(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インナ軸部材とそれに外挿されるアウタ筒部材とを本体ゴム弾性体で弾性連結すると共に、該本体ゴム弾性体における該インナ軸部材を軸直角方向に挟んだ両側部分に一組のすぐり孔を備える防振装置本体が形成されており、該防振装置本体の一組がそれぞれの該アウタ筒部材を筒状の連結部材に嵌入されて軸方向で直列的に配設されている筒形防振装置において、
直列的に配された各前記インナ軸部材の軸方向外端部には、外周側に突出するインナ突出部が一組の前記すぐり孔を外れて周上で部分的に設けられていると共に、
直列的に配された各前記アウタ筒部材の軸方向内端部には、内周側に突出するアウタ突出部が一組の該すぐり孔を外れて周上で部分的に設けられている一方、
各前記本体ゴム弾性体には一組の該すぐり孔の周方向間で該インナ軸部材と該アウタ筒部材を相互に弾性連結する一対のゴム腕部が設けられており、それら一対のゴム腕部が該インナ突出部と該アウタ突出部の間に配されて、それらインナ突出部とアウタ突出部に固着されていることを特徴とする筒形防振装置。
前記インナ軸部材における前記インナ突出部の軸方向内面が外周側に向かって次第に軸方向外側に傾斜するテーパ面とされており、該テーパ面に前記本体ゴム弾性体の一対の前記ゴム腕部が固着されている請求項1に記載の筒形防振装置。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動伝達系を構成する部材間に介装されて、それら部材を連結する防振連結体乃至は防振支持体の一種として、筒形防振装置が知られている。筒形防振装置は、例えば、特開2000−193003号公報(特許文献1)に示されているように、インナ軸部材とそれに外挿されたアウタ筒部材とを本体ゴム弾性体によって弾性連結した防振装置本体の一組が、筒状の連結部材に嵌入されて直列的に配された構造を有している。
【0003】
ところで、特許文献1の筒形防振装置では、車両の上下方向と左右方向に相当する軸直角方向二方向で、互いに異なるばね定数を設定するために、本体ゴム弾性体を貫通する一組のすぐり孔を、インナ軸部材を軸直角方向に挟んだ両側に形成する構造が提案されている。これによれば、一組のすぐり孔が形成される軸直角方向一方向でばね定数が小さくされて、入力振動に対する優れた振動絶縁効果が発揮される一方、一組のすぐり孔の配置方向と直交する軸直角方向でばね定数が大きくされて、例えばパワーユニットのボデーに対する変位が有効に制限される。
【0004】
しかしながら、本体ゴム弾性体に一組のすぐり孔を形成すると、軸方向でのばね定数が著しく小さくなって、ばね定数の設定自由度が小さくなることから、要求されるばね特性を充分に満たせないおそれがあった。蓋し、筒形防振装置では、軸方向のばね成分が、主としてインナ軸部材とアウタ筒部材の間で剪断変形する本体ゴム弾性体の剪断ばねであることから、軸直角方向のばね定数に対して軸方向のばね定数が小さくなり易く、更に本体ゴム弾性体に一組のすぐり孔が貫通形成されることで、軸方向のばね定数がより一層小さくなるからである。
【0005】
なお、特許文献1では、アウタ筒部材の軸方向外側の端部にフランジ部を形成して、インナ軸部材の側面プレートとフランジ部との軸方向対向面間に本体ゴム弾性体の一部を介在させることで、軸方向でも圧縮ばね成分による高いばね定数が得られるようになっている。しかし、このような構造では、側面プレートとフランジ部の間に本体ゴム弾性体の一部を配するために軸方向寸法が大きくなり易く、筒形防振装置を配設するスペースの制限などによっては、採用し難い場合もあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、コンパクトな構造で軸方向のばね定数を大きく設定可能とされて、軸直角方向と軸方向のばね比の設定自由度が大きくされた、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
すなわち、本発明の第一の態様は、インナ軸部材とそれに外挿されるアウタ筒部材とを本体ゴム弾性体で弾性連結すると共に、該本体ゴム弾性体における該インナ軸部材を軸直角方向に挟んだ両側部分に一組のすぐり孔を備える防振装置本体が形成されており、該防振装置本体の一組がそれぞれの該アウタ筒部材を筒状の連結部材に嵌入されて軸方向で直列的に配設されている筒形防振装置において、直列的に配された各前記インナ軸部材の軸方向外端部には、外周側に突出するインナ突出部が一組の前記すぐり孔を外れて周上で部分的に設けられていると共に、直列的に配された各前記アウタ筒部材の軸方向内端部には、内周側に突出するアウタ突出部が一組の該すぐり孔を外れて周上で部分的に設けられている一方、各前記本体ゴム弾性体には一組の該すぐり孔の周方向間で該インナ軸部材と該アウタ筒部材を相互に弾性連結する一対のゴム腕部が設けられており、それら一対のゴム腕部が該インナ突出部と該アウタ突出部の間に配されて、それらインナ突出部とアウタ突出部に固着されていることを、特徴とする。
【0010】
このような第一の態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、インナ突出部とアウタ突出部の間に配される一対のゴム腕が、軸方向の入力によって圧縮されることから、一組のすぐり孔を形成して軸直角方向二方向のばね比を大きく設定しながら、軸方向のばね定数を、一対のゴム腕の圧縮ばね成分によって大きく設定可能とされている。それ故、ばね特性のチューニング自由度が大きく確保されて、要求されるばね特性をより高度に実現することで、優れた防振性能や振動体の支持性能などを得ることができる。
【0011】
しかも、一組の防振装置本体が連結部材に嵌入されて直列的に配されており、軸方向荷重の向きに応じて、何れかの防振装置本体のゴム腕部が選択的に圧縮されることから、軸方向の両側において、圧縮ばね成分による大きなばね定数を設定可能である。
【0012】
また、インナ突出部がインナ軸部材の軸方向外端部に設けられていると共に、アウタ突出部がアウタ筒部材の軸方向内端部に設けられていることから、防振装置本体の軸方向寸法を著しく大きくすることなく、ゴム腕部の軸方向での自由長を大きく確保することができる。それ故、軸方向にコンパクトな構造によって、軸方向荷重に対するゴム腕部の耐久性が有利に確保される。
【0013】
本発明の第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ軸部材における前記インナ突出部の軸方向内面が外周側に向かって次第に軸方向外側に傾斜するテーパ面とされており、該テーパ面に前記本体ゴム弾性体の一対の前記ゴム腕部が固着されているものである。
【0014】
第二の態様によれば、軸方向の入力だけでなく、軸直角方向の入力に対しても、ゴム腕部がインナ突出部のテーパ面とアウタ筒部材の間で圧縮されることから、ばね定数を大きく設定することができる。
【0015】
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記インナ突出部が前記インナ軸部材に一体形成されていると共に、前記アウタ突出部が前記アウタ筒部材に一体形成されているものである。
【0016】
第三の態様によれば、部品点数の少ない簡単な構造によって、本発明に係る筒形防振装置を得ることができる。
【0017】
本発明の第四の態様は、第一〜第三の何れか一項に記載された筒形防振装置において、前記インナ突出部と前記アウタ突出部が軸方向投影において互いに重なり合うことなく配置されているものである。
【0018】
第四の態様によれば、インナ突出部とアウタ突出部を繋ぐゴム腕部の自由長が大きく確保されて、耐久性の向上が図られる。しかも、軸方向荷重の入力に対して、ゴム腕部がインナ突出部とアウタ突出部の間で圧縮変形と同時に剪断変形を生じることから、ゴム腕部の変形量の増大に伴う著しい高動ばね化が回避されて、防振性能への悪影響が防止されることから、乗り心地の向上などが図られ得る。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、インナ突出部とアウタ突出部との間にゴム腕部が配されており、軸方向の入力に対してゴム腕部がそれらインナ突出部とアウタ突出部との間で圧縮されることから、軸方向に大きなばね定数を設定することができる。しかも、インナ突出部がインナ軸部材の軸方向外端部に設けられていると共に、アウタ突出部がアウタ筒部材の軸方向内端部に設けられていることから、防振装置本体の軸方向での大型化を要することなく、ゴム腕部の自由長が大きく確保される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1,2には、本発明に従う構造とされた筒形防振装置の一実施形態として、自動車用のエンジンマウント10が示されている。エンジンマウント10は、防振装置本体としてのマウント本体12,12の一組が、筒状の連結部材14に軸方向両側から嵌め入れられて、直列的に配設された構造とされている。また、マウント本体12は、インナ軸部材16とアウタ筒部材18が本体ゴム弾性体20によって弾性連結された構造を有している。なお、以下の説明において、特に説明がない限り、上下方向とは、車両装着状態の車両上下方向となる
図1中の上下方向を、前後方向とは、車両前後方向となる
図1中の左右方向を、左右方向とは、車両左右方向となる
図2中の左右方向を、それぞれ言う。
【0023】
より詳細には、インナ軸部材16は、鉄やアルミニウム合金等で形成された高剛性の部材であって、上面および左右両側面が略平面とされていると共に、下面が下方に凸の円弧状湾曲面とされた一定断面で直線的に延びている。また、インナ軸部材16には、略一定の円形断面で軸方向に貫通するボルト挿通孔22が形成されている。なお、インナ軸部材16の外周面は、角部を丸められており、周上に折れ線を持つことなく周方向で滑らかに連続している。
【0024】
さらに、インナ軸部材16の軸方向一方の端部には、外周側に突出する一対のインナ突出部24,24が一体形成されている。このインナ突出部24は、インナ軸部材16の周上で部分的に形成されており、本実施形態では、一対のインナ突出部24,24が左右対称に設けられて、それぞれ外周側に行くに従って次第に下傾するように突出している。更に、インナ突出部24は外周側に向かって次第に軸方向で薄肉となっており、インナ突出部24の軸方向内面が、外周側に向かって次第に軸方向外側に傾斜するテーパ面25とされている。なお、インナ突出部24の突出先端面である外周面は、周方向に広がる凸形の湾曲面とされている。また、インナ突出部24の軸方向外面は、略軸直角方向に広がる平面とされている。
【0025】
アウタ筒部材18は、インナ軸部材16と同様に高剛性の部材とされており、薄肉大径の略長円筒形状を有している。また、アウタ筒部材18の軸方向一方の端部には、外周側に突出するフランジ部26が全周に亘って連続的に一体形成されている。
【0026】
さらに、アウタ筒部材18の軸方向他方の端部には、内周側に突出する一対のアウタ突出部28,28が設けられている。アウタ突出部28は、アウタ筒部材18の軸方向他方の端部が、プレス加工で内周側に折り曲げられて形成されており、アウタ筒部材18に一体形成されている。更に、アウタ突出部28は、それぞれ1/4周に満たない長さで周方向に延びており、一対が左右対称に配置されて、周上で部分的に設けられている。なお、本実施形態では、アウタ突出部28は、略軸直角方向に広がっている。また、アウタ突出部28の突出先端面である内周面は、周方向に広がる凹形の湾曲面とされている。
【0027】
そして、インナ軸部材16にアウタ筒部材18が隙間をもって外挿されて、それらインナ軸部材16とアウタ筒部材18の間が本体ゴム弾性体20によって弾性連結されている。本体ゴム弾性体20は、厚肉大径の略筒状とされており、内周面がインナ軸部材16の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材18の内周面に加硫接着されている。更に、インナ軸部材16の軸方向一方の端部がアウタ筒部材18よりも外方に突出しており、本体ゴム弾性体20の軸方向一方の端面が、内周側に行くに従って軸方向外方に傾斜するテーパ形状とされている。なお、インナ軸部材16の軸方向他方の端面と、アウタ筒部材18の軸方向他方の端面は、互いに略同じ軸直平面上に位置している。
【0028】
また、本体ゴム弾性体20には、第一のすぐり孔30が形成されている。第一のすぐり孔30は、インナ軸部材16の上方において本体ゴム弾性体20を軸方向に貫通する孔であって、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の間を略半周に亘って周方向に延びている。なお、インナ突出部24,24を含むインナ軸部材16の上面は、本体ゴム弾性体20と一体形成された第一のゴム層31で覆われている。
【0029】
さらに、本体ゴム弾性体20には、第二のすぐり孔32が形成されている。第二のすぐり孔32は、インナ軸部材16の下方において本体ゴム弾性体20を軸方向に貫通する孔であって、第一のすぐり孔30よりも小さな周方向長さで、且つ、上方に向かって次第に周方向で狭幅となる孔断面形状をもって形成されている。なお、本実施形態の一組のすぐり孔は、第一, 第二のすぐり孔30,32で構成されており、第一, 第二のすぐり孔30,32がインナ軸部材16を挟んだ両側に形成されている。
【0030】
更にまた、第二のすぐり孔32には、ストッパゴム34が突出している。ストッパゴム34は、第二のすぐり孔32のアウタ筒部材18側の孔内面からインナ軸部材16に向かって突出しており、突出先端に向かって次第に狭幅となっていると共に、突出先端面には二つの緩衝突部36,36が一体形成されている。なお、インナ突出部24,24を含むインナ軸部材16の下面は、本体ゴム弾性体20と一体形成された第二のゴム層35で覆われており、第二のゴム層35がストッパゴム34と上下に対向している。
【0031】
このような第一のすぐり孔30と第二のすぐり孔32が本体ゴム弾性体20に形成されることにより、本体ゴム弾性体20における第一のすぐり孔30と第二のすぐり孔32の周方向間に、一対のゴム腕部38,38が設けられている。一対のゴム腕部38,38は、互いに略左右対称に設けられており、それぞれ外周側に行くに従って下傾するように延びている。そして、一対のゴム腕部38,38は、内周面がインナ軸部材16の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材18の内周面に加硫接着されており、それらインナ軸部材16とアウタ筒部材18を弾性連結している。
【0032】
ここにおいて、一対のゴム腕部38,38は、インナ軸部材16のインナ突出部24,24と、アウタ筒部材18のアウタ突出部28,28との間に配されている。そして、ゴム腕部38,38の内周端部の軸方向一方の端面が、インナ軸部材16のインナ突出部24,24のテーパ面25,25の各一方に加硫接着されていると共に、外周端部の軸方向他方の端面が、アウタ筒部材18のアウタ突出部28,28の各一方に加硫接着されている。
【0033】
すなわち、周上で部分的に設けられた一対のインナ突出部24,24の突出方向と、一対のアウタ突出部28,28の突出方向が、略同一直線上で且つ互いに逆向きとされており、インナ軸部材16におけるインナ突出部24,24の形成部分と、アウタ筒部材18におけるアウタ突出部28,28の形成部分とを繋ぐように、ゴム腕部38が延びている。換言すれば、インナ突出部24,24とアウタ突出部28,28は、何れも第一, 第二のすぐり孔30,32を周方向に外れた位置に部分的に設けられている。
【0034】
さらに、インナ突出部24とアウタ突出部28は、何れも周方向寸法がゴム腕部38の周方向寸法よりも小さくされており、ゴム腕部38から周方向に外れることなく、第一のすぐり孔30と第二のすぐり孔32の周方向間に配置されている。これにより、インナ突出部24の軸方向内面とアウタ突出部28の軸方向外面とが、何れも全面に亘ってゴム腕部38に重ね合わされて固着されている。要するに、インナ突出部24とアウタ突出部28は、周上でゴム腕部38の形成部分にだけ部分的に形成されている。
【0035】
なお、インナ軸部材16のインナ突出部24は、ゴム腕部38よりも周方向寸法が小さくされている。そして、インナ突出部24の周方向両側面が何れもゴム腕部38内に略埋設されており、それら周方向両側面を覆う状態で第一, 第二のゴム層31,35が設けられることにより、本体ゴム弾性体20の中央部分におけるゴムボリュームの確保が図られている。一方、アウタ筒部材18のアウタ突出部28は、ゴム腕部38と略同じ周方向寸法とされて、ゴム腕部38の軸方向端面の外周部分を周方向の略全長に亘って覆っている。
【0036】
また、本実施形態では、インナ突出部24とアウタ突出部28が互いに軸直角方向で離れた位置に設けられており、軸方向の投影においてインナ突出部24とアウタ突出部28が重なり合うことなく配置されている。本実施形態では、インナ突出部24の外周面とアウタ突出部28の内周面とが、それぞれ周方向に湾曲しながら広がっていることにより、同じゴム腕部38に固着されたインナ突出部24とアウタ突出部28の軸直角方向での離隔距離が、周上で略一定とされている。
【0037】
また、本体ゴム弾性体20のゴム腕部38は、軸方向外面と内面が何れも内周側に行くに従って軸方向外側に傾斜しており、
図1に示す縦断面での弾性主軸が内周側に行くに従って軸方向外方に傾斜している。更に、ゴム腕部38は、軸方向外面が内面よりも大きく傾斜していることから、内周側に向かって次第に厚肉となっている。なお、本実施形態では、ゴム腕部38の軸方向外面と内面が、それぞれ凹状の湾曲面とされていることで、自由表面が大きく確保されている。
【0038】
このような構造とされたマウント本体12は、一組が連結部材14に嵌め付けられている。連結部材14は、アウタ筒部材18の外周面に略対応する内周面形状を有する略長円筒形状とされて、金属などで形成された高剛性の部材とされている。
【0039】
そして、連結部材14の両側開口部から一組のマウント本体12,12が互いに逆向きで差し入れられて、それぞれのアウタ筒部材18が連結部材14に圧入固定されている。一組のマウント本体12,12は、連結部材14に対して、インナ軸部材16におけるインナ突出部24,24を形成された端部が、連結部材14の軸方向外側に位置すると共に、アウタ筒部材18におけるアウタ突出部28,28を形成された端部が、連結部材14の軸方向内側に位置するように、互いに逆向きに取り付けられている。
【0040】
さらに、一組のマウント本体12,12は、アウタ筒部材18の軸方向外端部に設けられたフランジ部26が連結部材14の軸方向端面に当接することによって、連結部材14に対して軸方向に位置決めされるようになっている。なお、本実施形態では、マウント本体12,12の連結部材14への装着状態において、インナ軸部材16,16の軸方向内端面同士が当接していると共に、アウタ筒部材18,18の軸方向内端面同士が当接している。尤も、例えば、インナ軸部材16,16の軸方向内端面間に隙間を設定して、後述する車両への装着時に、取付用ボルト40とナット42でインナ軸部材16,16が相互に当接するまで締め付けることにより、本体ゴム弾性体20のゴム腕部38に予圧縮が施されるようにもできる。更に、例えば、アウタ筒部材18,18の軸方向内端面間に隙間を設定すれば、アウタ筒部材18,18や連結部材14の寸法を誤差を許容して、マウント本体12,12の連結部材14への高精度な組み付けを実現できる。
【0041】
そして、各インナ軸部材16の軸方向外端面に図示しないパワーユニットに固設された取付部材39が重ね合わされて、取付部材39のボルト孔とインナ軸部材16,16のボルト挿通孔22に取付用ボルト40が挿通されると共に、ナット42が締結されることにより、インナ軸部材16がパワーユニットに取り付けられるようになっている。また、アウタ筒部材18は、連結部材14を介して図示しない車両ボデーに取り付けられるようになっている。
【0042】
かかる車両への装着状態において、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の間に上下方向の振動が入力されると、第一, 第二のすぐり孔30,32が形成されて、本体ゴム弾性体20のばね定数が小さく設定されていることから、低動ばね化による振動絶縁効果が有効に発揮される。
【0043】
本実施形態では、インナ軸部材16とアウタ筒部材18が、第一のゴム層31を介して当接することで、インナ軸部材16のアウタ筒部材18に対する上方への相対変位量を制限するリバウンドストッパが構成される。一方、インナ軸部材16とアウタ筒部材18がストッパゴム34および第二のゴム層35を介して当接することで、インナ軸部材16のアウタ筒部材18に対する下方への相対変位量を制限するバウンドストッパが構成される。これらによって、上下方向の荷重入力時に、ゴム腕部38,38の過大な変形による損傷が防止されている。また、第一, 第二のゴム層31,35およびストッパゴム34によって、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の当接時の衝撃や打音が低減されている。特に、ストッパゴム34の先端に緩衝突部36,36が形成されていることで、打音などがより効果的に低減されている。
【0044】
また、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の間に左右方向へのロール荷重が入力されると、本体ゴム弾性体20の一対のゴム腕部38,38が選択的にインナ軸部材16とアウタ筒部材18の間で圧縮されることから、圧縮ばね成分による大きなばね定数によって、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の相対変位量が有効に制限されて、パワーユニットの左右への振れ(ロール変位)を低減することによる走行安定性の向上などが図られる。特に本実施形態では、インナ突出部24の軸方向内端面がテーパ面25とされていることから、左右方向の入力に対してゴム腕部38,38がより広い範囲で圧縮されて、硬いばねがより効率的に実現される。
【0045】
また、自動車の加減速などによって、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の間に軸方向の荷重が入力されると、本体ゴム弾性体20の一対のゴム腕部38,38が、インナ軸部材16とアウタ筒部材18の間で剪断変形すると共に、インナ突出部24とアウタ突出部28の間で圧縮されるようになっている。エンジンマウント10は、互いに同一構造で逆向きに配設された一組のマウント本体12,12を有することから、入力荷重の向きに応じて一組のマウント本体12,12の何れか一方の本体ゴム弾性体20が選択的に圧縮されるようになっている。このように、エンジンマウント10では、軸方向の入力に対して、本体ゴム弾性体20に剪断変形だけでなく圧縮変形も同時に生じることにより、軸方向のばね定数が大きく設定されており、パワーユニットの前後への振れが低減されて、加減速時の車両のピッチングなどが有利に防止される。
【0046】
また、本体ゴム弾性体20のゴム腕部38が、インナ軸部材16の軸方向外端部に設けられたインナ突出部24と、アウタ筒部材18の軸方向内端部に設けられたアウタ突出部28とを、繋ぐように設けられていることから、ゴム腕部38の自由長が大きく確保されて、ゴム腕部38の耐久性の向上が図られる。しかも、ゴム腕部38の自由長を大きく確保するためにマウント本体12の軸方向寸法を大きくする必要もなく、コンパクトな構造によって耐久性の効率的な向上が実現される。
【0047】
また、インナ突出部24とアウタ突出部28が軸直角方向で互いに離れた位置に配置されていることから、軸方向荷重の入力時にゴム腕部38の圧縮ばね成分が大きくなり過ぎることによる著しい高動ばね化が回避される。加えて、インナ突出部24とアウタ突出部28を繋ぐゴム腕部38が、軸方向に対して傾斜して延びる形状とされることから、ゴム腕部38の自由長を効率的に大きく得ることができて、耐久性がより有利に確保される。
【0048】
また、インナ突出部24とアウタ突出部28が、ゴム腕部38の形成部分だけに周上で部分的に設けられている。これにより、軸方向入力に対してゴム腕部38の圧縮変形を有効に生ぜしめつつ、周上でゴム腕部38を外れた部分では、突出部24,28を設けることによる大径化が防止されている。
【0049】
また、本実施形態では、一対のゴム腕部38,38がそれぞれ左右外側に行くに従って次第に下傾するハの字形状で延びている。それ故、パワーユニットの分担支持荷重が一対のゴム腕部38,38に圧縮荷重として作用するようになっていると共に、一対のゴム腕部38,38の圧縮ばねによりパワーユニットの左右方向への振れや位置ずれが低減されて、安定した支持が実現される。
【0050】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、インナ突出部24は、インナ軸部材16に一体で設けられている必要はなく、一定断面で延びるインナ軸部材の軸方向端面に、軸直角方向に広がる別体の板金具を重ね合わせて固定することで、インナ突出部を別体の板金具によって構成することもできる。同様に、アウタ突出部28は、アウタ筒部材18に一体形成されている必要はなく、別体でも良い。
【0051】
また、インナ軸部材16におけるインナ突出部24を軸方向に外れた部分の形状は、特に限定されず、例えば円筒形状でも良い。同様に、アウタ筒部材18におけるアウタ突出部28を軸方向に外れた部分の形状は、例えば、円筒形状なども採用され得る。
【0052】
インナ突出部24の軸方向内面は、テーパ面に限定されず、例えば、略軸直角方向に広がる平面であっても良い。
【0053】
また、インナ突出部24とアウタ突出部28は、軸方向投影において、互いに重なり合うように配置されていても良い。これによれば、軸方向入力に対して、インナ突出部24とアウタ突出部28の間に配されたゴム腕部38において、圧縮ばね成分がより支配的に作用することから、軸方向のばねをより大きく設定し易くなる。
【0054】
また、第一のすぐり孔30および第二のすぐり孔32の軸方向視での形状は、前記実施形態の形状には限定されず、例えば、第一のすぐり孔と第二のすぐり孔が互いに略同一形状でも良い。なお、このことからも明らかなように、一対のゴム腕部38,38の形状も適宜に変更され得る。