種または2種以上のカーボネート類を含み、それらカーボネート類の合計体積が非水溶媒全体の体積の60体積%以上(より好ましくは75体積%以上、さらに好ましくは90体積%以上であり、実質的に100体積%であってもよい。)を占める非水溶媒を好ましく用いることができる。
【0075】
支持塩としては、電荷担体イオン(即ち、リチウムイオン)を含むものであれば、一般的なリチウム二次電池と同様のものを適宜選択して使用することができる。例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6等のリチウム塩が例示される。このような支持塩は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい支持塩としてLiPF
6が挙げられる。また、非水電解液は上記支持塩の濃度が0.7mol/L〜1.3mol/Lの範囲内となるように調製することが好ましい。例えば、1.1mol/Lとすることができる。
【0076】
スルホン酸リチウム塩としては、少なくとも1つの−SO
3H基(スルホ基)と、アルコキシ基とを備えた有機スルホン酸化合物のリチウム塩を用いることができる。例えば、上記式(I)で表されるようなアルコキシスルホン酸のリチウム塩を好適に用いることができる。かかるスルホン酸リチウム塩は、公知の方法により作製したもの、あるいは市販品の購入等により入手したものを特に限定せず1種または2種以上用いることができる。
【0077】
式(I)において、R
1は、メチル基、エチル基、プロピル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、又はペンチル基等の炭素原子数1〜12(好ましくは1〜6、より好ましくは1〜3)の直鎖状または分岐状のアルキル基である。好適な一態様では、上記式(I)におけるR
1が、炭素数1〜3のアルキル基(メチル基、エチル基またはプロピル基)であり得る。かかるスルホン酸リチウム塩を用いた場合、正極活物質表面および負極活物質表面に低抵抗かつ安定した被膜を形成することができる。また、かかる被膜はカチオン接近促進効果およびアニオン接近抑制効果のいずれも高レベルで発揮することができる。特に好適な一態様では、R
1として炭素数2のアルキル基(エチル基)であり得る。すなわち、上記式(I)で表される化合物がエトキシ基(CH
3−CH
2−O−)を有することが好ましい。かかる場合、非水電解液に対するスルホン酸リチウム塩の溶解度が向上するため好ましい。
【0078】
このようなスルホン酸リチウム塩の具体例として、メトキシスルホン酸リチウム、エトキシスルホン酸リチウム、プロポキシスルホン酸リチウム、ブトキシスルホン酸リチウム等が挙げられる。なかでも、下式(II)で表されるエトキシスルホン酸リチウムを好適に用いることができる。
【0080】
ビニレンカーボネート化合物としては、下式(III)で表される化合物を用いることができ、公知の方法により作製したもの、あるいは市販品の購入等により入手したものを特に限定せず1種または2種以上用いることができる。
下式(III)において、R
2,R
3は、それぞれ独立して、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の炭素原子数1〜4のアルキル基である。下式(III)で示されるビニレンカーボネート化合物の具体例として、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、エチルメチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、プロピルビニレンカーボネート、ブチルビニレンカーボネート等が挙げられる。特に好適な一態様では、R
2およびR
3がいずれも水素元素であり得る。即ち、ビニレンカーボネート化合物として、ビニレンカーボネートを好適に用いることができる。
【0082】
上記非水電解液中含まれるスルホン酸リチウム塩およびビニレンカーボネート化合物は、典型的には電池構築(組み立て)後の初期充電において分解され、このことによって正極活物質および/または負極活物質の表面に良質な皮膜が形成され得る。したがって、電池構築時において非水電解液中に含まれるこれらの化合物の全量が、必ずしも充放電後(典型的には初期充電後、例えばエージング処理後)において非水電解液中に残存していることを要しない。典型的には、これらの化合物の一部は充放電後(典型的には初期充電後、例えばエージング処理後)においても非水電解液中に残存しているため、かかる化合物を含む非水電解液を用いて構築された電池であることは、非水電解液中にこれらの化合物(スルホン酸リチウム塩およびビニレンカーボネート化合物)が存在することを確認することで把握することができる。
【0083】
なお、電池の構成に用いられたスルホン酸リチウム塩の量(換言すれば、電池ケース内に供給されたスルホン酸リチウム塩の量)は、例えば、上述したICP−AES等の手法によって、負極活物質上に形成された被膜中に取り込まれたスルホン酸リチウム塩の量を定量すること;上述したイオンクロマトグラフィーの手法によって、正負極活物質層の表面に結合(付着)したスルホン酸リチウム塩由来の被膜(典型的にはSO
X吸着層(被膜))中のSO
22−、SO
32−、SO
42−の量を定量すること;電池ケース内に溜まった非水電解液をICの手法で分析してスルホン酸リチウム塩およびそれらの分解物に起因する化学種を定量すること;等の方法により、概ね把握することができる。
【0084】
なお、上記非水電解液中には、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒、支持塩、ビニレンカーボネート化合物、スルホン酸リチウム塩以外の成分(添加剤)を含みうる。かかる添加剤として、例えば、ビフェニル化合物、アルキルビフェニル化合物、シクロアルキルベンゼン化合物、アルキルベンゼン化合物、有機リン化合物、フッ素原子置換芳香族化合物、カーボネート化合物、環状カルバメート化合物、脂環式炭化水素等の芳香族化合物等のガス発生剤;分散剤;増粘剤;等の各種添加剤を含み得る。
【0085】
≪リチウム二次電池の製造方法≫
上述のようなリチウム二次電池は、以下の(1)、(2)の工程を包含する製造方法によって好適に製造し得る。即ちここで開示されるリチウム二次電池の製造方法は、(1)電池組立体構築工程と、(2)充電処理(初期充電)工程とを包含する。
以下、各工程を順に説明する。
【0086】
<(1)電池構築工程>
電池構築工程では、正極と負極と非水電解液とを電池ケース内に収容して電池を構築する。正極および負極は、既に上述したものを用いることができる。
【0087】
非水電解液には上述の非水溶媒と支持塩に加え、スルホン酸リチウム塩とビニレンカーボネート化合物とを含んでいる。これらの非水電解液の構成材料は、上述のものを特に制限なく使用することができる。ビニレンカーボネート化合物およびスルホン酸リチウム塩の一部は、後述する充電処理工程(初期充電工程)において分解され、負極活物質および/または正極活物質の表面に被膜を形成し得る。また、スルホン酸リチウム塩(および該スルホン酸リチウム塩由来の成分)の一部は、上記ビニレンカーボネート化合物に由来のSEI被膜中に取り込まれる。
【0088】
非水電解液中に添加するビニレンカーボネート化合物の添加量は、例えば非水電解液の組成や負極活物質の種類や性状(例えば、粒径や比表面積)等によって異なり得る。一般的には、かかる添加量が少なすぎると被膜の形成効率が低下し、負極活物質表面に形成されるSEI被膜が薄くなる(被膜の形成量が少なくなる)傾向にある。このため、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度が低すぎると、電池の耐久性(例えばサイクル特性や保存特性等)が低下する虞がある。一方で、かかる添加量が多すぎると負極活物質表面に形成されるSEI被膜の形成量が過大となり、充放電に伴う抵抗が増大する虞がある。このため、好適な一態様では、非水電解液中に添加するビニレンカーボネート化合物の添加量を、非水電解液100質量%に対して、0.7質量%以上(好ましくは1.0質量%以上)1.8質量%以下(好ましくは1.5質量%以下)の割合のとなるように調整することが好ましい。或いはまた、非水電解液中に添加するビニレンカーボネート化合物の添加量を、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり40μmol以上110μmol以下となるよう調整してもよい。
【0089】
非水電解液中のスルホン酸リチウム塩の添加量は、例えば非水電解液の組成や活物質の種類や性状(例えば、粒径や比表面積)等によって異なり得る。一般的には、かかる添加量が少なすぎると、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量が低下し、また、正負極表面に形成されるスルホン酸リチウム塩に由来する被膜の形成量が低下する傾向にある。これにより、負極表面での電荷担体濃度の増大効果やアニオン(典型的にはフッ素アニオン)の接近抑制効果が十分に発揮できない虞がある。一方で、かかる添加量が多すぎると、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量が過大となり、かかるSEI被膜の耐久性が低下する虞がある。また、正負極活物質表面に形成されるスルホン酸リチウム塩由来の被膜の形成量が過大となり、充放電に伴う抵抗が増大する虞がある。このため、好適な一態様では、非水電解液中に添加するスルホン酸リチウム塩の添加量を、非水電解液100質量%に対して、0.75質量%以上(好ましくは1.0質量%以上)2.0質量%以下(好ましくは1.5質量%以下)の割合となるように調整することが好ましい。
【0090】
さらに、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中に、好適量のスルホン酸リチウム塩由来の成分を含有させる(取り込ませる)観点からは、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度(質量%)が非水電解液中のスルホン酸リチウム塩の濃度(質量%)の0.5倍以上(好ましくは0.7倍以上)1.8倍以下(好ましくは1.5倍以下)になるように、ビニレンカーボネート化合物の添加量とスルホン酸リチウム塩の添加量とを調整することが好ましい。換言すると、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度C
a(質量%)と、非水電解液中のスルホン酸リチウム塩の濃度C
b(質量%)との比(C
a/C
b)が、0.5≦C
a/C
b≦2.0(好ましくは0.7≦C
a/C
b≦1.5)を満たすように、非水電解液中に添加するビニレンカーボネート化合物の添加量とスルホン酸リチウム塩の添加量とを調整することが好ましい。
【0091】
<(2)充電処理工程>
充電処理工程では、上記正極と上記負極の間に電流を付与する充電処理を行う。この充電処理は、負極の電位(vs. Li/Li
+)が、非水電解液に含まれる上記スルホン酸リチウム塩およびビニレンカーボネート化合物の還元電位以下となるよう行う。好適な一態様では、上記電解液中に含まれるこれら化合物の還元電位より0.05V以上(典型的には0.1V以上、例えば0.3V以上、特に0.5V)低くなるまで、充電処理を行う。例えば、充電処理工程における正負極端子間の電圧(典型的には最高到達電圧)は、使用するスルホン酸リチウム塩やビニレンカーボネート化合物の種類等によっても若干異なるが、3.95V〜4.05V程度とすることができる。
【0092】
充電処理は、例えば充電開始から負極の電位が所定の値に到達するまで(または負極端子間電圧が所定値に到達するまで)、定電流で充電する方式(CC充電)により行ってもよく、上記所定の電位(または電圧)になるまで定電流で充電した後、定電圧で充電する方式(CCCV充電)により行ってもよい。CC充電における充電レートは特に限定されないが、あまりに低すぎると処理効率が低下しがちである。一方、あまりに高すぎると、形成される被膜の質が低下したり、活物質が劣化したりすることがあり得る。このため、例えば0.1C〜2C(典型的には0.5C〜1.5C、例えば0.6C〜1C)とすることが好ましい。これによって、より短時間で、好適な緻密性の(すなわち、低抵抗で、且つ非水電解液との反応を十分抑制し得る)被膜を精度よく形成することができる。このことは、作業効率の観点からも好ましい。なお、「1C」とは正極の理論容量より予測した電池容量(Ah)を1時間で充電できる電流量を意味する。
【0093】
好適な一態様では、充電処理をCCCV充電方式で行う。これによって上記正負極表面に好適な態様の被膜を好適量形成することができる。CV充電を行う時間(上記電位または電圧で保持する時間)は特に限定されないが、あまりに短すぎると被膜の形成が不十分または不均一となって、充放電効率やサイクル特性が低下することがあり得る。一方、あまりに長すぎると作業性が低下したり、条件等によっては被膜の形成が進行しすぎて電池の内部抵抗(例えば、初期抵抗)が上昇したりすることがあり得る。したがって、電池の構成要素や充電処理条件等を変更した場合は、都度、簡単な予備実験を行い、その結果から決定することが好ましい。あるいは、上記所定の電位(または電圧)に到達するまでCC充電した後に、一定時間エージング(放置)することによっても、正極活物質の表面に好適な態様の被膜を好適量の被膜を形成することができる。
【0094】
なお、上記充電処理は一回でもよく、例えば放電処理工程を挟んで、二回以上繰り返し行うこともできる。さらに、電池特性に悪影響を与えない範囲で、上記化合物の還元分解を促進し得るようなその他の操作(例えば、圧力の負荷や超音波の照射)を適宜併用することもできる。
【0095】
ここで開示される電池は各種用途に利用可能であるが、活物質表面の被膜形成の効果(内部抵抗の低減効果、サイクル特性の向上効果等)が好適に発揮され、従来に比べ電池特性が優れていること(例えば、優れた入出力特性、高い耐久性等)を特徴とする。したがって、このような性質を活かして、例えば、車両に搭載される駆動用電源として好適に用いることができる。車両の種類は特に限定されないが、例えばプラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)、電気トラック、原動機付自転車、電動アシスト自転車、電動車いす、電気鉄道等が挙げられる。したがって、本発明によれば、ここで開示されるいずれかのリチウム二次電池を、好ましくは動力源として備えた車両が提供される。車両に備えられるリチウム二次電池は、複数個が接続された組電池の形態であり得る。
【0096】
以下、本発明に関するいくつかの実施例(試験例)を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0097】
まず、以下の材料およびプロセスによって、例1〜例10に係るリチウム二次電池を構築した。
【0098】
[リチウム二次電池の構築]
まず、正極活物質粉末として、LiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2(LNCM)を用意した。かかるLNCMと、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これら材料の質量比率がLNCM:AB:PVdF=93.55:3.75:2.70となるよう混練機に投入し、N−メチルピロリドン(NMP)で粘度を調整しながら混練して、正極活物質スラリーを調製した。このスラリーを、厚み12μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布して、乾燥後にプレスすることによって正極集電体上に正極活物質層を有する正極シート(例1〜例10)を作製した。
【0099】
次に、負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、分散剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これら材料の質量比がC:SBR:CMC=99:0.5:0.5となるよう混練機に投入し、イオン交換水で粘度を調整しながら混練して、負極活物質スラリーを調製した。このスラリーを、厚み8μmの長尺状銅箔(負極集電体)の両面に塗布して、乾燥後にプレスすることによって負極集電体上に負極活物質層を有する負極シート(例1〜例10)を作製した。
【0100】
セパレータとして、ポリエチレン(PE)の両面にポリプロピレン(PP)が積層された三層構造であって、片面に多孔質の耐熱層(Heat Resistance Layer:HRL)を備えたものを準備した。かかる耐熱層は、無機フィラーとしてベーマイトと、バインダとしてのSBRとを、それらの材料の質量比が96:4となるように水中で分散し、無機フィラー層形成用組成物を調製した。この無機フィラー層形成用組成物を、上記セパレータ基材の表面(片面)に塗布し乾燥することによって、セパレータ基材の上に厚さ4μmの耐熱層を形成した。このようにして、総厚み(平均総厚み)が、16μmのセパレータを作製した。
【0101】
上記で作製した正極シートと負極シートとを、上述のとおりに準備した2枚のセパレータシートとともに捲回し、扁平形状に成形して電極体を作製した。ここで、上記セパレータは、HRL層が正極活物質層に対向する方向となるように、正負極シートと積層した。
【0102】
次に、電池ケースの蓋体に正極端子および負極端子を取り付け、これらの端子を、捲回電極体端部に露出した正極集電体および負極集電体にそれぞれ溶接した。このようにして蓋体と連結された捲回電極体を、電池ケースの開口部からその内部に収容し、開口部と蓋体を溶接した。
【0103】
そして、上記蓋体に設けられた電解液注入孔から非水電解液を注入し、当該電解液注入孔を気密に封止した。非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:DMC:EMC=30:40:30の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF
6を1.1mol/Lの濃度で溶解させ、さらにガス発生剤としてのシクロヘキシルベンゼン(CHB)およびビフェニル(BP)と、スルホン酸リチウム塩と、ビニレンカーボネート化合物と、を含有させたものを用いた。ここで、スルホン酸リチウム塩としては、エトキシスルホン酸リチウムを用い、ビニレンカーボネート化合物としては、ビニレンカーボネート(VC)を用いた。
上記エトキシスルホン酸リチウムの添加は、非水電解液中のエトキシスルホン酸リチウムの濃度が、非水電解液100質量%に対して表1の「LS濃度(質量%)」の欄に示す濃度となるよう行った。また、上記ビニレンカーボネートの添加は、非水電解液中のビニレンカーボネートの濃度が、非水電解液100質量%に対して表1の「VC濃度(質量%)」の欄に示す濃度となるよう行った。このとき、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度C
a(質量%)と非水電解液中のスルホン酸リチウム塩の濃度C
b(質量%)との濃度比(C
a/C
b)を算出した。かかる濃度比を、表1の「濃度比(C
a/C
b)」の欄に示す。また、上記CHBの添加は、非水電解液中のCHB濃度が、非水電解液100質量%に対して4質量%となるよう行った。また、上記BPの添加は、非水電解液中のBP濃度が、非水電解液100質量%に対して1質量%となるよう行った。
このようにして、例1〜例10に係る電池組立体を構築した。
【0104】
上記のとおりに構築した例1〜例10に係る電池組立体について、充電処理(初期充電)およびエージング処理を行い、各例に係る電池を構築した。具体的には、充電処理(初期充電処理)として、25℃の温度環境下において、1Cの充電レート(定電流)で、正負極端子間の電圧が3.95Vに到達するまで定電流充電(CC充電)を行った後、電流値が0.02Cになるまで定電圧充電(CV充電)を行った。そして、エージング処理として、上記充電処理後の各電池を60℃の温度環境下(典型的には60℃に調温した恒温槽内)に24時間放置した。
このようにして、例1〜10にかかるリチウム二次電池を、それぞれ電池特性評価用および被膜分析用に構築した。
【0106】
[初期電池容量(定格容量)の測定]
上記エージング処理後の電池について、温度25℃、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、以下の手順1〜3にしたがって定格容量を測定した。
(手順1)0.1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10分間休止する。
(手順2)0.1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、電流が1/100Cとなるまで定電圧充電し、その後、10分間休止する。
(手順3)0.1Cの定電流放電によって、3.0Vに到達後、電流が1/100Cとなるまで定電圧放電し、その後、10分間休止する。
そして、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を初期電池容量とした。
【0107】
[初期抵抗(IV抵抗)の測定]
次に、上述のとおりに構築した各電池の初期抵抗(IV抵抗)を測定した。まず、SOC(State of Charge:充電状態)が60%の状態となるまでCC充電を行った。次に、−10℃の温度条件下において、かかるSOC60%に調整した各電池に対し、10Cの放電レートで10秒間のCC充電を行って、電圧上昇の値(V)を測定した。そして、測定された電圧上昇の値(V)を、対応する電流値で除してIV抵抗(mΩ)を算出し(典型的には、電流(I)−電圧(V)のプロット値の一次近似直線の傾きからIV抵抗(mΩ)を算出し)、その平均値を初期抵抗とした。結果を、表1の「初期IV抵抗」の欄に示す。
【0108】
[高温保存耐久試験]
次に、SOCが85%の状態となるまでCC充電を行った。SOC85%に調整した各電池を、60℃の温度環境下で(ここでは60℃に調温した恒温槽内で)凡そ4800時間(200日間)放置(保存)した。そして、かかる高温保存耐久試験終了後の各電池を恒温槽から取り出して、上記初期容量測定および上記初期IV抵抗測定と同様の方法で、高温保存耐久試験後の電池容量およびIV抵抗を測定した。高温保存耐久試験後のIV抵抗について、各電池の測定結果を表1の「耐久後IV抵抗(mΩ)」の欄に示す。
次いで、以下の式:容量維持率(%)=高温保存耐久試験後の電池容量÷初期電池容量×100;から容量維持率(%)を算出した。結果を表1の「容量維持率(%)」の欄に示す。また、以下の式:抵抗増加率(%)=高温保存耐久試験後のIV抵抗÷初期IV抵抗×100;から抵抗増加率(%)を算出した。結果を表1の「抵抗増加率(%)」の欄に示す。
【0109】
[被膜分析]
また、別途作成した各電池(エージング処理後の電池)を正負極端子間電位が3Vの状態(SOC0%の状態)までCC−CV放電した後、解体して電極および非水電解液を取り出して被膜の分析を行った。
【0110】
スルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/m
2)は、以下の方法で測定した。具体的には、先ず、エージング処理後の各電池をグローブボックス内で解体し、正極および負極を取り出した。次に、この正極および負極を非水電解液として用いたEMC中に10分程度浸漬した後、それぞれ適当な大きさ(ここではΦ40mm)にて各10枚ずつを切り出した。そして、切り出した正極および負極(IC測定用の試料)を、50%アセトニトリル(CH
3CN)水溶液中に凡そ10分間浸漬させて、スルホン酸リチウム塩由来の被膜成分(スルホン酸リチウム塩由来の成分)を抽出した。次に、かかる溶液をICで定量分析し、得られた結果から測定対象のイオン(例えば、SO
22−、SO
32−、SO
42−)の含有量(μmol)を定量する。各イオンの定量値(μmol)を合計して、測定に供した負極活物質層の面積(cm
2)で除すことにより、活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜の量(μmol/cm
2)を、スルホン酸基換算として定量した。なお、分析装置としては、日本ダイオネクス社製のイオンクロマトグラフ装置(ICS−3000)を使用した。そして、得られた活物質層の単位面積あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/cm
2)を、活物質のBET比表面積(m
2/g)と活物質の目付量(g/cm
2)の積で除すことによって、正極活物質および負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりの被膜量(μmol/m
2)を、スルホン酸基換算で算出した。結果を、表1の「LS被膜量(μmol/m
2)」の欄に示す。
【0111】
また、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の量(μmol/m
2)は、以下の方法で測定した。具体的には、先ず、エージング処理後の各電池をグローブボックス内で解体し、電池ケース内に貯留している非水電解液を回収した。また、電極体(典型的には電極の層間)および電池ケース内等の非水電解液が接触し得る部材の表面を適当な溶媒(例えばEMC)で洗浄し、該洗浄液を回収した。上記非水電解液と上記洗浄液とをガスクロマトグラフィー(GC:Gas Chromatography)で定量分析することによって、これらの溶液中に含まれるビニレンカーボネート化合物の量(μmol)を定量した。カラムはAgirent Technologies社製のHP−1カラム(長さ60m、内径0.32mm、膜厚1.00μm)を用い、検出器はFID検出器(水素炎イオン化検出器:Flame Ionization Detector)を用いた。なお、カラムの温度条件は、50℃に調温しておいたカラムを、5℃/分の速度で110℃まで昇温し、110℃に3分間保持した後で、20℃/分の速度で280℃まで昇温するものとした。なお、分析装置としては、島津製作所社製のガスクロマトグラフ装置(GC17A)を使用した。
そして、電池の構築に用いた非水電解液中に含まれるビニレンカーボレート化合物の量(μmol)から上記定量したビニレンカーボネート化合物の量(μmol)を減算することで、被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)を算出した。かかるビニレンカーボネート化合物の分解量(μmol)を、活物質の表面積の総和(総表面積)(m
2)、即ち、負極活物質層の形成に用いた負極活物質の総質量(g)と負極活物質のBET比表面積(m
2/g)との積で除すことによって、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりの被膜量(μmol/m
2)を、被膜の構成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算の被膜量として算出した。結果を、表1の「VC被膜量(μmol/m
2)」の欄に示す。
【0112】
また、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の比率(モル比)は、以下の方法で測定した。
先ず、エージング処理後の各電池をグローブボックス内で解体し、負極を取り出した。次に、この負極を非水電解液として用いたEMC中に10分程度浸漬した後、それぞれ適当な大きさ(ここではΦ40mm)にて各10枚ずつを切り出した。そして、切り出した負極(ICP−AES測定用の試料)を、王水中に凡そ10分間浸漬させて、測定対象となるスルホン酸リチウム塩由来の成分を溶媒中に抽出した。次に、かかる溶液をICP−AES分析することによって、負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸基(典型的にはS元素)の量(μmol)を定量した。即ち、負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量を、スルホン酸基(典型的にはS元素)換算で測定した。なお、分析装置としては、島津製作所社製のICP−AES分析装置(ICPS−8100)を使用した。そして、得られたスルホン酸リチウム塩由来の成分の元素量(μmol)を、測定に供した負極(ICP−AES測定用の試料)の面積で除すことにより、負極活物質層の単位面積当たりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)を、スルホン酸基換算で算出した。
そして、得られた負極活物質層の単位面積(1m
2)あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)から、負極活物質層の単位面積(1m
2)あたりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/m
2)を減算した。ここで、該負極活物質層の単位面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/m
2)として、上述のとおりの方法(段落0110に記載の方法)で負極活物質の単位表面積(1m
2)当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/m
2)を測定する過程で算出された負極活物質層の単位面積当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/cm
2)を、1m
2あたりの被膜量(μmol/m
2)に換算した値を採用した。
次いで、上述のとおりの方法で測定した、負極活物質表面のビニレンカーボネ―ト化合物由来のSEI被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物の量(分解量)を、負極活物質層の形成面積(m
2)で除した。これにより、負極活物質層の単位面積あたりのビニレンカーボネート由来の被膜量(μmol/m
2)を、被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で算出した。
そして、上述のとおり、負極活物質層の単位面積あたりに存在する全スルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)から負極活物質層の単位面積当たりのスルホン酸リチウム塩由来の被膜量(μmol/m
2)を減じて得られたスルホン酸リチウム塩由来の成分の量(μmol/m
2)を、負極活物質層の単位面積あたりのビニレンカーボネート化合物由来の被膜量(μmol/m
2)で除すことで、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中に含まれるスルホン酸骨格を有するリチウム塩の割合(モル比)を算出した。結果を、表1の「VC被膜中のLS含有割合」の欄に示す。
【0113】
まず、ビニレンカーボネート化合物とスルホン酸リチウム塩の両方を用いた例1〜例9と、スルホン酸リチウム塩を用いずにビニレンカーボネート化合物のみを用いた例10について比較する。
表1に示すように、本発明に係る例1〜例9では、初期抵抗が4mΩ以下(好ましくは3.9mΩ以下)と低く、また、耐久試験後の抵抗も4.5mΩ以下(好ましくは4.2mΩ以下)と低かった。そして、耐久試験後の抵抗増加率も130%以下(好ましくは129%以下)と低く抑えられていた。さらには、耐久試験後の容量維持率も85%よりも大きい(より具体的には89%以上の)高い値を示した。この理由としては、(1)ビニレンカーボネート化合物を用いたことで充電処理時に該ビニレンカーボネート化合物の共重合が進行し、良質な(低抵抗且つ強固な)SEI被膜が負極上に形成されたこと、(2)ビニレンカーボネート化合物およびスルホン酸リチウム塩を用いたことで、上記ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に該スルホン酸リチウム塩由来の成分が取り込まれ、負極活物質表面の電荷担体の濃度が増大したこと、(3)スルホン酸リチウム塩を用いたことで、負極上にスルホン酸リチウム塩由来の成分(典型的にはSO
X(ここで、X=2〜4)で表されるS元素含有基)を有する被膜がされ、負極活物質層表面の電荷担体の濃度が増大したこと、(4)スルホン酸リチウム塩を用いたことで、正極上にスルホン酸リチウム塩由来の成分(典型的にはSO
X(ここで、X=2〜4)で表されるS元素含有基)を有する被膜が形成され、フッ素アニオンの接近が抑制され、抵抗成分たるフッ化リチウムの生成量が減少したこと、等が考えられる。
【0114】
これに対し、ビニレンカーボネート化合物のみを用いた例10では、初期抵抗が高かった(初期特性が劣っていた)。この理由としては、ビニレンカーボネート化合物由来の被膜中にスルホン酸リチウム塩由来の成分が取り込まれなかったこと、および、負極表面にスルホン酸リチウム塩由来の被膜(典型的にはSO
X(ここで、X=2〜4)で表されるS元素含有基を有する被膜)が形成されなかったために、負極活物質表面の電荷担体濃度の増大効果が発揮されなかったことが考えられる。また、例10では、耐久試験後の抵抗が高い値を示しており、抵抗増加率が大きかった。また、例10では、耐久試験後の容量維持率が低かった。この理由としては、正極表面にS元素含有基を有する被膜が形成されなかったためにフッ素アニオンの接近を抑制することができず、フッ化リチウム(抵抗成分)が増大したことが考えられる。
かかる結果は、本発明の技術的意義を示すものである。
【0115】
また、表1に示すように、本発明に係る例1〜例9は、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度C
a(質量%)とスルホン酸リチウム塩の濃度C
b(質量%)の比(C
a/C
b)が、0.5≦C
a/C
b≦1.8の範囲内であった。即ち上記の比(C
a/C
b)が、0.5≦C
a/C
b≦1.8となるように、非水電解液中に添加するビニレンカーボネート化合物の添加量とスルホン酸リチウム塩の添加量を調整することで、本発明の効果を好適に発揮し得ることを確認した。
この理由としては、(1)上記C
a/C
bが大きくなると、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有割合(モル比)が低下する傾向にあるため、上記C
a/C
bが大きすぎると負極活物質表面での電荷担体濃度の増大効果が十分に発揮されない場合があること、(2)上記C
a/C
bが小さくなると、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有割合(モル比)が増大する傾向にあるため、上記C
a/C
bが小さすぎるとビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の強度が低下し、耐久特性が低下する場合があることが考えられる。
なかでも、例1〜5、7、9の初期特性および高温保存耐久特性についての試験結果から、上記Ca/Cbが、0.7≦C
a/C
b≦1.5の範囲を満たす非水電解液を用いることで、初期特性と耐久特性の両方をより高レベルで実現可能であることを確認した。ここで、例1〜5、7、9は、初期抵抗が3.6mΩ以下であり、耐久試験後の容量維持率が90%以上(例えば91%以上)であり、耐久試験後の抵抗が4.1mΩ以下であり、且つ、耐久試験後の抵抗増加率が123%以下であった。
【0116】
また、表1に示すように、本発明に係る例1〜例9は、非水電解液中に添加するビニレンカーボネート化合物の添加量が0.7質量%以上1.8質量%以下であった。即ち、即ち、ビニレンカーボネート化合物の添加量を上記範囲内となるように調整することで、本発明の効果を好適に発揮し得ることを確認した。
この理由としては、例えば以下のことが考えられる。上記ビニレンカーボネート化合物の添加量が多すぎると、負極活物質上に形成される該化合物由来のSEI被膜の形成量が増大し(被膜が厚くなり)、リチウムイオンの吸蔵および放出が妨げられ、初期抵抗および耐久試験後の抵抗(即ち、抵抗の絶対値)が増大する場合があることが考えられる。一方で、上記ビニレンカーボネート化合物の添加量が少なすぎると、負極活物質上に十分な量のSEI被膜を形成することができず、非水電解液が還元分解され、耐久特性が低下(容量維持率の低下、耐久試験後の抵抗の増大、耐久試験後の抵抗増加率の増大)する場合があることが考えられる。
なかでも、非水電解液中のビニレンカーボネート化合物の濃度が1.0質量%以上1.5質量%以下である例1〜3は、例7、8に比べて、初期特性および高温保存耐久特性のいずれも優れていた。例1〜3、7、8は、それぞれ非水電解液中に添加したスルホン酸リチウム塩の添加量が同じであり且つビニレンカーボネート化合物の添加量が異なっている。即ち、ビニレンカーボネート化合物の添加量を1.0質量%以上1.5質量%以下の範囲に調整することで、初期特性と耐久特性の両方をさらに高レベルで実現可能であることを確認した。
【0117】
また、表1に示すように、本発明に係る例1〜例9は、非水電解液中に添加するスルホン酸リチウム塩の添加量が0.75質量%以上2質量%以下であった。即ち、スルホン酸リチウム塩の添加量を上記範囲内となるように調整することで、本発明の効果を好適に発揮し得ることを確認した。
この理由としては、例えば以下の理由が考えられる。上記スルホン酸リチウム塩の添加量が多すぎると、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれる該リチウム塩の割合が多くなり、該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の強度が低下するために耐久特性が低下(容量維持率の低下、耐久試験後の抵抗の増大、耐久試験後の抵抗増加率の増大)する場合があることが考えられる。一方で、上記スルホン酸リチウム塩の添加量が少なすぎると、ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中に含まれる該リチウム塩由来の成分の割合が少なくなり、負極活物質表面での電荷担体濃度の増大効果が十分に発揮できない場合があることが考えられる。
なかでも、非水電解液中のスルホン酸リチウム塩の濃度が1.0質量%以上1.5質量%以下である例1、3、4は、例6、9に比べて、初期特性および高温保存耐久特性のいずれも優れていた。例1、3、4、6、9は、それぞれ非水電解液中に添加したビニレンカーボネート化合物の添加量が同じであり且つスルホン酸リチウム塩の添加量が異なっている。即ち、スルホン酸リチウム塩の添加量を1.0質量%以上1.5質量%以下の範囲に調整することで、初期特性と耐久特性の両方をさらに高レベルで実現可能であることを確認した。
【0118】
また、表1に示すように、例1〜9は、負極活物質表面にはビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜が形成されており、該被膜の形成量は、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり、該被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で25μmol〜65μmol(好ましくは27μmol〜64μmol)であった。また、かかるビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中には、該被膜を構成するビニレンカーボネート化合物1mol当たり、スルホン酸基換算で0.05〜0.15molのスルホン酸リチウム塩由来の成分が含まれていた。即ち、負極活物質表面に形成されるビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の形成量と、該SEI被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量を上記範囲とすることで、本発明の効果を好適に発揮し得ることを確認した。
なかでも、例1〜5は、例6〜9に比べて、初期特性および高温保存耐久特性のいずれも優れていた。例1〜5は、負極表面に形成されたビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の形成量が、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり、該被膜の形成に消費されたビニレンカーボネート化合物換算で30μmol〜60μmolであり、また、該ビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜中には、該被膜を構成するビニレンカーボネート化合物1mol当たり0.07〜0.11molのスルホン酸リチウム塩由来の成分が含まれていることを確認した。このことから、負極活物質表面に形成されるビニレンカーボネート化合物由来のSEI被膜の形成量、および、該被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量を上記範囲とすることが好ましい。さらに、上記例1〜5は、負極活物質表面に形成されたスルホン酸リチウム塩由来の被膜の被膜量が、スルホン酸基換算で、負極活物質の単位表面積(1m
2)当たり10μmol〜20μmolであった。このことから、上記負極活物質表面に形成されるビニレンカーボネート化合物由来の被膜の形成量、および、該被膜中に含まれるスルホン酸リチウム塩由来の成分の含有量を上記範囲とすることに加え、さらに負極活物質表面に形成されるスルホン酸リチウム塩由来の被膜の被膜量を上記範囲とすることが好ましい。
【0119】
特に、例1〜4は、例5に比べて、さらに初期特性および高温保存耐久特性のいずれも優れていた。例1〜4と例5について、正極上に形成された被膜を分析した結果を比較してみると、例1〜4は正極活物質上に形成されたスルホン酸リチウム塩由来の被膜が、正極活物質の単位表面積(1m
2)当たり、スルホン酸基塩換算で、10μmol〜15μmol形成されていることを確認した。正極活物質表面に形成されるスルホン酸リチウム塩由来の被膜の形成量は、多すぎると正極活物質表面の被膜が厚くなり、リチウムイオンの吸蔵および放出が妨げられる場合があると考えられる。一方で、正極活物質表面に形成されるスルホン酸リチウム塩由来の被膜の形成量は、少なすぎると正極表面で非水電解液が酸化分解され、LiFの生成量が増大する場合があると考えられる。このことから、正極活物質表面に形成されるルホン酸リチウム塩由来の被膜の形成量は、上記範囲とすることが好ましい。
【0120】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態および実施例は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。