(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
図1〜
図6を参照して、本実施形態による塗抹標本作製装置100の構成について説明する。
【0011】
[塗抹標本作製装置の概要]
塗抹標本作製装置100は、検体が塗抹された標本用のスライドガラス10に対して、検体を塗抹する塗抹処理と、検体が塗抹されたスライドガラス10の染色処理とを施し、塗抹標本の作成を自動的に行うための装置である。検体は、たとえば血液である。
【0012】
図1に示すように、塗抹標本作製装置100は、染色槽20と、移送部30とを備える。
【0013】
染色槽20は、容器形状に形成され、内部に検体が塗抹されたスライドガラス10を浸せるように染色液11を溜められる。染色槽20は、容器形状に形成され、内部に染色液11を溜められる。また、染色槽20は、スライドガラス10を保持するように構成された第1保持部21を複数含む。第1保持部21は、スライドガラス10を挿入するための挿入領域12を形成している。染色槽20内で第1保持部21に保持されたスライドガラス10を染色液11に所定時間浸しておくことにより、染色処理が行われる。
【0014】
挿入領域12を形成するための複数の第1保持部21の構成については、様々な構成が採用できる。たとえば、複数の第1保持部21は、
図1に示すように互いに所定方向に間隔を隔てて配列される部材であってよい。この場合、隣接する第1保持部21の間に挿入領域12を形成できる。この他、第1保持部21は、たとえばスライドガラス10を挿入できるスリット状の第1保持部を設けた板部材(図示せず)を、染色槽20内の所定の高さ位置に水平に配置することにより構成してもよい。この場合、スリット状の第1保持部内に挿入領域12を形成できる。第1保持部21の数は、複数であればよく、装置構成に応じて設定すればよい。
【0015】
移送部30は、検体が塗抹されたスライドガラス10を掴んで移送するために設けられている。移送部30は、染色槽20の複数の第1保持部21に対してスライドガラス10を1枚ずつ出し入れするように構成されている。つまり、移送部30は、第1保持部21の挿入領域12内にスライドガラス10を1枚ずつセットできる。
【0016】
各第1保持部21に対してスライドガラス10を1枚ずつ出し入れするための移送部30の構成についても、様々な構成が採用できる。たとえば、
図1に示したように、移送部30は、水平方向および上下方向(Z方向)に移動可能で、スライドガラス10を把持するためのハンド31を含む3軸直交ロボットである。移送部30が水平方向および上下方向の一方にのみ移動でき、染色槽20が水平方向および上下方向の他方に移動できてもよい。ハンド31は、たとえば、スライドガラス10を挟んで掴むことができる開閉機構や、スライドガラス10の所定部位を吸着して掴むような吸引機構などであってもよい。
【0017】
以上の構成により、染色液11を溜めた染色槽20の第1保持部21に対して、移送部30がスライドガラス10を1枚ずつセットすることによって、スライドガラス10の染色処理ができる。これにより、個々のスライドガラス10の準備ができた時点で1枚ずつ速やかに染色処理が開始できる。このため、染色籠にセットした複数のスライドガラスをまとめて染色する構成とは異なり、複数のスライドガラス10が染色籠に貯まるまで染色動作の開始を待つ必要がない。その結果、染色処理に要する時間の短縮ができる。
【0018】
複数の第1保持部21は、染色液11を共用しているため、一つのスライドガラスを収容するスライド容器を用いて染色する場合と比べて、染色および洗浄工程を簡素化することができる。なぜならば、一つのスライドガラスを収容するスライド容器を用いて染色する場合は、一つのスライドガラスを染色するごとにスライド容器の洗浄を行う必要があり、染色液および洗浄液の注入、排出を都度行う必要がある。しかしながら、本実施形態の場合、複数の第1保持部21に保持された複数のスライドガラスは染色液11を共用して用いているため、染色液および洗浄液の注入、排出をスライドの染色ごとに行う必要がなく工程を簡略化することができる。また、一つのスライドガラスを収容するスライド容器を用いて染色する場合は、本実施形態の染色槽20と比較して小さなスライド容器に対して少量の染色液を入れて染色を行うこととなる。本実施形態の場合、貯留した染色液に、複数の前記第1保持部に保持された複数のスライドガラスを浸すように構成されていることから、汚れ等のスライド容器の状態による複数のスライドガラス間の染色度合のばらつきを抑制できる。
【0019】
また、複数の第1保持部21に対してスライドガラス10を1枚ずつ出し入れするように移送部30を構成することによって、複数枚のスライドガラス10を収納できる染色籠のような大型の部材を移動させる必要がない。このため、移送部30および染色槽20の小型化ができ、かつ、移送部30を移動させるために必要となるスペースの削減ができる。以上の結果、塗抹標本作製装置100によれば、染色処理に要する時間を短縮しつつ、装置を小型化することができる。
【0020】
[塗抹標本作製装置の詳細な構成]
以下、
図2以降を参照して、
図1に示した塗抹標本作製装置100の好ましい実施形態の構成について具体的に説明する。
【0021】
塗抹標本作製装置100は、
図2に示すように、洗浄槽40と、乾燥槽50と、送風ユニット60とをさらに備えてもよい。また、移送部30は、第1移送部30aと第2移送部30bとを含む。塗抹標本作製装置100は、染色槽20および洗浄槽40に対してそれぞれ染色液11および洗浄液13を供給し、または排出するための流体回路部70と、移送部30および送風ユニット60などの制御を行うための制御部71とを備える。制御部71は、図示しないCPUおよびメモリを備えたコンピュータである。
【0022】
なお、以下では、染色槽20に挿入されるスライドガラス10の幅方向(すなわち、挿入領域12の幅方向)をX方向とし、染色槽20に挿入されるスライドガラス10の配列方向(すなわち、挿入領域12の厚み方向)をY方向とする。また、スライドガラス10の挿入方向である上下方向をZ方向とする。
【0023】
染色槽20は、第1の染色液を溜めるための第1染色槽20aと、第2の染色液を溜めるための第2染色槽20bと、を含み、染色槽20は、第1染色槽20aと第2染色槽20bとを仕切るための仕切部材14aを備えるのが好ましい。
図2では、染色槽20が第1染色槽20a〜第5染色槽20eの5つの染色槽20を含んでいる例を示している。第1染色槽20a、第2染色槽20bおよび第3染色槽20cが、互いに仕切部材14aにより仕切られて一体形成されている。また、第4染色槽20dおよび第5染色槽20eが、互いに仕切部材14aにより仕切られて一体形成されている。このように第1染色槽20a〜第5染色槽20eを仕切部材14aにより仕切って一体形成することによって、複数種類の染色液11を用いて染色処理を行う場合にも、第1染色槽20a〜第5染色槽20eをまとめて一体形成できる。その結果、各染色槽を個別に形成する場合と比較して、装置構成を簡素化することができる。
【0024】
洗浄槽40は、スライドガラス10を浸せるように洗浄液13を溜めるために設けられる。洗浄槽40の構成は、染色槽20と共通の構成を採用できる。すなわち、洗浄槽40は、第1保持部21と同様の第2保持部41を複数含み、スライドガラス10を保持するように構成された第2保持部41にスライドガラス10を保持できる。そして、移送部30は、洗浄槽40の複数の第2保持部41に対してスライドガラス10を1枚ずつ出し入れするように構成されている。これにより、染色処理後の洗浄処理工程において、個々のスライドガラス10の準備が完了した時点で1枚ずつ速やかに洗浄処理が開始できる。その結果、複数のスライドガラス10が貯まるまで洗浄動作の開始を待つ必要がないので、洗浄処理に要する時間の短縮ができる。
【0025】
図3に示すように、洗浄槽40は、仕切部材14aによって仕切られた第1洗浄槽40aと第2洗浄槽40bとを含んでいる。そして、第1染色槽20a〜第5染色槽20eの5つの染色槽20と、第1洗浄槽40aおよび第2洗浄槽40bの2つの洗浄槽40とは、単一の構造体14に一体形成されている。
【0026】
すなわち、単一の構造体14が、Y方向に配列された多数の第1保持部21および第2保持部41を含んでいる。そして、単一の構造体14には、各槽を仕切る板状の仕切部材14aが、Y方向の所定位置に合計6つ設けられている。これらの仕切部材14aにより、5つの染色槽20と2つの洗浄槽40とが、単一の構造体14においてY方向に並ぶように一体形成されている。なお、染色槽20および洗浄槽40の数は、染色処理の工程数などに応じた数にすればよい。単一の構造体14は、耐薬品性を有し、洗浄が容易な樹脂材料などによって形成されるのが好ましい。
【0027】
これらの5つの染色槽20と2つの洗浄槽40とは、仕切部材14aによって互いに隔離されており、互いに液体が流通することはない。染色槽20および洗浄槽40の各々には、液体を供給するための供給ポート15aと液体を排出するための排出ポート15bとが個別に設けられている。これにより、染色槽20および洗浄槽40の各々は、互いに異なる種類の染色液11または洗浄液13を溜められる。なお、スライドガラス10の染色処理には、複数種類の染色液11が用いられる。各槽の染色液11は、予め設定された所定枚数のスライドガラス10の染色後に、全量交換される。
【0028】
各染色槽20および各洗浄槽40は、Y2方向側から順に、第1染色槽20a、第2染色槽20b、第3染色槽20c、第1洗浄槽40a、第4染色槽20dおよび第5染色槽20e、第2洗浄槽40bの順で配列されている。スライドガラス10は、Y2方向側の第1染色槽20aから順に各槽に移送され、所定の設定時間の間、それぞれの槽に溜められた染色液11または洗浄液13に漬けられて処理される。各槽での処理のための設定時間は、各槽に溜められた染色液11または洗浄液13の種類に応じて異なり、スライドガラス10の処理のために必要な時間が設定される。
【0029】
各染色槽20の第1保持部21の数および各洗浄槽40の第2保持部41の数(すなわち、挿入領域12の数)は、スライドガラス10を処理するための設定時間に応じた数に設定されている。第1保持部21および第2保持部41の数は、塗抹標本作製装置100の仕様としてのスライドガラス10の搬入時間の間隔と、各槽でスライドガラス10を処理するために設定される設定時間の長さとに応じて決めるのが好ましい。すなわち、搬入時間の間隔をAとし、ある槽の設定時間をBとすると、その槽には少なくともB/A枚のスライドガラス10が挿入できるように、第1保持部21および第2保持部41が設けられる。B/Aよりも多い数の第1保持部21および第2保持部41を設けるのが好ましい。
【0030】
また、設定時間が長い処理工程の場合、複数の染色槽20に同一種類の染色液11を溜めて、同一工程の処理を複数の染色槽20で分担してもよい。本実施形態では、第4染色槽20dおよび第5染色槽20eが、同一種類の染色液11を溜めて同一工程の処理を行う染色槽である。この場合、第4染色槽20dおよび第5染色槽20eの挿入領域12の合計数が、B/A以上となるように設定されるのが好ましい。スライドガラス10は、第4染色槽20dおよび第5染色槽20eのいずれか一方に移送され、他方には移送されない。このように構成すれば、第4染色槽20dおよび第5染色槽20eの一方の染色液11を入れ替える場合でも、他方側で染色処理を継続できる。
【0031】
ここで、第1保持部21の数が多くなると、その分、染色槽20の容積が大きくなり、貯留される染色液量も多くなる。このため、染色液11の入れ替えに要する時間が増大する。これに対して、同一の工程を行う複数の染色槽(第4染色槽20dおよび第5染色槽20e)を設けたため、染色液11の入れ替えのための待機時間の増大を抑制できる。
【0032】
図2に戻って、乾燥槽50は、染色槽20および洗浄槽40の配列方向Yに沿って並ぶように配置されている。乾燥槽50は構造体14と隣接している。乾燥槽50は、染色処理および洗浄処理が実施された後のスライドガラス10を乾燥させるために設けられている。乾燥槽50は、スライドガラス10を保持するように構成された複数の第3保持部51を含む。複数の第3保持部51は、上端部が開口し、Y方向に間隔を隔てて配列されている。各第3保持部51は、スライドガラス10を1枚ずつ互いに間隔を隔てて保持できる。乾燥槽50の内部には空気通路(図示せず)があり、空気通路が送風ユニット60に接続されている。移送部30は、乾燥槽50の第3保持部51に対して、スライドガラス10を1枚ずつ出し入れするように構成されている。
【0033】
送風ユニット60は、乾燥槽50に保持されたスライドガラス10に送風するために設けられている。送風ユニット60は、たとえば電動式のファンを含み、乾燥槽50の内部の空気通路に空気を強制的に送り込める。送風ユニット60は、乾燥槽50の内部で第3保持部51にセットされたスライドガラス10に所定時間継続して送風することにより、スライドガラス10を乾燥できる。これらの乾燥槽50と送風ユニット60とを設けることにより、染色処理後のスライドガラス10の乾燥が迅速にできるので、染色処理に要する時間が短縮できる。また、染色槽20および洗浄槽40と同じように、移送部30によって第3保持部51へのスライドガラス10の挿入および抜き出しができるので、装置構成の簡素化ができる。
【0034】
塗抹標本作製装置100は、好ましくは、送風ユニット60から送風された風を暖めるヒータ52を備える。ヒータ52は、送風ユニット60と乾燥槽50との間にある。送風ユニット60から送風された風は、ヒータ52を通過する際に熱を受け取り、温度上昇した温風の状態で乾燥槽50内の空気通路に送られる。これにより、染色処理後のスライドガラス10をより迅速に乾燥させることができるので、染色処理に要する時間が更に短縮できる。
【0035】
移送部30の第1移送部30aおよび第2移送部30bは、共に染色槽20および洗浄槽40の上方(Z1方向)に配置される。第1移送部30aおよび第2移送部30bは、移動機構32によってそれぞれ水平方向(すなわち、X方向およびY方向)に移動できる。
【0036】
移動機構32は、Y方向のY軸レール33aおよびY軸スライダ33bと、X方向のX軸レール34aおよびX軸スライダ34bと、Y軸モータ33cおよびX軸モータ34cとを含む。X軸モータ34cおよびY軸モータ33cには、たとえばステッピングモータまたはサーボモータなどが採用できる。
【0037】
Y軸レール33aは、Y方向に直線状に延び、支持部材33dの下面に固定される。支持部材33dは、塗抹標本作製装置100の筐体の天井部または支持用の梁部材などである。Y軸スライダ33bは、Y軸レール33aの下面側(Z2方向側)に取り付けられ、Y軸レール33aに沿って移動できる。Y軸モータ33cは、図示しない伝達機構を介してY軸スライダ33bをY方向に移動させる。伝達機構には、たとえばベルト−プーリ機構またはラック−ピニオン機構などが採用できる。
【0038】
X軸レール34aは、X方向に直線状に延び、Y軸スライダ33bの下面に固定されている。X軸スライダ34bは、X軸レール34aの下面側(Z2方向側)に取り付けられ、X軸レール34aに沿って移動できる。X軸モータ34cは、図示しない伝達機構を介してX軸スライダ34bをX方向に移動させる。
【0039】
Y軸スライダ33b、X軸レール34a、X軸スライダ34b、X軸モータ34cおよびY軸モータ33cは、それぞれ一対設けられている。一対のX軸スライダ34bの下面側に、それぞれ、第1移送部30aと第2移送部30bとが取り付けられている。これにより、第1移送部30aおよび第2移送部30bは、個別のX軸レール34aに沿って互いに独立してX方向に移動できる。また、第1移送部30aおよび第2移送部30bは、共通のY軸レール33aに沿って互いに独立してY方向に移動できる。
【0040】
第1移送部30aおよび第2移送部30bの構成は、共通である。第1移送部30aおよび第2移送部30bは、それぞれ、ハンド31を昇降させるためのZ軸モータ35aと、伝達機構35bとを含む。Z軸モータ35aは、伝達機構35bを介してハンド31を昇降させる。伝達機構35bには、たとえばベルト−プーリ機構またはラック−ピニオン機構などが採用できる。
【0041】
ハンド31は、1枚のスライドガラス10を把持できる。
図2では、一対の把持板31aによってスライドガラス10を厚み方向に挟んで把持する構成の例を示している。
図5に示すように、一対の把持板31aは、スライドガラス10の表面側と裏面側とにそれぞれ接触して、スライドガラス10を挟める。一つの把持板31aのうち、裏面側(Y1方向側)の把持板31aが、スライドガラス10の厚み方向に移動できる。把持板31aの移動は、たとえばエアシリンダ、モータ、ソレノイドなどのアクチュエータを用いて行えるが、図示および説明は省略する。ハンド31は、スライドガラス10を幅方向に挟んで把持する構成であってもよい。
【0042】
好ましくは、スライドガラス10の表面側(Y2方向側)の把持板31aには、ゴムなどの柔軟材料からなる緩衝部材31bが設けられる。これにより、スライドガラス10を把持する際に、スライドガラス10の表面に付される印字と接触しても印字の読取性を損なうことが抑制できる。裏面側の把持板31aにも緩衝部材31bと同様の緩衝部材を設けてもよい。
【0043】
図2に戻って、第1移送部30aは、Y2方向側の第1染色槽20a、第2染色槽20b、第3染色槽20cおよび第1洗浄槽40aの各上方位置に移動できる。したがって、第1移送部30aは、第1染色槽20a、第2染色槽20b、第3染色槽20cおよび第1洗浄槽40aの各々の挿入領域12に対して、スライドガラス10を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0044】
また、第2移送部30bは、Y1方向側の第2洗浄槽40b、第5染色槽20e、第4染色槽20dおよび第1洗浄槽40aの各上方位置と、乾燥槽50の上方位置と、後述するスライド保管部86(
図6参照)への移送位置とに移動できる。したがって、第2移送部30bは、第4染色槽20dおよび第5染色槽20eと、第1洗浄槽40aおよび第2洗浄槽40bとの各々の挿入領域12に対して、スライドガラス10を1枚ずつ挿入および抜き出しできる。
【0045】
第1移送部30aと第2移送部30bとは、それぞれ並行して別々のスライドガラス10を移送できる。第1移送部30aと第2移送部30bとは、第1洗浄槽40aにおいて動作範囲が重複しており、この第1洗浄槽40aにおいてスライドガラス10の受け渡しが行われる。受け渡しの位置は、第1洗浄槽40a以外でもよい。
【0046】
[染色槽および洗浄槽の詳細な構成]
次に、好ましい実施形態における染色槽20および洗浄槽40の詳細な構成について説明する。上述の通り、個々の染色槽20および洗浄槽40の構造は、第1保持部21または第2保持部41の数を除いて基本的に同じである。そのため、以下では、1つの染色槽20の構造について詳細に説明する。
【0047】
図4に示すように、染色槽20は、スライドガラス10を挿入可能な上面開口22aを含み、上面開口22aからスライドガラス10を上下方向Zに挿入または抜き出しできる。染色槽20は、スライドガラス10(すなわち、挿入領域12)の幅方向(X方向)に沿った断面形状が、概略でT字状になっている。スライドガラス10の厚み方向(Y方向)には、染色槽20は、底部を除いて基本的に
図4に示した断面形状のまま延びている。
【0048】
ここで、スライドガラス10の形状について説明する。スライドガラス10は、長方形状の板状部材である。スライドガラス10は、長手方向の中央部に検体が塗抹される染色領域10aを含む。また、スライドガラス10は、長手方向の一端部の表面に検体情報の印字領域であるフロスト部10bを含む。フロスト部10bは樹脂材などがコーティングされることにより、印字可能な処理が施された部位である。フロスト部10bには、検体番号、日付、バーコードまたは2次元コードなどが印字できる。スライドガラス10は、フロスト部10bが染色液11に漬からないように、フロスト部10bが上側に位置するように染色槽20に挿入される。
【0049】
好ましくは、スライドガラス10の幅方向(X方向)において、染色槽20の上部22bの内寸22eは、染色槽20の下部22cの内寸22fよりも大きい。ここで、染色槽20のY方向の長さ22d(
図3参照)が上部22bおよび下部22cで同一であり、水平断面積は、X方向の幅(内寸)によって決まる。そのため、上部22bにおける水平断面積が、下部22cにおける水平断面積よりも大きくなるように形成されている。これにより、スライドガラス10の出し入れに伴う、染色液の減少による上部22bにおける染色液11の水位変動が抑制できる。
【0050】
すなわち、染色液11は、スライドガラス10が挿入された状態で、液面位置11aがスライドガラス10の染色領域10aよりも上方で、かつ、フロスト部10bよりも下方に位置するように、供給量が設定されている。しかし、液面位置11aは、染色槽20に挿入されるスライドガラス10の数に応じて、変動範囲11bの範囲内で上昇または下降する。そのため、上部22bにおける水平断面積を相対的に大きくすることにより、挿入されたスライドガラス10の数の増減に伴う変動範囲11bを小さくすることができる。その結果、スライドガラス10の枚数が変動する場合でも、確実に染色領域10aを染色することができる。一方、下部22cの水平断面積も大きくすると、液面位置11aを所定高さにするための染色液11の貯留量が増大し、染色液11の消費量が増大する。このため、下部22cにおける水平断面積を相対的に小さくすることにより、染色液11の消費量が不必要に増大することが抑制できる。
【0051】
染色槽20は、好ましくは、スライドガラス10の幅方向Xにおいて、上部22bと下部22cとの間に傾斜部23を含む。傾斜部23は、下部22cに向かって幅が狭くなる方向に傾斜している。具体的には、傾斜部23は、挿入領域12の両側の幅(内寸)が下側(Z2方向)に向けて狭くなるように直線状に傾斜している。傾斜部23は曲線状に傾斜してもよい。
【0052】
傾斜部23により、スライドガラス10の挿入時にスライドガラス10のX方向の位置が僅かにずれた場合でも、確実にスライドガラス10を下部22cの内部に挿入することができる。
【0053】
下部22cは、側方支持部24と、底部25とを含む。側方支持部24は、上端部で傾斜部23の下端部と接続しており、スライドガラス10の幅方向Xにおいて、スライドガラス10の幅10cと略等しい幅(内寸)を有する。側方支持部24は、スライドガラス10の側端面を支持する機能を有する。
【0054】
なお、側方支持部24と底部25との間には、段差状の下方支持部24aがある。下方支持部24aは底部25の内底面よりも上方位置にあり、側方支持部24の内面から内側に突出している。この下方支持部24aが挿入領域12の下端部であり、下方支持部24aは、挿入されたスライドガラス10の下端面を支持できる。スライドガラス10は、染色槽20の底部25の内底面から上方に離間した位置で支持される。
【0055】
染色槽20の底部25は、
図5に示すように、供給ポート15aと、排出ポート15bとを含む。底部25の内底面は傾斜面からなり、底部25のうち最も下方の位置に排出ポート15bがある。供給ポート15aは、排出ポート15bよりも上側の位置にある。これにより、染色液11の排出の際、染色液11が排出ポート15bに集まるので、染色槽20内で染色液11の液溜まりが発生することが抑制できる。
【0056】
図4に戻って、複数の第1保持部21は、好ましくは、挿入領域12の幅方向Xの両端部に一対ずつある。一対の第1保持部21は、挿入領域12の幅方向Xの中央部には設けられておらず、X方向の内側端部が、挿入領域12に挿入されたスライドガラス10のX方向両端部とY方向にオーバラップする。このオーバラップ部分は、スライドガラス10の染色領域10aよりも外側にある。このため、一対の第1保持部21は、挿入領域12に挿入されたスライドガラス10の染色領域10aとは接触することなく、スライドガラス10のX方向の両端部をそれぞれY方向に支持できる。
【0057】
図5に示すように、それぞれの第1保持部21は、挿入領域12の厚み方向Yに挿入領域12に対応する間隔12aを隔てて複数配列されている。各第1保持部21は、スライドガラス10のX方向の両端部をそれぞれY方向の両側から支持できる。
【0058】
好ましくは、スライドガラス10の厚み方向(Y方向)において、第1保持部21の少なくとも一部は、上端部に向けて先細る。すなわち、第1保持部21は、Y方向において上端部に向けて先細るテーパ部21aを含む。テーパ部21aは、スライドガラス10を挿入する際のY方向のガイドとして機能する。テーパ部21aによって、スライドガラス10の挿入時に、スライドガラス10のY方向の位置が僅かにずれた場合でも、確実にスライドガラス10を挿入領域12に挿入することができる。
[移送部の移送経路]
次に、好ましい実施形態における移送部30によるスライドガラス10の移送経路について説明する。
【0059】
図3に示すように、移送部30は、好ましくは、第1保持部21の上方をスライドガラス10が通らないように迂回してスライドガラス10を移送する。
図3の例では、移送部30は、経路27cでスライドガラス10を移送する。すなわち、それぞれの第1保持部21がY方向に並んで配置されているため、移送部30は、第1保持部21に対してX方向にずれた位置で、把持したスライドガラス10をY方向に移送する。そして、把持したスライドガラス10のY方向の位置を移送先の第1保持部21のY方向位置に一致させた後で、X方向に移動して挿入領域12の上方にスライドガラス10を位置付ける。これにより、スライドガラス10を移送する間にスライドガラス10に付着した染色液11が落下しても、落下した染色液11の液滴が他のスライドガラス10のフロスト部10bに付着することが回避できる。この結果、スライドガラス10の染色領域以外の部位が染色液11によって汚れることが防止できる。
【0060】
染色槽20は、スライドガラス10の幅方向Xにおいて、第1保持部21と隣接する移送領域27を含む。そして、移送部30は、スライドガラス10が移送領域27の上方を通るようにスライドガラス10を移送する。
【0061】
図4に示すように、移送領域27は、一対の第1保持部21に対してX方向の両側にある。両側の移送領域27は、それぞれ、スライドガラス10の幅10cよりも大きい幅27aおよび幅27bを有する。移送領域27には、挿入領域12と同様に染色液11が溜められる。この
図4の例では、移送領域27は、内寸22eを有する上部22bにおいて、傾斜部23からX方向に突出するように形成された突出部26によって構成されている。言い換えると、移送領域27は、下部22cの内寸22fよりも上部22bの内寸22eを大きくすることによって、形成されている。移送部30は、
図3に示したように、移送領域27の上方を通る経路27cでスライドガラス10を移送する。これによって、把持したスライドガラス10に付着した染色液11が染色槽20の外部に落下することが防げる。すなわち、染色槽20の移送領域27が、スライドガラス10の移送時に落下する染色液11の受け皿として機能する。この結果、染色槽20内の染色液11が減少することが抑制でき、かつ、染色槽20の外部が落下した染色液11によって汚されることが抑制できる。
【0062】
より好ましくは、染色槽20および洗浄槽40は、隣接する。そして、移送部30は、染色槽20の第1保持部21および洗浄槽40の第2保持部41の上方をスライドガラス10が通らないように迂回し、かつ、染色槽20および洗浄槽40が隣接する方向に沿ってスライドガラス10を移送する。
【0063】
図3の例では、染色槽20および洗浄槽40がY方向に隣接し、移送部30は、移送領域27上をY方向に沿う経路27cで移送する。これにより、移送部30を迂回させる場合でも、染色槽20および洗浄槽40が隣接するY方向に沿って移送部30を移動させるだけでよいので、移送部30を迂回させるために必要なスペースが抑制できる。
【0064】
[塗抹標本作製装置のその他の構成]
図6を参照して、塗抹標本作製装置100のその他の構成について説明する。
【0065】
図2〜
図5に示した染色槽20および移送部30などの各部は、
図6の染色部81として構成されている。好ましい実施形態では、塗抹標本作製装置100は、さらに、スライド供給部82、印刷部83、塗抹部84、乾燥部85およびスライド保管部86を備える。
【0066】
スライド供給部82は、検体の塗抹前の未使用状態のスライドガラス10を多数収納している。スライド供給部82は、塗抹前のスライドガラス10を1枚ずつ印刷部83に供給できる。
【0067】
印刷部83は、スライドガラス10の印字領域であるフロスト部10b(
図4参照)に、検体情報などの各種情報を印字できる。印刷部83は、印字したスライドガラス10を塗抹部84に移送できる。
【0068】
塗抹部84は、図示しない検体吸引機構により検体を吸引して、印刷部83から送られたスライドガラス10の染色領域10a(
図4参照)に検体を塗抹できる。塗抹部84は、塗抹処理後のスライドガラス10を乾燥部85に移送できる。
【0069】
乾燥部85は、検体が塗抹されたスライドガラス10を塗抹部84から受け取り、染色領域10aを乾燥させる機能を有する。
【0070】
染色部81では、上述したように、乾燥部85で乾燥された塗抹済みのスライドガラス10に対して、各染色槽20および洗浄槽40で染色処理および洗浄処理が実施される。その後、乾燥槽50で乾燥工程が行われ、スライドガラス10の染色が完了すると、染色済みのスライドガラス10がスライド保管部86に送られる。これらの各部間のスライドガラス10の移送が、移送部30(
図2参照)によって実施される。
【0071】
スライド保管部86は、染色済みのスライドガラス10を保管する機能を有する。
【0072】
このような構成によって、塗抹標本作製装置100は、スライドガラス10への印字、検体の塗抹、染色の各処理を実施して塗抹標本を自動作成できる。
【0073】
[塗抹標本作製装置の染色動作]
図2、
図3および
図6〜
図9を参照して、塗抹標本作製装置100の染色動作について説明する。塗抹標本作製装置100の制御は、制御部71が行う。
【0074】
まず、
図7のステップS1において、染色槽20および洗浄槽40のそれぞれに、染色液11および洗浄液13が溜められる。各染色槽20および各洗浄槽40には、流体回路部70(
図2参照)がそれぞれの供給ポート15a(
図3参照)を介して染色液11および洗浄液13を供給する。
【0075】
ステップS2において、移送部30がスライドガラス10を1枚ずつ第1染色槽20a(
図3参照)へ移送させ、第1染色槽20aにおいて染色処理が行われる。
【0076】
具体的には、
図8のステップS11において、移送部30が、1枚の塗抹済みスライドガラス10を掴んで取り出す。ステップS12において、移送部30が、移送先である第1染色槽20aの上方位置にスライドガラス10を移送する。この際、移送部30は、
図3に示す経路27cでスライドガラス10を移送する。ステップS13において、移送部30が、掴んだスライドガラス10を移送先である第1染色槽20aの第1保持部21に入れる。この
図8に示した動作は、スライドガラス10の取出位置と移送先とが異なるだけで、後述するステップS3〜S7で共通である。
【0077】
第1染色槽20aには、第1の染色液11が溜められている。この状態で、スライドガラス10が所定の設定時間T1の間、第1の染色液11に漬けられることにより、染色処理が行われる。
【0078】
図7に戻り、ステップS3において、移送部30がスライドガラス10を第2染色槽20b(
図3参照)へ移送し、第2染色槽20bにおいて染色処理が行われる。
図8のステップS11〜S13によって、スライドガラス10は、移送部30により第1染色槽20aから取り出されて、第2染色槽20bの第1保持部21に入れられる。スライドガラス10は、所定の設定時間T2の間、第2染色槽20bに溜められた第2の染色液11に漬けられる。
【0079】
ステップS4において、移送部30がスライドガラス10を第3染色槽20c(
図3参照)へ移送し、第3染色槽20cにおいて染色処理が行われる。
図8のステップS11〜S13によって、スライドガラス10は、移送部30により第2染色槽20bから取り出されて、第3染色槽20cの第1保持部21に入れられる。スライドガラス10は、所定の設定時間T3の間、第3染色槽20cに溜められた第3の染色液11に漬けられる。
【0080】
ステップS5において、移送部30がスライドガラス10を第1洗浄槽40a(
図3参照)へ移送し、第1洗浄槽40aにおいて洗浄処理が行われる。第1洗浄槽40aへの移送動作も、染色槽20への移送動作と同様である。すなわち、
図8のステップS11において、移送部30が、第3染色槽20cから1枚のスライドガラス10を掴んで取り出す。ステップS12において、移送部30が、移送先である第1洗浄槽40aの上方位置にスライドガラス10を経路27c(
図3参照)で移送する。ステップS13において、移送部30が、掴んだスライドガラス10を移送先である第1洗浄槽40aの第2保持部41に入れる。スライドガラス10は、所定の設定時間T4の間、第1洗浄槽40aに溜められた第1の洗浄液13に漬けられる。
【0081】
ステップS6において、移送部30がスライドガラス10を第4染色槽20dまたは第5染色槽20eへ移送し、移送先の第4染色槽20dまたは第5染色槽20e(
図3参照)で染色処理が行われる。第4染色槽20dおよび第5染色槽20eには、同じ第4の染色液11が溜められている。
図8のステップS11〜S13によって、スライドガラス10は、移送部30により第1洗浄槽40aから取り出されて、第4染色槽20dまたは第5染色槽20eの第1保持部21に入れられる。スライドガラス10は、所定の設定時間T5の間、第4の染色液11に漬けられる。
【0082】
ステップS7において、移送部30がスライドガラス10を第2洗浄槽40b(
図3参照)へ移送し、第2洗浄槽40bにおいて洗浄処理が行われる。
図8のステップS11〜S13によって、スライドガラス10は、移送部30により第4染色槽20dまたは第5染色槽20eから取り出されて、第2洗浄槽40bの第2保持部41に入れられる。スライドガラス10は、所定の設定時間T6の間、第2洗浄槽40bに溜められた第2の染色液11に漬けられる。
【0083】
ステップS8において、移送部30がスライドガラス10を乾燥槽50(
図2参照)へ移送し、乾燥槽50においてスライドガラス10が乾燥される。
【0084】
具体的には、
図9のステップS21において、移送部30が、第2洗浄槽40bから1枚のスライドガラス10を掴んで取り出す。ステップS22において、移送部30が、移送先である乾燥槽50の上方位置にスライドガラス10を移送する。ステップS23において、移送部30が、掴んだスライドガラス10を移送先である乾燥槽50の第3保持部51(
図2参照)に入れる。ステップS24において、制御部71がヒータ52(
図2参照)をオンにする。そして、ステップS25において、送風ユニット60(
図2参照)が送風を乾燥槽50に保持されたスライドガラス10に送風する。この際、送風ユニット60から送風される風をヒータ52が暖める。スライドガラス10は、所定の設定時間T7の間、乾燥槽50において送風される。これにより、1枚のスライドガラス10に対する塗抹標本の染色処理が完了する。
【0085】
図7に戻り、ステップS9において、移送部30が、乾燥槽50から染色処理が完了した1枚のスライドガラス10を取り出し、スライド保管部86に移送する。以上のようにして、塗抹標本作製装置100の染色動作が行われる。
【0086】
[第1移送部および第2移送部の動作]
第1移送部30aおよび第2移送部30bが並行してスライドガラス10の移送を行うので、上記の染色動作における第1移送部30aおよび第2移送部30bの各々の動作について詳細に説明する。染色処理動作における第1移送部30aおよび第2移送部30bの制御は、制御部71が行う。
【0087】
(第1移送部の動作)
まず、第1移送部30aの動作を説明する。
図10のステップS31において、制御部71は、塗抹済みのスライドガラス10があるか否かを判断する。塗抹済みのスライドガラス10がある場合、ステップS32において、第1移送部30aが塗抹済みのスライドガラス10を第1染色槽20aに移送する。制御部71は、処理するスライドガラス10の各々について、スライドガラス10の移送が完了した時点からの経過時間をカウントする。
【0088】
図10のステップS33において、制御部71は、第1染色槽20aに設定時間T1を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T1はたとえば120秒である。第1染色槽20aに設定時間T1を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS34に進み、第1移送部30aが、設定時間T1を経過した第1染色槽20aのスライドガラス10を第2染色槽20bに移送する。
【0089】
ステップS35において、制御部71は、第2染色槽20bに設定時間T2を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T2はたとえば300秒である。第2染色槽20bに設定時間T2を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS36に進む。
【0090】
ステップS36では、制御部71は、第1移送部30aが第2移送部30bと干渉するか否かを判断する。具体的には、制御部71は、第1移送部30aとの動作の重複領域である第1洗浄槽40aを含む範囲に設定された干渉範囲に第2移送部30bがあるか否かを判断する。第2移送部30bが干渉範囲にある場合、制御部71は、ステップS36の判断を繰り返して、第2移送部30bが干渉範囲から出るまで待機する。制御部71は、第1移送部30aが第2移送部30bと干渉しない(すなわち、第2移送部30bが干渉範囲にない)と判断した場合、処理をステップS37に進める。
【0091】
ステップS37では、第1移送部30aが、設定時間T2を経過した第2染色槽20bのスライドガラス10を第3染色槽20cに移送する。ステップS38において、制御部71は、第3染色槽20cに設定時間T3を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T3はたとえば300秒である。第3染色槽20cに設定時間T3を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS39に進む。
【0092】
ステップS39において、第1移送部30aは、設定時間T3を経過した第3染色槽20cのスライドガラス10を第1洗浄槽40aに移送する。ステップS40において、第1移送部30aが、所定の待機位置に戻る。
【0093】
一方、ステップS31で塗抹済みのスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、ステップS33に処理を進める。ステップS33で第1染色槽20aに設定時間T1を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、ステップS35に処理を進める。ステップS35において、第2染色槽20bに設定時間T2を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、ステップS38に処理を進める。ステップS38において、第3染色槽20cに設定時間T3を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、処理をステップS40に進める。
【0094】
このように、制御部71は、ステップS31、S33、S35およびS38でそれぞれ移送させるべきスライドガラス10の有無を判断し、移送させるべきスライドガラス10がない場合に待機位置に第1移送部30aを戻す。そして、塗抹済みのスライドガラス10または設定時間の経過したスライドガラス10がある場合には、そのスライドガラス10が次の工程に送られる。
【0095】
(第2移送部の動作)
次に、第2移送部30bの動作を説明する。
図11のステップS51において、制御部71は、第1洗浄槽40aに設定時間T4を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T4はたとえば15秒である。第1洗浄槽40aに設定時間T4を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS52に進む。
【0096】
ステップS52では、制御部71は、第2移送部30bが第1移送部30aと干渉するか否かを判断する。
図10のステップS36と同様に、制御部71は第1移送部30aが干渉範囲にあるか否かを判断する。制御部71は、第2移送部30bが第1移送部30aと干渉しない(すなわち、第1移送部30aが干渉範囲にない)と判断した場合、処理をステップS53に進める。
【0097】
ステップS53では、第2移送部30bが、設定時間T4を経過した第1洗浄槽40aのスライドガラス10を第4染色槽20dまたは第5染色槽20eに移送する。
【0098】
ステップS54において、制御部71は、第4染色槽20dまたは第5染色槽20eに設定時間T5を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T5はたとえば1200秒である。第4染色槽20dまたは第5染色槽20eに設定時間T5を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS55に進み、第2移送部30bが、設定時間T5を経過したスライドガラス10を第2洗浄槽40bに移送する。
【0099】
ステップS56において、制御部71は、第2洗浄槽40bに設定時間T6を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T6はたとえば60秒である。第2洗浄槽40bに設定時間T6を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS57に進み、第2移送部30bが、設定時間T6を経過した第2洗浄槽40bのスライドガラス10を乾燥槽50に移送する。
【0100】
ステップS58において、制御部71は、乾燥槽50に設定時間T7を経過したスライドガラス10があるか否かを判断する。設定時間T7はたとえば420秒である。乾燥槽50に設定時間T7を経過したスライドガラス10がある場合、処理がステップS59に進み、第2移送部30bが、乾燥槽50で設定時間T7を経過したスライドガラス10をスライド保管部86に移送する。そして、ステップS60において、第2移送部30bが、所定の待機位置に戻る。第2移送部30bの待機位置は、干渉範囲外の所定位置である。
【0101】
一方、ステップS51で第1洗浄槽40aに設定時間T4を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、ステップS54に処理を進める。ステップS54で第4染色槽20dまたは第5染色槽20eに設定時間T5を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、ステップS56に処理を進める。ステップS56において、第2洗浄槽40bに設定時間T6を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、ステップS58に処理を進める。ステップS58において、乾燥槽50に設定時間T7を経過したスライドガラス10がないと判断した場合、制御部71は、処理をステップS60に進める。
【0102】
したがって、制御部71は、ステップS51、S54、S56およびS58でそれぞれ移送させるべきスライドガラス10の有無を判断し、移送させるべきスライドガラス10がない場合に所定の待機位置に第2移送部30bを戻す。
【0103】
以上のようにして、第1移送部30aおよび第2移送部30bが並行してスライドガラス10の移送を行う。
【0104】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。