【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、改良されたボンディングワイヤを提供することが、本発明の目的である。
【0008】
このように、良好な加工特性を有し、相互接続する際の特定の必要性がなく、故に、コストを抑制する、ボンディングワイヤを提供することが、本発明の別の目的である。
【0009】
また、優れた電気及び熱伝導率を有するボンディングワイヤを提供することが、本発明の目的である。
【0010】
改善された信頼性を示すボンディングワイヤを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0011】
優れたボンディング特性を示すボンディングワイヤを提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0012】
第2のボンディング又はウェッジボンディングに関して、改良されたボンディング特性を示す、ボンディングワイヤを提供することが、本発明の別の目的である。
【0013】
少なくともワイヤを延伸する間、高い引張強さを有するボンディングワイヤを提供することが、本発明のさらに別の目的である。
【0014】
低い電気抵抗率を有するボンディングワイヤを提供することが、本発明のよりさらなる目的である。
【0015】
電子デバイスをボンディングするためのシステムを提供することは、別の目的であり、そのシステムは、電子デバイスのような手段及び/又はパッケージング手段の、ボンディングパッド間の信頼性の高い接続を提供する。
【0016】
本発明に係るボンディングワイヤを製造する方法を提供することが、別の目的であり、その方法は、基本的に、既知の方法と比較して製造コストの増加を示さない。
【課題を解決するための手段】
【0017】
驚くべきことに、本発明のワイヤは、上記の目的のうちの少なくとも1つを解決することが発見されている。さらに、これらのワイヤを製造するためのプロセスは、ワイヤ製造の課題のうちの少なくとも1つを克服することが発見されている。さらに、本発明のワイヤを含むシステムは、本発明に係るワイヤと、他の電気部品との間のインターフェースで、より信頼性が高いことが発見された。
【0018】
上記の目的のうちの少なくとも1つの解決への貢献は、カテゴリーを形成する請求項の主題によって提供され、カテゴリーを形成する独立形式の請求項の従属請求項が、本発明の好ましい態様を表し、その主題は、同様に、上記の目的のうちの少なくとも1つの解決への貢献をもたらす。
【0019】
本発明の第1の態様はボンディングワイヤであり、
表面を有する芯を含み、
芯が、主成分としてアルミニウムを含み、
芯が、成分として、0.05%〜1.0%の量でスカンジウムを含有することを特徴とする。
【0020】
特に区別しない場合、全ての内容物又は成分の配分(shares)は、ここでは、重量の配分として示される。特に、パーセントで示される成分の配分は、重量%であることを意味し、ppm(100万分の1)で示される成分の配分は、重量ppmであることを意味する。粒子(grains or particles)のような可算物に関する百分率の値について、示される値はその物の総数の配分である。
【0021】
好ましくは、本発明に係るボンディングワイヤは、芯の表面にコーティング層の被膜を有さない。これにより、単純な、及びコスト削減した、ワイヤの製造が提供される。これは、本発明のボンディングワイヤの芯の表面上に設けられる追加のコーティング層があり得るという特定の用途を排除しているわけではない。
【0022】
本発明に係るボンディングワイヤがアルミニウムを基礎とし、それ故に、ほんの短時間空気に晒されても、ほとんど瞬間的にいくつかの酸化層を形成するため、少なくともいくつかの薄層が、完成されたワイヤの芯表面に見込まれるということを理解されたい。定義目的のために、所与のワイヤの芯の特徴及び特性は、そのような意図的でない表面の領域の下の影響を受けていない芯材料に関連する。
【0023】
もし、ある成分の配分が当該材料の残りの全ての成分を超過するなら、その成分は「主成分」である。好ましくは、主成分は、材料の総重量の少なくとも50%を含む。
【0024】
本発明に係るスカンジウムの含有量は、不利な効果が支配的にならず、有益な効果が存在するように選択される。もし、1%より多いスカンジウムの含有量が選択される場合、スカンジウムの大量の粗粒子、又はスカンジウム含有相が、芯材料中に存在する。もし、そのような粒子の量及び大きさがある限度を超えた場合、ワイヤの機械的特性は損なわれる。もし、0.05%未満のスカンジウム含有量が選択される場合、スカンジウムにより得られる有利な特性は、もはや有意なものではない。
【0025】
本発明の好ましい実施形態の場合、スカンジウム含有量は、0.1%〜0.35%の範囲内に最適化される。最も好ましい実施形態では、芯のスカンジウム含有量は、0.12%〜0.25%の範囲である。
【0026】
一般的に、本発明の好ましい実施形態では、芯が0%〜0.5%のケイ素を含有する。驚くべきことに、ケイ素は1%の典型的な量で、従来のアルミニウムを基礎としたボンディングワイヤの標準的な成分であるが、本発明のボンディングワイヤの低ケイ素含量は、有利な影響を有することが分かった。ケイ素が無くとも、良好な引張強さには到達し得たが、同時に電気伝導率は優れている。ケイ素含有量が0%〜0.2%に維持されるのがなお一層好ましい。本発明のボンディングワイヤの最も好ましい実施形態では、特に100ppm未満の、不可避的な微量を除き、ケイ素は含有されない。
【0027】
本発明のボンディングワイヤの通常の有利な特徴として、アルミニウム及びスカンジウム以外の芯の成分の総量が0%〜1.0%である。より好ましくは、そのような他の成分の含有量は合計で0.5%未満までであり、最も好ましくは0.2%未満である。これは、さらなる成分によりアルミニウム結晶中でほとんど乱れが引き起こされないため、高い電気伝導率を提供する。
【0028】
ワイヤの耐腐食性を高めるために、芯が、好ましくは、10ppm〜100ppmの含有量で、銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有する。ニッケル含量又は銅含量が30ppm〜80ppmであるのが最も好ましい。
【0029】
抵抗加熱による低い熱損失のため、本発明のボンディングワイヤは、好ましくは、少なくとも32.0×10
6Ω
−1・m
−1の電気伝導率を有する。電気伝導率は少なくとも33.0×10
6Ω
−1・m
−1であるのが、最も好ましい。本発明のボンディングワイヤの電気伝導率は、選択されるその元素組成だけによらず、アニーリング又は均質化のような所定の処理によっても影響され得る。原則として、電気伝導率は材料依存性の定数であるが、少なくとも、かなり小さい直径に対しては、ワイヤの直径への依存が生じることがあり得る。明確さの目的のため、本願明細書において示される電気伝導率は、直径約100μmの太さのボンディングワイヤにより測定される。
【0030】
本発明の具体的な実施態様では、芯におけるスカンジウムの少なくとも30%が主成分のアルミニウムと分離した相に存在する。ある程度まで、スカンジウムが、完全に、アルミニウムマトリクスに固溶され得ることが理解される。固溶されたスカンジウムのそのような状態は、分離した相と同一視しない。ある条件下で、スカンジウムは、異なる相に、少なくとも部分的に存在し得る。そのような相は、主なアルミニウム相と分離する結晶性の粒子によって、又は非晶質の粒子によっても、通常、同定される。粒径、粒度分布、組成等のようなスカンジウム含有相の特性は、特定の熱処理及び/又はさらなる成分の存在に依存する。
【0031】
好ましくは、スカンジウム含有相が、主にAl
3Scを含む金属間相である。金属間相は、ここでは、2以上の金属を含む均質な化学物質、金属からなる格子とは異なる格子構造を有する金属間相として定義される。
【0032】
最も好ましくは、金属間相の微結晶の総数の少なくとも2/3が25nm未満の直径を有する。驚くべきことに、ワイヤの芯がそのようなパラメータに調整されると、電気的及び機械的特性の最適な組合せとなることが分かった。
【0033】
本発明の1つの可能な実施形態において、ワイヤは80μm〜600μmの範囲の直径を有する。そのようなワイヤは、本発明の意味において「太いワイヤ」として定義される。この態様において、ワイヤの断面形状は円形であると考えられる。断面形状と関係なく、本発明の意味における太いワイヤは、少なくとも約5000μm
2の断面領域を有し、円形の断面領域に関してワイヤの直径が80μmであるワイヤである。
【0034】
本発明の他の実施形態において、ワイヤは8μm〜80μmの範囲の直径を有する。そのようなワイヤは、本発明の意味において、「細いワイヤ」として定義される。細いワイヤの場合、通常、円形断面が好ましいが、平らな断面も可能である。
【0035】
ボンディングワイヤの全ての種類に対して、及び特に細いワイヤの場合において、少なくとも、最終的な直径にワイヤを延伸する際、ワイヤ材料の引張強さにおいて高い要求があることが指摘される。従来のワイヤに対して、これは、要求される引張強さに余裕をもったある程度のアルミニウム合金が選択されるべきであったことを意味する。本発明の場合では、細いワイヤの延伸でも、スカンジウムの添加及び調整されたワイヤの熱処理により十分な引張強さとなる。これは、アルミニウム及び小量のスカンジウム以外の成分を含有しないワイヤでも当てはまる。
【0036】
本発明のさらなる態様は、第一のボンディングパッド、第二のボンディングパッド、及び特許請求の範囲の請求項の何れか1項に記載のボンディングワイヤを含む、電子デバイスをボンディングするためのシステムであり、ボンディングワイヤが、ウェッジボンディングの手段により、ボンディングパッドのうちの少なくとも1つに接続される。
【0037】
そのようなシステムの好ましい実施形態について、ボンディングパッドの下にある構造が、少なくとも1つの二酸化ケイ素の多孔質層を含む。本発明のボンディングワイヤは、ボンドパッドの下に配置された機械的に繊細な構造の要求に合うように、それらの硬度が調整され得る。これは、ボンドパッドがアルミニウム又は金のような柔らかい材料からなる場合に、特に当てはまる。その繊細な構造は、例えば、1つ又はいくつかの、特に、2.5未満の誘電率を有する二酸化ケイ素の多孔質層を含み得る。そのような多孔質、及びそれ故に弱い材料は、デバイス性能を高めるのに役立ち得るため、一般的となりつつある。それ故、本発明のボンディングワイヤの機械的特性は、脆い層に対するひび割れ又は他の損傷を避けるために最適化される。その最適化は、それぞれの要求に応じた特定のアニーリング手順によりなされ得る。
【0038】
本発明に係るボンディングワイヤは、有利なことに、高い動作温度を有するシステムにおいて使用され得る。好ましくは、標準の動作温度が、持続的に175℃まで、好ましくは250℃までである。300℃までのかなり高い持続的な動作温度で、本発明に係るボンディングワイヤを用いることも可能である。そのような高温がワイヤにおける合金系スカンジウムの要求される挙動に干渉しないことが分かっている。
【0039】
電子デバイスをボンディングするためのシステムのいくつかの実施形態について、ボンディングするデバイスのボンディング手順の間、最初の操作の間でも、スカンジウム含有相、特に、金属間Al
3Sc相の制御された形成がなされるものも提供されてよい。
【0040】
本発明のさらなる態様は、本発明に係るボンディングワイヤを製造するための方法であって、
a.要求量のスカンジウムを有するアルミニウムの芯の前駆体を供給する工程;及び
b.ボンディングワイヤの芯の最終的な直径に達するまで、前駆体を延伸及び/又は圧延する工程を含む。
【0041】
ワイヤの芯の前駆体は、最終的なワイヤの形状を得るためにさらに変形されなければならない任意の構造と定義される。そのような前駆体は、例えば、原料の押出により円筒形の形状で供給され得、その原料は、すでに所望の組成を含む。そのような前駆体は、規定量のアルミニウムを融解すること、規定量でさらなる成分を加えること、及び均質な混合物の処理をすることにより、簡単に得ることができる。次いで、ワイヤの芯の前駆体は、例えば、鋳造又は押出による溶融又は固化合金から、任意の公知の手法で鋳造又は成形され得る。
【0042】
最終的なワイヤの形状への前駆体の成形は、通常、一連の延伸工程により実施される。円形断面を備えるワイヤの場合、延伸工程は形成工程のみであってもよい。他の場合、特にリボンについて、その方法は、代替又は追加の圧延工程を含んでもよい。異なる変形方法が含まれるさらなる工程があってもよいということを理解されたい。
【0043】
一般的に好ましい実施形態において、芯の前駆体又は最終的なボンディングワイヤを均質化する工程が含まれている。少なくとも含有されたスカンジウムの高い割合がアルミニウムに固溶される、アルミニウムを基礎とした材料の均質化は、加熱手順として理解される。最も好ましくは、スカンジウムの割合全体が、アルミニウムに固溶される。これは、結晶構造の調整を制御することに余裕がある。要求に応じて、最終的なボンディングワイヤは、溶存態で残っている全てのスカンジウムと共にボンディングツールに送られてもよい。そのような場合において、スカンジウムを含有する金属間相は、ボンディングプロセスの後半、又はボンディング後でも、又はボンディングする装置の操作の間でも形成されてもよい。
【0044】
最も好ましくはあるが、均質化工程の後、結晶構造を調整するため、及び特に、所定のスカンジウム含有相を形成するために、いくつかの所定の処理工程がある。
【0045】
均質化工程は、最終的な延伸工程より前に実施されるのが一般的に好ましい。これは、後に、特に微細なスカンジウムを含有する金属間相の形成に役立ち得る、最終的な延伸工程において、格子欠陥が加えられるため、ワイヤ特性の改良に役立ち得る。
【0046】
スカンジウムの十分な融解を達成するため、均質化の工程は、好ましくは、少なくとも450℃、より好ましくは少なくとも550℃の均質化温度に、所定の時間、芯の前駆体又は最終的なボンディングワイヤを加熱する工程を含む。加熱工程の後、少なくとも10K/秒、より好ましくは少なくとも100K/秒の速度で急冷するのがなお一層好ましい。そのような急冷は、例えば、水のような冷えた液体中にボンディングワイヤを浸漬するような、簡単な手段によりなされ得る。
【0047】
最も好ましい実施形態では、ワイヤの析出硬化の工程が含まれる。析出硬化は、ワイヤの機械的強度を高めるため、制御された手法で結晶粒が濃縮し及び成長するアニーリングの工程として定義される。これは、ワイヤの硬度の増大、及び、特に、ワイヤの引張強さの増大をもたらす。析出アニーリング(precipitation annealing)のための好ましい温度範囲は250℃〜400℃であり、ワイヤの曝露時間は、典型的には、少なくとも30分間である。最も好ましい実施形態では、析出硬化は微分散したAl
3Sc金属間相の形成をもたらす。微分散したAl
3Sc金属間相は、好ましくは500nm未満、より好ましくは300nm未満、さらにより好ましくは150nm未満、及び最も好ましくは25nm未満の粒径を有する。粒径の特に好ましい範囲は、20〜200nmである。
【0048】
好ましいワイヤの引張強さは、少なくとも140MPa、より好ましくは少なくとも160MPa、及び最も好ましくは少なくとも180MPaであるように選択される。そのような引張強さは、細いワイヤでさえも、容易な及び信頼性の高い延伸を、特に可能にする。太いワイヤの場合について、引張強さは、製造プロセスに関して、重要ではない。定義目的のために、材料の引張強さは、直径100μmの円形ワイヤにより測定される。驚くべきことに、本発明のボンディングワイヤの引張強さは、従来のAlSi1合金ワイヤの範囲に等しい値に調整できることが分かる。
【0049】
ワイヤを製造するための方法のより好ましい詳細な実施形態に関して、特に最適化されたアニーリングパラメータに関しては、本発明のボンディングワイヤの先の詳述に対して参照される。
【0050】
本発明の主題を図面に例示する。しかしながら、図面は、本発明の範囲又は特許請求の範囲を決して限定するものではない。