(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロコンピューターなどによる数値制御により、所定のデータに基づいてワークを3次元で加工する加工装置においては、加工工具が取り付けられた主軸と、ワークを保持するワーク保持部とが、XYZ直交座標系のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向へ移動したり、各軸周りに回動することにより、加工工具に対してワークを所定の角度で当接させて、当該ワークを加工工具により加工して所望の形状に成形するようにしている。
【0003】
こうした加工装置においては、工場出荷時や部品交換時などの所定のタイミングで、主軸の中心をXY平面において適正な位置に位置決めしたり、Y軸周りに回動する部材において回転軸をY軸と平行にするなどの各部材の位置を補正する処理がなされる。
【0004】
こうした各部材の位置を補正する補正処理においては、所定の部材の所定の位置に基準穴が設けられており、この基準穴に主軸に取り付けられたセンシングピンを挿入し、適宜にX軸方向、Y軸方向あるいはZ軸方向にセンシングピンを移動させ、基準穴の内面にセンシングピンを接触させることにより、X座標値およびY座標値で表される基準穴の中心座標を取得するものである。
【0005】
なお、こうしたセンシングピンが取り付けられた主軸では、例えば、金属材料に形成された基準穴の内面に接触すると、電気的な導通を検知する構成となっている。
【0006】
そして、こうして取得した基準穴の中心座標を利用して、補正値を算出し、各部材の位置決めが行われる。
【0007】
ここで、基準穴の中心座標を求める場合には、センシングピンを基準穴内においてX軸方向およびY軸方向で移動させて、センシングピンが基準穴の内面に接触したときの座標を確認し、当該座標に基づいて基準穴の中心座標を取得するようにしていた。
【0008】
具体的には、まず、主軸をX軸方向およびY軸方向に移動して、予め設定された基準穴の中心座標に主軸の中心を位置させ、その後、主軸をZ軸方向に移動することで主軸に取り付けられたセンシングピンを基準穴に挿入する。
【0009】
このとき、主軸の中心が適正な位置にない場合には、
図1(a)に示すように、基準穴に挿入されたセンシングピンは基準穴の中心座標から外れた状態となる。なお、このときのセンシングピンの位置を初期位置と称することとする。
【0010】
そして、センシングピンを基準穴に挿入した状態、つまり、センシングピンが初期位置に位置した状態から主軸をX軸方向における第1の方向に移動させ(
図1(b)を参照する。)、センシングピンと基準穴の内面とが接触したときに第1のX座標値を取得する。
【0011】
次に、センシングピンが初期位置に位置した状態で、主軸を回転してセンシングピンを180°回転させる。その後、主軸をX軸方向における第2の方向に移動させ(
図1(c)を参照する。)、センシングピンと基準穴の内面とが接触したときの第2のX座標値を取得する。
【0012】
第1のX座標値および第2のX座標値を取得すると、第1のX座標値および第2のX座標値の中点の座標値を中心座標のX座標値として記憶し、このX座標値にセンシングピン(主軸の中心)が位置するように主軸を移動する(
図1(d)を参照する。)。
【0013】
次に、記憶したX座標値にセンシングピンが位置した状態からY軸方向における第1の方向に移動させ(
図1(e)を参照する。)、センシングピンと基準穴の内面とが接触したときの第1のY座標値を取得する。
【0014】
その後、主軸を回転してセンシングピンを180°回転させ、主軸をY軸方向における第2の方向に移動させ(
図1(f)を参照する。)、センシングピンと基準穴の内面とが接触したときに第2のY座標値を取得する。
【0015】
第1のY座標値および第2のY座標値を取得すると、第1のY座標値および第2のY座標値の中点の座標値を中心座標のY座標値として記憶し、このY座標値に主軸の中心が位置するように主軸を移動する(
図1(g)を参照する。)。なお、このとき、主軸を中心座標のY座標値に移動することは省略してもよい。
【0016】
従来の技術による穴中心座標の検出方法においては、このようにして基準穴の中心座標のX座標値およびY座標値が取得されることとなる。
【0017】
そして、こうして取得した基準穴の中心座標などを利用して、補正値を算出し、算出した補正値に基づいて各部材の位置決めが行われることとなる。
【0018】
しかしながら、センシングピンは、主軸において傾いて軸がぶれた状態(例えば、
図1(h)の実線で示す状態である。)で取り付けられてしまう場合があり、基準穴の中心座標から外れた初期位置(例えば、
図7(a)に示す状態である。)から検出を行うと、第1のX座標値および第2のX座標値や第1のY座標値および第2のY座標値の中点の座標値を算出したとしても、それらの中点の座標値は、基準穴の中心座標から外れてしまう恐れがあった。
【0019】
このため、上記したような従来の技術による穴中心座標の検出方法では、基準穴の中心座標を精度良く取得することが困難であり、この結果、各部材の位置決めを適正に行うことができないことが問題点として指摘されていた。
【0020】
なお、本願出願人が特許出願のときに知っている先行技術は、文献公知発明に係る発明ではないため、本願明細書に記載すべき先行技術文献情報はない。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による穴中心座標の検出方法の実施の形態の一例を説明するものとする。
【0028】
図2には、本発明による穴中心座標の検出方法により基準穴の中心座標の検出が行われる加工装置の概略構成斜視説明図が示されており、また、
図3には、
図2に示す加工装置の要部を示す概略構成説明図であり、また、
図4には、ワーク保持部の平面説明図が示されている。
【0029】
この
図2に示す加工装置10は、固定系のベース部材12と、ベース部材12の左右両端でベース部材12に直交して配設された側方部材14L、14Rと、左右2つの側方部材14L、14Rを連結する後方部材16と、両端がそれぞれ側方部材14L、14Rに支持されXYZ直交座標系におけるY軸方向に延長されて配設されたガイドレール18と、両端がそれぞれ側方部材14L、14Rに支持されガイドレール18と平行するようにして配設されたシャフト20と、ガイドレール18ならびにシャフト20のそれぞれに摺動自在に装着されてY軸方向に移動自在に支持されたキャリッジ22と、キャリッジ22においてZ軸方向に移動自在に配設された主軸24と、ワーク200を保持するとともに、ベース部材12上においてX軸方向に移動自在に配設されるワーク保持部26とを有して構成されている。
【0030】
より詳細には、ワーク保持部26は、ベース部材12上にX軸方向に延設された一対のガイドレール28に摺動自在に設けられたテーブル30と、テーブル30上に配設され、セラミックからなるワーク200を保持する回動部材32とにより構成されている。なお、加工装置10は、ワーク200から義歯を製作するために用いられるが、義歯以外の加工物を製作してもよいことはもちろんである。
【0031】
回動部材32は、略矩形形状の枠体34の枠内において、略円形形状の枠体36を備えており、枠体34はY軸周りに回動するとともに、枠体36はX軸周りに回動する構成となっている。
【0032】
具体的には、枠体34の右側部材34aおよび左側部材34bの略中心部からそれぞれ中心軸が一致するようにY軸と平行に棒状部材38−1、38−2が延設されている。
【0033】
この棒状部材38−1はモーター40と接続され、棒状部材38−2はテーブル30に固定的に配設され、主軸24に着脱可能なセンシングピン42および複数の加工工具44が抜き差し自在にセットされたツールマガジン46に回動自在に配設されている。
【0034】
これにより、枠体34は、モーター40の駆動により、棒状部材38−1、38−2の中心軸O1を中心としてY軸周で回動する構成となっている。
【0035】
なお、主軸24はセンシングピン42を取り付けることにより導通センサとなり、センシングピン42と基準穴60−1、60−2(後述する。)とが接触すると、電気的な導通
を検知するようになされている。即ち、主軸24において導通の検知がなされると、マイクロコンピューター100(後述する。)では、この検知結果に基づいて、センシングピン42と基準穴60−1、60−2(後述する。)の内面とが接触しているとの判断を行う。
【0036】
また、枠体36の後端部および前端部の略中心部からそれぞれ中心軸が一致するようにX軸と平行に棒状部材48−1、48−2が延設されている。
【0037】
棒状部材48−1は枠体34の後方部材34cを貫通してモーター50と接続され、棒状部材48−2は枠体34の前方部材34dを貫通して前方部材34において回動自在に接続されている。
【0038】
これにより、枠体36は、モーター50の駆動により棒状部材48−1、48−2の中心軸O2を中心としてX軸周りを回動する構成となっている。
【0039】
ツールマガジン46は、上面46aにおいてY軸方向に並んで、加工工具44が抜き差し可能な加工工具保持部54−1、54−2、54−3と、センシングピン42が抜き差し可能なセンシングピン保持部58とが設けられている。
【0040】
また、ツールマガジン46の上面46aの右方側の前端部および後端部の近傍において、基準穴60−1、60−2が設けられている。
【0041】
なお、この基準穴60−1、60−2は、Z軸方向に延設された円筒形状であり、この円筒形状の断面の円形状は真円となっている。
【0042】
また、基準穴60−1、60−2が設けられたツールマガジン46は、金属材料により形成されている。
【0043】
主軸24は、キャリッジ22においてZ軸方向に移動自在に配設されるとともに、キャリッジ22においてZ軸周りに360°回転可能な構成となっている。
【0044】
また、主軸24は、中心に加工工具44やセンシングピン42が取り付けられるようになされている。
【0045】
具体的には、主軸24は、その中心に加工工具44およびセンシングピン42を把持することが可能なチャック(図示せず。)が設けられている。
【0046】
そして、マイクロコンピューター100(後述する。)の制御により、ツールマガジン46の保持されている加工工具44またはセンシングピン42をチャックに把持することが可能である。
【0047】
また、当該チャックに把持された加工工具44は、マイクロコンピューター100(後述する。)の制御により、モーター(図示せず。)によって主軸24の中心軸を中心として回転される。
【0048】
なお、加工装置10においては、キャリッジ22をY軸方向に移動するモーター(図示せず。)、テーブル30をX軸方向に移動するモーター(図示せず。)、主軸24をZ軸方向に移動するモーター(図示せず。)、チャック(図示せず。)に把持された加工工具44を回転するモーター(図示せず。)、モーター40およびモーター50の駆動を含む全体の動作は、加工装置10に内蔵されたマイクロコンピューター100によって制御されている。
【0049】
以上の構成において、加工装置10によりワーク200に対して加工処理を行う際には、作業者が、ワーク保持部26の枠体36にワーク200を保持させ、マイクロコンピューター100に加工データを入力する。
【0050】
その後、加工装置10において、作業者によって図示しない操作子により加工処理の開始を指示する操作がなされると、まず、テーブル30、キャリッジ22および主軸24を動作して、主軸24に加工工具保持部54−1、54−2、54−3のいずれかに保持された加工工具44を取り付ける。
【0051】
そして、入力された加工データに基づいて、テーブル30をX軸方向で移動するとともに、キャリッジ22をY軸方向で移動し、さらに、主軸24をZ軸方向で移動する。
【0052】
これにより、回動部材32の枠体36に保持されたワーク200と主軸24に取り付けられた加工工具44との相対的な位置関係を3次元で変化させてワーク200に対する加工工具44による加工を行う。
【0053】
さらに、入力された加工データに基づいて、モーター40により枠体34をY軸周りに回動するとともに、モーター50により枠体36をX軸周りに回動する。
【0054】
これにより、枠体36に保持されたワーク200に対して、主軸24に取り付けられた加工工具44を所定の角度で当接しながら加工を行う。
【0055】
このようにして、加工装置10においては、マイクロコンピューター100の制御により加工データに基づいて、ワーク200と加工工具44との相対的な位置関係を3次元で変化させるとともに、ワーク200に対して加工工具44が当接する角度を調整しながら、ワーク200に対して加工工具44により加工処理が行われることとなる。
【0056】
次に、加工装置10において、工場出荷時や部品交換時などの所定のタイミングでなされる位置決め処理の際に、基準穴の中心座標を検出する穴中心座標の検出処理について説明する。
【0057】
まず、作業者によって、図示しない操作子により位置決め処理を実行する操作がなされると、マイクロコンピューター100において各部材の位置決めを行うために必要となる座標値の取得が開始される。
【0058】
ここで、
図5のフローチャートには、位置決め処理において必要となる各種の座標値のうち、基準穴の中心座標を検出するための詳細な処理内容が示されている。
【0059】
この
図5に示す穴中心座標の検出処理では、まず、テーブル30、キャリッジ22および主軸24を動作して、主軸24にセンシングピン保持部58に保持されたセンシングピン42を取り付ける(ステップS502)。
【0060】
このとき、主軸24に加工工具44が取り付けられているときには、加工工具44を加工工具保持部54−1、54−2、54−3のいずれかに保持させて、主軸24から加工工具44を取り外した後に、主軸24にセンシングピン42を取り付けることとなる。
【0061】
次に、基準穴60−1、60−2のうちの一方を、穴中心座標の検出処理の対象とする基準穴(以下、「対象基準穴」と称する。)とし、この対象基準穴の中心座標として設定された位置に、主軸24の中心が位置するように主軸24およびテーブル30を移動し、その後、主軸24を下降してセンシングピン42を対象基準穴に挿入する(ステップS504、
図7(a)を参照する。)。
【0062】
なお、対象基準穴の中心座標として設定された位置は、加工装置10に接続されて加工装置10の外部に設けられたパーソナルコンピューター(図示せず。)から入力される。
【0063】
また、対象基準穴は、例えば、パーソナルコンピューター(図示せず。)から適宜に基準穴60−1、60−2のうちの一方を選択する。
【0064】
以下の説明において、ステップS504の処理において対象基準穴に挿入されたセンシングピン42の位置を、この対象基準穴におけるセンシングピン42の「初期位置」と称することとする。
【0065】
その後、センシングピン42が対象基準穴の初期位置に挿入された状態から、対象基準穴において主軸24をX軸方向に沿って後方側に移動し(
図7(b)を参照する。)、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触したときの第1のX座標値を取得する(ステップS506)。
【0066】
即ち、ステップS506の処理においては、まず、センシングピン42が初期位置に位置する状態から、所定の速度で主軸24を対象基準穴において後方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って前方側に移動し、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させる。
【0067】
次に、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触し導通が検知されると、主軸24を上記所定の速度よりも遅い速度で対象基準穴において前方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って後方側に移動させる。
【0068】
そして、主軸24を対象基準穴において前方側に移動し続け、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れて導通が検知されなくなったときのY座標値を取得する。
【0069】
こうしてX座標値を取得すると、テーブル30を移動して、センシングピン42を初期位置に移動し、同様の工程を4回繰り返し、合計5つのX座標値を取得する。
【0070】
そして、5つのX座標値のうち、X軸方向において初期位置のX座標値に最も近いX座標値を第1のX座標値として取得する。
【0071】
つまり、ステップS506の処理においては、センシングピン42が初期位置に位置する状態からテーブル30を前方側に移動して、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させ、その後、テーブル30を後方側に移動し、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れたときのX座標値を取得するという工程を5回繰り返して5つのX座標値を取得する。そして、取得した5つのX座標値のうち、X軸方向において初期位置のX座標値に最も近いX座標値を第1のX座標値として取得する。
【0072】
第1のX座標値を取得すると、センシングピン42を初期位置に移動し、その後、主軸24を180°回転する(ステップS508)。
【0073】
次に、対象基準穴において主軸24をX軸方向に沿って前方側に移動し(
図7(c)を参照する。)、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触したときの第2のX座標値を取得する(ステップS510)。
【0074】
即ち、ステップS510の処理においては、まず、センシングピン42が初期位置において180°回転した状態から、所定の速度で主軸24を対象基準穴において前方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って後方側に移動し、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させる。
【0075】
次に、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触して導通が検知されると、主軸24を上記所定の速度よりも遅い速度で対象基準穴において後方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って前方側に移動させる。
【0076】
そして、主軸24を対象基準穴において後方側に移動し続け、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れて導通が検知されなくなったときのX座標値を取得する。
【0077】
こうしてX座標値を取得すると、テーブル30を移動して、センシングピン42を初期位置に移動し、同様の工程を4回繰り返し、合計5つのX座標値を取得する。
【0078】
そして、5つのX座標値のうち、X軸方向において初期位置のX座標値に最も近いX座標値を第2のX座標値として取得する。
【0079】
つまり、ステップS510の処理においては、センシングピン42が初期位置において180°回転した状態からテーブル30を後方側に移動して、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させ、その後、テーブル30を前方側に移動し、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れたときのX座標値を取得するという工程を5回繰り返して5つのX座標値を取得する。そして、取得した5つのX座標値のうち、X軸方向において初期位置のX座標値に最も近いX座標値を第2のX座標値として取得する。
【0080】
次に、ステップS506の処理において取得した第1のX座標値と、ステップS510の処理において取得した第2のX座標値との中点の座標値を算出し、算出した中点の座標値を対象基準穴の中心座標の仮のX座標値として記憶する(ステップS512)。
【0081】
そして、この仮のX座標値に基づいて、対象基準穴において主軸24を移動する(ステップS514、
図7(d)を参照する。)。
【0082】
これにより、対象基準穴に挿入されたセンシングピン42は、X軸方向において対象基準穴の略中心位置に位置することとなる。
【0083】
なお、対象基準穴の中心座標の仮のX座標値は、センシングピン42の軸ぶれがある場合には、実際の対象基準穴の中心座標のX座標値からわずかに外れてしまっていることになる。
【0084】
具体的には、例えば、初期位置に位置するときのセンシングピン42のY座標値が、対象基準穴の中心のY座標値から1mmずれ、センシングピン42の軸ぶれが0.07mmであり、このセンシングピン42がY軸方向に軸ぶれしているとすると、CADを用いて算出した場合、この対象基準穴の中心座標の仮のX座標値は、実際の対象基準穴の中心座標のX座標値から0.025mmの誤差が生じることとなる(
図8(a)を参照する。)。
【0085】
また、以下の説明においては、ステップS514の処理において移動した主軸24によって変化した対象基準穴におけるセンシングピン42の位置を、センシングピン42の「第1の位置」と称することとする。
【0086】
次に、センシングピン42が第1の位置に位置する状態から、対象基準穴において主軸24をY軸方向に沿って左方側に移動し(
図7(e)を参照する。)、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触したときの第1のY座標値を取得する(ステップS516)。
【0087】
即ち、ステップS516の処理においては、まず、センシングピン42が第1の位置に位置する状態から、所定の速度で主軸24を対象基準穴において左方側に移動、つまり、キャリッジ22をY軸方向に沿って左方側に移動し、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させる。
【0088】
次に、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触して導通が検知されると、主軸24を上記所定の速度よりも遅い速度で対象基準穴において右方側に移動、つまり、キャリッジ24をY軸方向に沿って右方側に移動させる。
【0089】
そして、主軸24を対象基準穴において右方側に移動し続け、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れて導通が検知されなくなったときのY座標値を取得する。
【0090】
こうしてY座標値を取得すると、キャリッジ22を移動して、センシングピン42を第1の位置に移動し、同様の工程を4回繰り返し、合計5つのY座標値を取得する。
【0091】
そして、5つのY座標値のうち、Y軸方向において第1の位置のY座標値に最も近いY座標値を第1のY座標値として取得する。
【0092】
つまり、ステップS516の処理においては、センシングピン42が第1の位置に位置する状態からキャリッジ22を左方側に移動して、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させ、その後、キャリッジ22を右方側に移動し、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れたときのY座標値を取得するという工程を5回繰り返して5つのY座標値を取得する。そして、取得した5つのY座標値のうち、Y軸方向において第1の位置のY座標値に最も近いY座標値を第1のY座標値として取得する。
【0093】
第1のY座標値を取得すると、センシングピン42を第1の位置に移動した後、主軸24を180°回転する(ステップS518)。
【0094】
次に、対象基準穴において主軸24をY軸方向に沿って右方側に移動し(
図7(f)を参照する。)、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触したときの第2のY座標値を取得する(ステップS520)。
【0095】
即ち、ステップS520の処理においては、まず、センシングピン42が第1の位置において180°回転した状態から、所定の速度で主軸24を対象基準穴において右方側に移動、つまり、キャリッジ22をY軸方向に沿って右方側に移動し、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させる。
【0096】
次に、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触して導通が検知されると、主軸24を上記所定の速度よりも遅い速度で対象基準穴において左方側に移動、つまり、キャリッジ22をY軸方向に沿って左方側に移動させる。
【0097】
そして、主軸24を対象基準穴において左方側に移動し続け、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れて導通が検知されなくなったときのY座標値を取得する。
【0098】
こうしてY座標値を取得すると、キャリッジ22を移動して、センシングピン42を第1の位置に移動し、同様の工程を4回繰り返し、合計5つのY座標値を取得する。
【0099】
そして、5つのY座標値のうち、Y軸方向において第1の位置のY座標値に最も近いY座標値を第2のY座標値として取得する。
【0100】
つまり、ステップS520の処理においては、センシングピン42が第1の位置において180°回転した状態からキャリッジ22を右方側に移動して、センシングピン42を基準対象穴の内面に接触させ、その後、キャリッジ22を左方側に移動し、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れたときのY座標値を取得するという工程を5回繰り返して5つのY座標値を取得する。そして、取得した5つのY座標値のうち、Y軸方向において第1の位置のY座標値に最も近いY座標値を第2のY座標値として取得する。
【0101】
次に、ステップS520の処理において取得した第1のY座標値と、ステップS524の処理において取得した第2のY座標値との中点の座標値を算出し、算出した中点の座標値を対象基準穴の中心座標のY座標値として記憶する(ステップS522)。
【0102】
そして、このY座標値に基づいて、対象基準穴において主軸24を移動する(ステップS524、
図7(g)を参照する。)。
【0103】
これにより、対象基準穴に挿入されたセンシングピン42は、Y軸方向において対象基準穴の中心位置に位置することになる。
【0104】
なお、記憶した対象基準穴の中心座標のY座標値は、センシングピン42の軸ぶれの影響を受けることなく、実際の対象基準穴の中心座標のY座標値と一致したものとなる。
【0105】
具体的には、上記したステップS514の処理でセンシングピン42がX軸方向において対象基準穴における略中心位置に移動しているので、このときの誤差は0.025mmとなり、0.07mmのセンシングピン42の軸ぶれを考慮しても、CADを用いて算出した場合、この対象基準穴の中心座標のY座標値の誤差(実際の対象基準穴の中心座標のY座標値に対する誤差である。)は0.001mm程度となり、こうした誤差は無視できる程度に小さいものとなる(
図8(b)を参照する。)。
【0106】
また、以下の説明においては、ステップS524の処理において移動した主軸24によって変化した対象基準穴におけるセンシングピン42の位置を、センシングピン42に「第2の位置」と称することとする。
【0107】
次に、センシングピン42が第2の位置に位置する状態から、対象基準穴において主軸24をX軸方向に沿って後方側に移動し(
図7(h)を参照する。)、センシングピン42と対象基準穴の内側が接触したときの第3のX座標値を取得する(ステップS526)。
【0108】
即ち、ステップS526の処理においては、まず、センシングピン42が第2の位置に位置する状態から、所定の速度で主軸24を対象基準穴において後方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って前方側に移動し、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させる。
【0109】
次に、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触して導通が検知されると、主軸24を上記所定の速度よりも遅い速度で対象基準穴において前方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って後方側に移動させる。
【0110】
そして、主軸24を対象基準穴において前方側に移動し続け、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れて導通が検知されなくなったときのX座標値を取得する。
【0111】
こうしてX座標値を取得すると、テーブル30を移動して、センシングピン42を第2の位置に移動し、同様の工程を4回繰り返し、合計5つのX座標値を取得する。
【0112】
そして、5つのX座標値のうち、X軸方向において第2の位置のX座標値に最も近いX座標値を第3のX座標値として取得する。
【0113】
つまり、ステップS526の処理においては、センシングピン42が第2の位置に位置した状態からテーブル30を前方側に移動して、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させ、その後、テーブル30を後方側に移動し、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れたときのX座標値を取得するという工程を5回繰り返して5つのX座標値を取得する。そして、取得した5つのX座標値のうち、X軸方向において第2の位置のX座標値に最も近いX座標値を第3のX座標値として取得する。
【0114】
第3のY座標値を取得すると、センシングピン42を第2の位置の移動した後、主軸24を180°回転する(ステップS528)。
【0115】
次に、対象基準穴において主軸24をX軸方向に沿って前方側に移動し(
図7(i)を参照する。)、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触したときの第4のX座標値を取得する(ステップS530)。
【0116】
即ち、ステップS530の処理においては、まず、センシングピン42が第2の位置において180°回転した状態から、所定の速度で主軸24を対象基準穴において前方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って後方側に移動し、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させる。
【0117】
次に、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触して導通が検知されると、主軸24を上記所定の速度よりも遅い速度で対象基準穴において後方側に移動、つまり、テーブル30をX軸方向に沿って前方側に移動させる。
【0118】
そして、主軸24を対象基準穴において後方側に移動し続け、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れて導通が検知されなくなったときのX座標値を取得する。
【0119】
こうしてX座標値を取得すると、テーブル30を移動して、センシングピン42を第2の位置に移動し、同様の工程を4回繰り返し、合計5つのX座標値を取得する。
【0120】
そして、5つのX座標値のうち、X軸方向において第2の位置のX座標値に最も近いX座標値を第4のX座標値として取得する。
【0121】
つまり、ステップS530の処理においては、センシングピン42が第2の位置において180°回転した状態からテーブル30を後方側に移動して、センシングピン42を対象基準穴の内面に接触させ、その後、テーブル30を前方側に移動し、センシングピン42が対象基準穴の内面から離れたときのX座標値を取得するという工程を5回繰り返して5つのX座標値を取得する。そして、取得した5つのX座標値のうち、X軸方向において第2の位置のX座標値に最も近いX座標値を第4のX座標値として取得する。
【0122】
次に、ステップS526の処理において取得した第3のX座標値と、ステップS530の処理において取得した第4のX座標値との中点の座標値を算出し、算出した中点の座標値を対象基準穴の中心座標のX座標値として記憶する(ステップS532)。
【0123】
そして、このX座標値に基づいて、対象基準穴において主軸24を移動する(ステップS534、
図7(j)を参照する。)。
【0124】
これにより、対象基準穴に挿入されたセンシングピン42は、X軸方向において対象基準穴の中心位置に位置することになる。なお、このステップS534の処理については、省略するようにしてもよい。
【0125】
こうして、ステップS522の処理で取得した中心座標のY座標値およびステップS536の処理で取得したX座標値によって、対象基準穴の中心座標を取得することができる。
【0126】
そして、ステップS534の処理が終了すると、この穴中心座標の検出処理を終了する。
【0127】
このようにして取得された基準穴の中心座標や他の処理により取得した各座標値は、パーソナルコンピューター(図示せず。)に出力され、当該パーソナルコンピューターにおいて補正値が計算される。
【0128】
計算された補正値は、パーソナルコンピューター(図示せず。)からマイクロコンピューター100に出力され、マイクロコンピューター100では、この補正値に基づいて各部材の位置決めがなされることとなる。
【0129】
以上において説明したように、本発明による穴中心座標の検出方法により基準穴の中心座標を取得する加工装置10においては、センシングピン42を対象基準穴に挿入した後に、まず、センシングピン42を予め設定された対象基準穴の中心位置に位置させる。次に、センシングピン42を対象基準穴においてX軸方向に移動し、対象基準穴の中心座標の仮のX座標値を取得し、その後、センシングピン42を対象基準穴においてY軸方向に移動し、対象基準穴の中心座標のY座標値を取得する。そして、対象基準穴の中心座標のY座標値を取得した後に、センシングピン42を基準対象穴においてX軸方向に移動し、対象基準穴の中心座標のX座標値を取得するようにした。
【0130】
このため、加工装置10においては、従来の技術による穴中心座標の検出方法により取得した基準穴の中心座標と比較して、より正確な基準穴の中心座標を取得することができるようになる。
【0131】
これにより、加工装置10においては、位置決めを行う際に、各部材を適正な位置に位置決めすることができるようになる。
【0132】
なお、上記した実施の形態は、以下の(1)乃至(10)に示すように変形するようにしてもよい。
【0133】
(1)上記した実施の形態においては、ツールマガジン46には、3本の加工工具44と1本のセンシングピン42とが配設されるようにしたが、ツールマガジン46には、加工工具44が2本だけ配設されるようにしてもよいし、4本以上配設するようにしてもよい。
【0134】
(2)上記した実施の形態においては、ツールマガジン46に2つの基準穴60−1、60−2を設けるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、各部材の位置決めする際に用いる補正値を算出するために必要となる座標値を取得できる部材および箇所に適宜に設けるようにすればよく、その数は、1つでもよいし、3つ以上であってもよい。
【0135】
(3)上記した実施の形態においては、特に記載しなかったが、本発明による加工装置10としては、例えば、ワーク200としてデンタル用セラミックを用い、デンタル用セラミックを所望の形状に成形するようにした義歯加工装置として用いることができる。
【0136】
(4)上記した実施の形態においては、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向で所定の移動部材が移動するとともに、X軸周りおよびY軸周りで回動する5軸で変位する機構を備えた加工装置における穴中心座標の検出方法について説明したが、これに限られるものではないことは勿論であり、例えば、回転軸を備えていない3次元加工装置や回転軸を持つ種々の3次元加工装置において本発明による穴中心座標の検出方法を用いるようにしてもよい。または、3次元スキャナーなどの各部材の位置決めが必要な装置において本発明による穴中心座標の検出方法を用いるようにしてもよい。
【0137】
(5)上記した実施の形態においては、第1、2、3、4のX座標値および第1、2のY座標値を取得する際に、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触する座標値を5つ取得するようにしているが、これに限られるものではないことは勿論であり、センシングピン42と対象基準穴の内面とが接触する座標値を1、2、3あるいは4つ取得するようにしてもよいし、6つ以上取得するようにしてもよい。
【0138】
(6)上記した実施の形態においては、第1、2、3、4のX座標値を取得する際に、5つのX座標値を取得し、取得した5つのX座標値のうち、X軸方向において所定の位置のX座標値に最も近いX座標値を取得するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0139】
即ち、取得した5つのX座標値の平均値を算出し、この平均値をX座標値として取得するようにしてもよい。あるいは、取得した5つのX座標値のうち、X軸方向において所定の位置のX座標値より最も遠いX座標値を取得するようにしてもよい。
【0140】
また、上記した実施の形態においては、第1、2のY座標値を取得する際に、5つのY座標値を取得し、取得した5つのY座標値のうち、Y軸方向において所定の位置のY座標値に最も近いY座標値を取得するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0141】
即ち、取得した5つのY座標値の平均値を算出し、この平均値をY座標値として取得するようにしてもよい。あるいは、取得した5つのY座標値のうち、Y軸方向において所定の位置のY座標値より最も遠いY座標値を取得するようにしてもよい。
【0142】
(7)上記した実施の形態においては、ツールマガジン46においては、加工工具44を保持する加工工具保持部54−1、54−2、54−3と、センシングピン42を保持するセンシングピン保持部58とを備えるようにしたが、これに限られるものではないことは勿論であり、加工工具保持部およびセンシングピン保持部に換えて、加工工具44およびセンシングピン42のどちらでも保持することが可能なツール保持部を複数設けるようにしてもよい。
【0143】
(8)上記した実施の形態においては、センシングピン42を対象基準穴に挿入後、センシングピン42をX軸方向に移動して対象基準穴の中心座標の仮のX座標値を取得し、次に、センシングピン42をY軸方向に移動して対象基準穴の中心座標のY座標値を取得し、その後、センシングピン42を再度X軸方向に移動して対象基準穴の中心座標のX座標値を取得するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0144】
即ち、センシングピン42を対象基準穴に挿入後、センシングピン42をY軸方向に移動して対象基準穴の中心座標の仮のY座標値を取得し、次に、センシングピン42をX軸方向に移動して対象基準穴の中心座標のX座標値を取得し、その後、センシングピン42を再度Y軸方向に移動して対象基準穴の中心座標のY座標値を取得するようにしてもよい。
【0145】
(9)上記した実施の形態においては、ステップS506の処理、ステップS508の処理およびステップS510の処理において、センシングピン42を初期位置に移動した後に、所定の処理を行うようにしているが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0146】
即ち、センシングピン42は、初期位置まで移動させず、センシングピン42が対象基準穴の内面に接触しない位置であれば、どこに移動してもよい。
【0147】
また、ステップS516の処理、ステップS518の処理およびステップS520の処理において、センシングピン42を第1の位置に移動した後に、所定の処理を行うようにしているが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0148】
即ち、センシングピン42は、第1の位置まで移動させず、センシングピン42が基準対象穴の内面に接触しない位置であれば、どこに移動してもよい。
【0149】
さらに、ステップS526の処理、ステップS528の処理およびステップS530の処理において、センシングピン42を第2の位置に移動した後に、所定の処理を行うようにしているが、これに限られるものではないことは勿論である。
【0150】
即ち、センシングピン42は、第2の位置まで移動させず、センシングピン42が基準対象穴の内面に接触しない位置であれば、どこに移動してもよい。
【0151】
(10)上記した実施の形態ならびに上記した(1)乃至(9)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。