【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
APESを発現し、且つ所望の抗体をコードするDNAを導入した細胞を培養し、所望の抗体を産生させることを含む、抗体の製造方法であって、ここでAPESは配列番号2で示される塩基配列中の19〜25塩基長の連続する配列を含むDNAであり、前記連続する配列が、APESの転写産物であるRNAにおいて、ヒト、マウス、ラットまたはハムスター由来のNfkBiaの遺伝子のmRNAに塩基対形成により結合し、NfkBiaの遺伝子の発現を抑制し得る塩基配列に転写される配列であり、且つAPESが細胞に人為的に導入されている、前記方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態についてより詳細に説明する。
【0017】
(1)APES(Antibody Production Enhancing Sequence)
本発明は、APESを発現し、且つ所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞を培養し、所望のポリペプチドを産生させることを含む、ポリペプチドの製造方法を提供する。
【0018】
後述の実施例において詳細に説明するように、本発明者らは、培養CHO細胞において抗体産生能と相関して発現量が高くなっているmRNA型ノンコーディングRNAを見出し、マウスゲノム中の437塩基(
図1、GenBank AccessionID:AI462015、配列番号1)の転写産物として同定した。AI462015の配列およびマウスゲノム上での位置が
図1に示されている。AI462015の配列は、マウスゲノムにおいてNfkBia(nuclear factor κB inhibitor α)mRNA3’側の非翻訳領域近傍の相補鎖上に存在する。(注記:その後のGeneBankの情報更新によって、AI462015の転写産物である437塩基はマウスNfkBia mRNA 3’側 非翻訳領域(513塩基)の相補鎖に相当することが明らかになった。(
図23))
【0019】
さらに、本発明者らは、AI462015由来の一部の配列を有する核酸分子を宿主細胞に導入して発現させることにより、所望のポリペプチドの生産量を増加させることができることを見出した。
【0020】
本発明者らは、これらの核酸分子が培養細胞内のNfkBiaの発現を制御することにより、Nf-kappa Bの活性を増強し、それにより組換えポリペプチド産生能を向上させると推定した。具体的には、活性が増強されたNF-kappa Bは核内へ移行し、免疫、炎症、抗アポトーシス関連遺伝子(Bcl-2, Bcl-xL, IAPs(Inhibitor of Apoptosis Proteins)など)の発現を亢進し、細胞の増殖や生存率維持などに寄与すると推定した。
【0021】
そこで本発明者らは、培養細胞内で発現することにより、若しくは発現量が増加することにより、培養細胞内のNfkBiaの発現を制御し、それによりNf-kappa Bの活性を増強して、組換え抗体等の所望の組換えポリペプチドの産生能を向上させる機能を有し、好ましくはタンパク質をコードしない、RNA若しくはDNA又はそれらの配列を総称してAPES(Antibody Production Enhancing Sequence)(場合により、PPES (Polypeptide Production Enhancing Sequence)とも言う)と命名した。
【0022】
上述のAI462015由来の配列またはその一部の配列は、マウス、ハムスター等のげっ歯類のみならず、ヒトにおいても保存されており、他の哺乳動物や、魚類、昆虫等の動物においても保存性が高い配列と考えられる。従って、AI462015由来の配列またはその一部の配列に対応する各種動物細胞の由来のNfkBia mRNA 3’側 非翻訳領域の部分配列若しくはその相補配列も本発明のAPESの配列として使用できる。
【0023】
一態様において、APESは配列の一部にNfkbia相補配列を含んでいるか、若しくはNfkbia相補配列であり、それによりAPES発現細胞ではNfkbia発現が抑制されるため、この抑制効果が抗体等の高産生機能を促進する。
【0024】
一態様において、APESはNfkBia mRNAにRNA干渉する核酸分子であり、細胞内でNfkBiaのmRNAと結合して発現を負に制御する機能を有し、細胞内でその発現量が増加することにより、NfkBiaの機能発現を抑制することで抗体遺伝子発現量を増加、延いては抗体等の組換えポリペプチドを高産生させるものである。
【0025】
したがって、APESはNfkBiaの遺伝子DNAまたはmRNAに塩基対形成により結合し得る配列を含む、二本鎖RNA(dsRNA)、または短いdsRNAであるsiRNA、もしくは一本鎖に解離したsiRNA、またはshRNA、アンチセンスDNAもしくはRNA、microRNA(miRNA)またはmRNA型ノンコーディングRNAであることができる。
【0026】
例えば、APESとしての配列は、標的であるNfkBia mRNAに相補的な一部配列を含む配列からなるオリゴヌクレオチドであることができる。そのようなオリゴヌクレオチドの例としては、NfkBia mRNA 相補鎖の19〜25塩基に相当する配列、又は当該配列と一塩基を除き同一配列を持ち、且つNfkBiaの発現を抑制する効果を有するmiRNAが挙げられる。あるいは、APESは、長鎖のmRNA型ノンコーディングRNAであってもよく、例えばNfkBiaの遺伝子DNAまたはmRNAに塩基対形成により結合し得る配列を含む長さ561ヌクレオチド長(561 mer)若しくは500ヌクレオチド長(500 mer)までの配列からなり、且つNfkBiaの発現を抑制する効果を有するものであることができる。あるいは、APESは、さらに長鎖(数百〜数十万ヌクレオチド)のmRNA型ノンコーディングRNAであってもよい。例えば、APESは200−10万ヌクレオチド長、あるいは、300〜30万ヌクレオチド長の核酸分子または配列であることができる。
【0027】
塩基対形成により結合し得る配列とは、完全に対合する(すなわち100%相補的である)ものに限られず、機能に支障のない範囲で不対合塩基の存在も許容される。あるいは、APESの形態によっては、部分的な相補性がむしろ好ましい。したがって、例えば、NfkBiaの非翻訳領域を含む遺伝子DNAまたはmRNAに少なくとも70%、より好ましくは80%、さらに好ましくは90%、、最も好ましくは95%相同であるような配列またはその相補配列も、「塩基対形成により結合し得る配列」に含まれる。例えば、561 mer若しくは500 merのmRNA型ノンコーディングRNAについて少なくとも90%相同の配列には、塩基の挿入、欠失、または点突然変異による1〜50個(若しくは561 merの場合は1〜56個)のミスマッチ塩基を含む変異配列であって、その宿主細胞中での発現に伴い、抗体等の組換えポリペプチドの産生能が増大する、或いは、NfkBiaの発現を抑制する機能を有するものが包含される。よって、例えば70%以上の相同性のような、ある程度の配列類似性を有する、宿主細胞とは異なる生物種由来のNfkBiaオルソログ(異種間相同遺伝子)由来の配列もAPESとして利用可能であると思われる。
【0028】
あるいは、塩基対形成により結合し得る配列とは、細胞内のような条件でNfkBiaのmRNAと結合し得る配列を包含する。そのような配列は、例えば、高度にストリンジェントな条件として当業者に公知の条件下でハイブリダイズし、且つ所望の機能を有する配列を含む。高度にストリンジェントな条件の一例は、ポリヌクレオチドとその他のポリヌクレオチドとを、6×SSPEまたはSSC、50%ホルムアミド、5×デンハルト試薬、0.5%SDS、100μg/mlの断片化した変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション緩衝液中で、42℃のハイブリダイゼーション温度で12〜16時間インキュベートすること(ここで一方のポリヌクレオチドが、膜のような固体表面に付着させてあってもよい)それに続いて、1×SSC、0.5%SDSを含む洗浄緩衝液を用いて42℃以上の至適温度で数回洗浄することである。。その他の具体的な条件については、Sambrook等「Molecular Cloning: A Laboratory Manual第3版」Cold Spring Harbor Laboratory Pr;および、Ausubel等「分子生物学実験プロトコール」丸善、など多数の当業者に周知の実験マニュアルを参照されたい。
【0029】
APESとしての活性を有する新規な核酸分子あるいはこれに相補的な配列を有する核酸分子は本発明の重要な特徴である。
【0030】
一態様において、APESは、NfkBiaの発現抑制または組換えポリペプチドの産生増大機能を有する核酸分子であり、ヒト、マウス、ラットまたはハムスター由来のNfkBiaの遺伝子のDNAまたはmRNAに塩基対形成により結合し得るRNAまたはDNAである。そのような核酸分子は、NfkBiaをコードするmRNAと相同または相補的な配列を含み、NfkBia遺伝子またはmRNAに結合してその発現を阻害することができると思われる。
【0031】
一態様において、APESは、NfkBiaのmRNAの一部に相補的な配列を含む19〜25塩基長の低分子RNA、又は当該配列と一塩基を除き同一配列を持ち、NfkBiaの発現抑制または組換えポリペプチドの産生増大機能を有する低分子RNAである。ここで、低分子RNAとは、Small non-coding RNA(snRNA)を意味しており、snRNAにはmiRNAが含まれる。
【0032】
一態様において、APESは、NfkBiaのmRNAの一部に相補的な配列(例えば、上述の低分子ノンコーディングRNA配列)を含む561塩基長まで、若しくは500塩基長までのmRNA型ノンコーディングRNAである。
【0033】
一態様において、APESは、NfkBiaのmRNAの一部に相補的な配列(例えば、上述の低分子ノンコーディングRNA配列)を含む、561〜1579塩基長、若しくは500〜1000塩基長のmRNA型ノンコーディングRNAである。
【0034】
CHO細胞転写産物中で見出された、APESの一つの具体例は、マウスAI462015由来の一部の配列、あるいはそのような部分配列において1〜数個の塩基が置換、欠損又は付加された配列を有する。特に、5’側4番目のGから168番目までのCまでの塩基配列からなる165塩基のDNA配列(配列番号2、APES165)、もしくはその相補(アンチセンス)DNA配列またはこれらのDNAから転写されるRNA配列を含む配列、またはこの配列中の任意の長さの部分配列が挙げられる。あるいは、5’側4番目のGから3’末端のTまでの塩基配列からなる434塩基のDNA配列(配列番号3、APES434)、もしくはその相補(アンチセンス)DNA配列またはこれらのDNAから転写されるRNA配列を含む配列、またはこの配列に由来する任意の長さの部分配列が挙げられる。マウスAI462015の配列に対応するヒト、ハムスター、ラット等の哺乳類由来の配列を含む配列若しくはそれらの部分配列、あるいはそのような部分配列において1〜数個の塩基が置換、欠損又は付加された塩基配列も含まれる。
【0035】
一態様において、APESは、AI462015中の5’側4番目から133番目までの塩基配列(配列番号4、APES130)またはこの配列由来の一部の配列を有する。例えば、5’側4番目から68番目まで(配列番号5、APES4-68)、または69番目から133番目まで(配列番号6、APES69-133)のDNA配列もしくはその相補DNA配列またはこれらのDNAから転写される配列が挙げられる。
【0036】
一態様において、APESは、AI462015中の5’側40番目から91番目までの52塩基(配列番号7)の配列、または該52塩基が任意の位置で切断された一部配列に由来する配列を有する。例えば、前半部分(APES40-68の29塩基、もしくはAPES40-63の24塩基、もしくはAPES40-61の22塩基)または後半部分(APES69-91の23塩基)のDNA配列もしくはその相補DNA配列(それぞれ配列番号8〜11に相当)またはこれらのDNAから転写される配列が挙げられる。
【0037】
上述の52塩基は、一塩基を除いてラットNfkBia遺伝子の3’側非翻訳領域の相補鎖と同一配列である。また、その5’側の24塩基(APES40-63、配列番号9)はヒトNfkBia遺伝子の3’側非翻訳領域と同一配列である。また、5’側の22塩基(APES40-61、配列番号10:AAGTACCAAAATAATTACCAAC)はラット、アカゲザル、イヌ、ウマなど種を超えたNfkBia mRNAの3’側非翻訳領域の相補鎖と同一配列である。NfkBia遺伝子の3’側非翻訳領域に相補的な一部の配列を宿主細胞中で発現させることでRNAi効果が期待される。たとえば、上記52塩基中の19〜25塩基に相補的な配列を有するRNAが、microRNA(miRNA)としてNfkBiaのmRNAの非翻訳領域に作用することにより、翻訳が阻害される可能性がある。
【0038】
あるいは、APESは、AI462015中の5’側7番目から91番目までの85塩基(配列番号29)の配列、または該85塩基が任意の位置で切断された一部配列に由来する配列を有する。上記85塩基中の19〜25塩基に相補的な配列を有するRNAが、microRNA(miRNA)としてNfkBiaのmRNAの非翻訳領域に作用することにより、翻訳が阻害される可能性がある。
【0039】
一態様において、APESは21塩基のsiRNAサーチで見出される配列を有する。例えばAI462015中の84番目から104番目(配列番号12、APES84-104)、99番目から119番目(配列番号13、APES99-119)、101番目から121番目(配列番号14、APES101-121)のDNA配列に相補的な配列を含むmiRNA配列である。上述のAPES 69-133中の71番目から112番目の配列(配列番号16)がGeneChip上で定量されており、実際に高発現している領域であることから、APES84-104がmiRNAとして機能する可能性が高いと思われる。
【0040】
また、APESの構造的又は機能的な特徴に基づき、新たにAPESとしての活性を有する核酸分子を化学合成あるいは生物源から単離することが可能である。APESの構造的特徴は、標的であるNfkBia mRNAの一部に相補的な配列を含む核酸分子であることである。核酸分子の形態は、いかなる形態でもよく、DNA、DNAの転写産物、mRNA、cDNAであるか、exosome RNAであるか、化学合成一本鎖RNAであるか、化学合成二本鎖RNAであるかなどを問わない。機能的特徴は、その宿主細胞中での発現に伴い、抗体等の組換えポリペプチドの産生能が増大していること、或いは、NfkBiaの発現が抑制されていることである。
【0041】
生物源からAPESを単離する場合には、如何なる生物由来でもよく特に限定されない。具体的には、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、ハムスターなどのげっ歯類、ウシ、豚、ヤギ、などの家畜類、ニワトリなどの鳥類、ゼブラフィッシュなどの魚類、ハエ等の昆虫類、線虫類などの動物由来のAPESが挙げられ、ヒト、げっ歯類或いは宿主細胞と同じ種由来のAPESであることが好ましく、例えば、APESを強発現させる細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)である場合には、ヒト、マウス或いはハムスター由来のAPESであることが好ましい。
【0042】
このような核酸分子は、当業者に公知の方法により調製することができる。例えば、抗体等の組換えポリペプチドを高産生している培養細胞より全RNAを調製し、本発明の核酸配列(例えば、配列番号2のAPES165)に基づいてオリゴヌクレオチドを合成し、これをプライマーとして用いてPCR反応を行い、APESとしての特徴を有するcDNAを増幅させることにより調製すればよい。また、抗体等の組換えポリペプチドを高産生している培養細胞より低分子RNAを調製後にcDNAライブラリーを作製し、クローニングされたcDNAの塩基配列に基づき、NfkBia mRNAに相補的な部分配列を含む低分子RNAを得ることができる。cDNAライブラリーは、microRNA(miRNA)などの低分子RNAを調製後に、例えばSambrook, J. et al., Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)に記載の方法により構築することも可能である。
【0043】
また、得られたcDNAの塩基配列を決定することにより、得られたcDNAをプローブとしてゲノムDNA ライブラリーをスクリーニングすることにより、APESが発現されるゲノムDNAを単離することができる。
【0044】
具体的には、次のようにすればよい。まず、本発明のAPESを発現する可能性のある細胞、組織などから、全RNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299)、AGPC法 (Chomczynski, P. and Sacchi, N., Anal. Biochem. (1987) 162, 156-159) 等により全RNAを調製したのち、RNeasy Mini Kit (QIAGEN) 等を使用して全RNAをさらに精製する。
【0045】
得られた全RNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。cDNAの合成は、 SuperScript
TM II Reverse Transcriptase (Invitrogen)等を用いて行うこともできる。また、プライマー等を用いて、5'-Ampli FINDER RACE Kit (Clontech製)およびポリメラーゼ連鎖反応 (polymerase chain reaction ; PCR)を用いた5'-RACE法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 8998-9002 ; Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932) にしたがい、cDNAの合成および増幅を行うことができる。
【0046】
得られたPCR産物から目的とするDNA断片を調製し、ベクターDNAと連結する。さらに、これより組換えベクターを作製し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNAの塩基配列は、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法により確認することができる。
【0047】
また、得られたDNAは、市販のキットや公知の方法によって改変することができる。改変としては、例えば、site-directed mutagenesis 法による一塩基変異導入等が挙げられる。このようにして改変された配列も、APES活性を有するものである限り、本発明の範囲に包含される。
【0048】
本明細書において、「APES活性を有する」とは、培養された宿主細胞内のNfkBiaの発現を抑制することにより、Nf-kappa Bを活性化し、それにより組換えポリペプチド産生能を向上させる作用を有することを言う。また、一義的には、細胞内で発現することによってNfkBiaの発現を抑制する機能を有することを言う。
【0049】
本明細書中では、APES活性を有する核酸分子を本発明の核酸分子と呼ぶことがある。
【0050】
(2)APESの発現
本発明においては、APESが発現した細胞、好ましくはAPESが強発現した細胞を用いることにより、当該細胞によるポリペプチドの産生量を増加させることを見出した。
【0051】
APESを強発現するとは、ベクター等によりAPESを人為的に細胞に導入した細胞、或いは抗体遺伝子導入前のもとの細胞と比較してAPESの発現量が増加しているという意味である。もととなる細胞は特に限定されないが、例えばCHO細胞など組換えタンパク質を製造する際に宿主として用いられている細胞を挙げることができる。具体例としては、後述の実施例に沿って説明するならば、AFFYMETRIX社のオリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix MOUSE430_2)を使ったGeneChip実験において、抗体遺伝子導入前のもとの細胞はAI462015のシグナル値が2000以下のものであり、これと比較してAPESの発現量が増加しているとは、例えば、AI462015のシグナル値が2倍以上となることである。
【0052】
APESを強発現する細胞は、内因性あるいは外来のAPESを細胞内に含む。APESを強発現する細胞として、例えば、APESが人為的に導入された細胞を挙げることができる。
【0053】
APESが人為的に導入された細胞は当業者に公知の方法により作製することが可能であり、例えば、APESをコードするDNA配列をベクターに組込み、該ベクターを細胞に形質転換することにより作製することが可能である。
【0054】
さらに、本明細書では遺伝子活性化技術(例えば、国際公開第WO94/12650号パンフレット参照)により内因性APESが活性化され、その結果、APESが強発現した細胞もAPESが人為的に導入された細胞に包含される。
【0055】
内因性APESの典型的な例は、宿主細胞のゲノム上にコードされたDNA配列としてのAPESである。また、本発明においては、遺伝子活性化技術によらず、抗体遺伝子導入後に何らかの要因で内因性APESの転写が活性化して、強発現した細胞も利用可能である。
【0056】
APESをコードするDNA配列が挿入されたベクターも本発明の範囲内である。本発明のベクターは、宿主細胞内あるいは細胞外での本発明の核酸分子の保持や、本発明の核酸分子を発現させるために有用である。また、宿主細胞にAPESを強発現させるために有用である。宿主細胞にAPESを強発現させることにより、宿主細胞による所望のポリペプチドの生産量を増加させることができる。
【0057】
ベクターとしては、例えば大腸菌を宿主とする場合には、ベクターを大腸菌(例えば、JM109、DH5α、HB101、XL1Blue)などで大量に増幅させ大量調製するために、大腸菌で増幅されるための「ori」をもち、さらに形質転換された大腸菌の選抜遺伝子(例えば、なんらかの薬剤(アンピシリンやテトラサイクリン、カナマイシン、クロラムフェニコール)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有することが好ましい。ベクターの例としては、M13系ベクター、pUC系ベクター、pBR322、pBluescript、pCR-Scriptなどが挙げられる。また、cDNAのサブクローニング、切り出しを目的とした場合、上記ベクターの他に、例えば、pGEM-T、pDIRECT、pT7などが挙げられる。
【0058】
(3)発現ベクター
本発明において、APESの強発現、及び/または、ポリペプチドを生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。本発明において使用可能な発現ベクターとしては、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3 (Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF 、pCDM8 )、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovairus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)、植物由来の発現ベクター(例えばpMH1、pMH2)、動物ウィルス由来の発現ベクター(例えば、pHSV、pMV、pAdexLcw )、レトロウィルス由来の発現ベクター(例えば、pZIpneo)、酵母由来の発現ベクター(例えば、「Pichia Expression Kit」( Invitrogen社製)、pNV11 、SP-Q01)、枯草菌由来の発現ベクター(例えば、pPL608、pKTH50)などが挙げられる。
【0059】
外来のポリペプチドを発現させるための発現ベクターは、該ポリペプチドをコードするDNAおよび当該DNAの発現を推進可能な発現制御配列を含む。同様に、APESを発現させるための発現ベクターは、APESをコードするDNAおよび当該DNAの発現を推進可能な発現制御配列を含む。単一のベクターが、ポリペプチドおよびAPESの両方を発現させるように構築されてもよい。遺伝子活性化技術を用いて、例えば宿主ゲノムの一部であるようなAPESまたはポリペプチド遺伝子を活性化する場合、そのような宿主細胞由来のDNAの発現を促進する発現制御配列が導入されてもよい。
【0060】
発現制御配列の例としては、適当なプロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、タンパク質をコードする遺伝子における開始コドン(すなわちATG)を含むコザック配列、イントロンのためのスプライシングシグナル、ポリアデニル化部位、及びストップコドン等があり、ベクターの構築は当業者が適宜行うことができる。
【0061】
発現制御配列は、使用する動物細胞において遺伝子の転写量を増大させることが可能なプロモーター/エンハンサー領域を含むことが好ましい。所望のポリペプチドをコードする遺伝子の発現に関与するプロモーター/エンハンサー領域は、NF-κB結合配列を含んでいてもよい。
【0062】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の哺乳動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)、MMLV-LTRプロモーター、EF1αプロモーター(Mizushimaら, Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322)、CMVプロモーターなどを持っていることが好ましい。また、細胞への形質転換を選抜するための遺伝子(例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子)を有すればさらに好ましい。このような特性を有するベクターとしては、例えば、pMAM、pDR2、pBK-RSV、pBK-CMV、pOPRSV、pOP13などが挙げられる。
【0063】
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。複製開始点としては、また、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることもできる。さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドトランスフェラーゼ(APH)遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0064】
(4)宿主細胞
本発明において用いる細胞は、所望のポリペプチドを産生できる天然の細胞であっても、所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した細胞であってもよいが、所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した形質転換細胞が好ましい。
【0065】
所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した形質転換細胞の一例は、少なくとも所望のポリペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターがトランスフェクトされ、さらに内因性あるいは外来のAPESが強発現している宿主細胞である。
【0066】
さらに、本発明において、「DNA(あるいは遺伝子)を導入した」細胞とは、外来性DNAがトランスフェクトされた細胞の他、遺伝子活性化技術(例えば、国際公開第WO94/12650号パンフレット参照)により内因性DNAが活性化され、その結果、当該DNAに対応する蛋白質の発現もしくは当該DNAの転写が開始或いは増加した細胞も包含する。
【0067】
APESが人為的に導入された細胞を用いて所望のポリペプチドを製造する場合、APESと所望のポリペプチドをコードする遺伝子の導入の順序は特に制限されず、APESを導入した後に所望のポリペプチドをコードする遺伝子を導入してもよいし、所望のポリペプチドをコードする遺伝子を導入した後にAPESを導入してもよい。又、APESと所望のポリペプチドをコードする遺伝子を同時に導入してもよい。
【0068】
ベクターを用いる場合、APES及び所望のポリペプチドをコードする遺伝子の導入は単一のベクターにより同時に導入してもよいし、複数のベクターを用いて別々に導入してもよい。
【0069】
本発明において用いる細胞は、特に限定されることなく、動物細胞、植物細胞、酵母などの真核細胞、大腸菌、枯草菌などの原核細胞など如何なる細胞でもよく、好ましくは、昆虫、魚、両生類、爬虫類、哺乳類由来の動物細胞であり、特に哺乳動物細胞が好ましい。哺乳動物細胞の由来としては、ヒト、チンパンジーなどの霊長類、マウス、ラット、ハムスターなどのげっ歯類、その他が挙げられ、ヒト、げっ歯類であることが好ましい。さらに本発明の細胞としては、通常ポリペプチドの発現によく用いられる、CHO細胞、COS細胞、3T3細胞、ミエローマ細胞、BHK細胞、HeLa細胞、Vero細胞などの哺乳動物培養細胞が好ましい。所望のポリペプチドの大量発現を目的とする場合には特にCHO細胞が好ましい。CHO 細胞としては、特に、DHFR遺伝子を欠損したCHO 細胞であるdhfr-CHO(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220 )やCHO K-1 (Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1968) 60, 1275)を好適に使用することができる。
【0070】
上記のCHO細胞としては特に、DG44株、DXB-11株、K-1、CHO-Sが好ましく、特にDG44株及びDXB-11株が好ましい。
【0071】
本発明の宿主細胞は、例えば、所望のポリペプチドの製造や発現のための産生系として使用することができる。APESを強発現している宿主細胞に所望のポリペプチドをコードするDNAを導入すれば、所望のポリペプチドを高生産できる。本発明の宿主細胞には、タウリントランスポーター(TauT)あるいはアニオンエクスチェンジャー(AE1)をコードするDNA(ベクターに組み込まれていてもよい)がさらに導入されてもよい。本発明の宿主細胞には、さらにシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(Cystein Sulfinic Acid Decarboxylase: CSAD)あるいはアラニントランスフェラーゼ(Alanine Transferase : ALT1)をコードするDNAが導入されていてもよい。詳細は、WO2007/119774、WO2008/114673、WO2009/020144並びにWO2009/054433を参照されたい。
【0072】
宿主細胞への外来性DNA(ベクターに組み込まれていてもよい)の導入は、例えば、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、カチオニックリボソームDOTAP(ベーリンガーマンハイム社製)を用いた方法、エレクトロポレーション法、Nucleofection法(amaxa社)、リポフェクションなどの方法で行うことが可能である。
【0073】
(5)所望のポリペプチド
本発明の方法で産生されるポリペプチドは特に限定されず、抗体(例えば、抗IL-6レセプター抗体、抗IL-6抗体、抗グリピカン-3抗体、抗CD3抗体、抗CD20抗体、抗GPIIb/IIIa抗体、抗TNF抗体、抗CD25抗体、抗EGFR抗体、抗Her2/neu抗体、抗RSV抗体、抗CD33抗体、抗CD52抗体、抗IgE抗体、抗CD11a抗体、抗VEGF抗体、抗VLA4抗体など)や生理活性タンパク質(顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポエチン、インターフェロン、IL-1やIL-6等のインターロイキン、t-PA、ウロキナーゼ、血清アルブミン、血液凝固因子、PTHなど)など如何なるポリペプチドでもよいが、特に抗体が好ましい。抗体は、天然抗体、Fab、scFv、sc(Fv)2などの低分子化抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体などの如何なる抗体であってもよい。
【0074】
(6)ポリペプチドの製造
上述の宿主細胞を培養し、所望のポリペプチドを産生させて、そのポリペプチドを収集することにより、ポリペプチドを得ることができる。
【0075】
細胞の培養には、通常の細胞(好ましくは、動物細胞)培養で使用されている培地を用いることができる。これらには通常、アミノ酸、ビタミン類、脂質因子、エネルギー源、浸透圧調節剤、鉄源、pH緩衝剤を含む。これらの成分の含量は、通常、アミノ酸は0.05−1500mg/L、ビタミン類は0.001−10mg/L、脂質因子は0−200mg/L、エネルギー源は1−20g/L、浸透圧調節剤は0.1−10000mg/L、鉄源は0.1−500mg/L、pH緩衝剤は1−10000mg/L、微量金属元素は0.00001−200mg/L、界面活性剤は0−5000mg/L、増殖補助因子は0.05−10000μg/Lおよびヌクレオシドは0.001−50mg/Lの範囲が適当であるが、これらに限定されず、培養する細胞の種類、所望のポリペプチドの種類などにより適宜決定できる。
【0076】
上記成分のほか、例えば、微量金属元素、界面活性剤、増殖補助因子、ヌクレオシドなどを添加しても良い。
【0077】
具体的には、例えば、L-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-システイン、L-シスチン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-オルニチン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等、好ましくはL-アラニン、L-アルギニン、L-アスパラギン、L-アスパラギン酸、L-シスチン、L-グルタミン、L-グルタミン酸、グリシン、L-ヒスチジン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リジン、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-スレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン、L-バリン等のアミノ酸類;i−イノシトール、ビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチンアミド、ニコチン酸、p-アミノ安息香酸、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、塩酸ピリドキシン、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等、好ましくはビオチン、葉酸、リポ酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、塩酸ピリドキサール、リボフラビン、塩酸チアミン、ビタミンB12、アスコルビン酸等のビタミン類;塩化コリン、酒石酸コリン、リノール酸、オレイン酸、コレステロール等、好ましくは塩化コリン等の脂質因子;グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等、好ましくはグルコース等のエネルギー源;塩化ナトリウム、塩化カリウム、硝酸カリウム等、好ましくは塩化ナトリウム等の浸透圧調節剤;EDTA鉄、クエン酸鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、硝酸第二鉄等、好ましくは塩化第二鉄、EDTA鉄、クエン酸鉄等の鉄源類;炭酸水素ナトリウム、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、HEPES、MOPS等、好ましくは炭酸水素ナトリウム等のpH緩衝剤を含む培地を例示できる。
【0078】
上記成分のほか、例えば、硫酸銅、硫酸マンガン、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、塩化ニッケル、塩化スズ、塩化マグネシウム、亜ケイ酸ナトリウム等、好ましくは硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム等の微量金属元素;Tween80、プルロニックF68等の界面活性剤;および組換え型インスリン、組換え型IGF-1、組換え型EGF、組換え型FGF、組換え型PDGF、組換え型TGF-α、塩酸エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、レチノイン酸、塩酸プトレッシン等、好ましくは亜セレン酸ナトリウム、塩酸エタノールアミン、組換え型IGF-1、塩酸プトレッシン等の増殖補助因子;デオキシアデノシン、デオキシシチジン、デオキシグアノシン、アデノシン、シチジン、グアノシン、ウリジン等のヌクレオシドなどを添加してもよい。なお上記培地の好適例においては、ストレプトマイシン、ペニシリンGカリウム及びゲンタマイシン等の抗生物質や、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいても良い。
【0079】
培地のpHは培養する細胞により異なるが、一般的にはpH6.8〜7.6、多くの場合pH7.0〜7.4が適当である。
【0080】
培地は、市販の動物細胞培養用培地、例えば、D-MEM (Dulbecco's Modified Eagle Medium)、 D-MEM/F-12 1:1 Mixture (Dulbecco's Modified Eagle Medium : Nutrient Mixture F-12)、 RPMI1640、CHO-S-SFM II(Invitrogen社)、 CHO-SF (Sigma-Aldrich社)、 EX-CELL 301 (JRH biosciences社)、CD-CHO (Invitrogen社)、 IS CHO-V (Irvine Scientific社)、 PF-ACF-CHO (Sigma-Aldrich社)などの培地を用いることも可能である。
【0081】
又、培地は無血清培地であってもよい。
【0082】
宿主細胞がCHO細胞である場合、CHO細胞の培養は当業者に公知の方法を用いて行うことができる。例えば、通常、気相のCO
2濃度が0−40%、好ましくは、2−10%の雰囲気下、30−39℃、好ましくは37℃程度で、培養することが可能である。
【0083】
所望のポリペプチドを産生するために適当な培養期間は、通常1日〜3ヶ月であり、好ましくは1日〜2ヶ月、さらに好ましくは1日〜1ヶ月である。
【0084】
また、動物細胞培養用の各種の培養装置としては、例えば発酵槽型タンク培養装置、エアーリフト型培養装置、カルチャーフラスコ型培養装置、スピンナーフラスコ型培養装置、マイクロキャリアー型培養装置、流動層型培養装置、ホロファイバー型培養装置、ローラーボトル型培養装置、充填槽型培養装置等を用いて培養することができる。
【0085】
培養は、バッチ培養(batch culture)、流加培養(fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)などのいずれの方法を用いてもよいが、流加培養又は連続培養が好ましく、流加培養がより好ましい。
【0086】
産生されたポリペプチドは、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なポリペプチドとして精製することができる。ポリペプチドの分離、精製は、通常のポリペプチドの精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせればポリペプチドを分離、精製することができる。
【0087】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製されたポリペプチドも包含する。
【0088】
なお、ポリペプチドを精製前又は精製後に適当なポリペプチド修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、部分的にペプチドを除去したりすることもできる。ポリペプチド修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、リシルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グルコシダーゼなどが用いられる。
【0089】
(7)医薬品
本発明の方法により製造されたポリペプチドが医薬として利用可能な生物学的活性を有する場合には、このポリペプチドを医薬的に許容される担体又は添加剤と混合して製剤化することにより、医薬品を製造することができる。
【0090】
医薬的に許容される担体及び添加剤の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤等が挙げられる。
【0091】
実際の添加物は、本発明治療剤の剤型に応じて上記の中から単独で又は適宜組み合わせて選ばれるが、もちろんこれらに限定するものではない。例えば、注射用製剤として使用する場合、精製されたポリペプチドを溶剤、例えば生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等に溶解し、これに吸着防止剤、例えばTween80、Tween20、ゼラチン、ヒト血清アルブミン等を加えたものを使用することができる。あるいは、使用前に溶解再構成する剤形とするために凍結乾燥したものであってもよく、凍結乾燥のための賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0092】
ポリペプチドの有効投与量は、ポリペプチドの種類、治療や予防の対象とする疾患の種類、患者の年齢、疾患の重篤度などにより適宜選択される。例えば、ポリペプチドが抗グリピカン抗体である場合、抗グリピカン抗体の有効投与量は、一回につき体重1kgあたり0.001mgから1000mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり0.01〜100000mg/bodyの投与量を選ぶことができる。しかしながら、これらの投与量に制限されるものではない。
【0093】
ポリペプチドの投与方法は、経口、非経口投与のいずれでも可能であるが、好ましくは非経口投与であり、具体的には、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによる全身又は局所投与)、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。
【0094】
(8)NfkBiaの発現の抑制
本発明によれば、所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した動物細胞を培養して当該ポリペプチドを製造する方法において、宿主細胞中でnuclear factor κB inhibitor α(NfkBia)の発現量を低下させることを通じて、当該所望のポリペプチドの産生量を増加させることができる。NfkBia遺伝子は必須遺伝子であり、完全に発現を抑えると細胞死にいたる。従って、当該NfkBia遺伝子の発現を適度に抑制することが、本発明の方法において重要と考えられる。
【0095】
従って、所望のポリペプチドをコードするDNAを導入した動物細胞を培養して当該ポリペプチドを製造する方法において、当該細胞のNfkBiaの発現量を抗体遺伝子導入前の親細胞の発現量よりも低下させる工程を含む、ポリペプチドの製造方法が本発明の範囲に含まれる。
【0096】
NfkBiaの発現を低下させる方法としては、NfkBia遺伝子からの転写の阻害、mRNAの分解、mRNAからの翻訳の阻害、または翻訳産物の機能(結合)阻害により、NfkBiaの発現を阻害することが可能である。このようにNfkBiaの発現を低下させる方法を行わない場合と比較して、NfkBiaの発現量を70%以下、好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下とすることにより、所望のポリペプチドの産生量が増大する。言い換えれば、細胞死しないために必要なNfkBia遺伝子の発現量としては、例えば、20%以上、好ましくは30%以上の発現量が必要である。
【0097】
NfkBiaの発現を阻害する具体的手段としては、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、またはdsRNA、siRNA、shRNA、miRNA等のRNA干渉(RNAi)を引き起こす核酸分子を利用することが考えられる。また、Large intergenic (or intervening) long noncoding RNA (lincRNAs)と呼ばれるmRNA型のノンコーディングRNA、その他のmRNA型non-coding RNA、デコイオリゴ、アプタマーも利用可能である。これらの核酸分子は、NfkBiaをコードするmRNAと相同または相補的な配列を含み、NfkBia遺伝子またはmRNAに結合してその発現を阻害することができる。APES(あるいはPPES)は、このような核酸分子である。
【0098】
NfkBiaの発現を阻害するために利用可能な核酸分子の例は、NfkBiaのmRNAの一部に相補的な配列を含む19〜25塩基長の低分子RNA、又は当該配列と一塩基を除き同一配列を持ち、NfkBiaの発現阻害機能を有する低分子RNAである。
【0099】
このようなNfkBiaの発現を阻害する低分子RNAを宿主細胞中で発現させることにより、nuclear factor κB inhibitor α(NfkBia)の発現量を低下させることができる。NfkBiaの発現を阻害する低分子RNAを宿主細胞中で発現させるための典型的な方法としては、そのような低分子RNAをコードするDNAを含むベクターを細胞に導入することで行うことができる。
【0100】
また、NfkBia mRNAまたはその部分配列に対するセンスRNAとアンチセンスRNAを互いに結合して形成されたdsRNAを細胞内へ導入することで、NfkBiaの発現を阻害することも可能である。
【0101】
NfkBia発現量を測定するに当たっては、対象となる細胞で発現しているNfkBia mRNAのTaqMan法で定量可能な配列を決定しなければならない。例えば、本検討で用いたNfkBia部分配列(配列番号19、28)とTaqManプローブセット(配列番号20-22)は、
図12で示すことができ、このTaqManプローブの設計は、Primer Express
(登録商標)Software(Applied Biosystems)などで行うことができる。上記のNfkBia部分配列(配列番号28)は、CHO K1 細胞でもNF-kappa-B inhibitor alpha-like配列として確認され、我々のPCRクローニング配列と一致した。このうち終始コドンTGA(907-909)の64塩基上流から132塩基上流までの領域の発現定量が可能である。
【0102】
典型的な測定機器としては Applied Biosystems (ABI)社製の7900HI Sequence Detection Systemなどがあり、全てのキットおよび試薬が購入可能であるのでABI社推奨のプロトコールに従って定量することができる。
【実施例】
【0103】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0104】
〔実施例1〕各種遺伝子導入CHO細胞のGeneChip解析実験
GeneChip実験は、AFFYMETRIX社のオリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix MOUSE430_2)を用いて通常の手順にしたがった。ただし、Hamster Arrayは商品化されていないためMouse Genome 430 2.0 Arrayを用いた。ハイブリダイゼーション条件の最適化によって、Test 3 array 上のMouse Gene16種のプローブ中、8種のプローブでPresent Callが得られるようになり、Mouseとの塩基配列相同性が約90%以上の場合は、Hamster転写産物の発現定量が可能になった。
【0105】
各種遺伝子を強発現させた細胞から高純度total RNAを調製したのち、total RNAとT7プロモーター配列を含むオリゴdTプライマー(T7-(T)24)を用いてcDNAを合成した。つぎに、Bio-11 CTP, Bio-16 UTPとMegascript T7 Kit(Ambion)を用いた転写反応により、cDNAからビオチンラベルcRNAを合成した。cRNAはカラム精製後、電気泳動上で18sから28s rRNAに相当する分子量が確認された高品質cRNAを断片化し、均一なサイズをもつGeneChipサンプルとした。使用までのGeneChipサンプルは、ハイブリダイゼーションサンプル溶液を加えて−80℃で凍結保存した。サンプル溶液は使用直前に熱処理、遠心、Mouse Genome 430 2.0 Arrayにアプライし、Arrayを回転させながら45℃のハイブリダイゼーション専用オーブンで16時間インキュベーションした。サンプルを回収、Arrayを繰り返し洗ってStreptavidin R-Phycoerythrinで染色後にスキャンした。
【0106】
Array上の転写物(約45,000)のGeneChipシグナル値を比較することで、1Lジャー流加培養10日目に900mg/L以上のMAb1(抗IL-6R抗体;tocilizumab、商品名 アクテムラ)を産生するMAb1(抗IL-6R抗体)強発現 TAUT強発現 CSAD強発現DG44細胞の継代培養細胞において、発現強度が高く且つ発現昂進が著しい転写産物としてマウスゲノム上のmRNA型ノンコーディングRNA UG_GENE=AI462015(Affymetrix MOUSE430_2, 1420088_AT)を同定した(
図1:AI462015転写産物の配列)。
【0107】
AI462015は437塩基のmRNA型ノンコーディングRNAであるが、その配列はマウスゲノム12のNfkBia mRNA 3’側の非翻訳領域近傍(56590831- 56590397)の相補鎖上に存在する。AI462015転写産物が直接にNfkBia mRNAの非翻訳領域に作用して翻訳を阻害する可能性、あるいは437塩基の一部の配列が低分子 RNAとして機能してNfkBia mRNAを分解する可能性が考えられた。
【0108】
たとえば、AI462015配列中の5’側40番目のAから91番目のAを含む52塩基の配列(AAGTACCAAAATAATTACCAACAAAATACA
ACATATACAACATTTACAAGAA:配列番号7)は、ラット NfkBia mRNA 3‘側の非翻訳領域(1478-1529, GENE ID: 25493 NfkBia) の相補鎖と一塩基(AI462015中の5’側61番目のA)を除いて一致しており、さらにはAI462015の40番目のAから63番目のAを含む24塩基の配列(AAGTACCAAAATAATTACCAACAA:配列番号9)は、ヒト NfkBia mRNA 3‘側の非翻訳領域の一部配列(TTGTTGGTAATTATTTTGGTACTT, 1490 - 1513:配列番号24)の相補鎖でもあることから、52塩基の一部である19-25塩基がmicroRNAとして、あるいは一部配列がアンチセンスRNAとしてCHO細胞のNfkBia mRNAに作用する可能性が予測された。
【0109】
また、更新情報(実施例8)によれば、たとえば、AI462015配列中の5’側7番目のTから91番目のAを含む85塩基の配列(
図23と24の下線部、配列番号29)(
TGTAAAAATCTGTTTAATAAATATACATCTTAGAAGTACCAAAATAATTACCAACAAAATACAACATATACAACATTTACAAGAA)は、ラット NfkBia mRNA 3‘側の非翻訳領域(1478-1562, GENE ID: 25493 NfkBia、配列番号31) の相補鎖と一塩基(AI462015中の5’側70番目のA)を除いて一致しており(Matching = 84/85、
図25b)、同様に、ヒト(Matching = 75/85、
図25a、配列番号30)、チンパンジー(Matching = 75/85、
図25c、配列番号32)、アカゲザル(Matching = 74/85、
図25d、配列番号33)、ウシ(Matching = 76/85、
図25e、配列番号34)でも相同性が確認された。よって、この85塩基(Conserved Sequence 7-91)の一部である19-25塩基がmicroRNAとして、あるいは一部配列がアンチセンスRNAとして種を超えて動物細胞、若しくは哺乳動物細胞に作用すると考えられる。従って、動物培養細胞、好ましくはCHO細胞のような哺乳動物細胞のNfkBia mRNAにも作用することが予測された。
【0110】
〔実施例2〕抗体高産生細胞において発現昂進された転写産物の同定
実施例1で、MAb1(抗IL-6R抗体;tocilizumab、商品名 アクテムラ)高産生DG44細胞で転写産物AI462015の発現量が昂進されたが(
図2)、異なる宿主細胞(CHO-DXB11s)に異なる抗体(MAb2:抗グリピカン3抗体;GC33(WO2006/006693参照))を高産生させた場合も同様にAI462015転写産物の発現昂進がみられた(
図3)。
【0111】
図2に示したように、CHO-DG44細胞にタウリントランスポーター (TauT)遺伝子を強発現させた場合、システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(CSAD)遺伝子を強発現させた場合(data not shown)、TauTとCSADを共に強発現させた場合、いずれも転写産物AI462015の発現量は同程度であったが、TauTとCSADを共に強発現させた細胞にさらにMab1(抗IL-6レセプター抗体)を強発現させた場合は、AI462015の異常な昂進(宿主細胞の7倍)がみられ、発現量も異常に高いGeneChipシグナル値(10,000以上)を示した。コントロールのGAPDH発現強度は細胞間で同レベルであったことから、転写産物AI462015の発現昂進はMab1抗体高産生細胞に特異的であった。
図3も同様であり、CHO-DXB11s細胞にMAb2(抗グリピカン3抗体)遺伝子を強発現させた場合、AI462015配列の発現昂進(TauT, CSAD, AE1強発現細胞の平均値の13倍)はMAb2抗体高産生細胞に特異的であった。
【0112】
以上の結果は、シェーカー継代培養3日目で安定増殖している抗体高産生細胞は、AI462015配列を異常に高発現していることを示している。
【0113】
また、1Lジャー培養3日目の生産培養条件下においてもAI462015配列の異常な発現昂進がみられた。
図4に示したように1Lジャー流加培養の10日目に約1200−1400mg/LのMAb1(抗IL-6R抗体)を産生する2種の抗体高産生細胞は5,000以上の高いGeneChipシグナル値を示した。培養条件の違いから、1Lジャー流加培養3日目のシグナル値はシェーカー培養の50%程度であったが、培養後期13日目にAI462015配列の発現強度はシェーカー継代培養と同程度にまで昂進され、異常に高いシグナル値を示した(
図5)。一方、抗体産生量の低いMAb1強発現DXB11s細胞(加水分解物無添加のシェーカー培養7日目で300mg/L以下、加水分解物添加でも500mg/L以下)は、高産生化に寄与する加水分解物(Hy-Fish、Procine Lysate)を添加した条件でも、1Lジャー培養3日目の AI462015配列の発現昂進はみられなかった(
図6)。
【0114】
図2で高いシグナル値を示したMAb1強発現TauT強発現CSAD強発現DG44細胞の抗体産生量が高かったこと(加水分解物無添加のシェーカー培養7日目で640mg/L)、
図3で高いシグナル値を示したMAb2強発現DXB11s細胞の抗体産生量が高かったこと(加水分解物無添加のシェーカー培養7日目で640mg/L)、
図6で抗体高産生化に寄与する加水分解物を加えた場合もシグナル値が昂進されなかった実験結果に基づいて、「AI462015配列の発現量が高い細胞は抗体産生ポテンシャルが高い」と考えられた。
【0115】
〔実施例3〕APES強発現による抗体産生細胞の高産生化例
AI462015配列発現量の高さが抗体産生ポテンシャルの高さと相関することを示すため、
図6で抗体産生ポテンシャルの低かったMAb1強発現DXB11s細胞にAI462015配列の一部を発現するプラスミドを導入し、強発現させて抗体産生ポテンシャルを比較した。
【0116】
マウスゲノム由来の転写産物AI462015(
図1、437塩基) 配列の一部(Affymetrix GeneChipのAI462015 Probe Sequenceを含む)5’側4番目のGから3’末端のTまでをAPES434、5’側4番目のGから168番目のCまでをAPES165と命名して、2種類の発現ユニットを作成した(APESとはAntibody Production Enhancing Sequenceの略称)。Kozak配列を加えた発現ユニットを合成することで、CMVプロモーター下で高発現するpHyg-APES434(
図7)、 pHyg-APES165(
図8)、pHyg-null(
図9)を構築した。
【0117】
Amaxa社(現、LONZA社) 遺伝子導入システムNucleofectorによって、
図6の抗体低産生株の MAb1強発現DXB11s細胞に発現プラスミドを導入し、96ウェルプレート上でHygromycin(200μg/ml) を含む選択培地存在下で高増殖だった全細胞株を選抜し、24ウェルプレート拡大後に抗体産生量を比較した。選抜された株数はそれぞれpHyg-APES434(N=38), pHyg-APES165(N=60)、pHyg-null(N=11)であり、それらの株数はAPES強発現プラスミド導入によるポジティブ効果を期待させた。1mL継代培地を含む24ウェルプレートでの静置培養は、培養13日目に細胞増殖がみられなかったので、抗体産生量および細胞数を測定した。抗体産生量の平均値はpHyg-APES434(44.3 mg/L)、 pHyg-APES165(41.2 mg/L)、pHyg-null(21.9 mg/L)、細胞数(平均値)はpHyg-APES434(9.27x10
5cells/mL)、 pHyg-APES165(11.39x10
5 cells/mL)、pHyg-null(7.76x10
5cells/mL)であり、pHyg-APES434、 pHyg-APES165導入細胞は共にコントロールのpHyg-nullに対して統計的に優位であった(t検定 P< 0.001,
図10)。
【0118】
以上の結果は、AI462015転写産物の5’側165bpを含む核酸配列(例えば配列番号2のDNAの転写産物であるAPES165、又は配列番号3のDNAの転写産物であるAPES434)を強発現させると、細胞の抗体産生ポテンシャルが上がったことを示している。
【0119】
〔実施例4〕抗体高産生CHO細胞におけるNfkBiaの発現抑制
実施例1で述べたように、AI462015配列はマウスゲノム12のNfkBia 遺伝子の3’側の非翻訳領域近傍(3’側78bp)の相補鎖上に存在すること、AI462015配列に含まれる22塩基(AAGTACCAAAATAATTACCAAC:配列番号10)はヒトNfkBia 遺伝子の3’側非翻訳領域(1492-1513)の相補鎖と同一配列であり、さらにラット、アカゲザル、イヌ、ウマなど種を超えて保存されていることからmicroRNAとしてRNA干渉してNfkBia mRNAを分解する可能性があること、あるいはAI462015発現を定量できるAFFYMETRIX社のオリゴヌクレオチドアレイ(Affymetrix MOUSE430_2)上の特異的プローブ配列領域(
CATATACAACATTTACAAGAAGGCGACACAGACCTTAGTTGG:配列番号16)42bpの前半部分に相当する5’側71番目のCからの21塩基(CATATACAACATTTACAAGAA:配列番号15)がラットNfkBia mRNAの1478から1498塩基目の相補配列であることから、AI462015配列由来の核酸分子がNfkBia mRNA にRNA干渉し、発現を抑制することで抗体高産生CHO細胞のホメオスタシスを維持する可能性が考えられた(ノックアウトマウスのlethality はpostnatal)。(注記:後に、AI462015の転写産物はマウスNfkBia 遺伝子の3’側513塩基の非翻訳領域の相補鎖に相当することが判明した。実施例8参照。また、マウスGeneChipで定量されたAI462015の71番目から112番目の配列(配列番号16)はCHO細胞での転写産物として確認された。)
【0120】
そこで、抗体産生ポテンシャルが高かったAI462015高発現細胞でのNfkBia mRNA 発現量を定量し、その発現が抑制されていることを確認することにした。
【0121】
CHO細胞のNfkBia mRNA配列は未知であったため、マウスとラットのアミノ酸コード領域(共に942塩基:314アミノ酸)で保存されている配列からプローブ( 5’ACTTGGTGACTTTGGGTGCT、 5’GCCTCCAAACACACAGTCAT )(配列番号17、18)を設計して325bpのPCR産物を得た。 PCRクローニングされた325bp は、その配列相同性からCHO細胞由来NfkBia mRNAの一部配列であると考えられる(
図11)。
【0122】
Mouse Genome 430 2.0 Array(実施例1)では、そのプローブ配列がCHO細胞の種特異的配列に相当するためなのか、NfkBia mRNA発現を定量できなかったが、325bp PCR産物量を比較すると、抗体を産生させていない遺伝子強発現細胞(レーン1,2)に対して、AI462015配列の発現が昂進された抗体高産生細胞(レーン3,4)ではNfkBia mRNA発現が抑制されていた。さらに、325bp の一部の配列を定量可能なTaqMan Probe Set(
図12)を設計し、RT-PCR法で定量すると、抗体高産生細胞では、抗体を産生させていない細胞の約50%にまでNfkBia mRNA発現が抑制されていた(
図13)。
【0123】
以上から、抗体高産生細胞ではNfkBia mRNAの発現が抑制されており、その結果、抗体産生ポテンシャルが上がると考えられる。実際、われわれが抗体遺伝子発現に用いている発現プラスミドのプロモーター/エンハンサー領域には 複数個以上のNfkB結合部位が存在しており(
図14:マウスMCMV IE2プロモーター上のNfkB結合部位)、それらのエンハンサー領域は抗体遺伝子の高発現に必須の領域であることから、NfkBia発現抑制によって活性化されたNfkBが核内に移行し、プロモーター活性が増強されることが、抗体高産生の一因であると考えられる。
【0124】
〔実施例5〕抗体高産生CHO細胞で亢進されているmicroRNAの解析
microRNAを解析するために、
図15に示したようにMir-X
TM miRNA First-Strand Sythesis Kit (Clontech)を用いて、継代培養中のMAb1(抗IL-6R抗体)高産生DXB11s細胞とMAb1(抗IL-6R抗体)高産生TAUT強発現DXB11s細胞、さらに抗体遺伝子導入前のDXB11s宿主細胞から調製したsmall RNAの3’側にpoly(A)タグを付加したのち、オリゴdTを3’側にPCRプライマー配列(mRQ 3’Primer)を5’側にもつアダプターをプライミングして一次鎖cDNAを合成した。得られたcDNAを鋳型にして、mRQ 3’ primer と 予想されたAPES配列由来のmicroRNA-specific Primer(APES 40-61 5’ primer, あるいは APES 71-91 5’ primer)、さらに ポジティブコントロールのU6 snRNA 5’ primerを用いてqPCR反応(95℃ 5sec, 60℃ 20sec, 30cycles)をおこなった。PCR反応液は、精製後、3%アガロースゲルで電気泳動した。
図16に示したように、APES 40-61 5’ primerとU6 snRNA 5’ primerによるPCR反応で目的の大きさのバンドがみられた。レーン1,2,3で示したように、APES 40-61(AAGTACCAAAATAATTACCAAC:配列番号10)22塩基がMAb1(抗IL-6R抗体) 高産生細胞中で高発現していた。ポジティブコントロールのU6 snRNA(レーン4)の発現量はいずれの細胞においても同レベルであったこと、またAPES 71-91(CATATACAACATTTACAAGAA:配列番号15)の存在は確認されなかったことから(data not shown)、種を超えて配列が保存されているAPES 40-61(22塩基)がmicroRNAとして抗体高産生化に寄与すると考えられた。
【0125】
〔実施例6〕APES強発現による抗体産生用宿主細胞の高増殖化例
抗体産生用宿主細胞DXB11/TAUTから、1Lジャー流加培養14日目に3.9g/LのMAb1(抗IL-6R抗体)を産生する抗体高産生細胞(DXB11/TAUT/MAb1)が得られ、TAUTの生存率維持能によって培養31日目に8.1g/Lを産生したが、実生産を考慮して培養14日目に高産生にするには、細胞最高到達密度(4.1 x10e6 cells/mL)を増加させる必要があった。APES強発現によるNfkbia mRNAの発現抑制(実施例4)がNfkbの活性化を促進するのであれば、増殖関連遺伝子の発現が亢進されるため、細胞最高到達密度は上がる可能性がある。APESと同様に抗体高産生化に寄与したALT1の共発現用プラスミドをそれぞれ(pPur-APES165, pPur-ALT1,
図17)、上記抗体高産生細胞DXB11/TAUT/MAb1(親株)に導入して高増殖な上位3株ずつを選抜し、シェーカー流加培養をおこなうと、APES165強発現細胞の細胞最高到達密度の平均値は(11.5±1.7)x10e6 cells/mLであり、ALT1強発現細胞の(8.9±1.8) x10e6 cells/mL以上に高増殖な細胞が得られた。さらにシェーカー流加培養14日目の抗体産生量の平均値は、APES強発現細胞:4.4±0.6 g/L, ALT1強発現細胞:4.0±0.6 g/Lと導入前のDXB11/TAUT/MAb1細胞:3.4g/L以上に高くなったことから、APES強発現効果はTAUT強発現効果に独立してポジティブに作用することが示された(
図18)。APES強発現による正の効果は1L-Jar流加培養において顕著であり、それぞれシェーカー流加培養での高増殖細胞を比較すると、APES強発現株は最も高増殖で、培養12日目で5.3g/Lと親株の3.2g/L, ALT1強発現株4.4g/Lに対して短期間培養で高産生である長所が示された(
図19)。以上の結果に基づき、抗体産生用宿主細胞DXB11/TAUTをより高増殖な宿主細胞に改変することにし、APES165強発現宿主DXB11/TAUT/APESを作成した。DXB11/TAUT宿主にpPur-APES165をエレクトロポレーション法で遺伝子導入し、薬剤選抜後に生存率、増殖ともに良好であった宿主候補の9株について、継代培養時のAPES snRNA (small non-coding RNA)発現量を定量した。APES発現量の高かったDXB11/TAUT/APES宿主候補株は培養時の生細胞密度が高く、相関(R
2=0.70)が示された(
図20)。
【0126】
〔実施例7〕APES強発現による抗体産生細胞の高産生化例2
実施例3と同様に、MAb1強発現DXB11s細胞にAI462015転写産物の5’側の部分配列を発現するプラスミドを導入し、抗体産生ポテンシャルを比較した。
【0127】
APES4-168(APES165)に加えて、さらにその一部配列からなるAPES4-68(配列番号5)およびAPES69-133(配列番号6)の発現ユニットを作成して、細胞の抗体産生ポテンシャルを検討した。空ベクター強発現(null)に対して APES 4-68は p<0.05, APES69-133は p<0.01の有意差で抗体高産生でとなった(t検定 P< 0.001、
図21)。
【0128】
実施例3および本実施例において同定された、APES活性を有する部分配列が、それぞれ、マウスAI462015転写産物のどの領域に相当するのかを
図22に示した。APES活性を示した部分配列はNfkbia相補配列を23塩基以上含んでいる。
【0129】
〔実施例8〕APESに関する遺伝子解析
実施例1においては、出願時の遺伝子情報に基づいて、「AI462015は437塩基のmRNA型ノンコーディングRNAであるが、その配列はマウスゲノム12のNfkBia 遺伝子の3’側の非翻訳領域近傍(56590831- 56590397)の相補鎖上に存在する」と記述したが、しかし、その後のGeneBankの情報更新によって、AI462015の転写産物である437塩基はマウスNfkBia 遺伝子の3’側 非翻訳領域(513塩基)の相補鎖に相当することが明らかになった(
図23)。
図24に示したように、出願後に公開されたCHO-K1細胞のゲノム配列上にAI462015の相同配列が存在すること(配列番号25:AI462015;配列番号26-27:CHO-K1ゲノム)、さらに、抗体高産生なCHO細胞においてNfkbia の発現抑制(実施例4)がみられたことから、CHO細胞ではAI462015の相同配列が高発現されて機能するものと考えられる。
【0130】
本発明は、あらゆる抗体等の組換えポリペプチド産生細胞へ応用可能である。
【0131】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。