(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182183
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】デュロキセチン塩基及びデュロキセチン塩酸塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 333/20 20060101AFI20170807BHJP
A61K 31/381 20060101ALN20170807BHJP
A61P 25/04 20060101ALN20170807BHJP
A61P 25/24 20060101ALN20170807BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
C07D333/20
!A61K31/381
!A61P25/04
!A61P25/24
!A61P43/00 111
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-136244(P2015-136244)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-19727(P2017-19727A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】助川 潤平
(72)【発明者】
【氏名】赤松 久
(72)【発明者】
【氏名】稲越 直人
【審査官】
新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2007−523213(JP,A)
【文献】
特開昭63−185946(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/130708(WO,A2)
【文献】
国際公開第2007/095200(WO,A2)
【文献】
VALENTA, Vladimir et al.,1-[3-(2-Alkoxyphenoxy)-3-phenylpropyl]piperazines and some related compounds,Collection of Czechoslovak Chemical Communications,1981年,Vol. 46, No. 5,pp. 1280-1287,ISSN: 0010-0765, DOI: 10.1135/cccc19811280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 333/20
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(II)
【化1】
で表されるデュロキセチン塩基の製造方法であって、
下記式(I)
【化2】
(式中、RはC1〜C4のアルキル基を表す)
で表されるデュロキセチンアルキルカルバメート、水酸化カリウムおよびトルエンを低級アルコールの存在下に混合する工程、及び
得られた混合液を加熱して反応させ、反応中に一部の溶媒を留去する工程を含む、デュロキセチン塩基の製造方法。
【請求項2】
前記水酸化カリウムを前記低級アルコールに溶解させて、その後、前記デュロキセチンアルキルカルバメートを溶解させたトルエン溶液と混合する、請求項1に記載のデュロキセチン塩基の製造方法。
【請求項3】
前記式(I)の式中、Rがエチルである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記低級アルコールがエタノールである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応温度が95度から100度である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の製造方法によってデュロキセチン塩基を得て、その後、得られたデュロキセチン塩基をデュロキセチン塩酸塩に変換することを含む、デュロキセチン塩酸塩の製造方法。
【請求項7】
メチルエチルケトンおよびメタノールを含む混合溶媒を用いて、前記デュロキセチン塩酸塩に変換することを特徴とする、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学異性体および分解物の生成を抑えた、高純度のデュロキセチン塩基及びデュロキセチン塩酸塩を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デュロキセチン塩酸塩は、セロトニンおよびノルアドレナリン再取り込み阻害薬の一つであり、うつ病・うつ状態、および糖尿病性神経障害に伴う疼痛の治療に用いられ、日本ではサインバルタ(登録商標)カプセルとして発売されている。
【0003】
デュロキセチン塩酸塩は、化学名は(S)−(+)−N−メチル−3−(1−ナフチルオキシ)−3−(2−チエニル)プロピルアミン塩酸塩で表され、構造式は下記式(III)で表される構造を有する。
【0004】
【化1】
前記デュロキセチン塩酸塩を製造する際の中間体として、デュロキセチン塩基が知られている(特許文献1)。また、特許文献2および特許文献3には、デュロキセチン塩基の改良された製造方法およびデュロキセチン塩酸塩の製造方法が開示されている。
【0005】
以下に特許文献1〜4に記載の代表的なデュロキセチン塩酸塩の製造スキームを示す。
【0006】
【化2】
すなわち、これまでに報告されている代表的なデュロキセチン塩酸塩の製造方法は、前記スキームに示すように、まず、工程1−2で、2−アセチルチオフェン、ジメチルアミン塩酸塩およびパラホルムアルデヒドとの反応により3−ジメチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンを得て、還元し,光学活性マンデル酸との塩形成によって(S)−(−)−N,N−ジメチル−3−(2−チエニル)−3−ヒドロキシプロピルアミンを得る。次いで、工程3で、N,N−ジメチル−3−(2−チエニル)−3−ヒドロキシプロピルアミンと1−フルオロナフタレンと反応させ、続く工程4で脱メチル化を行い、工程5で塩基性加水分解によるデュロキセチン塩基の調製を行う。そして、工程6において、デュロキセチン塩基に塩酸を加えて、デュロキセチン塩酸塩を得ることができる。
【0007】
特許文献1、特許文献2および特許文献3においては、工程4でクロロホルメート、好ましくはフェニルクロロホルメートまたはトリクロロエチルクロロホルメートとの反応によって、デュロキセチンカルバメートを製造し、その後、工程5においてカルバメートを塩基中で加水分解することによってデュロキセチン塩基を製造する方法が開示されている。また、特許文献2においてはデュロキセチンカルバメートを亜鉛および蟻酸との混合物の存在下で脱離させた後、塩基中で加水分解することによってデュロキセチン塩基を製造する工程が報告されている。
【0008】
さらに、デュロキセチンアルキルカルバメートをデュロキセチン塩基及びその塩に変換する改良方法として、トルエンおよび水酸化カリウムを用いたデュロキセチン塩基の製造方法が報告されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63−185946号公報
【特許文献2】特開平04−226948号公報
【特許文献3】特開平07−188065号公報
【特許文献4】特開2004−123596号公報
【特許文献5】特表2007−523213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前記スキームの合成経路に記載の工程4および5における公知の脱メチル化工程について、前記特許文献1〜4に記載されている製造方法では、中間体であるデュロキセチンカルバメートの製造にフェニルクロロホルメートまたはトリクロロエチルクロロホルメートを用いているため、工程5において毒性を有するフェノールまたはトリクロロエタノールを生成してしまうという問題があった。さらに特許文献2では金属である亜鉛を用いているため、医薬品原料として使用する場合に煩雑な精製工程が必要となり、また、金属が残留するおそれもある。
【0011】
特許文献5記載の方法では、水酸化カリウムのトルエンへの溶解度が低いために、目的の中間体であるデュロキセチン塩基への転換率が低いこと、また、反応を進行させるには高い温度が必要であることが知られている。よって、反応混合液をトルエンの還流温度まで加熱する必要があったが、そのせいで起こるラセミ化や分解物の生成が課題であった。
【0012】
従って、高純度のデュロキセチン塩基の製造のための更なる改善が求められているのが現状である。
【0013】
本発明はこれらの課題を解決するものであり、毒性を有する副生成物を抑制し、光学異性体および分解物の生成を抑えた高純度のデュロキセチン塩基並びにデュロキセチン塩酸塩を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様に係る、下記式(II)
【0015】
【化3】
で表されるデュロキセチン塩基の製造方法は、
下記式(I)
【0016】
【化4】
(式中、RはC1〜C4のアルキル基を表す)
で表されるデュロキセチンアルキルカルバメート、水酸化カリウムおよびトルエンを低級アルコールの存在下に混合する工程、及び
得られた混合液を加熱して反応させ、反応中に一部の溶媒を留去する工程を含むことを特徴とする。
【0017】
前記製造方法において、前記水酸化カリウムを前記低級アルコールに溶解させて、その後、前記デュロキセチンアルキルカルバメートを溶解させたトルエン溶液と混合する、ことが好ましい。
【0018】
また、前記式(I)の式中、Rがエチルであることが好ましい。
【0019】
さらに、前記低級アルコールがエタノールであるであることが好ましい。
【0020】
また、前記製造方法において、前記反応温度が95度から100度であることが好ましい。
【0021】
本発明の他の態様によるデュロキセチン塩酸塩の製造方法は、上述の製造方法によって得られたデュロキセチン塩基を、デュロキセチン塩酸塩に変換することを含むことを特徴とする。
【0022】
さらに、前記デュロキセチン塩酸塩の製造方法において、メチルエチルケトンおよびメタノールを含む混合溶媒を用いて、前記デュロキセチン塩酸塩に変換することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来よりも優れた、毒性を有する副生成物を抑制し、光学異性体および分解物の生成を抑えた高純度のデュロキセチン塩基並びにデュロキセチン塩酸塩を製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一態様に係る、下記式(II)
【0025】
【化5】
で表されるデュロキセチン塩基の製造方法は、
下記式(I)
【0026】
【化6】
(式中、RはC1〜C4のアルキル基を表す)
で表されるデュロキセチンアルキルカルバメート、水酸化カリウムおよびトルエンを低級アルコールの存在下に混合する工程、及び
得られた混合液を加熱して反応させ、反応中に一部の溶媒を留去する工程を含むことを特徴とする。
【0027】
このような製法によれば、毒性を有する副生成物を抑制し、光学異性体および分解物の生成を抑えて高純度のデュロキセチン塩基を提供することができる。
【0028】
これは以下の理由によると考えられる。上述の通り、前記スキームにおける工程5のように、デュロキセチンアルキルカルバメートのデュロキセチン塩基への変換には水酸化カリウムおよびトルエンを用いた製造方法が広く知られている。本発明では、この反応系中にさらに水酸化カリウムのトルエンへの溶解性の低さを改善するために、低級アルコールを介在させることで反応液を均一とした。これにより、デュロキセチンアルキルカルバメートからデュロキセチン塩基への転化率を向上させることができる。ただし、トルエン−低級アルコール混合溶媒は共沸混合物を形成するため、トルエンの単一溶媒に比べ還流温度が低下する。そこで、反応系内部の温度を上昇させるために反応中に加熱を行い、反応溶媒の一部を留去することで、従来の方法と比べて速やかに反応が進行し、光学異性体および分解物の生成を抑制した製造を行うことができると考えられる。
【0029】
以下、本発明に係る実施形態についてより具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0030】
本実施形態のデュロキセチン塩基の製造方法は、前記式(I)で示されるデュロキセチンアルキルカルバメート、水酸化カリウムおよびトルエンを低級アルコールの存在下に混合する工程、並びに、その混合液を加熱して反応させ、反応中に一部の溶媒を留去する工程を含むことを特徴とする。上記工程を含んでいれば、その他の工程については特に限定はない。
【0031】
本実施形態のデュロキセチンアルキルカルバメートは好ましくは(S)−デュロキセチンアルキルカルバメートであり、デュロキセチン−塩基は好ましくは(S)−デュロキセチン塩基である。
【0032】
本実施形態において、前記式(I)で示されるデュロキセチンアルキルカルバメートは、公知の合成方法によって得ることができる。例えば、前記スキームに示される工程1〜4によってデュロキセチンアルキルカルバメートを得ることができる。具体的には、まず、
2−アセチルチオフェンとジメチルアミン塩酸塩との反応により得た3−ジメチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノンを還元、光学分割することで(S)−(−)−N,N−ジメチル−3−(2−チエニル)−3−ヒドロキシプロピルアミンを得る(工程1−2)。次に、1−フルオロナフタレンとの反応により、N,N−ジメチル−デュロキセチンを得る(工程3)。続いて、対応するアルキルクロロホルメートとの反応により、前記式(I)で示されるデュロキセチンアルキルカルバメートを製造することができる(工程4)。
【0033】
本実施形態で使用される、前記式(I)で示されるデュロキセチンアルキルカルバメートにおいて、式(I)中、RはC1〜C4のアルキル基である。前記アルキル基は、直鎖状でも分岐状でもよく、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基およびイソプロピル基からなる群より選択される少なくとも1種である。さらに好ましくは、前記アルキル基はエチル基である。
【0034】
R基が前述のようなアルキル基であることにより、従来の製造方法でデュロキセチンアルキルカルバメートのデュロキセチン塩基への変換にともない生成されていたカルバメート由来のアルコール副生成物の生成を抑制することができる。従来の製造法で生成されるフェノールのような毒性の高い副生成物は好ましくないため、そのような副生成物を抑制できることは、環境面での配慮や医薬品原料として使用することを考慮すると、非常に有利である。
【0035】
本実施形態で使用される水酸化カリウムは、固体(粒)であっても溶液であってもよいが、固体を溶解させる場合は溶解に要する時間が長くなるおそれがあるため、予め低級アルコールに溶解させておき、その水酸化カリウムを溶解させた低級アルコール溶液を、前記デュロキセチンアルキルカルバメートを溶解させたトルエン溶液と混合することがより好ましい。
【0036】
本実施形態の製造方法における水酸化カリウムの使用量は、通常、前記デュロキセチンアルキルカルバメートに対して2〜10倍量であり、好ましくは、4〜6倍量である。水酸化カリウムの量が、前記デュロキセチンアルキルカルバメートに対して2倍量未満であると、反応速度が低下するおそれがあり、一方で、10倍量を超えると水酸化カリウムを溶解するためのエタノール量が増えて、生産効率が低下するため工業的に好ましくない。
【0037】
本実施形態で使用される低級アルコールは、特に限定はされないが、例えば、C1〜C4の低級アルコールである。好ましくは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種であり、さらに好ましくはエタノールである。
【0038】
低級アルコールがエタノールであると、メタノールよりも沸点が高く、プロパノール等よりも水酸化カリウムの溶解度が高いといった利点がある。また、デュロキセチンエチルカルバメートを原料とする場合は、副反応のエステル交換反応における原料と生成物が同一の構造であるため、反応が複雑にならないという利点がある。
【0039】
本実施形態の製造方法における低級アルコールの使用量は、通常、前記デュロキセチンアルキルカルバメートに対して2〜10倍量であり、好ましくは3〜6倍量である。低級アルコールの量が、前記デュロキセチンアルキルカルバメートに対して2倍量未満であると、水酸化カリウムを溶解する際発熱の制御が困難であり、一方で、10倍量を超えると反応中にこれを留去するために長時間を要し、工程全体の時間が延長するので好ましくない。
【0040】
また、本実施形態の製造方法において、前記デュロキセチンアルキルカルバメートを溶解させるトルエンの使用量は、通常、前記デュロキセチンアルキルカルバメートに対して2〜10倍量であり、好ましくは3〜6倍量である。トルエンの量が、前記デュロキセチンアルキルカルバメートに対して2倍量未満であると、溶媒を留去する際に反応系内部の温度を上昇させづらくなるおそれがあり、一方で、10倍量を超えると反応速度が低下する可能性がある。
【0041】
本実施形態の製造方法では、前記水酸化カリウム、前記低級アルコール、及び前記デュロキセチンアルキルカルバメートを溶解させたトルエン溶液を混合し、あるいは、前記水酸化カリウムを溶解させた低級アルコール溶液を、前記デュロキセチンアルキルカルバメートを溶解させたトルエン溶液と混合する。
【0042】
次に、上記で得られた混合液を加熱することにより反応させつつ、反応溶媒の少なくとも一部を留去する。それにより、反応系内部の温度が上昇し、速やかに反応が進行すると考えられる。
【0043】
なお、反応溶媒の一部の留去について、その手段は特に限定はされないが、例えば、ディーン・スターク装置を使用すること等によって行うことができる。また、留去量はコックの開閉によって適宜調整することができる。
【0044】
本実施形態における前記混合液の加熱は、反応が進行するような温度となるように行う限り特に限定はされないが、反応温度が90〜105℃、好ましくは95〜100℃程度になるように加熱することが好ましい。反応温度が90℃より低くなると反応速度が遅くなり、また、内温が110℃を超えると光学異性体および分解物が増加するおそれがある。
【0045】
また、加熱する時間については加熱温度などによっても異なるが、本実施形態では上記温度に達した後速やかに反応が進行するため、通常、1〜6時間程度、好ましくは2〜4時間加熱を行う。反応の進行はHPLC等で追跡して、原料であるデュロキセチンアルキルカルバメートの消失を確認した時点で反応を止めることが好ましい。
【0046】
本実施形態では、上述したように、反応液(溶媒)の一部を留去することによって、反応液の温度を上昇させて反応の進行を促すことができる。反応温度にまで反応液の温度が達した後、さらに溶媒の留去する場合の頻度や留去量については、温度変化に合わせてその都度適宜行うことができる。また、反応の進行と共に無機塩が析出して温度低下が起こる場合などには、再度溶媒を留去してもよい。
【0047】
本実施形態の上述の反応は加熱を終了することで止めることができる。得られた反応液を冷却し、その後、常法に従って生成物を有機層に抽出し、精製し、上記式(II)で示されるデュロキセチン塩基を得ることができる。さらに、得られたデュロキセチン塩基の粗生成物は精製を行うことなく、常法に従って塩にすることもできる。
【0048】
本実施形態の製造方法により得られる、上記式(II)で示されるデュロキセチン塩基は、公知の方法等によって、デュロキセチン塩酸塩へ導くことができる。具体的な一例としては、前記デュロキセチン塩基(IIa)のトルエン溶液や酢酸エチル溶液等に、塩酸やHCl酢酸エチル溶液を加え、析出した結晶を濾取することにより、デュロキセチン塩酸塩を得ることができる。
【0049】
本実施形態の塩酸塩化に用いる溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン、メタノール、トルエン、およびそれらの混合溶媒等が好ましい例示として挙げられる。
【0050】
上述のようにして得られるデュロキセチン塩基およびデュロキセチン塩酸塩を用いて、有効成分としてその適量を含有する医薬組成物を調製することができる。調製された医薬組成物は、うつ病・うつ状態、および糖尿病性神経障害に伴う疼痛の治療及び/又は予防に用いられる。
【0051】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
【化7】
(実施例1)デュロキセチン塩基(IIa)の製造
公知の方法(上述のスキームの工程1〜4)によって前記式(Ib)で示されるデュロキセチンアルキルカルバメート合成した。具体的には、2−アセチルチオフェン(63.1g;0.5mol)、ジメチルアミン塩酸塩(53.0g;0.65mol)、パラホルムアルデヒド(19.8g;0.22mol)およびエタノール(80ml)中の12N塩酸(1ml)とを反応させて3−ジメチルアミノ−1−(2−チエニル)−1−プロパノン塩酸塩を得て、水素化ホウ素ナトリウムを用いて還元、光学活性マンデル酸により分割し、光学活性な(S)−(−)−N,N−ジメチル−3−(2−チエニル)−3−ヒドロキシプロピルアミンを得た。次に、1−フルオロナフタレンと水素化ナトリウムとの反応により、N,N−ジメチル−デュロキセチンを得た。続いて、対応するアルキルクロロホルメート(4.6ml;48.5mmol)との反応により、前記式(Ib)で示されるデュロキセチンアルキルカルバメートを得た。
【0053】
得られたデュロキセチンエチルカルバメート(Ib)(2.5g;6.7mmol)のトルエン溶液(10mL)に、水酸化カリウム(純度87%,2.16g;33.5mmol)のエタノール溶液(10mL)を室温にて加えた。混合液について85−90℃で還流するまで加熱を行い、そこから内温が100℃になるまで溶媒を留去した。さらに溶媒の留去を繰り返しながら、95−100℃の範囲で温度を維持し、2時間攪拌した。室温まで冷却し、水(10mL)、酢酸エチル(10mL)を添加し、得られる有機層を水(20mL)で洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、そして濃縮乾燥し、表題の化合物を1.96g(収率:98.4%、光学異性体:0.16%)で得た。
【0054】
1H−NMR(400MHz,DMSO−d6):8.23−8.20(m,1H),7.86−7.82(m,1H),7.53−7.49(m,2H),7.44−7.41(m,2H),7.33(t,1H),7.21(dd,1H),7.05(d,1H),6.97(dd,1H),5.99(t,1H),2.62(2H,t)2.26(3H,s),2.36−2.29(m,1H),2.12−2.03(m,1H)
(参考例)従来法によるデュロキセチン塩基の製造
実施例1と同一ロットのデュロキセチンエチルカルバメート(Ib)(2.5g;6,7mmol)のトルエン溶液(20mL)に水酸化カリウム(純度87%,4.8g,74.4mmol)を室温にて加えた。その混合物を撹拌し、続いて4時間、還流した。冷却の後、30mLの水、続いて20mLのトルエンを添加し、そして得られる有機相を水(3×20mL)により洗浄し、硫酸ナトリウム上で乾燥し、濾過し、そして濃縮乾燥し、1.24gの油状生成物を得た(収率:62.3%、光学異性体:7.67%)。得られた生成物は、実施例1と同様のNMRスペクトルを示した。
【0055】
(評価試験)
得られたそれぞれのデュロキセチン塩基について、以下の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって評価を行った。
【0056】
(1)原料の消失の確認および各類縁物質の含量について
以下の条件を用いて、液体クロマトグラフ法にて各々のピーク面積百分率を自動積分法により測定した。
【0057】
検出器:紫外吸収光度計(230nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に粒子径3.5μmの液体クロマトグラフィー用のオクタデシルシリル化シリカゲルを充填する
(使用カラム;Agilent社 ZORBAX SB−C8)
カラム温度:40℃付近の一定温度
移動相:リン酸2.9g(1.7mL)を水900mLに加え、水酸化ナトリウム試液を加えてpH2.5に調製する。この液に水を加えて1000mLとし、1−ヘキサンスルホン酸ナトリウム9.4gを加える.この液580mLに1−プロパノール140mL及びアセトニトリル280mLを加える。
流量:約1 mL/min
【0058】
(2)光学異性体について
以下の条件を用いて、液体クロマトグラフ法にて各々のピーク面積百分率を自動積分法により測定し、下式により光学異性体である(R)体含量(%)を算出した。
【0059】
検出器:紫外吸光光度計(220nm)
カラム:内径4.6mm、長さ15cmのステンレス管に5 μmの液体クロマトグラフィー用セルロース誘導体結合シリカゲルを充填する
(使用カラム:CHIRAL ART Cellulose−C)
カラム温度:40 °C付近の一定温度
移動相:過塩素酸85gを2000mLの蒸留水で希釈し、水酸化ナトリウム40gを加えてpHを2.1とする。この液550mLにアセトニトリル450mLを加える
流量:約1 mL/min
【0060】
【数1】
Q
R:R体のピーク面積百分率
Q
S:S体のピーク面積百分率
結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
表中の数値について、粗収率(%)は粗収量より算出した。その他の項目はHPLC面積百分率(%)を示す。なお、トルエンの沸点は約110.6℃である。
【0062】
表1に示すように、本発明の製造方法では、光学異性体の生成はほとんどなく、また参考例と比較して分解物の生成を抑制することができた。さらにわずか2時間で原料の消失を確認できた。
【0063】
(実施例2〜4)
反応温度を変更した以外は、実施例1と同様の操作を行い、デュロキセチンエチルカルバメート(Ib)(光学異性体:1.56%)を用いて、反応温度を表1に記載の温度に維持し、反応温度の検討を行った。それぞれの実施例において、反応開始後5時間時点(実施例2および3)あるいは、転化率が99%以上に達した時点(実施例4)における反応混合物をHPLCで分析した結果を表2に記載する。
【0064】
【表2】
【0065】
表2の結果より、反応温度をある程度高くすることで反応はより速やかに進行し、光学異性体の生成もわずかであることがわかった。
【0066】
(実施例5)デュロキセチン塩酸塩(III)の製造
【0067】
【化8】
実施例1で得られたデュロキセチン塩基(IIa)(32.3g)のメチルエチルケトン(257mL)、メタノール(13mL)およびにトルエン(32mL)からなる混合溶液に、HCl酢酸エチル溶液(1M、17mL)を室温にて加えた。種晶(3.15mg、0.05%)を加え、同温にて2時間攪拌した。その後、ゆっくり0℃まで冷却し、2時間攪拌した。析出した結晶を濾取し、メチルエチルケトン(32mL)で4回洗浄した。50℃で減圧乾燥を行い、表題の化合物を27.9g(収率84%;HPLCにおけるピークエリア:99.97%、光学異性体0.024%(反応前:0.711%)で得た。
【0068】
本実施例により、本発明によれば、高収率で高純度なデュロキセチン塩酸塩を得ることができることが示された。