特許第6182079号(P6182079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182079
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】内燃機関の動弁機構
(51)【国際特許分類】
   F01L 13/08 20060101AFI20170807BHJP
   F01L 1/18 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   F01L13/08 F
   F01L1/18 H
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-7248(P2014-7248)
(22)【出願日】2014年1月17日
(65)【公開番号】特開2015-135089(P2015-135089A)
(43)【公開日】2015年7月27日
【審査請求日】2016年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 憲
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 実開平02−087913(JP,U)
【文献】 特開2000−186518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/00− 1/32
F01L 1/36− 1/46
F01L 1/34− 1/356
F01L 9/00− 9/04
F01L 13/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム(9)に駆動されて、バルブ(6)をリフトする側のリフト方向とその反対の戻り方向とに揺動する揺動部材(10)を備えた動弁機構において、
所定時には、揺動部材(10)の揺動を、リフト方向に揺動した後の戻り方向に揺動する途中で邪魔することで、バルブ(6)のリフト量(L)を所定量(Lp)未満には減少しないようにしてバルブ(6)の開放を維持する開放維持装置(30,40)を備え
揺動部材(10)は、カム(9)に駆動されて揺動する揺動部材本体(13)と、
揺動部材本体(13)と共にリフト方向に揺動することでバルブ(6)をリフトし、かつ、前記所定時には開放維持装置(30,40)に揺動を前記途中で邪魔されるパッド部材(18)とを含み構成され、
揺動部材本体(13)とパッド部材(18)とは、前記所定時に揺動部材本体(13)が常にカム(9)のプロフィール(P)通りに揺動できる範囲で相対移動可能に連結されたことを特徴とする内燃機関の動弁機構。
【請求項2】
カム(9)に駆動されて、バルブ(6)をリフトする側のリフト方向とその反対の戻り方向とに揺動する揺動部材(10)を備えた動弁機構において、
所定時には、揺動部材(10)の揺動を、リフト方向に揺動した後の戻り方向に揺動する途中で邪魔することで、バルブ(6)のリフト量(L)を所定量(Lp)未満には減少しないようにしてバルブ(6)の開放を維持する開放維持装置(30,40)を備え、
開放維持装置(30,40)は、揺動部材(10)の揺動を前記途中で邪魔しない非作用位置と、邪魔する作用位置とに移動可能に設けられた可動部材(31,41)と、
可動部材(31,41)を、前記所定時以外の通常時には非作用位置に配し、前記所定時には作用位置に配するアクチュエータ(35)とを含み構成され、
可動部材(31)の非作用位置から作用位置への移動は、前記リフト量が前記所定量(Lp)以上のタイミングで行い、前記所定量(Lp)未満のタイミングでは行わないことを特徴とする内燃機関の動弁機構。
【請求項3】
開放維持装置(30,40)は、揺動部材(10)の揺動を前記途中で邪魔しない非作用位置と、邪魔する作用位置とに移動可能に設けられた可動部材(31,41)と、
可動部材(31,41)を、前記所定時以外の通常時には非作用位置に配し、前記所定時には作用位置に配するアクチュエータ(35)とを含み構成された請求項記載の内燃機関の動弁機構。
【請求項4】
可動部材(31)の非作用位置から作用位置への移動は、前記リフト量が前記所定量(Lp)以上のタイミングで行い、前記所定量(Lp)未満のタイミングでは行わない請求項3記載の内燃機関の動弁機構。
【請求項5】
非作用位置よりもリフト方向側に作用位置が設けられ、
可動部材(31)の非作用位置から作用位置への移動は、前記リフト量が前記所定量(Lp)未満のタイミングでは、可動部材(41)で揺動部材(10)をリフト方向に押し込みつつ行う請求項3記載の内燃機関の動弁機構。
【請求項6】
前記所定時は、内燃機関の始動時を含む請求項1〜5のいずれか一項に記載の内燃機関の動弁機構。
【請求項7】
前記所定時は、内燃機関の減速時を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の内燃機関の動弁機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
内燃機関のバルブを駆動する動弁機構に関する。
【背景技術】
【0002】
動弁機構の中には、特許文献1〜3に記載された可変動弁機構のように、カムに駆動されて揺動する揺動部材と、揺動部材の揺動開始位置をリフト方向に変更することでバルブのリフト量を増大させ、戻り方向に変更することでバルブのリフト量を減少させる可変装置とを備えたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−371816号公報
【特許文献2】特開2002−371819号公報
【特許文献3】特開2003−106123号公報
【特許文献4】実開05−89816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の可変動弁機構によれば、内燃機関の運転状況に応じてバルブのリフト量を変更することができる。しかしながら、次に示す課題は、解決することができない。
【0005】
すなわち、吸気及び排気の両方のバルブが閉じた状態でエンジン(内燃機関)停止した気筒では、気筒内が密閉されるので、次にエンジンをモータで回転させる始動時に、気筒内での圧縮抵抗や膨張抵抗が大きくなる。
【0006】
特に、4気筒のエンジンでは、2気筒が下死点で停止し、他の2気筒が上死点で停止することで、4気筒全てで両方のバルブが閉じた状態でエンジンが停止することもある。この場合、次にエンジンをモータで回転させる始動時には、下死点で停止していた2気筒では、バルブから排気されることなく気筒内の空間が縮小することで圧縮抵抗が大きくなり、上死点で停止していた他の2気筒では、バルブから吸気されることなく気筒内の空間が拡大することで膨張抵抗が大きくなる。そのため、エンジンの始動時にモータで加えるべき負荷が大きくなってしまう。
【0007】
また、それ以外にも、複数気筒のエンジンにおいて、いくつかの気筒で両方のバルブが閉じた状態(圧縮行程や膨張行程や上死点や下死点等)でエンジン停止することで、エンジンの始動時にモータで加えるべき負荷が大きくなってしまう。
【0008】
そして、特に、ハイブリッドエンジンやアイドルストップ等を行うエンジンでは、エンジンを始動する頻度が多いため、その都度、モータで多くの電流(電力)を消費してしまう。そのため、燃費悪化につながる。
【0009】
また、エンジンの始動時以外でも、例えば、エンジンの回転数を落とす減速時には、内燃機関の4行程のうちの圧縮行程及び膨張行程の2行程で両方のバルブが閉じることで、圧縮抵抗や膨張抵抗が大きくなるおそれがある。そのため、エンジンブレーキが大きくなり、燃費悪化につながるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明者は、図12に示す参考例のように、内燃機関の始動時や減速時等の所定時には、揺動部材の揺動開始位置を通常時よりもリフト方向側に変更してバルブのリフト量を通常時よりも全体的に大きくすることで、前記所定時には、常にバルブを開放すること(すなわち、常時開放状態にすること)を考えた。この場合、前記所定時には、気筒内での圧縮抵抗や膨張抵抗を低減することができる。しかしながら、その際には、バルブのリフト量が全体的に大きくなるので、リフト負荷も全体的に増加して、それにより、上記の圧縮抵抗や膨張抵抗の低減による負荷の低減が若干妨げられてしまう。
【0011】
なお、このように、バルブのリフト量を全体的に大きくすることでバルブの開放を維持することを示した文献としては、特許文献4がある。但し、その目的は、デコンプ式ブレーキの効果を最大限生かすことであり、上記の参考例での目的とは異なる。
【0012】
そこで、エンジンの始動時や減速時等の所定時には、バルブのリフト量を全体的には増加させることなく、すなわち、リフト負荷を全体的には増加させることはなく、バルブの開放を維持する、すなわち、気筒内での圧縮抵抗や膨張抵抗を低減することで、負荷を効率良く低減することを目的とする。さらに、第一発明では、前記所定時に揺動部材とカムの間に隙間が常時できないようにすることも目的とする。また、第二発明では、後述する非作用位置を、作用位置の戻り方向側に限らず、任意の位置に設定できるようにすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するため、第一発明の動弁機構は、カムに駆動されて、バルブをリフトする側のリフト方向とその反対の戻り方向とに揺動する揺動部材を備えた動弁機構において、所定時には、揺動部材の揺動を、リフト方向に揺動した後の戻り方向に揺動する途中で邪魔することで、バルブのリフト量を所定量未満には減少しないようにしてバルブの開放を維持する開放維持装置を備え、揺動部材は、カムに駆動されて揺動する揺動部材本体と、揺動部材本体と共にリフト方向に揺動することでバルブをリフトし、かつ、前記所定時には開放維持装置に揺動を前記途中で邪魔されるパッド部材とを含み構成され、揺動部材本体とパッド部材とは、前記所定時に揺動部材本体が常にカムのプロフィール通りに揺動できる範囲で相対移動可能に連結されたことを特徴とする。
また、第二発明の動弁機構は、カムに駆動されて、バルブをリフトする側のリフト方向とその反対の戻り方向とに揺動する揺動部材を備えた動弁機構において、所定時には、揺動部材の揺動を、リフト方向に揺動した後の戻り方向に揺動する途中で邪魔することで、バルブのリフト量を所定量未満には減少しないようにしてバルブの開放を維持する開放維持装置を備え、開放維持装置は、揺動部材の揺動を前記途中で邪魔しない非作用位置と、邪魔する作用位置とに移動可能に設けられた可動部材と、可動部材を、前記所定時以外の通常時には非作用位置に配し、前記所定時には作用位置に配するアクチュエータとを含み構成され、可動部材の非作用位置から作用位置への移動は、前記リフト量が前記所定量以上のタイミングで行い、前記所定量未満のタイミングでは行わないことを特徴とする。
【0014】
前記所定時は、特に限定されないが、次の(a)(b)の態様を例示する。
(a)前記所定時は、内燃機関の始動時を含む態様。
(b)前記所定時は、内燃機関の減速時を含む態様。
【0015】
この動弁機構は、排気用のバルブに対して設置すること(すなわち、前記バルブは、排気用のバルブであること)が好ましいが、吸気用のバルブに対して設置しても(すなわち、前記バルブは、吸気用のバルブであっても)よい。また、この動弁機構は、吸気用又は排気用のいずれか一方のバルブに対して設置すれば効果が得られるが、より効果を高める目的で、両方のバルブに対してそれぞれ設置してもよい。
【0016】
[カム]
カムは、特に限定されないが、次の(a)(b)の態様を例示する。
(a)カムは、内燃機関の回転に従い回転する回転カムである態様。
(b)カムは、内燃機関の回転に従い回転する回転カムに駆動されて揺動する揺動カムである態様。
【0017】
[揺動部材]
第二発明において、揺動部材は、特に限定されないが、前記所定時に、揺動部材とカムの間に隙間が常時できないように、次のように構成されていることが好ましい。すなわち、揺動部材は、カムに駆動されて揺動する揺動部材本体と、揺動部材本体と共にリフト方向に揺動することでバルブをリフトし、かつ、前記所定時には開放維持装置に揺動を前記途中で邪魔されるパッド部材とを含み構成され、揺動部材本体とパッド部材とは、前記所定時に揺動部材本体が常にカムのプロフィール通りに揺動できる範囲で相対移動可能に連結されていることである。
【0018】
ここで、及び第一発明で、揺動部材本体とパッド部材との連結は、特に限定されないが、次の(a)(b)の態様を例示する。
(a)揺動部材本体とパッド部材とは、回動方向に相対移動可能に連結された態様。
(b)揺動部材本体とパッド部材とは、直線方向に相対移動可能に連結された態様。
【0019】
[開放維持装置]
第一発明において、開放維持装置は、特に限定されないが、次の態様を例示する。すなわち、開放維持装置は、揺動部材の揺動を前記途中で邪魔しない非作用位置と、邪魔する作用位置とに移動可能に設けられた可動部材と、可動部材を、前記所定時以外の通常時には非作用位置に配し、前記所定時には作用位置に配するアクチュエータとを含み構成された態様である。
【0020】
可動部材が移動する方向は、特に限定されないが、次の(a)(b)の態様を例示する。
(a)可動部材は、直線方向に移動可能に設けられ、前記直線方向の一方側が非作用位置であり、他方側が作用位置である態様。
(b)可動部材は、回動方向に移動可能に設けられ、前記回動方向の一方側が非作用位置であり、他方側が作用位置である態様。
【0021】
第一発明において、可動部材の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、特に限定されないが、次の(a)(b)の態様を例示する。
(a)可動部材の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、前記リフト量が前記所定量以上のタイミングで行い、前記所定量未満のタイミングでは行わない態様。
(b)非作用位置よりもリフト方向側に作用位置が設けられ、可動部材の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、前記リフト量が前記所定量未満のタイミングでは、可動部材で揺動部材をリフト方向に押し込みつつ行う態様。
【0022】
また、可動部材の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、特に限定されないが、次の(a)(b)の態様を例示する。
(a)可動部材の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、前記リフト量が前記所定量よりも大きいタイミングで行い、前記所定量のタイミング(すなわち、揺動部材の揺動が前記途中で邪魔されているタイミング)では行わない態様。
(b)作用位置よりも戻り方向側に非作用位置が設けられ、可動部材の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、前記リフト量が前記所定量のタイミング(すなわち、揺動部材の揺動が前記途中で邪魔されているタイミング)で行われる場合、可動部材の前記移動(帰り)に伴い揺動部材が戻り方向に移動する態様。
【0023】
アクチュエータは、特に限定されないが、電磁ソレノイドや、油圧シリンダや、空圧シリンダや、モータ等を有するものを例示する。
【発明の効果】
【0024】
第一及び第二発明によれば、前記所定時には、開放維持装置で揺動部材の揺動を前記途中で邪魔することで、バルブのリフト量を全体的には増加させることなく、すなわち、リフト負荷を全体的には増加させることなく、バルブの開放を維持する、すなわち、気筒内での圧縮抵抗や膨張抵抗を低減することができる。そのため、前記所定時には、負荷を効率良く低減することができる。さらに、第一発明によれば、前記所定時に揺動部材とカムの間に隙間が常時できないようにすることもできる。また、第二発明によれば、非作用位置を、作用位置の戻り方向側に限らず、任意の位置に設定することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の動弁機構を示す側面図である。
図2】実施例1の動弁機構の揺動部材を示す、(a)は左前の斜め上からみた斜視図、(b)は左前の斜め下から見た斜視図である。
図3】実施例1の動弁機構の揺動部材を示す、(a)は平面図、(b)は背面図、(c)は側面図、(d)は正面図、(e)は底面図である。
図4】実施例1の動弁機構の通常時において、(a)は揺動部材がリフト方向に揺動したときを示す側面断面図、(b)は揺動部材が戻り方向に揺動したときを示す側面断面図である。
図5】実施例1の動弁機構の所定時において、(a)は揺動部材がリフト方向に揺動したときを示す側面断面図、(b)は揺動部材が戻り方向に揺動したときを示す側面断面図である。
図6】実施例1の動弁機構が通常時の状態から所定時の状態に切り換わる際を(a)〜(c)に示す側面断面図である。
図7】実施例1の動弁機構において、内燃機関の回転角度とバルブのリフト量との関係を示すグラフである。
図8】実施例2の動弁機構を示す斜視図である。
図9】実施例2の動弁機構の通常時において、(a)は揺動部材がリフト方向に揺動したときを示す側面断面図、(b)は揺動部材が戻り方向に揺動したときを示す側面断面図である。
図10】実施例2の動弁機構の所定時において、(a)は揺動部材がリフト方向に揺動したときを示す側面断面図、(b)は揺動部材が戻り方向に揺動したときを示す側面断面図である。
図11】実施例2の動弁機構が通常時の状態から所定時の状態に切り換わる際を(a)(b)に示す側面断面図である。
図12】参考例の可変動弁機構において、内燃機関の回転角度とバルブのリフト量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の動弁機構を図面を参照に説明する。
【実施例1】
【0027】
図1図7に示す本実施例1の動弁機構1は、排気用のバルブ6に対して設置されている。なお、そのバルブ6に対しては、バルブ6を閉じる方向に付勢するバルブスプリング(図示略)が設けられている。
【0028】
この動弁機構1は、カム9に駆動されて、バルブ6をリフトする側のリフト方向とその反対の戻り方向とに揺動する揺動部材10を備えている。そして、更に、内燃機関の始動時や減速時等を含む所定時には、揺動部材10の揺動を、リフト方向に揺動した後の戻り方向に揺動する途中で邪魔することで、バルブ6のリフト量Lを所定量Lp未満には減少しないようにしてバルブ6の開放を維持する開放維持装置30を備えている。詳しくは、この動弁機構1は、次に示す、カム9と、揺動部材10と、ラッシュアジャスタ20と、開放維持装置30とを含み構成されている。
【0029】
[カム9]
カム9は、内燃機関の回転に従い回転するカムシャフト8に設けられており、カムシャフト8と共に回転する。このカム9は、断面形状が円形のベース円9aと、ベース円9aから突出したノーズ9bとから構成されている。そして、このカム9の外周面に、揺動部材10を駆動してバルブ6を駆動するためのプロフィールP(カムプロフィール)が設けられている。
【0030】
[揺動部材10]
揺動部材10は、カム9に駆動されて揺動する揺動部材本体13と、揺動部材本体13と共にリフト方向に揺動することでバルブ6をリフトし、かつ、前記所定時には開放維持装置30に揺動を前記途中で邪魔されるパッド部材18とを含み構成されている。そして、揺動部材本体13とパッド部材18とは、前記所定時に揺動部材本体13が常にカム9のプロフィールP通りに揺動できる範囲で相対移動可能に連結されている。
【0031】
詳しくは、揺動部材本体13は、ラッシュアジャスタ20に揺動可能に支持されいる。また、この揺動部材本体13は、支持軸12を介してローラ状のカムフォロア11を回動可能に支持しており、そのカムフォロア11の外周面がカム9のプロフィールPに当接している。そして、揺動部材本体13とパッド部材18とは、連結軸17を介して相対回動可能に連結されている。
【0032】
そして、揺動部材本体13は、パッド部材18よりも戻り方向側にストッパ14を備え、このストッパ14がパッド部材18に戻り方向側から当接することで、揺動部材本体13に対してパッド部材18が所定角度以上戻り方向側に相対回動するのを防止している。そして、揺動部材本体13に対しては、揺動部材本体13を戻り方向に付勢するロストモーションスプリング(図示略)が設けられている。そのロストモーションスプリング(図示略)は、前記所定時に、揺動部材本体13をカム9のプロフィールPに追従させて戻り方向に揺動させる。
【0033】
[ラッシュアジャスタ20]
ラッシュアジャスタ20は、有底筒状のボディ21と、下部がボディ21に挿入されて上端部で揺動部材本体13を支持したプランジャ25とを備えている。そして、カムフォロア11とカム9との間にクリアランスが発生すると、ボディ21からプランジャ25が繰り出すことでクリアランスを埋める。また、揺動部材本体13からプランジャ25に下方に負荷が加わるとボディ21にプランジャ25が退入する。
【0034】
詳しくは、プランジャ25の退入時には、ボディ21の内部にある高圧油室22内の油がプランジャ25の内部にある低圧油室26にリーク路23からリークすることで流動抵抗が生じる。そのため、ボディ21にプランジャ25が徐々にゆっくりと退入する。また、プランジャ25の繰出し時には、ボディ21の内部にあるバネ(図示略)の復元力でボディ21からプランジャ25が繰り出される。このとき、低圧油室26の油は高圧油室22にリーク路23よりも広くて逆止弁28のついた流路27から流れ込む。そのため、プランジャ25の退入時ほどの流動抵抗は生じず、ボディ21からプランジャ25が速やかに繰り出す。
【0035】
[開放維持装置30]
開放維持装置30は、次に示す可動部材31と、アクチュエータ35とを含み構成されている。
【0036】
可動部材31は、揺動部材10の揺動を前記途中で邪魔しない非作用位置と、邪魔する作用位置とに移動可能に設けられている。詳しくは、その可動部材31は、直線方向に移動可能に設けられており、その直線方向の一方側が非作用位置であり、他方側が作用位置である。そして、所定時には、作用位置に配された可動部材31が揺動部材10に戻り方向側から当接することで、揺動部材10の揺動を邪魔する。
【0037】
アクチュエータ35は、電磁ソレノイドを有し、その電磁ソレノイドで可動部材31を直線方向に移動させる。
【0038】
すなわち、このアクチュエータ35は、前記通常時には、図4に示すように、可動部材31を非作用位置に配することで、バルブ6の駆動状態を通常状態にする。その通常状態では、図4(a)に示すように、ノーズ区間(カム9のノーズ9bがカムフォロア11に当接する区間)ではバルブ6をリフトし、図4(b)に示すように、ベース円区間(カム9のベース円9aがカムフォロア11に当接する区間)ではバルブ6を開放しない。
【0039】
その一方、このアクチュエータ35は、前記所定時には、図5に示すように、可動部材31を作用位置に配することで、バルブ6の駆動状態を開放維持状態にする。その開放維持状態では、図5(a)に示すように、ノーズ区間でバルブ6をリフトし、図5(b)に示すように、ベース円区間でもバルブ6の開放を維持する。
【0040】
詳しくは、可動部材31の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp以上のタイミングで行い、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp未満のタイミングでは行わない。具体的には、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp以上のタイミングに、図6(a)に示すように、アクチュエータ35で可動部材31を非作用位置から作用位置に移動させる。よって、図6(b)に示すように、揺動部材10が戻り方向に揺動したときには、そのパッド部材18が可動部材31に当接する。そして、当接した後には、揺動部材本体13がロストモーションスプリング(図示略)に付勢されることで、図6(c)に示すように、揺動部材本体13がカム9のプロフィールPに追従して戻り方向に揺動する。
【0041】
また、可動部材31の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpよりも大きいタイミング、すなわち、パッド部材18が可動部材31に当接していないタイミングで行い、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpのタイミング、すなわち、パッド部材18が可動部材31に当接しているタイミングでは行わない。具体的には、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpよりも大きいタイミングに、アクチュエータ35で可動部材31を作用位置から非作用位置に移動させる。それにより、揺動部材10が戻り方向に揺動したときには、そのパッド部材18が可動部材31に当接しなくなり、バルブ6が閉じるようになる。
【0042】
本実施例1によれば、次の[A]〜[E]の効果を得ることができる。
【0043】
[A]前記所定時には、開放維持装置30で揺動部材10の揺動を前記途中で邪魔することで、バルブ6のリフト量をノーズ区間では増加させることなくベース円区間で増加させるのみで(すなわち、ノーズ区間でのリフト負荷を増加させることなく)、バルブ6の開放を維持する(すなわち、気筒内での圧縮抵抗や膨張抵抗を低減する)ことができる。そのため、前記所定時には、負荷を効率良く低減することができる。
【0044】
[B]前記所定時にも、揺動部材本体13は常にカム9のプロフィール通りに揺動するため、カム9とカムフォロア11との間に隙間ができる心配はない。そのため、その隙間により衝撃や摩耗が生じるといった心配や、その隙間により、ラッシュアジャスタ20のボディ21からプランジャ25が繰り出されるといった心配はない。
【0045】
[C]本実施例1の動弁機構1は、量産品の動弁機構の揺動部材(ロッカアーム)を上記の揺動部材10に置き換えるとともに、上記の開放維持装置30を付け加えるだけで実施可能なので、実施し易い。
【0046】
[D]可動部材31の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp以上のタイミングで行い、前記所定量Lp未満のタイミングでは行わないので、可動部材31のその移動(行き)が、揺動部材10によって邪魔されることがない。そのため、次に示す実施例2とは違い、非作用位置を、作用位置の戻り方向側に限らず、任意の位置に設定することができる。
【0047】
[E]可動部材31の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpよりも大きいタイミング、すならち、パッド部材18が可動部材31に当接していないタイミングで行い、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpのタイミング、すなわち、パッド部材18が可動部材31に当接しているタイミングでは行わないので、可動部材31とパッド部材18との間に摩擦が生じて抵抗や摩耗が大きくなるといった心配や、可動部材31が移動してパッド部材18から離れた瞬間にパッド部材18がバルブスプリング(図示略)の付勢力で戻り方向に勢いよく跳ね上がり、衝撃や摩耗等が生じるといった心配がない。
【実施例2】
【0048】
図8図11に示す本実施例2の動弁機構2は、実施例1で示した開放維持装置30の代わりに、次に示す開放維持装置40を備えている点で相違し、その他の点で同様である。
【0049】
[開放維持装置40]
その開放維持装置40は、実施例1で示した可動部材31及びアクチュエータ35の代わりに、次に示す可動部材41及びアクチュエータ(図示略)を備えている点で相違し、その他の点で同様である。
【0050】
可動部材41は、回動方向に移動可能に設けられており、その回動方向の一方側(戻り方向側)が非作用位置であり、他方側(リフト方向側)が作用位置である。
【0051】
アクチュエータ(図示略)は、電磁ソレノイドを有し、その電磁ソレノイドで可動部材41を回動方向に移動させる。すなわち、このアクチュエータ(図示略)は、前記通常時には、図9に示すように、可動部材41を非作用位置に配することで、バルブ6の駆動状態を通常状態にする。その一方、前記所定時には、図10に示すように、可動部材41を作用位置に配することで、バルブ6の駆動状態を開放維持状態にする。
【0052】
詳しくは、可動部材41の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、次のように任意のタイミングで行う。すなわち、可動部材41のその移動(行き)のタイミングに、図11(a)に示すように、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp未満の場合(図はリフト量が零の場合)には、可動部材41のその移動(行き)は、図11(b)に示すように、可動部材41で揺動部材10をリフト方向に押し込みつつ行う。これにより、バルブ6が強制的に開放される。その一方、可動部材41のその移動(行き)のタイミングに、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp以上の場合には、可動部材41のその移動(行き)は、可動部材41で揺動部材10をリフト方向に押し込むことなく行う。
【0053】
また、可動部材41の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、次のように任意のタイミングで行う。すなわち、可動部材41のその移動(帰り)のタイミングに、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpの場合、すなわち、パッド部材18が可動部材41に当接している場合には、可動部材41のその移動(帰り)に追従して、揺動部材10も戻り方向側にバルブスプリング(図示略)の付勢力で移動する。これにより、バルブ6が閉じる。その一方、可動部材41のその移動(帰り)のタイミングに、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpよりも大きい場合、すなわち、パッド部材18が可動部材41に当接していない場合には、可動部材41のその移動(帰り)は、揺動部材10とは別に単独で行われる。
【0054】
本実施例2によれば、次の実施例1で記載した[A]〜[C]の効果に加え、次の[F][G]の効果を得ることができる。
【0055】
[F]非作用位置よりもリフト方向側に作用位置があるので、可動部材31の非作用位置から作用位置への移動(行き)は、バルブ6のリフト量が前記所定量Lp未満のタイミングで行っても、上記の通り、可動部材41が揺動部材10をリフト方向に押し込むだけで、その移動(行き)が揺動部材10によって邪魔されることはない。よって、可動部材41のその移動(行き)は、実施例1とは違い、任意のタイミングで行うことができる。
【0056】
[G]作用位置よりも戻り方向側に非作用位置があるので、可動部材31の作用位置から非作用位置への移動(帰り)は、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpのタイミング、すなわち、パッド部材18が可動部材41に当接しているタイミングで行っても、上記の通り、可動部材41のその移動(帰り)に追従して揺動部材10が戻り方向に移動するだけで、摩擦や衝撃等は生じない。よって、可動部材41のその移動(帰り)も、実施例1とは違い、任意のタイミングで行うことができる。
【0057】
なお、本発明は前記実施例の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもでき、例えば、次の変更例1〜4のように変更していもよい。
[変更例1]実施例1,2の動弁機構1,2を、吸気用のバルブに対して設置してもよい。
[変更例2]実施例1,2の揺動部材10に対して、バルブ6のリフト量を変更する可変装置を設けてもよい。
[変更例3]実施例2の可動部材41の非作用位置から作用位置への移動(行き)を、ベース円区間のタイミングでのみ行うようにしてもよい。
[変更例4]実施例2の可動部材41の作用位置から非作用位置への移動(帰り)を、バルブ6のリフト量が前記所定量Lpよりも大きいタイミングでのみ、すなわち、パッド部材18が可動部材41に当接していないタイミングでのみ行うようにしてもよい。
【0058】
1 可変動弁機構(実施例1)
2 可変動弁機構(実施例2)
6 バルブ
9 カム
10 揺動部材
13 揺動部材本体
18 リフト部材
30 開放維持装置(実施例1)
31 可動部材
35 アクチュエータ
40 開放維持装置(実施例2)
41 可動部材
L リフト量
Lp 所定量
P カムのプロフィール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12