(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6181980
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 20/50 20160101AFI20170807BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20170807BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20170807BHJP
B60L 11/14 20060101ALI20170807BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20170807BHJP
B60K 6/543 20071001ALI20170807BHJP
【FI】
B60W20/50
B60W10/30 900
B60W10/08 900
B60L11/14ZHV
B60K6/48
B60K6/543
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-113552(P2013-113552)
(22)【出願日】2013年5月30日
(65)【公開番号】特開2014-231317(P2014-231317A)
(43)【公開日】2014年12月11日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100080001
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100093023
【弁理士】
【氏名又は名称】小塚 善高
(74)【代理人】
【識別番号】100117008
【弁理士】
【氏名又は名称】筒井 章子
(72)【発明者】
【氏名】里村 聡
【審査官】
田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−111195(JP,A)
【文献】
特開2011−157068(JP,A)
【文献】
特開2010−149538(JP,A)
【文献】
特開2009−096326(JP,A)
【文献】
特開2010−190266(JP,A)
【文献】
特開2009−257574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
B60W 10/00 − 20/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用モータと駆動輪との間に設けられる摩擦クラッチと、
前記走行用モータと前記摩擦クラッチとを接続する第1動力伝達経路と、
前記摩擦クラッチと前記駆動輪とを接続する第2動力伝達経路と、
前記第1動力伝達経路によって回転駆動されるオイルポンプと、
前記第1動力伝達経路の回転速度に基づいて、前記オイルポンプの第1回転速度を算出する第1速度算出部と、
前記第2動力伝達経路の回転速度に基づいて、前記オイルポンプの第2回転速度を算出する第2速度算出部と、
前記第1回転速度と前記第2回転速度との速度差が判定閾値を上回る場合に、前記オイルポンプの吐出圧力不足を判定するポンプ動作判定部と、
前記ポンプ動作判定部が吐出圧力不足と判定した場合に、前記走行用モータの回生制御を停止するモータ制御部と、
を有する、車両用駆動装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両用駆動装置において、
前記走行用モータと前記摩擦クラッチとの間に変速機構が設けられ、前記オイルポンプから前記変速機構に作動油が供給される、車両用駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の車両用駆動装置において、
前記ポンプ動作判定部は、車両制動時に、前記速度差に基づき前記オイルポンプの吐出圧力不足を判定する、車両用駆動装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記ポンプ動作判定部は、前記第1回転速度が速度閾値を下回る状態のもとで、前記速度差に基づき前記オイルポンプの吐出圧力不足を判定する、車両用駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記ポンプ動作判定部は、前記第1回転速度が減速されている状態のもとで、前記速度差に基づき前記オイルポンプの吐出圧力不足を判定する、車両用駆動装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の車両用駆動装置において、
電動モータによって回転駆動される電動オイルポンプと、
前記ポンプ動作判定部が吐出圧力不足と判定した場合に、前記電動オイルポンプを回転駆動するポンプ制御部と、
を有する、車両用駆動装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の車両用駆動装置において、
前記ポンプ動作判定部が吐出圧力不足と判定した場合に、前記オイルポンプから供給される作動油の消費を抑制する油圧制御部、を有する、車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルポンプを備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンおよび走行用モータを備えるハイブリッド車両として、無段変速機等の変速機構を組み込んだ車両が開発されている。また、ハイブリッド車両の走行モードとして、エンジンを停止させて走行用モータのみを駆動するモータ走行モードがある。このように、エンジンを停止するモータ走行モードにおいても、変速機構等の油圧系に対して作動油を供給する必要があることから、車両には走行用モータによって駆動されるオイルポンプが搭載されている。
【0003】
また、走行用モータに駆動されるオイルポンプの吐出圧力は、走行用モータの回転速度つまり車速に連動するため、低車速時にはオイルポンプの吐出圧力が低下することになる。このように、オイルポンプの吐出圧力が低下する低車速時においても、油圧系に対する作動油の供給を継続することが必要となっている。そこで、走行用モータと駆動輪との間に設置される摩擦クラッチを滑らせることにより、低車速時においてもオイルポンプの吐出圧力を確保するようにしたハイブリッド車両が提案されている(特許文献1参照)。このハイブリッド車両においては、オイルポンプの吐出圧力が不足していると判定された場合に、摩擦クラッチを滑らせて走行用モータの回転速度を高めに維持している。これにより、低車速時においても、走行用モータつまりオイルポンプの回転速度を高めることができ、オイルポンプの吐出圧力を確保することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−190266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、オイルポンプの吐出圧力不足を判定する方法としては、例えば、オイルポンプの回転速度(以下、ポンプ回転数と記載する)が所定値を下回る場合に、吐出圧力が不足していることを判定する方法が考えられる。しかしながら、オイルポンプの吐出圧力が不足する状況を、ポンプ回転数だけを用いて判定することは困難であった。すなわち、ポンプ回転数と比較判定される所定値を高く設定すると、緩やかに吐出圧力が低下する減速時においては、早いタイミングで吐出圧力不足と判定されることから、吐出圧力を確保するための制御が頻繁に実行されるという問題がある。一方、ポンプ回転数と比較判定される所定値を低く設定すると、急速に吐出圧力が低下する急減速時においては、吐出圧力不足を判定するタイミングが遅れることから、吐出圧力を確保するための制御が間に合わないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、オイルポンプの吐出圧力不足を適切に判定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両用駆動装置は、走行用モータと駆動輪との間に設けられる摩擦クラッチと、前記走行用モータと前記摩擦クラッチとを接続する第1動力伝達経路と、前記摩擦クラッチと前記駆動輪とを接続する第2動力伝達経路と、前記第1動力伝達経路によって回転駆動されるオイルポンプと、前記第1動力伝達経路の回転速度に基づいて、前記オイルポンプの第1回転速度を算出する第1速度算出部と、前記第2動力伝達経路の回転速度に基づいて、前記オイルポンプの第2回転速度を算出する第2速度算出部と、前記第1回転速度と前記第2回転速度との速度差が判定閾値を上回る場合に、前記オイルポンプの吐出圧力不足を判定するポンプ動作判定部と、
前記ポンプ動作判定部が吐出圧力不足と判定した場合に、前記走行用モータの回生制御を停止するモータ制御部と、を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、第1動力伝達経路の回転速度に基づくオイルポンプの第1回転速度と、第2動力伝達経路の回転速度に基づくオイルポンプの第2回転速度とに基づいて、オイルポンプの回転速度が急低下する状況を判定することが可能となる。これにより、オイルポンプの吐出圧力不足を判定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】車両に搭載されるパワーユニットの一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の一実施の形態である車両用駆動装置の構成を示す概略図である。
【
図3】ポンプ動作判定の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図4】ポンプ動作判定において吐出圧力不足と判定される際の回転数差の変化状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は車両に搭載されるパワーユニット10の一例を示す概略図である。
図1に示すように、パワーユニット10は、動力源としてエンジン11および走行用モータ12を有している。また、パワーユニット10には無段変速機13が設けられており、無段変速機13にはプライマリプーリ14およびセカンダリプーリ15が設けられている。プライマリプーリ14の一方側には、トルクコンバータ16を介してエンジン11が連結される一方、プライマリプーリ14の他方側には、走行用モータ12が連結されている。また、セカンダリプーリ15には、トルクリミッタとして機能するヒューズクラッチ17を介して駆動ギヤ18が連結されている。この駆動ギヤ18に噛み合う従動ギヤ19には、前輪出力軸20、フロントディファレンシャル機構21およびフロントアクスル軸22を介して、前輪(駆動輪)23が連結されている。さらに、従動ギヤ19には、トランスファクラッチ24、後輪出力軸25、リヤディファレンシャル機構26およびリヤアクスル軸27を介して後輪(駆動輪)28が連結されている。また、エンジン11のクランク軸29には、駆動ベルト30を介して、モータジェネレータ31が連結されている。モータジェネレータ31は、発電機および電動機として機能する所謂ISG(Integrated Starter Generator)であり、モータジェネレータ31を用いてクランク軸29を始動回転させることが可能となっている。
【0011】
トルクコンバータ16とプライマリプーリ14との間には、解放状態と締結状態とに切り換えられる入力クラッチ40が設けられている。入力クラッチ40を解放状態に切り換えることにより、プライマリプーリ14とエンジン11とを切り離すことが可能となる。これにより、走行モードをモータ走行モードに設定することができ、エンジン11を停止させて走行用モータ12の動力のみを前輪23や後輪28に伝達することが可能となる。一方、入力クラッチ40を締結状態に切り換えることにより、プライマリプーリ14とエンジン11とを接続することが可能となる。これにより、走行モードをパラレル走行モードに設定することができ、走行用モータ12およびエンジン11の動力を前輪23や後輪28に伝達することが可能となる。
【0012】
無段変速機13は、走行用モータ12のロータ軸41に連結されるプライマリ軸42と、これに平行となるセカンダリ軸43とを有している。プライマリ軸42にはプライマリプーリ14が設けられており、プライマリプーリ14の背面側にはプライマリ室44が区画されている。また、セカンダリ軸43にはセカンダリプーリ15が設けられており、セカンダリプーリ15の背面側にはセカンダリ室45が区画されている。さらに、プライマリプーリ14およびセカンダリプーリ15には駆動チェーン46が巻き掛けられている。プライマリ室44に供給されるプライマリ圧とセカンダリ室45に供給されるセカンダリ圧とを調整することにより、プーリ溝幅を変化させて駆動チェーン46の巻き付け径を変化させることが可能となる。これにより、プライマリ軸42からセカンダリ軸43に対する無段変速が可能となる。
【0013】
前述したように、走行用モータ12と駆動輪23,28との間には、摩擦クラッチとしてのヒューズクラッチ17が設けられている。また、走行用モータ12とヒューズクラッチ17とは、ロータ軸41、プライマリ軸42およびセカンダリ軸43等を介して接続されている。すなわち、ロータ軸41、プライマリ軸42およびセカンダリ軸43等によって、走行用モータ12とヒューズクラッチ17とを接続する第1動力伝達経路51が構成されている。なお、第1動力伝達経路51とは、走行用モータ12とヒューズクラッチ17とを接続する動力伝達要素群や動力伝達要素を意味している。さらに、ヒューズクラッチ17と駆動輪23,28とは、駆動ギヤ18、従動ギヤ19、前輪出力軸20、フロントディファレンシャル機構21、フロントアクスル軸22、トランスファクラッチ24、後輪出力軸25、リヤディファレンシャル機構26、リヤアクスル軸27等を介して接続されている。すなわち、駆動ギヤ18、従動ギヤ19、前輪出力軸20、フロントディファレンシャル機構21、フロントアクスル軸22、トランスファクラッチ24、後輪出力軸25、リヤディファレンシャル機構26およびリヤアクスル軸27等によって、ヒューズクラッチ17と駆動輪23,28とを接続する第2動力伝達経路52が構成されている。なお、第2動力伝達経路52とは、ヒューズクラッチ17と駆動輪23,28とを接続する動力伝達要素群や動力伝達要素を意味している。また、走行用モータ12とヒューズクラッチ17との間には、変速機構としての無段変速機13が設けられている。
【0014】
トルクコンバータ16は、クランク軸29にフロントカバー53を介して連結されるポンプインペラ54と、このポンプインペラ54に対向するとともにタービン軸55に連結されるタービンランナ56とを備えている。また、トルクコンバータ16には、クラッチプレート57を備えたロックアップクラッチ58が組み込まれている。クラッチプレート57は、フロントカバー53とタービンランナ56との間に配置されるとともに、タービンランナ56に対して軸方向に移動自在に設けられている。クラッチプレート57のタービンランナ56側にはアプライ室59が区画されており、クラッチプレート57のフロントカバー53側にはリリース室60が区画されている。アプライ室59に作動油を供給してリリース室60から作動油を排出することにより、ロックアップクラッチ58を締結状態に切り換えることが可能となる。一方、リリース室60に作動油を供給してアプライ室59から作動油を排出することにより、ロックアップクラッチ58を解放状態に切り換えることが可能となる。
【0015】
前述した無段変速機13、トルクコンバータ16、入力クラッチ40、ヒューズクラッチ17、トランスファクラッチ24等に対して作動油を供給するため、パワーユニット10にはトロコイドポンプ等のオイルポンプ61が設けられている。また、パワーユニット10には、作動油の供給先や圧力を制御するため、複数の電磁バルブや油路によって構成されるバルブユニット62が設けられている。そして、オイルポンプ61から吐出された作動油は、バルブユニット62を経て、プライマリ室44、セカンダリ室45、アプライ室59およびリリース室60等に供給される。
【0016】
オイルポンプ61は、アウタロータ63とこれに組み込まれるインナロータ64とを備えている。インナロータ64の一端には、ロータ軸65および従動スプロケット66が取り付けられている。ロータ軸65に平行となるプライマリ軸42には、一方向クラッチ67を介して駆動スプロケット68が取り付けられている。駆動スプロケット68および従動スプロケット66にはチェーン69が巻き掛けられており、プライマリ軸42とインナロータ64とはチェーン機構70を介して連結されている。このように、オイルポンプ61のインナロータ64は、プライマリ軸42によって駆動されている。また、インナロータ64の他端には、ロータ軸71および従動スプロケット72が取り付けられている。ポンプインペラ54に固定されるとともにロータ軸71に平行となる中空軸73には、一方向クラッチ74を介して駆動スプロケット75が取り付けられている。駆動スプロケット75および従動スプロケット72にはチェーン76が巻き掛けられており、中空軸73とインナロータ64とはチェーン機構77を介して連結されている。このように、オイルポンプ61のインナロータ64は、ポンプインペラ54に連結されるクランク軸29によって駆動されている。
【0017】
一方向クラッチ67は、正転方向に回転するプライマリ軸42からインナロータ64に動力を伝達する一方、これとは逆向きの動力伝達を遮断している。同様に、一方向クラッチ74は、正転方向に回転する中空軸73からインナロータ64に動力を伝達する一方、これとは逆向きの動力伝達を遮断している。すなわち、プライマリ軸42が中空軸73よりも速く回転する場合には、走行用モータ12側のプライマリ軸42によってオイルポンプ61が駆動される一方、中空軸73がプライマリ軸42よりも速く回転する場合には、エンジン11側の中空軸73によってオイルポンプ61が駆動される。なお、プライマリ軸42の正転方向とは、前進走行時におけるプライマリ軸42の回転方向である。また、中空軸73の正転方向とは、エンジン作動時におけるクランク軸29の回転方向である。
【0018】
前述したように、オイルポンプ61のインナロータ64には、プライマリ軸42と中空軸73とが連結されている。これにより、エンジン11が駆動されるパラレル走行モードにおいては、エンジン11によって常にオイルポンプ61を駆動することができ、オイルポンプ61からの作動油によって無段変速機13等を油圧制御することが可能となる。また、エンジン11が停止されるモータ走行モードにおいても、プライマリ軸42が回転する車両走行時には、プライマリ軸42によってオイルポンプ61を駆動することが可能となる。このように、プライマリ軸42によって駆動されるオイルポンプ61は、第1動力伝達経路51の動力によって回転駆動されるオイルポンプ61となっている。ところで、モータ走行モードにおける車両停止時には、プライマリ軸42と共にオイルポンプ61が停止することになるが、この車両停止時においても、無段変速機13等に対する作動油の供給を継続する必要がある。
【0019】
そこで、車両用駆動装置80は、電動モータ81によって回転駆動される電動オイルポンプ82を備えている。車速低下に伴ってオイルポンプ61の回転速度が低下し、オイルポンプ61の吐出圧力が不足する場合つまり油圧系の基本油圧であるライン圧の確保が困難となる場合には、電動オイルポンプ82が駆動されてバルブユニット62に作動油が供給される。また、オイルポンプ61の吐出圧力が不足する場合には、電動オイルポンプ82が駆動されるだけでなく、トルクコンバータ16やトランスファクラッチ24等による作動油の消費量を抑制するようにバルブユニット62が制御される。そして、車両用駆動装置80は、電動オイルポンプ82を駆動する等のライン圧確保制御を適切に開始するため、後述するオイルポンプ61の動作判定(以下、ポンプ動作判定と記載する)を実行し、オイルポンプ61の吐出圧力が不足しているか否かを判定している。
【0020】
以下、車両用駆動装置80によって実行されるポンプ動作判定について説明する。
図2は本発明の一実施の形態である車両用駆動装置80の構成を示す概略図である。
図2において
図1に示す部材と同一の部材については、同一の符号を付してその説明を省略する。
図2に示すように、車両用駆動装置80は、パワーユニット10およびこれの制御系を備えている。また、車両用駆動装置80には、第1速度算出部、第2速度算出部、ポンプ動作判定部、モータ制御部、ポンプ制御部および油圧制御部として機能する制御ユニット83が設けられている。制御ユニット83には、前輪23や後輪28の回転速度を検出する車輪速センサ84、走行用モータ12が備えるロータ85の回転速度を検出するモータ回転センサ86、運転者によるブレーキペダルの踏み込み状況を検出するブレーキスイッチ87等が接続されている。また、走行用モータ12のステータ88にはインバータ89が接続されており、制御ユニット83はインバータ89を介して走行用モータを駆動制御している。なお、制御ユニット83は、制御信号等を演算するCPU、制御プログラム、演算式およびマップデータ等を格納するROM、一時的にデータを格納するRAM等によって構成される。
【0021】
制御ユニット83によるポンプ動作判定の手順について説明する。
図3はポンプ動作判定の手順の一例を示すフローチャートである。
図3に示すように、ステップS1〜S4では、ポンプ動作判定を実施するための前提条件について判定される。ステップS1では、現在の走行モードがモータ走行モードであるか否かが判定される。モータ走行モードが設定されている場合には、ステップS2に進み、ブレーキスイッチ87の検出信号に基づいて、ブレーキペダルが踏まれているか否かが判定される。ステップS2において、ブレーキスイッチ87からON信号が出力されており、ブレーキペダルの踏み込みによる車両制動時であると判定された場合には、ステップS3に進み、モータ回転センサ86の検出信号に基づき算出される実モータ回転数N1が、所定の速度閾値Xaを下回るか否かが判定される。実モータ回転数N1が速度閾値Xaを下回る場合には、ステップS4に進み、実モータ回転数N1が減速中であるか否かが判定される。そして、ステップS4において、実モータ回転数N1が減速中であると判定された場合には、ステップS1〜S4の各前提条件を満足することから、ステップS5に進み、ポンプ動作判定が開始される。なお、ステップS1〜S4のいずれかにおいて、前提条件を満たしていないと判定された場合には、ポンプ動作判定を行うことなくルーチンを抜ける。
【0022】
ここで、実モータ回転数N1とは、モータ回転センサ86の検出信号に基づき算出される回転速度、つまり第1動力伝達経路51の回転速度に基づき算出される走行用モータ12の回転速度である。また、走行用モータ12とオイルポンプ61とは、ロータ軸41、プライマリ軸42およびチェーン機構70を介して連結されている。すなわち、実モータ回転数N1とは、オイルポンプ61のインナロータ64の回転速度に比例する回転速度となっている。このため、本実施の形態においては、オイルポンプ61の第1回転速度に相当する値として、実モータ回転数N1を用いている。
【0023】
続くステップS5では、車輪速センサ84からの検出信号に基づいて、走行用モータ12の回転速度である予測モータ回転数N2が算出される。例えば、前輪23側の回転速度を用いる場合には、フロントアクスル軸22の回転速度、フロントディファレンシャル機構21の終減速比、駆動ギヤ18と従動ギヤ19とのギヤ比、無段変速機13の変速比に基づいて、予測モータ回転数N2が算出される。すなわち、予測モータ回転数N2とは、第2動力伝達経路52の回転速度に基づき算出される走行用モータ12の回転速度である。なお、前述した実モータ回転数N1と同様に、予測モータ回転数N2についても、オイルポンプ61のインナロータ64の回転速度に比例する回転速度となっている。このため、本実施の形態においては、オイルポンプ61の第2回転速度に相当する値として、予測モータ回転数N2を用いている。
【0024】
また、ステップS6では、予測モータ回転数N2から実モータ回転数N1を減算することで回転数差ΔNが算出される。続くステップS7では、回転数差ΔNが判定閾値Xbを上回るか否かが判定される。ステップS7において、回転数差ΔNが判定閾値Xbを上回る状況とは、後述するように、走行用モータ12の回転速度つまりオイルポンプ61の回転速度が急速に低下する状況である。すなわち、回転数差ΔNが判定閾値Xbを上回る場合には、オイルポンプ61の回転速度が急低下する状況つまりオイルポンプ61の吐出圧力が不足する状況であると、制御ユニット83によって判定されることになる。
【0025】
ここで、
図4はポンプ動作判定において吐出圧力不足と判定される際の回転数差ΔNの変化状況を示す説明図である。
図4に示すように、モータ走行モードにおいて、運転者によってブレーキペダルが踏み込まれると、図示しない油圧ブレーキ機構等によって車輪に制動力が加えられることになる。特に、凍結路面等の低μ路においてブレーキ操作が為された場合には、前輪23および後輪28の回転速度N3が急速に低下することから、ヒューズクラッチ17の負荷が増大してヒューズクラッチ17がスリップを開始する。このように、ヒューズクラッチ17がスリップすると、走行用モータ12側の第1動力伝達経路51から、駆動輪23,28側の第2動力伝達経路52が切り離された状態となる。さらに、ブレーキ操作が為されている場合には、走行用モータ12が回生状態に制御されることから、第1動力伝達経路51に回生トルクつまり制動トルクが加えられた状態となっている。すなわち、ヒューズクラッチ17がスリップした場合には、走行用モータ12によって制動される第1動力伝達経路51から、回転質量体である第2動力伝達経路52が切り離されるため、第1動力伝達経路51の減速速度が第2動力伝達経路52の減速速度を上回る現象が発生する。
【0026】
すなわち、ヒューズクラッチ17のスリップを伴う制動時には、第1動力伝達経路51の回転速度に基づき算出される実モータ回転数N1が、第2動力伝達経路52の回転速度に基づき算出される予測モータ回転数N2よりも、急速に低下することになる。このため、実モータ回転数N1と予測モータ回転数N2との速度差である回転数差ΔNの大きさを判定することにより、ヒューズクラッチ17をスリップさせるような制動状況を素早く検出することが可能となる。また、前述したように、ヒューズクラッチ17をスリップさせるような制動状況とは、第1動力伝達経路51の回転速度つまりオイルポンプ61の回転速度が急低下する状況である。すなわち、回転数差ΔNの大きさを判定することにより、オイルポンプ61の吐出圧力不足が発生する状況を素早く検出することが可能となる。
【0027】
前述したように、
図3のステップS7において、回転数差ΔNが判定閾値Xbを上回った場合、つまり回転数差ΔNに基づきオイルポンプ61の吐出圧力不足と判定された場合には、ステップS8に進み、油圧系のライン圧不足を回避するためのライン圧確保制御が実行される。ライン圧確保制御においては、制御ユニット83によってバルブユニット62を制御することにより、トルクコンバータ16のリリース室60やアプライ室59、トランスファクラッチ24の締結油室90、プライマリプーリ14のプライマリ室44等に対して供給される作動油量が制限される。これにより、オイルポンプ61から供給される作動油の消費を抑制することができるため、オイルポンプ61の吐出圧力低下に伴うライン圧不足を回避することが可能となる。なお、無段変速機13のクランプ力を確保して無段変速機13を保護する観点から、セカンダリプーリ15のセカンダリ室45に供給される作動油量については制限しないことが望ましい。
【0028】
また、ライン圧確保制御においては、制御ユニット83によって電動オイルポンプ82を回転駆動することにより、電動オイルポンプ82からバルブユニット62に対して作動油が供給される。これにより、オイルポンプ61の吐出圧力が低下する状況であっても、電動オイルポンプ82によって吐出圧力不足を補うことができるため、ライン圧不足を回避することが可能となる。さらに、ライン圧確保制御においては、制御ユニット83よって、走行用モータ12の目標モータトルクが0に設定され、走行用モータ12の回生制御が停止される。すなわち、走行用モータ12による第1動力伝達経路51の回生制動が停止されるため、第1動力伝達経路51の回転速度つまりオイルポンプ61の回転速度の急低下を抑制することが可能となる。これにより、オイルポンプ61の吐出圧力の急低下を抑制することができるため、ライン圧不足を回避することが可能となる。
【0029】
また、ライン圧確保制御において電動オイルポンプ82を回転駆動させた場合には、制御ユニット83によってバルブユニット62を制御することにより、ヒューズクラッチ17の締結油室91に供給される作動油量を制限しても良い。これにより、ヒューズクラッチ17のトルク容量を低下させ、ヒューズクラッチ17を積極的にスリップさせることができるため、無段変速機13へ外乱トルクを入力させることがなく、無段変速機13を保護することが可能となる。
【0030】
前述の説明では、電動オイルポンプ82を駆動する等のライン圧確保制御を実行しているが、これに限られることはなく、他の内容のライン圧確保制御を実行しても良い。例えば、実モータ回転数N1が所定の減速速度を超えて低下した場合には、走行用モータ12の目標モータトルクを0に設定するとともに、モータジェネレータ31を回転駆動させてエンジン11を始動しても良い。このように、オイルポンプ61の吐出圧力が急低下する状況においては、エンジン11を始動させてオイルポンプ61を回転駆動することにより、再びオイルポンプ61の吐出圧力を引き上げるようにしても良い。これにより、早期に電動オイルポンプ82を停止させることができ、車両の電費性能を向上させることが可能となる。
【0031】
前述したように、オイルポンプ61の吐出圧力が不足するか否かのポンプ動作判定を実行する際には、
図3のフローチャートのステップS1〜S4に沿って各種前提条件を判定している。ステップS1では、走行モードを判定することにより、モータ走行モードの設定中にポンプ動作判定を実行している。モータ走行モードが設定されていない場合、つまりパラレル走行モードが設定されている場合には、エンジン11によってオイルポンプ61が回転駆動されることから、オイルポンプ61の吐出圧力不足が発生することがない。このように、吐出圧力不足が発生することのないパラレル走行モードにおいては、ポンプ動作判定を禁止して誤判定を防止している。また、ステップS2では、ブレーキスイッチ87の信号を判定することにより、ブレーキペダルが踏み込まれる車両制動時にポンプ動作判定を実行している。ブレーキ操作が為されていない場合には、走行用モータ12の回生制動等によってオイルポンプ61の回転速度が急低下することがない。このように、ブレーキ操作が為されていない場合には、オイルポンプ61の吐出圧力不足が発生することがないため、ポンプ動作判定を禁止して誤判定を防止している。
【0032】
ステップS3では、実モータ回転数N1の大きさを判定することにより、実モータ回転数N1の低回転領域でポンプ動作判定を実行している。実モータ回転数N1の低回転領域ではない場合、つまり実モータ回転数N1の中高回転領域においては、オイルポンプ61の吐出圧力が十分に確保されている状態であることから、オイルポンプ61の吐出圧力不足が発生することはない。このように、実モータ回転数N1が速度閾値Xaを上回る状況においては、オイルポンプ61の吐出圧力不足が発生することがないため、ポンプ動作判定を禁止して誤判定を防止している。また、ステップS4では、実モータ回転数N1の推移を判定することにより、実モータ回転数N1の減速中にポンプ動作判定を実行している。実モータ回転数N1が維持若しくは上昇している場合には、走行用モータ12の回生制動等によってオイルポンプ61の回転速度が急低下することがない。このように、実モータ回転数N1が維持若しくは上昇している場合には、オイルポンプ61の吐出圧力不足が発生することがないため、ポンプ動作判定を禁止して誤判定を防止している。
【0033】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、オイルポンプ61の第1回転速度に相当する回転速度として実モータ回転数N1を用いているが、これに限られることはなく、チェーン機構70のスプロケット比と実モータ回転数N1とに基づいて、オイルポンプ61のインナロータ64の第1回転速度を算出しても良い。また、オイルポンプ61の第2回転速度に相当する回転速度として予測モータ回転数N2を用いているが、これに限られることはなく、チェーン機構70のスプロケット比と予測モータ回転数N2とに基づいて、オイルポンプ61のインナロータ64の第2回転速度を算出しても良い。また、前述の説明では、ブレーキペダルの踏み込みによる車両制動時にポンプ動作判定を実行しているが、これに限られることはなく、車間距離等に応じて自動的に車両を制動する自動ブレーキによる車両制動時にポンプ動作判定を実行しても良い。
【0034】
前述の説明では、摩擦クラッチとして油圧式のヒューズクラッチ17を設けているが、これに限られることはなく、摩擦クラッチとして電磁式のヒューズクラッチを設けても良い。また、前述の説明では、動力源としてエンジン11および走行用モータ12を備えたハイブリッド車両に対して本発明を適用しているが、これに限られることはなく、動力源として走行用モータ12のみを備えた電気自動車に対して本発明を適用しても良い。また、前述の説明では、変速機構としてチェーンドライブ式の無段変速機13を用いているが、これに限られることはなく、ベルトドライブ式やトラクションドライブ式の無段変速機であっても良く、遊星歯車式や平行軸式の自動変速機であっても良い。また、オイルポンプ61や電動オイルポンプ82としては、内接式のギヤポンプであっても良く、外接式のギヤポンプであっても良い。なお、図示するパワーユニット10は、四輪駆動用のパワーユニットであるが、これに限られることはなく、前輪駆動用や後輪駆動用のパワーユニットであっても良い。
【符号の説明】
【0035】
12 走行用モータ
13 無段変速機(変速機構)
17 ヒューズクラッチ(摩擦クラッチ)
23 前輪(駆動輪)
28 後輪(駆動輪)
51 第1動力伝達経路
52 第2動力伝達経路
61 オイルポンプ
80 車両用駆動装置
81 電動モータ
82 電動オイルポンプ
83 制御ユニット(第1速度算出部,第2速度算出部,ポンプ動作判定部,モータ制御部,ポンプ制御部,油圧制御部)
N1 実モータ回転数(第1回転速度)
N2 予測モータ回転数(第2回転速度)
ΔN 回転数差(速度差)
Xa 速度閾値
Xb 判定閾値