特許第6182051号(P6182051)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182051
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】防水コネクタ
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/52 20060101AFI20170807BHJP
【FI】
   H01R13/52 301E
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-230277(P2013-230277)
(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公開番号】特開2015-90795(P2015-90795A)
(43)【公開日】2015年5月11日
【審査請求日】2016年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100105474
【弁理士】
【氏名又は名称】本多 弘徳
(74)【代理人】
【識別番号】100192474
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 健次
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】宮川 大亮
【審査官】 竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−092626(JP,A)
【文献】 特開2001−006799(JP,A)
【文献】 特開2002−367715(JP,A)
【文献】 特開2009−021137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の端末に接続された端子と、
前記端子が収容される端子収容室に連設されたシール材収容部を有するハウジングと、
前記電線が挿通される電線シール孔が穿設されるとともに前記電線シール孔を塞ぐ閉鎖膜が形成されて前記シール材収容部に装着されるシール材と、を備え、
前記端子は、筒状の電気接触部の軸線を挟み先端側に向かって前記軸線に接近する方向に傾斜する少なくとも一対の凸片を先端部に有し、前記シール材の前記電線シール孔に挿入されて前記先端部が前記閉鎖膜を破ることで前記端子収容室に収容されることを特徴とする防水コネクタ。
【請求項2】
請求項1に記載の防水コネクタであって、
前記閉鎖膜には、前記軸線の通る点を中心に径方向外方へ延びる複数の薄肉溝部が形成されていることを特徴とする防水コネクタ。
【請求項3】
請求項2に記載の防水コネクタであって、
前記凸片の先端エッジ部が、前記電線シール孔に挿入される際に前記薄肉溝部に対向することを特徴とする防水コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
端子収容室に収容された端子から後方へ延びる電線をシールするシール材(マットシール)が、ハウジング後方に設けられた電線引出し部に配設された防水コネクタが知られている(特許文献1等参照)。同文献に開示される防水コネクタは、図9に示す雌端子501と、コネクタハウジング(図示略)と、マットシール503とを備えている。雌端子501は、電線505が取り付けられた状態で、マットシール503の後方から端子挿入口507を介して端子収容室(図示略)まで挿入される。端子挿入口507には、雌端子501の挿入過程において雌端子501の先端が接触することによって破断可能な閉鎖膜509が形成されている。また、雌端子501の箱状となった電気接触部511には、先端の一側に、他の部分よりも先んじて閉鎖膜509に接触する接触片513が形成されている。なお、電気接触部511の接触片513と反対側には、雄端子(図示略)の電気接触部と弾性接触する弾性片515が設けられている。
【0003】
このような防水コネクタによれば、閉鎖膜509の破断時には、まず、雌端子501の接触片513が閉鎖膜509に接触する。その後、更に雌端子501を押し込むと閉鎖膜509が伸びた状態となり、この状態から、更に雌端子501を押し込むと閉鎖膜509が破断して、雌端子501が閉鎖膜509を貫通する。この際、接触片513のみが雌端子501の他の部分に先んじて閉鎖膜509に接触する。このため、閉鎖膜509は、接触片513に接する箇所のみで破断が生じ易くなる。これにより、雌端子501と閉鎖膜509との接触箇所が1箇所に限定され、閉鎖膜509の破片が生じ難くなる。従って、閉鎖膜509の破片による接触不良の可能性が低減されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−21137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の防水コネクタは、雌端子501の下部で閉鎖膜509を破る構造のため、上方の閉鎖膜509の残り片509aが長く残り、破った閉鎖膜509の残り片509aに電線505が乗り上げて、防水性能を低下させる懸念がある。また、マットシール503のリップ部517が雌端子501の下部に設けてある凸形状の接触片513により破壊される可能性がある。
【0006】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、端子が閉鎖膜を中心部から均等に破ることで電線が電線シール孔の軸線に対して偏らず、安定した防水機能を維持できる防水コネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) 電線の端末に接続された端子と、前記端子が収容される端子収容室に連設されたシール材収容部を有するハウジングと、前記電線が挿通される電線シール孔が穿設されるとともに前記電線シール孔を塞ぐ閉鎖膜が形成されて前記シール材収容部に装着されるシール材と、を備え、前記端子は、筒状の電気接触部の軸線を挟み先端側に向かって前記軸線に接近する方向に傾斜する少なくとも一対の凸片を先端部に有し、前記シール材の前記電線シール孔に挿入されて前記先端部が前記閉鎖膜を破ることで前記端子収容室に収容されることを特徴とする防水コネクタ。
【0008】
上記(1)の構成の防水コネクタによれば、端子収容室に端子が挿入される際、シール材の電線シール孔を塞ぐ閉鎖膜に当たった端子の先端部は、更に押し込まれることで、挿入方向の先端側で閉鎖膜を破る。即ち、閉鎖膜は、端子の先端部に形成されている凸片によって破られる。凸片は、端子の電気接触部の軸線を挟み先端側に向かって軸線に接近する方向に傾斜して少なくとも一対形成されている。つまり、閉鎖膜は、中央部の中心を挟む少なくとも2個所が端子の凸片によって押され、中心から均等な位置の複数箇所で押し切られることにより破断される。これにより、閉鎖膜の破られる位置が電線シール孔の中央部で安定し、破られた閉鎖膜が短く均等に残ることで、電線シール孔の中心に対する電線の偏りが抑制される。また、少なくとも一対の凸片が電気接触部の軸線を挟み先端側に向かって軸線に接近する方向に傾斜しているので、電線シール孔の防水部であるリップ部へのダメージを軽減できる。
【0009】
(2) 上記(1)の構成の防水コネクタであって、前記閉鎖膜には、前記軸線の通る点を中心に径方向外方へ延びる複数の薄肉溝部が形成されていることを特徴とする防水コネクタ。
【0010】
上記(2)の構成の防水コネクタによれば、電線シール孔を塞ぐ閉鎖膜には、筒状に形成された電気接触部の軸線と一致する中心に、径方向外方へ延びる複数の薄肉溝部が形成されている。閉鎖膜は、凸片によって押し切られる際、この薄肉溝部が脆弱部となることで、薄肉溝部が最初に破断されやすくなる。薄肉溝部に破断の生じた閉鎖膜は、薄肉溝部に沿って直線状に切り裂かれる。
【0011】
(3) 上記(2)の構成の防水コネクタであって、前記凸片の先端エッジ部が、前記電線シール孔に挿入される際に前記薄肉溝部に対向することを特徴とする防水コネクタ。
【0012】
上記(3)の構成の防水コネクタによれば、少なくとも一対の凸片に形成される先端エッジ部(角部)が、薄肉溝部に対向することで、閉鎖膜がより確実に薄肉溝部に沿って均等に破られるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る防水コネクタによれば、端子が閉鎖膜を中心部から均等に破ることで電線が電線シール孔の軸線に対して偏らず、安定した防水機能を維持できる。
【0014】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る防水コネクタの分解斜視図である。
図2図1に示した端子の斜視図である。
図3】(a)はハウジングに装着されるシール材を挿入前の端子側から見た正面図、(b)は(a)に示したシール材の要部拡大図である。
図4】挿入開始時におけるシール材及び端子の断面図である。
図5】シール材の電線シール孔に向かって挿入が開始される端子の斜視図である。
図6】(a)は端子の側面図、(b)は端子によって閉鎖膜が破られているシール材の断面図、(c)は端子が端子収容室に収容され電線がシール材の電線シール孔によってシールされた防水コネクタの断面図である。
図7】閉鎖膜に形成される薄肉溝部と凸片の先端エッジ部との位置関係を表した要部拡大斜視図である。
図8】本実施形態の変形例に係る端子の要部拡大斜視図である。
図9】(a)は従来の雌端子の要部拡大側面図、(b)は(a)に示した雌端子の正面図、(c)は雌端子によって閉鎖膜が破断される直前のシール材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る防水コネクタ11は、電線13の端末に接続された端子である雌端子75と、雌端子75が収容される端子収容室17(図6(c)参照)に連設されたシール材収容部55を有するハウジング15と、電線13が挿通される電線シール孔63が穿設されるとともに電線シール孔63を塞ぐ閉鎖膜67が形成されてシール材収容部55に装着されるシール材である閉鎖膜付きのマットシール59と、を備える。
【0017】
本実施形態に係る電線13は、導体である芯線が絶縁性樹脂からなる外被によって覆われている被覆電線である。芯線は、単線であっても撚り線であってもよい。電線13は、延在方向に直交する断面の外形状が円形となる。電線13の外被は、外周面が平滑に形成され、マットシール59の電線シール孔63における後述のリップ部65の環状内周により水密に密着される。
【0018】
本実施形態に係るハウジング15は、絶縁性の合成樹脂からなり扁平な略直方体状に形成されている。ハウジング15のハウジング本体25には、複数の端子収容室17(図6参照)が縦横に形成されている。本実施形態において、端子収容室17は、上下2段左右17列にて形成されている。ハウジング本体25には、端子収容室17に相手端子(図示略)が進入する相手端子進入穴19(図6参照)が前端面21に開口されている。また、ハウジング本体25の後端面23からは、それぞれの端子収容室17に収容された雌端子75に接続された電線13が導出される。
【0019】
端子収容室17が形成されるハウジング本体25の前方には、上記の前端面21を包囲するようにして筒状のフード部27が突出して形成されている。フード部27は、前方のフード開口29から相手コネクタ(不図示)を内方に受入可能とする。フード部27の上部には、相手コネクタとの結合解除を規制するロックアーム31が設けられている。ロックアーム31は、フード部27の天壁33を上方に向かって凹設した相手係止部進入凹部35に、アームロック爪(図示略)が配置される。
【0020】
フード部27には、フロントホルダ37がフード開口29から挿入される。フロントホルダ37には、相手端子が貫通する複数の相手端子貫通孔39が形成されている。また、フロントホルダ37には、ハウジング本体25の前端面21に向かって突出する複数のランス規制ピン41がそれぞれの端子収容室17に応じて設けられている。ランス規制ピン41は、フロントホルダ37が前端面21に装着されると、ハウジング本体25のランス移動空間43(図6参照)に挿入される。ランス移動空間43に挿入されたランス規制ピン41は、端子収容室17に雌端子75を固定しているランス45の係止解除方向の移動を規制し、雌端子75の固定をより確実とする。なお、このフロントホルダ37は、係止構造(図示略)によってハウジング本体25に固定される。
【0021】
フード部27の内方には、フロントホルダ37に当接してパッキン47が装着される。パッキン47は、例えばゴム、シリコンゴム等の弾性材により横長長円の環状に形成される。パッキン47は、上面に起立するパッキン固定突起49が、フード部27のパッキン案内溝51に案内されながら挿入された後、フード部27の係止部に保持される。フード部27に保持されたパッキン47は、相手コネクタとフード部内周面との間を水密にシールする。
【0022】
ハウジング15の後端面23には、角筒状の内方空間が開口する。この内方空間の開口側は、カバー装着部53(図6参照)となる。そして、内方空間のカバー装着部53の奥側は、シール材収容部55となる。シール材収容部55の奥壁には、端子収容室17の端子装着孔が開口している。即ち、ハウジング15のハウジング本体25には、後方より、カバー装着部53、シール材収容部55、端子収容室17、相手端子進入穴19が順に連通して形成されている。シール材収容部55にはマットシール59が収容され、カバー装着部53にはシール材カバー57が装着される。
【0023】
ハウジング15の端子収容室17と後端面23との間のシール材収容部55に装着されるマットシール59は、ゴムなどの弾性材料からなり、前面と後面が平行な面とされた厚肉の略矩形平板状に形成されている。マットシール59の外周には突条の外周リップ61が形成され、外周リップ61はマットシール59とシール材収容部55との間を水密にシールする。マットシール59には、端子収容室17から導出された電線13がそれぞれ挿通する複数の電線シール孔63が設けられている。更に、電線シール孔63の内周面には、電線13の外周に密着する環状のリップ部65が複数設けられている。
【0024】
リップ部65は、電線13の外周面と密着可能なものであり、電線シール孔63の内周を縮径する方向に突出した突条によって環状に形成されている。リップ部65は、電線13の先端に取り付けた雌端子75が、マットシール59の弾性を利用して電線シール孔63を押し広げながら挿通されることにより、雌端子75が電線シール孔63を貫通した後に、雌端子75から後方へ延びる電線13の外周に密着する。これにより、電線シール孔63と電線13との隙間が水密にシールされる。
【0025】
本実施形態に係るマットシール59の各電線シール孔63には、電線挿通方向の略中央位置に、閉鎖膜67が設けられている。閉鎖膜67は、電線シール孔63を閉塞しており、雌端子75の先端部が押圧接触することにより、破断可能となっている。即ち、閉鎖膜67は、雌端子75の挿入時に、挿入される雌端子75の先端部によって突き破られる。閉鎖膜67は、雌端子75の非挿入時には電線シール孔63を閉塞して水等の浸入を防止する。
【0026】
図3(b)に示すように、本実施形態の閉鎖膜67には、雌端子75の軸線69(図2参照)の通る点を中心に交差する一対の直線によるX字状の薄肉溝部71が形成されている。即ち、薄肉溝部71は、閉鎖膜67の中心から径方向外方へ放射状に延在する。薄肉溝部71は、例えば断面凹状、断面V字状の溝に形成され、溝底が閉鎖膜67の他の部分の厚みよりも薄肉となる。薄肉溝部71は、本実施形態に例示するX字状の他、十字状、Y字状、その他複数本の放射方向に延びる交差線状に形成することができる。
【0027】
マットシール59が装着されたハウジング15の更に後方側のカバー装着部53には、シール材カバー57が装着される。シール材カバー57は、絶縁性の合成樹脂からなり、マットシール59よりも剛性が高い素材で形成される。シール材カバー57は、平板状に形成され、マットシール59の電線シール孔63と対応した位置に複数の電線挿通口73を有している。シール材カバー57は、マットシール59を覆って、ハウジング15のカバー装着部53に取り付けられる。このシール材カバー57は、シール材収容部55からのマットシール59の脱落を規制する。
【0028】
本実施形態に係る端子としての雌端子75は、金属板をプレス加工、板金加工することにより一体で形成されている。雌端子75は、図2に示すように、装着方向の先端側から凸片77、電気接触部79、電気接触バネ片81、導体圧着部83、被覆圧着部85を順に有している。
【0029】
本実施形態に係る雌端子75の凸片77は、四角筒状の電気接触部79の軸線69を挟み端子挿入方向の先端側に向かって軸線69に接近する方向に傾斜する左右一対と上下一対の合計4つが、電気接触部79の先端部に形成されている。即ち、軸線69に接近する方向に傾斜する4つの凸片77が形成されることで、電気接触部79の先端側は、外形状が角錐台形状(角錐の頂角部を平坦面で切除した形状)となっている。なお、この角錐台形状は、それぞれの側面が雌端子75の板金材によって構成されている。側面は、板金材が先端に向かって幅の狭くなる台形状に形成されたものであり、4つの側面に包囲された内方は、相手端子の進入空間となっている。
【0030】
雌端子75の電気接触部79は、四角形の箱状に形成される。電気接触部79の一側面には、バネ配置開口部87が形成される。
電気接触バネ片81は、先端が自由端となった片持ち梁状とされて電気接触部79のバネ配置開口部87に配置される。電気接触バネ片81は、山形状に曲げられた屈曲部89が電気接触部79の外側に突出する。電気接触バネ片81は、雌端子75が端子収容室17に挿入される際、この電気接触バネ片81の屈曲部89が端子収容室17の内壁に押圧付勢されて、図6(c)に示すように自由端が所定の位置に配置される。
導体圧着部83は、一対の導体加締片91を有する。導体加締片91は、絶縁被覆が除去されて露出した電線13の導体に加締め固定される。
被覆圧着部85は、一対の被覆加締片93を有する。被覆加締片93は、導体が導体圧着部83に固定された電線13の絶縁被覆を、外周から加締め固定する。
【0031】
このように雌端子75は、電線13の端末に接続されて、ハウジング15に装着されたマットシール59の電線シール孔63に挿入される。雌端子75は、先端部の凸片77によって閉鎖膜67を破ることで、端子収容室17内に挿入され、ランス45に係止可能となっている。
【0032】
また、本実施形態に係る防水コネクタ11は、凸片77のそれぞれに形成される先端エッジ部95(図7参照)が、閉鎖膜67の薄肉溝部71に対応している。
【0033】
次に、図5及び図6を参照しながら上記構成を有する防水コネクタ11の組み立て手順を説明する。
本実施形態に係る防水コネクタ11では、先ず、ハウジング15の後端面23に開口するシール材収容部55(図6(c)参照)に、マットシール59が装着される。次いで、シール材収容部55の後方のカバー装着部53に、図5に示すシール材カバー57が組み付けられる。
【0034】
その後、電線13の端末に接続した雌端子75が、シール材カバー57の電線挿通口73を貫通してから、マットシール59の電線シール孔63に挿入される。電線シール孔63に挿入された雌端子75は、所定深さで先端部が閉鎖膜67に当たる。先端部が閉鎖膜67に当たった雌端子75を更に押し込むことにより、図6(b)に示すように、雌端子75は、マットシール59の閉鎖膜67を突き破り、図6(c)に示すように、ハウジング15の端子収容室17に到達して組み付けられる。この際、使用しない回路に対応する端子収容室17は、雌端子75が挿入されない限り、マットシール59に設けてある閉鎖膜67により防水機能が確保される。
【0035】
雌端子75の装着の後、ハウジング15に、フロントホルダ37とパッキン47とが組み付けられて防水コネクタ11の組み立てが完了する。
【0036】
次に、上記構成を有する防水コネクタ11の作用を説明する。
本実施形態に係る防水コネクタ11では、ハウジング15に取り付けられたマットシール59の電線シール孔63に対し、電線13の端末に接続された雌端子75が挿入される。
【0037】
電線シール孔63に挿入された雌端子75は、所定深さまで挿入されると、電線シール孔63を塞いでいる閉鎖膜67に先端部が当たる。閉鎖膜67に当たった雌端子75の先端部は、更に押し込まれることで、挿入方向の先端側で閉鎖膜67を破る。即ち、閉鎖膜67は、雌端子75の先端部に形成されている凸片77によって破られる。
【0038】
凸片77は、雌端子75の電気接触部79の軸線69を挟み挿入方向の先端側に向かって軸線69に接近する方向に傾斜して少なくとも一対(本実施形態では二対)形成されている。つまり、閉鎖膜67は、中央部の中心を挟む少なくとも2個所(本実施形態では4個所)が凸片77によって押され、中心から均等な位置の複数箇所で押し切られることにより破断される。これにより、閉鎖膜67の破られる位置が電線シール孔63の中央部で安定し(破られた閉鎖膜67が長く残らずに短く均等に残り)、破られた閉鎖膜67が短く均等に残ることで、電線シール孔63の中心に対する電線13の偏りが抑制される。
【0039】
更に、少なくとも一対(本実施形態では二対)の凸片77が電気接触部79の軸線69を挟み挿入方向の先端側に向かって軸線69に接近する方向に傾斜している。そこで、図4に示すように、凸片77が電線シール孔63の防水部であるリップ部65に干渉しにくくなり、リップ部65へのダメージを軽減することができる。
従って、本実施形態に係る防水コネクタ11によれば、雌端子75が閉鎖膜67を中心部から均等に破ることで電線13が電線シール孔63の軸線に対して偏らず、安定した防水機能を維持できる。
【0040】
また、本実施形態に係る防水コネクタ11では、電線シール孔63を塞ぐ閉鎖膜67には、四角筒状に形成された電気接触部79の軸線69と一致する中心に、径方向外方へ延びる複数の直線状の薄肉溝部71が形成されている。薄肉溝部71は、溝底が、閉鎖膜67の他の部分よりも薄肉の薄肉部となっている。従って、閉鎖膜67は、凸片77によって押し切られる際、この薄肉溝部71が脆弱部となることで、薄肉溝部71が最初に破断されやすくなる。薄肉溝部71に破断の生じた閉鎖膜67は、薄肉溝部71に沿って亀裂が伝搬して直線状に切り裂かれる。このとき、直線状の切れ目は閉鎖膜67の中心を通りやすく、従来の防水コネクタにおける閉鎖膜509(図9(c)参照)のように、閉鎖膜67の残り片が長く残ることがない。
【0041】
更に、本実施形態に係る防水コネクタ11では、図7に示すように、二対の凸片77の先端面は、微視的に板片の厚み方向が短い矩形状となる。この凸片先端面97の長手方向両側には先端エッジ部95が形成されることになる。この先端エッジ部95は、特に特別な加工を施すものではなく、プレス、折り曲げ加工による通常の端子製造過程において形成され得る。
【0042】
これら二対の凸片77に形成される少なくとも4つの先端エッジ部95(図7の左右方向に対向する一対の凸片77に形成される先端エッジ部95)が、電線シール孔63に挿入される際に薄肉溝部71に対向することで、閉鎖膜67がより確実に薄肉溝部71に沿って均等に破られるようになる。
【0043】
次に、上記実施形態の変形例に係る雌端子107を説明する。
上記実施形態では、雌端子75の電気接触部79が四角筒状である場合を例に説明したが、本発明に係る防水コネクタの端子は、図8に示すように、電気接触部105が円筒状の雌端子107であってもよい。
この変形例に係る雌端子107では、電気接触部105の先端部が円錐台形状(円錐の頂角部を平坦面で切除した形状)とされる。一対の凸片109は、例えば円錐台形状を軸線69に平行な分割スリット111で二分割して形成することができる。
この変形例に係る雌端子107によっても、マットシール59の閉鎖膜67は、中央部の中心を挟む2個所が雌端子107の一対の凸片109によって押され、中心から均等な位置の複数箇所で押し切られることにより、破断される。従って、雌端子107が閉鎖膜67を中心部から均等に破ることで電線13が電線シール孔63の軸線に対して偏らず、安定した防水機能を維持できる防水コネクタ11を得ることができる。
【0044】
ここで、上述した本発明に係る防水コネクタの実施形態の特徴をそれぞれ以下に簡潔に纏めて列記する。
[1] 電線13の端末に接続された雌端子(端子)75と、前記雌端子(端子)75が収容される端子収容室17に連設されたシール材収容部55を有するハウジング15と、前記電線13が挿通される電線シール孔63が穿設されるとともに前記電線シール孔63を塞ぐ閉鎖膜67が形成されて前記シール材収容部55に装着されるマットシール(シール材)59と、を備え、前記雌端子(端子)75は、筒状の電気接触部79の軸線69を挟み先端側に向かって前記軸線69に接近する方向に傾斜する少なくとも一対の凸片77を先端部に有し、前記マットシール(シール材)59の前記電線シール孔63に挿入されて前記先端部が前記閉鎖膜67を破ることで前記端子収容室17に収容されることを特徴とする防水コネクタ11。
[2] 上記[1]の構成の防水コネクタ11であって、前記閉鎖膜67には、前記軸線69の通る点を中心に径方向外方へ延びる複数の薄肉溝部71が形成されていることを特徴とする防水コネクタ11。
[3] 上記[2]の構成の防水コネクタ11であって、前記凸片77の先端エッジ部95が、前記電線シール孔63に挿入される際に前記薄肉溝部71に対向することを特徴とする防水コネクタ11。
【0045】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0046】
11…防水コネクタ
13…電線
15…ハウジング
17…端子収容室
19…相手端子進入穴
21…前端面
23…後端面
59…マットシール(シール材)
63…電線シール孔
67…閉鎖膜
69…軸線
71…薄肉溝部
75…雌端子(端子)
77…凸片
79…電気接触部
95…先端エッジ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9