【実施例】
【0054】
本明細書は、如何なる意味においても限定的に解釈してはならない以下の実施例により更に説明される。全ての引用された参照(この出願中に引用された文献参照、交付済み特許および公開された特許出願を含む)の内容は、参照により明示的に組み入れる。
【0055】
[実施例1]
本実施例には、予測転移モデルを開発するために用いる方法およびサンプルの起源を記載した。
【0056】
予測バイオマーカー
予測転移モデルを開発するための方法として、前立腺癌におけるコピー数変化(CNA)の解析を選択した。この癌はCNAに起因する多数のゲノム不均衡を持っていることが知られていた(Beroukhim他、Nature 463(7283):899〜905頁(2010);Sun他、Prostate 67(7):692〜700頁(2007))。CNAの高分解能測定値は、場合によっては癌細胞中の正常な、変異した、またはハイブリッド融合した転写産物およびタンパク質の量の変化の直接的証拠を提供する有益な値を有していた。結果として生じるRNA転写産物およびタンパク質は、細胞の適応度に影響を与える可能性があり、ならびに移動、浸潤および成長に必要な機序をもたらす可能性があった。原発性腫瘍が転移に進行する見込みを予測するために、腫瘍中で同定した多数のCNAから、CNAに基づく遺伝子シグネチャーを開発した。
【0057】
サンプル、コホートおよびデータ
表1にまとめたように、4個の公的に入手可能な前立腺癌コホートおよび本明細書で報告した5番目のコホート(GSE27105)を研究した:1)NYU医科大学(NYU、n=29)、Baylor医科大学(Baylor、n=20、Castro他、Neoplasia 11(3):305〜12頁(2009))、Memorial Sloan−Kettering癌センター(MSK、n=181、Taylor他、Cancer Cell 18(1):11〜22頁(2010))およびStanford大学(SU、n=64(各腫瘍の参照に用いる唯一の正常組織)、LaPointe他、Cancer Res 67(18):8504〜10頁(2007))からの294個の原発性腫瘍および対応する正常組織のサンプル;2)Johns Hopkins医科大学(Hopkins、n=13、Liu他、Nat Med 15(5):559〜65頁(2009))およびMSK(n=36、Taylor他、上記参照)からの49個の転移性腫瘍および対応する正常サンプル。正常な前立腺組織および腫瘍組織(NYU)をCooperative Prostate Cancer Tissue Resourceから得た(表2)。4個の公的に入手可能なコホート(Castro他、上記参照;Taylor他、上記参照;LaPointe他、上記参照;Liu他、上記参照)の配列データをGene Expression Omnibusからダウンロードした(Barrett他、Nucleic Acids Res 39(データベース号(Database issue)):D1005−10(2011))(GSE12702、GSE14996、GSE6469、GSE21035)。本明細書で開発した遺伝子シグネチャーおよび予測モデルが別の癌に応用可能であるかどうかを判定するために、様々な腫瘍起源の周知の細胞株コホートをArrayExpress databaseから得た(Parkinson他、Nucleic Acids Res 39(データベース号):D1002−4)(E−MTAB−38)。
【0058】
サンプルの処理(NYUコホート)
Gentra DNA抽出キット(Qiagen)を使用してゲノムDNA(gDNA)を抽出した。精製したgDNAを、希釈したTE緩衝液(10mMのトリス、0.1mMのEDTA、pH8.0)中で水和した。NanoDrop(商標)2000分光光度計を使用し、260nmの波長の光学密度(OD)でgDNA濃度を測定した。タンパク質および有機混入物を280nmおよび230nmのODでそれぞれ測定した。次いで、品質管理閾値を超えるサンプルを1%アガロース・ゲルで泳動してgDNAの完全性を評価した。Rockefeller University Genomics Resource Centerにおいて、標準操作手順書を使用し、AffymetrixヒトSNPアレイ6.0でgDNAサンプル500ngを泳動した。Birdseed v2.0ソフトウェアを使用してシグナル強度データ(.celファイル)を処理した(Korn他、Nat Genet 40(10):1253〜60頁(2008))。
【0059】
研究デザイン
本研究における症例のサンプルは、転移性腫瘍(METS)、または根治的前立腺摘除術で治療した男性の、後に遠隔転移の形成に進行した原発性腫瘍(mPT)であった。METSおよびmPTは明瞭に認識可能な表現型であり、この表現型を症例として確実に分類することができた。対照のサンプルを、根治的前立腺摘除術後に遠隔転移の形成に進行しなかった原発性腫瘍として定義した。転移しないであろう不活性の原発性腫瘍(iPT)および治療しないまま放置すると通常であれば転移の形成に進行するであろう原発性腫瘍の両方が根治的前立腺摘除術で治療されると仮定すると、対照の原発性腫瘍は、実際にはiPTおよび現実化していないmPTの混合を示していただろう。コホートをランダムにサンプリングしたと仮定して、原発性腫瘍の対照群の約30%が現実化していないmPTであるだろうと予期した。本明細書で開発した方法は、サンプルが転移に起因するものであるかどうかの事前情報のみを必要としており、該方法を混合表現型の交絡要因に対して頑健であるように設計した。
【0060】
転移予測モデルの統計
実施例2に記載したように、転移能スコア(MPS)を算出するために、より高いスコアがより大きな転移の見込みを示す重み付きZスコア・アルゴリズムを開発した。交差検証試験によって即時モデル(instant model)の予測力を評価した。4個のコホートの組合せを使用して2個の予測モデルを訓練した。NYU(n=29)およびBaylor(n=20)からの臨床転帰が不明な49個の原発性腫瘍、ならびにHopkins(n=13)からの転移コホートを使用して第1のモデルを訓練した。一連の転移性腫瘍(n=36)に加えて転帰が不明な原発性腫瘍(n=126)のMSKコホートの75%を使用して第2のモデルを訓練した。これら2個のモデルから得られる遺伝子シグネチャーおよびMPSスコアをロジスティック回帰モデルに適合させるために組み合わせるとともに、真実のmPT(後に遠隔転移に発展した原発性腫瘍)およびどちらのモデルの訓練にも使用しなかったMSKコホートからの25%の対照腫瘍のランダムサンプルの予測に使用した。受信者動作特性曲線下面積およびKaplan−Meierの無転移生存により予測精度を測定した。
【0061】
[実施例2]
本実施例には、転移能の臨床的リスク・モデルを開発するための解析パイプラインを記載した。
【0062】
4つの主要な工程で構成されているR統計ソフトウェア1を使用して解析パイプラインを開発した:
【0063】
工程1において、各腫瘍ゲノムに関するコピー数の増幅および欠失現象を呼び出した。腫瘍ゲノムのシグナル強度プロファイルを対応する正常なゲノム強度プロファイルから参照することにより(引くことにより)、各腫瘍に関するコピー数プロファイルを得た。アレイでアッセイした各ゲノム位置に関して、各サンプルのコピー数プロファイルを−1、0または1(欠失、事象無し、または増幅)のように数値的に示した。概要転移プロファイル(高頻度の事象を指標化する)も作成し、ここで−1および1は、転移コホートの25%超で観察される欠失および増幅をそれぞれ示した。
【0064】
工程2において、ブートストラップ・クラスタリング法を用いて、未知の原発性腫瘍のための初期グループ分けを開発した。転移サンプルに関する概要コピー数プロファイルを未知の原発性腫瘍からの個々のプロファイルと組み合わせ、階層クラスタリング(2値距離メトリック(binary distance metric)法および完全なクラスタリング法)を使用して処理した。各ブートストラップ反復に関して、原発性腫瘍のサブセットを置換によりサンプリングし、転移プロファイルと同じクラスター内であった場合には1と点数化し、別のクラスター内であった場合には0と点数化した。クラスタリングでの20,000回の反復の結果を使用して、転移プロファイルを有するクラスターに入った回数を示す類似度スコアを各サンプルに関して生成した。スコアが高いサンプルは、より転移性である(mPT)と考えられたが、より低いスコアの腫瘍は、より不活性であった(iPT)。値の可能な範囲(0〜1)全体にわたって類似度スコアが分布し、高い転移距離および低い転移距離の間に顕著な対比を有する腫瘍の明瞭な群を形成することが可能になった。
【0065】
工程3において、これらmPTおよびiPTの対比群を使用して、プローブ毎にコピー数の量的差異を評価した。アレイ上の各プローブに関して、各下位群(転移、mPTおよびiPT)で観察される、欠失に対する増幅の相対量を示すエンリッチメント・スコアE(x)を算出した。
【数3】
【0066】
次に、転移およびmPTのコピー数変化をiPT群で観察されるものと対比することにより、相対的エンリッチメントをモデル化した。
【数4】
【0067】
METSおよびmPTのサンプルが欠失に比べて多く増幅していた場合により高いスコアを割り当てるために、合計される最初の2つのエンリッチメント項を設計した。METSおよびmPTにおける増幅エンリッチメントがより大きくなることにより、より高いスコアを得た。3番目の項は、iPTのサンプルが逆の結果(増幅を超える欠失に関するエンリッチメント)を示す場合により高かった。中央の項に、プローブ毎にmPTの平均寄与度を示すデータ駆動係数(data−driven coefficient)qを乗じた。例えば、全ての転移およびmPTで増幅したが全てのiPTで欠失したプローブは、最も高い可能なスコアを得たであろう。同様に、全ての転移およびmPTのサンプルで欠失したが全てのiPTのサンプルで増幅したプローブも、この最大の可能なスコアに達したであろう。次に、プローブのスコアを遺伝子毎に集計してZスコアを算出することにより、残余のゲノムと比較して各遺伝子のスコアを評価した。
【0068】
各遺伝子に関して複数のZスコアがある場合には(表6参照)、3個のシグネチャーの生成に使用した様々なコホートに対応していた。したがって、各個体は3個の異なるMPSを有するはずであった。下記の順位法の改変を使用して各シグネチャーに関して3個のMPSを組み合わせることにより、最終のMPS(表6に示す)を算出した。
【0069】
Z調整では、上記3つの工程から得られる各遺伝子のZスコアを、ロジスティック分布に適合するように以下の標準関数により変換した:
【数5】
【0070】
この変換の目的は、MPS全体に関する個々の遺伝子のZスコアの影響を最小化する(スコアを異常値に対して頑健にする)ことであった。
【0071】
最後に、工程4において、局所的な前立腺癌が遠隔転移を形成する能力を有するかどうかを予測するために、それらの選択モデルZスコアの有意性により決定したゲノム領域に重複するCNAの上位のセットのシグネチャーに基づいて、重み付きZスコアのリスク・モデルを開発した。カットオフ・ポイントとして、有意な遺伝子(Z≧1.7)を工程3から使用した。転移予測リスク・モデル・スコアを以下のように定義した:
【数6】
【0072】
各腫瘍プロファイルに関して、転移シグネチャーと対応する遺伝子(i〜n)からのロジスティック補正Zスコア(Z調整)を足し、シグネチャーと一致しない遺伝子からのを引いた。リスク・モデル・スコア(Dir)の方向成分が示すように、シグネチャーのCNAおよびサンプルのCNAが同じ方向にある場合には、係数は1になり;それらが反対方向にある場合には、係数は−1になり;Dirサンプル(i)=0の場合には、スコアに関して全ての項がカウントされないはずであった。例えば、通常は転移において増幅され、未知のプロファイルにおいてmPTも増幅される遺伝子iの場合、そのZスコアは足されたが、プロファイルにおいて遺伝子iが欠失する場合、iPTにおいて予期したようにZスコアは引かれた。このモデルでは、未知のプロファイルにおいて増幅も欠失もしない中立遺伝子を点数化しなかった。
【0073】
[実施例3]
本実施例には、実施例1〜2に記載したように開発した予測転移モデルにより得た結果を記載した。
【0074】
転移能スコア分布
対照の原発性腫瘍と比較して、転移(P=1.03E−18)およびmPT(P=0.005)の群に関して転移能スコアの有意な差異を観察した(
図1および表3)。リンパ節陽性原発性腫瘍(MSK(n=9)およびSU(n=9)コホートから得られる)の転移能スコアは、遠隔転移を予測するための、この臨床的パラメータの限界能力を示す対照の腫瘍群(P
MSK=0.23、P
SU=0.19、P
組合せ=0.08)とは有意に異なっていなかった(BOORJIAN他、Journal of Urology 178(3Pt1):864〜70頁;考察70−1(2007))。対照コホートはmPTの一部を含有するという発明者らの仮定と一致するように、それらの転移能スコアは、この場合の範囲と重複した。更に、経過観察の80ヶ月後に生化学的に再発しなかった(PSAにより測定した)対照の原発性腫瘍(
図1においてXで示す)は、転移能スコアと相関していなかった。別の癌のタイプが前立腺癌で観察されるのと類似のCNAの転移の全体像を示すかどうかを判定するために、337個の癌細胞株に関して転移能スコアを算出した。低リスクの前立腺の原発性腫瘍と重複する全体的分布を観察した(
図1)。しかしながら、337個の細胞株の内の22個は、MPSによって順位付けした、前立腺の原発性腫瘍および転移の75パーセンタイルよりも上に現れた。これらの細胞株は、肺(n=10)、乳房(n=3)、結腸(n=2)および黒色腫(n=2)の腫瘍を起源とした。22個の細胞株のこの群における別のシングルトンは、甲状腺、直腸、咽頭、膵臓および腎臓を起源とした(表4)
【0075】
交差検証および生存期間解析
モデル(n=13mPTおよびn=39対照の原発性腫瘍)の訓練に使用しなかった、原発性腫瘍(n=52)のサブセットを予測する交差検証解析では、受信者動作特性曲線(ROC−AUC、
図2、左側のグラフ)下面積により測定したところ80.5%の精度となった。対照の原発性腫瘍が、治療したmPTおよびiPTの混合物であったことを考慮して、適合の品質は過小評価されていると思われた。無転移生存(
図2、右側のグラフ)の臨床的エンドポイントを有するKaplan−Meier解析への即時予測の適用により、(転移能スコアに基づく)コホートの半分の低リスクは、半分の高リスクと比較して有意に分離した(P=0.014)。転移能スコアの1点の増加は、転移への進行に関する6.3のオッズ比に相当した(P=0.01)。
【0076】
バイオマーカーの機能的有意性
解析により同定した、上位に順位付けられている転移遺伝子の多くは、核および細胞外基質構造の変化、ならびに代謝のプロセス特性、例えば運動性、浸潤およびアノイキスの回避を高める代謝改変に関わる分子機能を有していた。全ての前立腺腫瘍に関するシグネチャー遺伝子のCNA事象についてのヒート・マップは、高リスクの腫瘍および低リスクの腫瘍を対比する、様々な高頻度の増幅事象対欠失事象に至る経路を示唆していた。相対的に少ない遺伝子事象を有する中間のリスク領域は、一方は転移に至るとともに他方は不活性状態に至る、その後のコピー数変化の2つの代替経路の開始点を示した可能性がある。不活性な腫瘍におけるこの「抗転移」事象の固定化は、長期間の待機療法にもかかわらず、なぜ不活性な腫瘍が転移しないかを説明することができた。
【0077】
予測シグネチャーが得られるこれらの増幅または欠失領域内の遺伝子の多くは、前立腺癌の転移において役割を果たすことが既に示されていた。上位の予測遺伝子の1つ、染色体16q24.2で欠失している溶質担体ファミリーSLC7A5遺伝子は、多発性癌に関与している中性アミノ酸輸送タンパク質(LAT1)をコードしており(前立腺(Sakata他、Pathol Int 59(1):7〜18頁(2009))、乳房(Kaira他、Cancer Science 99(12):2380〜6頁(2008))、卵巣(Kaji他、International Journal of Gynecol Cancer 20(3):329〜36頁(2010))、肺(Imai他、Histopathology 54(7):804〜13頁(2009))および脳(Kobayashi他、Neurosurgery 62(2):493〜503頁;考察−4(2008)))、ならびに診断(Bartlett他、Breast Cancer Research 12(4):R47頁(2010);Ring他、Mod Pathol 22(8):1032〜43頁(2009);Ring他、Journal of Clinical Oncology 24(19):3039〜47頁(2006))、細胞株における薬剤標的(Fan他、Biochem Pharmacol 80(6):811〜8頁(2010);Yamauchi他、Cancer Letter 276(1):95〜101頁(2009);Kim他、Biol Pharm Bull 31(6):1096〜100頁(2008))、および臨床前動物モデル(Oda他、Cancer Science 101(1):173〜9頁(2010))としての有用性を有していることが示されていた。LAT1の通常の機能は、細胞のアミノ酸濃度、即ちL−グルタミン(流出)およびL−ロイシン(流入)を調節することであった。LAT1の活性の低下はL−グルタミンの濃度上昇をもたらし、これによりmTOR活性が構造的に刺激され(Nicklin他、Cell 136(3):521〜34頁(2009))、グルタミン類似体の使用を介したグルタミン利用を標的にして細胞内およびin vivoマウス・モデルにおける腫瘍の成長および転移が著しく抑えられることが示されていた(Shelton他、International Journal of Cancer 127(10):2478〜85頁)。5個の別の溶質担体スーパファミリー・メンバー(SLC7A2、SLC9A9、SLC26A7、SLC39A14およびSLCO5A1)は、本明細書に開示したモデルにおいて転移能を予測した。生化学的に再発した男性と根治的前立腺摘除術で治療した男性の転移した前立腺の原発性腫瘍とを比較して、コリン輸送体をコードする(Michel他、Faseb J 23(8):2749〜58頁(2009))9番目のSLC遺伝子SLC44A1を17個の遺伝子発現シグネチャーの一部として同定したが転移しなかった(Nakagawa
他、上記参照)。
【0078】
シグネチャー遺伝子の2番目のセットは、カルシウム依存性細胞接着糖タンパク質をコードする6個のCadherinファミリー・メンバー(CDH2、CDH8、CDH13、CDH15、CDH17およびPCDH9)を含んでいた。Cadherinファミリー・タンパク質の多くは、転移進行に関連する推定機能を有しており(Yilmaz他、Mol Cancer Res 8(5):629〜42頁、2010)、診断パネルに含まれていた(Celebiler他、Cancer Sci 100(12):2341〜5頁(2009);Lu他、PLoS Med 3(12):e467頁(2006))。CDH2を標的とするモノクローナル抗体治療の最近の研究では、アンドロゲン非依存性の前立腺癌の異種移植モデルにおける前立腺癌の成長および転移が阻害されていた(Tanaka他、Nat Med (2010)16:1414〜20頁)。
【0079】
転移能に寄与すると予測される6個の遺伝子の3番目のセットは、カリウム・チャネルKCNB2、KCNQ3、KCNAB1、KCTD8、KCTD9およびKCNH4であった。8q13から8q24の間の高増幅領域に存在する3つの別のカリウム・チャネル(KCNS2、KCNV1およびKCNK9)は発明者らの解析において高く順位付けられていなかったが、弱い効果または修飾因子効果を有した可能性がある。カリウム・チャネル転写の阻害を通して、推定癌遺伝子BCL−2により、高レベルの細胞質のカリウム・イオン濃度が維持された。この高レベルにより、膜破壊の特徴的なミトコンドリアのアポトーシス・カスケード、およびその後のシトクロムC、カスパーゼの放出、ならびに細胞成分のヌクレアーゼ分解に必要な前駆体が阻害されることが示されていた(Ekhterae他、American Journal of Physiol Cell Physiol 2001;281(1):C157〜65頁(2001))。更に、別の研究は、カリウム・チャネルKCNMA1(10q22.3)の高頻度メチル化状態(hyper−methylation status)は前立腺癌の再発を予測するのに役立つことを示していた(Vanaja他、Cancer Invest 27(5):549〜60頁(2009))。前立腺癌細胞株LNCaP(低転移能)およびPC3(高転移能)における電位依存性カリウム・チャネルの活性は著しく異なっていることが観察された(Laniado他、Prostate 46(4):262〜74頁(2001))。山のような証拠もカリウム・チャネルの関与および乳癌細胞の移動で観察されていた(Zhang他、Sheng Li Xue Bao 61(1):15〜20頁(2009))。
【0080】
予測モデルで使用した転移シグネチャー遺伝子の完全なセット(n=368、表6)は機能の様々なサブセットを表し、各腫瘍が転移に進行するのに必要な固有のプロファイルを明らかにした。
【0081】
[実施例4]
予測可能性に基づく転移遺伝子の順位付け
368個の転移遺伝子の完全なセットから得た転移能スコアでは、実施例1〜3に記載のコホートにおいてAUC=81%の予測精度になった。この予測に寄与する遺伝子の階層を決めるために、368個の遺伝子からのサブセットの遺伝子(n)をランダムにサンプリングすることにより、いくつかのシミュレーション(K)を行った(n=20、40、50、80、100)。この方法は、予測精度(AUC=81%)を最大化し、遺伝子のランダムにサンプリングしたサブセットの任意のランダム反復に対する368個の遺伝子からのMPSスコア間の回帰係数も最大化する遺伝子を同定しようとした。例えば、368個の遺伝子シグネチャー由来のMPSと比較して予測精度=81%およびr
2=1.0を達成する20個の遺伝子のランダム・サブセットは、理論的に最良の性能を得たであろう(
図3)。
【0082】
5つのシミュレーションに関する遺伝子の順位付けを確定した時点で、ノンパラトメトリック順位付け法を使用して、K回の解析にわたる順位G位を評価した(Breitling他、FEBS Lett 573:83〜92頁(2004)):
【数7】
【0083】
k回の解析にわたる各Gの順位の単純平均の改良として、この方法を選択した。なぜならば、別の解析における順位に関係なく解析の内の何れか1つにおいて高順位を有することにより重点をおいていたからである。順位の積分についてのこのモデルは、例えば2つの異なる解析において100位に順位付けた遺伝子に比べて、それぞれで1位および100位に順位付けた遺伝子に重みを与えた。
【0084】
本方法の性能を評価するために、拡張ウィンドウを使用して、遺伝子の順位化した複合的な階層を評価した。最小の12個の遺伝子から始めて反復毎に1個の遺伝子を加え、AUCおよびr2を算出した。
図4の結果は、AUCは約80個の遺伝子で頭打ちとなり、最適なAUC約0.81およびr2>0.95を得ることを示した。具体的には、上位12個、20個、40個、80個および100個の遺伝子に関する結果を表5に示した。
【0085】
368個の遺伝子の順位を表6に示した。
【0086】
[実施例5]
患者への予測の報告
Cox比例ハザード比モデルにより評価した前立腺癌の転移能スコアは、無転移の確率を決定するための根拠を提供した。
図5(左側の区画、ROC曲線)において、全ての真陽性(即ち、転移に進行するであろう男性)を同定するために、(ROC曲線のY軸上の100%または1.0における)発明者らの感度を最大にする保守的な閾値を選択した。この高リスク群内において偽陽性率(通常であれば転移に発展しなかったであろう男性)は59%であり、このことにより、低リスクの前立腺癌である何人かの男性が積極的に治療されることになったであろう。しかしながら、現在では男性の100%が積極的に治療されており、そのため、本明細書の保守的な閾値は男性の31%が積極的な治療を免れることを可能にしただろう。
【0087】
この保守的な閾値をCox比例ハザード・モデルのKaplan−Meier解析(
図5、右側の区画)に適用することにより、様々な時間間隔で無転移生存の低リスクおよび高リスクの確率を得た。したがって、このモデルに関して、低リスクであると指定された男性が10年以内に転移に発展する機会は非常に低かった(<5%)であろう。一方、高リスクであると指定されることにより、60ヶ月以内に転移に進行する機会は40%になり、10年以内に転移に進行する機会は>90%になった。
【0088】
比較として、FDAが認可した乳癌の遺伝性発現シグネチャー診断「マンマプリント(MammaPrint)」は、そのリスク報告戦略を開発するために、類似のCox比例ハザード解析を使用した(Bogarts他、Nat Clin Pract Oncol 3:540〜51頁、2006)。現在、FDA低リスク割り当てでは10年以内に転移性疾患に進行する機会は10%であり、高リスク割り当てでは10年以内に進行する機会は29%であった。
【0089】
[実施例6]
Dukeコホートによる検証
発明者らの転移シグネチャーおよび転移能スコア(MPS)予測モデルの妥当性を評価するために、発明者らは、Duke大学病院にて根治的前立腺摘除術で治療した30人の男性から原発性前立腺癌腫瘍の後ろ向きコホートおよび対応する正常な組織を集めた(Dukeコホート)。保存されたホルマリン固定パラフィン包埋(ffpe)したブロックから癌組織を得た。5ミクロンのH&E染色切片を得るために各ブロックを病理学者が処理し、腫瘍内容物に関して評価した。Qiagen ffpe gDNAカラム抽出キットを使用してゲノムDNA(gDNA)を抽出した。サンプルをカリフォルニア州サンタ・クララにあるAffymetrix Service Centerに送付し、ffpe保存組織から抽出したgDNAサンプル用に特別に開発したOncoscan(商標)V2 SNPアレイ上を泳動させた。アレイは約30万個のプローブを有しており(表7参照)、その大部分は別のアレイ・プラットホームにより既に開発された遺伝子シグネチャーと重複した。
【0090】
根治的前立腺摘除術後に転移した原発性腫瘍(mPT、n=13)、遠隔転移に発展しなかった高リスク腫瘍群(hiPT、n=8)および遠隔転移に発展しなかった低リスク腫瘍群(iPT、n=7)によりDukeコホートを構成した。患者が生化学的に再発を経験するかどうか、ならびに手術後に補助放射線および/またはホルモン療法を受けるかどうかに基づいて、hiPT/iPT群の高リスク指定を割り当てた。
【0091】
Dukeコホートに関してMPSスコアを算出し(
図6)、MPSスコアは、mPT、iPTおよびhiPTに関して予測したように分布することを示した。DukeコホートmPtおよびiPtのみに適用した受信者動作特性−曲線下面積解析(ROC−AUC)により、精度が0.91になった。DukeコホートmPtおよびiPtをmsk検証セット(前述した)とともにプールし、ROC−AUCにより測定した精度が0.77になった(
図7)。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
【表4】
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
【表7】
【0099】
【表8】
【0100】
【表9】
【0101】
【表10】
【0102】
【表11】
【0103】
【表12】
【0104】
【表13】
【0105】
【表14】
【0106】
【表15】
【0107】
【表16】
【0108】
【表17】
【0109】
【表18】
【0110】
【表19】
【0111】
【表20】
【0112】
【表21】
【0113】
【表22】
【0114】
【表23】
【0115】
【表24】
【0116】
【表25】
【0117】
【表26】
【0118】
【表27】
【0119】
【表28】
【0120】
【表29】
【0121】
【表30】
【0122】
【表31】
【0123】
【表32】
【0124】
【表33】
【0125】
【表34】
【0126】
【表35】
【0127】
【表36】
【0128】
【表37】
【0129】
【表38】
【0130】
【表39】