(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、板バネを用いた振動発電機において、可動部が、磁気バネまたは巻バネで連結された複数の可動部として構成され(第1の特徴)、連結された可動部の振動方向の両端部に、ギャップ長を調整可能な磁気バネ部を設けたこと(第2の特徴)を技術的特徴としている。このような構成を備えることで、非接触で複数の可動部の共振周波数を個別に設定変更することで、所望の発電効率を得ることができる周波数範囲を、従来よりも広帯域化することができるという、優れた効果を得ることができる。
【0011】
そこで、このような技術的特徴を備えた本発明の振動発電機の好適な実施の形態につき、以下に、図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
実施の形態1.
まず始めに、第2の特徴である「可動部の振動方向の両端部に、ギャップ長を調整可能な磁気バネ部を設けたこと」について、可動部が1つの場合を例に説明する。
【0013】
図7は、振動発電機の基本構造を説明するための概略断面図である。
図7に示した振動発電機は、永久磁石1a、1b、コイル2、板バネ3a、3b、ガイド棒4a、4b、磁気バネ部5a、5b、フレーム10、天板11、磁石取付け用上板12、中板13、磁石取付け用下板14、底板15、および周波数調整機構部16を備えて構成されている。
【0014】
図7においては、円柱あるいは円筒形をした永久磁石(以下磁石)1a、1bが、同極を対向して配置されている。さらに、磁石1a、1bの周りを、コイル2が囲む構成となっている。ここで、コイル2は、中板13に固定されており、コイル2の中に配置された磁石1a、1bが振動することで、電気エネルギーが発生することとなる。
【0015】
さらに、磁石1aは、ガイド棒4aを介して磁気バネ部5aと接続され、ガイド棒4aの中間部分は、板バネ3aにより保持されている。同様に、磁石1bは、ガイド棒4bを介して磁気バネ部5bと接続され、ガイド棒4bの中間部分は、板バネ3bにより保持されている。
【0016】
ここで、板バネ3a、3bの構造について、図面を用いて説明する。
図8は、板バネ3a、3bの構成を示す図である。
図8に示した板バネ3a、3bは、円形状のバネ部材に対して、渦巻き状の複数のスリットS、中心部の穴H1、および外周部の複数の穴H2が形成されている。
【0017】
中心部の穴H1は、
図7に示したガイド棒4a、4bとの接続部に相当し、外周部の複数の穴H2は、
図7に示したフレーム10との接続部に相当する。また、渦巻き状の複数のスリットSは、可動部であるガイド棒4a、4bの横揺れを抑制する働きを有している。すなわち、
図7において、磁石1a、1bは、外部環境の振動エネルギーにより、
図7の紙面上の上下方向には振動するが、上下方向と直交する横揺れに関しては、スリットSの働きにより抑制されることとなる。
【0018】
次に、
図7に戻って、本願の技術的特徴の1つである磁気バネ部5a、5b、および周波数調整機構部16について、説明する。磁気バネ部5a、5bは、磁石1a、1bの振動方向(
図7の紙面上の上下方向)の両端に設けられている。より具体的には、磁気バネ部5a、5bのそれぞれは、同極が対向して配置された一対の磁石で構成されている。
【0019】
磁気バネ部5aを構成する一対の磁石のうち、一方は、ガイド棒4aの端部に接続され、他方は、磁石取付け用上板12に固定されている。同様に、磁気バネ部5bを構成する一対の磁石のうち、一方は、ガイド棒4bの端部に接続され、他方は、磁石取付け用下板14に固定されている。
【0020】
また、周波数調整機構部16は、回転可能な軸を有し、磁石取付け用上板12および磁石取付け用下板14に接続されるとともに、天板11と底板15の間で固定されている。そして、周波数調整機構部16に設けられた回転可能な軸は、回転に対して、上下に配置された磁石取付け用上板12と磁石取付け用下板14が反転動作を行うように、ねじを切る方向が逆となっている。
【0021】
この結果、回転可能な軸を一方の方向に回すことで、磁気バネ部5a、5bのギャップ長をともに狭める方向に調整でき、逆に、回転可能な軸を逆の方向に回すことで、磁気バネ部5a、5bのギャップ長をともに広げる方向に調整できる。すなわち、周波数調整機構部16により、磁気バネ部5a、5bのギャップ長(磁石間距離)を同時に、同じ方向(狭める方向、あるいは広げる方向)に調整することができる。
【0022】
次に、磁石間距離の調整による効果について説明する。周波数調整機構部16により、磁気バネ部5a、5bの磁石間距離を調整した際に、磁石間距離が狭くなった場合には、バネ定数が大きくなり、周波数が高くなる。一方、磁石間距離が広くなった場合には、バネ定数が小さくなり、周波数が低くなる。従って、磁気バネ部5a、5bの磁極間距離を調整することで、振動発電機の共振周波数を調整することが可能となる。
【0023】
図9は、
図7の基本構造を有する振動発電機の磁気バネ部5a,5bの磁石間距離の調整により周波数を変更した場合の、出力電圧の周波数特性を示す図である。
図9に示すように、基本構造を有する振動発電機の出力電圧は、共振周波数において最大となるような山形の周波数特性を有している。すなわち、振動発電機では、バネ定数と可動部質量によって決まる共振周波数で共振させることで、発電効率を高めることができる。
【0024】
そこで、磁気バネ部5a,5bの磁石間距離を調整して、振動発電機が使用される環境の振動源の固有振動に合うように、振動発電機の共振周波数を容易に変更することで、環境に応じて、より大きな電圧値を出力できる振動発電機を得ることが可能となる。
【0025】
さらに、
図7における周波数調整機構部16は、磁気バネ部5a,5bの磁石間距離の調整により、非接触により周波数調整を行うことができる。この結果、共振周波数を調整することによる機構上の損失のおそれがなく、耐久性が高く、長寿命の振動発電機が実現できる。
【0026】
さらに、周波数調整機構部16による磁石間距離の調整は、軸方向両端のバネ定数を同時に、同じ状態で変更することが可能である。この結果、磁気バネ部5a、5bのバネ定数がアンバランスとなることで、可動部の磁石、板バネが偏ることを避けることができる。
【0027】
さらに、磁気バネ部5a、5bは、磁石間距離が小さくなるに従って反発力が大きくなる。この結果、可動部の両端に磁気バネ部5a、5bを設けた構成を採用することで、大きな加速度が加わった際にも、可動部が振れ過ぎてバネが破損するといったことを防止でき、かつ、大きな加速度が加わった際の振れ止めの効果を実現できる。
【0028】
ただし、
図7に示した基本構造は、振動する可動部が、磁石1a、1bによる1つで構成されている。従って、共振周波数を調整することで、発電効率を高めることはできるが、振動発電機が使用される環境の振動源の固有振動が変化した場合には、周波数が、共振周波数からずれてしまい、先の
図9に示したように、出力電圧が極端に低下してしまうという問題がある。
【0029】
この問題に対して、本発明では、上述したように、「可動部が、磁気バネまたは巻バネで連結された複数の可動部として構成されている」という第1の特徴を備えることで、解決を図っている。そこで、「複数の可動部」に関する具体的な構成および効果について、以下に、詳細に説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態1における振動発電機の構造を説明するための概略断面図である。
図1に示した本実施の形態1における振動発電機は、永久磁石1a(1)、1b(1)、1a(2)、1b(2)、コイル2(1)、2(2)、板バネ3a、3b、3c(1)、3c(2)、ガイド棒4a(1)、4b(1)、4a(2)、4b(2)、磁気バネ部5a、5b、連結バネ部5c、フレーム10、天板11、磁石取付け用上板12、中板13(1)、13(2)、磁石取付け用下板14、底板15、および周波数調整機構部16を備えて構成されている。
【0031】
先の
図7では、可動部が1段として構成されていたが、
図1では、可動部が2段として構成されており、1段目の構成には添字「(1)」を付しており、2段目の構成には添字「(2)」を付して、区別している。すなわち、
図1の構成においては、永久磁石1a、1bとガイド棒4a、4bからなる可動部、およびコイルが、2段構成となっている点が、先の
図7の構成とは異なっている。
【0032】
基本的な動作は、先の
図7の構成による動作と同じであるが、可動部を2段としたことにより、2段の可動部を連結するための連結バネ部5cを設けている点が異なっており、この連結バネ部5cの動作を中心に、以下に説明する。
【0033】
図1においては、可動部を2段としたことで、それぞれの可動部を連結バネ部5cにより接続している。ここで、連結バネ部5cとしては、磁気バネ部5a、5bと同様に、一対の磁石により構成することができるが、一般の巻バネを用いることもできる。このようにして、本実施の形態1では、複数の可動部が固定で連結されているのではなく、伸縮可能なバネ(磁気バネあるいは巻バネ)を介して連結されている。
【0034】
そこで、バネを介して複数の可動部を連絡した場合に得られる優れた効果について、複数の可動部を固定で連結した場合と対比しながら、図面を用いて、詳細に説明する。なお、以下の説明では、説明を簡略化するために、複数の可動部が2つである場合を具体例として挙げている。
【0035】
図2は、2つの可動部を固定で連結した場合の模式図である。
図2における各符号は、以下の内容を示している。
K1:1段目の可動部のバネ定数
C1:1段目の可動部の減衰係数
M1:1段目の可動部の質量
K2:2段目の可動部のバネ定数
C2:2段目の可動部の減衰係数
M2:2段目の可動部の質量
【0036】
図2に示すように、複数の可動部が固定で連結されている場合には、1つに連結された可動部と見なすことができ、共振周波数は、K1+K2、C1+C2、M1+M2により決定される1つの周波数となる。
図3は、
図2の構成の振動発電機による出力電圧の周波数特性を示す図である。この
図3に示すように、出力電圧の周波数特性は、
図2の構成の振動発電機では広帯域化を実現することはできない。
【0037】
一方、
図4は、本発明の実施の形態1における振動発電機において、2つの可動部をバネで連結した場合の模式図である。
図4における各符号は、以下の内容を示している。
K1:1段目の可動部のバネ定数
C1:1段目の可動部の減衰係数
M1:1段目の可動部の質量
K2:2段目の可動部のバネ定数
C2:2段目の可動部の減衰係数
M2:2段目の可動部の質量
K3:連結バネ部5cの働きによるバネ定数
C3:連結バネ部5cの働きによる減衰係数
【0038】
図4に示すように、複数の可動部が連結バネ部5cを介して連結されている場合には、全体としては、1段目の可動部と2段目の可動部の個々の固有振動数の特性を合成したような応答特性となる。すなわち、複数の可動部は、連結バネ部5cで結合されているので、それぞれの可動部は、他の可動部の共振周波数でも加振され、発電することができる形となる。
【0039】
図5、
図6は、本発明の実施の形態1において、2つの可動部を連結バネ部5cを介して連結した際の、出力電圧の周波数特性を示す図である。
図5と
図6では、1段目の可動部と2段目の可動部のそれぞれについて調整した個別の共振周波数が異なっており、以下のような具体例としての特性を示している。
図5の条件:1段目の可動部の共振周波数 21.5Hz
2段目の可動部の共振周波数 27.3Hz
図6の条件:1段目の可動部の共振周波数 19.5Hz
2段目の可動部の共振周波数 25.5Hz
【0040】
図3と
図5、
図6とを比較すると、たとえば、6mW以上の出力が得られるのは
図3では18Hzから25Hzの間の約7Hzであるのに対し、
図5では、16Hzから30Hzの間の約14Hz、
図6では、15Hzから28Hzの間の約13Hzと広帯域化が実現できている。このように、複数の可動部が連結バネ部5cを介して連結されている
図1の構成を採用することにより、所望の発電効率を得ることができる周波数範囲を、従来よりも広帯域化できることがわかる。すなわち、それぞれが異なる共振周波数に設定された複数の可動部を組み合わせることで、広帯域化が実現できる。
【0041】
この結果、色々な周波数の振動源に対応可能な振動発電機が実現できる。さらに、振動源に複数の周波数の振動が混在した場合にも、所望の出力電圧を発電することが可能な振動発電機が実現できる。
【0042】
以上のように、実施の形態1によれば、板バネを用いた振動発電機として、振動方向の両端部に、ギャップ長を調整可能な磁気バネ部を備えた構成とともに、複数の可動部をバネで連結する構成を実現している。この結果、用途に応じた所望の共振周波数を得るために、複数の可動部の共振周波数を個別設定して、所望の発電効率を得ることができる周波数範囲を広帯域化することができる。従って、振動源の固有振動が変動するような環境においても、出力電圧が極端に低下してしまうことを抑制でき、振動発電機の適用範囲を広げることが可能となる。
【0043】
なお、本発明の振動発電機の具体的な構成について、
図1を用いて説明したが、本発明は、この構成に限定されるものではない。上述した第1の特徴と第2の特徴を兼ね備えた構成が実現できれば、同様の優れた効果を得ることができる。