【0013】
図1に例示するように、本実施形態のCDCMCは、吸水によりゲル状の形態を呈するポリマーであり、例えば、CDとCMCの混合物を、塩基性溶媒中で水溶性エポキシ化合物と反応させることにより製造することができる。当該反応は架橋反応であり、CDとCMCを構成するグルコピラノースに含まれる水酸基等の官能基と水溶性エポキシ化合物間でエーテル化などの反応が進行することにより、CDとCMC、CDとCD、およびCMCとCMC間で架橋が形成される。
図1は、これらの反応のうち、CDとCMC間の架橋反応の概要を示す図である。
なお、本明細書において、ゲル状とは高分子が部分的に架橋することで形成される三次元的構造物を指し、二成分(固体と水)組成を持つ凝集性分散系で、固体と水が全試料全体に連続的に広がっている形態をさす。具体的には三次元架橋構造物中の空隙に水分子が満たされた状態で水が流動性を失った形態のことをいい、固化した寒天やゼラチンのように水を取り込んで外に漏れなくなった状態であるものをいう。吸水したスポンジのように水と固体が二層を形成し、加圧によって水が流動し、漏れ出すものはゲル状ではない。
【0018】
ここで、本実施形態に係る塩基性溶媒におけるCDとCMCの混合物と水溶性エポキシ化合物との反応においては、CDとCMCの比率を、CMCモノマー1モルに対しCDを5/7モル以下として反応を行なう。
当該比率の関係を満足することにより、吸水したときにゲル状の形態を呈するシクロデキストリンポリマーを得ることができる。
得られるCDCMCにおいて捕捉対象の物質との接触機会を増やす観点から、CMCとCDの比率がCMCモノマー1モルに対しCDを1/7モル以上、5/7モル以下であることが好ましく、より好ましくは3/7モル以上、5/7モル以下である。
なお、特に限定されず、当業者が適宜設定できるが、EGDEなどの水溶性エポキシ化合物の比率は、シクロデキストリン1モルに対し4モル以下であることが好ましい。また、本実施形態に係る製造方法において、反応時間や反応温度なども特に限定されず、当業者が適宜設定することができる。
【0021】
本実施形態のCDCMCは、その構成成分であるCDの内部に様々な有機化合物や無機化合物を包摂できる作用を有している。よって、本実施形態のCDCMCによれば、吸収された水に溶存または分散している有機化合物や無機化合物を捕捉できる。
したがって、本実施形態のCDCMCは、例えば、水からの有機化合物や無機化合物の除去または分離処理に用いることができる。
具体的には、本実施形態のCDCMCは、ビスフェノールA(BPA)、ダイオキシン類、界面活性剤などの人体や環境への悪影響が懸念される物質の除去処理に用いることができる。
さらに、本実施形態のCDCMCは、人体や環境への影響がないCDとCMCを用いて製造されているため、人体や使用される環境等への影響を抑えることができる。そのため、食品分野や医療分野における使用しやすさなども期待される。
さらにまた、本実施形態のCDCMCは吸水したときにゲル状の形態を呈するため、固体状の従来の水不溶性シクロデキストリンと比較して、より様々な場面での使用ができる。また、既存の水不溶性シクロデキストリンポリマーは不定形であり耐衝撃性に弱く、クラック特性が低い欠点があるため、ゲル化により粘弾性が生じることで、対衝撃性向上などの物理特性の改善が期待できる。すなわち、耐久性が向上し、反復利用や長期間の使用などの利点が予想される。
【実施例】
【0022】
以下に、本発明について実施例でもって更に詳しく説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
・実施例のCDCMCの製造
β-シクロデキストリン(β−CD)とCMC(置換度0.68)を水酸化ナトリウム水溶液中でEGDEと反応させ、実施例のCDCMCを得た。
【0023】
[実施例1]
CMC 5.0 g(23 mmol) とβ−CD 3.7g(3.3 mmol)を1.5Nの水酸化ナトリウム水溶液50mLに溶解し、300rpmで攪拌した。当該水溶液にEGDE 16g (92 mmol)を滴下し、20分後に流動パラフィン(密度0.87-0.90)200 mLを加え、24時間30℃で攪拌し、反応を行った。CD、CMC、EGDEの組成を表1に示す。
反応後、n-ヘプタンで反応生成物を洗浄した後、水―アセトン混合溶液で反応生成物を洗浄した。続いて、得られたCDCMCをデシケーター中で減圧乾燥した。
【0024】
図2は実施例1のCDCMCの外観を示す写真である。
図2(a)に示したように実施例1のCDCMCは乾燥時には白色粉末であるが、水が存在することで瞬時に吸水し、
図2(b)に示すような透明なハイドロゲルに変化する。
【0025】
[実施例2〜3]
CMCに対するCDの仕込物質量を変化させて、実施例2〜3のCDCMCを得た。
EGDEの添加量はCMCとCDモノマーの総和の2倍量とした。CMCとCDの仕込物質量は順に〔実施例2〕2.5 g(11.5mmol)と5.6g(34.5mmol)、〔実施例3〕1.6g(7.7mmol)と6.2g(38mmol)に変更した以外は実施例1と同一条件で、実施例2、3のCDCMCを得た。各実施例におけるCMCモノマー当たりのCD物質量の比率は〔実施例2〕7:3、〔実施例3〕7:5である。
[比較例1]
CDを添加せずにCMC9.8g(46mmol)のみをEGDEと反応するように変更した以外は実施例1と同一条件で反応させ、比較例1とした。
[比較例2]
CMCとCDの仕込物質量を1.2g (5.8 mmol)と6.5g (40 mmol)とした以外は実施例2および3と同一条件で反応させ、比較例2とした。当該比較例2におけるCMCモノマー当たりのCD物質量の比率は7:7である。
【0026】
【表1】
【0027】
・実施例1〜3の吸水後の形態、および純水に対する吸水性
図3は実施例1〜3と比較例1、2の純水に対する飽和吸水量(48時間経過後)を示すグラフである。本吸水量は日本工業規格JIS K7223(ティーバック法)により決定した。また
図2に実施例1と比較例1、2の吸水前後の実体顕微鏡写真と吸水後に凍結乾燥したポリマー表面と断面写真を示す。
実施例2、3も、実施例1と同様に、吸水前は白色粉末であったが吸水後はいずれもゲル状の形態を呈した。CDを含まない比較例1もまた、吸水後はゲル状の形態を呈した。一方、比較例2は、吸水後は膨張するのみで、ゲル状の形態は示さず、スポンジ状である形態を有していた。
【0028】
・実施例1〜3、比較例1,2の加熱に対する保水力評価(ゲル形成の確認)
50mLビーカーに10‐100mgの実施例1〜3のCDCMCと比較例1,2のポリマーをそれぞれ入れ(ポリマー量は吸水量に対し、適宜調整した)、水100mLを加え、室温下(25℃)で24時間放置した。膨潤したポリマーを150メッシュのふるいにかけ、10分間放置した。膨潤ゲル全量を加熱乾燥式水分計MX-50(エー・アンド・デイ株式会社製)を用いて、130℃で加熱し、5分後の水分倍率を、以下の式(1)をもとに加熱後保水倍率として算出した。実施例1〜3のCDCMCと比較例1,2のポリマーについてそれぞれ4回実施し、その平均値を保水量とした。結果を
図4に示す。
【0029】
HWRR=〔HM−DM〕/DM (1)
式(1)中、HWRRは加熱後保水倍率を、HMは加温後質量を、DMは乾燥ポリマー質量を表す。
【0030】
図4から理解できるように、比較例1、実施例1〜3は本加熱条件後に自重の54.4〜18.2倍の水を保水していたのに対し、比較例2は自重の僅か0.1倍の水しか保持していなかった。吸水させたポリマー内にはポリマーの三次元架橋構造中の空隙に保持された水分子と架橋構造の空隙外で流動性を持つ水分子が存在する。加熱によって蒸発しやすい水分子は空隙外の流動性を持つ水であり、比較例2に取り込まれた水分子は殆ど流動性を持った空隙外に存在すると考えられる。よって比較例2の複合ポリマーは水中でゲル状態として存在せず、水とポリマー構造が二層を形成している(相分離した状態で存在している)。一方、比較例1、実施例1〜3の複合ポリマーに取り込まれた水は空隙内にも多く存在し、水和によりゲル状態を形成したと考えられる。
【0031】
・有害物質除去能に関する試験
50mL遠沈管に0.1 mM BPA溶液 20 mLを加え,さらに20mgの実施例1〜3のCDCMCと比較例1のポリマーを入れ、室温下(25℃)で120rpmで振盪した。所定時間後、波長275 nmにおける試料溶液の上清の吸光度を測定し,あらかじめ作成した検量線からBPA濃度を求め実施例1〜3と比較例1のBPA吸着率を、以下の式(2)をもとに算出した。
【0032】
q
t = V(C
0 − C
t)/W (2)
式(2)中、q
t(mmol/g) はある時間における吸着量、VはBPA溶液量、C
0 はBPA初期濃度(mmol L
-1)、C
t はある時間tにおけるBPA濃度 (mmol/g)、Wは添加したCDP質量 (g)を表す。
【0033】
結果を
図5に示す。
図5から理解できるように、実施例1〜3のCDCMCのBPAの吸着量は時間とともに増加し、約120分で平衡となった。実施例1〜3のDCMCは、比較例1と比べて、いずれも高いBPA吸着量を示した。
また、BPA溶液の濃度のみを変えて、同じ試験を行なった。その結果、
図6(a)に示すように、BPA濃度の上昇に従い吸着量は大きくなった。
当該試験結果とLangmuirの吸着等温式に基づき、実施例1〜3のCDPの最大吸着量は、順に62 μmol g
-1、96 μmol g
-1、146 μmol g
-1と推定され、極めて高い値を示すと考えられる。