特許第6181637号(P6181637)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181637
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】多層電子デバイス
(51)【国際特許分類】
   H05B 33/26 20060101AFI20170807BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20170807BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20170807BHJP
   H05B 33/04 20060101ALI20170807BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20170807BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20170807BHJP
   H01L 51/44 20060101ALI20170807BHJP
   G02F 1/155 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   H05B33/26 Z
   B32B15/08 M
   H05B33/14 A
   H05B33/04
   H05B33/02
   H05B33/10
   H01L31/04 130
   G02F1/155
【請求項の数】13
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-503202(P2014-503202)
(86)(22)【出願日】2012年4月6日
(65)【公表番号】特表2014-516455(P2014-516455A)
(43)【公表日】2014年7月10日
(86)【国際出願番号】FR2012050756
(87)【国際公開番号】WO2012143648
(87)【国際公開日】20121026
【審査請求日】2015年2月18日
(31)【優先権主張番号】1153109
(32)【優先日】2011年4月8日
(33)【優先権主張国】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン−ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】クレール トゥーマゼ
(72)【発明者】
【氏名】マルタン ピトン
(72)【発明者】
【氏名】シャルル レイドル
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/020974(WO,A1)
【文献】 特表2013−502366(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/029787(WO,A1)
【文献】 特表2013−504863(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/026488(WO,A1)
【文献】 特表2011−512665(JP,A)
【文献】 特表2013−504776(JP,A)
【文献】 特表2009−528932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00−33/28
B32B 15/08
G02F 1/155
H01L 51/44
H01L 51/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ポリマー層(1;102;202;302;308)、及び前記ポリマー層に対して位置している電極(3;403;503)を含み;前記電極(3;403;503)が、n層の薄い金属層(31;431;531)と、(n+1)層の反射防止コーティング((M1≦i≦n+1)(n≧1)とを交互に含む、透明な薄層の積層体によって構成されており;かつ各々の薄い金属層(31;431;531)が、2つの反射防止コーティング(M)の間に位置している、多層電子デバイス(10;20;120;230;330)であって、
前記多層電子デバイスは、以下(A)又はBのいずれかであることを特徴とする、多層電子デバイス:
(A)スーパーストレートモードで製造され、前記ポリマー層(1;308)は、前記電極(3;403;503)を構成する前記積層体が堆積される前面基材であり、前記電極(3;403;503)は以下を含むこと:
− 比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも4つの層(32〜35;532〜535)を含み、かつ前記ポリマー層の最も近くに位置する最終反射防止コーティング(M)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第1のバリア積層体(B)、
及び/又は
− 比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも3つの層(537〜539)を含み、かつ前記ポリマー層から最も離れて位置する最終反射防止コーティング(Mn+1)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第2のバリア積層体(B);
(B)サブストレートモードで製造され、前記ポリマー層(102;202;302)は、前記電極(3;403;503)と前面基材(101;201;301)との間に位置する積層中間層であり、前記電極(3;403;503)は以下を含むこと:
− 比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも4つの層(32〜35;532〜535)を含み、かつ前記ポリマー層に最も離れて位置する最終反射防止コーティング(M)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第1のバリア積層体(B)、
及び/又は
− 比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも3つの層(537〜539)を含み、かつ前記ポリマー層から最も近くに位置する最終反射防止コーティング(Mn+1)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第2のバリア積層体(B);
ここで、前記電極のバリア積層体又は各バリア積層体(B、B)について、前記バリア積層体の各薄層が、ドープされた若しくはドープされていない酸化物、窒化物、又はオキシ窒化物である。
【請求項2】
前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、薄い金属層(31;431;531)の下に位置する各反射防止コーティング((M1≦i≦n)が、前記薄い金属層の下の層として、酸化物結晶に基づく濡れ層(35;433;535)を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、薄い金属層(31;431,531)の上に位置する各反射防止コーティング((M2≦i≦n+1)が、薄い金属層の上にある層として、酸化された又は酸化されていない薄い金属オーバーブロッカー層(36;436;536)を含む、請求項1又は2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記電極(3;403;503)の少なくとも1つのバリア積層体(B、B)(3;403;503)が、比較的低い結晶化度と比較的高い結晶化度とを交互に有する少なくとも3つの連続層(32〜35;437〜439;532〜535;537〜539)を含み、比較的高い結晶化度の層の結晶化度の、比較的低い結晶化度の層の結晶化度に対する比が、1.1以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記少なくとも3つの連続層(32〜35;437〜439;532〜535;537〜539)が、交互にアモルファス状態と少なくとも部分的に結晶性の状態となっている、請求項4に記載のデバイス。
【請求項6】
前記電極のバリア積層体又は各バリア積層体(B、B)を構成する層が、比較的低い屈折率と比較的高い屈折率とを交互に有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記電極のバリア積層体又は各バリア積層体(B、B)について、前記バリア積層体の各薄層が、200nm未満の幾何学的厚みを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記ポリマー層が、前記電極に対して位置している有機界面層又は有機−無機ハイブリッド界面層を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
有機発光ダイオードデバイス(10)であり、ここで前記電極が有機発光ダイオード(12)の電極であり、前記ポリマー層(1)が、前記有機発光ダイオードを封止するための構造の全部又は一部である、請求項1〜のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
光起電デバイスであり、ここで前記電極が光起電セル(13;113)の電極であり、前記ポリマー層(1;102)が光起電セルを封止するための構造の全部又は一部である、請求項1〜のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
エレクトロクロミックデバイス(230;330)であり、ここで前記電極がエレクトロクロミックシステム(214;314)の電極であり、前記ポリマー層(202;302;308)がエレクトロクロミックシステムを封止するための構造の全部又は一部である、請求項1〜のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記バリア積層体又は各バリア積層体(B、B)の薄層の少なくとも一部を、スパッタリングによって堆積する、請求項1〜11のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
【請求項13】
前記バリア積層体又は各バリア積層体の層を含む、前記電極を構成する積層体の薄層の全てを、スパッタリングによって堆積する、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層電子デバイス及びこのようなデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多層電子デバイスは、能動部とこの能動部のいずれかの側の2つの導電性コーティングで構成される機能素子を含む。多層電子デバイスの例としては、詳細には、内部の機能素子がOLEDであり、その能動部が電子エネルギーを光に変換するように設計されている有機発光ダイオード(OLED)デバイス;内部の機能素子が光起電セルであり、その能動部が光からのエネルギーを電気エネルギーに変換するように設計されている光起電デバイス;内部の機能素子がエレクトロクロミックシステムであり、その能動部が、第1の状態とこの第1の状態のものとは異なる光透過特性及び/又はエネルギー伝達特性を有する第2の状態との間で可逆的に切り換えるように設計されているエレクトロクロミックデバイスがある。
【0003】
公知の通り、使用される技術の如何に関わらず、多層電子デバイスの機能素子は、環境条件の効果、特に空気又は湿気に対する曝露の効果に起因して、劣化する傾向がある。一例として、OLED又は有機光起電セルの場合、有機材料は、環境条件に対する感応性が極めて高い。無機吸収層を含む薄膜光起電セル又はエレクトロクロミックシステムの場合、TCO(透明導電性酸化物)層又は透明金属層に基づく透明電極も同様に、環境条件の効果に起因して劣化する傾向がある。
【0004】
空気又は湿気に対する曝露に起因する劣化から多層電子デバイスの機能素子を保護するために、機能素子が、前面保護基材、そして場合によっては背面保護基材によって封止されている積層構造を有するデバイスを製造することが公知である。
【0005】
デバイスの利用分野に応じて、前面基材及び背面基材は、ガラス又は有機ポリマー材料で製造されてよい。ガラス基材ではなくむしろ可撓性ポリマー基材で封止された光起電セルは折畳みが可能であり、超薄型でかつ軽量であるという利点を有する。その上、黄銅鉱化合物に基づく吸収層、特に銅、インジウム及びセレンを含有する黄銅鉱化合物に基づく吸収層、いわゆるCIS吸収層、それに随意にガリウム(CIGS吸収層)、アルミニウム又は硫黄を添加した層を含むエレクトロクロミックシステム又は光起電セルの場合、デバイスは従来、有機ポリマー材料で製造された中間層を用いた積層体により組み立てられる。機能素子の電極とそれに対応する保護基材との間に位置する積層中間層は、このときデバイスの適切な接合を保証することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多層電子デバイスが、空気及び/又は湿気に対し感応性を有する機能素子に対して位置する有機ポリマー積層中間層又は有機ポリマー基材を含む場合、デバイスが劣化する割合が高くなるということが発見された。これは、湿気を蓄える傾向をもつ有機ポリマー積層中間層の存在、又は高い透過性を有する有機ポリマー基材の存在が、水蒸気又は酸素などの汚染種の移動を促進し、したがってこの機能素子の特性を損なうからである。
【0007】
より詳しくは、本発明は、空気及び湿気に対するその機能素子の耐性が改善されているために優れた長期性能レベルを有し、かつその製造方法が単純で容易に工業化可能である多層電子デバイスを提供することによってこれらの欠点を是正するように意図されている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このため、本発明の1つの目的は、有機ポリマー層とポリマー層に対して位置している電極とを含む多層電子デバイスにおいて、電極が、n層の薄い金属層、特に銀又は銀含有金属合金に基づく薄い層と、(n+1)層の反射防止コーティング(n≧1)とを交互に含む透明な薄層積層体によって構成されており、ここで各々の薄い金属層は、2つの反射防止コーティングの間に多層電子デバイスであって、電極が、
− 電極を構成する積層体の堆積方向で、n層の薄い金属層の下に位置する最終反射防止コーティング中の、湿気及び気体に対するバリアである第1のバリア積層体であって、比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも4つの層を含む第1のバリア積層体、
及び/又は
− 電極を構成する積層体の堆積方向で、n層の薄い金属層の上に位置する最終反射防止コーティング中の、湿気及び気体に対するバリアである第2のバリア積層体であって、比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも3つの層を含む第2のバリア積層体、
を含むことを特徴とする多層電子デバイスにある。
【0009】
本発明の意味合いにおいて、薄層とは、1マイクロメートル未満の厚みを有する層を意味するものと理解される。さらに、本発明の文脈内で、層又は層積層体は、それが少なくとも意図された利用分野にとって有用な波長範囲内で透明である場合に、透明とみなされる。一例としては、多結晶シリコンに基づく光起電セルを含む光起電デバイスの場合、各々の透明層又は層積層体は、有利には、このタイプの電池にとって有用な波長である400nm〜1200nmの間の波長範囲内で透明である。
【0010】
本発明に係るデバイスにおいて、電極は、所望の最小閾値より高い電気伝導度を有している必要がある。本発明の文脈内で、デバイスの電極は、有利には10オームパースクエア未満のシート抵抗、好ましくは5オームパースクエア未満のシート抵抗を有する。電極のこの電気伝導度は、本発明によると、環境条件の効果の下でほとんど又は全く劣化しないデバイスの特性の一部をなすものである。
【0011】
本発明の目的によると、その連続層が比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有している少なくとも1つの多層バリア積層体が存在することにより、ポリマー層から電子デバイスの感応性層に向かう汚染種、例えば水蒸気又は酸素の移動を制限することが可能となっている。詳細には、このような多層バリア積層体の能力は、同一の全幾何学的厚みについて、単層バリアコーティングで得られるものよりも優れていることがわかる。実際、比較的低い密度の層と比較的高い密度との層が交互にあることで得られる多層バリア積層体内の多数の界面の存在は、汚染種が感応性層に到達するのに必要とされる距離を延長させる。バリア効果は、バリア積層体内の界面が多くなるにつれて増大する。
【0012】
さらに、多層バリアは同じ厚みの単層バリアよりも優れた機械的特性を有すると考えられる。連続層が存在することによって応力の緩和が可能となり、こうしてバリア内の欠陥の形成が制限される。したがって、亀裂は汚染種、例えば水蒸気又は酸素の拡散を促進する経路であるため、多層バリアが亀裂を発生させる確率が低いということは、保護の観点から見て有利である。
【0013】
さらに、本発明によると、電子デバイスの電極自体が湿気及び気体に対するバリアとして作用する。したがって、デバイスの機能素子に加えて補足的バリア層を提供する必要はない。その結果、多くの利点がもたらされる。詳細には、補足的バリア層がポリマー層と電極の間に提供されている電子デバイスに比べて:
○ 各バリア積層体が電極の反射防止コーティング内に直接統合されているかぎりにおいて、この積層体は、湿気及び気体に対するバリア機能と、電極の金属層の反射防止機能とを同時に提供する。これら2つの機能を同一の積層体が行うことによって、層の数を制限し、そうして補足的バリア層が提供される場合と比べて材料を節約することが可能になる。また、層数の削減には、電極の表面粗度の制限という利点もあり、こうして特に、その後のOLED又は光起電セルの能動層の堆積に求められる低粗度要件を満たすことが可能になる。一例を挙げると、OLEDの有機層の堆積のためには、多くの場合、10nm未満、好ましくは2nm未満さらには1nm未満のRMS粗度が必要である。
○ 層数の削減に起因して、デバイスの製造のために提供すべき層の堆積の回数も同様に削減される。こうしてデバイスの製造方法は簡略化され、迅速かつ容易に工業化可能なものとなる。有利には、バリア積層体の層は、同一の堆積プロセス、詳細にはマグネトロンスパッタリングによって、電極の他の層と共に連続的に堆積してよい。このような連続堆積プロセスにより、表面粗度の増大を誘発する傾向をもつと思われるバリア層と電極の他の層の間の界面の通気を回避することが可能になる。
○ 公知の通り、薄い金属層を含む電極は、干渉によって最適化された光学特性を有する薄層積層体で構成されている。より具体的には、電極を構成する積層体内で、薄い金属層(単複)は電極にその電気伝導特性を与え、一方それらをとり囲む反射防止コーティングは、光学的外観に干渉によって作用し、電極にその透明性特性を与える。実際、薄い金属層は、各々の薄い金属層がおよそ10nmの小さい幾何学的厚みであっても、所望の電気伝導特性を得ることを可能にするが、これらの層は、光、特に可視波長範囲内の光の通過を強く妨害する。したがって、優れた光透過率を確保するためには、各々の薄い金属層の両側に反射防止コーティングが必要である。しかしながら、典型的には各バリア層が約10〜100ナノメートルのオーダーの厚みを有する補足的バリア層が、ポリマー層と電極の間の所定の場所に位置する場合、これは電極の積層体を光学的に乱す。本発明はこの問題を克服できるようにする。すなわち電極の積層体内に直接各バリア積層体を統合することによって、バリア層を含めた積層体全体が光学的に最適化される。
【0014】
本発明の他の有利な特徴を以下に記述するが、これらは別個に又は考えられる任意の技術的組合せの形で取り上げられてよい。
【0015】
1つの有利な特徴によると、電極を構成する積層体の堆積方向で、薄い金属層の下に位置する各反射防止コーティングは、薄い金属層の下にある層として、酸化物結晶、特に酸化亜鉛ZnOに基づく濡れ層を含む。この濡れ層は、薄い金属層の濡れ及び核形成を促進するように意図されている。
【0016】
別の有利な特徴によると、電極を構成する積層体の堆積方向で、薄い金属層の上に位置する各反射防止コーティングは、薄い金属層の上にある層として、酸化された又は酸化されていない薄い金属オーバーブロッカー層を含む。このオーバーブロッカー層は、例えば、後続する層を酸化雰囲気下又は窒化雰囲気下で堆積する場合、この後続層の堆積中、そして考えられる後続する熱処理中、薄い金属層を保護することが意図されている。
【0017】
電極の各々の薄い金属層は、薄いアンダーブロッカー層の上でそれに接した状態で堆積されてもよい。したがって、電極の積層体は、薄い金属層又は各々の薄い金属層をとり囲むオーバーブロッカー層及び/又はアンダーブロッカー層を含んでいてよい。これらのブロッカー層、アンダーブロッカー層及び/又はオーバーブロッカー層は、非常に薄く、通常1nm未満の厚みを有し、こうして積層体の光透過率に不利な影響を及ぼさないようになっている。ブロッカー層は、特に酸素を捕捉できる犠牲層として作用する。
【0018】
ブロッカー層、アンダーブロッカー層及び/又はオーバーブロッカー層は、特に、チタン、ニッケル、クロム、ニオブから選択された金属又はこれらの様々な金属の合金に基づく。ニッケル−チタン合金(特に各金属を50重量%含むもの)又はニッケル−クロム合金(特にニッケルを80重量%とクロムを20重量%含むもの)に、言及することができる。オーバーブロッカー層は同様に例えば、ポリマー層から離れる方向に最初にチタン層そして次にニッケル合金層(特にニッケル−クロム合金)又はその逆で、複数の重畳層で構成されていてもよい。言及されている様々な金属又は合金は、同様に酸化されていてもよく、特に酸素が亜化学量論的で例えばチタンTiOの場合、0≦x≦2であってよく、あるいは酸素が過化学量論的でチタンTiOの場合、2≦x<2.5であってよい。
【0019】
1つの特徴によると、ポリマー層から反対側にある電極の積層体の層は、4.5eV以上、好ましくは5eV以上の仕事関数Wsを有する仕事関数整合層と呼ばれる層であってよい。この仕事関数整合層は、特に単一の酸化物又は複合酸化物、例えば以下の随意にドープされた又は亜化学量論的な金属酸化物のうちの少なくとも1つに基づくことができる:酸化錫、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化アンチモン、酸化タンタル、酸化ケイ素、酸化ニオブ。
【0020】
1つの有利な特徴によると、電極は、ポリマー層の反対側にある電極の積層体の層上で、10nm以下、好ましくは5nm以下、より好ましくは2nm以下、さらには1nm以下のRMS粗度を有する。これにより、特にOLEDデバイスの場合、デバイスの寿命及び信頼性を大幅に削減するスパイク効果を回避することができる。RMS粗度は、二乗平均平方根粗度を意味する。これは、粗度の平均二乗偏差の値を測定することからなる尺度である。
【0021】
1つの有利な特徴によると、電極の少なくとも1つのバリア積層体は、交互に比較的低い結晶化度及び比較的高い結晶化度を有する少なくとも3つの連続する薄い層を含み、比較的高い結晶化度の層の結晶化度の、比較的低い結晶化度の層の結晶化度に対する比は1.1以上である。ここで考慮される結晶化度は、層内の材料の総体積に対する層内に存在する結晶質材料の体積の比として定義される体積結晶化度であってよい。
【0022】
実際には、バリア積層体の2つの連続層の結晶化度を、2つの層の各々について、特にブラッグ−ブレンターノ構成でX線回析測定を行なうことによって決定し比較することができる。特にバリア積層体の2つの連続層が、同じ化学的性質を有するものの結晶化度が異なっている場合には、透過電子顕微鏡法(TEM)測定も同様に実施することができる。
【0023】
好ましくは、前記少なくとも3つの連続層は、アモルファス状態と少なくとも部分的に結晶質の状態とが交互となっている。換言すると、比較的低い結晶化度の層又は各層は、結晶化度ゼロでアモルファス状態にある。本発明の意味合いにおいて、層は、その層に対してブラッグ−ブレンターノ構成でX線回折測定を使用した時に、測定の背景雑音の標準偏差の2倍以上の強度を有する回析ピークが全く検出されない場合に、アモルファス状態にあると言われる。逆に言うと、層は、その層に対してブラッグ−ブレンターノ構成でのX線回折測定を使用した時に測定の背景雑音の標準偏差の2倍以上の強度を有する回析ピークが少なくとも検出された場合に、少なくとも部分的に結晶質の状態にあると言われる。
【0024】
実質的に異なる結晶化度を有する層が交互にあることによって、1つの層と次の層の間の水蒸気又は酸素などの汚染種の透過経路を分断することが可能になる。バリア積層体内の透過経路、ひいては透過時間は、こうして著しく長くなる。この透過経路分断効果のための特に有利な1つの構成は、アモルファス層と結晶質層とが交互にあることである。
【0025】
1つの有利な特徴によると、電極の少なくとも1つのバリア積層体は、2つの高活性化エネルギー層の間に挿入された保持層からなる少なくとも1つの層配列を含み、ここで:
− 2つの高活性化エネルギー層の各々について、一方では高活性化エネルギー源でコーティングされた標準基材と、他方ではそのままの状態のこの同じ標準基材との間の水蒸気透過のための活性化エネルギー層は、5kJ/mol以上、好ましくは20kJ/mol以上であり、
− 標準基材上の保持層内の有効水蒸気拡散率と、そのままの状態のこの同じ標準基材内の水蒸気拡散率との比は、厳密に0.1未満である。
【0026】
非限定的な例として、活性化エネルギー及び/又は拡散率を比較するために用いられる標準基材は、0.125mmの幾何学的厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルムである。
【0027】
水蒸気保持層が水蒸気の透過のために2つの高活性度エネルギー源の間に挿入されているこのようなサンドイッチ構造を含む少なくとも1つのバリア積層体が存在することによって、ポリマー層から感応性層内への水蒸気の移動を制限し遅延させることが可能である。まず第1に、水蒸気が高活性度エネルギー源中に浸透するのは困難である。第2に、保持層は水蒸気を貯蔵する。バリア積層体の特異的サンドイッチ構造は、保持層内での水蒸気捕捉を大幅に促す。これは、バリア積層体の第1の高活性度エネルギー源を通過することができた水蒸気は、保持層内に移行し、バリア積層体の第2の高活性度エネルギー源は、水蒸気が保持層から離れる可能性を大幅に制限するために、水蒸気の大部分が保持層内に捕捉されるからである。こうして感応性層内への水蒸気の透過は、大幅に削減され遅延される。
【0028】
固体媒質を通した気体の透過は、アレニウスの法則によって記述できる熱により活性化されるプロセスである:
P=P・e(−Ea/kT)(1)
式中、Pは透過率であり;
はシステムに特異的な透過係数であり;
kはボルツマン定数であり;
Tは温度であり;
Eaは透過のための活性化エネルギーである。
【0029】
等式(1)から、温度Tの一関数として透過率Pを測定することにより、活性化エネルギーEを決定できるということがわかる。こうして、そのままの基材の活性化エネルギーを決定し、これを層でコーティングされた基材の活性化エネルギーと比較することが可能である。
【0030】
さらに、透過率Pは、下記等式から求められる:
P=S・D(2)
式中、Sは溶解度、又は基材上の層の場合においては有効溶解度であり、Dは、拡散率、又は基材上の層の場合においては有効拡散率である。
【0031】
溶解度は、固体媒質中にある気体の性向を表わし、一方拡散率は、固体媒質中で気体が移動する速度を表わす。以上の等式(1)及び(2)から、活性化エネルギーEaが溶解度及び拡散率という2つの効果を包含することがわかる。実際には、単一のポリマーフィルム又は単層の場合、拡散率効果は、溶解度効果により支配される。しかしながら、多層積層体の場合、拡散率効果が大きくなり、さらには支配的になる可能性がある。
【0032】
先の特徴によると、水蒸気透過に対する全体的に高い活性化エネルギーを有するバリア積層体が提供されており、拡散率の影響は、中央層が低い水蒸気拡散率を有する保持層であるサンドイッチ構造によって増大させられる。保持層中の水蒸気拡散率は、有利には、保持層内の水蒸気濃度が増大した場合に減少するかもしれない。この保持効果は、水蒸気と保持層を構成する材料との間の特定の親和力、例えば化学親和力、極性親和力又はさらに一般的には特にファン・デル・ワールス相互作用に結びつけられる電子親和力に起因してもよい。したがって、バリア積層体内の水蒸気拡散時間が著しく増大する可能性がある。
【0033】
本発明の枠内では、そのままのものであれ、層によりコーティングされているものであれ、基材の水蒸気透過のための活性化エネルギーEaは、様々な温度及び湿度条件について、そのままであれコーティングされているものであれ基材を通しての水蒸気移動速度、つまりWVTRを測定することによって決定される。公知の通り、透過率Pは、WVTRに正比例する。このとき、1/Tの関数としてLn(WVTR)の変動を表わす直線の勾配(又は関数の導関数)から得られる活性化エネルギーEの値を演繹するために、等式(1)が使用される。実際には、WVTR測定は、MOCON AQUATRANシステムを用いて実施されてよい。WVTR値が、MOCONシステムの検出限界より低い場合、それらを従来のカルシウム試験によって決定してもよい。
【0034】
本発明の枠内では、基材上に位置づけされた層内の水蒸気の有効拡散率は、多層コンポーネントが組込まれるように意図されているデバイスの動作範囲内に入る所与の温度について、様々な時点で基材から層内に拡散する水蒸気の量を測定することによって決定される。同様にして、基材内の水蒸気の拡散率は、デバイスの動作範囲内にある所与の温度について、様々な時点で基材内に拡散する水蒸気の量を測定することによって決定される。これらの測定は、特にMOCON AQUATRANシステムを用いて実施されてよい。2つの拡散率を比較するためには、2つの拡散率を決定するための測定を、同じ温度及び温度条件で実施しなければならない。
【0035】
前述の特徴を満たす一方で2つの高活性度エネルギー源間に保持層が挿入される配列の一例は、50nmの幾何学的厚みを有する2つのSi層の間に挿入された50nmの幾何学的厚みを有するZnO層を含む配列である。
【0036】
1つの有利な特徴によると、電極の各バリア積層体を構成する層は、比較的低い屈折率と比較的高い屈折率とを交互に有する。その構成層の好適な幾何学的厚みのために、バリア積層体はこのとき干渉フィルターを構成しうる。こうしてバリア積層体は、電極の薄い金属層の反射防止効果に参与する。実際には、光学的に最適化されるのは、電極の積層体全体である。電極の層の好適な幾何学的厚み値は、特に最適化ソフトウェアを用いて選択されてよい。
【0037】
1つの特徴によると、電極の各バリア積層体について、バリア積層体の各薄層は、200nm未満、好ましくは100nm未満そしてより好ましくは5nm〜70nmの幾何学的厚みを有する。
【0038】
電極のバリア積層体の各薄層は、詳細には、随意にドープされている酸化物、窒化物又はオキシ窒化物層であってよい。一例として、ZnO、Si又はSiO層をアルミニウムでドープして、特にその電気伝導度を改善してもよい。バリア積層体の層は、従来の薄層堆積プロセス、例えば非限定的な例としてマグネトロンスパッタリング;化学気相成長(CVD)、特にプラズマ化学気相成長法(PECVD);原子層堆積(ALD);又はこれらのプロセスの組合せによって堆積されてよく、選択される堆積プロセスは、バリア積層体の一つの層と別の層で異なる可能性もある。有利には、バリア積層体の層をマグネトロンスパッタリングによって堆積する場合、電極の全ての積層体を同一のライン上で堆積することが可能である。
【0039】
1つの有利な特徴によると、ポリマー層は、その面の1つに、電極に対して位置している界面層を含む。この界面層は、例えばアクリル又はエポキシ樹脂タイプの有機層であるか、又は例えばシリカSiOである無機部分が層の0〜50体積%を占めていてよいハイブリッド有機−無機層である。この界面層は、特に平滑化又は平坦化層として作用する。
【0040】
電極が接して位置づけされているポリマー層は、デバイスの基材であってよい。デバイスの可撓性ポリマー基材は、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカルボネート、ポリウレタン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリイミド、フルオロポリマー、例えばエチレン−テトラフルオロエチレン(ETFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン(ECTFE)、フッ素化エチレン−プロピレンコポリマー(FEP)に基づく層であってよい。
【0041】
一変形形態として、電極に対して位置しているポリマー層は、デバイスの剛性又は可撓性基材にボンディングするための積層中間層であってよい。このポリマー積層中間層は特に、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン−酢酸ビニル(EVA)、ポリエチレン(PE)、ポリ塩化ビニル(PVC)、熱可塑性ウレタン、イオノマー、ポリウレタン系接着剤又は熱可塑性シリコーンに基づく層であってよい。
【0042】
本発明の一態様によると、電子デバイスは、有機発光ダイオード(OLED)デバイスであり、ここで電極は有機発光ダイオードの電極であり、ポリマー層は、有機発光ダイオードを封止するための構造の全部又は一部である。
【0043】
本発明の別の態様によると、電子デバイスは、光起電デバイスであり、ここで電極は光起電セルの電極であり、ポリマー層は、光起電デバイスを封止するための構造の全部又は一部である。
【0044】
本発明のさらに別の態様によると、電子デバイスは、エレクトロクロミックデバイスであり、ここで電極はエレクトロクロミックシステムの電極であり、ポリマー層は、エレクトロクロミックシステムを封止するための構造の全部又は一部である。
【0045】
本発明の別の目的は、バリア積層体又は各バリア積層体の薄膜の少なくとも一部分が、スパッタリング、特にマグネトロンスパッタリングによって堆積される、前述の電子デバイスの製造方法にある。
【0046】
詳細には、バリア積層体又は各バリア積層体の薄層の少なくとも一部は、堆積中に堆積チャンバ内の圧力及び/又は電力及び/又は反応性ガスの性質又は量を変動させることによって、反応性スパッタリング特に反応性マグネトロンスパッタリングにより堆積されてよい。
【0047】
好ましくは、バリア積層体又は各バリア積層体の層を含めた電極を構成する積層体の薄層の全てが、スパッタリング、特にマグネトロンスパッタリングによって堆積される。
【0048】
本発明の特徴と利点は、本発明に係る多層電子デバイスの複数の実施形態についての以下の記述の中で明らかになるが、この記述は単なる一例として、かつ添付図面を参考にして示されている。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明の第1の実施形態に係るOLEDデバイスを通る概略的断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る太陽光起電モジュールについての図1に類似する断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る太陽光起電モジュールについての図1に類似する断面図である。
図4】本発明の第4の実施形態に係る太陽光起電モジュールについての図1に類似する断面図である。
図5】電極の第1の構造的変形形態についての図1〜4からのデバイスの前面電極のより大きな縮尺の図である。
図6】電極の第2の構造的変形形態についての図5に類似した図である。
図7】電極の第3の構造的変形形態についての図5に類似した図である。
図8】本発明の第5の実施形態に係るエレクトロクロミックデバイスについての図1と類似した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
可視性のため、図1〜8では、層の相対的厚みは遵守されていない。
【0051】
図1に表わされている第1の実施形態において有機発光ダイオードデバイス10は、グレージング機能を有する前面基材1、前面電極3、有機エレクトロルミネセント層積層体4及び背面電極を連続して含む。前面電極3、有機エレクトロルミネセント層積層体4及び背面電極5は、デバイス10の機能素子であるOLED12を形成する。OLED12の層は、前面基材1上に連続して堆積されている。光がデバイス10から抽出される側に配置されている前面電極1は透明なポリマーで製造され、特に、一例としては数百マイクロメートルの幾何学的厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)で製造される。
【0052】
有機層積層体4は、それ自体電子注入層と正孔注入層の間に挿入されている電子輸送層と正孔輸送層の間に挿入された中央エレクトロルミネセント層を含む。前面電極3は、2つの反射防止コーティングMとMとの間に挿入された薄い銀層31を含む薄く透明な導電性を有する層の積層体で作られている。背面電極は、導電性材料、特に銀又はアルミニウムタイプの金属材料で作られているか、あるいは特にOLEDデバイス10が前面発光性及び後面発光性の両方を有する場合には、TCOで作られている。機層4及び電極3の銀層31は感応性層であり、その特性は、空気又は湿気に対する曝露の影響に起因して劣化する傾向をもつ。詳細には、水蒸気又は酸素の存在下で、有機層4のルミネッセンス特性及び電極3の伝導特性は劣化し得る。
【0053】
外部環境条件からこれらの感応性層を保護するため、デバイス10は、前面電極3の反射防止コーティングM、Mの少なくとも1つの中に統合されているバリア積層体を含む。実際には、前面電極3の層は、特にマグネトロンスパッタリングによってポリマー基材の片面1Aに連続して堆積されて、重畳された基材1及び電極3を含む多層コンポーネント11を形成する。有機層4及び背面電極6は、後で堆積される。
【0054】
この実施形態において、電極3は、電極3の層の堆積方向で薄い銀層31の下に置かれた反射防止コーティングM内のバリア積層体Bを含む。非限定的な例として、電極3の積層体は、層の堆積方向に、マグネトロンスパッタリングにより堆積された一連の以下の層を含む(示された参照番号は図5のものである):
Si3N4/ZnO/Si3N4/ZnO/Ag/Ti/ITO
(32/33/34/35/31/36/37)
【0055】
この例においては、バリア積層体Bは、相対的により高い密度を有する酸化亜鉛ZnOの2層33及び35と交互になっている相対的により低密度の窒化ケイ素Siの2層32及び34を含む、4つの薄い透明層の積層体で構成されている。薄い銀層31のすぐ下にある酸化亜鉛ZnO層35は、濡れ層として作用する。
【0056】
図6及び7は、電極3の2つの構造的変形形態を示す。
【0057】
図6からの変形形態において、電極403は、電極を構成する積層体の堆積方向で、薄い銀層431の上に置かれた反射防止コーティングM内のバリア積層体Bを含む。非限定的な例として、電極403の積層体は、層の堆積方向に、マグネトロンスパッタリングにより堆積された一連の以下の層を含む(示された参照番号は図6からのものである):
SnZnO/ZnO/Ag/Ti/Si3N4/ZnO/Si3N4
(432/433/431/436/437/438/439)
【0058】
この例においては、バリア積層体Bは、相対的により高い密度を有する酸化亜鉛ZnOの層438をとり囲む相対的により低密度の窒化ケイ素Siの2層437及び439を含む、3つの薄い透明層の積層体で構成されている。
【0059】
図7の変形形態において、電極503は、電極を構成する積層体の端にある2つの反射防止コーティングM、Mの各々の中のバリア積層体B、Bを含む。非限定的な例として、電極503の積層体は、層の堆積方向に、マグネトロンスパッタリングにより堆積された一連の以下の層を含む(示された参照番号は図7からのものである):
Si3N4/ZnO/Si3N4/ZnO/Ag/Ti/Si3N4/ZnO/Si3N4
(532/533/534/535/531/536/537/538/539)
【0060】
この例においては、バリア積層体Bが電極3のものと類似であり、バリア積層体Bが電極403のものと類似であることがわかる。
【0061】
先の積層体例では、少なくとも1つのバリア積層体を統合する電極3、403、503は、多層バリア積層体内に界面が多数あることによって有機層4及び電極3の薄い銀層31であるデバイス10の感応性層を有効に保護することのみならず、OLED12からデバイスの前面への光の優れた透過を保証することをも可能にする。実際、電極の積層体は、光学的観点から見て、電極が干渉フィルターを形成するように適応された層の幾何学的厚みによって最適化されてよい。
【0062】
さらに、マグネトロンスパッタリングによって堆積された積層体の前述の例においては、窒化ケイ素Siの層はアモルファス状態にあり、一方酸化亜鉛ZnOの層は少なくとも部分的に結晶質の状態にある。こうして、前述の例からの各バリア積層体B及びBについて、バリア積層体の層は、交互にアモルファス状態と結晶質状態にあり、各ZnO層の結晶化度の各Si層の結晶化度に対する比は、各Si層が結晶化度ゼロでアモルファス状態にあることから、無限である。
【0063】
図2に表わされた第2の実施形態において、第1の実施形態のものと類似の要素には同一の参照番号が付いている。図2において、本発明に係るデバイスは、グレージング機能を有する前面基材1と支持機能を有する後面基材8を含む薄膜太陽光起電モジュールである。太陽光がモジュール20上に入射する側に配置されるように意図された前面基材1は、特に、一例として数百マイクロメートルの幾何学的厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)からなる透明なポリマーで形成される。
【0064】
後面基材8は、透明であるか否かに関わらず任意の適切な材料で作られ、モジュール20の内側の方に向けられたその面上、すなわち、太陽光がモジュールに入射する側に、モジュール20の光起電セル13の背面電極を形成する導電性層7を担持している。一例を挙げると、層7は金属層であり、特に銀又はアルミニウムで作られている。
【0065】
背面電極を形成する層7の上には、太陽エネルギーを電気エネルギーに変換するのに好適であるアモルファスシリコンに基づく吸収層6が載っている。吸収層6自体の上には、電池13の前面電極である先に図5を参照して記述されている電極3が載っている。こうして、モジュール20の光起電セル13は層3、6及び7の積層体により形成される。
【0066】
図3に表わされている第3の実施形態において、第2の実施形態のものと類似の要素には、100を加えた同一の参照番号が付いている。図3に示された太陽光起電モジュール120は、その吸収層106が黄銅鉱化合物、特にCIS又はCIGSに基づくという点で、図2のモジュール20と異なっている。公知の通り、吸収体がシリコン又はテルル化カドミウムに基づく薄膜光起電モジュールは、スーパーストレートモードで、すなわち前面基材から出発してデバイスを構成する層を連続的に堆積することによって製造され、一方吸収体が黄銅鉱化合物に基づく薄膜光起電モジュールは、サブストレートモードで、すなわち背面基材上にセルを構成する層を連続的に堆積することによって製造される。このとき、黄銅鉱吸収体を有するモジュールの組立ては、従来通り、モジュールの前面電極と前面基材の間に位置づけされたポリマー中間層を用いた積層により行なわれる。
【0067】
図3では、モジュール120は、グレージング機能を有する前面基材101と支持機能を有する背面基材108とを含む。モジュール120上に太陽光が入射する側に配置されるように意図された前面基材101は、ガラス又は透明なポリマーのいずれかで作られる。モジュール120は同様に、背面基材108も含んでおり、この背面基材は、モジュール120の内側の方に向けられたその面の上に、モジュールの光起電セル113の背面電極を形成する導電性面107を担持する。一例として、層107はモリブデンに基づいている。
【0068】
背面電極を形成する層107の上には、黄銅鉱、特にCIS又はCIGSに基づく吸収層106が載っている。吸収層106自体の上には、図示されていない硫化カドミウムCdS層が載っており、この層は任意には、同じく図示されていないドープされていない生来のZnO層と組合わされる。光起電セル113の前面電極は、図5を参照して先に記述した電極3によって形成される。こうしてモジュールの光起電セル113は、層3、106及び107の積層体によって形成される。
【0069】
モジュール120の機能層が前面基材101と背面基材108の間に確実に保持されるようにするために提供されるEVA製のポリマー積層中間層102が、電極3の上に前面基材101と対して位置している。変形形態として積層中間層102はPVB又は好適な特性を有する任意の他の材料で作られてよい。
【0070】
図4に表わされている第4の実施形態において、第2の実施形態のものに類似する要素には、200を加えた同一の参照番号が付いている。図4に示されたデバイス230は、任意の好適な透明材料で作られた2つの基材201及び208を含むエレクトロクロミックデバイスである。基材201と208の間にエレクトロクロミックシステム214が設置されている。エレクトロクロミックシステム214は、任意の好適なタイプのものであってよい。特にそれは、2つの無機エレクトロクロミック層が有機電解質によって分離されているいわゆるハイブリッドエレクトロクロミックシステムであってよく、あるいは、エレクトロクロミック層及び電解質が無機層である全固体型エレクトロクロミックシステムであってもよい。
【0071】
そのタイプの如何に関わらず、エレクトロクロミックシステム214は、基材208から出発して連続して、特にTCO製の透明な電極207、エレクトロクロミック能動層の積層体206そして図5を参照して先に記述した電極3を含む。例えばEVA又は好適な特性を有する任意の他の材料で作られたポリマー積層中間層202が、基材201と接して電極3の上面に位置づけされて、基材201と208の間にデバイス230の機能層が確実に保持されるようになっている。
【0072】
図2〜4からのデバイスの各々について、図1からのOLEDデバイスと同様に、バリア積層体Bを統合する電極3は、汚染種の移動を防止することによってデバイスの感応性層、特に電極の薄い銀層31を有効に保護すると同時に、デバイスの能動層から又はそれに向けての光の最適な透過を提供する。
【0073】
図1〜4からの実施形態では、電極3を、特に図6からの電極403又は図7からの電極503で置き換えてもよいという点を指摘しておくべきである。
【0074】
図7からの電極503などの、その2つの最終反射防止コーティングの各々の中にバリア積層体を有する電極は、電極を横断する両方の方向における湿気移動を回避しなければならない場合に利用すると特に有利である。これは特に、欧州特許出願公開第A−0831360号(EP−A−0831360)に記載されているものなど、充分なイオン伝導度を得るために電解質が水和を必要とする全固体型エレクトロクロミックシステムを有するエレクトロクロミックデバイスにあてはまる。
【0075】
図8において、エレクトロクロミックデバイス330は2つの基材101及び308を含み、これらの間に、全固体型のエレクトロクロミックシステム314が設置される。エレクトロクロミックシステム314の層は、例えばマグネトロンスパッタリングによって、基材308上に連続的に堆積される。この例では、基材308は透明なポリマー、特に数百マイクロメートルの幾何学的厚みを有するポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)で作られている。基材301はそれ自体ガラス又は透明なポリマーで作られる。
【0076】
エレクトロクロミックシステム314は、基材308から出発して連続的に、図7を参照して上述されている通りの第1の電極503、エレクトロクロミック能動層の積層体306そして、図7を参照して上述されている通りの第2の電極503’を含む。能動層の積層体306は、特に、例えば酸化タングステンWOで作られたカソードエレクトロクロミック材料製の層と例えば酸化イリジウムIrOで作られたアノードエレクトロクロミック材料製の層との間に挿入されている水和酸化タンタル層によって形成された電解質を含む。例えばEVA又は好適な特性を有する他の任意の材料で作られるポリマー積層中間層302が、基材301と対して、電極503’の上に位置づけされる。
【0077】
このデバイス330においては、その機能性を保持するためのみならずポリマー基材305、積層体306及びポリマー積層中間層302から同時に由来し得る湿気から、電極の薄い銀層531及び531’である感応性層を保護するために、積層体306内に含まれる電解質の水和度を一定レベルに維持すること、あるいは、最低限でも充分に高いレベルに維持することが重要である。その2つの最終反射防止コーティングの各々の中に1つのバリア積層体を有する電極503及び503’を使用することによって、電極503及び503’を横断する両方向における湿気移動を防止することでこれらの目的を達成することが可能になる。
【0078】
以上の実施形態から明白であるように、本発明に係るデバイスにおいては、少なくとも1つの電極が、バリア機能を統合し、かつこのデバイスに対し、空気又は湿気に対する曝露により誘発されるあらゆる劣化に対する改善された耐性を与える。電極の積層体を光学的に最適化できるため、この改善された耐性は、デバイスの能動層から又はそれに向かう光の透過を損なうことなく得られる。
【実施例】
【0079】
幾何学的厚みが0.125mmのポリエチレンテレフタレート(PET)で作られた可撓性基材上に堆積され、それぞれ1つの銀層(実施例1)及び2つの銀層(実施例2)を有する、先行技術からの薄い銀層を有する電極の実施例が、下の表1に示されている。これらの例では、ポリエチレンテレフタレート基材は、その一方の面上に、電極と接して位置しているミクロンサイズの厚みを有しUV線下で架橋されたアクリル樹脂に基づく界面層を含む。下の表1中、「PET」という表記は、アクリル樹脂に基づく界面層がコーティングされているポリエチレンテレフタレート基材を意味する。
【0080】
表1に記されている積層体の特性は、以下の通りである:
− T:2°の観察者条件で発光体D65の下で測定した、%単位の可視光内の光透過率
− R:2°の観察者条件で発光体D65の下で測定した、%単位の可視光内の光反射率;
− A:T+R+A=1となるような、%単位の可視光内の光吸収率;
− aとb:2°の観察者条件で発光体D65の下で測定した、LABシステム内の反射色a及びb
− WVTR(水蒸気移動度):8時間サイクルで37.8℃及び100%の相対湿度でMOCON AQUATRANを用いて測定したg/m・日単位の水蒸気透過率[注:MOCONシステムの検出閾値は5×10−4g/m・日である]。
【0081】
【表1】
【0082】
上表から、先行技術からの薄い銀層を有する電極は、10−2g/m・日未満のWVTR値でバリア特性を有することが明らかである。同様に、単一の銀層を有する電極の場合よりは、2つの銀層を有する電極の場合の方が、バリア特性が優れているということも指摘できる。一般に、2つ又は3つの薄い銀層を湿気及び気体に対するバリアとして有する電極の使用は、有利である。
【0083】
本発明によると、バリア特性は、マグネトロンによる、電極の積層体の端に位置する2つの反射防止コーティングのうちの少なくとも1つにおいて、薄い銀層を有する電極の積層体内に直接バリア積層体を含み入れることによって、さらに改善される。
【0084】
幾何学的厚みが0.125mmであるポリエチレンテレフタレート(PE)で作られた可撓性基材の上に堆積された1つの銀層を有するこのような改善された電極の例(例3、4、5、6、7)が、下表2に示されている。前述の場合と同様に、これらの例中、ポリエチレンテレフタレート基材はその一方の面に、電極に対して位置しているミクロンサイズの厚みを有するUV線下で架橋されたアクリル樹脂に基づく界面層を含んでいる。下表2中、「PET」という表記は、アクリル樹脂に基づく界面層がコーティングされているポリエチレンテレフタレート基材を意味する。
【0085】
表2に記されている積層体の特性は、表1の場合と同じ方法で決定される。
【0086】
【表2】
【0087】
例1〜7において、ZnOの各濡れ層は、銀の優れた結晶化を可能にし、Tiの各オーバーブロッカー層は、後続する堆積の間、銀層を保護できるようにする。
【0088】
例3〜7の電極のシート抵抗は、MOCONシステムを用いてWVTRを決定するための試験の前後で、5オームパースクエア未満である。
【0089】
例3〜7内で選択されたバリア積層体により、5つの事例において以下のことが達成できるようになることがわかる:
− 単一の薄い銀層を含む先行技術からの対応する電極(比較例=例1)に比べて少なくとも10倍改善されたWVTR[MOCONシステムの検出閾値が5×10−4g/m・日であるという点が喚起される];
− 80%以上の優れた光透過率及び低い吸収率。
【0090】
バリア積層体又は各バリア積層体が、アモルファス状態のSi層と結晶質状態のZnO層とを交互に含んでいる例3、4及び7からの薄い銀層を有する電極の場合、WVTRが他の実施例の場合よりも低いことが観察できる。さらに、例3、4及び7のWVTRは、2つの薄い銀層を有する先行技術からの電極(例2)と比べて少なくとも10倍改善されている。
【0091】
例3、5、6では、反射における中間色が達成される。厚み及びバリア積層体をさらに最適化することにより、より多くの中間色が達成され得る。最終色a及びbを調整するためには、デバイスの能動層の情報を統合する必要があるということが指摘される。例えば、OLEDについては、使用される有機層の厚み及び種類の関数として、微調整が適用される。
【0092】
表1及び2からの各例について、マグネトロンスパッタリングにより堆積された層の堆積条件は、以下の通りである:
【0093】
【表3】
【0094】
本発明は、記載され図示された実施例に限定されない。
【0095】
詳細には、本発明は2つ以上の薄い銀層、特に2つ又は3つの薄い銀層を含む銀電極に応用されてよい。本発明は同様に、銀に基づかない薄い金属層、特に、高い伝導度を有する他の金属又は金属合金に基づく薄層、例えばアルミニウム、銅又は金の薄層を含む電極に応用されてもよい。
【0096】
さらに、電極のバリア積層体又は各バリア積層体は、反射防止コーティングM内にあるバリア積層体については4つ以上そして反射防止コーティングMn+1内にあるバリア積層体については3つ以上である任意の数の重畳された薄層を含んでいてよい。これらの層の化学的組成及び厚みが、先に記載のものと異なっていることも可能である。好ましくは、バリア積層体の各薄層は、ドープされた又はドープされていない酸化物、窒化物又はオキシ酸化物層である。バリア積層体の薄層の所与の化学的組成について、電極の全薄層のそれぞれの幾何学的厚みは、有利には、電極が統合されているデバイスの能動層に向かう又はこの層からの電極を通した光の透過を最大限にするように、例えば最適化ソフトウェアを用いて選択される。
【0097】
先行例で示されている通り、各バリア積層体の連続する薄層間で、密度を交互にすること、及び随意に屈折率を交互にすることは、各々の連続する薄層対について、2層間の化学的性質を変化させることで得られる。これらは、一方では、随意に水素化、炭酸塩化若しくはドープされている、MO、MN又はMOタイプの化学的組成(式中Mは、例えばSi、Al、Sn、Zn、Zr、Ti、Hf、Bi、Ta又はその混合物から選択される金属である)を有する薄層と、他方では随意に水素化、炭酸塩化若しくはドープされている、M’ O、M’N又はM’Oタイプの化学的組成(式中M’は、例えば同様にSi、Al、Sn、Zn、Zr、Ti、Hf、Bi、Ta又はそれらの混合物から選択される、金属Mとは異なる金属である)を有する薄層とを交互に含む積層体であってよい。したがって、先に示されている通り、各バリア積層体を構成する積層体には、Siの薄層とZnO又はSiOの薄層との間で交互になっていることが関連している場合がある。一変形形態として、かつ一例として、AlO又はSnZnOの薄層とSiOの薄層との間で交互になっていることが関連している構成バリア層積層体を考慮することも同様に可能である。
【0098】
一変形形態として、各バリア積層体の連続する薄層間の密度が交互になっているもの、及び随意に屈折率が交互になっているものは、化学的性質は同じであるものの化学量論が異なる薄層の重畳によって得ることができる。この場合、バリア積層体の各薄層の化学的組成は、随意に水素化、炭酸塩化若しくはドープされている、MO、MN又はMOタイプのもの(式中Mは例えば、Si、Al、Sn、Zn、Zr、Ti、Hf、Bi、Ta又はその混合物から選択される金属である)であってよく、xとyの値は、バリア積層体の連続する各薄層対について変動する。積層体の薄層が同じ化学的性質を有するものの化学量論が異なっているバリア積層体の化学的組成の例としては特に、酸化ケイ素SiO又は酸化アルミニウムAlOなどの単一酸化物、一般に非化学量論的でありアモルファス相にある混合亜鉛−錫酸化物SnZnなどの混合酸化物、窒化ケイ素SiNなどの窒化物、オキシ窒化ケイ素SiOなどのオキシ窒化物又は、SiN又はSiOなどのこれらの酸化物、窒化物又はオキシ窒化物の水素化又は炭酸塩化形態が含まれる。
【0099】
さらに、電極の層をポリマー層上に堆積させる場合、特に平滑化又は平坦化機能を提供するために、例えばアクリル又はエポキシ樹脂タイプ又はハイブリッド有機−無機タイプの有機界面層を予めポリマー層上に設置してもよい。
【0100】
最後に、本発明に係るデバイスは、任意のタイプの多層電子デバイスであってよく、記載され図示されたOLED、光起電デバイス及びエレクトロクロミックデバイスに限定されない。詳細には、本発明は、吸収層がアモルファス又は微結晶シリコン、又はテルル化カドミウムあるいは、黄銅鉱化合物、特にCIS又はCIGSのいずれかに基づく薄層であるかに関わらず、任意のタイプの薄膜光起電モジュールのために応用可能である。本発明は同様に、有機吸収層が環境条件に対し極めて高い感応性を有する有機光起電セルモジュール、あるいは光起電セルがp/n接合を形成する多結晶又は単結晶シリコンウエハーから形成されているモジュールにも応用可能である。本発明は同様に、湿気に対する曝露が、電極の劣化以外に電解質の機能不良を結果としてもたらし望ましくない電気化学的反応をひき起こす場合がある、DSSC(色素増感太陽電池)とも呼ばれる感光色素を伴うグレッツェルセルで構成されたモジュールにも応用可能である。本発明を応用できる多層電子デバイスの別の例としては、その能動部が誘電体間に挿入された能動媒質を含む無機エレクトロルミネッセントデバイスがあり、ここで能動媒質は、ホストマトリクスとして作用する結晶格子、特に硫化物又は酸化物に基づく結晶格子と、例えばZnS:Mn又はSrS:Cu、Agなどのミルネッセンスを発生させるドーパントで構成されている。
【0101】
バリア機能を組込んだ薄い金属層で構成された電極とポリマー層を含む、本発明に係るデバイスを製造するための好ましい方法には、マグネトロンスパッタリングによる、バリア積層体又は各バリア積層体の層を含めた電極の薄層全ての堆積が含まれる。
【0102】
この方法では、堆積すべき化学的元素を含むターゲットの近くで、高真空中においてプラズマが作り出される。ターゲットに衝突させる際にプラズマの活性種は、基材上に堆積されている前記化学的元素をはぎ取り、所望される薄層を形成する。このプロセスは、ターゲットからはぎ取られた元素とプラズマ中に含まれる気体との間の化学的反応の結果として得られる材料で層が作られる場合、「反応性」プロセスである。このプロセスの主要な利点は、基材を様々なターゲット下で連続的に通過させることによって同一ライン上で非常に複雑な層の積層体を堆積させることができるという点にある。
【0103】
スパッタリングにより、堆積チャンバ内の圧力、電力及び反応性ガスの性質及び量などのパラメータを修正することで、バリア積層体の一定の物理化学特性、特に密度、化学量論及び化学的組成を変動させることが可能になる。詳細には、圧力増加は、密度が比較的低い層の形成に有利に作用する。
【0104】
電極のバリア積層体層を堆積させるためには、マグネトロンスパッタリング以外の堆積技術も可能であるが、それらは電極の全ての層の連続的な堆積を可能にしないことから、選好性は低い。このとき、電極の層は、特に薄い金属層の堆積のためのマグネトロンスパッタリングと、バリア積層体層の堆積のための1つ以上の他の堆積技術とを組み合わせた混合型プロセスにしたがって堆積される。電極のバリア積層体層の少なくとも一部の堆積のために考えられる他の技術としては、特に、化学気相堆積法(CVD)、特にプラズマ化学気相堆積法(PECVD)、原子相堆積(ALD)又は蒸発技術が含まれる。
【0105】
電極の層は、電極が接して位置づけされているポリマー層上に必ずしも堆積されるわけではないということが指摘される。したがって、一例として、スーパーストレートモードで製造される図1及び2のデバイスについては、電極の薄層はポリマー基材1上に連続して堆積され、一方サブストレートモードで製造される図3及び4からのデバイスについては、電極3の薄層は、能動層106、206上に連続して堆積され、ポリマー積層中間層は後続するステップにおいて電極上に付加される。
本発明の実施態様としては、以下の態様を挙げることができる:
《態様1》
有機ポリマー層(1;102;202;302;308)、及び前記ポリマー層に対して位置している電極(3;403;503)を含み;前記電極(3;403;503)が、n層の薄い金属層(31;431;531)、特に銀又は銀含有金属合金に基づく薄い層と、(n+1)層の反射防止コーティング((M1≦i≦n+1)(n≧1)とを交互に含む、透明な薄層の積層体によって構成されており;かつ各々の薄い金属層(31;431;531)が、2つの反射防止コーティング(M)の間に位置している、多層電子デバイス(10;20;120;230;330)であって、前記電極(3;403;503)は以下を含む、多層電子デバイス:
− 比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも4つの層(23〜35;532〜535)を含み、かつ前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、前記n層の薄い金属層の下に位置する最終反射防止コーティング(M)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第1のバリア積層体(B)、
及び/又は
− 比較的低い密度と比較的高い密度とを交互に有する少なくとも3つの層(537〜539)を含み、かつ前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、前記n層の薄い金属層の上に位置する最終反射防止コーティング(Mn+1)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第2のバリア積層体(B)。
《態様2》
前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、薄い金属層(31;431;531)の下に位置する各反射防止コーティング((M1≦i≦n)が、前記薄い金属層の下の層として、酸化物結晶、特に酸化亜鉛に基づく濡れ層(35;433;535)を含む、態様1に記載のデバイス。
《態様3》
前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、薄い金属層(31;431,531)の上に位置する各反射防止コーティング((M2≦i≦n+1)が、薄い金属層の上にある層として、酸化された又は酸化されていない薄い金属オーバーブロッカー層(36;436;536)を含む、態様1又は2に記載のデバイス。
《態様4》
前記電極(3;403;503)の少なくとも1つのバリア積層体(B、B)(3;403;503)が、比較的低い結晶化度と比較的高い結晶化度とを交互に有する少なくとも3つの連続層(32〜35;437〜439;532〜535;537〜539)を含み、比較的高い結晶化度の層の結晶化度の、比較的低い結晶化度の層の結晶化度に対する比が、1.1以上である、態様1〜3のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様5》
前記少なくとも3つの連続層(32〜35;437〜439;532〜535;537〜539)が、交互にアモルファス状態と少なくとも部分的に結晶性の状態となっている、態様4に記載のデバイス。
《態様6》
前記電極のバリア積層体又は各バリア積層体(B、B)を構成する層が、比較的低い屈折率と比較的高い屈折率とを交互に有する、態様1〜5のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様7》
前記電極のバリア積層体又は各バリア積層体(B、B)について、前記バリア積層体の各薄層が、200nm未満、好ましくは100nm未満の幾何学的厚みを有する、態様1〜6のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様8》
前記電極のバリア積層体又は各バリア積層体(B、B)について、前記バリア積層体の各薄層が、ドープされた若しくはドープされていない酸化物、窒化物、又はオキシ窒化物である、態様1〜7のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様9》
前記ポリマー層が、前記電極に対して位置している有機界面層又は有機−無機ハイブリッド界面層を含む、態様1〜8のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様10》
前記ポリマー層(1;308)が、そのデバイスの基材である、態様1〜9のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様11》
前記ポリマー層(102;202;302)が、そのデバイスの基材(101;201;301)とのボンディングのための積層中間層である、態様1〜9のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様12》
有機発光ダイオードデバイス(10)であり、ここで前記電極が有機発光ダイオード(12)の電極であり、前記ポリマー層(1)が、前記有機発光ダイオードを封止するための構造の全部又は一部である、態様1〜11のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様13》
光起電デバイスであり、ここで前記電極が光起電セル(13;113)の電極であり、前記ポリマー層(1;102)が光起電セルを封止するための構造の全部又は一部である、態様1〜11のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様14》
エレクトロクロミックデバイス(230;330)であり、ここで前記電極がエレクトロクロミックシステム(214;314)の電極であり、前記ポリマー層(202;302;308)がエレクトロクロミックシステムを封止するための構造の全部又は一部である、態様1〜11のいずれか一項に記載のデバイス。
《態様15》
前記バリア積層体又は各バリア積層体(B、B)の薄層の少なくとも一部を、スパッタリングによって、特にマグネトロンスパッタリングによって堆積する、態様1〜14のいずれか一項に記載のデバイスの製造方法。
《態様16》
前記バリア積層体又は各バリア積層体の層を含む、前記電極を構成する積層体の薄層の全てを、スパッタリングによって、特にマグネトロンスパッタリングによって堆積する、態様15に記載の製造方法。
《態様17》
有機ポリマー層(1;102;202;302;308)、及び前記ポリマー層に対して位置している電極(3;403;503)を含み;前記電極(3;403;503)が、n層の薄い金属層(31;431;531)、特に銀又は銀含有金属合金に基づく薄い層と、(n+1)層の反射防止コーティング((M1≦i≦n+1)(n≧1)とを交互に含む、透明な薄層積層体によって構成されており;かつ、各々の薄い金属層(31;431;531)は、2つの反射防止コーティング(M)の間に位置している、多層コンポーネント(11)の多層電子デバイス(10;20;120;230;330)での使用であって
前記電極(3;403;503)が、以下を含む、多層コンポーネント(11)の多層電子デバイス(10;20;120;230;330)での使用:
− 交互に比較的低い密度と比較的高い密度を有する少なくとも4つの層(23〜35;532〜535)を含み、かつ前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、前記n層の薄い金属層の下に位置する最終反射防止コーティング(M)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第1のバリア積層体(B)、
及び/又は
− 比較的低い密度と比較的高い密度を交互に有する少なくとも3つの層(537〜539)を含み、かつ前記電極を構成する前記積層体の堆積方向で、前記n層の薄い金属層の上に位置する最終反射防止コーティング(Mn+1)中の、湿気及び気体に対するバリアとなる、第2のバリア積層体(B)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8