特許第6182210号(P6182210)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6182210タンパク質精製プロセス中のウイルスの不活性化方法
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  • 特許6182210-タンパク質精製プロセス中のウイルスの不活性化方法 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182210
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】タンパク質精製プロセス中のウイルスの不活性化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/04 20060101AFI20170807BHJP
   C12N 7/06 20060101ALI20170807BHJP
   C07K 1/16 20060101ALI20170807BHJP
   C07K 1/36 20060101ALI20170807BHJP
   C07K 1/18 20060101ALI20170807BHJP
   C07K 1/22 20060101ALI20170807BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C12N7/04
   C12N7/06
   C07K1/16
   C07K1/36
   C07K1/18
   C07K1/22
   C07K16/00
【請求項の数】17
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2015-520259(P2015-520259)
(86)(22)【出願日】2013年6月13日
(65)【公表番号】特表2015-522017(P2015-522017A)
(43)【公表日】2015年8月3日
(86)【国際出願番号】US2013045677
(87)【国際公開番号】WO2014004103
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2015年1月27日
(31)【優先権主張番号】61/666,145
(32)【優先日】2012年6月29日
(33)【優先権主張国】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504115013
【氏名又は名称】イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クセノプロス,アレックス
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/078677(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/014183(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/051147(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/037522(WO,A1)
【文献】 特開昭61−087631(JP,A)
【文献】 Water Science & Technology,2006年,Vol. 53, No. 7,pp. 199-207
【文献】 Bio Process International,2009年 6月,Vol. 7, No. Supplement 5,pp. 18-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 7/00−7/06
C07K 1/00−19/00
C12M 1/12
G01N 30/00−30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中の1以上のウイルスを不活性化するための方法であって、
標的分子を精製するプロセスにおいて、サンプルが第1単位操作から第2単位操作へ流動する時に、1以上のインライン・スタティックミキサを使用して、サンプルを1以上のウイルス不活性化因子と連続的に混合することを含む、方法。
【請求項2】
第1単位操作が結合および溶出クロマトグラフィーを含み、第2単位操作がフロースルー精製プロセスを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
結合および溶出クロマトグラフィーがプロテインAアフィニティクロマトグラフィーを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
フロースルー精製プロセスが、活性炭、アニオン交換クロマトグラフィー媒体、カチオン交換クロマトグラフィー媒体およびウイルス濾過媒体からなる群から選択される2以上のマトリックスを含む、請求項2記載の方法。
【請求項5】
サンプルがプロテインA溶出液を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
標的分子が抗体またはFc領域含有タンパク質である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
1以上のウイルス不活性化因子が、酸および界面活性剤から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
サンプルの流動が層流範囲内にある、請求項記載の方法。
【請求項9】
プロテインA溶出液中の1以上のウイルスを不活性化する方法であって、1以上のインライン・スタティックミキサを使用して、溶出液を1以上のウイルス不活性化因子と混合することを含み、10分以内または5分以内または2分以内または1分以内に完全なウイルス不活性化が達成される、方法。
【請求項10】
1以上のウイルスを不活性化するための方法であって、
(a)標的タンパク質を含むサンプルをプロテインAアフィニティクロマトグラフィーに付して溶出液を得る工程、
(b)溶出液をインライン・スタティックミキサに連続的に移して、10分以下の持続時間にわたって1以上のウイルス不活性化因子を溶出液と混合する工程、
を含み、それにより、1以上のウイルスを不活性化する方法。
【請求項11】
プロテインAアフィニティクロマトグラフィープロセスをバッチ形態で行う、請求項10記載の方法。
【請求項12】
プロテインAアフィニティクロマトグラフィープロセスを連続形態で行う、請求項10記載の方法。
【請求項13】
プロセスが連続多カラムクロマトグラフィーを含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
1以上のウイルス不活性化因子が酸である、請求項10記載の方法。
【請求項15】
標的タンパク質が抗体である、請求項10記載の方法。
【請求項16】
工程(b)からの排出物をフロースルー精製プロセス工程に連続的に移す工程を更に含む、請求項10記載の方法。
【請求項17】
フロースルー精製工程が、活性炭、アニオン交換媒体、カチオン交換媒体およびウイルスフィルターから選択される2以上のマトリックスを含む、請求項16記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質精製プロセス中にウイルスを不活性化するためのインライン方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
治療用タンパク質、特にモノクローナル抗体の大規模な実用的精製はバイオテクノロジー産業の益々重要な問題となっている。一般に、タンパク質は、関心のあるタンパク質、例えばモノクローナル抗体を産生するように操作された哺乳類または細菌細胞系を使用する細胞培養により製造される。しかし、該タンパク質は、産生されると、宿主細胞タンパク質(HCP)、内毒素、ウイルス、DNAなどのような種々の不純物から分離される必要がある。
【0003】
典型的な精製プロセスにおいては、関心のあるタンパク質が細胞培養内で発現されると、細胞培養供給物は細胞残渣の除去のための清澄化工程に付される。ついで、関心のあるタンパク質を含有する清澄化細胞培養供給物は、アフィニティクロマトグラフィー工程またはカチオン交換クロマトグラフィー工程を含みうる1以上のクロマトグラフィー工程に付される。特に治療用候補体の場合には、関心のあるタンパク質の安全性を確保するために、関心のあるタンパク質を含有するサンプル中に存在しうるウイルスを精製プロセス中に不活性化することが必要である。一般に、ウイルスの不活性化は、クロマトグラフィー工程後(例えば、アフィニティクロマトグラフィー後またはカチオン交換クロマトグラフィー後)に行われる。典型的に、大規模プロセスにおいては、クロマトグラフィー工程後、関心のあるタンパク質を含有する溶出プールは大きなタンクまたは貯蔵器内に集められ、混合しながら、長時間にわたるウイルス不活性化工程/プロセスに付され、これは、溶出プール内に存在しうるウイルスの完全な不活性化を達成するためには、数時間〜数日間またはそれより長期間を要しうる。
【0004】
温度、pH、放射線照射および或る化学物質への曝露を含む幾つかのウイルス不活性化技術が当技術分野で公知である。
【発明の概要】
【0005】
(概要)
本発明はタンパク質精製プロセス中のウイルス不活性化の方法を提供し、これは、産業界でタンパク質精製中に現在用いられている方法と比較して幾つかの利点を有する。特に、本明細書に記載されている方法は、タンパク質精製プロセス中にウイルス不活性化工程を行うための大きなタンクまたは貯蔵器を使用することを不要にし、ウイルス不活性化に要する総時間を減少させ、タンパク質精製プロセス中のウイルス不活性化操作を行うのに必要な全物理的空間を減少させ、そしてこれは、精製プロセス全体における設備設置総面積を減少させる。
【0006】
幾つかの実施形態においては、精製プロセスにおいてサンプル中の1以上のウイルスを不活性化するための方法を提供し、該方法は、該サンプルが第1単位操作から第2単位操作へと流動するにつれて該サンプルを1以上のウイルス不活性化因子と連続的に混合することを含む。
【0007】
幾つかの実施形態においては、第1単位操作は結合および溶出クロマトグラフィーを含み、第2単位操作はフロースルー精製プロセスを含む。典型的な結合および溶出クロマトグラフィー単位操作はプロテインAアフィニティクロマトグラフィーを含むが、これに限定されるものではない。
【0008】
幾つかの実施形態においては、フロースルー精製プロセスは、活性炭、アニオン交換クロマトグラフィー媒体、カチオン交換クロマトグラフィー媒体およびウイルス濾過媒体からなる群から選択される2以上のマトリックスを含む。
【0009】
幾つかの実施形態においては、サンプルは、標的分子を含むプロテインA溶出液を含む。典型的な標的分子には、例えば、抗体が含まれる。
【0010】
幾つかの実施形態においては、1以上のインライン・スタティックミキサを使用して、サンプルを1以上のウイルス不活性化因子と混合する。他の実施形態においては、1以上のサージタンクを使用して、サンプルを1以上のウイルス不活性化因子と混合する。スタティックミキサを使用する場合、サンプルの流動は層範囲内に存在する。
【0011】
幾つかの実施形態においては、1以上のウイルス不活性化因子は、酸、塩、溶媒および界面活性剤からなる群から選択される。
【0012】
幾つかの実施形態においては、プロテインA溶出液中の1以上のウイルスを不活性化する方法を提供し、該方法は、インライン・スタティックミキサを使用して、該溶出液を1以上のウイルス不活性化因子と混合することを含み、10分以内または5分以内または2分以内または1分以内に完全なウイルス不活性化が達成される。
【0013】
他の実施形態においては、プロテインA溶出液中の1以上のウイルスを不活性化する方法を提供し、該方法は、サージタンクを使用して、該溶出液を1以上のウイルス不活性化因子と混合することを含み、1時間以内または30分以内に完全なウイルス不活性化が達成される。
【0014】
幾つかの実施形態においては、1以上のウイルスを不活性化するための方法は、(a)標的タンパク質(例えば、抗体)を含むサンプルをプロテインAアフィニティクロマトグラフィーに付して溶出液を得、(b)該溶出液をインライン・スタティックミキサに連続的に移して、10分以下の持続時間にわたって1以上のウイルス不活性化因子を該溶出液と混合して、1以上のウイルスを不活性化することを含む。
【0015】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているウイルス不活性化法に付されるプロテインA溶出液は、バッチ形態のプロテインAアフィニティクロマトグラフィープロセスにより得られる。他の実施形態においては、該プロテインAアフィニティクロマトグラフィープロセスは連続形態で行われる。幾つかの実施形態においては、連続形態は連続多カラムクロマトグラフィープロセスを含む。
【0016】
幾つかの実施形態においては、1以上のウイルス不活性化因子は、溶液の変化をもたらすために使用される酸である。
【0017】
幾つかの実施形態においては、該溶出液は、ウイルス不活性化後にフロースルー精製プロセス工程に連続的に移され、スタティックミキサーからの排出物は、活性炭、アニオン交換媒体、カチオン交換媒体およびウイルス濾過媒体から選択される2以上のマトリックスの使用を含むフロースルー精製工程に直接的へと流動する。
【0018】
他の実施形態においては、該溶出液は、ウイルス不活性化後、プールまたは貯蔵タンク内で長時間(例えば、12〜24時間または一晩)にわたって貯蔵された後、それは、次の単位操作またはプロセス工程、例えばフロースルー精製プロセス工程またはカチオン交換結合および溶出クロマトグラフィー工程に付される。
【0019】
本明細書に記載されている幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているウイルス不活性化法は、例えば、バイオリアクター内でタンパク質を発現する細胞を培養すること、沈殿、遠心分離および/またはデプス濾過の1以上を使用しうる清澄化に該細胞培養を付すこと、該清澄化細胞培養を結合および溶出クロマトグラフィー捕捉工程(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー)に移すこと、該プロテインA溶出液を、本明細書に記載されているウイルス不活性化法に付すこと、活性炭、アニオン交換媒体、カチオン交換媒体およびウイルス濾過媒体から選択される2以上のマトリックスを使用するフロースルー精製プロセスにウイルス不活性化からの排出物を付すこと、ならびにダイアフィルトレーション/濃縮および滅菌濾過を用いて、該フロースルー精製工程からのフロースルー中のタンパク質を製剤化すること(これらに限定されるものではない)を含む幾つかの工程を含みうる、より大きなタンパク質精製プロセスの一部である。そのようなプロセスの更なる詳細は、例えば、本出願と同時に出願された参照番号P12/107を有する同時係属出願(その全内容を参照により本明細書に組み入れることとする)に見出されうる。
【0020】
幾つかの実施形態においては、前記のとおり、全プロセスにわたって、1つの工程から次の工程へと、流体サンプルが連続的に流動する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】2つのインライン・スタティックミキサを使用するウイルス不活性化のための実験用装置定の概要図である。示されている装置は(a)サンプル供給のための蠕動ポンプ、(b)酸および塩基を運搬するための2つのシリンジポンプ、(c)2つのインラインpHプローブ、ならびに(d)2つのスタティックミキサを含む。流動速度は、所望のpHを得るのに必要な酸/塩基の量に基づいて、バッチ形態で予め決められる。ウイルス不活性化のための滞留時間は、各スタティックミキサの後かつ該pHプローブの前に、適当な直径および長さのチューブを配置することにより改変される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(発明の詳細な説明)
生物医薬の製造は、薬物の安全性のために、および米国食品医薬品局(FDA)により定められた基準を満たすために、(哺乳類細胞を含む動物由来成分に由来する)ウイルスの不活性化または除去を要する。典型的なプロセスは、必要な防御を累積的にもたらす幾つかのウイルス除去工程を含む。
【0023】
当業界において用いられる幾つかのプロセスは、いずれかの包膜ウイルスおよびウイルス成分の破壊を引き起こさせるために、標的タンパク質を含有する溶液を低いpHまで滴定することを含む。ウイルス不活性化には長時間を要し、より重要なことには、有効なウイルス不活性化のために均一な混合を保証するために、一般に、標的タンパク質を含有するサンプルは、長期にわたって、これらの条件で保持される必要がある。したがって、大規模プロセスの場合には、標的タンパク質を含有するサンプルは、しばしば混合しながら、有効なウイルス不活性化を促進するために低pHで長期にわたってインキュベートされる必要がある。例えば、低pHで適当な時間にわたってタンパク質サンプルをインキュベートするウイルス不活性化を記載しているShuklaら,J.Chromatography B.,848(2007)28−39を参照されたい。
【0024】
pH条件は、不活性化を引き起こすのに十分に低いpH値と、標的タンパク質の変性を回避するのに十分に高いpH値との間のバランスとして確立される。また、サンプルは、ウイルス活性値における有意な減少(通常は2〜6LRV)を引き起こす或る時間にわたって曝露される必要がある(例えば、Miesegaesら,“Analysis of vial clearance unit operations for monoclonal antibodies”,Biotechnology and Bioengineering,Vol.106,p.238−246(2010)を参照されたい)。
【0025】
ウイルス不活性化プロセスに重要だとみなされる3つのパラメータは、均一な混合がもたらされると仮定して、pH値、曝露時間および温度である。大規模プロセスの場合には、大きな体積ゆえに、混合は難題であり、混合速度および物質移動のような追加的なパラメータも重要となる。
【0026】
Fc領域含有タンパク質(例えば、モノクローナル抗体)の場合、ウイルス不活性化は、通常、結合および溶出クロマトグラフィープロセス工程(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィー)からの溶出後に行われる。なぜなら、溶出プールのpHは、ウイルス不活性化のための所望のpHに、より近いからである。例えば、現在、当業界で用いられているプロセスにおいては、プロテインAクロマトグラフィー溶出プールは、典型的に、3.5〜4.0の範囲のpHを示し、カチオン交換結合および溶出クロマトグラフィー溶出プールは、典型的に、約5.0のpHを示す。
【0027】
当業界で現在用いられているほとんどのプロセスにおいては、標的タンパク質を含有する溶出プールは、ウイルス不活性化に望ましいpHに調節され、ある長さの時間にわたってそれに維持され、pHおよび時間の組合せがウイルス不活性化をもたらすことが示されている。大規模プロセスの場合には特に、ウイルス不活性化のためには時間が長いほど有効であるが、時間が長くなるとタンパク質損傷が生じることも公知である。低いpHへの長時間曝露は沈殿および凝集物形成を引き起こす可能性があり、これは望ましくなく、しばしば、そのような沈殿および凝集物を除去するためにデプスフィルターおよび/または滅菌フィルターの使用を要する。低いpHにより誘発される産物の質の問題に加えて、プールタンク内の撹拌も凝集を引き起こしうる。タンパク質プールを均一化するために適切な混合が必須であり、pHおよび/または伝導度を調節するためにタンパク質溶液が酸/塩基またはバッファーで処理される必要がある場合には、製造中の混合が特に重要である(例えば、Vazquez−Reyら,“Aggregates in monoclonal antibody manufacturing processes”,Biotechnology and Bioengineering,Vol 108,Issue 7,p.1494−1508(2011)を参照されたい)。
【0028】
撹拌のみによるせん断はタンパク質凝集を引き起こさない可能性があるが、気−液界面の存在下の撹拌により促進されうることを、幾つかの研究は示している(例えば、Mahlerら,“Protein aggregation:Pathways,induction factors and analysis”,J.Pharm.Sci.98(9):2909−2934(2009),Harrisonら,“Stability of a single−chain Fv antibody fragment when exposed to a high shear environment combined with air−liquid interfaces”,Biotechnol.Bioeng.59:517−519(1998)を参照されたい)。例えば、前記研究は、完全には満たされていない容器内での撹拌に際して一本鎖Fv抗体フラグメントの活性低下が生じることを示している。更に、これらの研究は、発酵ブロス内の消泡剤の存在下では、該発酵ブロスにおいてタンパク質活性が喪失しないことを示した。しかし、消泡剤の添加は理想的な解決策ではないかもしれない。なぜなら、特に、それは追加的な精製工程および処理時間を精製プロセスに加えることになるからである。
【0029】
本発明はタンパク質精製プロセス中のウイルス不活性化(本明細書においては「VI」とも称される)のための改良された新規方法を提供し、これは、ウイルス不活性化のための総時間、コスト、およびタンパク質精製プロセスに関連した全物理的空間を減少させる。
【0030】
本明細書に記載されている方法はウイルス不活性化を連続的に達成可能であり、このことは、ほとんどの通常のプロセスと比較してウイルス不活性化に関連した時間を有意に減少させ、ひいては精製プロセス全体の時間を減少させる。
【0031】
本明細書に記載されている幾つかの実施形態においては、本発明の方法は、ウイルス不活性化を達成するために1以上のインライン・スタティックミキサを使用する。他の実施形態においては、本発明の方法は、ウイルス不活性化を達成するために1以上のサージタンクを使用する。本明細書に記載されている方法は連続的な全精製プロセスの実施を促進させる。すなわち、プロセス工程後にサンプルの流動を停止させる必要性を伴うことなく、標的タンパク質を含有するサンプルは1つのプロセス工程(または単位操作)から次のプロセス工程(または単位操作)へと連続的に流動しうる。したがって、本発明の幾つかの実施形態においては、上流の結合および溶出クロマトグラフィープロセス工程(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーまたはカチオン交換クロマトグラフィー)からの溶出プールは、スタティックミキサを使用して、ウイルス不活性化にインラインで付されることが可能であり、サンプルは次のプロセス工程(例えば、フロースルー精製プロセス工程)へと連続的に流動する。したがって、通常のプロセスとは異なり、溶出プールは、精製プロセスにおける次のプロセス工程に進む前に、プールタンクまたは容器内で長時間にわたってウイルス不活性化因子と混合またはインキュベートされる必要がない。
【0032】
注目すべきことに、病原体を不活性化するために放射線に曝露されたサンプルを混合するための(例えば、米国特許公開第20040131497号およびPCT公開番号WO2002092806を参照されたい)またはスタティックミキサを使用して血液サンプルをウイルス不活性化因子と混合するための(例えば、PCT公開番号WO2004058046を参照されたい)スタティックミキサが記載されているが、当技術分野においては、サンプルが1つの単位操作から別の単位操作へと流動する、タンパク質精製プロセス中のウイルス不活性化を達成するための、スタティックミキサの使用は、教示も示唆もされていないようである。
【0033】
本明細書に記載されている方法は、当業界で現在用いられている通常のプロセスと比較した幾つかの利点をもたらす。それらのうちの幾つかを以下に説明する。
【0034】
本明細書に記載されているウイルス不活性化方法は、適当なウイルス不活性化因子(例えば、低pH)と共に標的タンパク質を含有するサンプルの、より効率的な混合を、ほとんどの通常のプロセスより短時間で達成しうる。
【0035】
処理時間がより短いため、標的タンパク質の質に対するいずれかの潜在的な悪影響が最小化される。例えば、低pH条件への長期曝露は、例えば、タンパク質凝集および他の有害な変化を引き起こすことにより、標的タンパク質の質を損ないうることが示されている(例えば、Wangら,“Antibody structure,instability and formulation”,J.Pharm.Sci.Vol.96,p.1−26(2007)を参照されたい)。品質に潜在的に有害でありうる条件へ曝露時間をより短くすることにより、品質に対する損傷が最小化または回避されうる。
【0036】
本発明は少なくとも部分的には、サンプルの流動が(例えば、遅い流速の)層流範囲内に存在する場合であっても効率的な混合および効率的なウイルス不活性化が達成されうるという驚くべき且つ予想外の観察に基づいている。特に、本明細書に記載されている幾つかの方法の場合、インライン・スタティックミキサの使用により、流速を層流範囲内にするようにサンプルの流速が制御されうる。乱流に寄与し、より狭い最適操作ウィンドウをもたらす、より高い流速の場合と比較して、より予測可能な不活性化を、これは可能にする。一般に、効率的な混合を達成するためには、より高い流速が要求されるため、この結果は予想外である。
【0037】
層流範囲内で作動するプロセスは、より良好に制御されうる。なぜなら、混合が乱流の存在に依存しないからである。例えば、上流流動条件が流速の減少を要する場合、該インライン混合プロセスは乱流方式を回避し、その混合効率の幾らかを喪失しうる。しかし、該効率が、流動範囲全体に存在する層流により支配される場合には、効率は損なわれない。
【0038】
本明細書に記載されている方法はまた、プロセスパラメータに対するより高い制御をもたらす。換言すれば、本明細書に記載されている方法はpH条件に対するより高い制御をもたらすため、それは、プロセス全体に対して、より高い制御をもたらし、一般に、よりロウバスト(頑強)なプロセスを可能にする。
【0039】
前記利点の幾つかに加えて、本明細書に記載されている方法は、例えば、ウイルス不活性化のためのプールタンクを使用する必要性を排除することにより、該プロセスの、より小さな物理的空間をもたらす。一般に、プロセスの全物理的空間(すなわち、床面積)を減少させることにより効率を改善する、より柔軟な製造プロセスに対する需要が増大しつつある。本明細書に記載されている方法は、ウイルス不活性化に典型的に使用される大きなプールタンクの代わりに、プールタンクより遥かに小さいインライン・スタティックミキサまたはサージタンクを使用することにより、精製プロセスの全空間を減少させうる。
【0040】
本明細書に記載されている方法は精製プロセスにおける単位操作全体の排除をもたらす。例えば、前記のとおり、一般に、大きなプールタンクにおいてウイルス不活性化が行われる。ほとんどの通常のプロセスにおいては、上流の結合および溶出クロマトグラフィー工程からの溶出液は、混合能力を有さないことが多いプールタンク内に集められる。したがって、サンプル(すなわち、溶出プール)は、混合能力を有する適切なプールタンクに移される必要がある。ついでpHが所望の値に調節され、ついで1〜2時間以上のインキュベーションが所望のpH値で行われる。混合後、該pHは、次のプロセス工程に適したpHに再調節される必要があり、該pHは、通常、ウイルス不活性化のためのpHより高いpHである。また、ウイルス不活性化サンプルから混濁を除去するために、1つ(滅菌)または2つ(デプスおよび滅菌)濾過工程が用いられた後、該サンプルは後続工程に付されうる。しばしば、これらの工程のそれぞれは1日の経過にわたって行われることが可能であり、独立した単位操作全体を構成しうる。
【0041】
幾つかの実施形態においては、より短い曝露はより少ない混濁をもたらし、または混濁を全くもたらさず、したがって、後続濾過工程の必要性を排除する。本明細書に記載されている方法は、ウイルス不活性化のためにプールタンクを使用することを含む単位操作全体を排除することにより、通常の精製プロセスを有意に単純化する。
【0042】
本明細書に記載されている方法はより容易な規模改変をもたらす。バッチプールタンク系の規模改変は、根本的な混合系(例えば、インペラ)に基づく混合効率および安定化時間の増加を含む。例えば、プールタンク体積が10倍増加すると、同じ混合時間を維持するためには、混合効率が10倍増加される必要がある。この場合もまた、混合時間は、一定のLRV不活性化を達成するために最大化されつつ、タンパク質を保護するために最小化されるべきである。多くの場合、ミキサは同等の混合効率までは大規模化され得ない。なぜなら、インペラのサイズおよび利用可能なモータRPMが限られているからである。本発明は混合効率を有意に増加させ、インライン・スタティックミキサを含むパイプまたは接続チューブの寸法、流速、液体密度および粘度に基づくレイノルズ数(Re)と称される無次元数に基づく規模改変性をもたらす。レイノルズ数は、密度×スタティックミキサ直径×流速の、粘度に対する比率として定義される。混合効率は、スタティックミキサの混合要素の数を増加させることにより改善されうる。より良好な規模改変性およびより予測可能な性能はプロセスパラメータをpHおよび時間のみにまで減少させ、混合効率に対する成否の依存性を排除する。
【0043】
本明細書に記載されているインライン・スタティック混合は非常に短時間で溶液が修飾されることを可能にし、それにより安定化時間の多くを節約する。これは、プロセス全体が簡略化されることを可能にし、規模改変および設計目的に合理的な実施体積をもたらす。サンプル流体の特性は、ウイルス活性化流体をT弁またはマニホルド系を介して主流体流内に導入することにより改変されうる。新たに望まれる条件に流体が配置されたら、チューブの長さまたは直径またはそれらの両方を増加させることによりスタティックミキサの後のチューブ内の滞留時間を増加させることにより、不活性化pHにおける要求される滞留時間が確保されうる。要求される滞留時間の終了時に、該流体を該タンパク質および次のプロセス工程に望ましい状態にするために、二次修飾が行われうる。
【0044】
本明細書に記載されているウイルス不活性化方法は、本明細書に更に詳細に記載されているとおり、精製プロセスが連続形態で実施されることを促進する。
【0045】
本発明がより容易に理解されうるために、まず、ある用語を定義する。該詳細説明の全体にわたって追加的な定義が記載されている。
【0046】
I.定義
本明細書中で用いる「スタティックミキサ」なる語は、2つの流体物質、典型的には液体(例えば、標的タンパク質を含有するサンプルまたは結合および溶出クロマトグラフィープロセス工程からの溶出液)を混合するための装置を意味する。該装置は、典型的には、円筒状(チューブ)ハウジング内に含有されるミキサ要素(非移動要素とも称される)を含む。全体的な系設計は、2つの流体流を該スタティックミキサ内に運搬するための方法を含む。該流体流が該ミキサ内を移動するにつれて、該スタティックミキサの非移動要素が該物質を連続的に混合する。完全な混合は、流体の特性、チューブ内径、ミキサ要素の数およびそれらの設計を含む多数の変数に左右される。本明細書に記載されている種々の実施形態においては、スタティックミキサはインラインで使用される。
【0047】
「インライン」または「インライン操作(インライン実施)」なる語は、容器内に貯蔵することなくチューブまたは何らかの他の導管を介して液体サンプルを移動させるプロセスを意味する。したがって、本発明の幾つかの実施形態においては、スタティックミキサは、標的タンパク質を含有する液体サンプルが1つのプロセス工程から別のプロセス工程へと移動するチューブにおいて「インライン操作」で使用される。
【0048】
「ウイルス不活性化」または「VI」なる語は、1以上のウイルスを含有するサンプルの処理を意味し、この場合、そのような1以上のウイルスはもはや複製不能であるか又は不活性にされている。ウイルス不活性化は、物理的手段、例えば熱、紫外線、超音波振動、または化学的手段、例えばpH変化または化学物質の添加を用いて達成されうる。ウイルス不活性化は、治療用タンパク質の精製の場合には特に、典型的に、ほとんどのタンパク質精製プロセス中に用いられるプロセス工程である。本明細書に記載されている方法においては、1以上のインライン・スタティックミキサまたはサージタンクを使用して、VIが行われる。当技術分野で公知の標準的アッセイおよび本明細書に記載されているものを用いて、サンプルにおいて1以上のウイルスが検出されないことは、1以上のウイルス不活性化因子での該サンプルの処理の後の、そのような1以上のウイルスの完全な不活性化を示すと理解される。
【0049】
「ウイルス不活性化因子」なる語は、1以上のウイルスを不活性または複製不能にしうるいずれかの物理的または化学的手段を意味する。本明細書に記載されている方法において用いられるウイルス不活性化因子には、溶液条件変化(例えば、pH、伝導度、温度など)、またはサンプル中の1以上のウイルスと相互作用する溶媒/界面活性化剤、塩、重合体、小分子、薬物分子もしくはいずれかの他の適当な実体の添加など、あるいは物理的手段(例えば、UV光への曝露、振動など)が含まれることが可能であり、ここで、該ウイルス不活性化因子への曝露は1以上のウイルスを不活性または複製不能にする。特定の実施形態においては、ウイルス不活性化因子はpH変化であり、ここで、該ウイルス不活性化因子は、インライン・スタティックミキサまたはサージタンクを使用して、標的分子を含有するサンプル(例えば、プロテインA結合および溶出クロマトグラフィー工程からの溶出液)と混合される。
【0050】
「ウイルス除去」なる語は、ウイルス含有溶液からウイルスが除去されるような、ウイルス含有溶液の処理を意味する。ウイルス除去は、篩い分け(例えば、適当な孔径を有するナノ濾過膜を使用するもの)または吸着(例えば、ウイルスの電荷とは逆の電荷の媒体を有するクロマトグラフィー装置を使用するもの)により行われうる。
【0051】
「乱流」なる語は、流体内の底流(subcurrent)は、不規則なパターンで移動する乱流を示すが、全体的流動は一方向である、流体の移動を意味する。乱流は、高速で移動する非粘性流体において一般的である。
【0052】
「層流」なる語は、乱流が存在せず、いずれの与えられた底流もいずれかの他の近傍底流に対してほぼ平行に移動する、滑らかで規則的な流体移動を意味する。層流は、粘性流体、特に、低速で移動する粘性流体において一般的である。本明細書に記載されている本発明の幾つかの実施形態においては、層流が用いられる。
【0053】
本明細書中で用いる「プールタンク」なる語は、プロセス工程からの排出物の全体積の収集を可能にするサイズ/体積を有し、プロセス工程間で使用されるいずれかの容器、器、貯蔵器、タンクまたは袋を意味する。プールタンクは、プロセス工程からの排出物の全体積の溶液状態を収容または貯蔵または操作するために使用されうる。本発明の種々の実施形態においては、本明細書に記載されている方法は、1以上のプールタンクを使用する必要性を排除する。
【0054】
幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法は1以上のサージタンクを使用しうる。
【0055】
本明細書中で用いる「サージタンク」なる語は、プロセス工程間で使用されるいずれかの容器または器または袋を意味し、この場合、プロセス工程からの排出物はサージタンクを介して精製プロセスにおける次のプロセス工程に流動する。したがって、サージタンクは、プロセス工程からの排出物の全体積を収容または収集することを意図されないが、その代わりに1つのプロセス工程から次のプロセス工程への排出物の連続的流動を可能にする点で、サージタンクはプールタンクとは異なる。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されている方法における2つのプロセス工程の間で使用されるサージタンクの体積はプロセス工程からの排出物の全体積の25%以下である。もう1つの実施形態においては、サージタンクの体積はプロセス工程からの排出物の全体積の10%以下である。幾つかの他の実施形態においては、サージタンクの体積は、標的分子が精製される出発物質を構成するバイオリアクター内の細胞培養物の全体積の35%未満、または30%未満、または25%未満、または20%未満、または15%未満、または10%未満である。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているとおり、ウイルス不活性化はサージタンクを経由して達成され、この場合、サージタンクは、標的タンパク質を含有するサンプル(例えば、プロテインA結合および溶出クロマトグラフィー工程からの溶出液)と適当なウイルス不活性化因子を混合するために使用される。
【0056】
「接続プロセス」なる語は、標的分子を精製するためのプロセスを意味し、該プロセスは2以上のプロセス工程(または単位操作)を含み、これらは互いに直接的に流体連通していて、流体物質は該プロセスにおけるプロセス工程(または単位操作)を通って連続的に流動し、該プロセスの通常操作中の2以上の単位操作と同時接触している。時には、該プロセスにおける少なくとも1つのプロセス工程(または単位操作)は、閉じた位置の弁のようなバリヤにより、その他のプロセス工程(または単位操作)から一時的に隔離されうると理解される。個々の単位操作のこの一時的隔離は、例えば、該プロセスの始動もしくは停止中または個々の単位操作の除去/置換中に必要でありうる。
【0057】
「プロテインA」および「ProA」は本明細書中で互換的に用いられ、その天然源から回収されたプロテインA、合成的に(例えば、ペプチド合成または組換え技術により)製造されたプロテインA、およびFc領域のようなCH/CH領域を有するタンパク質に結合する能力を保有するその変異体を含む。プロテインAはRepligen、PharmaciaおよびFermatechから商業的に購入可能である。プロテインAは、一般に、固相支持体上に固定化される。「ProA」なる語は、プロテインAが共有結合しているクロマトグラフィー固体支持マトリックスを含有するアフィニティクロマトグラフィー樹脂またはカラムをも意味する。特定の実施形態においては、本発明の方法において使用されるプロテインAはプロテインAのアルカリ安定性形態である。特定の実施形態においては、プロテインAは1以上のプロテインAドメインまたはそれらの機能的変異体もしくは断片を含み、これらは、N末端からの3または4アミノ酸のトランケーションを各ドメインが有するB、ZまたはCドメインの野生型多量体形態あるいはプロテインAのドメインの1以上の多量体変異体(例えば、B、ZまたはCドメイン五量体)(ここで、ドメインは、Fab結合を低減または排除するための突然変異を更に含みうる)に関する米国特許出願番号US12/653,888(2009年12月18日付け出願)および13/489,999(2012年6月6日付け出願)(共に参照により本明細書に組み入れることとする)に記載されている。
【0058】
本発明の方法において使用されるプロテインAの機能的誘導体、断片または変異体は、マウスIgG2aまたはヒトIgG1のFc領域に関しては、少なくともK=10−8M、好ましくはK=10−9Mの結合定数により特徴づけられうる。結合定数に関するそのような値で得られる相互作用はこの文脈においては「高アフィニティ結合」と称される。好ましくは、プロテインAのそのような機能的誘導体または変異体は、天然ドメインE、D、A、B、Cから選択される野生型プロテインAの機能的IgG結合ドメインの少なくとも一部、またはIgG結合機能性を保有するそれらの操作突然変異体を含む。
【0059】
本発明の種々の実施形態においては、プロテインAは固体支持体上に固定化される。
【0060】
本明細書において互換的に用いられる「固体支持体」、「固相」、「マトリックス」および「クロマトグラフィーマトリックス」なる語は、一般に、任意の種類の粒子状吸着剤、樹脂または他の固相(例えば、膜、不織布、モノリスなど)を意味し、これは、分離プロセスにおいて、混合物中に存在する他の分子から標的分子(例えば、Fc領域含有タンパク質、例えば、免疫グロブリン)を分離するための吸着剤として作用する。通常、移動相の影響下でマトリックスを通って混合物の個々の分子が移動する速度における相違の結果として、標的分子は他の分子から分離される。樹脂粒子からなるマトリックスがカラムまたはカートリッジ内に入れられうる。該マトリックスを構成する物質の例には、多糖(例えば、アガロースおよびセルロース)および他の力学的に安定なマトリックス、例えばシリカ(例えば、制御細孔ガラス)、ポリ(スチレンジビニル)ベンゼン、ポリアクリルアミド、セラミック粒子および前記のいずれかの誘導体が含まれる。典型的には、該マトリックスは1以上のタイプのリガンドを含有する。しかし、マトリックスのみがクロマトグラフィー媒体(例えば、活性炭、ヒドロキシアパタイト、シリカなど)である例が存在する。
【0061】
「リガンド」は、クロマトグラフィーマトリックスに結合しており該マトリックスの結合特性を決定する官能基である。「リガンド」の例には、イオン交換基、疎水性相互作用基、親水性相互作用基、親硫黄相互作用基、金属親和性基、親和性基、生物親和性基、および混合形態基(前記の組合せ)が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明において使用されうる幾つかのリガンドには、強カチオン交換基、例えばスルホプロピル、スルホン酸;強アニオン交換基、例えばトリメチルアンモニウムクロリド;弱カチオン交換基、例えばカルボン酸;弱アニオン交換基、例えばNNジエチルアミノまたはDEAE;疎水性相互作用基、例えばフェニル、ブチル、プロピル、ヘキシル;およびアフィニティ(親和性)基、例えばプロテインA、プロテインGおよびプロテインLが含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の種々の実施形態においては、該リガンドはプロテインAまたはその変異体もしくは断片である。
【0062】
本明細書中で用いる「クロマトグラフィー」なる語は、関心のある産物(例えば、治療用タンパク質または抗体)を生物医薬製剤中の汚染物および/またはタンパク質凝集物から分離する任意の種類の技術を意味する。
【0063】
「アフィニティクロマトグラフィー」なる語は、標的タンパク質(例えば、関心のあるFc領域含有タンパク質または抗体)が、典型的には固体支持体上に固定化されたリガンド(例えば、プロテインA)(固体支持体上に固定化されたリガンドは本明細書においては「クロマトグラフィーマトリックス」と称される)に特異的に結合するタンパク質分離技術を意味する。標的タンパク質は、一般に、クロマトグラフィー工程中に該リガンドに対するその特異的結合アフィニティを保有するが、該混合物中の他の溶質および/またはタンパク質は該リガンドに明白または特異的には結合しない。固定化リガンドへの標的タンパク質の結合は、標的タンパク質が固体支持体物質上の固定化リガンドに特異的に結合したまま、汚染タンパク質またはタンパク質不純物(例えば、HCP)を含む不純物がクロマトグラフィーマトリックを通過することを可能にする。しかし、該マトリックス上への汚染タンパク質の幾らかの非特異的結合が典型的に観察される。クロマトグラフィーマトリックスは、該マトリックスから結合タンパク質を溶出する前に非特異的結合タンパク質(例えば、HCP)および他の不純物を除去するために、典型的には、適当な洗浄バッファーで1回以上洗浄される。ついで、該マトリックスからの関心のあるタンパク質の分離を促進する適当な溶出バッファーを使用して、関心のある特異的結合タンパク質が該マトリックスから溶出される。本発明の幾つかの実施形態においては、溶出標的タンパク質の純度を減少させることなく、1以上の中間的洗浄工程がそのようなプロセスから省略される。言い換えると、本発明の幾つかの実施形態においては、関心のあるタンパク質はプロテインA含有クロマトグラフィーマトリックスに結合することが可能であり、ついで、1以上の中間的洗浄工程を要することなく溶出されるが、プロテインA溶出プール中の関心のあるタンパク質の純度は影響を受けない。他の実施形態においては、プロテインA溶出プール中の関心のあるタンパク質の或るレベルの純度を得るために或る数の洗浄工程を通常用いるプロセスと比較して、中間的洗浄工程の数が減少する。本発明の種々の実施形態においては、中間的洗浄工程の省略またはその数の減少にもかかわらず、プロテインA溶出プール中の宿主細胞タンパク質のレベルが減少する。
【0064】
本明細書中で互換的に用いられる「イオン交換」および「イオン交換クロマトグラフィー」なる語は、混合物中の関心のある溶質またはアナライトが、固相イオン交換物質に結合(例えば、共有結合)した荷電化合物と相互作用するクロマトグラフィープロセスを意味し、ここで、関心のある溶質またはアナライトは、該混合物中の溶質不純物または汚染物と比較して幾分かは荷電化合物と非特異的に相互作用する。該混合物中の汚染溶質は、イオン交換物質のカラムから、関心のある溶質より速く又は遅く溶出し、あるいは関心のある溶質とは異なって該樹脂に結合し、または該樹脂から解離する。「イオン交換クロマトグラフィー」には、カチオン交換、アニオン交換および混合形態イオン交換クロマトグラフィーが含まれる。例えば、カチオン交換クロマトグラフィーは標的分子(例えば、Fc領域含有標的タンパク質)に結合し、ついで溶出することが可能であり(カチオン交換結合および溶出クロマトグラフィー、すなわち「CIEX」)、あるいは不純物に優先的に結合し、一方、標的分子は該カラムを「フロースルー(流動通過)」しうる(カチオン交換フロースルークロマトグラフィー、すなわち「FT−CIEX」)。アニオン交換クロマトグラフィーの場合、固相物質は標的分子(例えば、Fc領域含有標的タンパク質)に結合し、ついで溶出することが可能であり、あるいは不純物に優先的に結合し、一方、標的分子は該カラムから「フロースルー」しうる。
【0065】
「イオン交換マトリックス」なる語は負荷電(すなわち、カチオン交換樹脂)または正荷電(すなわち、アニオン交換樹脂)クロマトグラフィーマトリックスを意味する。該電荷は、1以上の荷電リガンドを、例えば共有結合により、該マトリックスに結合させることにより得られうる。その代わりに又はそれに加えて、該電荷は該マトリックスの固有特性でありうる(例えば、総負電荷を有するシリカの場合)。
【0066】
「カチオン交換マトリックス」は、該マトリックスと接触する水溶液中のカチオンとの交換のための遊離カチオンを有する、負に荷電したクロマトグラフィーマトリックスを意味する。カチオン交換マトリックスを形成するために固相に結合した負荷電リガンドは、例えば、カルボキシラートまたはスルホナートでありうる。商業的に入手可能なカチオン交換樹脂には、カルボキシ−メチル−セルロース、アガロース上に固定化されたスルホプロピル(SP)(例えば、GE HealthcareからのSP−SEPHAROSE FAST FLOW(商標)またはSP−SEPHAROSE HIGH PERFORMANCE(商標))、およびアガロース上に固定化されたスルホニル(例えば、GE HealthcareからのS−SEPHAROSE FAST FLOW(商標))が含まれる。追加的な例には、Fractogel(登録商標) EMD SO、Fractogel(登録商標)EMD SE Highcap、Eshmuno(登録商標)SおよびFractogel(登録商標)EMD COO(EMD Millipore)が含まれる。
【0067】
「混合形態イオン交換マトリックス」または「混合形態マトリックス」は、カチオンおよび/またはアニオン部分ならびに疎水性部分で共有結合的に修飾されたクロマトグラフィーマトリックスを意味する。商業的に入手可能な混合形態イオン交換樹脂としては、シリカゲル固相支持マトリックスに結合した弱カチオン交換基、低濃度のアニオン交換基および疎水性リガンドを含有するBAKERBOND ABX(商標)(J.T.Baker,Phillipsburg,NJ.)が挙げられる。混合形態カチオン交換物質は、典型的に、カチオン交換部分および疎水性部分を有する。適当な混合形態カチオン交換物質としては、Capto(登録商標)MMC(GE Healthcare)およびEshmuno(登録商標)HCX(Merck Millipore)が挙げられる。混合形態アニオン交換物質は、典型的に、アニオン交換部分および疎水性部分を有する。適当な混合形態アニオン交換物質としては、Capto(登録商標)Adhere(GE Healthcare)が挙げられる。
【0068】
「アニオン交換マトリックス」なる語は、本明細書においては、正に荷電した、例えば、それに結合した第四級アミノ基のような1以上の正荷電リガンドを有するクロマトグラフィーマトリックスを意味するものとして用いられる。商業的に入手可能なアニオン交換樹脂には、DEAEセルロース、QAE SEPHADEX(商標)およびFAST Q SEPHAROSE(商標)(GE Healthcare)が含まれる。追加的な例には、Fractogel(登録商標)EMD TMAE、Fractogel(登録商標)EMD TMAEハイキャップ(highcap)、Eshmuno(登録商標)QおよびFractogel(登録商標)EMD DEAE(Merck Millipore)が含まれる。
【0069】
本明細書中で互換的に用いられる「フロースループロセス」、「フロースルー形態」および「フロースルークロマトグラフィー」なる語は、1以上の不純物と共に生物医薬製剤中に含有される関心のある少なくとも1つの産物は、そのような1以上の不純物に通常は結合する物質を通過してフロースルーすることが意図され、関心のある産物は通常はフロースルーする、産物精製技術を意味する。
【0070】
本明細書中で互換的に用いられる「結合および溶出プロセス」、「結合および溶出形態」ならびに「結合および溶出クロマトグラフィー」なる語は、1以上の不純物と共に生物医薬製剤中に含有される関心のある少なくとも1つの産物を、固体支持体への該関心産物の結合を促進する条件下で固体支持体と接触させる、産物分離技術を意味する。ついで該関心産物は該固体支持体から溶出される。本明細書に記載されている方法による幾つかの実施形態においては、固体支持体に結合したプロテインAを有する固体支持体を、関心のある産物および1以上の不純物を含有するサンプルと、該固体支持体上のプロテインAへの該関心物質の結合を促進する適当な条件下で接触させ、この場合、そのような1以上の不純物は該固体支持体に特異的には結合しないと予想される。ついで、そのような1以上の不純物から該関心産物を分離するために、該関心産物はプロテインA含有固体支持体から溶出される。本明細書に記載されている方法においては、溶出後、プロテインA溶出プールは、本明細書に記載されている1以上のスタティックミキサまたはサージタンクを使用するウイルス不活性化に付され、ここで、該ウイルス不活性化は約数分〜約1時間で達成されうる。これに対して、通常のプロセスでは、ウイルス不活性化は数時間を要することが多い。
【0071】
本明細書中で互換的に用いられる「汚染物」、「不純物」および「残渣」なる語は、いずれかの外来性の又は対処すべき分子、例えば生物学的巨大分子、例えばDNA、RNA、1以上の宿主細胞タンパク質、内毒素、脂質、および1以上の添加物であって、そのような外来性の又は対処すべき分子の1以上から分離される関心のある産物を含有するサンプル中に存在しうるものを意味する。また、そのような汚染物は、分離プロセスの前に存在しうる工程において使用されるいずれかの試薬を含みうる。
【0072】
本明細書中で互換的に用いられる「チャイニーズハムスター卵巣細胞タンパク質」および「CHOP」なる語は、チャイニーズハムスター卵巣(「CHO」)細胞培養に由来する宿主細胞タンパク質(「HCP」)の混合物を意味する。HCPまたはCHOPは一般に、細胞培養培地またはライセート(例えば、関心のあるタンパク質(例えば、CHO細胞において発現された抗体またはFc含有タンパク質)を含む回収された細胞培養流体(「HCCF」))中に不純物として存在する。関心のあるタンパク質を含む混合物中に存在するCHOPの量は、関心のあるタンパク質の純度の尺度となる。HCPまたはCHOPは、CHO宿主細胞のような宿主細胞により発現された関心のあるタンパク質を含むが、これらに限定されるものではない。典型的には、タンパク質混合物中のCHOPの量は混合物中の関心のあるタンパク質の量に対するピーピーエムで表される。宿主細胞が別の細胞型、例えば、CHO以外の哺乳類細胞、大腸菌(E.coli)、酵母、昆虫細胞または植物細胞である場合、HCPは、宿主細胞のライセート中で見出される、標的タンパク質以外のタンパク質を意味すると理解される。
【0073】
本明細書中で互換的に用いられる「ピーピーエム」または「ppm」なる語は、本明細書の方法を使用して精製された所望の標的タンパク質の純度の尺度を意味する。ppmなる単位は、関心のあるタンパク質のミリグラム/ミリリットル当たりのHCPまたはCHOPのナノグラム/ミリグラムでの量を意味する(すなわち、CHOP ppm=(CHOP ng/mL)/(関心のあるタンパク質 mg/mL);ここで、該タンパク質は溶液中に存在する)。
【0074】
本明細書中で用いる「清澄化する」、「清澄化」および「清澄化工程」なる語は、NTU(比濁濁度単位)として測定される標的分子含有溶液の濁度を減少させるために懸濁粒子および/またはコロイドを除去するためのプロセス工程を意味する。清澄化は、遠心分離または濾過を含む種々の手段により達成されうる。遠心分離はバッチまたは連続形態で行われることが可能であり、一方、濾過は通常流動(例えば、デプス濾過)または接線流形態行われることが可能であろう。当業界で現在用いられているプロセスにおいては、遠心分離後、典型的には、遠心分離によっては除去されていない可能性がある不溶性不純物を除去することを意図したデプス濾過が行われる。更に、清澄化効率を増加させるための方法、例えば沈殿が用いられうる。不純物の沈殿は、種々の手段により、例えば、凝集、pH調節(酸沈殿)、温度変化、刺激応答性高分子または小分子による相変化、あるいはこれらの方法のいずれかの組合せにより行われうる。本明細書に記載されている幾つかの実施形態においては、清澄化は遠心分離、濾過、デプス濾過および沈殿の2以上のいずれかの組合せを含む。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているプロセスおよび系は遠心分離の必要性を排除する。
【0075】
本明細書中で互換的に用いられる「精製」、「分離」または「単離」なる語は、関心のあるタンパク質および1以上の不純物を含む組成物またはサンプルからの、関心のあるポリペプチドもしくはタンパク質または標的タンパク質の純度を増加させることを意味する。典型的には、関心のあるタンパク質の純度は、該組成物から少なくとも1つの不純物を(完全または部分的に)除去することにより増加される。「精製工程」は、「均一」組成物またはサンプルを与える全精製プロセスの一部でありうる。該「均一」組成物またはサンプルは、関心のあるタンパク質を含む組成物中に、100ppm未満のHCP、あるいは90ppm未満、80ppm未満、70ppm未満、60ppm未満、50ppm未満、40ppm未満、30ppm未満、20ppm未満、10ppm未満、5ppm未満または3ppm未満のHCPを含む組成物またはサンプルを示すために本明細書中で用いられる。
【0076】
本発明の幾つかの実施形態においては、関心のある産物は免疫グロブリンである。
【0077】
「免疫グロブリン」、「Ig」または「抗体」(本明細書中で互換的に用いられる)なる語は、例えば鎖間ジスルフィド結合により安定化されている、2本の重鎖と2本の軽鎖とからなる基本的な4本のポリペプチド鎖の構造を有するタンパク質を意味し、これは、抗原に特異的に結合する能力を有する。「一本鎖免疫グロブリン」または「一本鎖抗体」(本明細書中で互換的に用いられる)なる語は、例えば鎖間ペプチドリンカーにより安定化されている、重鎖と軽鎖とからなる2本のポリペプチド鎖の構造を有するタンパク質を意味し、これは、抗原に特異的に結合する能力を有する。「ドメイン」なる語は、例えばβプリーツシートおよび/または鎖内ジスルフィド結合により安定化されたペプチドループを含む(例えば、3〜4個のペプチドループを含む)重鎖または軽鎖ポリペプチドの球状領域を意味する。ドメインは更に、本明細書においては、「定常」ドメインの場合の種々のクラスメンバーのドメイン内の配列変異の相対的欠如または「可変」ドメインの場合の種々のクラスメンバーのドメイン内の有意な変異に基づいて、「定常」または「可変」と称される。抗体またはポリペプチド「ドメイン」は、しばしば、当技術分野においては互換的に、抗体またはポリペプチド「領域」と称される。抗体軽鎖の「定常」ドメインは、互換的に、「軽鎖定常領域」、「軽鎖定常ドメイン」、「CL」領域または「CL」ドメインと称される。抗体重鎖の「定常」ドメインは、互換的に、「重鎖定常領域」、「重鎖定常ドメイン」、「CH」領域または「CH」ドメインと称される。抗体軽鎖の「可変」ドメインは、互換的に、「軽鎖可変領域」、「軽鎖可変ドメイン」、「VL」領域または「VL」ドメインと称される。抗体重鎖の「可変」ドメインは、互換的に、「重鎖可変領域」、「重鎖可変ドメイン」、「VH」領域または「VH」ドメインと称される。
【0078】
免疫グロブリンまたは抗体はモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であることが可能であり、単量体または多量体形態、例えば、五量体形態で存在するIgM抗体、および/または単量体、二量体もしくは多量体形態で存在するIgA抗体として存在しうる。「フラグメント」なる語は、無傷または完全抗体または抗体鎖より少数のアミノ酸残基を含む、抗体または抗体鎖の一部または部分を意味する。フラグメントは無傷または完全抗体または抗体鎖の化学的または酵素的処理により得られうる。フラグメントは組換え手段によっても得られうる。典型的なフラグメントには、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fcおよび/またはFvフラグメントが含まれる。
【0079】
「抗原結合性フラグメント」なる語は、抗原に結合する又は抗原結合(すなわち、特異的結合)に関して無傷抗体(すなわち、それが由来する無傷抗体)と競合する、免疫グロブリンまたは抗体のポリペプチド部分を意味する。結合フラグメントは、組換えDNA技術により、または無傷免疫グロブリンの酵素的もしくは化学的切断により製造されうる。結合フラグメントには、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、一本鎖および一本鎖抗体が含まれる。
【0080】
本明細書に記載されている方法により精製される関心のあるタンパク質は、C2/C3領域を含むものであり、したがって、プロテインAクロマトグラフィーによる精製に適している。本明細書中で用いる「C2/C3領域」なる語は、プロテインAと相互作用する、免疫グロブリン分子のFc領域内のアミノ酸残基を意味する。C2/C3領域またはFc領域含有タンパク質の例には、抗体、イムノアドヘシン、およびC2/C3領域またはFc領域に融合または結合した関心のあるタンパク質を含む融合タンパク質が含まれる。
【0081】
特定の実施形態においては、本発明の方法は、Fc領域含有フラグメントである、抗体のフラグメントを精製するために使用される。
【0082】
「Fc領域」および「Fc領域含有タンパク質」なる語は、該タンパク質が免疫グロブリンの重鎖および/または軽鎖定常領域またはドメイン(既に定義されているCHおよびCL領域)を含有することを意味する。「Fc領域」を含有するタンパク質は免疫グロブリン定常ドメインのエフェクター機能を有しうる。「Fc領域」、例えばC2/C3領域は、アフィニティリガンド、例えばプロテインAまたはその機能的変異体に選択的に結合しうる。幾つかの実施形態においては、Fc領域含有タンパク質はプロテインAまたはその機能的誘導体、変異体もしくは断片に特異的に結合する。他の実施形態においては、Fc領域含有タンパク質はプロテインGまたはプロテインLまたはそれらの機能的誘導体、変異体もしくは断片に特異的に結合する。
【0083】
一般に、免疫グロブリンまたは抗体は、関心のある「抗原」に対するものである。好ましくは、該抗原は生物学的に重要なポリペプチドであり、疾患または障害に罹患している哺乳動物への該抗体の投与はその哺乳動物において治療的利益をもたらしうる。
【0084】
本明細書中で用いる「モノクローナル抗体」なる語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を意味する。すなわち、その集団を構成する個々の抗体は、少量で存在しうる考えられうる天然に生じる突然変異以外は同一である。モノクローナル抗体は単一の抗原部位に対して高特異的である。更に、種々の決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を典型的に含む通常の(ポリクローナル)抗体調製物とは異なり、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという該抗体の特性を示しており、いずれかの特定の方法による該抗体の製造を要すると解釈されるべきではない。例えば、本発明に従い使用されるモノクローナル抗体は、Kohlerら,Nature 256,495(1975)により最初に記載されたハイブリドーマ法により製造可能であり、あるいは組換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照されたい)により製造可能である。また、「モノクローナル抗体」は、例えば、Clacksonら,Nature 352:624−628(1991)およびMarksら,J.Mol.Biol 222:581−597(1991)に記載されている技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離されうる。
【0085】
モノクローナル抗体は更に、重鎖および/または軽鎖の一部分が、特定の種に由来する又は特定の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応配列と同一または相同であり、該鎖の残部が、別の種に由来する又は別の抗体クラスもしくはサブクラスに属する抗体における対応配列と同一または相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、およびそのような抗体のフラグメント(ただし、それらは所望の生物活性を示すものでなければならない)を含みうる(米国特許第4,816,567号;およびMorrisonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851−6855(1984))。
【0086】
本明細書中で用いる「超可変領域」なる語は、抗原結合をもたらす、抗体のアミノ酸残基を意味する。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」、すなわち「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基約24−34(L1)、50−56(L2)および89−97(L3)ならびに重鎖可変ドメインにおける31−35(H1)、50−65(H2)および95−102(H3);Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))および/または「超可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基26−32(L1)、50−52(L2)および91−96(L3)ならびに重鎖可変ドメインにおける26−32(H1)、53−55(H2)および96−101(H3);ChothiaおよびLesk J.Mol.Biol.196:901−917(1987))を含む。「フレームワーク」または「FR」残基は、ここで定義されている超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0087】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、所望の特異性、アフィニティーおよび能力を有するマウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類のような非ヒト種(ドナー抗体)からの超可変領域残基によりレシピエントの超可変領域残基が置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。幾つかの場合には、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が対応非ヒト残基により置換される。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見出されない残基を含みうる。これらの修飾は、抗体の性能を更に改善するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、超可変ループの全て又は実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FR領域の全て又は実質的に全てはヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体は免疫グロブリン定常領域(Fc)(典型的には、ヒト免疫グロブリンのもの)の少なくとも一部を含みうる。更なる詳細は、Jonesら,Nature,321:522−525(1986);Reichmannら,Nature,332:323−329(1988);およびPresta,Curr.Op.Struct.Biol.,2:593−596(1992)を参照されたい。
【0088】
「バッファー」は、その酸−塩基共役成分の作用によりpHの変化に抵抗する溶液である。例えばバッファーの所望のpHに応じて使用されうる種々のバッファーはBuffers.A Guide for the Preparation and Use of Buffers in Biological Systems,Gueffroy, D.編,Calbiochem Corporation(1975)に記載されている。バッファーの非限定的な例には、MES、MOPS、MOPSO、Tris、HEPES、ホスファート、アセタート、シトラート、スクシナートおよびアンモニウムバッファーならびにこれらの組合せが含まれる。
【0089】
本明細書中で用いる「溶液」、「組成物」または「サンプル」なる語は、関心のある分子または標的タンパク質(例えば、Fc領域含有タンパク質、例えば、抗体)と1以上の不純物との混合物を意味する。幾つかの実施形態においては、サンプルは、本明細書に記載されているウイルス不活性化方法に付される前に、清澄化工程およびプロテインAアフィニティクロマトグラフィー工程に付される。幾つかの実施形態においては、サンプルは細胞培養供給物、例えば、CHO細胞培養からの供給物を含み、これはウイルス不活性化前に清澄化およびプロテインAクロマトグラフィー工程に付される。
【0090】
本明細書中で用いる「非哺乳類発現系」なる語は、宿主細胞または生物が非哺乳類由来である、治療用タンパク質を産生させるために使用される全ての宿主細胞または生物を意味する。非哺乳類発現系の例としては、大腸菌(E.coli)およびピチア・パストリス(Pichia pastoris)が挙げられる。
【0091】
本明細書中で用いる「溶出液」または「溶出プール」なる語は、例えば結合および溶出クロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティクロマトグラフィーマトリックスを使用するもの)の後、溶出により得られた関心のある分子を含有する溶液を意味する。該溶出液は1以上の追加的精製工程に付されうる。本発明の幾つかの実施形態においては、溶出プールが得られ、これは標的タンパク質、例えばFc領域含有タンパク質を含有し、該溶出プールは、本明細書に記載されているとおり、ウイルス不活性化に付される。
【0092】
「伝導度」なる語は、水溶液が2つの電極間で電流を通す能力を意味する。溶液においては、電流はイオン輸送により流動する。したがって、水溶液中に存在するイオンの量が増加するにつれて、より高い伝導度を溶液は有するようになる。伝導度の測定値の単位はミリジーメンス毎センチメートル(mS/cmまたはmS)であり、商業的に入手可能な伝導度計(例えば、Orionにより販売されているもの)を使用して測定されうる。溶液の伝導度は、それにおけるイオンの濃度を変化させることにより改変されうる。例えば、溶液中の緩衝剤の濃度および/または塩(例えば、NaClまたはKCl)の濃度は、所望の伝導度を得るために改変されうる。幾つかの実施形態においては、種々のバッファーの塩濃度は、所望の伝導度を得るために改変される。
【0093】
ポリペプチドの「pI」または「等電点」は、ポリペプチドの正電荷がその負電荷と釣り合うpHを意味する。pIはポリペプチドの結合炭水化物のアミノ酸残基またはシアル酸残基の実効電荷から計算されることが可能であり、あるいは等電点電気泳動により決定されうる。
【0094】
本明細書中で互換的に用いられる「プロセス工程」または「単位操作」なる語は、精製プロセスにおける或る結果を達成するための1以上の方法または装置の使用を意味する。精製プロセスにおいて用いられうるプロセス工程または単位操作の例には、清澄化、結合および溶出クロマトグラフィー、ウイルス不活化、フロースルー精製および製剤化が含まれるが、これらに限定されるものではない。該プロセス工程または単位操作のそれぞれは、そのプロセス工程または単位操作の意図される結果を達成するために2以上の工程または方法または装置を用いうると理解される。
【0095】
本明細書中で用いる「連続的プロセス」なる語は、2以上のプロセス工程(または単位操作)を含む、標的分子を精製するためのプロセスを意味し、この場合、1つのプロセス工程からの排出物は、遮断されることなく該プロセスにおける次のプロセス工程内に直接的に流入し、ここで、2以上のプロセス工程はそれらの持続時間の少なくとも一部にわたって同時に行われうる。言い換えると、連続的プロセスの場合、次のプロセス工程が開始される前にプロセス工程を完了させる必要はなく、それらの複数のプロセス工程にわたってサンプルの一部が常に移動している。
【0096】
幾つかの実施形態においては、異なる複数のプロセス工程が、連続的に作動するように接続される。幾つかの実施形態においては、本明細書に記載されているウイルス不活性化方法は連続的精製プロセスにおけるプロセス工程を構成し、ここで、サンプルはプロテインAアフィニティクロマトグラフィー工程からウイルス不活性化工程、そして該プロセスにおける次の工程(これは、典型的には、フロースルー精製プロセス工程である)へと連続的に流動する。
【0097】
幾つかの実施形態においては、該ウイルス不活性化プロセス工程は連続的に行われる。すなわち、前の結合および溶出クロマトグラフィー工程(すなわち、プロテインAアフィニティクロマトグラフィー)からの溶出液は、1以上のスタティックミキサおよび/またはサージタンクを使用するウイルス不活性化工程内に連続的に流動し、ついで、該ウイルス不活性化溶出液は、次のプロセス工程が行われるまで、貯蔵容器内に収集されうる。
【0098】
II.典型的なウイルス不活性化因子
ウイルス不活性化はウイルスを不活性または複製もしくは感染不能にし、これは、特に治療用を意図した標的分子の場合に重要である。したがって、ウイルス不活性化は、典型的に、タンパク質精製プロセス中、特に該タンパク質が治療用を意図したものである場合に用いられる。
【0099】
多数のウイルスは、化学的変化により不活性化されうる脂質またはタンパク質被覆を含有する。ウイルスを単に不活性にするのではなく、幾つかのウイルス不活性化プロセスはウイルスを完全に変性させうる。より広範に用いられているウイルス不活性化プロセスには、例えば、以下のうちの1以上の使用が含まれる:溶媒/界面活性剤不活性化(例えば、Triton X 100によるもの);パスツーリゼーション(加熱);酸性pH不活性化;および紫外線(UV)不活性化。これらのプロセスの2以上を組合せることも可能であり、例えば、高温で酸性pH不活性化を行うことが可能である。
【0100】
バイオテクノロジー製品のための幾つかのウイルス不活性化因子が当技術分野で公知である。例えば、Gail Sofer,“Virus Inactivation in the 1990s − and into the 21st Century,Part 4,Culture Media,Biotechnology Products,and Vaccines”,Biopharm International,2003年1月,p.50−57を参照されたい。それらのうちの幾つかを後記で説明する。
【0101】
低いpHは異種栄養性マウス白血病ウイルス(XMuLV)を不活性化することが示されている。1つの研究においては、pH3.5〜4.0は18〜26℃で有効であることが判明しており、pH3.7からpH4.1までに関する不活性化速度論において、ごく僅かな相違しか見られなかった。しかし、2〜8℃では、pH4.1での不活性化はより遅く、1時間までを要した。これに対して、pH3.7では約30分を要した。更に、精製されている種々の標的分子に関して変動性が認められた。例えば、1つの標的分子で用いられた不活性化時間は60分であったが、別のものでは、それは120分であり、更に、1つの標的分子の場合、120分後でさえもウイルスXMuLVは完全には不活性化されなかった。タンパク質濃度も不活性化速度論に影響を及ぼした。バッファーのみにおいては、XMuLVは120分のうちに不活性化され、タンパク質の添加は同じpH、温度および曝露時間での完全不活性化を妨げた。該不活性化溶液のイオン強度は、タンパク質濃度を増加させる効果を軽減するようであった。
【0102】
もう1つの研究においては、Sp2/0またはNS0マウス細胞系において産生された8つの異なるモノクローナル抗体(MS)の場合のXMuLVおよび仮性狂犬病ウイルス(PRV)ウイルスの不活性化に関して、低いpHを調べた。用いたpH値は、約5〜6を超える範囲のLRV(すなわち、ウイルスは該サンプルにおいて測定できない)をもたらす3.14〜3.62の範囲であった。これらのデータは、一般的なウイルス不活性化アプローチを裏付けるために用いられている。13個の産物(大部分はMabであるが、全てではない)の別の研究は、pH3.6〜4.0が幾つかの異なるウイルスを5〜60分のうちに不活性化しうることを示した。
【0103】
カプリラートはMAb製造プロセスにおいて脂質包膜ウイルスを不活性化することが判明している。シュードモナス(Pseudomonas)外毒素A−モノクローナル抗体コンジュゲートおよびシュードモナス(Pseudomonas)モノクローナルIgMを含有する細胞培養回収ブロスのそれぞれにウイルスを添加した。単純ヘルペスウイルス1(HSV−1)および水疱性口炎ウイルス(VSV)ウイルスは20℃で60分以内に完全に不活性化された。しかし、5℃では、VSVの部分的な不活性化が120分後に示されたに過ぎなかった。カプリラートの非イオン化形態は広範囲のpHにわたって維持され、該非イオン化形態は0.001〜0.07重量%の濃度でウイルス不活性化において有効である。VSVおよびワクシニアウイルスはpH6.3においてHSV−1より遅く不活性化された。
【0104】
界面活性剤もウイルス不活性化因子として使用されている。Triton X−100(0.5%、4℃)は、幾つかのMAbの結合能に影響を及ぼすことなく、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)およびフレンドマウス白血病ウイルス(FrMuLV)ウイルスを4時間以内に完全に不活性化した。Log10減少値はFrMuLVに関しては>3.8、そしてRSVに関しては>5.4であった。他のデータは、MuLVが0.1〜1% Tweenによっては不活性化されなかったことを示している。
【0105】
溶媒/界面活性剤(S/D)は、一般に、血漿タンパク質と共にウイルス不活性化のために使用される。S/Dは組換えタンパク質およびMAbの製造中に包膜ウイルスの不活性化のためにも使用される。例えば、B−ドメイン欠失組換え因子VIIIの製造中に、S/Dはウイルス不活性化に使用される。製造に使用されるCHO細胞系に関連しているウイルスは存在しないかもしれないが、カチオン交換工程後にS/Dが加えられうる。0.3% TNBPおよび1% Triton X−100の濃度が少なくとも30分間にわたって目標とされる。S/D処理は、パラインフルエンザ−3ウイルス(PI−3)、XMuLV、ウシ伝染性鼻気管炎ウイルス(IBR)および悪性カタル熱ウイルス(MCF)を含む被験包膜ウイルスの全てを完全かつ迅速に不活性化することが示されている(Soferら,同誌を参照されたい)。
【0106】
裸DNAワクチンにおけるウイルス不活性化のためにベータ−プロピオラクトンが提示されている。4℃で16時間の処理に関して、遺伝子発現の喪失を防ぐためにはβ−プロピオラクトンの初期濃度が0.25%を超えるべきではないことが判明した。
【0107】
本発明の幾つかの実施形態においては、ウイルス不活性化は、標的タンパク質を含有するサンプルの、酸性または低いpHへの曝露を用いる。したがって、本明細書に記載されている幾つかの実施形態においては、ウイルス不活性化は、ウイルス不活性化の上流である結合および溶出クロマトグラフィーからの排出物または溶出液の、スタティックミキサを使用するインラインでの酸性pHへの曝露を用いる。ウイルス不活性化に用いられるpHは、典型的には、5.0未満または3.0〜4.0である。幾つかの実施形態においては、pHは3.6以下である。インライン・スタティックミキサ・タンクが使用される場合にウイルス不活性化に用いられる持続時間は10分以下または5分以下または2分以下または1分以下である。他の実施形態においては、結合および溶出クロマトグラフィー工程とフロースループロセス工程との間にサージタンクが使用される。サージタンクが使用される場合のウイルス不活性化のための持続時間は、典型的には、1時間以下または30分以下である。インライン・スタティックミキサまたはサージタンクのどちらの使用の場合にも、該ウイルス不活性化は、ウイルス不活性化のためにサンプルをプールタンク内に収集する必要性を伴うことなく、該プロセスが連続的に実施されることを可能にする。
【0108】
III.典型的なウイルスおよびウイルス不活性化の決定
ウイルスは、2つの主要メカニズム、すなわち、除去(例えば、濾過またはクロマトグラフィーによるもの)または不活性化(例えば、低いpH、界面活性剤または照射)により「排除」されうる。生物医薬ウイルス排除のための、規制機関による推奨は、FDAおよびEMEAにより発行されている幾つかの文書に見出されうる。
【0109】
プロセスのウイルス排除能は、個々の単位操作の小規模化形態を用いて評価される。ウイルス汚染を模擬するために、代表的プロセス供給物のサンプルに既知量のウイルスを添加し、該操作により除去または不活性化されたウイルスの量を測定する。該添加に使用されるウイルスの量は、ウイルスを適切に不活性化/除去する該製造工程の能力を決定するために、「可能な限り高い」ことが推奨される。しかし、該ウイルス添加体積は、産物の組成が有意に改変されるほど大きくなってはならず、10%の添加体積が最大許容添加量だと一般にみなされている。
【0110】
ウイルスは、一般に、感染性ウイルス粒子を定量するアッセイを用いて、精製プロセスにおける個々の単位操作の前および後で集められたサンプルから測定される。排除は、得られたLog10減少(対数減少値またはLRV)として示される。単位操作が、処理物質においてウイルスが全く検出されない度合までの排除を達成した場合、出発供給物におけるウイルス力価およびサンプル採取された最終物質の量に基づく計算を用いて、最小LRVが決定される。したがって、高度に有効な排除工程とされうるLRVは、高レベルの添加チャレンジを可能にする高力価ウイルスストック、およびアッセイ感度を増加させる大体積ウイルスアッセイを用いることにより提示されうる。逆に、供給物質が細胞毒性であり、または検出細胞のウイルス感染を妨げる場合には、これはサンプル希釈を要し、それはアッセイ感度を減少させるため、実証可能なLRVは低下しうる。
【0111】
ウイルス感染性をアッセイするための幾つかの方法が当技術分野で公知である。組織培養感染用量50%アッセイは、サンプル中の感染性ウイルス粒子を計数するための1つのそのような方法である。TCID50は、接種培養の50%において細胞変性効果を与える病原因子(ウイルス)の量である。TCID50値はサンプル中の感染性ビリオンの数に比例するが、それと同じではない。この方法を用いて決定された力価は典型的にはTCID50/mLとして示される。
【0112】
該アッセイによりウイルスが全く検出されない場合、LOD(検出の最小限界)計算を用いて、サンプルに関する最大可能力価が決定される。この計算はアッセイの感度を考慮し、該アッセイが何も検出しない場合にサンプル中に存在しうる最多ウイルスを示す。これらの計算の結果は「≦X」として示される力価であり、これは、サンプル中の実際の力価がX以下(95%の確実性まで)であることを意味する。このLOD計算は被験サンプルの量、およびアッセイ前にサンプルに対して行われた前希釈のみに基づく。該力価が「≦X」として示される場合、対応する対数減少値(LRV)は「≧Y」として示され、これは、得られたLRVがY以上であることを意味する。
【0113】
ウイルス排除の妥当性確認研究は、多種多様な種類のウイルスをMAb精製プロセスが除去または不活性化する能力を評価するように設計される。FDAは、大および小粒子、DNAおよびRNAゲノムならびに化学的に感受性および耐性な脂質包膜および非包膜株を含む幾つかのモデルウイルスを使用することを推奨している。その根拠は、適切に多様なパネルのウイルスのロウバストな排除の証明が、未検出の未知ウイルス汚染も最小レベルにまで低減されたという確証をもたらすというものである。これらの指針に適合する4つのウイルスを表1に示す。表1は、MAbプロセスウイルス排除妥当性確認に適したモデルウイルスパネルの特性を要約している(ICH Q5Aから改変)。
【0114】
【表1】
【0115】
一般に、ウイルス汚染は以下の2つの広範な範疇に分類される:起源物質中に存在することが知られている内因性ウイルス、および該プロセスに侵入しうる外来因子。
【0116】
本明細書に記載されている方法は、これらの範疇のウイルスの両方を不活性化するために用いられうる。
【0117】
IV.スタティックミキサ
スタティックミキサはインライン混合のために他の産業において使用されているが、それらは医薬産業においては広くは使用されていない。なぜなら、プロセスが一般にバッチ形態で作動するからである。更に、インライン・バッファー混合および希釈技術はタンパク質精製プロセスに関しては記載されているが(例えば、TechniKrom,BioRadおよびGE Healthcareにより提供されている市販の系において)、特にウイルス不活性化は一般に大規模プロセス用のプールタンクにおいて行われるため、それはウイルス不活性化には使用されていない。
【0118】
完全な混合を可能にするためにミキサが液体流動を攪乱させる限り、多数のスタティック混合装置が本発明において使用されうる、と当業者は認識するであろう。
【0119】
スタティックミキサは、1つのチューブの空間内に、流動分割と乱流という2つの機能を兼備しうる。流動分割機能は一連のオフセット部分要素により達成され、ここで、1つの要素から出た流体が、90度オフセットされた次の要素のフロントブレードに衝突する。乱流は、流体を回転させるスクリュー状の部分要素により引き起こされる。乱流は、該流動要素で流体が層状に移動し得ないことにより誘発され、流速の増加により増大する。この流体混合機能の尺度はレイノルズ数Reで与えられる。低い流速、したがって低いReにおいては、スタティックミキサは層流範囲で作動する。この混合機能は、新鮮な未反応活性化流体(例えば、酸性バッファー)がより効率的にウイルスと相互作用し、古い使用された活性化流体によるウイルスの閉塞を排除することを可能にする。バッチミキサの場合、該プロセスは、古い活性化流体を押し流しそれを新たな活性化流体で置換する効率に左右される。
【0120】
スタティック混合装置またはスタティックミキサは、種々の材質(例えば、ステンレス鋼、テフロン(登録商標)、銅)のものが利用可能である。本明細書に記載されている方法において使用されるスタティックミキサ用の材質の選択の際には、スタティックミキサを通って流動するサンプルの成分と反応しない又は該成分において反応を引き起こさない材質を選択することが望ましい。また、該材質は耐久性があり、そして、特にサンプルをヒトまたは他の動物に投与しようとする場合には、滅菌(例えば、高圧滅菌または塩素処理によるもの)に適していることが望ましい。スタティックミキサは不透明または透明でありうる。
【0121】
本明細書に記載されている方法の幾つかの実施形態においては、スタティックミキサは、該スタティックミキサの入口、中央および出口にpHおよびマスフロー制御センサーを含む系の一部である。サンプル(例えば、上流の結合および溶出クロマトグラフィー工程からの溶出液)、酸および塩基の相対流速は、所望のpH値が確保されるように連続的に調節される。フィードバックアルゴリズムがモデルベースにされ、したがって従来の系より効率的となりうるように、予め得られた範囲のデータに基づく制御ソフトウェアが使用される。例えば、入口センサークラスター、pHおよび流速が、適当な酸添加供給速度(F)を決定するために用いられうる。意図される最終pH値をpH2.0と予測する追加的な制御アルゴリズムが使用されうる。該値が正確に達成されなければ、ポンプFは、流体を正しい値にするように改変される。これは幾つかの原因(例えば、クロマトグラフィー工程からの供給物内に追加的な緩衝能が存在する、または滴定値が線形性でない可能性がある)で生じうるであろう。
【0122】
V.インライン・スタティックミキサを使用するウイルス不活性化のためのプロセス
前記のとおり、本明細書に記載されている方法の幾つかの実施形態においては、有効なウイルス不活性化を達成するために、インライン・スタティックミキサが使用される。
【0123】
本明細書に記載されているとおり、低いpHの連続的なウイルス不活性化を連続的なプロセスで可能にするために、該精製プロセスにおける前の結合および溶出クロマトグラフィー工程からの溶出液(例えば、プロテインA溶出液)は、三方弁を使用して、酸(通常は1〜3M 酢酸)とインラインで混合され、スタティックミキサに通される。スタティックミキサの寸法は、酸および産物流の効率的な混合を可能にするように選択される。ロウバストなウイルス不活性化のために十分な滞留時間(典型的には1〜5分間)を得るために、十分な体積のチューブがスタティックミキサの後に配置されうる。ついで該ウイルス不活性化流は、三方弁を使用して、塩基(通常は1〜2M トリス−塩基(pH11))と混合され、スタティックミキサに通されて、該連続的プロセスにおける次の精製工程のための所望のpH(これは、典型的には、pH5〜8に増加される)へとpHを増加させる混合を可能にする。
【0124】
スタティックミキサの直径および要素数は、全流速(すなわち、供給物+酸/塩基流速)、密度および粘度に応じて効率的混合を可能にするように選択されうる。流速は、スタティックミキサ(数および直径)の選択と共に、適当な滞留時間を確保するように選択される。レイノルズ数Reを一定に保つことにより、大規模化が行われる。注目すべきことに、本発明の方法においては、流速は、Reが層流範囲内に保たれるように十分に低く維持される。
【0125】
VI.サージタンクを使用するウイルス不活性化のためのプロセス
本発明の幾つかの実施形態においては、ウイルス不活性化は、サージタンクを使用して達成される。
【0126】
本発明のウイルス不活性化方法は、いずれかのタンパク質精製プロセス(例えば、バッチ形態で行われる精製プロセス、または連続形態で行われる精製プロセス)の一部として使用されうる。
【0127】
本明細書に記載されている幾つかの実施形態においては、該ウイルス活性化方法は、該ウイルス不活性化方法の上流および下流の両方に存在する幾つかのプロセス工程(または単位操作)を用いる連続的精製プロセスの一部である。
【0128】
幾つかの実施形態においては、該結合および溶出クロマトグラフィープロセス工程は、典型的には、タンパク質精製工程におけるウイルス不活性化工程の前に行われ、バッチ形態で行われる。典型的なバッチ結合および溶出クロマトグラフィー操作は、清澄化細胞培養供給物のバッチを処理するために、複数(通常、1〜10回)の実施で、大きなカラムを使用する。したがって、幾つかの実施形態においては、バッチプロセスが実施されたら、溶出プールが集められ、ウイルス不活性化を行うためにサージタンク内に送り出されうる。バッチ結合および溶出クロマトグラフィープロセスの場合、ウイルス不活性化のために複数のサージタンクが使用されうる。サージタンクはより小さなサイズを有するため、より効率的な混合およびウイルス不活性化が達成される。
【0129】
幾つかの他の実施形態においては、結合および溶出クロマトグラフィープロセス工程は連続形態で行われる。特定の実施形態においては、該連続的プロセスは複数の連続的クロマトグラフィープロセス(CMCとも称される)である。
【0130】
CMC実施の場合、典型的には、複数の小さなカラムが使用され、それぞれは、細胞培養供給物のバッチを処理するために数サイクル(典型的には10〜50サイクル)にわたって使用される。小さいカラムサイズおよび大きなサイクル数ゆえに、CMCアプローチは、ウイルス不活性化を要する複数の小さな溶出をもたらす。ウイルス不活性化のためにプールタンク内に小さな溶出を集める代わりに、幾つかの実施形態においては、サージタンクが使用される。
【0131】
本明細書に記載されているサージタンクの使用は、通常のプロセスにおいて使用されるプールタンクと比較した場合のそのより小さなサイズおよびより良好な混合能力ゆえに、より良好な溶液均一性をより効率的にもたらす。ついで該溶液は、ロウバストなウイルス不活性化に十分な時間(通常は1〜30分または1時間未満)、すなわち、より大きなプールタンクを使用した場合に要求されるものより有意に短い時間にわたって保持される。該保持工程後、サージタンクにおいて、pHおよび伝導度が、次の単位操作のために設定された所望の値に調節される。ついで該ウイルス不活性化溶液が次の単位操作への供給のために送り出される。ウイルス不活性化に使用されるサージタンクは、空になったら、CMCプロセスの場合の後続の溶出液を集めるために使用されうる。適当な時機およびサージタンクのサイジングが考慮されれば、CMCプロセスの場合にウイルス不活性化を達成するために僅か1個のサージタンクで十分であろう。多カラムプロセスからの個々の溶出液は、ウイルス不活性化のために同様に処理される。
【0132】
以下の実施例により本発明を更に例示するが、該実施例は限定的なものと解釈されるべきではない。本出願の全体にわたって引用されている全ての参考文献、特許および公開特許出願ならびに図面の内容を参照により本明細書に組み入れることとする。
【実施例】
【0133】
[実施例1] 試験管内のX−MuLVの低pHウイルス不活性化の時間依存性
この代表的実験においては、MAbを含有する溶液中に添加されたレトロウイルスを低いpHでの短時間のインキュベーションにより不活性化する。この実験の目的は、高濃度のタンパク質(抗体)を含有する溶液における完全なレトロウイルス不活性化に要求されるpHおよび曝露時間を理解することである。X−MuLVを不活性化するのに要求される最小時間を3.1〜3.5の範囲のpHで決定する。該実験を試験管内で行う。スタティックミキサを使用して不活性化に関して試験される最長実験時間は5分である。
【0134】
使用するサンプルはpH5.3の50mM 酢酸ナトリウムバッファー中の20mg/mL ポリクローナルIgG(Seracare)である。該バッファーからの細胞毒性を回避するために用いる前希釈度は1/50である。LRV>4の目標を達成するために、力価7.0 TCID50/mLのX−MuLVストックを使用して、供給物を6.0 log TCID50/mL(〜10% 添加)まで添加する。サンプルを酸性化し中和するプロセスにおける物質の1/50倍の前希釈および〜1/5倍の希釈(合わせて1/250倍)については、これは(標的添加レベルが得られたと仮定して)>4.44の実測LRVをもたらす。使用するアッセイ培地は標準的なX−MuLV滴定培地(McCoys+1% FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、1×L−グルタミン、1×NEAA)である。結果を以下の表IIに要約する。
【0135】
【表2】
【0136】
該結果は、X−MuLVがpH2.85および3.36の両方において非検出点まで1分以内に迅速に不活性化されることを明らかに示している。pH7では不活性化は見られない。これらのバッファーの高いタンパク質濃度(20mg/mL SeracareポリクローナルIgG)は、迅速な不活性化を達成する障害とはならない(例えば、Kurt Brorsonら,“Bracketed Generic Inactivation of Rodent Retroviruses by Low pH Treatment for Monoclonal Antibodies and Recombinant Proteins”,Biotech.Bioeng.Vol.82,No.3(2003)を参照されたい)。
【0137】
[実施例2] ポリクローナルおよびモノクローナルの両抗体に関する試験管内のX−MuLVの低pHウイルス不活性化の時間依存性
この代表的実験においては、ウイルス不活性化が全く生じないpHまたは不活性化が生じる最小pHをより良く理解するために、実施例1に記載されているのと同じプロトコールに従う。
【0138】
ポリクローナルIgG(Seracare)およびCHO細胞内で産生された2つのモノクローナル抗体(MAb05およびMab04)の両方を使用する。結果を以下の表IIIに要約する。ここで、「≧」を伴う結果は、サンプルにおいてウイルスが全く検出されなかったことを示す。
【0139】
【表3】
【0140】
表IIIにおける結果は、pH3.3でのウイルス不活性化には30秒が適切であることを示している。pHを3.6へ増加させると、必要な時間が1.1分へと延長する。pH3.6を超えるpHにおいては10分を要するが、pH4以上では、1時間の曝露でさえもウイルス不活性化は観察されない。
【0141】
[実施例3] スタティックミキサを使用するX−MuLVの低pHウイルス不活性化の時間依存性
この代表的実験においては、スタティックミキサを使用する高タンパク質(MAb)供給溶液における完全なレトロウイルス不活性化に要するpHおよび曝露時間を調べる。
【0142】
実施例1における結果に基づいて、インライン・スタティックミキサを使用してレトロウイルスを不活性化する可能性を調べる。該溶液のpHを、それがチャネルを通って流動するにつれて、pHを3.4へ低下させるために計算された速度での酸の注入により低下させる。該チャネルの下流末端において、該プロセスにおける次の工程のために、pHを再び中性に調節する。この実験は、インライン技術を用いてX−MuLVを不活性化するのに必要な曝露時間を決定する。実験装置を図1に示す。
【0143】
使用されるサンプルはpH5.0の20mM 酢酸バッファー中の9.9g/L ポリクローナルIgG(Seracare)である。ウイルスが添加された供給物を、図1に示されている実験装置に通過させる。該装置は(a)サンプル供給物を移すための蠕動ポンプ、(b)酸および塩基を運搬するための2つのシリンジポンプ、(c)2つのインラインpHプローブ、ならびに(d)2つのスタティックミキサを含む。流動速度は、所望のpHを得るのに必要な酸/塩基の量に基づいて、バッチ形態で予め決められる。ウイルス不活性化のための滞留時間は、各スタティックミキサの後かつ該pHプローブの前に、適当な直径および長さのチューブを配置することにより改変される。結果を以下の表IVに要約する。
【0144】
【表4】
【0145】
表IVに要約されているとおり、完全な不活性化は全ての時点においてpH3.3で観察される。pH3.6では、1.1分以上の時間は完全な不活性化をもたらす。また、滞留時間2.3および2.8分で集められた画分はデータ収集の4.5分の時間枠にわたって完全なウイルス不活性化を示し、それにより、インラインの低pHウイルス不活性化が経時的に一貫したものであることを示している。
【0146】
[実施例4] スタティックミキサを使用するX−MuLVの低pHウイルス不活性化の時間依存性
この代表的実験においては、スタティックミキサを使用した場合に高タンパク質(MAb)供給溶液における完全なレトロウイルス不活性化に要求されるpHおよび曝露時間を調べる。実験装置を図1に示す。
【0147】
使用するサンプルはpH5.3の50mM 酢酸ナトリウムバッファー中の20mg/mL ポリクローナルIgG(Seracare)である。該バッファーからの細胞毒性を回避するために用いる前希釈度は1/50である。LRV>4の目標を達成するために、力価6.9 TCID50/mLのX−MuLVストックを使用して、供給物を5.6 log TCID50/mL(〜10% 添加)まで添加する。使用するアッセイ培地は標準的なX−MuLV滴定培地(McCoys+1% FBS、1×ペニシリン/ストレプトマイシン、1×L−グルタミン、1×NEAA)である。
【0148】
酸性化および中性化のために、3M 酢酸および2M トリスバッファーを使用する。スタティックミキサの効果を直接的に調べるために(スタティックミキサを使用しないで)チューブのみを使用して、対照サンプルをも作製する。結果を以下の表Vに要約する。
【0149】
【表5】
【0150】
表Vに要約されているとおり、陽性対照、ならびに試験チューブ(試験管)内で維持された場合または3分の最大曝露時間でスタティックミキサに通された場合にpH7に曝露された2つのサンプルに関しては、ウイルス不活性化は認められない。スタティックミキサを介して採取されたサンプルは1分以上の時間で完全なウイルス不活性化を示している。スタティックミキサはウイルス不活性化に決定的に重要である。なぜなら、その非存在下では、不活性化はほんの僅かしか生じないからである。X−MuLVの>4 LRVを達成するためには、目標pH3.4での少なくとも2分が要求される。スタティックミキサ自体は中性pHで不活性化を全く引き起こさない。
【0151】
[実施例5] 試験管内でカプリル酸および界面活性剤を使用するX−MuLVウイルス不活性化の時間依存性
この実験においては、種々の添加物、例えばカプリル酸、ならびに界面活性剤、例えばTriton X、Tweenおよびそれらの組合せを使用する場合のウイルス不活性化のための最小時間およびpH要件を決定するために、試験管内でウイルス不活性化を行う。
【0152】
バッファー中の純粋なMabおよび清澄化細胞培養内のMabの両方をこの実験において使用する。以下の添加物はウイルス不活性化をもたらすことが知られているが、この実施例は、スタティックミキサを使用することにより、より短い時間枠でウイルス不活性化が得られうることを示している。この代表的実験の結果を表VIに示す。
【0153】
【表6】
【0154】
表VIに示されているとおり、精製されたMAbの場合、Tween以外の使用された全ての添加物での完全なウイルス不活性化のためには1分が適切であるらしい。清澄化細胞培養の場合、0.5%のTriton Xのみが1分後に完全なウイルス不活性化をもたらし、一方、両方のpHおよび塩度のカプリラートは少なくとも5分を要した。
【0155】
[実施例6] スタティックミキサを使用するpH3.6でのX−MuLVウイルス不活性化に対する塩およびMAb濃度の効果
この代表的実験においては、ウイルス不活性化に要求される最小時間およびpHに対するMAbおよび塩濃度の効果を調べる。20mM 酢酸(pH3.2)を使用して、MAbを21.8g/Lに調製し、10M NaOHを使用してpH5.0まで滴定する。その溶液の伝導度は1.4mS/cmである。20mM 酢酸(pH3.2)で希釈することにより、より低い濃度を得、10M NaOHを使用してpH5まで滴定する。これらの溶液の伝導度は1.4mS/cmである。250mMの最終モル濃度までのNaClの添加により、高い塩溶液を調節する。インライン・スタティックミキサ装置を使用するウイルス不活性化のために、全ての溶液をpH3.6に調節する。結果を表VIIに要約する。
【0156】
【表7】
【0157】
表VIIに要約されているとおり、最も重要な溶液は、高濃度のMAbおよび低い塩濃度を含有するものであり、これは、プロテインA溶出プールを模擬するものである。そのようなサンプルに関しては、3.6のpHでの完全なウイルス不活性化のためには40秒で十分であることが判明している。
【0158】
[実施例7] スタティックミキサを使用するX−MuLVウイルス不活性化に対するpHの効果
この代表的実験においては、スタティックミキサを使用するウイルス不活性化に対するpHの効果を調べる。IgGを、20mM 酢酸(pH3.2)を使用して9g/Lに調製し、ついで10M NaOHを使用して、pH5.0まで滴定する。ついで全ての溶液を、インライン・スタティックミキサを使用するウイルス不活性化のための所望のpHに調節する。結果を以下の表VIIIに要約する。
【0159】
【表8】
【0160】
表VIIに示されているとおり、pH3.6での完全なウイルス不活性化のためには約1分を要するが、より低いpHでは、より一層短い時間が適切である。
【0161】
[実施例8] 低pHを用いるX−MuLVウイルス不活性化に対する温度の効果
この代表的実験においては、ウイルス不活性化に対する温度の効果を調べる。一般に、インラインのウイルス不活性化は、より高温への溶液の曝露に特に適している。したがって、ウイルス不活性化に対する温度の効果を決定することが重要である。
【0162】
この研究に使用する供給物は20mM 酢酸ナトリウム(pH5.0)中の9.9g/LのSeracareポリクローナルIgGである。それぞれ25mLの3つのアリコートを3つの別々の50mL遠心管内に移す。25mLのこの供給物に1.4mLの3M 酢酸(pH2.5)を加えて、pHをpH3.7に低下させる。該遠心管の1本を22℃の室温で放置する。ついで残りの2本の遠心管を、10℃および35℃に設定された水浴内に配置する。平衡状態になったら、該管内の液体の温度およびpHを測定する(以下の表IXを参照されたい)。ついで10%のウイルス添加物を該管のそれぞれに加える。定められた時点で5mLのサンプルを集め、0.4mLの2m トリス−塩基(pH11.0)を加えて、pHをpH7.0に増加させる。
【0163】
【表9】
【0164】
表IXに要約されている結果は、ウイルス不活性化には高温が好ましいことを示している。より高い測定pHでさえも、より高い温度が1分の時点で完全な不活性化を達成することは、驚くべきことである。
【0165】
[実施例9] pH安定化を加速させるためのスタティックミキサの使用
この代表的実験においては、pH安定化を加速させるためのスタティックミキサの使用を調べた。一般に、pHがその所望の値に達するまでの時間は最小であることが望ましい。
【0166】
この実施例においては、層流のみが得られるように選択された種々の流速ならびにチューブ(管)の長さおよび直径で(すなわち、100未満のレイノルド数で)実験を行う。開始pH値および目標の所望のpH値は、それぞれ、5.0±0.1および3.3±0.1である。
【0167】
所望の目標pH値に達するのに必要な時間を時間または処理溶液体積の関数として記録する。該体積を管デッドボリュームとして表し、10mL/分の流速でデータを収集する。結果を以下の表Xに要約する。
【0168】
【表10】
【0169】
表Xに示されている結果は、より多数のスタティックミキサ要素を使用した場合に、尚も層流内に良く残ったまま、pH安定化がより速く生じることを示している。
【0170】
[実施例10] プロテインA溶出液に対するインラインウイルス不活性化
この代表的実験においては、MAbの清澄化細胞培養をプロテインAクロマトグラフィーに付す。プロテインA溶出液を、約3カラム体積にわたる10個の別々の画分中に集める。各画分を別々に2つのpH値(3.3および3.6)に調節する。pHを所望の値に減少させるのに必要な酸の量およびついでpHを所望の値に増加させるのに必要な塩基を、本明細書に記載されているとおりに決定する。これらの量は画分によって異なる。なぜなら、MAbの量が異なれば、各サンプルに関する緩衝能も異なるからである。
【0171】
ついで溶出液の体積の関数として酸および塩基の量からモデルを構築する。構築されたモデルに基づいてプロテインA溶出液を所望のpHに連続的に調節する第2の実験を行う。ウイルス不活性化が達成されたことを確認するために、ウイルス不活性化後にウイルス濃度を測定する。
【0172】
[実施例11] MAbの質に対するインラインウイルス不活性化の効果
この代表的実験においては、MAb産物の質に対する、より短い曝露時間の有益な効果を調べる。2つのモノクローナル抗体を、プロテインAクロマトグラフィーを用いて精製し、サンプルを試験管内に集め、直ちに種々のpH(すなわち、pH3、3.3、3.6および4)および時間(すなわち、1、2、5および15および90分)でインキュベートする。
【0173】
ついで該サンプルを中和し、凝集物の存在に関してサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)およびSDSゲルにより、ならびに電荷変異体における変化に関して弱カチオン交換クロマトグラフィー(WCX−10)により試験する。また、生じたタンパク質の同一性を液体クロマトグラフィー/質量分析(LC/MS)により分析する。
【0174】
本明細書は、本明細書中に引用されている参考文献(それらを参照により本明細書に組み入れることとする)の教示を考慮して十分に理解されるものである。本明細書における実施形態は本発明における実施形態の一例であり、その範囲を限定すると解釈されるべきではない。多数の他の実施形態が本発明に含まれる、と当業者は容易に認識する。全ての刊行物および発明の全体を参照により本明細書に組み入れることとする。参照により含まれる資料が本明細書と矛盾する又は合致しない場合には、本明細書がいずれのそのような資料にも優先する。本明細書におけるいずれの参考文献の引用も、そのような参考文献が本発明の先行文献であることを認めるものではない。
【0175】
特に示されていない限り、特許請求の範囲を含む本明細書において用いられる成分、細胞培養、処理条件などの量を表す全ての数字は、全ての場合において、「約」なる語により修飾されていると理解されるべきである。したがって、特に示されていない限り、数的パラメータは近似値であり、本発明により得られることが求められる所望の特性に応じて変動しうる。特に示されていない限り、一連の要素に先行する「少なくとも」なる語は、それらの一連の語における各要素に関するものであると理解されるべきである。当業者は、本明細書に記載されている本発明の具体的な実施形態に対する多数の均等物を認識し、または単なる通常の実験を用いて確認しうるであろう。そのような均等物も以下の特許請求の範囲に含まれると意図される。
【0176】
当業者に明らかなとおり、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多数の修飾および変更が施されうる。本明細書に記載されている具体的な実施形態は単なる例示として示されているに過ぎず、いかなる点においても限定的なものではない。本明細書および実施例は典型例として解釈されるに過ぎず、本発明の真の範囲および精神は以下の特許請求の範囲により示されると意図される。
図1