特許第6181697号(P6181697)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181697
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】デキストリン脂肪酸エステル及び化粧料
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20170807BHJP
   A61K 8/92 20060101ALI20170807BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20170807BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170807BHJP
   A61Q 1/14 20060101ALI20170807BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20170807BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20170807BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20170807BHJP
   C08B 30/18 20060101ALN20170807BHJP
   A61K 8/31 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   A61K8/73
   A61K8/92
   A61Q1/10
   A61Q19/00
   A61Q1/14
   A61Q5/12
   A61Q1/04
   A61Q1/02
   !C08B30/18
   !A61K8/31
【請求項の数】1
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-81477(P2015-81477)
(22)【出願日】2015年4月13日
(65)【公開番号】特開2016-199698(P2016-199698A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2017年2月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000199441
【氏名又は名称】千葉製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 挙直
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大亮
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−196263(JP,A)
【文献】 特開2012−201663(JP,A)
【文献】 特開2005−145851(JP,A)
【文献】 特開2000−072646(JP,A)
【文献】 特開2011−225562(JP,A)
【文献】 特開平08−277302(JP,A)
【文献】 特開2011−213662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/73
C08B 30/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油剤と、
デキストリンと脂肪酸とのエステル化物とを含み
前記エステル化物において、
前記デキストリンの平均糖重合度が3以上20以下であり、
前記脂肪酸が、直鎖飽和脂肪酸および分岐飽和脂肪酸であり、前記直鎖飽和脂肪酸が炭素数16のパルミチン酸であって、前記分岐飽和脂肪酸が炭素数16のイソパルミチン酸であり、
前記脂肪酸における前記直鎖飽和脂肪酸のモル分率が0.8以上0.9以下であり、
グルコース単位あたりの前記脂肪酸の平均置換度が1.65以上1.80以下であり、
前記エステル化物の含有率が重量%以上20重量%以下であり、
前記油剤は、揮発性炭化水素油を含みゲル化されている
化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デキストリン脂肪酸エステル、及びデキストリン脂肪酸エステルを含有する化粧料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、デキストリン脂肪酸エステルは、油のゲル化剤として使用されている。デキストリン脂肪酸エステルによってゲル化された油剤は、透明性、ツヤ、感触などに優れるため、化粧料の材料として用いられている。
【0003】
化粧料において、チキソトロピー性は重要な性能の一つである。チキソトロピー性とは、一定の力を加えると粘度が低下し、力が加えられなくなると粘度が復帰する性能である。チキソトロピー性が高い化粧料は、化粧料を塗布する際に粘度が低下するため、例えば、伸びがよいなどの効果を奏する。また、化粧料を塗布した後は、化粧料の粘度が復帰するため、流れ落ちにくく、化粧料の塗布が完了したときの状態が維持されやすくなる。
【0004】
特許文献1には、チキソトロピー性が高いデキストリン脂肪酸エステルと、このデキストリン脂肪酸エステルを化粧料に用いることとが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3019191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、デキストリン脂肪酸エステルを含む化粧料の種類は増加する一方であり、それに伴い、デキストリン脂肪酸エステルに求められる物性も新たなものとなっている。すなわち、デキストリン脂肪酸エステルがチキソトロピー性を有するとはいえども、ボディオイルやヘアトリートメントジェルなどの化粧料が使用されるシーンにおいては、化粧料が塗布された後、化粧料の粘度が復帰するのに要する時間が長くなると、手に取った化粧料や肌の上にのせた化粧料が流れ落ちてしまうなど実用性に欠けることとなる。また、リップカラーやリップグロスなどのように肌などに化粧膜を形成するための化粧料(以下、メイクアップ化粧料)においては、仕上がりの状態が維持されにくくなる。それゆえに、こうした化粧料の構成成分であるデキストリン脂肪酸エステルには、化粧料の粘度が復帰するのに要する時間を短時間とする新たな物性が望まれている。
【0007】
さらに、化粧料から油がにじみ出す性質(以下、離漿性)が高いと、外観が損なわれるほか、保存時の安定性が低下してしまうため、低い離漿性を兼ね備えていることも望まれている。
【0008】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、復帰力を備え、かつ、離漿性が低いデキストリン脂肪酸エステル及び化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するデキストリン脂肪酸エステルは、デキストリンと脂肪酸とのエステル化物であって、デキストリンの平均糖重合度が3以上100以下であり、前記脂肪酸が、炭素数14以上18以下の直鎖飽和脂肪酸の1種以上と、炭素数14以上18以下の分岐飽和脂肪酸の1種以上とからなり、前記脂肪酸における前記直鎖飽和脂肪酸のモル分率が0.8以上0.9以下であり、グルコース単位あたりの前記脂肪酸の平均置換度が1.65以上1.80以下である。
【0010】
上記課題を解決する化粧料は、油剤と、デキストリンと脂肪酸とのエステル化物であるデキストリン脂肪酸エステルであって、前記デキストリンの平均糖重合度が3以上100以下であり、前記脂肪酸が、炭素数14以上18以下の直鎖飽和脂肪酸の1種以上及び炭素数14以上18以下の分岐飽和脂肪酸の1種以上からなり、前記脂肪酸における前記直鎖飽和脂肪酸のモル分率が0.8以上0.9以下であり、グルコース単位あたりの前記脂肪酸の平均置換度が1.65以上1.80以下であるデキストリン脂肪酸エステルと、を含む。
【0011】
発明者の鋭意研究により、チキソトロピー性を有するデキストリン脂肪酸エステルのなかでも、直鎖飽和脂肪酸及び分岐飽和脂肪酸の両方を含み、それらの炭素数、直鎖飽和脂肪酸及び分岐飽和脂肪酸のモル分率、及び平均置換度が上記範囲のものが、復帰力と、低
い離漿性との両方を兼ね備えていることが判明した。復帰力は、デキストリン脂肪酸エステルを含む油剤に加えられた力が解除されたときに、20秒以内という短い時間で、解除直前の粘度に対し50%以上の粘度になるように、粘度を大きく増加させることのできる力をいう。すなわち、デキストリン脂肪酸エステルにおけるデキストリンの平均糖重合度が3以上100以下であることによって、軟らかなゲルが得ることができなくなることを抑制するとともに、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解性が過剰に低くなることを抑制できる。また、直鎖飽和脂肪酸の炭素数を14以上18以下とすることで、復帰力を高め、分岐飽和脂肪酸の炭素数を14以上18以下とすることで、デキストリンと脂肪酸との反応効率を良好にしつつ、油剤に適切な粘性を付与することができる。また、脂肪酸における直鎖飽和脂肪酸のモル分率を0.75以上0.95以下とすることによって、ゲル化した油剤を滑らかな状態としつつ、復帰力を向上することができる。さらにグルコース単位あたりの脂肪酸の平均置換度を1.5以上2.0以下とすることにより、離漿性を低下させることができる。特に、上記デキストリン脂肪酸エステルは、前記脂肪酸における前記直鎖飽和脂肪酸のモル分率が0.8以上0.9以下の範囲であって、グルコース単位あたりの前記脂肪酸の平均置換度が1.65以上1.80以下であることによって、デキストリン脂肪酸エステルを含む油剤の復帰力を向上するとともに離漿性を低下させることができる。
【0012】
上記デキストリン脂肪酸エステルは、前記デキストリンの平均糖重合度が3以上50以下であることが好ましい。
この態様によれば、軟らかなゲルが得ることができるとともに、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解性を高めることができる。
【0014】
上記デキストリン脂肪酸エステルは、直鎖飽和脂肪酸が炭素数16のパルミチン酸であって、前記分岐飽和脂肪酸が炭素数16のイソパルミチン酸であることが好ましい。
【0015】
この態様によれば、油剤をゲル化する力及び透明性の両方を特に優れたものとすることができる。
上記化粧料は、前記デキストリン脂肪酸エステルの含有率が1重量%以上20重量%以下であってもよい。
この態様によれば、化粧料に復帰力を付与することができる。
上記化粧料は、油剤に揮発性炭化水素油を含み、前記デキストリン脂肪酸エステルの含有率が3重量%以上20重量%以下であってもよい。
【0016】
この態様によれば、優れた復帰力を備えるデキストリン脂肪酸エステルは、粘度が低い揮発性炭化水素油に対する含有率が少なくても、揮発性炭化水素油に復帰力を付与することができる。そのため、化粧料の処方の自由度が高められるなど、特に効果を発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】デキストリン脂肪酸エステルの実施例1〜6及び比較例1〜9の作製条件を示す表。
図2】実施例1〜6及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルの直鎖飽和脂肪酸及び分岐飽和脂肪酸のモル分率、グルコース単位あたりの平均置換度、及び収量を示す表。
図3】実施例1〜6及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルをミネラルオイル及びイソドデカンに溶解した試料についての濃度及び初期粘度を示す表。
図4】静置状態のデキストリン脂肪酸エステルの粘度、撹拌状態のデキストリン脂肪酸エステルの粘度を例示したグラフ。
図5】実施例1〜6及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルをミネラルオイル及びイソドデカンに溶解した試料についての評価を示す表。
図6】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたマスカラについての評価を示す表。
図7】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたボディオイルについての評価を示す表。
図8】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたクレンジングジェルについての評価を示す表。
図9】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたヘアトリートメントジェルについての評価を示す表。
図10】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたリップカラーについての評価を示す表。
図11】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたリップグロスについての評価を示す表。
図12】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたオイルファンデーションについての評価を示す表。
図13】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いた美容オイルについての評価を示す表。
図14】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたリキッドルージュについての評価を示す表。
図15】実施例及び比較例のデキストリン脂肪酸エステルを用いたジェル状アイライナーについての評価を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、デキストリン脂肪酸エステル、及びデキストリン脂肪酸エステルを含有する化粧料について、一実施形態を説明する。
デキストリン脂肪酸エステルは、デキストリンと脂肪酸とのエステル化物であり、下記化学式1に示される構造である。
【0019】
【化1】
上記化学式1では、「n」がデキストリンの重合度を示し、「A」が脂肪酸骨格又は水素を示している。
【0020】
デキストリン脂肪酸エステルのデキストリンは、澱粉の分解物を用いることができる。澱粉は、小麦、馬鈴薯、コーン、米、キャッサバ、緑豆などを原料とするものを用いることができる。分解方法は、従来の方法を使用することができ、例えば、酸処理、アルカリ処理、及び酵素処理のうち一乃至複数を使用することができる。
【0021】
デキストリン脂肪酸エステルは、少なくとも以下に示すデキストリン脂肪酸エステルを含む。
デキストリンの平均糖重合度が、3以上100以下である。特に10以上50以下が好ましい。平均糖重合度が3以上であれば、デキストリン脂肪酸エステルがワックス様となること、それによって、軟らかなゲルが得られないことを抑制できる。また、平均糖重合度が100以下であれば、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解温度が高いことに起因し、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解性が過剰に低いことなどの問題を抑えられる。
【0022】
また、デキストリン脂肪酸エステルの脂肪酸は、炭素数14以上18以下の直鎖飽和脂肪酸の1種以上と、炭素数14以上18以下の分岐飽和脂肪酸の1種以上とからなる。
炭素数14以上18以下の直鎖飽和脂肪酸は、具体的には、ミリスチン酸(炭素数14)、ペンタデカン酸(炭素数15)、パルミチン酸(炭素数16)、ヘプタデカン酸(炭素数17)、ステアリン酸(炭素数18)が挙げられる。これらの直鎖飽和脂肪酸のなかでも、パルミチン酸が好ましい。直鎖飽和脂肪酸の炭素数が14以上であれば、油剤をゲル化する力が強くなる。直鎖飽和脂肪酸の炭素数が18以下であれば、ゲル化された油剤が白濁することが抑えられ、油剤の透明性が確保される。また、炭素数14以上18以下のなかでも、炭素数16が油剤をゲル化する力及び透明性の両方で優れている。
【0023】
炭素数14以上18以下の分岐飽和脂肪酸は、具体的には、イソミリスチン酸(炭素数14)、イソペンタデカン酸(炭素数15)、イソパルミチン酸(炭素数16)、イソヘプタデカン酸(炭素数17)、イソステアリン酸(炭素数18)が挙げられる。これらの分岐飽和脂肪酸のなかでも、イソパルミチン酸が好ましい。分岐飽和脂肪酸の炭素数が14以上であれば、粘度が低い油剤へも十分な粘性を付与することができる。分岐飽和脂肪酸の炭素数が18以下であれば、分岐飽和脂肪酸の嵩高さがデキストリンに対して抑制され、エステル化反応時において分岐飽和脂肪酸がデキストリンに結合しにくいことが抑えられる。また、分岐飽和脂肪酸がデキストリンに結合しても、分岐飽和脂肪酸の嵩高さが抑制されるために、直鎖飽和脂肪酸がデキストリンに結合しにくいこと、それに起因して反応効率が低下してしまうことが抑えられる。特に炭素数14以上16以下の分岐飽和脂肪酸は、その嵩高さが抑制されるために反応効率がよい。
【0024】
イソミリスチン酸は、1乃至複数のイソミリスチン酸からなる。例えば、11−メチルトリデカン酸、12−メチルトリデカン酸などが挙げられるがこれらに限定されない。イソパルミチン酸は、1乃至複数のイソパルミチン酸からなる。例えば、14−メチルペンタデカン酸、2−ヘキシルデカン酸などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
イソステアリン酸は、1乃至複数のイソステアリン酸からなる。例えば、5,7,7‐トリメチル‐2‐(1,3,3‐トリメチルブチル)‐オクタン酸は、アルドール型イソステアリン酸であり、次のように製造することができる。まずイソブチレン2量体のオキソ反応により、炭素数9の分岐アルデヒドとする。そして、この分岐アルデヒドのアルドール縮合により、炭素数18の分岐不飽和アルデヒドとし、水素添加、及び酸化することにより製造することができる。
【0026】
2‐ヘプチルウンデカン酸は、ノニルアルコールを、ガーベット反応(Guerbet reaction)に付し、酸化することにより製造することができる。
メチル基が分岐したメチル分岐イソステアリン酸は、例えばオレイン酸のダイマー製造時の副産物として得られるもので(例えばJ. Amer. Oil Chem. Soc., 51,522(1974))、例えばエメリー社などから市販されていたものがあげられる(以下エメリー型と略す)。エメリー型イソステアリン酸の出発物質であるダイマー酸の出発物質は、オレイン酸だけでなく、リノール酸、リノレン酸等も含まれる場合がある。
【0027】
デキストリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸骨格のなかで直鎖脂肪酸骨格の有するモル分率は、0.75以上0.95以下であり、特に0.80以上0.90以下であることが好ましい。すなわち、デキストリン脂肪酸エステルの直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル比は、75対25から95対5の範囲内であり、特に80対20から90対10が好ましい。
【0028】
脂肪酸全体に対する直鎖飽和脂肪酸モル分率が0.95以下であるから、ゲル化した油剤が白濁することが抑えられ、油剤の透明性が確保される。また、分岐飽和脂肪酸の比
率が少ないことに起因し、ザクザクとした滑らかではないゲルとなることも抑えられる。脂肪酸全体に対する直鎖飽和脂肪酸モル分率が0.75以上であるため、分岐飽和脂肪酸の比率が過剰に高いことに起因し、油剤をゲル化する力が低過ぎることも抑えられる。また、油剤をゲル化させるためにデキストリン脂肪酸エステルを油剤に高い濃度で配合すること、それによって、力を加えたときの粘度の低下の度合いが小さく、復帰力が失われることも抑えられる。なお、復帰力は、デキストリン脂肪酸エステルを含む油剤に加えられた力が解除されたときに、20秒以内という短い時間で、解除直前の粘度に対し50%以上の粘度になるように、粘度を大きく増加させることのできる力をいう。
【0029】
デキストリン脂肪酸エステルのグルコース単位あたりの脂肪酸の平均置換度は、1.5以上2.0以下である。特に、脂肪酸の平均置換度が、1.65以上1.80以下であるものが好ましい。平均置換度が1.5以上であれば、油剤をゲル化する力が低下してしまうことを抑えられる。また、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解性が低いことに起因し、化粧膜の表面に油が浮いたり、保存時に油が分離したりする性質である離漿(離しょう)が生じやすくなることも抑えられる。平均置換度が2.0以下であれば、デキストリンに結合する脂肪酸が過剰に多くなることを抑えられるため、例えば50℃程度においてもゲルを保てるというゲルの耐熱性が得られる。すなわち、脂肪酸の平均置換度が大きすぎても小さすぎても安定なゲルは作製できない。
【0030】
デキストリンの平均等重合度、直鎖飽和脂肪酸エステルの炭素数、分岐飽和脂肪酸エステルの炭素数、直鎖飽和脂肪酸エステル及び分岐飽和脂肪酸エステルのモル分率、平均置換度を上記した範囲とすることによって、優れた復帰力及び低い離漿性を兼ね備えたデキストリン脂肪酸エステルを得ることができる。
【0031】
デキストリン脂肪酸エステルとしては、以下のものが挙げられる。
(ミリスチン酸/イソミリスチン酸)デキストリン
(ミリスチン酸/イソパルミチン酸)デキストリン
(ミリスチン酸/イソステアリン酸)デキストリン
(パルミチン酸/2‐ヘキシルデカン酸)デキストリン
(パルミチン酸/イソステアリン酸)デキストリン
(ステアリン酸/イソステアリン酸)デキストリン
(パルミチン酸/2‐ヘキシルデカン酸/イソステアリン酸)デキストリン
(ミリスチン酸/パルミチン酸/2‐ヘキシルデカン酸)デキストリン
特に、デキストリンに結合する直鎖飽和脂肪酸としてパルミチン酸を含むことが好ましく、分岐飽和脂肪酸エステルとしてイソパルミチン酸を含むことが好ましい。
【0032】
デキストリン脂肪酸エステルの製造方法としては、従来の製造方法を用いることができる。例えば、デキストリンをピリジンやトリエチルアミン、3‐メチルピリジンなどの塩基性触媒の存在下で、脂肪酸クロライドを添加して製造することができる。
【0033】
デキストリン脂肪酸エステルと組み合わせる油剤は、化粧料の材料として使用可能な油剤であって、デキストリン脂肪酸エステルと組み合わせることで、優れた復帰力及び低い離漿性といった効果を得ることが可能であれば特に限定されず、1種類の油剤を用いてもよいし、複数の種類の油剤を混合して用いてもよい。なお、これら油剤の中には、単独では高粘度(例えばポリブテン、ひまし油等)、または固体状(例えば、高級脂肪酸、ワックス類等)であるものが含まれるが、液状の油剤、デキストリン脂肪酸エステルと組み合わせて用いるなどして使用することもできる。
【0034】
例えば、炭化水素油としては、流動パラフィン、スクワラン、イソパラフィン、イソドデカン、イソヘキサデカン、重質流動イソパラフィン、ポリブテン、ワセリンなどが挙げられる。エステル油としては、トリ−2−エチルヘキサン酸グリセリル、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリル、モノ、ジ、トリ、テトライソステアリン酸ジグリセリル、イソステアリン酸ポリグリセリル、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、ジカプリン酸ネオペンチルグリコール、2−エチルヘキサン酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、イソノナン酸イソノニル、イソノナン酸イソトリデシル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、リンゴ酸ジイソステアリル、12−ヒドロキシステアリン酸コレステリルなどが挙げられる。高級脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、エルカ酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。高級アルコールとしては、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、2−ヘキシルデカノール、2−オクチルデカノール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコールなどが挙げられる。動植物油としては、オリーブ油、椿油、大豆油、綿実油、ゴマ油、サフラワー油、小麦胚芽油、ヨクイニン油、米油、ホホバ油、ヒマシ油、亜麻仁油、コーン油、菜種油、椰子油、パーム油、スクワレン、液状ラノリン、ミンクオイル、卵黄油、羊毛油などが挙げられる。ワックス類としては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、セレシンワックス、蜜ロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、硬化ヒマシ油、ロジンなどが挙げられる。シリコーン油としては、ジメチルポリシロキサン、環状シリコーン、メチルフェニルポリシロキサン、変性シリコーンなどが挙げられる。
【0035】
デキストリン脂肪酸エステルと組み合わせる揮発性炭化水素油は、動粘度(37.8℃)が0.5mm/s以上15mm/s以下の範囲である炭化水素油を意味する。揮発性炭化水素油としては、直鎖状、分岐鎖状、いずれのものも用いることができる。このような揮発性炭化水素油としては、イソデカン、イソドデカン、イソヘキサデカン、イソパラフィン等のイソパラフィン系炭化水素油が挙げられる。これらの商品例を挙げると、パーメチル99A、パーメチル101A、パーメチル102A(プレスパース社製)、アイソパーA、アイソパーC、アイソパーD、アイソパーE、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーK、アイソパーL、アイソパーM(エクソン社製)、シェルゾール71(シェル社製)、ソルトロール100、ソルトロール130、ソルトロール220(フィリップ社製)、アイソゾール400(日本石油化学(株)製)、パールリーム4(日油(株)製)、IPソルベント1016、IPソルベント1620、IPソルベント2028(出光石油化学(株)製)、イソヘキサデカン、テトライソブタン90(バイエル社製)などが挙げられる。
【0036】
このデキストリン脂肪酸エステルを含有する化粧料においては、デキストリン脂肪酸エステルを添加することによる効果を損なわない範囲で、化粧料に配合され得る一般的な成分を必要に応じて添加することができる。例えば、美容成分、界面活性剤、皮膜形成剤、水系成分、油系成分、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線散乱剤、香料、粉体などが挙げられる。美容成分としては、ビタミン類、消炎剤、生薬などが挙げられる。
【0037】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤などが挙げられる。
非イオン界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、プロピレングリコール脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビタン脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ソルビトールの脂肪酸エステル及びそのアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、グリセリンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ラノリンのアルキレングリコール付加物、ポリオキシアルキレンアルキル共変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0038】
アニオン界面活性剤としては、例えば、ステアリン酸、ラウリン酸のような脂肪酸の無機及び有機塩、アルキルベンゼン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、α−スルホン化脂肪酸塩、アシルメチルタウリン塩、N−メチル−N−アルキルタウリン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、アルキル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸塩、N−アシルアミノ酸塩、N−アシル−N−アルキルアミノ酸塩、ο−アルキル置換リンゴ酸塩、アルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。
【0039】
カチオン界面活性剤としては、例えば、アルキルアミン塩、ポリアミン及びアルカノールアミン脂肪酸誘導体、アルキル四級アンモニウム塩、環式四級アンモニウム塩等が挙げられる。
【0040】
両性界面活性剤としては、アミノ酸タイプやベタインタイプのカルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型のものがあり、人体に対して安全とされるものが使用できる。例えば、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシルメチルアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸、N,N,N−トリアルキル−N−スルフォアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビス(ポリオキシエチレン硫酸)アンモニウムベタイン、2−アルキル−1−ヒドロキシエチル−1−カルボキシメチルイミダゾリニウムベタイン、レシチン等が挙げられる。
【0041】
皮膜形成剤としては、アクリル酸アルキル共重合体エマルション、アクリル酸アルキル・スチレン共重合体エマルション、ポリ酢酸ビニルエマルション、ビニルピロリドン・スチレン共重合体エマルションなどのポリマーエマルジョン、トリメチルシロキシケイ酸、トリメチルシロキシシリルプロピルカルバミド酸、フッ素変性シリコーン、アクリルシリコーンなどのシリコーン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリ酢酸アルキルなどのラテックス類、デキストリン、アルキルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース誘導体が挙げられる。
【0042】
水系成分としては、エチルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセロール類、アロエベラ、ウイッチヘーゼル、ハマメリス、キュウリ、レモン、ラベンダー、ローズ等の植物抽出液が挙げられる。水溶性高分子としては、グアーガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン等の天然系のもの、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の半合成系のもの、カルボキシビニルポリマー、アルキル付加カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成系のものを挙げることができる。タンパク質、ムコ多糖、コラーゲン、エラスチン、ケラチンなどが挙げられる。
【0043】
油系成分としては、上記したデキストリン脂肪酸エステル以外の別のデキストリン脂肪酸エステルが挙げられる。例えば、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、(パルミチン酸/エチルヘキサン酸)デキストリン、イソステアリン酸デキストリンなどが挙げられる。ほかにも油系成分として、ステアリン酸イヌリンなどのイヌリン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0044】
防腐剤としては、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール、1,2ペンタンジオールなどが挙げられる。
酸化防止剤としては、α−トコフェロール、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0045】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、PABA系、けい皮酸系、サリチル酸系、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン、オキシベンゾンなどが挙げられる。
【0046】
粉体としては、酸化チタン、酸化亜鉛、黄酸化鉄、黒酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、マイカ、セリサイト、タルク、カオリン、硫酸バリウム、ベントナイト、スメクタイト、窒化硼素、コンジョウ、群青、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、アルミニウムパウダー、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、N−アシルリジン、ナイロン、有機顔料、有機色素、ナイロン粉末、ウレタンパウダー、球状シリコーン樹脂粉末などが挙げられる。
【0047】
また、これら粉体はフッ素化合物、シリコーン油、金属石ケン、界面活性剤、デキストリン脂肪酸エステル、イヌリン脂肪酸エステル、油脂などで処理したものも使用することができる。
【0048】
このデキストリン脂肪酸エステルは、油剤をベースとする化粧料に1乃至複数含有される。デキストリン脂肪酸エステルは、化粧料に対する含有率が、1重量%以上20重量%以下が好ましい。含有率が1重量%以上であると、復帰力があるゲルを作成することができる。また含有率が20重量%以下であると、ゲルが軟らかくなり、力を加えると流動性のある状態であって、ゲルからゾルの状態にすることができる。デキストリン脂肪酸エステルを溶解する油剤が揮発性炭化水素油である場合、揮発性炭化水素油は粘度が低いため、復帰力があるゲルを作成するためには、含有率は、例えば3重量%以上20重量%以下など、ミネラルオイルなどの他の油剤よりも多くすることが好ましい。
【0049】
上述したデキストリン脂肪酸エステルを含有する化粧料は、優れた復帰力及び低い離漿性を兼ね備えている。この化粧料は、力が加えられていないときはゲルの状態であり、力を加えることによりゲルを壊すと、ゲルからゾルの状態であって、とろみのある状態となる。さらにその化粧料を放置すると、ゲルの状態に戻る。
【0050】
従来のデキストリン脂肪酸エステルは、チキソトロピー性を有しているものの、上記デキストリン脂肪酸エステルを添加した油剤のほうが従来のデキストリン脂肪酸エステルを添加した油剤では得られない復帰力が得られる。このため、上記デキストリン脂肪酸エステルを化粧料に使用する際、化粧料として実用的な粘度を得るための添加量は従来よりも少なくて済む。
【0051】
上記デキストリン脂肪酸エステルの復帰力により、例えば、化粧料を収容した保存容器から、化粧料を取り出すために化粧料に力を加えたときには粘度が低下する。このため、高粘度の化粧料であっても化粧料を出しやすい。また、取り出した化粧料を手に取ったときや、顔や肢体などにのせたときに流れ落ちにくい。保存容器を振ることによって分散媒に分散質を分散させて使用するタイプの化粧料では、撹拌中は粘度が低下する一方、撹拌を終了してから短時間で粘度が復帰するため、分散質が均一に分散した状態の化粧料を取り出すことができる。さらに、保存時には、離漿が抑制されるので、保存安定性を向上することができる。
【0052】
また、チキソトロピー性を有する従来のデキストリン脂肪酸エステルは、メイクアップ化粧料に多く使用されるイソドデカンのような揮発性の低粘度油剤に対しては増粘効果が低く添加量を多くする必要があった。それゆえ、従来のデキストリン脂肪酸エステルを含む化粧料は、デキストリン脂肪酸エステルの添加量が多くなり、力を加えたときの粘度があまり低下しなかった。これに対し、上述した優れた復帰力と低い離漿性を有するデキストリン脂肪酸エステルは、低い含有率でも復帰力を得られるため、化粧料の処方の自由度が高められる。
【0053】
さらに、力を加えることにより化粧料の粘度が低下するため、化粧料の伸びがよく、塗りやすい。このため、マスカラ、リップカラー、リップグロス、オイルファンデーション、リキッドルージュ、アイライナー、マニキュアなど、まつ毛、肌、爪などの上に化粧膜を形成するための化粧料においては、化粧料を所望の厚さで均一に塗布することが容易となるため、きれいな仕上がりとすることができる。また、化粧料の塗布が完了したときには化粧料の粘度が復帰するため、流れ落ちたり、滲んだりすることが抑制され、塗布を完了したときの化粧膜の状態が維持されやすい。さらに形成された化粧膜においては、化粧膜が形成された唇、目の周りなどが動くことによって粘度が低下してもすぐに復帰するので、化粧膜の剥がれ、崩れなどが抑制され、化粧膜の持続性(もち)をよくすることができる。したがって、仕上がりのときの化粧膜の状態が、デキストリン脂肪酸エステルの優れた復帰力及び低い離漿性によって、経時的に維持されることとなる。
【0054】
上述した各効果は、デキストリン脂肪酸エステルが復帰力を備えるゲル化剤であることによって得られるものである。
また上記デキストリン脂肪酸エステルを含有する化粧料は、化粧料として実用的な粘度を備えることができる。また、高い透明度を有するとともに、例えば50℃などの高温下でも形状を保つことができる高温時安定性、複数種の油剤への溶解性などにも優れている。このため、デキストリン脂肪酸エステルを多様な化粧料に使用することができる。なお、多様な化粧料に対するデキストリン脂肪酸エステルの実用性は、化粧料を構成する各成分の配合調整によっても改善することは可能である。ただし、こうした配合調整は、結局のところ、化粧料ごとに他成分の選定や配合について多大な試行錯誤を強いるものである。上述したデキストリン脂肪酸エステルの構成は、各化粧料におけるこうした煩わしさを、デキストリン脂肪酸エステルの特性によって軽減することができる。
【0055】
[実施例]
以下、図1図15を参照して実施例及び比較例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
図1の表に、デキストリン脂肪酸エステルの実施例1〜6、及び比較例1〜9の作製条件を示した。
図2の表に、実施例1〜6、及び比較例1〜9の合成物のモル分率、平均置換度、及び収量について示した。なお、モル分率は百分率に換算して表に示した。また、本実施例で使用した分析機器は以下の通りであった。
【0057】
(平均置換度)
アルカリ分解に要したアルカリの量の測定、いわゆるけん化価測定から求めた。
(合成物の脂肪酸のモル分率)
アルカリ分解後の脂肪酸のGC測定から求めた。
【0058】
GC分析
GC機器:島津社製ガスクロマトグラフGC−2010
カラム:InertCap FFAP GLサイエンス社製
検出器:FID
(復帰度測定)
粘弾性測定装置:パールフィジカ社製 MCR100
測定ジグ:CP25−2
[実施例1]
平均重合度20のデキストリン73gを、溶媒であるジメチルホルムアミド219g及び塩基性触媒であるピリジン99gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド223g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド52gを60分間で滴下した。イソパルミチン酸クロライドは、2−ヘキシルデカン酸クロライドである。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ81%、19%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体220gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析によって、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.67であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸の脂肪酸に対するモル分率は、85%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸の脂肪酸に対するモル分率が脂肪酸に対して15%であることを確認した。
【0059】
[実施例2]
平均重合度3のデキストリン72gを、溶媒であるヘプタン72g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてミリスチン酸クロライド207g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソステアリン酸クロライド(エメリー法)48gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ84%,16%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体205gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.73であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が、88%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が12%であることを確認した。
【0060】
[実施例3]
平均重合度50のデキストリン68gを、溶媒であるN‐メチルピロリドン135g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてステアリン酸クロライド206g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソミリスチン酸クロライド(12−メチルトリデカン酸クロライド)79gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ68%,32%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体251gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.99であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が75%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が25%であることを確認した。
【0061】
[実施例4]
平均重合度20のデキストリン77gを、溶媒であるジメチルホルムアミド193g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド253g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソステアリン酸クロライド24gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ92%,8%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体203gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.52であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が95%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が5%であることを確認した。
【0062】
[実施例5]
平均重合度20のデキストリン70gを、溶媒であるジメチルホルムアミド211g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてミリスチン酸クロライド93g、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド103g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド69gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ75%,25%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体192gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.80であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が80%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が20%であることを確認した。
【0063】
[実施例6]
平均重合度10のデキストリン74gを、溶媒であるジメチルホルムアミド221g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド237g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド39gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ86%,14%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体211gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.61であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が90%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が10%であることを確認した。
【0064】
[比較例1]
平均重合度2のデキストリン74gを、溶媒であるジメチルホルムアミド221g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド220g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド55gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ80%,20%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体230gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.80であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が83%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率17%であることを確認した。
【0065】
[比較例2]
平均重合度20のデキストリン77gを、溶媒であるジメチルホルムアミド232g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド275gを60分間で滴下した。すなわち、滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ100%,0%である。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体205gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.50であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が100%であることを確認した。
【0066】
[比較例3]
平均重合度20のデキストリン77gを、溶媒であるジメチルホルムアミド232g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド206g、分岐飽和脂肪酸クロライドとして炭素数8の2‐エチルヘキサン酸クロライド41gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ75%,25%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体185gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.50であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が87%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が13%であることを確認した。
【0067】
[比較例4]
平均重合度20のデキストリン56gを、溶媒であるジメチルホルムアミド168g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド217g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド58gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ79%,21%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体201gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が2.06であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が83%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が17%であることを確認した。
【0068】
[比較例5]
平均重合度20のデキストリン81gを、溶媒であるジメチルホルムアミド243g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸クロライド231g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド44gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ84%,16%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体189gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.43であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が87%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が13%であることを確認した。
【0069】
[比較例6]
平均重合度20のデキストリン72gを、溶媒であるジメチルホルムアミド216g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとして炭素数12のラウリン酸184g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド44gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ84%,16%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体169gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.62であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が88%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が12%であることを確認した。
【0070】
[比較例7]
平均重合度20のデキストリン52gを、溶媒であるジメチルホルムアミド157g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸275gを60分間で滴下した。すなわち、滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ100%,0%である。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体190gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が2.20であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が100%であることを確認した。
【0071】
[比較例8]
平均重合度20のデキストリン60gを、溶媒であるジメチルホルムアミド180g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてパルミチン酸165g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド110gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ60%,40%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体172gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.90であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が63%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が37%であることを確認した。
【0072】
[比較例9]
平均重合度20のデキストリン66gを、溶媒であるジメチルホルムアミド199g及び塩基性触媒であるβ‐ピコリン116gに80℃で分散させ、直鎖飽和脂肪酸クロライドとしてミリスチン酸クロライド161g、分岐飽和脂肪酸クロライドとしてイソパルミチン酸クロライド96gを60分間で滴下した。滴下する直鎖飽和脂肪酸と分岐飽和脂肪酸とのモル分率は、百分率に換算してそれぞれ65%,35%とした。滴下終了後、反応温度を95℃として、4時間反応させた。反応液をメタノールで沈殿させた後、濾過し、固形分をメタノールで洗浄し、乾燥して、白色の粉体171gを得た。けん化価測定、及びアルカリ分解後のGC分析から、回収されたデキストリン脂肪酸エステルは、脂肪酸の平均置換度が1.70であり、デキストリンに結合した直鎖飽和脂肪酸のモル分率が70%、デキストリンに結合した分岐飽和脂肪酸のモル分率が30%であることを確認した。
【0073】
[評価]
次に、実施例1〜6、比較例1〜9について評価を行った。
まず、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステル、及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルを用いて、一般的な油剤をベースとする測定試料と、揮発性炭化水素油をベースとする測定試料とを作製した。揮発性炭化水素油は、化粧料の塗布後に揮発するものであり、例えばオイルファンデーション、マスカラ、アイライナーなどに用いられる。
【0074】
一般的な油剤としてはミネラルオイルを用いた。90℃のミネラルオイルに、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステル、及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ別に加えて加熱溶解した。30mlのバイアル瓶(日電理化製)に20g充填し、室温にて10日間放置してゲル化させた。10日間経過後、撹拌してゲルを破壊し、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステルを用いた6つの測定試料と、比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルを用いた9つの測定試料を得た。
【0075】
揮発性炭化水素油としては、イソドデカンを用いた。70℃のイソドデカンに、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステル、及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ別に加えて加熱溶解し、30mlのバイアル瓶(日電理化製)に20g充填し、室温にて10日間放置した。10日間経過後、撹拌してゲルを破壊し、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステルを用いた6つの測定試料と、比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルを用いた9つの測定試料を得た。
【0076】
図3の表に、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステル及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルの溶解濃度と、測定試料の粘度を示した。
(復帰度)
次に、ミネラルオイルを基材とした各測定試料と、イソドデカンを基材とした各測定試料とについて、復帰度を測定した。復帰力は、ゲル化した各測定試料に力を加えた状態から、力を加えない状態にしたときの測定試料の単位時間あたりにおける粘度の増加量である。
【0077】
測定温度25℃にて、測定ジグによって試料を、回転速度0.1(s−1)で4分間、100(s−1)で2分間、0.1(s−1)で8分間回転させながら、粘度(Pa・s)を測定した。回転速度0.1(s−1)は、静置状態に相当し、回転速度100(s−1)は撹拌状態に相当する。
【0078】
図4に、実施例1のデキストリン脂肪酸エステルを用いた測定試料、及び比較例2,3のデキストリン脂肪酸エステルを用いた測定試料についてのチキソトロピー性を例示したグラフを示す。縦軸は粘度(Pa・s)であり、横軸は時間を示す。実施例1の測定試料では、回転速度が0.1(s−1)から100(s−1)になると、粘度がほぼ「0Pa・s」まで低下し、回転速度が100(s−1)から0.1(s−1)になると、粘度は、元の粘度付近まで一旦戻る。一方、比較例2,3の測定試料の粘度は、回転速度が100(s−1)から0.1(s−1)になると高くなるものの、実施例1に比較すると、粘度の変化量は著しく小さい。
【0079】
回転速度が0.1(s−1)から100(s−1)になる直前(開始時間T0)の粘度を、初期粘度としたとき、回転速度が100(s−1)から0.1(s−1)に変化した時点(終了時間T1)から、粘度が初期粘度の半分に到達するまでに要した復帰時間を測定した。
【0080】
そして、復帰時間が10秒以内であれば「◎」、10秒超20秒以内であれば「○」とし、20秒を超えた、若しくは粘度が初期粘度の半分まで到達しなかったときを「×」とした。すなわち、「◎」又は「○」である測定試料は、復帰力を備える。
【0081】
図5に示す表で示されるように、ミネラルオイルをベースとした実施例1〜6の測定試料のうち、実施例4の測定試料の復帰時間が10秒を超え20秒以内であり、その他はいずれも10秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達した。比較例7の測定試料は10秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達し、比較例1,2,4,6の測定試料は、10秒を超えて20秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達した。比較例3,5,8,9の測定試料は、20秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達しなかった。比較例9の測定試料は、十分な粘度が得られず、ゲル化しなかった。
【0082】
また、イソドデカンをベースとした実施例1〜6の測定試料は、実施例3の測定試料の復帰時間が10秒を超え20秒以内となり、その他はいずれも10秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達した。比較例7の測定試料は、10秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達した。比較例1,4,6の測定試料は、10秒を超えて20秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達した。比較例2,3,5,8,9の測定試料は、20秒以内に粘度が初期粘度の半分に到達しなかった。
【0083】
(離漿性)
ミネラルオイルをベースとした実施例1〜6の測定試料及び比較例1〜9の測定試料と、イソドデカンをベースとした実施例1〜6の測定試料及び比較例1〜9の測定試料について、撹拌してゲルを破壊後、25℃の温度下で静置して離漿の有無を確認した。1週間経過後も離漿が認められない状態を「◎」、1週間後に離漿がわずかにあるものの殆ど認められない状態を「○」、1日経過後に離漿が認められた状態を「×」とした。
【0084】
ミネラルオイルをベースとした実施例1,5,6の測定試料は、いずれも離漿が認められず、実施例2〜4の測定試料は離漿が殆ど認められなかった。ミネラルオイルをベースとした比較例8,9の測定試料は離漿が認められず、比較例3の測定試料は離漿が殆ど認められず、残りの比較例1,2,4〜7の測定試料は、1日経過後に離漿が認められた。
【0085】
イソドデカンをベースとした実施例1,4〜6の測定試料は、いずれも離漿が認められず、実施例2〜4の測定試料は離漿が殆ど認められなかった。イソドデカンをベースとした比較例8,9の測定試料は、いずれも離漿が認められず、比較例3の測定試料は離漿が殆ど認められず、残りの比較例1,2,4〜7は、1日経過後に離漿が認められた。
【0086】
したがって、実施例1〜6の測定試料のいずれもが、ミネラルオイル及びイソドデカンの両方の溶媒において、復帰度が「◎」又は「○」の評価であり、且つ離漿性の低さが「◎」又は「○」の評価であり、優れた復帰力及び低い離漿性を兼ね備えていた。一方、比較例1〜9はいずれもが、ミネラルオイルを溶媒とした場合において、復帰度及び離漿性の両方、又はそれらのいずれか一方が「×」の評価であって劣るものであった。また、比較例1〜9はいずれもが、イソドデカンを溶媒とした場合においても、復帰度及び離漿性の両方、又はそれらのいずれか一方が「×」の評価であって劣るものであった。
【0087】
(粘度)
ミネラルオイルをベースとした実施例1〜6の測定試料、及び比較例1〜9の測定試料と、イソドデカンをベースとした実施例1〜6の測定試料、及び比較例1〜9の測定試料とについて、粘弾性測定装置を用いてゲル破壊時の粘度を測定した。撹拌してゲルを破壊したとき流動性のある液状となる水準を「◎」、ゲルを破壊したときとろみのある液状になる水準を「○」、ゲルを破壊したときほとんど流動しない水準を「×」とした。
【0088】
ミネラルオイルをベースとした実施例1〜6の測定試料のいずれもが、ゲルを破壊したときの粘度が「◎」又は「○」であった。一方、比較例2,4,6,7の測定試料は、ゲルを破壊したときの粘度が「○」であったが、残りの比較例1,3,5,8,9の測定試料は、ゲルを破壊したときの粘度が「×」であった。
【0089】
イソドデカンをベースとした実施例1〜6の測定試料のいずれもが、ゲルを破壊したときの粘度が「◎」又は「○」であった。一方、比較例7の測定試料は、ゲルを破壊したときの粘度が「◎」であり、比較例2,4,6の測定試料は、ゲルを破壊したときの粘度が「○」であったが、残りの比較例1,3,5,8,9の測定試料は、ゲルを破壊したときの粘度が「×」であった。
【0090】
(透明度)
ミネラルオイルをベースとした実施例1〜6の測定試料、及び比較例1〜9の測定試料と、イソドデカンをベースとした実施例1〜6の測定試料、及び比較例1〜9の測定試料とについて、目視にて透明度を確認した。目視にて濁りが認められない状態を「◎」、わずかに濁りがある状態を「○」、濁りがあると認められる状態を「×」とした。
【0091】
ミネラルオイルをベースとした実施例1〜6の測定試料のいずれもが、濁りが認められなかった。比較例3,6,8,9の測定試料については、濁りが認められなかった。比較例1の測定試料は、わずかに濁りがあり、比較例2,4,5,7の測定試料は、濁りが認められた。
【0092】
イソドデカンをベースとした実施例1〜6の測定試料のいずれもが、濁りが認められなかった。比較例3,6,8,9の測定試料については、濁りが認められなかった。比較例1の測定試料は、わずかに濁りがあり、比較例2,4,5,7の測定試料は、濁りが認められた。
【0093】
(溶解温度)
実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステル及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルのミネラルオイルに対する溶解温度について評価した。また、実施例1〜6のデキストリン脂肪酸エステル及び比較例1〜9のデキストリン脂肪酸エステルのイソドデカンに対する溶解温度について評価した。
【0094】
ミネラルオイルにデキストリン脂肪酸エステルを溶解した場合は、90℃のミネラルオイルに溶解する水準を「◎」、100℃のミネラルオイルに溶解する水準を「○」、100℃よりも高い温度でミネラルオイルに溶解する水準を「×」とした。
【0095】
また、イソドデカンにデキストリン脂肪酸エステルを溶解した場合は、75℃のイソドデカンに溶解する水準を「◎」、85℃のイソドデカンに溶解する水準を「○」、85℃よりも高い温度でイソドデカンに溶解する水準を「×」とした。
【0096】
実施例1,2,5,6のデキストリン脂肪酸エステルは、90℃のミネラルオイルに溶解し、実施例3,4のデキストリン脂肪酸エステルは、100℃のミネラルオイルに溶解した。比較例1,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルは、90℃のミネラルオイルに溶解し、比較例2,3,5,6のデキストリン脂肪酸エステルは、100℃のミネラルオイルに溶解した。比較例4のデキストリン脂肪酸エステルは、100℃よりも高い温度でミネラルオイルに溶解した。
【0097】
実施例1,2,5,6のデキストリン脂肪酸エステルは、75℃のイソドデカンに溶解し、実施例3,4のデキストリン脂肪酸エステルは、85℃のイソドデカンに溶解した。比較例1,3,8,9のデキストリン脂肪酸エステルは、75℃のイソドデカンに溶解し、比較例2,5〜7のイソドデカンは、85℃のイソドデカンに溶解した。比較例4のデキストリン脂肪酸エステルは、85℃よりも高い温度でイソドデカンに溶解した。
【0098】
以下、図6図15を参照して、実施例のデキストリン脂肪酸エステルを使用して製造された化粧料の実施例について説明する。なお、図6図15において、各成分の比率は、「重量%」で示している。
【0099】
(実施例A)
化粧料:マスカラ
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)イソドデカン(パーメチル99A プリスパース社製)
(3)ポリエチレン(パフォーマレンPL ニューフェーズテクノロジー社製)
(4)マイクロクリスタリンワックス(マルチワックスW−445 SONNEBORN社製)
(5)キャンデリラロウ(精製キャンデリラワックス特号 セラリカNODA社製)
(6)トリメチルシロキシケイ酸(X−21−5595 信越化学工業株式会社製)
(7)イソドデカン(X−21−5595 信越化学工業株式会社製)
(8)酸化鉄黒(タロックスBL−100 チタン工業社製)
(9)タルク(タルクJA−13R 浅田製粉社製)
(10)ナイロン−12(ORGASOL2002 アルケマ社製)
なお、成分(6)及び(7)は、予め混合された商品(X−21−5595 信越化学工業株式会社製)として販売されている。
【0100】
図6に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例A1〜A3、及び比較例A1〜A5とした。
【0101】
成分(1),(2)を加熱混合し、成分(3)〜(10)を加え混合した。その混合物を容器に充填し、8つの評価試料(マスカラ)を得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価にあたっては、被験者が「非常に優れている」を「5点」、「優れている」を「4点」、「普通」を「3点」、「劣る」を「2点」、「非常に劣る」を「1点」として試料に点数を付与し、10名の被験者の平均点数が「4.0以上5.0点以下」を「◎」、「3.0以上4.0点未満」を「○」、「2.0以上3.0点未満」を「△」、「1.0以上2.0点未満」を「×」とした。
【0102】
(評価項目)
(a)保存安定性
50℃の恒温器に2週間静置した後、外観を目視で観察し、油分の分離がない状態を「5点」、若干、油分の分離が見られる状態を「4点」、少し油分が分離している状態を「3点」、油分がかなり分離している状態を「2点」、油分が分離しており使用困難な状態を「1点」として採点を行った。
【0103】
(b)ブラシへの付着性:ブラシへの適度な付着性
(c)化粧効果・ツヤ:塗布後のきれいさ、ツヤの良さについて評価した。
(d)塗布時のノビ:塗布時の塗りやすさについて評価した。
【0104】
(e)ボリュームアップ効果:睫毛への付着量の多さについて評価した。
(f)セパレート効果:睫毛の一本一本の離れやすさについて評価した。
(g)耐摩擦性:塗布1時間後、ティッシュで擦ったときの色落ちの無さについて評価した。
【0105】
実施例A1〜A3のマスカラは、油の分離がみられず、比較例A2は油の分離が若干確認された。また、比較例A3〜A5は油の分離が少し確認され、比較例A1は油の分離により使用困難であった。また、実施例A1〜A3のマスカラは、優れた復帰力のため「ブラシへの付着性」及び「セパレート性」の評価が高く、比較例A1〜A5のマスカラは「ブラシへの付着性」及び「セパレート性」の評価が実施例A1〜A3よりも低かった。実施例A1〜A3及び比較例A1〜A3のマスカラは「耐摩擦性」の評価が高く、比較例A4、A5のマスカラはデキストリン脂肪酸エステル自体が軟らかくイソドデカンが揮発した後もべたつきがあったため「耐摩擦性」の評価が低かった。実施例A1〜A3のマスカラは、実施例A2のマスカラの「ボリュームアップ効果」が「○」である以外、すべて「◎」であり、比較例A1〜A5のマスカラに比べ総合的に評価が高かった。
【0106】
(実施例B)
化粧料:ボディオイル
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)スクワラン
(3)ミリスチン酸オクチルドデシル
(4)イソノナン酸イソトリデシル
(5)エチルヘキサン酸セチル
(6)トリオクタノイン
(7)トコフェロール
図7に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例B1〜B3、及び比較例B1〜B5とした。
【0107】
上記成分(1)〜(7)を加温溶解し、ボディオイルを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
【0108】
(b)垂れ落ちの無さ:容器から取るときの手からの垂れ落ちやすさについて評価した。
(c)伸び広がり:塗布時の伸び広がり易さについて評価した。
【0109】
(d)使用感:べたつきの無さ、手触り感の良さについて評価した。
(e)透明性:濁りや白濁の無さについて評価した。
実施例B1〜B3のボディオイルは、いずれの項目も「◎」であった。比較例B1〜B5のボディオイルは、項目によっては「◎」の評価であるものもあるが、実施例B1〜B3のボディオイルよりも総合的に評価が低かった。
【0110】
(実施例C)
化粧料:クレンジングジェル
成分(重量%)
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)ミネラルオイル
(3)イソノナン酸イソトリデシル
(4)スクワラン
(5)オクチルドデカノール
(6)トリオクタノイン
(7)テトラオレイン酸ソルベス‐40(ユニオックスST‐40E 日油株式会社製)
(8)水
図8に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例C1〜C3、及び比較例C1〜C6とした。
【0111】
上記成分(1)〜(7)を加温溶解したものに、成分(8)を撹拌しながら少しずつ加えた。さらにその混合物を撹拌しながら室温まで冷却してクレンジングジェルを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
【0112】
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
(b)透明性:濁りや白濁の無さについて評価した。
【0113】
(c)垂れ落ちの無さ:容器から取るときの手からの垂れ落ちやすさについて評価した。
(d)伸び広がり:クレンジングの際に、均一且つ容易に伸び広がるかについて評価した。
【0114】
(e)使用感:べたつきの無さ、手触り感の良さについて評価した。
実施例C1〜C3のクレンジングジェルは、いずれの項目も「◎」であった。比較例C1〜C5のクレンジングジェルは、項目によっては「◎」の評価であるものもあるが、実施例C1〜C3のクレンジングジェルよりも総合的に評価が低かった。
【0115】
(実施例D)
化粧料:ヘアトリートメントジェル
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)オレフィンオリゴマー(NEXBASE 2004FG 日清オイリオグループ製)
(3)イソノナン酸イソノニル
(4)オクチルドデカノール
(5)ラウロイルグルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)(エルデュウPS‐203 味の素株式会社製)
(6)イソステアロイル加水分解シルク、イソステアリン酸(プロモイスEF‐118 IS 株式会社成和化成製)
図9に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例D1〜D3、及び比較例D1〜D6とした。
【0116】
上記成分(1)〜(6)を加温溶解し、ヘアトリートメントジェルを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
【0117】
(b)透明性:濁りや白濁の無さについて評価した。
(c)垂れ落ちの無さ:容器から取るときの手からの垂れ落ちやすさについて評価した。
【0118】
(d)伸び広がり:塗布時に、均一且つ容易に伸び広がるかについて評価した。
(e)使用感:べたつきの無さ、手触り感の良さについて評価した。
実施例D1〜D3のヘアトリートメントジェルについては、「透明感」の評価が「○」であるものの、その他の項目はいずれも「◎」の評価であった。また比較例D1〜D5のヘアトリートメントジェルは、「○」、「△」、又は「×」の評価であり、実施例D1〜D3のヘアトリートメントジェルよりも総合的に評価が低かった。
【0119】
(実施例E)
化粧料:リップカラー
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)トリオクタノイン
(3)ジメチコンコポリオール(KF‐6017 信越化学工業株式会社製)
(4)シクロメチコン
(5)ブチレングリコール
(6)水
(7)顔料
図10に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例E1〜E3、及び比較例E1〜E6とした。
【0120】
上記成分(2)の一部に成分(7)を分散し、成分(1)と成分(2)の残量と、成分(3),(4)とを加温溶解した。成分(7)を分散した成分(2)に、成分(1)〜(4)を混合したものを撹拌しながら加え、均一に混合及び分散する。次いで、成分(5),(6)を加温溶解し、80℃にて、成分(1)〜(4)を混合及び分散したものに添加しながら乳化させ、冷却してリップカラーを得た。
【0121】
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
【0122】
(b)塗布具による取り出しやすさ:ブラシなどの塗布具によって容易に取り出せるかどうかについて評価した。
(c)使用時の伸び:唇への伸びのよさについて評価した。
【0123】
(d)にじみにくさ:塗布後3時間経過後のにじみの状態について評価した。
実施例E1〜E3のリップカラーは、いずれの項目も「◎」の評価であった。比較例E1〜E5のリップカラーは、比較例E1のリップカラーの保存安定性が「◎」である以外、いずれも「○」、「△」、又は「×」であり、実施例E1〜E3のリップカラーよりも総合的に評価が低かった。
【0124】
(実施例F)
化粧料:リップグロス
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)ミネラルオイル
(3)水添ロジン酸ペンタエリスリチル、イソステアリン酸オクチルドデシル(GEL‐ISOD 進栄化学株式会社製)
(4)リンゴ酸ジイソステアリル
(5)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン(KF‐56A信越化学工業株式会社製)
(6)水添ポリイソブテン(パールリーム 日油株式会社製)
(7)顔料
図11に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例F1〜F3、及び比較例F1〜F6とした。
【0125】
上記成分(1)〜(5)を加温溶解し、さらに成分(6)を加え加温溶解する。溶解したものに成分(7)を加え、加温し、均一に分散後、冷却してリップグロスを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
【0126】
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
(b)塗布具による取り出しやすさ:ブラシなどの塗布具によって容易に取り出せるかどうかについて評価した。
【0127】
(c)使用時の伸び:唇への伸びのよさについて評価した。
(d)にじみにくさ:塗布後3時間経過後のにじみの状態について評価した。
実施例F1〜F3のリップグロスは、いずれの項目も「◎」の評価であった。比較例F1〜F5のリップグロスは、いずれの評価項目も「○」、「△」であり、実施例F1〜F3のリップグロスよりも総合的に評価が低かった。
【0128】
(実施例G)
化粧料:オイルファンデーション
成分(重量%)
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)ミネラルオイル
(3)イソノナン酸イソトリデシル
(4)スクワラン
(5)ジフェニルシロキシフェニルトリメチコン(KF‐56A信越化学工業株式会社製)
(6)イソドデカン(パーメチル99A プリスパース社製)
(7)顔料
図12に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例G1〜G3、及び比較例G1〜G6とした。
【0129】
上記成分(1)〜(5)を加温溶解し、さらに成分(7)を加えて、成分(7)を均一に分散した。これを冷却しながら50℃にて成分(6)を加え、冷却してオイルファンデーションを得た。
【0130】
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
【0131】
(b)垂れ落ちの無さ:容器から取るときの手からの垂れ落ちやすさについて評価した。
(c)化粧もち:3時間後の化粧膜について、もちの良さ、崩れの少なさについて評価した。
【0132】
(d)使用感:べたつきの無さについて評価した。
実施例G1〜G3のオイルファンデーションは、いずれの項目も「◎」の評価であった。比較例G1〜G5のオイルファンデーションは、比較例G1、G2のオイルファンデーションの「化粧もち」が「◎」の評価である以外、いずれも「○」、「△」、又は「×」であり、実施例G1〜G3のオイルファンデーションよりも総合的に評価が低かった。
【0133】
(実施例H)
化粧料:美容オイル
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)ハトムギ油
(3)イソノナン酸イソトリデシル
(4)ホホバ油
(5)トリオクタノイン
(6)ミネラルオイル
(7)スクワラン
(8)オリーブ油
(9)アボカド油
(10)トコフェロール
図13に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例H1〜G3、及び比較例H1〜H6とした。
【0134】
成分(1)〜(10)を加温溶解し、美容オイルを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
【0135】
(b)透明性:濁りや白濁の無さについて評価した。
(c)垂れ落ちの無さ:容器から取るときの手からの垂れ落ちやすさについて評価した。
【0136】
(d)伸び広がり:使用時に、均一且つ容易に伸び広がるかについて評価した。
(e)使用感:べたつきの無さ、手触り感の良さについて評価した。
実施例H1〜H3の美容オイルは、「透明性」が「○」の評価である以外、いずれの項目も「◎」の評価であった。これは、材料に「オリーブ油、アボカド油などの植物油」を含むために透明性が低下したものであり、美容オイルの機能としては問題がない。比較例H1〜H5の美容オイルは、比較例H1の保存安定性が「◎」である以外、いずれも「○」、「△」、又は「×」であり、実施例H1〜H3よりも総合的に評価が低かった。
【0137】
(実施例J)
化粧料:リキッドルージュ
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)イソステアリン酸デキストリン
(3)リンゴ酸ジイソステアリル
(4)イソドデカン(パーメチル99A プリスパース社製)
(5)水添ポリイソブテン(パールリーム 日油株式会社製)
(6)シリカ(サンスフェアL−51 AGCエスアイテック社製)
(7)マイカ(マイカSA−350 ヤマグチマイカ社製)
(8)パール剤
(9)顔料
図14に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例J1〜J3、及び比較例J1〜J6とした。
【0138】
成分(1)〜(10)を加温溶解し、リキッドルージュを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
【0139】
(b)塗布具による取り出しやすさ:ブラシなどの塗布具によって容易に取り出せるかどうかについて評価した。
(c)塗りやすさ:唇へのノリの良さ、スムースに塗布できるかについて評価した。
【0140】
(d)にじみにくさ:塗布後3時間経過後のにじみの状態について評価した。
実施例J1〜J3のリキッドルージュは、いずれの項目も「◎」の評価であった。比較例J1〜J5のリキッドルージュは、比較例J1のリキッドルージュの「保存安定性」が「◎」である以外、いずれも「○」、「△」、又は「×」であり、実施例J1〜J3のリキッドルージュよりも総合的に評価が低かった。
【0141】
(実施例K)
化粧料:ジェル状アイライナー
成分
(1)デキストリン脂肪酸エステル
(2)ポリエチレン(パフォーマレンPL ニューフェーズテクノロジー社製)
(3)マイクロクリスタリンワックス(マルチワックスW−445 SONNEBORN社製)
(4)軽質流動イソパラフィン(IPソルベント1620 出光石油化学社製)
(5)デカメチルシクロペンタシロキサン
(6)ポリメチルシルセスキオキサン(KMP−590 信越化学工業株式会社製)
(7)トリメチルシロキシケイ酸(X−21−5595 信越化学工業株式会社製)
(8)イソドデカン(パーメチル99A プリスパース社製)
(9)顔料
図15に示すように、成分(1)は、実施例1,3,4及び比較例2,3,7〜9のデキストリン脂肪酸エステルをそれぞれ用いて、実施例K1〜K3、及び比較例K1〜K6とした。
【0142】
成分(1)〜(4)を加温溶解したものに、成分(5)〜(9)を加えて加温し、均一に分散後、冷却してジェル状アイライナーを得た。
また、10名の被験者による使用性試験を行った。評価方法は実施例Aと同様である。
【0143】
(評価項目)
(a)保存安定性 実施例Aと同様に評価した。
(b)垂れ落ちの無さ:容器から取るときの手からの垂れ落ちやすさについて評価した。
【0144】
(c)使用時の伸び:使用時のまぶたへの伸びやすさについて評価した。
(d)にじみにくさ:塗布後3時間経過後のにじみの状態について評価した。
実施例K1〜K3のジェル状アイライナーは、いずれの項目も「◎」の評価であった。比較例K1〜K5のジェル状アイライナーは、比較例K1のジェル状アイライナーの「保存安定性」が「◎」である以外、いずれも「○」、「△」、又は「×」であり、実施例K1〜K3のジェル状アイライナーよりも総合的に評価が低かった。
【0145】
以上説明したように、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)デキストリン脂肪酸エステルにおけるデキストリンの平均糖重合度が3以上100以下とすることによって、軟らかなゲルが得ることができなくなることを抑制するとともに、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解性が過剰に低くなることを抑制できる。また、デキストリンに結合する直鎖飽和脂肪酸の炭素数を14以上18以下とすることで、復帰力を高め、分岐飽和脂肪酸の炭素数を14以上18以下とすることで、デキストリンと脂肪酸との反応効率を良好にしつつ、油剤に適切な粘性を付与することができる。また、脂肪酸における直鎖飽和脂肪酸のモル分率を0.75以上0.95以下とすることによって、ゲル化した油剤を滑らかな状態としつつ、復帰力を向上することができる。さらにグルコース単位あたりの脂肪酸の平均置換度を1.5以上2.0以下とすることにより、離漿性を低下させることができる。
【0146】
このデキストリン脂肪酸エステルを使用した化粧料は、優れた復帰力及び低い離漿性を兼ね備えているので、化粧料を収容した保存容器から、化粧料を取り出すために化粧料に力を加えたときには粘度が低下する。このため、高粘度の化粧料であっても化粧料を出しやすい。また、化粧料を手に取ったときや、顔や肢体などにのせたときに流れ落ちにくい。さらに、保存時には、離漿が抑制されるので、保存安定性を向上することができる。さらに、リップグロス、マスカラなど、肌やまつ毛などの上に化粧膜を形成するための化粧料においては、力を加えることにより化粧料の粘度が低下するため、伸びがよく、塗りやすい。このため、化粧料を均一に塗布することが容易となる。また、化粧料の塗布が完了したときには粘度が復帰するため、流れ落ちにくくなり塗布を完了したときの化粧膜の状態が維持されやすい。
【0147】
(2)デキストリン脂肪酸エステルにおけるデキストリンの平均糖重合度が3以上50以下であることによって、軟らかなゲルが得ることができるとともに、デキストリン脂肪酸エステルの油剤への溶解性を高めることができる。
【0148】
(3)デキストリン脂肪酸エステルの脂肪酸における直鎖飽和脂肪酸のモル分率が0.8以上0.9以下の範囲であって、グルコース単位あたりの前記脂肪酸の平均置換度が1.65以上1.80以下であることによって、デキストリン脂肪酸エステルを含む油剤の復帰力を向上するとともに離漿性を低下させることができる。
【0149】
(4)デキストリン脂肪酸エステルは、直鎖飽和脂肪酸が炭素数16のパルミチン酸であって、分岐飽和脂肪酸が炭素数16のイソパルミチン酸であることによって、油剤をゲル化する力及び透明性の両方を特に優れたものとすることができる。
【0150】
(5)優れた復帰力を備える上記デキストリン脂肪酸エステルは、粘度が低い揮発性炭化水素油に対する含有率が少なくても、揮発性炭化水素油に復帰力を付与することができる。そのため、化粧料の処方の自由度が高められるなど、特に効果を発揮できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15