特許第6182406号(P6182406)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6182406
(24)【登録日】2017年7月28日
(45)【発行日】2017年8月16日
(54)【発明の名称】接着剤組成物及び接着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/00 20060101AFI20170807BHJP
   C09J 201/00 20060101ALI20170807BHJP
   C09J 5/08 20060101ALI20170807BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20170807BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170807BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20170807BHJP
   C09J 5/06 20060101ALI20170807BHJP
【FI】
   C09J7/00
   C09J201/00
   C09J5/08
   C09J11/04
   C09J11/06
   C09J7/02 Z
   C09J5/06
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-189763(P2013-189763)
(22)【出願日】2013年9月12日
(65)【公開番号】特開2015-54935(P2015-54935A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108454
【氏名又は名称】ソマール株式会社
(72)【発明者】
【氏名】植木 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】福原 邦昭
【審査官】 菅野 芳男
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−251428(JP,A)
【文献】 特開2010−261031(JP,A)
【文献】 特開2007−191521(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/150818(WO,A1)
【文献】 特開2001−226663(JP,A)
【文献】 特開平10−251430(JP,A)
【文献】 特開平03−021643(JP,A)
【文献】 特開2000−007810(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0115382(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 7/00
C09J 5/06
C09J 5/08
C09J 7/02
C09J 11/04
C09J 11/06
C09J 201/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1mm以下の空隙の充填に用いる接着シートであって、
基材(フェルト状シート基材を除く)と、該基材の両面に形成された接着剤組成物による接着層を有し、
前記接着剤組成物は、発泡成分を含む熱硬化型樹脂組成物で構成されており、
前記発泡成分は、分解発泡時に発熱反応を生ずる第1の発泡剤と、分解発泡時に吸熱反応を生ずる第2の発泡剤を組み合わせてなり、前記第2の発泡剤として炭酸水素ナトリウムを用い、発泡成分中に、第1の発泡剤:1に対して、第2の発泡剤:0.25以上0.95以下となる質量比で、第1の発泡剤と第2の発泡剤を含有させたことを特徴とする接着シート。
【請求項2】
前記発泡成分は、前記熱硬化型樹脂組成物に含まれる熱硬化型樹脂100質量部に対して、5〜30質量部含まれている請求項1記載の接着シート。
【請求項3】
前記接着層は、厚みが20μm以上500μm以下である請求項1または2記載の接着シート。
【請求項4】
前記基材として、アラミド繊維シートまたはポリイミドフィルムを用いて構成した請求項1〜3のいずれか記載の接着シート。
【請求項5】
1mm以下の空隙の充填に用いる接着シートの接着層を基材(フェルト状シート基材を除く)の両面に形成するために用いる接着剤組成物であって、
発泡成分を含む熱硬化型樹脂組成物で構成されており、
前記発泡成分は、分解発泡時に発熱反応を生ずる第1の発泡剤と、分解発泡時に吸熱反応を生ずる第2の発泡剤を組み合わせてなり、前記第2の発泡剤として炭酸水素ナトリウムを用い、発泡成分中に、第1の発泡剤:1に対して、第2の発泡剤:0.25以上0.95以下となる質量比で、第1の発泡剤と第2の発泡剤を含有させたことを特徴とする接着剤組成物。
【請求項6】
前記発泡成分は、前記熱硬化型樹脂組成物に含まれる熱硬化型樹脂100質量部に対して、5〜30質量部含まれている請求項記載の接着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度以上に加熱した場合に、体積が増大し、かつ硬化反応が進行して接着が増大する熱硬化型で発泡性の接着剤組成物による接着層を有し、特に数十μmから数百μm程度の小さな空隙を充填する用途に適した接着シートと、そのシートの接着層に用いる接着剤組成物とに関する。
【背景技術】
【0002】
数mmから数cmほどの大きな、各部材間の空隙や中空部材の内部空間を埋め、衝撃吸収性、防振性、防音性などの諸性能を向上させた上で部材の補強を図るためのものとして、分解発泡時に発熱反応を生ずる有機系発泡剤と、分解発泡時に吸熱反応を生ずる一般的な吸熱剤を組み合わせた発泡成分を熱硬化型樹脂成分中に配合した、熱硬化型で発泡性のシール材が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−53944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシール材は数mmから数cmほどの大きな、各部材間の空隙や中空部材の内部空間を埋めるためのものである。数mmから数cmという比較的大きな空隙を埋める場合、有機系発泡剤の発泡反応(すなわち発熱反応)により発泡体の中心部に発泡熱が蓄積されて焦げが発生する(段落0005)。そこで特許文献1の技術では、これを回避する目的で、吸熱発泡剤を有機系発泡剤と同一量、若しくはその2倍の量配合している(段落0022の表1)。
【0005】
ところで、このような数mmから数cmという比較的大きな空隙を埋める用途とは別に、1mm以下の狭い空隙を埋められるシール材も求められている。
そこで、特許文献1のシール材を1mm以下の狭い空隙を埋めるために用いてみた。しかし、有機系発泡剤が分解発泡の際に発生させた熱量を、吸熱剤が分解発泡する際に必要以上に消費(吸熱)してしまい、全体としての発熱量が小さくなることに起因して、硬化途中の樹脂組成物内部で生ずる気泡の生成が阻害され、結果として、シール材全体としての発泡倍率が上がりにくい傾向となった。
【0006】
また、1mm以下の狭い空隙であるため、発泡体中心部に発泡熱の蓄積による焦げの発生は生じない。よって、シール材に吸熱剤を含有させる必然性のないことから、特許文献1のシール材から吸熱剤を加えないものを準備して用いてみた。しかし、発泡反応によって生成された気泡が破裂してしまったり、また気泡同士が結びついてしぼんしまうものが多く、結果として、シール材全体としての発泡倍率が上がりにくい傾向となった。
【0007】
なお、特許文献1の技術では、数mmから数cmほどの大きな空隙や内部空間を埋める必要性から、設定されるシール材の粘度が比較的高く、その結果、数十μmから数百μm程度の小さな空隙を埋める用途への使用に適しているとはいえない。
【0008】
本発明の目的は、数十μmから数百μm程度、すなわち1mm以下の小さな空隙を充填する用途に適した、十分な発泡性能が得られる接着シートと、このシートの接着層に用いる、熱硬化型で発泡性の接着剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、熱硬化型樹脂組成物中に、分解発泡時に吸熱反応を生ずる特定の発泡剤を、分解発泡時に発熱反応を生ずる発泡剤よりも少ない量で配合することにより、厚みを数十μmから数百μm程度に薄く形成しても、十分な発泡性能を発生させうる接着層を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明によれば、以下に示す構成の、熱硬化型で発泡性の接着剤組成物が提供される。また本発明によれば、以下に示す構成の接着剤組成物による接着層を有する、1mm以下の小さな空隙の充填に用いる接着シートが提供される。
【0011】
本発明の接着剤組成物は、1mm以下の空隙の充填に用いる接着シートの接着層を形成するために用いられ、発泡成分を含む熱硬化型樹脂組成物で構成されており、発泡成分は、分解発泡時に発熱反応を生ずる第1の発泡剤と、分解発泡時に吸熱反応を生ずる第2の発泡剤を組み合わせてなり、第2の発泡剤として炭酸水素ナトリウムを用い、発泡成分中に、第1の発泡剤:1に対して、第2の発泡剤:0.25以上0.95以下となる質量比で、第1の発泡剤と第2の発泡剤を含有させたことを特徴とする。
【0012】
本発明の接着剤組成物において、発泡成分は、熱硬化型樹脂組成物に含まれる熱硬化型樹脂100質量部に対して、5〜30質量部含まれていることが好ましい。
【0013】
本発明の接着シートにおいて、発泡前の接着層は、厚みが20μm以上500μm以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の接着シートは、接着層のみで形成される態様を除外していないが、この接着層が形成される基材を含んで構成してもよい。この場合、基材として、アラミド繊維からなる基材を用い、該基材の両面に接着層を形成することで接着シートを構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の接着剤組成物は、熱硬化型樹脂組成物中に、特定の吸熱発泡剤(第2の発泡剤)を発熱発泡剤(第1の発泡剤)よりも少ない量で配合したので、厚みを1mm以下に薄く形成しても、十分な発泡を発生させ、かつこれを保持することができる。このため、この接着剤組成物から形成した接着層又はこれを基体上に設けた接着シートは、1mm以下(例えば、数十μmから数百μm程度)の小さな空隙を充填する用途への使用に適している。
【0016】
本発明でいう「小さな空隙」としては、例えば、画像表示装置(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等)に固定された画像表示部材や、携帯電子機器(携帯電話や携帯情報端末等)に固定された光学部材(カメラやレンズ等)と、筐体(窓部)との間に生ずる隙や、モータやジェネレータに用いられるステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間の間隙、特にその間隙に介装させる絶縁シートとコイルとの間の間隙、ステータコアのスロット溝内の間隙、等が挙げられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一例に係る接着剤組成物は、発泡成分とともに、熱硬化型樹脂、硬化剤、硬化促進剤などを含有する熱硬化型樹脂組成物で構成されている。
【0018】
熱硬化型樹脂としては、エポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化などといった各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられる。これらは単独または複数混合して用いることができる。
【0019】
硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド(DICY)、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;無水メチルナジック酸等の酸無水物系硬化剤などが挙げられる。これらの硬化剤は単独または複数混合して用いることができる。なお、ジシアンジアミド(DICY)は、エポキシ樹脂の硬化剤としての作用の他、発熱発泡剤の発泡助剤としての作用もあるため、ジシアンジアミド(DICY)を用いることが好ましい。本発明において発泡助剤としての作用とは、発熱発泡剤が本来持っている分解発泡温度に対し、その分解発泡温度よりも低い温度で分解発泡を開始させることができることをいう。
【0020】
硬化剤の配合量は、使用する熱硬化型樹脂との当量比から算出され、当量比の適切な範囲は0.8〜3.0である。例えば、硬化剤がジシアンジアミドの場合は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、下限として3質量部以上、好ましくは5質量部以上であって、上限として30質量部以下、好ましくは15質量部以下とされる。また、例えば無水メチルナジックの場合は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、下限として60質量部以上、好ましくは80質量部以上であって、上限として240質量部以下、好ましくは200質量部以下とされる。硬化剤の配合量が下限値未満では、十分に硬化せず、耐熱性、耐薬品性など熱硬化性樹脂としての特徴を十分に発揮させにくい。その一方で配合量が上限値を超えると、硬化時に過剰な発熱反応を伴い、硬化中の樹脂組成物粘度が必要以上に低下し、最終的に十分な発泡状態を維持することが難しくなりやすい。
【0021】
硬化剤とともに、硬化促進剤を併用することもできる。硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;などが挙げられる。これらは単独または複数混合して用いることができる。
硬化促進剤の配合量は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、例えば5質量部以下とされる。5質量部を超えると貯蔵安定性が低下しやすい。
【0022】
本例において発泡成分は、分解発泡時に発熱反応を生ずる第1の発泡剤と、分解発泡時に吸熱反応を生ずる第2の発泡剤の組み合わせからなることが必須である。特に、第2の発泡剤として、炭酸水素ナトリウムからなる無機系の吸熱発泡剤を使用することも必須である。これらに加え、発泡成分中に、第1の発泡剤:1に対して、第2の発泡剤:0.25以上0.95以下(好ましくは0.4以上0.8以下)となる質量比で、第1の発泡剤と第2の発泡剤を含有させたことを特徴とする。
【0023】
このように、熱硬化型樹脂組成物中に、特定の吸熱発泡剤(第2の発泡剤)を発熱発泡剤(第1の発泡剤)よりも少ない量で(適量)配合することにより、接着層の厚みを1mm以下(例えば、数十μmから数百μm程度)に薄く形成しても、十分な発泡を発生させ、かつこれを保持することができる。このような作用が発現可能となる理由は以下のとおりである。
【0024】
発泡成分として、発熱発泡剤(第1の発泡剤)を単独で用いた場合は、発泡反応(すなわち、発熱反応)により樹脂が加熱され硬化反応が促進される。これと同時に、このような発泡反応による発熱により、自身の発泡反応もさらに促進されることとなり、発泡反応及び硬化反応が連鎖的に起こることが想定される。ここで発泡反応及び硬化反応は共に発熱を伴う反応であるために接着層中の樹脂が加熱されることにより樹脂粘度は著しく低下することとなる。接着層中の樹脂粘度が低下しすぎると、発泡反応によって生成された気泡の連泡化や破裂が連続的に起こりやすくなる。その結果、発泡反応で生成された気泡を接着層中に保持しておくことが難しくなる。
【0025】
接着層の厚みが厚い場合(数mm以上)、このような気泡の連泡化や破裂現象は起こりにくく、通常、問題とはならない。これに対し、接着層の厚みが薄い場合(本発明のごとき1mm以下)、これが顕著に表れる。しかし、本発明においては接着層およびその構成成分中に特定の吸熱発泡剤(第2の発泡剤)を適量、添加することにより、発泡反応及び硬化反応による過剰な発熱を防止することができるため、接着層中の樹脂粘度の著しい低下を抑制することができる。これにより、発泡反応で生成された気泡を接着層中に保持しておくことが可能になるものと推測される。
【0026】
なお、特定の吸熱発泡剤(第2の発泡剤)を発熱発泡剤(第1の発泡剤)よりも多い量で配合すると、相対的に分解発泡時に生ずる発熱量が小さくなって、樹脂組成物内部で生ずる気泡の生成(すなわち樹脂組成物の発泡)が阻害され、この状態で樹脂組成物の硬化が進行する。その結果、硬化終了後の樹脂組成物(硬化物)全体としてみれば、十分な発泡倍率が得られにくくなる。また未発泡の発泡残渣が多量となり、硬化物の物性が低下する原因となる。
【0027】
一般的な吸熱発泡剤(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム)を発熱発泡剤(第1の発泡剤)よりも多い量で配合すると、発泡反応及び硬化反応による過剰な発熱を防止して接着層中の樹脂粘度の著しい低下を抑制し、発泡反応で生成された気泡を接着層中に保持しておくことは可能となる。しかしながら、これと同時に、分解発泡時に生ずる発熱量が小さくなるため樹脂組成物内部で生ずる気泡の生成が阻害され、全体としてみた場合、発泡倍率の低いものとなる。また未発泡の発泡残渣が多量となり、硬化物の物性が低下する原因となる。
【0028】
一方、発熱発泡剤を一般的な吸熱発泡剤(水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム)よりも多い量で配合すると、相対的に分解発泡時に生ずる発熱量が多くなり過ぎることとなって、硬化途中の樹脂組成物の粘度が必要以上に低下する。その結果、樹脂組成物内部で生じた発泡剤による複数の単独気泡が連続化したり、粘度低下がさらに進むと連続化した気泡の幾つかが硬化途中の樹脂組成物表面に達して破泡し(外部へ逃げ)、結果として、硬化終了後の樹脂組成物(硬化物)全体としてみれば、十分な発泡倍率が得られにくい。
【0029】
本発明で使用する第1の発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ジニトロソペンタメチレンテトラミンのようなニトロソ化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシベンゼンスルホニルヒドラジド等のヒドラジド系化合物等が挙げられる。これらの第1の発泡剤は、単独あるいは2種類以上併用することができる。
第1の発泡剤の分解発泡温度は、熱硬化性樹脂と硬化剤との反応温度(硬化温度)から選択される。好適な第1の発泡剤として、硬化温度よりも5〜15℃程度低い分解発泡温度を持つものが好ましい。
【0030】
第2の発泡剤としては、脱水反応可能な化合物(炭酸水素ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなど)、結晶水を有する化合物(塩化カルシウムなど)が挙げられるが、本発明では、第2の発泡剤として、炭酸水素ナトリウムからなる無機系の吸熱発泡剤を使用する。炭酸水素ナトリウムは、他の無機系吸熱発泡剤と比較して、本発明で加熱される温度領域(140℃〜170℃)において、分解発泡時の発生ガス量が多い。このため炭酸水素ナトリウムの使用により、少ない添加量で効率的に発泡反応(すなわち吸熱反応)を行なうことができる。また少量の配合で足りるため、他の無機系吸熱発泡剤を使用した場合と比較して、硬化物の物性に与える影響が少なく、高強度な硬化物が得られる。
【0031】
本発明で使用する発泡成分の配合量(第1の発泡剤と第2の発泡剤の合計)は、熱硬化型樹脂100質量部に対し、5質量部以上、好ましくは8質量部以上であって、30質量部以下、好ましくは25質量部以下とされる。発泡成分の配合量が5質量部未満では、発泡倍率の低下により十分に空隙を充填できない可能性がある。その一方で配合量が30質量部を超えると、すべての発泡剤が分解する前に樹脂が硬化してしまうために発泡剤の未反応残渣が樹脂中に多くなり、硬化物の物性が低下する原因となる。
【0032】
なお、第1の発泡剤とともに、その分解発泡温度を制御するための発泡助剤を併用してもよい。この発泡助剤としては、亜鉛華、硝酸亜鉛、三塩基性リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の無機塩、亜鉛脂肪酸石けん、鉛脂肪酸石けん、カドミウム脂肪酸石けん等の金属石けん、ホウ酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸等の酸類、尿素、ビウレア、エタノールアミン、グリコール、グリセリン等が挙げられる。発泡助剤の使用量は、第1の発泡剤100質量部に対し、50〜150質量部、好ましくは80〜120質量部である。
【0033】
その他の添加剤を配合することもできる。このようなものとしては、例えば、エラストマー成分として天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム等の固形あるいは液状のゴム類やポリウレタン、ウレタンプレポリマー等を用いて発泡体としての弾力性を向上させることができる。その配合量としては、熱硬化型樹脂100質量部に対し、20質量部以下、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下用いられる。また各種充填剤、整泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤を配合してもよい。
【0034】
本発明の接着剤組成物は、上述した熱硬化型樹脂、硬化剤、発泡成分(第1の発泡剤及び第2の発泡剤)さらには必要に応じて、硬化促進剤、発泡助剤、各種添加剤などを任意の順序で混合させることにより得ることができる。上記原材料の混合は、ミキシングロール、プラネタリーミキサー、バタフライミキサー、ニーダ、単軸もしくは二軸押出機等の混合機あるいは混練機を用いて行うことができる。混合温度は、組成により異なるが、発泡剤の熱分解温度以下で行うことが必要である。
【0035】
本発明の一例に係る接着シートは、上述した接着剤組成物を後述する基材の片面または両面に塗布し、必要に応じて乾燥させることにより得られる。
【0036】
発泡前の接着層の厚みは、下限として20μm以上、さらには50μm以上とすることが好ましく、上限として1000μm未満、さらには500μm以下、さらには200μm以下とすることが好ましい。接着層の厚みを20μm以上とすることにより、発泡反応によって生成された気泡を接着層内に保持させやすい。接着層の厚みを1000μm未満とすることにより、1mm以下の狭い空隙を充填させることできる。
【0037】
基材としては、特に制約されるものではなく、適宜選択すればよく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミドなどの合成樹脂フィルムや、アラミド繊維などのシートが挙げられる。基材は発泡シートの用途によって選択される。特に絶縁性、耐熱性を求める用途においては、アラミド繊維シートやポリイミドフィルムなどを使用することが好ましい。
【0038】
基材の厚みは、適用する空隙用途に応じて適宜選択することができる。適用用途が例えば、後述の絶縁シートである場合、基材の厚さは25〜250μmであることが好ましい。
【0039】
以上のような本発明の接着シートは、例えば、画像表示装置(液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、プラズマディスプレイ等)に固定された画像表示部材や、携帯電子機器(携帯電話や携帯情報端末等)に固定された光学部材(カメラやレンズ等)と、筐体(窓部)との間に生ずる隙充填材としての用途のほか、モータやジェネレータに用いられるステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間の間隙や、ステータコアのスロット溝内の間隙等に介装させる用途として、電気・電子業界において広く用いることができる。特に、モータやジェネレータのステータコアの両端部からコイルを突出させたコイルエンド部において異なるコイルがその巻線束を交差させている箇所で、相間の絶縁性を確保すべく、隣接する相の異なるコイル間に介装させる用途に適している。
【0040】
モータやジェネレータに用いられるステータは、ステータコアと、細い銅線に樹脂組成物によって絶縁被覆が施された巻線を巻き束ねたコイルとによって構成されている。ステータコアは、通常、円筒状に形成されており、その内周側には長さ方向に沿って延在する複数条のスロット溝が設けられており、コイルはそれぞれ別のスロット溝に収容させてステータコアに装着されている。このようなコイルは十分な絶縁性を確保する必要があるため、ステータコアのスロット溝内の間隙に絶縁シートが挿入され、これらの絶縁シートが脱落しないよう、液状(ペースト状)の樹脂組成物シール材(例えば、特開2003−33785号公報で開示)で固化し、コイル、絶縁シート及び樹脂組成物が一体化されて使用される。
【0041】
しかしながら、このようなシール材を用いてコイルと絶縁シートを一体化させ、ステータコアのスロット溝内の間隙を埋めようとする場合、ステータコア外層からシール材を回しかける必要があり、本来必要なシール材量よりも多く使用しなければならず、シール材のロスが多くなる。また、シール材を用いる場合、必要箇所以外への付着を生じやすいことから、これを防止するために煩雑な作業を伴うおそれもある。さらに近年、電気・電子機器には小型化、薄型化が求められるとともに、スロットへの導体コイルの占積率向上が求められている。このため、スロット内壁と導体コイルとの間の間隙が1mm以下と狭くなる傾向にあり、この狭い間隙への充填作業を、粘度調整が困難なシール材で賄うのは困難であった。
【0042】
本発明の接着シートは、1mm以下の狭い間隙への充填作業、より具体的には、絶縁シートとシール材を別々に使用していた上記固化用途への代替使用に、特に有益である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実験例(実施例および比較例を含む)に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0044】
1.接着剤組成物および接着シートの作製
[実験例1〜13]
基材として、厚さ50μmのアラミド繊維シート(ノーメックス、デュポン社製)を使用し、その片面に、下記構成成分を表1記載の固形分比で均一に混合して調製した接着層形成塗工液a〜mをそれぞれベーカー式アプリケーターにて塗布した。各塗工液の構成成分の固形分比(質量換算)を表1に示す。各塗工液中の全固形分はいずれも30〜50%に調製した。その後、110℃にて2〜3分、乾燥することによって所定厚み(表2の「発泡前膜厚」欄参照)の接着層を形成した後、その表面に、その一方の表面がシリコーン離型処理された厚み38μmのPETシートを配設することにより、各例の接着剤組成物及び接着シートを作製した。
【0045】
《接着層形成塗工液a〜mの構成成分》
・熱硬化型樹脂成分(固形分100%): 100質量部
(エピクロンN−775、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、エポキシ当量:184〜194g/eq、軟化点:75℃、溶融粘度(150℃):5.5〜9dPa・s、DIC社製)
・硬化剤(固形分100%): 9質量部
(ジシアンジアミド(DICY)、ジャパンエポキシレジン社製)
・硬化促進剤(固形分100%): 1質量部
(キュアゾール1B2PZ、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、四国化成社製)
・柔軟化剤(添加剤): 3質量部
(カヤフレックスBPAM−155、ゴム変性ポリアミド、日本化薬社製)
・発泡剤: 表1記載の種類と固形分比
【0046】
【表1】
【0047】
なお、表1中、発泡剤の「X1」は、分解発泡温度が200〜210℃、発生ガス量が270ml/gの発熱発泡剤(セルマイクC−2、ADCA、分子量116.1、三協化成社製)、「X2」は、分解発泡温度が140〜170℃、発生ガス量が120ml/gの吸熱発泡剤(セルマイク266、炭酸水素ナトリウム、分子量84、三協化成社製)、「X3」は、分解温度が200〜350℃、発生ガス量が126ml/gの吸熱発泡剤(ハイジライトH−32、水酸化アルミニウム、昭和電工社製)である。
また、実験例は、エポキシ樹脂に対する硬化剤としてジシアンジアミド(DICY)を用いているが、ジシアンジアミド(DICY)は発熱発泡剤の発泡助剤として作用することから、「X1」は、加熱温度を160℃としても発熱発泡を開始する。ただし、160℃での発生ガス量は約50%に低減する。「X3」は、200℃未満では安定しており加熱温度が160℃では発生ガス量は20%未満である。
【0048】
2.評価
各例の接着剤組成物及び接着シートに対し、発泡前後の接着層の厚さ、発泡倍率及び発泡性総合評価の4項目について以下の方法により測定または評価した。結果を表2に示す。
【0049】
[接着層の厚さ1(発泡前)]
マイクロメーターを使用して、PETシートと基材(アラミド繊維シート)を含めた各例の接着シートの全厚を測定し、得られた測定値からPETシートと基材の厚みを減ずることにより算出した。
【0050】
[接着層の厚さ2(発泡後)]
各例で得られた接着シートを5cm×5cmサイズに切り出したものを、160℃に加熱したオーブンに入れ、30分放置して加熱した後、取り出した。その後、上記「接着層の厚さ1(発泡前)」と同様の手法で、発泡後の接着層の厚さ2を算出した。
【0051】
[発泡倍率及び発泡性総合評価]
発泡後の接着層の厚さ2を発泡前の接着層の厚さ1で除することにより算出した。
3.5倍以上であったものを極めて良好として「◎」、3倍以上3.5倍未満であったものを良好として「〇」、2.5倍以上3倍未満であったものを良好として「△」、2.5倍未満であったものを不良として「×」とした。
【0052】
【表2】
【0053】
表2に示すように、実験例4〜8では、第1の発泡剤(X1)と特定の第2の発泡剤(X2)を所定の質量比範囲(1質量部のX1に対して、X2を0.25以上0.95以下となる質量比範囲)で含めたので、良好な発泡性総合評価が得られた。
なお、実験例4〜7と比較して、実験例8〜10は1質量部のX1に対するX2の配合量を少なく(0.25質量部〜0質量部)したものである。X2の配合量が少なくなると、接着層の発泡倍率が低下する傾向にあることが理解できる。その理由を想像すると、相対的に分解発泡時に生ずる発熱量が多くなり、硬化途中の樹脂組成物の粘度が低下し、これにより樹脂組成物内部で生じた発泡剤による複数の単独気泡が連続化したりなどして消滅し、結果として、実験例4〜7と比較して、発泡倍率が低下したものと思われる。
【0054】
これに対し、実験例1〜3は、第1の発泡剤(X1)と特定の第2の発泡剤(X2)を組み合わせたが、本発明の質量比範囲外(X2の配合量が多かった)ため、発泡性総合評価が劣っていた。
実験例11、12は、第1の発泡剤(X1)と第2の発泡剤を本発明の質量比範囲内で配合したが、第2の発泡剤として特定のものを用いなかった(X3を用いた)ため、発泡性総合評価が劣っていた。
【0055】
実験例13は、第2の発泡剤として特定のものを用いず(X3を用いた)、第2の発泡剤(X3)を第1の発泡剤(X1)の3倍配合したため、実験例11、12と比較して発泡倍率は向上したものの、実験例4〜8には到底及ばないものとなった。このような現象が起こる理由としては、実験例13は第2の発泡剤の配合量が多すぎたため、第1の発泡剤が分解発泡の際に発生させた熱量を、第2の発泡剤が分解発泡する際に必要以上に消費(吸熱)してしまい、全体としての発熱量が小さくなり、硬化途中の樹脂組成物内部で生ずる気泡の生成が阻害されたのではないかと考える。
【0056】
また、実験例13と実験例5の発泡後の接着層について、硬化物の物性を確認するため、せん断接着力の測定を行った。せん断接着力の測定方法は、まず接着層形成塗工液m及び接着層形成塗工液eをそれぞれ一方の表面がシリコーン離型処理された厚み38μmのPETシートに乾燥厚み50μmとなるように形成し、12.5mm×10mm大きさに切った後、前記PETシートから接着層のみを剥離し実験例13と実験例5の接着シートの接着層を得た。次に、各々の接着層をスペーサにより125μmのクリアランスを確保したSPCC−SD鋼板間(1mm×15mm×100mm)に挿入しオーブンで160℃、30分間加熱した後、25℃の環境に30分間放置した。その後、テンシロン万能引張試験機(UTM−5T:エーアンドデイ社製)によりクロスヘッド速度5mm/分で引っ張り、せん断発泡接着力を測定した。その結果、実験例13は0.62MPa、実験例5は1.84MPaとなり、実験例13は実験例5よりも硬化物の物性が低いものであることが確認された。
【0057】
また、第2の発泡剤の範疇に入るものの特定のものではない吸熱発泡剤として、水酸化アルミニウム(X3)に代え、水酸化カルシウム(工業用消石灰1号、新見化学工業社製)、塩化カルシウム(トクヤマ社製)、炭酸カルシウム(ソフトン1800、丸東社製)、酸化アルミニウム(AX10−32、新日鉄マイクロン社製)、シリカ(酸化珪素)(クリスタライトA−1、龍森社製)をそれぞれ用いた以外は、実験例11と同様にして接着剤組成物および接着シートを作製し(実験例11a〜11e)、同様の測定ないし評価を行ったところ、実験例11と同様の傾向が見られた。