特許第6181976号(P6181976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6181976吸水によりゲル状の形態を呈する複合ポリマー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181976
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】吸水によりゲル状の形態を呈する複合ポリマー
(51)【国際特許分類】
   C08H 99/00 20100101AFI20170807BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20170807BHJP
   C08B 15/00 20060101ALI20170807BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20170807BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C08H99/00
   C08B37/16
   C08B15/00
   B01J20/26 G
   B01J20/30
   B01J20/26 C
   B01J20/26 D
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-110007(P2013-110007)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-227519(P2014-227519A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月19日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、研究成果最適展開支援プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100103506
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 弘晋
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】甲野 裕之
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−518212(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸水したときにゲル状となるとともに、吸収された水に溶解または分散している有機化合物および無機化合物を捕捉できるシクロデキストリンとカルボキシメチルセルロースとの複合ポリマーの製造方法であって、
シクロデキストリンおよびカルボキシメチルセルロースの混合物を、塩基性溶媒中において架橋剤として作用する水溶性エポキシ化合物と反応させることを含み、
前記シクロデキストリンの比率を、カルボキシメチルセルロースモノマー単位1モルにつき5/7モル以下として反応させ
前記水溶性エポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテルであり、エチレングリコールジグリシジルエーテルの量がシクロデキストリンおよびカルボキシメチルセルロースの総和の2倍量である、複合ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記シクロデキストリンの比率を、カルボキシメチルセルロースモノマー単位1モルにつき1/7モル以上5/7モル以下として反応させる、請求項1に記載の複合ポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸水によりゲル状の形態を呈するポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは、6〜8個のグルコピラノースが環状結合した水溶性オリゴ糖である。シクロデキストリンは、分子内部に疎水性空間を有しており、当該疎水性空間内において有機化合物、無機化合物を包接することで、これら化合物を捕捉できる。
そして、このようなシクロデキストリンの性質を備え、且つ水に対して不溶である水不溶性シクロデキストリンポリマーが提案されている(例えば特許文献8〜11参照)。当該水不溶性シクロデキストリンポリマーは、例えば、エピクロロヒドリン等の架橋剤をシクロデキストリンに作用させることにより製造される。
また、水不溶性シクロデキストリンポリマーの用途として、水溶液に含まれるダイオキシン類、界面活性剤等の環境汚染物質の除去技術(特許文献1、特許文献2)、ヨウ素抽出技術(特許文献3)、クロロゲン酸、カフェイン分離技術(特許文献4、特許文献5)、血液中細菌毒素除去技術(特許文献6)、微生物固定化担体構築技術(特許文献7)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−111630号公報
【特許文献2】特開2008−246287号公報
【特許文献3】特開2008−093545号公報
【特許文献4】特開平07−322823号公報
【特許文献5】特開2004−000229号公報
【特許文献6】国際公開第2007/013122号
【特許文献7】特開2001−149975号公報
【特許文献8】特開昭58−171404号公報
【特許文献9】特開昭60−20924号公報
【特許文献10】特開2006−143953号公報
【特許文献11】特開2009−242556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献8〜11の水不溶性シクロデキストリンポリマーは固体非晶性であり、非クラック特性が低いなどの問題が残る。また、例えば選択肢を拡げるためなどの観点から、吸水したときにゲル状の形態を呈する、有機化合物や無機化合物を捕捉可能なポリマーがさらに開発されることについての要求が存在する。
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、吸水したときにゲル状の形態を呈し、有機化合物や無機化合物を捕捉可能な新規なポリマーおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題に関して検討した結果、水溶性エポキシ化合物を架橋剤に使用し、水溶性セルロース誘導体であるカルボキシメチルセルロースとシクロデキストリンとを、塩基性溶媒中で、シクロデキストリンとカルボキシメチルセルロースとのモル比が所定の関係を満たすように反応させることで、吸水したときにゲル状となる水不溶性のポリマーを合成できることを見出した。また、さらに本発明者は、得られたポリマーが吸水したときに水に溶存または分散等している有機化合物や無機化合物を捕捉できることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(i) 吸水したときにゲル状となるとともに、吸収された水に溶解または分散している有機化合物および無機化合物を捕捉できるシクロデキストリンとカルボキシメチルセルロースとの複合ポリマーの製造方法であって、
シクロデキストリンおよびカルボキシメチルセルロースの混合物を、塩基性溶媒中において架橋剤として作用する水溶性エポキシ化合物と反応させることを含み、
前記シクロデキストリンの比率を、カルボキシメチルセルロースモノマー単位1モルにつき5/7モル以下として反応させる、複合ポリマーの製造方法。
【0007】
(ii) 前記水溶性エポキシ化合物が、エチレングリコールジグリシジルエーテルである(i)に記載の複合ポリマーの製造方法。
【0008】
(iii) 前記シクロデキストリンの比率を、カルボキシメチルセルロースモノマー単位1モルにつき1/7モル以上5/7モル以下として反応させる、(i)または(ii)に記載の複合ポリマーの製造方法。
【0009】
(iv) (i)から(iii)のいずれか1つに記載の方法により製造される、吸水したときにゲル状となる複合ポリマー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、吸水したときにゲル状の形態を呈し、有機化合物や無機化合物を捕捉可能な新規なポリマーおよびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る複合ポリマー生成に係る反応のうち、シクロデキストリンとカルボキシメチルセルロースとの架橋反応の概要を示す図である。シクロデキストリンとしてβ−シクロデキストリンを、架橋剤としてエチレングリコールジグリシジルエーテルを用いた場合を例示している。なお、本実施形態に係る複合ポリマー生成においては、例示した架橋反応とともに、シクロデキストリン−シクロデキストリン分子間、カルボキシメチルセルロース−カルボキシメチルセルロース分子間の架橋反応も生じている。
図2】実施例の複合ポリマーの吸水前、吸水後形状を示す写真である。
図3】実施例の複合ポリマーの、純水に対する吸水率を示すグラフである。
図4】実施例の複合ポリマーの、保水量を示すグラフである。
図5】実施例の複合ポリマーのビスフェノールAに対する吸着量の時間依存性を表すグラフである。
図6】実施例の複合ポリマーのビスフェノールAに対する吸着量のビスフェノールA濃度依存性を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態の複合ポリマーについて詳細に説明する。なお、以下の説明においては、カルボキシメチルセルロースについてはCMCと、シクロデキストリンについてはCDと、複合ポリマーについては、CDCMCとも称する。
【0013】
図1に例示するように、本実施形態のCDCMCは、吸水によりゲル状の形態を呈するポリマーであり、例えば、CDとCMCの混合物を、塩基性溶媒中で水溶性エポキシ化合物と反応させることにより製造することができる。当該反応は架橋反応であり、CDとCMCを構成するグルコピラノースに含まれる水酸基等の官能基と水溶性エポキシ化合物間でエーテル化などの反応が進行することにより、CDとCMC、CDとCD、およびCMCとCMC間で架橋が形成される。図1は、これらの反応のうち、CDとCMC間の架橋反応の概要を示す図である。
なお、本明細書において、ゲル状とは高分子が部分的に架橋することで形成される三次元的構造物を指し、二成分(固体と水)組成を持つ凝集性分散系で、固体と水が全試料全体に連続的に広がっている形態をさす。具体的には三次元架橋構造物中の空隙に水分子が満たされた状態で水が流動性を失った形態のことをいい、固化した寒天やゼラチンのように水を取り込んで外に漏れなくなった状態であるものをいう。吸水したスポンジのように水と固体が二層を形成し、加圧によって水が流動し、漏れ出すものはゲル状ではない。
【0014】
本実施形態に係るCDは、α、βおよびγ−体のいずれでもよく、特に限定されない。また、本実施形態に係るCDは、α、βおよびγ−体のいずれか単独または2種以上の混合物であってもよい。また、メチル、エチル、ブチル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル等のシクロデキストリンエーテル類、アセチル、サクシニル、リン酸、硫酸等のシクロデキストリンエステル類やアミノシクロデキストリンを用いることもできる。
【0015】
また、本実施形態に係るCMCとしてその置換度、分子量は限定されず、当業者が適宜選択することができる。
【0016】
本実施形態の製造方法において架橋剤として作用する水溶性エポキシ化合物としては、水溶性を示す限り特に限定されず、当業者が適宜選択することができる。例えば、水溶性エポキシ化合物として、エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、2−エチルへキシルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリン(ECH)等のモノエポキシ化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGDE)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンノブリシジルエーテル等のジエポキシ化合物、グリセリントリグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート等のトリエポキシ化合物、グリセロ−ルポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル等のポリエポキシ化合物を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上を使用し得る。このうち、穏やかな反応条件で本実施形態のCDCMCの合成を進行できることから、エチレングリコールジグリシジルエーテルが好ましい。
使用される水溶性エポキシ化合物の量などは特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0017】
本実施形態に係る塩基性溶媒は、特に限定されず、当業者が適宜設定できる。塩基性溶媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を挙げることができる。
【0018】
ここで、本実施形態に係る塩基性溶媒におけるCDとCMCの混合物と水溶性エポキシ化合物との反応においては、CDとCMCの比率を、CMCモノマー1モルに対しCDを5/7モル以下として反応を行なう。
当該比率の関係を満足することにより、吸水したときにゲル状の形態を呈するシクロデキストリンポリマーを得ることができる。
得られるCDCMCにおいて捕捉対象の物質との接触機会を増やす観点から、CMCとCDの比率がCMCモノマー1モルに対しCDを1/7モル以上、5/7モル以下であることが好ましく、より好ましくは3/7モル以上、5/7モル以下である。
なお、特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、EGDEなどの水溶性エポキシ化合物の比率は、シクロデキストリン1モルに対し4モル以下であることが好ましい。また、本実施形態に係る製造方法において、反応時間や反応温度なども特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0019】
また、本実施形態においては、塩基性溶媒に、得られるポリマーの形状を調整するために、反応における媒体として流動パラフィンやヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、クロロフォルム、酢酸エチル、塩化メチレン等の無極性溶媒が添加されていてもよい。
【0020】
また、反応後の生成物(CDCMC)については、有機溶媒と水による洗浄を行なうことが望ましい。洗浄に用いられる溶媒は特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0021】
本実施形態のCDCMCは、その構成成分であるCDの内部に様々な有機化合物や無機化合物を包摂できる作用を有している。よって、本実施形態のCDCMCによれば、吸収された水に溶存または分散している有機化合物や無機化合物を捕捉できる。
したがって、本実施形態のCDCMCは、例えば、水からの有機化合物や無機化合物の除去または分離処理に用いることができる。
具体的には、本実施形態のCDCMCは、ビスフェノールA(BPA)、ダイオキシン類、界面活性剤などの人体や環境への悪影響が懸念される物質の除去処理に用いることができる。
さらに、本実施形態のCDCMCは、人体や環境への影響がないCDとCMCを用いて製造されているため、人体や使用される環境等への影響を抑えることができる。そのため、食品分野や医療分野における使用しやすさなども期待される。
さらにまた、本実施形態のCDCMCは吸水したときにゲル状の形態を呈するため、固体状の従来の水不溶性シクロデキストリンと比較して、より様々な場面での使用ができる。また、既存の水不溶性シクロデキストリンポリマーは不定形であり耐衝撃性に弱く、クラック特性が低い欠点があるため、ゲル化により粘弾性が生じることで、対衝撃性向上などの物理特性の改善が期待できる。すなわち、耐久性が向上し、反復利用や長期間の使用などの利点が予想される。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明について実施例でもって更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
・実施例のCDCMCの製造
β-シクロデキストリン(β−CD)とCMC(置換度0.68)を水酸化ナトリウム水溶液中でEGDEと反応させ、実施例のCDCMCを得た。
【0023】
[実施例1]
CMC 5.0 g(23 mmol) とβ−CD 3.7g(3.3 mmol)を1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液50mLに溶解し、300rpmで攪拌した。当該水溶液にEGDE 16g (92 mmol)を滴下し、20分後に流動パラフィン(密度0.87-0.90)200 mLを加え、24時間30℃で攪拌し、反応を行った。CD、CMC、EGDEの組成を表1に示す。
反応後、n-ヘプタンで反応生成物を洗浄した後、水―アセトン混合溶液で反応生成物を洗浄した。続いて、得られたCDCMCをデシケーター中で減圧乾燥した。
【0024】
図2は実施例1のCDCMCの外観を示す写真である。図2(a)に示したように実施例1のCDCMCは乾燥時には白色粉末であるが、水が存在することで瞬時に吸水し、図2(b)に示すような透明なハイドロゲルに変化する。
【0025】
[実施例2〜3]
CMCに対するCDの仕込物質量を変化させて、実施例2〜3のCDCMCを得た。
EGDEの添加量はCMCとCDモノマーの総和の2倍量とした。CMCとCDの仕込物質量は順に〔実施例2〕2.5 g(11.5mmol)と5.6g(34.5mmol)、〔実施例3〕1.6g(7.7mmol)と6.2g(38mmol)に変更した以外は実施例1と同一条件で、実施例2、3のCDCMCを得た。各実施例におけるCMCモノマー当たりのCD物質量の比率は〔実施例2〕7:3、〔実施例3〕7:5である。
[比較例1]
CDを添加せずにCMC9.8g(46mmol)のみをEGDEと反応するように変更した以外は実施例1と同一条件で反応させ、比較例1とした。
[比較例2]
CMCとCDの仕込物質量を1.2g (5.8 mmol)と6.5g (40 mmol)とした以外は実施例2および3と同一条件で反応させ、比較例2とした。当該比較例2におけるCMCモノマー当たりのCD物質量の比率は7:7である。
【0026】
【表1】
【0027】
・実施例1〜3の吸水後の形態、および純水に対する吸水性
図3は実施例1〜3と比較例1、2の純水に対する飽和吸水量(48時間経過後)を示すグラフである。本吸水量は日本工業規格JIS K7223(ティーバック法)により決定した。また図2に実施例1と比較例1、2の吸水前後の実体顕微鏡写真と吸水後に凍結乾燥したポリマー表面と断面写真を示す。
実施例2、3も、実施例1と同様に、吸水前は白色粉末であったが吸水後はいずれもゲル状の形態を呈した。CDを含まない比較例1もまた、吸水後はゲル状の形態を呈した。一方、比較例2は、吸水後は膨張するのみで、ゲル状の形態は示さず、スポンジ状である形態を有していた。
【0028】
・実施例1〜3、比較例1,2の加熱に対する保水力評価(ゲル形成の確認)
50mLビーカーに10‐100mgの実施例1〜3のCDCMCと比較例1,2のポリマーをそれぞれ入れ(ポリマー量は吸水量に対し、適宜調整した)、水100mLを加え、室温下(25℃)で24時間放置した。膨潤したポリマーを150メッシュのふるいにかけ、10分間放置した。膨潤ゲル全量を加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ株式会社製)を用いて、130℃で加熱し、5分後の水分倍率を、以下の式(1)をもとに加熱後保水倍率として算出した。実施例1〜3のCDCMCと比較例1,2のポリマーについてそれぞれ4回実施し、その平均値を保水量とした。結果を図4に示す。
【0029】

HWRR=〔HM−DM〕/DM (1)

式(1)中、HWRRは加熱後保水倍率を、HMは加温後質量を、DMは乾燥ポリマー質量を表す。
【0030】
図4から理解できるように、比較例1、実施例1〜3は本加熱条件後に自重の54.4〜18.2倍の水を保水していたのに対し、比較例2は自重の僅か0.1倍の水しか保持していなかった。吸水させたポリマー内にはポリマーの三次元架橋構造中の空隙に保持された水分子と架橋構造の空隙外で流動性を持つ水分子が存在する。加熱によって蒸発しやすい水分子は空隙外の流動性を持つ水であり、比較例2に取り込まれた水分子は殆ど流動性を持った空隙外に存在すると考えられる。よって比較例2の複合ポリマーは水中でゲル状態として存在せず、水とポリマー構造が二層を形成している(相分離した状態で存在している)。一方、比較例1、実施例1〜3の複合ポリマーに取り込まれた水は空隙内にも多く存在し、水和によりゲル状態を形成したと考えられる。
【0031】
・有害物質除去能に関する試験
50mL遠沈管に0.1 mM BPA溶液 20 mLを加え,さらに20mgの実施例1〜3のCDCMCと比較例1のポリマーを入れ、室温下(25℃)で120rpmで振盪した。所定時間後、波長275 nmにおける試料溶液の上清の吸光度を測定し,あらかじめ作成した検量線からBPA濃度を求め実施例1〜3と比較例1のBPA吸着率を、以下の式(2)をもとに算出した。
【0032】

qt = V(C0 − Ct)/W (2)

式(2)中、qt(mmol/g) はある時間における吸着量、VはBPA溶液量、C0 はBPA初期濃度(mmol L-1)、Ct はある時間tにおけるBPA濃度 (mmol/g)、Wは添加したCDP質量 (g)を表す。
【0033】
結果を図5に示す。
図5から理解できるように、実施例1〜3のCDCMCのBPAの吸着量は時間とともに増加し、約120分で平衡となった。実施例1〜3のDCMCは、比較例1と比べて、いずれも高いBPA吸着量を示した。
また、BPA溶液の濃度のみを変えて、同じ試験を行なった。その結果、図6(a)に示すように、BPA濃度の上昇に従い吸着量は大きくなった。
当該試験結果とLangmuirの吸着等温式に基づき、実施例1〜3のCDPの最大吸着量は、順に62 μmol g-1、96 μmol g-1、146 μmol g-1と推定され、極めて高い値を示すと考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6