特許第6181652号(P6181652)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181652
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】形状適合性コーティング及び組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20170807BHJP
   C09D 4/04 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 115/00 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 109/02 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 109/06 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 123/22 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 123/28 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 109/04 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 109/08 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20170807BHJP
   C09D 121/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C09D201/00
   C09D4/04
   C09D115/00
   C09D109/02
   C09D109/06
   C09D123/22
   C09D123/28
   C09D7/12
   C09D109/04
   C09D109/08
   C09D5/02
   C09D121/00
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-533383(P2014-533383)
(86)(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公表番号】特表2014-532101(P2014-532101A)
(43)【公表日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】US2012057876
(87)【国際公開番号】WO2013049543
(87)【国際公開日】20130404
【審査請求日】2015年9月9日
(31)【優先権主張番号】61/541,426
(32)【優先日】2011年9月30日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/673,587
(32)【優先日】2012年7月19日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エー.アスムス
(72)【発明者】
【氏名】リ ヘ−スン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン ディー.デル
(72)【発明者】
【氏名】ディーナ エム.コンラッド−ブラサック
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−255926(JP,A)
【文献】 特開2001−311036(JP,A)
【文献】 特開2005−089624(JP,A)
【文献】 特表2009−504342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 4/04
C09D 5/02
C09D 7/12
C09D 109/02
C09D 109/04
C09D 109/06
C09D 109/08
C09D 115/00
C09D 121/00
C09D 123/22
C09D 123/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムエラストマーと、
揮発性液体と、を含む形状適合性コーティング組成物であって、
前記揮発性液体が、全組成物の少なくとも40重量%であり、
前記ゴムエラストマーが低表面エネルギー物質で化学修飾されている、組成物。
【請求項2】
重合性シアノアクリレートモノマーである止血剤を更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記揮発性液体が、揮発性の直鎖状及び環状シロキサン、揮発性のポリジメチルシロキサン、イソオクタン、オクタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ゴムエラストマーが、前記揮発性液体中に可溶であるか又は前記揮発性液体中で大きく膨潤する、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン、スチレンコポリマー、アクリロニトリルコポリマー、及びこれらのコポリマー又は混合物からなる群から選択される、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記低表面エネルギー物質がシリコーン、フッ素化オリゴマー、又は炭化水素系オリゴマー物質である、請求項1記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エラストマー及び揮発性液体を含む形状適合性コーティング組成物に関する。本開示は、エラストマーを含む形状適合性コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
失禁、皮膚閉塞、頻繁な洗浄、造瘻、特に回腸瘻及び結腸瘻を有する患者の皮膚を保護する目的で、バリア製品が使用されている。体液からの多量の水分及び腐食性酵素の存在は皮膚の破壊的な損傷につながり、真菌感染、皮膚の剥落、びらんにつながりうる。
【0003】
皮膚の保護に一般的に使用されている製品は、閉塞性のバリアペーストである。これらのバリアペーストは、塗布及び拭き取りが面倒である。更に、これらのペーストは造瘻装置の固定の妨げとなる。
【0004】
米国特許第5,103,812号、及び同第4,987,893号に開示されるような、皮膚に塗布して皮膚を保護するための液体のフィルム形成製品も開発されている。液体のフィルム形成製品の耐久性を高めるため、米国特許第6,183,593号及び同第6,143,805号に開示されるようなシアノアクリレートが使用されている。薄いフィルム形成コーティングの多くは脆く、皮膚上でよく曲がらない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
開示される形状適合性コーティングは、皮膚及び粘膜のような表面を保護及び修復するうえで有用な、耐久性及び弾力性に富んだフィルムを与えるものである。形状適合性コーティング組成物は、エラストマー及び揮発性液体を含む。形状適合性コーティング組成物から形成されるコーティングは、エラストマーを含む。
【0006】
一実施形態では、形状適合性コーティング組成物は、エラストマー及び揮発性液体を含む。揮発性液体は、全組成物の少なくとも40重量%である。組成物は、1,000cps未満の粘度を有する。一実施形態では、組成物は、重合性シアノアクリレートモノマーなどの止血剤を更に含む。一実施形態では、揮発性液体は、揮発性の直鎖状及び環状シロキサン、揮発性のポリジメチルシロキサン、イソオクタン、オクタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。一実施形態では、全組成物の少なくとも60重量%が揮発性液体である。一実施形態では、エラストマーはゴム又は熱可塑性エラストマーである。一実施形態では、エラストマーは、1,400〜1,000,000の分子量を有する。一実施形態では、エラストマーは、低表面エネルギー物質によって化学修飾される。一実施形態では、組成物は少なくとも1重量%のエラストマーを含む。一実施形態では、組成物はアンチブロッキング剤を更に含む。一実施形態では、粘度は100cps未満である。
【0007】
一実施形態では、形状適合性フィルムは、基材上にエラストマーを有し、目付量は1〜30mg/インチ(0.16〜4.65mg/平方cm)であり、フィルムは100%の伸長率で75%未満の破断率を有する。一実施形態では、フィルムの厚さは1mm未満である。一実施形態では、フィルムは200%の伸長率での破断率が75%未満である。一実施形態では、フィルムは少なくとも50%の伸長率を有する。一実施形態では、フィルムは、粘着性、抵抗、及びブロッキングが低い。
【発明を実施するための形態】
【0008】
エラストマーは、揮発性の非反応性の液体中に含まれる場合、弾力性及び可撓性を有する速乾性、接着性、非刺痛性かつ非刺激性の液体接着コーティングを与える。更に、組成物中にエラストマーが含まれることにより、コーティングの表面粘着性は大きくなるが、コーティングは、摩擦係数すなわち抵抗が比較的低くなるように設計できることが期せずして見出された。
【0009】
揮発性溶媒及びエラストマーからなるコーティング組成物は、コーティングとして形成される場合、皮膚、爪、組織、臓器及び粘膜、例えば、出血創傷、手術部位、皮膚潰瘍、切り傷、擦り傷、切開、単純疱疹、水疱、発疹、歯肉及び他の口腔表面の擦り剥け、痔核及び身体部分の擦り剥け、並びに他の粘膜の切開創及び創傷などを保護又は治療するうえで有用である。コーティングは、外科用接着剤として使用することもできる。形状適合性コーティング組成物から形成されたコーティングは、エラストマーの溶媒溶液又は分散液を含む。
【0010】
使用者の特定の要求条件に応じて、組成物は、1回使用又は複数回使用できる製品でありうるスプレー、ポンプ、スワブ、ロッド、滅菌ブラシ又は薬用スポイトなどの公知の手段によって塗布することができる。
【0011】
形状適合性コーティング組成物に使用することが可能なエラストマーとしては、天然又は合成ゴム及び熱可塑性エラストマーが挙げられる。適当なゴムとしては、これらに限定されるものではないが、以下のもの、すなわち、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン、スチレンコポリマー、アクリロニトリルコポリマー、及びこれらのコポリマー又は混合物の低〜高分子量のものが挙げられ、これらは揮発性液体中に可溶であるか又は揮発性液体中で大きく膨潤する。一実施形態では、主エラストマーの分子量は1,400〜1,000,000であり、一実施形態では10,000〜1,000,000であり、一実施形態では25,000〜600,000であり、一実施形態では50,000〜200,000である。一実施形態では、低分子量(1〜60,000)のエラストマーをエラストマーシステム中にブレンドすることができる。
【0012】
従来のシステムはゴム成分を含んでいるが、これらの従来のシステムは、米国特許第5,369,130号に開示されるように、低分子量のゴムオリゴマーによって溶媒化されたゴムを含んでいた。これらの組成物は、皮膚から容易に擦り取られるか又は拭き取られる、耐久性の低いペーストである。開示される形状適合性コーティング組成物は、エラストマー固形分がコーティング組成物の少なくとも1重量%である溶液を含む。一実施形態では、形状適合性コーティング組成物は、エラストマー固形分がコーティング組成物の少なくとも5重量%である溶液を含む。エラストマー、特にゴムを添加することで、形状適合性コーティングが、破断することなく大きく伸長することが可能となり、これにより、基材、通常は皮膚に対する優れた接着性及び耐久性を有しつつ、コーティングのバリア性能が維持されることが見出された。
【0013】
形状適合性コーティング組成物にエラストマーが含まれることで、ブロッキング挙動が生じうる。表面上のコーティングは、べたつき感はないが、コーティングされた2つの表面が接着すると、コーティングされた表面同士が互いに親和性を示して接着してしまう。更に、エラストマー成分は、形状適合性コーティングと寝具又は衣類などの外部の表面との間の摩擦力、すなわち抵抗を増大させうる。一実施形態では、組成物はアンチブロッキング剤を更に含む。アンチブロッキング剤は、パルミチン酸セチル若しくはポリビニルステアリルエーテルなどの蝋状物質であってよく、又はポリスチレン若しくはスチレンのメチル化誘導体のC9芳香族樹脂などの高Tgの樹脂であってもよく、又は形状適合性コーティング組成物中に含まれてよいコポリマーであってもよい。驚くべきことに、これらの物質によって、優れた摩耗性能を有する透明な硬化フィルムが与えられた。脂肪族アルコール、脂肪族アルコールエステル及びエーテル、並びに蝋状ポリマーなどの他の蝋状物質を、ブロッキングを低減させるために使用することもできる。
【0014】
別の実施形態では、低表面エネルギー成分によりエラストマーを化学修飾することがブロッキング挙動を低減させ、抵抗力を低減させることが見出された。アンチブロッキング剤を組成物中に単純に加えることで、フィルムの最終的な粘着性が低下した。しかしながら、アンチブロッキング剤は、フィルムの全体的な伸長特性に負の影響を及ぼした。化学修飾されたエラストマーは、フィルムの粘着性の低下、ブロッキング挙動の低減、抵抗の低下を示す一方でなお、フィルムの伸長特性を与えた。
【0015】
具体的には、シリコーン、フッ素化オリゴマー、及び炭化水素系オリゴマー物質を、エラストマーを修飾するために使用することができる。このような修飾は、グラフト化又はヒドロシリル化によって実現することができる。一実施形態では、ゴムを修飾するためにジメチコンが用いられ、具体的には不飽和ゴムを修飾するために用いられる。
【0016】
低表面エネルギー部分の分子量は、低表面エネルギー部分が抵抗に影響を及ぼす能力を左右する。例えば、ジメチコンの分子量が極めて低い場合には、抵抗の低減に対してほとんど影響しない。低表面エネルギーの側鎖の分子量が大きすぎると、システム内の溶解度の問題が生じうる。修飾されたエラストマーは溶媒中に溶けにくいか、又は修飾されたエラストマーは溶液中の他のエラストマーと混和しないものと考えられる。一実施形態では、低表面エネルギー部分の側鎖は、分子量が500〜10,000である。
【0017】
エラストマーは、1以上の低表面エネルギー部分の側鎖を有しうる。低表面エネルギー部分の側鎖が多すぎると、得られるフィルムのバリア性能に負の影響を及ぼしうる。一実施形態では、エラストマーが飽和ゴムである場合、ジメチコンの量は60%を大きく超えてはならない。一実施形態では、豊富な不飽和は最終的にはグラフト反応に使用されるか、かつ/又は組成物の他の成分中に共重合されうることから、不飽和ゴムは、具体的にはジメチコンによる、99%に近い、より高度の側鎖の修飾に耐えることが可能である。コーティングの共重合は、ラジカルを生成し、乾燥する際、又は乾燥した後に皮膚上のコーティングの架橋を可能とする、熱、空気、紫外線などにより誘発されるフリーラジカル開始剤を添加することにより実現することができる。
【0018】
一実施形態では、ゴムは低表面エネルギー成分が含まれたエラストマーである。飽和又は不飽和ゴムを修飾してもよい。しかしながら、不飽和ゴムが特に良好に機能する。飽和ゴムの例としては、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレンコポリマー、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロックコポリマー、ポリイソブチレン、エチレン−プロピレン、エチレン−ブテン、及びエチレン−オクテンがある。不飽和ゴムの例としては、ポリジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、スチレン−ブタジエン、スチレン−イソプレン、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエン、ポリクロロプレンなどのハロゲン化ゴム、EPDMゴム、及びポリブタジエン、並びに、これらのゴムとポリイソブチレンとのコポリマーがある。
【0019】
エラストマーの選択は、しばしば互いに拮抗する幾つかの特性によって導かれる。これらの特性は、皮膚への接着性、伸長率、バリア特性、硬さ、靱性、粘着性、抵抗感、及びブロッキングである。一般的には、より柔らかく、より低分子量のエラストマー、特にゴム、又はより高分子量とより低分子量のエラストマー(分子量1〜60,000)とのブレンドが、皮膚への最適な接着性を与える。しかしながら、これらの物質はいずれも、ブロッキングが最も高く、抵抗が最も高く、皮膚上での感触が最も柔らかい傾向を有する。表面の抵抗及びブロッキングを低減させるためには、エラストマーの硬さを増大させることでこれらの問題が相殺される。硬さを増大させるには幾つかのアプローチがあり、エラストマーが結晶性ポリマーを含む場合、その体積分率を大きくすることが硬さを増大させる助けとなる。ポリスチレンコポリマーの場合では、末端ブロックセグメントの比率(%)としてスチレン相を増やすか、又は中間ブロックにスチレン相を加えることも硬さを増大させるうえで効果的である。高Tgの修飾樹脂を加えることも硬さを増大させるのに有効である。修飾樹脂の妥当な量は、コーティングのエラストマー含量の1〜150重量%の範囲である。より好ましくは、修飾樹脂の範囲は、エラストマー含量の20〜100重量%である。一実施形態では、このような硬さの増大により、伸長率及び皮膚への接着性を犠牲にすることはない。これらの修飾物質の効果は、100%及び200%の伸長率で開示される伸長試験法を用いて評価を行うことができる。試験するフィルムは、破断率が75%未満、好ましくは破断率が50%未満、より好ましくは破断率が25%未満であることが望ましく、無論、破断しないことが望ましい。
【0020】
本発明者らは、SEBSゴムのスチレン含量を12%から18%に増やすことによって耐ブロッキング性が劇的に向上することを予期せずして見出した。一実施形態では、スチレンコポリマーエラストマーのスチレン含量の範囲は0.1重量%〜65重量%であり、一実施形態では10重量%〜55重量%であり、一実施形態では18重量%〜45重量%である。これらのコポリマーのスチレン含量を増やすことにより、イソオクタンなどのアルカン溶媒中のシステムの溶解度は低くなるが、シクロヘキサンのような環状溶媒では40%を上回る極めて高いスチレン含量の溶解度が可能となる。
【0021】
ポリマーの分子量、並びにその結晶化度及びコポリマー含量は、組成物の粘度に影響する。理想的には、組成物の粘度は1,000cps未満、好ましくは100cps以下である。低い粘度を目標としながら、なお、できるだけコーティングの固形分を高く維持することが、フォームパッド又はスワブアプリケータ−により皮膚上に適当なフィルム厚さを与えるうえで望ましい。好ましい熱可塑性エラストマーは、利用可能な分子量範囲のより低い範囲のものである。好ましい候補の選択は、エラストマーを所望の溶媒中に溶媒化し、粘度が所望の標的値を上回る前に最大濃度を測定することにより行われる。一実施形態では、コーティング組成物は、10%よりも高い固形分濃度で1,000cps以下の粘度を有する。
【0022】
皮膚などの基材に塗布される溶液の量は、10〜100mg/平方インチ(1.55〜15.5mg/平方cm)の範囲であることが望ましい。10〜30%の範囲の固形分含量に対して、乾燥したフィルムの典型的な目付量は、1〜30mg/平方インチ(0.16〜4.65mg/平方cm)の範囲となる。
【0023】
エラストマーは、非刺痛性、非刺激性、揮発性、非反応性の液体を含む溶媒システムに加えられる。非刺痛性、非刺激性の溶媒システムは、ヘキサメチルジシロキサン(HMDS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルトリシロキサンなどの揮発性の液体シロキサンを含みうる。他の揮発性溶媒としては、カプリリルメチコン、エチルトリシロキサンなどの揮発性オルガノシリコーン、イソオクタン、オクタン、ノナン及びデカンなどの(C6〜C10)アルカン(及び、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの環状異性体を含むその構造異性体)、酢酸メチル及び酢酸エチル、プロピレングリコールジアセテートなどの酢酸エステル、アセトン及びメチルエチルケトンなどの揮発性ケトン、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジプロピルエーテル、及びジプロピレングリコールジメチルエーテルなどの揮発性エーテル、グリコールエーテル及びセロソルブエーテル、並びに上記のもののブレンドが挙げられる。ペンタフルオロプロパン、パーフルオロヘプタン、パーフルオロメチルシクロヘキサンなどの揮発性フルオロカーボン、又は二酸化炭素などの揮発性ガスを使用することも可能であり、それぞれ、使用者に対する不快感の程度は異なる。一実施形態では、非刺痛性、非刺激性、揮発性の非反応性の液体は、形状適合性コーティング組成物全体の約40重量%〜最高約99.9重量%、別の実施形態では65重量%〜最高99重量%、別の実施形態では75重量%〜90重量%で存在する。
【0024】
全体として、一実施形態では、形状適合性コーティング組成物の全固形物含量は、形状適合性コーティング組成物全体の少なくとも20重量%であり、一実施形態では少なくとも30重量%であり、一実施形態では50重量%未満である。
【0025】
本開示の一実施形態では、揮発性液体部分は、乾燥したフィルムが2分未満で形成されるように蒸発する。一実施形態では、乾燥したフィルムは90秒未満で形成される。
【0026】
「The Extensibility in Human Skin:Variation According to Age and Site」(British Journal of Plastic Surgery(1991),44,418〜422)というタイトルで発表された論文では、皮膚の進展性は身体の部位、年齢によるが、一般的には10%〜60%以上の範囲であるとされている。形状適合性コーティングの望ましい伸長率の範囲は、少なくとも10%でなければならず、好ましくは50%よりも大きく、最も好ましくは100%よりも大きい。
【0027】
形状適合性コーティング組成物におけるエラストマーの使用により、コーティングの伸長能力が大幅に増大する。したがって、コーティングは、連続的コーティングを維持し、コーティングのひび割れ又は破断部分を限定されたものに維持しつつ、延伸及び回復することができる。一実施形態では、コーティングは、50%よりも大きい伸長率を有する。一実施形態では、コーティングは、100%の伸長を行った場合に75%未満の破断率を有する。一実施形態では、コーティングは、200%の伸長を行った場合に75%未満の破断率を有する。開示されるコーティングは、皮膚のような柔軟な表面に塗布される際に、大幅により耐久性及び可撓性の高いバリアフィルムとなる。
【0028】
他の物質も、それらがシアノアクリレートモノマーの自然な重合を誘発しないかぎり、更なる可塑化、接着性を向上させるための粘着付与剤、又はレオロジー調節などのために液体材料又は配合物に加えることができる。一実施形態では、組成物に止血剤を加えることもできる。一実施形態では、止血剤はシアノアクリレートである。止血剤の他の例としては、ミクロフィブリルコラーゲン、キトサン、骨ワックス、オステン(ostene)、酸化セルロース及びトロンビンが挙げられる。
【0029】
使用可能なシアノアクリレートモノマーとしては、アルキルシアノアクリレート、アリールシアノアクリレート、アルコキシアルキルシアノアクリレートなどの容易に重合可能なα−シアノアクリレート、例えば、ブチルシアノアクリレート及びn−ブチルシアノアクリレート、特に、オクチルシアノアクリレート及び2−オクチルシアノアクリレート、特に、エチルシアノアクリレート、メチルシアノアクリレート、n−ドデシルシアノアクリレート、フェニル2−シアノアクリレート、メトキシエチル2−シアノアクリレートなどが挙げられる。組成物は、1以上の重合性シアノアクリレートモノマーで構成されうる。一実施形態では、シアノアクリレートモノマーは、形状適合性コーティング組成物の非揮発性部分の約0.1重量%〜約99.9重量%、別の実施形態では0.1重量%〜約65重量%、別の実施形態では0.1重量%〜約55重量%で存在する。一実施形態では、シアノアクリレートは、組成物の非揮発性部分の少なくとも5重量%で存在することで、システムは良好な止血及び止リンパ液性能を示す。
【0030】
ジブチルフタレート、アセチルクエン酸トリブチル、酢酸スクロースイソブチレート、スクロースベンゾエート、クエン酸アセチルトリエチル、アジピン酸ベンジル−(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジブチル、水素化ポリイソブチレン、鉱油、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ポリ(メチルフェニルシロキサン)(poly(methyphenylsiloxane))、グリコール酸ブチルなどの広範な可塑剤及び粘着付与剤が有用でありうる。好適な可塑剤としては、ポリ(エチレングリコール)(PEG)エステル及びキャップドPEGエステル又はエーテル、ポリグリコール酸エステル及びポリアジピン酸エステルなどのポリマー可塑剤が挙げられる。他の組成物は、いずれもその全体を本明細書に援用するところの米国特許第5,259,835号及び同第5,328,687号、同第5,981,621号、同第6,143,352号、同第6,565,840号、同第6,010,714号、同第6,217,603号、同第5,928,611号に例示されている。
【0031】
液体材料又は配合物に添加することが可能な一般的なレオロジー添加剤としては、ヒュームドシリカ、ベントナイト及び他の粘土誘導体などがある。コーティングの滑り性、硬さ、及びブロッキング性能を改変するうえで充填剤も有用でありうる。ガラスビーズなどの大きな粒子を、コーティングのブロッキング性能を低減させるために使用することができる。
【0032】
組成物は必要に応じて増粘剤を含んでもよいが、通常はゴムエラストマーがシステムに相当の増粘作用を与えるため、更なる増粘は必要としない。組成物は、尿及び糞便の刺激を低減するためのpH調整剤又は緩衝剤を含んでもよい。
【0033】
本発明の組成物から形成される接着剤の凝集力を高めるため、組成物の2重量%未満の濃度の二官能性モノマー架橋剤を加えることができる。このような架橋剤は、米国特許第3,940,362号などにおいて知られる。
【0034】
組成物は更に、繊維状強化材、並びに染料、顔料、及び顔料色素などの着色剤を含みうる。好適な繊維状強化材の例としては、その開示内容の全体を本明細書に援用するところの米国特許第6,183,593号に述べられるようなPGAミクロフィブリル、コラーゲンミクロフィブリルが挙げられる。米国特許第5,981,621号に述べられるような好適な着色剤の例としては、1−ヒドロキシ−4−[4−メチルフェニルアミノ]−9,10−アントラセンジオン(FD&C紫色2号)、6−ヒドロキシ−5−[(4−スルホフェニル)オキソ]−2−ナフタレンスルホン酸の二ナトリウム塩(FD&C黄色6号)、9−(o−カルボキシフェニル)−6−ヒドロキシ−2,4,5,7−テトラヨード−3H−キサンテン−3−オン、二ナトリウム塩、一水和物(FD&C赤色3号)などが挙げられる。
【0035】
蛍光色素及び顔料の使用も、プラックライトの下でコーティングが見えるようにすることにより有用である。コーティングは、通常の照明の下では澄んで透明であり、その部位を皮膚の変化について容易に視認して検査することができる。コーティングが完全であることを確実とし、所望の領域をカバーする手段として、その蛍光によってコーティングが見えるようにするブラックライトスキャナー又は懐中電灯の使用によってその部位を検査することができる。特に有用な炭化水素系可溶性蛍光色素の1つとして、2,5−ビス(5−tert−ブチル−2−ベンゾオキザゾリル)1−チオフェンがある。
【0036】
以上、本明細書において具体的な実施形態を図示及び説明したが、これらの実施形態は、本発明の原理を適用することで考案されうる多くの可能な具体的構成をあくまで例示するものにすぎない点は理解されよう。これらの原理に基づけば、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多くの様々な他の構成が当業者によって考案されうる。したがって、本発明の範囲は、本出願に述べられる構造に限定されるべきではなく、「特許請求の範囲」の文言により述べられる構造及びそうした構造の均等物によってのみ限定されるべきものである。本発明の実施態様の一部を以下の項目[1]−[37]に記載する。
[1]
エラストマーと、
揮発性液体と、を含む形状適合性コーティング組成物であって、
前記揮発性液体が、全組成物の少なくとも40重量%であり、
前記組成物が、1,000cps未満の粘度を有する、組成物。
[2]
止血剤を更に含む、項目1に記載の組成物。
[3]
前記止血剤が、重合性シアノアクリレートモノマーである、項目2に記載の組成物。
[4]
前記組成物が、少なくとも5%の止血剤を重合性シアノアクリレートモノマーとして含む、項目2に記載の組成物。
[5]
0.1〜55重量%の、前記重合性シアノアクリレートモノマーの非揮発性部分を含む、項目3又は4に記載の組成物。
[6]
前記揮発性液体が、揮発性の直鎖状及び環状シロキサン、揮発性のポリジメチルシロキサン、イソオクタン、オクタン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
[7]
全組成物の少なくとも60重量%が、前記揮発性液体である、項目1に記載の組成物。
[8]
前記エラストマーが、ゴム又は熱可塑性エラストマーである、項目1に記載の組成物。
[9]
前記ゴムが、前記揮発性液体中に可溶であるか又は前記揮発性液体中で大きく膨潤する、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン、スチレンコポリマー、アクリロニトリルコポリマー、及びこれらのコポリマー又は混合物からなる群から選択される、項目8に記載の組成物。
[10]
前記エラストマーが、1,400〜1,000,000の分子量を有する、項目1に記載の組成物。
[11]
前記エラストマーが、40,000〜1,000,000の分子量を有する、項目10に記載の組成物。
[12]
前記エラストマーが、低表面エネルギー物質で化学修飾される、項目1に記載の組成物。
[13]
前記低表面エネルギー物質が、シリコーン、フッ素化オリゴマー、又は炭化水素系オリゴマー物質である、項目12に記載の組成物。
[14]
前記エラストマーがゴムである、項目12に記載の組成物。
[15]
前記エラストマーが不飽和ゴムである、項目14に記載の組成物。
[16]
前記エラストマーが、18〜65重量%のスチレン含量を有する、項目1に記載の組成物。
[17]
少なくとも1重量%のエラストマーを含む、項目1に記載の組成物。
[18]
少なくとも5重量%のエラストマーを含む、項目1に記載の組成物。
[19]
アンチブロッキング剤を更に含む、項目1に記載の組成物。
[20]
前記アンチブロッキング剤が、1〜150重量%の前記エラストマーを含む、項目19に記載の組成物。
[21]
前記アンチブロッキング剤が高Tgを有し、20〜100重量%の前記エラストマー含量を有する、項目19に記載の組成物。
[22]
前記粘度が、100cps未満である、項目1に記載の組成物。
[23]
前記粘度が、10重量%よりも高いエラストマー含量で1,000cps未満である、項目1に記載の組成物。
[24]
前記エラストマーが、前記揮発性液体中に分散される、項目1に記載の組成物。
[25]
蛍光色素又は顔料を更に含む、項目1に記載の組成物。
[26]
基材上にエラストマーを有する形状適合性フィルムであって、目付量が1〜30mg/インチ(0.16〜4.65mg/平方cm)であり、前記フィルムが100%の伸長率で75%未満の破断率を有する、形状適合性フィルム。
[27]
前記フィルムが、1mm未満の厚さを有する、項目26に記載の形状適合性フィルム。
[28]
前記フィルムが、200%の伸長率での破断率が75%未満である、項目26に記載の形状適合性フィルム。
[29]
前記フィルムが、100%及び200%の伸長率での破断率が25%未満である、項目26に記載の形状適合性フィルム。
[30]
前記フィルムが、少なくとも50%の伸長率を有する、項目26に記載の形状適合性フィルム。
[31]
前記エラストマーが、ゴム又は熱可塑性エラストマーである、項目26に記載の形状適合性フィルム。
[32]
前記エラストマーが、12〜18重量%のスチレン含量を有する、項目31に記載の組成物。
[33]
前記ゴムが、前記揮発性液体中に可溶であるか又は前記揮発性液体中で大きく膨潤する、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン、スチレンコポリマー、アクリロニトリルコポリマー、及びこれらのコポリマー又は混合物からなる群から選択される、項目31に記載の組成物。
[34]
前記エラストマーが、低表面エネルギー物質で化学修飾される、項目31に記載の組成物。
[35]
前記低表面エネルギー物質が、シリコーン、フッ素化オリゴマー、又は炭化水素系オリゴマー物質である、項目34に記載の組成物。
[36]
前記エラストマーが不飽和ゴムである、項目34に記載の組成物。
[37]
前記フィルムが、低い粘着、抵抗、及びブロッキングを有する、項目26に記載の組成物。
【実施例】
【0037】
本発明の目的及び効果を、以下の実施例によって更に例示するが、これらの実施例において記載される特定の材料及びその量、並びに他の諸条件及び詳細は、本発明を不要に限定するものと解釈すべきではない。
【0038】
材料
実施例で使用した材料を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
試験方法
伸長率
各配合物を数滴ずつ、2.54cm×5.08cmのCHGゲルパッド(例えば、3M Tegaderm(商標)CHG Dressing、カタログ番号1657、スリー・エム社(3M Company)、ミネソタ州セントポール)全体に塗り広げた。配合物は、薄いフィルムに塗り広げ、室温で少なくとも15分間、乾燥(硬化)させた。次に、CHGゲルパッドをその初期長さの100%又は200%にまで伸ばし、伸ばされた位置で維持されるように平らな表面上に置いた。少なくとも5滴の一般的な漂白剤を、コーティングされたゲルの上に置いた。コーティングが破断している場合には、漂白剤中のNaOClがゲルパッド中のCHGと反応して褐色となった。漂白剤を加えた後、硬化した配合物を、15分以内の破断量について目視にて評価し、各液滴中の褐色の着色量を記録した。記録した破断率(%)は、5滴の平均である。
【0041】
抵抗
抵抗は、乾燥したコーティングを指で軽く擦ることによって行われる感覚的な評価である。各コーティングは、1(低)〜5(高)で評価した。
【0042】
粘着
粘着は、ゲル上の乾燥したコーティングを指で軽く触れることによって行われる感覚的な評価である。各コーティングは、1(粘着なし)〜5(感圧接着剤様の粘着)で評価した。
【0043】
ブロッキング
ブロッキングは、材料がそれ自身に接着する傾向のことである。乾燥したコーティングはべたつきは感じられないが、2つのコーティングされた表面を接触させると、コーティング同士は互いに親和性を示して接着する。この性質をブロッキングと呼ぶ。試験は、コーティングをCHGゲルパッド上で1時間乾燥させることによって行う。次に、コーティングがそれ自身に触れるようにゲルパッドを半分に折り畳む。指で10秒間、軽く圧力を加える。圧力を解放した後、ゲル表面同士が接着することなく離れればそのコーティングを1と評価し、表面同士が互いに強く接着していれば5と評価する。
【0044】
(実施例)
(1〜実施例13)
各成分を密封したガラス容器中で加え合わせ、溶解するまで混合しながら65℃に加熱した(24〜48時間)。試験を行う前に溶液を室温に冷却した。
【0045】
結果
幾つかのスチレンコポリマーのクラスを含む幾つかのエラストマーゴムと、所定の濃度の範囲のスチレンとを、シクロヘキサン中で配合した。各配合物及び硬化した各コーティングの試験結果を表2に示す。極めて弾性の高いバリアフィルムが得られた。
【0046】
【表2】