特許第6182034号(P6182034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182034
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及びその装着方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/00 20060101AFI20170807BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20170807BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20170807BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   B60C11/00 H
   B60C11/03 Z
   B60C9/18 N
   B60C5/00 H
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-195895(P2013-195895)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-58912(P2015-58912A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】池木 重隆
【審査官】 細井 龍史
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/092585(WO,A1)
【文献】 特開2010−155504(JP,A)
【文献】 特開2002−370509(JP,A)
【文献】 特開2012−218565(JP,A)
【文献】 特開昭56−075205(JP,A)
【文献】 特開平02−256502(JP,A)
【文献】 特開平11−208216(JP,A)
【文献】 特開2001−150911(JP,A)
【文献】 特開昭59−199301(JP,A)
【文献】 特開昭49−043306(JP,A)
【文献】 特開2009−078579(JP,A)
【文献】 特開平07−290906(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0034798(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00−19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に、タイヤ周方向に連続してのびる縦溝及び両側のトレッド接地端に連通する横溝が設けられておらず、かつ、前記トレッド部の接地領域内に、複数の放熱穴が設けられた四輪自動車用の空気入りタイヤであって、
前記放熱穴は、前記接地領域内で閉じている輪郭形状を有する開口縁と、前記開口縁からトレッド部内部に凹んでいる穴表面とを含み、
前記放熱穴のそれぞれは、前記トレッド部の接地面での開口面積が30〜180mm2であり、
前記放熱穴の全ての開口面積を足し合わせた放熱穴合計面積は、前記放熱穴を全て埋めた状態での前記接地面の全表面積の2.0%〜7.0%であることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
互いに隣り合う前記放熱穴の間隔は、30mm以上である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、
前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されかつスチールからなるベルトコードをタイヤ周方向に対して15〜40°の角度で配列した2枚のベルトプライからなるベルト層と、
前記ベルト層のタイヤ半径方向外側に、バンドコードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列したバンドプライからなるバンド層とを有し、
前記放熱穴の前記穴表面と前記バンドコード又は前記ベルトコードとの最短距離である溝底ゴムゲージが1mm以下である請求項1又は2記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記バンドプライは、前記ベルト層の略全域を覆うフルバンドプライと、前記ベルト層のタイヤ軸方向の両端部のみを覆う左右一対のエッジバンドプライとを含み、
前記ベルト層は、前記フルバンドプライ及び前記エッジバンドプライで覆われている2層被覆領域と、前記フルバンドプライのみで覆われている単層被覆領域とを有し、
前記放熱穴は、前記単層被覆領域のタイヤ半径方向外側にのみ設けられている請求項3記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記放熱穴は、前記開口縁が略長円形である第1放熱穴を含む請求項1乃至4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記放熱穴は、
前記開口縁が略長円形である第1放熱穴と、
前記開口縁が略円形である第2放熱穴とを含み、
前記第1放熱穴は、前記接地面のタイヤ軸方向の中央領域にのみ設けられ、
前記第2放熱穴が、前記中央領域の両側にのみ設けられている請求項1乃至5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第1放熱穴は、タイヤ赤道よりも一方のトレッド接地端側でタイヤ周方向に隔設された複数の一方の第1放熱穴と、タイヤ赤道よりも他方のトレッド接地端側でタイヤ周方向に隔設された複数の他方の第1放熱穴とを含み、
前記各一方の第1放熱穴は第1方向に傾斜し、前記各他方の第2放熱穴は前記第1方向とは反対側の第2方向に傾斜している請求項6記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
請求項7記載の空気入りタイヤを四輪自動車の前輪に装着するための方法であって、
前記各第1放熱穴は、車両の前進時に、タイヤ赤道側の内端側からトレッド接地端側の外端側に向かって接地するように前記タイヤを車両に装着することを特徴とするタイヤの装着方法。
【請求項9】
請求項7記載の空気入りタイヤを四輪自動車の後輪に装着するための方法であって、
前記各第1放熱穴は、車両の前進時に、トレッド接地端側の外端側からタイヤ赤道側の内端側に向かって接地するように前記タイヤを車両に装着することを特徴とするタイヤの装着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリップ性能を維持しつつトレッド部の放熱性を向上しうる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の高出力化に伴い、タイヤのトレッド部には、高い放熱性が要求されている。特に、レース用の空気入りタイヤは、トレッド部が温度上昇して軟化し、操縦安定性が低下するという問題があった。
【0003】
走行時のトレッド部の温度上昇を抑制するために、トレッド部に放熱用の凹部が設けられた空気入りタイヤが提案されている。これにより、トレッド部の表面積が増加し、トレッド部の放熱性が向上する。しかしながら、このような凹部は、トレッド部の接地面積を小さくし、ひいてはグリップ性能が低下するという問題があった。
【0004】
例えば、下記特許文献1は、トレッド部に放熱用の凹部が設けられ、しかも凹部の個数が特定された空気入りタイヤを提案している。このような個数が特定された凹部は、放熱効果を発揮しつつ、トレッド部の接地面積の減少を抑制する。このため、グリップ性能が維持されつつ、トレッド部の放熱性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−155504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の空気入りタイヤであっても、グリップ性能とトレッド部の放熱性との両立については、さらなる改善の余地があった。
【0007】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部に複数の放熱穴を設け、各放熱穴の開口面積と、放熱穴の全ての開口面積を足し合わせた放熱穴合計面積とを特定することを基本として、グリップ性能を維持しつつトレッド部の放熱性を向上させた空気入りタイヤ及びその装着方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トレッド部の接地領域内に、複数の放熱穴が設けられた空気入りタイヤであって、前記放熱穴は、前記接地領域内で閉じている輪郭形状を有する開口縁と、前記開口縁からトレッド部内部に凹んでいる穴表面とを含み、前記放熱穴のそれぞれは、前記トレッド部の接地面での開口面積が30〜180mm2であり、前記放熱穴の全ての開口面積を足し合わせた放熱穴合計面積は、前記放熱穴を全て埋めた状態での前記接地面の全表面積の2%〜7%であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る空気入りタイヤは、互いに隣り合う前記放熱穴の間隔は、30mm以上であるのが望ましい。
【0010】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記トレッド部からサイドウォール部をへてビード部に至るカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつ前記トレッド部の内部に配されかつスチールからなるベルトコードをタイヤ周方向に対して15〜40°の角度で配列した2枚のベルトプライからなるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ半径方向外側に、バンドコードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列したバンドプライからなるバンド層とを有し、前記放熱穴の前記穴表面と前記バンドコード又は前記ベルトコードとの最短距離である溝底ゴムゲージが1mm以下であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記バンドプライは、前記ベルト層の略全域を覆うフルバンドプライと、前記ベルト層のタイヤ軸方向の両端部のみを覆う左右一対のエッジバンドプライとを含み、前記ベルト層は、前記フルバンドプライ及び前記エッジバンドプライで覆われている2層被覆領域と、前記フルバンドプライのみで覆われている単層被覆領域とを有し、前記放熱穴は、前記単層被覆領域のタイヤ半径方向外側にのみ設けられているのが望ましい。
【0012】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記開口縁は、略円形状又は略矩形状であるのが望ましい。
【0013】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記放熱穴は、前記開口縁が略長円形である第1放熱穴と、前記開口縁が略円形である第2放熱穴とを含み、前記第1放熱穴は、前記接地面のタイヤ軸方向の中央領域にのみ設けられ、前記第2放熱穴が、前記中央領域の両側にのみ設けられているのが望ましい。
【0014】
本発明に係る空気入りタイヤは、前記第1放熱穴は、タイヤ赤道よりも一方のトレッド端側でタイヤ周方向に隔設された複数の一方の第1放熱穴と、タイヤ赤道よりも他方のトレッド端側でタイヤ周方向に隔設された複数の他方の第1放熱穴とを含み、前記各一方の第1放熱穴は第1方向に傾斜し、前記各他方の第2放熱穴は前記第1方向とは反対側の第2方向に傾斜しているのが望ましい。
【0015】
本発明は、請求項7記載の空気入りタイヤを四輪自動車の前輪に装着するための方法であって、前記各第1放熱穴は、車両の前進時に、タイヤ赤道側の内端側からトレッド接地端側の外端側に向かって接地するように前記タイヤを車両に装着することを特徴とする。
【0016】
本発明は、請求項7記載の空気入りタイヤを四輪自動車の後輪に装着するための方法であって、前記各第1放熱穴は、車両の前進時に、トレッド接地端側の外端側からタイヤ赤道側の内端側に向かって接地するように前記タイヤを車両に装着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド部の接地面内に、複数の放熱穴が設けられている。これにより、トレッド部の表面積が増加し、トレッド部の放熱性が向上する。
【0018】
放熱穴は、接地面内で閉じている輪郭形状を有する開口縁と、開口縁からトレッド部内部に凹んでいる穴表面とを含んでいる。放熱穴のそれぞれは、接地面での開口面積が30〜180mm2である。開口面積が一定範囲内に限定された放熱穴は、トレッドゴムの局部的な変形を抑制しつつ、高い放熱効果を発揮しうる。
【0019】
放熱穴の全ての開口面積を足し合わせた放熱穴合計面積は、放熱穴を全て埋めた状態での接地面の全表面積の2%〜7%である。これにより、トレッド部の接地面積が維持され、グリップ性能が維持される。
【0020】
以上のように、本発明の空気入りタイヤは、グリップ性能を維持しつつ、トレッド部の放熱性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
図2図1のトレッド部の展開図である。
図3図1の放熱穴のB−B断面図である。
図4】本実施形態の空気入りタイヤが4輪に装着された車両を路面側から見上げたときの概略図である。
図5】本実施形態の空気入りタイヤが4輪に装着された車両を路面側から見上げたときの概略図である。
図6】他の実施形態のトレッド部の展開図である。
図7】他の実施形態のトレッド部の展開図である。
図8】他の実施形態のトレッド部の展開図である。
図9】他の実施形態のトレッド部の展開図である。
図10】(a)は図9の第1放熱穴のC−C断面図であり、(b)は走行時の第1放熱溝の断面図である。
図11】他の実施形態のトレッド部の展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある)1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。図2は、図1のタイヤ1のトレッド部2の展開図である。図1は、図2のA−A断面図に相当している。
【0023】
「正規状態」は、タイヤが正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。以下、特に言及しない場合、タイヤの各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0024】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0025】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0026】
図2に示されるように、本実施形態では、トレッド部2に、タイヤ周方向に連続してのびる縦溝及び両側のトレッド接地端Teに連通する横溝が設けられていない競技用のセミスリックタイヤが示されている。
【0027】
「トレッド接地端Te」は、前記正規状態のタイヤ1に、正規荷重を負荷しかつキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の位置である。
【0028】
「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。正規状態において、トレッド接地端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離が、トレッド接地幅TWである。
【0029】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、カーカス6、ベルト層7及びバンド層9を具えている。
【0030】
カーカス6は、例えば、2枚のカーカスプライ6A、6Bで形成されている。各カーカスプライ6A、6Bは、本体部6aと折り返し部6bとを含んでいる。本体部6aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る。折り返し部6bは、本体部6aに連なりビードコア5の廻りをタイヤ軸方向の内側から外側に折り返されている。
【0031】
カーカスプライ6A、6Bは、例えば、タイヤ赤道Cに対して75〜90°の角度で傾けて配列されたカーカスコードを有している。カーカスコードには、例えば、ナイロン、ポリエステル又はレーヨン等の有機繊維コード等が好適に採用される。
【0032】
カーカスプライ6A、6Bの本体部6aと折り返し部6bとの間には、ビードエーペックスゴム8が配されている。ビードエーペックスゴム8は、例えば、ビードコア5からタイヤ半径方向外方に向かって先細状にのびる硬質のゴムで形成されている。
【0033】
ベルト層7は、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されている。本実施形態のベルト層7は、トレッド部2の略全幅に亘って設けられている。本実施形態のベルト層7は、例えば、2枚のベルトプライ7A、7Bで形成されている。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードを有している。ベルトコードは、例えば、タイヤ周方向に対して15〜40°の角度で傾けて配列されている。ベルトコードには、例えば、ポリエステル、ナイロン、レーヨン若しくは芳香族ポリアミド等の有機繊維コード、又は、スチールコードが好適に採用される。
【0034】
バンド層9は、ベルト層7のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されている。バンド層9は、バンドコードをタイヤ周方向に対して5°以下の角度で配列したフルバンドプライ9A及びエッジバンドプライ9Bからなる。本実施形態のフルバンドプライ9Aは、ベルトプライ7A、7Bの略全域を覆っている。エッジバンドプライ9Bは、ベルトプライ7A、7Bのタイヤ軸方向の両端部のみを覆って左右一対で設けられている。バンドコードには、例えば、ナイロン又は芳香族ポリアミド等の有機繊維コードが好適に採用される。これにより、ベルト層7の浮き上がりが効果的に抑制され、タイヤ1の耐久性が向上する。
【0035】
図2に示されるように、トレッド部2の接地領域内には、複数の放熱穴10が設けられている。接地領域とは、トレッド接地端Te、Te間の領域である。放熱穴10は、トレッド部2の接地領域内で閉じている輪郭形状を有する開口縁13と、開口縁13からトレッド部2内部に凹んでいる穴表面14とを含んでいる。
【0036】
放熱穴10の開口縁13の形状は特に限定されないが、成形性などを考慮した場合、開口縁13は、例えば、略円形状、略長円形状、又は、略矩形状が望ましい。「略円形状」とは、完全な円形だけでなく、最も長い径Φaと、その直角方向の径Φbとの比Φa/Φbが1.5以下の歪んだ円形を含む。このような略円形状の開口縁13は、トレッド部2の耐久性を効果的に維持する。
【0037】
「略長円形状」とは、矩形状の本体部を有し、かつ、前記本体部の長さ方向の両端部が半円状の形状である。このような略長円形状の開口縁13は、その長さ方向のトレッド部2の剛性を効果的に維持する。しかも、このような開口縁13は、長さ方向の両端部が半円状であるため、前記両端部を起点としたクラックが抑制される点で好ましい。
【0038】
「略矩形状」とは、長方形だけでなく、正方形、平行四辺形又は台形等の四角形を含む。このような略矩形状の開口縁13は、多方向にエッジ効果を発揮し、例えば、ウェット性能を向上させるのにも役立つ。
【0039】
図3には、図2のB−B断面図が示される。図3に示されるように、放熱穴10の穴表面14は、側壁15と底面16とを有している。
【0040】
側壁15は、開口縁13からタイヤ半径方向内側に、例えば、直線状にのびている。開口縁13を通る法線17と側壁15とがなす角度θ1は、例えば、0〜15°である。前記角度θ1が15°より大きい場合、穴表面14の面積が小さくなり、放熱性が低下するおそれがある。
【0041】
底面16は、ベルト層7の外面に沿って直線状にのびている。底面16と側壁15とがなすコーナー部18は、例えば、0.5〜2mmの曲率半径r1を有する。このようなコーナー部18は、放熱穴10を起点としたクラックを抑制する。
【0042】
図2に示されるように、放熱穴10のそれぞれは、接地面2sでの開口面積Saが30〜180mm2である。開口面積が一定範囲内に限定された放熱穴10は、トレッドゴム2Gの局部的な変形を抑制しながら、トレッド部2を放熱させる。従って、放熱穴10の放熱効果が十分に発揮され、ひいてはトレッド部2の放熱性が向上する。前記開口面積Saが30mm2よりも小さい場合、の放熱効果が低下する。逆に、前記開口面積Saが180mm2よりも大きい場合、トレッド部2の接地面積が小さくなり、グリップ性能が低下する。また、トレッドゴム2Gの変形量が増加して発熱し易い。
【0043】
放熱穴10の前記開口面積Saは、好ましくは60mm2以上、より好ましくは90mm2以上であり、好ましくは150mm2以下、より好ましくは120mm2以下である。このような放熱穴10は、バランス良くグリップ性能と放熱性とを両立させる。
【0044】
トレッド部2に設けられた放熱穴10の全ての開口面積Saを足し合わせた放熱穴合計面積ΣSaは、放熱穴10を全て埋めた状態での接地面2sの全表面積Stの2%〜7%である。トレッド部2に放熱穴10以外の溝が設けられている場合、前記全表面積Stは、前記溝を全て埋めた状態で測定された面積である。
【0045】
これにより、トレッド部2の接地面積が維持され、グリップ性能が維持される。前記放熱穴合計面積ΣSaが、前記全表面積Stの2%よりも小さい場合、トレッド部2の放熱効果が低下する。前記放熱穴合計面積ΣSaが、前記全表面積Stの7%よりも大きい場合、接地面積が小さくなりグリップ性能が低下する。
【0046】
放熱穴合計面積ΣSaは、好ましくは前記全表面積Stの3%以上、より好ましくは4%以上であり、好ましくは6%以下、より好ましくは5%以下である。これにより、上述の効果がより効果的に発揮される。
【0047】
互いに隣り合う放熱穴の間隔L1は、好ましくは30mm以上、より好ましくは40mm以上である。前記間隔L1が30mmより小さい場合、トレッド部2が変形し易くなり、操縦安定性が低下するおそれがある。前記間隔L1は、好ましくは60mm以下、より好ましくは50mm以下である。前記間隔L1が60mmより大きい場合、放熱効果が低下するおそれがある。
【0048】
図1に示されるように、本実施形態のベルト層7は、フルバンドプライ9A及びエッジバンドプライ9Bで覆われている2層被覆領域19と、フルバンドプライ9Aのみで覆われている単層被覆領域20とを有している。放熱穴10は、例えば、単層被覆領域20のタイヤ半径方向外側にのみ設けられているのが望ましい。これにより、トレッド部2の放熱効果が高められる。なお、バンド層9は、エッジバンドプライ9Bのみで形成されても良い。これにより、ベルト層7と放熱穴10との距離が小さくなり、トレッド部2の放熱効果がさらに高められる。
【0049】
図3に示されるように、放熱穴10の穴表面14とバンド層9のバンドコード又はベルト層7のベルトコードとの最短距離である溝底ゴムゲージt1は、1mm以下であるのが望ましい。溝底ゴムゲージt1は、好ましくは0.7mm以下、より好ましくは0.6mm以下である。これにより、放熱穴10の放熱効果がさらに高められる。溝底ゴムゲージt1は、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.4mm以上である。これにより、バンド層9の吸湿及び溝底を起点としたクラック等の損傷が抑制される。
【0050】
図2に示されるように、本実施形態の放熱穴10は、例えば、第1放熱穴11と、第2放熱穴12とを含んでいる。第1放熱穴11の開口縁13は、略長円形である。第2放熱穴12の開口縁13は、略円形である。
【0051】
本実施形態の第1放熱穴11は、接地面2sのタイヤ軸方向の中央領域2mにのみ設けられている。本実施形態の第2放熱穴12は、前記中央領域2mの両側にのみ設けられている。このような第1放熱穴11及び第2放熱穴12は、トレッド部2の放熱性を向上させ、しかも、トレッド接地端Te付近の磨耗を効果的に抑制する。
【0052】
中央領域に設けられた第1放熱穴11は、一方の第1放熱穴11aと他方の第1放熱穴11bとを含んでいる。一方の第1放熱穴11aは、タイヤ赤道Cよりも一方のトレッド端Te1側でタイヤ周方向に隔設されている。他方の第1放熱穴11bは、タイヤ赤道Cよりも他方のトレッド端Te2側でタイヤ周方向に隔設されている。
【0053】
各一方の第1放熱穴11aは、第1方向に傾斜している。各他方の第1放熱穴11bは第1方向とは反対側の第2方向に傾斜している。これにより、第1放熱穴11は、タイヤ赤道Cを中心として略V字状の配列となる。このような一方及び他方の第1放熱穴11a、11bは、トレッドゴム2Gの局部的な剛性の低下を抑制し、ひいては操縦安定性を向上させる。
【0054】
第1放熱穴11のタイヤ周方向に対する傾斜角度θ2は、好ましくは35°以上、より好ましくは40°以上であり、好ましくは55°以下、より好ましくは50°以下である。このような第1放熱穴11は、タイヤ周方向及びタイヤ軸方向に対してバランス良くエッジ効果を発揮し、グリップ性能が向上する。
【0055】
第1放熱穴11の幅W1と長さL2との比W1/L2は、好ましくは0.08以上、より好ましくは0.10以上であり、好ましくは0.18以下、より好ましくは0.15以下である。W1/L2が0.08より小さい場合、第1放熱穴11の端部を起点としたクラックが発生するおそれがある。逆に、前記比W1/L2が0.18より大きい場合、トレッド部2の剛性が低下して操縦安定性が低下するおそれがある。
【0056】
第2放熱穴12は、タイヤ周方向に隔設されている。タイヤ周方向で隣り合う第2放熱穴12は、互いにタイヤ軸方向に位置ずれしている。これにより、第2放熱穴12は、タイヤ周方向にジグザグ状に配置されている。このような第2放熱穴12は、トレッド接地端Te付近の耐久性を維持しつつ、放熱性を向上させる。
【0057】
第2放熱穴12の直径Φ1は、例えば、7.0mm以上、より好ましくは9.0mm以上であり、好ましくは15.0mm以下、より好ましく13.0mm以下である。第2放熱穴12の直径Φ1が7.0mmより小さい場合、放熱性が低下するおそれがある。逆に、前記直径Φ1が15.0mmより大きい場合、接地面積が小さくなってグリップ性能が低下するおそれがある。
【0058】
図4及び図5には、本実施形態のタイヤ1が装着された四輪自動車Mを路面側から見上げたときの概略図が示されている。矢印aは、四輪自動車Mの進行方向である。矢印bは、路面側から見たタイヤの回転方向である。薄いグレーのハッチングで示された領域21は、タイヤ1の接地している領域である。図4は、四輪自動車Mが旋回しながら減速しているときの概略図である。図5は、四輪自動車Mが旋回しながら加速しているときの概略図である。
【0059】
図4に示されるように、本実施形態のタイヤ1が四輪自動車の前輪FWに装着される場合、各第1放熱穴11は、車両の前進時に、タイヤ赤道C側の内端11i側からトレッド接地端Te側の外端11o側に向かって接地する向きにタイヤ1が装着されるのが望ましい。
【0060】
例えば、制動しながら、c方向に前輪FWに舵角が与えられたとき、タイヤ1の接地領域21には、コーナリングフォースFc1と制動力Fbとが合成された合成力Fs1が作用する。このとき、上述のような前輪の装着方法では、旋回時に外側に位置する前輪FWoの車両外側の第1放熱穴11の長さ方向と、合成力Fs1の方向とは、互いに平行に近付く。このため、合成力Fs1による前輪FWoの車両外側のトレッドゴム2Gの変形が小さくなる。従って、例えば、制動しながら舵角が与えられる旋回初期の操縦安定性が向上する。
【0061】
図5に示されるように、本実施形態のタイヤ1が四輪自動車の後輪RWに装着される場合、各第1放熱穴11は、車両の前進時に、トレッド接地端Te側の外端11o側からタイヤ赤道C側の内端11i側に向かって接地するようにタイヤ1が装着されるのが望ましい。
【0062】
例えば、c方向に旋回しながら後輪RWに駆動力が作用したとき、タイヤ1の接地領域21には、コーナリングフォースFc2と駆動力Ftが合成された合成力Fs2が作用する。このとき、上述のような後輪の装着方法では、旋回時に外側に位置する後輪RWoの車両外側の第1放熱穴11の長さ方向と、合成力Fs2の方向とは、互いに平行に近付く。このため、合成力Fs2による後輪RWoの車両外側のトレッドゴム2Gの変形が小さくなる。従って、例えば、旋回しながら駆動力が作用する旋回終期の操縦安定性が向上する。
【0063】
図6乃至図9には、本発明の他の実施形態のタイヤ1が示されている。図6乃至図9にはそれぞれ、開口縁13が略長円形である第1放熱穴11の配置が異なったタイヤ1が示されている。
【0064】
図6の実施形態は、タイヤ周方向に平行な各第1放熱穴11が、トレッド部2のタイヤ軸方向の中央領域2mに設けられている。このような第1放熱穴11は、優れた放熱効果を発揮し、しかも、中央領域2mのタイヤ周方向の剛性を効果的に維持する。
【0065】
図7には、タイヤ1の接地面2s全域に、タイヤ周方向に平行な第1放熱穴11のみが設けられた実施形態が示されている。このような第1放熱穴11は、トレッドゴム2G全域のタイヤ周方向の剛性をさらに効果的に維持する。従って、とりわけ加減速時の操縦安定性が向上する。
【0066】
図8の実施形態は、タイヤ軸方向に平行な各第1放熱穴11が、トレッド部2のタイヤ軸方向の中央領域2mに設けられている。このような第1放熱穴11は、優れた放熱効果を発揮し、しかも、中央領域2mのタイヤ軸方向の剛性を効果的に維持する。
【0067】
図9には、接地面2s全域に、タイヤ軸方向に平行な第1放熱穴11のみが設けられた実施形態が示されている。このような第1放熱穴11は、トレッドゴム2G全域のタイヤ軸方向の剛性をさらに効果的に維持する。従って、とりわけ旋回時の操縦安定性が向上する。
【0068】
図10(a)には、図8及び図9の第1放熱穴11のC−C断面図が示されている。図10(a)に示されるように、タイヤ軸方向に平行な第1放熱穴11は、長さ方向に直交する断面において、接地面2sからタイヤ回転軸に向かってタイヤ回転方向a側に傾斜しているのが望ましい。このような第1放熱穴11は、図10(b)に示されるように、第1放熱穴11が路面Gに接地するとき、第1放熱穴11の容積が大きく変化する。これにより、第1放熱穴11内の空気が効率良く入れ替わり、トレッド部2の放熱性が向上する。
【0069】
図10(a)に示されるように、第1放熱穴11の傾斜角度θ3は、好ましくは5°以上、より好ましくは8°以上であり、好ましくは、15°以下、より好ましくは12°以下である。前記傾斜角度θ3が5°より小さい場合、上述の効果が得られないおそれがある。逆に、前記傾斜角度θ3が15°より大きい場合、トレッド部2が変形し易くなり、操縦安定性が低下するおそれがある。
【0070】
図11には、さらに他の実施形態が示されている。図11のタイヤ1には、開口縁13が略円形である第2放熱穴12のみが、接地面2s全域に設けられている。このような第2放熱穴12は、優れた放熱性能を発揮し、かつ、トレッド部2の耐久性を効果的に維持する。
【0071】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうるのはいうまでもない。
【0072】
図1の基本構造を有するサイズ225/40R18の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、グリップ性能及び放熱性がテストされた。比較例1として、放熱穴が設けられていないタイヤが同様にテストされた。各タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
装着リム:18×8.0J
タイヤ内圧:240kPa
テスト車両:前輪駆動車、排気量1600cc
タイヤ装着位置:全輪
【0073】
<グリップ性能>
前記テスト車両で1周3700mのテストコースを走行したときのグリップ性能が、運転者の官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点であり、数値が大きい程、グリップ性能が優れていることを示す。
【0074】
<放熱性>
上記テスト車両で前記テストコースを周回したときのトレッド部の最高温度が測定された。結果は、トレッド部の最高温度の値の逆数であり、比較例1の値を100とする指数で表示されている。数値が大きい程、最高温度が小さく、放熱性に優れていることを示す。
テスト結果が表1に示される。
【0075】
【表1】
【0076】
テストの結果、実施例の自動二輪車用タイヤは、グリップ性能が維持されつつ、トレッド部の放熱性が向上しているのが確認できた。
【符号の説明】
【0077】
2 トレッド部
2s 接地面
10 放熱穴
13 開口縁
14 穴表面
Sa 開口面積
ΣSa 放熱穴合計面積
図1
図2
図3
図4
図5
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図8
図9
図10
図11