(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールが、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のリグニン分解物の製造方法。
工程(2)が、工程(1)で得られた糖化残渣を2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理した後、酸を含む、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理することにより、リグニン分解物を含有する加熱処理液を得る工程である、請求項4記載のリグニン分解物の製造方法。
工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒の使用量が、糖化残渣の固形分に対し、2質量倍以上、40質量倍以下である、請求項1〜5のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
酵素が、セロビオハイドロラーゼ、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜8のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
リグノセルロース原料が、針葉樹チップ、広葉樹チップ、バガス、稲わら、とうもろこし茎・葉、パーム空果房(EFB)、籾殻、パーム殻、ココナッツ殻、紙類、及び藻類からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜9のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
〔リグニン分解物の製造方法〕
本発明のリグニン分解物の製造方法は、下記工程(1)〜(3)を有する。
工程(1):リグノセルロース原料を酵素により糖化処理して糖化残渣を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた糖化残渣を、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理して、リグニン分解物を含有する加熱処理液を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた加熱処理液を固液分離して、不溶分を除去し、リグニン分解物を得る工程
【0009】
本発明の製造方法により、高純度リグニン分解物が収率良く得られる理由は明らかではないが、前記工程(1)においてリグノセルロース原料を酵素糖化することにより、リグノセルロース原料に含まれる多糖類が分解されて、リグニンと多糖類の絡み合いが緩和されて、リグニンの自由度が大幅に向上した糖化残渣が得られる。次に前記工程(2)においてこの糖化残渣を2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒に浸漬し加熱することで、リグニンと多糖類との分離が充分に進み、高純度のリグニン分解物が得られると推測される。
【0010】
〔工程(1)〕
工程(1)は、リグノセルロース原料を酵素により糖化処理して糖化残渣を得る工程である。
【0011】
(リグノセルロース原料)
工程(1)において使用されるリグノセルロース原料とは、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを含む植物系のバイオマスをいう。
リグノセルロース原料としては、カラマツやヌクスギなどの針葉樹、アブラヤシ、ヒノキなどの広葉樹から得られる木材チップなどの各種木材;木材から製造されるウッドパルプ、綿の種子の周囲の繊維から得られるコットンリンターパルプなどのパルプ類;バガス(サトウキビの搾りかす)、稲わら、とうもろこし茎・葉、パーム空果房(Empty Fruit Bunch、以下「EFB」という)などの植物茎・葉・果房類;籾殻、パーム殻、ココナッツ殻などの植物殻類;新聞紙、ダンボール、雑誌、上質紙などの紙類;ジャイアントケルプ、コンブ、ワカメ、ノリ、マクサ、スピルリナ、ドナリエラ、クロレラ、セネデスムスなどの藻類などが挙げられる。これらのリグノセルロース原料は、1種単独でも、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらのうち、リグニン分解物の収率向上、糖化効率の向上の観点、入手容易性及び原料コストの観点から、木材、紙類、植物茎・葉・果房類、植物殻類、及び藻類が好ましく、針葉樹チップ、広葉樹チップ、バガス、稲わら、とうもろこし茎・葉、EFB、籾殻、パーム殻、ココナッツ殻、紙類、及び藻類がより好ましく、バガス、EFB、及びアブラヤシの幹から得られる木材チップが更に好ましく、バガスがより更に好ましい。
【0012】
リグノセルロース原料は、リグニン分解物の収率向上の観点から、リグニン含有量が、原料に対して5質量%以上であることが好ましく、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。リグニン含有量は、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
(前処理)
リグノセルロース原料は、糖化効率の向上、リグニン分解物の収率向上及びリグニンの変性抑制の観点から、酵素で糖化処理する前に、前処理されていることが好ましい。好ましい前処理としては、粉砕処理又は水熱処理が挙げられ、より好ましくは粉砕処理である。
【0014】
(粉砕処理)
リグノセルロース原料の前処理として粉砕処理することにより、リグノセルロース原料を小粒子化し、リグノセルロース原料に含まれるセルロースの結晶構造が破壊されるので、糖化効率が向上する。
粉砕処理を行う場合、リグノセルロース原料中の水分量は、リグノセルロース原料の粉砕効率、及びリグニン分解物の収率向上の観点から、リグノセルロース原料の乾燥重量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。なお、リグノセルロース原料中の水分量を0質量%にすることは困難であるため、生産性の観点から、該水分量はリグノセルロース原料の乾燥重量に対して、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。
リグノセルロース原料中の水分量は、市販の赤外線水分計などを用いて測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0015】
なお、粉砕処理に用いるリグノセルロース原料中の水分量が40質量%を超える場合には、該リグノセルロース原料を公知の方法で乾燥させ(以下、「乾燥処理」と称する場合がある。)、その水分量がリグノセルロース原料の乾燥重量に対し40質量%以下となるように調整することが好ましい。乾燥方法としては、例えば、熱風受熱乾燥法、伝導受熱乾燥法、除湿空気乾燥法、冷風乾燥法、マイクロ波乾燥法、赤外線乾燥法、天日乾燥法、真空乾燥法、凍結乾燥法等が挙げられる。乾燥処理に用いる乾燥機は、公知のもの適宜選択して使用することができる。乾燥処理はバッチ処理、連続処理のいずれでも可能である。
【0016】
粉砕処理は、公知の粉砕機を用いて行うことができる。用いられる粉砕機に特に制限はなく、リグノセルロース原料を小粒子化することができ、セルロースの結晶化度を低減できる装置であればよい。
粉砕機の具体例としては、高圧圧縮ロールミルや、ロール回転ミルなどのロールミル、リングローラーミル、ローラーレースミル又はボールレースミルなどの竪型ローラーミル、転動ボールミル、振動ボールミル、振動ロッドミル、振動チューブミル、遊星ボールミル又は遠心流動化ミルなどの容器駆動式媒体ミル、塔式粉砕機、攪拌槽式ミル、流通槽式ミル又はアニュラー式ミルなどの媒体攪拌式ミル、高速遠心ローラーミルやオングミルなどの圧密せん断ミル、乳鉢、石臼、マスコロイダー、フレットミル、エッジランナーミル、ナイフミル、ピンミル、カッターミルなどが挙げられる。これらの中では、リグノセルロース原料の粉砕効率、及び生産性の観点から、容器駆動式媒体ミル又は媒体攪拌式ミルが好ましく、容器駆動式媒体ミルがより好ましく、振動ボールミル、振動ロッドミル又は振動チューブミルなどの振動ミルが更に好ましく、振動ロッドミルがより更に好ましい。
【0017】
粉砕方法としては、バッチ式、連続式のどちらでもよい。粉砕に用いる装置及び/又は媒体の材質としては特に制限はなく、例えば、鉄、ステンレス、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素、チッ化珪素、ガラスなどが挙げられる。これらの中で、セルロースの結晶構造を効率的に破壊させる観点から、鉄、ステンレス、ジルコニア、炭化珪素、窒化珪素が好ましく、更に工業的利用の観点から、鉄又はステンレスが好ましい。
【0018】
用いる装置が振動ミルであって、媒体がロッドの場合には、リグノセルロース原料の粉砕効率の観点から、ロッドの外径は好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上の範囲であり、そして、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下の範囲である。ロッドの大きさが上記の範囲であれば、リグノセルロース原料を効率的に小粒子化させることができるとともに、ロッドのかけらなどが混入してリグノセルロース原料が汚染されるおそれが少ない。
【0019】
ロッドの充填率は、振動ミルの機種により好適な範囲が異なるが、好ましくは10%以上、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上であり、更に好ましくは40%以上であり、そして好ましくは97%以下、より好ましくは95%以下、更に好ましくは80%以下であり、更に好ましくは70%以下である。充填率がこの範囲内であれば、リグノセルロース原料とロッドとの接触頻度が向上するとともに、媒体の動きを妨げずに、リグノセルロース原料の粉砕効率を向上させることができる。ここで充填率とは、振動ミルの攪拌部の容積に対するロッドの見かけの体積をいう。
【0020】
粉砕処理時の温度に特に限定はないが、操作コスト及びリグノセルロース原料の劣化抑制の観点から、−100℃以上、より好ましくは0℃以上、更に好ましくは5℃以上であり、そして好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下、更に好ましくは100℃以下である。なお、粉砕処理時は、摩擦などで温度が上昇しやすいので、上記の好適温度になるように水冷等で冷却しながら粉砕処理を行うのが好ましい。
【0021】
粉砕時間は、粉砕後のリグノセルロース原料が小粒子化されるよう適宜調整すればよい。用いる粉砕機や使用するエネルギー量などによって変わるが、通常1分以上、12時間以下であり、リグノセルロース原料の粒子径の低下の観点、及びエネルギーコストの観点から、好ましくは2分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは1時間以上であり、そして好ましくは6時間以下、より好ましくは3時間以下である。
【0022】
また、リグノセルロース原料の粉砕効率向上、糖化効率向上、及び生産効率向上(生産時間の短縮)の観点から、リグノセルロース原料を、塩基性化合物の存在下で粉砕処理することが好ましい。
【0023】
(塩基性化合物)
粉砕処理に用いられる塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物、酸化ナトリウム、酸化カリウムなどのアルカリ金属酸化物、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属酸化物、硫化ナトリウム、硫化カリウムなどのアルカリ金属硫化物、硫化マグネシウム、硫化カルシウムなどのアルカリ土類金属硫化物などが挙げられる。これらのうち、酵素糖化率向上の観点から、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を用いることがより好ましく、アルカリ金属水酸化物を用いることが更に好ましく、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いることがより更に好ましい。これらの塩基性化合物は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
粉砕処理で用いられる塩基性化合物の使用量は、リグノセルロース原料中のホロセルロースをすべてセルロースとして仮定した場合に、後述する工程(1)において糖化効率を向上させる観点から、該セルロースを構成するアンヒドログルコース単位(以下「AGU」と称する場合がある。)1モルあたり好ましくは0.01倍モル以上、より好ましくは0.05倍モル以上、更に好ましくは0.1倍モル以上であり、そして、塩基性化合物の中和及び/又は洗浄容易性の観点、及び塩基性化合物のコストの観点から、好ましくは10倍モル以下、より好ましくは8倍モル以下、更に好ましくは5倍モル以下、更に好ましくは1.5倍モル以下である。
【0025】
粉砕処理時の水分量は、リグノセルロース原料の乾燥重量に対して好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。水分量が前記範囲内であれば、リグノセルロース原料の粉砕効率、及びリグノセルロース原料と塩基性化合物との混合・浸透・拡散性が向上し、工程(1)の糖化処理が効率よく進行する。
粉砕処理時の水分量は、リグノセルロース原料の乾燥重量に対する水分量を意味し、乾燥処理などによりリグノセルロース原料、塩基性化合物に含まれる水分量を低減することや、粉砕処理時に水を添加して水分量を上げることなどにより、適宜調整することができる。
【0026】
粉砕処理後に得られるリグノセルロース原料の平均粒径は、リグニン分解物の収率向上、糖化効率向上の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上であり、そして好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。なお、粉砕処理後に得られるリグノセルロース原料の平均粒径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0027】
粉砕処理後に得られるリグノセルロース原料のセルロースI型結晶化度は、リグニン分解物の収率向上、糖化効率向上の観点から、好ましくは0%以上であり、そして好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下、更に好ましくは20%以下、更に好ましくは10%以下である。なお、粉砕処理後に得られるリグノセルロース原料のセルロースI型結晶化度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0028】
(水熱処理)
水熱処理とは、加圧条件下で高温の水溶液をリグノセルロース原料に作用させる処理である。水熱処理は、公知の反応装置を用いて行うことができ、用いられる反応装置に特に制限はない。
水熱処理方法としては、バッチ式、連続式のどちらでもよい。
なお、水熱処理で得られたリグノセルロース原料は、湿潤状態のものでもよく、さらに乾燥処理して得られたものでもよいが、糖化効率向上の観点から、湿潤状態のものが好ましい。
【0029】
(糖化処理)
工程(1)の糖化処理に用いられる酵素としては、糖化効率の向上、及びリグニン分解物の収率向上の観点から、セルラーゼやヘミセルラーゼが挙げられる。これらの酵素は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ここで、セルラーゼとは、セルロースのβ−1,4−グルカンのグリコシド結合を加水分解する酵素を指し、エンドグルカナーゼ、エクソグルカナーゼまたはセロビオハイドロラーゼ、及びβ−グルコシダーゼなどと称される酵素の総称である。本発明に使用されるセルラーゼとしては、市販のセルラーゼ製剤や、動物、植物、及び微生物由来のものが含まれる。
【0030】
セルラーゼの具体例としては、セルクラスト1.5L(ノボザイムズ社製、商品名)、CellicCTec2(ノボザイムズ社製、商品名)などのトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)由来のセルラーゼ製剤やバチルス エスピー(Bacillus sp.) KSM−N145(FERM P−19727)株由来のセルラーゼ、またはバチルス エスピー (Bacillus sp.) KSM−N252(FERM P−17474)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−N115(FERM P−19726)、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−N440(FERM P−19728)、バチルス エスピー(Bacillus sp.) KSM−N659 (FERM P−19730)などの各株由来のセルラーゼ、更には、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、アスペルギルス アクレアタス(Aspergillus acleatus)、クロストリジウム サーモセラム(Clostridium thermocellum)、クロストリジウム ステルコラリウム(Clostridium stercorarium)、クロストリジウム ジョスイ(Clostridium josui)セルロモナス フィミ(Cellulomonas fimi)、アクレモニウム セルロリティクス(Acremonium celluloriticus)、イルペックス ラクテウス(Irpex lacteus)、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、フミコーラ インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ混合物やパイロコッカス ホリコシ(Pyrococcus horikoshii)由来の耐熱性セルラーゼなどが挙げられる。
これらの中で、糖化効率の向上、及びリグニン分解物の収率向上の観点から、好ましくはトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、あるいはフミコーラ インソレンス(Humicola insolens)由来のセルラーゼ、例えばセルクラスト1.5L(ノボザイムズ社製、商品名)、TP−60(明治製菓株式会社製、商品名)、CellicCTec2(ノボザイムズ社製、商品名)、Accellerase DUET(ジェネンコア社製、商品名)、あるいはウルトラフロL(ノボザイムズ社製、商品名)が挙げられる。
【0031】
また、セルラーゼの1種であるβ−グルコシダーゼの具体例としては、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)由来の酵素(例えば、ノボザイムズ社製ノボザイム188(商品名)やメガザイム社製β-グルコシダーゼ)やトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)、ペニシリウム エメルソニイ(Penicillium emersonii)由来の酵素などが挙げられる。
【0032】
また、ヘミセルラーゼの具体例としては、CellicHTec2(ノボザイムズ社製、商品名)などのトリコデルマ リーゼ(Trichoderma reesei)由来のヘミセルラーゼ製剤やバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−N546(FERM P−19729)由来のキシナラーゼのほか、アスペルギルス ニガー(Aspergillus niger)、トリコデルマ ビリデ(Trichoderma viride)、フミコーラ インソレンス(Humicola insolens)、バチルス アルカロフィルス(Bacillus alcalophilus)由来のキシラナーゼ、更には、サーモマイセス(Thermomyces)、オウレオバシジウム(Aureobasidium)、ストレプトマイセス(Streptomyces)、クロストリジウム(Clostridium)、サーモトガ(Thermotoga)、サーモアスクス(Thermoascus)、カルドセラム(Caldocellum)、サーモモノスポラ(Thermomonospora)属由来のキシラナーゼなどが挙げられる。
【0033】
工程(1)において用いられる酵素は、糖化効率の向上及びリグニンの変性抑制の観点から、上記セルラーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、セロビオハイドロラーゼ、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選ばれる1種以上であることがより好ましく、セロビオハイドロラーゼ、及びエンドグルカナーゼからなる群から選ばれる1種以上であることが更に好ましい。
【0034】
工程(1)において、リグノセルロース原料を酵素で糖化処理する場合の処理条件は、該リグノセルロース原料中のリグニン含有量、セルロースI型結晶化度、使用する酵素の種類により適宜選択することができる。
例えば、前記酵素を使用し、リグノセルロース原料を基質とする場合は、0.5〜20%(w/v)の基質懸濁液に対して前記酵素を0.001〜15%(v/v)となるように添加し、pH2〜10の緩衝液中、反応温度10℃以上、90℃以下で、反応時間30分以上、5日間以下で反応させることにより糖化処理を行うことができる。
上記緩衝液のpHは、用いる酵素の種類により適宜選択することが好ましく好ましくはpH3以上、より好ましくはpH4以上、そして好ましくはpH7以下、より好ましくはpH6以下である。
また、上記反応温度は、用いる酵素の種類により適宜選択することが好ましく、好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上であり、そして好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下である。
さらに、上記反応時間は、用いる酵素の種類により適宜選択することが好ましく、好ましくは0.5日間以上であり、そして好ましくは3日間以下、より好ましくは2日間以下である。
【0035】
(糖化残渣)
リグノセルロース原料を酵素により糖化処理することにより、糖化残渣が得られる。ここで糖化残渣とは、酵素糖化処理後の混合物を遠心分離等の固液分離手段により分離した、固形成分のことである。この固形成分は、水で数回洗浄することで水溶性の多糖類を除去できる。その後、湿潤状態で次の工程(2)を行ってもよいし、乾燥させることで、糖化残渣を粉末化してもよい。生産効率向上の観点からは、湿潤状態で次の工程(2)を行うことが好ましい。また、乾燥処理を行う場合は、リグニンの変性抑制の観点から、100℃以下で乾燥することが好ましく、凍結乾燥することがより好ましい。
【0036】
〔工程(2)〕
工程(2)は、前述の糖化残渣を、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理して、リグニン分解物を含有する加熱処理液を得る工程である。また、工程(2)は、二段階処理として、工程(1)で得られた糖化残渣を、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理した後(一段目の処理)、酸を含む、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理(二段目の処理)することにより、リグニン分解物を含有する加熱処理液を得る工程であることが、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から好ましい。前記二段階処理では、一段目の処理は、工程(1)で得られた糖化残渣を、酸無添加で2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理し、二段目の処理は一段目の処理で得られた加熱処理液に酸を添加し、さらに加熱処理することが好ましい。
【0037】
(溶媒)
工程(2)では、溶媒として、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールから選ばれる1種以上を使用する。工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒は、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点及び経済性の観点から、好ましくは2価以上、4価以下の脂肪族多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくは2価以上、3価以下の脂肪族多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくは2価の脂肪族多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上である。
本発明に用いる脂肪族多価アルコールの炭素数は、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点及び経済性の観点から、好ましくは2以上であり、そして好ましくは6以下、より好ましくは4以下であり、更に好ましくは3以下である。
【0038】
2価の脂肪族多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等が挙げられる。また、3価の脂肪族多価アルコールとしては、例えばグリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ヘプタトリオール、1,2,4−ヘプタトリオール、1,2,5−ヘプタトリオール、2,3,4−ヘプタトリオール等が挙げられる。4価の脂肪族多価アルコールとしては、ペンタエリスリトール、エリトリトール等が挙げられる。5価の脂肪族多価アルコールとしては、キシリトール等が挙げられる。6価の脂肪族多価アルコールとしては、ソルビトール等が挙げられる。これらの脂肪族多価アルコールは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの脂肪族多価アルコールとしては、リグニン分解物の抽出効率向上、経済性の観点から、好ましくはエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上であり、更に好ましくはエチレングリコールである。
【0039】
工程(2)で用いる溶媒は、実質的には、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールから選ばれる1種以上で構成されるが、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、他の溶媒を含むことができる。他の溶媒としては、例えば、水、アセトン、エタノール、及び1,3−ジオキサン等が挙げられる。その際、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール以外の溶媒の含有量は、全溶媒中、好ましくは15質量%未満であり、より好ましくは10質量%未満であり、更に好ましくは5質量%未満であり、更に好ましくは1質量%未満であり、更に好ましくは0.1質量%未満であり、更に好ましくは0.01質量%未満である。
【0040】
また、工程(2)で用いる溶媒には、リグニン分解物の収率向上及び生成するリグニン分解物の分子量制御の観点から、さらに酸又は塩基を含有してもよい。高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から、工程(2)で用いる溶媒は酸を含有することが好ましい。
用いられる酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸等の無機酸、パラトルエンスルホン酸(PTSA)、酢酸、クエン酸等の有機酸、塩化アルミニウム、金属トリフラート類などのルイス酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などの脂肪酸、ヘテロポリ酸などが挙げられる。これらのうち、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点及び低分子量のリグニン分解物を得る観点から、塩酸、硫酸、PTSA、塩化アルミニウム、リン酸、及び酢酸から選ばれる1種以上が好ましく、リン酸、酢酸、及び塩酸から選ばれる1種以上がより好ましく、塩酸が更に好ましい。
【0041】
塩基としては、前記粉砕処理に用いられる塩基性化合物と同じものが挙げられる。このうち、リグニン分解物の収率向上及び高分子量のリグニン分解物を得る観点から、アルカリ金属水酸化物、及びアルカリ土類金属水酸化物から選ばれる1種以上が好ましく、アルカリ金属水酸化物から選ばれる1種以上がより好ましく、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムから選ばれる1種以上がより更に好ましい。
なお、前記酸や塩基は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒の使用量は、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から、糖化残渣の固形分に対し、好ましくは2質量倍以上、より好ましくは5質量倍以上、更に好ましくは10質量倍以上、更に好ましくは15質量倍以上であり、そして好ましくは40質量倍以下、より好ましくは30質量倍以下である。
酸又は塩基の含有量は、リグニン分解物の収率向上及びリグニン分解物の分子量制御の観点から、工程(2)で用いる溶媒に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0043】
工程(2)における加熱処理温度は、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは120℃以上であり、そして好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは180℃以下である。
工程(2)で用いられる加熱装置としては、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から、オートクレーブ又はマイクロ波加熱装置が好ましい。
【0044】
工程(2)における加熱時の反応圧力は、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上、更に好ましくは0.1MPa以上であり、そして好ましくは30MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは5MPa以下、更に好ましくは1MPa以下である。
【0045】
工程(2)における加熱処理の時間は、特に制限されず、糖化残渣量に応じて適宜選択されるが、高純度のリグニン分解物を収率よく得る観点から、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは10分以上であり、そして好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である。ここで、工程(2)の加熱処理を前記で述べた二段階処理として行う場合には、前記加熱処理の時間は、酸無添加の一段目の処理、及び酸添加後の二段目の処理のそれぞれの加熱時間が上記の範囲内にあることが好ましい。
【0046】
(工程(3))
工程(3)は、前記工程(2)で得られたリグニン分解物を含有する加熱処理液を固液分離して、不溶分を除去し、リグニン分解物を得る工程である。
リグニン分解物を得る方法としては、工程(2)で得られた加熱処理液を固液分離し、不溶分を除去し、液体分に含まれるリグニン分解物を得る工程を少なくとも含む方法であれば、特に限定されないが、ろ過、遠心分離などの固液分離の他に、溶媒留去、洗浄、乾燥等の工程を適宜組み合わせることができる。ろ過は、該加熱処理液に適宜溶媒を加えてからろ過する方法でも、溶媒を加えずに該加熱処理液をそのままろ過する方法でもよい。また前記工程(2)で酸や塩基を添加した場合は、中和する工程を含む。これらの工程は、常法により行うことができる。例えば、前記工程(2)で得られた加熱処理液の固液分離により不溶分を除去し、液体分に含まれる前記有機溶媒及び水を減圧留去し、得られた残渣を水洗し、リグニン分解物を得る方法が挙げられる。溶媒留去後の残渣を水洗することで、水溶性の多糖類等を除去することができ、リグニン分解物のリグニン純度を高めることができる。
【0047】
〔リグニン分解物〕
本発明の製造方法により得られるリグニン分解物は、リグニン純度が高いので、産業上有利に利用することが可能である。すなわち多糖類の含有率が低いため、有機溶媒を含む種々の溶媒への溶解性が高くなり、例えばリグニン分解物を誘導体化反応などに付す場合に、均一系で反応を進めることができるため、格段に反応効率を向上させることができる。
また、得られたリグニン分解物は、リグニン構造中に脂肪族水酸基を豊富に有する。これは、工程(2)で用いる溶媒として、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールから選ばれる1種以上を用いた結果、単なる溶媒として作用しただけではなく、該脂肪族多価アルコールが糖化残渣と反応したためと考えられる。従って、本発明の製造法により得られたリグニン分解物は、脂肪族水酸基を豊富に有するために、高分子として使用目的に応じた化学修飾や誘導体化を有利に行うことができるだけでなく、水酸基を含有する芳香族低分子化合物への変換も容易に行うことができる。よって、本発明で得られたリグニン分解物は、そのまま、抗菌剤、農薬、及び熱硬化性樹脂、セメント分散剤、蓄電池用分散剤、香粧品用途の添加剤、その他の機能性材料として利用することができる。
本発明の製造方法により得られるリグニン分解物の重量平均分子量は、例えば、1,000〜40,000の範囲であり、リグニン分解物の用途に応じて、適宜分子量を選択して使用することができる。
【0048】
上述した実施形態に関し、本発明は以下のリグニン分解物の製造方法及びリグニン分解物を開示する。
[1] 下記工程(1)〜(3)を有する、リグニン分解物の製造方法。
工程(1):リグノセルロース原料を酵素により糖化処理して糖化残渣を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた糖化残渣を、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールの溶媒中で加熱処理して、リグニン分解物を含有する加熱処理液を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた加熱処理液を固液分離して、不溶分を除去し、リグニン分解物を得る工程
【0049】
[2] 工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールが、好ましくは2価以上、4価以下の脂肪族多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上、より好ましくは2価以上、3価以下の脂肪族多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上、更に好ましくは2価の脂肪族多価アルコールからなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]に記載のリグニン分解物の製造方法。
[3] 工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールが、好ましくはエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上、より好ましくはエチレングリコール及びグリセリンからなる群から選ばれる1種以上、更に好ましくはエチレングリコールである、上記[1]又は[2]に記載のリグニン分解物の製造方法。
[4] 工程(2)で用いる2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒の使用量が、糖化残渣の固形分に対し、好ましくは2質量倍以上、より好ましくは5質量倍以上、更に好ましくは10質量倍以上、更に好ましくは15質量倍以上であり、そして好ましくは40質量倍以下、より好ましくは30質量倍以下である、上記[1]〜[3]に記載のリグニン分解物の製造方法。
[5] 工程(2)で用いる溶媒が、好ましくはさらに酸又は塩基を含む、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[6] 工程(2)が、工程(1)で得られた糖化残渣を2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理した後、酸を含む、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコール溶媒中で加熱処理することにより、リグニン分解物を含有する加熱処理液を得る工程である、上記[5]記載のリグニン分解物の製造方法。
[7] 酸又は塩基が、好ましくは酸、より好ましくは塩酸、硫酸、パラトルエンスルホン酸、塩化アルミニウム、リン酸、及び酢酸から選ばれる1種以上、より好ましくはリン酸、酢酸、及び塩酸から選ばれる1種以上、更に好ましくは塩酸である、上記[5]又は[6]に記載のリグニン分解物の製造方法。
[8]酸又は塩基の含有量が、工程(2)で用いる溶媒に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、そして好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である、上記[5]〜[7]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[9] 工程(2)の加熱処理温度が、好ましくは40℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは100℃以上であり、更に好ましくは120℃以上であり、そして好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、更に好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは180℃以下である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[10]工程(2)における加熱時の反応圧力が、好ましくは0.01MPa以上、より好ましくは0.05MPa以上、更に好ましくは0.1MPa以上であり、そして好ましくは30MPa以下、より好ましくは10MPa以下、更に好ましくは5MPa以下、更に好ましくは1MPa以下である、上記[1]〜[9]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[11]工程(2)の加熱処理時間が、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは10分以上であり、そして好ましくは4時間以下、より好ましくは3時間以下、更に好ましくは2時間以下、更に好ましくは1時間以下である、上記[1]〜[10]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
【0050】
[12] リグノセルロース原料を、酵素で糖化処理する前に、好ましくは粉砕処理又は水熱処理、より好ましくは粉砕処理によって前処理する、上記[1]〜[11]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[13] 粉砕処理における、リグノセルロース原料中の水分量が、リグノセルロース原料の乾燥重量に対して、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下であり、そして好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である、上記[12]に記載のリグニン分解物の製造方法。
[14] 粉砕時間が、好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは5分以上、更に好ましくは1時間以上であり、そして好ましくは12時間以下、より好ましくは6時間以下、更に好ましくは3時間以下である、上記[12]又は[13]に記載のリグニン分解物の製造方法。
[15] 塩基性化合物の存在下で粉砕処理する、上記[12]〜[14]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[16] 粉砕処理時の水分量が、リグノセルロース原料の乾燥重量に対して0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上であり、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは35質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である、上記[12]〜[15]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
【0051】
[17] 酵素が、好ましくはセロビオハイドロラーゼ、β−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びヘミセルラーゼからなる群から選ばれる1種以上である、上記[1]〜[16]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[18] リグノセルロース原料が、好ましくは針葉樹チップ、広葉樹チップ、バガス、稲わら、とうもろこし茎・葉、パーム空果房(EFB)、籾殻、パーム殻、ココナッツ殻、紙類、及び藻類からなる群から選ばれる1種以上、より好ましくはバガス、EFB、及びアブラヤシの幹から得られる木材チップ、更に好ましくはバガスである、上記[1]〜[17]のいずれかに記載のリグニン分解物の製造方法。
[19] 上記[1]〜[18]のいずれかに記載の製造方法により得られたリグニン分解物。
【実施例】
【0052】
以下の実施例及び比較例において、特記しない限り、「%」は「質量%」を意味する。また、各種物性の測定法及び評価方法は以下のとおりである。
【0053】
(1)リグノセルロース原料中のホロセルロース含有量の算出
粉砕したリグノセルロース原料を、エタノール−ジクロロエタン混合溶剤(1:1、質量比)で6時間ソックスレー抽出を行い、抽出後のサンプルを60℃で真空乾燥した。得られた試料2.5gに水150mL、亜塩素酸ナトリウム1.0g及び酢酸0.2mLを添加し、70〜80℃で1時間加温した。引き続き亜塩素酸ナトリウム及び酢酸を添加して加温する操作を、試料が白く脱色するまで3〜4回繰り返し行った。白色の残渣をグラスフィルター(1G−3)でろ過し、冷水及びアセトンで洗浄した後、105℃で恒量になるまで乾燥し、残渣重量を求めた。下記式によりホロセルロース含有量を算出し、これをセルロース含有量とした。
セルロース含有量(質量%)=[残渣重量(g)/リグノセルロース原料の採取量(g:乾燥原料換算)]×100
【0054】
(2)アンヒドログルコース単位(AGU)モル数の算出
AGUモル数は、リグノセルロース原料中のホロセルロースをすべてセルロースと仮定して、以下の式に基づき算出した。
AGUモル数=ホロセルロース重量(g)/162
【0055】
(3)リグノセルロース原料の水分量の測定
リグノセルロース原料の水分量の測定には、赤外線水分計「FD−610」(株式会社ケット科学研究所製)を使用した。150℃にて測定を行い、30秒間の重量変化率が0.1%以下となる点を測定の終点とした。測定された水分量の値を、リグノセルロース原料の乾燥重量に対する質量%に換算した。
【0056】
(4)リグノセルロース原料粉砕物の結晶化度の測定方法
X線回折強度は、株式会社リガク製の「Rigaku RINT 2500VC X-RAY diffractometer」を用いて以下の条件で測定し、以下計算式(1)に基づいてセルロースI型結晶化度を算出した。
測定条件は、X線源:Cu/Kα−radiation,管電圧:40kv,管電流:120mA,測定範囲:2θ=5〜45°で測定した。測定用サンプルは面積320mm
2×厚さ1mmのペレットを圧縮し作製した。X線のスキャンスピードは10°/minで測定した。
〔セルロースI型結晶化度〕
セルロースI型結晶化度は、X線回折法による回折強度値からSegal法により算出したもので、下記計算式(1)により定義される。
セルロースI型結晶化度(%)=〔(I
22.6−I
18.5)/I
22.6〕×100 (1)
〔I
22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、I
18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す〕
【0057】
(5)リグノセルロース原料粉砕物の平均粒径の測定方法
平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置「LA−950」(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。測定条件は、粒径測定前に超音波で1分間処理し、測定時の分散媒体として水を用い、体積基準のメジアン径を、室温にて測定した。
【0058】
(6)リグノセルロース原料中のリグニン含有量の算出
リグノセルロース原料中のリグニン含有量は、下記式により算出した。なお、工程(2)の初期基質である酵素糖化残渣、および工程(2)の最終残渣についても、リグニン含有量の測定方法は同様である。
リグニン含有量(g)=〔真の酸不溶性リグニン含率(%)+酸可溶性リグニン含率(%)〕×試料採取量(乾基準)(g)/100
ここで、真の酸不溶性リグニン含率及び酸可溶性リグニン含率は、以下に示す方法により算出した。
【0059】
(真の酸不溶性リグニン含率の算出)
真の酸不溶性リグニン含率は、下記式により、粗酸不溶性リグニン中の灰分率を差し引いて算出した。
真の酸不溶性リグニン含率(%)=粗酸不溶性リグニン含率(%)×〔100−灰分率(%)〕/100
【0060】
(粗酸不溶性リグニン含率の算出)
粉砕したリグノセルロース原料を、60℃で真空乾燥した。この乾燥試料300mgをバイアルに入れ、72%硫酸を3ml加えて30℃の水浴中で1時間適宜撹拌した。その後、水84mlを加えて耐圧瓶に移し、オートクレーブを用いて120℃で1時間処理を行った。その後、試料が70℃以下にならないうちに取り出し、予め恒量を測定しておいた1G−3のガラスフィルターを用いて吸引ろ過を行った。ろ液(A)は保管し、残渣が付着したガラスフィルターはよく水洗した後、105℃で乾燥して、恒量を測定し、粗酸不溶性リグニン採取量(乾基準)を求めた。
粗酸不溶性リグニン含率(%)=〔リグニン残査重量(g)/試料採取量(乾基準)(g)〕×100
【0061】
(灰分率の算出)
粗酸不溶性リグニンを予め恒量を測定したるつぼに移し、575℃で12時間保持し、その後冷却して、るつぼの恒量を測定し、灰化後試料重量を求め、下記式により灰分率を求めた。
灰分率(%)=〔灰化後試料重量(g)/粗酸不溶性リグニン採取量(乾基準)(g)〕×100
【0062】
(酸可溶性リグニン含率の算出)
酸可溶性リグニンの測定は以下の方法により行った。
ろ液(A)を100mlに定容し、UV−Vis吸光光度計を用いて、205nmにおける吸光度を測定した。この時、吸光度が0.3〜0.8になるように適宜希釈した。
酸可溶性リグニン含率(%)=d×v×(As−Ab)/(a×w)×100
d:希釈倍率、v:ろ液定容量(L)、As:試料溶液の吸光度、Ab:ブランク溶液の吸光度、a:リグニンの吸光係数、w:試料採取量(乾基準)(g)
リグニンの吸光係数(a)は、参考資料(「リグニン化学研究法」、ユニ出版株式会社発行)において、既報の平均値として記載されている値110L/g/cmを用いた。
【0063】
(7)リグニン分解物のリグニン抽出率(リグニン収率)の算出法
リグニン収率は下記のように算出した。
(工程(2)において酵素糖化残渣を原料とした場合)
リグニン収率(質量%)=〔(酵素糖化残渣の仕込み質量(g)×酵素糖化残渣中のリグニン含量(%))―(工程(2)で得られた最終残渣の質量(g)×工程(2)で得られた最終残渣のリグニン含率(%))〕/〔酵素糖化残渣の仕込み質量(g)×酵素糖化残渣中のリグニン含量(%)〕×100×K
K(%)=〔酵素糖化残渣の回収量(g)×酵素糖化残渣中のリグニン含量(%)〕/〔リグノセルロース原料の仕込み質量(g)×リグノセルロース原料中のリグニン含量(%)〕
なお、工程(2)で得られた最終残渣とは、工程(2)で得られる加熱処理液中の不溶分のことである。
(工程(2)において塩基性化合物添加粉砕バガスまたは粉砕バガスを原料とした場合)
リグニン収率(質量%)=〔(塩基性化合物添加粉砕バガスまたは粉砕バガスの仕込み質量(g)×塩基性化合物添加粉砕バガスまたは粉砕バガス中のリグニン含量(%))―(工程(2)で得られた最終残渣の質量(g)×工程(2)で得られた最終残渣のリグニン含率(%))〕/〔塩基性化合物添加粉砕バガスまたは粉砕バガスの仕込み質量(g)×塩基性化合物添加粉砕バガスまたは粉砕バガス中のリグニン含量(%)〕
【0064】
(8)リグニン分解物のリグニン純度の測定方法
リグニン純度は下記のように算出した。
リグニン純度(質量%)=リグニン含有量(g)×〔真の酸不溶性リグニン含率(%)+酸可溶性リグニン含率(%)〕
【0065】
(9)リグニン分解物の脂肪族水酸基物質量の測定方法
各リグニン分解物20mg(乾重量)を重クロロホルム/ピリジン(体積比1:1.6)混合溶媒500μLに溶解させて、0.0123mmol/mLシクロヘキサノールの重クロロホルム/ピリジン(体積比1:1.6)混合溶媒溶液100μLを添加して、2−chloro−4,4,5,5−tetramethyl−1,3,2−dioxophospholane 100μLを添加した。反応液を1時間25℃で攪拌した後、1mLメスフラスコに入れ、クロム(III)アセチルアセトナートの重クロロホルム/ピリジン(体積比1:1.6)混合溶媒溶液100μLを添加して、1mLにメスアップした試料を、
31P−NMR測定を行った。パルス遅延時間:30秒、積算回数:256回、温度:25℃での条件で測定して得られたチャート中の、シクロヘキサノールリン化物の積分値と物質量を内部標準にして、脂肪族水酸基の積分値から換算物質量を算出した。
【0066】
実施例1
(前処理)
リグノセルロース原料として、バガス(サトウキビの搾りかす、水分量7.0%)を減圧乾燥機「VO−320」(アドバンテック東洋株式会社製)の中に入れ、窒素流通下の条件で2時間減圧乾燥し、水分量2.0%、ホロセルロース含有量71.3質量%、リグニン含有量22.8%の乾燥バガスを得た。
得られた乾燥バガス100gと、粒径0.7mmの粒状の水酸化ナトリウム「トーソーパール」(東ソー株式会社製)8.8g(ホロセルロースを構成するAGU1モルに対し0.5モル相当量)とを、バッチ式振動ミル「MB−1」(中央化工機株式会社製:容器全容積3.5L、ロッドとして、φ30mm、長さ218mm、断面形状が円形のSUS304製ロッド、ロッド充填率57%)に投入し、水冷しながら2時間粉砕処理して粉砕バガス(セルロースI型結晶化度2%、平均粒径56.6μm)を得た。得られた粉砕バガス100g(塩基性化合物を除いた乾燥原料換算)を、1.0M 塩酸で中和した。
【0067】
〔工程(1)〕
粉砕バガス100gを2.0Lの100mM酢酸緩衝液(pH5.0)に投入し、セルラーゼ・ヘミセルラーゼ製剤「Cellic CTec 2」(ノボザイム社製)を20ml添加し、50℃に保ちながら600rpmで撹拌し酵素糖化を行った。24時間後に反応を終了させ、遠心分離により上清と糖化残渣に分離した。糖化残渣は洗浄・遠心分離を繰り返し行い、凍結乾燥させた。上述の方法により糖化残渣のリグニン含有量を測定した。
【0068】
〔工程(2)〕
糖化残渣(絶乾重量780mg)を反応容器(容量20ml)に取り、溶媒としてグリセリンを21.4g加えて密閉した後、160℃、0.2MPaで30分間、900rpmで撹拌しながらマイクロ波加熱装置「Initiator 60」(バイオタージ・ジャパン株式会社製)を用いてマイクロ波加熱を行い、加熱処理液を得た。
【0069】
〔工程(3)〕
工程(2)で得られた加熱処理液を、蒸留水300ml中にデカンテーションして、混合液を充分良く攪拌した。残渣を濾過し、充分に水で洗浄した後、アセトン、水、及びアセトン/水混合溶媒で抽出液が透明になるまで洗浄した。ろ液および洗浄により得られた抽出液を集め、抽出液に含まれる溶媒を減圧留去した。得られた固形分を再度水で洗浄し、遠心分離して得られた水不溶分を凍結乾燥してリグニン分解物を得た。結果を表1に示す。
【0070】
実施例2
工程(2)で、溶媒としてエチレングリコール18.9gを用いた以外は、実施例1と同様の条件でリグニン分解物を得た。結果を表1に示す。
【0071】
実施例3
工程(2)で、酸として4.0M塩化水素ジオキサン溶液200μLを溶媒とともに添加した点と、そして工程(2)後に、工程(3)で集めた抽出液に1.0M 水酸化ナトリウムを800μL添加して中和した点以外は、実施例1と同様の条件でリグニン分解物を得た。結果を表1に示す。
【0072】
実施例4
工程(2)で、溶媒としてグリセリン21.4gを用いて密閉した後、160℃、0.2MPaで30分間、900rpmで撹拌しながらマイクロ波加熱装置を用いてマイクロ波加熱を行った後に、反応容器を開放して、4.0M塩化水素ジオキサン溶液200μLを溶媒に添加して再度密封し、160℃、0.2MPaで30分間、900rpmで撹拌した以外は、実施例1と同様の条件でリグニン分解物を得た。結果を表1に示す。
【0073】
比較例1
実施例1と同様の手順により得られた粉砕バガス100g(塩基性化合物を除いた乾燥原料換算)を、1.0M 塩酸で中和した。次に工程(1)を行わず、工程(2)の原料として前記で得た粉砕バガスを用いた以外は、実施例1と同様の条件で行った。結果を表1に示す。
【0074】
比較例2
工程(2)で、溶媒にエタノール22.8gを用いた以外は、実施例1と同様の条件でリグニン分解物を得た。結果を表1に示す。
【0075】
比較例3
工程(2)で、溶媒にアセトン20.3gを用いた以外は、実施例1と同様の条件でリグニン分解物を得た。結果を表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1から、本発明に属する実施例1と実施例2は、工程(1)を行わなかった比較例1と比べて、20〜30%以上も高いリグニン純度のリグニン分解物が得られ、かつ収率も高い。このようにリグニン純度が飛躍的に向上したこと、及び、多糖類の含有率が低いために多くの有機溶媒への溶解性が向上したことで、得られた高純度リグニン分解物は、そのままで幅広い産業用途に利用することが可能であり、また得られた高純度リグニン分解物を誘導体化反応などに付す場合にも、その反応効率を向上させることができるので、産業上有用である。また実施例1と実施例2は、水酸基を一つしかもたないエタノール溶媒を用いた比較例2と比べて、リグニン分解物の収率が高いことから、2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールを溶媒に用いることが好ましいことがわかる。また一般的にバイオマス分解で用いる代表的な溶媒であるアセトンを用いた比較例3はいずれの実施例と比較してもリグニン分解物の収率が低いことがわかる。次に、酸として塩酸を添加した実施例3も、実施例1、実施例2と同様に高純度のリグニン分解物を高収率で得られることがわかる。
なお、実施例4のように、工程(2)において酸無添加で、脂肪族多価アルコール溶媒で加熱処理した後に、酸を添加して更に加熱処理すると、高純度のリグニンを、他の実施例よりもさらに高収率で得られることがわかった。
【0078】
さらに、実施例1〜4で得られた高純度リグニンを、更なる糖化により純度を100%近くまで高めた後に、前述の方法によって脂肪族水酸基を定量したところ、実施例1では5.11(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度95%)、実施例2では3.90(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度97%)、実施例3では4.59(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度92%)、実施例4では4.60(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度94%)と多数含んでいたのに対して、糖化処理をしない比較例1の場合には2.43(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度93%)、また1価の脂肪族アルコールであるエタノールを用いた比較例2では3.10(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度93%)、リグニン分解で一般的に使用される代表的溶媒であるアセトンを用いた比較例3の場合には2.43(mmol/gリグニン分解物;リグニン純度96%)であった。この結果より、脂肪族水酸基を豊富に有するリグニン分解物を製造するためには、糖化残渣の加熱処理に用いる溶媒として2価以上、6価以下の脂肪族多価アルコールを用いるのが好ましいことがわかった。このように脂肪族水酸基が多数付加したリグニンを高純度で得る技術によれば、誘導体化反応を効率的に行うことができる高純度リグニンを作ることが可能となり、分散剤、抗菌剤、農薬、及び熱硬化性樹脂、セメント分散剤、蓄電池用分散剤、香粧品用途の添加剤、その他の機能性材料として幅広い用途に有効に利用することができる。