(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の繊維と、平均直径が10〜300nmかつ標準偏差σが該平均直径の少なくとも10%である疎水性固形有機ナノ粒子を少なくとも0.1重量%含む線状引張材であって、少なくとも10,000dtexの繊度を有し、少なくとも80重量%の繊維が1g/cm3よりも高い密度である線状引張材。
繊維が、アラミド、ポリエステル、液晶ポリエステル、ポリベンザゾール、ポリアミド、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリロニトリル、黒鉛、炭素、ガラス及び鉱物繊維及びそれらの組合せから選択される、請求項1に記載の線状引張材。
水及び水性液体中で浮かぶ少なくとも繊度10,000dtexの線状引張材を作成するための、平均直径が10〜300nmかつ標準偏差σが該平均直径の少なくとも10%である疎水性固形有機ナノ粒子の、線状引張材の重量に基づいて少なくとも0.1重量%の使用。
少なくとも繊度10,000dtexの浮遊線状引張材の製造方法であって、複数の繊維又は糸条が結合され、複数の繊維又は糸条のうち、少なくとも1本の繊維又は糸条に、平均直径が10〜300nmかつ標準偏差σが該平均直径の少なくとも10%である疎水性固形有機ナノ粒子が処理され、疎水性固形有機ナノ粒子の量が、線状引張材の重量の少なくとも0.1重量%である浮遊線状引張材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の目的のためには、線状引張材は、細長い物体と定義され、一つの次元が他の二つの次元よりもかなり大きく、少なくとも10,000dtexの繊度(質量線密度)を有するものである。本発明の線状引張材は、撚り、螺旋巻き、組編み、交絡、編み、又はこれらの方法のいずれかの組合せによって、相互に密着した複数の繊維から成る。
【0010】
例えば、撚りを掛け平行に配置した繊維は、結合させて1つの線状引張材とすることができる。強固に結合させた繊維を伴う本発明の線状引張材は、一般的に、緩く結合させた繊維の束よりも、高い質量の密度を有する。線状引張材の繊度は、ASTM−D 1907によって測定することができる。線状引張材は、軸方向張力が付されるのに特に適合し、したがって、耐荷部材として機能する。
線状引張材の例は、ロープ、縄、テザー、係船索、曳航索及びケーブルであるが、これらに限定されない。
【0011】
驚くべきことに、本発明の線状引張材は、たとえ(多くの線状引張材において望まれるように)緻密化された繊維から成るものであっても、同じ仕上げ剤で処理され、本発明の線状引張材よりも低い質量密度を有する同じく緩く結合させた繊維の束である線状引張材のように浮かぶ。疎水性固形有機ナノ粒子の適用は、高い質量密度を持ち、したがって、浮遊性がより小さく、又はより短時間しか浮遊しない緻密化線状引張材では、余り効果的でないと予測されていた。
【0012】
さらにいえば、本発明の利点は、疎水性固形有機ナノ粒子の小さな粒子サイズであり、これは繊維の直径を、つまり線状引張材の直径を増加させない。また、本発明の線状引張材は、単に、本明細書中で記載されるように疎水性固形有機ナノ粒子で処理された繊維を組み合わせることによって製造することができる。別の層が、浮遊効果を達成するために線状引張材に加えられる必要はない。
本発明による線状引張材は、一般に、3から300mmの間の直径を有し、好ましくは、直径は10から250mmの間、より好ましくは、20から100mmの間、なおより好ましくは40から80mmの間である。
【0013】
本発明の線状引張材は、種々の断面、例えば、円形、丸形及び楕円/長円形を有することができる。線状引張材は複数の細長いエレメントを含むゆえに、これは決して完全に円形ではなく、むしろ、よく観察すると多面体断面を有する。しかしながら、そのような形態は、丸形及び楕円又は長円形の用語に含まれる。線状引張材の断面は使用中に変化する可能性があり、張力がかかった線状引張材の断面は、平たく押しつぶされたり、卵型であったり、又はほとんど矩形の形状さえ示すことを意味する。長円形断面を持つ線状引張材の場合、直径とは、有効直径のことをいう。丸くない断面を持つ線状引張材の有効直径とは、その丸くない線状引張材と同じ長さ当たり質量を持つ丸い線状引張材の直径のことをいう。
【0014】
線状引張材は、少なくとも10,000dtex、なおより好ましくは少なくとも25,000dtexの繊度を有する。一般に、1000Mtexの最大繊度を挙げることができる。線状引張材の使用に応じて、通常異なる繊度が選択される。線状引張材は、例えば、0.3Mtexよりも高い、好ましくは0.5Mtexよりも高く10Mtex、好ましくは5Mtexまでの繊度を有することができる。そのような繊度は、フローラインで用いることができる。しかしながら、本発明は、1Mtexよりも大きくかつ50、100、250、500、又は1000までものMtexの線密度を持つ線状引張材も含む。そのような高線密度材は、例えば、係船索で用いられる。
【0015】
線状引張材は、限定されるものではないが、撚り糸及び組編み及びそれらのどんな組合せをも含めた、当業者に公知のどんな方法によって得ることができる。例えば、1680dtexの2000本の糸条を、各々、組み合わせて、その結果、20mmの直径を持つ33Mtex線状引張材を得ることができる。
もう1つのロープにおいて、1680dtexのほぼ12000本の糸条を組み合わせた結果、50mmの直径を持つ200Mtexのロープが得られる。
【0016】
好ましい実施態様において、線状引張材は、フィラメント当たり低い繊度を持つ繊維を意味する、低力価の繊維をから成る。例えば、0.5から5dpf(フィラメント当たりのデニール)の繊度を持つ繊維が適切であり、好ましくは、4dpf未満の線密度を持つ、より好まくは、3dpf未満又は2dpf未満の線密度を持つ繊維が選択される。
【0017】
線状引張材は、複数の繊維を含む。
複数の繊維を組み合わせて、その結果、糸条、例えば、連続糸条、すなわち長い連続的な繊維の束を得ることができる。本明細書の文脈において、繊維という用語は、マルチフィラメント繊維のみならず、マルチフィラメント繊維から作成されたテープも含む。
それから作成された繊維又は糸条の組合せは、線状引張材を形成する。
【0018】
糸条は様々な方法で結合させられ、その結果、糸条の繊度、直径及び結合に関して非常に多様な線状引張材を得ることができる。例えば、少なくとも2本の糸条を撚り合わせて、ストランドを得ることができる。そのようなストランドは、線状引張材となり得る。
しかしながら、複数のストランドを用意し、それらを結合して、より大きな線状引張材とすることも可能である。糸条及び糸条のストランドは、組編み、撚糸、より糸加工、撚り合わせによって結合させることができるか、又はそれらは平行撚りされるか、又はそれらのどんな組合せでも束ねることができる。
【0019】
線状引張材において、繊維、糸条及び/又はそのストランドは、一般には、長さ方向に揃えられる。
繊維又は糸条の少なくともいくつかについての1つの実施態様において、繊維又は糸条から線状引張材内の長手方向中心軸までの距離は、線状引張材の長さにわたって変化する。これは、繊維又は糸条の少なくともいくつかが、反復変動パターンを示すように配置されることを意味する。一般に、そのような線状引張材における繊維又は糸条は2°よりも大きなねじれ角を有する。
【0020】
もう1つの実施態様において、線状引張材の繊維、糸条及び/又はストランドは、少なくとも2本の糸条又はストランドを平行に敷き、スリーブ、ラップ又はポリマーコーティングによって囲うことにより結合させて、個々の糸条又はストランドを互いにに緊密に保ち、線状引張材を保護する。一般に、もし平行に並べれば、糸条又はストランドは2°以下のねじれ角を有する。そのような配置により、一方向(UD)線状引張材が得られる。
【0021】
線状引張材の繊維を結合させる方法とは別に、被覆物を用いて、線状引張材を、粒子進入から、例えば、砂粒子から保護することができる。恐らくは、スリーブ、ラップ又はコーティングの形態である被覆物は、線状引張材の全長、その一部のみ、又は例えば接合部位のみを被覆することができる。接合部位においては、2つの線状引張材の端部を結合させて、1本のより長い線状引張材が得られる。(部分)被覆物を、本発明による全ての線状引張材に適用することができる。平行撚りされた糸条又はストランド、及び2°よりも大きなねじれ角を持つ繊維及び/又は糸条を含むストランドを結合させて1本の線状引張材とすることも可能である。
【0022】
最終的な線状引張材の直径は様々である。1つの実施態様において、線状引張材は少なくとも5mm、好ましくは少なくとも8mm、より好ましくは少なくとも10mm、なおより好ましくは少なくとも20mmの直径を有する。選択された直径は、線状引張材の用途に依存する。一般に、線状引張材は、例えば、係船索として用いる場合のように、直径を500mmにまですることができる。
【0023】
繊維は種々の材料から作成することができる。本発明は、1g/cm
3よりも高い密度を有する繊維を対象とする。繊維の密度は、ASTM−D3800を用いて測定することができる(ISO 139に準じた20℃における測定)。繊維の密度は、繊維が作成される材料又はポリマーの密度とは異なり得る。
【0024】
これらの繊維のための適切な材料の例は、例えば、鉱物繊維、及びアラミド、ポリエステル、液晶(コ)ポリエステル、ポリベンザゾール、ポリアミド、ポリ(ビニルアルコール)、ポリアクリロニトリル、黒鉛、炭素、剛性棒状ポリマー繊維、ガラス、及びそれらのブレンドのような、種々の天然及び合成繊維である。本発明による線状引張材は、材料の1つのタイプのみならず、異なる材料から作成された繊維より作成された繊維を含むことができる。
【0025】
1g/cm
3よりも低い密度を持つ材料から作成された繊維を、より高い質量密度を持つ材料から作成された繊維と組み合わせるのも本発明の範囲内である。しかしながら、そのような態様においては、線状引張材の繊維の平均密度は1g/cm
3を超える。例えば、ポリエチレン繊維をアラミド繊維と組み合わせることができる。
【0026】
本明細書の文脈において、アラミドとは、芳香族ジアミン及び芳香族ジカルボン酸ハロゲン化物の縮合ポリマーである芳香族ポリアミドをいう。アラミドは、メタ及びパラ形態で存在してよく、その双方を本発明で用いることができる。芳香族部位間の結合の少なくとも85%がパラアラミド結合であるアラミドの使用が好ましいと考えられる。このグループの典型的なメンバーとして、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)及びポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド又はコポリ(パラ−フェニレン/3,4’−ジオキシフェニレンテレフタルアミド)が挙げられる。芳香族部位間の結合の少なくとも90%、より特別には少なくとも95%がパラアラミド結合であるアラミドの使用が好ましいと考えられる。PPTAとも示されるポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の使用が特に好ましい。
【0027】
ポリエステルは、ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体及びジオール又はそのエステル形成性誘導体から合成されたポリマーである。
ポリエステルの例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート(別名、ポリプロピレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート及びポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートが挙げられる。
【0028】
液晶ポリエステル(LCP)は、好ましくは、溶融状態で液晶性を呈し、450℃以下の温度で融解するポリエステルである。液晶ポリエステルは液晶ポリエステルアミド、液晶ポリエステルエーテル、液晶ポリエステルカーボネート、又は液晶ポリエステルイミドである。液晶ポリエステルは、好ましくは、芳香族化合物のみを原料モノマーとして用いる全芳香族液晶ポリエステルである。液晶ポリエステルの典型的な例としては、(I)芳香族ヒドロキシカルボン酸を、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選択される少なくとも一種の化合物と重合(重縮合)させることによって得られた液晶ポリエステル;(II)複数の種類の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させることによって得られた液晶ポリエステル;(III)芳香族ジカルボン酸を、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンよりなる群から選択される少なくとも一種の化合物と重合させることによって得られた液晶ポリエステル;及び(IV)ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステルを芳香族ヒドロキシカルボン酸と重合させることによって得られた液晶ポリエステルが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンの一部又は全ては、各々、独立して、それらの重合可能な誘導体に変更することができる。
【0029】
本出願の目的では、用語ポリベンザゾールは、ポリベンゾオキサゾール(PBO)ホモポリマー、ポリベンゾチアゾール(PBT)ホモポリマー、及びPBO及び/又はPBTのランダム、交互及びブロックコポリマーを含む。
【0030】
本出願で用いるポリアミドとは、典型的には溶融紡糸可能であって、延伸すると、産業的応用に適した特性を有する繊維に成る、一般には直鎖状の種々の脂肪族ポリカーボンアミドホモポリマー、及びコポリマーのいずれをもいう。例えば、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(6,6ナイロン)及びポリ(ε−カプロアミド)(6ナイロン)、ポリ(テトラメチレンアジパミド)(4,6ナイロン)が、産業繊維で典型的に用いられるポリアミドである。本発明は、ポリアミドのコポリマー及び混合物にも適用可能である。
【0031】
本発明による線状引張材は水及び水溶液に浮かぶ。本発明による線状引張材は純水にも、表面水で起こり得る10重量%までの塩含有量を持つ水、及び例えば、油のような、微量の汚染物を含む水又は塩水にも浮かぶ。
本発明の目的での浮遊は、繊維の質量密度は水の密度よりも高いものの、本発明による線状引張材の浮力の上向き力が、重力の下向き力に少なくとも等しいことを意味する。
【0032】
同一構成の、ナノ粒子を含まない同一の繊維で作成された線状引張材は沈むであろう。本発明の線状引張材は緩く結合させた繊維よりも高い質量密度を有するものの、(強固に結合させた繊維を持つ)本発明の線状引張材は、緩く結合させた繊維の束と同程度長く浮かんだままであるため、有利である。
線状引張材は、10から300nmの平均直径、及び平均直径の少なくとも10%の標準偏差σを持つ疎水性固形有機ナノ粒子を含む。疎水性固形有機ナノ粒子は中空、すなわち、かさばっていない。
【0033】
本発明で用いる粒子は、10から300nm、好ましくは20から200nm、より好ましくは25から100nmの平均直径を有する。狭いナノ粒子サイズ分布はこの場合には有利でない。異なる直径の粒子の混合物は、疎水性及び浮遊能力に顕著に寄与することが判明した。もし粒子が異なる直径を有すれば、水分子は粒子に付着するためのより大きな困難性を有し、これは疎水性の増大に導く。この理由で、その直径が、平均直径の少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%の標準偏差σで分布するナノ粒子を用いるのが有利である。かくして、同様に、全てのナノ粒子の平均直径より小さな直径を有するナノ粒子、及びより大きな直径を有するナノ粒子が混ざって含有されているのが好ましい。
【0034】
この効果は、90°の接触角よりも良好なものとして測定することができ、超疎水性と呼ばれる。接触角は、液体界面(例えば、水)がナノ粒子の固体表面となす角度である。接触角は好ましくはできる限り高く、100°よりも良好な、115°よりも良好な、又は135°よりもさらに良好な接触角を達成することができる。ナノ粒子直径分布の大きな分散は、大きな接触角を得るのに有利である。
【0035】
ナノ粒子は、原理的には、どんな形状を有することもできるが、水分子と最小の接触面積を有するためには、球状、楕円状、及び棒状の粒子が好ましい。該粒子は、線状引張材が用いられる条件下でそれらの形状を維持するべきである。それらは溶解、融解又はそれらの形状を変化させてはいけない。
【0036】
1つの実施態様において、ナノ粒子は、120から220℃の間のガラス転移温度Tgを持つ、ビニル芳香族モノマー及びマレイミドモノマーのコポリマーから成る。
好ましい実施態様において、疎水性粒子は、粒子のコア及びシェルが異なる材料から形成されていることを意味するコア−シェル粒子である。コア−シェル粒子のコアは、ワックス、パラフィン又は油から成ることができる。
好ましくは、120から220℃の間のガラス転移温度を持つビニル芳香族モノマー及びマレイミドモノマーのコポリマーをから成るシェルを持つコア−シェル粒子が、線状引張材に用いられ、特に、ポリ(スチレン−コ−マレイミド)から成るシェルを持つものが用いられる。
【0037】
コア−シェル粒子は公知である。WO2008/014903は、コア材料及び該コア材料を囲むシェル材料から成る封入された液滴の形状である粒子であって、該シェル材料がスチレン及び無水マレイン酸誘導体のコポリマーを含有することを特徴とする粒子を開示する。ポリ(スチレン−コ−マレイミド)は、疎水性及び吸水防止特性を付与するのに用いられてきたポリマーである。US6,407,197及びEP1405865において、ビニル芳香族モノマー及び無水マレイン酸モノマーユニットを含有する出発ポリマーのイミド化によって得られた、ビニル芳香族モノマー及びマレイミドモノマーユニットのポリマーの水性分散液が記載されている。典型的には、ポリ(スチレン−コ−無水マレイン酸)(SMA)は、イミド化に際してポリ(スチレン−コ−マレイミド)(SMI)を得るための適切な出発モノマーである。SMAは、例えば、アンモニアでSMIに変換することができる。SMAのイミド化、より一般的には、ビニル芳香族モノマー及び無水マレイン酸モノマーのコポリマーのイミド化は公知のプロセスであって、紙及びボール紙での適用は、US6,407,197、US6,830,657、WO2004/031249及びUS2009/0253828のような種々の特許出願に記載されてきた。WO2007/014635においては、その表面にSMIを含む顔料粒子が、紙用のコーティング組成物として記載されている。適切なSMI−ポリマーは、120から220℃の間、より好ましくは150から210℃の間のガラス転移温度Tgを有する。ガラス転移温度Tgは、例えば、TA機器Q2000熱量計(Advanced Zero Technologies)及び5mgの試料を用い、DSC(示差走査型熱量測定)によって決定される。2つの加熱及び冷却サイクルが、10℃/分の加熱及び冷却速度にて−30℃から250℃の範囲にわたって行われる。第二の加熱サイクルの測定が、Tgを決定するために用いられる。結果の解釈のために、DSCソフトウェア「TA universal analysis 2000」が用いられる。
WO2011/069941においては、糸条又はファブリックをコーティングして、該糸条又はファブリックにおいて吸水を抑制するために、同様なコア−シェル粒子が用いられる。
【0038】
SMI−シェルを持つコア−シェル粒子は公知であって、SMIコア−シェル粒子からなり、コアとして70部のパーム油及びシェルとしての30部のSMIを有するNano Tope(登録商標)26PO30として商業的に入手可能である。もう1つの商業的に入手可能な製品は、SMIコア−シェル粒子からなり、ここで、70部のパラフィンワックスがコアをなし、30部のSMIがシェルをなすNano Tope(登録商標)26WA30である。SMI層は(ナノメートルの範囲で)非常に薄く、パラフィンの脂肪族鎖は、SMI−外側層に貫入することができ、それにより粒子の疎水性に寄与する。コアは疎水性であって、原理的には、どんな油、パラフィン又はワックス、又はその混合物でもあり得る。パラフィンは、アルカン、ポリオレフィン及びテルペンを含む。油は、植物油、ワセリン油、及びパラフィンワックスを含む。
【0039】
本発明で用いる適切なナノ粒子は、疎水性であって、さらなるナノの態様(すなわち、粒子の異なるサイズ)が、ナノ粒子が供給された繊維のために超疎水性を生み出す。
これは、特に、SMI系コア−シェル粒子で示されてきた。コアがパーム油又はヒマシ油のような材料のものである粒子のさらなる利点は、これらの油は再生可能であって、生分解性であり、これは、環境的な理由で有利であるという事実である。
コア−シェル粒子を記載するどんな文献も、粒子−被覆繊維又は糸条を用いて、水性液体中に浮かぶ線状引張材を調製することができることを記載していない。先に指摘したように、浮遊効果は、線状引張材の繊度の増加に伴って改善されることが期待される。
【0040】
どんな理論に拘束されることを望むものではないが、本発明に記載されたコア−シェル粒子の存在は、線状引張材の繊維中及び繊維間に存在する線状引張材中の空気を捕獲するようである。それは、繊維のフィラメントの間、糸条の繊維の間、及び糸条とストランドの間に存在する空気を意味する。これによって、本発明による線状引張材の水中の有効密度は、本発明で用いる繊維が液体の密度より高い密度を有するにもかかわらず、それと同等、又はそれよりも低い。
好ましくは、本発明は、疎水性固形有機ナノ粒子が線状引張材の繊維又は糸条の少なくともいくつかの表面に存在する線状引張材に関する。
【0041】
1つの実施態様において、疎水性固形有機ナノ粒子は、線状引張材の全ての繊維又は糸条の表面に存在する。疎水性固形有機ナノ粒子は、当業者に公知の種々の方法で適用することができる。例えば、ナノ粒子はコーティング又は仕上げ剤として適用することができる。ナノ粒子は繊維、糸条、ストランド及び/又は完成した線状引張材に適用することができる。好ましくは、コーティングは、線状引張材のそれぞれの糸条又はストランドに供給される。
前記した種々の実施態様は、当業者が適合すると考えるやり方で、1つの線状引張材において組み合わせることができる。
【0042】
本発明は、水性液体中で浮かぶ少なくとも10,000dtexの繊度を持つ線状引張材を作成するための、10から300nmの平均直径及び該平均直径の少なくとも10%の標準偏差σを持つ少なくとも0.1重量%の疎水性固形有機ナノ粒子の使用にも関する。水性液体は純水のみならず、表面水中で起こり得る10重量%までの塩分含有量を持つ水、及び例えば、油の微量の汚染物を含む塩水も含む。
【0043】
本発明の線状引張材について記載された種々の実施態様及びそれらのどんな組合せも、線状引張材を浮遊性とするための、疎水性固形有機ナノ粒子の使用にも適用される。
好ましくは、本発明は、10から300nmの平均直径及び該平均値の少なくとも10%の標準偏差σを持つコア−シェル粒子を用い、ここで、該コア−シェル粒子のシェルは、線状引張材を水性液体中で浮かせるために120から220℃の間のガラス転移温度Tgを持つ、ビニル芳香族モノマー及びマレイミドモノマーのコポリマー、特に、ポリ(スチレン−コ−マレイミド)から成る。
【0044】
さらに、本発明は、少なくとも1本の繊維が、10から300nmの平均直径及び該平均値の少なくとも10%の標準偏差σを持つ疎水性固形有機ナノ粒子で被覆された複数の繊維を結合させることによって、浮遊線状引張材を製造する方法にも関し、ここで、該疎水性固形有機ナノ粒子の量は線状引張材の重量に基づいて少なくとも0.1重量%である。
【0045】
本発明の線状引張材について記載された種々の実施態様及びそれらの組合せは、浮遊線状引張材を製造する方法にも適用される。該方法は、好ましくは、コア−シェル粒子のシェルが、120から220℃の間のガラス転移温度Tgを持つ、ビニル芳香族モノマー及びマレイミドモノマーのコポリマー、特に、ポリ(スチレン−コ−マレイミド)をから成るコア−シェル粒子を使用する。
【0046】
製造の過程で、例えば、浴中、キスロール又はスリットアプリケータなど通常使用される適用技法によって、ナノ粒子は繊維、糸条、ストランド又は線状引張材と接触させられる。粒子は、例えば、溶液又は分散液の形態とすることができる。典型的な製造速度は、10から700m/分、より好ましくは25から500m/分である。
糸条又はファブリック上の粒子の典型的な量は、線状引張材の繊維の重量に基づいて、0.1から20重量%、好ましくは0.5から10重量%、なおより好ましくは1から5重量%である。ナノ粒子は、分散液として、例えば、繊維、糸条、ストランド及び/又は線状引張材の表面のコーティングとして適用することができる。
【0047】
もし親水性仕上げ剤が繊維又は糸条上に存在すれば、これは、好ましくは、ナノ粒子を適用する前に、(例えば、蒸発又は洗浄によって)最初に除去される。好ましくは、疎水性仕上げ剤はナノ粒子を適用する前に繊維状に存在する。好ましい疎水性仕上げ剤は、ジグリセリド又はトリグリセリドを含む仕上げ剤である。そのような仕上げ剤は、グリセロールを、6から20の炭素原子を持つ飽和又は不飽和脂肪酸でエステル化することによって得られる。そのような仕上げ剤で処理された繊維は、引き続いて、ナノ粒子で被覆することができる。
【0048】
したがって、1つの実施態様において、線状引張材は複数の繊維、少なくとも0.1重量%の疎水性固形有機ナノ粒子及び疎水性仕上げ剤から成る。
1つの実施態様において、線状引張材は複数の繊維、少なくとも0.1重量%の疎水性固形有機ナノ粒子及び疎水性仕上げ剤から成る。
1つの実施態様において、線状引張材は、複数の繊維及び少なくとも0.1重量%の疎水性固形有機ナノ粒子からなる。
【実施例】
【0049】
以下の実施例及び図面は、本発明をより詳細に記載するが、本発明の範囲を制限するものではない。
図1は、水に浮かぶ本発明によるアラミドロープを示し、他方、疎水性ナノ粒子を含まない同一アラミドロープは底に沈む。
【0050】
実施例1−アラミドロープの浮遊特性
40mmのピッチ長を持つ5mm直径の編組ロープ(普通編組)を、トワロン2200の12本のストランドから調製した。各ストランドは、8本の1580f1000の糸条(Roblon Tornado 400を用いてメートル当たり25回転の撚りを掛け、キャリアの回転によりS25又はZ25とした)を含むものであった。撚りを掛けた後に、ストランドは、Herzog SE 1−12−266組機(垂直編組方向)にて、ロープに編組した。時計方向に回転する6つのキャリアは、キャリアの内側にS25ボビンを配置させ、反時計方向に回転する6つのキャリアはZ25ボビンを配置させた。線状引張材は約155000dtexの繊度を有し、繊維は1.6dpfの密度を有した。ロープは、未仕上げトワロン2200糸条(対照)から、又は未仕上げトワロン2200糸条を、Nano Tope 26WA30(60重量%固形物、供給業者:TopChim)及びHymo90(Goulstonによって供給された非極性仕上げ油)を4:0.3の重量比で含むエマルジョンで処理した糸条から得た。3重量%(エマルジョンの重量に基づいた固形物)のエマルジョンを、スリットアプリケータによって糸条に適用し、糸条に対し(3.5重量%のナノ粒子に対応する)約3.9重量%の固形物量を得た。引き続いて、糸条を温風オーブン中で乾燥し、ボビンに巻いた。
【0051】
ロープを調製し、蒸留水及び海水に入れた。
未処理アラミド糸条から調製したロープは直ちに沈み、他方、処理された糸条から調製されたロープ、すなわち、本発明によるロープは、蒸留水及び海水の双方中で30日を超えて浮いたままであった。本発明による線状引張材の浮遊挙動を示す写真については
図1を参照のこと。
【0052】
実施例2−ポリエステルロープの浮遊特性
約20mの糸条を含む糸条の束を、ポリエステル糸条、より具体的には、Teijin Fibers Ltd.製ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維P900M(1100T、250f)から調製した。
1つの束は、未処理PET糸条(対照)から調製した。
他の束は、Nano Tope 26WA30(60重量%固形物、供給業者:TopChim)及びHymo90(Goulstonによって供給された非極性仕上げ油)を4:0.3の重量比で含むエマルジョンで処理した以外は同一のPET糸条から調製した。エマルジョンを水中で(エマルジョンの重量に基づいて)4.5から15重量%の固形物含有量まで希釈し、糸条に適用し、その結果、(糸条の重量に基づいて)3から10重量%の糸条上の固形物濃度が得られた。エマルジョンは、25m/分の撚り糸速度でスリットアプリケータを用いて適用した。引き続いて、糸条を150又は240℃で約72秒間乾燥した(表1参照)。
全てのPET繊維束を水に落下させた。浮遊挙動を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
対照試料である未処理PET糸条の束は非常に速く沈んだ。対照的に、ナノ粒子で被覆した糸条は、糸条上のエマルジョンの量に依存して、数時間の間、又は1カ月を超える間、浮かんだままであった(その後の浮遊挙動は測定しなかった)。
【0055】
実施例3−緻密化線状引張材及び繊維束の浮遊特性
アラミドロープは、実施例1におけるのと同じ仕上げ剤組成物で処理したトワロン2200糸条から実施例1におけるように調製した(試料)。比較試料として、試料と同じ量の仕上げた糸条を、端部のみを一緒に縛ることにより糸条を固定し緩く結束した(対照)。
試料及び対照の質量密度は、補助的液体として水を用い、固形物についての方法に従い、「Operating instructions,Density determination kit for ExcellenceXP/XS precision balances of Mettler Toledo」に従って測定した。
【0056】
試料ロープは0.29g/mlの密度を有し、対照は0.22g/mlの密度を有した(試料ロープ及び対照は、Nano Tope組成物で処理された糸条を含む)。少なくとも14日間、試料及び対照の水中での浮遊挙動は同じであった。この実験は、疎水性固形有機ナノ粒子の適用が、驚くべきことに、緻密化繊維を持つ線状引張材についてさえ、十分に有効密度を低下させることを示す。