【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業/革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
GSCHWIND Fabienne, ZAO‐KARGER Zhirong, FICHTNER Maximilian,A fluoride-doped PEG matrix as an electrolyte for anion transportation in a room-temperature fluoride ion battery,Journal of Materials Chemistry A ,英国,2014年 2月 7日,Vol.2 No.5,Page.1214-1218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたフッ化物イオン伝導性電解液を含む電解質層を、正極と負極との間に配置する工程を備える、フッ化物イオン電池の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.フッ化物イオン伝導性電解液の製造方法
本発明に係るフッ化物イオン伝導性電解液の製造方法は、フッ化物と溶媒との混合時に、フッ化物及び/又は溶媒を加熱する工程を備える点、並びに、当該加熱する工程における加熱温度を溶媒が分解する温度未満とする点に特徴がある。
【0013】
本発明において用いられる「フッ化物」は、溶媒に溶解してフッ化物イオンを乖離し、フッ化物イオン伝導性を発現することが可能なものであればよく、例えば無機フッ化物塩や有機フッ化物塩を用いることができる。
【0014】
無機フッ化物塩としては、MF
n(Mは金属、nは0よりも大きい整数)で表されるフッ化物が挙げられ、具体的には、LiF、CsF、RbF、KF、NaFなどのアルカリ金属フッ化物、MgF
2、BaF
2、CaF
2、SrF
2などのアルカリ土類金属フッ化物、CoF
3、CuF
2、FeF
2、FeF
3、AlF
3、SnF
2、AgF、AgF
2などの遷移金属フッ化物が挙げられる。この中でもアルカリ金属フッ化物、CsF、KF、LiFが好ましく、CsFが特に好ましい。
【0015】
有機フッ化物塩としては、テトラメチルアンモニウムフルオライド、ネオペンチルトリメチルアンモニウムフルオライド、トリネオペンチルメチルアンモニウムフルオライド、テトラネオペンチルアンモニウムフルオライド、1−アダマンチルトリメチルアンモニウムフルオライド、フェニルトリメチルアンモニウムフルオライド、1,2−ビス(ジメチルアミノ)−1,2−ビス(ジメチルアンモニウム)エチレンジフルオライドなどの有機アンモニウムフルオライド;
ヘキサメチルグアニジウムフルオライドなどのグアニジウムフルオライド;
1,3,3,6,6−ヘキサメチルピペリジニウムフルオライド、ポリ(1,1−ジメチル−3,5−ジメチレンピペリジニウム)フルオライドなどのピペリジニウムフルオライド;
1−メチルヘキサメチレンテトラミンフルオライドなどのテトラミンフルオライド; テトラメチルホスホニウムフルオライド、テトラフェニルホスホニウムフルオライド、フェニルトリメチルホスホニウムフルオライドなどの有機ホスホニウムフルオライド;
トリメチルスルホニウムフルオライド、トリ(ジメチルアミノ)スルホニウムジフルオロトリメチルシリケートなどの有機スルホニウムフルオライド;
などが挙げられ、この中でも有機アンモニウムフルオライドが好ましく、テトラメチルアンモニウムフルオライド、ネオペンチルトリメチルアンモニウムフルオライド、テトラネオペンチルアンモニウムフルオライドが特に好ましい。
【0016】
本発明において用いられる「溶媒」は、上記したフッ化物を溶解可能なものであればよく、水、各種有機溶媒、イオン液体等を用いることが可能である。具体的には、
水;
エタノール、エチレングリコールなどのアルコール;
アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン;
アセトニトリル、ベンゾニトリル、4−フルオロベンゾニトリル、ペンタフルオロベンゾニトリルなどのニトリル;
トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンなどのアミン;
ジメトキシエタン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル;
エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、プロピルメチルカーボネートなどのカーボネート;
酢酸エチル、酪酸メチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、ギ酸メチル、酢酸2−メトキシエチルなどのエステル;
テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのフラン;
γ−ブチロラクトンなどのラクトン;
ニトロメタンなどのニトロ化合物;
ベンゼン、トルエン、ヘキサフルオロベンゼンなどの芳香族化合物;
クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化アルキル; ジメチルスルホキシド、スルホラン、二流化炭素、エチルメチルスルホネート、トリメチレンスルホネート、1−メチルトリメチレンスルホネート、エチル−sec−ブチルスルホネート、エチルイソプロピルスルホネート、3,3,3−トリフルオロプロピルメチルスルホネート、2,2,2−トリフルオロエチルスルホネートなどの硫黄化合物;
N,N−ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、ヘキサメチルホスホラストリアミドなどのアミド;
4−メチル−1,3−ジオキソランなどのオキソラン;
ピリジンなどの複素環式化合物;
1−メチル−2−ピロリドン(N−メチルピロリドン)などのピロリドン;
ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチルなどのホウ酸化合物;
トリメチルホスフェート、トリ−n−プロピルフォスフェートなどのリン酸エステル化合物;
トリメチルブチルアンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリメチルブチルアンモニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、トリメチルブチルアンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリメチルブチルアンモニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリメチルブチルアンモニウム−トリフルオロメタンスルホネート、トリメチルブチルアンモニウム−テトラフルオロボレート、トリメチルブチルアンモニウム−ヘキサフルオロホソフェート、N,N−ジエチル−N−メチルメトキシエチルアンモニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N,N−ジエチル−N−メチルメトキシエチルアンモニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、N,N−ジエチル−N−メチルメトキシエチルアンモニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N,N−ジエチル−N−メチルメトキシエチルアンモニウム−トリフルオロメタンスルホネート、N,N−ジエチル−N−メチルメトキシエチルアンモニウム−テトラフルオロボレート、N,N−ジエチル−N−メチルメトキシエチルアンモニウム−ヘキサフルオロホスフェート、などの鎖状アンモニウム系イオン液体;
N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−トリフルオロメタンスルホネート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−テトラフルオロボレート、N−メチル−N−プロピルピペリジニウム−ヘキサフルオロホソフェート、1−メトキシエチル−1−メチルピロリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、1−メトキシエチル−1−メチルピロリジニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、1−メトキシエチル−1−メチルピロリジニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−メトキシエチル−1−メチルピロリジニウム−トリフルオロメタンスルホネート、1−メトキシエチル−1−メチルピロリジニウム−テトラフルオロボレート、1−メトキシエチル−1−メチルピロリジニウム−ヘキサフルオロホスフェート、などの環状アンモニウム系イオン液体;
1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−トリフルオロメタンスルホネート、1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−テトラフルオロボレート、1−エチルー3−メチルイミダゾリウム−ヘキサフルオロホソフェート、1−エチルピリジニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、1−エチルピリジニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、1−エチルピリジニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−エチルピリジニウム−トリフルオロメタンスルホネート、1−エチルピリジニウム−テトラフルオロボレート、1−エチルピリジニウム−ヘキサフルオロホスフェート、などの芳香族系イオン液体;
テトラブチルホスホニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、テトラブチルホスホニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、テトラブチルホスホニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、テトラブチルホスホニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、テトラブチルホスホニウム−トリフルオロメタンスルホネート、テトラブチルホスホニウム−テトラフルオロボレート、テトラブチルホスホニウム−ヘキサフルオロホソフェート、トリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、トリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム−トリフルオロメタンスルホネート、トリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム−テトラフルオロボレート、トリエチル−(2−メトキシエチル)ホスホニウム−ヘキサフルオロホスフェート、などのホスホニウム系イオン液体;
トリエチルスルホニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリエチルスルホニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、トリエチルスルホニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、トリエチルスルホニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、トリエチルスルホニウム−トリフルオロメタンスルホネート、トリエチルスルホニウム−テトラフルオロボレート、トリエチルスルホニウム−ヘキサフルオロホソフェート、ジエチル−(2−メトキシエチル)スルホニウム−ビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド、ジエチル−(2−メトキシエチル)スルホニウム−ビス(フルオロスルホニル)アミド、ジエチル−(2−メトキシエチル)スルホニウム−トリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、ジエチル−(2−メトキシエチル)スルホニウム−トリフルオロメタンスルホネート、ジエチル−(2−メトキシエチル)スルホニウム−テトラフルオロボレート、ジエチル−(2−メトキシエチル)スルホニウム−ヘキサフルオロホスフェート、などのスルホニウム系イオン液体;
などが挙げられ、この中でも、揮発を抑制できるとともに耐熱性に優れる(分解温度が高い)観点から、カーボネート、エーテル、硫黄化合物、リン酸エステル化合物、芳香族系イオン液体、鎖状アンモニウム系イオン液体を用いることが好ましく、プロピレンカーボネート、トリメチルホスフェートを用いることが特に好ましい。
【0017】
本発明では、上記したようなフッ化物と溶媒とを混合し、溶媒にフッ化物を溶解させる。フッ化物と溶媒との混合比については特に限定されるものではないが、溶媒中のフッ化物濃度の下限は、好ましくは0.01mol/kg以上、より好ましくは0.05mol/kg、さらに好ましくは0.1mol/kg以上であり、上限は好ましくは10mol/kg、より好ましくは5mol/kg、さらに好ましくは2mol/kgである。尚、溶媒においてフッ化物の全体が完全に溶解している必要はなく、一部が溶解しないまま残存していてもよい。
【0018】
本発明において、フッ化物と溶媒とを混合する手段としては公知の手段を用いればよい。例えば、フッ化物と溶媒とを容器内で攪拌して混合することができる。溶媒の揮発を抑える観点からは、フッ化物と溶媒とを密封容器内で混合することが好ましい。
【0019】
本発明では上記したようなフッ化物と溶媒とを混合する際、フッ化物及び/又は溶媒を加熱する。具体的な形態としては、(1)フッ化物と溶媒とを混合しながら溶媒が分解する温度未満でフッ化物及び溶媒を加熱する形態、(2)分解温度未満に加熱した溶媒にフッ化物を添加して混合する形態、(3)溶媒の分解温度未満に加熱したフッ化物を溶媒に添加して混合する形態などが挙げられる。これらの中でも、温度制御が容易であるとともに効果も一層顕著となる観点から、フッ化物と溶媒とを混合しながら溶媒が分解する温度未満でフッ化物及び溶媒を加熱する形態が好ましい。混合と加熱を並行して行うと、加熱によりイオン乖離したフッ化物と溶媒との接触頻度が高くなることで、短時間でフッ化物がイオン乖離した状態を維持しやすくなる。本発明では、(1)〜(3)のいずれの場合であっても、混合時の溶媒及びフッ化物の温度が周辺温度よりも上昇するように調整される。
【0020】
本発明において、フッ化物及び/又は溶媒を加熱する手段については公知の手段を用いればよい。例えば、フッ化物と溶媒とを収容した容器を外部からヒーター等を用いて加熱することで、フッ化物及び溶媒を加熱することができる。溶媒の揮発を抑える観点からは、フッ化物及び溶媒を密封容器内に収容したうえで加熱することが好ましい。
【0021】
加熱温度としては、溶媒の分解温度未満であればよく、用いる溶媒の種類に応じて適宜決定される。用いる溶媒の種類にもよるが、加熱温度の下限値は、好ましくは24℃超であり、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは60℃以上である。加熱温度の上限値は、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下である。加熱温度をこのような温度とすることにより、溶媒の分解を抑制しつつ、フッ化物の乖離を一層促進することができ、イオン伝導度が一段と向上する。
【0022】
混合時間(或いは加熱時間)については、用いるフッ化物や溶媒の種類によって適宜決定されるが、短時間であっても十分な効果が得られる。用いるフッ化物や溶媒の種類にもよるが、下限が好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上であり、上限が24時間以下、より好ましくは10時間以下である。
【0023】
尚、本発明においては、上記したフッ化物及び溶媒とともに、本発明の効果を損なわない範囲で、電解液中に「その他成分」を含有させてもよい。例えば、フッ化物イオンを配位させることが可能なアニオン受容体や、フッ化物塩の金属イオンを配位させることが可能なカチオン受容体を含有させてもよい。アニオン受容体としてはフッ素化したボラン、ボロナート、ボレートなどのフッ素化ホウ素系化合物などが挙げられる。カチオン受容体としては、クラウンエーテル類、ラリアットエーテル類、メタラクラウンエーテル類、カリックスクラウン類、テトラチアフルバレンクラウン類、カリックスアレン類、カリックスアレンジキノン類、テトラチアフルバレン類、ビス(カリックスクラウン)テトラチアフルバレン類などが挙げられる。
【0024】
上記のその他成分については、フッ化物と溶媒とともに混合時に添加してもよいし、フッ化物と溶媒との混合及び加熱後において添加してもよい。
【0025】
従来において、フッ化物イオン伝導性電解液を製造する際は、溶媒の揮発や溶媒の分解を抑制するため、室温付近(20℃)でフッ化物塩と溶媒との混合及び調整を行うのが一般的であった。しかしながら、本発明者らの知見によれば、フッ化物塩はイオン結合性の強い塩であり、室温での混合ではイオン乖離が進み難い。そのため、製造される電解液はフッ化物イオン伝導性が十分でなく、フッ化物イオン電池に適用した場合に十分な性能が得られない場合があった。この点、本発明では、従来技術とは反する工程を敢えて採用し、フッ化物と溶媒との混合時に加熱を行うことで、フッ化物のイオン乖離を促進させることができ、電解液のフッ化物イオン伝導性を向上させることができる。尚、本発明では、加熱温度の上限については溶媒の分解温度未満としており電解液の劣化の心配はない。また、後述の実施例にも示すが、本発明により奏されるイオン伝導性の向上効果は、電解液の加熱を終えて室温に冷却した後においても持続する。すなわち、本発明により得られる電解液は、フッ化物イオン電池の作動環境においても十分なイオン伝導性を発現できる。以上のように、本発明によれば、フッ化物イオン伝導性を向上させることが可能な電解液の製造方法が提供される。
【0026】
2.フッ化物イオン電池の製造方法
上記したフッ化物イオン伝導性電解液は、フッ化物イオン電池の電解液として特に好適に用いられる。すなわち、本発明はフッ化物イオン電池の製造方法としての側面も有する。具体的には、上記した製造方法により得られたフッ化物イオン伝導性電解液を含む電解質層を正極と負極との間に配置する工程を備える、フッ化物イオン電池の製造方法である。
【0027】
フッ化物イオン電池における正極や負極は、フッ化物イオンを収容し、或いは、フッ化物イオンを放出することが可能な公知の材料により構成すればよい。
【0028】
電解質層は、上記したフッ化物イオン伝導性電解液が保持される層であり、例えば公知のセパレータ等を用いてここにフッ化物イオン伝導性電解液を含浸させることで電解質層を構成することができる。
【0029】
そして、電解質層が正極と負極との間に配置されるようにして電解質層、正極及び負極を電池ケース内に収容し、端子等を適宜取り付けることで、フッ化物イオン電池を製造できる。尚、電解質層、正極及び負極を複数積層した積層電池としてもよいし、フッ化物イオン電池を複数スタックしてもよい。
【0030】
本発明に係るフッ化物イオン電池の製造方法によれば、電解質層に用いられる電解液のフッ化物イオン伝導性が向上されているため、電流密度等が増大した優れた性能を有するフッ化物イオン電池を製造可能である。本発明により製造されるフッ化物イオン電池は、一次電池としても二次電池としても使用可能である。
【実施例】
【0031】
以下、実施例に基づいて、本発明に係るフッ化物イオン伝導性電解液の製造方法について詳述するが、本発明は以下の具体的な形態に限定されるものではない。
【0032】
1.フッ素イオン伝導性電解液の作成
(実施例1)
フッ化セシウム(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、80℃に加熱しながら1時間攪拌することで、実施例1に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0033】
(実施例2)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、80℃に加熱しながら1時間攪拌することで、実施例2に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0034】
(実施例3)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、60℃に加熱しながら5時間攪拌することで、実施例3に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0035】
(実施例4)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、60℃に加熱しながら8時間攪拌することで、実施例4に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0036】
(実施例5)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をジメチルスルホキシド(キシダ化学社製)に対して0.13mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、80℃に加熱しながら1時間攪拌することで、実施例5に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0037】
(実施例6)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をN−メチルピロリドン(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、80℃に加熱しながら1時間攪拌することで、実施例6に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0038】
(比較例1)
フッ化セシウム(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、室温(24℃)で60時間攪拌することで、比較例1に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0039】
(比較例2)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、室温(24℃)で60時間攪拌することで、比較例2に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0040】
(比較例3)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をプロピレンカーボネート(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、室温(約30℃)で160時間攪拌することで、比較例3に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0041】
(比較例4)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をジメチルスルホキシド(キシダ化学社製)に対して0.13mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、室温(約30℃)で25時間攪拌することで、比較例4に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0042】
(比較例5)
テトラメチルアンモニウムフルオライド(アルドリッチ社製)をN−メチルピロリドン(キシダ化学社製)に対して0.1mol/kgとなるよう秤量のうえ混合し、フッ素樹脂製密封容器内にて、室温(約30℃)で25時間攪拌することで、比較例5に係るフッ素イオン伝導性電解液を得た。
【0043】
2.イオン伝導性の評価
Ar雰囲気のグローブボックス内で、実施例1〜6及び比較例1〜5に係るフッ素イオン伝導性電解液を恒温槽にて液温25℃にしたのち、伝導度計(メトラートレド社製:セブンゴープロ)を用いて、それぞれイオン伝導度を測定した。結果を
図1〜5に示す。
【0044】
図1、2に示す結果から明らかなように、フッ化物と溶媒とを混合する際に加熱を行った実施例は、加熱を行わなかった比較例と比較して、イオン伝導度が格段に向上している(実施例1:Δσ=0.100mS/cm、比較例1:Δσ=0.049mS/m、実施例2:Δσ=1.80mS/cm、比較例2:Δσ=1.68mS/m)。また、加熱を行わなかった場合においては攪拌時間が60時間と長時間であったにも関わらず電解液のイオン伝導性が低いのに対し、実施例では1時間という短時間での攪拌でイオン伝導性を大きく向上させることができた。さらに、フッ化物として無機フッ化物塩を用いた場合(実施例1)、及び、有機フッ化物塩を用いた場合(実施例2)のいずれにおいても十分な効果が認められた。
また、
図3に示す結果から明らかなように、フッ化物と溶媒とを混合する際に加熱及び攪拌を行った実施例は、加熱を行わず長時間の攪拌のみを行った比較例と比較して、イオン伝導度が格段に向上している(実施例2:Δσ=1.80mS/cm、実施例3:Δσ=1.76mS/cm、実施例4:Δσ=1.76mS/cm、比較例2:Δσ=1.68mS/cm、比較例3:Δσ=1.67mS/cm)。この結果からも、電解液のイオン伝導性を向上させる要因が、攪拌時間ではなく加熱であることが分かった。
さらに、
図4、5に示す結果から明らかなように、電解液を構成する溶媒の種類によらず、加熱によるイオン伝導性向上効果が確認できた(実施例5:Δσ=1.47mS/cm、比較例4:Δσ=1.43mS/m、実施例6:Δσ=0.199mS/cm、比較例5:Δσ=0.186mS/m)。
すなわち、フッ化物と溶媒とを混合して電解液を製造する際は、フッ化物が無機塩であるか有機塩であるかを問わず、また、溶媒の種類を問わず、溶媒が分解する温度未満で加熱することで、短時間でフッ化物のイオン乖離を促進でき、電解液のフッ化物イオン伝導性を向上できることが分かった。