【文献】
Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2010年,Vol. 107, No. 19,pp. 8639-8643
【文献】
Stem Cell Rev and Rep.,2009年,Vol. 5,pp. 247-255
【文献】
Cell Tissue Res.,2008年,Vol.334,pp. 423-433
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、d)前記取り出された細胞を、同一または異なる基材に再度播種する工程;および、e)所望の数の増幅細胞に到達するまで、工程b)〜d)を繰り返す工程を含む、請求項1記載の方法。
工程(a)が、組織由来の細胞を播種する工程を含み、該組織が、骨髄、臍帯血、臍帯基質、末梢血、胎盤、胎盤血、筋肉、脳、腎臓、または他の実質臓器から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明の概要
本発明は、中空繊維バイオリアクターにおいて、本願明細書に記載の細胞を増幅することに関する。連続的な栄養素の供給と老廃代謝産物の除去のための連続灌流は、本発明の一態様である。所望の分泌分子の収集も、一態様である。
【0019】
前記細胞は、未精製または部分的に精製された調製物として、例えば、骨髄、臍帯血、胎盤由来の組織サンプルから直接的に増幅されてもよい。または、前記細胞は、実質的に均質で、予め単離および増幅または他の方法で精製されている、精製された細胞調製物でもよい。このため、出発細胞調製物の純度は、実質的に未精製(例えば、総骨髄単核細胞から出発)でもよいし、または、1%〜100%の純度でもよい。一部の実施形態では、被験体への投与のための前記細胞の純度は、約100%(実質的に均質)である。他の実施形態では、前記純度は、95%から100%である。一部の実施形態では、前記純度は、85%から95%である。ただし、前記割合は、約1%〜5%、5%〜10%、10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%または90%〜95%であり得る。または、単離/純度は、細胞倍加を単位として表され得、ここで、前記細胞は、例えば、10〜20、20〜30、30〜40、40〜50またはそれより多くの細胞倍加を受けている。
【0020】
前記細胞は、増幅のためのある1つのドナーに由来し、その同じドナーに戻されてもよい(自系)。または、前記細胞は、増幅のためのある1つのドナーに由来し、異なる被験体へ投与されてもよい(同種異系)。または、前記細胞は、種々のドナーに由来してもよい。
【0021】
前記細胞は、任意の所望の数の細胞倍加によって増幅(増殖)され得る。範囲としては、2倍から1000倍以上までが挙げられる。その限度は、十分な栄養素を供給し、有害な老廃物を除去する能力に依存する。一部の実施形態では、細胞倍加は、約2〜約10倍、約10〜約50倍および約50〜約100倍の範囲内である。本願に記載の技術を使用することにより、10
8個より多い細胞が、単一のドナーから生産され得る。
【0022】
細胞は、増幅され、収集され、次いで、更なる増幅のためにバイオリアクター内に再導入されてもよい。本願の目的のために、「実行する」とは、1ラウンドの増幅(前記細胞の導入から収集まで)を意味する。このため、細胞は、1回または2回以上の実行後に収集されてもよい。「通過」(passage)は実行を意味する。細胞は、各実行において異なる細胞倍加により増幅され得る。一回の実行では、例えば、細胞は、2×10倍増幅してもよい。しかし、実行の繰り返しにより、合計増幅は、(上記のように)ずっと高くてもよい。
【0023】
本発明に関する細胞は、多能性マーカー(例えば、oct4)を発現してもよい。前記細胞は、延長された複製能に関連するマーカー(例えば、テロメラーゼ)を発現してもよい。多能性の他の特徴付けは、2つ以上の胚葉(例えば、外胚葉、内胚葉および中胚葉の胚性胚葉のうちの2または3つ)の細胞タイプに分化する能力を含み得る。このような細胞は、培養中に、不死化もしくはトランスフォームされてもよいし、または、されなくてもよい。前記細胞は、トランスフォームされることなく非常に増幅され、かつ正常な核型も維持し得る。例えば、一実施形態では、非胚性で幹性で非生殖性の細胞は、培養中に、少なくとも10〜40回(例えば、50回、60回、またはそれより多く)の細胞倍加を受けていてもよく、ここで、前記細胞は、トランスフォームされておらず、かつ正常な核型を有する。前記細胞は、内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のうちの2つのうちのそれぞれの少なくとも1つの細胞タイプに分化してもよく、3つ全てへの分化を含んでもよい。さらに、前記細胞は、腫瘍原性でないかもしれず、例えば、奇形腫を生じないかもしれない。細胞がトランスフォームされているかまたは腫瘍原性であり、かつ前記細胞を注入に使用するのが望まれる場合、このような細胞は、細胞増殖して腫瘍となるのを防止する処置などにより、in vivoで腫瘍を形成し得ないように、無能化(disable)され得る。このような処置は、当該分野において周知である。
【0024】
細胞としては、下記の番号付けされた実施形態が挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
1.単離され、増幅された非胚性で幹性で非生殖性の細胞であって、前記細胞は、培養中に少なくとも10〜40回の細胞倍加を受けており、前記細胞は、oct4を発現し、トランスフォームされておらず、かつ正常な核型を有する。
【0026】
2.さらに、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記1の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0027】
3.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記1の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0028】
4.さらに、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記3の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0029】
5.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のそれぞれのうちの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記3の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0030】
6.さらに、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記5の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0031】
7.非胚性で非生殖性の組織の培養により得られる、単離され、増幅された非胚性で幹性で非生殖性の細胞であって、前記細胞は、培養中に少なくとも40回の細胞倍加を受けており、前記細胞は、トランスフォームされておらず、かつ正常な核型を有する、細胞。
【0032】
8.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記7の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0033】
9.少なくとも2つの内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統の少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記7の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0034】
10.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記9の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0035】
11.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統それぞれの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記9の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0036】
12.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記11の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0037】
13.単離され、増幅された非胚性で幹性で非生殖性の細胞であって、前記細胞は、培養中に少なくとも10〜40回の細胞倍加を受けており、前記細胞は、テロメラーゼを発現し、トランスフォームされておらず、正常な核型を有する、細胞。
【0038】
14.さらに、oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記13の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0039】
15.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2つのうちの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記13の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0040】
16.さらに、oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記15の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0041】
17.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記15の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0042】
18.さらに、oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記17の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0043】
19.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のうちの少なくとも2つの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、単離され、増幅された非胚性で幹性で非生殖性の細胞であって、前記細胞は、培養中に少なくとも10〜40回の細胞倍加を受けている、細胞。
【0044】
20.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記19の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0045】
21.内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のそれぞれの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、上記19の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0046】
22.oct4、テロメラーゼ、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、上記21の非胚性で幹性で非生殖性の細胞。
【0047】
上記細胞は、骨髄、臍帯血、臍帯基質、末梢血、胎盤、胎盤血、筋肉、脳、腎臓および他の実質臓器を包含するがこれらに限定されない任意の所望の組織源から調製され得る。前記細胞は、排泄液(例えば、尿および月経血)由来でもあり得る。
【0048】
一実施形態では、前記細胞は、ヒトの組織由来である。
【0049】
前記中空繊維バイオリアクターの構成において、前記細胞の増幅に関連する目的により変更され得る、いくつかの設計検討およびいくつかのパラメーターが存在する。第一に、前記バイオリアクター中の繊維の数が、変更され得る。複数の繊維または繊維の束が、所望の表面積および高密度の細胞を提供するのに、一般的に使用される。繊維数についての実際の範囲はまた、前記繊維の長さに依存して変更される。このため、前記長さも、可変である。一般的に、前記繊維の長さは、栄養培地を前記細胞と効率的に接触させ、老廃物または所望の細胞生成物を取り出し、前記繊維の基材から前記細胞を効果的に放出する能力によってのみ限定される。したがって、前記繊維の長さの範囲は、変動し得る。更なる設計検討は、繊維壁の厚みである。前記壁の厚みは、可変であり、栄養素を前記細胞に効率的に供給し、前記細胞からの老廃物または有用な生成物を効率的に取り出すパラメーターによってのみ限定される。別の設計検討は、前記繊維壁の孔径である。前記繊維壁の孔径は、前記細胞に栄養素を移動させ、老廃物を運び出し、前記細胞に所望の生成物(例えば、増殖因子)を提供し、前記細胞からの所望の生成物を取り出すなどするのを可能にするように一般的に設計される。例えば、孔径は、(例えば、血清に)存在し得る特定の因子が前記細胞に到達させないようにするのに設計され得る。更なる設計検討は、前記中空繊維の内寸(例えば、円形繊維の直径)である。この選択に関する検討は、前記細胞への前記培養培地の適切なアクセス、適切な栄養素を供給するために適切なアクセス、老廃物を除去するために適切なアクセス、および所望の細胞密度を達成するために適切なアクセスを含む。更なる設計検討は、前記繊維壁の組成である。前記組成としては、細胞が付着し得る基材を提供する、幅広い各種の生体適合性材料があげられる。一部の実施形態では、付着は、前記壁材を付着促進基材(例えば、細胞外マトリクスタンパク質)でコーティングすることにより、改善され得る。
【0050】
さらに、バイオリアクターにおいて、上記種々のパラメーターに関して、2種類以上の繊維が見出され得る。前記繊維は、例えば、異なる細胞タイプを共存培養することが望ましい場合に有用である。最適な繊維設計は、それぞれの細胞によって異なり得る。
【0051】
前記複数の中空繊維は、前記繊維内へおよび/または前記繊維付近に培地を灌流するための注入口および排出口に望ましく連結される外殻に、一般的に収容される。一実施形態では、これらの繊維は、培地が繊維内へおよび/または繊維付近に流れるように、細胞培地が灌流(循環)される増殖チャンバの一部として見出される。一実施形態では、前記繊維は、細胞培養培地および補助剤の注入用のポンプに連結されるカートリッジに入れられる。
【0052】
前記繊維が製造され得る材料は、幅広い各種の生体適合性半透過性材料を含む。このような材料は、前記繊維壁を通して栄養培地を拡散させて前記細胞に供給するのを可能にすると同時に、三次元での細胞増殖を可能にする。
【0053】
本発明に関する細胞は、その細胞と共プレーティングされたか(co−plate)もしくは別個に付着されたかまたは増幅チャンバにおいて別の方法で培養された他の細胞タイプと共に共存培養されてもよい。一実施形態では、前記他の細胞は、本発明の細胞を導入する前に、前記繊維の内表面(または外表面)に付着されてもよい。したがって、本発明の細胞は、所望の細胞タイプの単層上に堆積されてもよい。
【0054】
前記中空繊維は、細胞付着を向上するために、1つ以上の細胞外マトリクスタンパク質(例えば、マトリゲル、フィブロネクチンまたはコラーゲン)で予めコーティングされ得る。細胞外マトリクスタンパク質は、前記繊維の内表面および/または外表面に付着されてもよい。一般的に、細胞外マトリクスタンパク質は、米国特許第5,872,094号および米国特許第6,471,689号に記載の方法のいずれかにより、前記表面に付着されてもよい。前記両文献は、これらの方法の教示に関して、本願明細書に参考として援用される。
【0055】
流速も、増幅されるべき細胞および前記プロセスの段階に依存して可変である。例えば、細胞付着の達成後、細胞播種後に、前記流速は、定常状態レベルへと上げられ得る。前記速度は、前記細胞の接着後に向上され、前記チャンバ内から前記細胞の収集を促進するために、再度上げられる。
【0056】
特注の設計の中空繊維キャピラリー培養システムが、契約に基づいて、多くの種々の供給者により、哺乳類の細胞培養用に直ちに利用できる材料を使用して製造され得る。細胞培養用の一部のタイプの中空繊維システムは、企業、例えば、FiberCell Systems,Inc(Frederick,Md)から市販されている。FiberCell Systems製の前記中空繊維システムは、直径がおおよそ200ミクロンの繊維から構成される。前記繊維は、カートリッジの末端から流された細胞培養培地が前記繊維の内部を通って流れるように設計されたカートリッジ内に封入される。前記細胞は、多孔質の支持体に付着され、前記培養では、何数か月間もの間にわたって連続生産が維持され得る。
【0057】
増幅している/増幅された細胞の分析は、マーカー(例えば、本願に記載のもの)の発現を含んでもよい。さらに、造血マーカー(例えば、CD34およびCD45)の発現の欠損が、分析されてもよい。サンプルの上清および単層は、(a)細胞の形態、(b)倍数性および(c)細胞マーカーについてのin situでのハイブリダイゼーションについて、定期的にモニターされ得る。
【0058】
上記のように、前記バイオリアクター中で増幅される細胞は、まず、単離され、他の培養条件を使用して培養されてもよい。例えば、例示の細胞(「MAPC」と命名)が、まず、単離され、以下の本願明細書に記載のように培養されてもよい。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
ex vivoで細胞を増幅する方法であって、
a)該細胞を中空繊維基材に、該細胞が該基材に付着するように播種する工程;
b)該付着した細胞を、該基材上で増幅する工程;および
c)該増幅された細胞を、該基材から取り出す工程
を含み、該細胞が、非胚性で幹性で非生殖性の細胞であり、該細胞が、テロメラーゼを発現し、トランスフォームされておらず、正常な核型を有する、方法。
(項目2)
さらに、d)前記取り出された細胞を、同一または異なる基材に再度播種する工程;および、e)所望の数の増幅細胞に到達するまで、工程b)〜d)を繰り返す工程を含む、項目1記載の方法。
(項目3)
さらに、前記取り出された細胞を、被験体へ投与する工程を含む、項目2記載の方法。
(項目4)
前記中空繊維基材が、閉じられた連続灌流バイオリアクター内にある、項目1記載の方法。
(項目5)
前記細胞が、約10〜100倍に増幅される、項目3記載の方法。
(項目6)
前記中空繊維が、コーティングされている、項目1〜5に記載の方法。
(項目7)
前記コーティングが、フィブロネクチンである、項目6記載の方法。
(項目8)
繊維中の壁材が、PA/PAES/PVPである、項目7記載の方法。
(項目9)
工程(a)における前記細胞が、実質的に均質な集団を含む、項目1〜8に記載の方法。
(項目10)
工程(a)が、組織由来の細胞を播種する工程を含み、該組織が、骨髄、臍帯血、臍帯基質、末梢血、胎盤、胎盤血、筋肉、脳、腎臓、または他の実質臓器から選択される、項目1〜8に記載の方法。
(項目11)
前記非胚性で幹性で非生殖性の細胞が、さらに、oct4、rex−1、rox−1またはsox−2のうちの1つ以上を発現する、項目1記載の方法。
(項目12)
前記非胚性で幹性で非生殖性の細胞が、内胚葉、外胚葉および中胚葉のうちの少なくとも2つの胚系統のうちの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、項目1および項目11記載の方法。
(項目13)
前記非胚性で幹性で非生殖性の細胞が、内胚葉、外胚葉および中胚葉の胚系統のそれぞれのうちの少なくとも1つの細胞タイプに分化し得る、項目12記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0060】
発明の詳細な説明
本発明は、本願明細書に記載の特定の方法論、プロトコルおよび試薬等に限定されず、したがって、変更してもよいことが理解されるべきである。本願明細書で使用される用語法は、特定の実施形態を説明することのみを目的としたものであり、開示された発明の範囲(これは、特許請求の範囲によってのみ規定される)を限定することを意図していない。
【0061】
セクションの見出しは、本願明細書において編成目的のためにのみ使用され、記載された主題を何らかの面で限定すると解釈されるべきでない。
【0062】
本願の方法および技術は、特に断らない限り、当該分野において周知であって本願明細書全体を通して引用および記載される種々の一般的なおよびより具体的な参考文献に記載の通りの、従来の方法に基づいて一般的に行われる。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(2001)、ならびにAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992)、ならびにHarlowおよびLane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1990)を参照のこと。
【0063】
定義
本願明細書では、「a」または「an」は、1つまたは1つより多く;少なくとも1つを意味する。複数形が本願明細書で使用される場合、それは一般的に、単数形を含む。
【0064】
「バイオリアクター」の用語は、閉じられた滅菌システムにおいて、細胞に栄養素を供給し、代謝産物を除去し、細胞増殖を促す物理化学的環境を提供する、細胞培養システムを指す。
【0065】
本願明細書で使用する場合、「バイオリアクター」の用語は、モニタリングおよび制御された環境および操作条件(例えば、pH、温度、圧力、栄養素供給および老廃物除去)のもとで、生物学的および/または生化学的なプロセスが進行する、任意のデバイスを指す。本発明によれば、本発明で使用するのに適したバイオリアクターの基本的な分類は、中空繊維バイオリアクターを含む。
【0066】
「細胞バンク」は、将来の使用のために増殖および保存をされている細胞についての業界用語である。細胞は、アリコートに分けて保存され得る。前記細胞は、保存を終えて直接使用されてもよく、または、保存後に増幅されてもよい。これは、投与に利用できる「在庫のある」細胞が存在するため、都合が良い。前記細胞は、直接投与されてもよいように、薬学的に許容され得る賦形剤中に既に保存されていてもよく、または、保存から取り出された際に適切な賦形剤と混合されてもよい。細胞は、凍結されてもよいし、生存能力を保つ形態において他の方法で保存されてもよい。本発明の一実施形態では、マクロファージの活性化の増強された調節について細胞が選択されている細胞バンクが作製される。保存から取り出した後でかつ被験体への投与前に、効力、すなわち、マクロファージの活性化の調節レベルについて、前記細胞を再度アッセイするのが、好ましい場合がある。このことは、本願に記載されるかまたはさもなければ当該分野において公知の、直接的または間接的な、アッセイのいずれかを使用して行われ得る。次いで、所望の効力を有する細胞は、処置用に被験体に投与され得る。バンクは、処置される予定の個体由来の(その出生前の組織(例えば、胎盤、臍帯血もしくは臍帯基質)由来の、または、出生後の任意の時点でその個体から増幅された)細胞を使用して作製され得る(自系)。または、バンクは、同種異系の用途のための細胞を含み得る。マスター細胞バンクは、被験体へ投与するための用量を提供するためにさらに増幅され得る細胞アリコートを提供する細胞リザーバである。
【0067】
「臨床的に適切な」数の細胞は、臨床応答(すなわち、被験体における望ましくない病状の予防、低減、改善等)をもたらすのに十分な細胞数を指す。特定の実施形態は、マスター細胞バンクを作製するのに十分な細胞数に関連する。
【0068】
「共投与」(co−administer)は、2つ以上の薬剤を同時にまたは逐次投与することを含め、互いに併用して、一緒に、協調して、投与することを意味する。
【0069】
「含む(comprising)」は、他の限定なしで、他の条件なしで、または他に含まれ得るものを排除せずに、指示物を必ず含むことを意味する。例えば、「xおよびyを含む組成物」は、その組成物に他のどんな成分が存在していたとしても、xおよびyを含む任意の組成物を包含する。同様に、「工程xを含む方法」は、どんなに多くの他の工程が存在していたとしても、そしてそれと比較してxがどんなに単純もしくは複雑であろうとも、xが前記方法における唯一の工程であるかまたは工程の1つでしかないかどうかにかかわらず、xが行われる任意の方法を包含する。「構成される」(comprised of)および「含む」(comprise)の語幹の単語を使用する同様の表現は、「含む」(comprising)の同義語として本明細書で使用され、同じ意味を有する。
【0070】
「構成される(comprosed of)」は、「含む(comprising)」の同義語である(上記を参照のこと)。
【0071】
「馴化細胞培養培地」は、当該分野において周知の用語であり、細胞を増殖させた後の培地を指す。本願明細書では、これは、前記細胞が、本願に記載の結果のいずれかを達成するのに効果的な因子を分泌するのに十分な期間増殖されることを意味する。
【0072】
馴化細胞培養培地は、前記培地中に因子を分泌するように細胞が培養された後の培地を指す。本発明の目的のために、前記培地がこの効果を有するように、細胞は、有効量のこのような因子を産生するように、十分な回数の細胞分裂を通して増殖され得る。細胞は、遠心分離、濾過、免疫枯渇(例えば、タグ化抗体およびマグネティックカラムによる)およびFACSソーティングが挙げられるがこれらに限定されない、当該分野において公知の方法のいずれかにより、前記培地から除去される。
【0073】
「EC細胞」は、テラトカルシノーマと呼ばれるあるタイプのガンの分析から発見された。1964年に、研究者は、テラトカルシノーマ中の単一の細胞が、単離され得ること、および、培養中に未分化のままであることに気付いた。このタイプの幹細胞は、胚性ガン腫細胞(EC細胞)として知られるようになった。
【0074】
「有効量」は、一般的に、所望の局所作用または全身作用を提供する量を意味する。例えば、有効量は、有益または所望の臨床結果を達成するのに十分な量である。前記有効量は、1回の投与で一度に全て提供されてもよく、または、何回かの投与で有効量を提供する分割量で提供されてもよい。有効量と考えられる量の正確な決定は、サイズ、年齢、傷害および/または処置される疾患もしくは傷害、ならびに、傷害が発生したまたは疾患が始まってからの期間を含む、各被験体に独特の要因に基づき得る。当業者であれば、当該分野においては慣用的なこれらの検討に基づいて、所定の被験体についての有効量を決定できる。本願明細書で使用する場合、「有効用量」は、「有効量」と同じことを意味する。
【0075】
「有効経路」は、所望の区画、系または場所への薬剤の送達を提供する経路を、一般的に意味する。例えば、有効経路は、その経路を通って薬剤が投与されて、所望の作用部位において、有益なまたは所望の臨床結果を達成するのに十分な量の薬剤が提供される経路である。
【0076】
「胚性幹細胞(ESC)」は、当該分野において周知であり、数多くの種々の哺乳類種から調製されている。胚性幹細胞は、胚盤胞として知られる初期胚の内部細胞塊に由来する幹細胞である。胚性幹細胞は、3種類の一次胚葉(外胚葉、内胚葉および中胚葉)の全ての誘導体に分化可能である。これらは、成体における220種より多くの細胞タイプの各々を含む。ES細胞は、身体における、胎盤以外のあらゆる組織になり得る。桑実胚細胞のみが全能性であり、全ての組織および胎盤になることができる。ESCに類似の一部の細胞は、除核された受精卵内への体細胞の核の核移植により産生され得る。
【0077】
「増幅する」(expand)は、アウトプット細胞(output cell)の臨床的に適切な回数の細胞分裂を達成することを意味する。「臨床的に適切な」は、臨床的に適切な数のアウトプット細胞を提供するために十分な、これらの細胞の細胞倍加が、前記繊維内および/または前記繊維上で達成されることを意味する。中空繊維バイオリアクター技術は、臨床的に適切な数のアウトプット細胞を産生する実際の細胞増幅以外の目的で使用されてきた。例えば、このようなバイオリアクターは、細胞のインプット集団を分化させ、細胞のインプット集団を富化し、細胞のインプット集団の手段により血液および他の流体を処理すること等に使用されてきた。これらの実施形態では、前記繊維に結合している細胞は、実際のところ、アウトプット細胞ではない。前記細胞は、増幅するためではなく、別の目的で前記繊維に付着されている。それにも関わらず、これらの他の目的を達成するのに使用される時間枠内で、前記インプット細胞の一部は、実際には、増幅し得る。これと本願の技術とを区別するものは、細胞の増幅が臨床的に適切な数で達成されないことである。細胞倍加は限定的である。
【0078】
「中空繊維」の用語は、(溶解した)栄養素をバイオリアクター内に含まれる細胞に送達するために使用するため、および(溶解した)老廃物をバイオリアクター内に含まれる細胞から除去するための、規定のサイズ、形状および密度の孔を含む、(任意の形状の)中空構造を含むことを意図している。本発明の目的に関して、中空繊維は、再吸収可能な材料または再吸収できない材料で構築され得る。繊維としては、チューブ状構造体が挙げられるがこれに限定されない。
【0079】
「挙げられる」(include)の用語の使用は、限定されることを意図していない。
【0080】
「増加する」(increase)または「増加」(increasing)は、予め何も存在しない場合には完全に誘導することを、または、その程度が増加することを意味する。
【0081】
「誘導多能性幹細胞(IPSCまたはIPS細胞)」は、例えば、より分化度の低い表現型を付与する外因性遺伝子を体細胞に導入することにより、リプログラミングされた体細胞である。次いで、これらの細胞は、より分化度の低い子孫に分化するように誘導され得る。IPS細胞は、2006年に最初に発見されたアプローチの改変版を使用して誘導されている(Yamanaka,S.ら、Cell Stem Cell,1:39−49(2007))。例えば、一例では、IPS細胞を作製するために、科学者は皮膚細胞で開始し、次いで、細胞DNA内に遺伝子を挿入するためにレトロウイルスを使用する標準的な研究室の技術によってそれを改変した。一例では、前記挿入された遺伝子は、胚性幹細胞様状態に細胞を維持する天然の調節因子として共に作用することで知られる、Oct4、Sox2、Lif4およびc−mycであった。これらの細胞は、文献に記載されている。例えば、Wernigら、PNAS,105:5856−5861(2008);Jaenischら、Cell,132:567−582(2008);Hannaら、Cell,133:250−264(2008);および、Brambrinkら、Cell Stem Cell,2:151−159(2008)を参照のこと。これらの参考文献は、IPSCおよびそれらを製造する方法の教示について、参考として援用される。このような細胞は、特定の培養条件(特定の薬剤への暴露)により作製され得ることも可能である。
【0082】
前記「インプット細胞集団」は、その細胞タイプの増幅のためにバイオリアクター内に導入され、最終的に前記アウトプット細胞集団を形成する、細胞タイプを指す。前記インプット細胞集団は、非常に少数で、前記バイオリアクター内に導入され得る。例えば、骨髄では、前記所望のインプット細胞集団は、100万個に1つの少なさの細胞数で、最初は見出され得る。または、前記インプット集団は、実質的に均質であり得、例えば、1つの細胞バンクから誘導されて前記バイオリアクター中でさらに増幅され得る。
【0083】
「単離された」の用語は、in vivoにおいて単数または複数の細胞に結合している1つ以上の細胞または1つ以上の細胞成分に結合していない、単数または複数の細胞を指す。「富化された集団」は、in vivoまたは初代培養における1つ以上の他の細胞タイプと比較した、所望の細胞の数の相対的な増加を意味する。
【0084】
しかし、本願明細書で使用する場合、「単離された」の用語は、幹細胞のみが存在することを示しているわけではない。むしろ「単離された」の用語は、前記細胞が、その自然な組織環境から取り出され、前記正常な組織環境と比較して、より高い濃度で存在することを示す。したがって、「単離された」細胞集団は、さらに、幹細胞に加えて、細胞タイプを含んでもよく、更なる組織成分を含んでもよい。これは、例えば、細胞倍加に関しても表現され得る。細胞は、in vivoまたはその元の組織環境(例えば、骨髄、末梢血、脂肪組織等)での、その元の数と比較して富化されるように、in vitroまたはex vivoにおいて、10、20、30、40またはそれより多くの回数の倍加を受け得る。
【0085】
「MAPC」は、「複能性成人前駆細胞」についての頭字語である。MAPCは、胚性幹細胞でも生殖細胞でもないが、これらの一部の特徴を有する細胞を指す。MAPCは、MAPCが発見された際に前記細胞に新規性を与えたそれぞれの、多くの代わりの記載において特徴付けられ得る。このため、MAPCは、それらの記載のうちの1つ以上により特徴付けられ得る。第一に、MAPCは、トランスフォーム(発ガン性)されずに、正常な核型を有して、培養において延長された複製能を有する。第二に、MAPCは、分化すると、2つ以上の胚葉(例えば、2つまたは3つ全ての胚葉(すなわち、内胚葉、中胚葉および外胚葉))の子孫細胞を生じさせ得る。第三に、MAPCは、胚性幹細胞でも生殖細胞でもないが、MAPCは、MAPCがOct3/4(すなわち、Oct3A)、rex−1およびrox−1のうちの1つ以上を発現し得るように、これらの原始細胞タイプのマーカーを発現し得る。MAPCは、sox−2およびSSEA−4のうちの1つ以上も発現し得る。第四に、幹細胞と同様に、MAPCは、自己複製し得る、すなわち、トランスフォームされずに、延長された複製能を有し得る。このことは、これらの細胞が、テロメラーゼを発現する(すなわち、テロメラーゼ活性を有する)ことを意味する。したがって、「MAPC」と命名された前記細胞タイプは、その新規な特性のうちの一部により前記細胞を説明する、別の基本的な特性により特徴づけられてもよい。
【0086】
MAPC中の「成体」の用語は、非限定的である。前記成体は、非胚性体細胞を指す。MAPCは、核型的に正常であり、in vivoで奇形腫を形成しない。この頭字語は、米国特許第7,015,037号において、骨髄から単離された多能性細胞を説明するために最初に使用された。しかしながら、多能性マーカーおよび/または分化能を有する細胞は、その後において発見され、本発明の目的に関して、最初に「MAPC」と命名された細胞と同等であり得る。MAPCタイプの細胞の本質的な説明は、上記発明の概要において提供されている。
【0087】
MAPCは、MSCよりも未分化の前駆細胞集団を提示する(Verfaillie,C.M.,Trends Cell Biol 12:502−8(2002)、Jahagirdar,B.Nら、Exp Hematol,29:543−56(2001);Reyes,M.and C.M.Verfaillie,Ann N Y Acad Sci,938:231−233(2001);Jiang,Y.ら、Exp Hematol,30896−904(2002);および、Jiang,Y.ら、Nature,418:41−9.(2002))。
【0088】
「MultiStem(登録商標)」の用語は、米国特許第7,015,037号のMAPCに基づく細胞調製物、すなわち、上記の通りの非胚性で幹性で非生殖性の細胞についての商標名である。MultiStem(登録商標)は、この特許出願に開示の細胞培養法に従って、特により低い酸素およびより高濃度の血清で調製される。MultiStem(登録商標)は、非常に増幅性が高く、核型的に正常であり、in vivoで奇形腫を形成しない。MultiStem(登録商標)は、2つ以上の胚葉の細胞系統へと分化し得、かつテロメラーゼ、oct3/4、rex−1、rox−1、sox−2およびSSEA4のうちの1つ以上を発現し得る。
【0089】
「栄養溶液」の用語は、バイオリアクターに入り、哺乳類または脊椎動物の細胞の培養に必須の栄養材料を含む溶液を含むことを意図している。栄養溶液は、培養下の細胞の表現型に特定の変化に影響を及ぼすか、または、形成中の新たに形成された骨のマトリクス構造の変化(例えば、鉱化作用)に寄与する、添加剤を含んでもよい。
【0090】
栄養素は、前記バイオリアクター中の前記細胞に送達され、前記バイオリアクターに含まれる細胞の増殖および分化に影響を与える場合がある。前記栄養溶液は、前記バイオリアクター中での生存能力、増殖および/または分化を維持するのに十分な栄養素を、前記細胞に供給するために選択される。当業者であれば、本発明についての適切な栄養溶液を選択可能である。例えば、培地、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地が、使用されてもよく、さらに、他の適切な栄養素が補われてもよい。他の適切な栄養素としては、ウシ胎児血清、L−アスコルビン酸、−2−ホスフェート、抗生物質、細胞モジュレータ、例えば、デキサメタゾン、β−グリセロールホスフェート、グルコース、グルタミン、アミノ酸補充剤、アポトーシスの阻害剤(または活性化剤)、例えば、グルタチオン−エチルエステル、酸化防止剤、カスパーゼ阻害剤、ならびにカチオンおよびアニオン、例えば、マグネシウム、マンガン、カルシウム、リン酸、塩化物、ナトリウム、カリウム、亜鉛および硫酸のイオン、ならびに硝酸および亜硝酸のイオンが挙げられる。前記栄養溶液中の成分の残りの濃度は、前記バイオリアクターにおける増殖を促進し、前記細胞の生存能力を維持するのに十分であるべきである。
【0091】
前記「アウトプット細胞集団」は、前記バイオリアクター中で増幅された後に、前記バイオリアクターから収集することを望んでいる細胞を指す。収集される細胞は、前記バイオリアクターから取り出され、次いで、臨床または他の目的、例えば、研究、臨床試験等に使用されるものと定義される。
【0092】
「始原胚性生殖細胞」(PGまたはEG細胞)は、培養され、刺激されて多くのより分化度の低い細胞タイプを生じ得る。
【0093】
「前駆細胞」(progenitor cell)は、幹細胞の分化中に生成される細胞であって、それらの最終的に分化した子孫の特性の一部を有するが全部は有さない、細胞である。定義の前駆細胞、例えば、「心臓前駆細胞」は、ある系統に拘束されるが、特定のまたは最終的に分化した細胞タイプには拘束されない。頭字語「MAPC」に使用される時の「前駆」の用語は、これらの細胞を、特定の系統には限定しない。前駆細胞は、前記前駆細胞よりも高度に分化した子孫細胞を形成し得る。
【0094】
選択は、組織中の細胞から行われ得る。例えば、この場合、細胞は、所望の組織から単離され、培養中に増幅され、所望の特性について選択され、そして前記選択された細胞は、さらに、増幅される。
【0095】
「自己複製」(self−renewal)は、娘幹細胞を生成した細胞と同一の分化能を有する複製娘幹細胞を生成する能力を指す。この文脈で使用される類似の用語は、「増殖」である。
【0096】
「血清を含まない培地」は、血清が存在しないか、または、存在する場合、血清は、血清成分が細胞の増殖にも生存能力にも影響しないレベルである(すなわち、実際には必要でなく、例えば、残存量または痕跡量である)培地を指す。
【0097】
「幹細胞」は、自己複製(すなわち、同じ分化能を有する子孫)を受け、分化能がより拘束された子孫細胞を生じ得る細胞を意味する。本発明の文脈内で、幹細胞は、(例えば、核移植、より原始的な幹細胞との融合、特定の転写因子の導入、または、特定の条件下での培養により)脱分化した、より分化した細胞も包含する。例えば、Wilmutら、Nature,385:810−813(1997);Yingら、Nature,416:545−548(2002);Guanら、Nature,440:1199−1203(2006);Takahashiら、Cell,126:663−676(2006);Okitaら、Nature,448:313−317(2007)およびTakahashiら、Cell,131:861−872(2007)を参照のこと。
【0098】
分化は、分化を引き起こす、特定の化合物の投与、または、in vitroもしくはin vivoにおける物理的環境への暴露によっても引き起こされ得る。幹細胞は、異常組織、例えば、テラトカルシノーマおよび何らかの他の供給源(例えば、胚様体)から誘導されてもよい(これらは、胚性組織から誘導されたという点で胚性幹細胞と考えられ得るが、内部細胞塊から直接誘導されたわけではない)。幹細胞は、非幹細胞(例えば、誘導多能性幹細胞)内に幹細胞機能に関連する遺伝子を導入することにより、産生されてもよい。
【0099】
「被験体」は、脊椎動物、例えば、哺乳類、例えば、ヒトを意味する。哺乳類としては、ヒト、イヌ、ネコ、ウマ、ウシおよびブタが挙げられるがこれらに限定されない。
【0100】
「廃液」の用語は、バイオリアクターを出る溶液であって、かつ細胞代謝の老廃副産物を含む溶液を含むことを意図している。前記廃液中の、老廃副産物(例えば、アンモニア、乳酸等)の濃度および栄養素(例えば、グルコース)の残存レベルは、バイオリアクターにおいて培養されている細胞の代謝活性レベルを評価するのに使用され得る。
【0101】
バイオリアクター
バイオリアクター、特に、組織再生プロセスに使用されるバイオリアクターは、周知である。例えば、参考として援用される、米国特許第6,306,169号;米国特許第6,197,575号;米国特許第6,080,581号;米国特許第5,677,355号;米国特許第5,433,909号;米国特許第5,898,040号を参照のこと。
【0102】
バイオリアクターは、細胞を培養可能であるとともに細胞の環境についてのある程度の保護を提供する、任意の種類の容器を本質的に包含する一般化された用語である。バイオリアクターは、変数(例えば、増殖培地の組成、酸素濃度、pHレベルおよび容量オスモル濃度)が、完全には制御されず、モニターされていない、静置容器(例えば、フラスコまたは培養バッグ)でもよい。一方、全ての前記変数がモニターされ、制御可能な、完全に自動化された電気機械式の最新式のバイオリアクターが存在する。これらの例の間での多くの組み合わせは、細胞バイオテクノロジーの当業者に周知である。
【0103】
単離された造血幹細胞または前駆細胞の培養に関する3種類の異なる伝統的な取り組み(静置培養、攪拌培養および固定化培養)が、文献に記載されている。静置培養は、非常に単純な培養システム、例えば、ウェルプレート、組織培養フラスコまたはガス透過性培養バッグで行われる。前の2つのシステムは、臨床スケールでの細胞培養を許容しないので、後者が実際には、幹細胞増幅について最も頻繁に使用される技術である(Purdyら、J.Hematother,4:515−525(1995);McNieceら、Hematol Cell Ther,4:82−86(1999);および、McNieceら、Exp Hematol,28:1181−1186(2000a))。これらのシステムは全て、取扱いが容易な、使い捨て器具であるという利点を有し、これにより、容易な細胞収集を可能にする。しかし、これらのシステムでは全て、プロセス制御調節は、インキュベーターの環境の制御を介してもたらされ、連続的な供給は与えられない。このため、培養中の培養条件(例えば、酸素圧、pH、基質、代謝産物およびサイトカインの濃度)のバリエーションは、静置培養の3種類全ての方法で重要な要因である。
【0104】
攪拌バイオリアクターは、動物細胞培養に一般的に使用され、均質な環境、代表サンプルの抽出、プロセス制御のためのより良好なアクセス、および向上した酸素移動を提供する。攪拌技術のいくつか(スピナーフラスコおよび攪拌容器バイオリアクター)が、造血細胞の培養に成功裏に実行されてきた(Zandstraら、Biotechnol,12:909−914(1994))。
【0105】
幹細胞および前駆細胞の固定化は、局所的な高い細胞密度を達成し、間質フィーダー層を使用することなく、組織(例えば、骨髄)の三次元構造を模倣するための試みである。固定化された生体触媒リアクターでは、前記細胞は、キャリア内またはキャリア上に固定化され、互いに結合により固定化されて、より大きい粒子を形成し得るか、または、膜バリア内に閉じ込められ得る。ほとんどのリアクターは、バッチ式、流加回分式または連続式で行われ得る。固定化されたバイオリアクターは、当該分野において周知であり、例えば、従来のリアクター、例えば、標準的な教科書、例えば、Ullmann’s Encyclopedia Of Industrial Chemistry:Fifth edition,T.Campbell,R.PfefferkomおよびJ.F.Rounsaville編,VCH Publishers 1985,Vol A4,pp 141−170;Ullmann’s Encyclopedia Of Industrial Chemistry:Fifth ed.,B.Elvers,S.HawkinsおよびG.Schulz編,VCH Publishers 1992,Vol B4,pp 381−433;J.B.Butt「Reaction Kinetics And Reactor Design」Prentice−Hall,Inc.,1980,pp 185−241に記載のように、連続攪拌タンクリアクター(CSTR)およびパックドベッドリアクター(PBR)である。
【0106】
したがって、バイオリアクターは、静置バイオリアクター、攪拌フラスコバイオリアクター、回転壁容器バイオリアクター、中空繊維バイオリアクターおよび直接灌流バイオリアクターを含む一般的なカテゴリーに基づいて分類され得る。前記バイオリアクター内で、細胞は、浮遊していてもよく、または多孔質の三次元足場(ヒドロゲル)上に播種されて固定化されていてもよい。
【0107】
中空繊維バイオリアクターは、培養中に物質移動を向上させるために使用され得る。したがって、本発明に関して、前記バイオリアクターは、中空繊維バイオリアクターである。中空繊維バイオリアクターは、前記繊維の管腔に埋め込まれた前記幹細胞および/または前駆細胞を有し、培地が管腔外の空間を灌流してもよく、あるいは、中空繊維バイオリアクターは、前記中空繊維を通るガスおよび培地の灌流を供給し、前記細胞が管腔外空間内で増殖してもよい。本発明に適したこのような中空繊維バイオリアクターは、本願明細書に記載のように開示されており、一部は、例えば、Caridian(Terumo)BCT Quantum Cell Expansion System等が市販されている。
【0108】
バイオリアクターは、細胞および細胞の生成物を標準的に製造するための、細胞の生理的要求(例えば、pH、温度、圧力、栄養素、供給および老廃物の除去)を提供する、任意のデバイスと定義される。バイオリアクターは、細胞増殖用のエンジニアリングバイオリアクター中の物質移動を向上させ得る。細胞の連続的な栄養摂取と老廃物の除去が存在する。細胞の自系投与に関して、バイオリアクターは、比較的コンパクトで、使い捨てでき、経済的であるべきである。一般的に、大きなチャンバ/体積比が要求される。最後に、細胞を特定の分化状態で維持するには、増殖因子または血清成分が必要な場合がある。このため、培地含有バイオリアクターが望ましい。これらの必要要件は、Antwilerらに記載の、中空繊維バイオリアクターベースの細胞増幅システムにより満たされる。
【0109】
Antwilerらに記載の装置では、前記システムは、およそ120mlのチャンバ増殖容積を提供するが、より大きいチャンバ容積が適応され得る。増殖用に、1.7m
2の表面積が提供される。したがって、付着細胞および浮遊細胞の両方は、共存培養を含めて、このデバイス内で増殖され得る。他の物理的な特性は、長さ295mm;内径215μm;IC容積104ml;EC容積330ml;繊維数9000である。フィブロネクチンは、付着細胞用のコーティングとして使用されてもよい。前記デバイスは、目的の細胞を増殖させるために必要とされる全て実験条件、例えば、ガス濃度、pH、培地、温度、栄養、老廃物の管理および必要な添加剤を維持し得る。コンタミネーションを防止するために、前記システムは、閉じられた滅菌流体区画を有するように設計される。培地試薬および溶液のバッグは、供給計画、老廃物除去および一般的な細胞培養環境が、要望通りに交換、制御、および最適化されるように、前記システムに取り付けられたままである。前記ユニットは、卓上で使用され得る。細胞は、前記繊維の内側(キャピラリー内)、外側(キャピラリー外)または両側で同時に増殖され得る。この中空繊維バイオリアクター設計は、閉じられたシステムを得るために、適切な螺動ポンプ、ピンチ弁等を通して配管され得るチュービングを使用する直接接続を許容する。ガス制御は、中空繊維酸素供給器を使用して管理される。前記システムは、細胞を添加および収集し、培地を交換し、試薬等を添加する性能にも適合する。このため、バッグは、全ての流体について使用され、バッグ接続は、全て滅菌接続技術を使用する。
図4に、略図が見出される。
【0110】
本願における例示的な実施形態(実施例1)では、連続フローバイオリアクターは、184mlの内部流体量および303mlの外部流体量を有し、合計表面積(キャピラリー内)がおおよそ2.1m
2(3255in
2)、壁厚が50μm、内径が215μmおよび長さが295mmの、1.1×10
4本の中空繊維を含む。孔径は、成分通過に関して、16kDaのカットオフを有する。
【0111】
前記中空繊維は、前記バイオリアクター中での、栄養素の送達および老廃物の除去に適しているべきである。前記中空繊維は、任意の形状でよく、例えば、前記形状は、円形かつチューブ状、または同心円状の輪の形状でもよい。前記中空繊維は、再吸収可能な膜または再吸収可能でない膜で製造され得る。例えば、前記中空繊維の適切な成分としては、ポリジオキサノン、ポリラクチド、ポリグラクチン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/炭酸トリメチレン、セルロース、メチルセルロース、セスロースポリマー、セルロースエステル、再生セルロース、プルロニック、コラーゲン、エラスチンおよびそれらの混合物があげられる。幅広い各種の適切な材料は、当該分野において周知であり、たくさんの文献により提案されている。これらの材料の例示は、米国特許第4,220,725号;米国特許第4,184,922号;米国特許第4,200,689号;米国特許第3,821,087号;米国特許第3,883,393号;米国特許第4,184,922号;米国特許第4,200,689号;米国特許第3,997,396号;米国特許第4,220,725号;米国特許第4,999,298号;米国特許第4,804,628号;米国特許第5,126,238号;米国特許第5,656,421号;米国特許第5,162,225号;米国特許第5,622,857号;米国特許第5,627,070号;米国特許第6,001,585号;米国特許第6,911,201号;米国特許第6,933,144号;米国特許第7,534,609号;ならびに、米国特許出願公開第2007/0298497号;米国特許出願公開第2008/0220523号;米国特許出願公開第2001/0044413号;米国特許出願公開第2009/0196901号;米国特許出願公開第2010/0233130号;米国特許出願公開第2009/0191631号;米国特許出願公開第2005/0032218号;米国特許出願公開第2005/0003530号;米国特許出願公開第2003/0224510号;米国特許出願公開第2006/0205071号;米国特許出願公開第2010/0267134号;米国特許出願公開第2008/0206733号;米国特許出願公開第2010/0209403号;米国特許出願公開第2008/0213894号;米国特許出願公開第2008/0220522号;米国特許出願公開第2008/0227190号;米国特許出願公開第2008/0248572号;米国特許出願公開第2008/0254533号;米国特許出願公開第2010/0144037号;および米国特許出願公開第2010/0042260号に記載されている。前記文献は全て、これらの材料の教示に関して、参考として援用される。壁材の基準としては、下記:細胞に対して非毒性であること;老廃物の除去および栄養素の受け取り用に多孔質であること、例えば、前記細胞により分泌された成分の収集が望ましい場合、多孔度は、そのパラメーターについて調整される;比較的温度変化に反応しないこと、すなわち、熱的に安定であること;形状完全性を保持可能であること、が挙げられるがこれらに限定されない。
【0112】
このような材料は細胞を透過させることができないが、各種所望の材料は透過性であることもまた公知である。このため、前記中空繊維は、栄養素および老廃物を、その内外に通過させるのを可能にする孔を含む。前記中空繊維の孔は、前記中空繊維の一方の側から前記中空繊維の他方の側へと分子を拡散させるのを可能にするに十分な直径である。好ましくは、前記中空繊維の孔を通過し得る分子は、約0.002〜約50kDa、より好ましくは約5〜約25kDa、または最も好ましくは、約2〜約16kDaである。このため、前記繊維壁の孔径は、前記壁を通過することが望まれる成分に応じて変更され得る。例えば、孔径は、小分子のみを通過させ得るか、または、上皮成長因子および血小板由来増殖因子が挙げられるがこれらに限定されない増殖因子を含む、大きなタンパク質性の分子を通過させるのを可能にするように、より大きくてもよい。前記繊維壁を通して通過させて、前記細胞に到達させるかまたは前記細胞から材料を運ぶのが望ましい成分に応じて孔径を変更する方法を、当業者であれば理解するであろう。例えば、更なる使用のために、前記細胞により産生された成分を収集することが望ましい場合がある。前記細胞は、例えば、サイトカイン、増殖因子、免疫調節因子、および、さらに有用な他の成分を発現および分泌し得る。前記細胞から運ばれ得る材料には、前記細胞から除去するのが望まれる老廃物も含まれる。したがって、この技術は、有用な成分を含む、細胞により馴化される培地を製造するのに使用され得る。
【0113】
数多くのバイオリアクター構成が、足場依存性細胞、例えば、本発明のものを培養するために存在する。しかし、本発明は、特定の構成に何ら依存しない。一例が、間葉系幹細胞を増殖するのに使用されている構成を開示する、米国特許出願公開第2007/0298497号において提供される。
【0114】
米国特許出願公開第2007/0298497号における一例(限定することを意味しない)は、
図2に示される中空繊維バイオリアクターである。本発明に使用され得る細胞増幅モジュールまたはバイオリアクター10は、筐体14内に封入された中空繊維膜12の束から製造される。前記中空繊維の束は、まとめて、膜と呼ばれる。筐体またはモジュール14は、円筒状の形状であり、任意の種類の生体適合性ポリマー材料から製造され得る。
【0115】
モジュール14の各端部は、末端キャップまたはヘッダー16、18で塞がれている。末端キャップ16、18は、前記バイオリアクター中で増殖される細胞に生体適合性である材料である限り、任意の適切な材料、例えば、ポリカーボネートで製造され得る。
【0116】
前記モジュール内へのおよびモジュール外への少なくとも4つのポートが存在し得る。2つのポートは、キャピラリー外空間(EC空間)に流体接続しており、1つのポート34は、新鮮なキャピラリー外培地を、前記中空繊維を取り囲む空間内に入れるためのものであり、1つのポート44は、使用済みのキャピラリー外培地を前記モジュールから外へ出すためのものである。2つのポートは、キャピラリー内空間(IC空間)にも流体接続しており、1つのポート26は、新鮮なキャピラリー内培地を前記中空繊維の管腔内に入れるため、ならびに増幅される前記細胞を導入するためのものでもある。1つのポート42は、使用済みのキャピラリー内培地を出し、そして増幅された細胞を前記バイオリアクターから取り出すためのものである。
【0117】
前記バイオリアクター中で増幅される細胞は、前記IC空間または前記EC空間内に流され得る。前記バイオリアクターは、シリンジを使用して細胞がローディングされ得るか、または、前記細胞は、細胞分離器から直接、前記IC空間またはEC空間内に分配され得る。前記細胞は、前記バイオリアクターに無菌でドッキングされ得る細胞投入バッグまたはフラスコ(要素5として示される)から、増殖モジュールまたはバイオリアクター内に導入されてもよい。
【0118】
一実施形態では、使用され得る前記中空繊維壁材としては、商品名Desmopan(登録商標)(Bayer MaterialScience AG、DEから入手可能)として販売される、0.5%熱可塑性ポリウレタン、およびPolyflux(登録商標)の2つのタイプが挙げられるがこれらに限定されない。前記Polyflux(登録商標)は、Polyamix(登録商標)(ポリアミド、ポリアリールエーテルスルホンおよびポリビニルピロリドンのブレンド)(Gambro Dialysatoren,GmBH、Hechingen,Del.から入手できる)(参考として援用される、Hoenichら(2000)ASAIO J.,46:70−75)の膜を有する透析装置についての商品名である。
【0119】
米国特許出願公開第2008/0220523号は、細胞増幅システムおよびそれを使用するための方法を提供しており、特定の実施形態では、それらは、本願明細書に記載の細胞を増殖するのに適している。前記細胞増幅システムは、一般的に、中空繊維細胞増殖チャンバ、ならびに、前記中空繊維の内側および前記中空繊維の外側にそれぞれ関連する、第1および第2の循環ループ(キャピラリー内ループおよびキャピラリー外ループ)を含む。取り外し可能な流れ回路および細胞増幅方法も提供される。前記細胞増殖チャンバは、以下に記載され、
図3にも示される。
【0120】
細胞増殖チャンバ(米国特許出願公開第2008/0220523号)
前記細胞増殖システムの細胞増殖チャンバは、一般的に、第1の流体循環経路と第2の流体循環経路に別れる、複数の半透過性中空繊維から構成される中空繊維膜を含む。
【0121】
例示となる細胞増殖チャンバは、
図3に示される。
図3は、中空繊維細胞増殖チャンバ200の断側面図を示す。細胞増殖チャンバ200は、細胞増殖チャンバ筐体202により境界付けられる。細胞増殖チャンバ筐体202は、さらに、4つの開口部、すなわちはポート:注入口204、排出口206、注入口208および排出口210を含む。
【0122】
前記第1の循環経路中の流体は、注入口204を通って細胞増殖チャンバ200に入り、複数の中空繊維のキャピラリー内側(種々の実施形態において、中空繊維膜のキャピラリー内(「IC」)側または「IC空間」と呼ばれる)に入って通過して、排出口206を通って細胞増殖チャンバ200の外へ出る。用語「中空繊維」、「中空繊維キャピラリー」および「キャピラリー」は、互換的に使用される。複数の中空繊維は、まとめて「膜」と呼ばれる。前記第2の循環経路中の流体は、注入口208を通って前記細胞増殖チャンバ内に流れ、前記中空繊維の外側(前記膜の「EC側」または「EC空間」と呼ばれる)と接触し、排出口210を介して細胞増殖チャンバ200を出ていく。細胞は、前記第1の循環経路または第2の循環経路内に含まれることができ、そして前記膜のIC側またはEC側のいずれの上に存在してもよい。
【0123】
細胞増殖チャンバ筐体202は、形状が円筒状として示されているが、当該分野において公知の任意の他の形状を有し得る。細胞増殖チャンバ筐体202は、任意のタイプの生体適合性ポリマー材料で製造され得る。種々の他の細胞増殖チャンバ筐体は、形状およびサイズが異なってもよい。
【0124】
「細胞増殖チャンバ」の用語は、細胞増幅システム中で増殖または増幅される全ての細胞が、前記細胞増殖チャンバ中で増殖されることを意味しないことを、当業者であれば認識するであろう。付着細胞は、前記増殖チャンバ中に配置される膜に付着し得るか、または、結合しているチューブ内で増殖してもよい。非付着細胞(「浮遊細胞」とも言う)も、増殖され得る。細胞は、前記第1の流体循環経路または第2の流体循環経路内の他の領域で増殖され得る。
【0125】
例えば、中空繊維212の末端は、連結材料(本願明細書では「埋め込み」(potting)または「埋め込み材料」(potting material)とも言う)により前記細胞増殖チャンバの側面に、埋め込まれ得る。前記埋め込みは、中空繊維212を結合するための任意の適切な材料であり、但し、前記中空繊維内への培地および細胞の流れが妨害されず、前記IC注入口を通って前記細胞増殖チャンバ内へと流れる液体が前記中空繊維内にのみ流れるものとする。典型的な埋め込み材料としては、ポリウレタン、または他の適切な結合もしくは接着成分が挙げられるがこれらに限定されない。種々の実施形態では、前記中空繊維および埋め込みは、前記中空繊維の中心軸に対して垂直に通るように両端で切断されて、流体が前記IC側の内外を流れるのを許容し得る。末端キャップ214および216は、前記細胞増殖チャンバの末端に配置される。
【0126】
注入口208を介して細胞増殖チャンバ200に入る流体は、中空繊維の外側と接触する。前記中空繊維細胞増殖チャンバのこの部分は、「キャピラリー外(EC)空間」と呼ばれる。小さい分子(例えば、水、酸素、ラクテート等)が、前記中空繊維を通って、前記中空繊維の内部から前記EC空間へと、または、前記EC空間から前記IC空間へと、拡散し得る。大きな分子量の分子は、典型的には、前記中空繊維を通過するには大きすぎ、前記中空繊維のIC空間に留まる。前記培地は、必要に応じて交換され得る。培地は、必要に応じてガスを交換するために、酸素供給器を通して循環されてもよい。
【0127】
種々の実施形態では、細胞は、シリンジによることを含む、各種方法のいずれかにより、前記中空繊維中に入れられ得る。前記細胞は、流体容器、例えば、バッグから、前記細胞増殖チャンバ内に導入されてもよく、前記流体容器は、前記細胞増殖チャンバに、流体接続してもよい。
【0128】
中空繊維は、前記繊維のキャピラリー内空間中(すなわち、前記中空繊維管腔内部)で細胞を増殖させることが可能なように構成される。中空繊維は、前記中空繊維管腔を通る培地の流れを実質的に妨害せずに、前記管腔中に細胞を付着させるのを可能にするに十分に大きい。種々の実施形態では、前記中空繊維の内径は、10000ミクロン以上、9000ミクロン以上、8000ミクロン以上、7000ミクロン以上、6000ミクロン以上、5000ミクロン以上、4000ミクロン以上、3000ミクロン以上、2000ミクロン以上、1000ミクロン以上、900ミクロン以上、800ミクロン以上、700ミクロン以上、650ミクロン以上、600ミクロン以上、550ミクロン以上、500ミクロン以上、450ミクロン以上、400ミクロン以上、350ミクロン以上、300ミクロン以上、250ミクロン以上、200ミクロン以上、150ミクロン以上または100ミクロン以上であり得る。同様に、前記中空繊維の外径は、10000ミクロン以下、9000ミクロン以下、8000ミクロン以下、7000ミクロン以下、6000ミクロン以下、5000ミクロン以下、4000ミクロン以下、3000ミクロン以下、2000ミクロン以下、1000ミクロン以下、900ミクロン以下、800ミクロン以下、700ミクロン以下、650ミクロン以下、700ミクロン以下、650ミクロン以下、600ミクロン以下、550ミクロン以下、500ミクロン以下、450ミクロン以下、400ミクロン以下、350ミクロン以下、300ミクロン以下、250ミクロン以下、200ミクロン以下、150ミクロン以下または100ミクロン以下であり得る。前記中空繊維の壁の厚みは、小さい分子の拡散を可能にするのに十分である。
【0129】
任意の数の中空繊維が、細胞増殖チャンバに使用され得、但し、前記中空繊維は、前記細胞増殖チャンバの注入口および排出口に、流体接続してもよい。種々の実施形態では、前記細胞増殖チャンバは、1000以上、2000以上、3000以上、4000以上、5000以上、6000以上、7000以上、8000以上、9000以上、10000以上、11000以上または12000以上の数の中空繊維を含み得る。他の実施形態では、前記細胞増殖チャンバは、12000以下、11000以下、10000以下、9000以下、8000以下、7000以下、6000以下、5000以下、4000以下、3000以下または2000以下の数の中空繊維を含み得る。他の種々の実施形態では、前記中空繊維の長さは、100ミリメートル以上、200ミリメートル以上、300ミリメートル以上、400ミリメートル以上、500ミリメートル以上、600ミリメートル以上、700ミリメートル以上、800ミリメートル以上または900ミリメートル以上であり得る。ある実施形態では、前記細胞増殖チャンバは、平均長さ295mm、平均内径215ミクロンおよび平均外径315ミクロンを有する、おおよそ9000の中空繊維を含む。
【0130】
中空繊維は、前記細胞増殖チャンバの注入口から前記細胞増殖チャンバの排出口へと液体を輸送可能な繊維を形成するのに十分なサイズを形成可能な任意の材料から構成され得る。種々の実施形態では、前記中空繊維は、ある種の細胞、例えば、付着幹細胞に結合可能なプラスチック付着材料から構成され得る。種々の他の実施形態では、中空繊維は、付着性表面を形成するために、フィブロネクチン等の化合物で処理され得る。
【0131】
ある実施形態では、前記中空繊維は、半透過性の生体適合性ポリマー材料で製造され得る。使用され得るこのようなポリマー材料の1つは、ポリアミド、ポリアリールエーテルスルホンおよびポリビニルピロリドン(「PA/PAES/PVP」)のブレンドである。前記半透性膜は、栄養素、老廃物および溶解されたガスの移動を、前記EC空間とIC空間との間の膜を通して可能にする。種々の実施形態では、前記中空繊維膜の分子移動の特徴は、細胞増殖に必要な高価な試薬(例えば、増殖因子、サイトカイン等)が前記中空繊維から失われるのを最小化し、同時に、前記膜を通して前記中空繊維管腔側内に、代謝老廃物を拡散させて除去されるのを可能にするのに選択される。
【0132】
あるバリエーションでは、各PA/PAES/PVPの中空繊維の1つの外層が、均質で、所定の表面粗さを有する細孔構造が開口していることにより特徴付けられる。前記細孔の開口部は、0.5〜3μmのサイズ範囲内にあり、前記繊維の外表面上の細孔の数は、1mm
2あたりに、10,000〜150,000個の細孔の範囲内にある。この外層は、約1から10μmの厚みを有する。各中空繊維中の次の層は、スポンジ構造の形状を有する第2の層であり、更なる実施形態では、約1〜15μmの厚さである。この第2の層は、前記外層用の支持体として機能する。前記第2の層の次の第3の層は、指状構造の形状を有する。この第3の層は、機械的な安定性および高い空隙容積を提供し、前記膜を通した分子の輸送に対する非常に低い抵抗性を膜に与える。使用中、前記指状空隙は、流体で充填され、前記流体は、拡散および対流について、より低い空隙容積を有するスポンジ充填構造を有するマトリクスよりも低い抵抗性を与える。この第3の層は、20〜60μmの厚みを有する。
【0133】
更なる実施形態では、前記中空繊維膜は、65〜95重量%の少なくとも1つの疎水性ポリマー、および、5〜35重量%の少なくとも1つの親水性ポリマーを含み得る。前記疎水性ポリマーは、ポリアミド(PA)、ポリアラミド(PAA)、ポリアリールエーテルスルホン(PAES)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリスルホン(PSU)、ポリアリールスルホン(PASU)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテル、ポリウレタン(PUR)、ポリエーテルイミド、および上記ポリマーのいずれかのコポリマー混合物(例えば、ポリエーテルスルホン、またはポリアリールエーテルスルホンとポリアミドとの混合物)からなる群から選択され得る。更なる実施形態では、前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリコールモノエステル、水溶性セルロース誘導体(water soluble cellulosic derivatives)、ポリソルベートおよびポリエチレン−ポリプロピレンオキシドコポリマーからなる群から選択され得る。
【0134】
前記細胞増殖チャンバ中で増幅される細胞のタイプに応じて、前記ポリマー繊維は、細胞増殖および/または前記膜への前記細胞の付着を向上させるために、フィブロネクチン等の物質で処理されてもよい。
【0135】
米国特許出願公開第2008/0220523号および米国特許出願公開第2008/0248572号は、詳細なフローチャートプロトコルを含む、他の詳細なリアクターの実施形態の例も有する。これらの種々の実施形態は、例えば、米国特許出願公開第2008/0220523号の
図1B、1Cおよび1Dに見出され得る。前記フローチャートプロトコルは、
図1Dに関連する。これらのいずれも、本発明の実施に適している。米国特許出願公開第2008/0220522号に開示の実施形態も参照のこと。このテキストの全ては、本発明に従う細胞での使用に関して、これらの実施形態の開示について、参考として援用される。
【0136】
国際公開第2010/034468号は、ケーシングに搭載された、半透性膜により隔てられた2つの区画(2つのアクセスが取り付けられた第1の内部区画、および1または2つのアクセスが取り付けられた第2の外部区画)を含む、別の例示的なデバイスを提供する。両区画は、適切な付着化合物に基づく埋め込み化合物によっても隔てられており、該当する場合には、(i)上記規定の通りの中空繊維束タイプの半透性膜を含む前記デバイスの両区画を分離させる円筒状の仕切り、または、(ii)上記規定の通りのシート膜タイプの半透性膜を含む前記デバイス中の密封を形成することが意図される。
【0137】
別の例示的なデバイスは、外殻内に含まれ、前記中空繊維に対して外部の空間(すなわち、キャピラリー外区画)内の流体が、前記中空繊維およびそれらに対応するオリフィスを通って通過する流体から分離されるように構成される、複数の中空繊維膜を含む。さらに、前記デバイスは、前記デバイスの対向する両端上で前記外殻内に、2つのマニホールド末端チャンバを含む。中空繊維の2つの各オリフィスは、別の末端チャンバに連結する。前記末端チャンバおよび前記キャピラリー外区画は、前記中空繊維の半透性膜により隔てられる。前記キャピラリー外区画内の組成物は、前記中空繊維膜の分子量カットオフまたは孔径により、ある程度まで制御され得る。
【0138】
前記デバイスを操作する一方式では、細胞は、前記キャピラリー外区画で増殖され、一方、栄養培地は、前記中空繊維を通して通過させられる。前記デバイスを操作する別の方式では、細胞は、前記中空繊維の前記キャピラリー内空間(すなわち、管腔)で増殖され、一方、栄養培地は、前記キャピラリー外区画および/または前記キャピラリー内区画を通して通過させられる。前記中空繊維の半透過性の特性により、栄養素および細胞老廃物を、前記中空繊維壁を通って通過させ、一方、細胞が前記中空繊維壁を通って通過するのを防ぐのを可能にする。
【0139】
シェルアンドチューブ型バイオリアクターは、いくつかの利点を提供する。付着細胞に関して、いくつかの中空繊維の使用は、比較的小さい体積内で、細胞が増殖できる大きな表面積を提供する。この大きな表面積は、増殖中の細胞への栄養培地の局在化された分布、および、細胞老廃物の素早い収集も促進する。シェルアンドチューブ型バイオリアクターは、他の細胞培養デバイスで可能であるよりも非常に高い密度での細胞増殖を可能にする。前記バイオリアクターは、1ミリリットルあたり10
8細胞よりも大きい細胞密度をサポートし得る。一方、他の細胞培養デバイスは、典型的には、1ミリリットルあたりおよそ10
6個の細胞の密度が限界である。
【0140】
幹細胞
本発明は、好ましくは、脊椎動物種、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、飼育動物(domestic animal)、家畜および他の非ヒト哺乳類の幹細胞を使用して実施され得る。前記幹細胞としては、以下に記載のそれらの細胞が挙げられるがこれらに限定されない。
【0141】
胚性幹細胞
最もよく研究されている幹細胞は、胚性幹細胞(ESC)である。なぜなら、ESCは、無制限の自己複製能および複能性分化能を有するからである。これらの細胞は、胚盤胞の内部細胞塊から誘導されるか、または、着床後胚の始原生殖細胞(胚性生殖細胞またはEG細胞)から誘導され得る。ES細胞およびEG細胞は、最初はマウスから誘導され、後に多くの異なる動物から誘導され、より最近になって、非ヒト霊長類およびヒトからも誘導された。マウスの胚盤胞または他の動物の胚盤胞に導入された場合、ESCは、その動物の全ての組織に寄与し得る。ES細胞およびEG細胞は、SSEA1(マウス)に対する抗体およびSSEA4(ヒト)に対する抗体によるポジティブ染色法により、同定され得る。例えば、米国特許第5,453,357号;米国特許第5,656,479号;米国特許第5,670,372号;米国特許第5,843,780号;米国特許第5,874,301号;米国特許第5,914,268号;米国特許第6,110,739号;米国特許第6,190,910号;米国特許第6,200,806号;米国特許第6,432,711号;米国特許第6,436,701号、米国特許第6,500,668号;米国特許第6,703,279号;米国特許第6,875,607号;米国特許第7,029,913号;米国特許第7,112,437号;米国特許第7,145,057号;米国特許第7,153,684号;および米国特許第7,294,508号を参照のこと。これらの各文献は、胚性幹細胞ならびに、それらの製造および増幅をする方法を教示することについて、参考として援用される。したがって、ESC、ならびにそれらの単離および増幅方法は、当該分野において周知である。
【0142】
in vivoでの胚性幹細胞の多能性状態に影響を与える数多くの転写因子および外因性サイトカインが同定されてきた。幹細胞の多能性に関与する、記載された最初の転写因子は、Oct4である。Oct4は、転写因子のPOU(Pit−Oct−Unc)ファミリーに属し、プロモーター領域またはエンハンサー領域内に、「オクタマーモチーフ」と呼ばれるオクタマー配列を含む遺伝子の転写を活性化可能なDNA結合タンパク質である。Oct4は、卵筒が形成されるまで、受精した接合体の卵割段階の時に発現される。Oct3/4の機能は、分化誘導遺伝子(すなわち、FoxaD3、hCG)を抑制すること、および、多能性を促進する遺伝子(FGF4、Utfl、Rex1)を活性化することである。高移動度群(HMG)ボックス転写因子のメンバーであるSox2は、Oct4と協働して、内部細胞塊中で発現される遺伝子の転写を活性化する。胚性幹細胞中のOct3/4発現は、特定のレベルの間で維持されるのが必須である。Oct4発現レベルの50%より大きい過剰発現または下方制御は、胚性幹細胞の結末を、それぞれ、原始的な内胚葉/中胚葉または栄養外胚葉により変化させるであろう。in vivoでは、Oct4欠損胚は、胚盤胞期まで発生するが、内部細胞塊の細胞は、多能性ではない。その代わりに、Oct4欠損胚は、胚体外トロホブラスト系譜に沿って分化する。哺乳類のSpalt転写因子である、Sall4は、Oct4の上流制御因子であり、このため、発生学の初期段階中のOct4の適切なレベルを維持するのに重要である。Sall4レベルが、ある閾値を下回って低下した場合、栄養外胚葉細胞は、異所的に増幅して内部細胞塊内へと入る。多能性に必要な別の転写因子は、ケルト族の「ティル・ナ・ノーグ」:常若の楽園にちなんで名付けられた、Nanogである。in vivoでは、Nanogは、後期桑実胚(compacted morula)の段階から発現され、その後、前記内部細胞塊に限定され、着床期により下方制御される。Nanogの下方制御は、多能性細胞の制御されていない増幅を防止し、原腸形成中に多系統の分化を可能にするのに重要である場合がある。5.5日目に単離されたNanogヌル胚は、組織の乱れた胚盤胞からなり、主に胚体外内胚葉を含み、識別可能な胚盤葉上層は含まれない。
【0143】
非胚性幹細胞
幹細胞は、ほとんどの組織で特定されている。おそらく、最も良く特徴決定されているのは、造血幹細胞(HSC)である。HSCは、細胞表面マーカーおよび機能的な特徴を使用して精製され得る、中胚葉由来の細胞である。HSCは、骨髄、末梢血、臍帯血、胎児肝臓、卵黄嚢から単離されている。HSCは、造血を開始し、複数の造血系統を発生させる。致死的な放射線を浴びた動物に移植された場合、HSCは、赤血球系好中球−マクロファージ、巨核球およびリンパ球造血細胞プールを再生息させ得る。HSCはまた、一部の自己複製細胞分裂を受けるように誘導され得る。例えば、米国特許第5,635,387号;米国特許第5,460,964号;米国特許第5,677,136号;米国特許第5,750,397号;米国特許第5,681,599号;および米国特許第5,716,827号を参照のこと。米国特許第5,192,553号には、ヒトの新生児または胎児の造血幹細胞または前駆細胞を単離するための方法が報告されている。米国特許第5,716,827号には、Thy−1
+前駆細胞であるヒト造血細胞、および、in vitroでそれらを再生するための適切な増殖培地が報告されている。米国特許第5,635,387号には、ヒト造血細胞およびそれらの前駆体を培養するための方法およびデバイスが報告されている。米国特許第6,015,554号には、ヒトのリンパ球および樹状細胞を再構成する方法が記載されている。したがって、HSCならびにそれらの単離および増幅のための方法は、当該分野において周知である。
【0144】
当該分野において周知の別の幹細胞は、神経幹細胞(NSC)である。これらの細胞は、in vivoで増殖し、少なくとも一部のニューロン細胞を絶えず再生し得る。ex vivoで培養された場合、神経幹細胞は誘導されて、増殖するとともに種々のタイプのニューロンおよびグリア細胞へと分化し得る。脳内に移植された場合、神経幹細胞は、生着し得、そして神経細胞およびグリア細胞を生じ得る。例えば、Gage F.H.,Science,287:1433−1438(2000)、Svendsen S.N.ら、Brain Pathology,9:499−513(1999)および、Okabe S.ら、Mech Development,59:89−102(1996)を参照のこと。米国特許第5,851,832号には、脳組織から得られた多能性神経幹細胞が報告されている。米国特許第5,766,948号には、新生児脳半球から神経芽細胞を製造することが報告されている。米国特許第5,564,183号および米国特許第5,849,553号には、哺乳類の神経堤幹細胞の使用が報告されている。米国特許第6,040,180号には、哺乳類の多能性CNS幹細胞の培養からの、分化したニューロンのin vitroでの作製が報告されている。国際公開第98/50526号および国際公開第99/01159号には、神経上皮幹細胞、オリゴデンドロサイト−星状細胞前駆体および系統が拘束されたニューロン前駆体の作製および単離が報告されている。米国特許第5,968,829号には、胚前脳から得られた神経幹細胞が報告されている。したがって、神経幹細胞ならびにそれらの製造および増幅のための方法は、当該分野において周知である。
【0145】
当該分野において幅広く研究されてきた別の幹細胞は、間葉系幹細胞(MSC)であるMSCは、胚性中胚葉に由来し、特に成体骨髄、末梢血、脂肪、胎盤および臍帯血を含む数多くの供給源から単離され得る。MSCは、筋肉、骨、軟骨、脂肪および腱を含む、多くの中胚葉性組織に分化し得る。これらの細胞について、かなりの文献が存在する。例えば、米国特許第5,486,389号;米国特許第5,827,735号;米国特許第5,811,094号;米国特許第5,736,396号;米国特許第5,837,539号;米国特許第5,837,670号;および米国特許第5,827,740号を参照のこと。Pittenger,M.ら、Science,284:143−147(1999)も参照のこと。
【0146】
成体幹細胞の別の例は、典型的には、脂肪吸引およびその後のコラゲナーゼを使用したADSCの放出により脂肪から単離された脂肪由来成体幹細胞(ADSC)である。ADSCは、脂肪からはるかに多くの細胞を単離し得ること以外は、骨髄由来のMSCと、色々な点で類似している。これらの細胞は、骨、脂肪、筋肉、軟骨およびニューロンへと分化することが報告されている。単離方法は、米国特許出願公開第2005/0153442号に記載されている。
【0147】
当該分野において公知の他の幹細胞としては、「卵形細胞」とも呼ばれている、消化管幹細胞、上皮幹細胞および肝幹細胞があげられる(Potten,C.,ら、Trans R Soc Lond B Biol Sci,353:821−830(1998)、Watt,F.,Trans R Soc Lond B Biol Sci,353:831(1997);Alisonら、Hepatology,29:678−683(1998))。
【0148】
2つ以上の胚性胚葉の細胞タイプへと分化可能であることが報告された他の非胚性細胞としては、臍帯血からの細胞(米国特許出願公開第2002/0164794号を参照のこと。)、胎盤(米国特許出願公開第2003/0181269号を参照のこと。)、臍帯マトリックス(Mitchell,K.E.ら、Stem Cells,21:50−60(2003))、小型の胚様幹細胞(Kucia,M.ら、J Physiol Pharmacol,57 Suppl 5:5−18(2006))、羊水幹細胞(Atala,A.,J Tissue Regen Med,1:83−96(2007))、皮膚由来前駆体(Tomaら、Nat Cell Biol,3:778−784(2001))および、骨髄(米国特許出願公開第2003/0059414号および米国特許出願公開第2006/0147246号を参照のこと。)が挙げられるがこれらに限定されない。これらの各文献は、これらの細胞の教示について、参考として援用される。
【0149】
体細胞を再プログラム化する戦略
いくつかの異なる戦略、例えば、核移植、細胞融合および培養誘導再プログラム化が、分化細胞の胚性状態への変換を誘導するのに使用されてきた。核移植は、除核した卵母細胞内への体細胞核の注入を含み、これは、代理母へ移植されると、クローンを生じることができ(「生殖型クローニング」)、または、培養において外移植されると、遺伝的に一致した胚性幹(ES)細胞を生じさせることができる(「体細胞核移植」、SCNT)。体細胞とES細胞との細胞融合は、多能性ES細胞の全ての特性を示すハイブリッドの作製をもたらす。培養における体細胞の外移植は、多能性(pluripotent)または多能性(multipotent)であり得る不死の細胞株を選択する。現在、精原幹細胞は、出生後の動物に由来し得る唯一の多能性細胞供給源である。所定の因子による体細胞の形質導入は、多能性状態への再プログラム化を開始し得る。これらの実験的な取り組みは、幅広く概説されてきた(HochedlingerおよびJaenisch,Nature,441:1061−1067(2006)、ならびにYamanaka,S.,Cell Stem Cell,1:39−49(2007))。
【0150】
核移植
体細胞核移植(SCNT)とも呼ばれる核移植(NT)は、ドナーの体細胞からの核を、除核した卵母細胞内に導入して、クローン化した動物(例えば、羊のドリー)を作製することを示す(Wilmutら、Nature,385:810−813(1997))。NTによる生きた動物の作製は、最終的に分化した細胞のものを含め、体細胞の後成的状態は、安定しているが、不可逆的には固定されているのではなく、新たな生物器官の発生に向かうことができる胚性状態に再プログラム化され得ることを実証した。胚発生および疾患に関わる基本的な後成的メカニズムを解明することについての刺激的な実験的取り組みを提供することに加えて、核クローニング技術は、患者特異的な移植医学に関して潜在的に興味深いものである。
【0151】
体細胞と胚性幹細胞との融合
体細胞核の未分化状態への後成的な再プログラム化は、胚細胞と体細胞との融合により生じたマウスハイブリッドにおいて実証されてきた。種々の体細胞と、胚性ガン腫細胞との間のハイブリッド(Solter,D.,Nat Rev Genet,7:319−327(2006))、胚性生殖(EG)細胞もしくはES細胞(ZwakaおよびThomson,Development,132:227−233(2005))との間のハイブリッドは、親の胚性細胞と多くの特性を共有し、このことは、多能性の表現型がこのような融合生成物において優先的であることを示す。マウス(Tadaら、Curr Biol,11:1553−1558(2001))についてと同様に、ヒトES細胞は、融合後に体細胞核を再プログラム化する潜在能力を有する(Cowanら、Science,309:1369−1373(2005);Yuら、Science,318:1917−1920(2006))。サイレントな多能性マーカー(例えば、Oct4)の活性化、または、不活性な体細胞X染色体の再活性化は、前記ハイブリッド細胞における体細胞ゲノムの再プログラム化についての、分子レベルでの証明を提供した。DNA複製は、融合後2日で最初に観察される多能性マーカーの活性化に必須であること(DoおよびScholer,Stem Cells,22:941−949(2004))、および神経幹細胞と融合された場合、ES細胞におけるNanogの強制的な過剰発現が、多能性を促進すること(Silvaら、Nature,441:997−1001(2006))が示唆されてきた。
【0152】
培養誘導再プログラム化
多能性細胞は、胚供給源、例えば、割球および胚盤胞(ES細胞)の内部細胞塊(ICM)、胚盤葉上層(EpiSC細胞)、始原生殖細胞(EG細胞)および出生後精原幹細胞(「maGSCsm」「ES様」細胞)から誘導されている。下記の多能性細胞は、そのドナー細胞/組織と併せて、下記の通りである:単為生殖性(parthogenetic)ES細胞はマウス卵母細胞から誘導される(Narasimhaら、Curr Biol,7:881−884(1997));胚性幹細胞は割球から誘導されている(Wakayamaら、Stem Cells,25:986−993(2007));内部細胞塊細胞(供給源は該当なし)(Egganら、Nature,428:44−49(2004));胚性生殖細胞および胚性ガン腫細胞は始原生殖細胞から誘導されている(Matsuiら、Cell,70:841−847(1992));GMCS、maSSCおよびMASCは精原幹細胞から誘導されている(Guanら、Nature,440:1199−1203(2006);Kanatsu−Shinoharaら、Cell,119:1001−1012(2004);および、Seandelら、Nature,449:346−350(2007));EpiSC細胞は胚盤葉上層から誘導されている(Bronsら、Nature,448:191−195(2007);Tesarら、Nature,448:196−199(2007));単為生殖性(parthogenetic)ES細胞はヒト卵母細胞から誘導されている(Cibelliら、Science,295L819(2002);Revazovaら、Cloning Stem Cells,9:432−449(2007));ヒトES細胞はヒト胚盤胞から誘導されている(Thomsonら、Science,282:1145−1147(1998));MAPCは骨髄から誘導されている(Jiangら、Nature,418:41−49(2002);PhinneyおよびProckop,Stem Cells,25:2896−2902(2007));臍帯血細胞(臍帯血由来)(van de Venら、Exp Hematol,35:1753−1765(2007));神経細胞から誘導された神経球由来細胞(Clarkeら、Science,288:1660−1663(2000))。生殖細胞系統、例えば、PGCまたは精原幹細胞からのドナー細胞は、in vivoでは単能性であることが公知であるが、多能性ES様細胞(Kanatsu−Shinoharaら、Cell,119:1001−1012(2004))またはmaGSC(Guanら、Nature,440:1199−1203(2006))が、長期のin vitro培養後に単離され得ることが示された。これらの多能性細胞タイプの大部分は、in vitroで分化可能であり、奇形腫形成が可能であるのに対し、ES、EG、ECおよび精原幹細胞から誘導されたmaGCSまたはES様細胞のみが、より厳重な基準によっても、多能性であった。なぜなら、これらは、出生後キメラを形成することができ、生殖細胞系統に寄与することができたからである。近年、複能性成体精原幹細胞(MASC)が、成体のマウスにおける精巣の精原幹細胞から誘導され、これらの細胞は、ES細胞の発現プロファイルとは異なる(Seandelら、Nature,449:346−350(2007))が、着床後マウス胚の胚盤葉上層から誘導したEpiSC細胞に類似する(Bronsら、Nature,448:191−195(2007);Tesarら、Nature,448:196−199(2007))発現プロファイルを有した。
【0153】
規定された転写因子による再プログラム化
TakahashiおよびYamanakaは、体細胞を再プログラム化してES様状態に戻すことを報告した(TakahashiおよびYamanaka,Cell,126:663−676(2006))。彼らは、マウス胚性線維芽細胞(MEF)および成体線維芽細胞を、4つの転写因子(Oct4、Sox2、c−mycおよびKlf4)のウイルス媒介形質導入、その後のOct4の標的遺伝子であるFbx15(
図2A)の活性化に関する選択の後、多能性ES様細胞へと成功裏に再プログラム化した。活性化されたFbx15を有した細胞は、iPS(誘導多能性幹)細胞を作られ、奇形腫を形成するその能力により多能性であることを示したが、生きたキメラを生じさせることはできなかった。この多能性状態は、形質導入されたOct4遺伝子およびSox2遺伝子の連続的なウイルス発現に依存した。一方、内在性のOct4遺伝子およびNanog遺伝子は、発現されないか、または、ES細胞中より低いレベルで発現されるかのいずれかであり、それらの各プロモーターは、大部分がメチル化されていることが見出された。このことは、Fbx15−iPS細胞がES細胞に相当しなかったが、再プログラム化の不完全な状態を示し得るとの結論と一致する。遺伝実験により、Oct4およびSox2が多能性に必須であることが確立されているが(ChambersおよびSmith,Oncogene,23:7150−7160(2004);Ivanonaら、Nature,442:533−538(2006);Masuiら、Nat Cell Biol,9:625−635(2007))、再プログラム化における2つのガン遺伝子c−mycおよびKlf4の役割は、それほど明確ではない。これらのガン遺伝子の一部は、実際には、再プログラム化には必ずしも重要ではないかもしれず、なぜなら、マウスおよびヒトの両方のiPS細胞は、低効率においてではあるが、c−mycの形質導入なしでも得られているからである(Nakagawaら、Nat Biotechnol,26:191−106(2008);Werningら、Nature,448:318−324(2008);Yuら、Science,318:1917−1920(2007))。
【0154】
MAPC
ヒトMAPCは、米国特許第7,015,037号に記載されている。MAPCは、他の哺乳類で同定された。ネズミMAPCも、例えば、米国特許第7,015,037号に記載されている。ラットMAPCも、米国特許第7,838,289号に記載されている。
【0155】
これらの参考文献は、Catherine Verfaillieにより初めて単離されたMAPCの記載に関して参考として援用される。
【0156】
MAPCの単離および増殖
MAPCの単離方法は、当該分野において公知である。例えば、米国特許第7,015,037号を参照のこと。そしてこれらの方法は、MAPCの特徴決定(表現型)とともに、本願明細書に参考として援用される。MAPCは、骨髄、胎盤、臍帯および臍帯血、筋肉、脳、肝臓、脊髄、血液または皮膚が挙げられるがこれらに限定されない、複数の供給源から単離され得る。このため、骨髄吸引物、脳または肝臓の生検、および他の臓器を取得し、これらの細胞で発現される(または発現されない)遺伝子に依拠して、当業者が利用可能なポジティブ選択技術またはネガティブ選択技術(例えば、参考として本願明細書に援用される上記参照した出願に開示のものなどの機能的または形態学的なアッセイによる)を使用して、前記細胞を単離することが可能である。
【0157】
MAPCは、Breyerら、Experimental Hematology,34:1596−1601(2006)および、Subramanianら、Cellular Programming and Reprogramming:Methods and Protocols;S.Ding(ed),Methods in Molecular Biology,636:55−78(2010)に記載の改変版の方法でも得られている。前記文献は、これらの方法について参考として援用される。
【0158】
米国特許第7,015,037号に記載のヒト骨髄由来のMAPC
MAPCは、共通の白血球抗原CD45も赤芽球特異的グリコホリン−A(Gly−A)も発現しない。前記細胞の混合集団は、Ficoll Hypaque分離に供された。次いで、前記細胞は、抗CD45抗体および抗Gly−A抗体を使用するネガティブ選択に供され、CD45
+およびGly−A
+の細胞の集団が枯渇させられ、次いで、残ったおおよそ0.1%の骨髄単核細胞が回収された。細胞は、フィブロネクチンでコーティングされたウェルにもプレーティングされ、以下に記載のように、2〜4週間培養されて、CD45
+およびGly−A
+の細胞を枯渇させ得た。付着骨髄細胞の培養では、多くの付着間質細胞は、細胞倍加およそ30で複製老化を受け、より均質な細胞集団が増幅し続け、長いテロメアを維持する。
【0159】
または、ポジティブ選択は、細胞特異的マーカーの組み合わせにより、細胞を単離するのに使用され得る。ポジティブおよびネガティブの両選択技術は、当業者であれば利用可能であり、ネガティブ選択の目的に適した多数のモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体も、当該分野において利用可能であり(例えば、Leukocyte Typing V,Schlossmanら、Eds.(1995)Oxford University Pressを参照のこと)、および、数多くの供給源から市販されている。
【0160】
細胞集団の混合物から哺乳類細胞を分離するための技術は、米国特許第5,759,793号においてSchwartzらにより(マグネティック分離)、1983年にBaschらにより(免疫親和性クロマトグラフィー)、および、1978年にWysockiおよびSatoにより(蛍光活性化細胞ソート)によっても説明されている。
【0161】
細胞は、低血清または血清を含まない培養培地で培養されてもよい。MAPCを培養するのに使用される血清を含まない培地は、米国特許第7,015,037号に記載されている。一般的に使用される増殖因子としては、血小板由来増殖因子および上皮成長因子が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、米国特許第7,169,610号;米国特許第7,109,032号;米国特許第7,037,721号;米国特許第6,617,161号;米国特許第6,617,159号;米国特許第6,372,210号;米国特許第6,224,860号;米国特許第6,037,174号;米国特許第5,908,782号;米国特許第5,766,951号;米国特許第5,397,706号;および米国特許第4,657,866号を参照のこと。血清を含まない培地で細胞を増殖することについて、全てが参考として援用される。
【0162】
さらなる培養方法
さらなる実験において、MAPCを培養する密度は、約100細胞/cm
2または約150細胞/cm
2〜約10,000細胞/cm
2(約200細胞/cm
2〜約1500細胞/cm
2〜約2000細胞/cm
2が挙げられる)変動し得る。前記密度は、種の間で変動し得る。さらに、最適な密度は、培養条件および細胞の供給源によって変動し得る。培養条件とび細胞との所定のセットについて最適な密度を決定することは、当業者の技術範囲内である。
【0163】
また、約10%未満(約1〜5%、および特に3〜5%が挙げられる)の有効な大気中酸素濃度が、培養におけるMAPCの単離、増殖および分化中の任意の時点で使用され得る。
【0164】
細胞は、種々の血清濃度(例えば、約2〜20%)下で培養されてもよい。ウシ胎児血清が、使用されてもよい。より高濃度(例えば、約15〜20%)の血清は、より低い酸素圧との組み合わせで使用されてもよい。細胞は、培養皿への付着前に、選択される必要はない。例えば、Ficoll勾配後に、細胞は、例えば、250,000〜500,000個/cm
2で直接プレーティングされ得る。付着コロニーが、ピックアップされ得、おそらくプールされ得、そして増幅され得る。
【0165】
実施例における実験手法に使用される一実施形態では、高濃度の血清(およそ15〜20%)および低酸素(およそ3〜5%)の条件が、前記細胞培養に使用された。具体的には、コロニーからの付着細胞は、約1700〜2300細胞/cm
2の密度で、18%の血清および3%の酸素(PDGFおよびEGFを含む)において、プレーティングされ、継代される。
【0166】
MAPCに特異的な実施形態では、補助剤は、2つ以上の胚系統(例えば、全ての3つの系統)の細胞タイプに分化する能力をMAPCが保持するのを可能にする、細胞の因子または成分である。これは、未分化状態の特異的なマーカー(例えば、Oct3/4(Oct3A))および/または高発現能のマーカー(例えば、テロメラーゼ)の発現により示されてもよい。
【0167】
細胞培養
以下に列記された全ての前記成分について、これらの成分の教示について参考として援用される、米国特許第7,015,037号を参照のこと。
【0168】
一般的に、本発明に有用な細胞は、当該分野において利用可能および周知の培養培地中で維持および増幅され得る。哺乳類の血清を有する細胞培養培地の添加が意図される。更なる補助剤は、最適な増殖および増幅のための必須微量元素を、細胞に供給するのにも有利に使用され得る。ホルモンも、細胞培養において、有利に使用され得る。脂質および脂質キャリアも、細胞のタイプおよび分化した細胞の運命に応じて、細胞培養培地を補うのに使用され得る。フィーダー細胞層の使用も意図される。
【0169】
幹細胞は、しばしば、固体支持体への前記幹細胞の付着を促進する更なる因子(例えば、ラミニン、I型およびII型のコラーゲン、コンドロイチン硫酸、フィブロネクチン、「スーパーフィブロネクチン」およびフィブロネクチン様ポリマー、ゼラチン、ポリ−Dおよびポリ−L−リジン、トロンボスポンジンならびにビトロネクチン)を必要とする。基底膜由来のタンパク質混合物に基づくかまたは基底膜由来のタンパク質混合物から構成される他の適切なコーティング材料が、使用され得る。これらの一部は、市販されており、例えば、Matrigelである。コーティングは、細胞外マトリクスタンパク質およびそれらの適切な誘導体、ならびにこれらのタンパク質の混合物を使用し得る。本発明の一実施形態では、フィブロネクチンが使用される。例えば、Ohashiら、Nature Medicine,13:880−885(2007);Matsumotoら、J Bioscience and Bioengineering,105:350−354(2008);Kirouacら、Cell Stem Cell,3:369−381(2008);Chuaら、Biomaterials,26:2537−2547(2005);Drobinskayaら、Stem Cells,26:2245−2256(2008);Dvir−Ginzbergら、FASEB J,22:1440−1449(2008);Turnerら、J Biomed Mater Res Part B:Appl Biomater,82B:156−168(2007);および、Miyazawaら、Journal of Gastroenterology and Hepatology,22:1959−1964(2007)を参照のこと。
【0170】
培養において一旦確立されると、細胞は、新鮮に使用されてもよく、または、例えば、20%〜40%のFCSおよび10%のDMSOを含むDMEMを使用して凍結ストックとして凍結および保存されてもよい。一実施形態では、20%のFCSが使用される。培養された細胞についての凍結ストックを調製するための他の方法も、当業者であれば利用可能である。
【0171】
本願の目的に関して、前記更なる培養方法および前記他の培養方法も、上記培地成分および条件に関して、バイオリアクターの方法に適用される。一例として、例示された実施形態では、酸素濃度が5%であり、血清が約19%であり、EGFおよびPDGFの両方が前記培地に添加される。
【0172】
薬学的製剤
米国特許第7,015,037号は、薬学的製剤を教示することについて参考として援用される。ある実施形態では、細胞集団は、送達に適合されかつ適切である(すなわち、生理学的に適合性の)組成物内に存在する。
【0173】
一部の実施形態では、被験体へ投与するための前記細胞(または馴化培地)の純度は、約100%(実質的に均質)である。他の実施形態では、前記純度は、95%〜100%である。一部の実施形態では、前記純度は、85%〜95%である。特に、他の細胞との混合物の場合、前記割合は、約10%〜15%、15%〜20%、20%〜25%、25%〜30%、30%〜35%、35%〜40%、40%〜45%、45%〜50%、60%〜70%、70%〜80%、80%〜90%または90%〜95%であり得る。または、単離/純度は、細胞倍加に関して表現されることができ、ここで、前記細胞は、例えば、10〜20、20〜30、30〜40、40〜50、またはそれより多くの細胞倍加を受けている。
【0174】
所定の用途に前記細胞を投与するための製剤の選択は、各種の要因により決まる。これらのうち突出しているものは、被験体の種、処置される状態の性質、被験体におけるその状態および分布、投与中の他の治療および薬剤の性質、投与についての最適な経路、前記経路を介した生存性、投与レジメン、ならびに、当業者に明らかであろう他の要因である。例えば、適切なキャリアおよび他の添加剤の選択は、投与の正確な経路および具体的な投与形態の性質により決まるであろう。
【0175】
細胞/培地の水性懸濁液における最終的な製剤化は、典型的には、前記懸濁液のイオン強度を、等張性(すなわち、約0.1から0.2)および生理学的pH(すなわち、約pH6.8から7.5)に調節することを含む。前記最終的な製剤は、典型的には、流体状の滑沢剤も含む。
【0176】
一部の実施形態では、細胞/培地は、単位投与量の注射可能形態(例えば、溶剤、懸濁剤またはエマルジョン剤)に製剤化される。細胞/培地の注射に適した薬学的製剤は、典型的には、滅菌された水溶液および分散物である。注射可能製剤用のキャリアは、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール等)、およびそれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒であり得る。
【0177】
当業者は、本発明の方法で投与される組成物中の細胞、ならびに必要に応じた添加剤、ビヒクルおよび/またはキャリアの量を、容易に決定し得る。典型的に、(前記細胞に加えて)任意の添加剤は、溶液(例えば、リン酸緩衝食塩水)中に、0.001〜50wt%の量で存在する。前記有効成分は、マイクログラムからミリグラムのオーダー、例えば、約0.0001〜約5wt%、好ましくは約0.0001〜約1wt%、最も好ましくは約0.0001〜約0.05wt%、または、約0.001〜約20wt%、好ましくは約0.01〜約10wt%および最も好ましくは、約0.05〜約5wt%で存在する。
【実施例】
【0178】
実施例1:中空繊維バイオリアクター細胞増幅システムによる、細胞バンク由来のMultiStemの増幅
本質的に米国特許出願公開第2008/0220523号およびAntwilerらに記載のとおりの細胞増幅システムを、MultiStemのインプット集団を増幅するのに使用した。MultiStemは、実質的に均質な集団である。前記システムを、Quantum CESと命名した。Quantum CESは、自系増幅に特に有用な卓上増幅システムを提供した(しかし、Quantum CESは、同種異系増幅にも有用である。)。本願に示される結果に基づいて、10
8個より多くの細胞が、1つのドナーから取得され得る。
【0179】
Multi−Stemを、凍結された細胞バンクに保存された後、解凍した。2回の実験に関して、10×10
6個のMultiStemを、184mlの内部流体量および303mlの外部流体量を有し、合計表面積(キャピラリー内)がおおよそ2.1m
2(3255in
2)、壁厚が50μm、内径が215μmおよび合計長さが295mm(繊維あたり平均30mm、10〜50mmの範囲)の、1.1×10
4本の中空繊維を含む、連続フローバイオリアクター内に接種した。孔径は、おおよそ16kDaのカットオフを有した。前記細胞は、前記中空繊維の内側に付着した。細胞を、6日間培養した。752×10
6個、753×10
6個および782×10
6個の細胞を、同じ播種ストックから開始した3つの独立した実験において産生した。
【0180】
流速は、変動させ得たが、一般的に、栄養素を十分な量で供給し、老廃物を十分な量で除去するように、細胞が増殖するにつれて上昇させた。一般的に、前記流速を、およそ10倍向上させ得る。しかし、このパラメーターは、前記培地中の前記老廃物(例えば、ラクテート)およびグルコースのレベルをモニターすることにより調節した。
【0181】
前記壁材は、PA/PAES/PVPの複合材であった。
【0182】
また、この特定の実施形態では、前記繊維を、フィブロネクチンでコーティングした。
【0183】
確立された細胞、すなわち、予め単離され、増幅され、実質的に精製された培養物から誘導されたものに関して、5mgのフィブロネクチンを使用し、コーティングをオーバーナイトで行う。次いで、前記コーティングを洗い流し、培地によって置換する。播種後、前記細胞を、細胞内ループを通る流れなしに、24時間付着させる。その後、供給速度を、1分あたり約0.1mlで開始する。ラクテートレベルおよび前記細胞の倍加速度に基づいて、前記供給速度を、おおよそ24時間毎に2倍にする。最初の3日で、本発明者らは、ラクテートレベルを、およそ0.5g/lで維持することを試みた。最後の3日間で、前記ラクテートを、最大1.5g/lで、およそ1g/lで維持する。最終日(すなわち、前記細胞が最大に増幅された時)に、前記供給速度は、約3ml/分とする。
【0184】
約200mlの2.5%トリプシンを使用して、2.5分のインキュベーション期間、約500mlの収集体積で、細胞を収集する。
【0185】
骨髄吸引物を使用する場合、キャピラリー内表面を、約10mgのフィブロネクチンで、48時間の付着段階でコーティングする。前記供給速度を、前記ラクテートレベルが0.4〜0.5g/lに上昇する場合、前記供給速度が2倍になるように調節する。前記速度は、一般的に、確立された細胞から開始する培養物と比較して、高くない。1回の実験では、約25〜30mlの骨髄吸引物を、合計BMMCから約4×10
6個の細胞を産生するのに使用した。そのため、骨髄を、無核の細胞を除去するために、ficoll勾配に供した。
【0186】
詳細は、
図5に見出される。前記フロースキームには、2つのループ:キャピラリー内(IC)およびキャピラリー外(EC)のループが含まれる。前記ICループは、3つの注入ライン:細胞ライン、試薬ラインおよびIC培地ラインを有する。バッグは、細胞、コーティング剤、トリプシンおよび培地を添加するために、これらのラインに取り付けられる。各ラインは、バルブにより制御される。前記バルブは、開または閉の2つのポジションを有する。注入速度は、IC注入ポンプ(1)により制御される。前記システム内の循環は、IC循環ポンプ(2)により制御される。IC回路には、150mlが含まれる。ECループは、2つの注入ライン:洗浄(溶液)ラインおよびEC培地ラインを有する。バッグは、PBSで洗浄するため、および、前記ECループに培地を添加するために、これらのラインに取り付けられる。EC注入速度は、EC注入ポンプ(3)により制御される。この回路内の循環は、EC循環ポンプ(4)により制御される。前記ECループには、酸素供給器が存在する。この酸素供給器は、外部ガスシリンダー(MultiStemに関して、これを、90%N
2;5%O
2;5%CO
2とする)に取り付けられており、前記EC培地についてのガス濃度を維持する。前記IC培地は、前記バイオリアクターにおける膜を通したガスの灌流により、平衡にされる。前記EC回路には、およそ250mlが含まれる。溶液/細胞を前記システムから取り出す2つの手段:老廃物バッグまたは収集バッグが存在する。前記ICループおよびECループは、バルブにより制御される、前記老廃物バッグへの接続を有する。前記収集バッグは、前記ICループにのみ接続され、バルブによても制御される。
【0187】
前記インプット集団と前記アウトプット集団とを比較した。具体的には、前記インプット集団を、特定の選択された遺伝子の遺伝子発現について評価し、これを、前記アウトプット集団と比較した。さらに、形態および倍数性を比較した。前記アウトプット集団は、測定されたパラメーターに関して、前記インプット集団と実質的に同一であった。
【0188】
実施例2:中空繊維バイオリアクター細胞増幅システムにおける骨髄由来のMultiStemの産生
上記細胞増幅システムを、骨髄単核細胞由来のMultiStemを産生するのに使用した。増幅結果を、
図6に示す。1つの可能性のあるレジメンでは、骨髄吸引物から開始して17日以内に、MultiStemマスター細胞バンクを作製可能である。これは、骨髄から15回の集団倍加までの1回の実行およびこの収集物が18.5回の集団倍加を達成するまでの増幅の実行を必要とし、そして平均10回の実行によりマスター細胞バンクが作製される(2000万個の細胞のバイアル200本)。次いで、これら200本のバイアルを、作業細胞バンクを作製するのに使用し得る。この概略図を、
図7に示す。しかし、前記マスター細胞バンクは、例えば、10倍多い細胞までまたは10倍少ない細胞まで増加または減少させられ得る。
【0189】
前記アウトプット細胞は、増幅後に、MultiStemに関連する免疫調節特性を有し、テロメラーゼを発現した。