(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182366
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】掘削方法、地下構造物構築方法、壁体部材、掘削用壁体
(51)【国際特許分類】
E21D 1/08 20060101AFI20170807BHJP
E21D 5/04 20060101ALI20170807BHJP
E21D 5/10 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
E21D1/08
E21D5/04
E21D5/10
【請求項の数】15
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-127701(P2013-127701)
(22)【出願日】2013年6月18日
(65)【公開番号】特開2015-1140(P2015-1140A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2015年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】安永 正道
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−081421(JP,A)
【文献】
特開平02−269225(JP,A)
【文献】
特開2001−164578(JP,A)
【文献】
特開2004−332202(JP,A)
【文献】
特開平10−299377(JP,A)
【文献】
実開昭61−116898(JP,U)
【文献】
特開2000−130065(JP,A)
【文献】
特開平11−036338(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 1/00
E21D 1/08
E21D 1/10
E21D 5/04
E21D 5/10
E02D 23/00
E02D 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、
前記止水壁の内側の地盤の掘削に応じて、壁体部材を筒状に組み立てた掘削用壁体を前記止水壁の内側で下降させる工程と、
を具備し、
前記壁体部材の外側面に、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする掘削方法。
【請求項2】
前記止水壁の内側の地盤の掘削と、前記掘削用壁体の前記止水壁の内側での下降とを交互に行うことを特徴とする請求項1記載の掘削方法。
【請求項3】
前記壁体部材の外側面にスペーサーが設けられることを特徴とする請求項1または請求項2記載の掘削方法。
【請求項4】
先に、少なくとも前記掘削用壁体の周方向に沿った前記止水壁内側の部分で前記地盤の掘削を行い、その後、前記掘削用壁体の下降を行うことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の掘削方法。
【請求項5】
前記掘削用壁体は、ジャッキを用いて圧入することで下降させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の掘削方法。
【請求項6】
前記ジャッキの圧入時の反力は前記止水壁に負担させることを特徴とする請求項5記載の掘削方法。
【請求項7】
前記掘削用壁体は、重量物を載せて圧入することで下降させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の掘削方法。
【請求項8】
不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、
前記止水壁の内側の地盤の掘削と、壁体部材を下側に継ぎ足して筒状に組み立てることによる前記止水壁の内側での掘削用壁体の構築と、を交互に行う工程と、
を具備し、
前記掘削用壁体の上端部に、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられることを特徴とする掘削方法。
【請求項9】
不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、
前記止水壁の内側の地盤の掘削に応じて、壁体部材を筒状に組み立てた掘削用壁体を前記止水壁の内側で下降させる工程と、
掘削箇所に構造物を構築する工程と、
前記構造物の周囲を埋め戻し、前記掘削用壁体を撤去する工程と、
を具備し、
前記壁体部材の外側面に、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする地下構造物構築方法。
【請求項10】
前記止水壁の内側の地盤の掘削と、前記掘削用壁体の前記止水壁の内側での下降とを交互に行うことを特徴とする請求項9記載の地下構造物構築方法。
【請求項11】
不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、
前記止水壁の内側の地盤の掘削と、壁体部材を下側に継ぎ足して筒状に組み立てることによる前記止水壁の内側での掘削用壁体の構築と、を交互に行う工程と、
掘削箇所に構造物を構築する工程と、
前記構造物の周囲を埋め戻し、前記掘削用壁体を撤去する工程と、
を具備し、
前記掘削用壁体の上端部に、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられることを特徴とする地下構造物構築方法。
【請求項12】
地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される筒状の掘削用壁体を組み立てるための壁体部材であって、
前記掘削用壁体は、前記止水壁の内側で下降させるものであり、
前記壁体部材の外側面にスペーサー、および、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする壁体部材。
【請求項13】
地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される筒状の掘削用壁体を組み立てるための壁体部材であって、
前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられるとともに、
外側面にスペーサーが設けられることを特徴とする壁体部材。
【請求項14】
地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される、壁体部材を筒状に組み立てて形成される掘削用壁体であって、
前記掘削用壁体は、前記止水壁の内側で下降させるものであり、
前記壁体部材の外側面にスペーサー、および、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする掘削用壁体。
【請求項15】
地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される、壁体部材を筒状に組み立てて形成される掘削用壁体であって、
前記掘削用壁体の上端部に、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられるとともに、
前記壁体部材の外側面にスペーサーが設けられることを特徴とする掘削用壁体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤を掘削する掘削方法、地盤を掘削しその掘削箇所に構造物を構築する地下構造物構築方法、およびこれらに用いる掘削用壁体と掘削用壁体を形成するための壁体部材に関する。
【背景技術】
【0002】
躯体基礎等の構造物の構築のため、透水性地盤を掘削する工事を行うことがある。このようなケースでは、掘削箇所の周囲で仮設の鋼矢板を地盤の不透水層まで打設し、これを止水壁及び山留めとして利用し内側を掘削することが多い。
【0003】
通常の方法としては、鋼矢板の内側を所定深さまで掘削するごとに、鉄筋コンクリート製などのリング状のかまち梁を掘削箇所側方の鋼矢板の内周に沿って支保工材として設置し、これを繰り返して掘削を行う方法がある。
【0004】
掘削を完了すると、掘削箇所に構造物を構築し、構造物の周囲を埋め戻しつつ、支保工材を下段から順に撤去してゆく。なお、支保工材としては、鋼矢板の内側から周囲の地盤へアースアンカーを設け、鋼矢板の内側にアースアンカー用の受け梁を設置する場合もある。
【0005】
同じく周囲の地盤を支持しつつ内側の掘削を行う方法として、近年では、
図12(a)に示すように掘削用壁体100を地盤1に圧入しながら、内側を水中掘削する方法なども知られている(特許文献1〜4参照)。この掘削用壁体100は、鋼製又は鉄筋コンクリート製のセグメントである壁体部材101を筒状に組み立てて形成したものであり、下端部には刃口金物102が設けられる。
【0006】
このようなケースでは、掘削を完了すると、
図12(b)に示すように掘削底面部に水中コンクリート103を打設し、その後掘削用壁体100の内側を排水して構造物を構築し、周囲の埋戻しを行う。水中コンクリート103の打設は、排水時の掘削用壁体100の内側への地下水浸入防止と周辺地盤安定のために行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3453664号
【特許文献2】特許第2681741号
【特許文献3】特開2004−332202号公報
【特許文献4】特開2006−125055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鋼矢板の内側で掘削を行う一般的な方法では、支保工材の設置および撤去作業が煩雑であり手間がかかるという問題がある。また安全性も低く、地盤の掘削、支保工材の設置、構造物の構築、支保工材の撤去、地盤の埋戻しと工種が入れ替わっていくので作業効率も悪い。
【0009】
さらに、支保工材として鉄筋コンクリート製のかまち梁を用いた場合には、かまち梁の強度が発現するまで次の掘削にかかれないことから、全体工期も長くなる。また撤去も困難であり、かまち梁、鋼矢板ともに残置することが多く、資源の無駄となる。また、かまち梁が大型になることから、構造物の構築時にかまち梁と干渉しないよう、構造物の大きさに対し十分余裕をもった範囲を鋼矢板で囲んで内側を掘削する必要がある。結果的に鋼矢板の数量増加、掘削土量および埋戻土量の増加になる。かまち梁としてはH形鋼なども用いられるが、この場合も同様の問題がある。
【0010】
支保工材としてアースアンカー等を用いる場合も、アンカー設置のためボーリング機械を鋼矢板の内側に入れる必要があり、鋼矢板の内側空間が大きくないと作業が困難になる。また掘削機やボーリング機械などの出し入れが頻繁におきることになり作業性も悪い。さらに、アンカーの緊張力管理が難しく、緊張力を入れすぎると鋼矢板へ作用する外側方向の力が大きくなって鋼矢板に目開きが生じ、漏水が発生する恐れもある。また、構造物の構築後に撤去するため高価な除去式アンカーとする必要があり、コストが増加する。さらに、掘削箇所が敷地境界に近い場合には、アンカーの端部が敷地外に出るため採用できない場合もある。
【0011】
一方、前記したような掘削用壁体を用いる方法では、支保工材を省略可能であるが、地盤の水中掘削を行うことになるので作業が煩雑である。また掘削用壁体の刃口下を余掘りした後、圧入するので周囲地盤に変状を与え易い。また、水中掘削になるため掘削底面部に弱層および不陸が残り易く、排水時のアップリフトに対応するため水中コンクリートも3〜4mと厚くしなければならずコストも大きい。さらに、掘削用壁体の外側には地下水を含んだ透水性地盤があるため、地下水の流入等の恐れから埋戻し作業と並行して掘削用壁体を撤去することが難しい。また壁体下端部と水中コンクリートが接着するので埋戻し完了後の引き上げも困難である。結果として、埋め殺しとなるケースが多く無駄が大きくなる。また掘削土は水を含んでおり、乾燥させないと建設汚泥となり、工事費もかかる。
【0012】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、効率よく地盤の掘削作業を行うことが可能な掘削方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述した目的を達成するための第1の発明は、不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、前記止水壁の内側の地盤の掘削に応じて、壁体部材を筒状に組み立てた掘削用壁体を前記止水壁の内側で下降させる工程と、を具備
し、前記壁体部材の外側面に、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする掘削方法である。
【0014】
本発明では、止水壁を構築した後、その内側で地盤を掘削し、壁体部材を筒状に組み立てた掘削用壁体を下降させるので、気中掘削となり作業が容易で前記したような問題もない。さらに、止水壁に加わる周囲地盤の圧力(土圧、水圧)は掘削用壁体によって最終的に支持できるので、別途止水壁に補強材を設けたりする必要がなく作業効率も良い。また、掘削用壁体は止水壁の内側にあるので、撤去に際し地下水の影響がなく、構造物の構築後や埋戻し後に容易に撤去できる。掘削用壁体を撤去して回収した壁体部材は他工事に転用することが可能であり、コスト面でも優れている。さらに、掘削用壁体は筒状に形成されるので薄厚でも強度が確保でき、また止水壁に沿った形状とできるから、かまち梁などに比べ止水壁の内側空間に占めるスペースが小さく、構造物の構築時に干渉する恐れが小さい。その結果、止水壁の内側空間の大きさを構造物の大きさに近づけることができ、止水壁の構築に係るコストや、地盤の掘削土量および埋戻土量などを最小限にできる。
また、壁体部材に、掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることにより、掘削用壁体の下降幅を制御して過沈下を防ぐことが可能である。
【0015】
前記止水壁の内側の地盤の掘削と、前記掘削用壁体の前記止水壁の内側での下降とを交互に行うことが望ましい。
こうして順序立てて掘削を行うことで、掘削作業が容易にできる。
【0016】
前記壁体部材の外側面にスペーサーが設けられることが望ましい。
これにより止水壁の変形を小さくすることが容易であり、掘削用壁体を止水壁に沿って正確に下降させることができる。また、スペーサーは、止水壁と当接することにより周囲地盤からの圧力を掘削用壁体に伝達する役割も有する。
【0018】
先に、少なくとも前記掘削用壁体の周方向に沿った前記止水壁内側の部分で前記地盤の掘削を行い、その後、前記掘削用壁体の下降を行うことが望ましい。
これにより、掘削用壁体の下降時に加える力が小さくて済み、掘削用壁体の水平方向の姿勢を保つことも容易である。
【0019】
前記掘削用壁体は、ジャッキを用いて圧入することで下降させることが望ましい。また、圧入時の反力は前記止水壁に負担させることが望ましい。
これにより掘削用壁体が容易に下降でき、またジャッキの操作も地上でできるので作業性も高い。
【0020】
また、前記掘削用壁体は、重量物を載せて圧入することで下降させることも望ましい。
これによっても上記と同様の効果が得られるので好ましい。
【0021】
第2の発明は、不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、前記止水壁の内側の地盤の掘削と、壁体部材を下側に継ぎ足して筒状に組み立てることによる前記止水壁の内側での掘削用壁体の構築と、を交互に行う工程と、を具備
し、前記掘削用壁体の上端部に、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられることを特徴とする掘削方法である。
【0022】
これによっても、地盤の掘削作業や掘削用壁体の撤去が容易になるなど前記と同様の効果が得られる。また、掘削用壁体も簡易な構成とでき、掘削用壁体を下降させるためのジャッキ作業なども不要になる。
【0023】
第3の発明は、不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、前記止水壁の内側の地盤の掘削に応じて、壁体部材を筒状に組み立てた掘削用壁体を前記止水壁の内側で下降させる工程と、掘削箇所に構造物を構築する工程と、前記構造物の周囲を埋め戻し、前記掘削用壁体を撤去する工程と、を具備
し、前記壁体部材の外側面に、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする地下構造物構築方法である。
また、前記止水壁の内側の地盤の掘削と、前記掘削用壁体の前記止水壁の内側での下降とを交互に行うことが望ましい。
【0024】
第4の発明は、不透水層に達する筒状の止水壁を地盤に構築する工程と、前記止水壁の内側の地盤の掘削と、壁体部材を下側に継ぎ足して筒状に組み立てることによる前記止水壁の内側での掘削用壁体の構築と、を交互に行う工程と、掘削箇所に構造物を構築する工程と、前記構造物の周囲を埋め戻し、前記掘削用壁体を撤去する工程と、を具備
し、前記掘削用壁体の上端部に、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられることを特徴とする地下構造物構築方法である。
【0025】
第5の発明は、地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される筒状の掘削用壁体を組み立てるための壁体部材であって、
前記掘削用壁体は、前記止水壁の内側で下降させるものであり、前記壁体部材の外側面にスペーサー
、および、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする壁体部材である
。
第6の発明は、地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される筒状の掘削用壁体を組み立てるための壁体部材であって、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられるとともに、外側面にスペーサーが設けられることを特徴とする壁体部材である。
【0026】
第
7の発明は、地盤に地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される、壁体部材を筒状に組み立てて形成される掘削用壁体であって、
前記掘削用壁体は、前記止水壁の内側で下降させるものであり、前記壁体部材の外側面にスペーサー
、および、前記掘削用壁体の下降時に前記止水壁と平面において干渉するストッパーが設けられることを特徴とする掘削用壁体である。
第8の発明は、地盤に構築された不透水層に達する筒状の止水壁の内側を掘削する際に前記止水壁の内側に配置される、壁体部材を筒状に組み立てて形成される掘削用壁体であって、前記掘削用壁体の上端部に、前記止水壁の上端部に取付けを行うための取付部が設けられるとともに、前記壁体部材の外側面にスペーサーが設けられることを特徴とする掘削用壁体である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、効率よく地盤の掘削作業を行うことが可能な掘削方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図4】掘削用壁体20を用いた地盤1の掘削を示す図
【
図5】掘削用壁体20を用いた地盤1の掘削を示す図
【
図7】掘削用壁体20を用いた地盤1の掘削を示す図
【
図10】掘削用壁体20を用いた地盤1の掘削を示す図
【
図11】掘削用壁体20を用いた地盤1の掘削を示す図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。
【0030】
[第1の実施形態]
(1.止水壁と掘削用壁体)
図1は本発明の第1の実施形態に係る掘削方法により地盤1を掘削する途中を示す図である。
図1(a)は鉛直方向を見た図、
図1(b)は
図1(a)を上から見た図である。
【0031】
図1(a)、(b)に示すように、本実施形態では、地盤1の透水層1aの掘削に際し、不透水層1a’に達する止水壁10を地盤1に構築し、止水壁10の内側の掘削に応じて、掘削用壁体20を下降させる。
【0032】
止水壁10は円形状の平面を有し、下端部が透水層1aの下方の不透水層1a’まで達するように打設される。止水壁10は、略コ字状平面の鋼矢板10a、10bを、窪み方向を鋼矢板10a、10bで内側、外側に違えつつ交互に配置してその端部同士で連結し、円形状に配置して構成される。
【0033】
掘削用壁体20は円形状の平面を有する筒状体であり、止水壁10の内側に沿って掘削箇所1b回りに配置される。掘削用壁体20は壁体部材21をボルト等により接続し筒状に組み立てて形成される。
【0034】
掘削用壁体20の下端部には先端の尖った刃口金物22が設けられる。また、地上部分にある掘削用壁体20の上端部の壁体部材21にはブラケット23が取付けられる。掘削用壁体20は、このブラケット23に配置されたジャッキ11を用いて地盤1に圧入し下降させる。本実施形態では、
図1(b)に示すようにブラケット23及びジャッキ11を周方向に等間隔で4つ配置しているが、その配置はこれに限らず、掘削用壁体20の姿勢を水平に保って下降できるものであればよい。
【0035】
図2は上記のブラケット23付近を示す図である。掘削用壁体20はブラケット23に配置したジャッキ11を用いて下降させるが、ジャッキ11としては、例えばPC鋼材213を挿通したセンターホールジャッキが用いられる。PC鋼材213の下端は止水壁10の上端に取付けられ、ジャッキ11による掘削用壁体20の圧入時には、その反力を止水壁10で負担するようにしている。
【0036】
地上部分にある掘削用壁体20の上端部の壁体部材21では、ブラケット23の下方の外側面にストッパー212が取付けられる。ストッパー212は、掘削用壁体20の下降時に止水壁10と平面において干渉するように設けられ、止水壁10と当接することにより掘削用壁体20の過沈下を防ぐ。
【0037】
図3は、掘削用壁体20の詳細を示す図である。
図3(a)は掘削用壁体20の上端部を示す斜視図であり、ブラケット23およびストッパー212を取付ける前の状態を示している。
図3(b)は掘削用壁体20の周方向の一部を示す平面図、
図3(c)は
図3(b)の線A−Aに沿った鉛直方向の断面図である。
【0038】
図3(a)に示すように、壁体部材21は円弧状の平面を有する鋼製あるいは鉄筋コンクリート製のセグメントである。掘削用壁体20は、壁体部材21を、上下・左右にボルトなどで繋ぎ合わせて形成される。
【0039】
壁体部材21の外側面には、スペーサー211が外側に向かって突出するように設けられる。
図3(b)に示すように、スペーサー211は、窪み方向を内側として配置された鋼矢板10aに対応する位置にあり、止水壁10の最内側と掘削用壁体20の外側面との間隔を保持する。これにより止水壁10の変形が防がれ、掘削用壁体20を止水壁10に沿って正確に下降させることができる。スペーサー211の形状や大きさ、配置等は、止水壁10と掘削用壁体20との間隔を適切に保持できるように定めればよく、図示したものに限らない。例えば一部の壁体部材21にのみスペーサー211を設ける場合もある。
【0040】
(2.地盤1の掘削と構造物の構築、掘削用壁体20の撤去)
本実施形態では、上記の掘削用壁体20を使用して地盤1を掘削した後、掘削箇所に構造物を構築して掘削用壁体20を撤去する。以下この手順について説明する。
【0041】
本実施形態では、まず掘削箇所の周囲で鋼矢板10a、10b(
図1(b)参照)を前記したように打設し、
図4(a)に示すように、下端部が不透水層1a’まで達する止水壁10を構築する。
【0042】
そして、
図4(b)に示すように、掘削機により止水壁10の内側のほぼ全域で所定深さ(例えば1m程度)均等に掘削し、壁体部材21を筒状に組み立てて形成した掘削用壁体20を掘削箇所1bに配置する。掘削用壁体20は、止水壁10の若干内側で止水壁10の内周に沿って配置され、下端部には刃口金物22が設けられる。また、地上部分にある掘削用壁体20の上端部の壁体部材21に、前記したブラケット23とストッパー212(
図2参照)が取付けられ、ブラケット23にジャッキ11が配置される。
【0043】
次いで、
図5(a)に示すように、止水壁10の内側を、掘削用壁体20の周方向に対応する部分も含めてほぼ全域で、所定深さ(例えば1m程度)均等に掘削する。なお、ここでは、刃口金物22の先端と接触して掘削用壁体20が最低限支持できるよう、止水壁10の内周縁部の地盤1だけは残しておく。ただし、例えば前記のスペーサー211が止水壁10と当接し、その摩擦力によって掘削用壁体20が支持できる場合などでは、止水壁10の内周縁部も掘削してよい。
【0044】
また、地盤1の掘削は、ポンプ(不図示)等により適宜止水壁10の内側の地盤1の地下水を汲み出して地下水位を低下させながら行う。本実施形態では不透水層1a’まで達する止水壁10を構築しているので、上記のように地下水位を低下させても周囲から地下水が流入することがない。
【0045】
図5(a)に示すように地盤1の掘削を行うと、次に、ジャッキ11を用いて掘削用壁体20の周方向でほぼ均等に圧力をかけ、水平方向の姿勢を保ちながら、
図5(b)に示すように所定深さ(例えば1m程度)圧入を行う。この時地盤1からの抵抗は、止水壁10の内周縁部に残した地盤1から受けるものだけであるので、ジャッキ11の圧入時に加える力は小さくて済む。
【0046】
掘削用壁体20は圧入幅を制御しつつ圧入するが、万が一ミスなどが生じても、
図6(a)に示すように、前記したストッパー212が止水壁10の上端部に当接することにより掘削用壁体20の過沈下が防がれる。
【0047】
また、掘削用壁体20の下降を行った後は、
図6(b)に示すように、リング状に組んだ壁体部材21を掘削用壁体20の上端部に継ぎ足す。そして、
図6(c)に示すように、地上部分にある継ぎ足した上端部の壁体部材21にブラケット23とストッパー212を盛り替え、ジャッキ11を移動させブラケット23に配置する。
【0048】
以上の作業を行った状態を
図7(a)に示す。以降、
図5(a)、(b)、
図6(b)、(c)等で説明した作業を順に繰り返し、地盤1の掘削に応じて掘削用壁体20を下降させる。このようにして掘削を続け、
図7(b)に示すように、掘削用壁体20の下端部を、最終的な掘削深さより若干浅い位置(例えば1.5〜2m程度浅い位置)まで下降させる。
【0049】
その後、
図8(a)に示すように、刃口金物22の先端と接する止水壁10の内周縁部を残して最終的な掘削深さまで掘削する。このようにして地盤1の掘削を行うと、
図8(b)に示すように、掘削箇所1bに構造物30を構築する。本実施形態では、構造物30として躯体基礎部を形成するが、構造物30はこれに限らない。
【0050】
その後、
図9(a)に示すように、掘削用壁体20を下端部から順次解体して個々の壁体部材21等を回収しながら、構造物30の周囲の掘削箇所1bを掘削土などで埋戻す。なお、前記のジャッキ11やブラケット23などもこの際に解体される。必要に応じて、掘削用壁体20の上端部を止水壁10に取り付けて固定し、掘削用壁体20の下端部の解体に伴う掘削用壁体20の沈下を防ぐことも可能である。
【0051】
こうして
図9(b)に示すように構造物30の周囲を地表まで埋め戻して掘削用壁体20を撤去すると、最後に止水壁10の鋼矢板10a、10b(
図1(b)等参照)の引抜き、撤去を行う。以上のようにして構造物30の構築が行われる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、不透水層1a’に達する止水壁10を構築した後、その内側で地盤1を掘削するとともに、壁体部材21を筒状に組み立てた掘削用壁体20を下降させるので、気中掘削となり作業を容易に行うことができる。例えば、前記した水中掘削を行う場合のように、掘削用壁体20の刃口下を余掘りした後圧入する必要がなく、周囲地盤に変状を与える恐れがない。また水中コンクリートの打設も不要でコストが低減でき、その打設厚さを考慮して余分に掘削しておく必要もない。さらに、掘削箇所1bに人が入れることから、最終的な掘削時には、構造物30を構築する掘削底面部の地盤を目視しながら漉き取るように掘削を行うことが可能であり、構造物30の支持地盤を傷めることも無い。構造物30の構築の際には地盤支持力を確認することも可能である。また、掘削土が地下水にさらされていないので、建設残土として処理できる点も好ましい。
【0053】
さらに、止水壁10に加わる周囲地盤の圧力(土圧、水圧)は掘削用壁体20によって最終的に支持できるので、別途止水壁10に補強材を設けたりする必要がなく作業効率も良い。また、掘削用壁体20は止水壁の内側にあるので、撤去に際し周囲の地下水の影響がなく、構造物30の構築後に容易に撤去できる。掘削用壁体20を撤去して回収した壁体部材21は他工事に転用することが可能であり、コスト面でも優れている。さらに、掘削用壁体20は筒状に形成されるので薄厚でも強度が確保でき、また止水壁10の内周に沿った形状とできるから、前記したかまち梁などに比べ止水壁10の内側空間に占めるスペースが小さく、構造物30の構築時に干渉する恐れが小さい。その結果、止水壁10の内側空間の大きさを構造物30の大きさに近づけることができ、止水壁10の構築に係るコストや、地盤1の掘削土量および埋戻土量などを最小限にできる。
【0054】
また、本実施形態では壁体部材21の外側面にスペーサー211が設けられるので、これにより止水壁10の変形抑制が容易であり、掘削用壁体20を止水壁10に沿って正確に下降させることができる。また、スペーサー211は、止水壁10と当接することにより周囲地盤からの圧力を掘削用壁体20に伝達する役割も有する。
【0055】
また、壁体部材21に、掘削用壁体20の下降時に止水壁10と平面において干渉するストッパー212が設けられるので、掘削用壁体20の下降幅を制御して過沈下を防ぐことが可能である。
【0056】
また、本実施形態では、掘削用壁体20の周方向に沿った部分を含む止水壁10の内側ほぼ全域で地盤1の掘削を行った後、掘削用壁体20の下降を行い、これを交互に繰り返す。こうして順序立てて掘削を行うことで、掘削作業が容易にできる。また、掘削用壁体20の下降時に地盤1から受ける抵抗が小さいので、掘削用壁体20に加える力が小さくて済み、掘削用壁体20の水平方向の姿勢を保つことも容易である。
【0057】
ただし掘削の手順はこれに限らない。例えば掘削用壁体20の周方向に対応する部分のみ先行して掘削し、掘削用壁体20の下降後に残りの部分(掘削用壁体20の内側)の掘削を行ってもよい。あるいは、掘削用壁体20の周方向に対応する部分の掘削を行わずにそのまま掘削用壁体20を下降させ、その内側で地盤1の掘削を行うことも可能である。ただし、この場合は掘削用壁体20の下降時に地盤1から受ける抵抗が大きくなる。
【0058】
また、本実施形態では、掘削用壁体20をジャッキ11を用いて圧入して下降させ、この際圧入時の反力を止水壁10に負担させるので、掘削用壁体20が容易に下降でき、またジャッキ11の操作も地上でできるので作業性も高い。
【0059】
ただし、掘削用壁体20の圧入時には、地盤1に埋設したアースアンカーなどに反力を取り圧入させることも可能である。また、地盤1の抵抗力や、止水壁10と掘削用壁体20のスペーサー211の摩擦力が小さい場合には自重による沈下も可能である。
【0060】
加えて、掘削用壁体20の圧入方法としては、地上部分で掘削用壁体20に重量物を載せて圧入することも可能である。この場合も上記と同様の効果が得られる。重量物は掘削用壁体20を圧入できれば特にその形状や材料は問わない。
【0061】
また、本実施形態では、掘削用壁体20の下側から順次壁体部材21に解体して撤去したが、埋戻しを行いつつ掘削用壁体20を上方に引き上げて上端部から順次解体し、壁体部材21を回収することも可能である。あるいは、埋戻し完了後に、掘削用壁体20を引抜いて解体することも可能である。
【0062】
さらに、本実施形態では鋼矢板10a、10bを用いて平面が円形状の止水壁10を構築したが、これに限ることなく、矩形状の止水壁10を構築することも可能である。また、鋼矢板10a、10bに替えて鋼管矢板を用いたり、止水壁10を、ソイルモルタル壁の中に芯材としてH形鋼を配置するSMW工法(登録商標)により構築することなども可能である。
【0063】
掘削用壁体20の形状についても、平面を円形状とするものに限らず、例えば平面が矩形状であってもよい。壁体部材21の形状や材質なども上記に限らず、掘削用壁体20の形状に応じて必要な強度が得られるものであればよい。例えば桁高の大きい高耐力のセグメントを使用したり、切梁または火打ちを併用し剛性を大きくしたセグメントの使用を行うことも可能である。
【0064】
また、本実施形態では掘削用壁体20の撤去を行ったが、掘削用壁体20を外型枠として内側にコンクリートを打設し、掘削用壁体20を残置して柱状または筒状の構造物を造ることなども可能である。
【0065】
[第2の実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について
図10、
図11を用いて説明する。
図10、
図11は、第2の実施形態に係る掘削方法について説明する図である。
【0066】
本実施形態は、不透水層1a’に達する筒状の止水壁10を地盤1に構築し、その内側に掘削用壁体20を配置する点では第1の実施形態と同様であるが、止水壁10の内側の地盤1の掘削に応じて、壁体部材21を下側に継ぎ足して筒状に組み立て掘削用壁体20を下方に延長するように構築する点で第1の実施形態と異なる。
【0067】
すなわち、第2の実施形態では、
図10(a)に示すように、第1の実施形態と同様にして止水壁10を構築しその内側を所定深さ掘削した後、掘削用壁体20を掘削箇所1bに配置するが、この時掘削用壁体20の上端部を取付部25により止水壁10の上端部に取り付けて固定する。
【0068】
そして、
図10(b)に示すように止水壁10の内側全域を所定深さ均等に掘削した後、
図11(a)に示すように、壁体部材21を下側に継ぎ足して筒状に組み立てて掘削用壁体20を下方に延長する。
【0069】
以降、
図10(b)、
図11(a)で説明した工程を繰り返し、止水壁10の内側の地盤1を下方へ掘削しながら、止水壁10の内側で掘削用壁体20の構築を行う。以上の工程は、
図11(b)に示すように、掘削用壁体20の下端部が、最終的な掘削深さより若干浅い位置(例えば1.5〜2m程度浅い位置)に来るまで行われる。
【0070】
この後の工程は、第1の実施形態と同様である。すなわち、最終的な掘削深さまで地盤1を掘削した後、掘削箇所1bに構造物を構築する。その後、掘削用壁体20を下端部から順次解体して個々の壁体部材21を回収しながら、構造物の周囲の掘削箇所1bを掘削土などで埋戻す。地表まで埋め戻しを行い掘削用壁体20を撤去すると、最後に止水壁10を撤去する。
【0071】
この第2の実施形態でも、地盤1の掘削作業や掘削用壁体20の撤去が容易になるなど第1の実施形態と同様の効果が得られる。また、掘削用壁体20としては第1の実施形態のような刃口金物22やストッパ212などが不要になり簡易な構成になる。また、掘削用壁体20を下降させるためのジャッキ作業なども不要になる。
【0072】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0073】
1:地盤
1a:透水層
1a’:不透水層
1b:掘削箇所
10:止水壁
11:ジャッキ
20:掘削用壁体
21:壁体部材
30:構造物
211:スペーサー
212:ストッパー