特許第6182232号(P6182232)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6182232
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】避難階段塔
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20170807BHJP
   A62B 3/00 20060101ALI20170807BHJP
   E04H 1/04 20060101ALN20170807BHJP
【FI】
   E04H9/14 Z
   A62B3/00 E
   !E04H1/04 Z
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-56783(P2016-56783)
(22)【出願日】2016年3月22日
【審査請求日】2016年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】野村 智文
【審査官】 小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−040461(JP,A)
【文献】 特許第4171350(JP,B2)
【文献】 特開2013−217171(JP,A)
【文献】 特開昭49−064221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
A62B 3/00
E04H 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
階段および主架構となる柱と梁を備え、緊急の避難場所を提供する避難階段塔において、当該階段塔の4隅に柱が設けられており、各階の床部から踊り場床部に掛けて主架構となる梁が設けられており、この梁は、上記床部と上記踊り場床部との間の階段空間に対応した箇所に傾斜部を有し、この傾斜部によって上記床部および上記踊り場床部の各々に対応した床高さの水平部を連結しており、上記水平部の上記傾斜部に接合されない側の端部は上記柱に接合されていることを特徴とする避難階段塔。
【請求項2】
請求項1に記載の避難階段塔において、上記階段は、多層階に設けられた住戸への通路となる共用階段であり、避難場所となる屋上部および上記屋上部に至る避難手段を備えることを特徴とする避難階段塔。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の避難階段塔において、周囲側に外壁が設けられていることを特徴とする避難階段塔。
【請求項4】
請求項3に記載の避難階段塔において、外壁板が固定される胴縁と、上記胴縁を支持する間柱とを備えており、上記間柱は、上記床部における上記階段空間との境界側および上記踊り場床部における上記階段空間との境界側に設けられていることを特徴とする避難階段塔。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の避難階段塔において、上記各階の床部の両側に位置する上記梁における上記傾斜部の傾斜方向が同じであることを特徴とする避難階段塔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、主に津波が発生したときの緊急の避難場所を提供する避難階段塔に関する。
【背景技術】
【0002】
津波等が発生したときの緊急の避難場所を提供するものとして、図5に示す避難階段塔100を考えることができる。この避難階段塔100は、例えば、四隅に柱101が設けられ、2階および3階の床部106を形成する梁102が上記柱101に固定される構造を有する。上記柱101および梁102は、当該避難階段塔100の主架構をなす。そして、折れ曲がり階段103に対して設けられる踊り場床104には、上記梁102とは別に踊り場梁105が設けられる。
【0003】
なお、緊急の避難場所を提供するものではないが、特許文献1には、階段フレーム等を工場で製造し、これを施工現場で組み立てるだけで自立した階段となすことができ、上端部階段支持梁と下端部階段支持梁が2重にならず、階段梁が邪魔になったり外観を壊すことのない屋外階段が開示されている。また、特許文献2には、重い階段パーツを支えながら取り付ける必要がなく構築し易く、階段下を有効利用し易いし、部材点数が少なく、しかも、階段梁が邪魔になったり外観を壊すことのない屋外階段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4171350号
【特許文献2】特許第4257153号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に示した避難階段塔100では、津波等に起因して水平方向の荷重を受けた場合に、上記梁102には水平方向に曲げる力が作用することになる。そして、上記梁102の上記床部106の箇所であれば、当該床部106を介して上記水平方向の荷重を上記柱101に伝達することができる。しかしながら、上記梁102の上記折れ曲がり階段103が設けられる階段空間(吹き抜け)および上記踊り場梁105が設けられる箇所では、上記梁102について床部は存在しておらず、さらに、これらの箇所が連続して長い区間で存在するため、上記水平方向の荷重で梁102が曲げ変形するおそれがある。一方、この曲げ変形を防止するために大きなサイズの梁を用いるとすると、空間が狭くなり、また、資材コストが増大する等の問題が生じる。
【0006】
そして、上記特許文献1、2に記載の技術は、津波等を受けることを考慮した構造ではなく、また、傾斜する梁部分が存在するにしても、この梁部分は主架構をなすものではない。
【0007】
この発明は、上記の事情に鑑み、津波等に起因して水平方向の荷重を受けた場合でも、梁の曲がりを生じ難くすることができる避難階段塔を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の避難階段塔は、上記の課題を解決するために、階段および主架構となる柱と梁を備え、緊急の避難場所を提供する避難階段塔において、各階の床部から踊り場床部に掛けて主架構となる梁が設けられており、この梁は、上記床部と上記踊り場床部との間の階段空間に対応した箇所に傾斜部を有し、この傾斜部によって上記床部および上記踊り場床部の各々に対応した床高さの水平部を連結していることを特徴とする。
【0009】
上記の構成であれば、上記梁の各水平部にかかる水平方向の荷重を、上記床部と上記踊り場床部の各々で上記柱に伝達することができる。一方、上記梁の上記傾斜部の箇所では、階段空間のために床部が存在しないものの、従来に比べて床部不存在の区間は短くなるので、上記水平方向の荷重で梁が曲げ変形するおそれを低減することができる。また、大きなサイズの梁を用いなくてもよくなり、資材コストの低減も図れる。
【0010】
上記階段は、多層階に設けられた住戸への通路となる共用階段であり、避難場所となる屋上部および上記屋上部に至る避難手段を備えてもよい。これによれば、上記共用階段および上記避難階段等の避難手段を昇って上記屋上に避難することができる。
【0011】
周囲側に外壁が設けられていてもよい。これによれば、当該避難階段塔が集合住宅の一部外観をなす場合において、外壁を備えないとする場合の集合住宅全体としての美観の低下を回避でき、また防犯性を向上できる。一方、上記外壁を備えた場合には、大きな荷重を水平方向に受けることになるが、このような大きな水平荷重にも耐えることが可能である。
【0012】
外壁板が固定される胴縁と、上記胴縁を支持する間柱とを備えており、上記間柱は、上記床部における上記階段空間との境界側および上記踊り場床部における上記階段空間との境界側に設けられていてもよい。これによれば、上記外壁が受ける水平方向の荷重を、上記間柱を介して上記床部および上記踊り場床部に伝達することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明であれば、避難階段塔が津波等に起因して水平方向の荷重を受けた場合でも、梁の曲がりを生じ難くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る避難階段塔および避難建物の一部を斜視により示した説明図である。
図2図1に示した避難階段塔の概略側面図である。
図3図1に示した避難階段塔の概略平面図である。
図4図1の避難階段塔の主架構を例示した概略側面図である。
図5】本発明と対比される避難階段塔の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1図2および図3に示しているように、避難建物1は、集合住宅部2と、この実施形態にかかる避難階段塔3とを備えている。上記集合住宅部2は、多層階に住戸を備えている。この例では、上記集合住宅部2は、津波に対する構造耐力を備えるものとする。津波に対する構造耐力は、例えば、国土交通省の「津波避難ビル等の構造上の要件の解説」等に基づいて設定することができる。
【0016】
上記避難階段塔3は、上記住戸への通路となる共用階段31を備える。また、この避難階段塔3の高さは、上記集合住宅部2の屋根よりも高く、例えば、10m程度となっている。この避難階段塔3の構造耐力は、上記集合住宅部2の構造耐力よりも大きく、深さ5m程度の津波波力に耐えうることができ、上記集合住宅部2が破壊されるような大きな津波が来たときでも、上記避難階段塔3の破壊は免れうるように設計される。
【0017】
上記避難階段塔3は、主架構となる柱(例えば、角形鋼管等)311と梁(例えば、H形鋼等)30とを接合したラーメン構造を用いて構築される。上記柱311は、上記避難階段塔3の四隅に立てられており、各梁30は、上記柱311に固定される。また、この避難階段塔3は、横断面が長方形状をなしており、短辺側の1階には玄関部36が設けられており、2階および3階には柵付き開口部37が設けられている。上記柵付き開口部37は、当該避難階段塔3の踊り場床部35の側に設けられており、この踊り場床部35の側は、上記集合住宅部2の外壁面よりも突出して設けられている。そして、上記避難階段塔3の外周の長辺側には外壁38が設けられている。また、上記避難階段塔3の上記外壁38には、開口38aが形成されている。もちろん、このような開口38aを設けない構成とすることもできる。
【0018】
上記避難階段塔3には、避難場所となる屋上部32が設けられている。この屋上部32の周囲縁には多数の隙間が形成された柵が設けられている。また、この避難階段塔3には、上記屋上部32に至る例えば螺旋階段からなる避難階段33が設けられている。
【0019】
上記避難階段塔3における上記長辺側の2階床と3階床をなす箇所には、上記梁30として段差梁30Aが設けられている。この段差梁30Aは、上下階の共用階段31の折り返し部となる上記踊り場床部35から各階の床部34に架け渡されている。なお、図3においては、上記床部34および踊り場床部35をクロスハッチングで示している。そして、上記段差梁30Aは、上記床部34と上記踊り場床部35との間の階段空間(吹き抜け)に対応した箇所に傾斜部30aを有しており、上記床部34および上記踊り場床部35の各々に対応した床高さの水平部30bが上記傾斜部30aで連結されたものとなっている。上記段差梁30Aは、上記避難階段塔3の両長辺側に設けられている。また、上記床部34および上記踊り場床部35は、鉛直方向の荷重を支持できることはもちろん、水平方向の荷重を、この水平方向上に位置する構造物に伝達できるものであり、例えば、デッキプレートにコンクリートを打設した床構造、或いは、ALC(軽量発泡コンクリート)板等を敷いた床構造などが採用される。上記ALC板等を敷いた床構造においては、水平ブレースを用いた構造とするのが水平方向の荷重を伝達する上で望ましい。
【0020】
また、上記避難階段塔3の上記外壁38には、図4に示すように、間柱38bが設けられている。上記間柱38bの幾つかは、上記床部34における上記階段空間との境界側および上記踊り場床部35における上記階段空間との境界側に設けられている。すなわち、上記間柱38bは、床が存在する箇所に設けられる。そして、上記間柱38bには、図示しない胴縁が水平に支持されており、この胴縁に外壁板が固定されることで、上記外壁38が造られる。なお、上記図4では、上記段差梁30A等における溶接箇所や接合箇所の詳細を示したが、このような接合態様に限定されるものではない。
【0021】
上記の構成であれば、上記段差梁30Aの各水平部30bにかかる水平方向の荷重を、上記床部34と上記踊り場床部35の各々で上記柱311に伝達することができる。一方、上記段差梁30Aの上記傾斜部30aの箇所では、床が存在しないものの、従来に比べて床部不存在の区間は短くされるので、上記水平方向の荷重で上記段差梁30Aが曲げ変形するおそれを低減することができる。また、大きなサイズの梁を用いなくてもよくなり、資材コストの低減も図れる。さらに、仮に従来のように主架構の梁と踊り場梁とが二重になると、2階および3階に設けられる上記柵付き開口部37から、上記二重の梁が見えて美観を低下させてしまうが、上記避難階段塔3であれば、このような美観の低下は生じない。また、上記踊り場梁が不要になることからも資材コストの低減が図れる。
【0022】
多層階に設けられた住戸への通路となる上記共用階段31を有し、また、避難場所となる屋上部32および上記屋上部32に至る避難階段33を備えていると、上記共用階段31および上記避難階段33を昇って上記屋上32に避難することができる.
【0023】
上記避難階段塔3の外周に外壁38が設けられていると、当該避難階段塔3が集合住宅の一部をなす場合において、外壁38を備えない場合の集合住宅全体としての美観の低下を回避でき、また防犯性を向上できる。一方、上記外壁38を備えた場合には、より大きな荷重を水平方向に受けることになるが、このような大きな水平荷重にも耐えることが可能である。
【0024】
上記外壁38において、上記間柱38bが上記床部34における上記階段空間との境界側および上記踊り場床部35における上記階段空間との境界側に設けられていると、上記外壁38が受ける水平方向の荷重を、上記間柱38bを介して上記床部34および上記踊り場床部35に伝達することができる。
【0025】
なお、上記段差梁30Aの上記傾斜部30aにおける傾斜角度は、上記共用階段31の側板傾斜の角度と一致させてもよいものである。また、住居内のいわゆるスキップフロアにおいて上記段差梁30Aのような段差梁を適用することが可能である。
【0026】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。また、主に津波を想定しているが、洪水や高潮など、建物が水没するような災害に対する緊急の避難場所としても用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
1 :避難建物
2 :集合住宅部
3 :避難階段塔
28b :間柱
30 :梁
30A :段差梁
30a :傾斜部
30b :水平部
31 :共用階段
32 :屋上部
33 :避難階段(避難手段)
34 :床部
35 :踊り場床部
36 :玄関部
37 :柵付き開口部
38 :外壁部
38a :開口
38b :間柱
311 :柱
【要約】
【課題】津波等に起因して水平方向の荷重を受けた場合でも、梁の曲がりを生じ難くすることができる避難階段塔を提供することを課題とする。
【解決手段】多層階に設けられた住戸への通路となる階段31および主架構となる柱311と梁30を備える避難階段塔3において、各階の床部34から踊り場床部35に掛けて段差梁30Aが設けられており、この段差梁30Aは、上記床部34と上記踊り場床部35との間の階段空間に対応した箇所に傾斜部30aを有し、上記床部34および上記踊り場床部35の各々に対応した床高さの水平部が上記傾斜部30bで連結されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5