【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)日本複合材料学会及び公益社団法人日本材料学会、講演論文集、平成25年3月7日発行 (2) Canadian Association for Composite Structures and Materials、19th International Conference on Composite Materials(ICCM−19)eProceedings、第7486頁〜第7493頁、平成25年7月28日発行
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブランク解析モデル生成部は、前記所定距離と前記シェル要素の弾性率との関係に基づいて、前記曲げ剛性として前記所定距離と前記弾性率を算出して前記シェル要素に定義する
ことを特徴とする請求項1、2のいずれか1項に記載のFEM解析モデル生成システム。
前記コンピュータを前記ブランク解析モデル生成部として機能させるときは、前記所定距離と前記シェル要素の弾性率との関係に基づいて、前記曲げ剛性として前記所定距離と前記弾性率を算出して前記シェル要素に定義するように機能させる
ことを特徴とする請求項6、7のいずれか1項に記載のFEM解析モデル生成プログラム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、プレス成形工程におけるしわ発生のメカニズムは、面内の圧縮変形により生じた圧縮応力が座屈限界応力を上回り、面内圧縮変形が面外の曲げ変形に分岐する座屈問題として説明できる。この座屈限界応力には曲げ剛性と座屈長が大きく影響するため、プレス成形工程における代表的な成形不良であるしわの評価には、曲げ剛性を考慮した解析が必要になる。
【0008】
特に、織物材等をブランク材としてプレス成形する場合、その内部の強化材間等ですべりが発生することがあり、このすべりが大きいほど曲げ剛性が小さくなると共に、この強化材の材料特性や強化材間の接触摩擦に応じて発生するすべりの方向や大きさが異なるので、織物材等の種類に応じて、または、同じ織物材等でも曲げる方向によって曲げ剛性が異なる。したがって、特に織物材等のプレス成形の解析において、曲げ剛性を考慮する必要性が大きい。
【0009】
しかし、非特許文献1に記載された従来技術では、そもそも面外の曲げ剛性が何ら考慮されない膜要素で解析モデルを作成しており、該解析モデルを用いた解析では、面外の曲げ剛性による影響が無視されてしまうため、解析精度が不十分であった。
【0010】
また、強化材からなる繊維束の織物構造を詳細にモデル化して解析を行う、いわゆるメソモデル解析を行うことも考えられる。この解析の場合、曲げ剛性も考慮した解析を行うことができるが、解析モデルの規模が大きくなるので、非常に大きな計算コストを必要となり、実際の設計に適用するのは困難である。さらに、ブランク材が複層の織物材等である場合、層数に応じて解析モデルの規模が大きくなるため、実際の設計への適用は非常に難しい。
【0011】
そこで、本発明は、プレス成形工程のシミュレーション解析において、計算コストを抑えながら曲げ剛性を考慮してしわの発生をより高精度に予測することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明に係るプレス成形のFEM解析モデル作成システムおよびプログラムとそれを備えたFEM解析システムおよびプログラムは、次のように構成したことを特徴とする。
【0013】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするための解析モデルを生成するFEM解析モデル生成システムであって、
前記ブランク材の材料特性データと形状データとを取得するブランク材データ取得部と、
前記ブランク材データ取得部で取得した前記ブランク材の前記形状データに基づき、前記ブランク材をメッシュで複数の要素に分割された基本モデルを生成する基本モデル生成部と、
前記基本モデル生成部で生成された前記基本モデルの前記各要素について、厚み中心位置に膜要素を設定すると共に、前記膜要素とその節点を共有し、FEM解析時に前記中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われるシェル要素を設定して重層モデルを作成する重層モデル作成部と、
前記材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を前記膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータを前記シェル要素に定義して前記ブランク材の解析モデルを生成するブランク解析モデル生成部と、
を有することを特徴とする。
【0014】
本願の請求項2に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするための解析モデルを生成するFEM解析モデル生成システムであって、
前記ブランク材の材料特性データと形状データとを取得するブランク材データ取得部と、
前記ブランク材データ取得部で取得した前記ブランク材の前記形状データに基づき、その厚み中心位置に膜を設定すると共に、前記膜の両側にそれぞれシェルを重ねて重層化されたブランク材を作成する重層化ブランク材作成部と、
前記重層化ブランク材作成部で作成された重層化ブランク材を複数の要素に分割し、前記中心位置に配置された膜でなる膜要素と、FEM解析時に前記中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われる前記シェルでなるシェル要素とが節点を共有させて重なる重層モデルを作成する重層モデル作成部と、
前記材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を前記膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータを前記シェル要素に定義して前記ブランク材の解析モデルを生成するブランク解析モデル生成部と、
を有することを特徴とする。
【0015】
また、本願の請求項3に記載の発明は、前記請求項1、2のいずれか1項に記載の発明において、
前記ブランク解析モデル生成部は、前記所定距離と前記シェル要素の弾性率との関係に基づいて、前記曲げ剛性として前記所定距離と前記弾性率を算出して前記シェル要素に定義する
ことを特徴とする。
【0016】
また、本願の請求項4に記載の発明は、前記請求項3に記載の発明において、
前記ブランク材は、前記直交異方性材であって、
前記ブランク解析モデル生成部は、前記シェル要素のせん断弾性率を所定値に設定し、前記シェル要素の前記中立面の前記所定距離と前記シェル要素の弾性率との関係に基づいて、前記せん断弾性率から前記所定距離を算出し、前記所定距離から前記シェル要素の0°および90°方向の弾性率を算出して前記シェル要素に定義する
ことを特徴とする。
【0017】
また、本願の請求項5に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするFEM解析システムであって、
金型の解析モデルを生成する金型解析モデル生成部と、
前記請求項1から4のいずれか1項に記載のFEM解析モデル生成システムで生成された前記ブランク材解析モデルと、生成された前記金型解析モデルと、設定された解析条件とに基づいて、FEM解析を行う解析部と、
を有することを特徴とする。
【0018】
また、本願の請求項6に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするための解析モデルを生成するFEM解析モデル生成プログラムであって、
コンピュータを
前記ブランク材の材料特性データと形状データとを取得するブランク材データ取得部、
前記ブランク材データ取得部で取得した前記ブランク材の前記形状データに基づき、前記ブランク材をメッシュで複数の要素に分割された基本モデルを生成する基本モデル生成部、
前記基本モデル生成部で生成された前記基本モデルの前記各要素について、厚み中心位置に膜要素を設定すると共に、前記膜要素とその節点を共有し、FEM解析時に前記中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われるシェル要素を設定して重層モデルを作成する重層モデル作成部、および、
前記材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を前記膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータを前記シェル要素に定義して前記ブランク材の解析モデルを生成するブランク解析モデル生成部、
として機能させることを特徴とする。
【0019】
また、本願の請求項7に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするための解析モデルを生成するFEM解析モデル生成プログラムであって、
コンピュータを
前記ブランク材の材料特性データと形状データとを取得するブランク材データ取得部、
前記ブランク材データ取得部で取得した前記ブランク材の前記形状データに基づき、その厚み中心位置に膜を設定すると共に、前記膜の両側にそれぞれシェルを重ねて重層化されたブランク材を作成する重層化ブランク材作成部、
前記重層化ブランク材作成部で作成された重層化ブランク材を複数の要素に分割し、前記中心位置に配置された膜でなる膜要素と、FEM解析時に前記中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われる前記シェルでなるシェル要素とが節点を共有させて重なる重層モデルを作成する重層モデル作成部、および、
前記材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を前記膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータを前記シェル要素に定義して前記ブランク材の解析モデルを生成するブランク解析モデル生成部、
として機能させることを特徴とする。
【0020】
また、本願の請求項8に記載の発明は、前記請求項6、7のいずれか1項に記載の発明において、
前記コンピュータを前記ブランク解析モデル生成部として機能させるときは、前記所定距離と前記シェル要素の弾性率との関係に基づいて、前記曲げ剛性として前記所定距離と前記弾性率を算出して前記シェル要素に定義するように機能させる
ことを特徴とする。
【0021】
また、本願の請求項9に記載の発明は、前記請求項8に記載の発明において、
前記コンピュータを前記ブランク材データ取得部として機能させるときは、前記ブランク材として直交異方性材を取得するように機能させ、
前記コンピュータを前記ブランク解析モデル生成部として機能させるときは、前記シェル要素のせん断弾性率を所定値に設定し、前記シェル要素の前記中立面の前記所定距離と前記シェル要素の弾性率との関係に基づいて、前記せん断弾性率から前記所定距離を算出し、前記所定距離から前記シェル要素の0°および90°方向の弾性率を算出して前記シェル要素に定義するように機能させる
ことを特徴とする。
【0022】
また、本願の請求項10に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするFEM解析プログラムであって、
コンピュータを
前記ブランク材の材料特性データと形状データとを取得するブランク材データ取得部、
前記ブランク材データ取得部で取得した前記ブランク材の前記形状データに基づき、前記ブランク材をメッシュで複数の要素に分割された基本モデルを生成する基本モデル生成部、
前記基本モデル生成部で生成された前記基本モデルの前記各要素について、厚み中心位置に膜要素を設定すると共に、前記膜要素とその節点を共有し、FEM解析時に前記中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われるシェル要素を設定して重層モデルを作成する重層モデル作成部、
前記材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を前記膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータを前記シェル要素に定義して前記ブランク材の解析モデルを生成するブランク解析モデル生成部、
金型の解析モデルを生成する金型解析モデル生成部、および、
生成された前記ブランク材解析モデルと前記金型解析モデルと設定された解析条件とに基づいて、FEM解析を行う解析部、
として機能させることを特徴とする。
【0023】
また、本願の請求項11に記載の発明は、
織物材または複合材をブランク材とするプレス成形をFEM解析によりシミュレーションするFEM解析プログラムであって、
コンピュータを
前記ブランク材の材料特性データと形状データとを取得するブランク材データ取得部、
前記ブランク材データ取得部で取得した前記ブランク材の前記形状データに基づき、その厚み中心位置に膜を設定すると共に、前記膜の両側にそれぞれシェルを重ねて重層化されたブランク材を作成する重層化ブランク材作成部、
前記重層化ブランク材作成部で作成された重層化ブランク材を複数の要素に分割し、前記中心位置に配置された膜でなる膜要素と、FEM解析時に前記中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われる前記シェルでなるシェル要素とが節点を共有させて重なる重層モデルを作成する重層モデル作成部、
前記材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を前記膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータを前記シェル要素に定義して前記ブランク材の解析モデルを生成するブランク解析モデル生成部、
金型の解析モデルを生成する金型解析モデル生成部、および、
生成された前記ブランク材解析モデルと前記金型解析モデルと設定された解析条件とに基づいて、FEM解析を行う解析部、
として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成により、本願各請求項に係る発明によれば、次の効果が得られる。
【0025】
例えば金属薄板のような均質な連続体の場合、その曲げ剛性は、圧縮および引張の材料特性から自動的に決定されるものであるが、織物材または複合材の場合、不均一な不連続体であり、その内部ですべりが生じることがある。このすべりは曲げ剛性に影響するので、その曲げ剛性は、圧縮および引張の材料特性からは自動的に決定できない。しかし、上述のように、より高精度の解析を行うには、曲げ剛性の考慮が必要である。
【0026】
請求項1に係る発明によれば、厚み中心位置に膜要素を設定すると共に、膜要素とその節点を共有し、FEM解析時に中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定距離離間しているものとして扱われるシェル要素を設定し、そして、面内の応力ひずみ特性を膜要素に定義すると共に、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータをシェル要素に定義したブランク材の解析モデルを生成できる。したがって、膜要素とシェル要素とを組み合わせたモデリングを行うことで、面内の特性と完全に独立して面外の曲げ剛性を表すためのデータを設定することができるため、実際には不連続体である織物材および複合材を連続体の解析モデルとして表現することができる。したがって、この解析モデルを用いてFEM解析を行うことで、曲げ剛性を考慮したより精度の高い解析結果が得られる。
【0027】
また、複層の場合、層間ですべりが生じることがあり、この層間のすべり具合も曲げ剛性に影響する。請求項1に係る発明によれば、この複層としてのブランク材の実際の曲げ剛性をブランク材データとして取得させるだけで、層間のすべりが影響するこの曲げ剛性を考慮した解析モデルを、単層の場合と同じ規模で作成することができる。そのため、この解析モデルを用いてFEM解析を行う際、計算コストは単層の場合とほぼ変わらない。よって、特に積層枚数が100層を超えるような非常に多い場合に計算コストを大幅に低減できる。したがって、請求項1に係る発明によれば、プレス成形工程のシミュレーション解析において、計算コストを抑えながら曲げ剛性を考慮してしわの発生をより高精度に予測することができる。
【0028】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明と、ブランク解析モデルの生成の際、複数の要素に分割するメッシュ化と、膜の両側にシェルを重ねる重層化の順序が逆である点で実質的に相違する。しかし、この請求項2に係る発明によれば、結果として請求項1に係る発明と同様のブランク解析モデルを生成できるので、請求項1に係る発明と同様の効果を得ることができると共に、上述のメッシュ化と重層化の順序は任意に設定可能であるので、実際にFEM解析モデル生成システムを設計する際の自由度を向上させることができる。
【0029】
請求項3に係る発明によれば、ブランク解析モデル生成部は、材料特性データに基づいて、面外の曲げ剛性を表すためのデータとして、シェル要素中立面の所定距離とシェル要素の弾性率を算出してシェル要素に設定するので、実際の面外の曲げ剛性を反映したブランク解析モデルを生成することができ、この解析モデルを用いることで、曲げ剛性をより正確に考慮した、さらに高精度な解析結果を得ることができる。
【0030】
請求項4に係る発明によれば、ブランク材として広く使用されている平織り等の直交異方性材を用いる場合に、請求項1に係る発明と同様の効果を得ることができる。
【0031】
請求項5、10、11に係る発明によれば、解析部において、生成されたブランク解析モデルを解析するための格別な構成が必要ないので、汎用の解析ソルバを用いてFEM解析を行うことができる。
【0032】
請求項6に係る発明によれば、請求項1に係るFEM解析モデル生成システムの発明と同様の効果を得ることができる。
【0033】
請求項7に係る発明によれば、請求項2に係るFEM解析モデル生成システムの発明と同様の効果を得ることができる。
【0034】
請求項8に係る発明によれば、請求項3に係るFEM解析モデル生成システムの発明と同様の効果を得ることができる。
【0035】
請求項9に係る発明によれば、請求項4に係るFEM解析モデル生成システムの発明と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る織物材または複合材を用いるプレス成形のFEM解析モデル生成システムおよびプログラムとそれを備えたFEM解析システムおよびプログラムの実施形態について説明する。まず、FEM解析モデル生成システム100をサブシステムとして含むトータルシステムとしてのFEM解析システム1について説明する。
【0038】
(1)FEM解析システムの概要
図1は、織物材または複合材を用いるプレス成形のFEM解析システム1の中心となるコンピュータ10の構成を示す。このコンピュータ10は、CPU等の処理装置11と、メモリまたはハードディスク等の記憶装置12と、キーボード、マウスまたはCD−ROMドライブ等の入力装置13と、液晶ディスプレイまたはプリンタ等の出力装置14とを有する。
【0039】
(1−1)処理装置
図2は、
図1の処理装置11の構成を示す。この処理装置11は、一連の作業プロセスを結合したものである。その中には、ブランク解析モデル生成システム100がFEM解析システム1のサブシステムとして含まれている。
【0040】
このブランク解析モデル生成システム100は、ブランク材データDT1を取得するブランク材データ取得部110、基本モデルM
1を生成する基本モデル生成部120、重層モデルM
2を作成する重層モデル作成部130、ブランク解析モデルM
3を生成するブランク解析モデル生成部140から主に構成されている。
【0041】
また、処理装置11は、当該プレス成形装置の金型形状データDT5を取得する金型形状データ取得部200と、金型形状データDT5に基づいて金型解析モデルmを生成する金型解析モデル生成部220とを有する。さらに、処理装置11は、ブランク解析モデルM
3と金型解析モデルmを用いてプレス成形シミュレーションを行う解析部300を有し、プレス成形シミュレーション結果を出力装置14に表示するための解析結果表示部400を有している。
【0042】
(1−2)記憶装置
図3は、
図1の記憶装置12の構成を示す。この記憶装置12は、プログラム記憶部12Aとデータ記憶部12Bから主に構成されている。プログラム記憶部12Aは、基本モデル生成プログラムPR1、重層モデル作成プログラムPR2、ブランク解析モデル生成プログラムPR3、金型解析モデル生成プログラムPR4、解析プログラムPR5(いわゆる解析ソルバ)および結果表示プログラムPR6をそれぞれ格納するプログラム格納部12A
1〜12A
6を有している。各プログラムPR1〜PR6は、上述の処理装置11における基本モデル生成部120、重層モデル作成部130、ブランク解析モデル生成部140、金型解析モデル生成部220、解析部300、解析結果表示部400によってそれぞれ実行される。
【0043】
また、データ記憶部12Bは、ブランク材データDT1、基本モデルデータDT2、重層モデルデータDT3、ブランク解析モデルデータDT4、金型形状データDT5よび金型解析モデルデータDT6をそれぞれ格納するデータ格納部12B
1〜12B
6有している。以下、これらデータDT1〜DT6ついて説明する。
【0044】
(1−2−1)ブランク材データ
ブランク材データDT1は、ブランク材Bの材料特性と形状等に関するデータである。このブランク材データDT1は、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、CD−ROMドライブ等の入力装置13を介してブランク材データ取得部110によって処理装置11に入力され、記憶装置12に記憶される。
【0045】
ブランク材Bの材料特性に関するデータには、応力ひずみ特性データテーブルと曲げ剛性データテーブルが含まれる。ブランク材Bが直交異方性材料の場合、具体的には、
図4に示すように、応力ひずみ特性データテーブルには、0°、90°方向およびせん断の応力ひずみ特性が含まれる。また、曲げ剛性データテーブルには、0°、45°および90°方向の曲げ剛性EI
0、EI
45、EI
90が含まれる。
【0046】
0°、90°方向の応力ひずみ特性は、ブランク材Bと同じ材料で形成された試験片を用いた実際の引張試験によって得られる。また、せん断の応力ひずみ特性は、ピクチャフレーム試験もしくは+/−45°配向の試験片を伸張させるBias−Extension試験によって得られる。ブランク材Bが複数の織物材等が積層されたものである場合、上述の試験は、ブランク材と同様に積層された状態である複層の試験片を用いて行う。なお、一般的に、0°方向、せん断および90°方向の応力ひずみ特性は、その弾性範囲では、ひずみに対する応力の変化率(傾き)がほぼ一定であり、これらの変化率は、0°方向の引張弾性率E
0、せん断弾性率Gおよび90°方向の引張弾性率E
90をそれぞれ技術的に意味する。
【0047】
0°、45°および90°方向の曲げ剛性EI
0、EI
45、EI
90は、ブランク材Bと同じ材料で形成された試験片を用いた実際の曲げ試験によって得られる。ブランク材Bが複数の織物材等が積層されたものである場合、上述の試験は、ブランク材と同様に積層された状態である複層の試験片を用いて行う。なお、一般的に、0°、45°および90°方向の曲げ試験によって、曲率に対するモーメントの大きさが得られるが、その弾性範囲では、曲率に対するモーメントの変化率(傾き)はほぼ一定であり、これらの変化率は、0°、45°および90°方向の曲げ剛性EI
0、EI
45、EI
90をそれぞれ技術的に意味する。
【0048】
なお、上述の材料特性に関するデータを得るために、試験片を用いて実際に試験を行う替わりに、ブランク材Bの一部について、その構造を詳細にモデル化したものを解析するメソモデル解析を行い、この解析結果を上述の材料特性に関するデータとして用いてもよい。
【0049】
ブランク材Bの形状に関するデータには、外形線データテーブルと厚みデータが含まれる。外形線データテーブルは、シート状のブランク材Bをプレス方向から視たときの外形線の形状を示すデータであり、ブランク材BのCADデータ等に基づいてブランク材データ取得部110によって生成される。具体的には、外形線データテーブルは、
図5に示すように、線分番号L…、線分タイプ(フィレット、円弧、直線)、第1端点座標(XY座標)、第2端点座標(XY座標)、中心座標(XY座標)、半径R、開始角度αおよび終了角度βから構成されている。
【0050】
ここで、ブランク材Bの外形線は、複数の線分から構成された閉曲線として考えているため、外形線データは、各線分について、フィレット、円弧または直線のいずれかを示す線分タイプと、線分の両端のXY座標を示す第1、第2端点座標と共に、線分が円弧またはフィレットの場合、その中心座標および半径Rと、線分の両端の位相を示す開始角度αおよび終了角度βをデータとして有している。
【0051】
(1−2−2)基本モデルデータ
基本モデルデータDT2は、ブランク材Bの外形線で囲まれた面内を複数の要素に分割した基本モデルM
1のメッシュデータである。この基本モデルデータDT2は、上述のブランク材データDT1の外形線データテーブルと厚みデータに基づいて、基本モデル生成部120によって生成され、記憶装置12に記憶される。
【0052】
基本モデルデータDT2には、節点座標テーブルと要素構成データテーブルが含まれる。具体的には、節点座標テーブルには、各節点のXYZ座標が含まれ、要素構成データテーブルには、各要素形状が四角形の場合、第1節点番号、第2節点番号、第3節点番号および第4節点番号が含まれる。
【0053】
(1−2−3)重層モデルデータ
重層モデルデータDT3は、基本モデルM
1の各要素について、その厚み中心位置に膜要素を設定し、該膜要素とその節点を共有し、FEM解析時に中心位置より両側に所定距離離間しているものとして扱われるシェル要素を設定した重層モデルM
2に関するデータである。この重層モデルデータDT3は、基本モデルデータDT2に基づいて重層モデル作成部130によって作成され、記憶装置12に記憶される。
【0054】
重層モデルデータDT3には、部品構成データテーブル、節点座標テーブルおよび要素構成データテーブルが含まれる。具体的には、部品構成データテーブルには、各部品の要素タイプ(膜要素またはシェル要素)と厚みが含まれ、節点座標テーブルには、各節点のXYZ座標が含まれ、要素構成データテーブルには、各要素の部品番号、第1節点番号、第2節点番号、第3節点番号および第4節点番号が含まれる。
【0055】
(1−2−4)ブランク解析モデルデータ
ブランク解析モデルデータDT4は、解析部300で用いられるブランク材Bの解析モデルM
3を示すデータである。このブランク解析モデルデータDT4は、重層モデルデータDT3に基づいてブランク解析モデル生成部140によって生成され、記憶装置12に記憶される。
【0056】
ブランク解析モデルデータDT4には、部品構成データテーブル、節点座標テーブルおよび要素構成データテーブルが含まれる。具体的には、
図6に示すように、部品構成データテーブルには、各部品の要素タイプ(膜要素またはシェル要素)と厚みが含まれ、節点座標テーブルには、各節点のXYZ座標が含まれる。また、要素構成データテーブルには、各要素の部品番号、第1節点番号、第2節点番号、第3節点番号、第4節点番号と共に、各シェル要素の中立面の膜要素からのオフセット量d、各シェル要素の弾性率E
shellおよび各膜要素の応力ひずみ特性が含まれる。
【0057】
(1−2−5)金型形状データ
金型形状データDT5は、プレス金型のCADデータ等の形状データである。この金型形状データDT5は、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、CD−ROMドライブ等の入力装置13を介して金型形状データ取得部200によって処理装置11に入力され、記憶装置12に記憶される。
【0058】
(1−2−6)金型解析モデルデータ
金型解析モデルデータDT6は、プレス金型の解析モデルmを示すデータである。この金型解析モデルデータDT6は、金型形状データDT5に基づいて金型解析モデル生成部220によって生成され、記憶装置12に記憶される。
【0059】
(1−2−7)FEM解析データ
FEM解析データは、解析部300での解析中に繰り返し演算されるブランク解析モデルM
3の各要素または各積分点に関するデータである。このFEM解析データには、積分点データテーブル、要素構成テーブル、材料属性データテーブル、節点座標テーブルが含まれる。
【0060】
図7に示すように、積分点データテーブルには、FEM解析の対象となるブランク解析モデルM
3の各要素に含まれる積分点番号P1、P2・・・と、各積分点が含まれる要素番号E1、E2・・・、各積分点の要素座標系での位置成分(X、Y、Z)と応力成分(σ
XX、σ
XY、σ
XZ、σ
YX、σ
YY、σ
YZ、σ
ZX、σ
ZY、σ
ZZ)とひずみ成分(ε
XX、ε
XY、ε
XZ、ε
YX、ε
YY、ε
YZ、ε
ZX、ε
ZY、ε
ZZ)が含まれる。
【0061】
図8(a)に示すように、要素構成テーブルには、要素番号E1、E2・・・、各要素の材料番号M1、M2・・・、面内積分点数および面外積分点数、各要素に含まれる第1節点番号、第2節点番号、第3節点番号および第4節点番号が含まれる。
【0062】
図8(b)に示すように、材料属性データテーブルには、材料番号M1、M2・・・、材料データが含まれる。
【0063】
図8(c)に示すように、節点座標テーブルには、節点番号N1、N2・・・、各節点の全体座標系での位置成分(X、Y、Z)が含まれる。
【0064】
このFEM解析データは、ブランク解析モデルデータDT4に基づいて解析部300で生成され、生成されたFEM解析データに基づいて解析結果出力部400によって出力装置14に解析結果が出力される。
【0065】
(1−3)入力装置
入力装置13は、CADデータ、メッシュデータ等のブランク材Bおよびプレス金型等の形状に関するデータの入力、解析条件等の各種条件の設定または本システム1の制御等に用いられる。
【0066】
(1−4)出力装置
出力装置14には、入力画面、編集画面、解析結果等が表示される。例えば、
図9に示すように、プレス成形後の織物材等の三次元形状がグラフィック表示される。
【0067】
(2)プレス成形装置
上述のFEM解析システム1によってシミュレーション解析を行うプレス成形について、
図10を参照しながら説明する。
【0068】
図10に示すように、このプレス成形を行うためのプレス成形装置は、ダイD、しわ押さえFおよびパンチPを有する。上型となるダイDは、その下面に成形品の形状に合わせた形状のキャビティCを有する。下型となるしわ押さえFは、その中央にダイDのキャビティCの輪郭にほぼ沿った形状の開口を有し、その周囲の上面にダイDのキャビティCの周囲の面に合わせた形状のしわ押さえ面を有する。同じく下型となるパンチPは、その外形はしわ押さえFの開口の形状に合わせた形状で若干小さく形成されており、その上面はダイDのキャビティCの形状に合わせた凸形状を有する。
【0069】
このパンチPは、しわ押さえFの開口の内部で昇降できるように、しわ押さえFの開口の内壁面に対して間隙を設けて配置されている。しわ押さえFに対してパンチPが最も下降した状態(
図10(a)参照)では、パンチPの最上端はしわ押さえFの開口の周囲の上面よりも低くなる。また、しわ押さえFに対してパンチPが最も上昇した状態(
図10(b)参照)では、パンチPの周囲の上面はしわ押さえFの開口の周囲の上面とほぼ同じ高さになる。
【0070】
このプレス成形装置を用いたプレス成形は、まず、
図10(a)に示すように、製品の材料となる平板状のブランク材Bの周囲を、ダイDのキャビティCの周囲の下面としわ押さえFの上面との間で所定の圧力で挟むことでしわ押さえを行う。
【0071】
次に、
図10(b)に示すように、パンチPを上昇させ、ブランク材BをダイDのキャビティC内に押し込み、ブランク材BをダイDとパンチPとの間に挟んで押圧する。なお、プレス成形の際に、パンチPを固定してダイDおよびしわ押さえFを昇降させてもよい。
【0072】
このプレス成形装置によれば、
図10(b)に示すような成形品B’が得られる。この成形品B’は、製品部、余肉部およびしわ押さえ部から構成されており、この製品部と余肉部は、上述のプレス成形装置のパンチPとダイDとの間のキャビティC内で成形され、このしわ押さえ部は、しわ押さえFとダイDとの間で成形される。この成形品B’を製品部の外形線である製品形状外形線に沿って打ち抜くことで、所望の製品を得ることができる。
【0073】
ここで、しわ押さえFおよびダイD間のしわ押さえ力が適切でないと成形品B’に割れやしわが生じるおそれがある。一般的に、しわ押さえ力が大きいと、局所的に延びて繊維の破断ひずみが生じる部分で割れが発生しやすくなる。一方、しわ押さえ力が小さいと、ダイDのキャビティC内へ絞り込まれたブランク材Bが座屈を起こしてしわが発生しやすくなる。
【0074】
(3)ブランク材となる織物材または複合材
上述のプレス成形装置によってプレス成形を行うブランク材Bとなる織物材または複合材について、
図11、
図12を参照しながら説明する。
【0075】
ここで扱う織物材とは、特に、有機または無機の繊維状の強化材(例えば、炭素繊維、ガラス繊維など)をシート状に織った材料であり、例えば、ドライファブリックなどがある。また、ここで扱う複合材とは、特に、基材となる上述の織物材または不織の繊維状の強化材に母材となる熱可塑性または熱硬化性の樹脂を含浸させてシート状にした材料であり、例えば、熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグシート、熱可塑性樹脂を含浸させたスタンパブルシートなどがある。
【0076】
図11に、ブランク材Bの一例として、連続炭素繊維が平織りされた織物材を示す。この織物材の織物構造は、拡大視すると
図12(a)に示すように、複数の連続炭素繊維が束ねられた連続繊維束を縦糸(白色を参照)と横糸(黒色を参照)とし、この縦糸と横糸が一束ずつ交差するように織られている。なお、この縦糸と横糸には、互いに異なる材料特性の強化材を用いてもよい。また、織物材の織り方は、平織りに限らず、例えば綾織、朱子織などであってもよい。
【0077】
この織物材は、
図12(b)に示すように、単層の状態でプレス成形される場合もあれば、
図12(c)に示すように、複数枚の同種または異種の織物材が積層された複層の状態でプレス成形される場合もある。なお、複合材の例として、その内部の基材となる強化材が上述の織物材と同様の構造を備え、この強化材を所望の樹脂で含浸したものがある。
【0078】
このような構造を備える織物材または複合材は、その繊維状の強化材が特定の方向に延びているので、その方向によって応力ひずみ特性、曲げ剛性などが異なる、すなわち、材料特性に配向性を有するのが特徴である。例えば、
図12(a)のように0°方向と90°方向に繊維が延びる平織りの織物構造の場合、一般に、斜め45°方向に引張すると最も変形する。また、複合材の場合、基材と母材の各材料特性、基材と母材の間の密着性などによって、その応力ひずみ特性、曲げ剛性などの材料特性が異なるのが特徴である。
【0079】
(4)制御方法
次に、上述の処理装置11による一連の制御方法について、以下に説明する。
【0080】
(4−1)ブランク解析モデル生成方法
ブランク解析モデル生成システム100によって、FEM解析時に用いるブランク解析モデルM
3を生成する方法について、
図13を参照しながら説明する。
【0081】
まず、ブランク材データ取得部110によって、ブランク材Bの材料特性と形状に関するブランク材データDT1を記憶装置12から取得する(S1)。
【0082】
次に、基本モデル生成部120によって、取得したブランク材データDT1の外形線データテーブルに基づき、ブランク材Bの外形線で囲まれた面内をメッシュ化して複数の要素に分割された2次元の基本モデルM
1を生成する(S2)。なお、一般に構造解析の分野において、メッシュ化は公知の技術であるため、詳細な説明を省略する。また、この実施形態では、メッシュの形状が四角形であるが、三角形であってもよい。
【0083】
次に、重層モデル作成部130によって、生成された基本モデルM
1の各要素について、
図17に示すように、その厚み中心位置に膜要素Efを設定すると共に、膜要素Efとその節点Nを共有し、FEM解析時に中心位置より両側にそれぞれ所定距離d(以下、「オフセット量d」という。)だけ離間しているものとして扱われるシェル要素Es1、Es2を設定して重層モデルM
2を作成する(S3)。
【0084】
作成された重層モデルM
2は、膜要素Efの厚みがブランク材Bの厚みtに設定されると共に、上下のシェル要素Es1、Es2の厚みがそれぞれt/2に設定される。なお、ブランク材が複層の場合、このブランク材Bの厚みtは、複層の場合もブランク材の最外間の厚みである。
【0085】
最後に、ブランク解析モデル生成部140によって、作成された重層モデルM
2に基づき、後述の方法でブランク材解析モデルM
3を生成する(S4)。
【0086】
ここで、ブランク解析モデル生成部140によるブランク材解析モデルM
3の生成方法について、
図14を参照しながら説明する。
図14は、
図13に示したメインルーチンを構成するブランク解析モデル生成(S4)のサブルーチンを示している。
【0087】
まず、ブランク材データDT1の材料特性データに基づき、面内応力ひずみ特性を膜要素Efに定義する(S11)。
【0088】
次に、後述の方法で、面外曲げ剛性を表すデータとして、シェル要素Es1、Es2の中立面のオフセット量dと弾性率E
shell0、E
shell45、E
shell90を算出する(S12)。
【0089】
最後に、算出された面外曲げ剛性を表すデータ(具体的には、シェル要素の中立面のオフセット量dと弾性率E
shell0、E
shell45、E
shell90)を各シェル要素Es1、Es2に定義し(S13)、上述のメインルーチンに戻る。
【0090】
ここで、上述の面外曲げ剛性を表すデータの算出方法について、
図15を参照しながら説明する。
図15は、
図14に示した面外曲げ剛性算出(S12)のサブルーチンを示している。
【0091】
一般に、ブランク材Bの0°、45°および90°方向の引張弾性率E
0、E
45、E
90を比較すると、45°方向の引張弾性率E
45が最も小さい。また、ポアソン比=0と仮定すると、当然に45°方向の引張弾性率E
45は、せん断弾性率G
shellの2倍となる。これらを前提にして以下を説明する。
【0092】
まず、シェル要素の45°方向の弾性率E
shell45を最小の引張弾性率E
45に基づいて次式(1)により算出し、シェル要素の45°方向の弾性率E
shell45とせん断弾性率G
shellの関係式(2)により、シェル要素のせん断弾性率G
shellを算出する(S21)。
【0095】
なお、式(1)では、シェル要素の45°方向の弾性率E
shell45を引張弾性率E
45の1/50としたが、この1/50の値に限るものではない。この値は、シェル要素の面内応力ひずみ特性による膜要素の面内応力ひずみ特性への影響が小さくて無視できる程度になるように設定すればよい。
【0096】
次に、シェル要素の中立面のオフセット量dと45°方向の弾性率E
shell45との関係を示す次式(3)を用いて、ブランク材Bの45°方向の曲げ剛性EI
45に基づいてオフセット量dを算出する(S22)。
【0098】
次に、ブランク材Bの0°方向の曲げ剛性EI
0に基づいて、シェル要素の0°方向の弾性率E
shell0を次式(4)により算出する(S23)。
【0100】
最後に、ブランク材Bの90°方向の曲げ剛性EI
90に基づいて、シェル要素の90°方向の弾性率E
shell90を次式(5)により算出し(S24)、上述のメインルーチンに戻る。
【0102】
ここで、シェル要素の中立面のオフセット量dと弾性率E
shell0、E
shell45、E
shell90との関係について、
図18、
図19を参照しながら、以下に詳細に述べる。なお、以下の説明では、弾性率E
shellを用いるが、これは、0°、45°、90°の全ての方向の弾性率E
shell0、E
shell45、E
shell90に置き換えて考えることができる。
【0103】
まず、曲げ剛性EIは、次の関係式(6)を用いて、曲げ試験のモーメントMと曲率φから算出できる。なお、Eは弾性率、Iは断面二次モーメントを表す。
【0105】
ここで、
図18に示すように、ブランク材解析モデルM
3を曲げ変形させたとき、上下のシェル要素Es1、Es2に応力σ
xが分布する。このとき、
図19に示すように、各シェル要素Es1、Es2でのモーメントMは、次式(7)で算出できる。
【0107】
ここで、以下の関係式(8)、(9)が成り立つ。
【0110】
上述の(8)、(9)により、式(7)は次式(10)になる。
【0112】
したがって、式(7)と式(10)から次の中立面のオフセット量dと弾性率E
shellの関係式(11)が求まる。
【0114】
また、式(11)について弾性率E
shellを求める式に変形すると、次式(12)が得られる。
【0116】
以上により、シェル要素Es1、Es2の中立面のオフセット量dと弾性率E
shell0、E
shell45、E
shell90との関係式(11)(12)が得られた。
【0117】
なお、E
45が最も小さいと仮定したが、これに限るものではなく、引張弾性率E
0、E
45、E
90のうちで最も小さい弾性率に基づいて、同方向のシェル要素Es1、Es2の弾性率E
shellを最初に算出し、算出されたシェル要素の弾性率に基づいて、シェル要素Es1、Es2の中立面のオフセット量dを算出し、このオフセット量dに基づいて、残りの方向のシェル要素Es1、Es2の弾性率E
shellを算出すればよい。
【0118】
(4−2)FEM解析方法
次に、FEM解析モデル生成システム100で生成されたブランク材解析モデルM
3と、金型解析モデル生成部220で生成された金型解析モデルmと、設定された解析条件とに基づいて、解析部300によって実行されるFEM解析方法について、
図16を参照しながら説明する。
【0119】
まず、時間ステップ数N=1における解析を開始する(ステップS31)。
【0120】
次に、ブランク材解析モデルM
3の時間ステップ数NにおけるFEM解析データを、既に算出されたFEM解析データが一時的に記憶された内部メモリから取得する。具体的には、このブランク解析モデルM
3を構成する全要素の中にある全積分点の時間ステップ数Nにおける応力テンソル、ひずみテンソルを取得する(ステップS32)。
【0121】
次に、ブランク材解析モデルM
3を構成する複数の要素から1要素を抽出する(ステップS33)。
【0122】
次に、パンチPの荷重および強制変位量、ならびに解析条件に基づいて、シェル要素と膜要素に共通する各節点の変位uを次の運動方程式(13)を解くことで算出する(S34)。なお、次式(13)のMはモーメント、Kは剛性マトリックス、fは荷重をそれぞれ表す。この運動方程式とその解法は、当該分野において周知であるため、詳細な説明を省略する。
【0124】
次に、算出された節点の変位に基づいて、この節点を共有する膜要素とその上下のシェル要素の各積分点のひずみε
membrance、ε
upper-shell、ε
lower-shellを算出する。このとき、上下のシェル要素のひずみε
upper-shell、ε
lower-shellは、その中立面のオフセット量dを考慮して算出する(S35)。ここで、ひずみεと変位uは、次式(14)の関係にある。
【0126】
よって、本モデルを1次元かつシェル要素は厚み方向に1つの積分点のみを有すると仮定して簡略的に説明すると、節点の並進変位をa、節点の回転変位をθとおいた場合、上述のひずみε
membrance、ε
upper-shell、ε
lower-shellはそれぞれ、次式(15)〜(17)により算出できる。
【0130】
次に、算出されたひずみε
membrance、ε
upper-shell、ε
lower-shellからシェル要素と膜要素にそれぞれ定義された面内の応力ひずみ特性と弾性率とに基づいて、各要素の応力σを算出する(S36)。ここで、一般に、応力σとひずみεは、次式(18)の関係にある。
【0132】
よって、同様に本モデルを1次元で簡易的に考えると、膜要素とその上下のシェル要素の応力σ
membrance、σ
upper-shell、σ
lower-shellはそれぞれ、次式(19)〜(21)の関係を有する。
【0136】
つまり、これら式(19)〜(21)に上述の式(15)〜(17)を代入した次式(22)〜(24)によって、各応力σ
membrance、σ
upper-shell、σ
lower-shellは算出できる。
【0140】
次に、各々算出されたシェル要素と膜要素の応力σ
membrance、σ
upper-shell、σ
lower-shellの合力に基づいて、シェル要素および膜要素で共有する節点の荷重fを算出する(S37)。ここで、一般に、応力σと荷重fは、次式(25)の関係にある。
【0142】
よって、同様に本モデルを1次元で簡易的に考えると、荷重fと応力σ
membrance、σ
upper-shell、σ
lower-shellは、次式(26)の関係を有する。
【0144】
この式(26)に上述の式(22)〜(24)を代入して整理すると、次式(27)になる。
【0146】
ここで、E
0≫E
shell0の関係があるので、式(27)は、次式(28)のように近似できる。
【0148】
この式(28)から明らかなように、並進荷重fは、膜要素の弾性率E
0と節点の並進変位aのみから決定できる。
【0149】
また、例えば各要素の積分点が1点である場合、モーメントMと応力σ
membrance、σ
upper-shell、σ
lower-shellは、次式(29)の関係にある。
【0151】
この式(29)に上述の式(23)〜(24)を代入した次式(30)によってモーメントMを算出する。
【0153】
この式(30)から明らかなように、モーメントMは、シェル要素の弾性率E
shell0と節点の回転変位θのみから決定される。すなわち、節点の並進変位aはモーメントMに影響しない。
【0154】
次に、当該ブランク解析モデルM
3の全要素について上述の計算が終了したか否かを判定し、終了していないと判定するとステップS33に戻る(ステップS38)。
【0155】
ここで、ステップS38で当該解析モデルの全要素が終了したと判定されると、FEM解析部300におけるFEM解析が終了したか判定し(ステップS39)、解析が終了したと判定すると、当該メインループの処理を終了する(ステップS40)。
【0156】
また、ステップS39で解析が終了していないと判定されると、時間ステップ数NからN+1に変更して、ステップS32へ戻る(ステップS40)。
【0157】
以上により、ブランク解析モデルM
3についてFEM解析を行うことができる。
【0158】
(5)変形例
次に、上述の実施形態において、重層モデルM
2を作成するまでの手順を一部変更した変形例について以下に説明する。
【0159】
(5−1)処理装置
図22は、
図1の処理装置11の構成を示す。
図22に示すように、この変形例の処理装置11は、基本モデルM
1を生成する基本モデル生成部120の代わりに、重層化ブランク生成部135が設けられている点でのみ異なる。
【0160】
(5−2)ブランク解析モデル生成方法
ブランク材Bに関するブランク解析モデルM
3をブランク解析モデル生成システム100によって生成する方法について説明する。
【0161】
ブランク材データ取得部110によって、ブランク材Bの材料特性データと形状データとを取得する。
【0162】
重層化ブランク材作成部125によって、ブランク材データ取得部110で取得したブランク材Bの形状データに基づき、その厚み中心位置に膜を設定するとともに、この膜の両側にそれぞれシェルを重ねて重層化された重層化ブランク材モデルM
1’を作成する。
【0163】
重層モデル作成部130によって、重層化ブランク材作成部125で作成された重層化ブランク材モデルM
1’を複数の要素に分割し、各要素について、その中心位置に配置された上述の膜でなる膜要素を設定すると共に、膜要素とその節点を共有し、FEM解析時にその中心位置より両側にそれぞれ所定距離dだけ離間しているものとして扱われる上述のシェルでなるシェル要素を設定して重層モデルM
2を作成する。
【0164】
ブランク解析モデル生成部140によって、材料特性データに基づいて、面内の応力ひずみ特性を膜要素に定義し、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータをシェル要素に定義してブランク材Bの解析モデルを生成する。
【0165】
以上により、モデルを複数の要素に分割するメッシュ化と、膜の両側にシェルを重ねる重層化の順序が逆にした場合も、生成された複層のブランク材解析モデルM
3は、先の実施形態と同じ構造であるので、解析部300によって同様に解析可能である。
【0166】
(6)ブランク解析モデル生成システムおよびFEM解析システムの検証
以上に説明したブランク解析モデル生成システム100による解析を検証するため、以下の手順で解析を行った。
【0167】
まず、
図20(a)に示すように、プレス金型を構成するダイDとパンチPの金型解析モデルm
D、m
Pを準備した。
【0168】
次に、
図20(b)に示すように、プレス金型とブランク材Bの各モデルm
P、m
D、M
3の位置合わせを行った。
【0169】
次に、
図20(c)に示すように、解析条件として、金型の条件(荷重、変位条件)、プレス金型とブランク材Bの接触条件を設定した。具体的には、パンチPのストロークを所定値に設定し(矢印参照)、ブランク材Bの四隅(丸印参照)をダイDに拘束するように条件を設定した。
【0170】
これに基づいて、FEM解析システム1を用いてプレス成形シミュレーションのFEM解析を行った。
【0171】
図21は、異なる方法で生成されたブランク解析モデルについて、
図20のプレス成形シミュレーションのFEM解析を行ったときの解析結果である成形品の形状を示している。
図21(a)は、メソモデル解析を行った場合の解析結果を示す。このメソモデル解析の解析結果は、実物のしわの発生状況と解釈した。
図21(b)は、本発明の解析システムを用いた場合の解析結果を示す。
図21(c)は、比較例として、膜要素のみでブランク解析モデルを作成する従来技術の解析結果を示す。この従来技術は、膜要素のみのブランク解析モデルを生成したので、その解析結果は、面外の曲げ剛性が考慮されていない。
【0172】
この
図21から明らかなように、本発明のしわの発生状況(
図21(b))は、従来技術のもの(
図21(c))よりも実物のしわの発生状況(
図21(a))と非常に近いことが確認できた。これは、本発明は曲げ剛性を考慮しているため、従来技術よりも座屈限界応力が大きくなり、面内圧縮変形が面外曲げ変形に分岐して座屈が生じにくく、しわが減少したためと考えられる。
【0173】
(7)ブランク解析モデル生成システムおよびFEM解析システムの特徴
本発明のブランク解析モデル生成システム100によれば、厚み中心位置に膜要素を設定すると共に、膜要素とその節点を共有し、FEM解析時に中心位置より両側にそれぞれその中立面が所定のオフセット量dだけ離間しているものとして扱われるシェル要素を設定し、そして、面内の応力ひずみ特性を膜要素に定義すると共に、面外の曲げ剛性を表すために用いられるデータをシェル要素に定義したブランク材の解析モデルM
3を生成できる。
【0174】
つまり、膜要素とシェル要素とを組み合わせたモデリングを行うことで、面内の特性と完全に独立して面外の曲げ剛性を表すためのデータを設定することができるため、実際には不連続体である織物材および複合材を連続体の解析モデルM
3として表現することができる。したがって、この解析モデルM
3を用いてFEM解析を行うことで、曲げ剛性を考慮したより精度の高い解析結果が得られる。
【0175】
また、ブランク材Bが複層の場合、層間ですべりが生じることがあり、この層間のすべり具合も曲げ剛性に影響するが、この複層としてのブランク材Bの実際の曲げ剛性をブランク材データDT1として取得させるだけで、層間のすべりが影響するこの曲げ剛性を考慮した解析モデルM
3を、単層の場合と同じ規模で作成することができる。そのため、この解析モデルM
3を用いてFEM解析を行う際、計算コストは単層の場合とほぼ変わらない。よって、特に複層の場合、メソモデル解析よりも計算コストを大幅に低減できる。したがって、プレス成形工程のシミュレーション解析において、計算コストを抑えながら曲げ剛性を考慮してしわの発生をより高精度に予測することができる。
【0176】
また、ブランク解析モデルの生成の際、複数の要素に分割するメッシュ化と、膜の両側にシェルを重ねる重層化の順序が逆であっても、結果として同様のブランク解析モデルM
3を生成できる。よって、このメッシュ化と重層化の順序は任意に設定可能であるので、実際にFEM解析モデル生成システム100を設計する際の自由度を向上させることができる。
【0177】
また、ブランク解析モデル生成部140は、ブランク材データDT1の材料特性データに基づいて、面外の曲げ剛性を表すためのデータとして、シェル要素中立面のオフセット量dとシェル要素の弾性率を算出してシェル要素に設定するので、実際の面外の曲げ剛性を反映したブランク解析モデルM
3を生成することができ、この解析モデルM
3を用いることで、曲げ剛性をより正確に考慮した、さらに高精度な解析結果を得ることができる。
【0178】
また、ブランク材Bとして広く使用されている平織り等の直交異方性材を用いる場合にも同様の効果を得ることができる。
【0179】
また、一般に汎用の解析ソルバは、板材の外表面または内表面の形状を示す図面データに基づいてこの外表面または内表面を複数の要素に分割したメッシュデータを生成し、ひずみを算出するために、例えば板厚の中心に設定する中立面上に生成されたメッシュデータを板厚の半分だけオフセットさせる補正を行う機能を有する。この機能を用いるため、汎用の解析ソルバは通常、任意の位置に中立面を設定できるように、生成したメッシュデータを中立面までオフセットさせるオフセット量を任意に入力できるように構成されている。上述の機能を応用して、本発明は、このオフセット量に関するデータとして、ブランク解析モデルデータDT4の各シェル要素の中立面の膜要素からのオフセット量dを汎用の解析ソルバに入力する。また、ブランク解析モデルデータDT4に含まれるその余のデータも全て汎用の解析ソルバで通常用いられるものである。したがって、本発明のFEM解析システム1によれば、解析部300において、生成されたブランク解析モデルM
3を解析するための格別な構成が必要ないので、汎用の解析ソルバを用いてFEM解析を行うことができる。
【0180】
なお、本発明は例示された実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【0181】
例えば、本実施形態では、プレス成形装置は上型がダイD、下型がパンチPおよびしわ押さえFで構成されているが、下型をダイD、上型をパンチPおよびしわ押さえFで構成してもよい。
【0182】
また、本実施形態では、複合材として、基材である繊維強化材に母材として樹脂を含浸した材料について述べたが、本発明の対象となる複合材はこれに限るものではない。例えば、基材として粒子状強化材、テープ状強化材などを用いてもよい。また、母材としてセラミックス、金属、高分子などを用いてもよい。さらに、本発明の対象となるブランク材Bは、織物材および複合材に限らず、広義には、二つ以上の構成要素を組み合わせた材料であって、この構成要素は原子的に溶け合っているのではなく、互いを分け隔てる界面を有する材料であればよい。