【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DE LA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE (I.N.S.E.R.M.)
【文献】
Vers des essais cliniques de therapies geniques et cellulaires combinees au saut d’exon pour la myopathie de Duchenne :Bilan ICE-2010,2011年 4月27日,2016年8月19日検索 <www.duchennefr.com/medias/ice-2010-bilan.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な記載
本発明は、M23D(+02-13)と称するtc-DNA-PSアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)によって例示される、トリシクロ-ホスホロチオエートDNA分子が、投与後に心臓細胞および中枢神経系(CNS)へデリバリーされて、突然変異ジストロフィン遺伝子などの突然変異遺伝子を修復しうるという予期せぬ発見に基づく。
【0017】
オリゴヌクレオチドのトリシクロ-DNAバージョン(すなわち、トリシクロ-ヌクレオシドの間に古典的なホスホジエステル連結を含むオリゴヌクレオチド)は、全身的投与後、心臓細胞またはCNSにおいて、遺伝子発現を変更することにおいて十分ではないので、この発見は全く驚くべきことである。さらに、PMOも2’OMe-PS-RNAも、ヒト対象での使用に許容しうる用量で、心臓細胞における遺伝子発現を変更することにおいて効率的ではない(Yokota、T et al Ann Neurol 2009;Mol Ther. 2010 Jun;18(6):1210-7. Preclinical PK and PD studies on 2’-O-methyl-phosphorothioate RNA antisense oligonucleotide in the mdx mouse model. Heemskerk H、de Winter C、van Kuik P、Heuvelmans N、Sabatelli P、Rimessi P、Braghetta P、van Ommen GJ、de Kimpe S、Ferlini A、Aartsma-Rus A、van Deutekom JC.)。これらの化学的性質のために、心臓細胞に入ることは、3g/kg(今日の臨床試験に用いる用量の300倍)などの例外的な高用量(Gene Ther. 2010 Jan;17(1):132-40. Dose-dependent restoration of dystrophin expression in cardiac muscle of dystrophic mice by systemically ally delivered morpholino. Wu B、Lu P、Benrashid E、Malik S、Ashar J、Doran TJ、Lu QL)または複合貫通ペプチドもしくは超音波などの機械的ストレス(Mol Ther. 2011 Jul;19(7):1295-303. Pip5 transduction peptides direct high efficiency oligonucleotide-mediated dystrophin exon skipping heart and phenotypic correction in mdx mice. Yin H、Saleh AF、Betts C、Camelliti P、Seow Y、Ashraf S、Arzumanov A、Hammond S、Merritt T、Gait MJ、Wood MJ;Ultrasound Med Biol. 2009 Jun;35(6):976-84. Microbubble stability is a major determinant of the efficiency of ultrasound and microbubble mediated in vivo gene transfer. Alter J、Sennoga CA、Lopes DM、Eckersley RJ、Wells DJ.)のいずれかが必要であった。
【0018】
本発見は、一般に、遺伝子疾患の治療において、さらに詳しくは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症およびシュタイナート筋強直性ジストロフィーなどの神経筋疾患または筋骨格疾患の治療、ならびに心臓またはCNS疾患の治療において、広範な応用を見出すであろう。
【0019】
定義
本明細書で用いる、用語「ホスホロチオエート」は、核酸分子中の二つの隣接ヌクレオシドの間の5’...-O-P(S)-O-...3’部分を意味する。
【0020】
本明細書で用いる、用語「トリシクロ-DNA(tc-DNA)」は、各ヌクレオチドが、主鎖の配座柔軟性を制限するため、およびねじれ角γの主鎖配置を最適化するためシクロプロパン環の導入によって修飾されている拘束されたDNA類似体(constrained DNA analogs)の一種を意味する(Ittigら、Nucleic Acids Res.
32:346-353(2004);Ittigら、Prague、Academy of Sciences of the Czech Republic.
7:21-26(Coll. Symp. Series、Hocec、M.、2005);Ivanovaら、oligonucleotides
17:54-65(2007);Rennebergら、Nucleic Acids Res.
30:2751-2757(2002);Rennebergら、Chembiochem.
5:1114-1118(2004);およびRennebergら、JACS。
124:5993-6002(2002))。ホモベーシックアデニンおよびチミン含有tc-DNAは、相補的RNAと非常に安定したA-T塩基対を形成する。
【0021】
本明細書で用いる、用語「トリシクロ-ヌクレオシド」は、以下の式:
を有する核酸分子のサブユニットを意味する。
本明細書で用いる、用語「アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)」は、プレmRNAもしくは相補的ヌクレオチド配列を有するmRNAと相互作用および/またはハイブリダイズして、遺伝子発現を変更する能力があるオリゴヌクレオチドを意味する。
【0022】
本明細書で用いる、「塩基」は、典型的なDNAおよびRNA塩基(ウラシル、チミン、アデニン、グアニンおよびシトシン)、および修飾された塩基もしくは塩基類似体(5-メチルシトシン、5-ブロモウラシルまたはイノシンなど)を意味する。塩基類似体は、分子構造が典型的なDNAまたはRNA塩基の構造に似ている化学種である。
【0023】
本明細書で用いる、「相補的」は、別の核酸分子と相補的ヌクレオシドまたはヌクレオチド間で、従来のワトソン−クリック塩基対合または他の非従来型の対合(たとえば、Hoogsteenまたは逆Hoogsteen水素結合)のいずれかにより、水素結合を形成することができる核酸分子を意味する。本開示のtc-DNA-PS AONに関して、tc-DNA-PS AONのその相補的配列との結合自由エネルギーは、tc-DNA-PS AONの適切な機能を進行させるのに十分であり、そして、特異的結合が望ましい条件下、すなわち、エクスビボまたはインビボ治療的処置の場合では、生理学的条件下で、tc-DNA-PS AONの非標的配列への非特異的結合を回避するために十分な相補性レベルがある。核酸分子の結合自由エネルギーの決定は、当技術分野で公知である(たとえば、Turnerら, CSH Symp. Quant. Biol. LII:123-133 (1987); Frieら, Proc. Nat. Acad. Sci. USA 83:9373-77 (1986);およびTurnerら, J. Am. Chem. Soc. 109:3783-3785 (1987)参照)。したがって、「相補的」(または特異的にハイブリダイズ可能な)は、tc-DNA-PS AONとプレmRNAまたはmRNA標的間で、安定で特異的な結合が形成されるように、十分な相補性または正確な塩基対合の程度を示す用語である。
【0024】
核酸分子が、特異的にハイブリダイズ可能であるために標的核酸配列に100%相補的である必要はないことは当技術分野で理解されている。すなわち、、二つ以上の核酸分子が、完全に相補的でなくてもよい。相補性は、第二の核酸分子と水素結合を形成することができる核酸分子の隣接残基のパーセンテージで示される。たとえば、第一の核酸分子が10ヌクレオチドであり、第二の核酸分子が10ヌクレオチドである場合、第一および第二の核酸分子間の5、6、7、8、9または10ヌクレオチドの塩基対合は、それぞれ、50%、60%、70%、80%、90%および100%の相補性を表す。「完璧(Perfectly)」または「完全(fully)」に相補的な核酸分子は、第一の核酸分子の隣接残基の全てが、第二の核酸分子の同じ数の隣接残基と水素結合する核酸分子を意味し、ここで、核酸分子の両方が同じ数のヌクレオチドを有する(すなわち、、同じ長さを有する)か、または二つの分子が異なる長さを有する。
【0025】
本明細書で用いる、用語「前駆体mRNA」または「プレmRNA」は、一つ以上の介在配列(イントロン)を含有する未熟な一本鎖メッセンジャーリボ核酸(mRNA)を意味する。プレmRNAは、細胞核内で、RNAポリメラーゼによりDNAテンプレートから転写され、それは、イントロンおよびコーディング領域(エクソン)の交互配列からなる。プレmRNAが、イントロンのスプライシング除去およびエクソンの連結により完全にプロセシングされると、それは、エクソンのみからなるRNAである「メッセンジャーRNA」または「mRNA」と呼ばれる。真核生物のプレmRNAは、完全にmRNAにプロセシングされる前に一時的にのみ存在する。プレmRNAが、mRNA配列に適切にプロセシングされると、核外に輸送され、最終的に細胞質内でリボソームによりタンパク質へと翻訳される。
【0026】
本明細書で用いる、用語「スプライシング」および「プロセシング」は、イントロンが除去されエクソンが連結される、転写後のプレmRNAの修飾を意味する。スプライシングは、スプライセオソームと称される5つの小さい核内リボヌクレオタンパク質(snRNP)からなる巨大なRNA−タンパク質複合体に触媒される一連の反応で起こる。イントロン内で、3’スプライス部位、5’スプライス部位およびブランチ部位がスプライシングに必要である。snRNPのRNA成分がイントロンと相互作用し、触媒に関与することができる。
【0027】
プレmRNAスプライシングは、二つの連続した生化学反応である。両方の反応が、スプライセオソームによるRNAヌクレオチド間のエステル交換を含む。第一の反応では、スプライセオソーム会合の間に決定されるイントロン内の特異的なブランチポイントヌクレオチドの2’-OHが、イントロンの第一のヌクレオチド上の5’スプライス部位で求核攻撃を行いラリアット中間体が形成される。第二の反応では、解放された5’エクソンの3’-OHが、イントロンの最後のヌクレオチドの3’スプライス部位で求核攻撃を行い、それによって、エクソンが連結しイントロンラリアットが開放される。プレmRNAスプライシングは、エクソンスプライスエンハンサーまたはインヒビター配列などの多くの因子によって制御され、特に、イントロンサイレンサー配列(ISS)および末端ステムループ(TSL)配列により制御される。
【0028】
本明細書で用いる、用語「イントロンサイレンサー配列(ISS)」および「末端ステムループ(TSL)」は、それぞれ、プレmRNA内でトランス作用タンパク質ファクターの結合により選択的スプライシングをコントロールし、それによって、スプライス部位の特異的使用をもたらす、イントロンおよびエクソン内の配列エレメントを意味する。典型的には、イントロンサイレンサー配列は8〜16ヌクレオチドであり、エクソン−イントロンジャンクションでスプライス部位よりも保存されていない。末端ステムループ配列は、典型的には、12〜24ヌクレオチドであり、相補性、したがって、結合により、12〜24ヌクレオチド配列内で第二のループ構造を形成する。
【0029】
「対象」は、移植細胞のドナーまたはレシピエントである生物を意味する。「対象」は、また、本開示の核酸分子を投与することができる生物を意味する。一実施態様においては、対象は、哺乳類または哺乳類細胞である。一つの実施態様において、対象は、ヒトまたはヒト細胞である。
【0030】
本明細書で用いる、用語「治療有効量」は、投与される対象(たとえば、ヒト)において、言及された疾患、障害または状態を治療または予防するのに十分なtc-DNA-PS分子(たとえば、AON)の量を意味する。本発明のtc-DNA-PS分子は、個別に、あるいは、他の薬物と組み合わせてまたは併用して、疾患または状態、特に本明細書で議論される疾患または状態を処置するために使用することができる。たとえば、特定の疾患、障害または状態を処置するために、tc-DNA AON-PSを、処置に適した条件下で、個別に、あるいは、一つ以上の薬物と組み合わせて、患者に投与することができるか、あるいは、当業者によく知られた他の適切な細胞に投与することができる。
【0031】
本明細書で用いる、語句「医薬的に許容しうる」は、分子エンティティおよび組成物が、生理学的に許容され、そして、ヒトに投与される場合、たとえば、胃の不調、目まいなどのアレルギーまたは同様の有害な反応を典型的に起こさないことを意味する。好ましくは、本明細書で用いる、用語「医薬的に許容しうる」は、動物、さらに具体的には、ヒトにおける使用で、連邦管理機関または州政府で承認される、あるいは、米国薬局方または他の一般的に認定された薬局方に記載されることを意味する。
【0032】
本明細書で用いる、用語「単離された」は、言及された物質がその天然の環境、たとえば、細胞から除去されることを意味する。したがって、単離された生体物質は、細胞成分、すなわち、天然物質が自然に生じる細胞の成分(たとえば、細胞質または膜成分)の一部または全てを含有しないことでありうる。
【0033】
本明細書で用いる、用語「精製された」は、無関係な物質、すなわち、物質が得られる天然物質などの不純物の存在を低減または除去する条件下で単離された物質を意味する。たとえば、精製されたtc-DNA AON-PS分子は、好ましくは、細胞または培養成分、たとえば、組織培養成分、汚染物質などを実質的に含有しない。本明細書で用いる、用語「実質的に含有しない」は、物質の分析試験に関連して適宜使用される。好ましくは、汚染物質を実質的に含有しない精製された物質は、少なくとも50%純粋、より好ましくは、少なくとも90%純粋、さらにより好ましくは、少なくとも99%純粋である。純度は、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、イムノアッセイ、組成分析、生物学的検定および当技術分野で公知の他の方法により評価することができる。
【0034】
本明細書において、任意の濃度範囲、パーセンテージ範囲、比率範囲または整数範囲は、他に特記しない限り、列挙される範囲内の任意の整数の値を含み、そして、必要に応じて、その分数(整数の1/10および1/100など)を含むものと理解される。また、ポリマーサブユニット、サイズまたは厚さなどの任意の物理的性質に関係する、本明細書で列挙される任意の数字範囲は、他に特記しない限り、列挙される範囲内の任意の整数を含むものと理解される。本明細書で用いる、「約」または「から本質的になる」は、他に特記しない限り、指定の範囲、値または構造の±20%を意味する。
【0035】
本明細書で用いる、用語「包含する(include)」および「含む(comprise)」は、同義的に使用される。本明細書で用いる、用語「a」および「an」は、列挙される要素の「一つ以上」を意味することを理解すべきである。選択肢(たとえば、「または」)の使用は、選択肢の一つ、両方またはその任意の組み合わせのいずれかを意味することを理解すべきである。
【0036】
用語「約」または「およそ」は、統計学的に有意な範囲の値内を意味する。このような範囲は、所定の値または範囲の、好ましくは、その50%以内、より好ましくは、その20%以内、さらにより好ましくは、その10%以内、なおさらに好ましくは、その5%以内であることができる。用語「約」または「およそ」に包含される許容偏差は、研究対象の特定の系に依存し、当業者は容易に理解することができる。
【0037】
M23D(+02-13)などのAONを指定するために本明細書において用いる命名において、Mはマウスを意味し、23はエクソンIDであり、Dはエクソンの3’末端におけるドナー部位を意味し、+2はエクソン内でD部位前の2ヌクレオチドでアンチセンスが開始することを示し、-13は下流イントロンの第13ヌクレオチドにてアンチセンスが終わることを示す。
【0038】
本発明のトリシクロ-ホスホロチオエートDNA分子およびそれを含む組成物
本発明の目的は、本開示において「リシクロ-ホスホロチオエートDNA」または「tc-DNA-PS」とも称する、ヌクレオシド間ホスホロチオエート結合(3’-OPS-O-5’連結)によって連結されたトリシクロ-ヌクレオシドを含む核酸分子に関する。
【0039】
本発明の核酸分子は、ホスホジエステル連結がホスホロチオエート結合によって置き換えられる、トリシクロ-ヌクレオシド含有DNAの化学的性質の改善に由来する。
【0040】
本開示によれば、本発明の核酸は、ホスホロチオエート結合によって連結した少なくとも二つの隣接するトリシクロ-ヌクレオシドを含む。この配列部分は、本研究以前には開示されていない。本発明の核酸分子はまた、古典的リボースまたはデオキシリボース含有ヌクレオシド、LNAヌクレオシドなどの異なる化学的性質をもつヌクレオシド含むことができることが理解されよう。本発明の核酸分子はまた、ホスホロチオエート結合に加えて、たとえば、古典的ホスホジエステル結合などの他のタイプのヌクレオシド間結合を含むことができる。しかしながら、本発明は、トリシクロ-ヌクレオシドの比率が、核酸分子中の総ヌクレオシドの少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%である核酸分子に関するのが好ましい。さらに、本発明は、ヌクレオシド間ホスホロチオエート結合の比率が、核酸分子中の総ヌクレオシド間結合の少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%または95%である核酸分子に関するのが好ましい。特定の実施態様において、本発明の核酸分子における全てのヌクレオシドは、トリシクロ-ヌクレオシドである。もう一つの実施態様において、全てのサブユニット間結合は、ホスホロチオエート結合である。
【0041】
特に好ましい実施態様において、本発明の核酸分子は、サブユニット間結合によって連結したヌクレオシドサブユニットを含むトリシクロ-ホスホロチオエート核酸分子であり、ここで、全てのヌクレオシドは、トリシクロ-ヌクレオシドであり、全てのサブユニット間結合は、ホスホロチオエート結合である。
【0042】
本発明の核酸に含まれるヌクレオシドサブユニットは、一本鎖核酸標的配列に特異的にハイブリダイズする能力がある塩基配列などの定義された配列、または本発明の核酸と標的核酸二本鎖との間の三重構造の形成を可能にする配列であるように選ぶことができる。標的核酸配列は、RNAおよびDNA配列でありうる。望ましい場合、たとえばハイブリダイゼーション複合体などの中の核酸自体およびその存在の検出を促進するために、放射性標識、ビオチン標識、蛍光標識などのレポーター基で本発明の核酸を標識することができる。
【0043】
本発明の核酸分子のサイズは、製造目的とされた特定の用途に応じて変わる。たとえば、本発明のtc-DNA-PS分子は、少なくとも3ヌクレオチド長、特に少なくとも5、10、20、30、40または50ヌクレオチド長でありうる。特定の実施態様において、本発明のtc-DNA-PS分子は、3〜50ヌクレオチド、特に5〜21ヌクレオチド、特に6〜18ヌクレオチドを含む。興味深いことには、tc-PS DNAオリゴヌクレオチドは、15量体に短く切断することができるが、PMOモルホリノおよび2’O-Me-PS-RNAは、通常、それぞれ24および20量体である。したがって、本発明は、特に、15ヌクレオチドを含むか、または15ヌクレオチドからなるtc-DNA-PS分子に関する。さらなる特定の実施態様において、本発明の核酸分子は、3〜20ヌクレオチド、特に10〜15ヌクレオチドを含む。
【0044】
トリシクロ-ヌクレオシドの合成は、当技術分野で周知であり、たとえば、Steffens、R.およびLeumann、C. (1997) Nucleic-acid analogs with constraint conformational flexibility in the sugar-phosphate backbone “Tricyclo-DNA”. Part 1. Preparation of [(5’R,6’R)-2-deoxy-3’,5’-ethano-5’,6’-methano-β-D-ribofuranosyl]thymine and -adenine、and the corresponding phosphoramidites for oligonucleotide synthesis. Helv. Chim. Acta、80、2426-2439ならびにRenneberg、D.およびLeumann、C.J. (2002) Watson-Crick base-pairing properties of tricyclo-DNA. J. Am. Chem. Soc.、124、5993-6002などに記載されている。
【0045】
ホスホロチオエートtc-DNAの合成は、ホスホロアミドアプローチ(Oligonucleotide Synthesis-A Practical Approach、Oxford University Press、Oxford、1984)による固相オリゴヌクレオチド合成における古典的な手順にしたがう。本発明の合成方法において、第一のトリシクロ-ヌクレオシドは、固相支持体に(たとえば、スクシニルリンカーを介して長鎖アルキルアミン制御多孔性ガラス(LCAA-CPG)に)結合する。第一のヌクレオチドは、さらに、保護5’-OH基(たとえば、ジメトキシトリチル(DMT)基など)を有する。次いで、保護5’基を、脱保護して、第二のヌクレオチドが付加される遊離5’-OH基を形成する。第一のヌクレオチドの遊離5’-OH基を、5’-保護トリシクロ-ヌクレオシド-3’-O-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルアミノホスホルアミデートと反応させる。次いで、ヌクレオシド間ホスホルアミデート基を、硫化して、第一および第二トリシクロ-ヌクレオシド間にホスホロチオエートヌクレオシド間結合を形成する。第一のヌクレオチドの未反応の5’-OH基をエステル化して、失敗配列(failure sequences)の合成を妨げる。次いで、この配列を繰り返して、完全な所望の核酸配列を形成するのに必要な回数だけ、さらなるtc-PSヌクレオチドを付加する。
【0046】
本発明の核酸合成方法の特定の実施態様を、反応工程式1として以下に記載する。
反応工程式1:トリシクロ-ホスホロチオエート-DNA(tc-DNA-PS)の合成のための一般的プロトコル
【0047】
一つの付加ユニットが伸長する鎖に結合する合成サイクルは、四つの連続的ステップからなる。鎖組み立て後、固相支持体からオリゴヌクレオチドを切り離し、通常の方法で脱保護する(濃NH
3、55℃、16時間)。第一のトリシクロ-ヌクレオシドが結合する長鎖アルキルアミン制御多孔性ガラス(LCAA-CPG)を固相支持体として用いる。一般に、ファルマシア・ジーン・アセンブラー+DNA合成装置にて、1.3または10 μmolスケールで合成を行なった。5’末端ホスフェートまたはチオホスフェート基によりトリシクロ-ホスホロチオエート-オリゴヌクレオチドを合成して、5’末端の化学的安定性を確実にする(R. SteffensおよびC. J. Leumann、J. Am. Chem. Soc.、1999、121、3249-3255)。ステップa)-d)それぞれの条件を以下に記載し、10 μmol合成のために最適化する。
【0048】
a)脱トリチル化:
1,2-ジクロロエタン(DCE)中の3%ジクロロ酢酸で1.5分間フラッシュする。次いで、DCEおよびCH
3CNで洗浄する。
b)カップリング:
ホスホルアミデート溶液(0.1μM CH
3CN*溶液、400μL)およびアクチベーター5-エチルチオテトラゾール(ETT、0.25M CH
3CN溶液、600μL)を固相支持体に適用する。カップリング時間:9分。次いで、CH
3CNで洗浄する。
* CH
3CNは、ビルディングブロックtc-T、tc-Gおよびtc-Cのために用いる。溶解度のために、ビルディングブロックtc-tc-Aを、無水DCE溶媒中で用いる。
c)硫化:
無水ピリジン/CH
3CN 1/1(0.2M)中のビス(フェニルアセチル)ジスルフィド(PADS)を固相支持体上に3分間フラッシュする。次いで、CH
3CNで洗浄する。
d)キャッピング:
キャップA(4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.5M)/CH
3CN)およびキャップB 溶液(無水酢酸(AC
2O)、コリジン/CH
3CN(2:3:5))を用いて、20秒間、未反応の5’-ヒドロキシ基をキャップする。次いで、CH
3CNで洗浄する。
【0049】
本発明の核酸分子の合成に用いたtc-DNA ホスホルアミデートビルディングブロックは、 Steffens and Leumann、C. Helv. Chim. Acta
80:2426-2439(1997)に記載の通り、合成することができる。鎖伸長サイクルは、天然のオリゴデオキシヌクレオチド合成と本質的に同じである。Pharmacia LKB User’s Manual(56-1111-56)(Gene Assembler Special/4 Primers)を参照。
【0050】
本発明のtc-DNA-PS分子は、遺伝子、特にヒト遺伝子によってコードされるRNAの一部に対して相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドである。したがって、本発明はまた、トリシクロ-ホスホロチオエートDNAアンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。
【0051】
本発明のtc-DNA-PS分子(またはアンチセンスオリゴヌクレオチド)を以下のように具体的に設計することができる:
−ジストロフィン遺伝子中のエクソンスキッピング、特に一つ以上のエクソンのスキッピングを達成する;
−標的プレmRNAのプロセシング中のエクソンの封入を促進する、特に、SMN2プレmRNAのプロセシング中のエクソン7の封入を促進する;
−拡張したCUG反復への核タンパク質の凝集(sequestration)を防ぐために過剰のCUG増幅を含む突然変異mRNAを標的化する、たとえば、過剰のCUG増幅を含む突然変異DM1 mRNAを標的化する;
−過剰のCUG増幅を含む突然変異mRNAの破壊を促進する、たとえば、過剰のCUG増幅を含む突然変異DM1 mRNAの破壊を促進する。
【0052】
本発明のtc-DNA-PS分子は、担体とともに組成物に製剤することができる。組成物は、医薬的に許容しうる担体である担体を含む医薬組成物でありうる。
【0053】
このように、本発明は、本発明の核酸、とりわけ、遺伝子、特にヒト遺伝子によってコードされるRNAの一部に対して相補的なアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む医薬組成物に関し、ここで、該組成物はさらに医薬的に許容しうる担体を含む。さらに、本発明はまた、別の治療薬と併用での本発明の核酸分子に関する。本発明の核酸分子およびその他の治療薬は、医薬組成物に製剤することができるか、または同時、別時もしくは連続使用のための組合せ製剤(キット・オブ・パーツ)の一部である。当業者は、他の治療薬と本発明の核酸の配列を、治療されることが求められる特定の疾患に対して適合させるであろう。
【0054】
本明細書に記載するTc-DNA-PS分子は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤との混合物であってもよい。このような賦形剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロプロピル-メチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴムおよびアカシアゴムなどの懸濁化剤であり;分散剤または湿潤剤は、天然リン脂質、たとえば、レシチン、またはアルキレンオキサイドと脂肪酸との縮合物、たとえば、ステアリン酸ポリオキシエチレン、またはエチレンオキサイドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合物、たとえば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール、またはエチレンオキサイドと脂肪酸およびヘキシトールから誘導される部分エステルとの縮合物、たとえば、ポリオキシエチレンソルビトールオレイン酸モノエステル、またはエチレンオキサイドと脂肪酸およびヘキシトール無水物から誘導される部分エステルとの縮合物、たとえば、ポリエチレンソルビタンオレイン酸モノエステルでありうる。水性懸濁液はまた、一つ以上の防腐剤、たとえば、p-ヒドロキシ安息香酸エチルまたはn-プロピルを含有してもよい。水を添加して水性懸濁剤を調製するのに適した分散性粉末および顆粒は、分散剤または湿潤剤、懸濁化剤および一つ以上の防腐剤との混合物の活性成分で提供される。
【0055】
特定の実施態様において、本発明は、上述のtc-DNA-PS分子および医薬的に許容しうる担体を含む組成物に関し、該組成物は、注射用組成物である。tc-DNA-PS組成物は、滅菌水性または油性懸濁液の形態であってもよい。懸濁液は、上述した適切な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を用い、当技術分野で周知のとおりに製剤化することができる。滅菌注射用製剤はまた、非毒性の非経口的に許容しうる希釈剤または溶媒に溶かした滅菌注射用溶液または懸濁液、たとえば、1,3-ブタンジオール溶液であってもよい。使用することができる許容しうるビヒクルおよび溶媒は、水、リンゲル溶液および等張塩化ナトリウム溶液である。さらに、滅菌固定油を、通常、溶媒または懸濁媒体として使用することができる。この目的のために、合成モノまたはジグリセリドなどの任意の無菌の固定油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸が、注射剤の調製に使用される。
【0056】
本開示はまた、医薬的に許容しうる担体または希釈剤中に医薬的に有効な量の所望のtc-DNA-PS分子を含む、保存または投与のために調製される組成物を含む。治療用途のための許容しうる担体または希釈剤は、医薬品分野でよく知られており、たとえば、Remington's Pharmaceutical Sciences (Mack Publishing Co., A.R. Gennaro edit., 1985)に記載されている。たとえば、防腐剤および安定剤が提供されうる。これらは、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp-ヒドロキシ安息香酸エステルを含む。さらに、抗酸化剤および懸濁化剤を使用しすることができる。
【0057】
本開示はまた、プレmRNA内のエクソンスキッピングを促進するための、あるいは、イントロンサイレンシングまたは末端ステムループをマスキングするための、あるいは、細胞または生物におけるmRNAの破壊を標的化するための、組成物および方法を提供する。関連する実施態様においては、本開示は、疾患、特に本明細書に上述する特定の疾患または該疾患を発症するリスクを有するヒト細胞、組織または個体などの対象を治療するための方法および本発明のtc-DNA-PS分子を含む組成物を提供する。一つの実施態様においては、該方法は、プレmRNAのプロセシングが修飾されるか、あるいは、mRNAの破壊を標的化するように、哺乳類などの細胞または生物に、本発明のtc-DNA-PS分子または該tc-DNA-PS分子を含む医薬組成物を投与することを含む。本発明の組成物および方法を用いる治療を許容可能な哺乳類の対象は、たとえば、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、脊髄性筋萎縮症およびシュタイナート筋強直性ジストロフィーなどの、このような処置を許容可能な一つ以上の障害を患っている対象を含む。
【0058】
本開示のtc-DNA-PS組成物は、医薬的に許容しうる製剤として効果的に用いることができる。医薬的に許容しうる製剤は、患者の病状または他の有害な状態、その発生または重篤化を予防、変化、または、患者の病状もしくは有害な状態を治療(検出可能または測定可能な程度に一つ以上の症状を緩和)する。医薬的に許容しうる製剤は、上記化合物の塩、たとえば、塩酸、臭化水素酸、酢酸およびベンゼンスルホン酸の塩などの酸付加塩を含む。医薬組成物または製剤は、細胞またはヒトなどの患者への全身投与などの投与に適した形態の組成物または製剤を意味する。適した形態は、その使用または投与経路、たとえば、経皮的または注射に一部依存する。このような形態は、組成物または製剤が標的細胞(すなわち、tc-DNA-PS分子をデリバリーするのに望ましい細胞)に到達することを妨げてはならない。たとえば、血流に注入される医薬組成物は、可溶性であるべきである。他のファクターは、当技術分野で公知であり、毒性、および組成物または製剤がその効果を発揮することを妨げる形態などの事項が挙げられる。
【0059】
本開示の医薬組成物はまた、水中油型乳剤の形態であってもよい。油相は、植物油もしくは鉱物油またはこれらの混合物であってもよい。適当な乳化剤は、天然ゴム、たとえば、アカシアゴムまたはトラガカントゴム、天然リン脂質、たとえば、大豆、レシチン、脂肪酸およびヘキシトール、無水物から誘導されるエステルまたは部分エステル、たとえば、ソルビタンオレイン酸モノエステル、並びに、前記部分エステルとエチレンオキサイドとの縮合物、たとえば、ポリオキシエチレンソルビタンオレイン酸モノエステルであることができる。
【0060】
本開示のtc-DNA-PS分子は、治療に適切な組成物の形態にするために、安定化剤、緩衝剤などを添加して、または添加せずに、任意の標準的な手段により患者に投与してもよい。リポソームデリバリーメカニズムを使用することが望ましい場合、標準的プロトコルにしたがってリポソームを生成することができる。したがって、本開示の核酸分子は、任意の形態、たとえば、経皮的、あるいは、局所、経口、直腸、筋肉内、心臓内、腹腔内、局所領域、全身的(たとえば、静脈内もしくは動脈内)、または髄腔内注射により投与することができる。
【0061】
本開示はまた、ポリ(エチレングリコール)脂質を含有する表面修飾リポソーム(PEG修飾されるか、もしくは血中循環性のリポソームまたはステルスリポソーム)を含む組成物の使用を特徴とする。これらの製剤は、標的組織内で本発明のtc-DNA-PS分子の蓄積を増加させる方法を提供する。この種類の薬物担体は、単核性食細胞系(MPSまたはRES)によるオプソニン作用および排出に耐性を示し、それによって、封入tc-DNA-PS分子の長期間の血中循環を可能にし、組織への曝露を増大させることができる(Lasicら, Chem. Rev. 95:2601-2627 (1995)およびIshiwataら, Chem. Pharm. Bull. 43:1005-1011 (1995))。長期血中循環性リポソームは、特に、MPSの組織に蓄積することが知られている従来のカチオン性リポソームと比較して、核酸分子の薬物動態および薬力学を増大させる(Liuら, J. Biol. Chem. 42:24864-24870 (1995); Choiら, 国際公開公報第96/10391号; Ansellら, 国際公開公報第96/10390号; Hollandら, 国際公開公報第96/10392号)。長期血中循環性リポソームはまた、肝臓および脾臓などの代謝的に活動的なMPS組織への蓄積を回避する能力に基づいて、カチオン性リポソームと比較し、ヌクレアーゼ分解から本発明のtc-DNA-PS分子をより強く保護する可能性が高い。
【0062】
医薬的に有効な用量は、病状の発生の予防、抑制または病状の治療(症状をある程度、好ましくは、症状の全てを緩和)するために必要な用量である。医薬的に有効な用量は、疾患の種類、使用する組成物、投与経路、治療される哺乳類の種類、検討中の特定の哺乳類の身体的特性、併用投薬および医学分野の技術者が認識する他の要因に依存する。たとえば、本開示のtc-DNA-PS分子の効力に依存して、0.1mg/kg〜100mg/体重kg/日の量の活性成分が投与される。
【0063】
約0.1mg〜約140mg/体重kg/週のオーダーの用量レベルが、本明細書に示す状態の治療に有用である(約0.5mg〜約7g/患者/週)。単位剤形を製造するために担体材料と組み合わせることができる活性成分の量は、治療されるホストおよび特定の投与形態に応じて変更される。用量単位形態は、一般的に、約1mg〜約500mgの活性成分を含む。
【0064】
任意の特定の患者の特定の用量レベルは、用いられる特定の化合物の活性、年齢、体重、総体的な健康状態、性別、食事、投与回数、投与経路および排出速度、薬物併用並びに治療中の特定の疾患の重症度などの様々な要因に応じて変わることが理解される。本開示の製剤および方法による組成物の投与後、試験対象は、治療される疾患または障害に関連する一つ以上の症状において、プラセボ処置または他の適当なコントロール対象と比較して、約10%〜最大約99%の減少を示す。
【0065】
本発明のtc-DNA-PS分子を、本発明のtc-DNA-PS分子単独を含む製剤または医薬的に許容しうる担体、希釈剤、賦形剤、アジュバント、乳化剤、緩衝剤、安定化剤、防腐剤などの一つ以上の追加の成分をさらに含む製剤としての投与を含む、当業者に公知の様々な方法により細胞に投与することができる。特定の実施態様において、本発明のtc-DNA-PS分子は、リポソームに封入するか、イオン導入により投与するか、あるいは、ヒドロゲル、シクロデキストリン、生分解性ナノカプセル、生体接着性ミクロスフェアまたはタンパク性ベクターなどの他のビヒクルに組み込むことができる(たとえば、国際公開公報第00/53722号参照)。
【0066】
本開示のtc-DNA-PS分子の直接注射は、皮下、筋肉内または皮内に関わらず、Conryら, Clin. Cancer Res. 5:2330-2337 (1999)および国際公開公報第99/31262号に記載されるように、標準的な針およびシリンジを用いる方法あるいは無針技術を用いて行うことができる。
【0067】
核酸分子をデリバリーするためのさらなる方法は、たとえば、Boadoら, J. Pharm. Sci. 87:1308-1315 (1998); Tylerら, FEBS Lett. 421:280-284 (1999); Pardridgeら, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 92:5592-5596 (1995); Boado, Adv. Drug Delivery Rev. 15:73-107 (1995); Aldrian-Herradaら, Nucleic Acids Res. 26:4910-4916 (1998); Tylerら, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 96:7053-7058 (1999); Akhtarら, Trends Cell Bio. 2:139 (1992); 「Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics」, (ed. Akhtar, 1995); Maurerら, Mol. Membr. Biol. 16:129-140 (1999); Hofland and Huang, Handb. Exp. Pharmacol 137:165-192 (1999);およびLeeら, ACS Symp. Ser. 752:184-192 (2000)に記載される。これらのプロトコルを利用して、本開示の範囲内で意図される実質的にいかなるtc-DNA-PS分子のデリバリーを補足または補完することができる。
【0068】
治療方法
上述のとおり、本発明の核酸分子は、特定のmRNAまたはプレmRNAに対して相補的であるように設計されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)でありうる。本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドは、多くの疾患の治療のために用いることができ、多くの疾患を以下に記載する。もちろん、以下に提供する実例のための疾患は、本発明を制限するものではなく、本明細書に提供する新しい化学的性質を当業者がAONの投与により治療可能であることを想像するあらゆる疾患の治療に用いることができる。
【0069】
デュシェンヌ型筋ジストロフィーを治療するためのトリシクロ-ホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド
特定の実施態様の範囲内において、本開示は、筋肉変性の急速な進行により、最終的に、歩行障害、麻痺、そして死に至ることを特徴とする筋ジストロフィーの重篤なX連鎖性劣性型である、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の処置に適切に用いることができるAONを提供する。DMDは、ヒトX染色体に位置するジストロフィン遺伝子内の、ナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異などの突然変異により引き起こされる。ジストロフィン遺伝子は、細胞膜に位置する筋線維鞘並びにジストログリカン複合体(DGC)に構造安定性をもたらす、筋肉組織内の重要な構造成分であるジストロフィンタンパク質をコードする。ナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異は、翻訳の未完終了をもたらし、したがって、C-末端が先端を切られたジストロフィンタンパク質をもたらす。
【0070】
一つ以上の停止突然変異またはフレームシフト突然変異により引き起こされるDMDは、翻訳リーディングフレームを修復するために一つ以上のエクソンを除去することにより、突然変異のmRNA配列下流が修復され、緩和することができる。これを達成するために、本開示の一部として、一つ以上のエクソンのスプライセオソーム認識をマスキングすることができるプレmRNA内の領域を標的化するアンチセンスAONとして本発明の核酸分子が開発された。これらの領域をtc-DNA-PS AONで標的化することにより、エクソンを選択的スプライシングで除去して、内部的に一部欠失しているが、成熟した機能的ジストロフィンmRNAを生成することができる。
【0071】
したがって、本明細書に記載のtc-DNA-PS AONは、ジストロフィンプレmRNAのプロセシング過程における、ジストロフィン遺伝子の一つ以上の突然変異エクソンのスキッピングを促進し、これにより、得られるジストロフィンmRNAの適切なリーディングフレームを修復するのに効果的であり、これが翻訳されると、半機能的ジストロフィンタンパク質を生成する。したがって、本明細書に開示のtc-DNA-PS AONは、DMD罹患患者に治療的に使用することができる。
【0072】
本明細書で用いる、用語「エクソンスキッピング」は、一つ以上の相補的アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)で、プレmRNA内のスプライスドナーおよび/またはアクセプター部位を標的化することによるプレmRNAスプライシングの修飾を意味する。一つ以上のスプライスドナーまたはアクセプター部位へのスプライセオソームのアクセスをブロックすることにより、AONはスプライシング反応を妨害することができ、それによって、完全にプロセシングされたmRNAから一つ以上のエクソンの欠失を引き起こすことができる。エクソンスキッピングは、核内で、プレmRNAの成熟過程において達成される。それは、プレmRNA内のスプライスドナー配列に対して相補的であるアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を使用することによる、標的エクソンのスプライシングに関与する鍵配列のマスキングを含む。本明細書で提供されるtc-DNA-PS AONは、ジストロフィンプレmRNA内のイントロン−エクソン接合部におけるスプライス部位のマスキングによるエクソンスキッピングに適切に用いることができ、これにより、プレmRNAの成熟mRNAへのプロセシング過程において突然変異エクソンの除去が促進される。
【0073】
たとえば、ジストロフィン遺伝子のエクソン23またはエクソン50内のナンセンス突然変異またはフレームシフト突然変異は、カルボキシ末端が先端を切られた非機能的ジストロフィンタンパク質を生成する。本明細書に開示のtc-DNA-PS AONは、それぞれ、イントロン23またはイントロン51におけるジストロフィンプレmRNAのスプライスドナー部位を含むヌクレオチドに、そして、エクソン23またはエクソン51に隣接する5’ヌクレオチドにハイブリダイズすることにより、突然変異エクソン23またはエクソン51の成熟mRNA転写産物へのインクルージョンを妨げることができる。その成熟mRNA転写産物の発現により、エクソン23またはエクソン50および51によりコードされるアミノ酸が欠失しているが、これら欠失アミノ酸のN-末端およびC-末端側の両方にジストロフィンアミノ酸を含む半機能的ジストロフィンタンパク質が生成される。
【0074】
ジストロフィンプレmRNAのプロセシング過程においてエクソンをスキッピングするための本明細書に開示するtc-DNA-PS AONは、典型的には、6〜22連続トリシクロ-PS ヌクレオチド、具体的には、8〜20トリシクロ-PS ヌクレオチド、さらに具体的には、10〜18連続トリシクロ-PS ヌクレオチドを含有し、tc-DNA-PS AONの6〜16ヌクレオチド、特に、8〜16ヌクレオチドは、ジストロフィンプレmRNAのイントロンスプライスドナー部位に対して相補的であり、tc-DNA-PS AONの2〜8ヌクレオチドは、ジストロフィンプレmRNAのエクソン領域に対して相補的であり、そして、イントロンスプライスドナー部位は、エクソン領域の5’側に隣接している。目的とする適用の精度に依存して、tc-DNA-PS AONは、12〜16ヌクレオチドまたは13〜15ヌクレオチドであってもよく、イントロンスプライスドナー部位に対して相補的な6〜14ヌクレオチドおよびエクソン領域に対して相補的な2〜5ヌクレオチドを含むことができる。
【0075】
本明細書において、ジストロフィンプレmRNA内の突然変異エクソン23をスキッピングするために設計されたtc-DNA-PS AONが例示される。tc-DNA AONは、ヌクレオチド配列5’-AACCTCGGCTTACCT-3’(M23D(+02-13)、配列番号:1)を含み、ジストロフィンプレmRNAのイントロン23の3’末端でヌクレオチドに、そして、ジストロフィンプレmRNAのエクソン23に隣接する5’末端でヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする。用いることができる別のAONは、配列5’-GGCCAAACCTCGGCTTACCT-3’(M23D(+2-18)、配列番号:2)である。
【0076】
また、ジストロフィンプレmRNA内の突然変異エクソン51をスキッピングするために設計されたtc-DNA-PS AONも提供される。tc-DNA AONは、5’-AGAAATGCCATCTTC-3’(H51(+68+82)、配列番号:3)、5’-AAATGCCATCTTCCT-3’(H51(+70+84)、配列番号:4)、5’-TGCCATCTTCCTTGA-3’(H51(+73+87)、配列番号:5)および5’-GCAGTTTCCTTAGTAA-3’(H51(+40+55)、配列番号:6)からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含み、ジストロフィンプレmRNAのエクソン51の3’末端でヌクレオチドに、そして、ジストロフィンプレmRNAのエクソン51の5’末端でヌクレオチドに特異的にハイブリダイズする。
【0077】
脊髄性筋萎縮症を治療するためのトリシクロ-ホスホロチオエートDNAアンチセンスオリゴヌクレオチド
他の実施態様の範囲内において、本開示は、脊髄性筋萎縮症(SMA)の治療に適切に用いることができるtc-DNA-PS AONを提供する。SMAは、正常細胞においては、エクソン7および8が完全にプロセシングされたmRNA内に存在することを特徴とする、SMN1遺伝子の両方のコピーの突然変異により引き起こされる。可変コピー数でヒトに存在する第二の遺伝子SMN2は、エクソン7に、エクソンスプライスエンハンサー配列を変更するサイレント突然変異をもつ。結果として、SMN2のスプライシングは、SMN1と比較して変更され、正常な全長SMNタンパク質の10%のみが、この遺伝子から転写され、他の非機能的SMN2転写物は、エクソン7から欠失する。SMN2の正常な全長転写物の存在量が少ないことから、SMN1転写物の欠如を完全に保管することができず、したがって、この疾患を引き起こす。SMN2プレmRNA内のイントロンサイレンシング配列(ISS)および/または末端ステムループ(TSL)をマスキングすることにより、本明細書に記載のtc-DNA-PS AONは、SMN1タンパク質と同一であり、機能性SMN1タンパク質の喪失を補完することができる機能的SMN2タンパク質へと翻訳される、プロセシングされたSMN2プレmRNAへのSMN2エクソン7のインクルージョンを促進することができることが予想される。インビボで発現される場合、SMN2タンパク質の量の増加は、SMN1遺伝子の突然変異により引き起こされる脊髄性筋萎縮症を少なくとも部分的に逆行させることができる。
【0078】
したがって、本開示は、SMN2プレmRNAのプロセシング過程におけるエクソン7のインクルージョンを促進するためのtc-DNA-PS AONであって、tc-DNA-PS AONが、6〜22トリシクロヌクレオチド長、具体的には、8〜20トリシクロヌクレオチド長、さらに具体的には、10〜18トリシクロヌクレオチド長であり、そして、tc-DNA-PS AONが、SMN2プレmRNAのイントロンサイレンサー配列(ISS)または末端ステムループ(TSL)に対して相補的であるtc-DNA-PS AONを提供する。このようなtc-DNA-PS AONは、13〜17ヌクレオチド、12〜16ヌクレオチドまたは13〜15ヌクレオチドであってもよい。
【0079】
本明細書において、SMN2プレmRNAのISSに対して相補的であり、そして、エクソン7のプロセシングされたSMN2のmRNAへのインクルージョンを促進するために用いることができる、15-ヌクレオチド配列5’-CTTTCATAATGCTGG-3’(SMN2i7(10;25)、配列番号:7)を含むtc-DNA AONが例示される。また、本明細書において、SMN2プレmRNAのTSL2に対して相補的であり、そして、また、エクソン7のプロセッシングされたSMN2のmRNAへのインクルージョンを促進するために用いることができる、13-ヌクレオチド5’-TTAATTTAAGGAA-3’(SMN2e7(39;51)、配列番号:8)を含むtc-DNA-PS AONが例示される。
【0080】
シュタイナート筋緊張性ジストロフィーを治療するためのトリシクロ-ホスホロチオエートDNAアンチセンスオリゴヌクレオチド
なおさらなる実施態様の範囲内において、本開示は、DM1をコードするmRNAの3’末端でのCUG増幅から引き起こされるシュタイナート筋緊張性ジストロフィーの治療に適切に用いることができるtc-DNA-PS AONを提供する。過剰のCUG増幅を含有する突然変異DM1のmRNAが、核内に隔離され蓄積して、核焦点を形成すると考えられている。これらの焦点は安定であり、スプライシング機構に関与するファクターに結合し、それによって、トランスクリプトームに大きく影響を及ぼすと考えられている。本開示の一部として、tc-DNA-PS AONを用いてCUG配列を標的化し、突然変異DM1のmRNAの破壊を促進することができ、および/またはへの拡張されたCUG反復への核タンパク質の隔離を妨げ、それによって、スプライシングファクターの放出および核焦点の除去を導くことができることが予想される。特定の機械論に束縛されることはないが、さらに、本明細書に開示のtc-DNA-PS AONは、過剰のCUG増幅を含有するmRNAの破壊を促進することができると考えられる。
【0081】
したがって、過剰のCUG増幅を含有する突然変異DM1のmRNAの破壊を促進するために適切に用いることができるtc-DNA-PS AONが記載される。このようなtc-DNA-PS AONは、9〜27トリシクロヌクレオチドを含み、tc-DNA-PS AONは、一つ以上の3’CUG増幅を含む突然変異DM1のmRNAに対して相補的であり、そして、tc-DNA-PS AONは、DM1のmRNAの破壊を促進することができる。目的とする適用の精度に応じて、tc-DNA-PS AONは、ヌクレオチド配列5’-CAG-3’(配列番号:9)の3〜9;4〜8;または5、6もしくは7の連続反復を含むことができる。突然変異DM1の破壊を促進することが予想される例示的なtc-DNA-PS AONは、15-ヌクレオチド配列5’-CAGCAGCAGCAGCAG-3’(DM1(CAG5)、配列番号:10)を含む。突然変異DM1の破壊を促進することが予想される別の例示的なtc-DNA-PS AONは、15-ヌクレオチド配列5’- CAGCAGCAGCAGCAGCAGCAG -3’(DM1(CAG7)、配列番号:11)を含む。
【0082】
心臓疾患の治療のためのトリシクロ-ホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド
肥大型心筋症(HCM)の最も一般的な遺伝的原因は、心筋ミオシン結合タンパク質Cにおける突然変異である(再考察のために、Schlossarek、Sら、J Mol Cell Cardiol 50(2011)613-620を参照)。ごく最近、cMyBP-C kiマウス筋細胞における突然変異cMyBP-C分子を修飾するために、インビトロでエクソンスキッピングが適用されている(Gedicke、C、Behrens-Gawlik、V、Dreyfus、PA、Eschenhagen、T、Carrier、L. Specific skipping of exons using antisense oligoribonucleotide results in novel molecule in cMyBP-C knock-in mouse myocytes。Circ 201;122(Suppl):A 19079)。全身的デリバリー後の心臓組織への取り込みにより、tc-DNA-PSを適切に用いて、心臓組織における突然変異cMyBPを是正することができた。もちろん、本発明のtc-DNA-PSはまた、心臓組織における他のタンパク質の是正に有用であることが予想される。
【0083】
CNS疾患の治療のためのトリシクロ-ホスホロチオエートアンチセンスオリゴヌクレオチド
予期せぬことに、本発明のtc-DNA-PS分子が、血液脳関門を通過することが明らかにされている。したがって、本発明は、tc-DNA-PSオリゴヌクレオチドを、それを必要とする対象に投与することを含む、CNSに対してオリゴヌクレオチドを標的化することを提供する方法に関する。さらに、本発明はまた、本発明のtc-DNA-PS分子を、それを必要とする対象、特にヒト対象に投与することを含む、対象のCNSに影響を及ぼす疾患の治療方法に関する。tc-DNA-PSは、投与されたtc-DNA-PSと標的配列との間の相互作用が該疾患の効果的な治療を提供するように定義された標的配列に対して相補的である。特定の実施態様において、本発明の核酸分子は、筋肉とCNSの両方に影響を及ぼす疾患を治療するために用いられることができる。上述のように、デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、主として、観察された筋肉の機能不全を特徴とするが、DMD患者の約1/3は、神経および脳機能の注目すべき破壊を示唆する認知機能障害も示す。したがって、本発明の核酸分子は、異常なジストロフィンに起因する破壊された神経および脳機能を修復するために用いられることができる。
【0084】
さらに、本発明の核酸分子は、CNS障害が主な特徴であるか、または主な特徴の一つである疾患を治療するために用いられることができる。たとえば、機能性タンパク質を修復するため、あるいは特定のプレmRNAを破壊するための上述の原理(エクソンスキッピングまたはエクソンインクルージョンのいずれかによる)は、脊髄性筋萎縮、筋緊張性ジストロフィーやハンチントン病などの疾患の治療に転用することができる。
【0085】
実施例
上記開示は、本開示を一般に記載するものであり、以下の実施例によってさらに例示的に開示される。これらの特定の実施例は、説明のみを目的とし、本開示の範囲を限定することを意図していない。特定の標的、用語および値が用いられているが、そのような標的、用語および値も同様に、例示であって、本開示の範囲の限定ではないことが理解されよう。
【0086】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、男児出生3500人に1人に発症するX連鎖性劣性障害である(Emery. Neuromuscul. Disord. 1991)。様々な組織、特に横紋筋線維およびニューロン、具体的には中枢神経系の領域に見出される巨大タンパク質(427 kDa)であるジストロフィンをコードする遺伝子の突然変異によって引き起こされる(Kunkelら、PNAS. 1985;Muntoni Fら、Lancet Neurol. 2003)。ジストロフィンは、細胞膜の内表面の近くに位置し、膜ジストロフィン関連糖タンパク質複合体を通してアクチン細胞骨格を細胞外マトリックスに接続させている(Culliganら、1988)。ジストロフィンが欠乏すると、筋繊維が機械的ストレスに対して特に脆弱になり、壊死の再発の周期を受けることになる。結果として、患者は、進行性の骨格筋の筋力低下を呈し、骨格筋は、時間とともに脂肪線維性組織へと変わり、12歳あたりで歩行機能を失い、20歳代〜40歳代の間に呼吸不全または心筋症によって若年死が引き起こされる。さらに、DMD患者の約1/3が、認識機能障害を呈し、このことは、神経および脳機能の注目すべき崩壊を示唆する(Bresolinら、Neuromuscul. Disord. 1994)。
【0087】
79エクソンから作成された主要14-kb mRNA転写物から翻訳された全長ジストロフィンは、オープンリーディングフレームが保存される条件下で複数のエクソンの欠失を幸いにもサポートすることができる調節タンパク質である(Koenigら、Cell. 1987)。この現象は、臨床的により軽度な疾患であるベッカー型筋ジストロフィー(BMD)で起こり、オープンリーディングフレームを維持する欠失が、先端を切られた形状のジストロフィンの合成をもたらす(Monacoら、Genomics. 1988)。したがって、15年前に、アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)を用いることによって選ばれたエクソンのスプライシングプロセスを妨げることが、DMDに対する適切な治療的アプローチである可能性があると提案された(Matsuo M. Brain Dev. 1996)。
【0088】
アンチセンス誘発エクソンスキッピングのために、二つのタイプの化合物、すなわち、全長ホスホロチオエート主鎖をもつ2’-O-メチル-修飾リボースオリゴマ(2OMe-PS)およびホスホロジアミデートモルホリノオリゴマー(PMO)が大規模に試験されている。DMDの動物モデルにおいて、さらに最近では臨床試験において、両方のタイプのアンチセンス分子が、全身的デリバリー後に骨格筋中のジストロフィンをレスキューすることを明らかにされている。現在のところ、ジストロフィンプレmRNAのエクソン51を標的とする2’OMe-PSおよびPMOの全身投与を用いる臨床試験は、薬物関連の重篤な副作用がなく、よく耐えられた(van Deutekomら、New. Engl. J;Med. 2007;Kinaliら、Lancet Neurol. 2009;Goemansら、New. Engl. J. Med. 2011;Cirakら、Lancet 2011)。しかしながら、これらの化合物は、心筋を効率的に標的化せず、血液脳関門を通過しないという大きな制限をもっている。
【0089】
本明細書において、我々は、トリシクロ-DNA(tc-DNA)ヌクレオチド類縁体から作成されたアンチセンスオリゴマーの全身的デリバリーが、mdxマウスモデルにおいて骨格筋中でのジストロフィンレスキューを同様に可能にすることを示す。さらに、ホスフェートエステル主鎖中の酸素をイオウで置換することにより、tc-DNA アンチセンスに、全身投与後の生体内分布にとって不可欠である新たな特性が付与された。実際に、ホスホロチオエート(PS)含有tc-DNA オリゴマーは、を心筋を効率的に標的化することができ、さらに、血液脳関門を通過して、心臓および中枢神経系において突然変異ジストロフィンをレスキューすることができた。
【0090】
材料および方法:
トリシクロ-DNA
ホスホロチオエートtc-DNAの合成は、ホスホルアミデートアプローチによる固相オリゴヌクレオチド合成で古典的な手順に従った。一つの付加ユニットが伸長する鎖に結合する合成サイクルは、四つの連続的ステップa)-d)からなる。鎖組み立て後、固相支持体からオリゴヌクレオチドを切り離し、通常の方法で脱保護する(濃NH
3、55℃、16時間)。第一のtc-ヌクレオシドが結合する長鎖アルキルアミン制御多孔性ガラス(LCAA-CPG)を固相支持体として用いる。一般に、ファルマシア・ジーン・アセンブラー+DNA合成装置にて、1.3または10 μmolスケールで合成を行なった。5’末端ホスフェートまたはチオホスフェート基によりtc-PS-オリゴヌクレオチドを合成して、5’末端の化学的安定性を確実にした。ステップa)-d)それぞれの条件を以下に記載し、10 μmol合成のために最適化する。
【0091】
a)脱トリチル化:
1,2-ジクロロエタン(DCE)中の3%ジクロロ酢酸で1.5分間フラッシュする。次いで、DCEおよびCH
3CNで洗浄する。
b)カップリング:
ホスホルアミデート溶液(0.1mM CH
3CN溶液、400mL)およびアクチベーター5-エチルチオテトラゾール(ETT、0.25M CH
3CN溶液、600mL)を固相支持体に適用する。カップリング時間:9分。次いで、CH
3CNで洗浄する。
c)硫化:
無水ピリジン/CH
3CN 1/1(0.2M)中のビス(フェニルアセチル)ジスルフィド(PADS)を固相支持体上に3分間フラッシュする。次いで、CH
3CNで洗浄する。
d)キャッピング:
キャップA(4-ジメチルアミノピリジン(DMAP、0.5M)/CH
3CN)およびキャップB 溶液(無水酢酸(AC
2O)、コリジン/CH
3CN(2:3:5))を用いて、20秒間、未反応の5’-ヒドロキシ基をキャップする。次いで、CH
3CNで洗浄する。
【0092】
mdxジストロフィンプレmRNAをレスキューするためのアンチセンス配列は、15量体の長さであり、エクソン23のドナースライス部位(M23D(+2-13))を標的とした。
5’-AACCTCGGCTTACCT-3’(配列番号:1)
本明細書に記載の他のアンチセンス配列はまた、この方法にしたがって合成されている。
【0093】
動物実験
成体mdxマウス(6〜8週齢)に、イソルフルオランを用いる一般的麻酔下、結果セクションに示したように、tc-DNAまたはtc-DNA-PSの筋肉内、静脈内または皮下注射を行なった。
【0094】
utr-/-マウスをmdxマウスと交雑することによって得られた(utr+/-、dys-/-)マウスを交雑することによって、dKOマウスを作製する(Deconinck、A.E.、Rafael、J.A.、Skinner、J.A.、Brown、S.C.、Potter、A.C.、Metzinger、L.、Watt、D.J.、Dickson、J.G.、Tinsley、J.M. and Davies、K.E. (1997) Utrophin-dystrophin-deficient mice as a model for Duchenne muscular dystrophy. Cell、90、717-727)。一般的麻酔下、毎週、200mg/kg/週の用量で、尾静脈への静脈内(IV)および皮下注射(Sc)により、tcDNAをdKOマウスにデリバリーした。処置したマウスを、CO
2吸引によって、結果セクションに示したように様々な時点で死亡させた。筋肉を液体窒素冷却イソペンタン中で新鮮凍結させ、さらなる分析まで-80度にて保管した。すべてのdKO実験は、Biomedical Science Building、University of Oxford、Oxford、UKにて行ない、Home Officeによって認可されたガイドラインおよびプロトコルにしたがって行なった。
【0095】
筋機能分析
市販のグリップ強度モニター(Chatillon、UK)を用い、12週齢の処置およびコントロールマウスにおいて機能的グリップ強度分析をおこなった。尾の付け根から2cmの部分で各マウスを保持し、装置に取り付けられたバーを前足で握らせ、マウスが握りを放すまでゆるやかに引っ張った。1分間隔で4回おこなった連続試験から、発揮された力を記録した。処置およびコントロールマウスの後ろ足から切除した長趾伸筋(EDL)から、特定の力および力の低下を測定した。切除および実験中、(単位はmM):NaCl、118;NaHCO
3、24.8、KCl、4.75;KH
2PO
4、1.18;MgSO
4、1.18;CaCl
2、2.54;グルコース、10で構成された含酸素(95% O
2-5% CO
2)Krebs-Hensley溶液に筋肉を漬けた。上述のように、収縮性を測定した(Goyenvalle、A.、Babbs、A.、Powell、D.、Kole、R.、Fletcher、S.、Wilton、S.D.およびDavies、K.E. (2010) Prevention of dystrophic pathology in severely affected dystrophin/utrophin-deficient mice by morpholino-oligomer-mediated exon-skipping. Mol. Ther.、18、198-205.)。
【0096】
オープンフィールド活動モニタリング
dKOマウスのオープンフィールド活動モニタリングのために、Linton AM1053 X、Y、Z IR活動モニターを用いた。実際のデータ収集の前日、空のケージに90分間マウスを入れて慣れさせた。3日間連続して、90分間にわたって、10分ごとにデータを集めた。毎日9個のデータのうち、最初の3個は、分析において無視した。各マウスに対し、行動の活動をモニターするために最良のパラメーターを考慮して、総移動距離、総活動、飼育時間および総移動カウントなど、22の異なる活動パラメーターを測定した。
【0097】
免疫組織化学および組織学
100μm間隔で、前脛骨筋、腓腹筋、大腿四頭筋、臀筋、上腕二頭筋、上腕三頭筋、横隔膜および心筋の筋肉長の少なくとも2/3から8μmの切片をカットした。連続RT-PCR分析のために、中間の筋切片を集めた。ルーチンであるヘマトキシリンおよびエオシン染色を用いて、全筋肉形態学を分析した。次いで、ジストロフィン発現について、ウサギポリクローナル抗体DYS(Novocastra、UK)を用いて凍結切片を試験し、次いで、ヤギ-抗-ウサギIgGs Alexa 488によって検出した。
【0098】
RNA単離およびRT-PCR分析
使用説明書(Invitrogen、UK)にしたがって、TRIzol試薬を用い、凍結切片中に集めた中間の筋切片から総RNAを単離した。外部プライマーEx 20Fo(5’-CAGAATTCTGCCAATTGCTGAG-3’;配列番号:12)およびEx 26Ro(5’-TTCTTCAGCTTGTGTCATCC-3’;配列番号:13)を用い、50μlの反応物において、Access RT-PCR System(Promega)を用いるRT-PCR分析のために、総RNAの200ngのアリコートを用いた。、45℃にて45分間、cDNA合成を行い、次いで、94℃(30秒)、58℃(1分)および72℃(2分)を30サイクル行なうプライマリーPCRを行なった。次いで、2マイクロリットルのこれらの反応物を、内部プライマー Ex 20Fi(5’-CCCAGTCTACCACCCTATCAGAGC-3’;配列番号:14)およびEx 26Ri(5’-CCTGCCTTTAAGGCTTCCTT-3’;配列番号:15)を用い、94℃(30秒)、58℃(1 ぷん)および72℃(2分)を22サイクル行なう入れ子PCRにて再増幅した。2%アガロースゲル上でPCR産物を分析した。
【0099】
mdx中枢神経系におけるエクソン23-スキップジストロフィンmRNAの検出
Mdxマウスを、100 mg/体重kgの用量にて、8週間、M23D(+2-13)(tc-DNAまたはtc-DNA-PS主鎖)の皮下および静脈内注射で、週2回処置した。最後の注射から一週間後、脳を切除し、エクソン23-スキップジストロフィンmRNA検出用に加工した。398bpのフラグメント(Ri22-24 5’- TTATGTGATTCTGTAAATTC -3’ 配列番号:16)としてスキップメッセンジャーの特異的認識を可能にするプライマー(それぞれ、エクソン20をアニーリングするEx 20Fo(out)/Ex 20Fi(in)ならびにエクソン26およびジャンクション22-24をアニーリングするEx 26Ro/Ri22-24)を用い、入れ子RT-PCRによって、RNAサンプルを分析した。Riプライマーが、エクソン22-エクソン24の境界を特異的ニアニーリングし、非スキップジストロフィンmRNAが増幅されず、そして、エクソン23欠失ジストロフィンmRNAを含むサンプルにおいて398-bpバンドのみが検出されることに留意。
【0100】
定量的PCRによるエクソン23スキッピングの定量
上述のように、マウス組織からRNAを単離した。Turbo DNA-free system(Ambion)を用いて、RNA調製物から、汚染しているDNAを除去した。次いで、使用説明書にしたがって、ランダムヘキサマーを用いるFirst Strand合成システム(Invitrogen)を用いて、DNアーゼ処置RNAの1μgのアリコートを逆転写に付した。Goyenvalleら、Rescue of severely affected dystrophin/utrophin deficient mice through scAAV-U7snRNA-mediated exon skipping;Human Molecular Genetics、2012、Vol. 21、No. 11 2559-2571に記載のCustom Assay Design Tool(Applied Biosystems)を用い、エクソン4-5またはエクソン22-24テンプレートに対して設計されたTaqmanアッセイを用いて、定量的PCRを行なった。内在性コントロールとして、在庫(inventoried)18Sアッセイを利用した(Applied Biosystems、4310893E)。反応当たりの投入量として50ngのcDNAを用い、すべてのアッセイを一回行なった。アッセイは、Applied Biosystems StepOne Plusサーモサイクラーにおいて速いサイクリング条件下で行なわれ、すべてのデータは、関連するStepOne分析ソフトウェアを用いる比較Ct法を用いて分析された。所定のサンプルに対して、エクソン4-5およびエクソン22-24アッセイのデルタ-Ct値を用いて、それぞれ総ジストロフィンおよびエクソン23-スキップジストロフィンmRNAの相対存在量を計算した。次いで、エクソン4-5発現レベルによって示されるように、エクソン23スキッピングを総ジストロフィンに対するパーセンテージとして表した。
【0101】
ウエスタンブロット分析
250 mMスクロース、10 mM Tris-HCl pH 6.7、20%ドデシル硫酸ナトリウム、20%グリセロール、10% β-メルカプトエタノール、12.5%の泳動用緩衝液(Life Technologies)およびプロテアーゼインヒビターの混合物(Roche)を含有する緩衝液により筋サンプルから総タンパク質を抽出した。95℃にて5分間サンプルを変性させ、遠心分離した。次いで、Compat-Ableタンパク質アッセイ調製試薬セットを用いてアリコートを沈殿させ、BCAタンパク質アッセイキット(Pierce)で定量し、50 μgまたは100 μgのタンパク質をポリアクリルアミドゲル(NuPage 4-12 % Bis-Tris、Life Technologies)にロードした。4〜5時間130Vにてゲルを電気泳動に付し、100 mMにて一夜ニトロセルロース膜に転写した。10%脱脂乳を含むPBS-Tween(PBST)緩衝液で1時間ブロットをブロックした。それぞれ、NCL-DYS1一次抗体(ジストロフィン R8反復に対するモノクローナル抗体;NovoCastra)の1:50希釈液およびα-アクチン一次抗体(Santa Cruz Biotechnology)の1:5000希釈液で膜をプロービングし、次いで、マウスホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗体(1:15000)とともにインキュベートすることによって、ジストロフィンおよびα-アクチンタンパク質を検出した。強化化学発光(Thermo Scientific)およびECL分析システム(ECL-Plus;GE Healthcare)を用いてウエスタンブロットを明らかにした。アクチンのバンドを用いて、タンパク質ロードが正しいことをチェックした。走査することによって膜を数値画像に変換し、ImageJ 1.46rソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いてバンド強度を分析した。
【0102】
血清からのバイオマーカーレベルの定量
通常麻酔下、尾出血から血液サンプルを採取した。病理検査所(Mary Lyon Centre、Medical Research Council、Harwell、Oxfordshire、UK)で、血清クレアチンキナーゼ(CK)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベルの分析を行なった。
【0103】
統計分析
他に特記しない限り、すべての結果を平均値±SEMで表した。対応のないスチューデントt検定を用いて、処置とコントロールコホートの間の差異を決定した。
【実施例1】
【0104】
ジストロフィン介在性筋ジストロフィーの治療に対するtc-DNA-PSアンチセンスオリゴヌクレオチドのインビボ評価
200または50 mg/体重kg/週のいずれかのtc-DNA-PS M23D(+2-13)オリゴマーの皮下および/または静脈内注射を用いて、12週間、成体mdxマウスの全身的処置を行なった。最後の注射から2週間後、筋肉を採取し、ジストロフィン遺伝子のエクソン20および26におけるプライマーを用いる入れ子RT-PCRによってRNAサンプルを分析した。
図3Aは、処置動物由来の多くの骨格筋におけるエクソン23-スキップジストロフィンmRNAの検出を示す。903-bpバンドは、mdxナンセンス突然変異を含むスキップされていないジストロフィンmRNAに対応し、より短い688-bpフラグメントは、エクソン23-スキップmRNAに対応する。注目すべきは、ホスホロチオエート-含有オリゴマーによる全身的処置が、呼吸筋ならびに心筋を含む様々な骨格筋(すなわち、前脛骨筋、腓腹筋、大腿四頭筋、臀筋、上腕三頭筋、上腕二頭筋、横隔膜)においてジストロフィンmRNAの有意なレスキューを誘発することである。スキップ転写物の生成と一致して、ジストロフィンタンパク質は、 ウエスタンブロット分析(
図3B)および組織切片を用いる免疫蛍光法(
図4)の両方によって容易に検出された。ジストロフィンのレベルはレスキューされたmRNAのレベルを反映し、スキッピング手順は約427 kDaの移動度をもつ免疫的に活性なタンパク質を生成した。野生型とレスキューされたタンパク質との間の予想された8 kDの差異は、この研究に用いたゲルのタイプでは解明することができなかった。
図5に示すように、静脈内および皮下というデリバリーの両モードが、mdxにおいて類似した幅広いジストロフィンレスキューを引き起こしたのは重要である。全身的デリバリーのモードが何であれ、正常なtc-DNA主鎖(すなわち、正常なホスホジエステルヌクレオシド間結合)を用いて作成されたオリゴヌクレオチドは、心筋を有意に標的化することができなかった。
図6に示すように、これは、ホスホロチオエート(-PS)主鎖によってのみ達成された。ホスホロチオエート修飾はかなりの薬物動態的利点を付与し、我々は、このような適応が、オリゴヌクレオチドの血液脳関門通過を可能にするかどうかを研究した。実際に、正常なtc-DNA主鎖を用いるオリゴヌクレオチドは、大槽への定位注射後に脳脊髄液にデリバリーされた場合に、ジストロフィンmRNAをレスキューすることが示され、これは、それらが上衣上皮を通過できたことを示唆している。しかしながら、このような化合物は、静脈内および/または皮下でデリバリーされた場合に有効ではなく、これは、それらが血液脳関門を通過できなかったことを実証している(
図7)。実際に、これは、tc-DNAのホスホロチオエート化された(-PS)形態を用いる場合にのみ成功裏に達成され(
図8)、このように、それらのジストロフィンが理想的に修復されなければならない主要組織(骨格筋、心臓およびCNS)に近づくそれらの能力が実証されている。
【0105】
tc-DNA-PS(M23D +2-13)の全身的デリバリーの治療効果は、処置動物の血清中のクレアチンキナーゼレベルの有意な減少によって確認され、これは、レスキューされたジストロフィンの量が、オリゴマーの濃度が何であっても増加しなかった血液中のALTおよびASTのレベルによって説明されるように明らかな毒性を示すことなく運動誘発性損傷から線維を保護するのに適切であったことを示している(
図9Aおよび9B)。筋肉の改善を、処置された筋肉の特定の力を試験することによっても評価したが、それは、有意に増強された(
図9C)。より重要なことは、一連の伸張性収縮後の力不足を測定することによって評価されるジストロフィー筋の特徴である力の低下のパーセンテージが、処置動物において減少したことであり、これは、処置動物の筋線維の耐性が、より大きいことを確認している(
図9D)。
【0106】
ジストロフィンとユートロフィンの両方を欠いており、進行性の筋萎縮、歩行不全および若年死に至る、より重篤なDMDモデルであるdKOトランスジェニックマウスにおいて臨床的関連性を評価した。mdxに関しては、tc-DNA-PSによるdKOの全身的処置は、すべての組織コンパートメントにおいてジストロフィンの有意なレスキューが許可された(
図10)。エクソンスキッピングのパーセンテージは、処置の開始後の異なる時点における定量的RT-PCRによって評価され、処置期間にわたって累積効果があることが明らかにされた。20週間後の横隔膜において、mRNAレスキューはほとんど完全であり、他の骨格筋は40週間以内に、オリゴマーの取り込みがより遅く見える心臓および脳についてはその後に、スキッピングのそのレベルに到達することを予想することができた(
図11)。それにもかかわらず、処置12週間後のdKOにおけるジストロフィンレスキューのレベルは、有意な臨床的利点を提供する。処置マウスは特徴的な脊柱後弯症を示さず、CKレベルは減少し、マウスはより身体的に活発になり、改善された生理的パラメーターを示した(
図12)。薬物動態研究は、静脈内注射後数分以内に血清からオリゴヌクレオチドが消失したことを示しているが(
図13A)、それらが一旦標的組織内に入ると長期持続的な効果をもつことは明らかである。これは、スキッピングレベルが、処置の終了後13週間でそれらの最大値の約半分であることが見出されるという事実によって示唆される(
図13B)。この長期持続効果は、
図14に示す結果において確認される。tc-DNA-PSは細胞内で安定であり、これらのオリゴヌクレオチドがそれらのmRNA標的によって破壊されるならば必要であったであろう組織を何度も満たすことの必要が制限され、長い期間再利用され得た可能性が高い。
【実施例2】
【0107】
SMN2のエクソン7を標的化するtc-DNA-PS(ISS7)のデリバリーの効果
SMAマウスモデル(FVB.Cg-Tg(SMN2)2Hung Smn1tm1Hung/J)を用いた。SMAタイプIIIマウス(FVB.Cg-Tg(SMN2)2Hung Smn1
tm1Hung/J)は、Smn(Smn1 -/-)についてノックアウトされており、ヒトSMN2遺伝子のタンデムコピーから作成されたSMN2導入遺伝子を含む。これらの動物は、約1月齢から始まる尾の壊死といったような典型的な特徴を示す。このような壊死は、耳介および足まで徐々に広がり、晩年、これらの動物は、筋衰弱になる。
図15の写真は、3匹のタイプIIIマウス(1月齢)を示す。上の1匹は、非処置コントロールである;他の2匹はtc-DNA-PS(ISS7)で処置された:これらのマウスは、出生時に単回ICV(脳室内)注射(20 μgのtc-DNA-PS(ISS7)を含有する5 μl)を受け、200 mg/kgの用量で週1回のSC(皮下)注射を繰り返し受けた
【0108】
我々は、tc-DNA-PS オリゴマーが、SMA療法のための可能性のある薬物候補であると結論付ける。さらに、このタイプのオリゴヌクレオチドは、血液脳関門を自発的に通過するので(mdxセクション参照)、tc-DNA-PSは、CNSにおけるSMN2スプライシングを効率的に方向転換させるための脳内投与を必ずしも必要としないを可能性が高い。
【実施例3】
【0109】
DM1に対するtc-DNAおよびtc-DNA-PSの評価
800CTG反復をもつDM1筋芽細胞を、tc-DNA-CAG77(配列番号:11)の濃度を増加させながらトランスフェクトした。3日間の培養後、ノーザン・ブロットによって、正常および突然変異CUGexp-DMPK(筋緊張性異栄養症-プロテインキナーゼ)mRNAの両方の発現を分析した。突然変異CUGexp-DMPK 対 正常DMPK mRNAの比を定量した。正常DMPK mRNAの変化なしでの突然変異CUGexp-DMPK mRNAの用量依存性減少は、オリゴヌクレオチドによる処置が、突然変異CUGexp-DMPKの特異的破壊をもたらすことを示した(
図16参照)。
【0110】
別の実験において、伸長したCTG(>800 CTG)をもつDM1筋芽細胞を、10μgのtc-DNA-PS-CAG7でトランスフェクトした。3日間の培養後、ノーザン・ブロットによって、正常および突然変異CUGexp-DMPK mRNAの発現を分析した。突然変異CUGexp-DMPK 対 正常DMPK mRNAの比を定量した(
図17上)。CUG伸長RNAの核凝集体(nuclear aggregate)(病巣)を、FISHによって検出し、CUGexp-RNA核凝集体のない細胞の数を定量した(
図17下)。結果は、オリゴヌクレオチドでトランスフェクトされたDM1筋芽細胞が、i)正常DMPK mRNAの変化なしでの突然変異CUGexp-DMPK mRNAのレベル減少;ii)核凝集体なしでの細胞数の増加;を有することを示す。
【0111】
次いで、tc-DNA-PS-CAG7オリゴヌクレオチドの効果をインビボで評価した。オリゴヌクレオチドは、DM1筋細胞中の正常DMPK転写物に影響を及ぼすことなくDMPK転写物のCUG伸長RNAを標的化するので、我々は、ヒト骨格アクチン(HSA)遺伝子の3’非コーディング領域においてCUG伸長RNAを発現しているDM1マウスモデルにおけるオリゴヌクレオチドの効果を評価することを決定した。このDM1マウスモデルは、いくつかのRNA転写物ならびにClC-1プレmRNAのミススプライシングからもたらされる筋緊張症の別のスプライシング誤調節を示したので、CAG8モルホリノおよびCAG8 2’-O-Me ASOの両方を評価するのにすでに用いられている。
【0112】
ヒト骨格アクチン(HSA)遺伝子の3’UTRにおいて250CTGを発現しているHSA-LRマウスの前脛骨筋(TA)に、濃度を増加させながらtc-DNA-PS-CAG7を注射した。対側のTA筋に、生理食塩水を注射し、コントロールとして用いた。2週間後に、ノーザン・ブロットによって、HSAおよびMSA(マウス骨格アクチン)mRNAの発現を分析した。HSA 対 MSA mRNAの比を定量した。
図18は、オリゴヌクレオチドの筋肉内注射が、CUGexp-RNAの著しい減少をもたらすことを示す。
【0113】
また、ヒト骨格アクチン(HSA)遺伝子の3’UTRにおいて250CTGを発現しているHSA-LRマウスのTA筋に、30 μgのtc-DNA-PS-CAG7を注射した。対側のTA筋に、生理食塩水を注射し、コントロールとして用いた。1および2週間後に、ノーザン・ブロットによって、HSAおよびMSA(マウス骨格アクチン)mRNAの発現を分析した。HSA 対 MSA mRNAの比を定量した。
図19は、オリゴヌクレオチドの筋肉内注射後のCUGexp-RNAのレベルの減少が、1週間後にすでに観察されたことを示す。
【0114】
最後に、ヒト骨格アクチン(HSA)遺伝子の3’UTRにおいて250CTGを発現しているHSA-LRマウスの腓腹(Gastrocnemius:GA)筋に、90 μgのtc-DNA-PS-CAG7を注射した。対側のGA筋に、生理食塩水を注射し、コントロールとして用いた。2、4および8週間後に、ノーザン・ブロットによって、HSAおよびMSA(マウス骨格アクチン)mRNAの発現を分析した。HSA 対 MSA mRNAの比を定量した。
図20は、オリゴヌクレオチドの筋肉内注射が、CUGexp-RNの効率的な破壊を引き起こし、この効果が、処置後4〜8週間持続することを示す。