(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181756
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】スライドファスナーの補強テープ
(51)【国際特許分類】
A44B 19/34 20060101AFI20170807BHJP
C09J 7/02 20060101ALI20170807BHJP
C09J 167/00 20060101ALI20170807BHJP
C09J 177/00 20060101ALI20170807BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20170807BHJP
C09J 123/00 20060101ALI20170807BHJP
C09J 5/02 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
A44B19/34
C09J7/02 Z
C09J167/00
C09J177/00
C09J175/04
C09J123/00
C09J5/02
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-522387(P2015-522387)
(86)(22)【出願日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】JP2013066608
(87)【国際公開番号】WO2014203310
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2015年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】荻生 賢志
(72)【発明者】
【氏名】大杉 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 久美子
【審査官】
▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−295418(JP,A)
【文献】
特許第3650732(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/00− 19/64
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明なエラストマーフィルムの裏面に接着層を積層してなるスライドファスナーの補強テープにおいて、前記接着層がポリエステル系ホットメルト型接着剤、ポリアミド系ホットメルト型接着剤、ポリオレフィン系ホットメルト型接着剤またはポリウレタン系ホットメルト型接着剤であって、その融点が120℃より高く、かつ、160℃以下であり、200℃における溶融粘度が2000ポイズより高く、かつ、5500ポイズ以下であり、前記エラストマーフィルムの厚さと、前記接着層の厚さとが、
(接着層厚さ)/(エラストマーフィルム厚さ)=1よりも大きく5/3以下
の関係にある
ことを特徴とするスライドファスナーの補強テープ。
【請求項2】
前記エラストマーフィルムと前記接着層との間に介在させるアンカーコート剤からなる中間層をさらに設けた、請求項1に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項3】
前記エラストマーフィルムが、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルムまたはポリウレタン系フィルムであり、かつ、前記中間層が二液硬化型接着剤であることを特徴とする請求項2に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項4】
前記接着剤の融点が130℃以上150℃以下であり、200℃における溶融粘度が3000ポイズ以上5000ポイズ以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項5】
前記中間層の厚さが、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項2に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項6】
全体の厚みが、ファスナーテープの両面に積層する場合は100〜200μmであり、または片面に積層する場合は200〜400μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項7】
透明なエラストマーフィルムの裏面に接着層を積層してなるスライドファスナーの補強テープにおいて、前記接着層がポリエステル系ホットメルト型接着剤、ポリアミド系ホットメルト型接着剤、ポリオレフィン系ホットメルト型接着剤またはポリウレタン系ホットメルト型接着剤であって、その融点が120℃より高く、かつ、160℃以下であり、前記エラストマーフィルムの厚さと、前記接着層の厚さとが以下の関係にあることを特徴とするスライドファスナーの補強テープ:
(接着層厚さ)/(エラストマーフィルム厚さ)=1よりも大きく5/3以下。
【請求項8】
前記接着剤の200℃における溶融粘度が2000ポイズより高く、かつ、5500ポイズ以下であることを特徴とする請求項7に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項9】
前記エラストマーフィルムと前記接着層との間に介在させるアンカーコート剤からなる中間層をさらに設けた、請求項7または8に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項10】
前記エラストマーフィルムが、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルムまたはポリウレタン系フィルムであり、かつ、前記中間層が二液硬化型接着剤であることを特徴とする請求項9に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項11】
前記接着剤の融点が130℃以上150℃以下であり、200℃における溶融粘度が3000ポイズ以上5000ポイズ以下であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項12】
前記中間層の厚さが、0.5〜10μmであることを特徴とする請求項9に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項13】
全体の厚みが、ファスナーテープの両面に積層する場合は100〜200μmであり、または片面に積層する場合は200〜400μmであることを特徴とする請求項7〜12のいずれか一項に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【請求項14】
前記エラストマーフィルムがナイロン系フィルムであり、かつ、前記接着層がポリエステル系ホットメルト型接着剤であることを特徴とする請求項1〜13のいずれか一項に記載のスライドファスナーの補強テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開離嵌挿具を取付けるファスナーテープの端部に貼着する補強テープ(補強シート材)に関する。
【背景技術】
【0002】
ファスナーテープの端部に貼着する補強テープとしては、従来、種々のタイプのものが知られている。例えば、ファスナーテープの色彩に合わせて種々の色彩に染色した補強テープを準備する必要をなくして在庫管理の手数を省くために、透明な合成樹脂フィルムを積層して用いることで染色されたファスナーテープの色彩を透視できるようにしたもの、例えば、特許文献1に開示されているように、ファスナーテープの基布の色柄を透過して見えるように、透明なナイロン6又はナイロン66のフィルムの片面に、融点が200℃以下の透明なポリエステル共重合体フィルムを積層して横貼りテープを構成したものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示されているような二層の合成樹脂フィルムからなる補強テープは、材質的に硬く、開離嵌挿具等の取付け金具を取付けるためのファスナーテープ芯部形状に合致するように折り曲げて成形することが容易でなく、そのためファスナーテープの芯部外形を正確な形に成形することが難しい。さらに、補強テープの折り曲げを繰り返すと、その折り曲げ部が白くなって美観を損ねるという問題を有していた。
【0004】
このような問題を解決するために、本出願人は、特許文献2、3に記載されているように、表面層に透明なポリエステル系エラストマーフィルムを用い、その裏面に接着層を積層した補強テープを開発している。このような補強テープは、表面層(補強層)をポリエステル系エラストマーフィルムで構成しているため、前記合成樹脂フィルムのものに比べて柔軟性があり、ファスナーテープの芯部外形に合わせて折り曲げ易いなどの利点を有する。しかしながら、エラストマーフィルムを補強層として用いた場合、しなやかで透明性が良い柔らかいものを用いた場合には、耐洗濯性や耐ドライクリーニング性が悪く、ファスナーテープを装着した製品を洗濯したり、ドライクリーニングすると、補強テープが膨潤し易く、補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度が低下し、補強テープが剥離し易くなるという問題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−149780号公報
【特許文献2】特開平8−299033号公報
【特許文献3】特開平10−306262号公報
【特許文献4】特許第3650732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年において、補強層としてのエラストマーフィルムのしなやかで透明性に優れるという長所を維持しながら、補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度が高く、良好な耐洗濯性を有する補強テープが求められている。しかしながら、エラストマーフィルムを補強層とした場合、しなやかで透明性が良い柔らかいものを用いた場合には、耐洗濯性や耐ドライクリーニング性が悪く、洗濯やドライクリーニング後に補強テープが膨潤し易く、補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度が低下し、補強テープが剥離し易くなる。逆に、硬いエラストマーフィルムを用いて耐ドライクリーニング性や作業性、強度を向上させた場合、反対に硬過ぎるためにファスナーテープの芯部形状に合致するように折り曲げて成形することが難しくなり、また透明性が悪くなるという問題がある。そのため、実際の製品においては、補強層にナイロンフィルムや平織り繊維は用いられているが、エラストマーフィルムを用いた補強テープの実用化は困難な状況にある。
【0007】
特許文献4には、このような課題を解決するべく、エラストマーフィルムと接着層との間にこれら各層よりも薄い中間層を介在させ、かつ、この中間層がアンカーコート剤であるスライドファスナーの補強テープが記載されている。
【0008】
しかしながら、例えば業務用の大きな洗濯機を用いて洗濯したり、中国にて行われているような高温の水を用いた高温洗濯、乾燥温度を高く設定した高温乾燥、裁縫後の仕上げで使用するアイロン加工など、より過酷な環境に曝されても高いレベルでのパフォーマンスを発揮するスライドファスナーの補強テープ、すなわちしなやかで透明性に優れるとともに、より高いレベルでの補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度および耐洗濯性を有する補強テープが求められるようになってきており、依然として改良の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明者等が鋭意検討した結果、補強テープを構成する接着層として用いられる接着剤を特定の性質を有するもので置き換えることにより、従来よりも過酷な環境下であっても、特に補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度および耐洗濯性において高いパフォーマンスを発揮することができるスライドファスナーの補強テープが得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のものである。
(1)透明なエラストマーフィルムの裏面に接着層を積層してなるスライドファスナーの補強テープにおいて、前記接着層がポリエステル系ホットメルト型接着剤、ポリアミド系ホットメルト型接着剤、ポリオレフィン系ホットメルト型接着剤またはポリウレタン系ホットメルト型接着剤であって、その融点が120℃より高く、かつ、160℃以下であり、200℃における溶融粘度が2000ポイズより高く、かつ、5500ポイズ以下であることを特徴とするスライドファスナーの補強テープ。
(2)前記エラストマーフィルムと前記接着層との間に介在させるアンカーコート剤からなる中間層をさらに設けた、(1)に記載のスライドファスナーの補強テープ。
(3)前記エラストマーフィルムが、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリオレフィン系フィルムまたはポリウレタン系フィルムであり、かつ、前記中間層が二液硬化型接着剤であることを特徴とする(2)記載のスライドファスナーの補強テープ。
(4)前記接着剤の融点が130℃以上150℃以下であり、200℃における溶融粘度が3000ポイズ以上5000ポイズ以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のスライドファスナーの補強テープ。
(5)前記エラストマーフィルムの厚さが、前記接着層の厚さ以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のスライドファスナーの補強テープ。
(6)前記エラストマーフィルムの厚さと、前記接着層の厚さとが以下の関係にあることを特徴とする(5)記載のスライドファスナーの補強テープ:
(接着層厚さ)/(フィルム厚さ)=1〜2。
(7)前記中間層の厚さが、0.5〜10μmであることを特徴とする(2)記載のスライドファスナーの補強テープ。
(8)全体の厚みが、ファスナーテープの両面に積層する場合は100〜200μmであり、または片面に積層する場合は200〜400μmであることを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載のスライドファスナーの補強テープ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来よりも過酷な環境下であっても、特に補強テープとファスナーテープとの間の剥離強度および耐洗濯性において高いパフォーマンスを発揮することができるスライドファスナーの補強テープを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の補強テープの一実施態様を示す部分断面図である。
【
図2】本発明の補強テープの他の実施態様を示す部分断面図である。
【
図3】本発明の補強テープを貼着したスライドファスナーの下部を示す部分平面図である。
【
図4】開離した状態の
図3のスライドファスナーの下部を示す部分平面図である。
【
図5】本発明の補強テープを評価するためのもみ試験に用いられる試験機の要部を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明する。
図1に、本発明のスライドファスナーの補強テープの一実施態様を部分断面図にて示す。
図1によれば、本発明のスライドファスナーの補強テープ10は、透明なエラストマーフィルム11の裏面に接着層12を積層してなるスライドファスナーの補強テープにおいて、前記接着層がポリエステル系ホットメルト型接着剤、ポリアミド系ホットメルト型接着剤、ポリオレフィン系ホットメルト型接着剤またはポリウレタン系ホットメルト型接着剤であるものである。
【0014】
このような補強テープは、ファスナーテープの片面のみでなく、表裏両面に積層できることは言うまでもなく、一般には表面両面に積層される。
【0015】
エラストマーフィルム11の厚さは、接着層の厚さ以下、すなわち(接着層厚さ)/(フィルム厚さ)が1以上であることが好ましく、また全体厚みと各層の厚みとはファスナーテープの補強テープという用途の観点から決まってくることから、さらに好ましくは(接着層厚さ)/(フィルム厚さ)=1〜2の関係を満たす。このような比率とすることにより、ファスナーテープからの剥離による白濁を防止し、一方でファスナーテープに貼り付けられた状態での柔軟性を確保することができる。
ここで、エラストマーフィルム2の厚さは、一般に30〜120μmが適当であり、好ましくは50〜80μm程度である。
一方、接着層12の厚さは、一般に50〜200μmが適当であり、好ましくは60〜120μm程度である。
【0016】
透明なエラストマーフィルム11としては、ポリアミド系エラストマーフィルム、ポリエステル系エラストマーフィルム、ポリオレフィン系エラストマーフィルム又はポリウレタン系エラストマーフィルムが好適である。
【0017】
透明なエラストマーフィルム11としては、ポリアミド系エラストマーフィルムの場合には曲げ弾性率が6,000〜9,000kg/cm
2、ポリエステル系エラストマーフィルムの場合には曲げ弾性率が3,000〜5,000kg/cm
2のものを用いることが特に好ましい。曲げ弾性率が上記範囲よりも低い柔らかいフィルムは、結晶成分が少ないため耐ドライクリーニング性や開離嵌挿具による横引きの強度等に劣る傾向がある。また、ドライクリーニング液が汚れぎみの場合にドライクリーニング液によって汚染され易いという難点がある。一方、曲げ弾性率が上記範囲を超えるフィルムは、結晶成分が多過ぎるので透明性や柔軟性が低いという問題を生じ易い。曲げ弾性率が上記範囲内のエラストマーフィルムを補強層として用いた場合、透明で良好な耐洗濯性、耐ドライクリーニング性と強度を併せ具有するスライドファスナーの補強テープが得られる。なお、補強テープの接着層や中間層の厚さは補強層としてのエラストマーフィルムに比べて小さく、また剛性が低いため、補強テープ全体としての曲げ弾性率はエラストマーフィルム自体の曲げ弾性率に大きく依存するが、接着層の種類、厚さ等により影響を受ける。そこで、補強テープ全体の曲げ弾性率も上記範囲内にあるように、接着層の種類、厚さ等を選定することが好ましい。
【0018】
接着層12の接着剤としては、ファスナーテープの材質となじみ易いホットメルト型接着剤を用いることが好ましい。さらに、
図1の場合、エラストマーフィルムとファスナーテープとが同一材質であるが、
図2に示すように、エラストマーフィルム21と接着層22との間に中間層23を設けることにより、エラストマーフィルムとファスナーテープが異材質であっても、接着性については問題ない。
【0019】
また、当該接着剤は、高温による耐性、具体的には高温湯での洗浄、洗濯、高温乾燥に対して補強テープが剥がないようにするという観点から、高融点、かつ、高粘度を有するものが好適に用いられ、例えば融点が120℃より高く、かつ、160℃以下であり、フローテスターを用いて200℃、荷重10kgfにて測定した溶融粘度が2000ポイズより高く、かつ、5500ポイズ以下であり、さらに好ましくは融点が130℃以上150℃以下であり、フローテスターを用いて200℃、荷重10kgfにて測定した溶融粘度が3000ポイズ以上5000ポイズ以下である。
【0020】
これらのホットメルト型接着剤の中でも、特開平10−295418号に開示されているように、融点が110〜120℃、200℃での溶融粘度が1,000〜2,000ポイズのホットメルト型接着剤を用いた場合、補強テープをファスナーテープに加熱圧着する際、ホットメルト型接着剤が容易に溶融してファスナーテープの繊維間に浸透し易く、また、放冷・固化後に繊維間に存在する樹脂によって高いアンカー効果が得られる結果、洗濯やドライクリーニング後でも補強テープとファスナーテープとの間の高い剥離強度が維持されるという利点が得られるので、特に好適である。
【0021】
本発明では、
図2に示すように、エラストマーフィルム21と接着層22との間に介在させるアンカーコート剤からなる中間層23をさらに設けた、スライドファスナーの補強テープ20としてもよい。
この中間層23の厚さは、0.5〜10μm程度が適当であり、好ましくは2〜3μm程度である。
【0022】
図2に示した態様では、エラストマーフィルム21が、上述したポリアミド系フィルムまたはポリエステル系フィルムであり、一方、中間層23としては、主剤であるポリオールと硬化剤としてのジイソシアネートの共重合体からなる二液硬化型接着剤を好適に用いることができる。また、接着層22に用いる接着剤としては、上述したものが挙げられる。中間層は、特にエラストマーフィルムと接着層とで材質の異なるものどうしを貼り合わせる態様において好適に使用されるが、材質が同じものどうしを貼り合わせる態様においても、剥離強度および耐洗濯性においてより高いパフォーマンスを発揮できるため、好ましい。
【0023】
また、本発明の補強テープは、スライドファスナーの端部を補強する用途で使用されることから、補強テープ全体の厚みが、ファスナーテープの両面に積層する用途においては好ましくは100〜200μm、より好ましくは140〜180であり、片面に積層する用途においては好ましくは200〜400μm、より好ましくは280〜360μmである。
【0024】
そこで、ファスナーテープの端部を補強するに当っては、ファスナーテープの端部表面に接着層を塗工した後、必要に応じて中間層をラミネートしたエラストマーフィルムからなる補強層を重ね、加熱圧着することもできるが、接着工程の際に接着層と補強層の間に気泡が入らないように、エラストマーフィルムの片面にドライラミネート法、共押出法等の従来公知の積層法によって中間層と接着層をコーティングした補強テープを予め作製し、これをファスナーテープの端部表面に接着層を介して加熱圧着することが好ましい。加熱圧着時の加熱に際して、熱板、超音波、高周波等の加熱手段を用いることができる。
【0025】
図3及び
図4は一対のファスナーテープ31a、31b下端部の開離嵌挿具取付け部に本発明の補強テープ34a、34bを貼着したスライドファスナー30の一例の下部を示している。
図3に示すスライドファスナー30は、一対のファスナーテープ31a、31b、各ファスナーテープ31a、31bの下端部に溶着される一対の補強テープ34a、34b、各ファスナーテープの内側縁部に取り付けられたコイルエレメント等の務歯列32a、32b、スライダー33、及びファスナーテープ31a、31bの下端部に溶着した補強テープ34a、34bの内側縁部に取付けられた開離嵌挿具である蝶棒37、箱棒35、箱体36を含んでいる。スライダー33は務歯32a、32bを噛合、解離するために務歯列に摺動自在に取り付けられている。
図3はスライドファスナー30を閉じた状態を、また
図4は開いた状態を示している。
【0026】
ポリエステル、ナイロン等の合成繊維や綿等の天然繊維よりなる繊維素材を織成又は編成して作製された一対のファスナーテープ31a、31bの各下端部には、補強テープ34a、34bがそれぞれ溶着されている。これらの対向する補強テープの一方34aの内側縁部には、開離嵌挿具の取付金具である蝶棒37が、また他方34bの対向する内側縁部には蝶棒37が嵌挿される箱体36とその箱棒35が取付けられている。蝶棒37は箱体36のスロット中に開離自在に係合可能である。なお、箱体36と箱棒35は一体成形されたワンピース物である。
【0027】
上記のように、ファスナーテープ31a、31bの端部には、その色彩を透視できる透明もしくは半透明の、柔軟性に優れた本発明に係る補強テープ34a、34bが高い接着強度で貼着され、補強されている。補強テープ34a、34bは全体的に透明に近いのでファスナーテープ31a、31bの色彩がそのまま透視され、補強テープが染色されたファスナーテープの色彩と殆ど同色彩に見えるので外観を損うこともない。また、1種類の補強テープを種々の色調のファスナーテープに適用できるので、それぞれの色彩に対応した補強テープを準備する必要がなく、複雑な在庫管理が不要であるという利点も得られる。なお、補強テープの表面光沢を低減させ、また柔軟性を増すために、加熱圧着後又は加熱圧着時に補強テープ表面の補強層にローレット加工を施すこともできる。
【0028】
ここで、本発明における剥離強度および耐洗濯性の指標として、以下に示すもみ試験により得られた剥離度を用いる。
図5は、当該もみ試験に用いられる試験機の要部を模式的に示す図である。
このもみ試験機50は、スライドファスナー30の補強テープ34a、34bのところで当該スライドファスナー30を挟持するための掴み部51a、51bと、スライドファスナーの箱体36のところで当該スライドファスナーの下方から方向bに向かって弾性付勢させた状態で指示する支持部52と、スライドファスナーの蝶棒と箱棒のところで当該スライドファスナーの上方から方向aに向かって押圧する押圧部53とで要部が構成される。なお、押圧部53の方向aの押圧動作、および支持部52の方向bの弾性付勢により、スライドファスナーは方向a、方向bの間で上下し、掴み部51a、51bはそれぞれ水平な方向c1、方向c2に向かって往復移動する。
【0029】
通常の洗濯を想定して、温水内でスライドファスナーの方向a、方向b、方向c1および方向c2への移動を所定回数行う。これにより生じる補強テープ34a、34bのスライドファスナーからの剥離は、白濁として検出される。そこで、この白濁の度合いを特定の画像センサーを用いてスキャンして数値化し、もみ試験前のコントロールに対して状態が変化した割合を剥離度と特定する。すなわち、白濁した部分が多いほど剥離度は大きくなり、耐洗濯性が悪く、剥離強度も低いと評価される。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の効果を確認した実施例、比較例及び試験例を示して本発明についてより具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されるものでないことはもとよりである。
(調製例1)
厚さ100μmのナイロン系エラストマーフィルム(アルケマ(株)製、7233FP01)の裏面に主剤であるポリオールと硬化剤としてのジイソシアネートの共重合体からなる二液硬化型接着剤を2〜3μmの厚さとなるように塗布し、さらに厚さ60μmのポリエステル系ホットメルト接着層(東洋紡績(株)製、バイロンGM900:融点112℃、フローテスターを用いて200℃、荷重10kgfで測定した溶融粘度1500ポイズ)をラミネートして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0031】
(調製例2)
調製例1において、ナイロン系エラストマーフィルムの厚みを60μmとし、かつ、接着層の厚みを100μmとした以外は、調製例1と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0032】
(調製例3)
調製例1において、接着層にバイロンGM900(東洋紡績(株)製)のかわりに、バイロンGM400(東洋紡績(株)製;融点143℃、フローテスターを用いて200℃、荷重10kgfで測定した溶融粘度4600ポイズ)を用いた以外は、調製例1と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0033】
(調製例4)
調製例3において、ナイロン系エラストマーフィルムの厚みを60μmとし、かつ、接着層の厚みを100μmとした以外は、調製例3と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0034】
(調製例5)
実験例3において、ナイロン系エラストマーフィルムの厚みを80μmとし、かつ、接着層の厚みを80μmとした以外は、実験例3と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0035】
(調製例6)
調製例1において、接着層にバイロンGM900(東洋紡績(株)製)のかわりに、高分子量飽和ポリエステル樹脂ポリエスタ−SP176(日本合成化学工業株式会社製;融点130℃、フローテスターを用いて190℃、荷重30kgfで測定した溶融粘度5600ポイズ)を用いた以外は、調製例1と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0036】
(調製例7)
調製例6において、ナイロン系エラストマーフィルムの厚みを60μmとし、かつ、接着層の厚みを100μmとした以外は、調製例6と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0037】
(調製例8)
調製例1において、接着層にバイロンGM900(東洋紡績(株)製)のかわりに、バイロンGA3200(東洋紡績(株)製;融点123℃、フローテスターを用いて200℃、荷重10kgfで測定した溶融粘度140ポイズ)を用いた以外は、調製例1と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0038】
(調製例9)
調製例8において、ナイロン系エラストマーフィルムの厚みを60μmとし、かつ、接着層の厚みを100μmとした以外は、調製例8と同様にして補強テープを作製した。この補強テープ(両面積層)全体の厚みは、160μmであった。
【0039】
(試験例)
務歯(エレメント)を噛み合わせた状態のスライドファスナーチェーンの表面及び裏面のそれぞれの表面及び裏面に、上記各実験例で作製した補強テープを、接着層が接触するように、かつ務歯列と交差するように横方向に重ね、加圧下に超音波接着して試料を、各調製例につき5つずつ作製した。
【0040】
次いで、接着後、上述したもみ試験を行って、白濁の発生の有無を評価し、上述の剥離度を求めた。各調製例の補強テープの剥離度につき、蝶棒側および箱側、ならびに5つの試料について全体の平均をとり、その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1によれば、いずれの接着剤においても、接着層の厚みをエラストマーフィルムよりも大きくしたときに、剥離度が小さくなり、もみ試験の結果補強テープが剥離し白濁した部分が少ないことを示すことから、耐洗濯性が良好で、剥離強度も大きかったことがわかる。
ただし、フィルム厚みがエラストマー/接着層が、80μm/80μmである場合、剥離度が小さく、すなわち剥離強度は大きくなり、白濁は見られなかったが、ファスナーテープが溶けてしまい製品としての価値がない状態となった。したがって、ファスナーテープが溶け出さず、かつ、高温による耐性の実現のためには、接着層をエラストマーよりも厚くすることが望ましいことがわかった。
【符号の説明】
【0043】
10 補強テープ
11 エラストマーフィルム
12 接着層
20 補強テープ
21 エラストマーフィルム
22 接着層
23 中間層
30 スライドファスナー
31a、31b ファスナーテープ
32a、32b 務歯
33 スライダー
34a、34b 補強テープ
35 箱棒
36 箱体
37 蝶棒