特許第6182259号(P6182259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182259
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】リン酸カルシウムセメント組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 24/02 20060101AFI20170807BHJP
   A61K 6/033 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   A61L24/02
   A61K6/033
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-509243(P2016-509243)
(86)(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公表番号】特表2016-516513(P2016-516513A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】CH2013000068
(87)【国際公開番号】WO2014172794
(87)【国際公開日】20141030
【審査請求日】2016年4月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】515292613
【氏名又は名称】マティ・アー・ゲー・ベットラッハ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デベリン,ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】ティアイネン,ハンナ
(72)【発明者】
【氏名】ベーナー,マルク
【審査官】 金田 康平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−289092(JP,A)
【文献】 特表2003−516190(JP,A)
【文献】 特表2012−524821(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0244651(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61K 6/00− 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の2つの成分
A)リン酸カルシウム粉末と水の反応を抑制する抑制剤カチオンを含む水溶液中に懸濁された1つまたはいくつかのリン酸カルシウム粉末であって、抑制剤カチオンは0.01Mより高い濃度のMg2+、Sr2+またはBa2+から選択されるリン酸カルシウム粉末、および
B)0.1Mより高い濃度でCa2+カチオンを含む水溶液
を含み、
成分Aと成分Bとの比が、この2つの成分を混合した場合に、混合物中のCa2+イオン/抑制剤カチオンのモル比が2より大きくなる、
リン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項2】
抑制剤カチオンがMg2+のみから選択される、請求項1に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項3】
抑制剤カチオンがSr2+のみから選択される、請求項1に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項4】
成分Aと成分Bとの比が、この2つの成分を混合した場合に、混合物中のCa2+イオン/抑制剤カチオンのモル比が5より大きくなる、請求項1から3のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項5】
リン酸カルシウム粉末がα−リン酸三カルシウムである、請求項1から4のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項6】
成分A中の抑制剤カチオンの濃度が0.05M以上、好ましくは0.1Mより大きい、請求項1から5のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項7】
2つの成分A/Bの体積比が4以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項8】
成分B中のCa2+イオンの濃度が0.5Mより高い、請求項1から7のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項9】
成分Bがリン酸カルシウム粉末を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項10】
成分AもしくはBまたはその両方が少量の水溶性ポリマーを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項11】
成分BのpHが6以下、好ましくは5未満である、請求項1から10のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項12】
成分BのpHが弱酸を使用して、好ましくは、酢酸、ギ酸、乳酸、クエン酸、及びプロピオン酸を使用して調整される、請求項1から11のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項13】
成分AのpHが8より大きく、好ましくは9より大きい、請求項1から12のいずれか一項に記載のリン酸カルシウムセメント組成物。
【請求項14】
2つの別個の部屋CおよびCを有する装置であって、これらの部屋の内容物を2つの部屋間の分離を除去する際に混合することができ、部屋Cは請求項1から13のいずれか一項の成分Aを含み、部屋Cは請求項1から13のいずれか一項の成分Bを含む、装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文に従うリン酸カルシウムセメント組成物、および前記組成物を混合するための、請求項31の前文に従う二室装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの市販セメントは2つの成分、即ち、固体成分(即ち、粉末または粉末混合物)および液体成分の形態である。前記2つの成分が別々に保たれている場合、これらのセメントは良好な貯蔵寿命安定性を有する。硬化反応を開始するには、前記2つの成分(固体+液体)が適用直前に混合されなければならない。実際、前記液体が前記固体と接触するとすぐに硬化反応が開始する。一般に、前記液体を前記固体成分と混合することにより得られたペーストは、混合容器から注入装置に移さなければならない。換言すれば、取り扱いがあまり良くない(前記粉末および前記液体は機械的に混合される必要があり、得られたペーストは注入装置に移さなければならず、リン酸カルシウムセメント(CPC)ペーストは粉末−液体混合後の短時間内に注入する必要がある)。
【0003】
国際公開第03/041753号(ルメートル(Lemaitre)氏)からは2つのリン酸カルシウムペーストの混合物に基づくCPCが知られている。この従来技術のセメントの主な利点は、静的ミキサーを通して注入することにより前記2種類のペーストを混合する可能性にある。この2種類のペーストが(例えば、酸−塩基反応を介して)一緒に反応できるなら、注入中に混合されるCPCを設計することが可能である。換言すれば、粉末を液体と混合したり、または得られたペーストを注入装置に移す必要がない。ルメートル氏はCPC配合物の3つの例を開示した。実施例1において、反応の最終生成物は、いわゆる「ブルシャイト」(リン酸二カルシウム二水和物;CaHPO・2HO)であった。両成分は数年の間、安定であった。2番目の例では、主にリン酸四カルシウム(TetCP;Ca(POO)からなるペーストを主にリン酸二カルシウム(CaHPO)からなるペーストと混合した。第2のペーストはたぶん数年間、安定であったのに対し、第1の相が数年の間安定なままであろうことを示す科学的なデータはなかった。TetCPの非常に高い反応性を考慮すると、このペーストの安定性は数分に制限される。3番目の例は、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)製のCPCを扱っている。ルメートル氏でなされた意見に反して、主張された結果、即ち、α−TCPは数時間/日以内に水と反応しカルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA)を形成すること、を再現することはできなかった。
【0004】
したがって必要なのは、数年間、安全に保存でき、混合された場合にその完全な反応性を未だ保持することができるリン酸カルシウム組成物である。
【0005】
換言すれば、反応性リン酸カルシウム粉末および水の混合物からなる第1のペースト(「成分A」)は、反応性リン酸カルシウム粉末のアパタイト相への転換を防止するために、反応抑制剤を含まなければならない。さらに、第2のペースト(「成分B」)は第1のペースト中に存在する反応性リン酸カルシウム粉末の反応を活性化できる物質、いわゆる「活性化剤」を含まなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2003/041753号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、請求項1の特徴を示すリン酸カルシウムセメント組成物および請求第31の特徴を示す二室装置でこの課題を解決する。
【0008】
成分Aは、好ましくは、反応性リン酸カルシウム粉末(リン酸四カルシウム(TetCP)、Ca(POO、α−リン酸三カルシウム(α−TCP)、非晶質リン酸カルシウム(ACP)、Ca(PO・nHO、水および反応抑制剤を含む。反応抑制剤は反応性リン酸カルシウム粉末の溶解、または好ましくはアパタイトの析出のいずれかを抑制することができる。ここで、用語「アパタイト」は、ヒドロキシアパタイト(HA);Ca(POOH、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA);2Ca(HPO)(POOH、炭酸化アパタイト、フルオロアパタイト、クロロアパタイト、オキシアパタイト、またはイオン置換アパタイトのような様々な化合物またはその混合物を指すために使用される。これらの化合物はわずかに異なる組成を有することができるが、すべてが同じ結晶構造を有する。その結果として、例えば、ヒドロキシアパタイトのすべての抑制剤は、例えば、炭酸化アパタイトのような他のアパタイト形態を抑制するために使用することができる。使用することができる代表的な物質は、カルボキシル化化合物(例えば、クエン酸塩、ポリアクリル酸塩)、ピロリン酸塩およびビスホスホネートのようなアニオン、ならびにMgまたはZnのようなカチオンを含む。ペプチドおよびタンパク質のようなより複雑な分子も使用することができる。すべてのこれらの物質は「抑制剤」として引き合いに出すことができる。しかし、Mg2+、Sr2+またはBa2+カチオンのみが本発明のための適切な抑制剤であると考えることができることが驚くべきことに明らかになった。
【0009】
抑制剤濃度は重要である。抑制剤の作用はリン酸カルシウム粒子の活性部位(例えば、転位)へのその吸着に関係しているので、抑制剤濃度はすべての活性部位を封鎖するのに十分な濃さでなければならない。即ち、抑制剤カチオンの0.01Mよりも高い濃度が必要である。
【0010】
非晶質リン酸カルシウムとは逆に、α−TCPは、高温の熱処理およびその後の製粉を用いて製造される。製粉工程中に、粉末の一部が非晶質になる。この非晶質部分は反応性が高い。この非晶質部分が400から700℃の範囲の熱処理により除去することができることを示すことは可能であった。したがって、α−TCP粉末は好ましくは焼成され、保存寿命中の高リン酸カルシウム−水ペーストの安定性を維持する。
【0011】
成分Bは、成分A中に存在する抑制剤の効果を消失させることができる物質を含まなければならない。本特許を通じてそれは「活性化剤」と呼ばれる。抑制剤の作用はリン酸カルシウム粒子の活性部位へのその吸着に関係しているので、活性化剤はそれ自身CPC反応を抑制することなく抑制剤を置換することができなければならない。驚くべきことに、観察によれば、Ca2+カチオンがMg2+、Sr2+またはBa2+カチオンを置換し、その反応を活性化できることが示された。その効果は濃度に依存し、濃度は少なくとも0.01Mでなければならず、好ましくはMg2+、Sr2+またはBa2+カチオンの少なくとも2倍、好ましくは5倍以上のCa2+カチオンがあるべきである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従ったリン酸カルシウムセメント組成物の利点は長期の貯蔵能力である。
【0013】
本発明のさらに有利な実施形態は以下のように述べることができる。
【0014】
抑制剤のカチオンがMg2+のみまたはSr2+のみから選択された場合に特に良好な結果が得られた。
【0015】
成分Aと成分Bとの比は、これら2つの成分の混合時に混合物中のCa2+イオン/抑制剤カチオンのモル比が2よりも大きく、好ましくは5よりも大きいようなものであることが好ましい。
【0016】
リン酸カルシウムセメント組成物と共に使用されるべきリン酸カルシウム粉末は、好ましくは、α−リン酸三カルシウムまたは非晶質リン酸カルシウム(ACP)である。
【0017】
意図的に、a−リン酸三カルシウム粉末は、400℃から700℃の範囲の温度で少なくとも10分間焼成することにより得られる。この処理は、抑制剤の不存在下で、水とのa−リン酸三カルシウム粉末の反応性の低下をもたらす。
【0018】
成分A中の抑制剤カチオンの濃度は、好ましくは0.05M以上、好ましく0.1Mより大きい。
【0019】
意図的に、成分Bは0.5Mより大きい、好ましくは1.0Mより大きい溶解度を有する高度に可溶性のカルシウム塩を含む。
【0020】
特別な実施形態において、成分Bは以下のカルシウム塩の1つ以上を含む。即ち、塩化カルシウム(無水:CaCl、一水和物:CaCl・HO、二水和物:CaCl・2HO、または六水和物:CaCl・6HO)、リン酸二カルシウム二水和物(CaHPO・2HO;DCPD)、硫酸カルシウム二水和物(CaSO・2HO;CSD)、硫酸カルシウム半水和物(CaSO・1/2HO;CSH)、硫酸カルシウム(CaSO)、硝酸カルシウム、酢酸カルシウム(無水:Ca(C、一水和物:Ca(C・HO、または二水和物:Ca(C・2HO)、クエン酸カルシウム(Ca(C)・4HO)、フマル酸カルシウム(CaC・3HO)、グリセロリン酸カルシウム(CaC(OH)PO)、乳酸カルシウム(Ca(C・5HO)、リンゴ酸カルシウム(dl−リンゴ酸塩:CaC・3HO、l−リンゴ酸塩:CaC・2HO、またはリンゴ酸二水素:Ca(HC・6HO)、マレイン酸カルシウム(CaC・HO)、マロン酸カルシウム(CaC・4HO、)、シュウ酸カルシウム(CaC)、シュウ酸カルシウム水和物(CaC・HO)、サリチル酸カルシウム(Ca(C・2HO)、コハク酸カルシウム(CaC・3HO)、酒石酸カルシウム(d−酒石酸塩:CaC・4HO、dl−酒石酸塩:CaC・4HO、メソ酒石酸塩:CaC・3HO)、ならびに吉草酸カルシウム(Ca(C)である。
【0021】
好ましくは、2つの成分A/Bの体積比は4以上であり、好ましくは12未満である。
【0022】
さらなる実施形態では、成分BにおけるCa2+イオンの濃度は0.5Mより大きい。
【0023】
さらなる実施形態において、成分Bはリン酸カルシウム粉末、特にアパタイト、好ましくは純粋なヒドロキシアパタイト、SiまたはSr置換アパタイトのようなイオン置換ヒドロキシアパタイト、またはCa欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA)を含む。粒子が非常に小さい場合には、液体が、相分離に到達するために粒子間を流れることがより困難であるため、これらの化合物は注入中に相分離(固液)を防ぐ。
【0024】
特別な実施形態において、成分B中のリン酸カルシウム粉末の量は0.4g/mL以上、好ましくは1.0g/mLより大きい。
【0025】
さらなる実施態様では、リン酸カルシウム粉末の粒子はナノ結晶、好ましくは100nmの平均直径を有するナノ結晶である。得られた水−ナノ結晶ペーストは驚くほど良好なレオロジー特性を示し、簡単に注入および凝集され、即ち、血液のような液体に注入した場合ペーストが簡単に分解しない。
【0026】
さらなる実施形態において、成分AもしくはBまたはその両方は少量の水溶性ポリマーを含む。この添加剤は、注入時に相分離(固液)を防ぐ顕著に増加した液粘度を有するゲルを生成する。ポリマーは、(i)ヒアルロナン、好ましくはヒアルロン酸ナトリウムまたはヒアルロン酸;(ii)硫酸コンドロイチン;(iii)セルロース誘導体、好ましくはヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはメチルセルロース;(iv)ポリビニルピロリドン;(v)N−メチル−2−ピロリドンまたは(vi)ジメチルシロキサン;(vii)アルギン酸塩、(viii)キトサン、(ix)ゼラチン、(x)コラーゲンからなる群から選択することができる。ポリマーの量は、意図的に少なくとも0.1重量%、好ましくは少なくとも0.3重量%である。ポリマーの量は、意図的に多くとも3.0重量%、好ましくは多くとも2.0重量%である。
【0027】
リン酸カルシウムセメントは、さらに以下の群、即ち、(i)ヨウ素系溶液、好ましくは、イオヘキソール、イオジキサノールおよびイオベルソール;(ii)金属粉末、好ましくはTa、または(iii)セラミック、好ましくは炭化タングステン、酸化ビスマスまたは酸化ジルコニウムから選択された放射線乳白剤を含むことができる。
【0028】
成分AおよびBの混合時のリン酸カルシウム対液体の重量比は好ましくは2以上である。
【0029】
意図的に、成分BのpHは6以下、好ましくは5未満である。成分BのpHは弱酸を使用して、好ましくは、酢酸、ギ酸、乳酸、クエン酸、及びプロピオン酸を使用して調整することができる。成分B中の弱酸の濃度は、意図的には0.1M以上、好ましくは0.2Mより大きい。
【0030】
成分AのpHは意図的には8より大きく、好ましくは9より大きい。
【0031】
特別な実施形態において、α−リン酸三カルシウムは80%を超える、好ましくは90%を超える純度を有する。α−リン酸三カルシウムは好ましくはアパタイトで汚染されている。
【0032】
さらなる実施形態において、α−リン酸三カルシウムは、0.5m/gより大きい、好ましくは2.0m/gより大きい比表面積(SSA)を有する。
【0033】
本発明による二室装置は2つの別個の部屋CおよびCであって、これらの部屋の内容物を2つの部屋間の分離を除去する際に混合することができ、部屋Cは本発明のリン酸カルシウムセメント組成物の成分Aを含み、部屋Cは成分Bを含む、前記2つの部屋を有する。好ましくは、二室装置中の成分Aと成分Bの体積比A/Bは、4:1から12:1の範囲である。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態は実施例および添付図面の参照により以下に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】X線回折によって分析した、保存時間の増加による成分A中の固相の結晶組成を示すグラフである。
図2】種々の濃度のCaClを含む0.2mlの水溶液を添加する場合の、0.8mlの0.1M MgCl溶液中の2gのα−TCP粒子を用いた等温熱量測定により得られた典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図3図2における放熱曲線から得られた累積総熱量の典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図4】種々の濃度の酢酸および/またはHA種晶を含む0.2mlのCaCl水溶液を添加する場合の、0.8mlの0.1M MgCl溶液中の2gのα−TCP粒子を用いた実験の最初の30分間の間の等温熱量測定により得られた典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図5】種々の濃度の酢酸および/またはHA種晶を含む0.2mlのCaCl水溶液を添加する場合の、0.8mlの0.1M MgCl溶液中の2gのα−TCP粒子を用いた実験の最初の30分間の後の等温熱量測定により得られた典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図6図4および5中の放熱曲線から得られた累積総熱量の典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図7】種々の濃度のCaClを含む0.2mlの水溶液を添加する場合の、0.8mlの0.1M SrCl溶液中の2gのα−TCP粒子を用いた等温熱量測定により得られた典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図8図2における放熱曲線から得られた累積総熱量の典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図9】種々の濃度のCaClを含む0.2mlの水溶液を添加する場合の、0.8mlのBaCl溶液中の2gのα−TCP粒子を用いた等温熱量測定により得られた典型的な放熱曲線を示すグラフである。
図10図9における放熱曲線から得られた累積総熱量の典型的な放熱曲線を示すグラフである。
【実施例】
【0036】
以下の実施例はより詳細に本発明をさらに明らかにする。
【0037】
[実施例1]
この例では、2つの成分、即ち、(A)6.0gのα−リン酸三カルシウム粉末(α−TCP、Ca(PO、SSA値:0.6m/g、>99%の純度、MgCl溶液に分散される前に500℃で24時間焼成)および2.6mlの0.1M塩化マグネシウム(MgCl)溶液の混合物、ならびに(B)0.52mlの5M塩化カルシウム(CaCl)溶液、からなるリン酸カルシウムセメントの使用について説明する。
【0038】
α−TCPは、カルシウム欠損ヒドロキシアパタイト(CDHA、Ca(PO(HPO)OH、反応1)を形成するために水と反応することが知られているが、この反応は以下に述べる2つの要因のために成分A中では起こらない。即ちi)α−TCP粉末はそれを水性媒体中で分散する前に500℃で24時間焼成した。この処理はα−TCP粒子を不動態化することが示されており、このため、低い反応性を有するα−TCP粉末をもたらすからである。また、ii)α−TCP粉末はCDHA核生成および結晶成長のための抑制剤(=Mg2+イオン)を含有する水溶液と混合されるからである。これらの特徴の両方の組み合わせは、数年間の保存にわたってその安定性を維持するペーストを得るために重要である。
【0039】
【数1】
【0040】
2つの成分AおよびBは、セメントの最終的な適用まで、体積比10:1で二室注入器の別々の部屋内に格納される。セメント反応、ひいては硬化を開始するために、成分AおよびBを一緒に混合する。成分Bは、CDHAの核生成および粒子表面上に存在する結晶成長抑制剤(=Mg2+イオン)を置換し、それにより水性環境でセメント反応を開始させる活性化剤としてカルシウムイオンを含む。二つの成分の混合は、注入器に取り付けられた静的ミキサーを介して2つの成分を注入することによって達成することができる。あるいは、2つの成分AおよびBは、ボウルとへらのような他の方法を用いて互いに混合してもよい。
【0041】
硬化反応の開始を促進するために、アパタイト結晶を成分Bに組み込むことができ、あるいは実施例3にさらに説明するように、より低いpH値に成分BのpHを調整してもよい。
【0042】
[実施例2]
種々の組成を有する本発明のリン酸カルシウムセメント組成物のいくつかの試料を、表1に記載したパラメータを用いて、37℃において等温熱量計中で試験した。
【0043】
【表1】
【0044】
α−TCP粉末(実施例1で用いたものと同じ)を熱量計の実験に使用した密封された混合セルのガラスバイアル区画に入れ、Aの液体成分を混合セルの2つの密封された注入区画の1つに入れた。これらの液体区画の他方は成分Bを含んでいた。成分AおよびBの両方をこのように含有する混合セルを熱量計内に配置した直後に、成分Aの液体成分、即ち、MgCl溶液をα−TCP粉末に注入し、混合セル内に存在する混合棒を用いて該粉末および液体を一緒に混合してセメントペーストにした。一定の熱量測定信号によって示されるように、両成分が37℃の温度に達する間の2時間のインキュベーション時間後に、成分Bを、成分Aを含有する混合セルに注入し、形成されたペーストを混合棒で混合した。一定のヌル値が得られるまで、典型的には成分Bの注入後48時間を超えるまで、熱量測定信号を測定した。
【0045】
図1に示すように、α−TCPペーストは、長時間室温で保存された場合、MgCl水溶液中でその安定性を維持する。同様に、24日の試験期間中での37℃での等温熱量測定実験において、活性化剤成分が添加されていない(試料5)0.1M MgCl溶液を含む試料に対し、かなりの放熱により示される水硬性セメント反応は検出されず、24日間の試験期間後実験は終了した。それと比較して、核生成および結晶粒成長抑制剤としての、Mg2+イオンを含まない焼成α−TCP(試料1)は、水性環境で容易に反応し、水への暴露後に10時間未満で硬化反応が開始した(図2)。
【0046】
成分Bへ活性化剤としてのCa2+イオンの増加する量を添加すると(試料2〜4)、硬化反応の開始がますます加速され、図2に示すように、最高試験濃度により約12時間後に水硬性反応がもたらされた。硬化反応中に放出される熱の合計量は、低いCa2+対Mg2+比では幾分低かった(図3)。その結果は、Ca2+イオンは、(おそらくα−TCP粒子表面からのMg2+イオンを置換することによって)反応抑制性のMg2+イオンの効果を消失させる能力を有し、それによってセメント反応を開始させることを示す。
【0047】
[実施例3]
本発明のリン酸カルシウムセメント組成物のいくつかの試料を、表2に記載したパラメータを用いて37℃において等温熱量計中で試験した。
【0048】
【表2】
【0049】
α−TCP粉末(実施例1で用いたものと同じ)を熱量計の実験に使用した密封された混合セルのガラスバイアル区画に入れ、Aの液体成分を混合セルの2つの密封された注入区画の1つに入れた。これらの液体区画の他方は成分Bを含んでいた(活性化剤溶液のpHを調節するために、塩化カルシウムを種々の濃度の酢酸に溶解した。)。ヒドロキシアパタイト結晶(HA;Ca(POOH;TRI−CAFOS PF、ブーデンハイム;平均粒径:5.0μm;70.1m/gの比表面積)を含有する試料について、2つの粉末成分を予め混合した。成分AおよびBの両方をこのように含有する混合セルを熱量計内に配置した直後に、成分Aの液体成分、即ち、MgCl溶液をα−TCP粉末に注入し、混合セル内に存在する混合棒を用いて該粉末および液体を一緒に混合してセメントペーストにした。一定の熱量測定信号によって示されるように、両成分が37℃の温度に達する間の2時間のインキュベーション時間後に、成分Bを、成分Aを含有する混合セルに注入し、形成されたペーストを混合棒で混合した。一定のヌル値が得られるまで、典型的には成分Bの注入後48時間を超えるまで、熱量測定信号を測定した。
【0050】
図4に示すように、成分Bへの酢酸の添加(試料5〜8)により、セメントペーストへの成分Bの注入後、最初の数分の間に初期硬化反応が生じた。成分Bのわずかな酸性度に起因するこの初期硬化反応後、図5に示すように、セメントペーストへの成分Bの添加後1〜40時間で起きる、熱のより遅い放出によって示される主たるセメント反応が生じた。前記硬化反応はさらにHA種晶の添加によって促進された(試料9)。水硬性反応のこの加速は酢酸を含まない試料10でも検出された。しかし、放出される熱の累積合計量は、図6に示すように、高濃度の酢酸、種晶、または両方の組み合わせを含む試料について幾分低かった。
【0051】
好ましくは、種晶は成分B中に含まれ、セメントペーストの最終的な適用の際にのみ成分Aと混合されるべきである。しかし、HA結晶は、熱量計で使用される混合セルの内蔵式注入装置の狭い直径のため、本実施例中の成分Aに添加された(試料9および10)。それにもかかわらず、HAの種晶を含む成分Aに成分Bを添加する前の比較的短いインキュベーション時間のために、このことは、検出された放熱率との有意差を生じさせると考えられるものではなかった。
【0052】
[実施例4]
本発明の種々の組成物を用いたいくつかのセメント試料を、表1に記載したパラメータを用いて37℃において等温熱量計中で試験した。
【0053】
【表3】
【0054】
α−TCP粉末(実施例1で用いたものと同じ)を熱量計の実験に使用した密封された混合セルのガラスバイアル区画に入れ、Aの液体成分を混合セルの2つの密封された注入区画の1つに入れた。これらの液体区画の他方は成分Bを含んでいた。成分AおよびBの両方をこのように含有する混合セルを熱量計内に配置した直後に、成分Aの液体成分、即ち、SrCl溶液をα−TCP粉末に注入し、混合セル内に存在する混合棒を用いて該粉末および液体を一緒に混合してセメントペーストにした。一定の熱量測定信号によって示されるように、両成分が37℃の温度に達する間の2時間のインキュベーション時間後に、成分Bを、成分Aを含有する混合セルに注入し、形成されたペーストを混合棒で混合した。一定のヌル値が得られるまで、典型的には成分Bの注入後48時間を超えるまで、熱量測定信号を測定した。
【0055】
硬化反応に対するSr2+イオンの抑制効果は、実施例2に示すMg2+の効果と同様であることがわかった。7日の試験期間の間に、0.1M SrCl溶液を含む試料(試料15)に対し、かなりの放熱により示される水硬性セメント反応は検出されなかった。それと比較して、核生成および結晶粒成長抑制剤としての、Sr2+イオンを含まない焼成α−TCP(試料11)は、水性環境で容易に反応し、水への暴露後に10時間未満で硬化反応が開始した(図7)。
【0056】
実施例2と同様に、成分Bへ活性化剤としてのCa2+イオンの増加する量を添加すると(試料12〜14)、硬化反応の開始がますます加速され、図7に示すように、最高試験濃度では約12時間後に水硬性反応がもたらされた。しかし、5:1より低いCa2+対Sr2+比を用いると、対応するCa2+対Mg2+比を有する試料2と比較して試料12に対しては、変更された放熱反応速度論によって示されるように、Ca2+イオンによる反応抑制の逆転が多少妨げられたようであるが、一方放出される熱の総量は何の有意な影響を受けなかった(図8図3)。それにもかかわらず、Mg2+で安定化されたα−TCPを用いた場合に示されたのと同様に、硬化反応中に放出される熱の総量は、低いCa2+対Sr2+比ではやや低かった。これらの結果は、添加されたCa2+イオンはα−TCP粒子表面上の反応抑制性のSr2+を置換し、それによりセメント反応を開始させる能力を有するので、Mg2+イオンと同様に、Sr2+イオンはα−TCPの加水分解反応に対し可逆的抑制作用を有することを示す。
【0057】
[実施例5]
本発明の種々の組成物を用いたいくつかのセメント試料を、表3に記載したパラメータを用いて37℃において等温熱量計中で試験した。
【0058】
【表4】
【0059】
α−TCP粉末(実施例1で用いたものと同じ)を熱量計の実験に使用した密封された混合セルのガラスバイアル区画に入れ、Aの液体成分を混合セルの2つの密封された注入区画の1つに入れた。これらの液体区画の他方は成分Bを含んでいた。成分AおよびBの両方をこのように含有する混合セルを熱量計内に配置した直後に、成分Aの液体成分、即ち、BaCl溶液をα−TCP粉末に注入し、混合セル内に存在する混合棒を用いて該粉末および液体を一緒に混合してセメントペーストにした。一定の熱量測定信号によって示されるように、両成分が37℃の温度に達する間の2時間のインキュベーション時間後に、成分Bを、成分Aを含有する混合セルに注入し、形成されたペーストを混合棒で混合した。一定のヌル値が得られるまで、典型的には成分Bの注入後48時間を超えるまで、熱量測定信号を測定した。
【0060】
Mg2+イオンおよびSr2+イオンにより誘導された抑制作用(実施例2および4)と比較して、Ba2+イオンはα−TCPセメントの硬化反応に対する、より強力な抑制作用を引き起こすことが見出された。このことは、4日間の試験期間を通して水性環境中でのヒドロキシアパタイトへのα−TCPの変換を完全に抑制する0.01Mという低いBaCl濃度の能力によって明らかにされた(試料20)。それと比較して、核生成および結晶粒成長抑制剤としての、Ba2+イオンを含まない焼成α−TCP(試料16)は、水性環境で容易に反応し、水への暴露後に10時間未満で硬化反応が開始した(図9および10)。
【0061】
実施例2および4と同様に、セメントペーストへの、成分B(10:1のCa2+対Ba2+比でCa2+イオンを含む)の添加により、0.01Mおよび0.05Mという初期Ba2+濃度を有する試料17および18における水硬性反応の開始がもたらされた。これらの結果は、添加されたCa2+イオンはα−TCP粒子表面上の反応抑制性のBa2+イオンを置換し、それによりセメント反応を開始させる能力を有するので、Mg2+およびSr2+イオンと同様に、Ba2+イオンはα−TCPの加水分解反応に対し可逆的抑制作用を有することを示す。しかし、10:1のCa2+対Ba2+モル比でのCa2+イオンの添加による0.1MのBaCl濃度では水硬性反応は開始できなかったので(試料19)、Mg2+およびSr2+イオンの場合とは異なり、この抑制効果は低いBa2+濃度(<0.1M)で可逆的であるに過ぎない。
【0062】
本発明をその特定の実施形態に関連して説明してきたが、多くの代替、修正および変形が当業者に明らかであることは明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神および広い範囲内に入るすべてのそのような代替、修正および変形を包含することが意図される。
【0063】
本発明の特定の特徴は、明確にするため、別々の実施形態に関連して説明されているが、これを単一の実施態様に組み合わせて提供できることが理解される。逆に、本発明の種々の特徴は、簡潔にするために、単一の実施形態に関連して説明されているが、別々に提供されても、任意の適切なサブコンビネーション中で提供されても、または本発明の任意の他の実施形態に適切なように提供されてもよい。様々な実施形態に関連して説明された特定の特徴は、実施形態がそれらの要素なしでは動作不能でない限り、これらの実施形態の必須の特徴と考えるべきではない。
図1
図2
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図7
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図10