特許第6182015号(P6182015)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182015
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】家畜の繁殖成績改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7016 20060101AFI20170807BHJP
   A23K 20/163 20160101ALI20170807BHJP
   A23K 50/10 20160101ALI20170807BHJP
   A23K 50/30 20160101ALI20170807BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20170807BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   A61K31/7016
   A23K20/163
   A23K50/10
   A23K50/30
   A61P15/08
   A61P15/00 171
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-165495(P2013-165495)
(22)【出願日】2013年8月8日
(65)【公開番号】特開2015-34143(P2015-34143A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:生産コスト低減畜産生産技術開発推進事業 成果発表会 開催日:平成25年 2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】592172574
【氏名又は名称】明治飼糧株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097825
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 久紀
(74)【代理人】
【識別番号】100137925
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 紀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 幹
(72)【発明者】
【氏名】小原 嘉昭
(72)【発明者】
【氏名】飯島 淳
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−117029(JP,A)
【文献】 ウシ胚の凍結におけるダイレクト法の改良の検討,香川県畜産試験場研究報告,日本,2009年12月,44号,p5-7
【文献】 トレハロース添加飼料給与の影響と今後期待される可能性,酪農ジャーナル,日本,2011年 4月 1日,64巻、4号,p20-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロースを有効成分として含有すること、を特徴とする家畜の繁殖成績改善用飼料組成物
【請求項2】
繁殖成績改善が、受胎率向上、妊娠率向上、空胎日数短縮、分娩間隔短縮から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする請求項1に記載の組成物
【請求項3】
家畜に対して、1日あたり0.05〜0.42g/kg体重のトレハロースが給与されるように用いられること、を特徴とする請求項1又は2に記載の組成物
【請求項4】
家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物
【請求項5】
トレハロースを家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の繁殖成績改善方法。
【請求項6】
繁殖成績改善が、受胎率向上、妊娠率向上、空胎日数短縮、分娩間隔短縮から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
家畜に対して、1日あたり0.05〜0.42g/kg体重のトレハロースを経口投与又は給与すること、を特徴とする請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜の繁殖成績改善剤等に関する。詳細には、家畜の受胎率、妊娠率、空胎日数、分娩間隔などに代表される繁殖成績を改善、向上させる製剤及び方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜を利用する酪農業界などでは、家畜の生産物(乳、肉など)の量や質を向上させるだけでなく、その繁殖をいかに安定して効率的に行うかということも重要なファクターである。しかし、例えば乳牛においては、1頭あたりの年間生産乳量が向上する一方で、その繁殖成績は年々低下する傾向にあり、生殖器病や不受胎による除籍等も加わる結果、トータルでは生産性の低下を引き起こしている場合が見受けられる。
【0003】
また、最近では、分娩後に発情が戻る時期が遅くなったり、発情の微弱化が認められる場合も増えてきており、その結果、授精のタイミングを逸し、乳牛群の妊娠率の低下、空胎日数、分娩間隔の延長などに繋がっている。これらのことから、家畜の繁殖成績を改善、向上することは畜産経営上重要な課題であり、繁殖成績を改善、向上するための新たな成分、方法等に対する当業界の需要は非常に大きい。
【0004】
なお、家畜の繁殖成績を改善する方法としては、融点が−60〜40℃でヨウ素価が30〜470の範囲にあり、かつ分子内に二重結合2〜6個を有する炭素数12〜24の脂肪酸の金属塩を含有する飼料を、少なくとも分娩前30日から分娩後人工授精による受胎までの間に、上記脂肪酸に換算して1日1頭当たり20〜200g給与する方法(特許文献1)、γ−リノレン酸を雄牛に給与することで精子の活力を向上させ、その精子を用いて雌牛に種付けを行う方法(特許文献2)などが知られている。しかし、当業界においては、簡便且つ効率的に家畜の繁殖成績を改善、向上できる更なる経口投与・給与成分等の開発が引き続き求められている。
【0005】
一方、トレハロースは微生物や昆虫などにも含まれる天然に広く存在する二糖類で、α−グルコース2分子が1−1グリコシド結合したものであり、高純度のトレハロースを大量にそして安価に生成する技術も開発されている(特許文献3)。
また、トレハロースは非常に安定な物質で、冷凍耐性、変色の抑制、デンプンやタンパク質変性の抑制などの様々な機能が知られており、食品や化粧品など幅広い分野で利用されている。
【0006】
牛などの家畜に対するトレハロースの効果に関しては、トレハロースを肉牛(肥育牛)に給与することによって肉色を良好なものとすると共にドリップ量を低減させ、牛の肉質を改善することが知られている(特許文献4)。また、トレハロース給与による家畜やペットの成長促進、糞性状の改善、家畜・家禽などの肉質(色、つや)を改善する効果も知られている(特許文献5)。更に、牛、山羊、羊といった哺乳動物に対しトレハロースを給与することによって乳量を増加させ、更に乳中のカルシウム濃度を安定させることが知られている(特許文献6)。
しかし、トレハロースの経口投与又は給与によって家畜の繁殖成績を改善、向上させることに関しては現在までのところ知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−125377号公報
【特許文献2】特開2013−032288号公報
【特許文献3】特開平9−009986号公報
【特許文献4】特開2007−097409号公報
【特許文献5】特開2008−019236号公報
【特許文献6】特開2007−319156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、家畜の受胎率、妊娠率といったような繁殖成績を改善、向上させることが可能な、経口投与又は給与によって十分な効果を発揮する、安全性の高い有効成分を用いた製剤及び方法等を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究の結果、トレハロースの経口投与又は給与が家畜の繁殖成績に与える影響を検討し、トレハロースを家畜に経口投与又は給与することにより、その受胎率、妊娠率等を向上させ、また、空胎日数、分娩間隔等を短縮することができることを見出した。そして、これらの有用新知見に基づき、更に研究を進めた結果、トレハロースを有効成分とする、家畜の繁殖成績改善剤等である本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)トレハロースを有効成分として含有すること、を特徴とする家畜の繁殖成績改善剤(繁殖成績向上剤)。
(2)繁殖成績改善が、受胎率向上、妊娠率向上、空胎日数短縮、分娩間隔短縮から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする(1)に記載の剤。
(3)家畜に対して、1日あたり0.05〜0.42g/kg体重のトレハロースが経口投与されるように用いられること、を特徴とする(1)又は(2)に記載の剤。
(4)家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の剤。
【0011】
(5)トレハロースを家畜に経口投与又は給与すること、を特徴とする家畜の繁殖成績改善方法(繁殖成績向上方法)。
(6)繁殖成績改善が、受胎率向上、妊娠率向上、空胎日数短縮、分娩間隔短縮から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする(5)に記載の方法。
(7)家畜に対して、1日あたり0.05〜0.42g/kg体重のトレハロースを経口投与又は給与すること、を特徴とする(5)又は(6)に記載の方法。
(8)家畜が、牛、豚、羊、馬、山羊から選ばれる少なくとも1以上であること、を特徴とする(5)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トレハロースの家畜への経口投与又は給与を行うだけで、その受胎率、妊娠率等を向上させ、また、空胎日数、分娩間隔等を短縮することができ、つまり家畜の繁殖成績を改善、向上することができ、家畜の生産性ならびに畜産経営の安定化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明においては、家畜の繁殖成績改善剤等の有効成分としてトレハロース(α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、β,β−トレハロースから選ばれる少なくともひとつ)を使用する。トレハロースは純品乾燥物(精製物)が使用できることはもちろんのこと、その粗精製物(ペースト化物、希釈物、乳化物、懸濁物など)も使用可能である。また、デンプンやデキストリン等の賦形剤を加えて顆粒化したり、タブレットにしたりして製剤化したものも使用可能である。さらには、ルーメンで分解されないように油脂等でコーティング(バイパス化)したものも使用可能である。なお、トレハロースはルーメンで比較的分解されにくいため、このような加工を行わずに投与しても基本的には問題はない。
【0015】
そして、このトレハロースを有効成分として、そのまま飼料添加物、飼料、飼料組成物、動物医薬、促進剤(増強剤)、その他の剤として使用することができる。また、常用される飼料成分を添加、混合して、飼料添加物、飼料、飼料組成物を提供することも可能であり、さらには、トレハロースを有効成分とする動物医薬製剤としても提供することができる。この場合は、動物医薬製剤の常法にしたがって製剤化すればよく、他の生理機能を有する有効成分を併用することもできる。
【0016】
製剤は、種々の形態で経口投与され、その投与形態としては例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与などをあげることができる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの動物医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。なお、トレハロース純品乾燥物(粉末、結晶など)をそのまま製剤として用いることも可能である。
【0017】
なお、このようにして製剤化したものは、飼料組成物として使用することも充分可能であって、それ自体を飼料として直接家畜に給与することもできるし、飼料添加剤として他の飼料原料に添加、混合して用いることも可能である。
【0018】
本発明において、トレハロース経口投与又は給与の対象となる動物は、哺乳動物である家畜である。特に、その乳及び/又は肉が食用等となる家畜が好適例として示され、例えば、乳牛(特にホルスタイン種、ジャージー種など)、肉牛、豚、羊などであるが、これに限定されるものではない。その他、馬、山羊なども例示される。
【0019】
トレハロースの家畜への経口投与又は給与量としては、動物の体重1kgあたり0.05〜0.42g/日程度が好ましく、動物の体重1kgあたり0.08〜0.17g/日程度がより好ましい。例えば、乳牛(体重500〜1000kg程度)を例とすると、1日あたり25〜420g/頭、好ましくは40〜170g/頭が好適な経口投与又は給与量として示される。そして、経口投与又は給与は、所要の期間中に毎日継続して行われるのが好ましい。
なお、他の家畜においても、その体重等を勘案して経口投与又は給与量を設定すれば良いが、乳牛も含め上記以外の経口投与又は給与量を完全に除外するものではない。
【0020】
本発明は、トレハロースの有効性(機能性)を実際の生産現場における家畜生体を用いて直接確認した点に大きな特徴を有するものである。具体的には、トレハロースを泌乳中のホルスタイン種乳牛に経口投与し、投与前後における牛群の繁殖成績を統計的に解析し、その生理作用を実際に且つ直接確認した点においてきわめて特徴的であると言える。
【0021】
そして、本発明は、トレハロースが家畜への経口投与又は給与により、その繁殖成績を改善、向上するという新しい用途があることをはじめて見出したものであって、つまり、本発明は、家畜の繁殖成績改善剤というトレハロースの新規用途発明であると言うことも出来る。
【0022】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0023】
乳牛の繁殖成績に及ぼすトレハロース経口投与又は給与の影響を調査するため、以下の試験を行った。
【0024】
ホルスタイン種乳牛(雌牛)100頭に対し、トレハロースを投与しなかった場合(対照区:1年間)と、トレハロースを1頭(体重約600kg)あたり100g/日投与した場合(トレハロース区:1年間)とで繁殖成績(受胎率、妊娠率、空胎日数、分娩間隔)の比較を行った。
それぞれの期間における給与メニューは下記表1の通りである。
【0025】
【表1】
【0026】
なお、設定乳量は期間中に若干の増減があり、また、TMR飼料の成分値は下記の通りである。
粗タンパク質 16〜17%
RDP(ルーメン内分解蛋白) 36%
RUP(ルーメン非分解性蛋白) 34%
NDF(総繊維) 40%
NFC(非繊維性炭水化物) 34%
デンプン 17%
【0027】
結果を下記表2に示した。この結果、トレハロース区において対照区と比較して有意な受胎率向上、妊娠率向上が認められ、また、空胎日数及び分娩間隔も有意に短縮した。したがって、乳牛へのトレハロース投与により繁殖成績が有意に改善、向上することが明らかとなった。
【0028】
【表2】
【0029】
なお、本発明を要約すれば次のとおりである。
【0030】
すなわち、本発明は、家畜(乳牛、肉牛、豚など)の受胎率、妊娠率といったような繁殖成績を改善、向上させることが可能な、経口投与又は給与によって十分な効果を発揮する、安全性の高い有効成分を用いた製剤及び方法等を提供することを目的とする。
【0031】
そして、家畜(乳牛、肉牛、豚など)に対し、有効成分としてトレハロースを経口投与又は給与することにより、その受胎率、妊娠率等を向上させ、また、空胎日数、分娩間隔等を短縮し、その繁殖成績を簡便且つ効果的に改善、向上することができる。