特許第6181767号(P6181767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181767ボンディング用途のアルミニウム合金ワイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181767
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】ボンディング用途のアルミニウム合金ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20170807BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20170807BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20170807BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   H01L21/60 301F
   H01L21/60 301N
   C22C21/00 A
   C22F1/04 D
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 625
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630M
   !C22F1/00 661A
   !C22F1/00 661Z
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
【請求項の数】17
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-543386(P2015-543386)
(86)(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公表番号】特表2016-511529(P2016-511529A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】EP2013073541
(87)【国際公開番号】WO2014079726
(87)【国際公開日】20140530
【審査請求日】2016年1月25日
(31)【優先権主張番号】12007886.0
(32)【優先日】2012年11月22日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12008371.2
(32)【優先日】2012年12月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515131116
【氏名又は名称】ヘレウス ドイチェラント ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ミルケ オイゲン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス スヴェン
(72)【発明者】
【氏名】ガイスラー ウーテ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー−ラメロー マルティン
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−47417(JP,A)
【文献】 特開2000−303131(JP,A)
【文献】 特開2000−34533(JP,A)
【文献】 特開平7−316705(JP,A)
【文献】 特開昭61−179840(JP,A)
【文献】 特開昭61−179839(JP,A)
【文献】 特開昭61−166939(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035699(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/60−21/607
C22C21/00
C22F1/00
C22F1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有する芯を含み、
前記芯が、主成分としてアルミニウムを含み、
前記芯が、成分として、0.05%以上1.0%以下の量でスカンジウムを含有
前記芯における前記スカンジウムの少なくとも30%が、主成分の前記アルミニウムと分離した相に存在するボンディングワイヤ。
【請求項2】
前記芯が0%以上0.5%以下のケイ素を含有する、請求項1に記載のボンディングワイヤ。
【請求項3】
アルミニウム及びスカンジウム以外の前記芯の成分の総量が0%以上1.0%以下である、請求項1又は2に記載のボンディングワイヤ。
【請求項4】
前記芯が、10ppm以上100ppm以下の量で、銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1〜3の何れか1項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項5】
少なくとも32.0×10Ω−1・m−1の電気伝導率を有する、請求項1〜4の何れか1項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項6】
前記相が、主にAlScを含む金属間相である、請求項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項7】
前記金属間相の微結晶の総数の少なくとも2/3が、25nm未満の直径を有する、請求項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項8】
80μm以上600μm以下の範囲の直径を有する、請求項1〜の何れか1項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項9】
8μm以上80μm以下の範囲の直径を有する、請求項1〜の何れか1項に記載のボンディングワイヤ。
【請求項10】
第一のボンディングパッド、第二のボンディングパッド、及び請求項1〜の何れか1項に記載のボンディングワイヤを含んだ電子デバイスの作製において、ボンディングを行うためのシステムであって、
ェッジボンディングの手段によって前記ボンディングワイヤが前記ボンディングパッドのうち少なくとも1つに接続されるシステム。
【請求項11】
ボンディングパッドの下にある構造が、少なくとも1つの二酸化ケイ素の多孔質層を含む、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
請求項1〜の何れか1項に記載のボンディングワイヤを製造するための方法であって、
a.必要な量のスカンジウムを有するアルミニウムの芯の前駆体を供給する工程、及び
b.前記ボンディングワイヤの芯の最終的な直径に達するまで、前記前駆体を延伸又は圧延する工程
を含む方法。
【請求項13】
前記芯の前駆体又は、延伸若しくは圧延後のボンディングワイヤを均質化する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記均質化する工程が、最終的な延伸工程より前に実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記均質化する工程が、所定時間、少なくとも450℃の均質化温度で、前記芯の前駆体又は、延伸若しくは圧延後のボンディングワイヤを加熱する工程を含む、請求項1214の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記加熱する工程後、少なくとも10K/秒の速度で急冷する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ボンディングワイヤを析出硬化する工程を含む、請求項1216の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を有する芯を含み、芯が主成分としてアルミニウムを含み、芯が成分として0.05%〜1.0%の含有量でスカンジウムを含有する、ボンディングワイヤに関する。
【0002】
さらに、本発明は、本発明に係るボンディングワイヤにより、電子デバイスをボンディングするためのシステム、及び本発明に係るボンディングワイヤを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ボンディングワイヤは、半導体装置製造の間、集積回路とプリント配線基板とを電気的に相互接続するための半導体装置の製造に使用される。さらに、ボンディングワイヤは、トランジスタ、ダイオード等を、筐体のパッド又はピンと電気的に接続するために、パワーエレクトロニクス用途(power electronic applications)に使用される。当初は、ボンディングワイヤは金から製造されていたが、今日では、アルミニウムのような安価な素材が使用される。アルミニウムワイヤはかなり良好な電気及び熱伝導率を提供するが、アルミニウムワイヤのボンディングには課題がある。
【0004】
一般的に、本発明の意味でのボンディングワイヤは、高速ボンディングツールで使用されるのに最適化され、典型的には、そのワイヤの終端を、ボンドパッドのような表面と接続するために、ボールボンディング又は第2のボンディング(ウェッジボンディング)が使用される。アルミニウム系ワイヤの場合では、ウェッジ−ウェッジボンディングが主に使用される。少なくとも、実施可能な管理限界内で、ボンディングツールに対応させるために、ボンディングワイヤを、特定の要求に合わせなければならない。
【0005】
本発明について、ボンディングワイヤとの用語は、全ての断面の形状、及び全ての通常のワイヤの直径を含む。円形断面且つ細径のボンディングワイヤは、高パワー用途(high power applications)のために、円形断面又は平らな断面を備える、太いボンディングワイヤとすることができる。平らな断面を備えるボンディングワイヤは、リボンとも呼ばれる。
【0006】
近年の発展では、金及び他の材料に比べて安価であるため、主成分としてアルミニウムを基礎とした芯材料を有するボンディングワイヤに向けられているものがあった。それにもかかわらず、ボンディングワイヤ自身及びそのボンディングプロセスに関するボンディングワイヤの技術をさらに改良する必要性が継続して存在している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、改良されたボンディングワイヤを提供することが、本発明の目的である。
【0008】
このように、良好な加工特性を有し、相互接続する際の特定の必要性がなく、故に、コストを抑制する、ボンディングワイヤを提供することが、本発明の別の目的である。
【0009】
また、優れた電気及び熱伝導率を有するボンディングワイヤを提供することが、本発明の目的である。
【0010】
改善された信頼性を示すボンディングワイヤを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0011】
優れたボンディング特性を示すボンディングワイヤを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0012】
第2のボンディング又はウェッジボンディングに関して、改良されたボンディング特性を示す、ボンディングワイヤを提供することが、本発明の別の目的である。
【0013】
少なくともワイヤを延伸する間、高い引張強さを有するボンディングワイヤを提供することが、本発明のさらに別の目的である。
【0014】
低い電気抵抗率を有するボンディングワイヤを提供することが、本発明のよりさらなる目的である。
【0015】
電子デバイスをボンディングするためのシステムを提供することは、別の目的であり、そのシステムは、電子デバイスのような手段及び/又はパッケージング手段の、ボンディングパッド間の信頼性の高い接続を提供する。
【0016】
本発明に係るボンディングワイヤを製造する方法を提供することが、別の目的であり、その方法は、基本的に、既知の方法と比較して製造コストの増加を示さない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、本発明のワイヤは、上記の目的のうちの少なくとも1つを解決することが発見されている。さらに、これらのワイヤを製造するためのプロセスは、ワイヤ製造の課題のうちの少なくとも1つを克服することが発見されている。さらに、本発明のワイヤを含むシステムは、本発明に係るワイヤと、他の電気部品との間のインターフェースで、より信頼性が高いことが発見された。
【0018】
上記の目的のうちの少なくとも1つの解決への貢献は、カテゴリーを形成する請求項の主題によって提供され、カテゴリーを形成する独立形式の請求項の従属請求項が、本発明の好ましい態様を表し、その主題は、同様に、上記の目的のうちの少なくとも1つの解決への貢献をもたらす。
【0019】
本発明の第1の態様はボンディングワイヤであり、
表面を有する芯を含み、
芯が、主成分としてアルミニウムを含み、
芯が、成分として、0.05%〜1.0%の量でスカンジウムを含有することを特徴とする。
【0020】
特に区別しない場合、全ての内容物又は成分の配分(shares)は、ここでは、重量の配分として示される。特に、パーセントで示される成分の配分は、重量%であることを意味し、ppm(100万分の1)で示される成分の配分は、重量ppmであることを意味する。粒子(grains or particles)のような可算物に関する百分率の値について、示される値はその物の総数の配分である。
【0021】
好ましくは、本発明に係るボンディングワイヤは、芯の表面にコーティング層の被膜を有さない。これにより、単純な、及びコスト削減した、ワイヤの製造が提供される。これは、本発明のボンディングワイヤの芯の表面上に設けられる追加のコーティング層があり得るという特定の用途を排除しているわけではない。
【0022】
本発明に係るボンディングワイヤがアルミニウムを基礎とし、それ故に、ほんの短時間空気に晒されても、ほとんど瞬間的にいくつかの酸化層を形成するため、少なくともいくつかの薄層が、完成されたワイヤの芯表面に見込まれるということを理解されたい。定義目的のために、所与のワイヤの芯の特徴及び特性は、そのような意図的でない表面の領域の下の影響を受けていない芯材料に関連する。
【0023】
もし、ある成分の配分が当該材料の残りの全ての成分を超過するなら、その成分は「主成分」である。好ましくは、主成分は、材料の総重量の少なくとも50%を含む。
【0024】
本発明に係るスカンジウムの含有量は、不利な効果が支配的にならず、有益な効果が存在するように選択される。もし、1%より多いスカンジウムの含有量が選択される場合、スカンジウムの大量の粗粒子、又はスカンジウム含有相が、芯材料中に存在する。もし、そのような粒子の量及び大きさがある限度を超えた場合、ワイヤの機械的特性は損なわれる。もし、0.05%未満のスカンジウム含有量が選択される場合、スカンジウムにより得られる有利な特性は、もはや有意なものではない。
【0025】
本発明の好ましい実施形態の場合、スカンジウム含有量は、0.1%〜0.35%の範囲内に最適化される。最も好ましい実施形態では、芯のスカンジウム含有量は、0.12%〜0.25%の範囲である。
【0026】
一般的に、本発明の好ましい実施形態では、芯が0%〜0.5%のケイ素を含有する。驚くべきことに、ケイ素は1%の典型的な量で、従来のアルミニウムを基礎としたボンディングワイヤの標準的な成分であるが、本発明のボンディングワイヤの低ケイ素含量は、有利な影響を有することが分かった。ケイ素が無くとも、良好な引張強さには到達し得たが、同時に電気伝導率は優れている。ケイ素含有量が0%〜0.2%に維持されるのがなお一層好ましい。本発明のボンディングワイヤの最も好ましい実施形態では、特に100ppm未満の、不可避的な微量を除き、ケイ素は含有されない。
【0027】
本発明のボンディングワイヤの通常の有利な特徴として、アルミニウム及びスカンジウム以外の芯の成分の総量が0%〜1.0%である。より好ましくは、そのような他の成分の含有量は合計で0.5%未満までであり、最も好ましくは0.2%未満である。これは、さらなる成分によりアルミニウム結晶中でほとんど乱れが引き起こされないため、高い電気伝導率を提供する。
【0028】
ワイヤの耐腐食性を高めるために、芯が、好ましくは、10ppm〜100ppmの含有量で、銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有する。ニッケル含量又は銅含量が30ppm〜80ppmであるのが最も好ましい。
【0029】
抵抗加熱による低い熱損失のため、本発明のボンディングワイヤは、好ましくは、少なくとも32.0×10Ω−1・m−1の電気伝導率を有する。電気伝導率は少なくとも33.0×10Ω−1・m−1であるのが、最も好ましい。本発明のボンディングワイヤの電気伝導率は、選択されるその元素組成だけによらず、アニーリング又は均質化のような所定の処理によっても影響され得る。原則として、電気伝導率は材料依存性の定数であるが、少なくとも、かなり小さい直径に対しては、ワイヤの直径への依存が生じることがあり得る。明確さの目的のため、本願明細書において示される電気伝導率は、直径約100μmの太さのボンディングワイヤにより測定される。
【0030】
本発明の具体的な実施態様では、芯におけるスカンジウムの少なくとも30%が主成分のアルミニウムと分離した相に存在する。ある程度まで、スカンジウムが、完全に、アルミニウムマトリクスに固溶され得ることが理解される。固溶されたスカンジウムのそのような状態は、分離した相と同一視しない。ある条件下で、スカンジウムは、異なる相に、少なくとも部分的に存在し得る。そのような相は、主なアルミニウム相と分離する結晶性の粒子によって、又は非晶質の粒子によっても、通常、同定される。粒径、粒度分布、組成等のようなスカンジウム含有相の特性は、特定の熱処理及び/又はさらなる成分の存在に依存する。
【0031】
好ましくは、スカンジウム含有相が、主にAlScを含む金属間相である。金属間相は、ここでは、2以上の金属を含む均質な化学物質、金属からなる格子とは異なる格子構造を有する金属間相として定義される。
【0032】
最も好ましくは、金属間相の微結晶の総数の少なくとも2/3が25nm未満の直径を有する。驚くべきことに、ワイヤの芯がそのようなパラメータに調整されると、電気的及び機械的特性の最適な組合せとなることが分かった。
【0033】
本発明の1つの可能な実施形態において、ワイヤは80μm〜600μmの範囲の直径を有する。そのようなワイヤは、本発明の意味において「太いワイヤ」として定義される。この態様において、ワイヤの断面形状は円形であると考えられる。断面形状と関係なく、本発明の意味における太いワイヤは、少なくとも約5000μmの断面領域を有し、円形の断面領域に関してワイヤの直径が80μmであるワイヤである。
【0034】
本発明の他の実施形態において、ワイヤは8μm〜80μmの範囲の直径を有する。そのようなワイヤは、本発明の意味において、「細いワイヤ」として定義される。細いワイヤの場合、通常、円形断面が好ましいが、平らな断面も可能である。
【0035】
ボンディングワイヤの全ての種類に対して、及び特に細いワイヤの場合において、少なくとも、最終的な直径にワイヤを延伸する際、ワイヤ材料の引張強さにおいて高い要求があることが指摘される。従来のワイヤに対して、これは、要求される引張強さに余裕をもったある程度のアルミニウム合金が選択されるべきであったことを意味する。本発明の場合では、細いワイヤの延伸でも、スカンジウムの添加及び調整されたワイヤの熱処理により十分な引張強さとなる。これは、アルミニウム及び小量のスカンジウム以外の成分を含有しないワイヤでも当てはまる。
【0036】
本発明のさらなる態様は、第一のボンディングパッド、第二のボンディングパッド、及び特許請求の範囲の請求項の何れか1項に記載のボンディングワイヤを含む、電子デバイスをボンディングするためのシステムであり、ボンディングワイヤが、ウェッジボンディングの手段により、ボンディングパッドのうちの少なくとも1つに接続される。
【0037】
そのようなシステムの好ましい実施形態について、ボンディングパッドの下にある構造が、少なくとも1つの二酸化ケイ素の多孔質層を含む。本発明のボンディングワイヤは、ボンドパッドの下に配置された機械的に繊細な構造の要求に合うように、それらの硬度が調整され得る。これは、ボンドパッドがアルミニウム又は金のような柔らかい材料からなる場合に、特に当てはまる。その繊細な構造は、例えば、1つ又はいくつかの、特に、2.5未満の誘電率を有する二酸化ケイ素の多孔質層を含み得る。そのような多孔質、及びそれ故に弱い材料は、デバイス性能を高めるのに役立ち得るため、一般的となりつつある。それ故、本発明のボンディングワイヤの機械的特性は、脆い層に対するひび割れ又は他の損傷を避けるために最適化される。その最適化は、それぞれの要求に応じた特定のアニーリング手順によりなされ得る。
【0038】
本発明に係るボンディングワイヤは、有利なことに、高い動作温度を有するシステムにおいて使用され得る。好ましくは、標準の動作温度が、持続的に175℃まで、好ましくは250℃までである。300℃までのかなり高い持続的な動作温度で、本発明に係るボンディングワイヤを用いることも可能である。そのような高温がワイヤにおける合金系スカンジウムの要求される挙動に干渉しないことが分かっている。
【0039】
電子デバイスをボンディングするためのシステムのいくつかの実施形態について、ボンディングするデバイスのボンディング手順の間、最初の操作の間でも、スカンジウム含有相、特に、金属間AlSc相の制御された形成がなされるものも提供されてよい。
【0040】
本発明のさらなる態様は、本発明に係るボンディングワイヤを製造するための方法であって、
a.要求量のスカンジウムを有するアルミニウムの芯の前駆体を供給する工程;及び
b.ボンディングワイヤの芯の最終的な直径に達するまで、前駆体を延伸及び/又は圧延する工程を含む。
【0041】
ワイヤの芯の前駆体は、最終的なワイヤの形状を得るためにさらに変形されなければならない任意の構造と定義される。そのような前駆体は、例えば、原料の押出により円筒形の形状で供給され得、その原料は、すでに所望の組成を含む。そのような前駆体は、規定量のアルミニウムを融解すること、規定量でさらなる成分を加えること、及び均質な混合物の処理をすることにより、簡単に得ることができる。次いで、ワイヤの芯の前駆体は、例えば、鋳造又は押出による溶融又は固化合金から、任意の公知の手法で鋳造又は成形され得る。
【0042】
最終的なワイヤの形状への前駆体の成形は、通常、一連の延伸工程により実施される。円形断面を備えるワイヤの場合、延伸工程は形成工程のみであってもよい。他の場合、特にリボンについて、その方法は、代替又は追加の圧延工程を含んでもよい。異なる変形方法が含まれるさらなる工程があってもよいということを理解されたい。
【0043】
一般的に好ましい実施形態において、芯の前駆体又は最終的なボンディングワイヤを均質化する工程が含まれている。少なくとも含有されたスカンジウムの高い割合がアルミニウムに固溶される、アルミニウムを基礎とした材料の均質化は、加熱手順として理解される。最も好ましくは、スカンジウムの割合全体が、アルミニウムに固溶される。これは、結晶構造の調整を制御することに余裕がある。要求に応じて、最終的なボンディングワイヤは、溶存態で残っている全てのスカンジウムと共にボンディングツールに送られてもよい。そのような場合において、スカンジウムを含有する金属間相は、ボンディングプロセスの後半、又はボンディング後でも、又はボンディングする装置の操作の間でも形成されてもよい。
【0044】
最も好ましくはあるが、均質化工程の後、結晶構造を調整するため、及び特に、所定のスカンジウム含有相を形成するために、いくつかの所定の処理工程がある。
【0045】
均質化工程は、最終的な延伸工程より前に実施されるのが一般的に好ましい。これは、後に、特に微細なスカンジウムを含有する金属間相の形成に役立ち得る、最終的な延伸工程において、格子欠陥が加えられるため、ワイヤ特性の改良に役立ち得る。
【0046】
スカンジウムの十分な融解を達成するため、均質化の工程は、好ましくは、少なくとも450℃、より好ましくは少なくとも550℃の均質化温度に、所定の時間、芯の前駆体又は最終的なボンディングワイヤを加熱する工程を含む。加熱工程の後、少なくとも10K/秒、より好ましくは少なくとも100K/秒の速度で急冷するのがなお一層好ましい。そのような急冷は、例えば、水のような冷えた液体中にボンディングワイヤを浸漬するような、簡単な手段によりなされ得る。
【0047】
最も好ましい実施形態では、ワイヤの析出硬化の工程が含まれる。析出硬化は、ワイヤの機械的強度を高めるため、制御された手法で結晶粒が濃縮し及び成長するアニーリングの工程として定義される。これは、ワイヤの硬度の増大、及び、特に、ワイヤの引張強さの増大をもたらす。析出アニーリング(precipitation annealing)のための好ましい温度範囲は250℃〜400℃であり、ワイヤの曝露時間は、典型的には、少なくとも30分間である。最も好ましい実施形態では、析出硬化は微分散したAlSc金属間相の形成をもたらす。微分散したAlSc金属間相は、好ましくは500nm未満、より好ましくは300nm未満、さらにより好ましくは150nm未満、及び最も好ましくは25nm未満の粒径を有する。粒径の特に好ましい範囲は、20〜200nmである。
【0048】
好ましいワイヤの引張強さは、少なくとも140MPa、より好ましくは少なくとも160MPa、及び最も好ましくは少なくとも180MPaであるように選択される。そのような引張強さは、細いワイヤでさえも、容易な及び信頼性の高い延伸を、特に可能にする。太いワイヤの場合について、引張強さは、製造プロセスに関して、重要ではない。定義目的のために、材料の引張強さは、直径100μmの円形ワイヤにより測定される。驚くべきことに、本発明のボンディングワイヤの引張強さは、従来のAlSi1合金ワイヤの範囲に等しい値に調整できることが分かる。
【0049】
ワイヤを製造するための方法のより好ましい詳細な実施形態に関して、特に最適化されたアニーリングパラメータに関しては、本発明のボンディングワイヤの先の詳述に対して参照される。
【0050】
本発明の主題を図面に例示する。しかしながら、図面は、本発明の範囲又は特許請求の範囲を決して限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1図1は、本発明に係るボンディングワイヤの引張強さ及び伸長性の図を示す。
図2図2は、本発明のボンディングワイヤ、特に細いワイヤの製造方法の略図を示す。
【実施例】
【0052】
本発明を実施例によりさらに例示する。この実施例は、本発明の例示的な説明を示し、本発明の範囲又は特許請求の範囲を決して限定するものではない。
【0053】
十分に混合された、以下のような組成(重量%)を得るために、所定量の純粋なアルミニウム(99.99%より高い純度)を溶解し、所定量の純粋なスカンジウムを加えることにより合金を調製した:
【表1】
【0054】
溶融した混合物をインゴットに投入し、冷却した。インゴットを円筒形状に押出した。任意の延伸工程を押出シリンダーで実施してもよい。直径約1mmのワイヤの芯の前駆体を得た。
【0055】
次いで、直径1mmのワイヤの芯の前駆体を、均質化工程において均質化した。このステップでは、640℃の温度で予熱したアニーリングオーブンに、芯の前駆体を入れた。芯の前駆体を、数時間の曝露時間、640℃の一定の温度でオーブンに留めた。この時間の経過後、スカンジウムの全体量をアルミニウム格子に固溶した。
【0056】
曝露時間の経過後、冷水中に浸漬することにより、熱い芯の前駆体をすぐに急冷した。急冷により、100K/秒より速い冷却速度となった。この急冷で、スカンジウム含有相の粗粒子の形成を妨げた。
【0057】
均質化工程後、前駆体を、典型的には80μm〜600μmの太いワイヤに延伸又は別の方法で形成した。ワイヤの延伸前に均質化を実施することで、延伸用具の磨耗を減らし、それらの寿命を改良した。
【0058】
最終的なワイヤを太いワイヤとして形成した場合、そこでプロセスを終了することもでき、又はその後、機械的特性を調整するための最終的なアニーリング工程を行ってもよい。
【0059】
最終的なワイヤを細いワイヤとする場合、そこで、制御された析出硬化を太いワイヤに実施し、最初の一連の延伸及び/又は形成の工程後の直径を中間体の直径とみなす。析出硬化を、典型的には250℃〜400℃の範囲、好ましくは約300℃の温度に数時間、ワイヤを曝すことにより行った。そのような温度は、典型的には、均質化のために適用した温度より低い。
【0060】
析出硬化の間、金属間相AlScの微分散を高めた。ワイヤの電気伝導率の改良のために、予め固溶したスカンジウムのそのような析出を提供した。さらに、ワイヤの硬度及び引張強さを改良した。
【0061】
AlSc金属間相において、スカンジウムの析出が30%超である場合に良好な結果、70%超である場合、より良好な結果を得た。最も好ましくは、この相は、主に極微細な粒子の形態で存在し、粒子3つのうち少なくとも2つが、好ましくは500nm未満、より好ましくは300nm未満、さらにより好ましくは150nm未満、及び最も好ましくは25nm未満、特に好ましい20〜200nmの範囲である平均直径を有する。粒子の直径を、ここでは、その粒子全体を横切ることができる最大の直径距離として、通常のように定義した。
【0062】
図1は、300℃の温度でのアニーリング時間の関数として引張強さ及び伸長の図を示す。引張強さを破断荷重「BL」としてcN(センチニュートン)の単位で示す。ワイヤの直径が100μmである場合、150cNの破断荷重は191MPaに等しい。そのような値に容易に到達できることが図から見ることができる。
【0063】
この引張強さは、ワイヤをさらに延伸し細い線径にするのを可能にする。容易に到達する典型的な細い線径は50μm未満である。
【0064】
最終的な線径に延伸した後、ワイヤを、さらに最終的なアニーリング工程に晒した。そのような工程は、析出加熱と全く同一又は同様であってもよい。あるいは、250℃より低い中程度のアニーリング温度に曝す工程を含んでもよい。材料の変形によりもたらされてしまう負荷及び格子欠陥を減らすために、そのような最終的なアニーリングを行った。
【0065】
【表2】
【0066】
上記表2は、直径300μm及び異なるスカンジウム含有量の2本の太いワイヤの測定した電気伝導率を示す。測定を、4点設定において10mAの電流を印加した1.0mの長さのワイヤで実施した。
【0067】
0.25%のスカンジウム試料に対して、均質化を実施しなかったが、得られたインゴットは、完全に均質化されたものと考えられる。
【0068】
一般的に、スカンジウムの固溶によりアルミニウム格子をほとんど乱さないから、スカンジウムを含有する相の析出により電気伝導率を高めることを、データは証明した。さらに、33.0×10Ω−1・m−1より高い電気伝導率の値に容易に到達することを示した。
【0069】
析出したAlSc相の粒度に関して、FIBシステム(FIB=収束イオンビーム)を用いる測定を実施した。FIBシステムの空間分解能は約20nmであった。ワイヤ試料において、いくつかの、少なくとも100μmのFIB−断面を形成し、粒子に対して評価を行った。使用した材料の純度のため、全ての粒子がAlSc相に属すると考えられている。
【0070】
FIBシステムを用いた測定及び評価は以下の結果となった:
得られた材料について、標準偏差7nmである平均直径25nmの粒子を観察した。
【0071】
640℃で48時間を超えて均質化した後では、見えない粒子が存在した。
【0072】
300℃で7時間析出アニーリングした後、それでも粒子を観察しなかった。
【0073】
FIBシステムの分析、及び電気的及び機械的特性の変化を考慮すると、20nm未満の粒径を有する微細なAlSc相の析出を得ることができた。
図1
図2