(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、排ガス処理用触媒として従来多く用いられているPt系触媒に代表されるようにPtを用いた触媒は、触媒としての活性は高いもののPtが希少金属であるため流通量が少なく、高価であることが知られている。そのため、Pt系触媒を用いた排ガス処理装置は触媒コスト構成比率が高くなってしまうため、低コストな触媒が求められている。一方、特許文献3に記載されるペロブスカイト複合酸化物を用いた触媒は、コストの低減は図れるものの排ガス中に含まれる有害物質を浄化するための活性が十分に得られないことがある。
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態の目的は、有害物質を浄化するための十分な活性を有しながらコストを抑制し得る排ガス処理用触媒及び排ガス処理装置、並びに排ガス処理用触媒の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る排ガス処理用触媒は、
排ガスに含まれる有害物質を浄化するための排ガス処理用触媒であって、
一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型構造において、Aサイトの金属元素がLa及びSrを含む二種以上の元素であり、Bサイトの金属元素がMnを含む一種以上の元素であるペロブスカイト複合酸化物と、Agとを含有し、
前記Agは少なくとも前記Aサイトに含まれ、前記ペロブスカイト複合酸化物に対する前記Agのモル比が0.05以上0.2以下であることを特徴とする。
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、Ptを用いずに高い活性が得られる触媒として、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型構造において、Aサイトの金属元素がLa及びSrを含む二種以上の元素であり、Bサイトの金属元素がMnを含む一種以上の元素であるペロブスカイト複合酸化物と、Agとを含有する排ガス処理用触媒を見出した。この排ガス処理用触媒は、粒子状物質(PM)の燃焼性能に優れていることから、例えばDPFの強制再生時に、PMを効果的に燃焼させて除去することが可能である。これに加えて、DPFを強制再生するための温度を低温化することができる。またDPFの強制再生時の温度を低くできることから、高コストな耐熱材料が不要となり、且つ、PM燃焼時における過昇温のリスクを低減できる。さらに、上記排ガス処理用触媒によれば、NOに対する高い酸化性能も得られる。これにより、この排ガス処理用触媒を用いた排ガス処理装置は通常運転時の連続再生によってDPF強制再生の間隔を長期化することも可能となり、燃費の向上が図れる。さらにまた、未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)の酸化活性も高く維持できるので、排ガス中に含まれる各種の有害物質を効果的に除去可能となる。
【0010】
また、前記ペロブスカイト複合酸化物に対する前記Agのモル比が0.05以上0.2以下である。
ペロブスカイト複合酸化物に対してAgのモル比が0.05未満である場合、HC、COに対する十分な酸化活性を得られるとは言い難い。一方、ペロブスカイト複合酸化物に対してAgのモル比が0.2超過である場合、Pt系触媒に比べてコスト的なメリットが少ない。よって、Agの含有量を上記範囲内とすることによって、低コストで且つ十分な酸化活性が得られる排ガス処理用触媒を提供することが可能である。
一実施形態では、上記排ガス処理用触媒において、前記ペロブスカイト複合酸化物に対する前記Agのモル比が0.1である。これにより、低コストで且つ酸化活性の高い排ガス処理用触媒とすることができる。
【0011】
一実施形態において、上記排ガス処理用触媒は、前記ペロブスカイト複合酸化物に対する前記Laと前記Srと前記Agのモル比の総和が1である。
このように、ペロブスカイト複合酸化物に対するLaとSrとAgのモル比の総和が1となるように構成されることによって、CO及びHC、NOの酸化活性をより一層高くすることができ、触媒性能を向上できる。
また、一実施形態において、上記排ガス処理用触媒は、前記La及び前記Srが同一のモル比である。これにより、上記排ガス処理用触媒の酸化活性をより一層高くでき、触媒性能を向上できる。
【0012】
他の実施形態において、上記排ガス処理用触媒は、前記ペロブスカイト複合酸化物を担体とし、前記担体に前記Agが担持された構造を有する。
このように、ペロブスカイト複合酸化物からなる担体にAgを含む溶液を含浸させることによって、既存のペロブスカイト複合酸化物に対して容易にAgを担持させることができる。
【0013】
本発明の少なくとも一実施形態に係る排ガス処理装置は、
エンジンから排出された排ガスから少なくとも窒素酸化物を除去する排ガス処理装置であって、
前記排ガスの流路に設けられたSCR(Selective Catalytic Reduction)触媒と、
前記SCR触媒と略同じ位置又は該SCR触媒より排ガス流れ方向上流側に設けられた上述の排ガス処理用触媒とを備える。
【0014】
上記排ガス処理装置によれば、上述の排ガス処理用触媒が優れたNO
2生成特性を示すので、排ガス中のNO
2含有率が高くなり、下流側のSCR触媒における脱硝性能を向上させることができる。さらに上述の排ガス処理用触媒は優れたC
3H
8浄化性能を示すので、下流側のSCR触媒のHC被毒を低減することが可能である。すなわち、SCR触媒と略同じ位置又はSCR触媒より排ガス流れ方向上流側に上述の排ガス処理用触媒が設けられていることによって、SCR触媒が高い脱硝性能を維持しつつ、NH
3スリップ量も低減できる。
【0015】
一実施形態に係る排ガス処理装置は、前記SCR触媒より排ガス流れ方向上流側に設けられた酸化触媒(DOC)をさらに備える。
これにより、排ガス中に含まれる一酸化炭素(CO)やHC(未燃炭化水素)を効果的に浄化できる。
【0016】
本発明の少なくとも一実施形態に係る排ガス処理用触媒の製造方法は、
排ガスに含まれる有害物質を浄化するための排ガス処理用触媒の製造方法であって、
La及びSrを含む金属硝酸塩水溶液と、Mnを含む金属硝酸塩水溶液と、Agを含む金属硝酸塩水溶液とを混合して触媒溶液を調製するステップと、
前記触媒溶液を乾燥させた後、焼成することによって、前記La,前記Sr及び前記Mnを含むペロブスカイト複合酸化物と、前記Agとを含有する排ガス処理用触媒を製造するステップとを備えることを特徴とする。
【0017】
上記排ガス処理用触媒の製造方法によれば、粒子状物質(PM)の燃焼性能に優れるとともに、NOに対する高い酸化性能、及び未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)に対する高い酸化性能を有する排ガス処理用触媒を製造できる。また、上記排ガス処理用触媒の製造方法によって製造される排ガス処理用触媒は、ペロブスカイト構造の格子内にAgが取り込まれた構造を有すると推測される。そのため、耐熱性の低いAgのシンタリングを抑制し、Agを高分散に存在させることができる。よって、上記排ガス処理用触媒の製造方法によって製造される排ガス処理用触媒によれば、高い触媒性能が得られる。
【0018】
幾つかの実施形態において、前記排ガス処理用触媒を製造するステップでは、前記触媒溶液を乾燥させた後、500℃以上900℃以下で焼成する。
このように触媒原料を高温で焼成して排ガス処理用触媒を製造することによって、耐熱性の高い排ガス処理用触媒を提供できる。例えば、DPFに排ガス処理用触媒を担持させる場合、DPFの強制再生時における高温にも耐え得る排ガス処理用触媒とすることができる。
【0019】
本発明の少なくとも一実施形態に係る排ガス処理用触媒の製造方法は、
排ガスに含まれる有害物質を浄化するための排ガス処理用触媒の製造方法であって、
La及びSrを含む金属硝酸塩水溶液と、Mnを含む金属硝酸塩水溶液とを混合して担体溶液を調製するステップと、
前記担体溶液を乾燥させた後、焼成することによって、担体を製造するステップと、
前記担体を、Agを含む金属硝酸塩水溶液に含浸させるステップと、
前記硝酸銀水溶液に含浸された前記担体を乾燥させた後、焼成することによって、前記La,前記Sr及び前記Mnを含むペロブスカイト複合酸化物と、前記Agとを含有する排ガス処理用触媒を製造するステップとを備えることを特徴とする。
【0020】
上記排ガス処理用触媒の製造方法によれば、粒子状物質(PM)の燃焼性能に優れるとともに、NOに対する高い酸化性能、及び未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)に対する高い酸化性能を有する排ガス処理用触媒を製造できる。また、ペロブスカイト複合酸化物からなる担体にAgを含む溶液を含浸させることによって、既存のペロブスカイト複合酸化物に対して容易にAgを担持させることができる。
【0021】
幾つかの実施形態において、前記担体を製造するステップでは、前記担体溶液を乾燥させた後、500℃以上900℃以下で焼成する。
このように担体原料を高温で焼成することによって耐熱性の高い排ガス処理用触媒を提供できる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、粒子状物質(PM)の燃焼性能に優れるとともに、NOに対する高い酸化性能、及び未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)に対する高い酸化性能を有する排ガス処理用触媒を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。ただし、実施形態として以下に記載され、あるいは、実施形態として図面で示された構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0025】
本発明の実施形態に係る排ガス処理用触媒は、排ガスに含まれる粒子状物質(PM)、未燃炭素分(HC)、一酸化炭素(CO)の少なくともいずれかを含む有害物質の浄化及び一酸化窒素(NO)の酸化に用いられる。
幾つかの実施形態において、排ガス処理用触媒は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型構造において、Aサイトの金属元素がLa及びSrを含む二種以上の元素であり、Bサイトの金属元素がMnを含む一種以上の元素であるペロブスカイト複合酸化物と、Agとを含有する。なお、Aサイトの金属元素にAgが含まれる構成であってもよい。
【0026】
一実施形態において、排ガス処理用触媒は、ペロブスカイト複合酸化物に対するAgのモル比が0.05以上0.2以下、好適にはペロブスカイト複合酸化物に対するAgのモル比が0.1である。
ここで、ペロブスカイト複合酸化物に対してAgのモル比が0.05未満である場合、HC、COに対する十分な酸化活性を得られるとは言い難い。一方、ペロブスカイト複合酸化物に対してAgのモル比が0.2超過である場合、Pt系触媒に比べてコスト的なメリットが少ない。よって、Agの含有量を上記範囲内とすることによって、低コストで且つ十分な酸化活性が得られる排ガス処理用触媒を提供することが可能である。特にペロブスカイト複合酸化物に対するAgのモル比が0.1である場合、より一層低コストで且つ酸化活性の高い排ガス処理用触媒とすることができる。
【0027】
また、一実施形態において、排ガス処理用触媒は、ペロブスカイト複合酸化物に対するLaとSrとAgのモル比の総和が1であり、好適には、La及びSrが同一のモル比である。
このように、ペロブスカイト複合酸化物に対するLaとSrとAgのモル比の総和が1となるように構成されることによって、CO及びHC、NOの酸化活性を高くすることができ、触媒性能を向上できる。特に、La及びSrが同一のモル比である場合、より一層、上述の排ガス処理用触媒の酸化活性を高くでき、触媒性能を向上できる。
【0028】
また一例として、一般式ABO
3は、La
XSr
1−XMnO
3で表されてもよい。その場合、xは0.5以上0.9以下(0.5≦x≦0.9)であってもよい。
【0029】
以下、本実施形態に係る排ガス処理用触媒と比較例に係る排ガス処理用触媒の性能を比較する試験を行った結果を示す。
本実施形態に係る排ガス処理用触媒としては、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型構造において、Aサイトの金属元素がLa及びSrを含む二種の元素であり、Bサイトの金属元素がMnを含む一種の元素であるペロブスカイト複合酸化物(ペロブスカイト複合酸化物)と、Agとを含有する触媒(Ag0.1(La0.5Sr0.5)0.9MnO
3)を用いた。比較例に係る排ガス処理用触媒としては、従来用いられていたPt系触媒として、Al
2O
3に2重量%のPtを担持させた触媒(2wt%Pt/Al
2O
3)と、Al
2O
3に5重量%のAgを担持させた触媒(5wt%Ag/Al
2O
3)と、Agを含有しないペロブスカイト複合酸化物単体の触媒(La0.5Sr0.5MnO
3)とを用いた。
【0030】
図1は本実施形態に係る排ガス処理用触媒及び比較例に係る排ガス処理用触媒における触媒温度400℃でのNO
2生成率(100×触媒出口NO
2/触媒入口NO)を示すグラフである。
図2は本実施形態に係る排ガス処理用触媒及び比較例に係る排ガス処理用触媒における触媒温度400℃でのC
3H
8浄化率(100×(1−触媒出口C
3H
8濃度/触媒入口C
3H
8濃度))を示すグラフである。
図3は
図1及び
図2の試験条件を示す表である。
なお、
図1及び
図2は、以下に示す製造方法によって製造された触媒を用いて性能評価を行った結果を示している。
まず、すべて焼成した触媒粉末に対して、溶媒とバインダーを加え、ボールミルを用いて調製して混合し、スラリー化させる。そして、このスラリーをハニカム状の基材の表面に塗布し、ハニカム型触媒を製造する。
図1及び
図2に示すグラフは、このハニカム型触媒に、空気中760℃100時間の熱処理を加えて、加速的に触媒を熱劣化させた状態での性能評価結果である。
【0031】
図3に示す試験条件で排ガスの浄化試験を行った所、
図1及び
図2に示す結果が得られた。
図1に示すように、本実施形態に係る排ガス処理用触媒は、比較例である従来の白金系触媒(2wt%Pt/Al
2O
3)に比べてNO
2生成率が大幅に高くなった。また、比較例であるAl
2O
3に5重量%のAgを担持させた触媒(5wt%Ag/Al
2O
3)、及び、Agを含有しないペロブスカイト複合酸化物担体の触媒(La0.5Sr0.5MnO
3)に比べてもNO
2生成率が高くなった。すなわち、排ガス中のNO
xの浄化において、NO
xは以下の式(1)〜(3)の反応によって還元されるため、本実施形態に係る排ガス処理用触媒が優れたNO
2生成特性を示すことから、脱硝触媒(例えばSCR触媒)の上流もしくは脱硝触媒に含有させることで高い脱硝性能が得られることがわかる。
4NO+4NH
3+O
2→4N
2+6H
2O …(1)
2NO+2NO
2+4NH
3→4N
2+6H
2O …(2)
6NO
2+8NH
3+O
2→7N
2+12H
2O …(3)
【0032】
また、
図2に示すように、本実施形態に係る排ガス処理用触媒は、比較例である従来の白金系触媒(2wt%Pt/Al
2O
3)、Al
2O
3に5重量%のAgを担持させた触媒(5wt%Ag/Al
2O
3)、及び、Agを含有しないペロブスカイト複合酸化物単体の触媒(La0.5Sr0.5MnO
3)に比べてC
3H
8浄化率が大幅に高くなった。すなわち、本実施形態に係る排ガス処理用触媒は優れたHC浄化性能を有することがわかる。
【0033】
図4A及び
図4BにC(カーボン)の燃焼性能試験の結果を示す。なお、
図4は本実施形態に係る排ガス処理用触媒及び比較例に係る排ガス処理用触媒におけるC(カーボン)の燃焼開始温度及び燃焼温度を示すグラフであり、
図4Aは試験体の重量が10%減少した時の温度で、
図4Bは試験体の重量が50%減少した時の温度である。なお、
図4A及び
図4Bに示す性能評価結果は、触媒粉末に対してC(カーボン)を10重量%混合し、TG−DTA(Thermogravimetric−Differential Thermal Analysis)により、昇温中の重量変化データを取得した結果である。
本実施形態に係る排ガス処理用触媒(試験体)としては、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型構造において、Aサイトの金属元素がLa及びSrを含む二種の元素であり、Bサイトの金属元素がMnを含む一種の元素であるペロブスカイト複合酸化物と、Agとを含有する触媒(Ag0.1(La0.5Sr0.5)0.9MnO
3)を用いた。比較例に係る排ガス処理用触媒(試験体)としては、従来用いられていたPt系触媒として、Al
2O
3に2重量%のPtを担持させた触媒(2wt%Pt/Al
2O
3)を用いた。
【0034】
図4A及び
図4Bに示すように、本実施形態に係る排ガス処理用触媒(Ag0.1(La0.5Sr0.5)0.9MnO
3)は、Al
2O
3に2重量%のPtを担持させた触媒(2wt%Pt/Al
2O
3)に比べて燃焼温度が低い。すなわち、比較例に比べて優れたPM燃焼性能を示すことがわかる。
【0035】
上記したように、本実施形態に係る排ガス処理用触媒によれば、この排ガス処理用触媒は、粒子状物質(PM)の燃焼性能に優れていることから、例えばDPFの強制再生時に、PMを効果的に燃焼させて除去することが可能である。これに加えて、DPFを強制再生するための温度を低温下することができる。またDPFの強制再生時の温度を低くできることから、高コストな耐熱材料が不要となり、且つ、PM燃焼時における過昇温のリスクを低減できる。さらに、上記排ガス処理用触媒によれば、NOに対する高い酸化性能(NO
2生成特性)も得られる。一般的にC(カーボン)は、O
2(酸素)による燃焼と比較してNO
2(二酸化窒素)による燃焼の方が燃焼温度が低いことが知られている。これにより、この排ガス処理用触媒を用いた排ガス処理装置は通常運転時の連続再生によってDPF強制再生の間隔を長期化することも可能となり、燃費の向上が図れる。さらにまた、未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)の酸化活性も高く維持できるので、排ガス中に含まれる各種の有害物質を効果的に除去可能となる。
【0036】
また、本実施形態に係る排ガス処理用触媒によれば、低い比表面積であっても高い触媒性能を得ることができる。ここで、
図5に、触媒の基本物性として比表面積のデータを示す。なお、これらの比表面積は、各触媒のハニカムへコートする前の触媒粉末のデータである。例えば、比較例である2wt%Pt/Al
2O
3(Pt系触媒)の比表面積は111m
2/gである。また、比較例である5wt%Ag/Al
2O
3の比表面積は110m
2/gである。これに対して、本実施形態に係る排ガス処理用触媒のAg
0.1(La
0.5Sr
0.5)
0.9MnO
3は19m
2/gであり、5wt%Ag/
La0.5Sr0.5MnO
3は24m
2/gである。このように、本実施形態に係る排ガス処理用触媒は、Pt系触媒等に比べて非常に低い比表面積であるが、
図1,
図2、
図4A及び
図4Bに示すように高い性能を示す。さらに、本実施形態に係る排ガス処理用触媒は、高比表面積の担体にコートしてもよく、これにより更なる触媒の高性能化が図れるものである。
【0037】
次に、本実施形態に排ガス処理用触媒の製造方法について説明する。
図6は一実施形態に係る排ガス処理用触媒の製造方法の手順を示すフローチャートである。
図6に示す例では、Agの添加方法として、ペロブスカイト複合酸化物を調製する際にAgも溶液として混合する場合を示している。
【0038】
一実施形態では、
図6に示すステップS1において、ペロブスカイト複合酸化物を構成するためのA金属硝酸塩水溶液及びB金属硝酸塩水溶液と、硝酸銀水溶液とを混合して、触媒溶液を調製する。ここで、A金属硝酸塩水溶液とは、ペロブスカイト複合酸化物のAサイト元素を含む硝酸塩に水を加えて生成される。本実施形態にてAサイトの金属元素はLaとSrを含む。B金属硝酸塩水溶液とは、ペロブスカイト複合酸化物のBサイト元素を含む硝酸塩に水を加えて生成される。本実施形態にてBサイトの金属元素はMnを含む。
【0039】
次に、上記調製した触媒溶液にグリシンを添加して、ステップS2で撹拌する。ステップS2の撹拌時間は、例えば30分とする。なお、グリシンの添加量は、全金属イオンモル数の略8倍である。そして、ステップS3で、例えばヒータ付のマグネットスターラーを用いて、触媒溶液を濃縮する。さらに、ステップS4では、ステップS3で濃縮した触媒溶液を乾燥させる。ステップS4では、例えば90℃〜265℃の間で約3日間乾燥させる。ステップS5では、触媒溶液を乾燥させて生成した触媒原料を乳鉢で混合する。そして、ステップS6において、触媒原料を500℃以上900℃以下の温度で焼成する。ステップS6では、例えば600℃、700℃、800℃というように段階的に触媒原料の温度を上げていってもよい。また、焼成時間は略4時間である。
【0040】
図7Aは他の実施形態に係る排ガス処理用触媒の製造方法の手順の一部(担体の製造)を示すフローチャートであり、
図7Bは他の実施形態に係る排ガス処理用触媒の製造方法の手順の一部(担体へのAg担持)を示すフローチャートである。
図7に示す例では、Agの添加方法として、ペロブスカイト複合酸化物を調製した後に、ペロブスカイト複合酸化物を担体としてAgを含浸担持させる場合を示している。
【0041】
一実施形態では、
図7Aに示すステップS11において、ペロブスカイト複合酸化物を構成するためのA金属硝酸塩水溶液及びB金属硝酸塩水溶液とを混合して、担体溶液を調製する。ここで、A金属硝酸塩水溶液とは、ペロブスカイト複合酸化物のAサイト元素を含む硝酸塩に水を加えて生成される。本実施形態にてAサイトの金属元素はLaとSrを含む。B金属硝酸塩水溶液とは、ペロブスカイト複合酸化物のBサイト元素を含む硝酸塩に水を加えて生成される。本実施形態にてBサイトの金属元素はMnを含む。
【0042】
次に、上記調製した担体溶液にグリシンを添加して、ステップS12で撹拌する。ステップS12の撹拌時間は、例えば30分とする。なお、グリシンの添加量は、全金属イオンモル数の略8倍である。そして、ステップS13で、例えばヒータ付のマグネットスターラーを用いて、担体溶液を濃縮する。さらに、ステップS14では、ステップS13で濃縮した担体溶液を乾燥させる。ステップS14では、例えば90℃〜265℃の間で約3日間乾燥させる。ステップS15では、担体溶液を乾燥させて生成した担体原料を乳鉢で混合する。そして、ステップS16において、担体原料を500℃以上900℃以下の温度で焼成する。ステップS16では、例えば600℃、700℃、800℃というように段階的に担体原料の温度を上げていってもよい。焼成時間は略4時間である。こうしてペロブスカイト複合酸化物を主成分とする担体が製造される。
【0043】
次いで、
図7Aで製造した担体にAgを担持させる。
図7Bに示すステップS21において、担体を硝酸銀水溶液に含浸させ、混合する。そして、ステップS22で、硝酸銀水溶液に含浸させた担体を乾燥し、触媒原料を生成する。ステップS22では、例えば硝酸銀水溶液に含浸させた担体を80℃〜100℃の温度範囲で1〜2時間乾燥させる。続いて、ステップS23で触媒原料を乳鉢で混合した後、ステップS24で触媒原料を焼成する。ステップS24では、400℃〜600℃で略5時間焼成する。
なお、本実施形態に係る排ガス処理用触媒の製造方法は、上記条件に限定されるものではない。
【0044】
図8A〜
図8Cは、
図6で製造した排ガス処理用触媒(Ag0.1(La0.5Sr0.5)0.9MnO
3)と、
図7A及び
図7Bで製造した排ガス処理用触媒(5wt%Ag/La0.5Sr0.5MnO
3)の性能に関する試験結果である。ここで、
図8Aは本実施形態に係る排ガス処理用触媒のCO浄化率(100×(1−触媒出口CO濃度/触媒入口CO濃度))を示すグラフで、
図8Bは本実施形態に係る排ガス処理用触媒のNO
2生成率を示すグラフで、
図8Cは本実施形態に係る排ガス処理用触媒のC
3H
6(100×(1−触媒出口C
3H
6濃度/触媒入口C
3H
6濃度))浄化率を示すグラフである。
なお、
図8は、以下に示す製造方法によって製造された触媒を用いて性能評価を行った結果を示している。
まず、すべて焼成した触媒粉末に対して、溶媒とバインダーを加え、ボールミルを用いて調製して混合し、スラリー化する。そして、このスラリーをハニカム状の基材の表面に塗布し、ハニカム型触媒を製造する。
図8に示すグラフは、このハニカム型触媒に、空気中760℃100時間の熱処理を加えて、加速的に触媒を熱劣化させた状態での性能評価結果である。
図8A〜
図8Cに示すように、CO、C
3H
6の何れの浄化率及びNO
2生成率においても、
図7A及び
図7Bで製造した排ガス処理用触媒(5wt%Ag/La0.5Sr0.5MnO
3)と比較して、
図6で製造した排ガス処理用触媒(Ag0.1(La0.5Sr0.5)0.9MnO
3)の方が高い値を示している。すなわち、
図6の製造方法のように、ペロブスカイト複合酸化物を調製する際にAgも溶液として混合して製造した排ガス処理用触媒の方が、各種の有害物質に対する浄化率が高いことがわかる。これは、ペロブスカイト構造の格子内にAgが取り込まれて、耐熱性の低いAgのシンタリングを抑制し、Agが高分散に存在するために高い性能を示すと推測される。したがって、各種の有害物質に対する浄化率の観点からは
図6に示す製造方法、及び
図6の製造方法で製造された排ガス処理用触媒が優れていると言える。但し、
図7A及び
図7Bに示す製造方法は、既存のペロブスカイト複合酸化物を用いることができるため、有用であることに変わりはない。
【0045】
ここで、本実施形態に係る排ガス処理用触媒を用いた排ガス処理装置の構成を例示する。
図9は、それぞれ、本実施形態に係る排ガス処理装置20の構成例を示す図である。なお、ここではディーゼルエンジンに用いられる排ガス処理装置20について説明するが、この排ガス処理装置20はガスエンジンや燃焼器等の他の機器に用いられてもよい。ディーゼルエンジンの排ガスには、例えば、HC、CO、NO
x、PMが含まれている。
【0046】
図9は本実施形態に係る排ガス処理装置及びその周辺機器の構成例を示す図である。
最初に、本実施形態に係る排ガス処理装置20の周辺機器の構成について説明する。
幾つかの実施形態において、
図9に示すエンジン8への給気機構1は、給気を取り込むための吸気管2と、給気を冷却するためのエアクーラ4と、給気量を調節するためのスロットルバルブ6とを有している。また、吸気管2には、コンプレッサ3a及びタービン3bを含むターボチャージャ3が設けられてもよい。このターボチャージャ3は、給気流量を運転条件によって可変にできる可変容量型のターボチャージャであってもよい。さらに、給気機構1は、エンジン8の排ガスの一部を給気入口側へ返送するためのEGR管10を有していてもよい。この場合、EGR管10には、EGRを冷却するための排ガス再循環クーラ12と、EGRの返送量を調節することによって給気のO
2濃度を制御するための排ガス再循環バルブ14とが設けられている。
エンジン8は、給気が供給されるエンジン本体81と、エンジン本体81に燃料を供給するための燃料噴射装置82とを有している。エンジン8から排出される排ガスは、一部がEGR管10を介して給気側へ返送され、他の排ガスは排気管21を介して排ガス処理装置20に送られる。
【0047】
幾つかの実施形態において、
図9に示す排ガス処理装置20は、排ガスに含まれるNOxを除去するためのSCR(Selective Catalytic Reduction)部24を有している。SCR部24は、排ガス中に噴射された尿素水から生成されるアンモニアと窒素酸化物(NO
x)との反応を促進させるSCR触媒と、このSCR触媒を排気管21の内部に支持する支持機構とを含む。SCR部24の排ガス流れ方向上流側には、脱硝に用いられる尿素水を供給するための尿素水供給機構22が設けられている。尿素水供給機構22は、尿素水が蓄えられた尿素水タンク22bと、尿素水タンク22bから排ガス中に尿素水を噴霧する尿素水噴霧ノズル22aとを含む。
【0048】
一実施形態では、SCR部24又はSCR部24より排ガス流れ方向上流側に、本実施形態に係る排ガス処理用触媒25が設けられる。SCR部24に排ガス処理用触媒25を設ける場合、SCR触媒より上流側に配置することが好ましい。また、SCR部24より排ガス流れ方向上流側に排ガス処理用触媒25を設ける場合、排気管21の内部に排ガス処理用触媒25を支持するための支持機構を用いてもよい。
この排ガス処理装置20に設けられる排ガス処理用触媒25は、上述したように、ペロブスカイト複合酸化物とAgとを含有した構成を有する。すなわち、排ガス処理用触媒25は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト型構造において、Aサイトの金属元素がLa及びSrを含む二種以上の元素であり、Bサイトの金属元素がMnを含む一種以上の元素であるペロブスカイト複合酸化物と、Agとを含有する。また、排ガス処理用触媒25は、ペロブスカイト複合酸化物に対するAgのモル比が0.05以上0.2以下であってもよい。さらには、排ガス処理用触媒25は、ペロブスカイト複合酸化物に対するAgのモル比が0.1であってもよい。また、排ガス処理用触媒25は、ペロブスカイト複合酸化物に対するLaとSrとAgのモル比の総和が1であってもよい。さらには、排ガス処理用触媒25は、La及びSrが同一のモル比であってもよい。さらにまた、排ガス処理用触媒25は、ペロブスカイト複合酸化物を担体とし、担体にAgが担持された構造を有してもよい。
【0049】
このような構成を有する排ガス処理装置20では、尿素水供給機構22によって排気管21内に噴射された尿素水は排ガスの熱によりアンモニア(NH
3)となり、排ガスとともにSCR部24に流入する。SCR部24では、SCR触媒の存在下で排ガスに含まれる窒素酸化物(NO
x)がアンモニアと反応することによって、窒素酸化物が窒素と水に分解され、排ガス中の窒素酸化物を低減するようになっている。具体的には、上述の式(1)〜(3)に示す化学反応により、窒素酸化物が還元される。
【0050】
ここで、上述したように本実施形態では、SCR触媒と略同じ位置又はSCR触媒より排ガス流れ方向上流側に排ガス処理用触媒25が設けられている。排ガス処理用触媒25は優れたNO
2生成特性を示すので、排ガス中のNO
2含有率が高くなり、下流側のSCR触媒における脱硝性能を向上させることができる。さらに排ガス処理用触媒25は優れたC
3H
8浄化性能を示すので、下流側のSCR触媒のHC被毒を低減することが可能である。すなわち、SCR触媒と略同じ位置又はSCR触媒より排ガス流れ方向上流側に排ガス処理用触媒25が設けられていることによって、SCR触媒が高い脱硝性能を維持しつつ、NH
3スリップ量も低減できる。
【0051】
以下、
図10A〜
図10Cを参照して、本実施形態に係る排ガス処理用触媒を用いた排ガス処理装置の他の構成例について説明する。なお、
図10A〜
図10Cは、それぞれ、本実施形態に係る排ガス処理装置の他の構成例を示す図である。これらの図において、尿素水供給機構22は省略している。
【0052】
図10Aに示す排ガス処理装置20Aは、SCR部24の排ガス流れ方向上流側にDOC(Diesel Oxidation Catalyst)部26が設けられている。DOC部26は、排ガス中の一酸化炭素(CO)やHC(未燃炭化水素)を浄化及び一酸化窒素(NO)を酸化するための酸化触媒と、この酸化触媒を排気管21の内部に支持する支持機構とを含む。一実施形態では、DOC部26に、酸化触媒とは別に上述の排ガス処理用触媒25を設けてもよいし、酸化触媒として上述の排ガス処理用触媒25を設けてもよい。これにより、SCR触媒の高い脱硝性能を維持可能で、且つNH
3スリップ量も低減できる。
なお、排ガス処理装置20Aにおいて、上述の排ガス処理用触媒25は、DOC部26以外の部位に設けてもよい。例えば、SCR部24の内部、DOC部26とSCR部24の間の排気管21の内部、DOC部26より上流側の排気管21の内部等に、上述の排ガス処理用触媒25を設けてもよい。また、2つ以上の部位に上述の排ガス処理用触媒25を設けてもよい。
【0053】
図10Bに示す排ガス処理装置20Bは、SCR部24の排ガス流れ方向上流側にDPF(Diesel particulate filter)部28が設けられている。DPF部28は、排ガス中の粒子状物質(PM)を除去するためのフィルタを含む。一実施形態では、DPF部28のフィルタに上述の排ガス処理用触媒25を担持させる。これにより、SCR触媒の高い脱硝性能を維持可能で、且つNH
3スリップ量も低減できる。
なお、排ガス処理装置20Bにおいて、排ガス処理用触媒25は、DPF部28以外の部位に設けてもよい。例えば、SCR部24の内部、DPF部28とSCR部24の間の排気管21の内部、DPF部28より上流側の排気管21の内部等に、上述の排ガス処理用触媒25を設けてもよい。また、2つ以上の部位に上述の排ガス処理用触媒25を設けてもよい。
【0054】
図10Cに示す排ガス処理装置20Cは、排ガス流れ方向上流側から順に、DOC部26、DPF部28、SCR部24が設けられた構成となっている。DOC部26、DPF部28、SCR部24の各々の構成は上述したので省略する。
図10Cには一例として、DPF部28の上述の排ガス処理用触媒25を設けた構成を示している。ただし、排ガス処理用触媒25は、DOC25の内部、SCR24の内部、これらの部位に接続される排気管21の内部のいずれに設けられてもよい。
このような構成を有する排ガス処理装置20Cでは、まずDOC部26を通過する際に排ガス中のCOやHCやNOが酸化され、DPF部28を通過する際に排ガス中のPMが除去される。このとき、DPF部28には上述の排ガス処理用触媒25が設けられているので、ここで排ガス中に残留するCOやHCが酸化されるとともに、排ガス中のNOからNO
2が生成される。そして、SCR部24において、排ガス中のNO
2がN
2まで還元される。
【0055】
上記排ガス処理装置20によれば、上述の排ガス処理用触媒25はPMの燃焼性能が高いことから、DPF部28の強制再生時にPMを効果的に燃焼させて除去することが可能であるとともに、DPF部28を強制再生するための温度を低温下することができる。またDPF部28の強制再生時の温度を低くできることから、高コストな耐熱材料が不要となり例えばコージェライトのような安価なDPF基材を用いることができ、且つ、PM燃焼時における過昇温(急激な温度上昇)のリスクを低減できる。さらに、上述の排ガス処理用触媒25によれば、NOに対する高い酸化性能も得られる。この排ガス処理用触媒25を用いた排ガス処理システム20Cは通常運転時の連続再生によってDPF強制再生の間隔を長期化することも可能となり、燃費の向上が図れる。さらにまた、未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)の酸化活性も高く維持できるので、排ガス中に含まれる各種の有害物質を効果的に除去可能となる。
【0056】
以上説明したように、上述の実施形態によれば、粒子状物質(PM)の燃焼性能に優れるとともに、NOに対する高い酸化性能、及び未燃炭素分(HC)及び一酸化炭素(CO)に対する高い酸化性能を有する排ガス処理用触媒を提供できる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはいうまでもない。例えば、
図10A〜
図10Cでは、ディーゼルエンジンの排ガスを浄化するための排ガス処理装置について説明したが、排ガス処理装置の適用先は、ガスエンジンであってもよいし、燃焼器であってもよい。