特許第6182256号(P6182256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6182256
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】樹脂成形体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/00 20060101AFI20170807BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C08J5/00CES
   H01L23/36 M
【請求項の数】13
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-240115(P2016-240115)
(22)【出願日】2016年12月12日
(62)【分割の表示】特願2016-236614(P2016-236614)の分割
【原出願日】2016年12月6日
【審査請求日】2016年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-75114(P2016-75114)
(32)【優先日】2016年4月4日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390033112
【氏名又は名称】積水テクノ成型株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩造
(72)【発明者】
【氏名】沢 和洋
(72)【発明者】
【氏名】末永 祐介
(72)【発明者】
【氏名】松村 龍志
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/099089(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/024743(WO,A1)
【文献】 特開2012−038763(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00− 5/02
5/12− 5/22,106
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
H01L 23/34− 23/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導性を有し、かつ主面を有する樹脂成形体であって、
熱可塑性樹脂と黒鉛粒子とを含み、
前記黒鉛粒子の体積平均粒子径が、0.1μm以上、40μm未満であり、
前記熱可塑性樹脂100重量部に対する前記黒鉛粒子の含有量が、10重量部以上、200重量部以下であり、
前記主面において、任意の方向をx方向及び該x方向に直交する方向をy方向とし、前記樹脂成形体の厚み方向をz方向としたときに、
前記x方向の熱伝導率λx、前記y方向の熱伝導率λy及び前記z方向の熱伝導率λzが、min(λx,λy)/λz≧3を満たしており、
前記主面が、平面又は曲面であり、
前記黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、最小粒子径ピークのピーク頻度をp1(%)とし、最大粒子径ピークのピーク頻度をp2(%)としたときに、0.1≦p1/p2≦0.9を満たしている、樹脂成形体。
【請求項2】
比重が、1.0以上、1.4未満である、請求項1に記載の樹脂成形体。
【請求項3】
前記λx及び前記λyにおいて、λx/λyが、0.5以上、2以下を満たしている、請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
【請求項4】
前記黒鉛粒子が板状である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項5】
前記黒鉛粒子の平均厚み径が、0.1μm以上、10μm未満である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項6】
前記黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、2つ以上の異なる粒子径ピークを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項7】
前記黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、最小粒子径ピークを構成している前記黒鉛粒子の体積平均粒子径をd1とし、最大粒子径ピークを構成している前記黒鉛粒子の体積平均粒子径をd2としたときに、0.1≦d1/d2≦0.6を満たしている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項8】
繊維系フィラーをさらに含む、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項9】
前記繊維系フィラーの含有量が、前記熱可塑性樹脂100重量部に対し、1重量部以上、200重量部以下である、請求項に記載の樹脂成形体。
【請求項10】
前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂を含有している、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項11】
前記オレフィン系樹脂がエチレン成分を含有し、該エチレン成分の含有量が5〜40質量%である、請求項10に記載の樹脂成形体。
【請求項12】
周波数1Hz及び歪み0.3%における動的粘弾性測定により測定される前記樹脂成形体の損失正接の最大値を示す温度が20℃以下である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【請求項13】
放熱シャーシ、放熱筐体、又はヒートシンク形状である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性を有する樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、屋内外で使用する通信機器や、防犯カメラ又はスマートメータなどの電子機器の筐体には、金属板や、熱伝導性を有する樹脂成形体などが用いられている。
【0003】
下記の特許文献1には、ピッチ系炭素繊維を含有する熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形体が開示されている。特許文献1では、上記樹脂成形体中において、上記ピッチ系炭素繊維がMD方向(射出成形時の樹脂流れ方向)に配向されている。また、厚み方向の熱伝導率λ1とMD方向の熱伝導率λ2との比(λ2/λ1)が10以上であることが記載されている。
【0004】
下記の特許文献2には、熱伝導性樹脂組成物の成形体(樹脂成形体)である放熱シャーシが開示されている。特許文献2では、熱伝導性樹脂組成物が、黒鉛、酸化マグネシウム及び窒化ホウ素のうちいずれか1種以上の熱伝導フィラーを含んでいることが記載されている。また、熱伝導フィラーの配合量が、樹脂100質量部に対し、10〜1000質量部であることが記載されている。
【0005】
下記の特許文献3には、熱伝導性樹脂組成物の成形体(樹脂成形体)である放熱部材が開示されている。特許文献3では、熱伝導性樹脂組成物が、熱可塑性樹脂及び鱗片状黒鉛を含んでいることが記載されている。上記熱可塑性樹脂は、30〜90質量%の割合で含有されている。上記鱗片状黒鉛は、10〜70質量%の割合で含有されている。また、特許文献3では、鱗片状黒鉛の体積平均粒子径が40〜700μmであり、アスペクト比が21以上であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−120358号公報
【特許文献2】特開2008−31359号公報
【特許文献3】国際公開第2015/065662号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、屋内外における無線若しくは有線通信機器、防犯カメラ若しくはスマートメータなどの電子機器、又はFPD若しくはカーナビ等の表示機器の筐体においては、筐体の全周又は一部が、金属製のダイキャスト製品や金属プレス加工品により形成されている。金属製のダイキャスト製品や金属プレス加工品は、内部の電子部品を覆うように形成されている。近年、このような金属製のダイキャスト製品や金属プレス加工品を、樹脂により代替することが検討されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3の樹脂成形体を筐体に用いた場合、電子機器などの製品が落下した際に、破損したり、変形したりすることがあった。すなわち、特許文献1〜3の樹脂成形体は、耐衝撃性が十分でなかった。
【0009】
本発明の目的は、放熱性及び耐衝撃性の双方に優れる樹脂成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る樹脂成形体は、熱伝導性を有し、かつ主面を有する樹脂成形体であって、熱可塑性樹脂と黒鉛粒子とを含み、前記黒鉛粒子の体積平均粒子径が、0.1μm以上、40μm未満であり、前記熱可塑性樹脂100重量部に対する前記黒鉛粒子の含有量が、10重量部以上、200重量部以下であり、前記主面において、任意の方向をx方向及び該x方向に直交する方向をy方向とし、前記樹脂成形体の厚み方向をz方向としたときに、前記x方向の熱伝導率λx、前記y方向の熱伝導率λy及び前記z方向の熱伝導率λzが、min(λx,λy)/λz≧3を満たしている。
【0011】
本発明に係る樹脂成形体のある特定の局面では、前記主面が、平面又は曲面である。
【0012】
本発明に係る樹脂成形体の別の特定の局面では、比重が、1.0以上、1.4未満である。
【0013】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記λx及び前記λyにおいて、λx/λyが、0.5以上、2以下を満たしている。
【0014】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛粒子が板状である。
【0015】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛粒子の平均厚み径が、0.1μm以上、10μm未満である。
【0016】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、2つ以上の異なる粒子径ピークを有する。
【0017】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、最小粒子径ピークを構成している前記黒鉛粒子の体積平均粒子径をd1とし、最大粒子径ピークを構成している前記黒鉛粒子の体積平均粒子径をd2としたときに、0.1≦d1/d2≦0.6を満たしている。
【0018】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、最小粒子径ピークのピーク頻度をp1(%)とし、最大粒子径ピークのピーク頻度をp2(%)としたときに、0.1≦p1/p2≦0.9を満たしている。
【0019】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、繊維系フィラーをさらに含む。
【0020】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記繊維系フィラーの含有量が、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、1質量部以上、200質量部以下である。
【0021】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂を含有している。
【0022】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、前記オレフィン系樹脂がエチレン成分を含有し、該エチレン成分の含有量が5〜40質量%である。
【0023】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、周波数1Hz及び歪み0.3%における動的粘弾性測定により測定される前記樹脂成形体の損失正接の最大値を示す温度が20℃以下である。
【0024】
本発明に係る樹脂成形体のさらに他の特定の局面では、放熱シャーシ、放熱筐体、又はヒートシンク形状である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、放熱性及び耐衝撃性の双方に優れる樹脂成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】(a)は、実施例で得られた樹脂成形体の模式的平面図であり、(b)は、そのA−A線に沿う模式的断面図である。
図2】実施例で得られた筐体の概略構成図である。
図3】一例としての黒鉛粒子の体積粒子径分布を示す図である。
図4】放熱シャーシの模式図である。
図5】放熱筐体の模式図である。
図6】ヒートシンク形状の模式図である。
図7】実施例14における黒鉛粒子の体積粒子径分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の詳細を説明する。
【0028】
本発明の樹脂成形体は、熱伝導性を有し、かつ主面を有する熱伝導性樹脂成形体である。本発明の樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と、黒鉛粒子とを含む。上記黒鉛粒子の体積平均粒子径(以下、平均粒子径と称する場合があるものとする)は、0.1μm以上、40μm未満である。上記黒鉛粒子の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、10重量部以上、200重量部以下である。
【0029】
本発明の樹脂成形体は、上記のように、平均粒子径が特定の範囲にある黒鉛粒子を特定の割合で含むので、放熱性及び耐衝撃性の双方に優れている。この理由は以下のように説明することができる。
【0030】
本発明のような樹脂成形体に衝撃を与えたとき、黒鉛粒子及び樹脂の間で界面剥離し、樹脂成形体が破壊される。ここで、微小な界面剥離が生じたときにも、1つの黒鉛粒子分までは剥離が促進されると考えられるが、1つの黒鉛粒子の面積が小さければ剥離面積を小さくすることができる。また、含有量に関しては、黒鉛粒子の含有量が少なければ、破壊の起点となる黒鉛粒子及び樹脂の界面の面積を小さくすることができる。本発明においては、平均粒子径が上記上限未満の黒鉛粒子を、上記上限以下の含有量で含有しているので、耐衝撃性が高められている。
【0031】
また、本発明の樹脂成形体は、平均粒子径が上記下限以上の黒鉛粒子を上記下限以上の含有量で含有しているので、放熱性に優れている。
【0032】
特に、本発明の樹脂成形体は、x方向の熱伝導率λx、y方向の熱伝導率λy及びz方向の熱伝導率λzが、min(λx,λy)/λz≧3を満たしている。
【0033】
x方向は、上記主面に沿う任意の方向である。y方向は、上記主面に沿い、かつx方向に直交する方向である。また、z方向は、樹脂成形体の厚み方向である。樹脂成形体の厚み方向は、上記主面に直交する方向である。従って、z方向は、x方向及びy方向に直交する方向である。なお、上記主面は、平面であってもよく、曲面であってもよい。また、本明細書において主面とは、樹脂成形体の外表面における複数の面のうち最も面積の大きい面であり、連なっている面をいうものとする。
【0034】
上記x方向、y方向及びz方向の各方向における熱伝導率は、それぞれ、下記式(1)を用いて計算することができる。
【0035】
熱伝導率(W/(m・K))=熱拡散率×比重×比熱 …(1)
【0036】
式(1)において、上記x方向、y方向及びz方向の各方向における熱拡散率は、例えば、べテル社製、品番名:TA33を用いて測定することができる。
【0037】
上記min(λx,λy)とは、λx及びλyのうち、熱伝導率が低い方の値を意味するものとする。従って、min(λx,λy)/λz≧3は、λx及びλyのうち、低い方の熱伝導率のλzに対する比が、3以上であることを意味している。
【0038】
本発明の樹脂成形体は、min(λx,λy)/λz≧3であるので、面方向の熱伝導率が、厚み方向の熱伝導率より高くなっている。従って、本発明の樹脂成形体は、面方向における放熱性に優れている。
【0039】
本発明の樹脂成形体は、放熱性及び耐衝撃性の双方に優れているので、屋内外における通信機器や、防犯カメラ又はスマートメータなどの電子機器の筐体に好適に用いることができる。特に、面方向における放熱性に優れているので、通信機器や電子機器の内部に太陽光などの熱が浸透するのを防止することができる。具体的には、例えば直射日光が当たる部分の熱が影となっている面へ放熱することができる。また、筐体内部における発熱部品の熱を面方向に放熱させることで、通信機器や電子機器の温度が部分的に上昇することを抑制することもできる。さらに、筐体の一部が放熱フィンの形状を有せば、放熱効果を発揮することも可能である。例えば、CPUなどが高温になると、その動作能力が低減してしまうので、CPU付近の熱を広範囲に放熱させることができる。
【0040】
本発明においては、面方向における熱伝導性をより一層高める観点から、好ましくはmin(λx,λy)/λz≧5であり、より好ましくはmin(λx,λy)/λz≧10である。なお、min(λx,λy)の上限値は、高ければ高いほど好ましいが、材料の性質上20程度とすることが望ましい。黒鉛粒子のアスペクト比が寄与するが、黒鉛粒子の厚みが薄くなると黒鉛粒子自身が熱可塑性樹脂の中で丸まってしまい十分な熱伝導特性が得られないことがある。
【0041】
本発明においては、λx及びλyにおいて、λx/λyが、0.5以上、2以下であることが好ましい。この場合、面方向において、より一層均一に放熱させることができる。特に、直射日光が当たる部分(高温部)と影の部分(低温部)が必ずしも常に同じ面になるとは限らないため、どの水平方向にも放熱する形態が好ましい。よって、より好ましくはλx/λyが0.7以上、さらに好ましくはλx/λyが0.9以上、より好ましくはλx/λyが1.6以下、さらに好ましくはλx/λyが1.2以下である。
【0042】
上記λx及び上記λyは、max(λx,λy)≧1W/(m・K)を満たしていることが好ましい。上記max(λx,λy)は、λx及びλyのうち、熱伝導率が高い方の値を意味するものとする。従って、max(λx,λy)≧1W/(m・K)は、λx及びλyのうち、熱伝導率が高い方の熱伝導率が1W/(m・K)以上であることを意味している。max(λx,λy)が上記範囲にある場合、放熱性をより一層高めることができる。放熱性をさらに一層高める観点から、より好ましくは上記λx及び上記λyが、max(λx,λy)≧3W/(m・K)であり、さらに好ましくはmax(λx,λy)≧10W/(m・K)である。なお、max(λx,λy)の上限値は、高ければ高いほど好ましいが、材料の性質上、20程度とすることが望ましい。本発明においては、λx及びλyの双方が、好ましくは1W/(m・K)以上、より好ましくは3W/(m・K)以上、さらに好ましくは10W/(m・K)以上である。
【0043】
なお、本発明において、耐衝撃性は、JIS K 7111に準拠し、かつノッチ付き試験片にて、23℃環境下でシャルピー耐衝撃性試験を行うことにより評価することができる。
【0044】
また、本発明の樹脂成形体は、熱可塑性樹脂と第1の鱗片状黒鉛粒子とを含む樹脂組成物の成形体であることが好ましい。本発明の樹脂成形体は、上記樹脂組成物を、例えば、プレス加工、押出加工、押出ラミ加工、または射出成形などの方法によって成形することで得ることができる。
【0045】
本発明の樹脂成形体に含まれる黒鉛粒子は、板状であることが好ましい。黒鉛粒子が板状である場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。
【0046】
黒鉛粒子の平均厚み径は、特に限定されないが、0.1μm以上、10μm未満であることが好ましい。黒鉛粒子の平均厚み径が、上記下限以上である場合、放熱性をより一層高めることができる。一方、黒鉛粒子の平均厚み径が、上記上限未満である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0047】
黒鉛粒子の平均厚み径は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。より一層観察し易くする観点から、樹脂成形体から切り出した試験片を例えば600℃で加熱することで樹脂を飛ばして走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することが望ましい。なお、試験片は、樹脂を飛ばして黒鉛粒子の厚みを測定できる限り、樹脂成形体の主面に沿う方向に沿って切り出してもよく、樹脂成形体の主面に直交する方向に沿って切り出してもよい。
【0048】
また、本発明において、体積平均粒子径とは、JIS Z 8825:2013に準拠し、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折法により、体積基準分布で算出した値をいう。
【0049】
本発明においては、樹脂成形体に含まれる黒鉛粒子の体積平均粒子径分布を測定したときに、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、2つ以上の異なる粒子径ピークを有することが好ましい。2つ以上の異なる粒子径ピークを有する場合、放熱性及び耐衝撃性の双方をより一層高めることができる。なお、図3においては、一例としての黒鉛粒子の体積粒子径分布を示しているが、この場合、図3に矢印A,Bで示す2つの異なる粒子径ピークを有していることがわかる。
【0050】
本発明においては、上記のように2つ以上の異なる粒子径ピークを有する場合、最小粒子径ピークを構成している黒鉛粒子の体積平均粒子径をd1とし、最大粒子径ピークを構成している黒鉛粒子の体積平均粒子径をd2としたときに、0.1≦d1/d2≦0.6を満たしていることが好ましい。d1/d2が上記範囲内にある場合、放熱性及び耐衝撃性をより一層高めることができる。また、放熱性及び耐熱性をより一層高める観点から、d1/d2は、0.1≦d1/d2≦0.5の範囲内にあることが好ましく、0.2≦d1/d2≦0.5の範囲内にあることがより好ましい。なお、例えば、図3においては、矢印Aで示すピークが最小粒子径ピークであり、矢印Bで示すピークが最大粒子径ピークである。
【0051】
また、本発明においては、上記のように2つ以上の異なる粒子径ピークを有する場合、最小粒子径ピークのピーク頻度をp1(%)とし、最大粒子径ピークのピーク頻度をp2(%)としたときに、0.1≦p1/p2≦0.9を満たしていることが好ましい。p1/p2が上記範囲内にある場合、放熱性及び耐衝撃性をより一層高めることができる。また、放熱性及び耐熱性をより一層高める観点から、p1/p2は、0.3≦p1/p2≦0.8の範囲内にあることが好ましく、0.4≦p1/p2≦0.7の範囲内にあることがより好ましい。
【0052】
本発明の樹脂成形体は、周波数1Hz及び歪み0.3%における動的粘弾性測定により測定される損失正接の最大値を示す温度が20℃以下であることが好ましい。樹脂成形体の損失正接の最大値を示す温度が20℃以下である場合、樹脂成形体の落球衝撃強度をより一層高めることができる。損失正接の最大値は、後述する第1の樹脂の損失正接の最大値と同様の方法で求めることができる。
【0053】
本発明の樹脂成形体は、放熱シャーシ、放熱筐体、又はヒートシンク形状であってもよい。
【0054】
図4は、放熱シャーシの模式図である。樹脂成形体が放熱シャーシである場合、図4の矢印Cで示す部分が主面である。
【0055】
図5は、放熱筐体の模式図である。樹脂成形体が放熱筐体である場合、図5の矢印Dで示す部分が主面である。なお、図4及び図5に示すように、主面は凹凸を有していてもよい。
【0056】
図6は、ヒートシンク形状の模式図である。樹脂成形体がヒートシンク形状である場合、図6の矢印Eで示す部分が主面である。また、この場合、さらに矢印Eで示す主面と小さな面を介して連結されているほぼ同じ大きさの複数の面も主面となる。このように、複数の主面が存在していてもよい。
【0057】
以下、樹脂組成物及び樹脂成形体を構成する材料の詳細について説明する。
【0058】
(熱可塑性樹脂)
上記熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、公知の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリジメチルシロキサン、ポリカーボネート、又はこれらのうち少なくとも2種の共重合体などが挙げられる。熱可塑性樹脂は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0059】
上記熱可塑性樹脂としては、弾性率の高い樹脂であることが好ましい。安価であり、加熱下の成形が容易であることから、ポリオレフィンがより好ましい。
【0060】
上記ポリオレフィンとしては、特に限定されず、公知のポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィンの具体例としては、エチレン単独重合体であるポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリエチレン系樹脂、プロピレン単独重合体であるポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂、ブテン単独重合体であるポリブテン、ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエンの単独重合体又は共重合体からなる群から選択された少なくとも1種を用いることができる。耐熱性や弾性率をより一層高める観点から、上記ポリオレフィンとしては、ポリプロピレンであることが好ましい。
【0061】
また、ポリオレフィン(オレフィン系樹脂)は、エチレン成分を含有していることが好ましい。エチレン成分の含有量は、5〜40質量%であることが好ましい。エチレン成分の含有量が、上記範囲内にある場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めつつ、耐熱性をより一層高めることができる。
【0062】
また、上記熱可塑性樹脂は、オレフィン系樹脂からなる第1の樹脂と、周波数1Hz、及び歪み0.3%における動的粘弾性測定により測定される損失正接の最大値を示す温度が−10℃以下である第2の樹脂とを含んでいることが好ましい。この場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0063】
上記損失正接は、JIS K 7244−4に準拠して測定することにより求めることができる。具体的には、幅5mm×長さ24mm×厚み0.3mmの試験シートを作製する。作製した試験シートを歪み量0.3%、周波数1Hz及び昇温速度3℃/分の条件下で、動的粘弾性の温度分散測定を行うことにより求められる。動的粘弾性の温度分散測定は、例えば、動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社製、商品名「RSA」)を用いて行うことができる。
【0064】
第1の樹脂としては、上述したポリオレフィンを用いることができる。また、第2の樹脂としては、特に限定されないが、芳香族ビニルモノマーの重合体である芳香族ビニルブロックを有する共重合体であることが好ましい。上記芳香族ビニルブロックと、共役ジエンモノマーの重合体であるジエンブロックとを有するブロック共重合体であることがより好ましい。
【0065】
上記芳香族ビニルモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、α−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレンなどが挙げられる。
【0066】
また、上記共役ジエンモノマーとしては、特に限定されず、例えば、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、ジメチルブタジエンなどの炭素数が4〜12の共役ジエンが挙げられる。
【0067】
このような芳香族ビニルブロックを有する共重合体として、スチレン系エラストマーが挙げられる。
【0068】
上記スチレン系エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエン共重合体(SB)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン共重合体(SI)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)、及びスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン共重合体(SEPS)などの共重合体が挙げられる。これらの共重合体はブロック共重合体であってもよい。また、リニア型であっても、ラジアル型であってもよい。これらの共重合体は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高める観点から、上記スチレン系エラストマーは、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)であることが好ましい。なお、本発明においては、上記損失正接が上記範囲を満たす限り、第2の樹脂として、ポリオレフィンなどの他のポリマーを用いてもよい。
【0069】
上記第1の樹脂の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは60重量部以上、より好ましくは80重量部以上、好ましくは95重量部以下、より好ましくは90重量部以下である。第1の樹脂の含有量が上記範囲内にある場合、樹脂成形体の弾性率や耐熱性をより一層高めることができる。
【0070】
上記第2の樹脂の含有量は、上記熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、好ましくは50重量部以下、より好ましくは40重量部以下、さらに好ましくは20重量部以下である。第2の樹脂の含有量が上記範囲内にある場合、樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0071】
(第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子)
黒鉛粒子は、例えば、第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子のうち少なくとも1つの鱗片状黒鉛であってもよい。また、さらに他の黒鉛粒子が含まれていてもよい。
【0072】
第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子をそれぞれ構成している鱗片状黒鉛としては、特に限定されないが、黒鉛、薄片化黒鉛又はグラフェンなどを用いることができる。熱拡散性をより一層高める観点から、好ましくは、黒鉛又は薄片化黒鉛であり、より好ましくは薄片化黒鉛である。また、耐衝撃性を一層高める観点からは、好ましくは黒鉛又は薄片化黒鉛であり、より好ましくは黒鉛である。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。上記薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。
【0073】
第1の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径は、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、好ましくは20μm以下、より好ましくは15μm以下である。
【0074】
第1の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径が小さすぎると、溶融成形の際に凝集しやすいことから、非常に脆い二次粒子が形成されることがあり、耐衝撃性が低下することがある。また、平均粒子径が大きすぎると、1つの粒子の面積が大きく、衝撃を与えたときに剥離面積がより一層大きくなることから、樹脂成形体の破壊が生じることがある。
【0075】
なお、本明細書において、平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折法により、体積基準分布で算出した値をいう。
【0076】
第1の鱗片状黒鉛粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは30重量部以上、より好ましくは50重量部以上、好ましくは120重量部以下、より好ましくは100重量部以下である。上記第1の鱗片状黒鉛粒子の含有量が上記下限以上である場合、樹脂成形体の面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1の鱗片状黒鉛粒子の含有量が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、上記第1の鱗片状黒鉛粒子の含有量が上記上限以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0077】
第1の鱗片状黒鉛粒子のアスペクト比は、好ましくは3以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは30以上、特に好ましくは50以上、好ましくは300以下、より好ましくは200以下、さらに好ましくは100以下である。第1の鱗片状黒鉛粒子のアスペクト比が、上記下限以上である場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1の鱗片状黒鉛粒子のアスペクト比が上記上限以下である場合、成形時に第1の鱗片状黒鉛粒子が丸まり難い。なお、本明細書において、アスペクト比とは、第1の鱗片状黒鉛粒子の厚みに対する第1の鱗片状黒鉛粒子の積層面方向における最大寸法の比をいう。
【0078】
なお、第1の鱗片状黒鉛粒子などの鱗片状黒鉛粒子の厚みは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。より一層観察し易くする観点から、樹脂成形体から切り出した試験片を600℃で加熱することで樹脂を飛ばして透過型電子顕微鏡(TEM)又は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することが望ましい。なお、試験片は、樹脂を飛ばして鱗片状黒鉛粒子の厚みを測定できる限り、樹脂成形体の主面に沿う方向に沿って切り出してもよく、樹脂成形体の主面に直交する方向に沿って切り出してもよい。
【0079】
本発明の樹脂成形体は、第1の鱗片状黒鉛粒子とは異なる第2の鱗片状黒鉛粒子をさらに含んでいてもよい。第2の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径は、0.1μm以上、40μm未満であることが好ましい。第2の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径を上記範囲内とすることで、放熱性及び耐衝撃性の双方をより一層高めることができる。第1及び第2の鱗片状黒鉛粒子は、面内において、密に充填されていることが好ましい。その場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。
【0080】
第1の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径をd1とし、第2の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径をd2としたときに、0.2≦d2/d1≦0.6を満たしていることが好ましい。d2/d1が上記範囲内にある場合、大きな粒子同士の隙間に小さな粒子を入り込ませることができ、鱗片状黒鉛粒子同士の接点が多くなるので、樹脂成形体の面内方向の熱伝導率及び放熱性をより一層高めることができる。より好ましくは0.25≦d2/d1≦0.55であり、より好ましくは0.3≦d2/d1≦0.5である。
【0081】
第1及び第2の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、好ましくは150重量部以下である。上記第1及び第2の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和が上記下限以上である場合、樹脂成形体の面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1及び第2の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和の含有量が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、上記第1及び第2の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和が上記上限以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0082】
本発明の樹脂成形体は、平均粒子径が40μm以上、500μm以下の第3の鱗片状黒鉛粒子をさらに含んでいてもよい。第3の鱗片状黒鉛粒子を含んでいる場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。第1及び第3の鱗片状黒鉛粒子は、面内において、密に充填されていることが好ましい。その場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。
【0083】
面方向における放熱性をより一層高める観点から、第3の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径は、好ましくは45μm以上、より好ましくは50μm以上、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0084】
第1の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径をd1とし、第3の鱗片状黒鉛粒子の平均粒子径をd3としたときに、0.2≦d1/d3≦0.6を満たしていることが好ましい。d1/d3が上記範囲内にある場合、大きな粒子同士の隙間に小さな粒子を入り込ませることができ、鱗片状黒鉛粒子同士の接点が多くなるので、樹脂成形体の面内方向の熱伝導率及び放熱性をより一層高めることができる。より好ましくは0.25≦d1/d3≦0.55であり、さらに好ましくは0.3≦d1/d3≦0.5である。
【0085】
第1及び第3の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、好ましくは150重量部以下である。上記第1及び第3の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和が上記下限以上である場合、樹脂成形体の面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1及び第3の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和の含有量が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、上記第1及び第3の鱗片状黒鉛粒子の含有量の総和が上記上限以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0086】
第3の鱗片状黒鉛粒子の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは5重量部以上、より好ましくは10重量部以上、好ましくは60重量部以下、より好ましくは50重量部以下、さらに好ましくは40重量部以下、特に好ましくは30重量部以下である。第3の鱗片状黒鉛粒子の含有量が上記範囲内である場合、面方向における放熱性をより一層高めることができる。
【0087】
(薄片化黒鉛)
樹脂成形体に含まれる黒鉛粒子は、薄片化黒鉛であってもよい。薄片化黒鉛を含んでいる場合、面方向の放熱性をより一層高めることができる。なお、薄片化黒鉛と、第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子などの他の黒鉛粒子を併用してもよい。
【0088】
薄片化黒鉛とは、元の黒鉛を剥離処理して得られるものであり、元の黒鉛よりも薄いグラフェンシート積層体をいう。薄片化黒鉛におけるグラフェンシートの積層数は、元の黒鉛より少なければよい。
【0089】
第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び薄片化黒鉛の含有量の総和は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、好ましくは150重量部以下である。第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び薄片化黒鉛の含有量の総和が上記下限以上である場合、樹脂成形体の面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び薄片化黒鉛の含有量の総和が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び薄片化黒鉛の含有量の総和が、上記上限以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。
【0090】
薄片化黒鉛の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、50重量部以下であることが好ましい。薄片化黒鉛の含有量が多すぎると、衝撃を与えたときの剥離距離が大きくなる場合がある。薄片化黒鉛の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、より好ましくは30重量部以下である。
【0091】
(繊維系フィラー)
本発明の樹脂成形体は、繊維系フィラーをさらに含んでいてもよい。上記繊維系フィラーとしては、例えば、炭素繊維又はガラス繊維が挙げられる。
【0092】
繊維系フィラーの含有量は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対し、1重量部以上、200重量部以下であることが好ましい。繊維系フィラーの含有量が上記範囲内にある場合、樹脂成形体の樹脂組成物により一層優れた流動性を付与することができる。
【0093】
本発明の樹脂成形体が炭素繊維を含んでいる場合、面方向の放熱性をより一層高めることができる。もっとも、この場合、λx及びλyのうち一方がより一層高められる。
【0094】
炭素繊維としては、特に限定されないが、PAN系若しくはピッチ系の炭素繊維などを用いることができる。放熱性をより一層高める観点からは、ピッチ系の高熱伝導率を有する炭素繊維が好ましく、なかでもメソフェーズピッチ系炭素繊維が好ましい。
【0095】
第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び炭素繊維の含有量の総和は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、好ましくは150重量部以下である。上記含有量の総和が上記下限以上である場合、樹脂成形体の面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び炭素繊維の含有量の総和が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、上記第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び炭素繊維の含有量の総和が、上記上限以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。より好ましくは、第1の鱗片状黒鉛粒子及び炭素繊維の含有量の総和が、熱可塑性樹脂100重量部に対し、10重量部以上、150重量部以下である。
【0096】
炭素繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、50重量部以下であることが好ましい。炭素繊維は繊維長が鱗片状黒鉛より大きいので、炭素繊維の含有量が多すぎると、衝撃を与えたときの剥離距離が大きくなる場合がある。炭素繊維の含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、より好ましくは30重量部以下である。
【0097】
(無機フィラー)
本発明の樹脂成形体は、無機フィラーをさらに含んでいてもよい。無機フィラーとしては、特に限定されるものではないが、タルク、マイカ、カーボンナノチューブ、または絶縁性熱伝導フィラーなどを用いることができる。絶縁性熱伝導フィラーとしては、特に限定はされないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素又は窒化アルミニウムなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。無機フィラーを含有することで、樹脂成形体の機械強度をより一層高めることができる。特に、絶縁性熱伝導フィラーを用いることで、絶縁性を高めることができる。
【0098】
第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び無機フィラーの含有量の総和は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、好ましくは150重量部以下である。第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び無機フィラーの含有量の総和が上記下限以上である場合、樹脂成形体の面方向における放熱性をより一層高めることができる。また、第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び無機フィラーの含有量の総和の含有量が多すぎると破壊の起点となる界面の面積が大きくなることから、上記第1〜第3の鱗片状黒鉛粒子及び無機フィラーの含有量の総和が上記上限以下である場合、耐衝撃性をより一層高めることができる。より好ましくは、第1の鱗片状黒鉛粒子及び無機フィラーの含有量の総和が、熱可塑性樹脂100重量部に対し、10重量部以上、150重量部以下である。
【0099】
放熱性及び耐衝撃性をより一層高める観点から、無機フィラーの平均粒子径は、好ましくは0.1μm以上、好ましくは40μm未満である。
【0100】
無機フィラーの含有量としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対し、好ましくは10重量部以上、より好ましくは30重量部以上、さらに好ましくは50重量部以上である。絶縁性熱伝導フィラーの含有量が上記下限以上である場合、絶縁性能をより一層高めることができる。一方、無機フィラーの含有量は、好ましくは100重量部以下、より好ましくは70重量部以下である。無機フィラーの含有量を、上記上限以下にすることで放熱性をより一層高めることができる。
【0101】
(他の添加剤)
樹脂成形体中には、任意成分として様々な添加剤が添加されていてもよい。添加剤としては、例えば、フェノール系、リン系、アミン系、イオウ系などの酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系、ヒドロキシフェニルトリアジン系などの紫外線吸収剤;金属害防止剤;ヘキサブロモビフェニルエーテル、デカブロモジフェニルエーテルなどのハロゲン化難燃剤;ポリリン酸アンモニウム、トリメチルフォスフェートなどの難燃剤;各種充填剤;帯電防止剤;安定剤;顔料などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0102】
(製造方法)
本発明の樹脂成形体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
【0103】
まず、熱可塑性樹脂と、第1の鱗片状黒鉛粒子や薄片化黒鉛などの黒鉛粒子とを含む樹脂組成物を用意する。樹脂組成物中には、上述したさまざまな材料がさらに含まれていてもよい。樹脂組成物中においては、熱可塑性樹脂中に黒鉛粒子が分散されていることが好ましい。この場合、得られる樹脂成形体の耐衝撃性をより一層高めることができる。熱可塑性樹脂中に分散させる方法については、特に限定されないが、熱可塑性樹脂を加熱溶融させて黒鉛粒子と混練することで、より一層均一に分散させることができる。
【0104】
上記混練方法については、特に限定されないが、例えば、プラストミルなどの二軸スクリュー混練機、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールなどの混練装置を用いて、加熱下において混練する方法などが挙げられる。これらのなかでも、押出機を用いて溶融混練する方法が好ましい。
【0105】
次に、用意した樹脂組成物を、例えば、プレス加工、押出加工、押出ラミ加工、または射出成形などの方法によって成形することで、樹脂成形体を得ることができる。
【0106】
本発明においては、樹脂成形体を構成する樹脂組成物中における熱可塑性樹脂又は黒鉛粒子の種類や、各成分の配合比率などを変更することによって、各方向における熱伝導性や、耐衝撃性などのさまざまな物性を適宜調整することができる。
【0107】
このように本発明の樹脂成形体においては、目的とする用途に応じて、物性を適宜調整することができる。
【0108】
以下、本発明の具体的な実施例及び比較例を挙げることにより、本発明の効果を明らかにする。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0109】
(実施例1)
第1の熱可塑性樹脂としてのポリプロピレン(PP、プライムポリマー社製、商品名「E−150GK」)100重量部と、第1の鱗片状黒鉛粒子としての平均粒子径15μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP15」、平均粒子径15μm)100重量部とを、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番「R100」)を用いて、200℃で溶融混練することにより樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、縦6mm×横6mm×高さ5mmになるように調整してプレス板の上に配置し、温度が200℃になるまで加熱した。その後、圧力20MPa及び時間5分の条件で、プレス加工によりシート状に成形した。続いて、常温プレスすることで縦300mm×横300mm×厚み2mmの樹脂シートを得た。
【0110】
次に、得られた樹脂シートを遠赤オーブンにて、表裏面の温度が200℃になるまで加熱溶融させた後、金型にて常温プレスすることで、箱状の樹脂成形体を得た。図1(a)に得られた樹脂成形体1の模式的平面図を、図1(b)にそのA−A線に沿う模式的断面図を示す。次に、同様の方法でもう一つの樹脂成形体1を用意し、図2に示すように一対の樹脂成形体1の周囲をクリップ2で挟みこみ完全に閉空間の箱状の筐体(筐体3)を得た。
【0111】
(実施例2)
第1の鱗片状黒鉛粒子の添加量を60重量部としたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0112】
(実施例3)
第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径15μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP15」、平均粒子径15μm)50重量部を用い、さらに第2の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径35μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP35」、平均粒子径35μm)50重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0113】
(実施例4)
第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径35μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP35」、平均粒子径35μm)60重量部を用い、さらに第3の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径60μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「Z−100」、平均粒子径60μm)40重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0114】
(実施例5)
第1の鱗片状黒鉛粒子の添加量を80重量部とし、さらに炭素繊維(日本グラスファイバー社製、商品名「XN−100」ミルドファイバー、繊維長50μm)20重量部を添加したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0115】
(実施例6)
ポリプロピレンの添加量を70重量部とし、さらにポリエチレン(PE、日本ポリエチレン社製、商品名「ノバテックTM LJ803」)30重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様の配合とし、ラボプラストミル(東洋精機社製、品番「R100」)を用いて、140℃で溶融混練することにより樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、縦6mm×横6mm×高さ5mmになるように調整してプレス板の上に配置し、温度が140℃になるまで加熱した。その後、圧力20MPa及び時間5分の条件で、プレス加工によりシート状に成形した。続いて、常温プレスすることで縦300mm×横300mm×厚み2mmの樹脂シートを得た。
【0116】
得られた樹脂シートを2mm×5mm×5mmのシートペレット状に調整し、そのシートペレット状の樹脂シートを160tの射出成形機(東芝機械社製、品番「EC160NP」)に投入した。続いて、射出成型時のシリンダー温度が200℃になる条件下で金型に注入し、60℃に冷却して1分経過した後に取り出すことで、実施例1と同様の形状を有する箱状の樹脂成形体を得た。得られた樹脂成形体を実施例1と同様にして、周囲をクリップで挟みこみ完全に閉空間の箱状の筐体を得た。
【0117】
(実施例7)
実施例4の第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径7μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「PCH7」、平均粒子径7μm)60重量部を用いたこと以外は、実施例4と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0118】
(実施例8)
実施例1の第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径35μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP35」、平均粒子径35μm)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0119】
(実施例9)
実施例1の第1の熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)を80重量部とし、かつ第2の熱可塑性樹脂としてスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS、旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックH1052」)20重量部をさらに添加したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0120】
(実施例10)
実施例1の第1の熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)を50重量部とし、かつ第2の熱可塑性樹脂としてオレフィンエラストマー(ダウケミカル社製、商品名「エンゲージ8407」)50重量部をさらに添加し、かつ第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径35μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP35」、平均粒子径35μm)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0121】
(実施例11)
実施例10の第1の熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)を80重量部とし、第2の熱可塑性樹脂(オレフィンエラストマー)を20重量部とし、第1の鱗片状黒鉛粒子を80重量部とし、薄片化黒鉛(日本黒鉛社製、商品名「UP−35N」、平均粒子径30μm)20重量部をさらに用いたこと以外は実施例10と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0122】
(実施例12)
実施例11の第1の熱可塑性樹脂(ポリプロピレン)及び薄片化黒鉛の代わりに、ポリプロピレン樹脂(PP)80重量部とガラス繊維20重量部とからなる混合物(プライムポリマー社製、商品名「V7100」)100重量部を用いたこと以外は、実施例11と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0123】
(実施例13)
実施例11の薄片化黒鉛の代わりにタルク(日本タルク社製、商品名「ミクロエース MS−K」)20重量部を用いたこと以外は、実施例11と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0124】
(実施例14)
実施例11の第1の鱗片状黒鉛粒子を40重量部とし、第2の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径15μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP15」、平均粒子径15μm)30重量部をさらに添加し、第3の鱗片状黒鉛として平均粒子径60μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「Z−100」、平均粒子径60μm)30重量部をさらに添加し、薄片化黒鉛を添加しなかったこと以外は実施例11と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0125】
(実施例15)
第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径7μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「PCH7」、平均粒子径7μm)50重量部を用い、第2の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径35μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「CNP35」、平均粒子径35μm)30重量部を用い、第3の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径120μmの鱗片状黒鉛粒子(日本黒鉛社製、商品名「F#2」、平均粒子径120μm)20重量部を用いたこと以外は実施例14と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0126】
(実施例16)
第1の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンの代わりに環状オレフィンコポリマー(COC、ポリプラスチック社製、商品名「8007」)を用いたこと以外は実施例10と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0127】
(実施例17)
第1の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンの代わりにポリアミド6(PA、東レ社製、商品名「CM1007」)を用いたこと、第1の鱗片状黒鉛粒子を用いなかったこと、及び薄片化黒鉛(日本黒鉛社製、商品名「UP−35N」、平均粒子径30μm)の添加量を60重量部としたこと以外は実施例11と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0128】
(実施例18)
第2の熱可塑性樹脂として、オレフィンエラストマーの代わりにスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS、旭化成ケミカルズ社製、商品名「タフテックH1052」)を用いたこと、及び薄片化黒鉛(日本黒鉛社製、商品名「UP−35N」、平均粒子径30μm)の添加量を20重量部としたこと以外は実施例17と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0129】
(実施例19)
第1の鱗片状黒鉛粒子の添加量を150重量部としたこと以外は実施例10と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0130】
(実施例20)
第1の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径7μmの鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「PCH7」、平均粒子径7μm)90重量部を用い、第3の鱗片状黒鉛粒子として平均粒子径120μmの鱗片状黒鉛粒子(日本黒鉛社製、商品名「F#2」、平均粒子径120μm)10重量部を用いたこと以外は実施例19と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0131】
(実施例21)
第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに薄片化黒鉛(日本黒鉛社製、商品名「UP−35N」、平均粒子径30μm)50重量部を用いたこと以外は実施例19と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0132】
(比較例1)
実施例1の第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、球状黒鉛(伊藤黒鉛社製、商品名「SG−BL40」、平均粒子径40μm)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0133】
(比較例2)
実施例1の第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、平均粒子径60μmの第3の鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「Z−100」、平均粒子径60μm)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0134】
(比較例3)
実施例1の第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、平均粒子径60μmの第3の鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「Z−100」、平均粒子径60μm)150重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0135】
(比較例4)
実施例1の第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、炭素繊維(日本グラスファイバー社製、商品名「XN−100」ミルドファイバー、繊維長50μm)100重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0136】
(比較例5)
第1の熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンの代わりに環状オレフィンコポリマー(COC、ポリプラスチック社製、商品名「8007」)を用いたこと、及び第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、平均粒子径120μmの第3の鱗片状黒鉛粒子(日本黒鉛社製、商品名「F#2」、平均粒子径120μm)100重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0137】
(比較例6)
COCの代わりにポリアミド6(PA、東レ社製、商品名「CM1007」)を用いたこと以外は比較例5と同様にして筐体を得た。
【0138】
(比較例7)
第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、平均粒子径60μmの第3の鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「Z−100」、平均粒子径60μm)5重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0139】
(比較例8)
第1の鱗片状黒鉛粒子の代わりに、平均粒子径7μmの第3の鱗片状黒鉛粒子(伊藤黒鉛社製、商品名「PCH7」、平均粒子径7μm)210重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして樹脂成形体及び筐体を得た。
【0140】
(評価方法)
実施例及び比較例で得られた樹脂成形体及び筐体について、以下の評価を行った。結果を下記の表1及び表2に示す。
【0141】
エチレン成分含有量;
エチレン成分含有量(濃度)は下記の要領で測定した。まず、ホモプロピレン樹脂に、エチレン含有量が既知のエチレン−α−オレフィン共重合体(ダウケミカル社製、商品名「エンゲージ 8100」、エチレン成分の含有量:58質量%)を5質量%、10質量%、20質量%、30質量%の割合で精秤配合し、熱キシレンによって完溶させた。溶解した溶液を、ガラス板上に塗布し、フィルムを作製後、下記赤外線スペクトル測定条件により測定し、ポリプロピレン系樹脂のポリプロピレンの吸収(1304cm−1)とポリエチレンの吸収(720cm−1)の吸光度比より、検量線を作成した。各実施例及び比較例で用いた熱可塑性樹脂について、同様にフィルムを作成した後、下記赤外線スペクトル測定条件により測定し、上記方法により作成した検量線を用いて、エチレン成分含有量を算出した。
【0142】
[測定条件]
測定装置:Thermo Electron Corporation社製、製品名「NICOLET 6700」
測定周波数:4000〜500cm−1
分解能:4cm−1
スキャン回数:32回
【0143】
体積平均粒子径(平均粒子径);
黒鉛粒子の体積平均粒子径は、JIS Z 8825に準拠して、粒子径解析−レーザー回折/散乱法により測定した。
【0144】
具体的には、樹脂成形体(筐体)から切り出した試験片を600℃で加熱することで樹脂を飛ばして黒鉛粒子取り出した。得られた黒鉛粒子をその濃度が2重量%となるように石鹸水溶液(中性洗剤:0.01%含有)に投入し、超音波ホモジナイザーを用いて300wの出力で超音波を1分間照射し、これにより懸濁液を得た。次に、懸濁液についてレーザー回折・散乱式の粒度分析測定装置(日機装社製、製品名「マイクロトラックMT3300」)により黒鉛粒子の体積粒子径分布を測定し、この体積粒子径分布の累積50%の値を黒鉛粒子の平均体積粒子径として算出した。
【0145】
粒子径ピーク数,d1/d2、p1/p2;
粒子径ピーク数は、上記体積平均粒子径の欄で得られた体積粒子径分布から求めた。図7は、実施例14の黒鉛粒子の体積粒子径分布を示す図である。例えば、図7の黒鉛粒子では、粒子径ピークが2つ存在していることがわかる。なお、実施例14を代表して取り挙げ説明するが、他の実施例や比較例においても同様にして、粒子径ピーク数,d1/d2、p1/p2を求めた。
【0146】
d1/d2は、黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、最小粒子径ピークを構成している体積平均粒子径をd1とし、最大粒子径ピークを構成している黒鉛粒子の体積平均粒子径をd2としたときの比から求めた。例えば、図7では、矢印Aで示す粒子径ピークを構成している体積平均粒子径がd1であり、矢印Bで示す粒子径ピークを構成している体積平均粒子径がd2である。
【0147】
p1/p2は、黒鉛粒子の体積平均粒子径分布のうち、体積平均粒子径が150μm以下の範囲において、最小粒子径ピークのピーク頻度をp1(%)とし、最大粒子径ピークのピーク頻度をp2(%)としたときの比から求めた。例えば、図7では、矢印Aで示す粒子径ピークのピーク頻度がp1(%)であり、矢印Bで示す粒子径ピークのピーク頻度がp2(%)である。
【0148】
平均厚み径;
平均厚み径は、走査型電子顕微鏡(SEM、日本電子社製、品番「JSM−6330F」)を用いて測定した。具体的には、樹脂成形体(筐体)から切り出した試験片を600℃で加熱することで樹脂を飛ばして黒鉛粒子取り出し、プレパラート上に載せた状態で、走査型電子顕微鏡にて観察し、黒鉛粒子の厚みを計測した。
【0149】
比重;
得られた樹脂成形体をペレット化し、プレス温度230℃、プレス圧力15MPaにてプレスシートを作製し、JIS K 7112に準拠して水中置換法にて、樹脂成形体(筐体)の比重を測定した。
【0150】
損失正接温度;
損失正接の最大値を示す温度である損失正接温度は、JIS K 7244−4に準拠して測定した。具体的には、得られた樹脂成形体について、幅5mm×長さ24mm×厚み0.3mmの試験シートを作製した。作製した試験シートを歪み量0.3%、周波数1Hz及び昇温速度3℃/分の条件下で、動的粘弾性の温度分散測定を行うことにより求めた。動的粘弾性の温度分散測定は、動的粘弾性測定装置(レオメトリックス社製、商品名「RSA」)を用いて測定した。
【0151】
熱伝導率の測定;
筐体の底面部分から100mm×100mmの大きさに試験片を切り出し、熱伝導率の測定に用いた。
【0152】
筐体を構成する試験片の平面または曲面における任意の方向をx方向及び該x方向と直交する方向をy方向とし、試験片の厚み方向をz方向としたとき、x方向の熱伝導率λx、y方向の熱伝導率λy及びz方向の熱伝導率λzを、それぞれ以下の式を用いて測定した。
【0153】
熱伝導率(W/(m・K))=熱拡散率×比重×比熱 …(1)
【0154】
式(1)において、各方向における熱拡散率の測定は、ベテル社製、商品名「TA33」を用いて行った。上記のようにして得られたλx、λy及びλzを用い、min(λx,λy)/λz、λx/λyを得た。
【0155】
また、この測定方法にて評価を行なう場合、面内方向については、照射するキセノンフラッシュの放射熱を検出できない場合があるため、必要に応じて筐体から切り抜いた試験片を溶融加熱して冷却プレスすることで厚みを薄くして、検出可能なサンプル厚みに調整することを行なった。
【0156】
なお、比重は、ALFAMIRAGE社製、商品名「MDS−300」を用いて測定した。また、比熱は、セイコーインスツルメンツ社製、商品名「DSC−6200」を用いて測定した。
【0157】
熱拡散性の評価(放熱性評価);
筐体の底面部分から縦100mm×横100mm×厚み1.6mmの大きさに試験片を切り出し、熱拡散性評価の測定に用いた。
【0158】
熱拡散性の評価は、試験片の下側中央部にヒーター(坂口電熱社製、品番「マイクロセラミックヒーターMS−5」)を配置し、試験片とヒーターとの間は熱伝導グリス(AINEX社製、品番「GS−04」、熱伝導率3.8W/(m・K))1gを均一に塗布することで接合した。また、ヒーターの真上に当たる試験片の上側には熱電対をテープで固定して、熱電対を用いて温度を測定した。なお、試験片厚みは、1.6mmであった。
【0159】
ヒーターは、直流電源装置を用いて8Vの電圧で加熱させ、800秒後(ほぼ温度上昇が小さくなり、飽和温度に達している時間)に試験片の上側中央部の温度を測定した。この温度が低いほど熱の浸透性が低いので、すなわち熱を周囲に拡散しているので、放熱性において良好な筐体といえる。
【0160】
シャルピー耐衝撃性試験;
JIS K 7111に準拠し、常温23℃環境下にてシャルピー耐衝撃試験を行った。なお、試験片については、筐体を細かく裁断することでペレット状成型物を作製し、それをJIS K 7111に記載される1号試験片の形状をした金型で、シリンダー温度180〜230℃(材料によって適宜調整)の条件にて射出成型することで得た。得られた試験片をJIS K 7111準拠のA形状にするため、ノッチ加工機(安田精機製作所社製、商品名「No.189 ノッチ加工機」)を用いて加工した。続いて、JIS K 7111準拠のA型ノッチにシャルピー耐衝撃性試験の測定を行った。また、シャルピー耐衝撃試験に用いた試験装置は、安田精機製作所社製、商品名「No.258 万能衝撃試験機」を用いた。また、試験片を金型に射出するための成型機は、東芝機械社製、品番「EC160NP」を用いた。
【0161】
落球衝撃強度;
落球衝撃強度は、以下のようにして測定した。まず、樹脂成形体(筐体)を23℃の恒温室内の水平面上に設置した。その後、樹脂成形体(筐体)の上面に鉄球(重量0.5kg)を、樹脂成形体(筐体)の上面から垂直方向において高さ0.1mの位置から自然落下させた。鉄球の落下によって樹脂成形体における割れの発生の有無を目視により観察した。樹脂成形体に割れが発生していない場合には、垂直方向においてさらに0.05m高い位置から樹脂成形体の上面に鉄球を自然落下させて樹脂成形体における割れの発生の有無を目視により観察した。そして、樹脂成形体に割れが発生するまで、鉄球の高さを0.05m毎に高くして鉄球の自然落下を繰り返して、樹脂成形体に割れが発生した最小の鉄球の高さを測定した。なお、表1においては、最小の鉄球の高さの単位をcmで示している。
【0162】
【表1】
【0163】
【表2】
【符号の説明】
【0164】
1…樹脂成形体
2…クリップ
3…筐体
【要約】
【課題】放熱性及び耐衝撃性の双方に優れる樹脂成形体を提供する。
【解決手段】熱伝導性を有し、かつ主面を有する樹脂成形体であって、熱可塑性樹脂と黒鉛粒子とを含み、前記黒鉛粒子の体積平均粒子径が、0.1μm以上、40μm未満であり、前記熱可塑性樹脂100重量部に対する前記黒鉛粒子の含有量が、10重量部以上、200重量部以下であり、前記主面において、任意の方向をx方向及び該x方向に直交する方向をy方向とし、前記樹脂成形体の厚み方向をz方向としたときに、前記x方向の熱伝導率λx、前記y方向の熱伝導率λy及び前記z方向の熱伝導率λzが、min(λx,λy)/λz≧3を満たしている。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7