【文献】
Journal of Controlled Release,2012年 4月 4日,Vol.160,pp.353-361
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の概要
本発明は、骨空洞または骨欠損の治療のための組成物、方法および医療デバイスに関する。本発明の方法は、少なくとも1種の抗生剤の局所的な持続性放出制御をもたらすマトリックスを含む組成物を骨空洞部位に填入するステップを含む。特別な実施形態において、該組成物は、骨空洞部位で少なくとも1種の抗生剤の局所的な長期放出制御をもたらすマトリックス組成物コーティング生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスの形態である。具体的な実施形態において、該組成物は、骨欠損の部位で早期の急速な骨成長を促進する非コーティング骨空洞充填材と、抗生物質をその部位に提供し、かつ、コーティング分解後の骨成長を支援するコーティング骨空洞充填材と、の混合物の形態である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一部、IIIA型およびIIIB型長骨開放骨折の症例で得られる予測されなかった例外的な臨床データに基づく。これらの型の骨折は、早期における抗生物質静脈内投与、洗浄とデブリードマン(I&D)、および遅延創傷閉鎖からなる標準治療(SOC)を開始したとしても、高い感染率を伴うことが知られている。本発明の組成物および方法を利用すれば、治療後6ヶ月目であっても、治療を受けたいずれの患者にも感染が観察されなかった。ほとんどの症例で1回の手術セッション(operative session)において本発明の医療デバイスによる治療を受けた後、対象となる骨折で任意の感染を発症せず、また、重篤な有害事象を発症せずに、75%を超える対象において骨折が完全に癒合された。
【0010】
重度の長骨開放骨折を有し、傷害発生後の最初の外科的介入の際に、ドキシサイクリンの局所的長期放出をもたらす本発明のマトリックス組成物コーティング生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスを骨折部位に移植することにより治療を受けたヒト対象が、6ヶ月後であっても骨折部位にいずれの感染も発症せずに骨を完全に再建させたことを、ここに初めて開示する。仮骨形成の早期シグナルが、全ての治療対象において、移植後8〜12週目に観察された。例外的に、外傷から5日を超えた後に開放骨折が初めて治療されて医療デバイスを移植された場合でも(即ち、細菌バイオフィルムの存在により特徴づけられる高度に汚染された創傷)、無感染の回復が実現された。一態様によれば、本発明は、骨成長が所望される位置での抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックス組成物を、場合により骨成長が所望される位置での抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックス組成物コーティング生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスの形態で、提供する。
【0011】
幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、(a)PLA、PGAおよびPLGAから選択される生分解性ポリエステルと;(b)コレステロールと;(c)炭素16〜18個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリンの組合せと;(e)抗生剤と、を含む。具体的実施形態において、該ポリマーおよびリン脂質は、水を実質的に含まない秩序的構造の脂質飽和マトリックス組成物を形成する。幾つかの実施形態において、マトリックス組成物は、ポリマーと脂質とが複数の交互層の形態で組織化された高度組織化多層構造を有する。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤(マトリックス)は、総脂質を少なくとも50重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤(マトリックス)は、リン脂質を少なくとも40重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、ポリマーを少なくとも10重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤(マトリックス)は、抗生物質を少なくとも5重量%含む。
【0012】
幾つかの実施形態において、本発明のマトリックス組成物は、内部空隙および/または自由空間を有さない連続構造を含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、脂質飽和されており、このことは、ポリマー層間またはポリマー骨格間の空間には、これ以上更なる脂質部分を認識できる程度までマトリックスに組込むことができない範囲まで、脂質分子と抗生物質とを組み合わせて充填されていることを示す。
【0013】
幾つかの実施形態において、マトリックス組成物は、抗生剤の少なくとも50%を零次反応速度で放出することが可能である。幾つかの実施形態において、抗生剤の少なくとも60%が、マトリックス組成物から零次反応速度で放出される。特定の理論または作用機序に限定されるわけではないが、本発明のマトリックス組成物のこの組織化された構造または部分構造が、水和後にマトリックス配合剤からの薬物または複数の薬物の零次放出速度をもたらす主な原因の1つであることが示唆される。つまり零次放出速度は、脂質およびポリマーの高度に組織化された層の水和された表面層(複数可)から、薬物を配合成分と共に緩やかに連続して「剥離する」ことに起因する可能性がある。幾つかの実施形態によれば、本発明のマトリックスは、耐水性である。そのため水は、仮にマトリックス内に拡散するとしても、容易には拡散し得ず、層間に封入された医薬活性剤は、仮にマトリックスから拡散するとしても、容易には拡散し得ない。幾つかの実施形態によれば、該薬物は、マトリックスの緩徐な表面分解の際に本発明のマトリックス組成物から放出されており、このため3〜5週間の規模で徐放することができ、抗生物質活性剤の大部分(少なくとも50%)は、零次反応速度で放出されている。
いる。
【0014】
幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックスは、(a)PLGA;(b)コレステロール;(c)DPPC;(d)DSPC、および(e)抗生剤、を含む。
【0015】
幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、抗生剤を約1〜20%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、抗生剤を約5〜15%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、抗生剤を約8〜12%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、抗生剤を約10%(w/w)含む。
【0016】
幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、テトラサイクリン系抗生剤を含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、テトラサイクリン系抗菌薬から得られる抗生物質であるドキシサイクリン(例えば、ドキシサイクリンヒクラート)を含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、ドキシサイクリンを約1〜20%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、ドキシサイクリンを約5〜15%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、ドキシサイクリンを約8〜12%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、ドキシサイクリンを約10%(w/w)含む。
【0017】
幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、PLGAを約10〜30%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、PLGAを約15〜25%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、PLGAを約20%(w/w)含む。
【0018】
幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、コレステロールを約5〜20%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、コレステロールを約5〜15%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、コレステロールを約7〜13%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、コレステロールを約9〜11%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、コレステロールを約10%(w/w)含む。
【0019】
幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、炭素が少なくとも14個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリン分子1個以上を少なくとも約40%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、炭素が少なくとも14個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリン分子1個以上を少なくとも約50%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、炭素が少なくとも14個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリン分子1個以上を少なくとも約40〜75%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、炭素が少なくとも14個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリン分子1個以上を少なくとも約50〜70%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、マトリックス組成物は、炭素が少なくとも14個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリン分子1個以上を少なくとも約60%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、該組成物のホスファチジルコリン分子は、DPPCを含む。幾つかの実施形態によれば、該組成物のホスファチジルコリン分子は、DSPCを含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、DPPCとDSPCとの混合物を含む。典型的には配合剤中のDPPCとDSPCとの比は、約10:1〜1:1、好ましくは5:1〜2:1であり、より好ましくは配合剤中のDPPCとDSPCとの比は、約3:1である。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、DPPCとDSCPとの比が約3:1であるDPPCとDSPCとの混合物を約50〜70%(w/w)含む。
【0020】
幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、PLGAを約15〜25%(w/w)、コレステロールを約5〜15%(w/w)、DPPCとDSCPとの比が約5:1〜2:1であるDPPCとDSPCとの混合物を約50〜70%(w/w)、およびドキシサイクリンを約7〜12%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、マトリックス組成物は、PLGAを約20%(w/w)、コレステロールを約10%(w/w)、DPPCとDSCPとの比が約3:1であるDPPCとDSPCとの混合物を約60%(w/w)、およびドキシサイクリンを約10%(w/w)含む。
【0021】
幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、骨空洞部位で少なくとも1種の抗生剤の局所的な長期放出制御をもたらすマトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスに組込まれている。幾つかの実施形態によれば、骨空洞充填材は、同種(即ち、ヒトの供給源から)、異種(即ち、動物供給源から)、合成骨空洞充填材、またはそれらの任意の組合せより選択される。幾つかの実施形態によれば、骨空洞充填材は、合成である。幾つかの実施形態によれば、合成骨空洞充填材は、リン酸三カルシウム(β−TCP)で構成される。幾つかの実施形態によれば、骨空洞充填材は、平均粒子(または顆粒)サイズ3.0mm以下を有する、あるいは平均サイズ2mm未満を有する、あるいは平均サイズ1.5mm未満を有する、あるいは平均サイズ1.0mm未満を有する、あるいは平均サイズ0.1〜0.5mmを有する、粉末の形態である。特定の典型的な実施形態によれば、骨充填材は、平均粒子サイズ0.5〜1.0mmを有するβ−TCPである。
【0022】
理論または作用機序に束縛されるのを望むものではないが、移植の後、コーティング骨充填材粒子は、所定の長期制御期間に、抗生物質薬を骨空洞およびその周囲に放出する。抗生物質薬配合剤の長期放出制御が、骨感染の根絶または予防に成功すると同時に、骨充填材足場材料が、骨伝導性骨回復を支援する。放出された抗生物質の抗菌活性が、骨充填材の骨伝導活性を補助し、細菌関連の局所骨感染による潜在的な拒絶または早期吸収を予防する。
【0023】
幾つかの実施形態によれば、本発明のコーティング粒子は、骨空洞充填材を約80〜90%(w/w)、および先に記載されたマトリックス組成物を10〜20%(w/w)含む。幾つかの実施形態によれば、本発明のコーティング粒子は、骨空洞充填材を約85〜90%(w/w)、およびマトリックス組成物を10〜15%(w/w)含む。特定の典型的な実施形態によれば、コーティング粒子は、β−TCP、好ましくは平均粒子サイズ1.0mm以下を有するβ−TCPを80〜90%(w/w)含む。幾つかの具体的実施形態によれば、医療デバイスは、本質的にPLGA約2.4%、コレステロール約1.2%、DPPC約5.5%、DSPC約1.8%、およびドキシサイクリンヒクラート約1.2%からなるマトリックス組成物でコーティングされた平均粒子サイズ0.5〜1.0mmを有するβ−TCPを約88%(w/w)含有するコーティング粒子を含む。
【0024】
幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、任意の市販された非コーティング骨空洞充填材(例えば、同種、異種または合成)を更に含んでいてもよい。本発明のコーティング粒子と混合された非コーティング骨充填材は、コーティング骨充填材粒子と同一であってもよい。例えばコーティング骨空洞充填材および非コーティング骨空洞充填材は、両者ともβ−TCPで構成されていてもよい。あるいは非コーティング骨充填材は、コーティング骨充填材と異なっていてもよい。あるいは本発明の医療デバイスは、コーティング粒子に加えて、非コーティング骨空洞充填材の混合物を含んでいてもよい。幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、骨空洞での移植の前に、自己移植片骨材料と混合されてもよい。幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイス中の非コーティング粒子の重量は、医療デバイスの総重量の75%(w/w)未満である。幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイス中の非コーティング粒子の重量は、医療デバイスの総重量の70%(w/w)未満である。幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイス中の非コーティング粒子の重量は、医療デバイスの総重量の60%(w/w)未満である。幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイス中の非コーティング粒子の重量は、医療デバイスの総重量の約50%(w/w)、またはそれ未満である。幾つかの実施形態によれば、コーティング骨充填材と非コーティング骨充填材との重量比は、1:3〜10:1である。幾つかの実施形態によれば、コーティング骨充填材と非コーティング骨充填材との重量比は、1:3〜5:1である。あるいは1:2〜2:1である。あるいは、コーティング骨充填材と非コーティング骨充填材との重量比は、1:1である。
【0025】
幾つかの実施形態によれば、医療デバイスは、平均粒子サイズ0.1〜1mmを有するコーティングβ−TCPと非コーティングβ−TCPとの1:1比の組合せを含む。幾つかの実施形態によれば、医療デバイスは、平均粒子サイズ0.5〜1.0mmを有するコーティングβ−TCPと非コーティングβ−TCPとの1:1比の組合せを含む。追加の具体的実施形態によれば、医療デバイスは、平均粒子サイズ0.1〜0.5mmを有するコーティングβ−TCPと非コーティングβ−TCPとの1:1比の組合せを含む。
【0026】
幾つかの実施形態によれば、医療デバイスは、コーティングβ−TCPと非コーティングβ−TCPとの1:1比の組合せを含み、ここで医療デバイス原材料の総重量比率は、β−TCP90〜95%(w/w)、PLGA1.0〜2.0%、コレステロール約0.4〜0.8%、DPPC約2.0〜4.0%、DSPC約0.7〜1.3%、ドキシサイクリン約0.4〜2%である。特定の実施形態によれば、医療デバイスは、コーティングβ−TCPと非コーティングβ−TCPとの1:1比の組合せを含み、ここで医療デバイス原材料の総重量比率は、β−TCP93〜94%(w/w)、PLGA1.1〜1.5%、コレステロール約0.6〜0.7%、DPPC約2.7〜3.2%、DSPC約0.9〜1.1%、ドキシサイクリンヒクラート約0.6〜0.7%である。特定の具体的実施形態によれば、医療デバイスは、コーティングβ−TCPと非コーティングβ−TCPとの1:1比の組合せを含み、ここで医療デバイス原材料の総重量比率は、β−TCP93.5%(w/w)、PLGA1.3%、コレステロール約0.63%、DPPC約2.94%、DSPC約0.98%、ドキシサイクリンヒクラート約0.65%である。幾つかの実施形態によれば、β−TCPは、平均粒子サイズ500〜1000μmを有する。
【0027】
幾つかの実施形態によれば、本発明による医療デバイス各10グラムは、ドキシサイクリンを約0.4〜約2.0g含む。幾つかの実施形態によれば、本発明による医療デバイス各10グラムは、ドキシサイクリンを約0.4〜約1.0g含む。更なる実施形態によれば、本発明による医療デバイス各10グラムは、ドキシサイクリンを約0.5〜約0.8g含む。特定の好ましい実施形態によれば、本発明による医療デバイス各10グラムは、ドキシサイクリンを約65mg含む。
【0028】
本発明の別の態様によれば、医療デバイスは、骨成長が所望される位置で移植に用いられる。
【0029】
別の態様によれば、本発明は、骨成長が所望される位置で抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックス組成物を、場合により骨成長が所望される位置で抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスの形態で、骨成長が所望される位置で移植することを含む、患者を治療する方法を提供する。
【0030】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、骨折部位で抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスを、骨折部位に填入するステップを含む、骨折の治療のための方法を提供する。
【0031】
幾つかの実施形態によれば、骨成長が所望される位置は、骨空洞である。骨空洞は、例えば傷害(例えば、骨折)の結果、骨病変の除去(例えば外科手術による)、抜歯、または骨格構造の顕著な喪失をもたらす任意の他の症例の結果であってもよい。幾つかの実施形態によれば、骨成長が所望される位置は、骨折である。幾つかの実施形態によれば、骨成長が所望される位置は、骨の開放骨折である。幾つかの実施形態によれば、骨成長が所望される位置は、長骨開放骨折である。
【0032】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、骨空洞部位が移植の際に無菌状態であるか、または汚染もしくは感染された例において有用である。
【0033】
幾つかの実施形態によれば、移植される医療デバイスは、患者の骨空洞に適合する形状である。
【0034】
幾つかの実施形態によれば、本発明は、骨折部位での抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスを、骨折部位に填入するステップを含む、対象における骨折の治療の方法を提供する。
【0035】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、汚染/感染された開放骨折の治療に有用である。特定の典型的な実施形態によれば、本発明の方法は、長骨開放骨折の治療に有用である。目下好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、長骨開放骨折のガスティロ分類II、IIIa、IIIbおよびIIIcの治療に有用である。
【0036】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、ヒト対象の骨折治療に適する。幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、男性および女性の骨折の治療に適する。幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、幼児、小児、および青年の骨折治療に適する。
【0037】
幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、1骨折部位あたり1〜40グラムの範囲内の用量で投与される。特定の実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、1骨折部位あたり5〜20グラムの範囲内の用量で投与される。当業者の裁量で、骨折の状態に応じて1骨折あたり用量が、より高用量または低用量が用いられ得ることは、理解されなければならない。本発明の医療デバイスを骨折部位に挿入または移植した後、コーティング骨空洞充填が、所定の制御された長時間に、薬物を骨空洞およびその周囲に放出する。骨充填材足場材料が、治癒過程で骨によって再吸収されるおよび骨に置き換えられることにより骨伝導性骨回復を支援する。加えて、コーティング配合剤からの抗菌薬の長期放出制御が、骨感染の根絶または予防に成功すると同時に、骨伝導性が、仮骨形成および骨癒合を促進する。放出された抗生物質の抗菌活性が、骨空洞充填材の骨伝導活性を補助し、局所骨感染に関連する細菌による潜在的拒絶または早期吸収を予防し、汚染後の急性または慢性的骨感染の発症を予防する。
【0038】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、一般には骨感染の治療および予防に有用である。
【0039】
本発明による医療デバイスは、局所または体表面に投与される。
【0040】
本発明の幾つかの実施形態による医療デバイスは、抗生物質を含有しない骨充填材が禁忌とされる適用例で用いられてもよい。
【0041】
本発明の更なる実施形態および完全な適用可能性範囲は、以下に示す詳細な記載から明白となろう。しかし、本発明の主旨および範囲に含まれる様々な変更および改良が、この詳細な記載から当業者に明白になるため、その詳細な記載および具体的例が、本発明の好ましい実施形態を示すが例示に過ぎないことが、理解されなければならない。
【発明を実施するための形態】
【0043】
詳細な記載
本発明は、骨空洞または骨欠損の治療のための組成物、方法および医療デバイスに関する。本発明の方法は、少なくとも1種の抗生剤の局所的放出制御をもたらすマトリックスを含む組成物を骨空洞部位に填入するステップを含む。特別な実施形態において、該組成物は、骨空洞部位で少なくとも1種の抗生剤を局所的な長期放出制御をもたらすマトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む医療デバイスの形態である。具体的な実施形態において、該組成物は、骨欠損の部位で骨成長を促進する非コーティング骨空洞充填材と、抗生物質をその部位に提供するコーティング骨空洞充填材と、の混合物の形態である。
【0044】
本明細書で用いられる「骨空洞」は、他にも「骨欠損」と称されることがあり、空洞、空隙、凹所、または他の骨内不連続部などの任意の骨欠如領域を指す。骨欠損は、人工的もしくは自然に生じ得るもので、疾患または外傷により起こり得る。つまり骨欠損は、病変性、炎症性もしくは腫瘍性疾患、外科的介入、先天性欠損、または骨折などの結果として起こり得る。例えば骨腫瘍などの特定疾患の場合、骨欠損は、腫瘍組織を除去することにより人工的に生じる。このため、本発明の方法によれば、該医療デバイスは、例えば歯周欠損を修復するためなど、頭蓋顔面再建、関節再建、および骨折修復に適用して、例えば整形外科手術を実施し得る。
【0045】
本明細書で用いられる「骨空洞または骨欠損の治療」は、骨空洞を充填および/または被覆し、骨空洞または骨欠損部位での骨成長を促進することによる骨癒合に関する。
【0046】
本発明のマトリックス組成物の一般的特徴
幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、(a)PLA、PGAおよびPLGAから選択される生分解性ポリエステルと;(b)コレステロールと;(c)炭素16〜18個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリンの組合せと;(e)抗生剤と、を含む。具体的実施形態において、該ポリマーおよびリン脂質は、水を実質的に含まない秩序的構造の脂質飽和マトリックス組成物を形成する。幾つかの実施形態において、マトリックス組成物は、ポリマーと脂質とが複数の交互層の形態で組織化された高度組織化多層構造を有する。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、総脂質を少なくとも約50重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、リン脂質を少なくとも約40重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、リン脂質を約40〜75重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、リン脂質を約50〜70重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、リン脂質を約55〜65重量%含む。幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、ポリマーを少なくとも10重量%含む。幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、ポリマーを約10〜30重量%含む。幾つかの実施形態によれば、生分解性マトリックス組成物は、ポリマーを約15〜25重量%含む。幾つかの実施形態において、生分解性徐放性コーティング配合剤は、抗生物質を少なくとも約5重量%含む。
【0047】
本発明のマトリックス組成物中で用いられる生分解性ポリエステルは、PLA(ポリ乳酸)からなる群より選択されてもよい。「PLA」は、ポリ(L−ラクチド)、ポリ(D−ラクチド)、およびポリ(DL−ラクチド)を指す。別の実施形態において、該ポリマーは、PGA(ポリグリコール酸)である。別の実施形態において、該ポリマーは、PLGA(乳酸グリコール酸共重合体)である。PLGAに含有されるPLAは、当該技術分野で知られる任意のPLA、例えば鏡像異性体混合物またはラセミ混合物のいずれかであってもよい。
【0048】
本発明の方法および組成物のPLGAは、別の実施形態において、乳酸/グリコール酸比50:50を有する。別の実施形態において、その比は、60:40である。別の実施形態において、その比は、75:25である。別の実施形態において、その比は、85:15である。別の実施形態において、その比は、90:10である。別の実施形態において、その比は、95:5である。別の実施形態において、その比は、in vivo持続性放出プロファイルに適した別の比である。PLGAは、ランダムまたはブロック共重合体のいずれかであってもよい。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。該ポリマーが任意のサイズまたは長さ(即ち、任意の分子量)であり得ることが、強調されなければならない。
【0049】
本発明のマトリックス組成物は、脂質飽和されている。本明細書で用いられる「脂質飽和された」は、マトリックス中に存在する任意の疎水性薬物および存在し得る任意の他の脂質と組合せて、コレステロールおよびリン脂質を含むマトリックス組成物のポリマーの飽和状態を指す。該マトリックス組成物は、存在している脂質によって飽和されている。別の実施形態において、「脂質飽和」は、ポリマー骨格の外部境界により画定される脂質マトリックス内の内部空隙(自由空間)が充填されていることを指す。空隙には、コレステロール、マトリックス中に存在すると考えられる他の種類の脂質および抗生剤を組合せて、更なる脂質部分を認識できる程度までマトリックスに取り込むことができない範囲まで、ホスファチジルコリンが充填されている。
【0050】
別の実施形態において、本発明のマトリックス組成物は、水を実質的に含まない。「水を実質的に含まない」は、別の実施形態において、水を1重量%未満含有する組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.8重量%未満含有する組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.6重量%未満含有する組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.4重量%未満含有する組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.2重量%未満含有する組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、組成物の耐水性に影響を及ぼす量の水が存在していないことを指す。別の実施形態において、その用語は、任意の水性溶媒を使用せずに製造される組成物を指す。別の実施形態において、水を実質的に含まない工程を利用した組成物の製造により、脂質飽和が可能になる。脂質飽和は、in vivoでの大規模分解に抵抗する能力をマトリックス組成物に付与し、それゆえに、マトリックス組成物は、数週間または数ヶ月の規模での徐放を媒介する能力を示す。各可能性は、本発明の別の実施形態を示す。
【0051】
別の実施形態において、マトリックス組成物は、水を本質的に含まない。「本質的に含まない」は、水を0.1重量%未満含む組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.08重量%未満含む組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.06重量%未満含む組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.04重量%未満含む組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.02重量%未満含む組成物を指す。別の実施形態において、その用語は、水を0.01重量%未満含む組成物を指す。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0052】
別の実施形態において、マトリックス組成物は、水を含まない。別の実施形態において、その用語は、検出可能な量の水を含有しない組成物を指す。各可能性は、本発明の別の実施形態を表す。
【0053】
別の実施形態において、マトリックス組成物は、乾燥している。「乾燥」は、別の実施形態において、検出可能な量の水または有機溶媒が存在していないことを指す。
【0054】
別の実施形態において、マトリックス組成物の水浸透性は、最小限に抑えられている。水浸透性を「最小限に抑えること」は、添加された水を透過させる浸透性を最小限に抑えるために決定された量の脂質の存在下で、有機溶媒中のマトリックス組成物を製造する工程を指す。
【0055】
重量%、粒子サイズおよび重量比に関する用語「約」は、特定の変数と、その変数値の約10%以内である変数前後の範囲を指す。
【0056】
本発明の医療デバイスのテクノロジー基盤
薬物の効能は通例、局所濃度により決定される。また、製品から放出される薬物の蓄積速度と物理的分布による周辺組織への排出との対比、ならびに中和および/または分解によって決定される。最適な薬物送達システムは、対象部位の近接部において、所望の生物効果を得るために必要である十分な全期間にわたる有効濃度とするために、生物学的欲求に従って薬物を放出しなければならない。これは、効果的速度最低値を超えるが、毒性レベル未満となる有効濃度を、効果的な治療作用に必要となる所望の時間にわたってもたらす速度で、対象部位付近において活性形態の薬物が放出されることにより実現され得る。
【0057】
所与の薬物の局所曝露をより良好に制御する方法の1つは、供給速度の制御による。供給速度は、1)薬物放出プロファイル、2)放出速度、および3)放出期間、によって決定される。これらのパラメータは密接に関連するが、放出速度は特定の配合剤に大きく依存し、期間は放出速度および薬物貯蔵部のサイズという2つの因子の関数となる。
【0058】
特定の脂質と抗生剤を充填されたポリマーとの組合せを含む本発明の生分解性マトリックス組成物は、薬物の放出速度プロファイルを決定するのみならず、長期間の零次反応速度段階での放出速度の制御を可能にする。細菌(例えば、S.アウレウス(S.aureus))に対する抗生剤のMIC(最小発育阻止濃度)の少なくとも5倍の局所濃度をもたらす3〜4週間の抗生物質放出期間が、局所感染を完全に根絶させるための最適期間であることが見出された。加えて、血腫を含む状況において、初期抗菌性免疫は、攻撃されると損なわれる可能性があるため、汚染された開放骨折など汚染された部位での抗生物質の初期放出は非常に重要である。それゆえ最も効果的なプロファイルは、抗生物質の有効局所濃度をもたらす初期放出と、その後の十分な期間(好ましくは、少なくとも3〜4週間)連続的な零次反応速度での放出とを組合せることになる。その後の長期放出を支援ために十分に貯蔵した状態が残るように、初期放出を制限しなければならない。PLGAを約15〜25%(w/w)、コレステロールを約5〜15%(w/w)、DPPCとDSCPとの比が約5:1〜2:1であるDPPCとDSPCとの混合物を約50〜70%(w/w)、およびドキシサイクリンを約7〜12%(w/w)含む本発明のマトリックス組成物が、封入された抗生物質の約35%、好ましくは封入された抗生物質30%までの初期放出を示すことが見出された。水和直後に放出された薬物量は、臨床的に安全であり、薬物のほとんど(少なくとも65%)を約3〜5週間にわたって長期送達させ、局所濃度をMIC10〜50以上に上昇させることができる。
【0059】
汚染または感染された骨空洞への抗生剤の局所放出に用いられる現在入手可能な製品は、典型的にはポリマー(通例は小胞の形態)を利用している。ポリマー系薬物送達システムは、長期持続性放出を特色とするが、高度の初期バースト放出という欠点も有する。その一方で、リポソーム系薬物送達システムは、低バーストでの放出を特色とするが、短期持続性放出という欠点を有する。
【0060】
放出速度の最適化は、効果的治療に必須である。放出速度は、体液(結晶およびリンパ)でのクリアランス、細胞による取込み、pHおよび/または水和を介した酵素分解および化学分解、体表面、蛋白質などによる中和によって、活性薬物の喪失を補填することができる。放出速度の決定は、抗生物質薬が放出される空間体積を考慮する必要もあることを、所望の放出速度の決定の際に考慮しなければならない。
【0061】
本発明の医療デバイスにおいて、空間体積は、骨充填材顆粒内および顆粒間の自由空間により決定される。典型的には細菌は、そのような自由空間に透過することができる。空間体積は、移植された組成物の体積に関係する。それゆえ最適な放出速度は、主として、製品自体の内在的特性により決定される。
【0062】
本発明の医療デバイスは、一定した放出速度(零次反応速度)で抗生剤を徐々に放出して、3〜4週間にわたるS.アウレウス菌に対する抗生物質のMIC(典型的には約0.1〜0.5μg/ml)の少なくとも10倍である骨充填材粒子内の薬物の局所濃度を得る。S.アウレウス菌は、最も一般的な骨汚染細菌である。
【0063】
本発明の医療デバイスは、非常に様々な1種以上の生物活性分子を封入すること、および、それらを数週間〜数ヶ月間の範囲の間、予めプログラムされた速度で放出することができる。
【0064】
生体適合性および生分解性の薬物担体類が、開放骨折などの複雑な医学的状態のための移植可能な溶液を供給する。
【0065】
本発明の医療デバイスは、幾つかの実施形態によれば、汚染/感染された開放骨折内の骨空洞充填材として示される。それは、生分解性ポリマーおよび抗菌薬(例えば、ドキシサイクリン)を含む脂質飽和マトリックスを含む生体適合性かつ生分解性の配合剤によりマイクロコーティングされた、骨伝導性により骨成長を支援する生分解性骨空洞充填材(セラミック骨移植片)で構成される。コーティングにより、移植後約30日間、抗菌剤が周囲組織に徐々に放出される。骨充填材は、治癒過程で吸収されて骨に置き換わり、抗生物質により、骨感染が撲滅または低減され、骨癒合を成功させる。
【0066】
本発明の医療デバイスは、抗生物質を局所に予測可能な長期的速度で放出する。つまり全身濃度を低くまたはゼロに維持しながら、移植部位で局所的に治療用抗生物質濃度を維持することができる。
【0067】
こうして、本発明の医療デバイスは、放出された抗生物質の抗菌活性と、骨空洞充填材の骨伝導活性とを有利に組合せて、細菌関連の局所的骨感染による潜在的拒絶または早期吸収を予防する。全身濃度を低くまたはゼロに維持しながら、移植部位で局所的に治療用抗生物質濃度を維持することができる。
【0068】
局所抗生物質の最長30日間の長期放出により、通例は静脈内投与される単回用量と等しい局所抗生物質の少量で安全な用量が、開放骨折の局所細菌感染の根絶に非常に効果的である。例として、本発明の医療デバイス10グラム中の抗生物質量は、通例は静脈内投与される単回用量、または経口使用される1つのピル(または錠剤)の抗生物質量とほぼ同じである。
【0069】
本発明の医療デバイスの生体吸収性および生体適合性により、デバイスを除去するための更なる手術が不要となる(PMMAなどの他の製品とは対照的に)。骨折部位(例えば、開放骨折部位)での本発明の医療デバイスの移植は、単回治療で感染を予防しながら、骨癒合過程を促進する。つまり本発明の医療デバイスを用いることにより、術後の入院時間が有意に短縮され、長く続く高額かつ潜在的に毒性である静脈内抗生物質の必要性が有意に低減される。
【0070】
本発明の医療デバイスは、医療使用として周知の認可された成分で構成される。
【0071】
本発明の医療デバイスは、骨折部位での抗生剤の局所的放出制御をもたらす生分解性マトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む。幾つかの実施形態によれば、骨空洞充填材の粒子は、生分解性マトリックス組成物コーティングされており、コーティングは厚さ200μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ100μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ80μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ70μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ60μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ50μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ40μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ30μm以下であり、好ましくはコーティングは厚さ20μm以下である。
【0072】
骨折、特に開放骨折の治療、および他の整形外科手術において、最大のリスクの1つが、感染である。整形外科手術を受ける患者を治療するのに通例、用いられる抗生物質は、ゲンタマイシンまたはトブラマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質である。整形外科手術では一般にはテトラサイクリン系薬物、特にドキシサイクリンの使用は、通例ではない。
【0073】
ドキシサイクリンは、テトラサイクリン系抗生物質群の1種であり、通例は様々な感染を治療するのに用いられる。ドキシサイクリンは、半合成テトラサイクリンであり、オキシテトラサイクリンから合成により誘導される。
【0074】
ドキシサイクリンは、多くの種類のグラム陰性菌およびグラム陽性菌の両方によって誘発された感染を治療するのに効果的に用いることができ、数多くの状態を治療するのに用いられる。最も重要なこととして、ドキシサイクリンは、骨感染関連の最も共通する細菌スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス)に対して非常に効果的である。更に細菌検査により、ヒトにおける複数の難治性感染を担う細菌類メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)(多剤耐性スタフィロコッカス・アウレウスおよびオキサシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(ORSA)とも呼ばれる)による適切な薬物感受性が示されている。
【0075】
共通する細菌およびそのようなS.アウレウスに対するドキシサイクリンの最小発育阻止濃度(MIC)は、比較的低く、0.1μg/ml(S.アウレウスの場合)と低くなる可能性があるため、通例の骨汚染に対してin vivoにおいて高い能力が可能になる。ドキシサイクリンをはじめとするテトラサイクリン系は、翻訳を阻害することにより細胞の成長を阻害する。それは、30Sリボソームサブユニットの16S部分に結合し、アミノアシルtRNAがリボソームのA部位に結合するのを防ぐ。その結合は、本質的に可逆性である。他のテトラサイクリンの場合と同様に、異なる機構、つまりテトラサイクリンの酵素的不活化、エフラックス、およびリボソーム防御により、細菌がドキシサイクリンに対して耐性を示し得る。しかしS.アウレウスに関して、臨床で単離された亜種では、ペニシリンへの耐性が50%を超え、ゲンタマイシンには約30〜40%であるのに対して、ドキシサイクリンに対しては約10%のみであることが示された通り、ドキシサイクリンへの耐性は、ペニシリン系抗生物質よりもかなり小さい(Shaarei−Zedek Jerusalem Medical Center Database)。
【0076】
ドキシサイクリンは、市販の薬物送達製品ATRIDOX(登録商標)中で骨関連感染を治療するために認可されている。この製品は、36.7%ポリ(DLラクチド)(PLA)で構成された生体吸収性ポリマー配合剤であるATRIGEL(登録商標)Delivery Systemで構成された歯肉下放出制御製品としての使用が指示されている。生成された製品は、10%のドキシサイクリン濃度を有する。歯肉溝液との接触により、その液体製品は固化し、その後、7日間、薬物を放出制御させる。
【0077】
このように、ドキシサイクリンは、効果的かつ非常に強力な広域抗生物質である。その高い能力およびS.アウレウスによるドキシサイクリン耐性が非常に低いことは、骨感染を治療または予防する上で非常に有益である。ドキシサイクリンの全体的な安全性プロファイル、および臨床における骨関連感染を治療する際の経験が、本発明の医療デバイスにおける第一選択としてこの強力な抗生物質を使用する根拠となっている。
【0078】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法および組成物の抗生剤は、一実施形態において、ドキシサイクリンである。別の実施形態において、抗生物質は、疎水性テトラサイクリンである。疎水性テトラサイクリンの非限定的例は、6−デメチル−6−デオキシテトラサイクリン、6−デメチレンテトラサイクリン、ミノサイクリン(7−ジメチルアミノ−6−デメチル−6−デオキシテトラサイクリンとしても知られる)、および13−フェニルメルカプト−a−6−デオキシテトラサイクリンである。別の実施形態において、抗生物質は、ドキシサイクリン、テトラサイクリン、およびミノサイクリンからなる群より選択される。別の実施形態において、抗生物質は、マトリックス組成物に組込まれている。別の実施形態において、少なくとも1種の抗生物質が、マトリックス組成物に組込まれている。別の実施形態において、抗生剤の組合せが、マトリックス組成物に組込まれている。
【0079】
別の実施形態において、抗生物質は、アモキシシリン、アモキシシリン/クラブラン酸、ペニシリン、メトロニダゾール、クリンダマイシン、クロルテトラサイクリン、デメクロサイクリン、オキシテトラサイクリン、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、セファドロキシル、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファピリン、セフラジン、セファクロル、セファマンドール、セファメタゾール、セフォニシド、セフォテタン、セフォキシチン、セフポドキシム、セフプロジル、セフロキシム、セフジニル、セフィキシム、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフトリアキソン、セフェピム、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、リノコマイシン、トロレアンドマイシン、バカンピシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、メチシリン、メズロシリン、ナフシリン、オキサシリン、ピペラシリン、チカルシリン、シノキサシン、シプロフロキサシン、エノキサシン、グレパフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、スパルフロキサシン、スルフィソキサゾール、スルファシチン、スルファジアジン、スルファメトキサゾール、スルフィソキサゾール、ダプソン、アズトレオナム、バシトラシン、カプレオマイシン、クロラムフェニコール、クロファジミン、コリスチメタート、コリスチン、シクロセリン、ホスホマイシン、フラゾリドン、メテナミン、ニトロフラントイン、ペンタミジン、リファブチン、リファンピン、スペクチノマイシン、トリメトプリム、グルクロン酸トリメトレキサート、およびバンコマイシンからなる群より選択される。別の実施形態において、生物活性成分は、クロルヘキシジンなどの防腐剤である。各抗生物質は、本発明の別の実施形態を表す。幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、骨折部位での抗生剤または抗生剤の組合せの局所的な長期放出制御をもたらすマトリックス組成物でコーティングされた生体適合性骨空洞充填材を含む。
【0080】
骨移植:骨移植は、極めて複雑な骨折、患者への顕著な健康リスクを引き起こす骨折、または適切に癒合することができない骨折を修復するため、欠損した骨を置換する外科手術である。骨は一般に、完全に再生する能力を有するが、それを実施するためには非常に小さな骨折空間または何種類かの足場材料が必要となる。1998年には、30万件をわずかに超える骨移植手術が、米国で実施された。現在では実施数は米国で50万件を超え、世界全体ではおよそ220万件を超えている。これらの手術の推定コストは、25億ドル/年近くにのぼる。
【0081】
現在市販される代用骨移植片のおよそ60%が、セラミックを単独で、または別の材料と共に含む。これらには、硫酸カルシウム、生体活性ガラス、およびリン酸カルシウムが含まれる。
【0082】
リン酸三カルシウムTCPなどの合成骨空洞充填材は、整形外科手術での様々な指示に利用可能である。合成骨空洞充填材の使用は、その機械的性質が骨に匹敵することから、移植片の感染および拒絶リスクがかなり低い。
【0083】
放出された抗生物質の抗菌活性は、骨空洞充填材粒子の骨伝導活性を補助し、細菌関連の局所骨感染による潜在的な拒絶または早期吸収を予防する。
【0084】
本発明の医療デバイスは、吸収性であり、コーティング代用骨移植片であるため、抗生物質を予測可能な長期的速度で局所的に放出することができる。抗生剤の低毒性または無毒性の全身濃度を維持しながら、移植片部位で治療用抗生物質濃度を局所的に維持することができる。
【0085】
前臨床試験、毒性試験、および生体適合性試験
本発明の医療デバイスを、感染されたウサギの脛骨モデルにおいてin vivoにおいて試験した。本発明の医療デバイスは、急性および慢性感染のいずれにおいても高い有効性が実証され、非配合の遊離型薬物および全身抗生物質の反復投与よりも有意に有益であることが示された。本発明の医療デバイスは、臨床試験で評価されたとおり、使用するにあたって安全なデバイスである。特に血液学的および/または血液化学的パラメータの差は、本発明の医療デバイスでの治療では観察されず、本発明の医療デバイスの移植が起因となる全身有害作用は認められなかった。
【0086】
ガスティロ開放骨折分類
本発明の方法は、汚染/感染された開放骨折の治療に有用である。特定の典型的な実施形態によれば、本発明の方法は、長骨開放骨折の治療に有用である。目下好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、ガスティロ骨折分類でII型、IIIa型およびIIIb型に分類された長骨開放骨折の治療に有用である。
【0087】
ガスティロ開放骨折分類は、開放骨折で最も多く用いられる分類システムである。このシステムは、骨折重症度の決定のために、エネルギー量、軟組織傷害の度合いおよび汚染の度合いを利用する。I型からIIIC型の進行度は、傷害に伴うエネルギーがより高いこと、軟組織傷害および骨傷害がより高度であること、合併症の可能性がより高いことによって表される。IIIC型骨折が、血管傷害をも意味することを認識することが重要である。
【0088】
I型:開放骨折、挫滅、粉砕のない創傷、長さ1cm未満の創傷。
II型:開放骨折、軟組織の広範な損傷を有さない1cmを超える創傷、皮弁、アバルジョン術。
III型:広範の軟組織の裂傷、損傷もしくは欠損を有する開放骨折、または分節開放骨折。このタイプには、農作業での傷害による開放骨折、血管修復を必要とする骨折、または治療前8時間にわたり開放されていた骨折も含まれる。
IIIA:広範の軟組織裂傷または損傷にもかかわらず骨折の適切な骨膜被覆を有するIII型骨折。
IIIB型:広範の軟組織欠損および骨膜剥離および骨損傷を有するIII型骨折。通常は大規模な汚染を伴う。多くの場合、更なる軟組織被覆術(即ち、遊離または回転皮弁)が必要となる。
IIIC型:軟組織傷害の程度とは関係なく、修復を必要とする動脈傷害を伴うIII型骨折。
【0089】
幾つかの実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、1骨折部位あたり1〜40グラムの範囲内の用量で投与される。特定の実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、1骨折部位あたり5〜20グラムの範囲内の用量で投与される。当業者の裁量により、骨折の状態に応じて1骨折あたりにより高用量または低用量が用いられ得ることが、理解されなければならない。本発明の医療デバイスを骨折部位に挿入または移植した後、コーティング骨空洞充填材が、所定の制御された長期間にわたり薬物を骨空洞および周囲に放出する。骨充填材足場材料は、治癒過程で骨により再吸収が行われるおよび骨に置き換わることにより、骨伝導性骨回復を支援する。加えて、コーティング配合剤からの抗菌薬の長期放出制御が、骨感染の根絶または予防に成功すると同時に、骨伝導性が、仮骨形成および骨癒合を促進する。放出された抗生物質の抗菌活性が、骨空洞充填材の骨伝導活性を補助し、局所骨感染に関連する細菌による潜在的拒絶または早期吸収を予防し、汚染後の急性または慢性的骨感染の発症を予防する。
【0090】
幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、骨空洞部位での填入または移植の前に医療デバイスを水和するステップを更に含む。幾つかの実施形態によれば、医療デバイスの水和は、医療デバイスを水性溶液と混合することにより実現される。幾つかの実施形態によれば、水性溶液は、生理食塩水を含む。更なる実施形態によれば、水性溶液は、抗生剤を含み、前記抗生剤は、マトリックス組成物内の抗生剤と同一または異なっていてもよい。更なる実施形態によれば、水性溶液は、骨誘導性因子、成長因子またはそれらの組合せなど、骨成長を誘導または刺激する物質を含む。更なる実施形態によれば、水性溶液は、防腐剤、抗炎症剤、非ステロイド系抗炎症剤またはそれらの組合せを含む。
【0091】
任意の理論または作用機序に束縛されるのを望むものではないが、医療デバイスと混合される水性溶液は、多孔性非コーティング骨充填材に拡散または浸透する。水性溶液が、例えば抗生剤などの活性剤を更に含む場合、多孔性非コーティング骨充填材に浸透された抗生剤は、水和された医療デバイスを骨空洞部位に適合した後、短時間のうちに放出され、それにより抗生剤の即時または短期放出が得られる。このようにして、本発明のデバイスは、抗生剤の短期放出に加え、長期間または長期放出を可能にし、これにより抗菌活性の効率的手段を提供する。
【0092】
本発明の方法は、1回のみの手術セッションで感染された骨を完全に再建させることができる。このため、本明細書に開示された方法は、骨癒合およびリハビリテーションの時間を有意に短縮し得る。幾つかの実施形態によれば、本発明の方法は、骨折部位での本発明の医療デバイスの適用により、最初の外科的介入に続いて行われ得る洗浄とデブリードマン(I&D)、および骨折安定化の次なる外科的ステップの少なくとも幾つかを更に含み得る。本発明の方法は、1回のみの手術セッション、好ましくは最初で単独の手術セッションで、潜在的に反復手術を必要とせずに、外傷直後の治療を可能にするため、開放骨折の治療として従来からある骨移植技術よりも有利である。例えば骨折の状態に応じて、骨折部位での本発明の医療デバイスの更なる適用を含む更なる治療が必要となり得ることが、理解されなければならない。例えば骨折の状態に応じて、資格のある医師の決定により、骨折部位での本発明の医療デバイスの二回目の填入を、最初の治療後の任意の時間に実施することができる。
【0093】
以下の実施例は、例示の目的で示されているに過ぎず、本発明の範囲に非限定的であると解釈されなければならない。
【0094】
実施例
実施例1:本発明の幾つかの実施形態によるマトリックス組成物コーティング骨粒子からのドキシサイクリンの放出速度に及ぼすホスファチジルコリンアシル鎖長の影響
アシル鎖内の炭素数が2個および4個異なるのみである(それぞれ炭素14、16および18個)DMPC、DPPCまたはDSPCのいずれかを有するマトリックス組成物の調製は、長期零次放出期でのドキシサイクリンの放出速度に有意に影響を及ぼした(表1)。しかしアシル鎖の長さは、急速放出期の放出プロファイルを有意に変化させなかった。用いられたリン脂質のアシル鎖長減少の関数として、封入された薬物の放出速度の明白な直線的上昇が存在した(R
2=0.976)。DSPCのみ(18:0)とDMPCのみ(14:0)を対比させると、放出期間の55%を超える増加が存在した。一般にこれらの完全に飽和されたリン脂質の混合物を有するマトリックス組成物の調製は、同じ傾向に従うが、幾つかの例外が存在する。これに関して、最も注目すべきは、DSPCをDPPCと混合した場合の影響が強いことであり、DSPCが少量の24モル%であっても、この脂質の100%配合剤と同程度で放出速度に影響を及ぼした。
【0095】
表1:DOXの放出速度に及ぼすマトリックス配合剤中の二飽和ホスファチジルコリンアシル鎖長の影響
【表1】
【0096】
ポリマー−脂質−DOX配合剤コーティング骨粒子は、規定の単一成分で二飽和ホスファチジルコリン(PC)およびPC混合物で調製し、DOXの放出を30日間毎日測定した。零次反応速度期の一日あたりの放出速度中央値を計算して、1日あたりコーティング骨粒子1mgから放出された薬物量(μgドキシサイクリン/日/mgコーティング骨粒子)に正規化した。
【0097】
コーティング骨粒子からのDOXの放出期間は、直線的期間に測定された放出速度を反映している(表2)。その期間は、混合物中の相対量とほぼ無関係に、長鎖アシル鎖を有するリン脂質によって支配される。DSPCの任意の添加により放出期間が変化し、DSPC単独での放出速度と同様になれば、この現象が、放出速度と同様にDSPC−DPPC混合物で強く立証される。
【0098】
表2:ドキシサイクリンの放出期間に及ぼす二飽和PCアシル鎖長の影響
【表2】
【0099】
実施例2:マトリックスの特性に及ぼす影響についての飽和ホスファチジルコリンと不飽和ホスファチジルコリンの対比
本発明のマトリックス組成物は、脂質で飽和されている。脂質は、好ましくは飽和ホスファチジルコリンおよびコレステロールである。本発明者らは、マトリック組成物の特性(薬物放出性、安定性、取扱いの容易さ)が、組成物中の他の全ての成分の量および比率を変化させずに飽和DPPC(16:0)から不飽和DOPC(18:1)にホスファチジルコリンを変更することによりどのように影響を受けるかについて試験した。
【0100】
この結果により、全体的放出プロファイルおよび放出速度は、影響を受けなかったことが示される。しかし、DPPCとは対照的に、DOPCを含むマトリックス組成物コーティングTCP粒子は、粘着性があって凝集体を形成し、取扱いが困難である。特にコーティング粒子と非コーティング粒子との均質混合物は、得ることが困難である。
【0101】
追加としてDOPCを含む組成物でコーティングされたTCP粒子は、貯蔵期間の薬物量の減少、およびそのような組成物コーティング骨粒子で観察された変色が示す通り、不安定であることが見出された。より詳細には、DPPCを含む組成物コーティング骨粒子は、黄色がかった色を維持したが、DOPCを含む組成物コーティング骨粒子の色は、数日以内に褐色に変化し、それはおそらく薬物の分解によるものと考えられる。
【0102】
このように、DOPCは、安定性の懸念から組成物中での使用に適さない。
【0103】
実施例3:本発明のマトリックス組成物からのドキシサイクリンの放出に及ぼすコレステロールの影響
マトリックス組成物中のコレステロールの存在は、長期の零次反応速度放出期のドキシサイクリンの放出プロファイルおよび放出速度に有意に影響を及ぼした。
図1に見られる通り、配合剤中のコレステロール量を5%(マトリックス組成物のw/w)まで減少させること、または抗生物質化合物の放出を減少させることは完全になされず、抗生物質化合物の70%のみ放出された後で遮断された。
図1は、炭素16個の脂肪酸部分を有するホスファチジルコリンをマトリックス組成物に添加することの重要性も示している。ホスファチジルコリンが組成物に存在しない場合、抗生剤が非常に急速に放出され、完全な放出が10日以内に達成される。このため、少なくともDPPCを含むマトリックス組成物の調製は、長期的零次反応速度放出期にドキシサイクリンの放出速度に有意に影響を及ぼし、少なくとも3〜4週間の制御的薬物放出を可能にする。
【0104】
実施例4:本発明のマトリックス組成物からのドキシサイクリン放出に及ぼす異なる脂質の影響
本発明のマトリックス組成物において、ホスファチジルコリンの存在は必須である。ホスファチジルコリンをラウリン酸、αトコフェロール、またはコレステロールなどの他の脂質と置き換えると、より高い初期バーストの放出(>35%)を特徴とする(
図2)、長期間の治療には適さない配合剤が得られた。
【0105】
実施例5:本発明の医療デバイスの性能特性
以下の実施例において試験された医療デバイスは(他に指示がなければ)、平均サイズ10〜1000μmを有するコーティングTCP粒子と非コーティングTCP粒子とが1:1である混合物を含み、コーティングTCP粒子は、PLGA20%(マトリックス組成物のw/w)、コレステロール9.7%(マトリックス比較のw/w)、DPPC45.23%(マトリックス組成物のw/w)、DSPC15.07%(マトリックス組成物のw/w)およびドキシサイクリンヒクラート10%(マトリックス組成物のw/w)を含むマトリックス組成物でコーティングされている。
【0106】
概して言えば、以下の実施例で試験された医療デバイスは、他に指示がなければ、本質的に平均サイズ100〜1000μmを有するβ−TCP粒子93.50%(w/w)、PLGA1.3%(w/w)、コレステロール0.63%(w/w)、DPPC2.94%(w/w)、DSPC0.98%(w/w)およびドキシサイクリンヒクラート0.65%(w/w)からなる。
【0107】
本発明の医療デバイスの調製方法
溶液の調製
SS1−PLGAをEAに300mg/mlの濃度になるように溶解した。
SS2−コレステロール(CH)をEAに30mg/mlの濃度になるように溶解した。
溶液A−容量1のSS1を容量5のSS2と混合した(PLGA50mg/ml;CH25mg/ml)。この溶液を室温に10分間保持した。
EA:MeOH−EAおよびMeOHを50:50の比で互いに混合した(SS2.1)
SS3−ドキシサイクリンをSS2.1に50mg/mlの濃度になるように溶解した。
溶液B−DPPCおよびDSPCを、容量3のSS3および容量1のEAで溶解した(DPPC+DSPC225mg/ml;ドキシサイクリン37.5mg/ml)。
溶液AB−容量2の溶液Bを容量3の溶液Aと混合した(DPPC+DSPC60mg/ml;PLGA20mg/ml;ドキシサイクリン10mg/ml;CH10mg/ml)。
【0108】
コーティングステップ
洗浄されたβ−TCP粒子1gを、20mlバイアルに入れた。溶液AB1000μlをβ−TCPを含むバイアルに添加して、溶媒を45℃に設定された加熱マントル上に放置して乾燥するまで蒸発させた(75分間)。試料を真空(1Pa)内に一晩置いて、完全な溶媒蒸発を確実に行った。コーティング骨充填材と非コーティング骨充填材との混合物が、骨成長が所望される位置での本発明の医療デバイスの移植直後に、骨成長を促進させることが、強調されなければならない。マトリックス組成物を緩徐に表面分解させると、非コーティング骨充填材と、マトリックスの緩徐な表面分解後に表面が露出された骨充填材とで、骨成長を支援する能力に差はない。
【0109】
本発明のマトリックス組成物におけるドキシサイクリンの安定性
ドキシサイクリンは、水和条件下で分解することが知られている。本発明のマトリックス組成物は、ドキシサイクリンをこの分解から防御することができる。マトリックス組成物の水和の際(37℃のFBS溶液中)の封入されたドキシサイクリンの安定性を試験した。各時点で、2つのパラメータ:1)本発明の医療デバイスから放出されるドキシサイクリン分子、および2)本発明の医療デバイス中のドキシサイクリン分子貯蔵量、を試験した。後者は、塩化メチレンを用いて配合剤から抽出した。2つのドキシサイクリン量の合計は、各時点での生成物中の全体的ドキシサイクリン量を表す。対照として、同じ条件下でインキュベートされた遊離ドキシサイクリンを用いた。結果を
図3にプロットしている。
【0110】
遊離ドキシサイクリンは、予想通り指数関数的に分解して(R
2>0.99)、ドキシサイクリン濃度の急激な低下をもたらすが、マトリックス組成物中の放出された薬物と封入された薬物との合計は、一定のままであり、初期用量の90%を十分に超えている。21日間の水和の後、全体的なドキシサイクリン分子(放出+貯蔵)は、初期用量の95%を超えたが、遊離ドキシサイクリンでは、未分解のままであったのは20%のみであった。
【0111】
本発明のマトリックス組成物から放出されたドキシサイクリンの抗菌活性
本発明のマトリックス組成物コーティング骨粒子から放出されたドキシサイクリンの、スタフィロコッカス・アウレウス(ATCC25923)に対する抗菌活性を、水和後30日間追跡調査した(
図4)。異なる時点でのマトリックス組成物から放出されたドキシサイクリンのMIC(最小発育阻止濃度)は、約1μg/mlと計算され、MIC50(発育を50%阻止する濃度)は、約0.1μg/mlであり、それらの値は対照の遊離ドキシサイクリンと同程度であった。しかし水和後の低い安定性から予測された通り、水和された遊離ドキシサイクリンの活性は、徐々に喪失されたが、本発明の医療デバイスから放出されたドキシサイクリンは、試験期間全体でその能力を維持した(
図4)。
【0112】
In vitro試験
50m
2/gを超えるTCP顆粒の大きな表面積を駆使して、本発明のマトリックス組成物での微細なコーティングは、全体的な寸法には有意な変化を有さずに、骨充填材の全体的質量を有意に約5%〜15%増やすことができる。ドキシサイクリン抗生物質の全体的質量は、試験された医療デバイスの全体的質量の約0.65%である(上記参照)。これは、非生分解性PMMAビーズ(5%〜10%)または生分解性OSTEOSET T(登録商標)(4%)など、骨感染の治療に用いられる他の局所送達システムよりもかなり低い濃度である。
【0113】
本発明の医療デバイスからのドキシサイクリン放出プロファイル
20μmまでの非常に微細な抗菌層コーティングは、TCP顆粒の本来の形状およびサイズを有意に変化させることはなく、また、骨充填材としてのセメントの特性、または外科医が使用する方法が変わることはない。コーティング配合剤の成分は、全て完全に生体適合性および生分解性である。体内での水和により、配合剤は外側から一層ずつ徐々に崩壊される。その分解が、外層内の封入された抗生物質を周囲に一定して放出させる。
【0114】
ポリマーまたは脂質のいずれかで構成された薬物送達システム中に封入された薬物が、対数方式で放出される。本発明の医療デバイスにおいて、ドキシサイクリン化合物は、薬物の放出を減衰させるだけでなく放出反応速度を変化させる、ポリマーおよび脂質の両方で構成された配合剤中にカプセル化されている。ポリマーおよび脂質を組合せたコーティングからのドキシサイクリン放出速度は、長期的放出速度をもたらし、封入された用量のほとんどが零次反応速度となる(P>0.97)。
【0115】
In vitroでの本発明の医療デバイスの顆粒からのドキシサイクリン放出は、体温またはその前後での顆粒の水和により開始する。初期放出のほとんどが最初の1時間経過後に起こる場合、典型的には薬物量の約20〜30%は、水和後初日に上清に放出される(
図5)。初期放出に続いて、用量の約70%は、全体的用量の約3%の割合で零次反応速度にて放出される。約4週間後に、放出速度は有意に低下し、ドキシサイクリンの放出は、実際的に停止される。時間に対して累積薬物放出量をプロットすることにより、封入された用量の60%〜70%の直線的な「零次」放出反応(R
2=0.98)が、2日目に開始して26日目まで観察される(
図5の丸印)。これに対して、(a)薬物そのものだけを有する本発明の医療デバイスと同じ工程により治療を受けたTCP顆粒、(b)薬物と共に配合されたPLGAポリマー、および(c)リン脂質と共に配合された薬物、という対照群からのドキシサイクリン放出プロファイルは全て、本発明のコーティング粒子を有する群よりも有意に急速であった。更に、(a)群のTCP顆粒からの薬物放出速度は、本発明のコーティング粒子からのドキシサイクリン放出プロファイルとは異なる一次指数関数的に累積される対数的薬物放出を特徴とした(
図5)。薬物放出プロファイルは、3つの対照配合剤全てで類似しており、初期ドキシサイクリン放出は急速で、水和1時間後には約40%まで累積され、水和後最初の4日間に80%を超えて累積された。
【0116】
実施例5:感染されたウサギ脛骨モデルにおける本発明の特定の実施形態による医療デバイスの有効性
本発明の特定の実施形態による医療デバイスを、感染されたウサギ脛骨モデルにおいてin vivoで試験した。該医療デバイスが、急性および慢性の両方の感染に高い有効性を示し、配合されていない遊離型薬物よりも有意に有益であることを立証した。骨癒合における本発明の医療デバイスのより高い有効性が、4週間にわたる製品(ドキシサイクリン)の直線的な持続的長期放出および骨充填材としての骨伝導性効果から得られる。
【0117】
実施例6:汚染/感染された開放骨折の治療における本発明の特定の実施形態による医療デバイスの有効性
本試験は、骨伝導剤(仮骨形成および骨癒合を促進するため)としての本発明の特定の実施形態による医療デバイスの有効性を実証すること、および細菌培養において実証された汚染または感染された開放骨折内の局所骨感染の低減または根絶により本発明の医療デバイスの補助的活性を実証すること、を目的とする。
【0118】
本試験は、有害事象および臨床検査変数(血液学、血清化学および尿分析測定値)の報告および記録による評価により、開放骨折の治療における本発明の医療デバイスの安全性を実証することを目的とする。
【0119】
臨床試験計画
試験計画
このプロトコルによるデバイスは、骨充填材および持続的抗生物質放出の基盤を提供する。骨充填材は、治癒過程で骨に吸収されかつ骨に置き換わり、抗生物質により局所骨感染を根絶または低減させて、骨癒合を成功させる。
【0120】
試験には、長骨骨折で入院した対象(ガスティロ分類II型、IIIa型またはIIIb型)約16名を対象とする。
【0121】
試験対象患者選択基準
−18〜70歳の男性および女性
−長骨開放骨折
−骨折の重症度:ガスティロ分類II型、IIIa型またはIIIb型
ガスティロ分類II型、IIIa型、IIIb型およびIIIc型の長骨開放骨折を有する患者を、外傷後6日までに登録した。患者が外傷後の、本発明の方法による医療デバイスの移植前に、既に全身抗生物質で治療されている場合には、外傷後により長期間をおくことが可能である。複数の傷害を受けたガスティロ分類II型、IIIa型またはIIIb型開放骨折の患者は、血液力学的および生理学的に安定している限りは臨床試験に登録することができる。本明細書で用いられる「複数の傷害を受けた患者」は、少なくとも2つの傷害に見舞われていて、各傷害が別個の独立した入院を必要とし得る患者である。
【0122】
病院の標準治療(SOC)として列挙されたもの以外の任意の更なる抗生物質は、臨床試験プロトコルでは許容されない。
【0123】
患者は、病院のSOCに従い、静脈内抗生物質、および、その後の経口抗生物質(必要に応じて)を受けた。
【0124】
ドキシサイクリンのIV/PO投与は、このプロトコルでは許容されなかった。
【0125】
長期ステロイドの使用および/または免疫抑制剤は、この治験期間は禁止された。
【0126】
試験期間
この試験の最長期間は、特定の患者では12週間であった。試験期間後の追加的な追跡調査を、担当医師の診療行為に従って医師の裁量で実施し、試験後6ヶ月間に少なくとも1回の追跡試験を組み入れた。例示的な試験業務のフローチャートを、
図1Aおよび1Bに示す。幾つかの実施形態によれば、血中ドキシサイクリンの薬物動態測定(PK)は、
図1Bに記載された試験業務フローチャートから除外してもよい。
【0127】
スクリーニング来院−来院1、緊急治療室(ER)にて試験前1日目
スクリーニング来院には、骨折状態の記録(撮影された創傷写真);身体検査;細菌検査(骨折した骨および軟組織周辺の筋膜のスワブ);500ml滅菌生理食塩水での創傷洗浄;創傷の評価;滅菌包帯(デブリードマンの時だけ解かれる);全身抗生物質の開始(標準治療(SOC));X線(前後および側面);局所SOCによる補助的治療、例えば血液灌流、麻酔評価が含まれた。
【0128】
来院2:0日目/手術室(OR)でのベースライン値
来院2には、骨折状態(+写真);洗浄とデブリードマン治療(I&D);骨折の安定化(Ex−Fixまたはギブス);本発明の医療デバイスでの治療−該医療デバイスを、骨空洞充填材として骨折部位に填入する;滅菌包帯;X線(AP+LAT)および創傷評価+全身抗生物質(必要に応じて)が含まれた。
【0129】
来院3:入院1日目
来院3には、創傷評価+全身抗生物質(必要に応じて)が含まれた。
【0130】
院内ORでの来院4−2日目〜6日目(担当医の裁量による)
来院4には、骨折状態(+写真);細菌検査(骨折した骨および軟組織周辺の筋膜のスワブ)(任意のI&Dおよび/または創傷閉鎖の前);創傷評価+全身抗生物質(必要に応じて);洗浄とデブリードマン;骨折の安定化(Ex−Fixまたはギブス);本発明の医療デバイスでの追加的治療(必要な場合のみ);創傷閉鎖/包帯および滅菌包帯(必要に応じて)が含まれた。
【0131】
入院7、14および21日目の来院5、6、7
来院5〜7には、創傷評価+必要に応じて全身抗生物質が含まれた。
【0132】
来院8−入院による初期治療後4週目
来院8には、骨折状態(+写真)の評価;身体検査;細菌検査(骨折した骨および軟組織周辺の筋膜のスワブ)(必要に応じて、ドレーン除去の際/創傷からのドレナージを継続する場合には1週間に1回);X線(AP+LAT)および創傷評価およびPIの裁量で治療;創傷の感染基準:発育陽性の細菌検査、および/または細菌検査結果が陰性であったとしてもドレナージ/化膿の存在、が含まれた。継続的分泌があれば、担当医師の裁量で全身抗生物質が投与される。
【0133】
来院9−来院9、入院による初期治療後8週目
来院9には、骨折状態の評価;身体検査;細菌検査(骨折した骨および軟組織周辺の筋膜のスワブ)(必要に応じて、ドレーン除去の際/創傷からのドレナージを継続する場合には1週間に1回);X線(AP+LAT);創傷評価およびPIの裁量で治療(必要に応じて全身抗生物質)、が含まれた。継続的な分泌があれば、治療を担当位置により決定した(来院8と同様)。
【0134】
追跡調査−来院10、11、12、13(入院による初期治療後、それぞれ12、16、20および24週目)
追跡調査来院には、骨折状態の評価;創傷評価;細菌検査(創傷が開放/分泌されている場合、および/またはピン刺入部の創傷が開放/分泌されている場合のみ);X線((AP+LAT)および45°斜位(現場での診療行為で必要な場合))が含まれた。
【0135】
追跡調査来院を含む全ての来院の際に、血液試験(血液学的および血液化学的検査)およびバイタルサイン(血圧、HRおよび体温)を測定した。全ての来院で、有害事象および併用薬を記録した。
【0136】
医療デバイスの組成物
本発明の幾つかの実施形態による医療デバイスは、
TCP−510(k) NumberK042340CE Mark:CE0459、コレステロール−DMF25382,PLGA−Purasorb DMF21817、リン脂質−DMF7349が含まれる。
【0137】
本発明によるコーティング骨空洞充填材は、ISO−9001およびISO−13485ガイドラインを遵守して製造され、無菌条件下で実施され、製品は、移植される医療デバイス用のUSPにより表明された全ての制限条項を遵守している。
【0138】
特定の典型的な実施形態によれば、本発明による医療デバイス中で用いられる抗菌剤(例えば、ドキシサイクリンヒクラート)(DMF13636)の濃度は、0.65%であり、医療デバイスの総重量の各10g(1バイアル)中に65mgである。
【0139】
治療方法
本発明によるコーティング骨空洞充填材は、生体適合性かつ生分解性の使い捨てデバイスであり、患者1名の使用に向けて予め充填および予め滅菌されており、10gの即使用可能製品を含む滅菌褐色バイアルに包装されている。各バイアルは、半量が本発明のマトリックス組成物でコーティングされた0.5〜1mmのTCP顆粒を含む医療デバイスを10グラム含んでいた。医療デバイス各10グラムは、ドキシサイクリンを総量で65mg含んでいた。
【0140】
幾つかの実施形態によれば、骨折部位または任意の他の骨空洞部位に移植される医療デバイスの量は、骨充填材により充填される骨空洞のサイズに依存する。幾つかの実施形態によれば、成人の骨折部位に移植される医療デバイスの最大推奨用量は、1回の使用で2バイアル(20g)であり、この試験では合計4バイアル(40g)である。非常に稀な例として、骨折状態に応じて、当業者の裁量でより高い用量を用いることができる。本発明のマトリックス組成物中に用いられたドキシサイクリンが非常に低用量で、かつ、局所的使用であるため、安全性の問題は予想されない。
【0141】
幾つかの目下好ましい実施形態によれば、本発明の医療デバイスは、来院2(手術室)で骨空洞骨折部位に投与される。移植ごとに医療デバイスの更なる10〜20gを、創傷/空洞のサイズに基づき、整形外科医の裁量で用いることができる。総量で20g(2バイアル)を、手術室での洗浄とデブリードマン治療後のいずれかの時間に用いることができる。
【0142】
細菌検査、および洗浄とデブリードマン治療に続いて、来院2のおよそ3日後(来院4、手術室で2〜6日目)に、担当医が、コーティング骨粒子での治療の再施行を決定することができる。
【0143】
外科手術
幾つかの実施形態によれば、外科手術は、骨折の治療として当該技術分野で知られる任意の外科手術であってもよい。適切な外科手術および技術は、職業的医師/外科医の責務である。
【0144】
用法注意
任意の外科手術と同様に、外科手術の成功に影響を与え得る既存の条件で対象を治療する際に、十分に注意が必要である。これらの患者には、出血性障害を有する、長期ステロイドを使用している(プロトコルに加える)、免疫抑制剤治療を受けている患者などが含まれる。
【0145】
本発明のマトリック組成物の移植またはマトリックス組成物コーティング骨充填材粒子に関連する安全性の問題は存在しない。血球計数、赤血球沈降速度(ESR)、空洞の細菌培養、前後および側面X線検査、創傷評価、ならびに有害事象など、移植後に得られた安全性パラメータは全て、潜在的感染に関連する外傷性骨折に関係する。
【0146】
有害事象としては、テトラサイクリン系抗生物質への感受性;血腫、部位ドレナージおよび骨感染をはじめとする創傷合併症;任意の手術の合併症;一過性の高カルシウム血症を挙げることができる。ドキシサイクリンに対して重度の感受性を有する場合、直ちに治療を中止することが強調されなければならない。
【0147】
医療デバイスは、使用前は常に冷蔵状態を保ち、強い光または熱への長期曝露を回避した。
【0148】
移植の前に、医療デバイスを開放式滅菌キャップに注ぎ、生理食塩水であれば(蒸留水でなく)、医療デバイス10mgあたり4mlで湿潤させた。過剰な湿潤は回避しなければならない。
【0149】
水和後に、医療デバイスを骨折部位に移植する。骨折部位の骨空洞は、完全に充填されなければならない。
【0150】
貯蔵条件
本発明のマトリックス組成物コーティング骨充填材は、2〜8℃で貯蔵され(24時間よりも短期間ならば、コーティング骨充填材は室温(18〜25℃)で貯蔵されてもよい)、光および湿度から防御した。
【0151】
方法の評価
効能の評価法
本発明の医療デバイスの有効性を、
1.陰性細菌培養物のパーセント率、
2.軟組織の創傷閉鎖(物理的寸法)のパーセント率、
3.医療デバイス投与後4、8および12週目の、X線での少なくとも2つの投射法(AP+LAT)に反映される仮骨形成のパーセント率、
により初期治療後4および8週目に評価した。
【0152】
本発明の医療デバイスで治療を受けたガスティロ分類IIIA型およびIIIB型開放骨折の患者16名の臨床試験結果
本発明の特定の実施形態により配合したドキシサイクリンコーティングβ−リン酸三カルシウム骨空洞充填材(TCP)を、最初の外科的介入の際に、標準治療(SOC)を併用しながら移植した。患者は、定期的なルーチン血液検査、生化学検査、尿分析、細菌検査および放射線検査による追跡調査を受けた。
【0153】
結果:男性14名および女性2名(平均年齢37±9歳)、ガスティロ分類IIIA型の対象11名およびIIIB型の対象5名を登録した(表1)。
【表3】
【0154】
治療を受けた患者全員の対象となる開放骨折は、頸骨であり、外傷後の登録時間は、患者16名中7名では8時間を超えており、治療された対象の1名は、外傷後132時間目に登録された。12週目の予備的結果から、配合ドキシサイクリンコーティングβ−TCP骨空洞充填材が移植された対象となる骨折で、感染は報告されなかったことが示された(配合ドキシサイクリンコーティングβ−TCP骨空洞充填材が移植されていない腓骨骨折では、深部感染が一例のみ報告された)。対象となる骨折で切開とドレナージ(I&D)が1回のみ必要となり、実施された。次の外科手術は、軟組織のみに実施された(5箇所の皮膚移植、3箇所のヒラメ筋弁)。早期仮骨形成が、移植後6〜12週目に観察された。
図6および
図7(A〜D)は、外傷後1.5時間目に登録された開放創寸法2×2cmのガスティロ分類IIIA型の脛骨(腓骨を含む)開放骨折を有する49歳男性の治療結果を示す。
図8(A〜C)は、外傷後4.5時間目に登録されたガスティロ分類IIIB型の脛骨骨折を有する患者の治療結果を示す。
図9(A〜D)は、外傷後10時間目に登録された脛骨骨折を有する患者の骨回復を示す。本発明による配合ドキシサイクリンコーティングβ−TCP骨空洞充填材に関連する有害事象、および重篤な有害事象は、報告されなかった(表2)。
【表4】
【0155】
安全性の結果:本発明の医療デバイスで治療を受けた患者により報告された有害事象は、軽度〜中等度であった。重篤な有害事象または死亡は、報告されなかった。
【0156】
本発明の医療デバイスでの治療による骨折部位の劇的な感染減少が、
図6Aに示される。HO Ayo(SA Orthopaedic J,2010,P.24−29)による発行物から得られた
図6Bは、術後の手術部位感染を有する、または有さない患者のCRP濃度を示している。C反応性蛋白質(CRP)は、血中で見出される蛋白質であり、その濃度は、炎症に応答して上昇する。
【0157】
図6Bに見られる通り、術後の手術部位感染を有さない患者のCRP濃度は、外科手術後に上昇するが、術後10〜14日の間に濃度が正常値に戻る。感染を受けた患者のCRP濃度は、手術2週間後も依然として非常に高い。
【0158】
図6Aは、本発明の医療デバイスで治療を受けた患者16名の血中のC反応性蛋白質の平均測定レベルを示す。
【0159】
図6Aに見られる通り、本発明の医療デバイスで治療を受けた後10〜12日目には、CRP濃度が通常の健常濃度まで低下し、治療を受けた対象となる骨折に感染が発症していないことが示された。通常のCRP濃度は、治療後100日を超えても観察された。
【0160】
結論:本発明の幾つかの実施形態による配合ドキシサイクリンコーティングβ−TCP骨空洞充填材(非コーティングβ−TCPと混合された)の骨誘導性および抗炎症性効果の両方の強い臨床シグナルが、非常に重度の長骨開放骨折患者において実証された。本発明の組成物および方法を用いれば、治療後6ヶ月であっても、治療を受けたいずれの患者にも感染が観察されなかった。骨折は、一回の手術セッションにおいて本発明の医療デバイスで治療を受けた後、75%を超えた患者において完全に癒合し、対象となる骨折でいずれの感染も発症しなかった。
【0161】
本発明のマトリックス組成物コーティングTCP粒子は、単回治療で感染を予防しながら骨癒合過程を促進する。
【0162】
前述の具体的実施形態の記載は、現在の知識を適用することにより、他者が過度の実験を行わず、また一般的概念から逸脱せずに、様々な適用例に向けてそのような具体的実施形態を容易に改良および/または適合させ得る、という本発明の一般的性質を非常に完全に明かしており、それゆえそのような適合および改良は、開示された実施形態の均等物の意味および範囲内のものと解釈されなければならず、そう解釈されることを意図する。本明細書で用いられた表現法または用語法は、記載を目的とし、限定を目的とするものではないことが、理解されなければならない。様々な開示された機能を実践するための手段、材料、およびステップは、本発明から逸脱せずに様々な他の形態をとってもよい。