(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181681
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】バイオマスを用いたシート用組成物、環境にやさしい複合シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 97/02 20060101AFI20170807BHJP
C08K 3/00 20060101ALI20170807BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20170807BHJP
C08K 7/20 20060101ALI20170807BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20170807BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20170807BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20170807BHJP
B32B 9/02 20060101ALI20170807BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
C08L97/02
C08K3/00
C08L23/00
C08K7/20
C08K5/14
C08L91/06
C08J3/20 BCEP
C08J3/20CES
B32B9/02
B32B27/32 E
【請求項の数】27
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-28290(P2015-28290)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2015-151550(P2015-151550A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2015年2月17日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0018004
(32)【優先日】2014年2月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】515044067
【氏名又は名称】エーユー シーオー.,エルティーディー.
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100152319
【弁理士】
【氏名又は名称】曽我 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ハン,チョン ク
(72)【発明者】
【氏名】ユン,チャン ソク
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン イン
【審査官】
佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−034040(JP,A)
【文献】
特開2012−214554(JP,A)
【文献】
特開2002−205314(JP,A)
【文献】
特開2014−025053(JP,A)
【文献】
特表2009−510248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 97/00−97/02
C08L 23/00−23/36
C08K 5/18
C08K 3/00−13/08
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
総重量に対して、ナノ無機物フィラーが多孔性草本系バイオマスに含浸された含浸混合物30〜60重量部と、
第一のポリオレフィン系樹脂30〜60重量部と、
ガラスビード1〜40重量部と、
を含むことを特徴とするシート用組成物。
【請求項2】
多孔性草本系バイオマスは、竹、外殻、小麦ふすま、稲わら、木粉及び緑茶のうちのいずれか一種であることを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項3】
多孔性草本系バイオマスは、多孔性粉末状に粉砕されることを特徴とする請求項2に記載のシート用組成物。
【請求項4】
多孔性草本系バイオマスは、平均粒径が1μm〜45μmであることを特徴とする請求項3に記載のシート用組成物。
【請求項5】
前記ナノ無機物フィラーは、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ及びタルクからなる群から選ばれる一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項6】
前記ナノ無機物フィラーの平均粒径は、40nm〜80nmであることを特徴とする請求項5に記載のシート用組成物。
【請求項7】
前記含浸混合物は、表面が植物性油脂または植物性脂肪酸によりコーティングされることを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項8】
前記植物性油脂または植物性脂肪酸は、パーム油であることを特徴とする請求項7に記載のシート用組成物。
【請求項9】
前記第一のポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項10】
前記ガラスビードは、平均粒径が3μm〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項11】
前記シート用組成物は、さらに、ベンゾイルペルオキシド、1,1−ビス(3次−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリエチルシクロヘキサン、3次ブチルペルオキシアセテート、3次ブチルペルオキシベンゾエート、3次ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、3次ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、3次ブチルペルオキシネオデカノエート、メチルエチルケトンペルオキシド及びジクミルペルオキシドからなる群から選ばれる有機過酸化物の一種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項12】
相溶化剤またはワックス類をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載のシート用組成物。
【請求項13】
請求項1から請求項12のうちのいずれか一項に記載の組成物30重量部〜70重量部及び独立して第一のポリオレフィン樹脂と同じ若しくは異なる第二のポリオレフィン樹脂30〜70重量部を含むことを特徴とする環境にやさしい複合シート。
【請求項14】
前記第二のポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂からなる群から選ばれるいずれか一種以上を含むことを特徴とする請求項13に記載の環境にやさしい複合シート。
【請求項15】
オレフィン系相溶化樹脂をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の環境にやさしい複合シート。
【請求項16】
前記相溶化樹脂は、ポリエチレン(HDPE)、エチレンビニールアセテート(EVA)及び線状ポリエチレン(LLDPE)からなる群から選ばれるいずれか一種以上を含むことを特徴とする請求項15に記載の環境にやさしい複合シート。
【請求項17】
請求項13に記載の環境にやさしい複合シートが押出されて多層に積層されることを特徴とする環境にやさしい多層複合シート。
【請求項18】
(a)含浸混合物を製造するために、ナノ無機物フィラーを多孔性草本系バイオマスに含浸させ、
(b)前記含浸混合物とポリオレフィン系樹脂及びガラスビードとを混合すること、
を含むことを特徴とするシート用組成物の製造方法。
【請求項19】
多孔性草本系バイオマスは、竹、外殻、小麦ふすま、稲わら、木粉及び緑茶のうちのいずれか一種であることを特徴とする請求項18に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項20】
多孔性草本系バイオマスは、多孔性粉末状に粉砕されることを特徴とする請求項18に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項21】
多孔性草本系バイオマスは、平均粒径が1μm〜45μmであることを特徴とする請求項20に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項22】
前記ナノ無機物フィラーの平均粒径は、40nm〜80nmであることを特徴とする請求項18に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項23】
前記含浸混合物は、表面が植物性油脂または植物性脂肪酸によりコーティングされることを特徴とする請求項18に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項24】
前記ガラスビードは、平均粒径が3μm〜40μmであることを特徴とする請求項18に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項25】
前記ナノ無機物フィラー及び前記バイオマスを混合するとき、85℃〜110℃で乾燥することを特徴とする請求項18に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項26】
前記コーティング剤は、85℃〜110℃でコーティングすることを特徴とする請求項23に記載のシート用組成物の製造方法。
【請求項27】
(a)含浸混合物を製造するために、多孔性草本系バイオマスにナノ無機物フィラーを含浸させることと、
(b)シート用組成物を製造するために、前記含浸混合物とポリオレフィン系樹脂及びガラスビードを混合することと、
(c)前記組成物にポリオレフィン樹脂をさらに混合し、且つ、押出させること、
を含むことを特徴とする環境にやさしい複合シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを用いたシート用組成物、環境にやさしい複合シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されているシートのほとんどは、ポリビニールカーボネート(PVC)をベースとする熱可塑性材質のシートである。熱可塑性樹脂であるPVCは、軟性を与えるために多量の可塑剤を使用するが、前記可塑剤として多用されるフタレート系化合物は、使用中や廃棄時に発癌物質である環境ホルモンを排出する物質であり、世界的に規制をしているのが現状である。前記フタレート系化合物は、動物や人間の内に入り込んでホルモンの作用を妨げたり撹乱させたりする「内分泌撹乱物質」の一種である。前記フタレート系化合物は、カドミウムに匹敵するほどの毒性を有しており、動物実験の結果、肝と腎臓、心臓、肺などに否定的な影響を及ぼし、女性の不妊、精子数の低減などを引き起こすなど生殖器官に有害な毒性物質であると報告された有害物質である。
【0003】
一方、例えば、下記の特許文献1には、天然植物素材である黄麻、大麻、亜麻、竹、麻、シザル麻、稲わら、外殻、木粉、緑茶などの有機天然粉末を生分解性樹脂、石油系樹脂などに添加して複合化させた後、押出工程または射出工程を経て製品化するバイオ複合材料について開示されている。
【0004】
そこで、本発明者らは、バイオマスを用いて低炭素及びエコ政策に符合し、しかも、コストを節減することのできるバイオマスを用いたシート用組成物を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】大韓民国公開特許第1020110134987号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リサイクル可能であり、人体に無害な環境にやさしい特性を有するシートを製造するために、多孔性草本系バイオマス
にナノ無機物フィラーが含浸された含浸混合物と、
第一のポリオレフィン系樹脂及び流れ改善剤を含むシート用組成物及びその製造方法を提供することを目的としている。
【0007】
また、本発明は、バイオマス
にびナノ無機物フィラーを含浸させて含浸混合物を製造し、前記含浸混合物と
第一のポリオレフィン系樹脂及び流れ改善剤を混合し、前記組成物に
第二のポリオレフィン樹脂をさらに混合し且つ押出させて環境にやさしい複合シートを製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に記載の様々な具体例が図面に基づいて説明される。下記の説明において、本発明への完全な理解への一助となるために、様々な特異的な詳細事項、例えば、特異的な形態、組成物及び工程などが記載されている。しかしながら、特定の具体例はこれらの特異的な詳細事項のうちの一つ以上なしに、または、他の公知の方法及び形態とともに実行可能である。他の例において、公知の工程及び製造技術は、本発明を余計に曖昧にしないために、特定の詳細事項として記載されない。「一つの具体例」または「具体例」に関する本明細書の全体を通しての参照は、具体例と結び付けられて記載された特別の特徴、形態、組成または特性が本発明の一つ以上の具体例に含まれることを意味する。よって、本明細書の全体に亘っての様々な個所における表現「本発明の一具体例において」または「具体例」の状況は、必ずしも本発明の同じ具体例を示さない。加えて、特別な特徴、形態、組成または特性は、一つ以上の本発明の一具体例においてある適合な方法により組み合わせられる。
【0009】
一具体例において、本発明は、総重量に対して、多孔性草本系バイオマス
にナノ無機物フィラーが含浸された含浸混合物30〜60重量部と、
第一のポリオレフィン系樹脂30〜60重量部と、ガラスビード1〜40重量部または有機過酸化物と、を含むシート用組成物を提供する。
【0010】
また、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマスが、竹、外殻、小麦ふすま、稲わら、木粉及び緑茶のうちのいずれか一種であるシート用組成物を提供する。
【0011】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマスが、多孔性粉末状に粉砕されるシート用組成物を提供する。
【0012】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマスが、平均粒径が1μm〜45μmであるシート用組成物を提供する。
【0013】
さらに、一具体例において、本発明は、前記ナノ無機物フィラーが、炭酸カルシウム、シリカ、マイカ及びタルクからなる群から選ばれる一種以上を含むシート用組成物を提供する。
【0014】
さらに、一具体例において、本発明は、前記ナノ無機物フィラーの平均粒径が、40nm〜80nmであるシート用組成物を提供する。
【0015】
さらに、一具体例において、本発明は、前記含浸混合物が、表面が植物性油脂または植物性脂肪酸によりコーティングされたシート用組成物を提供する。
【0016】
さらに、一具体例において、本発明は、前記
植物性油脂または植物性脂肪酸が、パーム油であるシート用組成物を提供する。
【0017】
さらに、一具体例において、本発明は、前記
第一のポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン樹脂またはポリプロピレン樹脂であるシート用組成物を提供する。
【0018】
さらに、一具体例において、本発明は、前記ガラスビードが、平均粒径が3μm〜40μmであるシート用組成物を提供する。
【0019】
さらに、一具体例において、本発明は、前記
シート用組成物が、
さらに、ベンゾイルペルオキシド(benzoyl peroxide)、1,1−ビス(3次−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリエチルシクロヘキサン(1,1−bis(t−butylperoxy)−3,3,5−trimethylcyclohexane)、3次ブチルペルオキシアセテート(t−butyl peroxy acetate)、3次ブチルペルオキシベンゾエート(t−butyl peroxy benzoate)、3次ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート(t−butyl peroxy−2−ethyl hexanoate)、3次ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート(t−butyl peroxy isopropyl carbonate)、3次ブチルペルオキシネオデカノエート(t−butyl peroxy neodecanoate)、メチルエチルケトンペルオキシド(methylethyl ketone peroxide)及びジクミルペルオキシド(dicumyl peroxide)からなる群から選ばれる
有機過酸化物の一種以上を含むシート用組成物を提供する。
【0020】
さらに、一具体例において、本発明は、相溶化剤またはワックス類をさらに含むシート用組成物を提供する。
【0021】
さらに、一具体例において、本発明は、前記組成物30重量部〜70重量部及び
第二のポリオレフィン樹脂30〜70重量部を含む環境にやさしい複合シートを提供する。
【0022】
さらに、一具体例において、本発明は、前記
第二のポリオレフィン樹脂が、ポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂からなる群から選ばれるいずれか一種以上を含む環境にやさしい複合シートを提供する。
【0023】
さらに、一具体例において、本発明は、オレフィン系相溶化樹脂をさらに含む環境にやさしい複合シートを提供する。
【0024】
さらに、一具体例において、本発明は、前記相溶化樹脂が、ポリエチレン(HDPE)、エチレンビニールアセテート(EVA)及び線状ポリエチレン(LLDPE)よりなる群から選ばれるいずれか一種以上を含む環境にやさしい複合シートを提供する。
【0025】
さらに、一具体例において、本発明は、前記環境にやさしい複合シートが押出されて多層に積層される環境にやさしい多層複合シートを提供する。
【0026】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマス
にナノ無機物フィラーを含浸させて含浸混合物を製造するステップと、前記含浸混合物とポリオレフィン系樹脂及びガラスを混合するステップと、を含むシート用組成物の製造方法を提供する。
【0027】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマスが、竹、外殻、小麦ふすま、緑茶、稲わら、木粉及び緑茶のうちのいずれか一種であるシート用組成物の製造方法を提供する。
【0028】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマスが、多孔性粉末状に粉砕されるシート用組成物の製造方法を提供する。
【0029】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマスが、平均粒径が1μm〜45μmであるシート用組成物の製造方法を提供する。
【0030】
さらに、一具体例において、本発明は、前記ナノ無機物フィラーの平均粒径が、40nm〜80nmであるシート用組成物の製造方法を提供する。
【0031】
さらに、一具体例において、本発明は、前記含浸混合物が、表面が植物性油脂または植物性脂肪酸によりコーティングされるシート用組成物の製造方法を提供する。
【0032】
さらに、一具体例において、本発明は、前記ガラスビードが、平均粒径が3μm〜40μmであるシート用組成物の製造方法を提供する。
【0033】
さらに、一具体例において、本発明は、前記ナノ無機物フィラー及び前記バイオマスを混合するとき、85℃〜110℃で乾燥するシート用組成物の製造方法を提供する。
【0034】
さらに、一具体例において、本発明は、前記コーティング剤を85℃〜110℃でコーティングするシート用組成物の製造方法を提供する。
【0035】
さらに、一具体例において、本発明は、多孔性草本系バイオマス
にナノ無機物フィラーを含浸させて含浸混合物を製造するステップと、前記含浸混合物とポリオレフィン系樹脂及びガラスを混合してシート用組成物を製造するステップと、
前記組成物にポリオレフィン樹脂をさらに混合し、且つ、押出させるステップと、を含む環境にやさしい複合シートの製造方法を提供する。
【0036】
本発明の一具体例において、「多孔性草本系バイオマス」とは、これに限定されるものではないが、穀物の殻や稲わら、トウモロコシ茎葉、麦稈など多孔性の草本系植物を粉砕して多孔性の粉末状にすることをいう。粉末状の多孔性草本系バイオマスは根本的に天然物であるため水分及びガスを含有しており、しかも、比重が低いため一緒に配合する他の樹脂の軟化点まで上げようとしても容易に上がらないという問題があるが、これは、多孔質の天然物が温度を容易に放出し、樹脂との混練時に比重が低いため摩擦係数が下がるところに原因がある。本発明においては、これを改善するために、無機質フィラーを多孔に含浸させて比重を僅かに上げるとともに、押出過程で発生するガスの量を減らすような方案を利用することができる。また、水分の再吸収を防ぐために表面コーティング剤を用いてもよい。さらに、物性をさらに改善するために、粉末状の紅藻類エキスをさらに含めてもよい。このような過程を経て多孔性草本系バイオマスの物性を僅かに改善することができるが、本発明においては、無機質フィラー5〜20重量部と、表面コーティング剤0.5〜3重量部及び粉末状の紅藻類エキス1〜10重量部が用いられる。粉末状の多孔性草本系バイオマス、無機質フィラー、表面コーティング剤、粉末状の紅藻類エキスを配合し、これを高速で混練することにより、多孔に他の物質を含浸させてコーティングする。混練に当たって、15〜30分間70℃から110℃まで昇温させることにより、無機質フィラーが含浸された粉末状の草本系バイオマスをコーティングすることが好ましい。
【0037】
本発明の一具体例において、「溶融指数 (MI:melting index)」とは、一般に、ブロー成形用樹脂の場合に180℃の温度で0.05から8まで用いられ、鋳造用の樹脂の場合は主として約8〜12の溶融指数(MI)を用いる。しかしながら、射出用の樹脂の場合は、押出機において十分に溶融した後にゲートノズルを介して所定の形状の金型の内部に均一に分散させて冷却する方式により成形され、金型は開かれていない閉鎖型の構造を有するため、バイオプラスチックの場合に一般樹脂に比べて十分に溶融指数(MI)が高くなければ、未成形を防ぐことができない。これは、バイオプラスチックペレットの比表面積が通常のオレフィン系樹脂よりも大きいため冷却速度が上がって金型の内部において急激に冷却が行われて未成形を来たすためであり、バイオマス入りペレットにより多孔性バイオマス空間において発生するガスを排出することができないためガスフローを残して製品の商品性及び物性を低下させるため流れ性の改善により摩擦を極力抑えてガスの発生を最大限に低減する方法が必要であり、本発明はこれを実現するためのものである。溶融指数(MI)が25のポリプロピレン(PP)樹脂の場合、粉末状のバイオマス素材を約40重量%含有させてペレットにしたとき、この種のバイオマス素材入りペレット状のポリプロピレン(PP)の溶融指数(MI)は約4である。この場合、さらに高い溶融指数(MI)を用いれば、バイオマス素材入りポリプロピレン(PP)の流れ性が十分に改善されるものと考えられる。しかしながら、実際には、例えば、最初から溶融指数(MI)が約30となるポリプロピレン(PP)を用いて、バイオマス素材の含量が約40重量%になるようにペレットを製作し、このペレットの溶融指数(MI)を測定すれば、溶融指数(MI)は約10である。ポリプロピレン(PP)素材の場合、射出用に溶融指数(MI)が約20以上のものを用いることを考慮すれば、バイオマス素材が十分に含有される場合は、バイオマス素材入りペレットを用いて射出成形機により物品を生産することが決して容易ではないということが予想される。このため、バイオマス入り樹脂が射出用であれば、一般に、バイオマス素材の使用量が多くない場合がほとんどであり、バイオマス素材の前処理を十分に行って改質後にバイオマスの使用量を僅かに増やすような方式を採用している。
【0038】
本発明の一具体例において、「ガラスビード」とは、ガラス製のビードであって、穿孔された小さな球体、円柱体のことをいい、前記ガラスビードとしては、当該技術分野において周知の材料を用いることができ、平均粒径は3〜60μmであるが、これに限定されない。なお、前記ガラスビードの平均粒径は、前記多孔性草本系農業副産物の平均粒径よりも2〜5倍さらに大きい。
【0039】
本発明の一具体例において、前記流れ改善剤を添加することにより、樹脂溶融温度における押出機内部の表面と、前記ポリオレフィン系樹脂及び多孔性草本系農業副産物の混合物間の摩擦係数を減らして流れ性を改善して生産性を高めることができるだけではなく、押出機内の多孔性草本系農業副産物の炭化を防ぐことができる。
【0040】
本発明の一具体例において、無機質フィラーは、前記粉末状の草本系バイオマスの多孔に沈着される物質であり、炭酸カルシウム、ガラス繊維、タルク、雲母、珪石、粘土粉末、硅灰石、滑石、高嶺土粉体、シリカ、マイカ、カオリン及び二酸化チタンよりなる群から選ばれるいずれか一種または二種以上の混合物が使用可能である。無機質フィラーの使用量があまりにも少量であれば、多孔質への含浸量が少量であるため表面を十分に改質することができず、多孔質の内部に空気が残存する可能性が高いため進行中に水分及びガスの発生による問題を引き起こす虞がある。なお、無機質フィラーの使用量があまりにも過量であれば、むしろ今後のバイオプラスチックの機械的な物性を低下させる虞がある。
【0041】
本発明の一具体例において、相溶化剤は、非極性を帯びる合成樹脂と極性を帯びる草本系バイオマスとの間の離型性を除去して相溶性を与える物質であり、その例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、エチレンビニールアセテート(EVA)及び線状の低密度ポリエチレン(LLDPE)からなる群から選ばれるいずれか一種以上が挙げられるが、本発明はこれらに何ら制限されるものではなく、当業界において通常的に用いられるものであれば、制限なしに使用可能である。相溶化剤の使用量が低すぎると、相溶性が十分ではないため両物質間の層間分離現象が現れる虞があり、過剰の相溶化剤を用いる必要はない。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、リサイクル可能であり、人体に無害な環境にやさしい特性を有する他、伸び率及び硬度に優れており、しかも、耐傷付き性に優れたバイオマスを用いたシート用組成物、環境にやさしい複合シート及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1a】本発明の具体例に係る多孔性草本系農業副産物とポリオレフィン系樹脂との混合物の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図1b】
図1aにおける多孔性草本系農業副産物とポリオレフィン系樹脂との相溶性を概略的に示す図である。
【
図2a】従来の多孔性草本系農業副産物とポリオレフィン系樹脂との混合物の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図2b】
図2aにおける多孔性草本系農業副産物とポリオレフィン系樹脂との相溶性を概略的に示す図である。
【
図3】本発明の具体例に係る流れ改善剤の一種であるガラスビードの電子顕微鏡写真である。
【
図4a】本発明の具体例に係るガラスビードの添加により混合物の流れ性が改善される原理を概略的に図である。
【
図4b】本発明の具体例に係るガラスビードの添加により混合物の流れ性が改善される原理を概略的に図である。
【
図5】本発明の具体例に係る環境にやさしい複合シートを概略的に示す図である。
【
図6】本発明の具体例に係る環境にやさしい複合シートの製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の具体例に係る環境にやさしい複合シートを押出する方法を概略的に示す図である。
【
図8】本発明の具体例に係るシートの耐傷付き性の評価結果を示す図である。
【
図9】本発明の具体例に係るシートの耐傷付き性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明の構成要素及び技術的特徴について、下記の実施例を挙げてより詳細に説明する。しかしながら、下記の実施例は本発明の内容を例示するものに過ぎず、本発明の範囲が下記の実施例により限定されることはない。
【0045】
<実施例1>
前処理バイオマスの製造
【0046】
実験例1
乾燥させた多孔性草本系農業副産物であるトウモロコシ殻をボールミルで粉砕した後、エアジェットミルで粉砕して平均粒径を8μmにした。総重量に対して、前記多孔性草本系農業副産物40重量部に平均粒径が60nmの炭酸カルシウムを5重量部含浸させて含浸混合物を製造した。
【0047】
実験例2
乾燥させた多孔性草本系農業副産物である粒径が19μmの小麦ふすま粉末をボールミルで粉砕し、エアジェットミルで粉砕して、平均粒径を8μmにした。総重量に対して、前記多孔性草本系農業副産物40重量部に平均粒径が60nmの炭酸カルシウム10重量部を含浸させて含浸混合物を製造した。次いで、前記含浸混合物にコーティング剤のパーム油を1.5重量部投入して85℃の温度で25分間ドライドラムで60rpmの速度で混練してコーティング工程を行い、表面がコーティングされた含浸混合物を製造した。
【0048】
比較例1
乾燥させた多孔性草本系農業副産物である外殻をボールミルで粉砕した後、エアジェットミルで粉砕して、平均粒径を8μmにした。総重量に対して、前記多孔性草本系農業副産物40重量部に平均粒径が60nmの炭酸カルシウムを5重量部含浸させて含浸混合物を製造した。
【0049】
これをまとめると、下記表1の通りである。
【0051】
<実施例2>
前処理バイオマスを含むシート用組成物の製造及びその効果の確認
【0052】
総重量に対して、ポリプロピレン樹脂(湖南石油化学社製、ブラーPP、B310)及びプラスチック滑剤の一種であるワックス類のPE−WAX 102nを高速ミキサーに入れ、85℃で高速で混練した。次いで、実施例1の実験例1及び2と比較例1の含浸混合物を添加し、流れ改善剤としてのガラスビード20nm(商品名:APS20−215)及び相溶化剤としての無水マレイン酸を添加した後、加圧(4bar/3分−シリンダにおける滞留時間)及び加熱(190℃〜210℃)を行ってシート用組成物を製造した。具体的な条件は、下記表2に示す。
【0054】
溶融指数(MI)の評価及び確認
上記の実験例4の方法と同様にして、バイオマスを用いたシート用組成物に対して、平均粒径が3μm〜40μmのガラスビードの含量を異ならせて溶融指数(MI)を確認し、その結果を下記表3に示す。
【0056】
このとき、溶融指数(MI)の解析は、方法[チニウス−オルセンテスティングマシン社、MWLD−600]に従い行った。
【0057】
前記表3によれば、シート用組成物の流れ性を確認したところ、前記ガラスビードの含量が増大するにつれて流れ性が増大するということが分かる。但し、ガラスビードが50重量部である場合には流れ性が悪くなることが分かる。
【0058】
<実施例3>
環境にやさしい複合シートの製造及びその効果の確認
環境にやさしい単層複合シートの製造
総重量に対して、ベース樹脂としてポリプロピレン樹脂(湖南石油化学社製、ブラーPP、B310)42重量部及びエチレンビニールアセテート8重量部を混合し、実験例3または4のシート用組成物50重量部を混合して押出用組成物を製造し、これを押出させて環境にやさしい単層複合シートを製造した。
【0059】
前記単層複合シートと、前記製造方法と同様であるが、実験例3または4の代わりに比較例2のシート用組成物を用いた単層複合シートに対して耐傷付き性を評価し、その結果をそれぞれ
図8及び
図9に示す。実験例3及び5に従い製造された複合シートの方が、比較例2に従い製造された複合シートよりも耐傷付き性に優れているということが分かる。
【0060】
環境にやさしい多層複合シートの製造
総重量に対して、ベース樹脂としてポリプロピレン樹脂(湖南石油化学社製、ブラーPP、B310)40重量部及び高密度ポリエチレン(HDPE)(ロッテケミカル社製、7000F)10重量部を混合し、ここに実験例3または4のシート用組成物50重量部を混合して押出用組成物を製造し、これを押出させて第1の層を製造した。総重量に対して、ベース樹脂としてポリプロピレン樹脂(湖南石油化学社製、ブラーPP、B310)35重量部及び線状の低密度ポリエチレン(LLDPE)(ロッテケミカル社製、UL614)5重量部を混合し、ここに実験例3または4のシート用組成物60重量部を混合して押出用組成物を製造し、これを押出させて第2の層を製造した。次いで、前記第1の層及び第2の層をサイドフィードブロック方式の一体型直接押出方式により積層して(ラミネーション)環境にやさしい多層複合シートを製造した。
【0061】
前記環境にやさしい多層複合シートを真空成形方式により成形して炭素低減型の環境にやさしいバイオトレイを製造した。真空成形方式を適用したときに工程に無理がないということを確認することができ、且つ、製造されたバイオトレイも所定の物性を満たしているということを確認することができた。
【0062】
以上、例示的な実施態様を参照して本発明を記述したが、本発明が属する技術分野における当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく種々の変形を行うことができ、これらの要素を等価物に置き換えることができるということが理解できる筈である。なお、本発明の本質的な範囲から逸脱しなくても多くの変形を行って特定の状況及び材料を本発明の教示内容に採用することができる。よって、本発明が本発明を実施するのに計画された最上の様式として開示された特定の実施態様に制限されるものではなく、本発明が添付の特許請求の範囲に属するあらゆる実施態様を含むものと解釈されるべきである。