(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
機能性樹脂微粒子が、平均粒径5〜50μmで膜厚2〜15μmの熱可塑性高分子からなる外殻と、該外殻に内包される低沸点炭化水素とで構成され、該低沸点炭化水素の沸点が熱可塑性高分子の軟化温度以下である熱膨張性マイクロカプセルであることを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載の電気絶縁紙。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
<電気絶縁紙>
本発明の電気絶縁紙について、
図1を使用して説明する。本発明の電気絶縁紙は、耐熱性樹脂を含浸または内包した紙状物1の片面(a)もしくは両面(b)に熱膨張性絶縁層2を配置している。
【0013】
(紙状物)
紙状物としては、各種の繊維材料を湿式法や乾式法を用いた公知の方法によりシート化した抄造紙、不織布が使用できる。紙状物の厚さは、適用すべき前記電気絶縁が必要な空間の寸法に応じて適宜設計すればよく、一般的な抄造紙、不織布が作製できる範囲において特に限定するものではない。
本発明の電気絶縁紙を構成する紙状物の繊維材料としては化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKB)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)等のセルロース成分、ケナフ、麻、竹等の非木材系のパルプ、ガラス繊維、ポリエチレン、ポリエステル繊維、セラミック繊維等の化学繊維、セラミック繊維、各種のエンジニアリングプラスチック及び各種のフッ素系樹脂を単独または任意の割合で混合して使用することができる。また、必要に応じてこれらの繊維材料を粉砕して配合することも可能である。
【0014】
前記エンジニアリングプラスチック及びフッ素系樹脂としては、例えば、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン、シンジオタクチックポリスチレン、非晶ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、部分フッ素化樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体などが挙げられる。
【0015】
紙状物を湿式の抄造により作製する場合、パルプ叩解度はカナダ標準ろ水度で400ml以上600ml以下にすることが必須である。ろ水度が600mlを超える場合には、紙層を形成するパルプ繊維間の結合強度が大幅に弱くなり、引張強度、層間強度、破裂強度が低下することにより、加工時に破壊、破断が発生しやすくなる。またカナダ標準ろ水度が400ml未満では形成加工して使用する際に、折部で紙層表面に割れが発生しやすくなり、また紙の密度が高くなるため、同じ厚さの電気絶縁紙を得るために坪量を増やす必要がありコストアップとなる。さらに柔軟性が低くなり加工性が悪化する。
【0016】
また、本発明では紙状物に耐熱安定化剤を含有することが好ましい。紙に耐熱安定化剤を添加することにより紙状物の酸化劣化が抑制されることにより耐熱性が向上する。耐熱安定化剤として、熱や光による紙状物の酸化劣化を防止する成分として、酸化防止剤、光酸化防止剤、紫外線吸収剤、光遮蔽剤、消光剤などを適宜添加することが好ましい。例えば、酸化防止剤としてはフェノール系、リン系、硫黄系、アミン系の酸化防止剤が使用でき、特にジシアンジアミド等のアミン系化合物が好適に用いられる。アミン添加紙とすることによりパルプの耐熱性が向上する。耐熱安定化剤の添加量は適宜の設計事項であるが、例えばパルプの乾燥質量100に対して1〜20程度の質量比である。耐熱安定化剤は抄紙用のパルプスラリーに混合したり、サイズプレスを用いたりして紙層中に含有することができる。
【0017】
さらに本発明の電気絶縁紙には、品質に影響のない範囲で、サイズ剤、紙力増強剤、定着剤、歩留まり向上剤、染料などの内添薬品及び、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、水酸化アルミニウムなどの内添填料を使用することが出来る。
【0018】
紙状物を湿式の抄造により作製する場合、抄紙機の型式は特に限定は無く、例えば丸網式、長網式、短網式、傾斜網式などの抄紙機を用いて抄紙し、これをヤンキードライヤー、ロータリードライヤー、バンドドライヤー等で乾燥して紙状物を製造できる。プレス線圧は通常の操業範囲内で用いられる。表面処理剤は塗布しても良いし、しなくても良い。表面処理剤を塗布する場合、表面処理剤の成分には特に限定は無く、またサイズプレスの型式も限定はなく、2ロールサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレスのような液膜転写方式サイズプレスなどを適宜用いることができる。
【0019】
表面処理剤は、特に限定は無く、例えば、生澱粉や、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉などの変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコールなどの変性アルコール、スチレンブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドなどを単独又は併用できる。
【0020】
紙層への塗工の有無は問わないが、塗工層を設ける場合には顔料として重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、酸化チタン、ホワイトカーボン、サチンホワイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏、水酸化アルミニウム、焼成カオリン、デラミネーテッドカオリン、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、亜硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機顔料やプラスチックピグメントなどの有機顔料等を適宜使用できる。好ましくは、軽質炭酸カルシウム、カオリン、マイカ等の無機顔料を塗工層中に含有させることで絶縁性をより向上させることができる。紙層に塗工層を設ける場合に用いる添加剤は特に限定するものではなく、バインダー、分散剤、保水剤、消泡剤等の助剤を適宜使用することができる。
【0021】
紙状物に塗工層を設ける方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の公知の塗工機を用いた方法の中から適宜選択することができる。
【0022】
塗工後は、塗工層を乾燥させ、塗工紙を得る。乾燥方法としては例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法を採用することができ、乾燥後、必要に応じて、後加工であるスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の仕上げ工程によって平滑性を付与することが可能である。又、その他、一般的な紙加工方法をいずれも適用可能である。
【0023】
(含浸樹脂)
紙状物に含浸または内包する樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル等の架橋性ポリマー、ゴム成分、各種熱可塑性樹脂が使用できる。前記ゴム成としては、天然ゴム、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ポリイソブチレン(ブチルゴム IIR)、エチレンプロピレンゴム(EPM, EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、エピクロルヒドリンゴム(CO, ECO)、ウレタンゴム(U)、シリコーンゴム(Q)などが挙げられる。ゴム成分の添加により紙状物に可撓性を付与することができる。前記熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、耐熱性を有する熱可塑性樹脂であることが好ましく、特にガラス転移温度が150℃以上、好ましくは180℃以上の耐熱性を有するものが好適に使用される。このような熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、各種アクリル樹脂、液晶ポリマーなどが挙げられる。前記紙状物に含浸または内包する樹脂は単独で又は2種以上混合して使用できる。
【0024】
(熱膨張性の機能性樹脂微粒子)
熱膨張性の機能性樹脂微粒子は、外部からの加熱により不可逆的に体積膨張する性質を持つ微粒子である。熱膨張性の機能性樹脂微粒子は、熱可塑性高分子からなる外殻と、該外殻に内包される低沸点炭化水素とで構成され、該低沸点炭化水素の沸点が熱可塑性高分子の軟化温度以下である熱膨張性マイクロカプセルであることが好ましい。該熱可塑性高分子からなる外殻の平均粒径は5〜50μmが好ましく20〜45μmがより好ましく、25〜40がさらに好ましい、同外殻の膜厚は2〜15μmが好ましい。平均粒径が50μmを超えると、加熱膨張時に破裂して内包物が漏れ出す恐れがあり、そうなると耐熱性や電気絶縁特性を損ねる恐れがある。平均粒径が5μm未満では十分な膨張が得られない恐れがあり、そうなると狭い空間における隙間充填機能が不十分となるので、電気絶縁が必要な狭い空間を絶縁部材で充填することができず、電気絶縁が必要な導電性部材との密着性が不十分となり、電気絶縁特性を損ねる恐れがある。
【0025】
熱膨張性の機能性樹脂微粒子の外殻を構成する熱可塑性高分子は、加熱により軟化して膨張する内包物が脱出漏洩するのを防ぎながらマイクロカプセルの膨張を阻害しないことが必要であり、軟化温度が100℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは120〜250℃、より好ましくは150℃〜200℃であることが好ましい。100℃以下ではモーターの発熱に耐えることができず電気絶縁部材として不適である。250℃以上では加熱して電気絶縁空間を得る工程においてモーター等を構成する他の部材の耐熱性が問題となるため現実的ではない。外殻の構成物質としてはこのような熱可塑性高分子であれば特に限定されるものではないが、高い熱膨張率を得るには塩化ビニリデン−アクリロニトリル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル−アクリル酸メチル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル、アクリル酸エチル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル−メタクリル酸メチル、塩化ビニリデン−アクリロニトリル−酢酸ビニル、塩化ビニリデン−メタクリル酸メチル、アクリロニトリル−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−酢酸ビニル共重合樹脂が特に好ましい。さらに耐熱性及び電気絶縁性の観点からアクリロニトリル系の共重合体であることがさらに好ましい。
【0026】
前記アクリロニトリル系の共重合体としては、特にモノマー成分としてニトリル系モノマーを80重量%以上使用したものが好適であり、ニトリル系モノマーとしてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エトキシアクリロニトリル、フマロニトリル、これらの任意の混合物等が例示されるが、アクリロニトリル及び/またはメタクリロニトリルが特に好ましい。非ニトリル系モノマーとしてはメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ブタジエン、ビニルピリジン、α−メチルスチレン、クロロプレン、ネオプレン、これらの任意の混合物等が例示されるが、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸メチルが特に好ましい。
【0027】
前記アクリロニトリル系の共重合体におけるモノマー成分としての非ニトリル系モノマーの使用量は20重量%以下である。さらに架橋剤を添加してもよく、例えばジビニルベンゼン、ジメタクリル酸エチレン、グリコール、ジメタクリル酸トリエチレングリコール、トリアクリルホルマール、トリメタクリル酸トリメチロールプロパン、メタクリル酸アリル、ジメタクリル酸1,3−ブチルグリコール、トリアリルイソジアネート等が例示されるが、トリアクリルホルマールやトリメタクリル酸トリメチロール等の三感応性架橋剤を、0〜1重量%使用してもよい。
【0028】
熱膨張性の機能性樹脂微粒子の外殻に内包される低沸点炭化水素としてはその沸点が前記熱可塑性高分子の軟化温度以下であれば特に限定されるものではないが、例えばプロパン、プロピレン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の低沸点炭化水素であり、フロロトリクロロメタン、ジフロロクロロブロムメタン、テトラフロロジブロムエタン等の低沸点有機ハロゲン化合物類であり、又低沸点炭化水素と低沸点有機ハロゲン化合物を併用することもできるが、特に好ましくは熱膨張率を高くすることができ生産の容易さからイソブタン、ブタン、ヘキサンが良い。そして低沸点炭化水素に対する揮発性液体の含有量は3〜50%が好ましく高い熱膨張率を得るには、5〜30%が特に好ましい。このような熱膨張性の機能性樹脂微粒子は、例えば特公平5−15499に開示されている。
【0029】
(熱膨張性絶縁層)
熱膨張性絶縁層の形成は、熱膨張性絶縁層を予め形成しておき前記樹脂含浸した紙状物と熱溶融させたり耐熱性接着剤を介したりして複合化して形成することもできるし、熱膨張性の機能性樹脂微粒子を含む塗料を前記樹脂含浸した紙状物に塗工して形成することもできる。
【0030】
熱膨張性絶縁層の厚さは、本発明の電気絶縁紙の熱膨張後の寸法と適用すべき前記電気絶縁が必要な空間の寸法とから適宜設計すればよく、特に限定するものではないが、少なくとも前記熱膨張性の機能性樹脂微粒子の粒子が1層以上含まれていることから、該機能性樹脂微粒子の平均粒径以上の厚さを有していればよく、5μm以上の厚さである。熱膨張性絶縁層の厚さの上限はないが、熱膨張性絶縁層が熱膨張した後の厚さと前記紙状物の厚さとのバランスを考慮して、紙状物と電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間(後述する。)とを合わせた電気絶縁体の電気絶縁性が損なわれない範囲で設計すればよい。
【0031】
熱膨張性絶縁層には、耐熱性を向上させるために熱硬化性樹脂を適宜添加することができる。熱硬化性樹脂の形状は、塗工などによる熱膨張性絶縁層の形成を妨げない形状であれば特に限定するものではなく微粒子状でも繊維状でもよくその大きさは適宜の設計事項である。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ノボラック系フェノール樹脂、レゾール系フェノール樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミドなどが挙げられる。
【0032】
本発明の電気絶縁紙における熱膨張性絶縁層を、前記樹脂含浸した紙状物に塗工により形成する場合は、該熱膨張性の機能性樹脂微粒子をエマルジョン化し、塗工することができる。塗工層を設ける場合に用いる添加剤は特に限定するものではなく、バインダー、分散剤、保水剤、消泡剤等の助剤を適宜使用することができる。
【0033】
熱膨張性の機能性樹脂微粒子の塗工層を設ける方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の公知の塗工機を用いた方法の中から適宜選択することができる。
【0034】
塗工後の乾燥方法としては、前記熱膨張性の機能性樹脂微粒子の外殻に内包される低沸点炭化水素の沸点より低い乾燥温度で行う必要があることに留意さえすれば、公知の方法を使用すればよく、例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法を採用することができ、乾燥後、必要に応じて、後加工であるスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の仕上げ工程によって平滑性を付与することが可能であるし、その他、一般的な紙加工方法をいずれも適用可能であるが、この場合にも前記低沸点炭化水素の沸点より低い温度で処理する必要がある。
【0035】
(その他の成分)
本発明において、紙状物、含浸樹脂、熱膨張性絶縁層には、本発明の効果を損ねない範囲において、種々の添加剤を含んでいてもよい。この添加剤の種類は特に限定されず、粘着付与樹脂、難燃剤、酸化防止剤、無機フィラー、気泡核剤、結晶核剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、顔料、架橋剤、架橋助剤、シランカップリング剤などの一般的なプラスチック用配合剤などを挙げることができる。これらの添加剤の配合比率は、適宜の設計事項である。
【0036】
<電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間>
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間について、
図2を使用して説明する。
図2(a)は電気モーターまたは変圧器の一部分の部材の位置関係を示しており、鉄芯等からなるコア材4とコイル5とが電気絶縁が必要な狭い空間10を介して配置されている。
図2(b)は前記
図2(a)の電気絶縁が必要な狭い空間10に本発明の電気絶縁紙11を挿入した状態を示している。電気絶縁紙11は
図1(b)で示した紙状物1の両面に熱膨張性絶縁層2を配置したものを例示している。
図2(c)は、前記
図2(b)の全体を加熱することにより電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間3が形成されている状態を示している。紙状物1と電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間3とを合わせた状態が本発明の電気絶縁体である。
【0037】
電気絶縁紙は加熱により厚さが増大し、狭い空間における隙間充填機能を有するので、電気絶縁が必要な狭い空間10を絶縁部材で充填した電気絶縁空間3を形成することができるとともに電気絶縁が必要な導電性部材(例えばコア材4やコイル5)との密着性を高くすることが可能である。さらに電気絶縁が必要な複数の導電性部材(例えばコア材4とコイル5)どうしをそれらの立体位置関係を変化させずに前記電気絶縁空間3を形成した状態で接着固定することも可能である。本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間において電気絶縁性、耐熱性に優れ、耐油性を有しているので、電気モーター及び変圧器の相間絶縁用途として使用可能である。
【0038】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間の比誘電率は、空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける複素誘電率を測定し、その実数部を比誘電率とした。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、短冊状のサンプル(サンプルサイズ2mm×70mm長さ)を用いて測定した。
【0039】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間は、1GHzにおける比誘電率が2.0以下であることが好ましい。該電気絶縁空間の比誘電率が2.0以下であれば、モーター用電気絶縁性樹脂シートの1GHzにおける比誘電率を2.0以下にすることが可能となり、モーターの絶縁部材として使用した際に、耐サージ電圧による絶縁破壊を防止することができる。一方1GHzにおける比誘電率が2.0を超えると、モーター用電気絶縁性樹脂シートを構成した際に、比誘電率を2.0以下にすることが困難となる。本発明においては、多孔質樹脂層の1GHzにおける比誘電率は、1.9以下、さらに1.8以下であることが好ましい(通常1.4以上)。なお比誘電率は、電気絶縁空間固有の比誘電率に依存するが、空孔率を高くすることで低誘電化することが可能である。
【0040】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間の比誘電率は、空洞共振器接動法により、周波数1GHzにおける複素誘電率を測定し、その実数部を比誘電率とした。測定機器は、円筒空洞共振機(アジレント・テクノロジー社製「ネットワークアナライザ N5230C」、関東電子応用開発社製「空洞共振器1GHz」)によって、短冊状のサンプル(サンプルサイズ2mm×70mm長さ)を用いて測定した。
【0041】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間は厚さが10μm以上であることが好ましく、さらに好ましくは20〜500μmの範囲である。該厚さが10μm以上の範囲であれば、モーター用電気絶縁性樹脂シートにおいて、絶縁性を維持できるという利点がある。一方多孔質樹脂シートの厚さが10μm未満であると、絶縁破壊が起こりやすく、500μmを超えると電気エネルギー変換効率が低下して、モーター出力が低下するという不具合が発生する恐れがある。
【0042】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間に含まれる気泡の平均気泡径は、5.0μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは4.5μm以下であり、特に4.0μm以下であることが好ましい(通常0.01μm以上)。多孔質樹脂層の平均気泡径が5.0μm以下であれば、絶縁性や機械強度を低下させることなく比誘電率を低くすることができるという利点があり、5.0μmを超えると絶縁性や機械強度が低下する場合がある。
【0043】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間に含まれる気泡の平均気泡径は、多孔質樹脂層の切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立製作所社製「S−3400N」)で観察したのち、その画像を画像処理ソフト(三谷商事社製「WinROOF」)で二値化処理し、気泡部と樹脂部とに分離して気泡の最大垂直弦長を測定した。気泡径の大きいほうから50個の気泡について平均値をとり、平均気泡径とした。
【0044】
また本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間の空孔率は、30%以上であることが好ましく、さらに好ましくは40%以上である。多孔質樹脂層の空孔率が30%以上であれば、多孔質樹脂層内に均等な空孔が存在する状態となり誘電特性のバラツキが低減され、低誘電率化を図れるという利点があり、30%未満であると空孔形成状態が偏より誘電特性のバラツキが発生しやすくなり、比誘電率を下げることができない場合がある。
【0045】
本発明の電気絶縁紙を加熱して得られた電気絶縁空間の空孔率は、多孔化前の熱可塑性樹脂組成物、及び多孔化後の多孔質樹脂層の比重を測定し、下記式より算出した。
空孔率(%)=[1−(多孔質樹脂層の比重/多孔化前の熱可塑性樹脂組成物の比重)]×100
【実施例】
【0046】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によりなんら限定されるものではない。
【0047】
<試料の作製>
[実施例1]
紙状物として、
耐熱絶縁紙(新巴川製紙社製、商品名:TZA)
を用い、それぞれ30cm×20cmの寸法に裁断した。
含浸樹脂として電気絶縁性ワニスである、
フェノール系ワニス(日立化成社製、商品名:HPD−200)
を用い、エチルアルコールで固形分40%となるように含浸樹脂溶液を調整した。
ステンレス製バットに前記含浸樹脂溶液を100gを流し入れ、前記裁断した紙状物をバットに投入し、1分間静置して樹脂を含浸させた。
バットから紙状物を引き出し、温度120℃に設定した温風乾燥機に5分投入することにより乾燥し、樹脂含浸量が20g/cm
2である紙状物を作製した。
続いて、
熱膨張性の機能性樹脂粒子(松本油脂製薬社製、商品名:F190D) 20g
をトルエン20gに溶解し、メイヤーバーを使用して、前記樹脂含浸した紙状物に塗工し、温度120℃に設定した温風乾燥機で乾燥して、塗工量50g/m
2の熱膨張性絶縁層を形成し、実施例1の電気絶縁紙を得た。
【0048】
[
参考例2]
紙状物を下記のアラミド紙に変更した以外は実施例1と同様にして
参考例2の電気絶縁紙を得た。
アラミド紙(デュポン社製、商品名:ノーメックス)
【0049】
[実施例3]
紙状物を下記の紙/フィルム積層紙に変更した以外は実施例1と同様にして実施例3の電気絶縁紙を得た。
紙/フィルム積層紙(新巴川製紙社製、商品名:半合成紙200M)
【0050】
[参考例1]
実施例1の紙状物を参考例1の電気絶縁紙とした。ただし、参考例1の電気絶縁紙は、電気絶縁が必要な狭い空間に先に電気絶縁紙を設置してから該空間にワニスを流し込んで樹脂含浸を実施することにより電気絶縁体を形成する従来の方法を再現したものである。そこで、参考例1の電気絶縁紙からなる絶縁破壊強度の低下率の測定及び固定強度の低下率の測定においては、電気絶縁が必要な狭い空間に先に電気絶縁紙を設置してから樹脂含浸を実施する必要があるため、後述する別の方法により参考例1の電気絶縁紙が形成する電気絶縁体を作製した。
耐熱絶縁紙(新巴川製紙社製、商品名:TZA)
【0051】
<測定・評価方法>
耐熱性評価として実施例及び参考例の試料に形成された電気絶縁体について、熱履歴付与前後の絶縁破壊強度の低下率と固定強度の低下率とを評価した。
なお、本発明でいう固定強度とは、複数の導電性部材どうしをそれらの立体位置関係を変化させずに前記電気絶縁空間を形成した状態で接着固定するという本発明の電気絶縁紙の作用効果を評価する指標である。以下の実施例および参考例では、固定強度を鉄板と銅箔のはく離強度に置き換えて評価した。
【0052】
(絶縁破壊強度の低下率)
・試験片の作製
実施例
1、3及び参考例2の電気絶縁紙の試験片は、幅50mm×長さ100mm×厚さ1mmの鉄板片を水平に置き、該鉄片の2つの長辺それぞれの上に幅2mm×長さ100mm×厚さ500μmのPTFE製スペーサーを設置し、さらにその上側に前記鉄板片と同寸法の銅板片を設置し、スペーサーにより形成されている隙間に幅40mm×長さ100mmの実施例の電気絶縁紙を設置した状態で、温風乾燥機中で温度180℃で1分加熱した後に常温で自然冷却して、実施例の電気絶縁紙の試験片を作製した。この際、実施例の試験片は熱膨張して鉄板片と銅板片との間隙が充填されていることを目視で確認した。
【0053】
参考例1の電気絶縁紙の試験片も前記実施例の試験片に準じて作製した。幅50mm×長さ100mm×厚さ1mmの鉄板片を水平に置き、該鉄板片の2つの長辺それぞれの上に幅2mm×長さ100mm×厚さ500μmのPTFE製スペーサーを設置し、さらにその上側に前記鉄板片と同寸法の銅板片を設置し、スペーザーにより形成されている隙間に幅40mm×長さ100mmの実施例の電気絶縁紙を設置した状態で前記フェノール系ワニス(日立化成社製、商品名:HPD−200)を充填し、ワニス成分が漏出しないように鉄板片の2つの短辺をPTFEテープで封止し、温風乾燥機中で温度180℃で30分加熱した後に常温で自然冷却して、実施例の電気絶縁紙の試験片を作製した。この際、実施例の試験片は熱膨張して鉄板片と銅板片との間隙が充填されていることを目視で確認した。
【0054】
・熱履歴付与(曝露)後の試験片の作製
前記評価用の試験片を温風乾燥機中で、温度200℃で1000時間曝露した後に常温で自然冷却して曝露後の試験片を作製した。
電気絶縁体が形成されている試験片を温風乾燥機を用いて温度200℃で1000時間曝露し、曝露前後の電気絶縁体の絶縁破壊強度(単位:kV/mm)をJIS C2300−2に準じて測定し、その低下率を以下の式により算出した。
【0055】
(絶縁破壊強度の低下率)[%]
=(曝露前の絶縁破壊強度−曝露後の絶縁破壊強度)/(曝露前の絶縁破壊強度)×100
【0056】
絶縁破壊強度の低下率[%]値は0%に近いほど曝露による絶縁破壊強度の低下が小さく優秀といえるが、上記条件による曝露では概ね50%以下であれば従来の電気絶縁紙から形成した電気絶縁体程度の性能があるといえる。
【0057】
(固定強度の低下率)
固定強度の評価は、電気絶縁紙からなる電気絶縁体が、スペーサーを介して一定の面間距離を保っている鉄板と銅箔の間に密着して挟まれており、銅箔の一部がつかみしろを有しており、前記電気絶縁体により鉄板と銅箔とが接着固定されている態様の試験片を使用した。以下にさらに詳しく述べる。
【0058】
・試験片の作製
実施例1〜3の電気絶縁紙の試験片は、一辺20cmの正方形で厚さ2mmの鉄板を水平に置き、その上面に一辺20cmの正方形で厚さ500μmであって中心部に幅25mm×長さ150mmの貫通窓があるPTFE製スペーサーを設置し、該貫通窓に幅25mm×長さ150mmの実施例の電気絶縁紙をはめ込み、その上側に幅35mm×長さ200mm×厚さ38μmの銅箔を電気絶縁紙が完全に隠れかつ30mm程度のつかみしろが残るように鉄板と平行に設置した状態で、温風乾燥機中で温度180℃で1分加熱した後に常温で自然冷却して、実施例の電気絶縁紙の試験片を作製した。この際、実施例の試験片は熱膨張して鉄板と銅箔との間隙が充填されていることを目視で確認した。
【0059】
参考例1の電気絶縁紙の試験片も前記実施例の試験片に準じて作製した。一辺20cmの正方形で厚さ2mmの鉄板を水平に置き、その上面に一辺20cmの正方形で厚さ500μmであって中心部に幅25mm×長さ150mmの貫通窓があるPTFE製スペーサーを設置し、該貫通窓の内側に幅25mm×長さ150mmの参考例の電気絶縁紙を設置したのち前記フェノール系ワニス(日立化成社製、商品名:HPD−200)を充填し、その上側に幅35mm×長さ200mm×厚さ38μmの銅箔を電気絶縁紙が完全に隠れかつ30mm程度のつかみしろが残るように鉄板と平行に設置した状態で、温風乾燥機中で温度180℃で30分加熱した後に常温で自然冷却して、参考例の電気絶縁紙の試験片を作製した。この際、参考例の試験片はワニスにより鉄板と銅箔との間隙が充填されていることを目視で確認した。
【0060】
・熱履歴付与(曝露)後の試験片の作製
前記評価用の試験片を温風乾燥機中で、温度200℃で1000時間曝露した後に常温で自然冷却して曝露後の試験片を作製した。
【0061】
・固定強度の測定・評価
実施例
1、3及び参考例1
、2の曝露前及び曝露後の試験片をそれぞれ5個ずつ準備し、万能引張試験機を用い、鉄板を水平に設置し、銅箔のつかみしろをチャックではさんで90度はく離強度(単位:N)をJIS K6854−1に準じて測定し、5個の平均値を測定値とした。前記のように、曝露前に対する曝露後のはく離強度の低下率を固定強度の低下率とみなして、以下の式により算出した。
【0062】
(固定強度の低下率)[%]
=(はく離強度の低下率)[%]
=(曝露前のはく離強度−曝露後のはく離強度)/(曝露前のはく離強度)×100
【0063】
固定強度の低下率[%]値は0%に近いほど曝露による絶縁破壊強度の低下が小さく優秀といえるが、上記条件による曝露では概ね50%以下であれば従来の電気絶縁紙から形成した電気絶縁体程度の性能があるといえる。
【0064】
実施例および参考例の電気絶縁紙を用いた試験片の構成を表1に、評価結果を表2に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示した結果から、実施例
1、3及び参考例2に示した本発明の電気絶縁紙から形成した電気絶縁体と、参考例1に示した従来の電気絶縁紙から形成した電気絶縁体とは、絶縁破壊電圧低下率及び固定強度低下率がほぼ同等であることがわかる。すなわち、本発明の電気絶縁紙は、絶縁破壊電圧及び固定強度において従来の電気絶縁紙と同等の特性を有している。
これに加えて、本発明の電気絶縁紙は、電気絶縁が必要な狭い空間における電気絶縁体の形成方法において、従来の電気絶縁紙で必要であったワニスの流し込み工程が不要であり、さらに加熱時間も1分とごく短時間で完了できる。すなわち、本発明の電気絶縁紙は、電気絶縁が必要な狭い空間における電気絶縁体の形成において従来の電気絶縁紙より
も優れている。
このように、本発明の電気絶縁紙は、電気絶縁が必要な狭い空間を絶縁部材で充填した電気絶縁空間を形成することができるとともに電気絶縁が必要な導電性部材との密着性を高くすることが可能である。さらに電気絶縁が必要な複数の導電性部材どうしをそれらの立体位置関係を変化させずに前記電気絶縁空間を形成した状態で接着固定することも可能である。